説明

掘削推進機

【課題】掘削もしくは推進時の方向修正を適切に行うことができるとともに、構成を簡素化して管内部に充分な空間を確保することができる掘削推進機を提供する。
【解決手段】掘削機構2を備えた先導体3の掘削・推進方向を修正する機能を有する掘削推進機1において、先導体3の外周部に膨張・収縮自在な弾性体により形成された複数の空気室21,22,23,24と、空気室内の空気量を増減して複数の空気室21,22,23,24をそれぞれ独立して膨張・収縮させる空気室制御手段(9,11,20)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、掘削機構を備えた先導体により構成される掘削推進機に関し、特に掘削・推進方向を修正する機能を有する掘削推進機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上下水道、ガス管、電力、通信ケーブル等に用いられる管渠を構築する方法として、地面を開削して管体を配管した後に埋め戻す開削工法と、地面を開削しない非開削工法とがある。このうち、非開削工法の代表的な工法として、既製の管体を推進管として、その先端に掘進機、先導体、もしくは刃口を取り付け、ジャッキ推力等によって、推進管を地中に圧入して管渠を埋設する推進工法がある。この推進工法は、従来の開削工法のように地面を広範囲にわたって掘り返す必要がないため、工事による交通障害や環境への負荷が少なく、また効率的・経済的な工法として、近年注目されている。
【0003】
推進工法で管渠を埋設する場合、推進方向が計画の軌道からずれた際の推進方向を修正するため、あるいは、地中構造物を避けたり、管路を道路の線形に沿わせたりすることなどのために、掘進もしくは推進方向の変更・修正が必要な場合がある。推進工法の中で、特に呼び径が700mm以下である小口径管の推進に用いられる小口径管推進工法では、人が推進管内に入って作業することができないため、上記のような掘進、推進方向の変更・修正などの作業は、例えば発進立坑内から遠隔操作等により行われることになる。
【0004】
このような小口径管推進工法の一例として、掘進機本体の前部に掘削外径が推進機本体の外径よりも大きい回転掘削具が装着され、掘削機本体の外周面上に回転掘削具の回転反力を地山に伝達する3枚の反力伝達板が設けられ、その3枚の反力伝達板が、それぞれ、3本の支持油圧ジャッキの伸縮によって半径方向に移動可能に支持され、また3本の油圧ジャッキの伸縮によって円周方向に移動可能に支持されるように構成された小口径管推進機が特許文献1に記載されている。
【0005】
この特許文献1に記載されている小口径管推進機は、一方の反力伝達板を介して地山に伝達される反力が、他の反力伝達板を介して地山に伝達される反力より著しく大きいとき、他の反力伝達板を円周方向に回転させ、あるいは半径方向に移動させて、その反力を増大させることにより、掘削機本体の位置を予定の軌道路線に修正することができる、とされている。
【0006】
また、特許文献2には、掘削外径が先導体本体の外径よりも大きい回転掘削具を設けた先導体を備え、揺動可能に取り付けられるとともに回転掘削具の掘削領域内に納まるように配置された複数の方向修正板と、各方向修正板をそれぞれ揺動させて地山に押し付けることができる複数の油圧ジャッキとが先導体本体に設けられ、その方向修正板の揺動により地山で反力をとりつつ回転掘削具を地山に押し付けることで、先導体の掘削方向を修正することができるように構成された管推進機が記載されている。また、この特許文献2には、先導体本体を前胴部と後胴部とに分割して隣接端部を方向修正ジャッキで傾動可能に連結し、そのストローク差により先導体本体を中折れさせることで掘進方向を修正するように構成された従来の中折れ式の管推進機も開示されている。
【特許文献1】特開平8−296394号公報
【特許文献2】特開平11−131976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1および2に記載されている管推進機は、掘削もしくは推進方向を修正する際、地山から反力を得るために反力伝達板もしくは方向修正板を油圧ジャッキにより回転あるいは移動させる構成となっている。また、従来の中折れ式の管推進機も、先導体本体を方向修正ジャッキにより傾動させて掘削方向を修正する構成となっている。
【0008】
したがって、特許文献1および2に記載されている管推進機、あるいは中折れ式の管推進機では、油圧ジャッキ等の動作を制御することにより、地山からの反力を得て、あるいは先導体の前胴部を傾動させて、掘削もしくは推進方向を修正することができる。しかしながら、上記のようにして先導体に方向修正機能を持たせるためには、反力伝達板(方向修正板)あるいは先導体の前胴部を作動させるための油圧ジャッキ等、およびその油圧ジャッキ等を制御するための配管などを先導体の内部に設置しなければならず、先導体内部の構造が複雑になってしまう。
【0009】
特に、泥水方式あるいはオーガー方式の小口径管推進工法においては、先導体内部およびその先導体から発進立坑までの推進管内に、送泥管および排泥管を、あるいはスクリューコンベア等を設ける必要があり、この場合に上記のような方向修正機能を持たせた先導体を用いたとすると、先導体内部の構造がより複雑になってしまい、また、送・排泥水用の配管あるいはスクリューコンベア等を設置するための空間を確保できなくなってしまい、ある程度より小径の管には適用できない場合があった。
【0010】
この発明は、上記の事情を背景としてなされたものであり、掘削もしくは推進時の方向修正を適切に行うことができるとともに、構成を簡素化して管内部に充分な空間を確保することができる掘削推進機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため請求項1の発明は、掘削機構を備えた先導体の掘削・推進方向を修正する機能を有する掘削推進機において、前記先導体の外周部に膨張・収縮自在な弾性体により形成された複数の空気室と、空気室内の空気量を増減して前記複数の空気室をそれぞれ独立して膨張・収縮させる空気室制御手段とを備えていることを特徴とする掘削推進機である。
【0012】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記複数の空気室が、気密状態を維持する内筒部弾性体と、その内筒部弾性体の外周面を覆う外筒部弾性体との少なくとも2層の弾性体により形成されていることを特徴とする掘削推進機である。
【0013】
そして、請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記外筒部弾性体が、その内部に設けられた前記外筒部弾性体よりも強度が高い補強部材により補強されていることを特徴とする掘削推進機である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、掘削あるいは推進時に、先導体の進行方向の変更もしくは修正が必要な場合、先導体の外周部に設けられた複数の空気室の空気量をそれぞれ独立に制御することにより、それら複数の空気室の膨張・収縮状態がそれぞれ独立に制御される。例えば、先導体外周部の上・下・左・右の4箇所に空気室を設けたとすると、例えば上側の空気室のみ空気量を増加して膨張させ、他の空気室を収縮させた状態で掘削もしくは推進を行うことによって、膨張させた上側の空気室が地山を押圧し、その地山から反力を受けることができ、先導体の掘削もしくは推進方向を下側に修正することができる。同様に、例えば左側の空気室のみ空気量を増加して膨張させ、他の空気室を収縮させた状態で掘削もしくは推進を行うことによって、先導体の掘削もしくは推進方向を右側に修正することができる。このように、先導体外周部に設けられた複数の空気室の膨張・収縮状態をそれぞれ独立して制御することで、先導体の掘削・推進方向を所望する方向へ適切に変更もしくは修正することができる。また、油圧ジャッキやアクチュエータなどの油圧装置を用いていないため、装置の構造を簡素化することができ、その結果、先導体内部および後続の推進管等の内部に充分な空間を確保することができる。
【0015】
また、請求項2の発明によれば、気密性が必要とされる空気室の内筒部を形成する内筒部弾性体の外周面が、内筒部弾性体とは別の層となる外筒部を形成する外筒部弾性体により覆われて保護される。そのため、掘削・推進時に空気室が地山から受ける摩擦抵坑や衝撃力などから、空気室を保護することができ、装置の耐久性を向上させることができる。
【0016】
そして、請求項3の発明によれば、気密性が必要とされる内筒部弾性体を保護する外筒部弾性体が、その内部に外筒部弾性体よりも高強度の補強部材を設けた二重構造とされて補強されているため、掘削・推進時に空気室が地山から受ける摩擦抵坑や衝撃力などから、空気室をより確実に保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。ここでは、泥水方式・一工程式の小口径管推進工法にこの発明に係る掘削推進機を適用した場合を例に挙げて説明する。小口径管推進工法とは、呼び径が700mm以下の小口径管の推進に用いられる工法であって、先導体に小口径の推進管の先端を直接接続し(すなわち一工程式)、発進立坑から遠隔操作等により推進管を推進させて地中に管渠を埋設する工法である。また、泥水方式とは、推進工法における掘削および排土方式を示すもので、先導体に掘削機構が備えられ、掘削時の掘削機構の切羽の安定を図るため、切羽における土圧および地下水圧に見合う圧力に保持された泥水を切羽に送りながら掘削を行うとともに、ジャッキ推力により推進する方式である。そして、小口径推進工法では、推進管内あるいは先導管内に人が立ち入って作業することができないため、掘削、排土、推進などの一連の作業は、全て発進立坑もしくは地上から遠隔操作等により行われる。
【0018】
図1は、この発明に係る掘削推進機を、上記の泥水方式・一工程式の小口径管推進工法に適用して施工するための装置・設備、およびその操作・制御系統などを模式的に示す図である。図1において、符号1は掘削推進機であり、この掘削推進機1は、先端(図1における左端)に掘削機構2が装備された泥水方式の小口径先導体3を主として構成されている。この掘削機構2は、カッタヘッド(図示せず)などの切羽を回転させて地山を掘削するように構成されていて、掘削時の切羽の安定を図るため、切羽における土圧および地下水圧に見合う圧力に保持された泥水を切羽に送る送泥管4と、掘削され泥水と混合された土砂を地上に排出する排泥管5とが接続されている。
【0019】
これら送泥管4および排泥管5等の先導体3内部における配置を図2および図3を用いて説明する。図2は、掘削推進機1の推進軸線方向における断面図で、図3の(a)は、図2におけるA−A断面(すなわち推進軸線に垂直な断面)を示し、図3の(b)は、図2におけるB−B断面(すなわち推進軸線に垂直な断面)を示している。図2および図3において、送泥管4は、掘削機構2のカッタヘッドを駆動する中空の駆動軸2aの内部(中空部)に設けられた送泥管4aと、先導体3の後端側(図2における右端側)において先導体3内部の送・排泥通路仕切板3aにより仕切られた送泥通路3bに連通された送泥管4bとによって構成されている。また、排泥管5は、先導体3の後端において先導体3内部の送・排泥通路仕切板3aにより仕切られた排泥通路3cに連通されている。なお、符号2bは、駆動軸2aのケーシングである。
【0020】
送泥管4および排泥管5は、送泥ポンプ6および排泥ポンプ7を介して地上に設けられた泥水処理設備8に接続されていて、泥水処理設備8の調整槽(図示せず)に蓄えられた泥水が、送泥ポンプ6により送泥管4を経由して掘削機構2の切羽部分へ圧送され、切羽で掘削され泥水と混合された土砂が、排泥ポンプ7により排泥管5を経由して泥水処理設備8へ流体輸送されるように構成されている。そして泥水処理設備8で土砂と泥水とに分離され、分離された泥水が再び掘削機構2の切羽部分へ送泥されるようになっている。
【0021】
先導体3の外周部には、掘進・推進時に先導体3の進行方向を変更もしくは修正する機能を持たせるため、先導体3外周部の上・下・左・右の4箇所の位置に、膨張・収縮自在な弾性部材により形成された空気室21,22,23,24が設けられている。それら4箇所の空気室21,22,23,24は、それぞれ空圧ホース9により、コンプレッサや切替弁あるいは圧力センサ等(いずれも図示せず)により構成され、地上もしくは発進立坑10内に設けられた空圧ユニット11に接続されている。そして、それら4箇所の空気室21,22,23,24の空気量を制御することにより、所定の空気室を膨張させて地山に押し付けて、地山から反力を取ることで、所望する任意の方向に先導体3の進行方向を変更もしくは修正することができるように構成されている。なお、この掘削推進機1の方向修正機能およびそれを構成する空気室21,22,23,24についての詳細な説明は後述する。
【0022】
先導体3の後端(図1における右端)には、小口径推進管12の先端(図1における左端)が取り付けられている。この推進管12は、この小口径管推進工法により埋設されて管渠を構成する既製の管体である。そして、推進管12の後端(図1における右端)には、発進立坑10内に設置された推進装置13のジャッキヘッド14が当接されている。
【0023】
推進装置13は、例えば、押し・戻し両方向の操作が可能な両動型の油圧ジャッキ15によって構成されいて、その油圧ジャッキ15の底部が、発進立坑10内の推進方向の反対側(図1における右側)に設けられた支圧壁16に当接するように設置されている。そして、油圧ジャッキ15は、押し側油圧ホース17と戻し側油圧ホース18とにより、油圧ポンプや切替弁あるいは圧力センサ等(いずれも図示せず)により構成され、地上もしくは発進立坑10内に設けられた油圧ユニット19に接続されている。
【0024】
そして、上記の掘削機構2、および送・排泥ポンプ6,7、および空圧ユニット11、および油圧ユニット19などが、操作盤20と接続されている。この操作盤20は、掘削機構2の切羽の回転を制御して掘削機構2による掘削状態を制御し、あるいは送・排泥ポンプ6,7の運転状態を制御して送泥管4の送泥圧や排泥管5の排泥量を調整し、あるいは空圧ユニット11を制御して掘削推進機1の各空気室の膨張・収縮状態を制御し、あるいは油圧ユニット19を制御して先導体3および推進管12の推進圧や推進量を制御する操作・制御装置20として構成されている。したがって、上記のように構成された小口径管推進工法による推進管の埋設作業は、操作盤20により各装置・設備を操作もしくは制御することによって、地上もしくは発進立坑10から遠隔操作することができる。
【0025】
続いて、掘削推進機1の方向修正機能、そのために設けられた空気室の構成および操作例について説明する。前述したように、小口径管推進工法による管渠の施工は全て遠隔操作等により行われる。また、先導体内および推進管内のスペースが限られているので、先導体内および推進管内に複雑な構造の装置類を設けることに限界がある。そのため、このような小口径管推進工法に用いられる先導体3に、掘削・推進時の進行方向を変更もしくは修正するための機能が装備される掘削推進機1は、容易にかつ確実に操作することができるとともに、その構成が簡素化されていることが必要とされる。そこで、この発明による掘削推進機1は、空気圧を利用することによって、簡単な構成で、容易にかつ確実に、掘削・推進時の方向修正を行うことができるように構成されている。
【0026】
その掘削・推進時の方向修正機能を装備した掘削推進機1の構成および操作例を図4ないし図8を用いて説明する。図4および図6は、掘削推進機1の構成を示す推進軸線方向における断面図で、図4は、掘削推進機1の空気室に空気を送り空気室を膨張させた状態を示し、図6は、掘削推進機1の空気室の空気を抜き空気室を収縮させた状態を示している。また、図5は、図4におけるC−C断面(すなわち推進軸線に垂直な断面)を示し、図7は、図6におけるD−D断面(すなわち推進軸線に垂直な断面)を示している。
【0027】
図4ないし図8において、先導体3の外周部の推進軸線に垂直な断面(すなわち図5もしくは図7に示す断面)での上・下・左・右の4箇所の位置に、空気室21、22,23,24が設けられている。
【0028】
具体的には、先導体3に基体部3dの外周面に、例えばゴム製の膨張・収縮自在の弾性体により筒状に形成された内筒部弾性体25が装着されていて、この内筒部弾性体25は、その先端部25aと後端部25bとにおいて、内筒部弾性体25の全周にわたって基体部3dに接着されている。また、推進軸線方向では、例えば図5,図7の断面で上・下・左・右の位置がそれぞれ90°,270°,180°,0°の位置であるとすると、45°,315°,225°,135°の位置として表される境界部25c,25d,25e,25fにおいて、内筒部弾性体25の全長にわたって基体部3dに接着されている。また併せて、例えば鋼製の剛体により片状に形成された接着部剥離防止板26が、境界部25c,25d,25e,25fの外表面にあてがわれた状態で、ボルト止めもしくはビス止め等の方法で締結されている。
【0029】
内筒部弾性体25の内周面と基体部3dの外周面との間の空間は、先端部25aおよび後端部25bと各境界部25c,25d,25e,25fとによって4箇所に区画されるとともに密閉され、これにより4箇所の空気室21,22,23,24の気密状態を維持する部分が形成されている。
【0030】
内筒部弾性体25の外周面には、例えばゴム製の膨張・収縮自在の弾性体により筒状に形成された外筒部弾性体27が装着されている。この外筒部弾性体27は、その先端部27aの全周にわたって、先導体3の基体部3eに接着されている。また、後端部27bにおいて、例えば鋼製の剛体により環状に形成された外筒部弾性体膨張(剥離)防止部材28に接着されていて、この外筒部弾性体膨張(剥離)防止部材28が、基体部3dのフランジ部3fにボルト止めもしくはビス止め等の方法で締結されている。そしてこの外筒部弾性体27は、内筒部弾性体25の各空気室21,22,23,24の気密状態を維持する部分が膨張・収縮する際に、追従して膨張・収縮できるようにその材質・形状が設定されて形成されている。なお、外筒部弾性体27の先端部27aの外周部には、例えば鋼製の剛体により環状に形成された外筒部弾性体膨張(剥離)防止部材29が装着されている。
【0031】
また、外筒部弾性体27の内部の、各空気室21,22,23,24の位置に対応する4箇所の位置には、例えば鋼製の剛体により板状に形成された外筒部補強部材30が装着されている。この外筒部補強部材30の先端部30aは、爪状に形成されていて、内筒部弾性体25の先端部25aに隣接する位置に、同様に爪状に形成された先導体3の係止部3gに係止されている。これにより外筒部補強部材30は、外筒部弾性体27が膨張・収縮する際に、先端部30aと係止部3gとの係止部分を基点として可動するようになっていて、外筒部弾性体27の膨張・収縮を妨げることがない構成となっている。
【0032】
したがって、外筒部弾性体27は、内筒部弾性体25を覆うように装着されて、かつ内筒部弾性体25の膨張・収縮に追従するように形成されていて、内筒部弾性体25の外周面を保護する機能を有している。さらに、外筒部弾性体27の内部に外筒部補強部材30が設けられていることにより、外筒部弾性体27の外周面が補強されている。そのため、例えば掘削・推進時に、各空気室21,22,23,24が膨張させられて地山に押し付けられた際に、各空気室21,22,23,24の外表面が地山から受ける摩擦抵坑や衝撃力などから、各空気室21,22,23,24を保護することができる。
【0033】
基体部3dの、各空気室21,22,23,24の位置に対応する4箇所の位置には、空気孔3hがそれぞれ設けられている。各空気孔3hの一方の端部は、各空気室21,22,23,24に連通して開口されていて、各空気孔3hの他方の端部には、前述の空圧ユニット11に繋がれた各空圧ホース9がそれぞれ接続されている。
【0034】
したがって、各空圧ホース9を通じて各空気室21,22,23,24に空気を封入することによって、各空気室21,22,23,24を膨張させることができる。この場合、各空気室21,22,23,24に封入する空気の量もしくは空気圧を調整することで、各空気室21,22,23,24の膨張状態を制御することができる。そして、例えば切換弁を切り換えて各空気室21,22,23,24に接続された各空圧ホース9の切換弁側を解放することで、膨張させた各空気室21,22,23,24内の空気を排出し、各空気室21,22,23,24を収縮させることができる。この場合は、各空気室21,22,23,24を形成している弾性体の弾性力により、内筒部弾性体25の内周面と基体部3dの外周面との間に形成される各空気室21,22,23,24の気密状態を維持する部分は、その容積が零もしくはほぼ零の状態となり、各空気室21,22,23,24が基体部3dの外周面に装着された所期の状態に戻される。
【0035】
このように、各空気室21,22,23,24に接続された各空圧ホース9と、それら各空圧ホース9を介して各空気室21,22,23,24に対し封入もしくは排出する空気を制御する空圧ユニット11および操作盤20とが、各空気室21,22,23,24内の空気量を増減して各空気室21,22,23,24をそれぞれ独立して膨張・収縮させるこの発明における空気圧制御手段として機能している。
【0036】
つぎに、掘削推進機1の操作例について説明する。前述のように、掘削推進機1は、先導体3の外周部の上・下・左・右の4箇所の位置に、内筒部弾性体25と外筒部弾性体27との2層の弾性体により形成された各空気室21,22,23,24と、操作盤20、およびその操作盤20により操作・制御される空圧ユニット11、およびその空圧ユニット11と各空気室21,22,23,24とを接続する空圧ホース9による空気室制御手段とによって構成されている。
【0037】
例えば先導体3の掘削・推進方向を、現在よりも下側に修正したい場合は、空気室制御手段により、先導体1の外周部の上側に設けられた空気室21内に空気が封入され、空気室21だけが膨張させられる(すなわち図5に示す状態)。空気室21が膨張させられると、空気室21の外表面が地山を上側に押し付けることによって、先導体3には先導体3を下側に押し付ける力となる地山からの反力が作用する。そしてその状態で掘削・推進することで、先導体3の掘削・推進方向をそれまでより下側に修正される。
【0038】
同様に、例えば先導体3の掘削・推進方向を、現在よりも右側に修正したい場合は、空気室制御手段により、先導体3の外周部の左側に設けられた空気室23を膨張させるように制御し、そしてその状態で掘削・推進することで、先導体3の掘削・推進方向をそれまでより右側に修正することができる。また、例えば、空気室21と空気室23とを同時に膨張させるように制御し、その状態(すなわち図8に示す状態)で掘削・推進することで、先導体3の掘削・推進方向を、前述の315°の方向に修正することができる。そして、所望する掘削・推進方向の修正が完了すると、膨張させた空気室内の空気が排出される。
【0039】
以上のように、この発明に係る掘削推進機1によれば、各空気室21,22,23,24の膨張・収縮状態をそれぞれ独立して適宜に制御することで、先導体3の掘削・推進方向を所望する任意の方向へ、容易に変更もしくは修正することができる。また、そのための構造は、通常時は先導体3の外形とほぼ面一となる膨張・収縮自在な各空気室21,22,23,24および、それら各空気室21,22,23,24と連通する各空気孔3hおよび、それら各空気孔3hに接続される各空圧ホース9等だけで構成されていている。そのため、油圧ジャッキやアクチュエータなどの油圧装置を用いた構成の他の装置と比較して、装置の構造を簡素化することができる。例えば前述の図2,図3に示すように、泥水方式の推進工法では、送・排泥管4,5、および送・排泥通路3b,3c、あるいは掘削機構2の駆動軸2a等を、先導体3および推進管12の内部に設置する必要があるが、上記のように装置の構造が簡素化されることによって、先導体3内部および後続の各推進管12等の内部に、送・排泥管や駆動軸等を設置するための充分な空間を確保することができる。
【0040】
また、各空気室21,22,23,24の気密性が必要とされる部分を形成する内筒部弾性体25の外周面が、内部に鋼材などで形成された外筒部補強部材30が設けられた外筒部弾性体27により覆われて保護されている。そのため、掘削・推進時に各空気室21,22,23,24が地山から受ける摩擦抵坑や衝撃力などから、ゴムなどの弾性体により形成された各空気室21,22,23,24を保護することができ、掘削推進機1の耐久性を向上させることができる。
【0041】
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、上記の具体例では、泥水方式・一工程式の小口径管推進工法においてこの発明の方向修正装置が用いられた例を示しているが、泥水方式・二工程式、あるいはオーガー方式、あるいはその他の方式の小口径管推進工法、あるいは小口径管以外の推進工法、あるいは推進工法以外の他の工法においてもこの発明の方向修正装置を適用することができる。
【0042】
また、上記の具体例では、方向修正装置の空気室が、先導体の外周部の上・下・左・右の4箇所の位置に設けられた例を示しているが、2箇所もしくは3箇所、あるいは5箇所以上の複数の位置に空気室を設けたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の方向修正装置を適用した推進工法における各種装置・設備、およびその操作・制御系統などを示す模式図である。
【図2】この発明の方向修正装置を泥水方式の推進工法に適用した場合の、送泥および排泥のための配管等を示す断面図である。
【図3】図2におけるA−A断面およびB−B断面を示す図である。
【図4】この発明の方向修正装置の構成を示す断面図であって、方向修正装置の一つの空気室を膨張させた状態を示す図である。
【図5】図4におけるC−C断面を示す図である。
【図6】この発明の方向修正装置の構成を示す断面図であって、方向修正装置の各空気室を収縮させた状態を示す図である。
【図7】図6におけるD−D断面を示す図である。
【図8】この発明の方向修正装置の構成を示す断面図であって、方向修正装置の二つの空気室を膨張させた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1…掘削推進機、 2…掘削機構、 3…先導体、 9…空圧ホース、 11…空圧ユニット、 12…推進管、 20…操作盤(操作・制御装置)、 21,22,23,24…空気室、 25…内筒部弾性体、 27…外筒部弾性体、 30…外筒部補強部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削機構を備えた先導体の掘削・推進方向を修正する機能を有する掘削推進機において、
前記先導体の外周部に膨張・収縮自在な弾性体により形成された複数の空気室と、
空気室内の空気量を増減して前記複数の空気室をそれぞれ独立して膨張・収縮させる空気室制御手段と
を備えていることを特徴とする掘削推進機。
【請求項2】
前記複数の空気室は、気密状態を維持する内筒部弾性体と、その内筒部弾性体の外周面を覆う外筒部弾性体との少なくとも2層の弾性体により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の掘削推進機。
【請求項3】
前記外筒部弾性体は、その内部に設けられた前記外筒部弾性体よりも強度が高い補強部材により補強されていることを特徴とする請求項2に記載の掘削推進機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate