説明

接合方法

【課題】摩擦攪拌接合の長所を活かしつつ、その短所を補うことが可能な接合方法を提案する。
【解決手段】複数の金属製の被接合部材を突き合わせて突合部を構成する突合工程S1と、突合部の一部に沿って溶接を行う溶接工程S2と、突合部の他部に沿って摩擦攪拌を行う摩擦攪拌接合工程S3とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接および摩擦攪拌接合を組み合わせた接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属製の被接合部材の接合方法として種々の溶接方法が知られている。溶接は、被接合部材の溶接箇所を加熱し、被接合部材または被接合部材と溶加材とを融合させて溶融金属を作り、これを凝固させて被接合部材を接合する。
【0003】
他方、近年、金属製の被接合部材の接合方法として溶接やろう接に代わる新しい接合方法として摩擦攪拌接合が開発され実用化されている。摩擦攪拌接合は、固相接合であり、溶接(溶融接合)やろう接(液相−固相反応接合)よりも低温で被接合部材を接合できるため、接合時の熱変形や接合部の酸化による接合不良が少ないなどの利点がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−312198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶接は、溶け込み不良、割れ、気孔、融合不良、スラグ巻き込みなどの溶接欠陥を生じることがある。これら溶接欠陥のうち、気孔は、溶融金属の温度低下にともなう溶解度の減少あるいは化学反応ないしは固相の晶出による急激な溶解度の減少によって発生したガスによる気泡が接合終了まで残留したものである。溶接欠陥は、一般に溶接の始端部および終端部に生じやすい。
【0006】
他方、摩擦攪拌接合は、ツールと呼ばれる接合工具から被接合部材に大きなツール荷重を負荷して接合を行う。これに起因して、摩擦攪拌接合は、曲面形状や角形状(単なる角部分や、角部分が連続的に連なる段差部分)等の複雑な形状を有する被接合部材の突合部を接合することが困難であるという問題を有する。
【0007】
また、摩擦攪拌接合は、接合端部に接合強度を十分に得られない部分(攪拌が不十分な部分)が生じてしまう。
【0008】
そこで、本発明は、溶接の接合端部に発生する溶接欠陥を除去できるとともに、摩擦攪拌接合の長所を活かしつつ、その短所を補うことが可能な接合方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するため本発明に係る接合方法は、複数の金属製の被接合部材を突き合わせて突合部を構成する突合工程と、前記突合部の一部に沿って溶接を行う溶接工程と、前記突合部の他部に沿って摩擦攪拌を行う摩擦攪拌接合工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶接の接合端部に発生する溶接欠陥を除去できるとともに、摩擦攪拌接合の長所を活かしつつ、その短所を補うことが可能な接合方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る接合方法を示したフローチャート。
【図2】本発明の実施形態に係る接合方法のうち摩擦攪拌接合工程を示した概略図。
【図3】本発明の実施形態に係る接合方法によって接合された構造物の一例を示した概略図。
【図4】本発明の実施形態に係る接合方法によって接合された構造物の一例を示した概略図。
【図5】本発明の実施形態に係る接合方法のうち溶接工程において溶接された接合部分の始端部の一例を示した断面図。
【図6】本発明の実施形態に係る接合方法によって溶接工程後に摩擦攪拌溶接で接合されたオーバーラップ部を示した断面図。
【図7】本発明の実施形態に係る接合方法によって接合された構造物の接合強度の一例を示した図。
【図8】本発明の実施形態に係る接合方法によって接合された構造物の他の例を示した概略的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る接合方法の実施の形態について、図1から図8を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る接合方法を示したフローチャートである。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る接合方法は、突合工程S1と、突合工程S1の後に実施する溶接工程S2と、少なくとも突合工程S1の後に実施する摩擦攪拌接合工程S3と、を有する。なお、本実施形態に係る接合方法は、溶接工程S2の後に摩擦攪拌接合工程S3を行う。
【0015】
突合工程S1は、本実施形態に係る接合方法によって接合される複数の被接合部材に突合部を構成する工程である。被接合部材は、例えばアルミニウム合金を含む金属製の部材であり、摩擦攪拌接合および溶接によって接合できるものであれば良い。突合部は、それぞれの被接合部材に形成された面を突き合わせた突合面(または「接合面」と呼ぶ。)を含み、溶接工程S2および摩擦攪拌接合工程S3で接合される領域である。
【0016】
溶接工程S2は、突合部の一部に沿って熱源を移動し、溶接によって被接合部材の本接合を行う工程である。溶接工程S2において行われる溶接方法は、アークを熱源とするアーク溶接(ティグ溶接やミグ溶接を含むガスシールドアーク溶接やセルフシールドアーク溶接などを含む)やガス溶接、レーザ溶接、電子ビーム溶接などの既知の溶接方法を用いることが可能である。
【0017】
摩擦攪拌接合工程S3は、突合部の他部に沿って接合工具を移動し、摩擦攪拌によって被接合部材の本接合を行う工程である。
【0018】
次に、摩擦攪拌接合工程S3について詳述する。
【0019】
図2は、本発明の実施形態に係る接合方法のうち摩擦攪拌接合工程を示した概略図である。
【0020】
図2に示すように、摩擦攪拌接合工程S3は、接合工具14を用いて複数の被接合部材である一対の被接合プレート11、12を突き合わせた突合部の他部を接合する工程である。このとき、被接合プレート11、12を突き合わせた突合部の一部は、既に溶接工程S2において溶接接合部分24(詳細は後述する。)が形成されている。
【0021】
接合工具14は、例えば、回転駆動装置(図示省略)の駆動部に結合された円柱形状の回転体15と、回転体15の先端に突出させて一体に形成された円柱形状のプローブ16と、を備える。回転体15の端面はショルダ17と呼ばれる。プローブ16は、回転体15の端面から被接合プレート11、12の突合部の厚さに相当する長さに突出される。またプローブ16は、被接合プレート11、12の攪拌を効率よく行うなどのため、ねじ溝が設けられたり、回転軸直交方向の断面形状が非円形状(例えば、楕円や太鼓型)に形成されたりする。
【0022】
摩擦攪拌接合工程S3は、回転駆動装置によって接合工具14を高速で回転(図2中、実線矢R)させながら被接合プレート11、12の突合部に押圧し、接合工具14と被接合プレート11、12との摩擦熱によって被接合プレート11、12の接合部分を軟化させ、この軟化した部分を接合工具14の回転によって攪拌し、被接合プレート11、12を接合する。摩擦熱によって軟化された被接合プレート11、12の接合部分が接合工具14の接合方向(図2中、実線矢F)後方へ回り込むように攪拌された後、接合工具14の移動にともなって摩擦熱を急速に失い冷却硬化することによって、被接合プレート11、12は接合される。
【0023】
図3および図4は、本発明の実施形態に係る接合方法によって接合された構造物の一例を示した概略図である。
【0024】
図3および図4に示すように、接合板材22、22Aは、被接合プレート11、12を本発明の実施形態に係る接合方法によって接合した構造物である。
【0025】
具体的には、図3に示すように、接合板材22は、溶接工程S2による溶接接合部分24と摩擦攪拌接合工程S3による摩擦攪拌接合部分25とを隣接させて接合される。
【0026】
他方、図4に示すように、接合板材22Aは、溶接工程S2の後に摩擦攪拌接合工程S3を行い、溶接工程S2による溶接接合部分24と摩擦攪拌接合工程S3による摩擦攪拌接合部分25とを重ね合わせて接合される。この重ね合わされた部分をオーバーラップ部26と呼ぶ。
【0027】
オーバーラップ部26は、溶接工程S2による溶接接合部分24の始端部24aに摩擦攪拌接合工程S3による摩擦攪拌接合部分25の始端部25aを重ね合わせて形成される。なお、オーバーラップ部26は、溶接工程S2による溶接接合部分24の始端部24aおよび終端部24bのいずれに形成しても良い。
【0028】
このとき、オーバーラップ部26の範囲は、溶接工程S2によるビード幅以上とすることが好ましい。このように両工程における溶接接合部分24および摩擦攪拌接合部分25を重ね合わせることによって、溶接工程S2において溶接欠陥が生じやすい溶接接合部分24の始端部24a(または終端部24b)を摩擦攪拌接合工程S3における摩擦攪拌接合によって攪拌し、接合することができる。
【0029】
接合板材22、22Aについてさらに詳述する。
【0030】
接合板材22、22Aは、アルミ合金(JIS H 4100:6061−T6)を材料とする板厚4mmの板材である被接合プレート11、12を本実施形態に係る接合方法によって接合した構造物である。
【0031】
溶接工程S2の接合条件は、溶加材にアルミニウム用溶接棒(JIS Z 3232:A5356BY)を使用し、電流値約130Aから170A、接合速度約100mm/分とした。
【0032】
摩擦攪拌接合工程S3に用いる接合工具14は、ショルダ17の直径約12mm、プローブ16の直径約5mm、プローブ16の突出長さ約3.5mmの形状を有する。摩擦攪拌接合工程S3の接合条件は、接合工具14の回転数約1500rpm、接合工具14の接合速度約300mm/分、接合工具14の前進角約3°、被接合部材に対するプローブ16の挿入量約3.7mm、接合工具14を被接合部材に挿入してから接合工具14の移動を開始するまでの待機時間約2秒、接合工具14の移動を終了してから接合工具14を被接合部材から引き抜くまでの待機時間約1秒とした。
【0033】
また、接合板材22Aは、溶接工程S2による接合端部と摩擦攪拌接合工程S3による接合端部とを約20mm重ねた。これは、溶接工程S2におけるビード幅約15mmに対して約1.3倍となる。
【0034】
図5は、本発明の実施形態に係る接合方法のうち溶接工程において溶接された接合部分の始端部の一例を示した断面図である。
【0035】
図5に示すように、溶接工程S2による溶接接合部分24の始端部24aは、溶接欠陥として気孔24cを有する。溶接欠陥は必ず生じるものではないが、一般に溶接工程S2による溶接接合部分24の始端部24aまたは終端部24bに生じやすい。
【0036】
図6は、本発明の実施形態に係る接合方法によって溶接工程後に摩擦攪拌溶接で接合されたオーバーラップ部を示した断面図である。
【0037】
図6に示すように、オーバーラップ部26は、摩擦攪拌接合工程S3において接合工具14により攪拌され接合される。これによって、溶接工程S2による溶接接合部分24の始端部24aまたは終端部24bに生じた溶接欠陥(例えば、図5中の気孔24c)は、潰れて無くなっている。
【0038】
ここで、接合板材22、22Aの接合部分の強度について説明する。
【0039】
接合板材22の試験片は、溶接による溶接接合部分24のうち接合端(ここでは始端部24a)を含む領域(図3中、二点鎖線に挟まれた領域T1)を切り出したものである。
【0040】
他方、接合板材22Aの試験片は、溶接による溶接接合部分24のうちオーバーラップ部26を含む領域(図4中、二点鎖線に挟まれた領域T2)を切り出したものである。
【0041】
両試験片は、オーバーラップ部26の接合方向長さの約2倍の幅を有する。また、評価対象の接合強度は、突合面の法線方向に対する引張強さである。
【0042】
図7は、本発明の実施形態に係る接合方法によって接合された構造物の接合強度の一例を示した図である。
【0043】
図7に示すように、接合板材22Aは、接合板材22に比べて約2.7倍の接合強度の向上が見られた。
【0044】
接合板材22の試験片は、溶接工程S2により接合された溶接接合部分24のみを有する。溶接接合部分24は、接合工具14による攪拌を受けていない。すなわち、接合板材22の試験片は、摩擦攪拌接合を行われていないまま溶接接合部分24の始端部24aが残っている。したがって、接合板材22の試験片は、溶接のみによって接合された接合部とほぼ同様の接合強度を有していると考えられる。
【0045】
他方、接合板材22Aの試験片は、オーバーラップ部26を含む。すなわち、接合板材22Aの試験片は、溶接接合部分24の始端部24aが接合工具14による攪拌され接合されている。
【0046】
図8は、本発明の実施形態に係る接合方法によって接合された構造物の他の例を示した概略的な断面図である。
【0047】
図8に示すように、接合管35は、被接合部材である角丸角管材27、28を本発明の実施形態に係る接合方法によって接合した構造物である。
【0048】
角丸角管材27、28は、長手軸直交方向の断面形状が略方形状であり、略平面形状の表面を有する辺部分31と、角丸形状の表面を有する角丸部分32と、を有する中空管である。
【0049】
接合管35は、溶接工程S2において角丸部分32を接合した後に摩擦攪拌接合工程S3において辺部分31の接合を行い、溶接工程S2による溶接接合部分24と摩擦攪拌接合工程S3による摩擦攪拌接合部分25とを重ね合わせて接合される。
【0050】
すなわち、接合管35は、接合板材22Aと同様に、溶接工程S2の後に摩擦攪拌接合工程S3を行い、オーバーラップ部26を形成しつつ接合される。溶接接合工程S2による溶接接合部分24に摩擦攪拌接合工程S3による摩擦攪拌接合部分25を重ね合わせて構成されたオーバーラップ部26を有する。
【0051】
オーバーラップ部26は、溶接工程S2において角丸部分32に連続させて角丸部分32近傍の辺部分31を溶接し、かつ摩擦攪拌接合により辺部分31を接合して形成される。
【0052】
したがって、本実施形態に係る接合方法によれば、溶接接合部分24の始端部24a(または、終端部24b)に溶接欠陥が生じていても、この部分を摩擦攪拌接合によって確実に接合し接合品質を改善できる。
【0053】
また、本実施形態に係る接合方法によれば、突合面に隙間(例えば、約0.5mm以上)や段差(例えば、約0.5mm以上)を有する被接合部材を接合する場合、このような隙間や段差を溶接によって接合し、その他の部分を摩擦攪拌接合によって接合することができる。本実施形態に係る接合方法によれば、摩擦攪拌接合による接合が困難な隙間部分や段差部分を確実に接合し高い接合強度を得ることができる。
【0054】
さらに、本実施形態に係る接合方法によれば、曲面形状を有する部分、および角形状(単なる角部分や、角部分が連続的に連なる段差部分)を有する部分などの複雑な形状部分(以下、「非平面形状部分」と言う。)を有する被接合部材を接合する場合、非平面形状部分(接合管35における角丸部分32に相当する部分)を溶接によって接合し、その他の略平面な部分(接合管35における辺部分31に相当する部分)を摩擦攪拌接合によって接合することができる。本実施形態に係る接合方法によれば、非平面形状部分(接合管35における角丸部分32に相当する部分)についても確実に接合し高い接合強度を得ることができる。
【0055】
さらにまた、本実施形態に係る接合方法によれば、例えば、溶接による接合が困難なガス欠陥が多い厚肉部を有する鋳物の被接合部材や、溶接による接合では十分な接合強度が得られない応力集中部を有する被接合部材に対し、これらの部分を摩擦攪拌接合により接合を行うことが可能になり、接合強度を向上させることができる。
【0056】
なお、実施形態に係る接合方法によって接合される構造物は、接合板材22、22A、接合管35に限られず、非平面形状部分を有する中空押し出し材、角パイプ材、各種フレーム材、プレス成形品、鋳造品、鍛造品、焼結品などの被接合部材を背癒合する場合にも適用できる。
【0057】
したがって、本発明に係る接合方法によれば、溶接の接合端部に発生する溶接欠陥を除去できるとともに、摩擦攪拌接合の長所を活かしつつ、その短所を補うことができる。
【符号の説明】
【0058】
11、12 被接合プレート
14 接合工具
15 回転体
16 プローブ
17 ショルダ
21 表面
22、22A 接合板材
24 溶接接合部分
24a 始端部
24b 終端部
24c 気孔
25 摩擦攪拌接合部分
25b 終端部
25a 始端部
26 オーバーラップ部
27、28 角丸角管材
31 辺部分
32 角丸部分
35 接合管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属製の被接合部材を突き合わせて突合部を構成する突合工程と、
前記突合部の一部に沿って溶接を行う溶接工程と、
前記突合部の他部に沿って摩擦攪拌を行う摩擦攪拌接合工程と、を有することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記摩擦攪拌接合工程は、前記突合部のうち略平面形状な部分を接合することを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記溶接工程は、前記突合部のうち非平面形状部分を接合することを特徴とする請求項1または2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記摩擦攪拌接合工程による接合端と前記溶接工程による接合端とを重ねたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項5】
前記摩擦攪拌接合工程による接合端と前記溶接工程による接合端とが重なる部分は、前記突合部のうち略平面形状な部分に位置することを特徴とする請求項4に記載の接合方法。
【請求項6】
前記摩擦攪拌接合工程による接合端と前記溶接工程による接合端とを重ねる範囲は、前記溶接工程におけるビード幅以上とすることを特徴とする請求項4または5に記載の接合方法。
【請求項7】
前記摩擦攪拌接合工程は、前記溶接工程の後に行うことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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