接合方法
【課題】一対の金属部材を摩擦攪拌接合する際に、金属部材に発生する歪みを抑制するとともに、容易に作業を行うことができる接合方法を提供することを課題とする。
【解決手段】一対の金属部材1a,1b同士を突き合わせて形成された突合部J1に対して、表面A側から摩擦攪拌接合を行う第一摩擦攪拌工程と、裏面B側から摩擦攪拌接合を行う第二摩擦攪拌工程とを含み、第一摩擦攪拌工程と第二摩擦攪拌工程で形成された塑性化領域W1,W2を重複させる接合方法であって、第二摩擦攪拌工程を行う前に、突合部J1に対して裏面B側から溶接を行う溶接矯正工程を含むことを特徴とする。
【解決手段】一対の金属部材1a,1b同士を突き合わせて形成された突合部J1に対して、表面A側から摩擦攪拌接合を行う第一摩擦攪拌工程と、裏面B側から摩擦攪拌接合を行う第二摩擦攪拌工程とを含み、第一摩擦攪拌工程と第二摩擦攪拌工程で形成された塑性化領域W1,W2を重複させる接合方法であって、第二摩擦攪拌工程を行う前に、突合部J1に対して裏面B側から溶接を行う溶接矯正工程を含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌を利用した金属部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一対の金属部材同士を接合する方法として、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合は、回転させた回転ツールを金属部材同士の突合部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである。なお、回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部の下端面に攪拌ピン(プローブ)を突設してなるものが一般的である。
【0003】
一対の金属部材を突き合わせて形成された突合部に摩擦攪拌接合を行うと、摩擦攪拌によって形成された塑性化領域が熱収縮によって縮むため、接合された金属部材が凹状に反って歪んでしまうという問題がある(例えば、特許文献1参照)。かかる問題を解消するために、例えば、図12に示すように、回転ツールGを用いて金属部材101の表面101Aから摩擦攪拌接合を行った後、表裏を逆にして、裏面101Bからも摩擦攪拌を行って歪みを是正することが考えられる。かかる方法によれば、金属部材101の両面に形成された塑性化領域Wがそれぞれ熱収縮するため金属部材に発生する歪みを抑制することができるとも考えられる。
【特許文献1】特開2001−87871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、裏面101Bから摩擦攪拌接合を行う際には、金属部材101は上方(接合する側)に向けて凸状となるように反っているため、金属部材101に回転ツールGを一定の深さで押し込んで移動させることが困難となる。またこのように、金属部材が上方に向けて凸状に反っていると、回転ツールが深く挿入される可能性が高くなり、バリが大量に発生するとともに、摩擦攪拌装置に過負荷がかかるという問題が発生する。
【0005】
そこで、本発明は、一対の金属部材を摩擦攪拌接合する際に、金属部材に発生する歪みを抑制するとともに、容易に接合作業を行うことができる接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために本発明は、一対の金属部材同士を突き合わせて形成された突合部に対して、表面側から摩擦攪拌接合を行う第一摩擦攪拌工程と、裏面側から摩擦攪拌接合を行う第二摩擦攪拌工程とを含み、前記第一摩擦攪拌工程と前記第二摩擦攪拌工程で形成された塑性化領域を重複させる接合方法であって、前記第一摩擦攪拌工程を行った後に、前記突合部に対して前記裏面側から溶接を行う溶接矯正工程を含むことを特徴とする。
【0007】
かかる接合方法によれば、第一摩擦攪拌工程で金属部材が歪んだとしても、裏面側から摩擦攪拌接合を行う前に、裏面側に現れる突合部に対して溶接を行うことで金属部材の裏面側に熱収縮が発生し、金属部材に発生している歪みをある程度矯正することができる。これにより、金属部材が比較的平坦な状態で第二摩擦攪拌工程を行うことができるため、接合作業を容易に行うことができる。また、金属部材の表面側及び裏面側から摩擦攪拌接合を行うことで、金属部材に発生する歪みをバランスよく抑制することができる。また、両面に形成される塑性化領域を重複させることで、金属部材の気密性、水密性を高めることができる。
【0008】
また、前記溶接矯正工程では、さらに前記突合部に対して交差する方向に溶接を行うことが好ましい。かかる接合方法によれば、金属部材をバランスよく矯正することができる。
【0009】
また、第二摩擦攪拌工程では、前記溶接矯正工程によって前記突合部に対して肉盛りされた溶接金属を回転ツールのピンによって摩擦攪拌することが好ましい。かかる接合方法によれば、溶接矯正工程で形成された溶接金属が外部に露出するのを防ぐことができる。
【0010】
また、前記第一摩擦攪拌工程は、小型の回転ツールによって仮接合を行う仮接合工程と、当該仮接合工程で用いた回転ツールよりも大型の回転ツールを用いて本接合を行う本接合工程と、を含むことが好ましい。仮接合工程を行うことで、本接合工程の際に一対の金属部材が離間することを防止することができる。また、小型の回転ツールを用いることで比較的容易に仮接合の作業を行うことができる。
【0011】
また、前記第一摩擦攪拌工程の前に、前記突合部の両側に一対のタブ材を配置するタブ材配置工程と、前記タブ材と前記金属部材との突合部に沿って摩擦攪拌を行うタブ材仮接合工程と、を含むことが好ましい。
【0012】
かかる接合方法によれば、タブ材を用いることで摩擦攪拌作業の開始位置及び終了位置の設定が容易となる。また、摩擦攪拌接合の際に、タブ材と金属部材の離間を防止することができる。
【0013】
また、摩擦攪拌接合を行う回転ツールの挿入予定位置に予め下穴を形成する下穴形成工程を含むことが好ましい。かかる接合方法によれば、金属部材に回転ツールを押し込む際の圧入抵抗を軽減することができるため、摩擦攪拌接合の作業性を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる接合方法によれば、一対の金属部材を摩擦攪拌接合する際に、金属部材に発生する歪みを抑制するとともに、容易に接合作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の最良の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態では、図1に示すように、金属部材1a,1bを直線状に繋ぎ合せる場合を例にして説明する。まず、接合すべき金属部材1a,1bを詳細に説明するとともに、この金属部材1a,1bを接合する際に用いられる第一タブ材2、第二タブ材3を詳細に説明する。
【0016】
金属部材1a,1bは、断面視矩形を呈する板状部材であって、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金など摩擦攪拌可能な金属材料からなる。本実施形態では、一方の金属部材1a及び他方の金属部材1bを、同一組成の金属材料で形成している。金属部材1a,1bの形状・寸法に特に制限はないが、両部材が突き合わされる突合部J1における厚さ寸法を同一にすることが望ましい。なお、金属部材1a及び金属部材1bを突き合わせた金属部材を被接合金属部材1といい、被接合金属部材1の表面を表面A、裏面を裏面B、一方の側面を第一側面C及び他方の側面を第二側面Dともいう。
【0017】
第一タブ材2及び第二タブ材3は、被接合金属部材1の突合部J1を挟むように配置されるものであって、それぞれ、被接合金属部材1に添設され、被接合金属部材1の側面に現れる継ぎ目(境界線)を覆い隠す。第一タブ材2及び第二タブ材3の材質に特に制限はないが、本実施形態では、被接合金属部材1と同一組成の金属材料で形成している。また、第一タブ材2及び第二タブ材3の形状・寸法にも特に制限はないが、本実施形態では、その厚さ寸法を突合部J1における被接合金属部材1の厚さ寸法と同一にしている。
【0018】
次に、図2を参照して、仮接合に用いる回転ツール(以下、「仮接合用回転ツールF」という。)及び本接合に用いる回転ツール(以下、「本接合用回転ツールG」という。)を詳細に説明する。
【0019】
図2の(a)に示す仮接合用回転ツールFは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部F1と、このショルダ部F1の下端面F11に突設された攪拌ピン(プローブ)F2とを備えて構成されている。仮接合用回転ツールFの寸法・形状は、被接合金属部材1の材質や厚さ等に応じて設定すればよいが、少なくとも、後記する本接合用回転ツールG(図2の(b)参照)よりも小型にする。このようにすると、本接合よりも小さな負荷で仮接合を行うことが可能となるので、仮接合時に摩擦攪拌装置に掛かる負荷を低減することが可能となり、さらには、仮接合用回転ツールFの移動速度(送り速度)を本接合用回転ツールGの移動速度よりも高速にすることも可能になるので、仮接合に要する作業時間やコストを低減することが可能となる。
【0020】
ショルダ部F1の下端面F11は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。ショルダ部F1の外径X1の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、本接合用回転ツールGのショルダ部G1の外径Y1よりも小さくなっている。
【0021】
攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンF2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンF2の外径の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、最大外径(上端径)X2が本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Y2よりも小さく、かつ、最小外径(下端径)X3が攪拌ピンG2の最小外径(下端径)Y3よりも小さい。攪拌ピンF2の長さLAは、突合部J1における被接合金属部材1の厚さt(図1の(c)参照)の3〜15%とすることが望ましいが、少なくとも、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の長さLBよりも小さくすることが望ましい。
【0022】
図2の(b)に示す本接合用回転ツールGは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部G1と、このショルダ部G1の下端面G11に突設された攪拌ピン(プローブ)G2とを備えて構成されている。
【0023】
ショルダ部G1の下端面G11は、仮接合用回転ツールFと同様に、凹面状に成形されている。攪拌ピンG2は、ショルダ部G1の下端面G11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンG2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンG2の長さLBは、突合部J1における被接合金属部材1の肉厚t(図1の(c)参照)の1/2以上3/4以下となるように設定することが望ましく、より好適には、1.01≦2LB/t≦1.10という関係を満たすように設定することが望ましい。
【0024】
以下、本実施形態に係る接合方法を詳細に説明する。本実施形態に係る接合方法は、(1)準備工程、(2)予備工程、(3)第一摩擦攪拌工程、(4)溶接矯正工程、(5)第二摩擦攪拌工程を含むものである。なお、予備工程、第一摩擦攪拌工程は、被接合金属部材1の表面A側から実行される工程であり、溶接矯正工程、第二摩擦攪拌工程は、被接合金属部材1の裏面B側から実行される工程である。
【0025】
(1)準備工程
図1を参照して準備工程を説明する。準備工程では、接合すべき金属部材1a,1bを突き合せる突合工程と、突合工程で形成された被接合金属部材1の突合部J1の両側に第一タブ材2、第二タブ材3を配置するタブ材配置工程とを具備している。
【0026】
突合工程では、図1の(a)乃至(d)に示すように、一方の金属部材1aの端面11に他方の金属部材1bの端面11を密着させるとともに、一方の金属部材1aの表面12と他方の金属部材1bの表面12を面一にし、さらに、一方の金属部材1aの裏面13と他方の金属部材1bの裏面13を面一にする。また、一方の金属部材1aの側面14,14と他方の金属部材1bの側面14,14をそれぞれ面一にする。
【0027】
タブ材配置工程では、図1の(b)に示すように、金属部材1a,1bからなる被接合金属部材1の突合部J1の一端側に第一タブ材2を配置してその当接面21を被接合金属部材1の第二側面Dに当接させるとともに、突合部J1の他端側に第二タブ材3を配置してその当接面31を被接合金属部材1の第一側面Cに当接させる。このとき、図1の(d)に示すように、第一タブ材2の表面22と第二タブ材3の表面32を被接合金属部材1の表面Aと面一にするとともに、第一タブ材2の裏面23と第二タブ材3の裏面33を被接合金属部材1の裏面Bと面一にする。
【0028】
また、タブ材配置工程では、図1の(a)及び(b)に示すように、被接合金属部材1と第一タブ材2とにより形成された入隅部2a,2a(即ち、金属部材1a,1bの側面14と第一タブ材2の側面24とにより形成された角部)を溶接して被接合金属部材1と第一タブ材2とを接合し、被接合金属部材1と第二タブ材3とにより形成された入隅部3a,3a(即ち、金属部材1a,1bの側面14と第二タブ材3の側面34とにより形成された角部)を溶接して被接合金属部材1と第二タブ材3とを接合する。なお、各入隅部の全長に亘って連続して溶接を施してもよいし、断続して溶接を施してもよい。
【0029】
準備工程が終了したら、被接合金属部材1を図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の図示せぬ治具を用いて移動不能に拘束する。
【0030】
(2)予備工程
予備工程は、第一摩擦攪拌工程に先立って行われる工程であり、本実施形態では、被接合金属部材1と第一タブ材2との突合部J2を接合する第一タブ材接合工程と、被接合金属部材1の突合部J1を仮接合する仮接合工程と、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合部J3を接合する第二タブ材接合工程と、第一摩擦攪拌工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程とを具備している。
【0031】
本実施形態の予備工程では、図3に示すように、一の仮接合用回転ツールFを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、突合部J1,J2,J3に対して連続して摩擦攪拌を行う。即ち、摩擦攪拌の開始位置SPに挿入した仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)を途中で離脱させることなく終了位置EPまで移動させ、第一タブ材接合工程、仮接合工程及び第二タブ材接合工程を連続して実行する。なお、本実施形態では、第一タブ材2に摩擦攪拌の開始位置SPを設け、第二タブ材3に終了位置EPを設けているが、開始位置SPと終了位置EPの位置を限定する趣旨ではない。
【0032】
本実施形態の予備工程における摩擦攪拌の手順を図3を参照してより詳細に説明する。
まず、図3に示すように、第一タブ材2の適所に設けた開始位置SPの直上に仮接合用回転ツールFを位置させ、続いて、仮接合用回転ツールFを右回転させつつ下降させて攪拌ピンF2を開始位置SPに押し付ける。仮接合用回転ツールFの回転速度は、攪拌ピンF2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、500〜2000(rpm)の範囲内において設定される。
【0033】
攪拌ピンF2が第一タブ材2の表面22に接触すると、摩擦熱によって攪拌ピンF2の周囲にある金属が塑性流動化し、攪拌ピンF2が第一タブ材2に挿入される。仮接合用回転ツールFの挿入速度(下降速度)は、攪拌ピンF2の寸法・形状、開始位置SPが設けられる部材の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、30〜60(mm/分)の範囲内において設定される。
【0034】
攪拌ピンF2の全体が第一タブ材2に入り込み、かつ、ショルダ部F1の下端面F11の全面が第一タブ材2の表面22に接触したら、仮接合用回転ツールFを回転させつつ第一タブ材接合工程の始点s2に向けて相対移動させる。
【0035】
仮接合用回転ツールFの移動速度(送り速度)は、攪拌ピンF2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、100〜1000(mm/分)の範囲内において設定される。仮接合用回転ツールFの移動時の回転速度は、挿入時の回転速度と同じか、それよりも低速にする。なお、仮接合用回転ツールFを移動させる際には、ショルダ部F1の軸線を鉛直線に対して進行方向の後ろ側へ僅かに傾斜させてもよいが、傾斜させずに鉛直にすると、仮接合用回転ツールFの方向転換が容易となり、複雑な動きが可能となる。仮接合用回転ツールFを移動させると、その攪拌ピンF2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンF2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化する。
【0036】
仮接合用回転ツールFを相対移動させて第一タブ材接合工程の始点s2まで連続して摩擦攪拌を行ったら、始点s2で仮接合用回転ツールFを離脱させずにそのまま第一タブ材接合工程に移行する。
【0037】
第一タブ材接合工程では、第一タブ材2と被接合金属部材1との突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1と第一タブ材2の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールFを相対移動させることで、突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFを途中で離脱させることなく第一タブ材接合工程の始点s2から終点e2まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0038】
なお、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合には、仮接合用回転ツールFの進行方向の左側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、仮接合用回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材1が位置するように第一タブ材接合工程の始点s2と終点e2の位置を設定することが望ましい。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0039】
ちなみに、仮接合用回転ツールFを左回転させた場合には、仮接合用回転ツールFの進行方向の右側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、仮接合用回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材1が位置するように第一タブ材接合工程の始点と終点の位置を設定することが望ましい。具体的には、図示は省略するが、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の終点e2の位置に始点を設け、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の始点s2の位置に終点を設ければよい。
【0040】
仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2が突合部J2に入り込むと、被接合金属部材1と第一タブ材2とを引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材1と第一タブ材2により形成された入隅部2aを溶接により接合しているので、被接合金属部材1と第一タブ材2との間に目開きが発生することがない。
【0041】
仮接合用回転ツールFが第一タブ材接合工程の終点e2に達したら、終点e2で摩擦攪拌を終了させずに仮接合工程の始点s1まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま仮接合工程に移行する。即ち、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1まで仮接合用回転ツールFを離脱させずに摩擦攪拌を継続し、さらに、始点s1で仮接合用回転ツールFを離脱させることなく仮接合工程に移行する。このようにすると、第一タブ材接合工程の終点e2での仮接合用回転ツールFの離脱作業が不要となり、さらに、仮接合工程の始点s1での仮接合用回転ツールFの挿入作業が不要となることから、予備的な接合作業の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0042】
本実施形態では、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に至る摩擦攪拌のルートを第一タブ材2に設定し、仮接合用回転ツールFを第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に移動させる際の移動軌跡を第一タブ材2に形成する。このようにすると、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に至る工程中において、被接合金属部材1に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0043】
仮接合工程では、被接合金属部材1の突合部J1に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールFを相対移動させることで、突合部J1の全長に亘って連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFを途中で離脱させることなく仮接合工程の始点s1から終点e1まで連続して摩擦攪拌を行う。このようにすると、仮接合工程中における仮接合用回転ツールFの離脱作業が一切不要となることから、予備的な接合作業のより一層の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0044】
仮接合用回転ツールFが仮接合工程の終点e1に達したら、終点e1で摩擦攪拌を終了させずに第二タブ材接合工程の始点s3まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま第二タブ材接合工程に移行する。即ち、仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3まで仮接合用回転ツールFを離脱させずに摩擦攪拌を継続し、さらに、始点s3で仮接合用回転ツールFを離脱させることなく第二タブ材接合工程に移行する。このようにすると、仮接合工程の終点e1での仮接合用回転ツールFの離脱作業が不要となり、さらに、第二タブ材接合工程の始点s3での仮接合用回転ツールFの挿入作業が不要となることから、予備的な接合作業のより一層の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0045】
本実施形態では、仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に至る摩擦攪拌のルートを第二タブ材3に設定し、仮接合用回転ツールFを仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に移動させる際の移動軌跡を第二タブ材3に形成する。このようにすると、仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に至る工程中において、被接合金属部材1に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0046】
第二タブ材接合工程では、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合部J3に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1と第二タブ材3の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールFを相対移動させることで、突合部J3に対して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFを途中で離脱させることなく第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0047】
なお、仮接合用回転ツールFを右回転させているので、仮接合用回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材1が位置するように第二タブ材接合工程の始点s3と終点e3の位置を設定する。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。ちなみに、仮接合用回転ツールFを左回転させた場合には、仮接合用回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材1が位置するように第二タブ材接合工程の始点と終点の位置を設定することが望ましい。具体的には、図示は省略するが、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の終点e3の位置に始点を設け、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の始点s3の位置に終点を設ければよい。
【0048】
なお、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)が突合部J3に入り込むと、被接合金属部材1と第二タブ材3を引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材1と第二タブ材3の入隅部3aを溶接により仮接合しているので、被接合金属部材1と第二タブ材3との間に目開きが発生することがない。
【0049】
仮接合用回転ツールFが第二タブ材接合工程の終点e3に達したら、終点e3で摩擦攪拌を終了させずに、第二タブ材3に設けた終了位置EPまで連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、被接合金属部材1の表面A側に現れる継ぎ目(境界線)の延長線上に終了位置EPを設けている。ちなみに、終了位置EPは、後記する第一摩擦攪拌工程における摩擦攪拌の開始位置SM1でもある。
【0050】
仮接合用回転ツールFが終了位置EPに達したら、仮接合用回転ツールFを回転させつつ上昇させて攪拌ピンF2を終了位置EPから離脱させる。
【0051】
なお、仮接合用回転ツールFの離脱速度(上昇速度)は、攪拌ピンF2の寸法・形状、終了位置EPが設けられる部材の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、30〜60(mm/分)の範囲内において設定される。また、仮接合用回転ツールFの離脱時の回転速度は、移動時の回転速度と同じか、それよりも高速にする。
【0052】
続いて、下穴形成工程を実行する。下穴形成工程は、図2の(b)に示すように、第一摩擦攪拌工程における摩擦攪拌の開始位置SM1に下穴P1を形成する工程である。即ち、下穴形成工程は、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入予定位置に下穴P1を形成する工程である。
【0053】
下穴P1は、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入抵抗(圧入抵抗)を低減する目的で設けられるものであり、本実施形態では、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)を離脱させたときに形成される抜き穴H1を図示せぬドリルなどで拡径することで形成される。抜き穴H1を利用すれば、下穴P1の形成工程を簡略化することが可能となるので、作業時間を短縮することが可能となる。下穴P1の形態に特に制限はないが、本実施形態では、円筒状としている。なお、本実施形態では、第二タブ材3に下穴P1を形成しているが、下穴P1の位置に特に制限はなく、第一タブ材2に形成してもよいし、突合部J2,J3に形成してもよいが、好適には、本実施形態の如く被接合金属部材1の表面A側に現れる被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)の延長線上に形成することが望ましい。
【0054】
下穴P1の最大穴径Z1は、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Y2よりも小さくなっているが、好適には、攪拌ピンG2の最大外径Y2の50〜90%とすることが望ましい。なお、下穴P1の最大穴径Z1が攪拌ピンG2の最大外径Y2の50%を下回ると、攪拌ピンG2の圧入抵抗の低減度合いが低下する虞があり、また、下穴P1の最大穴径Z1が攪拌ピンG2の最大外径Y2の90%を上回ると、攪拌ピンG2による摩擦熱の発生量が少なくなって塑性流動化する領域が小さくなり、入熱量が減少するので、本接合用回転ツールGを移動させる際の負荷が大きくなり、欠陥が発生し易くなる。
【0055】
なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)の抜き穴H1を拡径して下穴P1とする場合を例示したが、攪拌ピンF2の最大外径X2が本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の最小外径Y3よりも大きく、かつ、攪拌ピンF2の最大外径X2が攪拌ピンG2の最大外径Y2よりも小さい(Y3<X2<Y2)場合などにおいては、攪拌ピンF2の抜き穴H1をそのまま下穴P1としてもよい。
【0056】
(3)第一摩擦攪拌工程
第一摩擦攪拌工程は、被接合金属部材1の突合部J1を表面A側から本格的に接合する工程である。本実施形態に係る第一摩擦攪拌工程では、図2の(b)に示す本接合用回転ツールGを使用し、仮接合された状態の突合部J1に対して被接合金属部材1の表面A側から摩擦攪拌を行う。
【0057】
第一摩擦攪拌工程では、図4の(a)〜(c)に示すように、開始位置SM1に形成した下穴P1に本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンG2を途中で離脱させることなく終了位置EM1まで移動させる。即ち、第一摩擦攪拌工程では、下穴P1から摩擦攪拌を開始し、終了位置EM1まで連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、第二タブ材3に摩擦攪拌の開始位置SM1を設け、第一タブ材2に終了位置EM1を設けているが、開始位置SM1と終了位置EM1の位置を限定する趣旨ではない。
【0058】
図4の(a)〜(c)を参照して第一摩擦攪拌工程をより詳細に説明する。
まず、図4の(a)に示すように、下穴P1(開始位置SM1)の直上に本接合用回転ツールGを位置させ、続いて、本接合用回転ツールGを右回転させつつ下降させて攪拌ピンG2の先端を下穴P1に挿入する。攪拌ピンG2を下穴P1に入り込ませると、攪拌ピンG2の周面(側面)が下穴P1の穴壁に当接し、穴壁から金属が塑性流動化する。このような状態になると、塑性流動化した金属を攪拌ピンG2の周面で押し退けながら、攪拌ピンG2が圧入されることになるので、圧入初期段階における圧入抵抗を低減することが可能となり、また、本接合用回転ツールGのショルダ部G1が第二タブ材3の表面32に当接する前に攪拌ピンG2が下穴P1の穴壁に当接して摩擦熱が発生するので、塑性流動化するまでの時間を短縮することが可能となる。つまり、摩擦攪拌装置の負荷を低減することが可能となり、加えて、本接合に要する作業時間を短縮することが可能となる。
【0059】
摩擦攪拌の開始位置SM1に本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入する際の本接合用回転ツールGの回転速度(挿入時の回転速度)は、攪拌ピンG2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであり、多くの場合、70〜700(rpm)の範囲内において設定されるが、開始位置SM1から摩擦攪拌の終了位置EM1に向かって本接合用回転ツールGを移動させる際の本接合用回転ツールGの回転速度(移動時の回転速度)よりも高速にすることが望ましい。このようにすると、挿入時の回転速度を移動時の回転速度と同じにした場合に比べて、金属を塑性流動化させるまでに要する時間が短くなるので、開始位置SM1における攪拌ピンG2の挿入作業を迅速に行うことが可能となる。
【0060】
攪拌ピンG2の全体が第二タブ材3に入り込み、かつ、ショルダ部G1の下端面G11の全面が第二タブ材3の表面32に接触したら、図4の(b)に示すように、摩擦攪拌を行いながら被接合金属部材1の突合部J1の一端に向けて本接合用回転ツールGを相対移動させ、さらに、突合部J3を横切らせて突合部J1に突入させる。本接合用回転ツールGを移動させると、その攪拌ピンG2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンG2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域W1(以下、「表面側塑性化領域W1」という。)が形成される。なお、塑性化領域とは、回転ツールの摩擦熱によって加熱されて現に塑性化している状態と、回転ツールが通り過ぎて常温に戻った状態の両方を含むこととする。
【0061】
本接合用回転ツールGの移動速度(送り速度)は、攪拌ピンG2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、30〜300(mm/分)の範囲内において設定される。なお、本接合用回転ツールGを移動させる際には、ショルダ部G1の軸線を鉛直線に対して進行方向の後ろ側へ僅かに傾斜させてもよいが、傾斜させずに鉛直にすると、本接合用回転ツールGの方向転換が容易となり、複雑な動きが可能となる。
【0062】
被接合金属部材1への入熱量が過大になる虞がある場合には、本接合用回転ツールGの周囲に表面A側から水を供給するなどして冷却することが望ましい。なお、被接合金属部材1の突合部J1間に冷却水が入り込むと、接合面に酸化皮膜を発生させる虞があるが、本実施形態においては、仮接合工程を実行して被接合金属部材1間の目地を閉塞しているので、被接合金属部材1の突合部J1に冷却水が入り込み難く、したがって、接合部の品質を劣化させる虞がない。
【0063】
被接合金属部材1の突合部J1では、被接合金属部材1の継ぎ目上(仮接合工程における移動軌跡上)に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って本接合用回転ツールGを相対移動させることで、突合部J1の一端から他端まで連続して摩擦攪拌を行う。突合部J1の他端まで本接合用回転ツールGを相対移動させたら、摩擦攪拌を行いながら突合部J2を横切らせ、そのまま終了位置EM1に向けて相対移動させる。
【0064】
なお、本実施形態では、被接合金属部材1の表面A側に現れる継ぎ目(境界線)の延長線上に摩擦攪拌の開始位置SM1を設定しているので、第一摩擦攪拌工程における摩擦攪拌のルートを一直線にすることができる。摩擦攪拌のルートを一直線にすると、本接合用回転ツールGの移動距離を最小限に抑えることができるので、第一摩擦攪拌工程を効率よく行うことが可能となり、さらには、本接合用回転ツールGの磨耗量を低減することが可能となる。
【0065】
本接合用回転ツールGが終了位置EM1に達したら、図4の(c)に示すように、本接合用回転ツールGを回転させつつ上昇させて攪拌ピンG2を終了位置EM1(図4の(b)参照)から離脱させる。なお、終了位置EM1において攪拌ピンG2を上方に離脱させると、攪拌ピンG2と略同形の抜き穴Q1が不可避的に形成されることになるが、本実施形態では、そのまま残置する。
【0066】
なお、本実施形態では、図4の(b)及び(c)に示すように、本接合用回転ツールGを右回転させて第一摩擦攪拌工程を行ったため、進行方向左側、即ち、金属部材1bにトンネル状の空洞欠陥(以下、トンネル状空洞欠陥Rとする)が形成される可能性がある。
【0067】
ちなみに、本接合用回転ツールGを左回転させると、進行方向右側にトンネル状空洞欠陥が形成される可能性がある。かかるトンネル状空洞欠陥Rなどの接合欠陥が被接合金属部材1に形成されると、被接合金属部材1の気密性及び水密性を低下させる原因となる。
【0068】
第一摩擦攪拌工程が終了したら、予備工程、第一摩擦攪拌工程における摩擦攪拌で発生したバリを除去し、図1の(a)に示す前後軸回りに被接合金属部材1を裏返し、裏面Bを上にする。
【0069】
(4)溶接矯正工程
図5は、第一摩擦攪拌工程を終了して被接合金属部材1の裏面Bを上方に向けて配置した斜視図である。図5に示すように、被接合金属部材1は、第一摩擦攪拌工程に係る摩擦攪拌接合によって、被接合金属部材1の裏面Bが上方に向けて凸状となるように歪んでいる。即ち、第一摩擦攪拌工程によって表面側塑性化領域W1(図4参照)が熱収縮するため、被接合金属部材1の表面Aに、表面Aの中央に向けて引張応力が発生し被接合金属部材1に反りが発生してしまう。
【0070】
そこで、溶接矯正工程では、被接合金属部材1の裏面Bに溶接を行うことにより、被接合金属部材1の歪みを矯正する。具体的には、溶接矯正工程では、図6に示すように、被接合金属部材1の裏面Bに現われる突合部J1に対して、MIG溶接又はTIG溶接などの肉盛溶接を行い、突合部J1に沿って溶接金属U1を形成する。また、本実施形態では、突合部J1に対して直交方向に対しても溶接を行って溶接金属U2乃至U4を形成する。このように、溶接矯正工程を行うことで、溶接金属U1乃至U4が熱収縮するため、被接合金属部材1の裏面B側にも引張応力が発生する。これにより、被接合金属部材1の反りがある程度矯正される。
【0071】
なお、本実施形態に係る溶接矯正工程では、裏面Bに現れる突合部J1に対して、肉盛溶接を行っているが、ビードオンの状態によっては反りの矯正が十分でない可能性がある。そこで、第一摩擦攪拌工程を行う前に、予め裏面Bに現れる突合部J1に沿って凹溝(図示省略)を形成しておくとよい。凹溝を形成することにより、溶接矯正工程において、溶接金属が凹溝に充填され、凹溝の内面と溶接金属との接触面積が確保され、溶接金属の熱が被接合金属部材1に確実に伝達されて十分な反りの矯正が可能となる。
【0072】
本実施形態に係る溶接矯正工程では、被接合金属部材1の中央に形成される溶接金属U2を、溶接金属U2の両脇の溶接金属U3,U4よりも長く形成した。このように、被接合金属部材1の形状等を加味して溶接を行うことで、バランスよく反りを矯正することが好ましい。また、溶接金属U1乃至U4が断続的に形成されるように溶接矯正工程を行ってもよい。また、溶接金属U2乃至U4は、本実施形態のように必ずしも突合部J1を横断するように形成しなくてもよい。
【0073】
なお、突合部J1に対して直交方向に行う肉盛溶接は、溶接箇所、溶接本数について特に制限を受けるものではないが、被接合金属部材1の反りが抑制されるようにバランスよく肉盛溶接を行うことが好ましい。即ち、後に行う第二摩擦攪拌工程で形成される塑性化領域によって発生する熱収縮も考慮に入れつつ、溶接矯正の範囲(溶接量)を設定すればよい。また、溶接の種類は限定するものではなく、公知の溶接の中から適宜採用すればよい。
(5)第二摩擦攪拌工程
第二摩擦攪拌工程は、被接合金属部材1の突合部J1を裏面B側から本格的に接合する工程である。本実施形態に係る第二摩擦攪拌工程では、図7の(a)に示すように、本接合用回転ツールGを使用し、突合部J1に対して摩擦攪拌接合を行う。なお、具体的な図示はしないが、第二摩擦攪拌工程に先だって、第二タブ材3に設定する開始位置SM2には、予め下穴を形成しておくことが好ましい。
【0074】
第二摩擦攪拌工程では、第二タブ材3に設けた下穴(開始位置SM2)に右回転させた本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンG2を途中で離脱させることなく第一タブ材2に設けた終了位置EM2まで移動させる。
【0075】
本接合用回転ツールGを移動させると、その攪拌ピンG2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンG2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域W2(以下、「裏面側塑性化領域W2」という。)が形成される。図7の(b)に示すように、第二摩擦攪拌工程では、表面側塑性化領域W1の先端と、裏面側塑性化領域W2の先端とが重複するように本接合用回転ツールGの押し込み量を設定するのが好ましい。これにより、突合部J1の深さ方向全てを摩擦攪拌することができ、気密性及び水密性を高めることができる。第二摩擦攪拌工程においては、本接合用回転ツールGを右回転させて、被接合金属部材1の第一側面C側から第二側面D側に向けて摩擦攪拌を行うため、進行方向右側、即ち、金属部材1b側は、比較的高密度に塑性化される。
【0076】
なお、第二摩擦攪拌工程で形成される裏面側塑性化領域W2によっても、熱収縮が起こるため被接合金属部材1の裏面B側に引張応力が発生する。したがって、第二摩擦攪拌工程では、先に行った溶接矯正工程で発生する熱収縮も考慮しつつ本接合用回転ツールGの押込み量等を設定することが好ましい。
【0077】
また、前記した工程を行った場合であっても、被接合金属部材1のいずれかの面側に凸となるように反って歪んでしまった場合、以下に示す矯正工程を行って被接合金属部材1を平坦にすることが好ましい。本実施形態では、例えば、被接合金属部材1の表面A側に凸となるように反って歪んでしまった場合を例にして説明する。
【0078】
矯正工程では、被接合金属部材1の表面Aから、被接合金属部材1の裏面B側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させて、前記した摩擦攪拌工程により形成された被接合金属部材1の反りを矯正する。矯正工程では、以下に記すプレス矯正、衝打矯正及びロール矯正の三種類の方法からいずれか一以上の方法を選択して行えばよい。まず、プレス矯正について説明する。
【0079】
<プレス矯正>
前記した第二摩擦攪拌工程が終了したら、摩擦攪拌で発生したバリを除去するとともに、図8に示すように、被接合金属部材1の表面Aが上方を向くように裏返し、表面Aの中央付近に板状の第一補助部材T1を配置する。さらに、被接合金属部材1の裏面B側の四隅に、板状の第二補助部材T2,T2及び第三補助部材T3,T3を配置する。即ち、第二補助部材T2、第三補助部材T3は、第一補助部材T1を挟んで両側に配置される。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、プレス矯正を行う際の当て材又は台座となる部材であるとともに、被接合金属部材1が傷つかないようにするための部材である。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、被接合金属部材1よりも軟質の材料であればよく、例えば、アルミニウム合金、硬質ゴム、プラスチック、木材を用いることができる。なお、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、被接合金属部材1の力学特性や反りの曲率に応じて、反りとは反対側に撓ませて反りを矯正するのに十分な厚みで設定すればよい。
【0080】
各補助部材を配置したら、図9の(a)及び(b)に示すように、公知のプレス装置Kを用いて、被接合金属部材1の表面Aから押圧する。即ち、第一補助部材T1にプレス装置KのポンチKaを押し当て、所定の押圧力で押圧する。プレス装置Kによって被接合金属部材1に圧力が加えられると、図9の(a)及び(b)に示すように、第一補助部材T1が被接合金属部材1を下側に押し、第二補助部材T2及び第三補助部材T3が被接合金属部材1の両端側を上側に押すため、被接合金属部材1には曲げモーメントが作用する。この曲げモーメントは被接合金属部材1の裏面B側に引張応力を発生させるため、被接合金属部材1が強制的に下側に凸に撓ませられる。
【0081】
プレス装置の押圧力は、被接合金属部材1の厚みや材料によって適宜設定すればよいが、図9の(b)に示すように、被接合金属部材1の裏面B側が下に凸となって、裏面Bに引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることが好ましい。
【0082】
また、本実施形態では、図10に示すように、中心地点jだけでなく被接合金属部材1の表面A側の四辺の中点である地点b、地点d、地点e及び地点g付近に対しても押圧を行う。即ち、被接合金属部材1の表面Aにかかる各辺の中間地点である地点b、地点d、地点e及び地点gを含んだ位置H2〜H5に第一補助部材T1を配置して、プレス装置Kによって押圧を行う。これにより、被接合金属部材1をバランスよく矯正でき、平坦性をより高めることができる。
【0083】
なお、プレスする位置は、本実施形態では5箇所に設定したが、これに限定されるものではなく、接合工程によって生じる被接合金属部材1の反りに応じて適宜設定すればよい。
【0084】
<衝打矯正>
次に、衝打矯正について説明する。衝打矯正については、プレス矯正と近似するため、
具体的な図示は省略する。衝打矯正とは、例えばハンマーなどの衝打具を用いて被接合金属部材1を衝打して、被接合金属部材1に発生した反りを矯正することをいう。衝打矯正は、プレス装置Kに替えてハンマーなどの衝打具で被接合金属部材1を衝打する点を除いては、プレス矯正と略同等である。
【0085】
衝打矯正では、プレス矯正と同様に補助部材を配置した後、図9及び図10を参照するように、被接合金属部材1の表面Aから例えばプラスチックハンマー等の衝打具で被接合金属部材1を衝打する。被接合金属部材1を衝打すると、被接合金属部材1の裏面B側に引張応力を発生させるため、被接合金属部材1が強制的に下側に凸に撓ませられる(図9の(b)参照)。これにより、被接合金属部材1の反りを矯正して平坦にすることができる。また、プレス矯正と同様に、必要に応じて被接合金属部材1の表面Aの位置H2〜H5を衝打することで、被接合金属部材1をバランスよく矯正することができる。
【0086】
衝打矯正は、プレス矯正と比べると、プレス装置等を準備する手間が省けるため、作業を容易に行うことができる。また、衝打矯正は、作業が容易であるため被接合金属部材1が小さい場合や薄い場合に有効である。なお、衝打矯正を終了した後は、衝打により発生したバリを除去することが好ましい。また、衝打具は、被接合金属部材1を衝打可能なものであれば、特に種類を問わないが、例えばプラスチックハンマーが好ましい。
【0087】
<ロール矯正>
次に、ロール矯正について説明する。前記した摩擦攪拌工程が終了したら、図11の(a)に示すように、摩擦攪拌で発生したバリを除去するとともに、被接合金属部材1の表面Aが上方を向くように裏返し、表面Aの中心地点j(図10参照)を含んで縦方向と平行になるように長板形状の第一補助部材T1を配置する。さらに、被接合金属部材1の裏面B側の縁部において縦方向と平行になるように、長板形状の第二補助部材T2及び第三補助部材T3を配置する。即ち、第二補助部材T2、第三補助部材T3は、第一補助部材T1を挟んで両側に配置される。
【0088】
そして、第一補助部材T1の上側に、第一補助部材T1と直交するようにロールR1を配置し、第二補助部材T2及び第三補助部材T3の下側に第二補助部材T2及び第三補助部材T3と直交するようにロールR2を配置する。つまり、被接合金属部材1は、図11の(b)に示すように、上側に凸の状態でロールR1,R2の間に配置され、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3を介してロールR1,R2に狭持される。
【0089】
第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、ロール矯正を行う際の当て材であるとともに、被接合金属部材1が傷つかないようにするための部材である。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、被接合金属部材1よりも軟質の材料であればよく、例えば、アルミニウム合金、硬質ゴム、プラスチック、木材を用いることができる。
【0090】
ここで、ロールR1,R2が互いに近づいて被接合金属部材1に圧力を加えると、図11の(b)及び(c)に示すように、第一補助部材T1が被接合金属部材1を下側に押し、第二補助部材T2及び第三補助部材T3が被接合金属部材1の両端側を上側に押すため、被接合金属部材1には曲げモーメントが作用する。この曲げモーメントは被接合金属部材1の裏面B側に引張応力を発生させるため、被接合金属部材1が強制的に下側に凸に撓ませられる。
【0091】
また、図11の(a)に示すように、ロールR1が矢印α方向に回転するとともに、ロールR2が矢印β方向に回転すると、ロールR1,R2は被接合金属部材1に対して矢印γ方向(ロール送り方向)に相対的に移動する。また、ロールR1が矢印β方向に回転するとともにロールR2が矢印α方向に回転すると、ロールR1,R2は被接合金属部材1に対して矢印δ方向(ロール送り方向)に相対的に移動する。
【0092】
したがって、被接合金属部材1に作用する曲げモーメントの位置が、その相対的な移動に伴って遷移していくため、被接合金属部材1の全体が強制的に下側に凸に撓まされる。そのため、この相対的な移動を繰り返して往復動させることによって、反りを矯正していくことが可能になる。なお、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、被接合金属部材1の力学特性や反りの曲率に応じて、反りとは反対側に撓ませて反りを矯正するのに十分な厚みで設定すればよい。
【0093】
また、被接合金属部材1の縦方向にロールR1,R2を回転させて矯正工程を行なった後、横方向にロールR1,R2を回転させてもよい。即ち、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3を横方向と平行になるように配置するとともに、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3に対して直交するようにロールR1,R2を配置する。そして、ロールR1,R2を横方向に往復動させる。これにより、被接合金属部材1をバランスよく矯正することができる。
【0094】
また、ここでは、被接合金属部材1の表面Aを上にして、歪矯正工程を行うものとして説明したが、裏返さずに裏面Bを上にして歪矯正工程を行うようにしてもよい。この場合、前記した各構成部品は、表裏対称に表れるため、説明を省略する。
【0095】
以上説明した本実施形態によれば、裏面B側から摩擦攪拌接合を行う前に、裏面B側に現れる突合部J1に対して溶接を行うことで、被接合金属部材1の裏面Bに熱収縮が発生し、被接合金属部材1に発生している歪みをある程度矯正することができる。これにより、被接合金属部材1が比較的平坦な状態で第二摩擦攪拌工程を行うことができるため、本接合用回転ツールGの押し込み量の調節等を容易に行うことができ、高品質な接合を行うことができる。また、本実施形態によれば、バリの大量発生や摩擦攪拌装置に作用する過負荷を防止することができる。
【0096】
また、前記した矯正工程を行うことで、第一摩擦攪拌工程、溶接矯正工程及び第二摩擦攪拌工程で発生した被接合金属部材1の歪みを矯正して平坦な部材を形成することができる。
【0097】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変更が可能である。例えば、本実施形態では、第一摩擦攪拌工程と第二摩擦攪拌工程で同じ本接合用回転ツールGを用いたが、それぞれ異なる回転ツールを用いてもよい。即ち、被接合金属部材1の表面A側から行う第一摩擦攪拌工程、裏面B側から行う溶接矯正工程及び第二摩擦攪拌工程でそれぞれ発生する熱収縮を考慮しながら各工程を行うことで、被接合金属部材1の歪みを極力小さくすることができる。
【0098】
また、表面側塑性化領域W1に形成されるトンネル状空洞欠陥を封入するように、第二摩擦攪拌工程の回転ツールの大きさや押込み量を適宜設定してもよい。これにより、より気密性及び水密性の高い被接合金属部材1を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本実施形態に係る金属部材、第一タブ材、第二タブ材の配置を説明するための図であって、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は(b)のI−I線断面図、(d)は(b)のII−II線断面図である。
【図2】(a)は仮接合用回転ツールを説明するための側面図、(b)は本接合用回転ツールを説明するための側面図である。
【図3】本実施形態に係る第一タブ材接合工程、仮接合工程、第二タブ材接合工程を説明するための平面図である。
【図4】(a)、(b)及び(c)は、本実施形態に係る第一摩擦攪拌工程を説明するための図3のIII−III線断面図である。
【図5】第一摩擦攪拌工程を終了して被接合金属部材の裏面を上方に向けて配置した斜視図である。
【図6】本実施形態に係る溶接矯正工程を示した斜視図である。
【図7】本実施形態に係る第二摩擦攪拌工程を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は、断面図である。
【図8】本実施形態に係るプレス矯正を示した斜視図である。
【図9】(a)は、プレス矯正の矯正前、(b)は、矯正中を示した断面図である。
【図10】本実施形態に係るプレス矯正を説明するための被接合金属部材の平面図である。
【図11】本実施形態に係るロール矯正を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は、矯正前の断面図、(c)は、矯正中の断面図である。
【図12】従来の摩擦攪拌接合を示した断面図である。
【符号の説明】
【0100】
1 接合金属部材
1a 金属部材
1b 金属部材
2 第一タブ材
3 第二タブ材
J1〜J3 突合部
A 表面
B 裏面
C 第一側面
D 第二側面
F 仮接合用回転ツール
F1 ショルダ部
F2 攪拌ピン
G 本接合用回転ツール
G1 ショルダ部
G2 攪拌ピン
U1〜U4 溶接金属
W1,W2 塑性化領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌を利用した金属部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一対の金属部材同士を接合する方法として、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合は、回転させた回転ツールを金属部材同士の突合部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである。なお、回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部の下端面に攪拌ピン(プローブ)を突設してなるものが一般的である。
【0003】
一対の金属部材を突き合わせて形成された突合部に摩擦攪拌接合を行うと、摩擦攪拌によって形成された塑性化領域が熱収縮によって縮むため、接合された金属部材が凹状に反って歪んでしまうという問題がある(例えば、特許文献1参照)。かかる問題を解消するために、例えば、図12に示すように、回転ツールGを用いて金属部材101の表面101Aから摩擦攪拌接合を行った後、表裏を逆にして、裏面101Bからも摩擦攪拌を行って歪みを是正することが考えられる。かかる方法によれば、金属部材101の両面に形成された塑性化領域Wがそれぞれ熱収縮するため金属部材に発生する歪みを抑制することができるとも考えられる。
【特許文献1】特開2001−87871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、裏面101Bから摩擦攪拌接合を行う際には、金属部材101は上方(接合する側)に向けて凸状となるように反っているため、金属部材101に回転ツールGを一定の深さで押し込んで移動させることが困難となる。またこのように、金属部材が上方に向けて凸状に反っていると、回転ツールが深く挿入される可能性が高くなり、バリが大量に発生するとともに、摩擦攪拌装置に過負荷がかかるという問題が発生する。
【0005】
そこで、本発明は、一対の金属部材を摩擦攪拌接合する際に、金属部材に発生する歪みを抑制するとともに、容易に接合作業を行うことができる接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために本発明は、一対の金属部材同士を突き合わせて形成された突合部に対して、表面側から摩擦攪拌接合を行う第一摩擦攪拌工程と、裏面側から摩擦攪拌接合を行う第二摩擦攪拌工程とを含み、前記第一摩擦攪拌工程と前記第二摩擦攪拌工程で形成された塑性化領域を重複させる接合方法であって、前記第一摩擦攪拌工程を行った後に、前記突合部に対して前記裏面側から溶接を行う溶接矯正工程を含むことを特徴とする。
【0007】
かかる接合方法によれば、第一摩擦攪拌工程で金属部材が歪んだとしても、裏面側から摩擦攪拌接合を行う前に、裏面側に現れる突合部に対して溶接を行うことで金属部材の裏面側に熱収縮が発生し、金属部材に発生している歪みをある程度矯正することができる。これにより、金属部材が比較的平坦な状態で第二摩擦攪拌工程を行うことができるため、接合作業を容易に行うことができる。また、金属部材の表面側及び裏面側から摩擦攪拌接合を行うことで、金属部材に発生する歪みをバランスよく抑制することができる。また、両面に形成される塑性化領域を重複させることで、金属部材の気密性、水密性を高めることができる。
【0008】
また、前記溶接矯正工程では、さらに前記突合部に対して交差する方向に溶接を行うことが好ましい。かかる接合方法によれば、金属部材をバランスよく矯正することができる。
【0009】
また、第二摩擦攪拌工程では、前記溶接矯正工程によって前記突合部に対して肉盛りされた溶接金属を回転ツールのピンによって摩擦攪拌することが好ましい。かかる接合方法によれば、溶接矯正工程で形成された溶接金属が外部に露出するのを防ぐことができる。
【0010】
また、前記第一摩擦攪拌工程は、小型の回転ツールによって仮接合を行う仮接合工程と、当該仮接合工程で用いた回転ツールよりも大型の回転ツールを用いて本接合を行う本接合工程と、を含むことが好ましい。仮接合工程を行うことで、本接合工程の際に一対の金属部材が離間することを防止することができる。また、小型の回転ツールを用いることで比較的容易に仮接合の作業を行うことができる。
【0011】
また、前記第一摩擦攪拌工程の前に、前記突合部の両側に一対のタブ材を配置するタブ材配置工程と、前記タブ材と前記金属部材との突合部に沿って摩擦攪拌を行うタブ材仮接合工程と、を含むことが好ましい。
【0012】
かかる接合方法によれば、タブ材を用いることで摩擦攪拌作業の開始位置及び終了位置の設定が容易となる。また、摩擦攪拌接合の際に、タブ材と金属部材の離間を防止することができる。
【0013】
また、摩擦攪拌接合を行う回転ツールの挿入予定位置に予め下穴を形成する下穴形成工程を含むことが好ましい。かかる接合方法によれば、金属部材に回転ツールを押し込む際の圧入抵抗を軽減することができるため、摩擦攪拌接合の作業性を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる接合方法によれば、一対の金属部材を摩擦攪拌接合する際に、金属部材に発生する歪みを抑制するとともに、容易に接合作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の最良の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態では、図1に示すように、金属部材1a,1bを直線状に繋ぎ合せる場合を例にして説明する。まず、接合すべき金属部材1a,1bを詳細に説明するとともに、この金属部材1a,1bを接合する際に用いられる第一タブ材2、第二タブ材3を詳細に説明する。
【0016】
金属部材1a,1bは、断面視矩形を呈する板状部材であって、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金など摩擦攪拌可能な金属材料からなる。本実施形態では、一方の金属部材1a及び他方の金属部材1bを、同一組成の金属材料で形成している。金属部材1a,1bの形状・寸法に特に制限はないが、両部材が突き合わされる突合部J1における厚さ寸法を同一にすることが望ましい。なお、金属部材1a及び金属部材1bを突き合わせた金属部材を被接合金属部材1といい、被接合金属部材1の表面を表面A、裏面を裏面B、一方の側面を第一側面C及び他方の側面を第二側面Dともいう。
【0017】
第一タブ材2及び第二タブ材3は、被接合金属部材1の突合部J1を挟むように配置されるものであって、それぞれ、被接合金属部材1に添設され、被接合金属部材1の側面に現れる継ぎ目(境界線)を覆い隠す。第一タブ材2及び第二タブ材3の材質に特に制限はないが、本実施形態では、被接合金属部材1と同一組成の金属材料で形成している。また、第一タブ材2及び第二タブ材3の形状・寸法にも特に制限はないが、本実施形態では、その厚さ寸法を突合部J1における被接合金属部材1の厚さ寸法と同一にしている。
【0018】
次に、図2を参照して、仮接合に用いる回転ツール(以下、「仮接合用回転ツールF」という。)及び本接合に用いる回転ツール(以下、「本接合用回転ツールG」という。)を詳細に説明する。
【0019】
図2の(a)に示す仮接合用回転ツールFは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部F1と、このショルダ部F1の下端面F11に突設された攪拌ピン(プローブ)F2とを備えて構成されている。仮接合用回転ツールFの寸法・形状は、被接合金属部材1の材質や厚さ等に応じて設定すればよいが、少なくとも、後記する本接合用回転ツールG(図2の(b)参照)よりも小型にする。このようにすると、本接合よりも小さな負荷で仮接合を行うことが可能となるので、仮接合時に摩擦攪拌装置に掛かる負荷を低減することが可能となり、さらには、仮接合用回転ツールFの移動速度(送り速度)を本接合用回転ツールGの移動速度よりも高速にすることも可能になるので、仮接合に要する作業時間やコストを低減することが可能となる。
【0020】
ショルダ部F1の下端面F11は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。ショルダ部F1の外径X1の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、本接合用回転ツールGのショルダ部G1の外径Y1よりも小さくなっている。
【0021】
攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンF2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンF2の外径の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、最大外径(上端径)X2が本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Y2よりも小さく、かつ、最小外径(下端径)X3が攪拌ピンG2の最小外径(下端径)Y3よりも小さい。攪拌ピンF2の長さLAは、突合部J1における被接合金属部材1の厚さt(図1の(c)参照)の3〜15%とすることが望ましいが、少なくとも、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の長さLBよりも小さくすることが望ましい。
【0022】
図2の(b)に示す本接合用回転ツールGは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部G1と、このショルダ部G1の下端面G11に突設された攪拌ピン(プローブ)G2とを備えて構成されている。
【0023】
ショルダ部G1の下端面G11は、仮接合用回転ツールFと同様に、凹面状に成形されている。攪拌ピンG2は、ショルダ部G1の下端面G11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンG2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンG2の長さLBは、突合部J1における被接合金属部材1の肉厚t(図1の(c)参照)の1/2以上3/4以下となるように設定することが望ましく、より好適には、1.01≦2LB/t≦1.10という関係を満たすように設定することが望ましい。
【0024】
以下、本実施形態に係る接合方法を詳細に説明する。本実施形態に係る接合方法は、(1)準備工程、(2)予備工程、(3)第一摩擦攪拌工程、(4)溶接矯正工程、(5)第二摩擦攪拌工程を含むものである。なお、予備工程、第一摩擦攪拌工程は、被接合金属部材1の表面A側から実行される工程であり、溶接矯正工程、第二摩擦攪拌工程は、被接合金属部材1の裏面B側から実行される工程である。
【0025】
(1)準備工程
図1を参照して準備工程を説明する。準備工程では、接合すべき金属部材1a,1bを突き合せる突合工程と、突合工程で形成された被接合金属部材1の突合部J1の両側に第一タブ材2、第二タブ材3を配置するタブ材配置工程とを具備している。
【0026】
突合工程では、図1の(a)乃至(d)に示すように、一方の金属部材1aの端面11に他方の金属部材1bの端面11を密着させるとともに、一方の金属部材1aの表面12と他方の金属部材1bの表面12を面一にし、さらに、一方の金属部材1aの裏面13と他方の金属部材1bの裏面13を面一にする。また、一方の金属部材1aの側面14,14と他方の金属部材1bの側面14,14をそれぞれ面一にする。
【0027】
タブ材配置工程では、図1の(b)に示すように、金属部材1a,1bからなる被接合金属部材1の突合部J1の一端側に第一タブ材2を配置してその当接面21を被接合金属部材1の第二側面Dに当接させるとともに、突合部J1の他端側に第二タブ材3を配置してその当接面31を被接合金属部材1の第一側面Cに当接させる。このとき、図1の(d)に示すように、第一タブ材2の表面22と第二タブ材3の表面32を被接合金属部材1の表面Aと面一にするとともに、第一タブ材2の裏面23と第二タブ材3の裏面33を被接合金属部材1の裏面Bと面一にする。
【0028】
また、タブ材配置工程では、図1の(a)及び(b)に示すように、被接合金属部材1と第一タブ材2とにより形成された入隅部2a,2a(即ち、金属部材1a,1bの側面14と第一タブ材2の側面24とにより形成された角部)を溶接して被接合金属部材1と第一タブ材2とを接合し、被接合金属部材1と第二タブ材3とにより形成された入隅部3a,3a(即ち、金属部材1a,1bの側面14と第二タブ材3の側面34とにより形成された角部)を溶接して被接合金属部材1と第二タブ材3とを接合する。なお、各入隅部の全長に亘って連続して溶接を施してもよいし、断続して溶接を施してもよい。
【0029】
準備工程が終了したら、被接合金属部材1を図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の図示せぬ治具を用いて移動不能に拘束する。
【0030】
(2)予備工程
予備工程は、第一摩擦攪拌工程に先立って行われる工程であり、本実施形態では、被接合金属部材1と第一タブ材2との突合部J2を接合する第一タブ材接合工程と、被接合金属部材1の突合部J1を仮接合する仮接合工程と、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合部J3を接合する第二タブ材接合工程と、第一摩擦攪拌工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程とを具備している。
【0031】
本実施形態の予備工程では、図3に示すように、一の仮接合用回転ツールFを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、突合部J1,J2,J3に対して連続して摩擦攪拌を行う。即ち、摩擦攪拌の開始位置SPに挿入した仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)を途中で離脱させることなく終了位置EPまで移動させ、第一タブ材接合工程、仮接合工程及び第二タブ材接合工程を連続して実行する。なお、本実施形態では、第一タブ材2に摩擦攪拌の開始位置SPを設け、第二タブ材3に終了位置EPを設けているが、開始位置SPと終了位置EPの位置を限定する趣旨ではない。
【0032】
本実施形態の予備工程における摩擦攪拌の手順を図3を参照してより詳細に説明する。
まず、図3に示すように、第一タブ材2の適所に設けた開始位置SPの直上に仮接合用回転ツールFを位置させ、続いて、仮接合用回転ツールFを右回転させつつ下降させて攪拌ピンF2を開始位置SPに押し付ける。仮接合用回転ツールFの回転速度は、攪拌ピンF2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、500〜2000(rpm)の範囲内において設定される。
【0033】
攪拌ピンF2が第一タブ材2の表面22に接触すると、摩擦熱によって攪拌ピンF2の周囲にある金属が塑性流動化し、攪拌ピンF2が第一タブ材2に挿入される。仮接合用回転ツールFの挿入速度(下降速度)は、攪拌ピンF2の寸法・形状、開始位置SPが設けられる部材の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、30〜60(mm/分)の範囲内において設定される。
【0034】
攪拌ピンF2の全体が第一タブ材2に入り込み、かつ、ショルダ部F1の下端面F11の全面が第一タブ材2の表面22に接触したら、仮接合用回転ツールFを回転させつつ第一タブ材接合工程の始点s2に向けて相対移動させる。
【0035】
仮接合用回転ツールFの移動速度(送り速度)は、攪拌ピンF2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、100〜1000(mm/分)の範囲内において設定される。仮接合用回転ツールFの移動時の回転速度は、挿入時の回転速度と同じか、それよりも低速にする。なお、仮接合用回転ツールFを移動させる際には、ショルダ部F1の軸線を鉛直線に対して進行方向の後ろ側へ僅かに傾斜させてもよいが、傾斜させずに鉛直にすると、仮接合用回転ツールFの方向転換が容易となり、複雑な動きが可能となる。仮接合用回転ツールFを移動させると、その攪拌ピンF2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンF2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化する。
【0036】
仮接合用回転ツールFを相対移動させて第一タブ材接合工程の始点s2まで連続して摩擦攪拌を行ったら、始点s2で仮接合用回転ツールFを離脱させずにそのまま第一タブ材接合工程に移行する。
【0037】
第一タブ材接合工程では、第一タブ材2と被接合金属部材1との突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1と第一タブ材2の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールFを相対移動させることで、突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFを途中で離脱させることなく第一タブ材接合工程の始点s2から終点e2まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0038】
なお、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合には、仮接合用回転ツールFの進行方向の左側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、仮接合用回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材1が位置するように第一タブ材接合工程の始点s2と終点e2の位置を設定することが望ましい。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0039】
ちなみに、仮接合用回転ツールFを左回転させた場合には、仮接合用回転ツールFの進行方向の右側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、仮接合用回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材1が位置するように第一タブ材接合工程の始点と終点の位置を設定することが望ましい。具体的には、図示は省略するが、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の終点e2の位置に始点を設け、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の始点s2の位置に終点を設ければよい。
【0040】
仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2が突合部J2に入り込むと、被接合金属部材1と第一タブ材2とを引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材1と第一タブ材2により形成された入隅部2aを溶接により接合しているので、被接合金属部材1と第一タブ材2との間に目開きが発生することがない。
【0041】
仮接合用回転ツールFが第一タブ材接合工程の終点e2に達したら、終点e2で摩擦攪拌を終了させずに仮接合工程の始点s1まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま仮接合工程に移行する。即ち、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1まで仮接合用回転ツールFを離脱させずに摩擦攪拌を継続し、さらに、始点s1で仮接合用回転ツールFを離脱させることなく仮接合工程に移行する。このようにすると、第一タブ材接合工程の終点e2での仮接合用回転ツールFの離脱作業が不要となり、さらに、仮接合工程の始点s1での仮接合用回転ツールFの挿入作業が不要となることから、予備的な接合作業の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0042】
本実施形態では、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に至る摩擦攪拌のルートを第一タブ材2に設定し、仮接合用回転ツールFを第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に移動させる際の移動軌跡を第一タブ材2に形成する。このようにすると、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に至る工程中において、被接合金属部材1に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0043】
仮接合工程では、被接合金属部材1の突合部J1に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールFを相対移動させることで、突合部J1の全長に亘って連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFを途中で離脱させることなく仮接合工程の始点s1から終点e1まで連続して摩擦攪拌を行う。このようにすると、仮接合工程中における仮接合用回転ツールFの離脱作業が一切不要となることから、予備的な接合作業のより一層の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0044】
仮接合用回転ツールFが仮接合工程の終点e1に達したら、終点e1で摩擦攪拌を終了させずに第二タブ材接合工程の始点s3まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま第二タブ材接合工程に移行する。即ち、仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3まで仮接合用回転ツールFを離脱させずに摩擦攪拌を継続し、さらに、始点s3で仮接合用回転ツールFを離脱させることなく第二タブ材接合工程に移行する。このようにすると、仮接合工程の終点e1での仮接合用回転ツールFの離脱作業が不要となり、さらに、第二タブ材接合工程の始点s3での仮接合用回転ツールFの挿入作業が不要となることから、予備的な接合作業のより一層の効率化・迅速化を図ることが可能となる。
【0045】
本実施形態では、仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に至る摩擦攪拌のルートを第二タブ材3に設定し、仮接合用回転ツールFを仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に移動させる際の移動軌跡を第二タブ材3に形成する。このようにすると、仮接合工程の終点e1から第二タブ材接合工程の始点s3に至る工程中において、被接合金属部材1に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0046】
第二タブ材接合工程では、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合部J3に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、被接合金属部材1と第二タブ材3の継ぎ目(境界線)上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールFを相対移動させることで、突合部J3に対して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFを途中で離脱させることなく第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0047】
なお、仮接合用回転ツールFを右回転させているので、仮接合用回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材1が位置するように第二タブ材接合工程の始点s3と終点e3の位置を設定する。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。ちなみに、仮接合用回転ツールFを左回転させた場合には、仮接合用回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材1が位置するように第二タブ材接合工程の始点と終点の位置を設定することが望ましい。具体的には、図示は省略するが、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の終点e3の位置に始点を設け、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の始点s3の位置に終点を設ければよい。
【0048】
なお、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)が突合部J3に入り込むと、被接合金属部材1と第二タブ材3を引き離そうとする力が作用するが、被接合金属部材1と第二タブ材3の入隅部3aを溶接により仮接合しているので、被接合金属部材1と第二タブ材3との間に目開きが発生することがない。
【0049】
仮接合用回転ツールFが第二タブ材接合工程の終点e3に達したら、終点e3で摩擦攪拌を終了させずに、第二タブ材3に設けた終了位置EPまで連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、被接合金属部材1の表面A側に現れる継ぎ目(境界線)の延長線上に終了位置EPを設けている。ちなみに、終了位置EPは、後記する第一摩擦攪拌工程における摩擦攪拌の開始位置SM1でもある。
【0050】
仮接合用回転ツールFが終了位置EPに達したら、仮接合用回転ツールFを回転させつつ上昇させて攪拌ピンF2を終了位置EPから離脱させる。
【0051】
なお、仮接合用回転ツールFの離脱速度(上昇速度)は、攪拌ピンF2の寸法・形状、終了位置EPが設けられる部材の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、30〜60(mm/分)の範囲内において設定される。また、仮接合用回転ツールFの離脱時の回転速度は、移動時の回転速度と同じか、それよりも高速にする。
【0052】
続いて、下穴形成工程を実行する。下穴形成工程は、図2の(b)に示すように、第一摩擦攪拌工程における摩擦攪拌の開始位置SM1に下穴P1を形成する工程である。即ち、下穴形成工程は、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入予定位置に下穴P1を形成する工程である。
【0053】
下穴P1は、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入抵抗(圧入抵抗)を低減する目的で設けられるものであり、本実施形態では、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)を離脱させたときに形成される抜き穴H1を図示せぬドリルなどで拡径することで形成される。抜き穴H1を利用すれば、下穴P1の形成工程を簡略化することが可能となるので、作業時間を短縮することが可能となる。下穴P1の形態に特に制限はないが、本実施形態では、円筒状としている。なお、本実施形態では、第二タブ材3に下穴P1を形成しているが、下穴P1の位置に特に制限はなく、第一タブ材2に形成してもよいし、突合部J2,J3に形成してもよいが、好適には、本実施形態の如く被接合金属部材1の表面A側に現れる被接合金属部材1の継ぎ目(境界線)の延長線上に形成することが望ましい。
【0054】
下穴P1の最大穴径Z1は、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Y2よりも小さくなっているが、好適には、攪拌ピンG2の最大外径Y2の50〜90%とすることが望ましい。なお、下穴P1の最大穴径Z1が攪拌ピンG2の最大外径Y2の50%を下回ると、攪拌ピンG2の圧入抵抗の低減度合いが低下する虞があり、また、下穴P1の最大穴径Z1が攪拌ピンG2の最大外径Y2の90%を上回ると、攪拌ピンG2による摩擦熱の発生量が少なくなって塑性流動化する領域が小さくなり、入熱量が減少するので、本接合用回転ツールGを移動させる際の負荷が大きくなり、欠陥が発生し易くなる。
【0055】
なお、本実施形態では、仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図2の(a)参照)の抜き穴H1を拡径して下穴P1とする場合を例示したが、攪拌ピンF2の最大外径X2が本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の最小外径Y3よりも大きく、かつ、攪拌ピンF2の最大外径X2が攪拌ピンG2の最大外径Y2よりも小さい(Y3<X2<Y2)場合などにおいては、攪拌ピンF2の抜き穴H1をそのまま下穴P1としてもよい。
【0056】
(3)第一摩擦攪拌工程
第一摩擦攪拌工程は、被接合金属部材1の突合部J1を表面A側から本格的に接合する工程である。本実施形態に係る第一摩擦攪拌工程では、図2の(b)に示す本接合用回転ツールGを使用し、仮接合された状態の突合部J1に対して被接合金属部材1の表面A側から摩擦攪拌を行う。
【0057】
第一摩擦攪拌工程では、図4の(a)〜(c)に示すように、開始位置SM1に形成した下穴P1に本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンG2を途中で離脱させることなく終了位置EM1まで移動させる。即ち、第一摩擦攪拌工程では、下穴P1から摩擦攪拌を開始し、終了位置EM1まで連続して摩擦攪拌を行う。なお、本実施形態では、第二タブ材3に摩擦攪拌の開始位置SM1を設け、第一タブ材2に終了位置EM1を設けているが、開始位置SM1と終了位置EM1の位置を限定する趣旨ではない。
【0058】
図4の(a)〜(c)を参照して第一摩擦攪拌工程をより詳細に説明する。
まず、図4の(a)に示すように、下穴P1(開始位置SM1)の直上に本接合用回転ツールGを位置させ、続いて、本接合用回転ツールGを右回転させつつ下降させて攪拌ピンG2の先端を下穴P1に挿入する。攪拌ピンG2を下穴P1に入り込ませると、攪拌ピンG2の周面(側面)が下穴P1の穴壁に当接し、穴壁から金属が塑性流動化する。このような状態になると、塑性流動化した金属を攪拌ピンG2の周面で押し退けながら、攪拌ピンG2が圧入されることになるので、圧入初期段階における圧入抵抗を低減することが可能となり、また、本接合用回転ツールGのショルダ部G1が第二タブ材3の表面32に当接する前に攪拌ピンG2が下穴P1の穴壁に当接して摩擦熱が発生するので、塑性流動化するまでの時間を短縮することが可能となる。つまり、摩擦攪拌装置の負荷を低減することが可能となり、加えて、本接合に要する作業時間を短縮することが可能となる。
【0059】
摩擦攪拌の開始位置SM1に本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入する際の本接合用回転ツールGの回転速度(挿入時の回転速度)は、攪拌ピンG2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであり、多くの場合、70〜700(rpm)の範囲内において設定されるが、開始位置SM1から摩擦攪拌の終了位置EM1に向かって本接合用回転ツールGを移動させる際の本接合用回転ツールGの回転速度(移動時の回転速度)よりも高速にすることが望ましい。このようにすると、挿入時の回転速度を移動時の回転速度と同じにした場合に比べて、金属を塑性流動化させるまでに要する時間が短くなるので、開始位置SM1における攪拌ピンG2の挿入作業を迅速に行うことが可能となる。
【0060】
攪拌ピンG2の全体が第二タブ材3に入り込み、かつ、ショルダ部G1の下端面G11の全面が第二タブ材3の表面32に接触したら、図4の(b)に示すように、摩擦攪拌を行いながら被接合金属部材1の突合部J1の一端に向けて本接合用回転ツールGを相対移動させ、さらに、突合部J3を横切らせて突合部J1に突入させる。本接合用回転ツールGを移動させると、その攪拌ピンG2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンG2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域W1(以下、「表面側塑性化領域W1」という。)が形成される。なお、塑性化領域とは、回転ツールの摩擦熱によって加熱されて現に塑性化している状態と、回転ツールが通り過ぎて常温に戻った状態の両方を含むこととする。
【0061】
本接合用回転ツールGの移動速度(送り速度)は、攪拌ピンG2の寸法・形状、摩擦攪拌される被接合金属部材1等の材質や肉厚等に応じて設定されるものであるが、多くの場合、30〜300(mm/分)の範囲内において設定される。なお、本接合用回転ツールGを移動させる際には、ショルダ部G1の軸線を鉛直線に対して進行方向の後ろ側へ僅かに傾斜させてもよいが、傾斜させずに鉛直にすると、本接合用回転ツールGの方向転換が容易となり、複雑な動きが可能となる。
【0062】
被接合金属部材1への入熱量が過大になる虞がある場合には、本接合用回転ツールGの周囲に表面A側から水を供給するなどして冷却することが望ましい。なお、被接合金属部材1の突合部J1間に冷却水が入り込むと、接合面に酸化皮膜を発生させる虞があるが、本実施形態においては、仮接合工程を実行して被接合金属部材1間の目地を閉塞しているので、被接合金属部材1の突合部J1に冷却水が入り込み難く、したがって、接合部の品質を劣化させる虞がない。
【0063】
被接合金属部材1の突合部J1では、被接合金属部材1の継ぎ目上(仮接合工程における移動軌跡上)に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って本接合用回転ツールGを相対移動させることで、突合部J1の一端から他端まで連続して摩擦攪拌を行う。突合部J1の他端まで本接合用回転ツールGを相対移動させたら、摩擦攪拌を行いながら突合部J2を横切らせ、そのまま終了位置EM1に向けて相対移動させる。
【0064】
なお、本実施形態では、被接合金属部材1の表面A側に現れる継ぎ目(境界線)の延長線上に摩擦攪拌の開始位置SM1を設定しているので、第一摩擦攪拌工程における摩擦攪拌のルートを一直線にすることができる。摩擦攪拌のルートを一直線にすると、本接合用回転ツールGの移動距離を最小限に抑えることができるので、第一摩擦攪拌工程を効率よく行うことが可能となり、さらには、本接合用回転ツールGの磨耗量を低減することが可能となる。
【0065】
本接合用回転ツールGが終了位置EM1に達したら、図4の(c)に示すように、本接合用回転ツールGを回転させつつ上昇させて攪拌ピンG2を終了位置EM1(図4の(b)参照)から離脱させる。なお、終了位置EM1において攪拌ピンG2を上方に離脱させると、攪拌ピンG2と略同形の抜き穴Q1が不可避的に形成されることになるが、本実施形態では、そのまま残置する。
【0066】
なお、本実施形態では、図4の(b)及び(c)に示すように、本接合用回転ツールGを右回転させて第一摩擦攪拌工程を行ったため、進行方向左側、即ち、金属部材1bにトンネル状の空洞欠陥(以下、トンネル状空洞欠陥Rとする)が形成される可能性がある。
【0067】
ちなみに、本接合用回転ツールGを左回転させると、進行方向右側にトンネル状空洞欠陥が形成される可能性がある。かかるトンネル状空洞欠陥Rなどの接合欠陥が被接合金属部材1に形成されると、被接合金属部材1の気密性及び水密性を低下させる原因となる。
【0068】
第一摩擦攪拌工程が終了したら、予備工程、第一摩擦攪拌工程における摩擦攪拌で発生したバリを除去し、図1の(a)に示す前後軸回りに被接合金属部材1を裏返し、裏面Bを上にする。
【0069】
(4)溶接矯正工程
図5は、第一摩擦攪拌工程を終了して被接合金属部材1の裏面Bを上方に向けて配置した斜視図である。図5に示すように、被接合金属部材1は、第一摩擦攪拌工程に係る摩擦攪拌接合によって、被接合金属部材1の裏面Bが上方に向けて凸状となるように歪んでいる。即ち、第一摩擦攪拌工程によって表面側塑性化領域W1(図4参照)が熱収縮するため、被接合金属部材1の表面Aに、表面Aの中央に向けて引張応力が発生し被接合金属部材1に反りが発生してしまう。
【0070】
そこで、溶接矯正工程では、被接合金属部材1の裏面Bに溶接を行うことにより、被接合金属部材1の歪みを矯正する。具体的には、溶接矯正工程では、図6に示すように、被接合金属部材1の裏面Bに現われる突合部J1に対して、MIG溶接又はTIG溶接などの肉盛溶接を行い、突合部J1に沿って溶接金属U1を形成する。また、本実施形態では、突合部J1に対して直交方向に対しても溶接を行って溶接金属U2乃至U4を形成する。このように、溶接矯正工程を行うことで、溶接金属U1乃至U4が熱収縮するため、被接合金属部材1の裏面B側にも引張応力が発生する。これにより、被接合金属部材1の反りがある程度矯正される。
【0071】
なお、本実施形態に係る溶接矯正工程では、裏面Bに現れる突合部J1に対して、肉盛溶接を行っているが、ビードオンの状態によっては反りの矯正が十分でない可能性がある。そこで、第一摩擦攪拌工程を行う前に、予め裏面Bに現れる突合部J1に沿って凹溝(図示省略)を形成しておくとよい。凹溝を形成することにより、溶接矯正工程において、溶接金属が凹溝に充填され、凹溝の内面と溶接金属との接触面積が確保され、溶接金属の熱が被接合金属部材1に確実に伝達されて十分な反りの矯正が可能となる。
【0072】
本実施形態に係る溶接矯正工程では、被接合金属部材1の中央に形成される溶接金属U2を、溶接金属U2の両脇の溶接金属U3,U4よりも長く形成した。このように、被接合金属部材1の形状等を加味して溶接を行うことで、バランスよく反りを矯正することが好ましい。また、溶接金属U1乃至U4が断続的に形成されるように溶接矯正工程を行ってもよい。また、溶接金属U2乃至U4は、本実施形態のように必ずしも突合部J1を横断するように形成しなくてもよい。
【0073】
なお、突合部J1に対して直交方向に行う肉盛溶接は、溶接箇所、溶接本数について特に制限を受けるものではないが、被接合金属部材1の反りが抑制されるようにバランスよく肉盛溶接を行うことが好ましい。即ち、後に行う第二摩擦攪拌工程で形成される塑性化領域によって発生する熱収縮も考慮に入れつつ、溶接矯正の範囲(溶接量)を設定すればよい。また、溶接の種類は限定するものではなく、公知の溶接の中から適宜採用すればよい。
(5)第二摩擦攪拌工程
第二摩擦攪拌工程は、被接合金属部材1の突合部J1を裏面B側から本格的に接合する工程である。本実施形態に係る第二摩擦攪拌工程では、図7の(a)に示すように、本接合用回転ツールGを使用し、突合部J1に対して摩擦攪拌接合を行う。なお、具体的な図示はしないが、第二摩擦攪拌工程に先だって、第二タブ材3に設定する開始位置SM2には、予め下穴を形成しておくことが好ましい。
【0074】
第二摩擦攪拌工程では、第二タブ材3に設けた下穴(開始位置SM2)に右回転させた本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンG2を途中で離脱させることなく第一タブ材2に設けた終了位置EM2まで移動させる。
【0075】
本接合用回転ツールGを移動させると、その攪拌ピンG2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンG2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域W2(以下、「裏面側塑性化領域W2」という。)が形成される。図7の(b)に示すように、第二摩擦攪拌工程では、表面側塑性化領域W1の先端と、裏面側塑性化領域W2の先端とが重複するように本接合用回転ツールGの押し込み量を設定するのが好ましい。これにより、突合部J1の深さ方向全てを摩擦攪拌することができ、気密性及び水密性を高めることができる。第二摩擦攪拌工程においては、本接合用回転ツールGを右回転させて、被接合金属部材1の第一側面C側から第二側面D側に向けて摩擦攪拌を行うため、進行方向右側、即ち、金属部材1b側は、比較的高密度に塑性化される。
【0076】
なお、第二摩擦攪拌工程で形成される裏面側塑性化領域W2によっても、熱収縮が起こるため被接合金属部材1の裏面B側に引張応力が発生する。したがって、第二摩擦攪拌工程では、先に行った溶接矯正工程で発生する熱収縮も考慮しつつ本接合用回転ツールGの押込み量等を設定することが好ましい。
【0077】
また、前記した工程を行った場合であっても、被接合金属部材1のいずれかの面側に凸となるように反って歪んでしまった場合、以下に示す矯正工程を行って被接合金属部材1を平坦にすることが好ましい。本実施形態では、例えば、被接合金属部材1の表面A側に凸となるように反って歪んでしまった場合を例にして説明する。
【0078】
矯正工程では、被接合金属部材1の表面Aから、被接合金属部材1の裏面B側に引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させて、前記した摩擦攪拌工程により形成された被接合金属部材1の反りを矯正する。矯正工程では、以下に記すプレス矯正、衝打矯正及びロール矯正の三種類の方法からいずれか一以上の方法を選択して行えばよい。まず、プレス矯正について説明する。
【0079】
<プレス矯正>
前記した第二摩擦攪拌工程が終了したら、摩擦攪拌で発生したバリを除去するとともに、図8に示すように、被接合金属部材1の表面Aが上方を向くように裏返し、表面Aの中央付近に板状の第一補助部材T1を配置する。さらに、被接合金属部材1の裏面B側の四隅に、板状の第二補助部材T2,T2及び第三補助部材T3,T3を配置する。即ち、第二補助部材T2、第三補助部材T3は、第一補助部材T1を挟んで両側に配置される。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、プレス矯正を行う際の当て材又は台座となる部材であるとともに、被接合金属部材1が傷つかないようにするための部材である。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、被接合金属部材1よりも軟質の材料であればよく、例えば、アルミニウム合金、硬質ゴム、プラスチック、木材を用いることができる。なお、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、被接合金属部材1の力学特性や反りの曲率に応じて、反りとは反対側に撓ませて反りを矯正するのに十分な厚みで設定すればよい。
【0080】
各補助部材を配置したら、図9の(a)及び(b)に示すように、公知のプレス装置Kを用いて、被接合金属部材1の表面Aから押圧する。即ち、第一補助部材T1にプレス装置KのポンチKaを押し当て、所定の押圧力で押圧する。プレス装置Kによって被接合金属部材1に圧力が加えられると、図9の(a)及び(b)に示すように、第一補助部材T1が被接合金属部材1を下側に押し、第二補助部材T2及び第三補助部材T3が被接合金属部材1の両端側を上側に押すため、被接合金属部材1には曲げモーメントが作用する。この曲げモーメントは被接合金属部材1の裏面B側に引張応力を発生させるため、被接合金属部材1が強制的に下側に凸に撓ませられる。
【0081】
プレス装置の押圧力は、被接合金属部材1の厚みや材料によって適宜設定すればよいが、図9の(b)に示すように、被接合金属部材1の裏面B側が下に凸となって、裏面Bに引張応力が発生するような曲げモーメントを作用させることが好ましい。
【0082】
また、本実施形態では、図10に示すように、中心地点jだけでなく被接合金属部材1の表面A側の四辺の中点である地点b、地点d、地点e及び地点g付近に対しても押圧を行う。即ち、被接合金属部材1の表面Aにかかる各辺の中間地点である地点b、地点d、地点e及び地点gを含んだ位置H2〜H5に第一補助部材T1を配置して、プレス装置Kによって押圧を行う。これにより、被接合金属部材1をバランスよく矯正でき、平坦性をより高めることができる。
【0083】
なお、プレスする位置は、本実施形態では5箇所に設定したが、これに限定されるものではなく、接合工程によって生じる被接合金属部材1の反りに応じて適宜設定すればよい。
【0084】
<衝打矯正>
次に、衝打矯正について説明する。衝打矯正については、プレス矯正と近似するため、
具体的な図示は省略する。衝打矯正とは、例えばハンマーなどの衝打具を用いて被接合金属部材1を衝打して、被接合金属部材1に発生した反りを矯正することをいう。衝打矯正は、プレス装置Kに替えてハンマーなどの衝打具で被接合金属部材1を衝打する点を除いては、プレス矯正と略同等である。
【0085】
衝打矯正では、プレス矯正と同様に補助部材を配置した後、図9及び図10を参照するように、被接合金属部材1の表面Aから例えばプラスチックハンマー等の衝打具で被接合金属部材1を衝打する。被接合金属部材1を衝打すると、被接合金属部材1の裏面B側に引張応力を発生させるため、被接合金属部材1が強制的に下側に凸に撓ませられる(図9の(b)参照)。これにより、被接合金属部材1の反りを矯正して平坦にすることができる。また、プレス矯正と同様に、必要に応じて被接合金属部材1の表面Aの位置H2〜H5を衝打することで、被接合金属部材1をバランスよく矯正することができる。
【0086】
衝打矯正は、プレス矯正と比べると、プレス装置等を準備する手間が省けるため、作業を容易に行うことができる。また、衝打矯正は、作業が容易であるため被接合金属部材1が小さい場合や薄い場合に有効である。なお、衝打矯正を終了した後は、衝打により発生したバリを除去することが好ましい。また、衝打具は、被接合金属部材1を衝打可能なものであれば、特に種類を問わないが、例えばプラスチックハンマーが好ましい。
【0087】
<ロール矯正>
次に、ロール矯正について説明する。前記した摩擦攪拌工程が終了したら、図11の(a)に示すように、摩擦攪拌で発生したバリを除去するとともに、被接合金属部材1の表面Aが上方を向くように裏返し、表面Aの中心地点j(図10参照)を含んで縦方向と平行になるように長板形状の第一補助部材T1を配置する。さらに、被接合金属部材1の裏面B側の縁部において縦方向と平行になるように、長板形状の第二補助部材T2及び第三補助部材T3を配置する。即ち、第二補助部材T2、第三補助部材T3は、第一補助部材T1を挟んで両側に配置される。
【0088】
そして、第一補助部材T1の上側に、第一補助部材T1と直交するようにロールR1を配置し、第二補助部材T2及び第三補助部材T3の下側に第二補助部材T2及び第三補助部材T3と直交するようにロールR2を配置する。つまり、被接合金属部材1は、図11の(b)に示すように、上側に凸の状態でロールR1,R2の間に配置され、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3を介してロールR1,R2に狭持される。
【0089】
第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、ロール矯正を行う際の当て材であるとともに、被接合金属部材1が傷つかないようにするための部材である。第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、被接合金属部材1よりも軟質の材料であればよく、例えば、アルミニウム合金、硬質ゴム、プラスチック、木材を用いることができる。
【0090】
ここで、ロールR1,R2が互いに近づいて被接合金属部材1に圧力を加えると、図11の(b)及び(c)に示すように、第一補助部材T1が被接合金属部材1を下側に押し、第二補助部材T2及び第三補助部材T3が被接合金属部材1の両端側を上側に押すため、被接合金属部材1には曲げモーメントが作用する。この曲げモーメントは被接合金属部材1の裏面B側に引張応力を発生させるため、被接合金属部材1が強制的に下側に凸に撓ませられる。
【0091】
また、図11の(a)に示すように、ロールR1が矢印α方向に回転するとともに、ロールR2が矢印β方向に回転すると、ロールR1,R2は被接合金属部材1に対して矢印γ方向(ロール送り方向)に相対的に移動する。また、ロールR1が矢印β方向に回転するとともにロールR2が矢印α方向に回転すると、ロールR1,R2は被接合金属部材1に対して矢印δ方向(ロール送り方向)に相対的に移動する。
【0092】
したがって、被接合金属部材1に作用する曲げモーメントの位置が、その相対的な移動に伴って遷移していくため、被接合金属部材1の全体が強制的に下側に凸に撓まされる。そのため、この相対的な移動を繰り返して往復動させることによって、反りを矯正していくことが可能になる。なお、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3は、被接合金属部材1の力学特性や反りの曲率に応じて、反りとは反対側に撓ませて反りを矯正するのに十分な厚みで設定すればよい。
【0093】
また、被接合金属部材1の縦方向にロールR1,R2を回転させて矯正工程を行なった後、横方向にロールR1,R2を回転させてもよい。即ち、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3を横方向と平行になるように配置するとともに、第一補助部材T1乃至第三補助部材T3に対して直交するようにロールR1,R2を配置する。そして、ロールR1,R2を横方向に往復動させる。これにより、被接合金属部材1をバランスよく矯正することができる。
【0094】
また、ここでは、被接合金属部材1の表面Aを上にして、歪矯正工程を行うものとして説明したが、裏返さずに裏面Bを上にして歪矯正工程を行うようにしてもよい。この場合、前記した各構成部品は、表裏対称に表れるため、説明を省略する。
【0095】
以上説明した本実施形態によれば、裏面B側から摩擦攪拌接合を行う前に、裏面B側に現れる突合部J1に対して溶接を行うことで、被接合金属部材1の裏面Bに熱収縮が発生し、被接合金属部材1に発生している歪みをある程度矯正することができる。これにより、被接合金属部材1が比較的平坦な状態で第二摩擦攪拌工程を行うことができるため、本接合用回転ツールGの押し込み量の調節等を容易に行うことができ、高品質な接合を行うことができる。また、本実施形態によれば、バリの大量発生や摩擦攪拌装置に作用する過負荷を防止することができる。
【0096】
また、前記した矯正工程を行うことで、第一摩擦攪拌工程、溶接矯正工程及び第二摩擦攪拌工程で発生した被接合金属部材1の歪みを矯正して平坦な部材を形成することができる。
【0097】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変更が可能である。例えば、本実施形態では、第一摩擦攪拌工程と第二摩擦攪拌工程で同じ本接合用回転ツールGを用いたが、それぞれ異なる回転ツールを用いてもよい。即ち、被接合金属部材1の表面A側から行う第一摩擦攪拌工程、裏面B側から行う溶接矯正工程及び第二摩擦攪拌工程でそれぞれ発生する熱収縮を考慮しながら各工程を行うことで、被接合金属部材1の歪みを極力小さくすることができる。
【0098】
また、表面側塑性化領域W1に形成されるトンネル状空洞欠陥を封入するように、第二摩擦攪拌工程の回転ツールの大きさや押込み量を適宜設定してもよい。これにより、より気密性及び水密性の高い被接合金属部材1を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本実施形態に係る金属部材、第一タブ材、第二タブ材の配置を説明するための図であって、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は(b)のI−I線断面図、(d)は(b)のII−II線断面図である。
【図2】(a)は仮接合用回転ツールを説明するための側面図、(b)は本接合用回転ツールを説明するための側面図である。
【図3】本実施形態に係る第一タブ材接合工程、仮接合工程、第二タブ材接合工程を説明するための平面図である。
【図4】(a)、(b)及び(c)は、本実施形態に係る第一摩擦攪拌工程を説明するための図3のIII−III線断面図である。
【図5】第一摩擦攪拌工程を終了して被接合金属部材の裏面を上方に向けて配置した斜視図である。
【図6】本実施形態に係る溶接矯正工程を示した斜視図である。
【図7】本実施形態に係る第二摩擦攪拌工程を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は、断面図である。
【図8】本実施形態に係るプレス矯正を示した斜視図である。
【図9】(a)は、プレス矯正の矯正前、(b)は、矯正中を示した断面図である。
【図10】本実施形態に係るプレス矯正を説明するための被接合金属部材の平面図である。
【図11】本実施形態に係るロール矯正を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は、矯正前の断面図、(c)は、矯正中の断面図である。
【図12】従来の摩擦攪拌接合を示した断面図である。
【符号の説明】
【0100】
1 接合金属部材
1a 金属部材
1b 金属部材
2 第一タブ材
3 第二タブ材
J1〜J3 突合部
A 表面
B 裏面
C 第一側面
D 第二側面
F 仮接合用回転ツール
F1 ショルダ部
F2 攪拌ピン
G 本接合用回転ツール
G1 ショルダ部
G2 攪拌ピン
U1〜U4 溶接金属
W1,W2 塑性化領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の金属部材同士を突き合わせて形成された突合部に対して、表面側から摩擦攪拌接合を行う第一摩擦攪拌工程と、裏面側から摩擦攪拌接合を行う第二摩擦攪拌工程とを含み、前記第一摩擦攪拌工程と前記第二摩擦攪拌工程で形成された塑性化領域を重複させる接合方法であって、
前記第一摩擦攪拌工程を行った後に、前記突合部に対して前記裏面側から溶接を行う溶接矯正工程を含むことを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記溶接矯正工程では、前記突合部に対して交差する方向にさらに溶接を行うことを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
第二摩擦攪拌工程では、前記溶接矯正工程によって前記突合部に対して肉盛りされた溶接金属を回転ツールのピンによって摩擦攪拌することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記第一摩擦攪拌工程は、小型の回転ツールによって仮接合を行う仮接合工程と、当該仮接合工程で用いた回転ツールよりも大型の回転ツールを用いて本接合を行う本接合工程と、を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項5】
前記第一摩擦攪拌工程の前に、前記突合部の両側に一対のタブ材を配置するタブ材配置工程と、前記タブ材と前記金属部材との突合部に沿って摩擦攪拌を行うタブ材仮接合工程と、を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項6】
摩擦攪拌接合を行う回転ツールの挿入予定位置に予め下穴を形成する下穴形成工程を含むことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の接合方法。
【請求項1】
一対の金属部材同士を突き合わせて形成された突合部に対して、表面側から摩擦攪拌接合を行う第一摩擦攪拌工程と、裏面側から摩擦攪拌接合を行う第二摩擦攪拌工程とを含み、前記第一摩擦攪拌工程と前記第二摩擦攪拌工程で形成された塑性化領域を重複させる接合方法であって、
前記第一摩擦攪拌工程を行った後に、前記突合部に対して前記裏面側から溶接を行う溶接矯正工程を含むことを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記溶接矯正工程では、前記突合部に対して交差する方向にさらに溶接を行うことを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
第二摩擦攪拌工程では、前記溶接矯正工程によって前記突合部に対して肉盛りされた溶接金属を回転ツールのピンによって摩擦攪拌することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記第一摩擦攪拌工程は、小型の回転ツールによって仮接合を行う仮接合工程と、当該仮接合工程で用いた回転ツールよりも大型の回転ツールを用いて本接合を行う本接合工程と、を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項5】
前記第一摩擦攪拌工程の前に、前記突合部の両側に一対のタブ材を配置するタブ材配置工程と、前記タブ材と前記金属部材との突合部に沿って摩擦攪拌を行うタブ材仮接合工程と、を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の接合方法。
【請求項6】
摩擦攪拌接合を行う回転ツールの挿入予定位置に予め下穴を形成する下穴形成工程を含むことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の接合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−125495(P2010−125495A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303728(P2008−303728)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】
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