説明

接着剤組成物及びこれを用いて得られる複合部材

【課題】押出成形等の比較的低い圧力下で成形する方法であっても、金属とポリオレフィンとを十分に高い接着強度で接合することが可能な接着剤組成物を提供すること。同時に、塩水浸漬試験等に適合する十分な耐久性を有する複合部材を、プライマーを用いずとも得ることを可能とする接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】ポリオレフィンと、不飽和カルボン酸又はその無水物がエラストマーに付加してなる変性エラストマーと、液状炭化水素化合物と、を含有し、金属部材にポリオレフィン層を接合するために用いられる接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材にポリオレフィン層を接合するために用いられる接着剤組成物及びこれを用いて得られる複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オレフィン系TPV等に代表されるポリオレフィンはそのシンプルな化学的組成が注目され、様々な用途への展開が試みられている。そして、適用しようとする用途によっては、ポリオレフィンを金属部材と複合した複合部材として使用することが求められる場合がある。この複合部材においては、金属とポリオレフィンが十分に強い接着強度で接合されることが求められる。更に、自動車や電気製品の分野で用いられる複合部材の場合、海岸付近での使用を想定した塩水浸漬試験等に適合するための耐久性も求められる。
【0003】
ポリオレフィンは一般に金属との接着性が比較的弱いため、通常、接着剤を介して金属に接合する必要がある。ポリオレフィンと金属との接合のために用いられる接着剤としては、例えば、硬質なポリオレフィンであるポリプロピレンにカルボン酸を付加した変性ポリプロピレンを用いた組成物(特許文献1)や、軟質なスチレン系ブロック共重合体に無水マレイン酸が付加した変性ブロック共重合体(特許文献2)が提案されている。
【0004】
一方、スチレン系熱可塑性エラストマーを主成分とし、接着剤を介することなく射出成形により金属と直接接着させることを意図した樹脂組成物が検討されている(特許文献3)。この樹脂組成物は、硬質なオレフィンであるポリプロピレンに無水マレイン酸を付加した変性物にパラフィンオイルが混合されたものであり、射出成形の際に高い圧力が加えられることにより、強固な接着性が得られるものと考えられる。
【特許文献1】特開昭63−12651号公報
【特許文献2】特許第3205550号公報
【特許文献3】特開2001−192527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の接着剤を用いた場合、射出成形のような高い圧力をともなう方法で金属部材とポリオレフィンとを接合して複合部材を製造したときであれば、比較的良好な接着強度が得られる場合もあった。特に、特許文献2に記載のような軟質な接着剤を用いることにより、接着界面への応力集中が緩和されて、高い接着強度が発現し得ると考えられる。
【0006】
しかし、押出成形等のように、比較的低い圧力下で行われる成形方法によって複合部材を製造したときには、従来の接着剤では必ずしも十分な接着強度が得られないことが、本発明者らの検討の結果明らかとなった。
【0007】
また、複合部材に十分な耐久性を付与するためには、従来はプライマーを介してポリオレフィンを接着させる必要があった。これは、複合部材の界面に密着が十分でない部分があると、その部分から酸化が進行して界面が剥離してしまうためであると考えられる。特に塩水浸漬試験においてはそのような酸化が進行しやすい。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、押出成形等の比較的低い圧力下で成形する方法であっても、金属とポリオレフィンとを十分に高い接着強度で接合することが可能な接着剤組成物を提供することを目的とする。同時に、本発明は、塩水浸漬試験等に適合する十分な耐久性を有する複合部材を、プライマーを用いずとも得ることを可能とする接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る接着剤組成物は、ポリオレフィンと、不飽和カルボン酸又はその無水物がエラストマーに付加してなる変性エラストマーと、液状炭化水素化合物と、を含有し、金属部材にポリオレフィン層を接合するために用いられる接着剤組成物である。
【0010】
上記接着剤組成物は、液状炭化水素化合物によって高い流動性が付与されており、これにより低圧下でも金属に対する良好な濡れ性を発現すると考えられる。また、上記接着剤組成物中の変性エラストマーは、主として、化学的な相互作用によって金属に対する接着強度向上に寄与する。一方、ポリオレフィンは、主としてポリオレフィン層に対する接着強度向上に寄与する。これら各成分の組み合わせを採用したことにより、本発明に係る接着剤組成物は、押出成形等の比較的低い圧力下で成形する方法であっても金属とポリオレフィンとを十分に高い接着強度で接合することが可能であり、同時に、十分な耐久性を有する複合部材をプライマーを用いずとも得ることを可能とするものとなった。
【0011】
本発明に係る接着剤組成物は、スチレン−エチレン−αオレフィン共重合体を更に含有することが好ましい。スチレン−エチレン−αオレフィン共重合体を用いることにより、液状炭化水素化合物の変性エラストマーへの分散性が向上して、接着剤組成物の調製のための液状炭化水素化合物と変性エラストマーの混練に要する時間を短縮することができる。また、液状炭化水素化合物等のブリードを抑制する効果も得られる。
【0012】
本発明に係る複合部材は、金属部材と、該金属部材の表面に接着された上記本発明に係る接着剤組成物からなる接着層と、を備える。あるいは、本発明に係る複合部材は、更に、上記接着層を介して金属部材に接合されたポリオレフィン層を備える。これら複合部材は、押出成形によって好適に得られる。
【0013】
上記本発明に係る複合部材においては、金属部材とポリオレフィン層とが十分に高い接着強度で接合されている。また、上記本発明に係る複合部材は、プライマーを用いなかった場合であっても塩水浸漬試験等に適合する十分な耐久性を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、押出成形等の比較的低い圧力下で成形する方法であっても、金属とポリオレフィンとを十分に高い接着強度で接合することが可能な接着剤組成物が提供される。また、本発明によれば、塩水浸漬試験等に適合する十分な耐久性を有する複合部材を、プライマーを用いずとも得ることを可能とする接着剤組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明に係る複合部材の一実施形態を示す断面図である。図1に示す複合部材5は、金属部材3と、金属部材3の表面に密着して設けられた接着層1と、接着層1を介して金属部材3に接合されたポリオレフィン層4とから構成されている。
【0017】
接着層1は、ポリオレフィンと、不飽和カルボン酸又はその無水物がエラストマーに付加してなる変性エラストマーと、液状炭化水素化合物とを含有する接着剤組成物からなる。図2は、金属部材3と接着層1との界面近傍を拡大した模式断面図である。接着層1は、変性エラストマー及び液状炭化水素化合物を主成分とするマトリックス11(海)と、ポリオレフィンを主成分とする粒子状のドメイン12(島)とを含んでいる。すなわち、接着層1はいわゆる海島構造と称されるモルフォロジーを有する。
【0018】
変性エラストマーが液状炭化水素化合物によって膨潤していることにより、マトリックス11は高い流動性を有する。また、変性エラストマーは、不飽和カルボン酸又はその無水物の付加によって導入されたカルボキシル基、カルボニル基等の極性基の作用により、金属部材3との接着強度向上に寄与する。このように、金属部材3と接しているマトリックス11が高い流動性を有するとともに極性基を含んでいることにより、相乗的な接着強度向上の効果が奏されると考えられる。本発明者らの知見によれば、ポリオレフィンのみに極性基を導入したとしても、十分な接着強度向上の効果を得ることは困難である。この場合には、主として粒子状のドメイン側に極性基が導入されてしまうために、接着強度向上等の効果が低下すると本発明者らは推定している。
【0019】
接着剤組成物中には、1種又は2種以上のポリオレフィンが含まれる。ポリオレフィンは、1種又は2種以上のオレフィンを主なモノマー単位として含む重合体である。このポリオレフィンはオレフィン以外のモノマー単位を含んでいてもよいが、少なくとも過半数のモノマー単位がオレフィンであることが好ましい。また、ポリオレフィンがカルボキシル基、カルボニル基等の極性基を有していてもよい。エラストマーだけでなくポリオレフィンも極性基を有していることにより、より一層強固な接着力が得られる。
【0020】
ポリオレフィンは、熱可塑性ポリオレフィン、オレフィン系ゴム、及び熱可塑性エラストマーであるTPO(オレフィン系エラストマー)等に分類される。
【0021】
熱可塑性ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−αオレフィン共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、エチレン−ポリプロピレン系エラストマー/エチレン−プロピレン/ポリエチレンの混合物、エチレン−アクリル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、環状オレフィン重合体が挙げられる。これらのうち、ハードセグメントとソフトセグメントとを有する、いわゆるリアクターTPOと呼ばれるものは、下記に述べるTPOの一種でもあるが、ここでは熱可塑性ポリオレフィンに分類して例示する。
【0022】
オレフィン系ゴムは、ポリオレフィンのうち、JIS K 6200に定義されるゴム又はゴムの未架橋物である。オレフィン系ゴムの具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン‐プロピレン−ジエン共重合体、ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、天然ゴムから選択されるオレフィン系ゴムの架橋体、未架橋体が挙げられる。あるいは、これらゴムの水素付加物もオレフィン系ゴムとして用いられ得る。
【0023】
TPOとしては、上記のリアクターTPOの他に、ハードセグメントとしての熱可塑性ポリオレフィンと、ソフトセグメントとしてのオレフィン系ゴムを組合わせた混合物がある。TPOを形成するためのハードセグメント/ソフトセグメントの組み合わせの例としては、ポリプロピレン(PP)/エチレン−αオレフィン‐ジエン共重合体(EPDM等)、ポリエチレン/EPDM、エチレン−プロピレン共重合体(ブロック共重合体及びランダム共重合体)/EPDM、PP/エチレン−プロピレン−αオレフィン共重合体(ブロック共重合体、ランダム共重合体、またはいわゆるPP系リアクターTPOとEPDM、PPとエチレン−αオレフィン/EPDM等が挙げられる。これら以外の組合わせも含めて、任意に選択することができる。TPOは、各種の添加物を含有していてもよい。
【0024】
TPOのなかでも、特に、ソフトセグメントのゴムが動的に架橋されたものは、TPVと称される。このTPVも熱可塑性ポリオレフィンに分類することができ、接着剤組成物中のポリオレフィンとして好適に用いられ得る。オレフィン系のTPVは、ハードセグメントである熱可塑性ポリオレフィン中に、架橋ゴムが粒子(ドメイン)として分散した構造を有している。架橋ゴムの弾性的特性を有するドメインがバインダーとしての熱可塑性高分子中に分散されていることにより、TPVは熱可塑性エラストマーとしての特性を発現する。オレフィン系TPVは、予め熱可塑性高分子やEPDM等の材料を高度に分散あるいは相溶させておいてから、高せん断を与えて混練と同時にゴムを架橋して得る方法により製造される。特に、高せん断下での架橋は動的であるので動架橋といわれ、この方法によって架橋ゴムのドメインが熱可塑性高分子中に分散した構造が形成される。
【0025】
ゴムの架橋法としては、硫黄やパーオキサイドを用いる古くからの架橋法や、オルガノハイドロジエンポリシロキサンと架橋剤(クロスリンカー)との付加反応による架橋法などが、特に制限なく用いられる。架橋反応を促進するための添加剤や触媒を配合してもよい。
【0026】
接着剤組成物中には、エラストマーの不飽和カルボン酸又はその無水物の付加物である1種又は2種以上の変性エラストマーが含まれる。
【0027】
エラストマーは、一般に、室温において分子運動が活発な糸状重合体である。本実施形態においても、このようなエラストマーに不飽和カルボン酸又はその無水物を付加して得られる変性エラストマーが用いられる。エラストマーのムーニー粘度や、分子内の分岐、分子量分布等の特性は任意である。
【0028】
エラストマーとしては、エチレン−αオレフィン系共重合体、スチレン系共重合体、ポリエステル系ゴム、アクリル系ゴム、ブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム及び天然ゴムが挙げられる。好ましくは、接着剤組成物は、これらエラストマーに不飽和カルボン酸又はその無水物が付加してなるものから選ばれる少なくとも1種の変性エラストマーを含有する。特に、変性エラストマーは、エチレン−αオレフィン系共重合体又はスチレン系共重合体に不飽和カルボン酸又はその無水物が付加してなるものであることが好ましい。
【0029】
エチレン−αオレフィン系共重合体は、エチレン及びαオレフィンを共重合成分として含んでおり、共重合比、ムーニー粘度、分子内の分岐、分子量分布等の特性は任意である。エチレン−αオレフィン共重合体を構成するαオレフィンは、典型的にはプロピレンである。エチレン−αオレフィン系共重合体としては、エチレン−αオレフィン共重合体(EPR等)やエチレン−αオレフィン−ジエン共重合体が好ましい。この場合、ジエンは、エチルノルポルネン、ジシクロペンタジエン又はビニルノルポルネンであることが好ましい。
【0030】
スチレン系共重合体は、スチレン又は水添スチレンを共重合成分として含んでおり、共重合比、ムーニー粘度、分子内の分岐、分子量分布等の特性は任意である。スチレン系共重合体としては、スチレン−エチレン−αオレフィン共重合体及びこれの水素添加物が挙げられる。この場合のαオレフィンはブチレンであることが好ましい。すなわち、スチレン系共重合体としてはスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)及びこれの水素添加物が好ましい。
【0031】
エラストマーに付加させるための不飽和カルボン酸としては、アクリル酸やプロピオル酸などのモノカルボン酸、マレイン酸やフマル酸などのジカルボン酸がある。特にジカルボン酸の場合、安定性向上等の観点から無水マレイン酸、無水フマル酸のような無水物として用いられることが好ましい。これらの中でも、最も典型的には無水マレイン酸が用いられる。
【0032】
エラストマーに付加している不飽和カルボン酸又はその無水物の量は多いほうが好ましいが、典型的には、エラストマーの質量に対して0.2〜5.5質量%である。あるいは、ナトリウム‐メチルアルコレートによる滴定量による換算値で表したときに、エラストマー1g当たり1〜15mgのものが一般的である。
【0033】
エラストマーへの不飽和カルボン酸又はその無水物の付加は、パーオキサイドを用いて行われるのが主流である。必要により架橋助剤又は橋かけ剤を併用してもよい。変性エラストマーは、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)の無水マレイン酸付加物である「タフテックM-1913」(商品名、旭化成(株)製)、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)の無水マレイン酸付加物である「T-1441」(商品名、JRS(株)製)等の市販品を商業的に入手することも可能である。
【0034】
変性エラストマーの配合量は、ポリオレフィン100重量部に対して10〜1000重量部であることが好ましく、100〜800重量部であることがより好ましい。この量が10重量部未満では金属との接着強度向上の効果が低下する傾向にあり、1000重量部を超えると材料コストが高くなる。
【0035】
液状炭化水素化合物は、室温(25℃)において液体の状態で存在する炭化水素化合物である。この液状炭化水素化合物は、40℃における動粘度が100mm/sec以上であることが好ましく、100〜1000mm/secであることがより好ましく、200〜5000mm/secであることが更に好ましい。
【0036】
液状炭化水素化合物としては、パラフィンが好ましく用いられる。このパラフィンの重量平均分子量は、450〜5000であることが好ましい。液状炭化水素化合物として用いることのできるパラフィンは、パラフィンオイルとして一般に入手可能である。
【0037】
液状炭化水素化合物の配合量は、ポリオレフィン100重量部に対して10〜200重量部であることが好ましく、35〜100重量部であることがより好ましい。この配合量が10重量部未満では金属に対する濡れ性が低下する傾向にあり、200重量部を超えると接着層1の機械的強度が低下する傾向にある。
【0038】
接着剤組成物は、スチレン−エチレン−αオレフィン共重合体を更に含有することが好ましい。スチレン−エチレン−αオレフィン共重合体としては、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)等のスチレン−エチレン−ブチレン共重合体及びこれらの不飽和結合に水素原子が付加したもの(水添SEBS等)が挙げられる。モノマーの種類や共重合比、水素付加量については特に限定は無い。
【0039】
スチレン−エチレン−αオレフィン共重合体の配合量は、液状炭化水素化合物に対して5〜80質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。
【0040】
接着剤組成物は、酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤として、ヒンダードフェノール、アミノフェノール、ハイドロキノン、アルキルジアミン、アミン縮合生成物が挙げられる。より具体的には、スチレン化フェノール、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−1、ブチルフェノール)、2,6’−ジ−t−ブチル−o−ジメチルアミノ−p−クレゾール、ハイドロキノンモノベンジルエーテル、オクチル化ジフェニルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、N,N’−ジフェニルエチレンジアミン、アルドール−α−ナフチルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン等の酸化防止剤が好適である。
【0041】
あるいは、物理的酸化防止剤として、混合石油ワックスおよびマイクロクリスタリンワックスを用いることもできる。
【0042】
酸化防止剤の配合量は、0.1〜2.0質量%であることが好ましく、0.3〜1.0質量%であることがより好ましい。0.1質量%未満では酸化防止の効果が小さくなる傾向にあり、2質量%を超えると、酸化防止の点からは過剰量であり、高コストになる。
【0043】
接着剤組成物には、以上のような成分の他、本発明の効果が著しく損なわれない範囲で、プロセス安定剤、耐熱安定剤、耐熱老化剤、オレフィン系エラストマー、ゴム成分、樹脂等の有機物、フィラー等の無機物などを添加することができる。
【0044】
本実施形態に係る接着剤組成物は、ポリオレフィン、変性エラストマー、液状炭化水素化合物及び必要に応じてその他の成分を配合した配合物を混練する工程を備える方法によって、製造することができる。混練は、公知の方法を適用して行うことができる。混練装置としては、加圧ニーダ、バンバリー、二本ロール、押出機等が用いられる。
【0045】
ポリオレフィン層4は、接着剤組成物中のポリオレフィンと同一又は異なる種類のポリオレフィンを主成分とするポリオレフィン組成物からなる。ただし、ポリオレフィン層4はポリオレフィン以外の成分を含有していてもよい。ポリオレフィン以外の成分としては、耐熱性や耐光性等の耐久性を付与するための安定剤、補強性、導電性や増量等の目的に使用されるフィラー、摺動性や意匠効果等の特殊機能を付与するための添加剤、ポリオレフィン以外の高分子等がある。
【0046】
金属部材3は、金属を主成分とする部材である。金属部材3を構成する金属の種類に特に限定はなく、ステンレス、鋼鉄及び電磁鋼などの鉄系の金属や、アルミなどが用いられる。本実施形態の場合金属部材3は板状であるが、その他の形状の金属部材を用いることも可能である。金属部材3の表面は、アンカー効果を期待して粗面加工されていてもよいし、鏡面加工されていてもよい。押出成形のような低圧下での成形方法により複合部材5を製造する場合には、接着層1が粗面に食い込みにくい傾向があるため、濡れ性を向上させるには金属部材3の表面は鏡面加工されているが望ましい。また、金属部材3の表面にシランカップリング剤などを含むプライマーを用いて表面処理を施してもよい。もっとも、本実施形態の場合は上述の接着剤組成物を用いて接着層1が形成されるため、プライマーを用いなくても、十分な耐久性が得られる。表面処理の工程を省略することにより、工程が短縮化されて、より高い生産効率で複合部材5を製造することが可能となる。
【0047】
複合部材5は、接着剤組成物を溶融させながら金属部材3に密着させることにより金属部材3に接着層1を接着する工程と、接着剤組成物を溶融させながらポリオレフィン層4に密着させることによりポリオレフィン層4に接着層1を接着する工程とを備える製造方法により、製造することができる。金属部材3に接着層1を接着してから接着層1をポリオレフィン層4に接着してもよいし、逆に、ポリオレフィン層上に接着層1を接着してから接着層1を金属部材3に接着してもよい。あるいは、接着層1を金属部材3及びポリオレフィン層4に同時に接着してもよい。この場合、例えば、接着剤組成物及びポリオレフィン組成物を溶融させながら、金属部材3上に接着層1及びポリオレフィン層4が同時に積層される。接着剤組成物が溶融状態から冷却されることにより、各層が互いに強固に接着される。
【0048】
接着層1を金属部材3に接着する工程を行うための方法には特に制限はなく、押出成形、射出成形等から適宜選択される。特に、長尺の複合部材を製造する場合などにおいては、押出成形が好適である。本実施形態に係る接着剤組成物を用いることにより、押出成形のような低圧下の成形であっても十分な接着強度が得られる。すなわち、本実施形態は、押出成形によって接着層1を金属部材3に接着する場合に特に有用である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(材料)
ポリオレフィン:
・オレフィン系エラストマー(ミラストマー7030(商品名)、三井化学(株)製)
変性エラストマー:
・スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)の無水マレイン酸付加物(タフテックM-1913、旭化成(株)製)
・エチレン−プロピレンエラストマー(EPR)の無水マレイン酸付加物(T-1441、JRS(株)製)
液状炭化水素化合物:
・炭化水素系オリゴマー(PW-380、出光興産(株)製)
スチレン−エチレン−αオレフィン共重合体:
・水添SEBS(セプトン4099、クラレ(株)製)
その他:
・ポリプロピレン(PP)の無水マレイン酸付加物(ユーメックス1001、三洋化成(株)製)
・酸化防止剤(イルカノックス1010、チバ・スペシャリティ・ケミカル社製)
【0051】
(接着剤組成物の調製)
表1に示される組成(重量部)で配合された配合物を、バンバリー(払い出し温度:200℃)を用いて混練し、次いでルーダーニーダー(全てのシリンダー温が180℃)とペレタイザーを経て、7種類の接着剤組成物を得た。実施例1、2は炭化水素系オリゴマーの吸収に時間がかかったために30分程度の時間を要したのに対して、水添SEBSを用いた実施例3、4は炭化水素系化合物のオリゴマー吸収が速くなり、混練時間は20分に改善された。比較例は15分程度の混練時間を要した。
【0052】
【表1】

【0053】
(複合部材の成形)
巾30mm、厚さ0.3mmの圧延ステンレス(SUS430)製リボンを金属部材として用い、これに、上記で調製した接着剤組成物を介してポリオレフィン(ミラストマー7030、三井化学(株)製)からなるポリオレフィン層を接合した複合部材を成形した。成形は押出成形によって行った。すなわち、押出機を用いて、圧延ステンレス製リボンを順次送り出しながら、接着剤組成物及びポリオレフィンをそれぞれ別に溶融してシート状に成形された状態で圧延ステンレス製リボン上に送り込み、冷却槽にて50℃以下に冷却して、長尺上の複合部材を得た。このとき、複合部材におけるポリオレフィン層の厚さが2.0mm、接着層の厚さが0.1mmとなるように、押出機の回転数や引取りスピードを調節した。
【0054】
(複合部材の評価)
得られた複合部材を長さ10mmに裁断した試験片を用いて、下記の90度剥離試験により接着強度の評価を行った。接着強度の評価は成形してから一週間後、及び下記の塩水浸漬試験後に行った。
【0055】
90度剥離試験:
試験片の接着層とリボンの界面をカッターを用いて30mm剥離し、両面テープを用いて試験片を専用の固定冶具に水平かつ強固に固定した。そして、カッターで剥離した部分の樹脂層(接着層及びポリオレフィン層)の端部を、上方から垂直下方向に垂下したチャックで挟み、その状態でチャックを引き上げて更に剥離を進行させ、そのときの応力を測定した。チャック引き上げの速度は20mm/分とした。また、引張りの方向が垂直方向になるように、剥離の進行にともなって試験片の位置を手で移動させた。測定装置としては、引張り試験機(東洋精機株式会社製、商品名テンシロン)を用いた。
【0056】
塩水浸漬試験:
深さ50cm、口形15×15cmの蓋つきアクリル製容器に、5%食塩水を1リットル入れた。そこに、試験片を立てた状態で浸漬した。そして、浸漬された試験片を35℃に温度調節した恒温機内に168時間放置した。
【0057】
表1に示されるように、実施例の複合部材は優れた接着強度を示した。更に、塩水浸漬後も高い接着強度が維持されており、実施例の複合部材は耐久性の点でも優れていた。これに対して、液状炭化水素化合物を用いなかった比較例1、2や、変性エラストマーに代えて硬質のポリプロピレンの無水マレイン酸付加物を用いた比較例3は、十分な接着強度が発現されず、塩水浸漬試験後は界面がほとんど剥離した状態となった。また、各比較例の複合部材は、押出機から出た直後は端部まで接着しているように見えたが、冷却されると端部が部分的に浮いてしまう現象が認められた。
【0058】
以上の結果より、ポリオレフィン、不飽和カルボン酸又はその無水物がエラストマーに付加してなる変性エラストマー、及び液状炭化水素化合物の全てを組合わせた本発明に係る接着剤組成物によれば、押出成形等の比較的低い圧力下で成形する方法であっても、金属とポリオレフィンとを十分に高い接着強度で接合することが可能な接着剤組成物が提供されることが確認された。また、係る接着剤組成物を用いて得た複合部材は、プライマーを用いなくとも十分な耐久性を有することも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る接着剤組成物及びこれを用いて得られる複合部材は、自動車用部品、電気機器部品、電子部品若しくは電子素子や、医療、建材、土木資材、航空機等の分野において好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る複合部材の一実施形態を示す断面図である。
【図2】実施形態に係る接着層と金属部材の界面近傍を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1…接着層、3…金属部材、4…ポリオレフィン層、5…複合部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンと、
不飽和カルボン酸又はその無水物がエラストマーに付加してなる変性エラストマーと、
液状炭化水素化合物と、を含有し、
金属部材にポリオレフィン層を接合するために用いられる接着剤組成物。
【請求項2】
スチレン−エチレン−αオレフィン共重合体を更に含有する、請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
金属部材と、
該金属部材の表面に接着された請求項1又は2記載の接着剤組成物からなる接着層と、を備える複合部材。
【請求項4】
前記接着層を介して前記金属部材に接合されたポリオレフィン層を備える、請求項3記載の複合部材。
【請求項5】
押出成形によって得られる、請求項3又は4記載の複合部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−297503(P2007−297503A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−126110(P2006−126110)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】