説明

採油用冶具及び油入電気機器の採油構造

【課題】油入電気機器との接続部分及び内部に気泡が残留しにくい採油用冶具を提供することにある。
【解決手段】絶縁油2が充填されている油入電気機器の容器1に設けられて横方向に延びる排油管3の開放側端部6に装着される冶具本体9と、冶具本体9内に形成された採油路12とからなる採油用冶具5を構成する。採油用冶具5は、排油管3内の管路3a及び採油路12の両方と連通するチャンバ13が、管路3aとの境界部及び内部に気泡が残留しない形状に形成され、採油路12をチャンバ13の頂上部13aから絶縁油を採油するように形成されて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁油が充填されている油入電気機器から絶縁油を採取するために用いられる採油用冶具及び油入電気機器の採油構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
絶縁油が充填されている変圧器等の油入電気機器では、充填された絶縁油中のガス成分を分析することにより、油入電気機器に異常が発生していないか否かの検査が行われている。この油中ガス分析を行うためには、油入電気機器の排油管の開放側端部に採油用冶具を取り付けて、機器から絶縁油を採油する作業が行われる。この採油の作業に用いられる従来の採油用冶具500は、図7に示すように、容器内に絶縁油502が充填されている油入電気機器の容器501に設けられて横方向に延びる排油管503の開放側端部507にフランジ517を介して装着される冶具本体509と、冶具本体内509に形成された採油路511とを備えている。排油管503の途中には、開閉操作可能な開閉バルブ504が配置されている。そして排油管503の管路の横断面積よりも小さい横断面積を有する採油路511を通して、油入電気機器から絶縁油を採油する構成となっている。この従来の採油用冶具500を用いて絶縁油を採油する場合は、油入電気機器の排油管503に採油用冶具500を取り付けた後に、排油管503内に溜まった空気を採油路511を通して採油用冶具500の外部に排出してから、絶縁油の採油を行う。絶縁油の採油を行う前に、排油管503内に溜まった空気を除去するのは、空気も油中ガス分析の対象となるため、排油管503に溜まっていた空気が採油した絶縁油に混入すると、正確な油中ガス分析ができなくなるおそれがあるからである。このような油入電気機器から絶縁油を採油する採油用冶具の一例は、特開平9−205720号公報に記載されている。
【特許文献1】特開平9−205720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、図7に示すように、従来の採油用冶具500では、油入電気機器の排油管503内または採油用冶具500内に溜まっていた空気が、排油管503と採油用冶具500との境界部に、気泡として残留することがある。そのため、従来の採油用冶具500を用いて絶縁油を採油する場合は、採油用冶具500と油入電気機器の排油管503との境界部に残留した気泡を採油前に完全に除去することができないことがあり、残留した気泡の一部または全部が採油した絶縁油に混入して、正確なガス分析が行われない場合があるという問題があった。
【0004】
本発明の目的は、油入電気機器との接続部分及び内部に気泡が残留しにくい採油用冶具を提供することにある。
【0005】
本発明の他の目的は、油入電気機器との接続部分及び内部に気泡が残留しにくい採油用冶具を用いた油入電気機器の採油構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が改良の対象とする採油用冶具は、容器内に絶縁油が充填されている油入電気機器の容器に設けられて横方向に延びる排油管の開放側端部に装着される冶具本体と、冶具本体内に形成された採油路とを備えている。本願明細書において、排油管は、油入電気機器の容器から絶縁油を油入電気機器の外部に排出するために油入電気機器のケースに取り付けられている管である。また、排油管の開放側端部とは、排油管が開放する側に位置し、後に詳しく説明する冶具本体が装着される排油管の端部である。また採油路は、冶具本体に設けられて採油するための絶縁油が流通する流路である。本発明では、冶具本体が、排油管内の管路及び採油路の両方と連通するチャンバを有している。このチャンバは、排油管の管路とチャンバとの境界部及びチャンバの内部に気泡が残留しない形状に形成されている。そして本発明では、採油路をチャンバの頂上部から絶縁油を採油するように形成する。本願明細書において、チャンバとは、冶具本体内に形成されて、排油管から絶縁油を採油路に導くための空間を意味する。
【0007】
採油用冶具をこのような構成にすると、チャンバが排油管の管路とチャンバとの境界部に気泡が残留しないようにすることができるため、絶縁油の採油を開始する前に、排油管内及び冶具本体内に空気が残留することがない。また空気の気泡は、絶縁油よりも比重が小さく、チャンバの上側に集まることになるため、チャンバの頂上部から絶縁油を採油するように採油路を冶具本体に形成することにより、チャンバの頂上部に集まる空気の気泡を確実に除去することができる。その結果、本発明の採油用冶具を用いると、採油した絶縁油に、排油管内及び冶具本体内の空気が混入するのを防ぐことでき、正確な油中ガス分析が可能になる。
【0008】
なお、チャンバの形状を定めるに当たっては、頂上部がチャンバ内に入った気泡が最終的に到達する領域部分になるようにするのが好ましい。チャンバの頂上部をこのような構成にすると、排油管内及び冶具本体内の空気を採油路を通して、絶縁油の採油を開始する前に確実に除去することができる。
【0009】
本発明の採油用冶具の排油管の開放側端部への取り付け態様は任意である。排油管の開放側端部に、閉塞用蓋部材が液密に取り付けられるフランジが設けられている場合には、このフランジに液密に取り付けられる被取付部を冶具本体に設けておけばよい。閉塞用蓋部材は、排油管の管路の端部を閉塞するための蓋部材であり、絶縁油の採油を行わないときに、フランジに取り付けられている。
【0010】
チャンバと排油管の管路との境界部に気泡が残留しないようにするためには、例えば、チャンバの形状を、冶具本体がフランジに取り付けられた状態で、開放側端部に向かって開口する開口部を有するように構成する。そしてチャンバの開口部の形状を、冶具本体が排油管のフランジに取り付けられた状態で排油管の管路の端部と開口部との間に、気泡が残留する段部を形成しないように定める。チャンバの開口部をこのような形状に定めると、排油管の管路の端部とチャンバの開口部との間に、気泡が残留する原因となる段部が存在しないため、絶縁油の採油中に排油管の管路の端部と開口部の端部との間に空気の気泡が残留して、採油した絶縁油に空気が混入するのを防ぐことができる。
【0011】
排油管の管路の端部とチャンバの開口部との間に、気泡が残留する段部を形成しないようにするためには、例えばチャンバの開口部の横断面形状を、排油管の管路の横断面形状と完全に同じ形状にして、両者を完全一致させるようにしてもよい。このようにすると、排油管の管路と冶具本体のチャンバの開口部との境界部に段差は生じないため、排油管の管路と冶具本体のチャンバの開口部との境界部に気泡が残留しないようにすることができる。しかしながら製造誤差や、組立誤差等もあるため、チャンバの開口部の横断面形状を排油管の管路の横断面形状よりも大きな形状とし、両者の中心を一致させるようにしてもよい。このようにすると、多少の誤差があっても、排油管の管路をチャンバの開口部と完全に対向させることができるので、排油管の管路と冶具本体のチャンバの開口部との境界部に、排油管側からチャンバ内に気泡が移動するのを妨害するような段部が形成されることはない。
【0012】
開口部を有するチャンバを構成するために、冶具本体には、開口部と対向する底壁部と該底壁部の外周縁部から開口部側に延びる環状の周壁部とを設ける。このようにすると底壁部の内面と周壁部の内周面とによって囲まれた空間がチャンバとなる。このようにチャンバを形成した場合においては、底壁部の中心から底壁部の内面に沿って垂直方向上側に延ばした仮想線と周壁部の内周面との交差位置に、採油路の内側端部を開口させるのが好ましい。前述の交差位置は、チャンバ内における絶縁油の流れの最下流位置である。したがって気泡も絶縁油と一緒に、この交差位置に向かって移動してくるので、気泡の排出をより確実なものとすることができる。なお、底壁部の内面の中心が底壁部の中心となっている。また、底壁部の中心から底壁部の内面に沿って垂直方向上側に延ばした仮想線は、後述する採油路の内側端部と底壁部との位置関係を特定するため便宜的に用いる仮想の線である。
【0013】
採油路を形成する場合には、採油路の内側端部を囲む管状の壁面の一部と、底壁部の内面とが面一になるか、または底壁部の内面の外縁部が管状の壁面の端部を横切るように、採油路の内側端部と底壁部との位置関係を定めるのが好ましい。採油路の内側端部を囲む管状の壁面の一部と底壁部の内面とが面一になるように、採油路の内側端部と底壁部との位置関係を定めると、内側端部を囲む管状の壁面の一部から底壁部の内面にかけて気泡が滞留する原因となる角部が形成されないため、冶具本体内に気泡が残留しないようにすることができる。また、底壁部の内面の外縁部が採油路の管状の壁面の端部を横切るように採油路の内側端部と底壁部との位置関係を定めると、採油路の内側端部が底壁部の一部によって部分的に塞がれた状態になり、採油路内に向かう角部が形成されるようになるが、このような角部は気泡が滞留する原因となる角部ではないため、この場合も冶具本体内に気泡が残留しないようにすることができる。
【0014】
なお、この採油路の内側端部が開口する開口部分の周囲の内面部分の形状は、採油路の内側端部が開口する開口部分の周囲で気泡が滞留しない形状にするのが好ましい。具体的には、周壁部の内周面のうち、採油路の内側端部が開口する開口部分の周囲の内面部分の形状を、開口部分に向かって収束するように傾斜または湾曲する形状にする。このようにすると、チャンバ内に入った気泡は、採油路の内側端部へとスムーズにガイドされ、採油路の内側端部が開口する開口部分の周囲に気泡が滞留することはない。
【0015】
また、周壁部の内周面の開口部分を除くその他の部分も、気泡が滞留する原因となる角部が形成されないように構成するのが好ましい。このような構成にすると、周壁部の内周面の開口部分を除くその他の部分にも気泡が残留しないようにすることができるため、絶縁油の採油を行う前に、排油管に溜まった空気の気泡を確実に外部に排出し除去することができる。
【0016】
なお、冶具本体は、透明または半透明な材料で形成してもよい。冶具本体をこのような材料で形成することにより、チャンバ内に気泡が残留していないか否かを外部から目視により確認することができるので、絶縁油の採油作業が容易になる。
【0017】
また、本発明が改良の対象とする油入電気機器の採油構造は、容器内に絶縁油が充填されている油入電気機器の容器に設けられて横方向に延びる排油管の開放側端部に、採油用冶具の冶具本体が装着され、冶具本体内に形成された採油路を通して排油管内の絶縁油を採油する構造となっている。本発明の油入電気機器の採油構造では、排油管の開放側端部に閉塞用蓋部材が液密に取り付けられるフランジを設け、冶具本体に、フランジに液密に取り付けられる被取付部を設け、採油冶具が排油管内の管路及び採油路の両方と連通するチャンバを有し、チャンバは冶具本体がフランジに取り付けられた状態で開放側端部に向かって開口する開口部を有し、チャンバの開口部の形状を、冶具本体がフランジに取り付けられた状態で排油管の管路の端部と開口部との間に、気泡が残留する段部を形成しないように定める。油入電気機器の採油構造をこのような構成にすると、上述した本発明の採油用冶具の場合と同様に、絶縁油の採油を開始する前に、排油管内に溜まった空気を採油路を通して外部に排出し除去することができる。
【0018】
また、冶具本体内に形成されて開口部と対向する底壁部と該底壁部の外周縁部から開口部側に延びる環状の周壁部とによって囲まれるようにチャンバを構成し、底壁部の中心から底壁部の内面に沿って垂直方向上側に延ばした仮想線と周壁部の内周面との交差位置に、採油路の内側端部が開口するように構成し、採油路の内側端部を囲む管状の壁面の一部と底壁部の内面とが面一になるか、または底壁部の内面が管状の壁面の端部を横切るように、採油路の内側端部と底壁部との位置関係を定める。油入電気機器の採油構造をさらにこのような構成にすると、上述した本発明の採油用冶具の場合と同様に、採油路の内側端部を囲む管状の壁面の一部と底壁部の内面とが面一になるように、採油路の内側端部と底壁部との位置関係を定めると、内側端部を囲む管状の壁面の一部から底壁部の内面にかけて気泡が滞留する原因となる角部が形成されないため、冶具本体内に気泡が残留しないようにすることができる。また、底壁部の内面が管状の壁面の端部を横切るように、採油路の内側端部と底壁部との位置関係を定めると、上述した本発明の採油用冶具の場合と同様に、底壁部の内面の全部または一部が、採油路の内側端部を囲む管状の壁面の一部よりも冶具本体のチャンバの開口部側に張り出すように角部が形成されるものの、この角部は気泡が滞留する原因となる角部ではないため、この場合も冶具本体内に気泡が残留しないようにすることができる。
【0019】
そして、周壁部の内周面のうち、採油路の内側端部が開口する開口部分の周囲の内面部分の形状を、開口部分に向かって収束するように傾斜または湾曲するように構成する。
【0020】
本発明により、採取する対象は絶縁油に限られるものではなく、冷却水等の絶縁油以外の流動体を採取の対象としても良いのはもちろんである。なお採取する対象を特に限定しない場合には、本発明は採液用冶具として特定される。すなわち被検査液が充填されている容器に設けられて横方向に延びる排液管の開放側端部に装着される冶具本体と、冶具本体内に形成された採液路とを備えて、採液路を通して被検査液を採取するために用いられる採液用冶具である。そして冶具本体は、排液管内の管路及び採液路の両方と連通するチャンバを有する。このチャンバは管路との境界部及び内部に気泡が残留しない形状に形成される。また採液路はチャンバの頂上部から被検査液を採取するように形成される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、排油管内の管路及び採油路の両方と連通するチャンバを有し、チャンバを管路との境界部及び内部に気泡が残留しない形状に形成し、採油路をチャンバの頂上部から絶縁油を採油するように形成するため、絶縁油の採油を開始する前に、排油管内に溜まった空気を採油路を通して外部に確実に排出して除去することができる。そのため、採油した絶縁油に空気が混入するのを防ぐことができ、正確な油中ガス分析が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の採油用冶具の実施の形態を油入電気機器に取り付けた状態を概略的に示す図である。図2(A)は、図1の一部を拡大して詳細に示す図であり、図2(B)は、図2(A)のA−A線断面図である。これらの図において、符号1で示した部材は油入変圧器等の油入電気機器の容器であり、容器1内には絶縁油2が充填されている。容器1の下側には、絶縁油2を容器1の外部に排出するための排油管3が横方向に延びるように容器1と一体に設けられている。排油管3には、絶縁油2の排出量を調整する開閉バルブ4が取り付けられている。絶縁油を採油するときは、この開閉バルブ4を開状態にして排油管3内を絶縁油が流れるようにする。絶縁油を採油しないときは、開閉バルブ4を閉状態にして排油管3内を絶縁油が流れないようにする。
【0023】
符号5で示した部材は、採油用冶具である。この採油用冶具5は、排油管3の開放側端部6に装着された冶具本体9と、冶具本体9内に形成された採油路12と、チャンバ13とを備えている。採油用冶具5の構造は、排油管3からチャンバ13に流れ込む絶縁油を採油路12を通して採油することができる構造になっている。図2に示すように、排油管3の開放側端部6には、円環状のフランジ7が設けられている。フランジ7には、周方向に90度の間隔をあけて4つのボルト挿入用貫通孔8が形成されている。そして冶具本体9は、フランジ7に液密に取り付けられる環状の被取付部10を備えている。被取付部10には、フランジ7に設けられたボルト挿入用貫通孔8に対応する4つのボルト挿入用貫通孔11が形成されている。
【0024】
そして、フランジ7に設けた4つのボルト挿入用貫通孔8と、被取付部10に設けられて4つのボルト挿入用貫通孔8と整列した4つのボルト挿入用貫通孔11とには、4本のボルト16が挿入され、ボルト16の螺子部にはナット18が螺合されて、採油用冶具5がフランジ7に装着されている。なお、絶縁油の採油を行わないときは、フランジ7には、金属製の閉塞用蓋部材が液密に取り付けられている。
【0025】
冶具本体9には、排油管3内の管路3a及び採油路12の両方と連通するチャンバ13が設けられている。このチャンバ13は、図2(B)に示すように横断面形状が円形をなす円柱状の空間として形成されている。チャンバ13は、排油管3の開放側端部6側に開口する開口部14を有している。この開口部14は、排油管3内の管路3aの横断面形状よりも大きな横断面形状を有しており、管路3aの周囲に位置するフランジ7の一部とも対向している。チャンバ13は、冶具本体9の一部を構成する底壁部19の内面19aと、この底壁部19の内面19aの外周縁部19bから開口部14側に延びる環状の周壁部21の内周面21aとによって囲まれている。底壁部19の内面19aは、開口部14と同様にほぼ円形の形状を有している。そして、底壁部19の中心19cから底壁部19の内面19aに沿って垂直方向上側に延ばした仮想線CLと周壁部21の内周面21aとの交差位置に、採油路12の内側端部12aが開口している。
【0026】
本実施の形態では、採油路12の内側端部12aを囲む管状の壁面12bの一部12cと底壁部19の内面19aとが面一になる(一致する)ように、採油路12の内側端部12aと底壁部19との位置関係が定められている。チャンバ13内に入った気泡は、上方に向かって移動し、その後チャンバ13の頂上部となる周壁部21の内周面の最も上方に位置する内周面部分に沿い且つ底壁部19の内面19aに向かって移動する。そして最終的に周壁部21の内周面21aと底壁部19の内面19aとによって形成される隅部に気泡は移動する。本実施の形態では、この隅部に向かって採油路12の内側端部12aが開口している。その結果、気泡はスムーズにチャンバ13内から採油路12内へと移動し、外部に排出される。このように本実施の形態によれば、チャンバ13の頂上部で且つ周壁部21の内周面21aと底壁部19の内面19aとの交差位置に、気泡が残留しないようにすることができる。
【0027】
前述のように、チャンバ13の開口部14の形状寸法は、冶具本体9がフランジ7に取り付けられた状態で排油管3の管路3aと開口部14との間に、気泡が残留する段部を形成しないように定められている。具体的には、図2(B)に示すように、開口部14の横断面形状は、排油管3(開放側端部6)の横断面形状よりも大きくなっている。その結果、チャンバ13の開口部14と排油管3の管路3aの端部3bとの間の境界部には、気泡が滞留するような角部が形成さることがなくなり、従来のように管路3a内に空気の気泡が滞留することが完全に無くなる。
【0028】
なお、図2(B)には、開口部14の横断面形状と排油管3の横断面形状との大きさを比較し易くするために、便宜的に排油管3及びその管路3aの形状を点線で示してある。
【0029】
本実施の形態の採油用冶具5は、チャンバ13の頂上部13aから絶縁油を採油するように採油路12の位置を定めており、チャンバ13の形状は頂上部13aに空気の気泡が集まりやすい構造となっている。すなわち、チャンバ13の頂上部13aは、チャンバ13内に入った気泡が最終的に到達する領域部分になる。この例では、図2(B)に示すように、チャンバの頂上部13aはチャンバ13と採油路12との境界部になるため、排油管内に溜まった空気の気泡をチャンバ13の頂上部13a(絶縁油を採油する部分)に集めることができ、集めた気泡を、絶縁油の採油を開始する前に採油路12を通して外部に排出し除去することができる。したがって、採油した絶縁油に空気が混入するのを防ぐことでき、油中ガス分析を正確に行うことができる。
【0030】
図1に示すように、採油路12には、ステンレス製のコネクタ23が液密に取り付けられている。このコネクタ23は、採油路12との間で気泡が滞留する角部が発生しないように冶具本体9に嵌合されている。そしてコネクタ23の冶具本体9と嵌合する側の端部23aと反対側の端部23bには、チューブ25が締め具27によって液密に取り付けられている。チューブ25がコネクタ23と嵌合する側のチューブ25の端部25aと反対の側のチューブ25の端部25bは、コニカルビーカ等の採油用容器29の底部に配置された状態で採油用容器29の内部に連通しており、採油した絶縁油は最終的に採油用容器29に収集されることになる。
【0031】
次に、本発明の他の実施の形態の一例について説明する。図3(A)は、他の実施の形態の採油用冶具の取り付け状態を示す断面図であり、図3(B)は、図3(A)のB−B線断面図である。図3においては、図2に示した部材と同様の部材に、図2に付した符号の数に100の数を加えた数の符号をそれぞれ付して、それらの説明を省略する(なお図2に示した仮想線CLに対応する仮想線の符号をCL′とする)。図3に示した実施の形態は、チャンバ113の横断面形状が排油管103の管路の横断面形状と完全に一致している点で、図2の実施の形態と相違する。チャンバ113の横断面形状を排油管103の管路103aの横断面形状とを同じにして、両者を完全に一致させれば、排油管103の管路103aとチャンバ113の開口部114との間に、気泡が滞留するような段部または角部が形成されることはない。但し、この実施の形態では、高い組立精度を必要とする。
【0032】
また、図4(A)は、さらに他の実施の形態の採油用冶具の取り付け状態を示す断面図であり、図4(B)は、図4(A)のC−C線断面図である。図4においては、図2に示した部材と同様の部材に、図2に付した符号の数に200の数を加えた数の符号をそれぞれ付して、それらの説明を省略する(なお図2に示した仮想線CLに対応する仮想線の符号をCL′′とする)。図4に示した実施の形態は、チャンバ213の開口部214の位置が排油管203の管路203aの位置よりも上にずれている点で、図3の実施の形態と相違する。しかしながら、この場合も排油管203の管路203aとチャンバ213の開口部214との間に、気泡が滞留するような段部または角部が形成されることはない。なお、この実施の形態では、排油管203の管路203aの位置に対してチャンバ213の開口部214の位置が下にずれない限り、気泡が滞留するような段部または角部が形成されることはないため、図3に示す採油用冶具ほど高い組立精度は必要としない。
【0033】
次に、本発明の実施の形態の採油用冶具を構成する冶具本体の他の例について説明する。図5は、本発明の実施の形態の採油用冶具を構成する冶具本体の他の例を示す図である。なお図5に示した冶具本体には、図2(A)に示した冶具本体9と同様の部分に、図2(A)に付した符号の数に300の数を加えた数の符号を付して、その説明を省略する。この冶具本体309では、底壁面319の内面319aの外縁部319a′が管状の壁面の端部312dを横切るように、採油路312の内側端部312aと底壁部319との位置関係が定められている。このような構成にすると、底壁部319の一部319′が、採油路312の内側端部312aを囲む管状の壁面312bの一部312cよりも冶具本体309のチャンバ313の開口部314側に張り出した状態になり、採油路312内に向かう角部319dが形成されるようになる。しかしながら、このような角部319dは気泡が滞留する原因となる角部ではないため、この場合も冶具本体309内に気泡が残留しないようにすることができる。なお、この例では、角部319dは、ちょうど底壁部319の中心319cに形成されている。しかし、角部319dが形成される位置は、底壁部319の中心319cの位置に限られるものではなく、気泡が滞留する原因となる角部とならない限り、底壁部319の中心319cよりも上側に形成してもよいし、底壁部319の中心319cよりも下側に形成してもよい。
【0034】
なお、図6は、本発明の実施の形態の採油用冶具を構成する冶具本体において、採油路の内側端部が開口する開口部分の周囲の内面部分の形状の他の例を示す図である。図6に示した冶具本体には、図2(B)に示した冶具本体9と同様の部分に、図2(B)に付した符号の数に400の数を加えた数の符号をそれぞれ付して、その説明を省略する。この図6に示す冶具本体では、周壁部421の内面421aのうち、採油路412の内側端部412aが開口する開口部分412bの周囲の内面部分412cの形状が、開口部分412bに向かって収束するように傾斜する形状になっている。このような形状にすると、チャンバ413内に入った気泡は、採油路412の内側端部412aへとスムーズにガイドされ、採油路412の内側端部412aが開口する開口部分412bの周囲に気泡が滞留することはない。なお、採油路の内側端部が開口する開口部分の周囲の内面部分の形状は、上述した傾斜する形状に限られるものではなく、採油路内に気泡が滞留することなく、採油路の内側端部に到達した気泡を内側端部が開口する開口部分にガイドすることができる形状であればどのような形状(例えば開口部分に向かって収束するように湾曲する形状等)にしても良いのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の採油用冶具の実施の形態を油入電気機器に取り付けられた状態を概略的に示す図である。
【図2】(A)は図1の一部を拡大して詳細に示す図であり、(B)は(A)のA−A線断面図である。
【図3】(A)は本発明の他の実施の形態の採油用冶具の取り付け状態を示す断面図であり、(B)は(A)のB−B線断面図である。
【図4】(A)は本発明のさらに他の実施の形態の採油用冶具の取り付け状態を示す断面図であり、(B)は(A)のC−C線断面図である。
【図5】本発明の実施の形態の採油用冶具を構成する冶具本体の他の例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態の採油用冶具を構成する冶具本体において、採油路の内側端部が開口する開口部分の周囲の内面部分の形状の他の例を示す図である。
【図7】本発明の従来技術である油入電気機器の採油構造を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 油入電気機器の容器
3 排油管
3a 管路
5 採油用冶具
6 開放側端部
7 フランジ
9 冶具本体
12 採油路
12a 内側端部
12b 管状の壁面
12c 管状の壁面の一部
13 チャンバ
13a 頂上部
14 開口部
19 底壁部
19a 内面
19b 外周縁部
19c 中心
21 周壁部
21a 周壁部の内周面
CL 仮想線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に絶縁油が充填されている油入電気機器の前記容器に設けられて横方向に延びる排油管の開放側端部に装着される冶具本体と、前記冶具本体内に形成された採油路とを備えて、前記採油路を通して前記絶縁油を採油するために用いられる採油用冶具であって、
前記冶具本体は前記排油管内の管路及び前記採油路の両方と連通するチャンバを有し、
前記チャンバは前記管路との境界部及び内部に気泡が残留しない形状に形成され、
前記採油路は前記チャンバの頂上部から前記絶縁油を採油するように形成されていることを特徴とする採油用冶具。
【請求項2】
前記チャンバの前記頂上部は、前記チャンバ内に入った気泡が最終的に到達する領域部分である請求項1に記載の採油用冶具。
【請求項3】
前記排油管の前記開放側端部には閉塞用蓋部材が液密に取り付けられるフランジが設けられており、
前記冶具本体には、前記フランジに液密に取り付けられる被取付部が設けられており、
前記チャンバは前記冶具本体が前記フランジに取り付けられた状態で前記開放側端部に向かって開口する開口部を有しており、
前記チャンバの前記開口部の形状は、前記冶具本体が前記フランジに取り付けられた状態で前記排油管の前記管路の端部と前記開口部との間に、前記気泡が残留する段部を形成しないように定められている請求項1または2に記載の採油用冶具。
【請求項4】
前記開口部の横断面形状は、前記排油管の横断面形状と同じか、それよりも大きな形状を有している請求項3に記載の採油用冶具。
【請求項5】
前記チャンバは、前記冶具本体内に形成されて前記開口部と対向する底壁部と該底壁部の外周縁部から前記開口部側に延びる環状の周壁部とによって囲まれて構成されており、
前記底壁部の中心から前記底壁部の内面に沿って垂直方向上側に延ばした仮想線と前記周壁部の内周面との交差位置に、前記採油路の内側端部が開口しており、
前記採油路の前記内側端部を囲む管状の壁面の一部と前記底壁部の前記内面とが面一になるか、または前記底壁部の前記内面の外縁部が前記管状の壁面の端部を横切るように、前記採油路の前記内側端部と前記底壁部との位置関係が定められていることを特徴とする請求項3または4に記載の採油用冶具。
【請求項6】
前記周壁部の前記内面のうち、前記採油路の前記内側端部が開口する開口部分の周囲の内面部分の形状は、前記開口部分に向かって収束するように傾斜または湾曲していることを特徴とする請求項5に記載の採油用冶具。
【請求項7】
前記周壁部の前記内周面の前記開口部分を除くその他の部分には、前記気泡が滞留する原因となる角部が形成されていないことを特徴とする請求項5または6に記載の採油用冶具。
【請求項8】
前記冶具本体が、透明または半透明な材料で形成されている請求項1に記載の採油用冶具。
【請求項9】
容器内に絶縁油が充填されている油入電気機器の前記容器に設けられて横方向に延びる排油管の開放側端部に、採油用冶具の冶具本体が装着され、前記冶具本体内に形成された採油路を通して前記排油管内の前記絶縁油を採油する油入電気機器の採油構造であって、
前記排油管の前記開放側端部には閉塞用蓋部材が液密に取り付けられるフランジが設けられており、
前記冶具本体には、前記フランジに液密に取り付けられる被取付部が設けられており、
前記採油冶具は、前記排油管内の管路及び前記採油路の両方と連通するチャンバを有し、
前記チャンバは前記冶具本体が前記フランジに取り付けられた状態で前記開放側端部に向かって開口する開口部を有しており、
前記チャンバの前記開口部の形状は、
前記冶具本体が前記フランジに取り付けられた状態で前記排油管の前記管路の端部と前記開口部との間に、前記気泡が残留する段部を形成しないように定められており、
前記チャンバは、前記冶具本体内に形成されて前記開口部と対向する底壁部と該底壁部の外周縁部から前記開口部側に延びる環状の周壁部とによって囲まれて構成されており、
前記底壁部の中心から前記底壁部の内面に沿って垂直方向上側に延ばした仮想線と前記周壁部の内周面との交差位置に、前記採油路の内側端部が開口しており、
前記採油路の前記内側端部を囲む管状の壁面の一部と前記底壁部の前記内面とが面一になるか、または前記底壁部の前記内面が前記管状の壁面の端部を横切るように、前記採油路の前記内側端部と前記底壁部との位置関係が定められており、
前記周壁部の前記内周面のうち、前記採油路の前記内側端部が開口する開口部分の周囲の内面部分の形状は、前記開口部分に向かって収束するように傾斜または湾曲していることを特徴とする油入電気機器の採油構造。
【請求項10】
被検査液が充填されている容器に設けられて横方向に延びる排液管の開放側端部に装着される冶具本体と、前記冶具本体内に形成された採液路とを備えて、前記採液路を通して前記被検査液を採取するために用いられる採液用冶具であって、
前記冶具本体は、前記排液管内の管路及び前記採液路の両方と連通するチャンバを有し、
前記チャンバは前記管路との境界部及び内部に気泡が残留しない形状に形成され、
前記採液路は前記チャンバの頂上部から前記被検査液を採取するように形成されていることを特徴とする採液用冶具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−303998(P2007−303998A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133940(P2006−133940)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000164483)株式会社キューヘン (15)
【Fターム(参考)】