説明

採尿バッグ用バルブ装置及び採尿バッグ

【課題】排尿管の汚染防止と尿排出時の尿の飛び散りを防止し得ると共に、寸法の小さいバルブ装置及び該バルブ装置を備えた採尿バッグを提供する。
【解決手段】採尿バッグの尿排出部に取り付けられるバルブ装置4であって、バッグ本体から延びる排尿管を保持し得るケーシング20と、該ケーシング内の排尿管に対し該排尿管を横切る方向に摺動可能にケーシング20に支持され、前進位置でケーシングの内方へ移動し排尿管を径方向に弾性変形させて閉鎖し、後退位置でケーシングから外方へ移動し排尿管の弾性変形を解除して開放し得るスライド部30とを備えた採尿バッグ用バルブ装置、及び該バルブ装置を備えた採尿バッグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者が排出する尿を尿道留置カテーテル等を通じて採取するための採尿バッグ及びその採尿バッグのためのバルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
採尿バッグは、尿道留置カテーテルに接続されたインレットチューブをバッグ本体の上部に接続し、バッグ本体の下部から排出チューブを延ばしたものが一般的である。従来の採尿バッグは、例えば、特許文献1に記載されており、図11に示すように、バッグ本体101が透明又は半透明の樹脂シートで形成され、上部にインレットチューブ102が接続され、下部に排出チューブ103が接続されており、バッグ本体の上端部には吊り下げ具104が固着されている。採尿バッグ101の下端部は、2枚のシートを2本のほぼ水平な線状に接合して筒状の差込部105を形成している。通常は排出チューブの途中をクリップ106で閉鎖し、先端部を差込部105に挿入しておく。
【0003】
この採尿バッグを使用する際は、患者の尿道に装着された尿道留置カテーテルをインレットチューブ102の先端に接続し、患者がベッドにいるときには、吊り下げ具104によりバッグをベッドの枠部に吊り下げておく。このとき、排出チューブ103は差込部105に挿入されているので、床に接して汚れるのが防止される。そして、バッグ内に蓄積された尿を排出する際には、排出チューブ103を差込部105から抜き出し、クリップ106を緩めて、バッグ本体内の尿を取り出す。しかしながら、排出チューブは、可撓性を有すると共にある程度の弾性を備えているので、差込部105から抜き出す際に、曲げた状態から急激に戻り、これに伴って、先端部に付着していた尿が飛び散るという問題があった。
【0004】
これに対処するものとして、図12に示すようなバルブ装置付きの採尿バッグが開発された。これは、上部にインレットチューブ111、下部に排尿管112が接続されたバッグ本体110に対し、排尿管112を囲むようにしてバルブ装置113を取り付けたものである。バルブ装置は、図13に示すように、排尿管を保持するケーシング114と、該ケーシングに支持された操作部115とを備えている。ケーシング114及び操作部115は、共にほぼ円形の皿状をなして相互に向き合って嵌め合わされ、ケーシング114に対し操作部115は回動可能に組み合わされる。ケーシング114及び操作部115は、排尿管112の下端を臨ませる開口部を各々下部に有している。操作部115は、開口部付近の上部に押圧片116、その下方にシャッタ117を備えている。操作部115の上端部には操作用のつまみ118が設けられ、ケーシング114にはこれに対応した位置に係止爪119が設けられている。
【0005】
このバルブ装置は、通常は、図13(a)に示すように、つまみ118を係止爪119に係止した状態とする。これにより、押圧片116が排尿管112を側方から押圧し、弾性変形させることにより閉鎖する。これと同時に、シャッタ117がケーシング下部の開口部を閉じ、排尿管の汚染を防止する。尿を排出する際は、図13(b)に示すように、つまみ118を係止爪119から外して操作部を回動する。これにより、シャッタ117が開口部を開くと共に、押圧片116が排尿管112の押圧を解除して開放し、バッグ本体内の尿が排出される。
【特許文献1】特開平9−201411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記バルブ装置を備えた採尿バッグは、排尿管の汚染防止と尿排出時の尿の飛び散りを防止し得るものであったが、バルブ装置は、ケーシングに対して操作部を回動する構造となっているため、寸法が大きくなるという欠点を有していた。すなわち、排尿管を変形させて開閉するには、押圧片116をある程度の範囲に亘って動作させる必要があり、その動作距離を得るためには、操作部の半径を大きくする必要があり、ケーシングはその操作部を収容するために、かなりの大きさとなる。さらに、つまみは操作部から径方向外方へ突出させる必要がある。その結果、バルブ装置全体の寸法が、径方向に大きくならざるを得なかった。
【0007】
採尿バッグは、通常はベッドサイドに吊り下げられるので、その限りではバルブ装置の大きさはさほど問題とならない。しかしながら、患者の動作によっては、採尿バッグが、ベッド上に引き上げられることもあり、特に病院での非監視時間帯や自宅での使用の際には、ベッド上に引き上げられた状態がそのまま続くこともある。このとき、バルブ装置を備えた採尿バッグは、バルブ装置部分が硬質であるので、その寸法が大きいと、患者への接触や身体下部への潜り込みにより、ベッド上の患者に痛みを与えたり、傷付けたりするという問題を生じるおそれがあった。
【0008】
したがって、本発明は、排尿管の汚染防止と尿排出時の尿の飛び散りを防止し得ると共に、ベッド上に引き上げられたときにも患者に痛みや傷を与えるおそれの少ない小さい寸法のバルブ装置、及び該バルブ装置を備えた採尿バッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記目的を達成するため、採尿バッグの尿排出部に取り付けられるバルブ装置であって、バッグ本体から延びる排尿管を保持し得るケーシングと、該ケーシング内の排尿管に対し該排尿管を横切る方向に摺動可能に該ケーシングに支持され、前進位置で前記ケーシングの内方へ移動し排尿管を径方向に弾性変形させて閉鎖し、後退位置で前記ケーシングから外方へ移動し排尿管の弾性変形を解除して開放し得るスライド部とを備えていることを特徴とする採尿バッグ用バルブ装置を提供するものである。
【0010】
本発明はまた、前記目的を達成するため、尿を収容するためのバッグ本体と、インレットチューブを該バッグ本体に接続する接続部と、前記バッグ本体から延び少なくとも一部に弾性変形可能な柔軟部分を有する排尿管と、前記バッグ本体に取り付けられた前記バルブ装置とを備えたことを特徴とする採尿バッグを提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る採尿バッグ用バルブは、ケーシング内に保持された排尿管に対し、スライド部が、該排尿管を横切る方向に摺動して排尿管の開閉を行なうように該ケーシングに支持されている。したがって、通常の使用時も尿排出時も排尿管をケーシング内に保持した状態とすることができ、排尿管の汚染を防止し、尿排出時の尿の飛び散りを防止することができる。そして、スライド部は、前進位置で前記ケーシングの内方へ移動し排尿管を径方向に弾性変形させて閉鎖し、後退位置で前記ケーシングから外方へ移動し排尿管の弾性変形を解除して開放することができる。このように、排尿管の開閉が、該排尿管を横切る方向に摺動するスライド部により行なわれ、閉鎖時にはケーシングの内方へ移動し、解放時にはケーシングから外方へ移動する構造となっているので、ケーシングはスライド部を摺動可能に支持していればよく、スライド部を内部に収容する大きさを有する必要がない。したがって、ケーシングを含めたバルブ装置全体の寸法を小さくすることができる。
【0012】
また、本発明に係る採尿バッグは、尿を収容するためのバッグ本体、インレットチューブを該バッグ本体に接続する接続部、及び、前記バッグから延び少なくとも一部に弾性変形可能な柔軟部分を有する排尿管に加えて、前記バルブ装置を備えているので、該バルブ装置の利点に基づき、排尿管の汚染を防止し、尿排出時の尿の飛び散りを防止することができ、しかも小型のバルブ装置故に、たとえベッド上に引き上げられた状態となっても、ベッド上の患者に痛みを与えたり、傷付けたりする危険性が低い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図面中の同一又は同種の部分については、同じ番号を付して説明を省略することがある。図1は、本発明の一実施形態に係るバルブ装置を備えた採尿バッグを示している。この採尿バッグは、尿を収容するためのバッグ本体1と、該バッグ本体に接続されたインレットチューブ2と、バッグ本体1から延び弾性変形可能で柔軟な排尿管3と、バッグ本体1に取り付けられたバルブ装置4と、バッグ本体の上端部に取り付けられた吊り下げ具5とを備えている。
【0014】
バッグ本体1は、透明又は半透明の樹脂シートで袋状に形成され、インレットチューブ2は、バッグ本体1上部の接続部2aから延び、先端部に尿道留置カテーテルを接続できるようになっている。排尿管3は、バッグ本体1の下部から延び下方へ曲折した樹脂製の短管の先端部にゴム製チューブを接続して形成されている。吊り下げ具5は、手指を掛けることができる枠体5aからフック5bが延び、該フック5bにより採尿バッグをベッドのフレームに吊り下げることができるようになっている。
【0015】
バルブ装置4は、図2,図3,図4に示されており、図2は後述するカバーを閉じた状態、図3はカバーを開いた状態、図4はカバーの一部を切欠いた状態であって、(a)は通常の使用状態、(b)は尿排出時の状態を示している。このバルブ装置4は、バッグ本体1に接着されたケーシング20と、該ケーシングに摺動可能に支持されたスライド部30とを備えている。
【0016】
ケーシング20は、平らな後壁21、該後壁の上端から延びる上壁22、後壁21の両側に位置する側壁23を備え、全体がほぼ直方体形状をなすケーシング本体20aと、該ケーシング本体20aの前面を覆うカバー20bとを備えている。カバー20bは、軸27により、上下方向に回動可能にケーシング本体20aに取り付けられ、ケーシング本体20aの前面に対して開閉可能となっている。後壁21には排尿管3をケーシング本体20a内に挿入するための切欠き部21a(図4)が形成され、一方の側壁23にはスライド部30を通すための窓23aが設けられている。両側の側壁の下端の間には開口部26が形成されている。また、挿入された排尿管を先端が下方に向く位置に保持するために、排尿管3の両側に平行に位置する保持壁24,25が後壁21から前方へ延びている。窓23aに近い側の保持壁24には、次に述べるスライド部の圧締部31及びシャッタ部32を各々通すための通孔24a,24bが形成され、通孔24aの上下近傍位置から排尿管側へ突片24c,24dが水平に延び、通孔24aの直ぐ下の位置から突片24eが窓23a側へ水平に延びている。さらに、保持壁24における通孔24aの上方には、窓23aに向かって延び、後述するようにスライド部30に係止する係止爪29が結合されている。窓23aから遠い側の保持壁25には、突片24c,24dにほぼ相当する高さの位置から排尿管側へ突片25a,25bが水平に延びている。
【0017】
スライド部30は、正面視においてU字状(U字を横に倒した形状)をなし、上部及び下部の平らな板状の水平壁が圧締部31及びシャッタ部32、これらを結合する縦壁が操作面33を各々形成している。圧締部31の上面には操作面33に近い位置に突起が形成され、係止爪29に対する係合部34となっている。スライド部30は、図4(a)及び(b)に示すように、窓23aに納まる前進位置と、窓23aから突出する後退位置とに摺動可能となっている。この摺動の際、圧締部31は、保持壁24の通孔24aを通り、その上下の突片24c,24d,24eによって水平方向に案内される。また、シャッタ部32は、この摺動の際、通孔24bを通る。
【0018】
排尿管3は、切欠き部21aからケーシング本体20a内に延び、保持壁24,25の間に位置する。そして、カバー20bが閉じられた状態において、排尿管3の下端は、開口部26に臨むように位置する。
【0019】
この採尿バッグは、次のようにして使用される。通常の使用状態(採尿時)では、カバー20bが閉じられ、スライド部30は図4(a)に示すように窓23aに納まるように押し込んだ前進位置とする。これにより、圧締部31の先端は排尿管3のゴム製チューブを押圧し弾性変形させて閉鎖する。また、シャッタ部32が開口部26の真上に位置して該開口部を閉じる。この実施形態においては、突片25a,25bの間の高さで圧締部31の先端が排尿管3を押圧するので、押圧力が集中し、排尿管3の閉鎖が確実となる。尤も、その閉鎖が確実に得られるのであれば、突片25a,25bを省略することも可能である。この状態で、係止爪29は係合部34に係合し、スライド部30は前進位置に保持される。
【0020】
次に、採尿バッグに蓄積した尿を排出する際は、窓23aから指を挿入して係止爪29を押し、係合部34との係合を解く。係止爪29は、窓23aから奥の位置に設けられることにより、係合部34との係合が誤って解かれるのが防止されている。この係合の解除により、排尿管3はゴム材の弾性により元の形状に戻って開放され、スライド部30は排尿管3の弾性力に押され、窓23aから突出した後退位置へ移動する。これと共に、シャッタ部32は開口部26の位置から外れて該開口部を開放する。これにより、バッグ本体1内の尿は、排尿管3を通じて下方へ排出される。排出が完了した後は、操作面33を押してスライド部30を再び前進位置に移動させれば、係止爪29はその弾性により係合部34に係合し、スライド部30は前進位置に保持され、採尿可能な状態となる。
【0021】
なお、排尿管3の清掃は、スライド部30を後退位置とし、カバー20bを開くことにより、容易に行なうことができる。また、圧締部31が板状となっているので、排尿管3の変形領域は、圧締部31の付近に限られた狭い範囲となっている。その結果、図4に一点鎖線で示すように、排尿管3の上部又は下部に抗菌剤を担持させた管Aを装着することもでき、これにより菌が排尿管3を通じてバッグ本体内に侵入するのを防止することができる。
【0022】
図5は、本発明の他の実施形態に係るバルブ装置に使用するスライド部の例を示している。このスライド部30’は、全体形状が先の例とほぼ同じであるが、圧締部31’は摺動方向に長く、そこに圧締孔310が形成されている。圧締孔310は、操作面33から遠い部分が排尿管3を通し得る径の円形部310aとなっており、操作面33に近い部分は排尿管3を両側から押し潰すように弾性変形させた厚さにほぼ等しい幅の直線部310bとされ、両部分の移行部は滑らかに変化している。
【0023】
図6は、図5に示したスライド部30’を備えたバルブ装置4’を、カバー20bの一部を切欠いて示しており、(a)は通常の使用状態、(b)は尿排出時の状態を示している。図5及び図6では、先の実施形態と同じ構造の部分に同じ部材番号を付し、異なる構造の部分は対応する部材番号に「’」(ダッシュ)を付して示す。この実施形態では、長い圧締部31’を通すため、窓23aから遠い側の保持壁25’及び側壁23’にも、圧締部31’の断面より僅かに大きい窓250,230が各々設けられている。また、先の実施形態に設けられていた突片25a,25bはなく、保持壁25’は平らになっている。
【0024】
図6に示す採尿バッグの使用方法は、先の実施形態とほぼ同様であり、通常の使用状態(採尿時)では、スライド部30’を、図6(a)に示すように前進位置とする。これにより、圧締部31’は、圧締孔310における直線部310bが排尿管3を受け入れる位置を取り、ゴム製チューブを両側部から押圧し弾性変形させて閉鎖する。この状態で、シャッタ部32が開口部26の真上に位置して該開口を閉じ、係止爪29は係合部34に係合してスライド部30’を前進位置に保持する。
【0025】
採尿バッグの尿を排出する際は、係止爪29を押して係合部34との係合を解くと共に、操作面33の上端部に指を掛けて、スライド部30’を引き出す。或いは、側壁23’から突出している圧締部31’の先端部をケーシング20内へ押し込むようにしてもよい。こうしてスライド部30’を移動させ、圧締孔310における円形部310aが排尿管3を受け入れる位置に至らしめる。これにより、排尿管3はゴム材の弾性により元の形状に戻って開放される。これと共に、シャッタ部32は開口部26の位置から外れて該開口部を開放し、バッグ本体1内の尿は、排尿管3を通じて排出される。排出が完了した後は、操作面33を押してスライド部30’を再び前進位置に移動させればよい。
【0026】
なお、図6の実施形態においては、スライド部30’には、排尿管3の弾性による後退方向への押し戻し力が作用しないので、前進位置での保持上、問題がなければ、係止爪29を省略することもできる。
【0027】
図7から図9は、本発明のさらに他の実施形態に係るバルブ装置4Aを示している。このバルブ装置4Aは、全体形状が先の例とほぼ同じであるが、スライド部に関する構造を異にする。このバルブ装置4Aにおいては、スライド部30Aが正面視においてE字状をなす。すなわち、操作面33を形成する縦壁からケーシング20側へ板状に延びる3個の水平壁が、上から順に第1圧締部35a、第2圧締部35b、シャッタ部35cを構成している。これらに対応して、保持壁24には通孔24f、24g、24hが形成されている。保持壁24は、第1圧締部35a及びシャッタ部35cの間に位置する部分において厚さを増して側壁23に達している。これにより、通孔24gは、水平方向に長く延びて第2圧締部35bをガイドし、スライド部30Aを水平方向に円滑に摺動させる。
【0028】
側壁23の窓23aから遠い側の保持壁25には、スライド部30Aが押し込まれたときに第1圧締部35aの先端部を受け入れる凹部25cが形成されている。また、保持壁24における通孔24fの上方には、窓23aに向かって延び側壁23外へ僅かに突出する係止爪29が結合されている。そして、第1圧締部35aの上面には操作面33に近い位置に突起が形成され、係止爪29の爪部29aに対する係合部34となっている。スライド部30Aは、図9(a)及び(b)に示すように、窓23aに納まる前進位置と、窓23aから突出する後退位置とに摺動可能である。
【0029】
この構造により、スライド部30Aが前進位置へ押し込まれると、第1圧締部35a及び第2圧締部35bが、各々排尿管3の中間部から下部を押圧し弾性変形させて閉鎖する。これにより、排尿管3は下部全体がほぼ平坦となるように変形する。バルブ装置閉鎖時に排尿管3が平坦状とならず、管下部が閉鎖前の状態に近い形状を維持していると、その部分に尿が残留し、バルブ装置から滴下する場合がある。しかし、この実施形態によれば、第1圧締部35a及び第2圧締部35bが排尿管3を平坦状に変形させるので、そのおそれがない。また、この実施形態においては、第1圧締部35aの先端と凹部25cとの間で排尿管3が押圧されるので、押圧力が集中し、排尿管3の閉鎖が確実となる。尤も、その閉鎖が確実に得られるのであれば、凹部25cを省略することも可能である。
【0030】
この押し込み状態で、係止爪29は係合部34に係合し、スライド部30Aは前進位置に保持される。採尿バッグに蓄積した尿を排出する際は、指で係止爪29をその弾性力に抗して持ち上げ、係合部34との係合を解けばよい。これにより、排尿管3は弾性により元の形状に戻って開放され、排尿管3に押されてスライド部30は後退位置へ移動し、シャッタ部35cは開口部26を開放する。
【0031】
この実施形態においてはさらに、バルブ閉鎖状態を保つための安全機構が設けられている。すなわち、窓23aの上部には、係止爪29と窓23a上縁との間に挿入可能な抑止部28が位置しており、該抑止部28は、窓23aにおける背面側において薄肉部により側壁23に結合され水平方向に回動可能となっている。したがって、図7に示すように、抑止部28を係止爪29と窓23a上縁との間に挿入した位置とすれば、抑止部28が係止爪29の上方を塞ぐので、係止爪29を持ち上げることはできない。バルブ装置4Aを開くには、図8に示すように、抑止部28を後方へ回動して係止爪29の上方位置から取り除き、その後に係止爪29を持ち上げるという操作をする必要がある。したがって、誤って係止爪29を持ち上げてしまったり、何らかの衝撃で係止爪29が上昇して、排尿管3が開放されて尿がこぼれ出るという問題が解消される。
【0032】
なお、このような安全機構は、スライド部30Aに設けられた係合部34に向かう弾性力をもって該係合部34に係合する係止爪29に対し、該係止爪が係合部34から離反する方向に移動するのを阻止するように抑止部を設けることにより、種々の形態で構成することができる。例えば、係止爪29の上方を塞ぐ位置と開放する位置とに摺動する部材で抑止部を構成することもできる。また、係止爪が押し下げにより係合部との係合を解く構造の場合は、係止爪とスライド部との間に進入して係止爪の押し下げを制止するように抑止部を設けることもできる。
【0033】
図10は、バルブ装置4Aと異なる形状のスライド部30Bを備えたバルブ装置4Bを示している。このスライド部30Bは、正面視において矩形枠状をなす。すなわち、操作面33を形成する縦壁の上端及び下端からケーシング20側へ板状に延びる水平壁が、上部圧締部36a及びシャッタ部36cを構成しており、これら上部圧締部36a及びシャッタ部36cの各先端部付近を相互に結合するように板状に延びる中間圧締部36bが設けられている。保持壁24は、スライド部30Bが位置する部分において厚さを増して側壁23に達しており、そこにスライド部30Bを受け入れる開口部24jが設けられ、該開口部24jは上部圧締部36a及びシャッタ部36cをガイドし、スライド部30Bを水平方向に円滑に摺動させる。
【0034】
側壁23の窓23aから遠い側の保持壁25には、スライド部30Aが押し込まれたときに上部圧締部36aの先端部を受け入れる凹部25cが形成されている。また、保持壁24における上記開口部の上方には、窓23aに向かって延び側壁23外へ僅かに突出する係止爪29が結合されている。そして、上部圧締部36aの上面には操作面33に近い位置に突起が形成され、係止爪29の爪部29aに対する係合部34となっている。スライド部30Bも、図10(a)及び(b)に示すように、窓23aに納まる前進位置と、窓23aから突出する後退位置とに摺動可能となっている。
【0035】
したがって、この構造においても、スライド部30Bが前進位置へ押し込まれると、上部圧締部36a及び中間圧締部36bが、各々排尿管3の上部及び中央部を押圧し弾性変形させて閉鎖する。これにより、排尿管3は下部全体がほぼ平坦となるように変形しするので、排尿管下部に尿が残留してバルブ装置から滴下するという問題を生じない。また、この実施形態においても先の実施形態と同様の抑止部28が設けられ、バルブ閉鎖状態を保つための安全機構となっている。
【0036】
図9及び図10についての説明から理解されるように、スライド部は、前進位置において排尿管の上下方向における中間位置から下端部に亘って平坦状に変形させるように先端の圧締部が形成されているのが望ましく、これにより、排尿管下部に尿が残留してバルブ装置から滴下するという問題の発生が回避される。このための圧締部の形状は、スライド部の上部から下部にかけて複数本の押圧部分を設けて各々の先端部で排尿管を圧締し、或いはスライド部の先端部に連続して延びる押圧部分を備え該部分で排尿管を圧締するもの等とすることができる。
【0037】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上記の実施形態においては、通常使用時にスライド部30が窓23a内に納まる構造となっていたが、寸法の大きさ等、使用上の問題がなければ、スライド部は、通常使用時にケーシングの内方へ移動した後に一部がケーシングから突出していてもよい。また、スライド部は、排尿管が延びる方向に対して垂直に進退動するのが望ましいが、排尿管の開閉が可能であれば、ある程度の傾斜をもつ等、排尿管を横切る方向に摺動可能となっていればよい。
【0038】
カバー20bは、ケーシング本体20aに対して、図示の実施形態のように回動により開閉可能に設けるほか、ガイド溝等によりスライド可能にしてもよいし、脱着可能な構造としてもよい。また、清掃を開口部等から行える場合は、必ずしも開閉可能なカバーを設けた構造とする必要はなく、一体構造のケーシングとしてもよい。
【0039】
ケーシングにおける排尿管の下方を開閉するためには、スライド部と共に移動するシャッタ部の他、スライド部と別個に設けたキャップとしてもよく、開放状態のままとすることが特に問題とならなければ、シャッタ部やキャップを省略してもよい。また、この排尿管下方部分を保護するために、図2及び図3に一点鎖線で示すように、カバーの下端部から後方へ曲折して延びる舌片26aを設け、これに開口部260を設けるようにしてもよい。
【0040】
スライド部を前進位置に保持するための係止部は、弾性的に変位する爪等の他、摺動部材や回動部材をケーシングに支持し、スライド部に係合させてその位置を保持する構造としてもよい。また、図6の例のように、スライド部が前進位置で後退方向に戻す力を受けない場合は、係止部を省略することもできる。
【0041】
排尿管は、全体が弾性変形可能である必要はなく、少なくとも、スライド部により閉鎖される部分が弾性変形可能であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係るバルブ装置を備えた採尿バッグの斜視図である。
【図2】図1に示したバルブ装置の斜視図であり、カバーを閉じた状態を示す。
【図3】図1に示したバルブ装置の斜視図であり、カバーを開いた状態を示す。
【図4】図1に示したバルブ装置についてカバーを一部切欠いて示す正面図であり、(a)は通常の使用状態、(b)は尿排出時の状態を示す。
【図5】本発明の他の実施形態に係るバルブ装置に使用するスライド部の斜視図である。
【図6】図5に示したスライド部を備えた本発明の他の実施形態に係るバルブ装置についてカバーを一部切欠いて示す正面図であり、(a)は通常の使用状態、(b)は尿排出時の状態を示す。
【図7】本発明のさらに他の実施形態に係るバルブ装置の斜視図であり、、カバーを閉じた状態を示す。
【図8】図7に示したバルブ装置の斜視図であり、カバーを開いた状態を示す。
【図9】図7に示したバルブ装置についてカバーを一部切欠いて示す正面図であり、(a)は通常の使用状態、(b)は尿排出時の状態を示す。
【図10】本発明のさらに他の実施形態に係るバルブ装置についてカバーを一部切欠いて示す正面図であり、(a)は通常の使用状態、(b)は尿排出時の状態を示す。
【図11】従来の採尿バッグの一例を示す斜視図である。
【図12】従来の採尿バッグの他の例を示す正面図である。
【図13】図12に示した従来の採尿バッグに使用されるバルブ装置についてカバーを一部切欠いて示す正面図であり、(a)は通常の使用状態、(b)は尿排出時の状態を示す。
【符号の説明】
【0043】
1 バッグ本体
2a 接続部
2 インレットチューブ
3 排尿管
4,4’,4A,4B バルブ装置
20 ケーシング
26,260 開口部
29 係止爪(係止部)
30,30’,30A,30B スライド部
31,31’ 圧締部
32,35c,36c シャッタ部
35a 第1圧締部
35b 第2圧締部
36a 上部圧締部
36b 中間圧締部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
採尿バッグの尿排出部に取り付けられるバルブ装置であって、バッグ本体から延びる排尿管を保持し得るケーシングと、該ケーシング内の排尿管に対し該排尿管を横切る方向に摺動可能に該ケーシングに支持され、前進位置で前記ケーシングの内方へ移動し排尿管を径方向に弾性変形させて閉鎖し、後退位置で前記ケーシングから外方へ移動し排尿管の弾性変形を解除して開放し得るスライド部とを備えていることを特徴とする採尿バッグ用バルブ装置。
【請求項2】
前記ケーシングに支持され前記スライド部を前記前進位置に解除可能に保持する係止部をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の採尿バッグ用バルブ装置。
【請求項3】
前記係止部が、前記ケーシングに支持されて弾性的に変位する爪を備え、前記スライド部が前進し排尿管を閉鎖する位置に至ったときに弾性力に基づき該スライド部に係止して該スライド部の位置を保持することを特徴とする請求項2に記載の採尿バッグ用バルブ装置。
【請求項4】
前記ケーシングが、排尿管の先端を臨ませ得る開口部を有し、前記スライド部は、圧締部とシャッタ部とを備え、該スライド部の前進時に前記圧締部が排尿管を弾性変形させて閉鎖すると共に前記シャッタ部が前記開口部を閉じ、後退時に前記圧締部が排尿管を開放すると共に前記シャッタ部が前記開口部を開くように、前記圧締部及びシャッタ部が配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の採尿バッグ用バルブ装置。
【請求項5】
前記ケーシングが、バッグ本体から延びる排尿管を挿入するための切欠き部を背面に有し、前面が開放され、排尿管を内部に保持し得るケーシング本体と、該ケーシング本体の前面を開閉自在に閉じるカバーとを備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の採尿バッグ用バルブ装置。
【請求項6】
尿を収容するためのバッグ本体と、インレットチューブを該バッグ本体に接続する接続部と、前記バッグ本体から延び少なくとも一部に弾性変形可能な柔軟部分を有する排尿管と、前記バッグ本体に取り付けられた請求項1から5のいずれかに記載のバルブ装置とを備えたことを特徴とする採尿バッグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−229312(P2008−229312A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238448(P2007−238448)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】