説明

接着剤用洗浄剤

【課題】洗浄除去性、保管性、および加工基材への非侵食性が優れ、経済的な濃縮型の接着剤用洗浄剤を提供すること。
【解決手段】少なくともアルカリ金属水酸化物とアルカリ金属リン酸塩を含有するアルカリ剤(a)と、少なくとも非イオン界面活性剤を含有する界面活性剤(b)とを、親水性有機溶媒と水とからなる水性媒体(c)中に含有してなり、曇点が25℃を超えることを特徴とする接着剤用洗浄剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器部品、光学部品、医療部品および自動車部品などの部材を切断または研磨加工する際に、これらの部材を一時的に仮り止めするために使用する接着剤を加工後に洗浄除去するために使用する接着剤用洗浄剤(以下単に「洗浄剤」という場合がある)に関し、さらに詳しくは、洗浄除去性、保管性、および加工基材への非侵食性(以下これらの特性を纏めて「洗浄剤特性」という場合がある)が優れた濃縮型の洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接着剤用洗浄剤としては、接着剤を調製する際に使用したハロゲン系、エステル系、芳香族炭化水素系、アルコール系、ケトン系などの有機溶剤系洗浄剤が使用され、また、酸またはアルカリ化合物と過酸化物とからなる酸化性洗浄剤などがあり、これらを使用して、加工後の接着剤を洗浄除去していた。
【0003】
しかしながら、上記の有機溶剤系洗浄剤を使用すると、接着剤を除去した後の基材の表面が疎水性となり、その後の水洗工程を阻害したり、また、溶剤の揮発性による環境負荷が伴う問題が生ずる。また、火災などの防災対策が必要となる。また、上記の酸化性洗浄剤は、洗浄性は強力であるが、基材を侵食するという問題が発生する。
【0004】
上記の洗浄剤の問題点を改良するために、有機や無機のアルカリ剤を水に溶解させてアルカリ水溶液とし、必要に応じて界面活性剤やアルコールを配合した洗浄剤が知られている。その一例として、ある種の洗浄剤(特許文献1)が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の洗浄剤は、ロジン、その他のアビチエン酸に代表される化合物を主成分とする樹脂および該樹脂誘導体からなる接着剤を、ウエハーから除去するアルカリ剤を水に溶解したアルカリ水溶液の洗浄剤である。該洗浄剤は、実施例のように基材がシリコンウエハーを対象とするために、有機アミン類などの有機アルカリ剤を主成分としたアルカリ水溶液である。さらに、必要に応じてノニオン界面活性剤やアルコールが配合されて調製され、使用時にこれらのアルカリ水溶液を、さらに水にて希釈している。
【0006】
また、上記の有機アルカリ系洗浄剤は、無機アルカリ系の洗浄剤に比べて、シリコンウエハーなどの基材に対する侵食は少ないが、加工処理後の接着剤の洗浄除去性が劣る。また、カセイソーダ、カセイカリなどの無機アルカリ剤からなるアルカリ水溶液の洗浄剤は、シリコンウエハーなどの基材を侵食する危険性がある。
【0007】
さらに、使用されるノニオン界面活性剤は、その曇点がアルカリ剤の存在下では下がる傾向があり、ひいては室温でも、アルカリ水溶液から分離するという問題が発生する。また、洗浄剤を夏場の輸送時の気温変動や、工場ライン内において、洗浄剤の貯蔵タンクから洗浄剤を送り出すポンプの熱でノニオン界面活性剤が分離してしまい、アルカリ洗浄剤としての濃度の安定性が保持できない。一般に、ノニオン界面活性剤の水に対する溶解性は、温度が上昇するに従って減少し、ある温度になると活性剤が析出して濁りを生じる。この温度を曇点と称しており、上記ノニオン界面活性剤は、低濃度では濃度によってあまり曇点は変化しないが、その種類によっては著しく変化する。
【0008】
上記のように、ノニオン界面活性剤は、洗浄剤中でアルカリ成分を高濃度にすると、その曇点が下がり、室温でもノニオン界面活性剤が水から分離してしまい、その濃度を十分に上げることができない。そのために、アルカリ濃度と上記界面活性剤濃度の双方が高濃度である濃縮型洗浄剤の設計が困難である。
【0009】
とくに、近年、上記の洗浄剤の輸送費、梱包費および保管におけるストックルームの場所の省スペース化による経済性が求められており、それに伴って、上記の問題を解決するために濃縮型洗浄剤が求められている。濃縮型洗浄剤であれば、使用時にユーザーサイドにて、適宜に希釈して使用することができるために、出荷時の洗浄剤の荷姿の容量がコンパクトになり、輸送、梱包および保管がし易くなるために、経済的である。
【0010】
上述のことから、洗浄剤特性が優れ、輸送、梱包および保管がし易い、すなわち、出荷時の洗浄剤の荷姿の容量をコンパクトにできる濃縮型洗浄剤が要望されている。
【0011】
【特許文献1】特公平7−26087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、洗浄剤特性が優れ、経済的な濃縮型の洗浄剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、少なくともアルカリ金属水酸化物とアルカリ金属リン酸塩とを含有するアルカリ剤(a)と、少なくとも非イオン界面活性剤を含有する界面活性剤(b)とを、親水性有機溶剤と水とからなる水性媒体(c)中に含有してなり、曇点が25℃を超えることを特徴とする接着剤用洗浄剤を提供する。
【0014】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、上記の特定の成分からなる洗浄剤が、該組成物中のアルカリ剤および界面活性剤の濃度をより高濃度にし、かつ、曇点を25℃を超えて高く設定することができ、安定した優れた洗浄剤特性を有する経済的な濃縮型の洗浄剤であることを見いだした。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来の洗浄剤に比べて洗浄剤特性が優れ、その製品の荷姿がコンパクトになり、輸送、梱包および保管における経費の削減ができる経済的な濃縮型の洗浄剤が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明を特徴づけるアルカリ剤(a)は、少なくともアルカリ金属水酸化物とアルカリ金属リン酸塩とを含有する無機系のアルカリ剤である。上記のアルカリ剤(a)は、アルカリ金属水酸化物の接着剤に対する強力なアルカリ洗浄除去性を維持しつつ、洗浄時の基材への侵食を抑制したものである。上記のアルカリ金属水酸化物は、単独で使用した場合には接着剤に対してアルカリ洗浄除去性は強力であるが、基材を侵食する危険性がある。このために、上記のアルカリ剤(a)は、アルカリ金属水酸化物にアルカリ金属リン酸塩を併用することで、アルカリ金属水酸化物によるシリコンウエハーやガラスなどの基材への侵食を抑制しつつ、優れたアルカリ洗浄除去性を発揮する。
【0017】
前記のアルカリ剤(a)中のアルカリ金属水酸化物(A)とアルカリ金属リン酸塩(B)の配合割合は、A/B=1/2〜2/1(質量比)が好ましく、特に好ましくはA/B=1/1(質量比)である。上記のアルカリ金属水酸化物の配合割合が多過ぎると、得られる洗浄剤の基材に対する侵食性が大きくなり、一方、アルカリ金属水酸化物の配合割合が少な過ぎると、接着剤の洗浄除去性が低下する。
【0018】
上記のアルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなど、好ましくは水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0019】
上記のアルカリ金属水酸化物と併用するアルカリ金属リン酸塩としては、好ましくはピロリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウムおよびトリポリリン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種、すなわち、それら単独でもまたは2種以上を混合して使用してもよく、とくに好ましくはピロリン酸カリウムが挙げられる。
【0020】
前記のアルカリ剤(a)は、前記のアルカリ金属水酸化物およびアルカリ金属リン酸塩のみの混合物でもよく、あるいは本発明の目的を妨げない範囲において、前記の親水性有機溶剤と水とからなる水性媒体(c)に溶解する他の無機アルカリ剤を配合することもできる。上記の他の無機アルカリ剤としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどのアルカリ金属ケイ酸塩;および炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。
【0021】
また、前記のアルカリ剤(a)に配合して使用する界面活性剤(b)は、非イオン界面活性剤を少なくとも含有する。上記の界面活性剤は、得られる洗浄剤の接着剤への濡れおよび浸透を促進することにより、接着剤に対する洗浄除去性を促進する。上記の非イオン界面活性剤は、単独でも使用することができるが、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、または両性界面活性剤などのその他の界面活性剤と併用することにより、得られる洗浄剤の洗浄効果を上げることができる。
【0022】
上記の非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピルアルキルエーテル、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリンエステル、ポリグリセリンエステル、ソルビタンエステルなど、およびそれらの混合物、好ましくはポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルおよびポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルから選ばれる少なくとも1種、とくに好ましくはポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテルが挙げられる。
【0023】
上記のポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテルとしては、例えば、花王(株)から「エマルゲンLS−106」、「エマルゲンLS−110」、「エマルゲンLS−114」、「エマルゲンMS−110」など、また、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、例えば、青木油脂(株)から「ブラウノンNK−810」など、また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、例えば、花王(株)から「エマルゲン−108」、「エマルゲン−109P」、「エマルゲン−709」、「エマルゲン−1118S−70」などの商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0024】
前記の非イオン界面活性剤と併用されるその他の界面活性剤としては、例えば、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、アルキルスルフォン酸塩、スルホコハク酸塩などのスルフォン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N−アシルアミノ酸塩などのカルボン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩などの硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩などのリン酸エステル塩などの陰イオン界面活性剤;脂肪酸アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、塩化ベンザルコニウム塩、イミダゾリニウム塩などの陽イオン界面活性剤;アミノカルボン酸塩、イミダゾリン誘導体、カルボキシベタイン型などの両性界面活性剤など、好ましくは陰イオン界面活性剤が挙げられる。上記の界面活性剤は、単独でも2種以上を混合して使用することができる。
【0025】
上記の陰イオン界面活性剤のうちで、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩であるアルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウムが好ましく使用される。上記の陰イオン界面活性剤としては、花王(株)からペレックス−SSHの商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0026】
前記の界面活性剤(b)は、前記の非イオン界面活性剤単独、または前記の非イオン界面活性剤と前記の陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤または両性界面活性剤、好ましくは陰イオン界面活性剤とを混合したものである。前記の界面活性剤(b)は、前記の非イオン界面活性剤が全界面活性剤中で50質量%〜100質量%を占める量であるのが好ましく、とくに好ましくは80質量%〜100質量%を占める量である。上記の非イオン界面活性剤の配合量が少な過ぎると、得られる洗浄剤の接着剤に対する洗浄除去効果が十分には得られない。
【0027】
また、前記の界面活性剤(b)としては、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテルとアルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウムとの混合物が好ましく使用される。上記の混合物中の各成分の配合は、前記の非イオン界面活性剤が全界面活性剤中で占める量の値の範囲内である。
【0028】
また、本発明で使用される水性媒体(c)は、得られる洗浄剤中のアルカリ剤と界面活性剤との相溶性を向上させ、より高濃度なアルカリ洗浄剤とするものであって、上記の水性媒体(c)は、前記のアルカリ剤および界面活性剤と相溶性のよい親水性有機溶媒と水との混合物である。
【0029】
上記の親水性有機溶媒としては、アルコール類、エーテル類、エステル類、およびそれらの混合物などが挙げられる。上記のアルコール類としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、カプリルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコールなどの炭素数が1〜11の脂肪族飽和アルコール;エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどのグリコール;その他グリセリン、ブタン−1,2,3−トリオール、2−メチルプロパン−1,2,3−トリオール、ジグリセリン、トリグリセリン、ソルビットなど、およびそれらの混合物、好ましくは炭素数が1〜11の脂肪族飽和アルコール類から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0030】
前記のエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノメチル、モノエチル、モノイソプロピル、またはモノブチルなどのエチレングリコールのモノアルキルエーテル;ジエチレングリコールモノメチル、モノエチル、モノイソプロピルまたはモノブチルなどのジエチレングリコールのモノアルキルエーテル;トリエチレングリコールモノメチル、モノエチル、モノブチル、モノイソブチル、またはモノヘキシルなどのトリエチレングリコールのモノアルキルエーテル;1,4−ブタンジオールモノヘキシルエーテル、1,6−ペンタンジオールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのアルキレングリコールのモノアルキルエーテルなど、およびそれらの混合物、好ましくはジエチレングリコールアルキルエーテルが挙げられる。上記のジエチレングリコールアルキルエーテルのうちで、とくにジエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく使用される。
【0031】
前記のエステル類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなど、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0032】
前記の水性媒体(c)は、好ましくはジエチレングリコールアルキルエーテル、エチレングリコールアルキルエーテルアセテートおよび炭素数が1〜11の脂肪族飽和アルコール類から選ばれる少なくとも1種(E)と、水(F)との混合物であって、E/F=2/98〜50/50(質量比)の混合物が挙げられる。上記の水性媒体(c)中の溶剤(E)が多過ぎると、アルカリ剤(a)の溶解性が低下して、得られる洗浄剤の洗浄除去性が低下する。一方、上記の溶剤(E)が少な過ぎると、得られる洗浄剤の曇点が低下し、安定した高濃度の洗浄剤が得られない。
【0033】
本発明の洗浄剤は、前記のアルカリ剤(a)と界面活性剤(b)とを前記の水性媒体(c)に均一に常温にて溶解分散させて調製する。本発明の洗浄剤は、その曇点が25℃を超えるものであり、好ましくは30℃以上である。上記の曇点が低過ぎると、界面活性剤(b)の濃度が低下して十分な洗浄剤特性が得られない。なお、本発明における曇点は、洗浄剤の試料(全固形分濃度7質量%)を10mlのガラス瓶へ入れウオターバスに浸け、該ウオターバスの温度を徐々に上げて、洗浄剤の試料が白濁する温度を測定した値である。
【0034】
また、得られる洗浄剤は、その引火点が、無いかまたは30℃以上であるのが好ましい。上記の引火点が低過ぎると、火災の危険性が伴い好ましくない。なお、本発明における引火点は、タグ密閉式引火点測定法にて測定した値である。
【0035】
前記のように調製された本発明の洗浄剤は、全固形分濃度が3〜20質量%であることが好ましい。全固形分濃度が低過ぎると、その製品の荷姿がコンパクトにならず、輸送、梱包および保管における経費の削減ができず、不経済である。一方、全固形分濃度が高過ぎると保管性が低下する。本発明の洗浄剤は、単体で使用する場合もあるが、通常は5〜50倍、好ましくは10〜20倍に前記の水性媒体(c)または水で希釈して使用する。上記の洗浄剤の希釈率は、対象となる洗浄除去される接着剤の種類、あるいは洗浄組成物の液温などの洗浄条件によって適宜選択される。
【0036】
上記の洗浄剤を使用する1例は以下の通りである。例えば、電子部品、光学機器、医療部品、および自動車部品に使用されるガラス、セラミック、磁性体、シリコン、水晶、ガリウム類などからなる部材を切断、切削および研磨加工する際に、これらの部材を一時的に仮止めするためのカーボンプレートなどからなる固定台を100℃〜180℃に加熱し、当該固定台に前記の洗浄剤で洗浄除去できる固形の接着剤を手塗り、あるいはホットメルトアプリケーターを使用して、10μm〜100μmの厚みに溶融塗布する。
【0037】
次に、熱溶融状態にある上記の接着剤の塗布面に上記の加工される部材を圧着し、圧着後、常温まで冷却して仮固定する。仮固定後、部品をダイヤモンドカッターなどを使用して切断加工したり、研磨機を使用して研磨したりする。加工後、接着剤が付着している部材を前記の洗浄剤中に浸漬するなどして接着剤を洗浄除去し、加工部材を得る。
【0038】
上記の固形の接着剤としては、例えば、天然セラック樹脂、合成セラック樹脂などのセラック系樹脂;ガムロジン、ウッドロジンなどの天然ロジン;ロジンエステル、水添ロジン、水添ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステル、マレイン酸エステル、マレイン酸変性ロジン、ロジン変性フェノール樹脂などの合成ロジン類;エポキシ変性樹脂などのエポキシ系樹脂;および(メタ)アクリル酸とその他共重合可能なモノマーとからなる共重合体などのアクリル系樹脂など、およびこれらの樹脂の混合物など、前記の洗浄剤で洗浄除去できる樹脂を主成分とするものであればいずれのものも使用することができ、該樹脂を主成分として、必要に応じて、その他に可塑剤、体質顔料などの添加剤を配合した接着剤が挙げられる。なお、上記の接着剤は上記のような固形タイプ以外に、有機溶剤に接着剤を溶解した溶液タイプも使用することができる。
【実施例】
【0039】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。文中「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1〜6](洗浄剤U1〜U6)
下記のアルカリ剤(a)、界面活性剤(b)および水性媒体(c)を使用して表1に示すように各々の成分を配合して均一に撹拌混合して本発明の洗浄剤U1〜U6を調製した。
【0041】
[比較例1](洗浄剤V1)
水性媒体c1を全て水に置き換える以外は実施例1と同様にして比較例の洗浄剤V1を調製した。
【0042】
[比較例2]
アルカリ剤a1をピロリン酸カリウムを除いて全て水酸化カリウムとし、また、水性媒体c1を全て水に置き換える以外は実施例1と同様にして比較例の洗浄剤V2を調製した。
【0043】
上記の表1に示すアルカリ剤(a)、界面活性剤(b)および水性媒体(c)は下記の通りである。
・アルカリ剤(a)
a1:水酸化カリウムとピロリン酸カリウムとの混合物(質量比1:1)
a2:水酸化カリウムと水酸化ナトリウムとの混合物(質量比1:1)と、ピロリン酸カリウムとの混合物(質量比1:1)
・界面活性剤(b)
b1:非イオン界面活性剤(花王(株)製、エマルゲンLS−106)と陰イオン界面活性剤(花王(株)製、ペレックス−SSH)との混合物(質量比9:1)
b2:非イオン界面活性剤(花王(株)製、エマルゲンLS−106)
【0044】
・水性媒体(c)
c1:ジエチレングリコールモノブチルエーテル3部と水90部との混合物
c2:ジエチレングリコールモノブチルエーテル2.5部とイソプロピルアルコール2.5部との混合物と水88部との混合物
c3:ジエチレングリコールモノブチルエーテル2部とエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート1部と水90部との混合物
c4:工業用エチルアルコール20部と水73部との混合物
c5:イソプロピルアルコール5部と水88部との混合物
【0045】

【0046】
上記で得られた各々の洗浄剤の曇点、引火点、洗浄除去性、保管性および基材に対する非侵食性について下記の方法で測定し評価した。評価結果を表2に示す。
(曇点)
前記の各々の洗浄剤の試料を10mlのガラス瓶へ入れウオターバスに浸け、該ウオターバスの温度を徐々に上げて白濁する温度を測定した。
【0047】
(引火点)
タグ密閉式引火点測定法にて、前記の各々の洗浄剤の引火点を測定した。
【0048】
(洗浄除去性)
マレイン酸変性ロジン樹脂30部と水添ロジン樹脂30部とステアリン酸40部とからなる固形接着剤(A)、およびエポキシ変性樹脂(重量平均分子量500〜1,500、酸価110mgKOH/g)の固形接着剤(B)を使用して、上記の固形接着剤AおよびBの各々を、100℃に加熱されたガラス基板の表面に手塗にて40μm〜50μmの厚みに塗布し、常温まで冷却して固化させて試料を作製し、該試料を、前記の各々の洗浄剤をその水性媒体にて10倍に希釈し、該溶液中に室温にて浸漬し、上記の接着剤の洗浄剤に対する洗浄除去性を下記の基準で評価した。
◎:ガラス基板上の接着剤が、残渣が認められず完全に洗浄除去されている。
×:ガラス基板上の接着剤が、残渣が認められ完全には洗浄除去されていない。
【0049】
(保管性)
前記の各々の洗浄剤の試料を10mlのガラス瓶へ入れ、試料の液温を25℃にし、洗浄剤の状態を下記の基準で評価した。
◎:洗浄剤が、白濁や析出物が全く認められない。
×:洗浄剤が、白濁や析出が認められる。
【0050】
(非侵食性)
前記の各々の洗浄剤をその水性媒体にて10倍に希釈した溶液とし、該溶液の液温を90℃として、その中にシリコンウエハーを15分間浸漬してシリコンウエハーの侵食の状態を下記の基準で評価した。
◎:シリコンウエハー表面が、全く侵食されていない。
×:シリコンウエハー表面が、曇ったり、侵食されている。
【0051】

【0052】
上記の評価結果より、本発明の洗浄剤は、従来の洗浄剤に比べて、曇点を高くすることができ、洗浄剤特性が優れた洗浄剤であることが実証されている。一方、比較例の洗浄剤は、曇点が低く、保管性や基材に対する非侵食性が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の洗浄剤は、従来の洗浄剤に比べて洗浄剤特性が優れており、また、濃縮型であることから、その荷姿がコンパクトになり、輸送、梱包および保管における経費の削減ができる経済性を追求した、電気機器部品、光学部品、医療部品および自動車部品などの部材を切断または研磨加工する際に使用する接着剤を加工後に洗浄除去するための洗浄剤として有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともアルカリ金属水酸化物とアルカリ金属リン酸塩とを含有するアルカリ剤(a)と、少なくとも非イオン界面活性剤を含有する界面活性剤(b)とを、親水性有機溶剤と水とからなる水性媒体(c)中に含有してなり、曇点が25℃を超えることを特徴とする接着剤用洗浄剤。
【請求項2】
前記のアルカリ剤(a)のアルカリ金属水酸化物(A)とアルカリ金属リン酸塩(B)の配合割合が、A/B=1/2〜2/1(質量比)である請求項1に記載の洗浄剤。
【請求項3】
前記のアルカリ金属水酸化物が、水酸化カリウムおよび/または水酸化ナトリウムである請求項1または2に記載の洗浄剤。
【請求項4】
前記のアルカリ金属リン酸塩が、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウムおよびトリポリリン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の洗浄剤。
【請求項5】
前記の非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルおよびポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の洗浄剤。
【請求項6】
前記の界面活性剤(b)が、非イオン界面活性剤を50〜100質量%含有している請求項1または5に記載の洗浄剤。
【請求項7】
前記の界面活性剤(b)が、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテルとアルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウムとの混合物である請求項1または6に記載の洗浄剤。
【請求項8】
前記の水性媒体(c)が、ジエチレングリコールアルキルエーテル、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート、および炭素数が1〜11の脂肪族飽和アルコール類から選ばれる少なくとも1種(E)と、水(F)とからなり、両者の比率E/F=2/98〜50/50(質量比)である請求項1に記載の洗浄剤。
【請求項9】
前記のジエチレングリコールアルキルエーテルが、ジエチレングリコールモノブチルエーテルである請求項8に記載の洗浄剤。
【請求項10】
引火点が、無いかまたは30℃以上である請求項1〜9のいずれか1項に記載の洗浄剤。

【公開番号】特開2008−138072(P2008−138072A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325435(P2006−325435)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000183923)ザ・インクテック株式会社 (268)
【Fターム(参考)】