説明

接着が改善されたコーティングを有する医療装置

【課題】金属基体に対する接着が改善された医療装置の提供。
【解決手段】本発明の態様によれば、金属基体と金属基体の上にそれと接触して配置されるポリマー領域を備える医療装置が提供される。ポリマー領域は、(a)(i)高Tgモノマーを含む硬質ポリマーブロックと(ii)低Tgモノマーを含む軟質ポリマーブロック含むブロックコポリマー、(b)(i)金属基体と共有結合で又は非共有結合で結合する第一モノマーと(ii)低Tgモノマー及び/又は高Tgモノマーと適合する第二モノマーを含む接着促進コポリマー及び(c)治療剤を含んでいる。ポリマー領域は、更に、治療剤の放出速度を調整するために用いられる選択できるポリマーを含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、医療装置、より詳しくは、植込み可能な又は挿入可能な医療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
体内に植込む或いは挿入するためのポリマーベースの医療装置が数多く開発されてきた。例えば、最先端の種々の医療装置は、医療装置基体と一つ以上の治療剤のためのリザーバーとして役に立つポリマーコーティングとからなる。具体例としては、バルーン血管形成術の後に血管開通性を維持する診療の基準になっている、Boston Scientific Corp.(TAXUS)、Johnson & Johnson (CYPHER)等から市販されている薬剤溶出冠状動脈ステントが挙げられる。これらの製品は、再狭窄(血管閉塞)と関連している平滑筋増殖を阻止するのに効果的な制御された速度と総投与量で抗増殖剤を放出する生体安定性ポリマーコーティングを有するバルーン拡張型金属ステントに基づくものである。
【0003】
ポリ(n-ブチルメタクリレート)のようなホモポリマー、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル)のようなコポリマー、ホスホリルコリンアクリレートを含有するコポリマー、ポリ(イソブチレン-コ-スチレン)のようなコポリマー、例えば、ポリ(スチレン-b-イソブチレン-b-スチレン)トリブロックコポリマー(SIBS)、例えば、Pinchuk et alの米国特許第6,545,097号に記載されているものを含む種々のタイプのポリマー材料が薬剤放出リザーバーとして用いられてきた。薬剤送達リザーバーとしての使用に加えて、SIBSコポリマーは、優れた生体適合性、弾性、強度、加工可能性を含む、種々の理由のために有益であることがわかった。後者の特性は、少なくとも部分的には、SIBSコポリマーが熱可塑性エラストマーであるという事実によるものである。熱可塑性エラストマーは、例えば、ポリマーを溶解或いは融解することによって、逆転し得る物理的架橋を形成するエラストマー(即ち、可逆的に変形可能な)ポリマーである。SIBSトリブロックコポリマーは、弾性低ガラス転移温度(Tg)中間ブロックと硬質高Tg末端ブロックを有する。多くのブロックコポリマーのように、SIBSは、相分離する傾向があり、エラストマーブロックは、凝集してエラストマー相ドメインを形成し、硬質ブロックは、凝集して硬質相ドメインを形成する。各エラストマーブロックがそれぞれの端に硬質ブロックを有することから、また、同じトリブロックコポリマーの中の異なる硬質ブロックが二つの異なる又は分離した硬質相ドメインを占めることができることから、硬質相ドメインは、軟質ブロックを介して互いに物理的に架橋されると仮定される。相分離した熱可塑性エラストマーの他の実施態様は、ポリメチルメタクリレート末端ブロックとポリブチルアクリレート中間ブロック(MBAM)からなる。得られた望ましい特性は、メタクリレートの硬質ブロックが硬質ブロックドメインに、また、ブチルアクリレートの軟質ブロックが軟質ブロックドメインに同様に相分離することによって生じる。
【0004】
TAXUS製品を形成する現在の方法において、ステンレス鋼の冠状動脈ステントの外面は、溶媒、パクリタキセル及びSIBSを含有する溶液で噴霧されている。溶液は、ステントの外側に、ある程度はステントストラットを通って噴霧される。ステントは、ステントストラットの周りの溶液流といっしょになった外側の噴霧とストラットを通る噴霧の組み合わせによって最終的にはポリマーコーティングで封入される。最終結果は、噴霧プロセスがコンフォーマルコーティングを生じるということである。このようなプロセスの結果は、例えば、図1A及び図1Bにおいて概略図で示されている。図1Aは、多くの相互接続したストラット100sを含有するステント100sを示す図である。図1Bは、図1Aのステント100のストラット110sを線b--bに沿って切った断面図であり、基体110を封入しているステンレス鋼ステント基体110とパクリタキセル含有ポリマーコーティング120を示す図である。コーティングのステント基体表面に対する接着が比較的悪い。しかしながら、それにもかかわらず、生じる封入(及びSIBSの固有の結合力)の結果としてステント基体に充分に固定される。
【0005】
再狭窄を防止するために抗増殖剤を放出することができるポリマーコーティングをステントの反管腔側の表面に備えることが望ましいが、このような薬剤は、ステントの管腔の表面上では同様に望ましいことにならず、実際に、ステントの管腔の表面上で健康な内皮細胞の増殖を遅らせるか或いは妨害することになる程度まで有害になることさえもある。更に、ステンレス鋼を含む種々のステント基体材料が内皮細胞増殖を支持することは知られているので、管腔の表面上のポリマー層の存在は生体適合性を促進するために必要ではない。更に、ポリマーに対して望ましくない潜在的ないかなる生物学的応答をも最小限にするために薬剤被覆ステントの合計ポリマー含量を最小限にすることは望ましいことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の態様によれば、金属基体と金属基体の上にそれと接触して配置されるポリマー領域を備える医療装置が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ポリマー領域は、(a)(i)高Tgモノマーを含む硬質ポリマーブロックと(ii)低Tgモノマーを含む軟質ポリマーブロック含むブロックコポリマー、(b)(i)金属基体と共有結合で又は非共有結合で結合する第一モノマーと(ii)低Tgモノマー及び/又は高Tgモノマーと適合する第二モノマーを含む接着促進コポリマー及び(c)治療剤を含む。
例えば、一部の実施態様において、ポリマー領域は、金属基体の上にそれと接触して 配置される接着促進ポリマー薬剤放出層を備え、接着促進ポリマー薬剤放出層は、ブロックコポリマー、接着促進コポリマー及び治療剤を含んでいる。
他の例として、一部の実施態様において、ポリマー領域は、(a)基体の上にそれと接触して配置される接着促進コポリマーを含む接着促進層と、(b)接着促進層の上にそれと接触して配置されるブロックコポリマーと治療剤を含むポリマー薬剤放出層を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の利点は、医療装置が金属基体に対する接着が改善された治療剤放出層を備えていることである。
本発明のこれらの及び他の多くの態様、実施態様、及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲を見れば当業者に直ちに明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】図1Aは、従来の技術によるステントの概略透視図である。
【図1B】図1Bは、線b--bに沿って切った、図1Aのステントの概略断面図である。
【図2A】図2Aは、本発明の種々の実施態様によるステントストラットの概略断面図である。
【図2B】図2Bは、本発明の種々の実施態様によるステントストラットの概略断面図である。
【図2C】図2Cは、本発明の種々の実施態様によるステントストラットの概略断面図である。
【図3A】図3Aは、本発明の更に種々の実施態様によるステントストラットの概略断面図である。
【図3B】図3Bは、本発明の更に種々の実施態様によるステントストラットの概略断面図である。
【図3C】図3Cは、本発明の更に種々の実施態様によるステントストラットの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のより完全な理解は、本発明の多くの態様及び実施態様の以下の詳細な説明によって得られる。以下の本発明の詳細な説明は、本発明を具体的に説明するものであるが限定するものではない。
【0011】
本発明の態様によれば、金属基体と金属基体の上にそれと接触して配置されるポリマー領域を備える医療装置が提供される。ポリマー領域は、(a)(i)高Tgモノマーを含む硬質ポリマーブロックと(ii)低Tgモノマーを含む軟質ポリマーブロック含むブロックコポリマー、(b)(i)金属基体と共有結合で又は非共有結合で結合する第一モノマーと(ii)低Tgモノマー及び/又は高Tgモノマーと適合する第二モノマーを含む接着促進コポリマー及び(c)治療剤を含む。ポリマー領域は、更に、治療剤の放出プロファイルを調整して、例えば、臨床結果によって確認されるように至適用量プロファイルを得るために用いられる選択できる放出性(release-affecting)ポリマーを含んでもよい。このような選択できる放出性ポリマーは、例えば、(i)ブロックコポリマーの高Tgモノマーと低Tgモノマーの一方と適合するモノマー及び(ii)ブロックコポリマーの高Tgモノマーと低Tgモノマーのもう一方と不適合のモノマーを含むコポリマーであってもよい。
【0012】
本明細書に用いられる“ポリマー領域”は、ポリマーを、例えば、50wt%以下から75wt%まで90wt%まで95wt%まで97.5wt%まで99wt%以上のポリマーまで含有する三次元物質である。本明細書に用いられるポリマー領域は、二つ以上の隣接のポリマー層を備えることができる。
【0013】
本明細書に用いられる“ポリマー層”は、ポリマーを含有する層である。本発明による層は、用途によっては、下にある金属基体の全部又は一部だけの上に配置され得る。層は、下にある基体の上に種々の位置に種々の形状で(例えば、一連の矩形、縞文様、又は他の任意の連続した又は連続しないパターンの形で)設けることができる。本明細書に用いられる所定の材料の“層”は、厚さがその長さと幅に比べて小さいその材料の領域である。本明細書に用いられる層は、平面であることを必要とせず、例えば、下にある基体の輪郭に載せられる。
【0014】
本明細書に用いられる“接着促進層”は、金属基体と追加のポリマー層との間に配置される場合に、接着促進層がないときのような接着に相対して金属基体に対する追加のポリマー層の接着が改善されるポリマー層である。
【0015】
本明細書に用いられる“接着促進コポリマー”は、(a)一つ以上の他のポリマーと共にポリマー層に含まれる場合に、接着促進ポリマーがポリマー層に含まれないような接着に相対して隣接した金属基体に対するポリマー層の接着が改善されるコポリマー、又は(b)金属基体と第二ポリマー層との間の第一ポリマー層に配置される場合に、第一ポリマー層がないときのような接着に相対して金属基体に対する第二ポリマー層の接着が改善されるコポリマーである。
【0016】
接着性は、例えば、接着剤剥離抵抗性のASTM試験法D1876-01標準試験法(T-剥離試験)又は類似の試験法によって又は(ASTM剥離接着性3330/D3330M-04と類似の)基体からコーティングの180度剥離を測定することによって測定することができる。
【0017】
本明細書に用いられる“ポリマー薬剤放出層”は、治療剤を含有するポリマー層であり、少なくともその一部は生体内でポリマー薬剤放出層から放出される。
【0018】
本明細書に用いられる“金属基体”は、金属を、例えば、50wt%以下から75wt%まで90wt%まで95wt%まで97.5wt%まで99wt%以上の金属まで含有するものである。これらには、純粋な金属基体(不純物、未変性酸化物、変性酸化物等がない)、例えば、純粋な単一金属(例えば、Ti、Ta)から形成されたもの、純粋な金属合金、例えば、鉄とクロムを含む合金(例えば、白金強化放射線不透過性ステンレス鋼を含むステンレス鋼)、ニオブ合金、ニッケルとチタンを含む合金を含むチタン合金(例えば、ニチノール)、コバルトとクロムと鉄を含む合金を含むコバルトとクロムを含む合金(例えば、エルギロイ合金)、ニッケルとコバルトとクロムを含む合金(例えば、MP 35N)、コバルトとクロムとタングステンとニッケルを含む合金(例えば、L605)、ニッケルとクロムを含む合金(例えば、インコーネル合金)が含まれる。
【0019】
本明細書に用いられる“ポリマー”は、一般にモノマーと呼ばれる一つ以上の構成単位の複数のコピー(例えば、2から5まで10まで25まで50まで100まで250まで500まで1000以上までのコピー)を含有する分子である。本明細書に用いられる用語“モノマー”は、遊離モノマーやポリマーに組み込まれるものを意味してもよく、違いは用語が用いられる状況から明らかである。
【0020】
第一モノマーが第二モノマーと同じである場合、又は第一モノマーと第二モノマーのポリマーが互いに混和できる場合、本明細書に用いられる第一モノマーは、第二モノマーと“適合する”ものである。
【0021】
ポリマーは多くの構造を取ってもよく、例えば、特に、環状、直鎖、分枝鎖の構造より選ばれてもよい。分枝鎖構造としては、星型構造(例えば、三連鎖以上が単一の枝分かれ部位から放射する構造)、櫛型構造(例えば、主鎖と複数の側鎖を有する構造、"グラフト"構造とも呼ばれる)、樹枝状構造(例えば、樹枝状ポリマーや高分岐ポリマー)、網状構造(例えば、架橋構造)等が挙げられる。
【0022】
本明細書に用いられる“ホモポリマー”は、単一構成単位の複数のコピーを含有するポリマーである。“コポリマー”は、少なくとも2つの異なる構成単位(即ち、モノマー)の複数のコピーを含有するポリマーであり、例としては、ランダムコポリマー、統計コポリマー、周期コポリマー(例えば、交互ポリマー)及びブロックコポリマーが挙げられる。
【0023】
本明細書に用いられる“ブロックコポリマー”は、例えば、構成単位(即ち、モノマー)が一つのポリマーブロックに見られ他のポリマーブロックに見られないことから、組成が異なる二つ以上のポリマーブロックを含有するコポリマーである。本明細書に用いられる“ポリマーブロック”又は“ブロック”は、構成単位(例えば、5から10まで25まで50まで100まで250まで500まで1000以上までの単位)のグループ化である。ブロックは、非分枝鎖又は分枝鎖であり得る。ブロックは、単一タイプの構成単位(本明細書では"ホモポリマーブロック"とも呼ぶ)又は複数タイプの構成単位(本明細書では“コポリマーブロック”とも呼ぶ)を含有することができ、例えば、ランダム、統計、勾配、又は周期(例えば、交互)の分布で存在してもよい。
【0024】
本明細書に用いられる“連鎖”は、直鎖ポリマー又はその一部、例えば、直鎖ブロックである。
【0025】
本発明の医療装置は、広く異なる。例としては、植込み可能な又は挿入可能な医療装置、例えば、カテーテル(例えば、バルーンカテーテルや種々の中心静脈カテーテルのような泌尿器科的カテーテル又は血管カテーテル)、ガイドワイヤ、バルーン、フィルタ(例えば、滴下防御装置用の大静脈フィルタやメッシュフィルタ)、ステント(冠状動脈血管ステント、末梢血管ステント、大脳ステント、尿道ステント、尿管ステント、胆管ステント、気管ステント、胃腸ステント、食道ステントを含む)、ステント被覆、ステント移植片、血管移植片、腹部大動脈瘤(AAA)装置(例えば、AAAステント、AAA移植片)、血管アクセスポート、透析ポート、脳動脈瘤フィラーコイル(Guglilmi着脱可能コイルや金属コイルを含む)を含む塞栓装置、塞栓物質、中隔欠損閉鎖装置、心筋プラグ、パッチ、ペースメーカー、ペースメーカーリード、除細動リード、除細動コイル、左心補助心臓・ポンプを含む補助人工心臓、完全人工心臓、シャント、心臓弁や血管バルブを含むバルブ、吻合クリップ、吻合リング、人工内耳、組織バルキング装置、縫合固定、組織ステープル、外科手術部位における結紮クリップ、カニューレ、金属線結紮、尿道スリング、ヘルニア“メッシュ”、整形外科プロテアーゼ、例えば、骨移植片、骨接プレート、フィン又は融合装置、及び軟骨、骨、皮膚及び他の生体内組織再生のための再生医療骨格、生検装置、並びに体内に植込まれるか又は挿入され且つ治療剤が放出される他の任意の装置が挙げられる。
【0026】
本発明の実施態様によれば、(a)金属基体及び(b)(i)ブロックコポリマー、(ii)接着促進コポリマー及び(iii)治療剤を(例えば、ブレンド又は他の混合物の形で)含有する金属基体の上にそれと接触して配置されるポリマー薬剤放出層を含む医療装置が提供される。上述したように、ブロックコポリマーは、(i)高Tgモノマーを含む硬質ポリマーブロックと(ii)低Tgモノマーを含む軟質ポリマーブロックを含むが、接着促進コポリマーは、(i)金属基体と共有結合で又は非共有結合で結合するモノマーと(ii)低Tgモノマー及び/又は高Tgモノマーと適合するモノマー、又は高Tgモノマーと適合する異なるモノマーと組み合わせた低Tgモノマーと適合するモノマーを含む。上述したように、ポリマー領域は、更に、選択できる放出性ポリマーを含んでもよい。このような選択できる放出性ポリマーは、例えば、(i)ブロックコポリマーの高Tgモノマーと低Tgモノマーの一方と適合するモノマーと(ii)ブロックコポリマーの高Tgモノマーと低Tgモノマーのもう一方と不適合のモノマーを含むコポリマーであってもよい。
【0027】
理論によって縛られることを望まないが、金属基体と共有結合で又は非共有結合で結合する接着促進コポリマーの中のモノマーは、基体に対してポリマー薬剤放出層の良好な接着を促進させるが、ブロックコポリマーの低Tgモノマー及び/又は高Tgモノマーと適合する接着促進コポリマーの中の一つ又は複数のモノマーは、接着促進コポリマーとポリマー薬剤放出層内のブロックコポリマーとの間の良好な相互作用を促進させると考えられる。
【0028】
本発明のこの態様の具体的な実施態様は、ステントストラット110s、例えば、(以下に記載されるコーティングスキームを除く)図1Aのようなステント設計に対応しているものの断面図である図2Aに示されている。ステントストラット110sは、金属ステント基体110と、その上に配置されるポリマー領域、特に、(i)ブロックコポリマー、(ii)接着促進ポリマー、(iii)治療剤及び(iv)選択できる放出性ポリマーを含有する接着促進ポリマー薬剤放出層210を含む。
【0029】
他の具体的な実施態様は、図2Aのように、金属ステント基体110と、その上に配置される(i)ブロックコポリマー、(ii)接着促進ポリマー、(iii)治療剤及び(iv)選択できる放出性ポリマーを含有する接着促進ポリマー薬剤放出層210を含むステントストラット110sの断面図である図2Bに示されている。しかしながら、図2Aとは異なり、図2Bにおけるポリマー薬剤放出層は、本実施態様においてステント基体110の反管腔側の表面110aだけに適用されている。このような層210は、例えば、ステントのアパーチャー(従って、ストラット)を形成するために材料を(例えば、切断、穴あけ等によって)除去する前に管状ステント前駆物質(例えば、チューブ)をポリマー薬剤放出層210で被覆することによって、又は任意の他の適切な方法(例えば、トランスファコーティング)によって生成することができる。
【0030】
更に他の具体的な実施態様は、図2A及び図2Bのように、金属ステント基体110と、その上に配置される(i)ブロックコポリマー、(ii)接着促進ポリマー、(iii)治療剤及び(iv)選択できる放出性ポリマーを含有する接着促進ポリマー薬剤放出層210を含むステントストラット110sの断面図である図2Cに示されている。しかしながら、図2A及び図2Bと異なり、図2Cにおけるポリマー薬剤放出層は、ステント基体110の反管腔側の表面110aだけでなく、反管腔側の表面110aと管腔の表面110lとの間のステント基体110の側面に適用されている。このような層210は、例えば、ポリマー薬剤放出層210の付着の間にステント110lの管腔の内面をマスクすることによって、ポリマー薬剤放出層210を生成した後にステント110lの管腔の内面からポリマー材料を除去することによって、又は任意の他の適切な方法によって生成することができる。
【0031】
図2B及び図2Cの実施態様は、コーティングが図2Aにおいて囲んでいるようにステント基体110を囲んでいないことから、図2Aの実施態様より接着観点からの要求が多い。このように、本発明は、特にこのような実施態様において有利である。
【0032】
本発明の他の実施態様によれば、(a)金属基体、(b)金属基体の上にそれと接触して配置される接着促進コポリマーを含有する接着促進層、及び(c)接着促進層の上にそれと接触して配置される、ブロックコポリマー、治療剤及び選択できる放出性ポリマーを(例えば、ブレンド又は他の混合物の形で)含有するポリマー薬剤放出層を含む医療装置が提供される。
【0033】
上述したように、ブロックコポリマーは、(i)高Tgモノマーを含む硬質ポリマーブロックと(ii)低Tgモノマーを含む軟質ポリマーブロックを含む。接着促進コポリマーは、(i)金属基体と共有結合で又は非共有結合で結合するモノマーと(ii)低Tgモノマーと適合するモノマー及び/又は高Tgモノマーと適合するモノマー、又は高Tgモノマーと適合する異なるモノマーと組み合わせた低Tgモノマーと適合するモノマーを含む。選択できる放出性ポリマーは、例えば、(i)ブロックコポリマーの高Tgモノマーと低Tgモノマーの一方と適合するモノマーと(ii)ブロックコポリマーの高Tgモノマーと低Tgモノマーのもう一方と不適合のモノマーを含むコポリマーであってもよい。
【0034】
理論によって縛られることを望まないが、金属基体と共有結合で又は非共有結合で結合する接着促進コポリマーの中のモノマーは、下にある基体に対して接着促進層の良好な接着を促進させるが、ブロックコポリマーの低Tgモノマー及び/又は高Tgモノマーと適合する接着促進コポリマーの中の一つ又は複数のモノマーは、接着促進層と上にあるポリマー薬剤放出層との間の良好な相互作用を促進させると考えられる。
【0035】
本発明の本態様の具体的な実施態様は、ステントストラット110s、例えば、(以下に記載されるコーティングスキームを除く)図1Aのようなステント設計に対応しているものの断面図である図3Aに示されている。図3Aのステントストラット110sは、金属ステント基体110及び接着促進コポリマーを含有し且つ金属ステント基体110の上にそれと接触して配置される接着促進層320を含むポリマー領域300並びに接着促進層320の上にそれと接触して配置される、ブロックコポリマー、治療剤及び選択できる放出性ポリマーを含有するポリマー薬剤放出層330を含んでいる。
【0036】
他の具体的な実施態様は、ステント基体110及びポリマー領域300を含むステントストラット110sの断面図である、図3Bに示されている。ポリマー領域300は、更に、接着促進コポリマーを含有し且つステント基体110の上にそれと接触して配置される接着促進層320、及び接着促進層320の上にそれと接触して配置される、ブロックコポリマー、治療剤及び選択できる放出性ポリマーを含有するポリマー薬剤放出層330を含んでいる。図3Aと異なり、接着促進層320とポリマー薬剤放出層330は、本実施態様におけるステント基体110の反管腔側の表面110aだけに適用されている。このような構造は、例えば、材料を除去して(例えば、切断、穴あけによって)、ステントのアパーチャー(従って、ストラット)を形成する前に、管状ステント前駆物質を接着促進層320とポリマー薬剤放出層330で被覆することによって、又は任意の他の適切な方法(例えば、トランスファコーティング)によって生成することができる。
【0037】
更に他の具体的な実施態様は、ステント基体110とポリマー領域300を含むステントストラット110sの断面図である図3Cに示されている。ポリマー領域300は、更に、接着促進コポリマーを含有し且つステント基体110の上にそれと接触して配置される接着促進層320と、接着促進層320の上にそれと接触して配置される、ブロックコポリマー、治療剤及び選択できる放出性ポリマーを含有するポリマー薬剤放出層330とを含んでいる。図3A及び図3Bと異なり、接着促進層320とポリマー薬剤放出層330は、ステント基体110の反管腔側の表面110aだけでなく、反管腔側の表面110aと管腔の表面110lとの間のステント基体110の側面に適用されている。このような構造は、例えば、接着促進層320とポリマー薬剤放出層330の付着の間にステント110lの管腔の内面をマスクすることによって、接着促進層320とポリマー薬剤放出層330を生成した後にステント110lの管腔の内面からポリマー材料を除去することによって、又は任意の他の適切な方法によって生成することができる。
【0038】
図3B及び図3Cの実施態様は、コーティングが図3Aにおいて囲んでいるようにステント基体110を囲んでいないことから、図3Aの実施態様より接着観点からの要求が多い。
【0039】
上で示したように、本発明の医療装置は、(接着促進コポリマーと選択できる放出性ポリマーに加えて)(a)一つ以上のタイプの高Tgモノマーを含む一つ以上の硬質ポリマーブロックと(b)一つ以上のタイプの低Tgモノマーを含む一つ以上の軟質ポリマーブロックを含有する一つ以上のブロックコポリマーを含有する。
【0040】
本明細書に用いられる“低Tgポリマーブロック”とも呼ばれる“軟質ポリマーブロック”は、体温未満、より典型的には35℃から20℃まで0℃まで-25℃まで-50℃以下までのTgを示すものである。低Tgモノマーは、ホモポリマーに形成される場合に体温未満であるTgを示すものである。逆に、本明細書に用いられる“高Tgポリマーブロックとも呼ばれる“硬質ポリマーブロック”は、体温を超える、より典型的には、40℃から50℃まで75℃まで100℃以上までのTgを示すものである。高Tgモノマーは、ホモポリマーに形成される場合に体温を超えるTgを示すものである。Tgは、示差走査熱量測定法(DSC)によって測定され得る。
【0041】
低Tgポリマーブロックの具体例としては、以下の低Tgモノマーの一つ以上を含有するホモポリマー及びコポリマーが挙げられる(これらのホモポリマーについて発表されたTgと共に記載する): (1)エチレン、プロピレン(Tg -8〜13℃)、イソブチレン(Tg -73℃)、1-ブテン(Tg -24℃)、4-メチルペンテン(Tg 29℃)、1-オクテン(Tg -63℃)、他のα-オレフィン、ジエン、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチルl-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、4-ブチル-1,3-ペンタジエン、2,3-ジブチル-1,3-ペンタジエン、2-エチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、塩化ビニリデン(Tg -18℃)、フッ化ビニリデン(Tg -40℃)、シスクロロブタジエン(Tg -20℃)、トランスクロロブタジエン、(Tg -40℃)を含むハロゲン化アルケンモノマーを含む無置換及び置換のアルケンモノマー; (2)(a)アルキルアクリレート、例えば、メチルアクリレート(Tg 10℃)、エチルアクリレート(Tg -24℃)、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート(Tg -11℃、アイソタクチック)、ブチルアクリレート(Tg -54℃)、sec-ブチルアクリレート(Tg -26℃)、イソブチルアクリレート(Tg -24℃)、シクロヘキシルアクリレート(Tg 19℃)、2-エチルヘキシルアクリレート(Tg -50℃)、ドデシルアクリレート(Tg -3℃)、(b)アリールアルキルアクリレート、例えば、ベンジルアクリレート (Tg 6℃)、(c)アルコキシアルキルアクリレート、例えば、2-エトキシエチルアクリレート(Tg -50℃)、2-メトキシエチルアクリレート(Tg -50℃)、(d)ハロアルキルアクリレート、例えば、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート(Tg -10℃)、(e)シアノアルキルアクリレート、例えば、2-シアノエチルアクリレート(Tg 4℃)を含むアクリルモノマー; (3)(a)アルキルメタクリレート、例えば、ブチルメタクリレート(Tg 20℃)、ヘキシルメタクリレート(Tg -5℃)、2-エチルヘキシルメタクリレート(Tg -10℃)、オクチルメタクリレート(Tg -20℃)、ドデシルメタクリレート(Tg -65℃)、ヘキサデシルメタクリレート(Tg 15℃)、オクタデシルメタクリレート(Tg -100℃)、(b)アミノアルキルメタクリレート、例えば、ジエチルアミノエチルメタクリレート(Tg 20℃)、2-tert-ブチルアミノエチルメタクリレート(Tg 33℃)を含むメタクリルモノマー; (4) (a)アルキルビニルエーテル、例えば、メチルビニルエーテル(Tg -31℃)、エチルビニルエーテル(Tg -43℃)、プロピルビニルエーテル(Tg -49℃)、ブチルビニルエーテル(Tg -55℃)、イソブチルビニルエーテル(Tg -19℃)、2-エチルヘキシルビニルエーテル(Tg -66℃)、ドデシルビニルエーテル(Tg -62℃)を含むビニルエーテルモノマー; (5)テトラヒドロフラン(Tg -84℃)、トリメチレンオキシド(Tg -78℃)、エチレンオキシド(Tg -66℃)、プロピレンオキシド(Tg -75℃)、メチルグリシジルエーテル(Tg -62℃)、ブチルグリシジルエーテル(Tg -79℃)、アリルグリシジルエーテル(Tg -78℃)、エピブロモヒドリン(Tg -14℃)、エピクロロヒドリン(Tg -22℃)、1,2-エポキシブタン(Tg -70℃)、1,2-エポキシオクタン(Tg -67℃)、1,2-エポキシデカン(Tg -70℃)を含む環状エーテルモノマー; (6)エチレンマロネート(Tg -29℃)、酢酸ビニル(Tg 30℃)、ビニルプロピオネート(Tg 10℃)を含むエステルモノマー(上記のアクリレートやメタクリレート以外); 及び(7)ジメチルシロキサン(Tg -127℃)、ジエチルシロキサン、メチルエチルシロキサン、メチルフェニルシロキサン(Tg -86℃)、ジフェニルシロキサンを含むシロキサンモノマー。
【0042】
高Tgポリマーブロックの具体例としては、以下の高Tgモノマーの一つ以上を含有するホモポリマー及びコポリマーブロックが挙げられる: (1)(a)無置換ビニル芳香族化合物、例えば、スチレン(Tg 100℃)、2-ビニルナフタレン(Tg 151℃)、(b)ビニル置換芳香族化合物、例えば、α-メチルスチレ、(c)環アルキル化ビニル芳香族化合物、例えば、3-メチルスチレン(Tg 97℃)、4-メチルスチレン(Tg 97℃)、2,4-ジメチルスチレン(Tg 112℃)、2,5-ジメチルスチレン(Tg 143℃)、3,5-ジメチルスチレン(Tg 104℃)、2,4,6-トリメチルスチレン(Tg 162℃)、4-tert-ブチルスチレン(Tg 127℃)、環アルコキシル化ビニル芳香族化合物、例えば、4-メトキシスチレン(Tg 113℃)及び4-エトキシスチレン(Tg 86℃)、環ハロゲン化ビニル芳香族化合物、例えば、2-クロロスチレン(Tg 119℃)、3-クロロスチレン(Tg 90℃)、4-クロロスチレン(Tg 110℃)、2,6-ジクロロスチレン(Tg 167℃)、4-ブロモスチレン(Tg 118℃)、4-フルオロスチレン(Tg 95℃)、環エステル置換ビニル芳香族化合物、例えば、4-アセトキシスチレン(Tg 116℃)、環ヒドロキシル化ビニル芳香族、例えば、4-ヒドロキシスチレン(Tg 174℃)、4-アミノスチレンを含む環アミノ置換ビニル芳香族化合物、環シリル置換スチレン、例えば、p-ジメチルエトキシシロキシスチレン、無置換及び置換ビニルピリジン、例えば、2-ビニルピリジン(Tg 104℃)、4-ビニルピリジン(Tg 142℃)、他のビニル芳香族モノマー、例えば、ビニルカルバゾール(Tg 227℃)、ビニルフェロセン(Tg 189℃)を含む環-置換ビニル芳香族化合物を含むビニル芳香族モノマー; (2)(a)ビニルエステル、例えば、ビニルベンゾエート(Tg 71℃)、ビニル4-tert-ブチルベンゾエート(Tg 101℃)、ビニルシクロヘキサノエート(Tg 76℃)、ビニルピバレート(Tg 86℃)、ビニルトリフルオロアセテート(Tg 46℃)、ビニルブチラール(Tg 49℃)、(b)ビニルアミン、(c)ビニルハロゲン化物、例えば、塩化ビニル(Tg 81℃)、フッ化ビニル(Tg 40℃)、(d)アルキルビニルエーテル、例えば、tert-ブチルビニルエーテル(Tg 88℃)、シクロヘキシルビニルエーテル(Tg 81℃)、(e)他のビニル化合物、例えば、ビニルピロリドンを含む他のビニルモノマー; (3)アセナフタレン(Tg 214℃)、インデン(Tg 85℃)を含む他の芳香族モノマー; (4)(a)メタアクリル酸無水物(Tg 159℃)、(b)(i)アルキルメタクリレート、例えば、メチルメタクリレート(Tg 105-120℃)、エチルメタクリレート(Tg 65℃)、イソプロピルメタクリレート(Tg 81℃)、イソブチルメタクリレート(Tg 53℃)、t-ブチルメタクリレート(Tg 118℃)、シクロヘキシルメタクリレート(Tg 92℃)、(ii)芳香族メタクリレート、例えば、フェニルメタクリレート) (Tg 110℃)及び芳香族アルキルメタクリレート、例えば、ベンジルメタクリレート(Tg 54℃)、(iii)ヒドロキシアルキルメタクリレート、例えば、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(Tg 57℃)、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(Tg 76℃)、(iv)イソボルニルメタクリレートやトリメチルシリルメタクリレート(Tg 68℃)を含む追加のメタクリレート(Tg 110℃)を含むメタクリル酸エステル(メタクリレート)、(c)メタクリロニトリル(Tg 120℃)を含む他のメタアクリル酸誘導体を含むメタクリルモノマー; (5)(a)ある種のアクリル酸エステル、例えば、tert-ブチルアクリレート(Tg 43-107℃)、ヘキシルアクリレート(Tg 57℃)、イソボルニルアクリレート(Tg 94℃); (b)アクリロニトリルを含む他のアクリル酸誘導体(Tg 125℃)を含むアクリルモノマー。
【0043】
本明細書に用いられるポリ(ビニル芳香族)ブロックは、一つ以上の種類のビニル芳香族モノマーの複数のコピーを含有するポリマーブロックであり、ポリアルケンブロックは、一つ以上の種類のアルケンモノマーの複数のコピーを含有するブロックであり、ポリアクリレートブロックは、一つ以上の種類のアクリレートモノマーの複数のコピーを含有するブロックであり、ポリメタクリレートブロックは、一つ以上の種類のメタクリレートモノマーの複数のコピーを含有するブロックであり、ポリシロキサンブロックは、一つ以上の種類のシロキサンモノマーの複数のコピーを含有するブロック等である。
【0044】
硬質ブロック(“H”)と軟質ブロック(“S”)から形成することができるブロックコポリマー構造の少しの例としては、特に、以下のものが挙げられる: (a)(HS)m、S(HS)m及びH(SH)m (ここで、mは、1以上の正の整数である)型の交互ブロックを有するブロックコポリマー、及び(b)マルチアーム形状、例えば、X(SH)n、X(HS)n (ここで、nは、2以上の正の整数であり、Xは、ハブ種(例えば、開始剤分子残基、予備形成ポリマー鎖が結合されている分子の残基等)である)を有するブロックコポリマーが挙げられる。前述のハブ種に加えて、上記のようなコポリマーは、特に、キャッピング分子を含む、コポリマーに一般に存在する種々の他の非ポリマー鎖種を含有することができる。ハブ種、結合種等の他の非ポリマー鎖種は、通常は、ブロックコポリマー形態を記載する際に無視され、例えば、X(SH)2は、通常は、HSHトリブロックコポリマーとして示されることは留意されたい。ブロックコポリマーの他の例としては、S鎖骨格鎖と複数のH側鎖を有する櫛型コポリマー、及びH鎖骨格鎖と複数のS側鎖を有する櫛型コポリマーが挙げられる。
【0045】
上記からわかるように、ある種の他の実施態様において、使われるブロックコポリマーは、単一の低Tgブロックと単一の高Tgブロックを含有するジブロックコポリマーであり、本発明のある種の他の実施態様において、使われるブロックコポリマーは、低Tgブロックと少なくとも二つの高Tgブロックを含み、低Tgブロックの少なくとも一部が高Tgブロックを分離している(言い換えれば、高Tgブロックは、低Tgブロックを介して相互接続されている)もの等である。後者のタイプのポリマーは、高強度及びエラストマー特性を示すことができ、同時に溶媒ベースの及び/又は溶融物ベースの処理技術のような技術を用いて処理可能である。周知のように、ブロックコポリマーは、相分離する傾向がある。上記のようなポリマーにおいて、硬質高Tgブロックは、凝集して硬質相ドメインを形成する。理論によって縛られることを望まないが、硬質高Tgブロックが低Tgブロック(又はその一部、例えば、グラフトコポリマーの場合)を介して相互接続され、低Tgブロック又はその一部がエラストマーであることから、硬質相ドメインは、エラストマーブロックを介して互いに物理的に架橋すると考えられる。更に、架橋は、本来は共有結合しないことから、例えば、ブロックコポリマーを溶解又は融解することによって逆転し得る。
【0046】
各々が(i)高Tgモノマーの少なくとも一つの種類を含む少なくとも一つの硬質ポリマーブロックと(ii)低Tgモノマーの少なくとも一つの種類を含む少なくとも一つの軟質ポリマーブロックを含む一つ以上の種類のブロックコポリマーに加えて、また、選択できる放出性ポリマーの一つ以上の種類に加えて、本発明の医療装置は、また、少なくとも一つの接着促進コポリマーを用いる。本発明の接着促進コポリマーは、以下の(a)金属基体と共有結合で又は非共有結合で結合する少なくとも一つのモノマーとブロックコポリマーの中の少なくとも一つの低Tgモノマーと適合する少なくとも一つのモノマーを含むコポリマー(即ち、低Tgモノマーに対する親和性が高い同じモノマー又は異なるモノマー、例えば、低Tgモノマー及び異なるモノマーのホモポリマーは互いに混和性である)、(b)金属基体と共有結合で又は非共有結合で結合する少なくとも一つのモノマーとブロックコポリマーの中の少なくとも一つの高Tgモノマーと適合する少なくとも一つのモノマー(例えば、高Tgモノマーに対する親和性が高い同じモノマー又は異なるモノマー)を含むコポリマー、及び(c)金属基体と共有結合で又は非共有結合で結合する少なくとも一つのモノマー、ブロックコポリマーの中の少なくとも一つの低Tgモノマーと適合する少なくとも一つのモノマー、及びブロックコポリマーの中の少なくとも一つの高Tgモノマーと適合する少なくとも一つのモノマーを含むコポリマーを含む。
【0047】
理論によって縛られることを望まないが、水は、ステンレス鋼のような金属を浸す傾向が強く、このような表面上に配置されるポリマー層をしばしば置き換えることになることが知られている。しかしながら、この傾向は、本発明に従って金属表面と共有結合又は強い非共有結合(例えば、強い酸塩基相互作用)を形成する接着促進ポリマーを設けることによって防止することができる。
【0048】
金属基体に共有結合で結合することができるモノマーの例としては、一つ以上のアルコキシシラン基、例えば、

基を含有するもの、例えば、

(ここで、R1、R2及びR3は、独立して、アルキル基(例えば、直鎖又は分枝鎖C1-C10アルキル、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル等)、アリール基(例えば、C6-C12アリール、例えば、フェニル、アルキル置換フェニル等)又はアルコキシ基(例えば、直鎖又は分枝鎖C1-C10アルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、sec-ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ等)であるが、R1、R2、R3の少なくとも一つはアルコキシ基であり、R4は、ポリマー鎖又は骨格鎖に重合され得る反応性基を含有する(例えば、R4は、ビニル、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ等であってもよい))。このような基は、重合時にモノマーに存在してもよく、又は重合時にポリマーに組み込まれるR4を除いて、続いて形成されるポリマーの中のモノマーに添加されてもよい。
【0049】
アルコキシシランは、金属水酸化物と反応することが知られている。例えば、以下に概略図で示されるように、本発明の接着促進ポリマー(“Poly”)のアルコキシシラン基は、金属表面上のヒドロキシル基と反応することができる:

【0050】
アルコキシシラン基は、また、それ自体と反応して、Si-O-Si結合を形成してもよい。
【0051】
アルコキシシランモノマーの具体例としては、例えば、特に、下記式のようなビニル(アルキレン)アルコキシシラン

下記式のようなアクリロイルオキシ(アルキレン)アルコキシシラン

及び下記式のようなメタクリロイルオキシ(アルキレン)アルコキシシラン

(ここで、n=0、1、2、3、4、5、6、7、8、9等、及びR1、R2及びR3は、上で定義した通りである)が挙げられる。このようなモノマーの更に具体例としては、他の多くの中でも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルメチレントリメトキシシラン、ビニルジメチレントリメトキシシラン、ビニルトリメチレントリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシトリイソプロポキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチレントリメトキシシラン、(メラ)アクリロイルオキシジメチレントリメトキシシラン、及び(メタ)アクリロイルオキシトリメチレントリメトキシシランが挙げられる。
【0052】
金属基体と強い非共有結合を形成することができるモノマーの例としては、酸性基、例えば、ブレンステッド酸として作用する基及び/又はルイス酸として作用する基を有するモノマーが挙げられる。このような基は、重合時にモノマーに存在してもよく、又は続いて形成されるポリマーの中のモノマーに添加されてもよい。
【0053】
ブレンステッド酸は、プロトン(例えば、水素イオン)供与体であるが、ブレンステッド塩基は、プロトン(例えば、水素イオン)受容体である。ルイス酸は電子対受容体であるが、ルイス塩基は電子対供与体である。ブレンステッド酸はルイス酸であるが、逆は必ずしも言えない。また、ブレンステッド塩基はルイス塩基であるが、逆は必ずしも言えない。
【0054】
理論によって縛られることを望まないが、金属表面は、典型的には、本来は塩基性であることから、酸性基を有するポリマーは、金属表面と強い酸塩基相互作用を形成することができると考えられる。例えば、酸塩基反応は、金属表面を酸にさらす際に起こり得る。例えば、プロトンが酸性モノマーから金属酸化物に移ってもよく、又は他の可能性の中でも、金属酸化物が電子対を酸性モノマーに供与してもよい。
【0055】
酸性モノマーの具体例は、ブレンステッド酸基、例えば、カルボン酸基(-COOH)、カルボン酸無水物基

ヒドロキシル酸基、ヒドロキシ芳香族基、例えば、モノヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、スルホン酸基(-SO3H)、ホスホン酸基(-PO(OH)2)を含有するものである。
【0056】
酸性モノマーの更に具体例としては、特に、アクリル酸、メタアクリル酸、2-エチルアクリル酸、2-プロピルアクリル酸、2-(ブロモメチル)アクリル酸、2-(トリフルオロメチル)アクリル酸、2-ブロモアクリル酸、2-(トリフルオロメチル)アクリル酸、2-エチルアクリル酸、メチレンマロン酸、ビニル酢酸、アリル酢酸、スチリル酢酸、4-ビニル安息香酸、ジメチルアクリル酸、フェニルアクリル酸、ヒドロキシスチレン、ジヒドロキシスチレン、無水マレイン酸、無水コハク酸、ビニルスルホン酸、4-スチレンスルホン酸、3-(ビニルオキシ)プロパン-1-スルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸、2-スルホエチルメタクリレート、2-スルホエチルアクリレート、3-スルホプロピルアクリレート、スルホエチルメタクリルアミド、ビニルホスホン酸、及びアリルホスホン酸が挙げられる。
【0057】
ブロックコポリマーの一つ以上の種類及び接着促進コポリマーの一つ以上の種類に加えて、本発明の医療装置は、また、必要により、一つ以上の放出性ポリマーを使ってもよい。このような選択できる放出性ポリマーは、例えば、(i)ブロックコポリマーの低Tgモノマーと適合するモノマーと(ii)ブロックコポリマーの高Tgモノマーと不適合のモノマーを含むコポリマーであってもよい。他の例として、選択できる放出性ポリマーは、(i)ブロックコポリマーの高Tgモノマーと適合するモノマーと(ii)ブロックコポリマーの低Tgモノマーと不適合のモノマーを含むコポリマーであってもよい。
【0058】
具体例として、ブロックコポリマーは、ポリ(スチレン-b-アルケン)ブロックコポリマー、例えば、SIBSであってもよいが、選択できる放出性ポリマーは、ポリ(スチレン-コ-無水マレイン酸)コポリマー(SMA)であってもよく、これは、スチレンモノマー(従って、ブロックコポリマーの高Tgスチレンモノマーと適合する)と無水マレイン酸モノマー(ブロックコポリマーの低Tgアルケンモノマーと不適合である)を含有する。例えば、SMAは、パクリタキセルの放出速度を増加させ、また、薬剤含有層に残る残留パクリタキセルの量を減少させることがわかった。しかしながら、SMAは、SIBSの特に効果的接着促進剤ではない。SIBSとSMAに加えて、ポリマー領域は、更に、SMAにおける無水マレイン酸と接着促進コポリマーにおける無水マレイン酸との間に適合性があるような無水マレイン酸を含む接着促進コポリマーを含んでもよい。
【0059】
当業者が理解できるように、種々のブロックコポリマー、接着促進コポリマー及び選択できる放出性ポリマーを含む本発明に使われるコポリマーは、カチオン重合法、アニオン重合法、及びラジカル重合法、特に制御/“リビング”カチオン重合、アニオン重合及びラジカル重合を含む既知の方法に従って合成することができる。
【0060】
リビングフリーラジカル重合(制御フリーラジカル重合とも呼ばれる)は、多くを求めない種類のラジカル重合のためにリビングプロセスが与える多分散性、構造、及び分子量を制御する能力と組み合わせて種々の実施態様において使われてもよい。フリーラジカル重合ができるモノマーは、広範囲に異なり、他の多くの中でも、以下より選ぶことができる: ビニル芳香族モノマー、例えば、置換スチレンや無置換スチレン、ジエンモノマー、例えば、1,3-ブタジエン、クロロプレン、イソプレン、アクリレートモノマー、例えば、アクリレートエステル、例えば、ブチルアクリレートやメチルアクリレート、メタクリレートモノマー、例えば、メタクリル酸エステル、例えば、メチルメタクリレート、β-ヒドロキシエチルメタクリレート、β-ジメチルアミノエチルメタクリレート、また、他の多くの中でも、アクリル酸、アクリルアミド、アクリロニトリル、エチレン、プロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、イラコン酸、フマル酸、マレイン酸、メタクリル酸、メタクリロニトリル、ビニルエステル、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、フッ化ビニル、N-ビニルピロリジノン、N-ビニルイミダゾール、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンを含む他の不飽和モノマー。
【0061】
フリーラジカル重合プロセスの具体例としては、ニトロキシド仲介プロセス(NMP)を含む、金属触媒原子移動ラジカル重合(ATRP)、安定なフリーラジカル重合(SFRP)、及び可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)プロセスを含む退化的連鎖移動が挙げられる。これらの方法は、文献に充分に詳述され、例えば、Pyun and Matyjaszewski,“Synthesis of Nanocomposite Organic/Inorganic Hybrid Materials Using Controlled/“Living”Radical Polymerization,” Chem. Mater., 13:3436-3448 (2001)、B. Reeves,“Recent Advances in Living Free Radical Polymerization,”November 20, 2001. University of Florida, T. Kowalewski et al.,“Complex nanostructured materials from segmented copolymers prepared by ATRP,”Eur. Phys. J. E, 10, 5-16 (2003)に関する論文に記載されている。
【0062】
種々の官能基(例えば、特に、アルコール基、アミン基、スルホネート基)が耐性であるように、ATRPは魅力的なフリーラジカル重合技術であるので、多くのモノマーの重合を可能にする。ATRPによるモノマー重合において、ラジカルは、一般に、有機ハロゲン化物開始剤と遷移金属錯体を用いて生成される。有機ハロゲン化物開始剤の一部の典型的な例としては、ハロゲン化アルキル、ハロエステル(例えば、メチル2-ブロモプロピオネート、エチル2-ブロモイソブチレート等)及びハロゲン化ベンジル(例えば、臭化1-フェニルエチル、臭化ベンジル等)が挙げられる。種々のRu、Cu、Os及びFeベース系を含む広範囲の遷移金属錯体が使われてもよい。ATRP重合反応に用いることができるモノマーの例としては、種々の不飽和モノマー、例えば、特に、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレート、ビニルエステル、ビニル芳香族モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、4-ビニルピリジンが挙げられる。ATRPにおいて、重合の終わりに、ポリマー鎖は、他の官能基、例えば、他の多くの中でも、アミノ基を与えるSN1、SN2又はラジカル化学によって容易に変換され得るハロゲン原子でキャップされる。官能性は、また、他の方法によって、例えば、ラジカル重合プロセスに関与しない官能基を含有する開始剤を使うことによってポリマーに導入され得る。例としては、特に、エポキシド基、アジド基、アミノ基、ヒドロキシル基、シアノ基、アリル基を有する開始剤が挙げられる。更に、官能基がモノマー自体に存在してもよい。
【0063】
退行的連鎖移動系に基づくラジカル重合は、通常は、ラジカルの存在するときに生成される、開始と移動双方の部分を含有する連鎖移動剤を使う。退行的連鎖移動反応から制御されたラジカル重合は、特に、連鎖移動剤としてヨウ化アルキル、不飽和メタクリレートエステル及びチオエステルによって行われている。ビニルモノマーのラジカル重合のチオエステルの使用によって、RAFT重合が生じる。RAFTプロセスは、官能性のスチレン、(メタ)アクリレート、ビニルエステルだけでなく、他の多くの中でも、イオン種、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(AMPS)や3-アクリルアミド-3-メチルブタン酸ナトリウム(AMBA)を含む水溶性モノマーを含む、非常に広範囲のラジカル重合性モノマーを重合することができる汎用的方法であることがわかった。RAFT後に残っているチオ末端基は、ラジカル化学によって除去されるか又は他の基で置き換えられてもよい。
【0064】
NMPを含むSFRP重合は、アルコキシアミン開始剤とニトロキシド持続性ラジカルを用いてスチレンやアクリレートモノマーを重合する。スチレンの重合に広範囲に用いられたニトロキシドは、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニルオキシ(TEMPO)であるが、最近開発されたニトロキシドは、特に、アクリレート、アクリルアミド、1,3-ジエン及びアクリロニトリルベースのモノマーも、制御された方法で重合することができる。得られたポリマーは、末端アルコキシアミン基を含有し、これはラジカル化学によって変換することができる。例えば、無水マレイン酸又はマレイミド誘導体をアルコキシアミンに添加して、他の官能基の簡単な導入を可能にする。
【0065】
上述したように、本発明のポリマー薬剤放出層は、更に、少なくとも一つの治療剤を含有する。“治療剤”、“薬剤”、“医薬的に活性な物質”、“医薬的に活性な材料”、“活性医薬成分”(API)及び他の関係した用語は、本明細書に同じ意味で用いることができる。
【0066】
本発明のポリマー薬剤放出層から治療剤の放出速度は、例えば、薬剤放出層の中の治療剤の種類、薬剤放出層の中のブロックコポリマーの種類(例えば、分子量、構造、及びモノマー組成)、及び薬剤放出層の中に存在する任意の放出性ポリマー及び/又は接着促進コポリマーを含む他の任意の選択できる補足物質の種類に左右される。例えば、治療剤の種類(例えば、親水性/疎水性)及び一つ又は複数のポリマーの中のモノマーの種類(例えば、親水性/疎水性/膨潤性)は、薬剤の放出に有意な作用を有する(例えば、ポリマー層の湿潤性、水分拡散性、治療剤拡散性等に影響する)。
【0067】
本発明と共に用いられる例示的な治療剤としては、以下が挙げられる: (a)抗血栓剤、例えば、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、クロピドグレル、PPack (デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン); (b)抗炎症剤、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、ブデソニド、エストロゲン、スルファサラジン、メサラミン; (c)抗新生物剤/抗増殖剤/抗有糸分裂剤、例えば、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、エンドスタチン、アンギオスタチン、アンギオペプチン、平滑筋細胞増殖を遮断できるモノクローナル抗体、チミジンキナーゼ阻害剤; (d)麻酔剤、例えば、リドカイン、ブピバカイン、ロピバカイン; (e)抗凝固剤、例えば、D-Phe-Pro-Argクロロメチルケトン、RGDペプチド含有化合物、ヘパリン、ヒルジン、抗トロンビン化合物、血小板受容体拮抗薬、抗トロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン、プロスタグランジン阻害剤、血小板阻害剤、ダニ抗血小板物質ペプチド; (f)血管細胞増殖促進剤、例えば、成長因子、転写活性化因子、翻訳促進剤; (g)血管細胞増殖阻害剤、例えば、成長因子阻害剤、成長因子受容体拮抗薬、転写リプレッサ、翻訳リプレッサ、複製阻害剤、阻害抗体、成長因子に対向する抗体、成長因子と細胞毒素からなる二官能性分子、抗体と細胞毒からなる二官能性分子; (h)タンパク質キナーゼ阻害剤及びチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、チルホスチン、ゲニステイン、キノキサリン); (i)プロスタサイクリン類似体; (j)コレステロール低下剤; (k)アンギオポイエチン; (l)抗菌剤、例えば、トリクロサン、セファロスポリン、アミノグリコシド、ニトロフラントイン; (m)細胞毒性薬、細胞増殖抑制剤、細胞増殖影響因子; (n)血管拡張剤; (o)内在性血管作用機序を妨害する薬剤; (p)白血球動員阻害剤、例えば、モノクローナル抗体; (q)サイトカイン; (r)ホルモン; (s)HSP 90タンパク質阻害剤(即ち、熱ショックタンパク、これは分子シャペロン又はハウスキーピングタンパクであり、細胞の増殖及び生存の原因である他のクライアントタンパク質/シグナル伝達タンパク質の安定性と機能に必要である)、ゲルダナマイシンを含む; (t)α受容体拮抗薬(例えば、ドキサゾシン、タムスロシン)、β受容体作動薬(例えば、ドブタミン、サルメテロール)、β受容体拮抗薬(例えば、アテノロール、メタプロロール、ブトキサミン)、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(例えば、ロサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン)、及び鎮痙薬(例えば、塩化オキシブチニン、フラボキサート、トルテロジン、硫酸ヒオスシアミン、ジサイクロミン)、(u) bARKct阻害剤、(v)ホスホランバン阻害剤、(w) Serca 2遺伝子/タンパク質、(x)免疫応答調節物質、アミノキゾリン、例えば、レシキモドやイミキモドのようなイミダゾキノリンを含む、及び(y)ヒトアポリポタンパク質(例えば、AI、AII、AIII、AIV、AV等)。
【0068】
必ずしも上で挙げたものだけでない多くの治療剤は、血管治療法のための候補物質として、例えば、再狭窄を標的にする薬剤として確認されている。このような薬剤は、本発明の実施に有効であり、以下の一つ以上を含んでいる:(a)ジルチアゼムやクレンチアゼムのようなベンゾチアゼピン、ニフェジピン、アムロジピン、ニカルダピンのようなジヒドロピリジン、ベラパミルのようなフェニルアルキルアミンが含まれるCa-チャンネル遮断薬、(b)ケタンセリンやナフチドロフリルのような5-HT拮抗薬、フルオキセチンのような5-HT取り込み阻害剤が含まれるセロトニン経路モジュレーター、(c)シロスタゾールやジピリダモールのようなホスホジエステラーゼ阻害剤、フォルスコリンのようなアデニル酸/グアニル酸シクラーゼ賦活薬、アデノシン類似体が含まれる環状ヌクレオチド経路薬、(d)プラゾシンやブナゾシンのようなα-拮抗薬、プロプラノロールのようなβ-拮抗薬及びラベタロールやカルベジロールのようなα/β-拮抗薬を含むカテコールアミンモジュレーター、(e)エンドセリン受容体拮抗薬、(f)ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、亜硝酸アミルのような有機硝酸塩/亜硝酸塩、ニトロプルシドナトリウムのような無機ニトロソ化合物、モルシドミンやリンシドミンのようなシドノンイミン、ジアゼニウムジオラートやアルカンジアミンのNO付加物のようなノノエート、低分子量化合物(例えば、カプトプリル、グルタチオン、N-アセチルペニシラミンのS-ニトロソ誘導体)や高分子量化合物(例えば、タンパク質、ペプチド、オリゴ糖類、多糖類、合成ポリマー/オリゴマー、天然ポリマー/オリゴマーのS-ニトロソ誘導体)を含むS-ニトロソ化合物、C-ニトロソ化合物、O-ニトロソ化合物、N-ニトロソ化合物、L-アルギニンが含まれる一酸化窒素供与体/放出分子、(g)シラザプリル、フォシノプリル、エナラプリルのようなアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、(h)サララシンやロサルチンのようなATII-受容体拮抗薬、(i)アルブミンやポリエチレンオキシドのような血小板接着阻害剤、(j)シロスタゾール、アスピリン、チエノピリジン(チクロピジン、クロピドグレル)、アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバンのようなGP IIb/IIIa阻害剤が含まれる血小板凝集阻害剤、(k)ヘパリン、低分子量ヘパリン、硫酸デキストラン、β-シクロデキストリンテトラデカスルフェートのようなヘパリノイド、ヒルジン、ヒルログ、PPACK (D-phe-L-プロピル-L-arg-クロロメチルケトン)、アルガトロバンのようなトロンビン阻害剤、アンチスタチンやTAP(ダニ抗凝固ペプチドのようなFXa阻害剤、ワルファリンのようなビタミンK阻害剤、活性化プロテインCが含まれる凝固経路モジュレーター、(l)アスピリン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシン、スルフィンピラゾンのようなシクロオキシゲナーゼ経路阻害剤、
【0069】
(m)デキサメタゾン、プレドニゾロン、メトプレドニゾロンヒドロコルチゾンのような天然コルチコステロイドや合成コルチコステロイド、(n)ノルジヒドログアヤレト酸、カフェ酸のようなリポキシゲナーゼ経路阻害剤、(o)ロイコトリエン受容体拮抗薬、(p)E-セレクチンとP-セレクチンの拮抗薬、(q) VCAM-1とICAM-1の相互作用の阻害剤、(r)PGE1やPGI2のようなプロスタグランジン、シプロステン、エポプロステノール、カルバサイクリン、イロプロスト、ベラプロストのようなプロスタサイクリン類似体が含まれるプロスタグランジンやその類似体、(s)ビスホスホネートが含まれるマクロファージ活性化予防剤、(t)ロバスタチン、プラバスタチン、フラバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチンのようなHMG-CoA還元酵素阻害剤、(u)魚油及びω-3脂肪酸、(v)プロブコール、ビタミンC、ビタミンE、エブセレン、トランスレチノイン酸、SODミミックスのようなフリーラジカルスカベンジャー/抗酸化剤、(w) bFGF抗体やキメラ融合タンパク質のようなFGF経路薬、トラピジルのようなPDGF受容体拮抗薬、アンギオペプチンやオクレオチドのようなソマトスタチン類似体を含むIGF経路薬、ポリアニオン性薬剤(ヘパリン、フコイジン)、デコリン、TGF-β抗体のようなTGF-β経路物質、EGF抗体、受容体拮抗薬、キメラ融合タンパク質のようなEGF経路薬、サリドマイドやその類似体のようなTNF-α経路薬、スロトロバン、バピプロスト、ダゾキシベン、リドグレルのようなトロンボキサンA2(TXA2)経路モジュレーター、チロホスチン、ゲニステイン、キノキサリン誘導体のようなタンパク質チロシンキナーゼ阻害剤が含まれる種々の成長因子に影響する薬剤、(x)マリマスタット、イロマスタット、メタスタットのようなMMP経路阻害剤、(y)サイトカラシンBのような細胞運動阻害剤、(z)プリン類似体(例えば、塩素化プリンヌクレオシド類似体である、6-メルカプトプリン又はクラドリビン)、ピリミジン類似体(例えば、シタラビン、5-フルオロウラシル)、メトトレキセートのような代謝拮抗薬、ナイトロジェンマスタード、アルキルスルホネート、エチレンイミン、抗生物質(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン)、ニトロソ尿素、シスプラチン、微小管動態に影響する薬剤(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、コルヒチン、Epo D、パクリタキセル、エポチロン)、カスパーゼ活性化剤、プロテアソーム阻害剤、血管形成阻害剤(例えば、エンドスタチン、アンギオスタチン、スクアラミン)、ラパマイシン(シロリムス)やその類似体(例えば、エベロリムス、タクロリムス、ゾタロリムス等)、セリバスタチン、フラボピリドール及びスラミンが含まれる抗増殖剤/抗新生物剤、(aa)ハロフギノン又は他のキナゾリノン誘導体、トラニラストのようなマトリックス沈着/組織化経路阻害剤、(bb)VEGFやRGDペプチドのような内皮化促進剤、(cc)ペントキシフィリンのような血液レオロジーモジュレーター。
【0070】
いくつかの好ましい非遺伝的治療剤としては、特に、パクリタキセル(その微粒子形態、例えば、アルブミン結合パクリタキセルナノ粒子のようなタンパク結合パクリタキセル粒子、例えば、ABRAXANEを含む)のようなタキサン、シロリムス、エベロリムス、タクロリムス、ゾタロリムス、Epo D、デキサメタゾン、エストラジオール、ハロフジノン、シロスタゾール、ゲルダナマイシン、ABT-578(Abbott Laboratories)、トラピジル、リプロスチン、アクチノマイシンD、レステン-NG、Ap-17、アブシキシマブ、クロピドグレル、リドグレル、β遮断薬、bARKct阻害剤、ホスホランバン阻害剤、Serca 2遺伝子/タンパク質、イミキモド、ヒトアポリポタンパク質(例えば、AI-AV)、成長因子(例えば、VEGF-2)、及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0071】
広範囲の治療剤装填は、本発明の医療装置と共に用いることができる。典型的な装填は、例えば、ポリマー領域の1wt%以下から2wt%まで5wt%まで10wt%まで25wt%以上までの範囲にある。
【0072】
本発明のポリマー薬剤放出層及び接着促進層を形成するのに多くの技術が利用可能である。
【0073】
例えば、層が熱可塑性特性を有する一つ以上のポリマーから形成される場合、種々の標準熱可塑性処理技術を用いることができる。これらの技術を用いて、例えば、(a)最初に一つ又は複数のポリマーと他の所望の物質、例えば、一つ又は複数の治療剤や任意の選択できる非ポリマー補助物質を準備し、(b)続いて溶融物を冷却することにより、層を形成することができる。
【0074】
溶媒ベースの技術を含む、熱可塑性処理技術のほかに他の処理技術を用いて、層を形成してもよい。これらの技術を用いて、例えば、(a)最初に一つ又は複数のポリマーと一つ又は複数の治療剤や任意の選択できる非ポリマー補助剤を含有する溶液又は分散液を準備し、(b)続いて溶媒を除去することにより、ポリマー層を形成し得る。最終的に選ばれる溶媒は、一つ以上の溶媒種を含有し、通常は、乾燥速度、表面張力等を含む他の要因に加えて、層を形成する種々の物質(例えば、一つ以上のポリマー、一つ以上の治療剤、一つ以上の選択できる物質等)を溶解又は分散する能力に基づいて選ばれる。
【0075】
好ましい熱可塑性溶媒ベースの技術としては、例えば、噴霧技術、浸漬技術、スピンコーティング技術、ウェブコーティング技術、メニスカスコーティング技術、グラビア又は他のトランスファコーティング技術、空気サスペンション、インクジェット技術、静電技術を含む機械式サスペンションによるコーティングを含む技術、これらのプロセスの組み合わせが挙げられる。
【0076】
ここで、本発明のいくつかの具体的な実施態様を以下の実施例に記載する。これらの実施例は限定するものとして解釈されてはならない。当業者によって他の実施例も想定され得る。
【実施例1】
【0077】
ポリ(メチルメタクリレート-b-ブチルアクリレート-b-メチルメタクリレート)トリブロックコポリマー(MBAM)は、パクリタキセルのような高度に疎水性の薬剤でさえ生体内で治療剤の本質的に100%放出を行うので薬剤放出観点から望ましい。また、コポリマーが軟質弾性ブロックによって相互接続した二つの硬質ブロックを含有することから、可逆的物理的架橋が、典型的には、処理の間に形成され、良好な強度を有するコポリマーになる。更に、MBAMがコポリマーであることから、ポリマーの中のメチルメタクリレート(MMA)とブチルアクリレート(BA)との比を変化させることによって、他の変化(例えば、構造、分子量等の変化)の中でも、コポリマーの薬剤放出特性と機械的特性を調整することができる。例えば、機械的特性に関して、MMAは脆性であり、BAは粘着性であるが、これらのモノマーの相対的な割合を調整して非脆性非粘着性コポリマーを達成させる。
【0078】
上述したように、血管ステント用途について、ステントの反管腔側の表面だけを被覆することは望ましいことである。ステントへのコーティングを保持するためにコーティングによるステントの封入に依存することができないので、これには優れた接着が必要である。しかしながら、MBAMは接着が比較的不充分であり、ステンレス鋼のような金属から容易に剥離され得る。金属に対するMBAMの接着を改善するために、MMA、BA及びアクリル酸(AA)又は無水マレイン酸(MA)の以下のランダムコポリマーを各々以下の質量割合で形成した: 49/46/5のMMA/BA/AA(理論的Tg=10℃)、72/23/5のMMA/BA/AA(理論的Tg=50℃)、45/45/10のMMA/BA/AA、67/23/10のMMA/BA/AA及び49/46/5のMMA/BA/MA。
【0079】
MMA/BA/AAコポリマーとMMA/BA/MAコポリマーを、開始剤として過酸化ベンゾイルを用いて還流トルエン中でフリーラジカル重合によって合成した。モノマーと開始剤を合わせ、窒素雰囲気下に還流トルエンにゆっくりと添加した(3時間にわたって)。モノマーを添加した後、反応を更に3時間進行させた。ポリマー溶液をヘプタン中に沈殿させ、ろ過し、減圧下で乾燥した。
【0080】
AAのカルボン酸基とMAの無水物基がステンレス鋼のような金属と強い酸塩基相互作用を形成することができると考えられる。この個々の強い相互作用により、接着が増強される。一方では、MMAとBAがMBAMとの適合性を与える。MBAMのように、MMA/BA/AAコポリマーの種々の機械的特性はコポリマーのモノマー含量を変えることによって変化させることができる。また、他のアクリルモノマー、例えば、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート及び/又は2-エチルヘキシルメタクリレートをMMAとBAに添加して(又はMMA又はBAを置き換えて)、ポリマーの機械的特性を最適化してもよい。しかしながら、好ましい実施態様において、ブロックコポリマーの少なくとも一方のモノマーが、接着促進コポリマーに存在する(例えば、MMA、BA又はMMAとBA双方が存在する)。接着促進コポリマーにおける接着モノマーも同様に最適化され得る。例えば、AAは、コポリマーに低モル量(例えば、5モル%)で含まれる場合に良好な接着を与えるが、より高いモル%値(例えば、10モル%)では湿潤接着を受けることがわかる。また、より高いモル%値で水に膨潤させることができ、最終的にはコポリマーは水分散性になる。AAの増加により、有機溶液における接着促進コポリマーの溶解性も同時に低下させることができる。
【実施例2】
【0081】
本実施例は、接着促進ポリマーをブロックコポリマー層と別の層に付着させる方法を含むものである。実施例1の各アクリル接着促進剤のTHF中の10%wt%溶液を、ステンレス鋼ホイルにナイフコーティングし、70℃で乾燥した。得られた接着促進層の厚さは、<1μmであった。THF中の25%wt% MBAM(42wt%のBA含量)を、ナイフコーティング技術によって接着促進層の上に被覆し、70℃で1時間乾燥した。MBAMを、Arkema, Inc.、フィラデルフィア、ペンシルベニア州、米国から購入した。乾燥コーティング厚さは、約60μmであった。
【0082】
引張試験機を用いてMBAMコーティングをホイルから剥離させる(180°の剥離角度)ことによって接着性を求めた。MBAMコーティングの部分がステンレス鋼に直接配置されるように接着促進層の向こう側にMBAM層が被覆されている。このことにより、ステンレス鋼からの剥離プロセスを容易に始めることができる。剥離試験の間に、剥離前面は、最終的には接着促進層に達し、その点で接着促進層の接着性を測定する。乾燥接着性を空気中で行った。コーティング試料をトゥイーン界面活性剤(pH 7.4、0.05% wt/volトゥイーン20)を有するリン酸緩衝食塩水(PBS)中で37℃において4日間と30日間インキュベーションした後、湿潤接着性を求めた。インキュベーション浴から試料を取り除き、水浴に移した。次に、水に浸した試料の180度剥離接着性を測定した。結果は、以下の表1に示す。
【0083】
表1

【0084】
すべての接着促進層がステンレス鋼に対するMBAMの接着を著しく改善した。一部の例において、剥離プロセスが接着促進層に達した場合、コーティングは、ステンレス鋼から離れて剥離しなかったが、引張破壊点(引張強さ)に達した場合には、むしろ伸長され破壊した(コーティングの凝集破損)。これらの場合、接着強さは、コーティングの引張強さより大きく、実際の接着強さは、上記表に示された数値より著しく大きくなる場合があった。MAベースの接着促進層は乾燥接着を改善するが、4日間の湿潤接着性はAAベースの接着促進層の各々において見られるより低く、30日間の湿潤接着性は、5% AAベースの接着促進層おいて見られるより低いが、10% AAベースの層においては低くなかった。
【実施例3】
【0085】
本実施例は、接着促進ポリマーをブロックコポリマー層と単一層においてブレンドする方法を含むものである。実施例1の各々のアクリル酸接着促進コポリマーを、10wt%と20wt%の接着促進コポリマーを装填してMBAMとブレンドした。コーティングを、25% wt%の固形分で注型し、乾燥し、前の実施例2に記載されるように剥離試験した。結果を表2に示す。
【0086】
表2

【0087】
すべての接着促進コポリマーは、MBAMとブレンドした場合にステンレス鋼に対するMBAMの接着を著しく改善した。
【実施例4】
【0088】
MMA/BA/シランアクリレートコポリマー(49/46/5質量比)を、開始剤として過酸化ベンゾイルを用いて還流トルエン中でMMA、BA及び3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(シランアクリレート)(Sigma Aldrich製)をフリーラジカル重合することにより合成した。モノマーと開始剤を合わせ、窒素雰囲気下に還流トルエンにゆっくりと添加した(3時間かけて)。モノマーを添加した後、反応を更に3時間進行させた。ポリマー溶液を、ヘプタン中に沈殿させ、ろ過し、減圧下で乾燥した。
【0089】
MMAとBAは、上記MMA/BA/AAコポリマーにおける性能と同様の方法で行うと考えられる。一方では、シランアクリレートは、金属に共有結合で結合することによってステンレス鋼と他の金属への結合を増強すると考えられる。
【実施例5】
【0090】
本実施例は、接着促進ポリマーをブロックコポリマー層と別の層に付着させる方法を含むものである。実施例4のアクリルシラン接着促進コポリマーの10wt%溶液をトルエンに溶解し、ステンレス鋼ホイルにナイフコーティングし、70℃で24時間硬化する。得られた接着促進層の厚さは、<1μmであった。トルエン中の25wt% MBAM (42wt%のBA含量)を、接着促進層の上にコーティングし、70℃で1時間乾燥した。得られた乾燥コーティングの厚さは、約60μmであった。試料について実施例2に記載されるように剥離試験する。結果を表3に示す。
【0091】
表3

【0092】
上記表からわかるように、MBAM乾燥接着性は不充分であり、湿潤接着性は本質的にゼロである。一方では、MMA/BA/シランアクリレート接着促進層を有する二層組成物は、優れた乾燥接着性を有する(MBAM対照より大きい>50×)。更に、この接着性は、4日間と30日間PBS中でインキュベートした後、ほとんど低下しなかった。
【実施例6】
【0093】
本実施例は、接着促進ポリマーをブロックコポリマー層と単一層でブレンドする方法を含むものである。実施例4のMBAMとアクリルシラン接着促進コポリマーの90wt%/10wt%ブレンドを25wt%固形分/トルエンで調製した。この溶液をステンレス鋼ホイルに被覆して、約60μmの乾燥コーティング厚さを得た。コーティングを70℃で24時間硬化した。試料について実施例2に記載されるように剥離試験する。結果を表4に示す。
【0094】
表4

【0095】
上述したように、MBAM乾燥接着性は不充分であり、湿潤接着性は本質的にゼロである。しかしながら、効果的な接着促進コポリマーにブレンドすることによって乾燥接着性が劇的に増加する(MBAM対照より大きい>50×)。更に、この接着性は、4日間と30日間PBS中でインキュベートした後、ほとんど低下しなかった。
【実施例7】
【0096】
本実施例は、接着促進ポリマーをブロックコポリマー層と別の層に付着させる方法を含むものである。Pinchuk et alの米国特許第6,545,097号に記載されるように、ポリ(スチレン-b-イソブチレン-b-スチレン)トリブロックコポリマー(SIBS)を調製した。スチレン/無水マレイン酸(14wt% MA)ランダムコポリマー(SMA)を、PCI Synthesis, Inc.(以前はPolyCarbon Industries, Inc.)、ニューベリーポート、マサチューセッツ州、米国から入手した。SMAは、効果的接着促進剤ではない。むしろ、SIBSのようなブロックコポリマーとのブレンドで与えられる場合、SMAは、パクリタキセル放出の速度を増加させ、ブレンドの中に残る残留パクリタキセル量を減少させる。従って、SMAは、本発明の放出性ポリマーである。本実施例に用いられる接着促進コポリマーは、SEBS-g-MA、〜1.5wt%無水マレイン酸(MA)でグラフトされたポリ(スチレン-b-エチレン/ブチレン-b-スチレン)トリブロックコポリマー(SEBS)であり、Kraton Polymers、ヒューストン、テキサス州、米国からKraton(登録商標) 1901として市販されている。Kraton(登録商標) 1901を、ステンレス鋼ホイルに被覆し(トルエン中10wt%)、70℃で30分間乾燥して、乾燥コーティング厚さ<1μmを得た。SIBS/SMA(70/30 wt/wt)(25wt%固形分/トルエン)のブレンドをKraton(登録商標)層の上に被覆し、70℃で1時間乾燥して、〜60μmの乾燥コーティング厚さを有するコーティングを得た。接着性の結果を以下の表5に示す。接着促進層のないものと比べて乾燥接着性と湿潤接着性双方の非常に著しい改善が見られる。SMAをSIBSに添加すると、接着がやや増加するように作用する(乾燥と湿潤双方)。しかしながら、SMAは、非常に効果的な接着促進剤でなく、理論によって縛られることを望まないが、これはSIBSと混和性でない(SIBSからマイクロ分散相に相分離する)ので、無水マレイン酸官能性がSIBSマトリックス全体に一様に分配されないという事実によるものと思われる。
【0097】
表5

【実施例8】
【0098】
SIBS、SMA及びKraton(登録商標)(実施例7と同じもの)の単一層ブレンドを評価した。ブレンド(10wt%と20wt%のKraton(登録商標)を含有する70/30wt/wt SIBS/SMA)を、25wt%固形分のトルエンから、前述したようにステンレス鋼ホイル上の20ミル隙間を被覆した(〜60μm乾燥コーティング厚さ)。接着性結果を以下の表6に示す。接着促進コポリマーのないものと比べて乾燥接着性と湿潤接着性双方に著しく改善が見られる。
【0099】
表6

【実施例9】
【0100】
本実施例は、接着促進ポリマーをブロックコポリマー層と単一層においてブレンドする追加の方法を含むものである。SEBS-g-MA(Kraton(登録商標) 1901)を、KOHによる塩基加水分解によってマレイン酸(遊離酸)に加水分解し、続いて塩をHClで酸性にした。得られたKraton(登録商標)遊離酸ポリマー(KFA)をSIBSとSMA(実施例8と同じもの)と単一層としてブレンドして評価した。70/30wt/wt SIBS/SMAと5、10及び20wt% KFAとのブレンドを25wt%固形分/トルエンで調製し、びステンレス鋼ホイル上に〜60umの乾燥コーティング厚さに被覆した。上記のように乾燥接着性と湿潤(4日)接着性を測定した。接着結果を以下の表7に示す。塩基加水分解によってKraton(登録商標) 1901の無水マレイン酸をカルボン酸に変換することによって、購入した無水物形態Kraton(登録商標) 1901に相対して接着性が著しく増強され得ることがわかった。
【0101】
表7

【0102】
SEBS-g-無水マレイン酸とSEBS-g-マレイン酸コポリマーの各々が無水マレイン酸基及び/又はマレイン酸基の存在に基づきステンレス鋼に対する接着性を増強すると考えられる。SEBS-g-無水マレイン酸とSEBS-g-マレイン酸コポリマーは、また、SIBSと共通のモノマー(即ち、スチレン)を共有し、これがポリマー間に適合性を与えると考えられる。また、SIBS/SMAブレンドのSMAにおける無水マレイン酸が接着促進コポリマーの中の無水マレイン酸モノマー又はマレイン酸酸モノマーとの適合性を与えると考えられ、SIBS/SMAブレンドのSMAにおけるスチレンがSIBSブロックコポリマーの中のスチレンとの適合性を改善すると考えられる(しかし、SIBSに可溶性であるくらいではない)。
【0103】
種々の実施態様が本明細書に詳細に示され説明されているが、本発明の修正及び変更が上記教示によって包含され、本発明の真意及び意図された範囲を逸脱することなく添付の特許請求の範囲内にあることは理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基体と金属基体の上にそれと接触して配置されるポリマー領域を備える医療装置であって、前記ポリマー領域が、(a)(i)高Tgモノマーを含む硬質ポリマーブロックと(ii)低Tgモノマーを含む軟質ポリマーブロックを含むブロックコポリマー、(b)(i)金属基体と共有結合で又は非共有結合で結合する第一モノマーと(ii)低Tgモノマー、高Tgモノマー、又はこれらの双方と適合する第二モノマーを含む接着促進コポリマー、及び(c)治療剤を含む、前記医療装置。
【請求項2】
前記ポリマー領域が、金属基体の上にそれと接触して配置される接着促進ポリマー薬剤放出層を備え、前記接着促進ポリマー薬剤放出層が、前記ブロックコポリマー、前記接着促進コポリマー及び前記治療剤を含む、請求項1に記載の医療装置。
【請求項3】
前記ポリマー領域が、(a)基体の上にそれと接触して配置される前記接着促進コポリマーを含む接着促進層と、(b)接着促進層の上にそれと接触して配置される前記ブロックコポリマーと前記治療剤を含むポリマー薬剤放出層を含む、請求項1に記載の医療装置。
【請求項4】
前記金属基体が、ステンレス鋼基体、ニチノール基体、白金強化ステンレス鋼基体及びコバルトとクロムを含む合金から形成される基体より選ばれる、請求項1に記載の医療装置。
【請求項5】
前記低Tgモノマーが、アルキルアクリレートモノマー、アルキルメタクリレートモノマー、アルケンモノマー、及びシロキサンモノマーより選ばれる、請求項1に記載の医療装置。
【請求項6】
前記低Tgモノマーが、n-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート及びイソブチレンより選ばれる、請求項1に記載の医療装置。
【請求項7】
前記軟質ポリマーブロックが、二つ以上の異なる低Tgモノマーを含む、請求項1に記載の医療装置。
【請求項8】
前記高Tgモノマーが、アルキルアクリレートモノマー、アルキルメタクリレートモノマー、及びビニル芳香族モノマーより選ばれる、請求項1に記載の医療装置。
【請求項9】
前記高Tgモノマーが、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート及びスチレンより選ばれる、請求項1に記載の医療装置。
【請求項10】
前記硬質ポリマーブロックが、二つ以上の異なる高Tgモノマーを含む、請求項1に記載の医療装置。
【請求項11】
前記ブロックコポリマーが、軟質ブロックが介在した複数の硬質ブロックを含む、請求項1に記載の医療装置。
【請求項12】
前記ブロックコポリマーが、軟質ブロック主鎖と軟質ブロック主鎖に沿って隔置される複数の硬質ブロック側鎖を含む、請求項11に記載の医療装置。
【請求項13】
前記ブロックコポリマーが、二つの硬質ブロックの間に配置される軟質ブロックを含む直鎖トリブロックコポリマーである、請求項11に記載の医療装置。
【請求項14】
前記ブロックコポリマーが、三つ以上の硬質ブロックの間に配置される軟質ブロックを含む星型コポリマーである、請求項1に記載の医療装置。
【請求項15】
前記ブロックコポリマーが、ポリ(メチルメタクリレート-b-n-ブチルアクリレート-b-メチルメタクリレート)トリブロックコポリマーである、請求項1に記載の医療装置。
【請求項16】
前記ブロックコポリマーが、ポリ(スチレン-b-イソブチレン-b-スチレン)トリブロックコポリマーである、請求項1に記載の医療装置。
【請求項17】
前記ポリ(スチレン-b-イソブチレン-b-スチレン)トリブロックコポリマーが、ポリ(スチレン-コ-マレイン酸)とブレンドされる、請求項16に記載の医療装置。
【請求項18】
前記接着促進コポリマーが、ランダムコポリマー、周期コポリマー、統計コポリマー及び勾配コポリマーより選ばれる、請求項1に記載の医療装置。
【請求項19】
前記接着促進コポリマーが、ブロックコポリマーである、請求項1に記載の医療装置。
【請求項20】
前記第二モノマーが、前記高Tgモノマーと適合するものである、請求項1に記載の医療装置。
【請求項21】
前記第二モノマーが、前記高Tgモノマーと同じものである、請求項20に記載の医療装置。
【請求項22】
前記第二モノマーが、前記低Tgモノマーと適合するものである、請求項1に記載の医療装置。
【請求項23】
前記第二モノマーが、前記低Tgモノマーと同じものである、請求項22に記載の医療装置。
【請求項24】
前記接着促進コポリマーが、更に、前記高Tgモノマーと適合する第三モノマーを含む、請求項22に記載の医療装置。
【請求項25】
前記第二モノマーが、前記低Tgモノマーと同じものであり、前記第三モノマーが、前記高Tgモノマーと同じものである、請求項23に記載の医療装置。
【請求項26】
第一モノマーが、基体と共有結合で結合する、請求項1に記載の医療装置。
【請求項27】
第一モノマーが、

基(ここで、R1、R2及びR3は、独立して直鎖又は分枝鎖C1-C10アルキル基、C6-C12アリール基、又は直鎖又は分枝鎖C1-C10アルコキシ基であるが、R1、R2及びR3の少なくとも一つは、直鎖又は分枝鎖C1-C10アルコキシ基である)を含む、請求項26に記載の医療装置。
【請求項28】
第一モノマーが、下記式

を有するビニルアルキルアルコキシシラン、下記式

を有するアクリロイルオキシ(アルキレン)アルコキシシラン、及び下記式

を有するメタクリロイルオキシ(アルキレン)アルコキシシラン(ここで、nは、0〜10の整数であり、R1、R2及びR3は、上で定義されている)より選ばれる、請求項27に記載の医療装置。
【請求項29】
第一モノマーが、基体と非共有結合で結合する、請求項1に記載の医療装置。
【請求項30】
第一モノマーが、酸性モノマーである、請求項29に記載の医療装置。
【請求項31】
第一モノマーが、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、ヒドロキシル酸基、スルホン酸基又はホスホン酸基を含む、請求項29に記載の医療装置。
【請求項32】
前記第一モノマーが、アクリル酸モノマー、マレイン酸モノマー及び無水マレイン酸モノマーより選ばれる、請求項29に記載の医療装置。
【請求項33】
前記治療剤が、抗増殖剤、抗血栓剤、内皮細胞増殖促進剤、抗菌剤、鎮痛剤、及び抗炎症剤より選ばれる、請求項1に記載の医療装置。
【請求項34】
複数の異なる治療剤を含む、請求項1に記載の医療装置。
【請求項35】
前記医療装置が、植込み可能な又は挿入可能な医療装置である、請求項1に記載の医療装置。
【請求項36】
前記基体が、金属ステントである、請求項1に記載の医療装置。
【請求項37】
前記ポリマー領域が、前記基体を完全に覆っている、請求項1に記載の医療装置。
【請求項38】
前記ポリマー領域が、前記基体を部分的に覆っている、請求項1に記載の医療装置。
【請求項39】
前記基体が、金属ステントであり、ポリマー領域が、ステントの反管腔側の外面を覆っているが、ステントの管腔の内面を覆っていない、請求項1に記載の医療装置。
【請求項40】
前記ポリマー領域が、前記ブロックコポリマーと前記治療剤を混合した追加のポリマーを含む、請求項1に記載の医療装置。
【請求項41】
前記追加のポリマーが、(i)前記高Tgモノマーと前記低Tgモノマーの一方と適合するモノマーと、(ii)前記高Tgモノマーと前記低Tgモノマーのもう一方と不適合のモノマーを含むコポリマーである、請求項40に記載の医療装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【公表番号】特表2010−527274(P2010−527274A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508584(P2010−508584)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/063746
【国際公開番号】WO2008/144418
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(506192652)ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド (172)
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
【Fターム(参考)】