説明

接着剤組成物とそれを用いた積層体

【課題】 プラスチックフィルムや金属に対する接着性に優れており、また優れた押出し製膜性を有することを特徴とした接着剤組成物を提供する。
【解決手段】 融点が200℃以下の結晶性ポリエステル(A)、熱可塑性樹脂(B)、ポリテトラフルオロエチレン(C)からなり、かつ以下の(a)〜(c)の全てを満足することを特徴とする接着剤組成物。
(a)融点が200℃以下の結晶性ポリエステル(A)を100重量部とした場合、熱可塑性樹脂(B)を0.5〜110重量部含有する。
(b)融点が200℃以下の結晶性ポリエステル(A)を100重量部とした場合、ポリテトラフルオロエチレン(C)を0.0001〜10重量部含有する。
(c)接着剤組成物の200℃、せん断速度50s-1における溶融粘度が500dPa・s〜50000dPa・sである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルムや金属に対する接着性に優れており、また、優れた押出し製膜性を有することを特徴とした接着剤組成物に関するものである。さらにはそれを用いた積層体、フレキシブルフラットケーブル、フレキシブルプリント配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気、電子材料では、金属やプラスチックなどの他種素材を接着させる接着剤には高い接着性、環境安定性かつ易加工性が求められている。例えば、フレキシブルプリント基板(FPC)やフレキシブルフラットケーブル(FFC)においては、フィルム基板と導体である金属を、接着剤を用いて接着させるが、この際接着剤には繰返しの折り曲げなどの長期間使用しても剥離を生じない長期耐久性、および−30℃の低温下、100℃を越す高温下、耐湿熱下での環境信頼性、さらには、塗布が容易でかつ後熱処理加工などが不要などの易加工性に優れた接着剤が求められている。このような接着剤として、共重合ポリエステルを有機溶剤に溶解しプラスチックフィルムや金属に塗布する手法などがとられてきた。しかし、このような接着剤は優れた接着性を有するものの、一般的には非晶性であるため、高温放置時のブロッキングが問題となる。また、乾燥工程が必要なだけでなく、有機溶剤の揮散防止など、工程や設備上の面でコストアップにつながる。このような背景もあり近年では環境負荷物質の発生も無く、加工工程の低減になることから、プラスチックフィルムや金属に共重合ポリエステルを直接溶融押出しラミネートする手法が幅広く用いられるようになっている。しかし、ポリエステルは溶融張力が低いこともあり本質的にTダイによるフィルムの製膜性に欠けている。さらに通常接着剤として用いられるポリエステルは低分子量であるため、押出しにより製膜をした場合、粘度の低さからさらに製膜は困難なものとなる。したがって、単純にこのようなポリエステル単独を用いて製膜しようとしても、製膜性が不十分であり接着層にピンホールや厚みむらが生じ、接着剤が本来持っている接着力を十分に発揮できなくなる。さらに、FFCのような接着層の薄膜化やコストダウンが求められる用途においては、ラインスピードを速めることが必須であるがこれまでの接着剤では製膜は困難であった。また、難燃剤や無機フィラーを大量に添加する場合にも、接着剤には製膜可能なだけの十分な溶融張力、溶融伸度が求められる。もし、ラインスピードを抑えこれら問題を解決したとしても生産性が大幅に低下するため実用的な方法ではない。また、結晶性ポリエステルの場合、押出し時や被着体上での接着剤のたれや広がりを無くそうと結晶速度を速め、みかけの溶融粘度を高める手法をとることが可能であるが、被着体への濡れ性の低下と急激な体積収縮により接着剤が被着体から剥れるなど、製膜性と接着性との両立が困難となる。
【0003】
プラスチックや金属に対する接着剤の従来の技術としては、例えば、特許文献1ではプレコート鋼板として塗布されたポリエステル塗装面への接着性を高めるためにポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂を配合した接着剤が開示されている。しかし、この接着剤には、密着性を向上させるべく、低分子量のエポキシが多く含まれているため溶融粘度が低く、押出し製膜に必要な溶融特性を保持できない。したがって、いざこの接着剤を用い押出しラミネートを行った場合には、接着層にピンホールや厚みむらが生じ接着性が大幅に低下する。
【0004】
押出し製膜性を高めるべくポリエステル樹脂を改良した例としては、特許文献2のポリエステル樹脂シール材であり、ポリエステルに分岐剤である3官能以上のポリカルボン酸やポリオールを共重合することで分岐を導入し、かつ分子量を高めることで押出し製膜性を付与している。しかし、このように高分子量で、かつ分岐を導入した樹脂を連続的に重合しようとした場合、分岐剤による架橋が進みゲル状物が発生する。このような樹脂を押出した場合、押出時にフィッシュアイなどが発生し、十分に満足できる押出膜を得ることができない。さらに、特許文献3では、ヒートシール性を高めるべく分岐鎖を有しないポリエステルに分岐鎖を有するポリエステルにブレンドすることを提案しているが、やはり分岐鎖を有するポリエステルの使用が必須であり、ポリエステルの生産性、ヒートシール性、押出性の両立ができていないのが実状である。
【0005】
さらに、特許文献4では、ポリエステルにポリテトラフルオロエチレン樹脂を添加し、良好な製膜性を達成している。しかし、ここで実施されている樹脂は、溶融粘度、融点、ガラス転移点が非常に高いなど接着剤として使用することはできなかった。溶融粘度が高い場合、被着体との濡れ性が非常に悪く接着性が出ない。また、融点が高い場合は、作業性が低下するだけでなく、ポリマーフィルム等の被着体を溶融もしくは劣化させてしまうため使用が困難であった。また、ガラス転移点が高い場合は、室温では樹脂自体が非常に硬く十分な接着力が得られない。以上のように、プラスチックや金属への高い接着性と、押出しラミネート時の優れた製膜性を両立した接着剤組成物は報告されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平1−254788号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特許第3089650号(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平6−107924号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平9−12848号広報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、プラスチックフィルムや金属に対する接着性に優れており、また優れた押出し製膜性を有することを特徴とした接着剤組成物を提供することにある。さらにはそれを用いた積層体、フレキシブルフラットケーブル、フレキシブルプリント配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、融点が200℃以下の結晶性ポリエステル(A)、熱可塑性樹脂(B)、ポリテトラフルオロエチレン(C)を含有することを特徴とする接着剤組成物に関する。さらに詳細には、熱可塑性樹脂(B)が、エチレン−プロピレン共重合体(B1)、スチレン−ブタジエン共重合体(B2)、230℃におけるメルトフローレートが1.0g/min未満であり、かつ密度が0.92g/cm3未満の低密度ポリエチレン(B3)のうち少なくとも一つであり、ポリテトラフルオロエチレン(C)がアクリル系樹脂で改質されていることを特徴する接着剤組成物に関する。さらには、この接着剤組成物を含有する積層体およびフレキシブルフラットケーブル、フレキシブルプリント配線基板に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、プラスチックフィルムや金属に対する接着性に優れており、また優れた押出し製膜性を有することを特徴とした接着剤組成物を提供することができる。さらにはそれを用いた、積層体、フレキシブルフラットケーブル、フレキシブルプリント配線基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は結晶性ポリエステル(A)、熱可塑性樹脂(B)、ポリテトラフルオロエチレン(C)からなる接着剤組成物である。
本発明で言う結晶性ポリエステルとは以下のように定義する。まずポリエステル試料を120℃で一時間熱処理を行い、25℃で48時間放置する。次に示差走査型熱量計(DSC)を用いて、その熱処理試料の測定を行う。測定条件は窒素雰囲気下、−100℃〜300℃まで20℃/minで昇温し、次に−100℃まで50℃/minで降温し、続いて−100℃〜300℃まで20℃/minで昇温する。その2度の昇温過程において、どちらかの昇温過程に明確な融点ピークを示すものを結晶性ポリエステルとする。いずれの昇温過程においても結晶融解ピークが見られないものを非晶性ポリエステルとする。
【0011】
本発明の樹脂組成物に用いられる結晶性ポリエステル(A)の構成成分としては、以下に示す多価カルボン酸、もしくはそのアルキルエステル、酸無水物を使用できる。多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボンル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホン酸ナトリウムイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12−ドデカン二酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)等の芳香族多価カルボン酸、等が挙げられる。
【0012】
結晶性ポリエステル(A)のポリオール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1、4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコ−ル、ジプロピレングリコ−ル、2,2,4−トリメチル−1,5−ペンタンジオ−ル、ネオペンチルヒドロキシピバリン酸エステル、ビスフェノ−ルAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノ−ルAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、1,9−ノナンジオール、2−メチルオクタンジオール、1,10−デカンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ダイマージオール、ポリカーボネートグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロピオン酸、ポリエーテルグリコール等が上げられる。また、結晶性ポリエステル(A)のポリオール成分としてポリエーテルグリコールを共重合することが好ましい。ポリエーテルグリコールの共重合は適度な柔軟性の付与すると共に、その他の長鎖グリコールや長鎖カルボン酸を共重合するのとは異なり、接着剤として用いた場合、結晶化時の体積収縮による接着性低下が起こりにくくなる。また、ガラス転移点が低下するため、冬場の低温環境下でも十分な柔軟性を有し、接着剤として使用した場合も低温環境下の接着性が良好である。さらに、ポリエーテルグリコールを共重合することにより樹脂中のエステル基濃度が低下し耐湿熱性も大幅に改善される。ポリエーテルグリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、およびそれらの共重合体、さらにはこれらアルキレングリコールにネオペンチルグリコールやビスフェノールAなどを共重合したものもあてはまる。ポリエーテルジオールの数平均分子量としては400〜10000のものが望ましい。好ましい下限は600、より好ましくは800である。また、好ましい上限は4000、より好ましくは3000、さらに好ましくは2500である。ポリエーテルグリコールの共重合量は1モル%以上、好ましくは2モル%以上である。上限は20モル%未満である。
【0013】
結晶性ポリエステル(A)の酸成分のうち好ましくは結晶性が高いテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸が共重合されていることが好ましい。また、結晶性ポリエステル(A)のポリオール成分としてはエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールのうち少なくとも一つを50モル%以上含有することが好ましい。さらに、好ましくは、結晶サイズを小さくし、結晶化に伴う結晶化ひずみを小さくするためにはこれら酸成分および/またはポリオールの少なくとも一方を2成分以上使用することが好ましい。
【0014】
また、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)等の多塩基酸、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロピオン酸などの多官能グリコールを重合時にゲルが発生しない程度に共重合、もしくは溶融混練時に添加することが、官能基の増加による接着性の向上、さらには押出し製膜性を向上させるため好ましい。
【0015】
結晶性ポリエステル(A)の融点は200℃以下である。好ましくは180℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。融点が200℃を越えると、樹脂を加工する際、高温を必要とするため加工性に劣るだけでなく、ヒートシール温度が高くなりすぎるため接着剤としての使用が困難である。一方融点の下限としては50℃以上が好ましい。融点が50℃未満であると、耐熱性が不十分であるとともに、室温でブロッキングを起こす場合がある。結晶性ポリエステル(A)のガラス転移点としては70℃以下、好ましくは30℃以下、さらに好ましくは0℃以下、最も好ましくは−20℃以下である。特に、室温の接着性を高める場合には、30℃以下が好ましい。ガラス転移点が30℃を超えると、室温付近における弾性率が高くなりすぎて、特に室温領域での接着性が低下するおそれがある。また、柔軟性に劣るため高い耐屈曲性を必要とするフレキシブルフラットケーブルなどにおいては、屈曲時に接着剤と被着体間で剥離が生じることがある。下限は特に限定されないが高温領域の接着性を考慮すると−100℃以上である。ここで融点やガラス転移温度は示差走査熱量計を用い以下のようにして求めた。まず試料を120℃で一時間熱処理を行ない、25℃で48時間放置した。その後測定試料5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、−100℃〜300℃まで20℃/minで昇温し、次に−100℃まで50℃/minで降温し、続いて−100℃〜300℃まで20℃/minで昇温する2度の昇温過程のうち、より高温に現れた融解ピークの頂点を融点とした。また、ガラス転移点は、2度目の昇温過程でガラス転移点以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの間での最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。
【0016】
本発明の樹脂組成物の構成成分として用いられる結晶性ポリエステル(A)は200℃、せん断速度50s-1の溶融粘度が100dPa・s〜50000dPa・sであることが望ましい。より好ましくは500dPa・s〜40000dPa・s、さらに好ましくは1000〜30000である。溶融粘度が100dPa・s未満であると、熱可塑性樹脂(B)やポリテトラフルオロエチレン(C)との溶融粘度の差異からコンパウンドが不十分になりブツが発生する。また、最終的な接着剤組成物の溶融粘度も十分に上昇せず製膜も不可能である。一方50000dPa・s以上であると最終的な接着剤組成物の被着体への濡れが不十分であり十分な接着力が得られない。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂(B)のブレンドは、ポリエステルとブレンドしたときの製膜性改善と接着性改善の両特性改善に非常に有効である。
熱可塑性樹脂(B)としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、シリコン、上記結晶性ポリエステル(A)とは組成が異なるポリエステル、ポリアミドなどから選ばれる1種以上を使用することが好ましい。中でも、接着剤として用いる場合、室温、低温雰囲気下での接着性が要求されることから、熱可塑性樹脂(B)としてはガラス転移点が30℃以下、好ましくは0℃以下さらに好ましくは−40℃以下である。下限は−100℃以上が好ましい。特にJIS K 7215の測定条件における熱可塑性樹脂(B)のショアA硬度としては60〜98であることが好ましい。さらに好ましくは70〜95である。ショアA硬度が60未満であると最終的な樹脂組成物の力学物性が低下し、一方、98以上であると最終的な樹脂組成物が非常に硬くなり、接着性を大幅に低下させてしまう場合がある。一方、ショアA硬度が60〜98の熱可塑性樹脂(B)は、適度に柔軟なであることから結晶性ポリエステル(A)の結晶化進行に伴うひずみエネルギーを効果的に緩和することができ、経時的な接着強度低下を抑制することもできる。
【0018】
このような特性を有する熱可塑性樹脂(B)としては、各種軟質ポリマーまたは熱可塑性エラストマーの使用が好ましい。軟質ポリマーおよび熱可塑性エラストマーとしては、軟質ポリオレフィン、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、上記結晶性ポリエステル(A)とは組成が異なるポリエステルエラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、シリコン系エラストマー、フッ系エラストマー、1,2−ポリブタジエン系エラストマー、トランス−1,4−ポリイソプレンエラストマー等があげられる。
【0019】
軟質ポリオレフィン、ポリオレフィン系エラストマーとしては、比較的柔軟性を有していれば良いので、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレンプロピレンエラストマー、α−オレフィン共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体などの無極性ポリオレフィン、およびアイオノマー、動的架橋熱可塑性ポリオレフィンエラストマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル三元共重合体、エチレン−アクリル酸メチル−メタクリル酸グリシジル三元共重合体、また、これらポリオレフィン系樹脂に他成分をグラフトし変性した樹脂、その他樹脂とのブレンド物などが使用できる。スチレン系エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体およびこれらの部分水添物、完全水添物などが挙げられる。ポリ塩化ビニル系エラストマーとしては、高重合度ポリ塩化ビニルに可塑剤を添加したもの、ポリ塩化ビニルを変性したもの、また、これらと他の樹脂とのブレンド物があげられる。ニトリル系エラストマーとしては、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体があげられる。ポリウレタン系エラストマーとしては、ポリエステル系ポリウレタンエラストマー、ポリエーテル系ポリウレタンエラストマー、ポリカーボネート系ポリウレタンエラストマー、ポリカプロラクトン系ポリウレタンエラストマー等が上げられる。上記結晶性ポリエステル(A)とは組成が異なるポリエステルエラストマーとしては、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ヘキサンジオールなど炭素数が6以上のジカルボン酸および/またはジオールを共重合したポリエステルをソフトセグメントとしたポリエステル系ポリエステルエラストマー、ポリエーテル系ポリエステルエラストマー、ポリカプロラクトン系ポリステルエラストマー、ポリカーボネート系ポリエステルエラストマー等が上げられる。ポリアミド系エラストマーとしては、ナイロン12、ダイマー酸共重合ポリアミド、ポリエーテルポリアミド等が挙げられる。
【0020】
さらに、熱可塑性樹脂(B)はカルボキシル基および/またはグリシジル基を有することが好ましい。カルボキシル基および/またはグリシジル基を有する場合、結晶性ポリエステル(A)との相溶性が向上し、ミクロ層分離が可能となり製膜性が改善する。また、接着剤として用いた場合も、熱可塑性樹脂(B)が均一に分散されているため、熱可塑性樹脂(B)の応力緩和効果により樹脂組成物の接着性が向上する。
【0021】
また、押出製膜性と接着性を両立させる上で、熱可塑性樹脂(B)の230℃におけるメルトフローレート(MFR)としては0.01〜100g/10minが好ましい。MFRが100以上であると、樹脂組成物の溶融粘度が低下し押出し製膜できなくなり、一方、0.01未満であると熱可塑性樹脂の流動性が低下し、ポリエステルと十分に混合できず、粒状物として残ってしまう場合がある。さらに好ましいMFRとしては0.01〜30g/10min、さらに好ましくは0.01〜5g/10minである。ポリエステルと十分混練できる範囲で、できるだけ低いMFRのポリオレフィンを用いることにより、ポリオレフィンが持つ溶融特性が最終的な接着剤組成物に顕著に現れ、接着剤組成物の押出製膜性を向上できる。
【0022】
熱可塑性樹脂(B)に関して鋭意に検討した結果、熱可塑性樹脂(B)としては、特に下記の3種で接着性と製膜性が大幅な改善が見られる。一つ目は、熱可塑性樹脂(B)がエチレン−プロピレン共重合体およびこれらの変性品の場合である。変性品とは共重合によりカルボン酸やグリシジル基を導入したものを指す。一般にポリエチレンなどは、ポリエステルと比べ、溶融時の張力、伸度が高いため製膜が行いやすいことが知られている。そこで、ポリエステルにポリエチレンをブレンドすることでポリエステルの製膜性の改善がしばしば検討される。しかし、通常高密度ポリエチレンなどではポリエステルとの相溶性が悪いため、ポリエステルとのブレンド量に制限を受け、製膜性を発現させるのが難しい。また、高密度ポリエチレンは結晶化度が高いため接着剤組成物全体が硬くなり接着剤としては不適である。一方、エチレン−プロピレン共重合エラストマーを使用した場合、エチレン−プロピレン共重合エラストマーのブロック的な構造のためか、ポリエステルと同重量の添加量でも問題なくポリマーブレンド化でき、ポリエステルの接着性を損なうことなくエチレン−プロピレンエラストマーがもつ製膜性をポリエステルに付与できる。二つ目は熱可塑性樹脂(B)としてスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体の水添物およびこれらの変性品の場合である。スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体の水添物は、ポリエステルとの相溶性のためかオレフィン系樹脂よりも少量の添加でポリエステルの溶融張力が改善できるため、製膜性を向上させやすい。三つ目としては熱可塑性樹脂(B)として、230℃におけるメルトフローレートが1.0g/min未満であり、かつ密度が0.92g/cm3未満の低密度ポリエチレンおよびこれらの変性品の場合である。230℃、1.26kgのメルトフローレートが1.0g/min以下であるエチレン−α−オレフィン共重合体をポリエステルとブレンドした場合、ポリエステルの溶融粘度の向上効果が大きく、溶融時の溶融張力と溶融伸度をバランスよく改善できる。メルトフローレートは0.01g/min以上が好ましく、密度は0.80g/cm3以上が好ましい。
【0023】
本発明における熱可塑性樹脂(B)の配合量は、結晶性ポリエステル(A)を100重量部とした場合、好ましくは0.5〜110重量部、さらに好ましくは10〜80重量部、最も好ましくは20〜60重量部である。熱可塑性樹脂(B)が0.5重量部未満の場合、接着性、製膜性の改善効果は不十分であり、一方、熱可塑性樹脂(B)を110重量部以上配合した場合、結晶性ポリエステル(A)がもつ接着性などの特性を打ち消してしまう傾向がある。またマクロな相分離により、伸度や表面平滑性の低下など押出し製膜性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0024】
本発明に用いるポリテトラフルオロエチレン(C)は、共重合成分としてヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィンや、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレートを用いることができる。
【0025】
さらに、ポリエステル樹脂(A)への分散性を向上させるためには、アクリル樹脂で改質されたポリテトラフルオロエチレンを用いることが好ましい。改質方法としては、ポリエステル樹脂(A)中へのポリテトラフルオロエチレン(C)の分散性が改善すればよいので、単純な混合でも構わない。より分散性を向上させるためにはポリテトラフルオロエチレンとアクリル系モノマーのランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、ポリテトラフルオロエチレン粉末表面でのアクリル系樹脂の重合、ポリテトラフルオロエチレン粉末表面へのアクリル系樹脂のコーティング、ポリマーブレンド、ポリテトラフルオロエチレンとアクリル系樹脂の積層構造化などによる多層構造形成、液状アクリル系樹脂中へのポリテトラフルオロエチレン粉末を分散させることなどがあげられる。アクリル樹脂で改質されたポリテトラフルオロエチレンのポリテトラフルオロエチレン含量としては5%〜99%が好ましい。
【0026】
アクリル系樹脂を作製するためのモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、メタクリル酸トリデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヒキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;メタクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体等を挙げることができる。これらの単量体は、単独であるいは2種以上混合して用いることができる。
【0027】
これらの単量体の中でポリエステル樹脂(A)との親和性の観点から好ましいものとして、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体、α,β−不飽和カルボン酸、グリシジル基含有単量体を挙げることができる。特に好ましいものとして、スチレン、ブチルアクリレート、アクリロニトリル、無水マレイン酸、メタクリル酸グリシジルからなる群より選ばれる1種以上の単量体を10重量%以上含有する単量体を挙げることができる。
【0028】
ポリテトラフルオロエチレンおよびアクリル系樹脂で改質したポリテトラフルオロエチレンとしては、旭硝子社製FLUON PTFE Lグレード、Gグレード、CDグレード、ADグレード、三菱レイヨン社製メタブレンA3000、ダイニオン社製ダイナマーPPA、ダイニオンPTFE、ポリフロンMPA FA−500、ソルベイソレクシス社製Algoflonなどがあげられる。
【0029】
ポリテトラフルオロエチレン(C)の結晶性ポリエステル(A)への添加時の形状としては、ペレット状、パウダー状、結晶性ポリエステル(A)や熱可塑性樹脂(B)やその他樹脂とのマスターバッチ、溶融混練に問題ない範囲で液状分散体なども利用できる。
【0030】
本発明の接着剤組成物は、前記ポリエステル樹脂(A)100重量部に対してポリテトラフルオロエチレン成分が0.0001〜10重量部になるように配合することが好ましい。より好ましくは0.01〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部である。0.0001重量部未満では加工性の改良効果が乏しく、また、10重量部を超えるとポリエステルとの相溶性の悪化により製膜性が低下する。また、ポリテトラフルオロエチレンによりポリエステルの表面特性が変化し接着性も大幅に悪化する。
【0031】
本発明の接着剤組成物の200℃、せん断速度50s-1の溶融粘度は500dPa・s〜50000dPa・sであることが望ましい。より好ましくは1000dPa・s〜40000dPa・s、さらに好ましくは2000〜30000である。溶融粘度が500dPa・s未満であると、溶融時の張力や伸度が不足し押出しラミネート時にピンホールや厚みむらが生じる。また、50000dPa・s以上であると、押し出し機内での流動性が不足するためせん断発熱などにより樹脂の劣化を招くだけでなく、接着剤として使用したときに被着体への濡れ性が悪く接着性が悪い。
【0032】
本発明の樹脂組成物に、金属などとの接着性を高めるためにエポキシ樹脂(D)を含有しても良い。エポキシ樹脂(D)としては、例えばビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、ブロム化ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテルタイプ、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルタイプ、トリグリシジルイソシアヌレート、グリシジルヒンダントイン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、トリグリシジルメタアミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、ジグリシジルトリブロムアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン等のグリシジルアミン、あるいは3,4−エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の脂環族あるいは脂肪族エポキサイドなどが挙げられる。これらのうち、特に、接着力を大幅に向上させるためには熱可塑性結晶性ポリエステルに対して相溶性が良いものが好ましい。
【0033】
本発明におけるエポキシ樹脂(D)の配合量は、結晶性ポリエステル(A)を100重量部とした場合0〜80重量部が好ましい。エポキシ樹脂(D)が80重量%を超えると、機械的特性が劣り接着性、耐熱性が低下することがある。
【0034】
また、本発明の接着剤組成物には、必要に応じ難燃剤を併用することができる。難燃剤としては、例えば、パークロロペンタシクロデカノン等の塩素系難燃剤、ペンタジブロモトルエン、臭素化フェニルメタクリル酸エステル、2,4−ジブロモフェノール等の臭素系難燃剤、三酸化アンチモン、リン酸エステル、リン酸アミド、有機フォスフィンオキサイド等の有機リン系難燃剤、赤燐、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、トリアジン、メラミンシアヌレート等の窒素系難燃剤、ポリスチレンスルフォン酸アルカリ金属塩等の金属塩系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水和金属系難燃剤、その他無機系難燃剤等が挙げられる。
【0035】
本発明の接着剤組成物には、各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、本発明以外の樹脂、無機フィラー、安定剤、紫外線吸収剤、及び老化防止剤など熱可塑性接着剤への添加剤として広く用いられているものを本発明の特徴を損なわない範囲で添加することができる。さらに、本発明以外の樹脂としては、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、石油樹脂、水添石油樹脂、テルペン樹脂、ロジン、および変性ロジン等を添加することができる。
【0036】
無機フィラーとしては、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、クレー、ベントナント、フュ−ムドシリカ、シリカ粉末、雲母等を本発明の樹脂組成物の全体量100重量部に対して40重量部以下配合することができる。また、その他の添加剤として、各種金属塩等の結晶核剤、着色顔料、無機、有機系の充填剤、タック性向上剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、クエンチャー、金属不活性化剤、銅害防止剤、UV吸収剤、HALS、加水分解安定剤等の安定剤、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等を添加することもできる。
【0037】
本発明の接着剤組成物の製造方法としては、本発明の結晶性ポリエステル(A)、熱可塑性樹脂(B)、ポリテトラフルオロエチレン(C)を同単軸もしくは二軸のスクリュー式溶融混錬機、または、ニーダー式加熱機に代表される通常の熱可塑性樹脂の混合機を用いて製造できる。その際、3成分を一括混練、あるいは2種をあらかじめ混練し、その後残りの一成分を混練することも可能である。また、混練したものは、引き続き造粒工程によりペレット化するか、もしくは直接被着材に塗布することが可能である。
【0038】
本発明の接着剤組成物を接着剤として用いる方法として、好ましくは、前述の製造方法により造粒されたペレットをT−ダイ方式、インフレーション方式と称するダイス部分を有したスクリュー式押出し機により接着剤単体をシート状、フィルム状に成形し、積層接着する被着材の中間に固定し、加熱接着するか、またはシート状に成形した接着剤を一方の被着材上で加熱溶融し、そのままもう一方の被着体を冷却しながら圧着する接着方法がある。
【0039】
また、ペレットを前述のスクリュー式押出し機により溶融し、直接積層する被着材間に挿入して熱接着したり、一方の被着材が熱可塑性プラスチックの場合、共押出しにより直接接着するか、直接一方の被着材に塗布し、改めて加熱接着する方法がある。押出し温度としては、融点+10℃〜融点+100℃が好ましい。
【0040】
本発明の接着剤組成物を、プラスチック、金属、繊維、ガラス、セラミック、木材、紙いずれにも強い接着力を示す。特にプラスチックフィルムと金属の接着には有効である。プラスチックフィルムとしてはポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリ乳酸フィルム、エチレン−ビニルアルコールフィルムを含む各種バリア性フィルムなどに使用できる。また、金属としては、銅、スズメッキ銅、アルミ、鋼板、ステンレス等に使用できる。
【0041】
本発明の接着剤組成物は、この樹脂単独をフィルム化し使用することが可能であるが、非着体と接着剤を積層することもできる。構成としては、被着体/接着剤、被着体/接着剤/被着体、また、これら構成のものをさらに重ね合わせたものなどがあげられる。
【0042】
特に本発明の接着剤組成物は高い接着信頼性、易加工性を有することから、電子材料などの接着剤として有効である。電子材料としては、フレキシブルフラットケーブル、フレキシブルプリント配線基板への使用が特に有効である。使用部位としては、特に限定されないが、絶縁フィルムと導体間の接着、カバーフィルムの接着、補強板の接着、多層化用の接着として使用できる。
【実施例】
【0043】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。実施例中に単に部とあるのは重量部を示す。なお、実施例に記載された測定値は以下の方法によって測定したものである。
【0044】
樹脂組成:樹脂を重クロロホルムに溶解し、1H−NMRにより定量した。
【0045】
溶融粘度:島津製作所製フローテスターを用い、200℃、せん断速度50s-1の条件の下、径1mm×長さ10mmのキャピラリーを用い測定した。
【0046】
融点およびガラス転移温度:まず、試料を120℃で一時間熱処理をおこない、25℃で48時間放置した。その後、セイコーインスツルメント(株)製示差走査熱量計を用い、測定試料5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、−100℃〜300℃まで20℃/minで昇温し、次に−100℃まで50℃/minで降温し、続いて−100℃〜300℃まで20℃/minで昇温する2度の昇温過程において、どちらかの昇温過程のうち、より高温に現れた融解ピークの頂点を融点とした。また、ガラス転移点は、2度目の昇温過程でガラス転移点以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの間での最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。
【0047】
<結晶性ポリエステル(A)の合成例>
撹拌機、温度計、溜出用冷却管を装備した反応缶内に、テレフタル酸130部、イソフタル酸37部、エチレングリコール124部、酸成分に対し0.04mol%の三酸化アンチモン、最終的な樹脂量に対しNa量が10ppmになるように酢酸ナトリウムを仕込み、180〜240℃の温度において、3時間加圧下でエステル化反応を実施した。エステル化反応終了後、反応系を240℃から260℃に昇温する一方、系内を徐々に減圧していき、60分かけて500Paとした。そして、さらに130Pa以下で2時間重縮合反応を行い、結晶性ポリエステル(A−1)を得た。結晶性ポリエステル(A−1)はNMR分析の結果、テレフタル酸78モル%、イソフタル酸22モル%、エチレングリコール100モル%の組成を有しており、溶融粘度が15000dPa・s、ガラス転移温度70℃、融点190℃であった。
【0048】
<結晶性ポリエステル(A−2〜B−2)の合成例>
結晶性ポリエステル樹脂(B−2)のは合成例1と同様の手法により得た。ただし、組成を変更させた結晶性ポリエステル(A−2)、(A−3)、(A−4)、(B−1)については、触媒として酸成分の0.06mol%のテトラブチルチタネートを用い、加圧せずに常圧でエステル化反応を実施した。また、共重合成分としてポリテトラメチレングリコールが含まれる場合は、エステル化終了後、酸化防止剤であるイルガノックス1330(チバスペシャリティケミカル社製)を重合終了後の樹脂量に対し0.1wt%となるように添加し、その後重縮合を行った。
【0049】
【表1】

【0050】
<実施例1>
結晶性ポリエステル(A−1)100部、エチレン−プロピレン共重合体(住友化学社製 エクセレンEP3721)50部、ダイニオンPTFE(ダイニオン社製)3部を200℃にて二軸スクリュー式押出し機にて混練した。得られた接着剤を50μmの二軸延伸PETフィルムの上に、スクリュー径30mmφ、Tダイ幅200mmの押し出し機(プラ技研製)を用いて、200℃の温度で接着剤厚が30μmとなるように押し出し、接着テープを得た。この接着テープを用いて、下記の評価を行った。
【0051】
PET接着性:上記接着テープの接着剤面と、50μmの二軸延伸PETフィルムを合わせ、テスター産業社製ロールラミネーターを用いて接着した。なお、ラミネートは温度200℃、圧力0.3mPa、速度0.5m/minで行った。ラミネート後、室温にて1週間放置し、接着剤層を十分に結晶化させた後、東洋ボールドウイン社製RTM100を用いて、25℃雰囲気下で引っ張り試験を行い、50mm/minの引っ張り速度でT型剥離接着力を測定した。
【0052】
スズメッキ銅接着性:上記接着テープの接着剤面と、スズメッキ銅(厚み50μm、幅1mm)を上記と同様の方法でラミネートした。ラミネート後、室温にて1週間放置し、接着剤層を十分に結晶化させた後、東洋ボールドウイン社製RTM100を用いて、25℃雰囲気下で引っ張り試験を行い、50mm/minの引っ張り速度で180度剥離接着力を測定した。
【0053】
製膜性:上記Tダイ押出し機より製膜された接着剤層に裂けやピンホールや厚みむらが無い場合が○、裂けやピンホールや厚みむらが発生した場合を×とした。
【0054】
<実施例1〜5、比較例1〜6>
以下同様にして実施例2〜5、比較例1〜6を作製し評価を行った。結果を表2に示した。ただし、比較例1は、ポリエステルの融点が200℃を超える場合の比較例であり、特別に260℃で押出しラミネートを行った。
【0055】
【表2】

【0056】
本発明の接着剤組成物は、PETやスズメッキ銅に対する接着性が良好であり、製膜性も良好であることがわかる。
【0057】
それに対して、表2に見られるように、比較例1では、結晶性ポリエステル(A)の融点が高いため、PET基材が変形した。また、200℃程度の接着温度では溶融も不十分であるため接着性も示さなかった。比較例2では、接着剤組成物の200℃での溶融粘度が50000dPa・sを超えているため、被着体との濡れ性が非常に悪く接着性力が低い。比較例3では、熱可塑性樹脂(B)が含まれていないため、ポリエステル(A)の結晶緩和が十分でなく接着強度が低い。比較例4のポリテトラフルオロエチレンが入っていない系では接着性は良好であったが、製膜性が不十分でありピンホールが発生し、かつ接着層の厚みにばらつきがあった。比較例5では、熱可塑性樹脂(B)が過剰に添加されているため接着性が大幅に低下した。比較例6では、ポリテトラフルオロエチレンが過剰に添加されているため、接着性が大幅に低下するだけでなく、ポリエステルとの相溶性が非常に悪く製膜性も不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、プラスチックフィルムや金属に対する接着性に優れており、また優れた押出し製膜性を有することを特徴とした接着剤組成物を提供することができる。さらにはそれを用いた、積層体、フレキシブルフラットケーブル、フレキシブルプリント配線基板を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が200℃以下の結晶性ポリエステル(A)、熱可塑性樹脂(B)、ポリテトラフルオロエチレン(C)からなり、かつ以下の(a)〜(c)の全てを満足することを特徴とする接着剤組成物。
(a)融点が200℃以下の結晶性ポリエステル(A)を100重量部とした場合、熱可塑性樹脂(B)を0.5〜110重量部含有する。
(b)融点が200℃以下の結晶性ポリエステル(A)を100重量部とした場合、ポリテトラフルオロエチレン(C)を0.0001〜10重量部含有する。
(c)接着剤組成物の200℃、せん断速度50s-1における溶融粘度が500dPa・s〜50000dPa・sである。
【請求項2】
結晶性ポリエステル(A)のガラス転移点が30℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(B)のガラス転移点が30℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
JIS K 7215の測定条件における熱可塑性樹脂(B)のショアA硬度が60〜98であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂(B)がエチレン−プロピレン共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項6】
熱可塑性樹脂(B)がスチレン−ブタジエン共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項7】
熱可塑性樹脂(B)の230℃におけるメルトフローレートが1.0g/min未満であり、かつ密度が0.92g/cm3未満の低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項8】
熱可塑性樹脂(B)がカルボキシル基および/またはグリシジル基を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項9】
ポリテトラフルオロエチレン(C)がアクリル系樹脂で改質されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項10】
さらにエポキシ樹脂(D)を含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の接着剤組成物を用いた積層体。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の接着剤組成物を用いたフレキシブルフラットケーブル。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載の接着剤組成物を用いたフレキシブルプリント配線基板。

【公開番号】特開2006−57043(P2006−57043A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242191(P2004−242191)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】