説明

排熱回収ボイラとその運用方法

【課題】硫安の飛散対策における保守作業の省力化、自動化と酸性硫安による伝熱面の腐食防止を図ること。
【解決手段】ガスタービン2の停止直前に排ガスを排熱回収ボイラ5のメインダクトを迂回するバイパスダクト18を経由させて排煙脱硫装置8の下流側の低温域(節炭器10)に直接導入することで、節炭器10の伝熱面に固着した硫安および酸性硫安を分解、気化させた上でガスタービン2を完全停止させることができる。また、このときガスタービン2の燃焼機3には水噴射装置4から排ガス中にサーマルNOxを発生させない量の水を噴霧する。こうして、排熱回収ボイラの伝熱管の伝熱面に付着した硫安を高温排ガスで容易に除去することが可能となる。またボイラの伝熱管の伝熱面の水洗が不要になることから、酸性硫安による伝熱面腐食の発生も防止可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重油など硫黄分を含む燃料で運用されるガスタービンを熱源とする触媒還元法による脱硝装置を備えた排熱回収ボイラの低温域に固着する硫安の除去に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンからの高温の排ガスを入口から導入して、本体ケーシング内に配置されたフィン付き管からなる過熱器、蒸発器、節炭器などからなる伝熱器の管内を流れる水または蒸気により前記排ガスの熱を吸収し、高温、高圧の過熱蒸気を発生する排熱回収ボイラが知られている。
【0003】
ガスタービンからの高温の排ガス(例えば、通常運転時のガスタービンからは低温の排ガスで500℃以上、高温排ガスで750℃以上の排ガス)を排熱回収ボイラのダクト構造の本体ケーシングの入口から導入して、ダクト内に配置されたフィン付き伝熱管からなる過熱器、蒸発器、節炭器などを流れる水または蒸気により前記排ガスの熱を吸収し、高温、高圧の過熱蒸気を発生させる。
【0004】
前記排熱回収ボイラのダクト出口の排ガス中のNOx濃度を規制された値以下にするために、前記蒸発器と節炭器の間などに排ガス中の窒素分を脱硝する脱硝装置を設け、該脱硝装置の前流側にはアンモニアを噴出するスプレ装置を設けている。
【0005】
前記脱硝装置では脱硝触媒を使用して脱硝反応を行わせるが、その最適な反応温度が約350℃前後であり、そのため排ガス温度が過熱器、蒸発器等で熱回収されて約350℃程度になるダクト部位に脱硝装置を配置している。
【0006】
また、前記脱硝装置の前流側で、アンモニアは排ガス全体に分散するように反応に必要な理論モル数より過剰な量が噴出される。このため、脱硝装置より後流側の排ガス中にはリークアンモニアが存在する。
【0007】
重油などの硫黄分を含む燃料で運用されるガスタービンからの排ガスを上記アンモニア噴出装置を備えた脱硝装置を内蔵した排熱回収ボイラに導入すると、排ガス中には濃度の硫黄分が含まれており、その硫黄分が高濃度で存在の場合には硫黄分が前記リークアンモニアと反応して、280℃以下では硫安となって管表面などに生成して固着する。当該温度は脱硝装置を内蔵した排熱回収ボイラでは脱硝装置の下流側に配置した節炭器設置部に該当し、節炭器を構成するフィン付き管の表面には硫酸アンモニウム(硫安)や酸性硫安(以下、硫安のみで説明する)が固着する。
硫安は乾燥状態では問題ないが、吸湿すると硫酸となり、その吸湿状態が長期間続くと管表面の腐食が問題となる。
【0008】
一般的にガスタービンと排熱回収ボイラからなる複合発電プラントでは、その高速での起動特性により、週明けに起動して週末になると停止する運用や毎朝起動して夜間になると停止する運用が行われ、土曜日、日曜日や夜間には排熱回収ボイラが停止した状態でおかれるため、前記停止期間中にボイラの内部が吸湿し易い環境におかれることになる。短期間だけ排熱回収ボイラの運転を停止する場合には、排熱回収ボイラの入口および出口をダンパにより閉止し、本体ケーシング内を保温した状態で保缶する対策を講じることができる。しかし、定期検査やその他の理由で長期間、排熱回収ボイラが運転停止状態におかれる場合があり、その場合には節炭器などの伝熱面に付着している硫安を洗い流す水洗作業が行われる。前記水洗作業は節炭器に直接的に水を噴出して洗い落とす作業であり、隣接する上流側の脱硝装置内の脱硝触媒が水に濡れて損傷しないように、脱硝装置をシート等で覆い、脱硝触媒が水の跳ねにより濡れないようにすることと、本体ケーシングの床面で排水がスムーズに行われ、詰まりがないようにする必要がある。
【0009】
しかし、本体ケーシング内部を保温するものでは床面にファイバー状のものを圧縮した保温材が敷き詰められているため、床面の排水設備を設定するのは容易ではない。さらに水洗作業は伝熱管表面に固着物のない状態にしておくために排熱回収ボイラの運転停止(停缶ということがある)の初期段階で実施することになるが、固着した硫安を除去し切れずに濡れた状態で残留したものがあれば、長期の停缶による伝熱管の腐食が問題となる。
【0010】
また、排熱回収ボイラの通常運用中に伝熱管に固着した硫安は乾燥した状態であり、この状態では問題ないが、前記したように一旦吸湿すると、鉄と反応して硫酸鉄アンモニウムが形成されており、ボイラの再起動時には、その部分が伝熱管表面などから剥がれて固形物となって排ガスに同伴して飛散することがある。この対策としては排ガス出口の煙突部に網状の除去装置などを設け、捕集することができるが、飛散量が多量に発生する場合には前記除去装置の清掃などの手間がかかることになる。
【0011】
下記特許文献にはアンモニア、尿素などの還元剤を排ガスダクトに注入するノズルに析出する酸性硫安を除去するために、プラント停止中に前記ノズルに接続する配管内に前記排ガスダクトからバイパスさせた高温の排ガスを導入する構成が開示されている。
【特許文献1】特開平8−131765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記したように排熱回収ボイラの伝熱管に固着した硫安を除去するための清掃作業などの手間がかかることことがあった。
【0013】
また、上記特許文献記載の還元剤注入ノズルに析出する酸性硫安を除去するために、前記ノズルに接続する配管内に排ガスダクトからバイパスさせた高温の排ガスを導入する構成では、排ガスで硫安除去した後にノズルの水洗作業をしていないが、排熱回収ボイラの伝熱管部分に付着した硫安除去作業には水洗作業を伴うことから、硫安が付着していない伝熱管部分、あるいは脱硝装置の脱硝触媒に水が飛び散ることを防ぐ必要があるので、そのまま上記特許文献記載の方法を排熱回収ボイラに適用できない。
【0014】
本発明の課題は 従来の技術において必要とされる硫安の飛散対策における保守作業の省力化および自動化。および酸性硫安による伝熱面の腐食防止を確率することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の本発明の課題は、下記ようにガスタービン停止直前に排ガスを排熱回収ボイラ低温域に直接導入することで、伝熱面に固着した硫安および酸性硫安を分解、気化させた上でガスタービンを完全停止させることで達成される。
【0016】
請求項1記載の発明は、圧縮空気を用いる燃焼機を備えたガスタービンからの高温排ガスが導入される入口側から順に過熱器と蒸発器を含む伝熱管(a)、排煙脱硫装置(b)、及び節炭器を含む伝熱管(c)を内蔵したメインダクト構造からなる排熱回収ボイラにおいて、メインダクト入口部から前記過熱器と蒸発器を含む伝熱管(a)と排煙脱硫装置(b)を迂回して節炭器を含む伝熱管(c)の上流部のメインダクトに接続するバイパスダクトを設置し、前記排煙脱硝装置(b)の直後のメインダクトにはダクト流路を遮断することができるダンパーを設置し、ガスタービンの燃焼機には水噴射装置を設置した排熱回収ボイラである。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の排熱回収ボイラの運用方法であって、ガスタービンの運用停止前に、前記排煙脱硝装置(b)の直後のメインダクトにはダクト流路を遮断した後、ガスタービンからの高温排ガスをメインダクトを迂回してバイパスダクトにだけ流し、またガスタービンの燃焼機には水噴射装置から排ガス中にサーマルNOxを発生させない量の水を噴霧する排熱回収ボイラの運用方法である。
【0018】
(作用)
ガスタービンの排ガスを排熱回収ボイラ低温域(図1では節炭器10入口が相当する。この節炭器の伝熱管表面には硫安が固着している。)に直接導入することで、節炭器の伝熱管表面(伝熱面)の表面温度を硫安が分解する温度(280℃)以上に維持し、前記伝熱面に固着した硫安および酸性硫安が吸湿するまえに分解、気化させる。高温環境下において分解された硫安および酸性硫安は、硫酸水素アンモニウム、アンモニア、二酸化硫黄及び水蒸気に分解された上で排熱回収ボイラ出口より排出される。
【0019】
また、伝熱管の伝熱面に付着した硫安を高温排ガスで除去する間にガスタービンの燃焼機には水噴射装置から水を噴霧するので、高温排ガス中にサーマルNOxが発生しない。なお、ガスタービンの燃焼機内の燃焼排ガス温度は約600℃以上の高温であり、噴霧した水は瞬時に蒸気化するので排熱回収ボイラのバイパスダクト内では前記水噴射で硫安に吸湿されるおそれはない。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、排熱回収ボイラの伝熱管の伝熱面に付着した硫安を高温排ガスで容易に除去することが可能となる。またボイラの伝熱管の伝熱面の水洗が不要になることから、酸性硫安による伝熱面腐食の発生も防止でき、従来に比べてメンテナンス面でのコスト低減および立地条件の制約の低減によるコスト低減が可能となる。
【0021】
さらに、バイパスダクトにガスタービンの高温排ガスを脱硝装置を経由しないで流してもガスタービンの燃焼機には水噴射装置から水を噴霧するので、サーマルNOx濃度の生成を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施例について図面とともに説明する。
【0023】
図1には本発明に係わる排熱回収ボイラの構成例を示す。図1に示すように圧縮機1で圧縮された空気を利用してガスタービン2の燃焼機3で燃料を燃焼させ、排ガスをガスタービン2と圧縮機1の駆動に利用した後、排熱回収ボイラ5に供給される。燃焼機3には水噴射装置4が設けられている。また、排熱回収ボイラ5は、入口側から順に過熱器6,蒸発器7、排煙脱硫装置8及び節炭器10が配置されたメインダクト構造を備えている。蒸発器7の前後に再熱器(図示せず)が配置されることもある。
【0024】
蒸気発生用のボイラ水は節炭器10の入口に節炭器入口弁11を介して導入され、節炭器10の出口から節炭器出口弁13を経由して汽水分離ドラム14から蒸発器7に入る。蒸発器7で得られた汽水混合物は再び汽水分離ドラム14に戻り、汽水分離ドラム14で汽水分離された後、過熱器6で過熱蒸気となり、図示しない蒸気タービンに供給される。汽水分離ドラム14で汽水分離された水の一部はブロータンク16を経て排水される、また節炭器10からの凝縮水はドレン弁17を経由してブロータンク16へ排出される。
【0025】
また、本実施例の排熱回収ボイラ5は、メインダクト入口1で過熱器6を迂回して排煙脱硝装置8の下流部のダクトに接続するバイパスダクト18を設置し、ガスタービン2の排ガスが直接排熱回収ボイラの後流側のメインダクト内(図1の例では節炭器10の上流側)を流れる系統を設けている。このバイパスダクト18は通常運転時はバイパスダクト入口および出口にそれぞれ設けられたダンパー20,21よって閉止されている。また、排熱回収ボイラ本体の排煙脱硝装置8の直後にダンパー22を設けることで前記バイパスダクト18を利用して排ガスを流す時に排ガスが排煙脱硝装置8の側に逆流するのを防ぐ構造としている。
【0026】
上記構成からなる排熱回収ボイラの基本構成において硫安除去のための運用方法を以下に示す。硫安除去のための運転は通常の排熱回収ボイラの運転停止時、すなわちコンバインドサイクルのプラント停止時に実施する。
【0027】
まず、ガスタービン2の排ガス中の窒素酸化物(NOx)が排煙脱硝装置8なしで環境規制値をクリアできるようにガスタービン2の燃焼機3に水噴射装置4から水を噴射する運転に移行させ、あわせて排熱回収ボイラの負荷を下げる。この際に排ガス温度は硫安が分解する温度(280℃以上)を確保することが求められる。続いてバイパスダクト18の入口および出口のダンパ20,21を開放した後、排煙脱硝装置8の直後にあるダンパ22を閉止する。
【0028】
上記ダンパ22の閉止操作の後、硫安除去対象となる伝熱面(図例では節炭器10)の給水系統の入口弁11と出口弁13を閉にして節炭器10を独立させ、節炭器10の内容物の水・蒸気を入口弁11と出口弁13の間のドレン弁17よりドレンとして排出する。ドレンには節炭器10内で発生した蒸気を含む場合もあるためブロータンク16を経由して排水する。
以上の手順を踏まえて硫安除去運転を継続し、硫安除去完了後にプラントを停止させる。
【0029】
本発明の構成を用いて排熱回収ボイラ1の運転停止時に排ガスを排煙脱硝装置8をバイパスさせると、運転停止時には排ガス中のNOx濃度が上昇してしまうことになる。従って、運転の全範囲での排ガス中のNOx濃度のクリアを要求される場合には、ガスタービン2側の停止時の特別な操作が必要になる。
【0030】
即ち、ガスタービン2の停止時において、排ガス温度は硫安が分解する温度(280℃以上)を確保するためにガスタービン2を運転継続させるための時間が必要になる。この運転継続時間は、伝熱管の表面温度が280℃以上になり硫安が蒸発するまでである。このとき、節炭器10内の水はそのままであるので、低温度の給水を加熱しないと伝熱管の表面温度も上がらない。そのため、伝熱管の表面を加熱上昇させる時間が必要となる。
【0031】
節炭器10の入口給水温度はプラント毎に異なるので、一例であるが起動時の管表面の低温腐食を防止するために節炭器10の出口から加熱したものを一部循環させているものでは80℃〜100℃程度であるが、この温度は特定された値ではない。
【0032】
前記した排ガス温度は硫安が分解する温度(280℃以上)を確保するためにガスタービン2を運転継続させる時間を確保するのが大前提であり、バイパス温度があまり高いとバイパス後の節炭器10の前に排ガスを導入した後に支障が出るので、排熱回収ボイラの運転停止時にはガスタービン2への燃料供給量を段階的に下げても良い。
【0033】
ただし、前記した排熱回収ボイラ運転の全範囲での排ガス中のNOx濃度を規制値以下にするために、排ガス温度の低下が排煙脱硝装置8の使用温度域を下回らない条件で、ガスタービン2の燃焼機3の内部に水噴射装置4から水の噴射を行い、これによりサーマルNOxの発生を防止する。このように脱硝装置8をバイパスさせた場合のNOx既定値のクリアを保証した排ガス状態にし、初めてバイパスすることができる。
なお、節炭器10の材質は炭素鋼でなく、耐熱鋼にすることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、重油など硫黄分を含む燃料で運用されるガスタービンを熱源とする触媒還元法による脱硝装置を備えた排熱回収ボイラの低温域に固着する硫安の除去に利用可能であり、複合発電プラントの経済的運用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例の脱硝装置を備えた排熱回収ボイラの構成図である。
【符号の説明】
【0036】
1 圧縮機 2 ガスタービン
3 燃焼機 4 水噴射装置
5 排熱回収ボイラ 6 過熱器
7 蒸発器 8 排煙脱硫装置
10 節炭器 11 節炭器入口弁
13 節炭器出口弁 14 汽水分離ドラム
16 ブロータンク 17 ドレン弁
18 バイパスダクト 20、21、22 ダンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮空気を用いる燃焼機を備えたガスタービンからの高温排ガスが導入される入口側から順に過熱器と蒸発器を含む伝熱管(a)、排煙脱硫装置(b)、及び節炭器を含む伝熱管(c)を内蔵したメインダクト構造からなる排熱回収ボイラにおいて、
メインダクト入口部から前記過熱器と蒸発器を含む伝熱管(a)と排煙脱硫装置(b)を迂回して節炭器を含む伝熱管(c)の上流部のメインダクトに接続するバイパスダクトを設置し、
前記排煙脱硝装置(b)の直後のメインダクトにはダクト流路を遮断することができるダンパーを設置し、
ガスタービンの燃焼機には水噴射装置を設置したことを特徴とする排熱回収ボイラ。
【請求項2】
請求項1記載の排熱回収ボイラの運用方法であって、
ガスタービンの運用停止前に、前記排煙脱硝装置(b)の直後のメインダクトにはダクト流路を遮断した後、ガスタービンからの高温排ガスをメインダクトを迂回してバイパスダクトにだけ流し、またガスタービンの燃焼機には水噴射装置から排ガス中にサーマルNOxを発生させない量の水を噴霧することを特徴とする排熱回収ボイラの運用方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−250494(P2006−250494A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71264(P2005−71264)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】