説明

接着剤組成物

【課題】良好な耐熱性、柔軟性、および薬液耐性を有しており、剥離溶剤によって容易に溶解できる接着剤層を形成する接着剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る接着剤組成物は、シクロオレフィンモノマー(a1)を含む単量体成分を重合してなる、重量平均分子量が50,000〜200,000である樹脂(A)と、シクロオレフィンモノマー(b1)を含む単量体成分を重合してなる、重量平均分子量が5,000〜15,000である樹脂(B)と、重量平均分子量が300〜3,000である、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂および石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(C)とを、有機溶剤に溶解してなり、樹脂(A)、樹脂(B)および樹脂(C)の総量における樹脂(A)の含有率が、50重量%以上、90重量%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤組成物に関し、さらに詳しくは、半導体ウエハ等の基板を加工する際に、当該基板をガラス板およびフィルム等の支持体に一時的に仮止めするにあたり好適に使用することができる接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型半導体シリコンチップは、例えば、高純度シリコン単結晶等を薄くスライスしてウエハとした後、フォトレジストを利用してウエハ表面に所定の回路パターンを形成し、次いで、得られた半導体ウエハの裏面に研削加工を施した後、所定の厚さに研削した半導体ウエハにダイシング加工を施してチップ化することにより、製造される。このような製造工程においては、薄板化したウエハ自体が脆く破損しやすいため、これを補強する必要がある。さらに、例えば研削加工で生じた研磨屑などによってウエハ表面に形成した回路パターンが汚染されるのを防ぐ必要もある。そこで、ウエハの破損を防止し、ウエハ表面の回路パターンを保護する方法として、ウエハに支持体を接着剤層で仮止めした状態で研削加工し、その後、支持体を剥離する手法(例えば、特許文献1、および特許文献2参照)、および、ウエハ表面の回路パターン面に接着剤層を備えた粘着フィルムを貼り付けた状態で研削加工し、その後、粘着フィルムを剥離する手法(例えば、特許文献3、および特許文献4参照)などが知られている。
【0003】
近年、電子機器の小型化、薄型化、および高機能化への要望が高まっている。そのなかで、例えばシステム・イン・パッケージ(SiP)における電極(バンプ)と回路基板との配線方法として、従来主流であったワイヤ・ボンディング技術に代え、貫通電極形成技術が注目されている。貫通電極形成技術は、貫通電極を形成したチップを積層し、チップの裏面にバンプを形成する手法を用いた技術である。この貫通電極形成技術を適用するには、所定の厚さに研削した半導体ウエハに貫通電極を形成して、貫通電極を備えたチップを製造する必要がある。そのためには、高温プロセスおよび高真空プロセスを含む多数の工程を経る必要がある。
【0004】
特許文献1〜4の手法において、半導体ウエハに支持体または粘着フィルムを取り付けたうえで研削加工を施し、その後、貫通電極を形成しようとした場合には、貫通電極を形成する際のプロセスで接着剤層が高温に曝されることになる。しかしながら、特許文献1〜4の手法における、支持体を仮止めするための接着剤層に使用されている接着剤、および粘着フィルムを貼着するための接着剤層に使用されている接着剤は、充分な耐熱性を有していない。そのため、接着剤層が高温に曝されることにより、接着剤層の樹脂に劣化が生じて接着強度が低下したり、接着剤層が吸湿した水分が高温下でガスとなり、これが接着剤層に泡状の剥れを生じさせて接着不良を招いたりするといった問題がある。さらに、接着剤層を剥離(支持体または粘着フィルムを剥離)する際にも、接着剤層が一旦高温に曝されていると、剥離時に残渣物が残存するなどの剥離不良が起こりやすいという問題がある。また、貫通電極形成に高温高真空環境下でのプロセスを要する場合には、高温下で接着剤層自体が分解して発生したガスや接着剤層の水分から発生したガスは、上述したように接着不良を招くだけでなく、真空環境の保持を妨げる原因にもなる。
【0005】
そこで、良好な耐熱性を有し高温環境下において充分な接着強度を発揮する接着剤組成物として、特定のアクリル系樹脂を主成分とする接着剤組成物が提案されている(例えば、特許文献5参照)。また、電子部品や基板の接着に使用することを目的とする耐熱性を備えた接着性樹脂組成物として、特定の分子量を有する脂環式構造含有重合体と特定の分子量を有する低分子量化合物とを含む接着剤組成物も提案されている(特許文献6)。
【0006】
ところで、ノルボルネン系樹脂は、透明性、耐熱性、低吸湿性、低複屈折性、および成形性などに優れていることが知られており、光ディスク基板、ならびに位相差補償フィルムおよび偏光板保護フィルムなどの光学フィルムなどの成形に用いられることが報告されている(例えば、特許文献7〜9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−224270号公報(1995年8月22日公開)
【特許文献2】特開平9−157628号公報(1997年6月17日公開)
【特許文献3】特開2003−173993号公報(2003年6月20日公開)
【特許文献4】特開2001−279208号公報(2001年10月10日公開)
【特許文献5】特開2008−133405号公報(2008年6月12日公開)
【特許文献6】特開平11−269394号公報(1999年10月5日公開)
【特許文献7】特開平5−279554号公報(1993年10月26日公開)
【特許文献8】特開2000−304920号公報(2000年11月2日公開)
【特許文献9】特開2003−003048号公報(2003年1月8日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献5に記載の接着剤組成物は、貫通電極を形成するプロセスの中で、フォトレジスト等で使用される各種薬液(代表的には、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等)に触れると、これら薬液によって接着剤層が溶解して劣化し、その結果、ウエハ表面が汚染されることになるといった問題を有している。また、特許文献に6記載の接着剤組成物は、脂環式構造含有重合体が有する極性基に起因して接着剤層が吸湿しやすく、その結果、高温下で発生するガス量が増えるため接着不良を招いたり、接着剤層を剥離する際の剥離速度が遅いため、生産性の点で不利になったりするという問題を有している。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温に曝されても樹脂の劣化およびガスの発生による接着不良を招くことがない良好な耐熱性、および薬液耐性を有する接着剤層を形成する接着剤組成物であって、この接着剤層によって支持体に貼り付けた半導体ウエハなどの基板の加工後に、該接着剤層を速やかに剥離することができ、かつ柔軟性に優れた接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る接着剤組成物は、上記の問題を解決するために、シクロオレフィンモノマー(a1)を含む単量体成分を重合してなる、重量平均分子量が50,000〜200,000である樹脂(A)と、シクロオレフィンモノマー(b1)を含む単量体成分を重合してなる、重量平均分子量が5,000〜15,000である樹脂(B)と、重量平均分子量が300〜3,000である、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂および石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(C)とを、有機溶剤に溶解してなり、上記樹脂(A)、上記樹脂(B)および上記樹脂(C)の総量における上記樹脂(A)の含有率が、50重量%以上、90重量%未満である構成を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る接着剤組成物は、以上のように、シクロオレフィンモノマー(a1)を含む単量体成分を重合してなる、重量平均分子量が50,000〜200,000である樹脂(A)と、シクロオレフィンモノマー(b1)を含む単量体成分を重合してなる、重量平均分子量が5,000〜15,000である樹脂(B)と、重量平均分子量が300〜3,000である、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂および石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(C)とを、有機溶剤に溶解してなり、樹脂(A)、樹脂(B)および樹脂(C)の総量における樹脂(A)の含有率が、50重量%以上、90重量%未満である。そのため、高温に曝されても樹脂の劣化およびガスの発生による接着不良を招くことがない良好な耐熱性、および薬液耐性を有しており、柔軟性に優れており、かつ剥離溶剤によって速やかに溶解することができる接着剤層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る接着剤組成物の実施形態について説明すれば以下の通りである。なお、本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を意味する。
【0013】
本発明に係る接着剤組成物は、シクロオレフィンモノマー(a1)を含む単量体成分を重合してなる樹脂(A)と、シクロオレフィンモノマー(b1)を含む単量体成分を重合してなる樹脂(B)と、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂および石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(C)とを、有機溶剤に溶解してなる接着剤組成物である。樹脂(A)の重量平均分子量は50,000〜200,000であり、樹脂(B)の重量平均分子量は5,000〜15,000であり、樹脂(C)の重量平均分子量は300〜3,000である。さらに、樹脂(A)、樹脂(B)および樹脂(C)の総量における樹脂(A)の含有率は、50重量%以上、90重量%未満である。
【0014】
本発明の接着剤組成物は、接着剤としての用途に用いるのであれば、その具体的な用途は特に限定されるものではない。本実施の形態では、本発明の接着剤組成物を、ウエハサポートシステムのために半導体ウエハをサポートプレートに一時的に接着する用途に用いた場合を例に挙げて説明する。
【0015】
なお、本明細書における「サポートプレート」とは、半導体ウエハを研削するときに、半導体ウエハに貼り合せることによって、研削により薄化した半導体ウエハにクラックおよび反りが生じないように保護するために用いられる基板のことである。
【0016】
〔樹脂(A)〕
接着剤組成物の構成要素である樹脂(A)は、シクロオレフィンモノマー(a1)を含む単量体成分が重合してなる、重量平均分子量が50,000〜200,000である樹脂である。
【0017】
(単量体成分)
樹脂(A)を製造するための単量体成分に含まれるシクロオレフィンモノマー(a1)は、脂環式構造を有し、脂環式構造中に炭素−炭素二重結合を含む、シクロオレフィン化合物である。
【0018】
シクロオレフィンモノマー(a1)としては、特に限定されるものではないが、ノルボルネン系モノマーであることが好ましい。ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン環を有するものであれば特に制限されないが、例えば、ノルボルネンおよびノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエンおよびジヒドロキシペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセンなどの四環体、シクロペンタジエン三量体などの五環体、およびテトラシクロペンタジエンなどの七環体、ならびにこれら多環体のアルキル(メチル、ブチル、プロピルおよびブチルなど)置換体、アルケニル(ビニルなど)置換体、アルキリデン(エチリデンなど)置換体、およびアリール(フェニル、トリル、およびナフチルなど)置換体などが挙げられる。これらの中でも、溶解性および接着性の観点から、下記一般式(I)で表されるような、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、およびこれらのアルキル置換体が特に好ましい。シクロオレフィンモノマー(a1)は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
【化1】

【0020】
(一般式(I)中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、nは0または1である。)
樹脂(A)を製造するために用いられる単量体成分は、シクロオレフィンモノマー(a1)のほかに、シクロオレフィンモノマー(a1)と共重合可能な他のモノマーを含有していてもよい。他のモノマーとしては、非脂環式脂肪族オレフィンモノマーを含有することができ、非脂環式脂肪族オレフィンモノマーとしては、例えば、下記一般式(II)で表されるオレフィンモノマー(a2)を含有することができる。
【0021】
【化2】

【0022】
(一般式(II)中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。)
オレフィンモノマー(a2)は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。オレフィンモノマー(a2)としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、および1−ヘキセンなどのα−オレフィンが挙げられる。オレフィンモノマー(a2)は1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
樹脂(A)を製造するための単量体成分が、シクロオレフィンモノマー(a1)以外のモノマーを含有している場合には、シクロオレフィンモノマー(a1)の含有量が単量体成分全体の50重量%以上であることが好ましく、シクロオレフィンモノマー(a1)の含有量が単量体成分全体の60重量%以上であることがより好ましい。シクロオレフィンモノマー(a1)の含有量が単量体成分全体の50重量%以上である場合には、接着剤組成物の高温環境下における接着強度をより高めることができる。
【0024】
上記の単量体成分を重合する際の重合方法、および重合の条件などについては、特に制限はなく、従来公知の方法に従い適宜選択すればよい。なお、樹脂(A)として、後述する市販の樹脂を用いてもよい。
【0025】
(分子量)
樹脂(A)の重量平均分子量(Mw:ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)のポリスチレン換算による測定値)は、50,000〜200,000であり、より好ましくは、50,000〜150,000であり、さらに好ましくは、70,000〜120,000である。樹脂(A)の重量平均分子量が上記範囲内であれば、高温プロセス下での耐熱性が優れ、且つ溶解性を保つことが可能となる。
【0026】
また、樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、1.0〜5.0であることが好ましく、1.0〜3.0であることがより好ましい。樹脂(A)の分子量分布が上記範囲内であれば、脱ガス量を低減させることができる。
【0027】
(熱分解温度)
樹脂(A)の熱分解温度は、250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましく、350℃以上であることが特に好ましい。樹脂(A)の熱分解温度が250℃以上であると、耐熱性がより一層高まり、接着剤組成物の高温環境下における劣化を防止し、脱ガス量を低減させることができる。
【0028】
(ガラス転移点)
樹脂(A)のガラス転移点(Tg)は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが特に好ましい。樹脂(A)のガラス転移点が60℃以上であると、接着剤組成物が高温環境に曝されたときであっても軟化することを抑えることができ、接着不良の発生を抑えることができる。
【0029】
(樹脂(A)のその他の特性)
樹脂(A)は、極性基を有していない樹脂であることが好ましい。樹脂(A)が極性基を有していないことにより、接着剤組成物における高温環境下でのガスの発生を抑制することができ、接着剤組成物および接着剤組成物によって形成される接着剤層の劣化を防ぐことができる。例えば、上記一般式(I)で表されるシクロオレフィンモノマー(a1)および上記一般式(II)で表されるオレフィンモノマー(a2)からなる単量体成分を重合させることにより、極性基を有していない樹脂(A)を製造することができる。
【0030】
樹脂(A)として用いることのできる市販品としては、例えば、ポリプラスチックス社製の「TOPAS」(商品名)、三井化学社製の「APEL」(商品名)、日本ゼオン社製の「ZEONOR」(商品名)および「ZEONEX」(商品名)、およびJSR社製の「ARTON」(商品名)などが挙げられる。
【0031】
〔樹脂(B)〕
接着剤組成物の構成要素である樹脂(B)は、シクロオレフィンモノマー(b1)を含む単量体成分が重合してなる、重量平均分子量が5,000〜15,000である樹脂である。
【0032】
(単量体成分)
樹脂(B)を製造するための単量体成分に含まれるシクロオレフィンモノマー(b1)は、脂環式構造を有し、脂環式構造中に炭素−炭素二重結合を含む、シクロオレフィン化合物である。シクロオレフィンモノマー(b1)としては、特に限定されるものではないが、ノルボルネン系モノマーであることが好ましい。ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン環を有するものであれば特に制限されないが、例えば、ノルボルネンおよびノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエンおよびジヒドロキシペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセンなどの四環体、シクロペンタジエン三量体などの五環体、およびテトラシクロペンタジエンなどの七環体、ならびにこれら多環体のアルキル(メチル、ブチル、プロピル、およびブチルなど)置換体、アルケニル(ビニルなど)置換体、アルキリデン(エチリデンなど)置換体、およびアリール(フェニル、トリル、およびナフチルなど)置換体などが挙げられる。これらの中でも、溶解性および接着性の観点から、上記一般式(I)で表されるような、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、およびこれらのアルキル置換体がより好ましい。
【0033】
樹脂(B)を構成する単量体成分は、シクロオレフィンモノマー(b1)と共重合可能な他のモノマーを含有していてもよい。他のモノマーとしては、非脂環式脂肪族オレフィンモノマーを含有することができ、非脂環式脂肪族オレフィンモノマーとしては、例えば、上記一般式(II)で表されるオレフィンモノマー(b2)を含有することができる。
【0034】
オレフィンモノマー(b2)は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。オレフィンモノマー(b2)としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、および1−ヘキセンなどのα−オレフィンが挙げられる。
【0035】
樹脂(B)を製造するための単量体成分が、シクロオレフィンモノマー(b1)以外のモノマーを含有している場合には、シクロオレフィンモノマー(b1)の含有量が単量体成分全体の50重量%以上であることが好ましく、シクロオレフィンモノマー(b1)の含有量が単量体成分全体の60重量%以上であることがより好ましい。シクロオレフィンモノマー(b1)の含有量が単量体成分全体の50重量%以上である場合には、接着剤組成物の高温環境下における接着強度をより高めることができる。
【0036】
上記の単量体成分を重合する際の重合方法、および重合の条件などについては、特に制限はなく、従来公知の方法に従い適宜選択すればよい。なお、樹脂(B)として、後述する市販の樹脂を用いてもよい。
【0037】
(分子量)
樹脂(B)の重量平均分子量(Mw:ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)のポリスチレン換算による測定値)は、5,000〜15,000であり、より好ましくは、5,000〜12,000であり、さらに好ましくは、7,000〜11,000である。樹脂(B)の重量平均分子量が上記範囲内であれば、溶解性を向上できる。
【0038】
また、樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、1.0〜5.0であることが好ましく、1.0〜3.0であることがより好ましい。樹脂(B)の分子量分布が上記範囲内であれば、脱ガス量を低減させることができる。
【0039】
(熱分解温度)
樹脂(B)の熱分解温度は、250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましく、350℃以上であることが特に好ましい。樹脂(B)の熱分解温度が250℃以上であると、耐熱性がより一層高まり、接着剤組成物の高温環境下における劣化を防止し、脱ガス量を低減させることができる。
【0040】
(ガラス転移点)
樹脂(B)のガラス転移点(Tg)は、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが特に好ましい。樹脂(B)のガラス転移点が50℃以上であると、接着剤組成物が高温環境に曝されたときであっても軟化することを抑えることができ、接着不良の発生を抑えることができる。
【0041】
(樹脂(B)のその他の特性)
樹脂(B)は、極性基を有していない樹脂であることが好ましい。樹脂(B)が極性基を有していないことにより、接着剤組成物における高温環境下でのガスの発生を抑制することができ、接着剤組成物および接着剤組成物によって形成される接着剤層の劣化を防ぐことができる。例えば、上記一般式(I)で表されるシクロオレフィンモノマー(b1)および上記一般式(II)で表されるオレフィンモノマー(b2)からなる単量体成分を重合させることにより、極性基を有していない樹脂(B)を製造することができる。
【0042】
樹脂(B)として用いることのできる市販品としては、例えば、ポリプラスチックス社製の「TOPAS」(商品名)、三井化学社製の「APEL」(商品名)、日本ゼオン社製の「ZEONOR」(商品名)および「ZEONEX」(商品名)、およびJSR社製の「ARTON」(商品名)などが挙げられる。
【0043】
〔樹脂(C)〕
接着剤組成物の構成要素である樹脂(C)は、重量平均分子量が300〜3,000である、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂および石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である。
【0044】
テルペン系樹脂としては、例えば、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂および水添テルペンフェノール樹脂などが挙げられる。ロジン系樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジン、水添ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステルおよび変性ロジンなどが挙げられる。石油樹脂としては、例えば、脂肪族または芳香族石油樹脂、水添石油樹脂、変性石油樹脂、脂環族石油樹脂およびクマロン・インデン石油樹脂などが挙げられる。これらのなかでも、炭化水素剥離液に対する溶解性の観点から、水添テルペン樹脂、および水添石油樹脂が好ましい。
【0045】
(分子量)
樹脂(C)の重量平均分子量(Mw:ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)のポリスチレン換算による測定値)は、300〜3,000であり、より好ましくは、500〜2,000であり、さらに好ましくは、700〜1,500である。樹脂(C)の重量平均分子量が300以上であれば、耐熱性がより高まり、接着剤組成物の高温環境下における脱ガス量を低減させることができる。一方、樹脂(C)の重量平均分子量が3,000以下であれば、接着剤組成物によって形成した接着剤層を剥離する際の剥離速度をより速くすることができる。
【0046】
(軟化点)
樹脂(C)の軟化点は特に限定されるものではないが、80℃〜170℃であることがより好ましい。樹脂(C)の軟化点が80℃以上であれば、接着剤組成物が高温環境に曝されたときであっても軟化することを抑えることができ、接着不良の発生を抑えることができる。一方、樹脂(C)の軟化点が170℃以下であれば、接着剤組成物によって形成した接着剤層を剥離する際の剥離速度をより速くすることができる。
【0047】
(熱分解温度)
樹脂(C)の熱分解温度は、250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましく、350℃以上であることが特に好ましい。樹脂(C)の熱分解温度が250℃以上であると、耐熱性がより一層高まり、接着剤組成物の高温環境下における劣化を防止し、脱ガス量を低減させることができる。
【0048】
(ガラス転移点)
樹脂(C)のガラス転移点(Tg)は、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。樹脂(C)のガラス転移点(Tg)が50℃以上であると、接着剤組成物が高温環境に曝されたときであっても軟化することを抑えることができ、接着不良の発生を抑えることができる。
【0049】
〔有機溶剤〕
有機溶剤は、樹脂(A)、樹脂(B)および樹脂(C)が溶解するものであれば特に制限されないが、例えば、炭化水素系溶剤がより好ましく、テルペン系溶剤がさらに好ましい。有機溶剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
テルペン系溶剤としては、例えば、α−ピネン、カンフェン、ピナン、ミルセン、ジヒドロミルセン、p−メンタン、3−カレン、p−メンタジエン、α−テルピネン、β−テルピネン、α−フェランドレン、オシメン、リモネン、p−サイメン、γ−テルピネン、テルピノーレン、1,4−シネオール、1,8−シネオール、ローズオキサイド、リナロールオキサイド、フェンコン、α−シクロシトラール、オシメノール、テトラヒドロリナロール、リナロール、テトラヒドロムゴール、イソプレゴール、ジヒドロリナロール、イソジヒドロラバンジュロール、β−シクロシトラール、シトロネラール、L−メントン、ギ酸リナリル、ジヒドロテルピネオール、β−テルピネオール、メントール、ミルセノール、L−メントール、ピノカルベオール、α−テルピネオール、γ−テルピネオール、ノポール、ミルテノール、ジヒドロカルベオール、シトロネロール、ミルテナール、ジヒドロカルボン、d−プレゴン、ゲラニルエチルエーテル、ギ酸ゲラニル、ギ酸ネリル、ギ酸テルピニル、酢酸イソジヒドロラバンジュリル、酢酸テルピニル、酢酸リナリル、酢酸ミルセニル、酢酸ボルニル、プロピオン酸メンチル、プロピオン酸リナリル、ネロール、カルベオール、ペリラアルコール、ゲラニオール、サフラナール、シトラール、ペリラアルデヒド、シトロネリルオキシアセトアルデヒド、ヒドロキシシトロネラール、ベルベノン、d−カルボン、L−カルボン、ピペリトン、ピペリテノン、ギ酸シトロネリル、酢酸イソボルニル、酢酸メンチル、酢酸シトロネリル、酢酸カルビル、酢酸ジメチルオクタニル、酢酸ネリル、酢酸イソプレゴール、酢酸ジヒドロカルビル、酢酸ノピル、酢酸ゲラニル、プロピオン酸ボルニル、プロピオン酸ネリル、プロピオン酸カルビル、プロピオン酸テルピニル、プロピオン酸シトロネリル、プロピオン酸イソボルニル、イソ酪酸リナリル、イソ酪酸ネリル、酪酸リナリル、酪酸ネリル、イソ酪酸テルピニル、酪酸テルピニル、イソ酪酸ゲラニル、酪酸シトロネリル、ヘキサン酸シトロネリル、イソ吉草酸メンチル、β−カリオフィレン、セドレン、ビサボレン、ヒドロキシシトロネロール、ファルネソールおよびイソ酪酸ロジニルなどが挙げられる。これらのなかでも、溶解性の観点から、リモネンおよびp−メンタンがより好ましく、p−メンタンが特に好ましい。
【0051】
〔接着剤組成物〕
本発明に係る接着剤組成物は、上記樹脂(A)、樹脂(B)および樹脂(C)が、上記有機溶剤に溶解してなる接着剤組成物である。
【0052】
接着剤組成物の固形分濃度(すなわち、樹脂(A)、樹脂(B)および樹脂(C)ならびに有機溶剤の全重量に対して、樹脂(A)、樹脂(B)および樹脂(C)の合計重量が占める比率)は特に制限されないが、溶剤に対する溶解性の観点から、例えば、20重量%〜60重量%であることが好ましく、より好ましくは、20重量%〜40重量%である。
【0053】
接着剤組成物において、樹脂(A)、樹脂(B)および樹脂(C)の総量における樹脂(A)の含有率は、50重量%以上、90重量%未満であり、50重量%以上、85重量%以下であることがより好ましく、50重量%以上、80重量%以下であることがさらに好ましく、50重量%以上、70重量%以下であることが特に好ましく、50重量%以上、60重量%以下であることが最も好ましい。
【0054】
樹脂(A)、樹脂(B)および樹脂(C)の総量における樹脂(A)の含有率を90重量%未満とすることにより、すなわち、樹脂(B)と樹脂(C)との総量を10重量%以上とすることにより、本発明の接着剤組成物によって形成された接着剤層を、不要になった時点で、所定の溶剤に浸漬するなどの処理によって、速やかに溶解することができる。一方、樹脂(A)、樹脂(B)および樹脂(C)の総量における樹脂(A)の含有率を50重量%以上とすることにより、本発明の接着剤組成物は、高温に曝されても樹脂の劣化およびガスの発生による接着不良を招くことがない良好な耐熱性を有することになる。また、フォトレジスト等で使用される各種薬液に対して充分な耐性を示す接着剤層を形成することができる。なお、フォトレジスト等で使用される各種薬液としては、代表的には、PGMEAが挙げられるが、そのほかに、例えば、後述する実施例における薬液耐性の評価で用いた薬液等も挙げられる。本発明の接着剤組成物により形成した接着剤層を溶解する際に用いる溶剤(剥離溶剤)としては、上記した有機溶剤と同様のものが挙げられる。このうち、上記した有機溶剤として用いた溶剤と同じ溶剤を、剥離溶剤として用いることがより好ましい。
【0055】
接着剤組成物に含まれる樹脂(A)、樹脂(B)および樹脂(C)のそれぞれの熱分解温度は、何れも250℃以上であることがより好ましく、何れも280℃以上であることがさらに好ましく、何れも300℃以上であることが特に好ましい。何れの樹脂も熱分解温度が250℃以上であることにより、耐熱性がさらに高まり、接着剤組成物の高温環境下における劣化を防止し、脱ガス量を低減させることができる。
【0056】
(その他の成分)
本発明の接着剤組成物には、樹脂(A)、樹脂(B)および樹脂(C)ならびに有機溶剤のほかに、必要に応じて、例えば、可塑剤および酸化防止剤等の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることもできる。
【0057】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0058】
(実施例1〜7)
樹脂(A)として、ノルボルネンとエチレンとをメタロセン触媒にて共重合したシクロオレフィンコポリマー(ポリプラスチックス社製「TOPAS(商品名)5013」、ノルボルネン:エチレン=50:50(重量比)、ガラス転移点:126℃、Mw:85,100、Mw/Mn:1.65、熱分解温度:463℃;以下、樹脂A1といい、表1では単に「A1」と表記する)を用い、樹脂(B)として、ノルボルネンとエチレンとをメタロセン触媒にて共重合したシクロオレフィンコポリマー(ポリプラスチックス社製「TOPAS(商品名)TM」、ノルボルネン:エチレン=50:50(重量比)、ガラス転移点:57℃、Mw:10,100、Mw/Mn:2.08、熱分解温度:371℃;以下、樹脂B1といい、表1では単に「B1」と表記する)を用い、樹脂(C)として、水添石油樹脂(荒川化学工業社製「アルコン(商品名)P−140」、軟化点:140℃、Mw:860、ガラス転移点:79℃、熱分解温度:309℃;以下、樹脂C1といい、表1では単に「C1」と表記する)を用い、樹脂A1、樹脂B1および樹脂C1を表1に示す割合でテルペン系有機溶剤であるp−メンタンに溶解させて、固形分濃度25重量%の接着剤組成物をそれぞれ得た。
【0059】
(実施例8および9)
樹脂(A)として、樹脂A1を用い、樹脂(B)として、樹脂B1を用い、樹脂(C)として、水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル社製「クリアロン(商品名)P135」、軟化点:135℃、重量平均分子量:820、ガラス転移点:102℃、熱分解温度:315℃;以下、樹脂C2といい、表1では単に「C2」と表記する)を用い、樹脂A1、樹脂B1および樹脂C2を表1に示す割合でp−メンタンに溶解させて、固形分濃度25重量%の接着剤組成物をそれぞれ得た。
【0060】
(実施例10〜13)
樹脂(A)として、ノルボルネンとエチレンとをメタロセン触媒にて共重合したシクロオレフィンコポリマー(ポリプラスチックス社製「TOPAS(商品名)8007」、ノルボルネン:エチレン=65:35(重量比)、ガラス転移点:70℃、Mw:98,200、Mw/Mn:1.69、熱分解温度:459℃;以下、樹脂A2といい、表1では単に「A2」と表記する)を用い、樹脂(B)として、樹脂B1を用い、樹脂(C)として、樹脂C1を用い、樹脂A2、樹脂B1および樹脂C1を表1に示す割合でp−メンタンに溶解させて、固形分濃度25重量%の接着剤組成物をそれぞれ得た。
【0061】
(比較例1)
樹脂A2をp−メンタンに溶解させて、固形分濃度25重量%の接着剤組成物を得た。
【0062】
(比較例2)
樹脂A1をp−メンタンに溶解させて、固形分濃度25重量%の接着剤組成物を得た。
【0063】
(比較例3)
全単量体成分を100重量部として、メタクリル酸メチル15重量部、メタクリル酸n−ブチル13重量部、スチレン52重量部、およびフェノキシエチルアクリレート20重量部を重合して得られたアクリル樹脂(Mw:86,000;樹脂D1といい、表1では単に「D1」と表記する)をp−メンタンに溶解させて、固形分濃度25重量%の接着剤組成物を得た。
【0064】
(比較例4〜6)
樹脂A1、樹脂B1および樹脂C1を表1に示す割合でp−メンタンに溶解させて、固形分濃度25重量%の接着剤組成物をそれぞれ得た。
【0065】
(比較例7および8)
樹脂A2、樹脂B1および樹脂C1を表1に示す割合でp−メンタンに溶解させて、固形分濃度25重量%の接着剤組成物をそれぞれ得た。
【0066】
【表1】

【0067】
〔接着剤組成物の評価〕
接着剤組成物の評価は、各実施例および各比較例に係る接着剤組成物を用いてシリコンウエハ上に塗膜を形成し、得られた塗膜付きシリコンウエハを試験片として後述する各試験方法にて行った。
【0068】
なお、試験片は、6インチのシリコンウエハ上に、乾燥膜厚が15μmとなるように、接着剤組成物を塗布した後、110℃で3分間、次いで150℃で3分間、次いで200℃で3分間の条件で乾燥することにより作製した。ただし、塗膜の柔軟性の評価に供する試験片は、上記方法において、乾燥膜厚が15μmとなるように塗布した後、150℃で3分間、次いで200℃で3分間の条件で乾燥するよう変更して、作製した。
【0069】
<溶解性>
試験片(塗膜付きシリコンウエハ)を23℃に保持したp−メンタン中に浸漬させ、塗膜が完全に溶解するまでの時間を測定し、この溶解時間(T(sec))と、予め測定しておいた試験片上の塗膜の厚さ(L(nm))とから溶解速度(L/T(nm/sec))を算出した。溶解速度は60nm/sec以上であることが生産性の点で望ましい。結果を表2に示す(表2中、「溶解速度」のカラム)。
【0070】
<耐熱性(ガス発生)>
試験片(塗膜付きシリコンウエハ)を40℃から250℃まで昇温し、塗膜からのガスの発生量(脱ガス量)を、TDS法(Thermal Desorption Spectroscopy法:昇温脱離分析法)に基づき、TDS測定装置(放出ガス測定装置;電子科学(株)製「EMD−WA1000」)を用いて以下の条件で測定した:
〔TDS測定装置の条件〕
Width:100
Center Mass Number:50
Gain:9
Scan Speed:4
Emult Volt:1.3kV
そして、100℃および230℃においてTDS測定装置から得られる強度(Intensity)が共に10,000未満である場合を「○」、少なくとも一方が10,000以上である場合を「×」と判定した。結果を表2に示す(表2中、「脱ガス」のカラム)。
【0071】
なお、通常、100℃までの温度で測定される脱ガス量は、接着剤組成物が吸湿した水分に由来して生じた水蒸気またはその共沸ガスの発生量であり、100℃を超える温度で測定される脱ガス量は、接着剤組成物自体が熱により分解されて生じたガスの発生量である。よって、100℃における強度(脱ガス量)と、230℃における強度(脱ガス量)を見ることにより、接着剤組成物の耐熱性を総合的に評価することができる。
【0072】
<塗膜の柔軟性>
上述したように、乾燥条件を変更して得た試験片(膜厚15μmの塗膜を備えたシリコンウエハ)を目視にて観察して、塗膜層にクラックが認められない場合を「○」、塗膜層にクラックが認められる場合を「×」と判定した。結果を表2に示す(表2中、「柔軟性」のカラム)。
【0073】
<耐熱性(樹脂劣化)>
試験片(塗膜付きシリコンウエハ)を230℃で1時間加熱した後に、23℃に保持したp−メンタン中に浸漬させ、5分後に目視にて塗膜の状態を観察して、塗膜層が完全に溶解している場合を「○」、塗膜層が溶け残っている場合を「×」と判定した。結果を表2に示す(表2中、「耐熱性」のカラム)。
【0074】
【表2】

【0075】
<薬液耐性>
フォトレジスト等で使用される各種薬液を23℃に保持し、その中に試験片(塗膜付きシリコンウエハ)を浸漬させ、3分後に目視にて塗膜の状態を観察して、塗膜層にクラックおよび溶解部分が認められない場合を「○」、塗膜層にクラックおよび溶解部分の少なくとも一方が認められる場合を「×」と判定した。なお、薬液としては下記のもの(括弧内は略号)を用いて評価した:
・2.38重量%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液(TMAH)
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)
・イソプロピルアルコール(IPA)
・1重量%フッ化水素水溶液(HF)
・5重量%水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)
・N−メチルピロリドン(NMP)
結果を表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
表2に示されるように、実施例1〜13に係る接着剤組成物を用いて形成された塗膜では、溶解速度、脱ガス、柔軟性および耐熱性のいずれにおいても良好な結果が得られた。一方、比較例1,2,4,7に係る接着剤組成物を用いて形成された塗膜では、十分な溶解速度、すなわち生産性の観点から望ましい60nm/sec以上の溶解速度を得ることができなかった。また、比較例3,6に係る接着剤組成物を用いて形成された塗膜では、耐熱性(脱ガス)が不十分であり、高温環境下における脱ガス量が多かった。また、比較例5,6に係る接着剤組成物を用いて形成された塗膜では、乾燥により塗膜層にクラックが生じた。
【0078】
表3に示されるように、実施例1〜13に係る接着剤組成物を用いて形成された塗膜は、薬液耐性の評価に使用した何れの薬液に対しても耐性であった。一方、比較例3,5,6,8に係る接着剤組成物を用いて形成された塗膜は、薬液耐性の評価に使用した薬液の少なくとも何れかに対して、塗膜層におけるクラックの発生および塗膜層の溶解の少なくとも何れかが見られた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る接着剤組成物を用いて得られる接着剤層は、剥離溶剤によって容易に溶解できるとともに、優れた耐熱性、柔軟性および耐薬品性を有している。よって高温プロセス、様々な化学薬品を用いるプロセスを経る半導体ウエハまたはチップの加工工程に、好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィンモノマー(a1)を含む単量体成分を重合してなる、重量平均分子量が50,000〜200,000である樹脂(A)と、
シクロオレフィンモノマー(b1)を含む単量体成分を重合してなる、重量平均分子量が5,000〜15,000である樹脂(B)と、
重量平均分子量が300〜3,000である、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂および石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(C)とを、有機溶剤に溶解してなり、
上記樹脂(A)、上記樹脂(B)および上記樹脂(C)の総量における上記樹脂(A)の含有率が、50重量%以上、90重量%未満であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
上記樹脂(A)、上記樹脂(B)および上記樹脂(C)のそれぞれの熱分解温度が、何れも250℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記樹脂(A)のガラス転移点が60℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
上記樹脂(B)のガラス転移点が50℃以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
上記樹脂(C)の軟化点が80℃〜170℃であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
上記シクロオレフィンモノマー(a1)が、ノルボルネン系モノマーであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
上記シクロオレフィンモノマー(b1)が、ノルボルネン系モノマーであることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の接着剤組成物。

【公開番号】特開2011−219506(P2011−219506A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86424(P2010−86424)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】