説明

接着性組成物

【課題】
ポリエステル樹脂製部材を接着するのに好適な接着剤組成物であって、少なくとも一方がポリエステル製である管と継ぎ手とを接合する場合に、接合部の押し戻しを抑制する事を可能とする接着剤組成物を提供する。
【解決手段】
少なくとも一方がポリエステル製である管と継ぎ手とを接合するための接着剤組成物であって、接着剤と、管と継ぎ手の接合時に容易に砕ける無機物(A)とを含有し、該無機物(A)の粒径が0.05〜1mmの範囲であり、該無機物(A)を接着剤組成物100重量部に対して0.1〜5重量部含んでなることを特徴とする接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ポリエステル製部材の接合用の接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の配管にはポリ塩化ビニル管(以下「塩ビ管」という。)が用いられてきた。しかし、塩ビ管は塩素を含むため、使用後に焼却処理をする場合には塩素系のガスが発生する危険がある事等から、処理時には特殊な処理方法を用いる必要があった。そのため、近年では、樹脂中に塩素を含有せず、通常の処理方法で処理できるポリエチレンテレフタレート(以下「PET」という。)のようなポリエステル樹脂製の配管材料が提案されている。
【0003】
このポリエステル樹脂製配管材料用の接着剤として、低粘度の有機溶剤を含んだポリウレタン系、変成シリコーン系等の成分を含む低粘度の接着剤が特許文献1に開示されている。
【0004】
しかし、管と継ぎ手の接合部は、通常は継ぎ手受け口出口内径の方が受け口奥内径より大きいか、管の外形が端部に近づくほど細くなっている事から、管と継ぎ手を継いだ際に樹脂の弾性により管が押し戻されてしまう事がある。特に樹脂を溶解・膨潤しない低粘度の接着剤が塗布されているとこの押し戻しが起こり易い。接着剤が硬化する前に接合部が押し戻されてしまうと、十分な接着力が発揮できず、接合不良による事故の発生の原因となる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−103017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の従来の問題に鑑みて、ポリエステル樹脂製部材を接着するのに好適な接着剤組成物であって、少なくとも一方がポリエステル製である管と継ぎ手とを接合する場合に、接合部の押し戻しを抑制する事を可能とする接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく研究した結果、管と継ぎ手の接合時に容易に砕ける無機物をポリエステル製部材の接合用接着剤に含有させることにより、該無機物が接合時に容易に砕けて接合部の押し戻しを抑制できることを見出して本発明に到達した。
すわなち、本発明は、
(1)少なくとも一方がポリエステル製である管と継ぎ手とを接合するための接着剤組成物であって、接着剤と、管と継ぎ手の接合時に容易に砕ける無機物(A)とを含有し、該無機物(A)の粒径が0.05〜1mmの範囲であり、該無機物(A)を接着剤組成物100重量部に対して0.1〜5重量部含んでなることを特徴とする接着剤組成物であり、
(2)かかる無機物(A)が、炭酸カルシウムであることが好ましい。
また、前記(1)、(2)において、
(3)前記接着剤が、一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤であることが好ましく、さらに、
(4)かかる一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤が、ポリオキシアルキレンポリオールとポリエステルポリオールを少なくとも含有するポリオール(B)と、ポリイソシアネート(C)とを反応させて得られるものであることが好ましい。
(5)前記接着剤には、溶剤(D)を配合することができる。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成をとることにより、接着剤組成物に配合した無機物が接合時に容易に砕けて、配管と継ぎ手の接合時に生じる樹脂の弾性による管の押し戻しを抑制する効果を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の接着剤組成物で使用する各成分について、以下に詳しく説明する。
本発明における接着剤としては、ポリエステル樹脂に対して有効な接着力を発揮するものであれば、ポリウレタン系、変性シリコーン系、エポキシ系等が使用できるが、特に一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤が好ましく、更にポリオキシアルキレンポリオールとポリエステルポリオールを少なくとも含有するポリオール(B)と、ポリイソシアネート(C)とを反応させて得られる一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤が、接着剤層が厚くなったときにも高い接着力を示すことから好ましい。
【0010】
次に、本発明において使用する管と継ぎ手の接合時に容易に砕ける無機物(A)成分について説明する。ここで、「管と継ぎ手の接合時に容易に砕ける」とは、継ぎ手に管を押し込んで接合するときに、管及び継ぎ手に損傷を与えない程度の通常の人の力で押し込むことで砕けることをいう。この無機物(A)が、管と継ぎ手を接合した時に管と継ぎ手の間で砕け、滑り止めとして働くことにより、管と継ぎ手を継いだ際の押し戻しを防止する。管と継ぎ手の接合時に容易に砕ける無機物(A)としては、例えば炭酸カルシウム、ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、ベントナイト、シラスバルーン、ガラスバルーン等が挙げられる。これらのうち、炭酸カルシウムが好ましい。また、粒径は0.05〜1.0mmである事が好ましく、更に粒径が0.2〜0.6mmである事が好ましい。また、使用量は接着剤組成物100重量部に対し、0.1〜5重量部が好ましく、更に1〜3重量部が好ましい。
【0011】
次に、本発明において好適に使用される一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤における、ポリオール(B)成分について説明する。ポリオール(B)は、ポリオキシアルキレンポリオールとポリエステルポリオールを少なくとも含有している。
【0012】
ポリオキシアルキレンポリオールは、アルキレンオキシドを開環付加重合させた重合体や、開始剤にアルキレンオキシドを開環付加重合させた重合体などである。開始剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、シュークローズ等の低分子アルコール類、ビスフェノールA等の多価フェノール類、エチレンジアミン等の低分子ポリアミン類、ジエタノールアミン等の低分子アミノアルコール類、又はこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン、又はこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。すなわち、ポリオキシアルキレンポリオールは、分子内に2個以上の水酸基を含有するポリオキシアルキレン重合体であって、具体的には、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシプロピレン)−グリコール、ポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシブチレン)−グリコールを挙げることができ、このうちポリオキシプロピレングリコールが特に好ましい。本発明において、ポリオキシアルキレンポリオールは、硬化性組成物の低粘度化や硬化物の高い伸びなどの点から、数平均分子量が500〜40,000、更に2,000〜30,000、特に10,000〜30,000のものが好ましく、また、1分子当たり平均の水酸基の数は2〜8、特に2〜4が好ましく、更に、総不飽和度が0.07(meq/g)以下、特に0.04(meq/g)以下の分子量分布の狭いものが好ましい。
【0013】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、トリメリット酸等のポリカルボン酸、酸エステル、又は酸無水物等の1種以上と、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の低分子アルコール類、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン等の低分子アミン類、モノエタノールアミン等の低分子アミノアルコール類の1種以上との脱水縮合反応で得られる、ポリエステルポリオール又はポリエステルアミドポリオールが挙げられる。また例えば、低分子アルコール類、低分子アミン類、低分子アミノアルコール類を開始剤として、ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル(ラクトン)モノマーの開環重合で得られるラクトン系ポリエステルポリオールやポリカーボネートポリオールも挙げられる。このうち、耐水性、接着性等が良好なことからポリカーボネートポリオールが好ましい。ポリオキシアルキレンポリオールとポリエステルポリオールとの含量比は、ポリオキシアルキレンポリオール100重量部に対しポリエステルポリオール1〜30重量部が好ましく、5〜20重量部が更に好ましい。ポリオキシアルキレンポリオール100重量部に対するポリエステルポリオールの含量比が1重量部未満であると接着力が著しく低くなり、30重量部を超えると作業性や耐水性が低下する。また、この他にポリオレフィンポリオール、アクリルポリオール、動植物系ポリオール、これらのコポリオール等をポリオール(B)成分として使用する事もできる。
【0014】
次に、本発明において使用するポリイソシアネート(C)成分について説明する。ポリイソシアネート(C)としては、例えば、トルエンジイソシアネート(TDI)、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、これらの混合物などの芳香脂肪族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート、更に、これら有機ポリイソシアネートのアダクト変性体、ビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、ウレトンイミン変性体、ウレトジオン変性体、カルボジイミド変性体などの変性ポリイソシアネートが挙げられる。これらのうち、芳香族系ポリイソシアネートが好ましく、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が更に好ましい。これらは単独で或いは2種以上を混合して使用することができる。
【0015】
次に、本発明において使用できる溶剤(D)成分について説明する。溶剤(D)としては、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、n−ヘキサンなどの脂肪族系溶剤、シクロヘキサンなどの脂環族系溶剤、トルエンやキシレンなどの芳香族系溶剤など従来公知の有機溶剤で接着剤の硬化成分と反応しないものであればどのようなものでも、単独で或いは2種以上を混合して使用することができる。これらのうち、一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤に用いる場合は、酢酸エチルが好ましい。
【0016】
本発明の接着剤には、必要に応じて、硬化促進触媒、充填剤、着色剤、揺変付与剤、接着性付与剤などの添加物を使用できる。
硬化促進触媒としては、例えば、2−エチルヘキサン酸錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ビスアセテート、ジブチル錫ビスアセチルアセトナートなどの有機錫化合物や、トリエチレンジアミン、N−エチルモルフォリンなどの3級アミン類が挙げられる。これらのうち、一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤に用いる場合は、有機錫化合物を代表例とする有機金属系触媒が好ましい。硬化促進触媒の使用量は、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー100重量部に対して、0.005〜10重量部、更に0.1〜2重量部であることが好ましい。
【0017】
充填剤としては、前記無機物(A)成分以外に、例えば、炭酸カルシウム、脂肪酸処理炭酸カルシウム、フュームドシリカ(コロイダルシリカ)、沈降性シリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸、炭酸マグネシウム、ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、酸化チタン、ベントナイト、有機ベントナイト、酸化第二鉄、酸化亜鉛、活性亜鉛華、シラスバルーン、ガラスバルーン、木粉、パルプ、木綿チップ、マイカ、くるみ殻粉、もみ殻粉、グラファイト、アルミニウム微粉末、フリント粉末などの粉体状充填剤、石綿、ガラス繊維、ガラスフィラメント、炭素繊維、ケプラー繊維、ポリエチレンファイバーなどの繊維状充填剤が挙げられる。
【0018】
接着性付与剤としては、例えば、シランカップリング剤などのカップリング剤が挙げられる。
着色剤としては、例えば、酸化鉄、酸化クロム、酸化チタンなどの無機顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどの有機顔料が挙げられる。
揺変付与剤としては、例えば、(充填剤としても挙げた)脂肪酸処理炭酸カルシウム、水添ひまし油、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、コロイダルシリカが挙げられる。
本発明の接着剤において、前記各添加剤成分はそれぞれ1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明について実施例等により更に詳細に説明するが、これに限定されるものではない。
【0020】
[合成例1]
攪拌機、温度計、窒素シール管及び冷却器の付いた加温反応容器に、窒素ガス気流下で、酢酸エチル390g、ポリオキシプロピレントリオール(三井化学社製アクトコールT−4000、数平均分子量4,000)479gとポリカーボネートジオール(日本ポリウレタン工業社製ニッポラン980N、水酸基価56.1)63gを仕込み、この中に2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの混合物(日本ポリウレタン工業社製T−80、混合比:2,4−体/2,6−体=8/2、分子量174)66gとオクチル酸ジルコニウム0.05gを攪拌しながら徐々に添加し、70〜80℃で1時間攪拌して、イソシアネート基含有量が理論値以下となった時点で反応を終了し、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーU−1を合成した。このイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーの滴定による実測イソシアネート基含有量は1.3質量%、粘度は7,000mPa・s/25℃であった。
【実施例1】
【0021】
攪拌機、窒素シール管の付いた混合容器に、窒素ガス気流下でイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーU−1を100g仕込み、この中に酢酸エチル22gと炭酸カルシウム(常陸砕石社製、寒水砕石1厘、粒子径0.3〜0.5mm)2.4gを攪拌しながら徐々に添加し接着剤組成物を調製した。
【0022】
[比較例1]
実施例1において、炭酸カルシウム使用しない以外は同様にして、接着剤組成物を調製した。
【0023】
[比較例2]
実施例1において添加する炭酸カルシウムの量を12gにした以外は同様にして接着剤組成物を調製した。
【0024】
[比較例3]
実施例1において添加する炭酸カルシウムをホワイトンB(白石カルシウム社製、平均粒子径3.6μm)にした以外は同様にして接着剤組成物を調製した。
【0025】
<押し戻し測定試験>
23℃、55%相対湿度の条件で1日間調整したPET製直管(昭和電工建材社製、ショウワエコパイプ100A)とPET製継手(昭和電工建材社製、ショウワエコパイプ管継手EPDS100)を用い、継手の受け口及び直管に容器中でよく攪拌した試料を塗布し、直管を継手受け口にストッパーにあたる位置まで挿入した。30秒間保持した後、1分後の直管が押し戻された距離を測定した。
表1に実施例1と比較例1〜3を用いた押し戻し測定試験の結果を示す。
実施例1と比較例1〜3との結果より、適切な粒径の炭酸カルシウムを適切な量添加することにより、接合部の押し戻しが抑制されることが確認された。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方がポリエステル製である管と継ぎ手とを接合するための接着剤組成物であって、接着剤と、管と継ぎ手の接合時に容易に砕ける無機物(A)とを含有し、該無機物(A)の粒径が0.05〜1mmの範囲であり、該無機物(A)を接着剤組成物100重量部に対して0.1〜5重量部含んでなることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
前記無機物(A)が、炭酸カルシウムである請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記接着剤が、一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤である請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記一液湿気硬化型ポリウレタン系接着剤が、ポリオキシアルキレンポリオールとポリエステルポリオールを少なくとも含有するポリオール(B)と、ポリイソシアネート(C)とを反応させて得られるものである請求項3に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記接着剤が、溶剤(D)を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の接着剤組成物。

【公開番号】特開2011−157515(P2011−157515A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21851(P2010−21851)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000103541)オート化学工業株式会社 (83)
【Fターム(参考)】