説明

接着性ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】スチールコードに対して高い初期接着性および耐水接着性を有するとともに、高温で加硫しても物性の低下が少ない接着性ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100質量部に対し、ホウ素を含有する有機酸コバルト塩をコバルト量として0.1〜0.4質量部および数平均分子量が200〜600のポリエチレングリコールを0.1〜3.0質量部配合してなることを特徴とする接着性ゴム組成物と、該接着性ゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、スチールコードに対して高い初期接着性および耐水接着性を有するとともに、高温で加硫しても物性の低下が少ない接着性ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤの耐久性向上のために、スチールコードとゴムとの接着性が高めることが重要である。一般的にスチールコードにはブラスメッキを施し、ゴムには有機酸コバルト塩を配合することによって、接着性を高めている。しかしながら、タイヤが湿熱下に長時間さらされると接着力が低下する問題がある。
この問題点を解決するために、下記特許文献1および2には、ゴム補強用スチールコードとゴムとの接着改良、特に湿熱老化後の接着改良のために有機カルボン酸のコバルト・ホウ素金属石鹸を接着促進剤として使用することが提案されている。しかしながら有機カルボン酸のコバルト・ホウ素金属石鹸は接着の湿熱劣化に対しては著しい改良効果を示すが、高温加硫時において物性低下を起こしやすい問題がある。
また、特許文献3には、特定のコバルト・ホウ素金属石鹸を使用する技術が開示されているが、未だ十分な改良には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭55−17371号公報
【特許文献2】特開昭60−158230号公報
【特許文献3】特許第2823857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、スチールコードに対して高い初期接着性および耐水接着性を有するとともに、高温で加硫しても物性の低下が少ない接着性ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ジエン系ゴムにホウ素を含有する有機酸コバルト塩の特定量および特定分子量範囲を有するポリエチレングリコールの特定量を配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
1.ジエン系ゴム100質量部に対し、ホウ素を含有する有機酸コバルト塩をコバルト量として0.1〜0.4質量部および数平均分子量が200〜600のポリエチレングリコールを0.1〜3.0質量部配合してなることを特徴とする接着性ゴム組成物。
2.ジエン系ゴム100質量部に対し、さらに、レゾルシン樹脂およびクレゾール樹脂から選ばれた少なくとも1種を0.5〜5質量部、および、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物およびヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物から選ばれた少なくとも1種を0.5〜5質量部配合してなることを特徴とする前記1に記載の接着性ゴム組成物。
3.前記1または2に記載の接着性ゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ジエン系ゴムにホウ素を含有する有機酸コバルト塩の特定量および特定分子量範囲を有するポリエチレングリコールの特定量を配合することにより、スチールコードに対して高い初期接着性および耐水接着性を有するとともに、高温で加硫しても物性の低下が少ない接着性ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴム成分は、通常のゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
これらのジエン系ゴムの中でも、本発明の効果の点からジエン系ゴムはNRが好ましい。
【0008】
(ホウ素を含有する有機酸コバルト塩)
本発明で使用するホウ素を含有する有機酸コバルト塩としては、例えばRhodia社製マノボンド C22.5及びマノボンド 680C、Jhepherd社製CoMend A及びCoMend B、大日本インキ化学工業社製NBC−2等を例示することができる。
【0009】
(ポリエチレングリコール)
本発明で使用されるポリエチレングリコールは、数平均分子量が200〜600である必要がある。数平均分子量が200未満では、高温での混合中あるいは加硫中に昇華し、本発明の効果が十分に発揮されない。数平均分子量が600を超えると、初期接着性および耐水接着性が悪化する。なお、本発明でいう数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定しポリスチレン換算した値とする。
【0010】
(接着性ゴム組成物の配合割合)
本発明の接着性ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、ホウ素を含有する有機酸コバルト塩をコバルト量として0.1〜0.4質量部および数平均分子量が200〜600のポリエチレングリコールを0.1〜3.0質量部配合してなることを特徴とする。
前記ホウ素を含有する有機酸コバルト塩の配合量がコバルト量として0.1質量部未満であると、配合量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に0.4質量部を超えると、耐水接着性が悪化し、また、高温で加硫した場合の物性の低下が著しい。また、従来から使用されているナフテン酸コバルト等の有機酸コバルトと併用することも可能であり、その場合の合計の配合量も上記と同様である。
前記ポリエチレングリコールの配合量が0.1質量部未満であると、配合量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に3.0質量部を超えると、高温で加硫した場合の物性の低下が著しい。
【0011】
さらに好ましいホウ素を含有する有機酸コバルト塩の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.12〜0.30質量部である。
さらに好ましい前記ポリエチレングリコールの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.5〜2.5質量部である。
【0012】
本発明では、その効果向上の観点から、レゾルシン樹脂およびクレゾール樹脂から選ばれた少なくとも1種を配合するのが好ましい。
本発明で使用するレゾルシン樹脂は、レゾルシンとホルムアルデヒドとを反応させた化合物であり、例えばINDSPEC Chemical Corporation社製Penacolite B−18−S、同B−19−S、同B−20−S、同B−21−S、田岡化学工業(株)製スミカノール620等を例示することができる。また、クレゾール樹脂は、クレゾールとホルムアルデヒドとを反応させた化合物であり、特にm−クレゾールを用いた化合物が好適である。クレゾール樹脂としては例えば田岡化学工業(株)製スミカノール610、日本触媒(株)製SP7000等を例示することができる。
レゾルシン樹脂およびクレゾール樹脂から選ばれた少なくとも1種の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.5〜5質量部が好ましい。
【0013】
また本発明では、その効果向上の観点から、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物およびヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物から選ばれた少なくとも1種を配合するのが好ましい。
本発明で使用するヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物としては、例えば田岡化学工業(株)製スミカノール507A等を例示することができる。また、ヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物としては、例えばCYTEC INDUSTRIES社製CYREZ 964RPC等を例示することができる。
ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物およびヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物から選ばれた少なくとも1種の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.5〜5質量部が好ましい。
【0014】
本発明の接着性ゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種充填剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などの接着性ゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0015】
本発明の接着性ゴム組成物は、例えば、ベルトコンベアー、ホース、タイヤ等に一般的に使用されるスチールコードに対する接着力が優れている。例えば、タイヤ用途の場合、スチールコードは、アンダートレッドに埋設されるベルト、カーカス、ビード(ビードコアおよびそれに収納されるスチールコードを含む)が挙げられる。また、スチールコードは、ブラスメッキされているのが好ましい。
【0016】
本発明の接着性ゴム組成物の用途としては、ベルトコンベアー、ホース、タイヤ等が挙げられるが、とくにタイヤ用途が好ましい。
【0017】
また本発明の接着性ゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに使用することができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0019】
実施例1〜8および比較例1〜9
サンプルの調製
表1および2に示す配合(質量部)において、加硫系(加硫促進剤、硫黄)を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物を同バンバリーミキサーに再度入れ、加硫系を加えて混練し、接着性ゴム組成物を得た。得られた接着性ゴム組成物を用いて以下に示す試験法で物性を測定した。
【0020】
M50:JIS K6251に準拠し、上記接着性ゴム組成物を用い、160℃で30分加硫したシート、および、180℃で5分加硫したシートを3号型ダンベル試験片に成形し、引張り速度500mm/分、温度23℃、100℃の各条件で50%モジュラス(M50)を測定した。比較例1または7の160℃で30分加硫したシートを用いた結果を100として指数表示した。指数が大きいほど弾性率が高く、高温での加硫時の物性の低下が抑制されていることを意味する。
初期接着性:12.5mm間隔で互いに平行に並べたブラスメッキスチールコード(1×5構造)の両側からゴム組成物をコーティングして埋め込み、幅25mmのシートにして試験サンプルとした。この試験サンプルを180℃、12分加硫し、ついでASTM D 2229に準拠して、そのサンプルからコードを引き抜き、そのときの引き抜き力(指数)で評価した。比較例1または7の結果を100として指数表示した。指数が大きいほど初期接着性に優れることを意味する。
耐水接着性:加硫後の上記試験サンプルを切断して4週間70℃の温水中に浸漬した後、上記と同様にASTM D 2229に準拠して評価した。
結果を表1および2に併せて示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
*1:NR(RSS#3)
*2:カーボンブラック(東海カーボン社製商品名シーストN、HAF級カーボンブラック)
*3:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製、酸化亜鉛3種)
*4:老化防止剤(精工化学(株)製オゾノン6C)
*5:有機酸コバルト塩−1(DIC(株)製ナフテン酸コバルト、コバルト量=10質量%)
*6:有機酸コバルト塩−2(Rhodia社製マノボンドC22.5、ホウ素を含有する有機酸コバルト塩、コバルト量=22質量%)
*7:プロピレングリコール((株)ADEKA社製工業用プロピレングリコール)
*8:ポリエチレングリコール−1(日油(株)製PEG#200、数平均分子量=200)
*9:ポリエチレングリコール−2(日油(株)製PEG#600、数平均分子量=600)
*10:ポリエチレングリコール−3(日油(株)製PEG#1000、数平均分子量=1000)
*11:不溶性硫黄(四国化成工業(株)製ミュークロンOT−20)
*12:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製ノクセラーDZ−G)
*13:PMMM(田岡化学工業(株)製スミカノール507A、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物)
*14:HMMM(CYTEC INDUSTRIES社製CYREZ 964RPC、ヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物)
*15:クレゾール樹脂(田岡化学工業(株)製スミカノール610)
*16:レゾルシン樹脂(INDSPEC Chemical Corporation社製Penacolite B−21−S)
【0024】
上記の表1から明らかなように、実施例1〜4で調製された接着性ゴム組成物は、ジエン系ゴムにホウ素を含有する有機酸コバルト塩の特定量および特定分子量範囲を有するポリエチレングリコールの特定量を配合しているので、従来の代表的な比較例1に対し、スチールコードに対して高い初期接着性および耐水接着性を有するとともに、高温で加硫しても物性の低下が少ない。
比較例2は、ポリエチレングリコールを配合していないので、高温で加硫した際の物性の低下が著しい。
比較例3は、ポリエチレングリコールの替わりにプロピレングリコールを配合した例であり、高温で加硫した際に物性の低下が観察された。また、耐水接着性も向上しなかった。
比較例4は、ポリエチレングリコールの配合量が本発明で規定する上限を超えているので、高温で加硫した際の物性の低下が著しく、また、耐水接着性も悪化した。
比較例5は、ポリエチレングリコールの数平均分子量が本発明で規定する上限を超えているので、高温で加硫した際の物性の低下が著しい。
比較例6は、ホウ素を含有する有機酸コバルト塩の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、高温で加硫した際の物性の低下が著しく、また、耐水接着性も悪化した。
【0025】
また、上記の表2から明らかなように、実施例5〜8で調製された接着性ゴム組成物は、ジエン系ゴムにホウ素を含有する有機酸コバルト塩の特定量および特定分子量範囲を有するポリエチレングリコールの特定量を配合し、かつ、レゾルシン樹脂またはクレゾール樹脂を特定量配合するとともに、PMMMまたはHMMMを特定量配合しているので、従来の代表的な比較例7に対し、耐水接着性がさらに向上し、また、高温で加硫した際の物性の低下も抑制されている。
比較例8は、ポリエチレングリコールの替わりにプロピレングリコールを配合した例であり、高温で加硫した際に物性の低下が観察された。また、耐水接着性も向上しなかった。
比較例9は、ポリエチレングリコールの配合量が本発明で規定する上限を超えているので、高温で加硫した際の物性の低下が著しく、また、耐水接着性も向上しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対し、ホウ素を含有する有機酸コバルト塩をコバルト量として0.1〜0.4質量部および数平均分子量が200〜600のポリエチレングリコールを0.1〜3.0質量部配合してなることを特徴とする接着性ゴム組成物。
【請求項2】
ジエン系ゴム100質量部に対し、さらに、レゾルシン樹脂およびクレゾール樹脂から選ばれた少なくとも1種を0.5〜5質量部、および、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物およびヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物から選ばれた少なくとも1種を0.5〜5質量部配合してなることを特徴とする請求項1に記載の接着性ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の接着性ゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−231221(P2011−231221A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102915(P2010−102915)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】