説明

接着剤の塗布状態を検査する方法および接着剤塗布検査装置

【課題】接着剤の塗布状態の検査に用いるマスターデータを簡単に登録することのできる、接着剤の塗布状態を検査する方法および接着剤塗布検査装置を提供する。
【解決手段】接着剤塗布検査装置10は、接着剤が塗布されたワークを照明装置で照明した状態でカメラにより撮影して画像データを取得するワーク撮影装置12を備えている。そして、撮影した画像データから接着剤が塗布された位置及び塗布範囲の形状に関する情報を抽出してマスターデータを作成する画像処理制御装置20と、マスターデータを保存するデータ保管装置24とを備えている。そして、画像処理制御装置20により、検査対象のワークを撮影して取得した画像データから接着剤が塗布された位置及び塗布範囲の形状に関する情報を検査データとして抽出し、マスターデータと比較して、検査対象のワークにおける接着剤の塗布状態の適否を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は接着剤の塗布状態を検査する方法および接着剤塗布検査装置に関する。具体的には、接着剤が塗布されたワークを照明する照明装置と、ワークを撮影するカメラとを備え、ワークの表面の複数箇所に塗布された接着剤の塗布状態を検査する方法および接着剤塗布検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の内板には、剛性を向上させるためにビームが取付けられたものがある。そして、ビームの取付けは、内板の表面のビーム取付位置に沿った複数箇所にスポット状にマスチック系の接着剤を塗布し、略直線状に並んで塗布された接着剤の上からビームを内板に押し当てて接着し、焼結することにより行われている。図10に自動車のサイドドアの内板100にマスチック系の接着剤110を塗布した状態を示す。図11には、ビーム120を接着剤110の上から押し当ててサイドドアの内板100に取付けた状態を示す。
【0003】
ところで、内板への接着剤の塗布箇所の数、塗布位置、スポットの大きさは内板の設計段階では決定されておらず、これらの決定はビームの取付け工程に委ねられている。そこで、ビームの取付け工程でトライアルにより塗布箇所の数、塗布位置、スポットの大きさの適切な値をマスターデータとして定め、マスターデータと同様の塗布状態が再現できるように、接着剤塗布ロボットをティーチングする。そして、生産ラインでは、接着剤塗布ロボットにより、内板への接着剤の塗布を行っている。
【0004】
ここで、接着剤塗布ロボットの動作には再現性があるが、内板の表面の状態、接着剤の状態等に影響されて、接着剤がマスターデータとして定めたものと同じ塗布状態とならない場合がある。例えば、内板の表面に水や油が付着していると、塗布された接着剤が流れて塗布位置のずれが生じる。また、接着剤に気泡が含まれていると、接着剤の塗布時に気泡がはじけて、接着剤が飛散してしまう。そのため、接着剤の塗布状態は必ずしも再現性があるとはいえない。そして、接着剤の塗布状態が不適切な場合は、ビームの取付け不良となり、内板に所定の剛性を持たせることができない。
【0005】
そこで、接着剤の塗布状態の適否を検査し、塗布状態が不適切なものが生産ラインを流れることを抑止する必要がある。検査方法としては、塗布箇所の数、塗布位置、スポットの大きさの適切な値を検査用のマスターデータとして接着剤塗布検査装置に登録し、マスターデータと検査対象のワークにおける接着剤の塗布状態を比較する方法が考えられる。
【0006】
特開平11−2610号公報(特許文献1)には、塗布領域と非塗布領域とからの反射光の違いを判断して、予め記録されている塗布パターン情報と比較して塗布状態が良好であるか否かを判断する塗布面検査装置が記載されている。なお、特許文献1には、「予め記録されている塗布パターン情報」の記載があるのみで、塗布パターン情報の登録方法についての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−2610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そして、従来技術では、塗布パターン情報の登録は、通常は、検査装置の会話型インターフェースを使用して入力する方法が採られている。内板にビームを取付けるために塗布される接着剤の検査では、接着剤が適切に塗布された状態の内板を用意し、接着剤の塗布状態の画像を撮影する。そして、撮影した画像を検査装置に表示し、登録作業者が検査装置に表示された接着剤の個々の位置及び大きさを目視により把握して、検査装置との会話処理により座標値および面積を数値入力して登録することで、マスターデータを作成する方法が採用されている。
しかしながら、会話処理によるマスターデータの作成は処理が煩雑であり、手間がかかるため、接着剤塗布検査装置を運用する上での支障となっている。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、接着剤の塗布状態の検査に用いるマスターデータを簡単に登録することのできる、接着剤の塗布状態を検査する方法および接着剤塗布検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明にかかる接着剤の塗布状態を検査する方法および接着剤塗布検査装置は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、接着剤が塗布されたワークを照明する照明装置と、該ワークを撮影するカメラとを備え、該ワークの表面の複数箇所に塗布された接着剤の塗布状態を検査する方法であって、
接着剤が塗布されたワークを前記照明装置で照明した状態で前記カメラにより撮影して画像データを取得する画像データ取得手段を備え、
前記画像データ取得手段により取得した画像データから接着剤が塗布された位置及び塗布範囲の形状に関する情報を抽出してマスターデータを作成するマスターデータ作成手段と該マスターデータを保存するマスターデータ保存手段とを備え、
接着剤が塗布された検査対象のワークを前記照明装置で照明した状態で前記カメラにより撮影して取得した画像データから、接着剤が塗布された位置及び塗布範囲の形状に関する情報を検査データとして抽出し、該検査データと前記マスターデータとを比較して、検査対象のワークにおける接着剤の塗布状態を検査する方法である。
【0011】
この第1の発明によれば、ワークを撮影して取得した画像データから、ワーク上に接着剤が塗布された位置及び塗布範囲の形状に関する情報を抽出してマスターデータを作成するマスターデータ作成手段とマスターデータを保存するマスターデータ保存手段とを備えている。よって、接着剤の塗布状態の検査に用いるマスターデータを簡単に作成して登録することができる。そして、マスターデータと検査対象のワークの画像データから取得した接着剤の塗布状態の検査データを比較することにより、容易に接着剤の塗布状態の適否を検査することができる。
【0012】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る接着剤の塗布状態を検査する方法であって、
前記マスターデータを修正することができるマスターデータ修正手段を備えることを特徴とする。
この第2の発明によれば、マスターデータを修正することができる。そこで、一部の塗布箇所で接着剤の塗布状態が不適切なワークであってもマスターデータ登録用に使用することができる。そして、登録時または登録後に必要な修正を行って適切な塗布状態を表すマスターデータとすることができる。よって、マスターデータ登録用のワークの準備が容易である。
【0013】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明または第2に発明に係る接着剤の塗布状態を検査する方法を用いて検査対象のワークにおける接着剤の塗布状態を検査する接着剤塗布検査装置である。
この第3の発明によれば、接着剤の塗布状態の検査に用いるマスターデータを簡単に作成して登録することができる。そして、マスターデータと検査対象のワークの画像データから取得した接着剤の塗布状態の検査データを比較することにより、容易に接着剤の塗布状態の適否を検査をすることができる。
【0014】
次に、本発明の第4の発明は、上記第3の発明に係る接着剤塗布検査装置であって、
前記マスターデータには接着剤の塗布箇所ごとに、塗布位置及び塗布範囲の形状の許容範囲を設定できることを特徴とする。
この第4の発明によれば、接着剤の塗布箇所ごとに、塗布位置及び塗布範囲の形状の許容範囲を設定できる。そのため、塗布箇所毎に許容範囲が設定できない場合と比べて、許容範囲が最も小さい塗布箇所を基準に許容範囲を設定しなければならないと云う制約が無いので、過剰な精度を要求することがなく、適切な精度で接着剤の塗布状態を検査をすることができる。
【0015】
次に、本発明の第5の発明は、上記第3の発明または第4の発明に係る接着剤塗布検査装置であって、
前記ワークに塗布された接着剤は該ワークの表面の複数箇所にスポット状に塗布されていることを特徴とする。
この第5の発明によれば、接着剤はスポット状に塗布されているので、接着剤が塗布された位置及び塗布範囲の形状に関する情報を、接着剤が塗布された中心点と接着剤の径又は接着剤の径に対応する面積で表すことができ、マスターデータや検査データの扱いが簡便である。
【0016】
次に、本発明の第6の発明は、上記第3の発明〜第5の発明のいずれかの発明に係る接着剤塗布検査装置であって、
前記マスターデータには、前記検査データと該マスターデータとを比較する際のワークの位置合わせの基準とされる特徴点データが含まれていることを特徴とする。
この第6の発明によれば、マスターデータには、検査データとマスターデータとを比較する際のワークの位置合わせの基準とされる特徴点データが含まれている。よって、ワークの特徴点を認識し、これをマスターデータの特徴点に重ねるようにワークを撮影した画像の位置補正や回転補正をすることができるので、検査装置にワークを配置する時にその位置及び向きについての要求精度が緩やかとなり、検査時のワークの配置が容易となる。
【発明の効果】
【0017】
上述の本発明の各発明によれば、次の効果が得られる。
まず、上述の第1の発明によれば、ワークを撮影して取得した画像データから、接着剤の塗布状態に関する情報を抽出してマスターデータを作成するマスターデータ作成手段と、マスターデータを保存するマスターデータ保存手段とを備えているので、マスターデータを簡単に作成して登録することができる。そして、マスターデータと検査対象のワークの画像データから取得した接着剤の塗布状態の検査データを比較することにより、容易に接着剤の塗布状態の適否を検査をすることができる。
次に上述の第2の発明によれば、一部の塗布箇所で接着剤の塗布状態が不適切なワークであってもマスターデータ登録用に使用することができるので、マスターデータ登録用のワークの準備が容易である。そして、登録時または登録後に必要な修正を行って適切な塗布状態を表すマスターデータとすることができる。
次に上述の第3の発明によれば、接着剤の塗布状態の検査に用いるマスターデータを簡単に作成して登録することができる。そして、マスターデータと検査対象のワークの画像データから取得した接着剤の塗布状態の検査データを比較することにより、容易に接着剤の塗布状態の適否を検査することができる。
次に上述の第4の発明によれば、塗布箇所毎に許容範囲が設定できない場合と比べて、過剰な精度を要求することなく、適切な精度で接着剤の塗布状態を検査をすることができる。
次に上述の第5の発明によれば、接着剤が塗布された位置及び塗布範囲の形状に関する情報を、接着剤が塗布された中心点及び接着剤の径又は接着剤の径に対応する面積で表すことができ、マスターデータや検査データの扱いが簡便である。
次に上述の第6の発明によれば、特徴点が重なるようにワークを撮影した画像の位置補正や回転補正をすることができるので、検査装置にワークを配置する時にその位置及び向きについての要求精度が緩やかとなり、検査時のワークの配置が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1における接着剤塗布検査装置の構成を示す図である。
【図2】実施例1におけるワーク撮影装置の概略を示す図である。
【図3】実施例1における接着剤塗布検査装置の状態遷移を示す図である。
【図4】マスター登録画面の構成を示す図である。
【図5】マスター登録画面に表示される画像データの例を示す図である。
【図6】マスター登録画面に表示されるマスチック情報の例を示す図である。
【図7】運転画面の構成を示す図である。
【図8】運転画面に表示されるワークの判定画像の例を示す図である。
【図9】運転画面に表示されるマスチック判定結果の例を示す図である。
【図10】内板にマスチックを塗布した状態を示す図である。
【図11】マスチック塗布位置にビームを取り付けた図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について実施例にしたがって説明する。
【実施例1】
【0020】
[接着剤塗布検査装置の概要]
初めに、接着剤の塗布状態の検査に用いる接着剤塗布検査装置の概要について説明する。図1に本発明の実施例1における接着剤塗布検査装置10の構成を示す。接着剤塗布検査装置10は、自動車の内板にビームを取付けるために接着剤として塗布されたマスチックの塗布状態を検査するために用いる接着剤塗布検査装置である。接着剤塗布検査装置10は、図1に示すとおり、画像処理制御装置20、表示パネル22、データ保管装置24、シーケンサ26、及びワーク撮影装置12を備えている。
図2にワーク撮影装置12の概要を示す。ワーク撮影装置12は、カメラ14と、複数台の照明装置16と、カメラ14及び照明装置16を支えるフレーム13と、フレーム13を支え床面に立脚するスタンド(図示省略)と、検査対象のワーク30を載せる置き台18からなる。そして、ワーク撮影装置12は、画像処理制御装置20の指示に従い、置き台18上にマスチック32が塗布された状態で配置されたワーク30を、照明装置16が上方から照明した状態でカメラ14により上方から撮影して画像データを取得する画像データ取得手段を備えている。
【0021】
図1に示した画像処理制御装置20は、ワーク撮影装置12により取得した画像データから、ワーク30上にマスチック32が塗布された位置及び面積に関する情報を抽出してマスターデータを作成するマスターデータ作成手段とマスターデータをデータ保管装置24に保存するマスターデータ保存手段とを備えている。また、画像処理制御装置20は、データ保管装置24に保存されたマスターデータを呼び出して、その内容を会話処理により修正し、修正されたマスターデータをデータ保管装置24に保存するマスターデータ保存手段を備えている。なお、マスターデータの抽出、登録及び修正方法については後で詳しく説明する。
そして、画像処理制御装置20は、マスチック32塗布された検査対象のワーク30をワーク撮影装置12により撮影して取得した画像データから、マスチック32が塗布された位置及び面積に関する情報を検査データとして抽出し、検査データとマスターデータとを比較して、検査対象のワークにおける接着剤の塗布状態の適否を検査する。検査データとマスターデータの比較方法については後で詳しく説明する。
【0022】
データ保管装置24には、マスターデータの保存ができる他に、検査用のワーク30についてマスチック32の塗布状態を抽出した検査データ、及び検査データとマスターデータを比較検査した検査結果を保存することができる。
表示パネル22には、ワーク撮影装置12により撮影されたワーク30の画像データ、画像データから抽出されたマスターデータ、検査データ、検査データとマスターデータの比較結果が表示される。また、表示パネル22に表示された項目にタッチして、または表示パネル22に表示された項目をマウスでクリックすることにより、画像処理制御装置20に指示を与えることができる。
シーケンサ26は、画像処理制御装置20とワーク撮影装置12に接続されている。そして、ワーク30が置き台18に配置された状態を検出して、ワーク30の型式情報及びワーク30の準備が完了していることを画像処理制御装置20に通知する役割を担っている。
【0023】
[マスターデータの登録方法]
図3に画像処理制御装置20の主要な状態遷移を示す。画像処理制御装置20は主要な機能として、検査用のワーク30におけるマスチック32の塗布状態の適否を判定する運転モードと、マスターデータを登録・編集するためのマスター処理モードを備えている。マスター処理モードでは、新規にマスターデータを登録することができる新規登録処理と、登録済みのマスターデータを参照・修正することができる参照・修正処理を選択することができる。画像処理制御装置20は他に管理用の複数のモードを備えており、これらのモード間の移動は、表示パネル22に常時表示されているモード選択ボタン34(図4参照)で希望するモードのボタンにタッチすることにより行う。なお、画像処理制御装置20は電源投入直後は、自動的に運転モードとなる。
【0024】
図4にマスター登録モード時に表示パネル22に表示されるマスター登録画面40の構成を示す。マスター登録画面40には、左側上方にモード選択ボタン34、左側中央に画像データ表示域42、左側下方に画像取得ボタン45、マスチック判別ボタン46、マスタ登録ボタン47及びマスタ呼び出しボタン48が表示される。そして、右側中央にマスチック情報表示域44、右側上方にファイル一覧表示域49が表示される。
【0025】
マスターデータの登録は次の手順で行う。登録担当者は、まず、ワーク撮影装置12の置き台18にマスターデータ登録用のワーク30を配置する。ワーク30には、マスチック32が適切な位置及び大きさでスポット状に塗布されている。ワーク30が置き台18に配置されるとシーケンサ26がワークセット検出信号とワーク30の型式情報を画像処理制御装置20に通知し、画像処理制御装置20が画像取得ボタン45を選択可能な表示状態とする。
そこで、マスター登録画面40の画像取得ボタン45にタッチする。すると、ワーク撮影装置12によりワーク30が撮影され、撮影された画像データが画像処理制御装置20に取込まれて、取り込まれた画像データが画像データ表示域42に表示される。
そこで、マスター登録画面40のマスチック判別ボタン46にタッチする。すると、画像処理制御装置20により、画像データ表示域42に表示された画像データからマスチック32の塗布位置及び塗布面積が自動抽出されて、塗布位置毎に連番がふられたマスチック情報が作成される。そして、マスター登録画面40のマスチック情報表示域44に抽出されたマスチック情報が表示される。
【0026】
マスチック32の塗布位置及び塗布面積の抽出は、マスチック32がワーク30よりも明るい点を利用し、マスチック32とワーク30の明暗差を利用して行う。そして、単純に明度による二値判別を行うと周囲からの明るさの変化による外乱に影響される場合があるので、明度の変化を利用して、マスチック32の外形を浮き彫りにして検出している。また、マスチック32は半球状に盛り上がって塗布されているため、光の当たり方によりマスチック32の形状認識が安定しないことがあるので、画像データに対して事前にモフォロジー処理による平滑化を行い、マスチック32の形状認識の安定化を図っている。
ところで、ワーク30にはなだらかな湾曲があるため、カメラ14に対して傾斜した位置では、画像データ上のマスチック32の塗布面積は面直方向で見た場合に比べて変化するという問題がある。しかし、マスターデータ登録用のワーク30と検査用のワーク30を同じ向きに配置して撮影することで、面積の変化の条件を同一とすることができる。また、傾斜は最大で10度程度であり、見かけの面積の変化は小さい。そこで、撮影された方向から見た塗布面積をマスチック32の塗布面積とし、傾斜を考慮した塗布面積の補正はしていない。
そして、画像処理制御装置20は、マスチック32の自動抽出時に、明暗差を利用してワーク30の外形及びワーク30の内部から直線状の部分を抽出し、それらの交点をワーク30の特徴点データとして求めている。
【0027】
図5にマスチックの塗布箇所が自動抽出された状態における画像データ表示域42に表示される画像を示す。ワーク30では図5に示すとおり、直線状部分として線分31a、31b、31cが抽出され、これらの交点である特徴点33a、33bが自動抽出されている。そして抽出されたマスチック32には、マスチック32の塗布位置毎に四角の識別枠と「01」から始まる連番の識別番号が表示される。
図6に、画像データ表示域42に表示された画像に対応してマスチック情報表示域44に表示されるマスチック情報を示す。マスチック情報表示域44には、マスチック32の塗布位置の識別番号順に、中心のX座標値、中心のY座標値、面積、使用、面積許容範囲、位置ズレ許容範囲の項目が表示される。使用は○または×で表され、マスターデータとしてその識別番号のマスチック32を使用する場合は○が、使用しない場合は×が表示される。初期値は○であり、通常は抽出した全てのマスチック情報を使用する。面積及び位置ズレの許容範囲は前述した管理用のモードで設定した標準値が表示される。面積の許容範囲は適正値との比の最大値がパーセントで表示される。初期値は200%である。なお、面積の許容範囲の最小値はワーク30全体で共通の80%とされており、塗布箇所の識別番号ごとには表示されない。
【0028】
そして、図6に示したマスチック情報は、表示パネル22上で各項目にタッチ又は各項目をクリックして修正することができる。たとえば、マスターデータ作成用に撮影したワーク30上でマスチック32の塗布箇所で適切な位置からずれているものがある時は、その塗布位置に対応する識別番号の項目をマウスでクリックする。そして、画像データ表示域42上で適切な塗布位置をマウスでクリックするか、マスチック情報表示域44上でマウスでX座標値又はY座標値の項目をクリックして選択し、キーボードから数値入力をする。塗布位置が修正されると、修正情報が画像データ表示域42及びマスチック情報表示域44に反映される。なお、「使用」の項目は、マウスでクリックするたびに○と×がトグルで変化する。
【0029】
マスターデータの保存は、マスター登録画面40上でマスタ登録ボタン47にタッチすると、ファイル保存ウインドウが開くので、保存ディレクトリ及び保存ファイル名を指定する。すると、画像データ表示域42及びマスチック情報表示域44に表示された内容がマスターデータとしてデータ保管装置24に登録保管される。マスターデータにはマスチック情報の他に、ワーク30の型式情報、特徴点データが含まれる。また、マスターデータ保存時には、ファイルに見出しを付けることができる。
【0030】
[マスターデータの修正方法]
登録済みのマスターデータを修正する必要がある時は、図4に示したマスター登録画面40上のマスタ呼び出しボタン48にタッチする。すると、データ保管装置24に登録保管されているマスターデータのファイルの一覧がマスター登録画面40のファイル一覧表示域49表示されるので、修正したいマスターデータをファイル一覧からクリックにより選択する。すると、選択したマスターデータに対応する画像およびマスチック情報が画像データ表示域42およびマスチック情報表示域44に表示され、マスチック情報の修正が可能となる。マスチック情報の修正方法は、上述のマスターデータの登録時における修正方法と同様である。
そして、必要な修正を行った後、マスタ登録ボタン47にタッチして、修正したマスターデータを保存する。
【0031】
[マスチックの塗布状態の検査方法]
図7に運転モード時に表示パネル22に表示される運転画面50を示す。運転画面50には、左側上方にモード選択ボタン34、左側中央に判定画像表示域52、左側下方にマスチック検査ボタン57、右側上方に判定結果表示域56、そして右側中央にマスチック判定表示域54が表示される。
【0032】
検査用のワーク30についてのマスチック32の塗布状態の検査は次の手順でおこなう。まず、検査担当者が、ワーク撮影装置12の置き台18にマスチック32が塗布された検査対象のワーク30を配置する。すると、シーケンサ26がワークセット検出信号とワーク30の型式情報を画像処理制御装置20に通知する。そこで、画像処理制御装置20は検査用のワーク30の型式に対応するマスターデータをデータ保管装置24から読み込み、マスチック検査ボタン57を選択可能な表示状態とする。
なお、同じ型式のワーク30のマスターデータが複数登録されている時は、最後にされたマスターデータが読み込まれる。
【0033】
次に、検査担当者は、運転画面50上のマスチック検査ボタン57にタッチする。すると、ワーク撮影装置12により検査用のワーク30が撮影され、撮影された画像データが画像処理制御装置20に取り込まれる。そして、特徴点の抽出が行われる。次に、マスターデータと特徴点33a、33bの位置が一致するように検査用のワーク30の画像データの回転及び移動処理が行われる。
次に、検査用のワーク30の画像データから、マスチック32の塗布位置及び塗布面積が検査用データとして自動抽出される。そして、マスターデータの塗布箇所ごとにマスターデータと検査用データが対比され、塗布箇所ごとの合否が判定される。そして、検査用のワーク30につき、不合格が一箇所でも有れば塗布状態が不適切と判定され、不合格箇所が無ければ塗布状態が適切と判定される。そして、検査用のワーク30の画像データ、画像データから抽出された検査用データ、特徴点データ、および検査結果が、データ保管装置24に保存される。
【0034】
図8に運転画面50の判定画像表示域52に表示される検査用のワーク30の判定画像の例を示す。ベースとなっている画像はマスチック32を含めて検査用のワーク30のものである。そして、これに重ねてマスターデータにおける塗布箇所毎の識別枠が緑色の四角で表示される。
そして、マスターデータの識別枠内に検査用データのマスチック32の中心点が存在し、その位置および面積が許容範囲以内の時は、この塗布箇所はマスチック32が適正に塗布されていると判定され、識別枠の番号が緑色で表示される。
そして、マスターデータの識別枠内に検査用データのマスチック32の中心点が存在するが、その位置または面積が許容範囲から外れる場合は、マスチックの塗布が異常であると判定され、マスターデータにおけるマスチックの位置及び大きさに対応する円の輪郭線が黄色で表示されると共に、識別枠の番号が黄色で表示される。図8の識別枠の番号の“09”の塗布箇所が塗布異常に該当する。
そして、マスターデータの識別枠内に検査用データのマスチック32の中心点が存在しない時は、この塗布箇所にマスチック32が存在しないと判定し、マスターデータにおけるマスチックの位置及び大きさに対応する円の輪郭線を赤色で表示すると共に、識別枠の番号を赤色で表示する。図8の識別枠の番号の“08”の塗布位置がマスチック無しに該当する。
【0035】
図9に、図8の判定画像に対応してマスチック判定表示域54に表示される検査用ワーク30のマスチック32の塗布状態の判定結果を示す。マスチック判定表示域54には、図9に示すとおり、マスターデータにおけるマスチック32の塗布箇所を基準として識別枠番号が表示され、これと対比される検査用のワーク30から抽出されたマスチック32の中心位置、面積及び合否が表示される。
マスチック32の中心位置及び面積が適正の場合は合否欄に○が表示される。そして、マスチック32の中心または面積に塗布異常が見つかった時は、合否欄に△が表示される。また、識別枠内にマスチック32が無い時は、合否欄に×が表示される。
そして、検査用のワーク30についての判定結果を適切と判定すれば「OK」を、不適切と判定すれば「NG」を、運転画面50の判定結果表示域56に表示する。
【0036】
以上述べたとおり、接着剤塗布検査装置10によれば、表示パネル22上のボタンにタッチすることにより、マスチック32が塗布されたワーク30を撮影し、撮影した画像データからマスチック32の塗布位置をおよび面積を抽出して検査に使用するマスターデータを簡単に作成することができ、これをデータ保管装置24に登録保管することができる。
そして、マスチック32の塗布箇所毎に塗布位置及び面積の許容範囲を設定できるので、適切な精度でマスチック32の塗布状態の検査をすることができる。
そして、マスターデータの修正ができるので、一部の塗布箇所でマスチック32の塗布状態が不適切なワーク30であってもマスターデータ登録用に使用することができ、マスターデータ登録用のワーク30の準備が容易である。そして、登録時または登録後に必要な修正を行って適切な塗布状態を表すマスターデータとすることができる。
そして、マスターデータおよび検査データは、マスチック32が塗布された位置および塗布範囲の形状に関する情報を、マスチック32の塗布箇所ごとに中心点と面積で表しているため、マスターデータおよび検査データの扱いが簡便であり、対比も容易である。
そして、ワーク30の撮影画像から特徴点を抽出しこれを保存する機能を有するため、特徴点が重なるようにワーク30を撮影した画像の位置補正や回転補正をすることができる。そのため、置き台18にワーク30を配置する時にその位置および向きについての精度要求を緩やかにすることができ、検査時のワーク30の置き台18への配置が容易となる。
【0037】
画像処理制御装置20によるワーク30のマスチック32の塗布状態の検査では、ワーク30を撮影後2秒程度で検査結果を運転画面50に表示できるため、非常に短いサイクルタイムで検査できるという特徴がある。そして、型式情報を利用して検査用のワーク30に対応するマスターデータが設定されるため、マスターデータを指定する手間を省くことができる。そして、型式の異なるワーク30を連続して検査する場合にもマスターデータの切り替えを逐一指示しなくても良い。
また、マスターデータと検査用ワーク30の撮影画像および判定結果を保存しているため、後で検査の再現が可能であり、検査結果のトレーサビリティが向上している。
【0038】
上述の実施例では、自動車の内板に塗布されるマスチック系の接着剤の塗布状態を検査する接着剤塗布検査装置について説明したが、本発明のワークは自動車の内板に限定されず、接着剤はマスチック系に限定されない。
そして、上述の実施例では、接着剤の塗布箇所ごとに、塗布位置及び塗布面積の許容範囲を設定できる機能を備えているが、塗布箇所ごとの許容範囲の差異が小さな時は、この機能を省略しても良い。また、上述の実施例では、マスターデータを修正できる機能を備えているが、接着剤が適切に塗布されたワークを準備することができれば、この機能は省略してもよい。
また、上述の実施例では、スポット状に塗布された接着剤について説明したが、本発明の接着剤の塗布形状はスポット状に限定されない。例えば線状に複数箇所に塗布されている場合にも適用できる。接着剤が線状に塗布されている場合は、線分単位で塗布位置の両点端と塗布幅により塗布状態を把握することができる。
また、上述の実施例では、ワーク30から特徴点を抽出して検査時に画像の位置合わせ補正をしてるが、ワーク30を置き台18に置く時に位置ズレが生じない適当な治具を使用し、特徴点を抽出せず、検査時に位置合わせの補正をしない構成としても良い。
その他、本発明に係る接着剤の塗布状態を検査する方法および接着剤塗布検査装置はその発明の思想の範囲で、各種の形態で実施できるものである。
【符号の説明】
【0039】
10 接着剤塗布検査装置
12 ワーク撮影装置
13 フレーム
14 カメラ
16 照明装置
18 置き台
20 画像処理制御装置
22 表示パネル
24 データ保管装置
26 シーケンサ
30 ワーク
32 マスチック
34 モード選択ボタン
40 マスター登録画面
42 画像データ表示域
44 マスチック情報表示域
45 画像取得ボタン
46 マスチック判別ボタン
47 マスタ登録ボタン
48 マスタ呼び出しボタン
50 運転画面
52 判定画像表示域
54 マスチック判定表示域
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤が塗布されたワークを照明する照明装置と、該ワークを撮影するカメラとを備え、該ワークの表面の複数箇所に塗布された接着剤の塗布状態を検査する方法であって、
接着剤が塗布されたワークを前記照明装置で照明した状態で前記カメラにより撮影して画像データを取得する画像データ取得手段を備え、
前記画像データ取得手段により取得した画像データから接着剤が塗布された位置及び塗布範囲の形状に関する情報を抽出してマスターデータを作成するマスターデータ作成手段と該マスターデータを保存するマスターデータ保存手段とを備え、
接着剤が塗布された検査対象のワークを前記照明装置で照明した状態で前記カメラにより撮影して取得した画像データから、接着剤が塗布された位置及び塗布範囲の形状に関する情報を検査データとして抽出し、該検査データと前記マスターデータとを比較して、検査対象のワークにおける接着剤の塗布状態を検査する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の接着剤の塗布状態を検査する方法であって、
前記マスターデータを修正することができるマスターデータ修正手段を備えることを特徴とする接着剤の塗布状態を検査する方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の接着剤の塗布状態を検査する方法を用いて検査対象のワークにおける接着剤の塗布状態を検査する接着剤塗布検査装置。
【請求項4】
請求項3に記載の接着剤塗布検査装置であって、
前記マスターデータには接着剤の塗布箇所ごとに、塗布位置及び塗布範囲の形状の許容範囲を設定できることを特徴とする接着剤塗布検査装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の接着剤塗布検査装置であって、
前記ワークに塗布された接着剤は該ワークの表面の複数箇所にスポット状に塗布されていることを特徴とする接着剤塗布検査装置。
【請求項6】
請求項3〜請求項5のいずれかに記載の接着剤塗布検査装置であって、
前記マスターデータには、前記検査データと該マスターデータとを比較する際のワークの位置合わせの基準とされる特徴点データが含まれていることを特徴とする接着剤塗布検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−256024(P2010−256024A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102884(P2009−102884)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000177058)三友工業株式会社 (27)
【Fターム(参考)】