説明

接着性試験用試験体およびそれを用いた接着性試験方法

【課題】 従来の試験体では、サンシャインウェザー暴露試験などで得たシーリング材の耐久性の評価が、実際の施工でのシーリング材の耐久性と必ずしも一致しない。
【解決手段】 直方体の被試験シーリング材と、該シーリング材の長手の1側面を覆って被着された基板と、該基板が被着された側面に向かい合う側面を覆って被着された遮光性基板を含む接着性試験用試験体であって、該遮光性基板が直線の辺を1以上含み、該直線の辺のうちの1辺が、該シーリング材の長辺と一致していることを特徴とする接着性試験用試験体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤やシーリング材の接着性を試験するための試験体およびそれを用いた接着性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス窓における窓ガラスと窓枠の間の防水シールなど、固体材料と別の固体材料との間の隙間を封止するために、有機材料を主成分とする接着剤やシーリング材が広く使われている。それらシーリング材は、雨水などの水分と、日光など光とに、曝された状態で何年にも渡って、シール状態が保たれる、つまり接着力が維持なければならない。
【0003】
このようなシーリング材の耐久性にかかる試験方法として、たとえばJIS A1439:2004に、建築用シーリング材の試験方法が規定されている。このJISでは、シーリング材が2枚のガラス板に挟まれている構造の試験体が、H型試験体2型として、開示されている。また、このH型試験体2型を用いて、サンシャインウェザー暴露試験を行なうことも開示されている。これまで様々なシーリング材が、このJISの規定に基づいて試験されている。
【0004】
【非特許文献1】日本工業規格JIS A1439:2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のJISの規定による従来のH型試験体では、シーリング材は2枚のフロートガラス板で挟まれているので、サンシャインウェザー暴露試験において、光源からの光は、シーリング材に達する前にガラス板を通過する。
【0006】
シーリング材など有機材料は、可視光よりはむしろ紫外線の照射によって、劣化が進みやすい傾向があることがよく知られている。ところが、従来のH型試験で用いられるフロートガラスは、透明なものであっても、紫外線の透過率は可視光のそれより低いことが通常であり、例えば、透過率は、可視域では90%程度であるのに対し、波長380nm付近から低下し、波長340nmでは50%程度でしかない。
【0007】
つまり、従来のH型試験体では、サンシャインウェザー暴露試験において、紫外光を含む光を照射しているが、実際にシーリング材に到達している紫外光は、照射している紫外線と比べてかなり弱いものでしかない。
【0008】
一方、実際にシーリング材が使用されている状況では、日光などが、ガラス板などを通過することなく、直接シーリング材に到達する。
【0009】
とりわけ、光触媒膜を主平面にコーティングした光触媒クリーニングガラスを建築物に取り付ける場合は、光触媒面が日光と降雨に曝されるように取り付ける。この場合、シーリング材は、光触媒面に直接に接することになり、しかも、日光により光触媒性を発揮した際、光活性種がシーリング材の接着部に直接触れ、シーリング材の反応(劣化)が促進され得る。
【0010】
したがって、従来のH型試験体によるサンシャインウェザー暴露試験などで、劣化が見られなかったシーリング材を、実際の建物の施工に用いると、そのシーリング材が劣化してしまい、不都合が生じる、という虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の接着性試験用試験体は、直方体の被試験シーリング材と、該シーリング材の長手の1側面を覆って被着された基板と、該基板が被着された側面に向かい合う側面を覆って被着された遮光性基板を含む接着性試験用試験体であって、該遮光性基板が直線の辺を1以上含み、該直線の辺のうちの1辺が、該シーリング材の長辺と一致していることを特徴とする接着性試験用試験体である。
【0012】
好ましくは上記基板および上記遮光性基板が長方形であって、該基板の長辺および該遮光性基板の長辺の長さが、該シーリング材の長手方向の長さと略一致する。
【0013】
さらに好ましくは上記基板が正方形であり、該基板の1辺の長さが、該シーリング材の長手方向の長さと略一致する。
【0014】
また、材質に関しては、上記基板がガラス板であり、上記遮光性基板が金属板であることが好ましく、より好ましくは上記ガラス板の少なくとも片方の主平面に被膜が被覆されており、該被膜が被着されている面が上記シーリング材と被着されている。
【0015】
更に好ましくは、上記被膜が光触媒膜を含む被膜である。
【0016】
本発明の接着性試験方法は、上述の接着性試験用試験体を用い、上記遮光性基板に垂直な方向に、該遮光性基板に向けて光を照射することを特徴とする接着性試験方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の試験体およびこの試験体を用いた接着性試験方法によると、その接着剤やシーリング材が、実際に使用される状況での接着性を、適切に評価することができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の試験体とこの試験体を用いた接着性試験方法について、図を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明の試験体は、遮光性基板の長辺が、被試験シーリング材の長辺の一方と一致することが重要であって、以下の実施例に限定されるものではなく、特に試験体各部の寸法が異なっていてもよいことを明記しておく。
【0019】
[実施例]
[試験体の構造]
図2は、本発明の試験体の実施例の断面図である。被試験シーリング材1は、その断面が12×12mmであり、その長さは50mmの直方体である。シーリング材の12×50mmの1面が、基板2としての厚さ5mm×50mm角のガラス板に接着され、シーリング材の該被着面とは反対側の1面が、遮光性基板3としての31×50×厚さ3mmのアルミニウム板に接着されている。なお、このとき、アルミニウム板の長辺が、シーリング材の長辺の一方と一致するように、かつシーリング材の短辺が、ガラス板のエッジおよびアルミニウム板の短辺と一致するように配置されている。
【0020】
なお、本実施例においては、ガラス板の主平面の片側に光触媒膜4が成膜されているガラス板を用いたので、該光触媒膜4がシーリング材と接するように接着されている。
【0021】
図2に示すように、本発明の試験体は、その断面が英字小文字のhに似ているため、スモールh型サンプルと呼ぶ。
【0022】
[試験体の作製]
上述の試験体は、以下のようにして作製した。厚み5mmの光触媒クリーニングガラスを50mm角に切断し、31×50mmに切断した厚み3mmのアルミニウム板と、各々19×12×50mmおよび19×15×50mmの2枚のスペーサとを組み合わせて、(12±0.3)×(12±0.3)×(60±0.6)mmのスペースを作成した。その際、光触媒面が、スペース側に面するようにした。上述のスペースに、シーリング剤を注入し、JIS A1439:2004の表3に記載の条件で養生した。具体的には、上述のスペーサを入れたまま、前養生として温度23±2℃,相対湿度(50±5)%の恒温恒湿器で14日間保持した後、上述のスペーサを取り外し、さらに温度30±2℃の恒温器で14日間保持した。
【0023】
[接着性試験]
上述の試験体を、サンシャインウェザー試験機に設置し、所定のスケジュールで光照射、散水、乾燥のサイクルを、光照射時間が所定の時間に達するまで繰り返して、暴露を行なった。このとき、サンシャインウェザー光源からの紫外線照射光を、試験体のアルミニウム板を被着した面に向けて照射し、紫外線照射光が該アルミニウム板に垂直になるように照射した。
【0024】
照射後の試験体は、JIS A1439:2004の5.7.4 c)に規定の通り、23±2℃,相対湿度50±5%に24時間保持した。その後、上述のアルミニウム板のシーリング材に接着されていない側の主平面に、別の厚さ3×50mm角のアルミニウム板を市販のエポキシ系接着剤で接着し、引張試験用試験体を作製した。
【0025】
この引張試験用試験体を、通常の引張試験機に取り付け、5.5±0.7mm/minの引張速度で、ガラス板及びアルミニウム板に垂直な方向に、試験体が破壊するまで伸長した。破壊された試験体を観察し、破壊された箇所が、シーリング材の内部,シーリング材とガラス板の界面,シーリング材とアルミニウム板の界面の何れであるのかを記録した。
【0026】
なお、同一条件で作製した別の試験体から、サンシャインウェザー試験機で暴露させることなく、上述の引張試験用試験体を作製して、同様の引張試験を行なった。これら暴露前後の比較から、シーリング材の劣化を判断した。
【0027】
[比較例]
図3は、本発明の比較例の断面図であって、JIS A1439:2004の5.17.2の図14(b)に記載されている、H型試験体2型である。なお、なお、本実施例においては、ガラス板の主平面の片側に光触媒膜4が成膜されているガラス板を用いたので、該光触媒膜がシーリング材1と接するように接着されている。
【0028】
上述の試験体を、実施例と同様に、暴露を行なった。このとき、サンシャインウェザー光源からの紫外線照射光を、試験体の片側のガラス板に垂直になるように照射した。
【0029】
暴露後の試験体には、実施例と同様の引張試験を行ない、破壊された箇所を観察した。
【0030】
また、実施例と同様、暴露前の引張試験も行ない、シーリング材の劣化を判断した。
【0031】
上述の実施例および比較例の試験体を、各々ウレタン系シーリング材とシリコーン系シーリング材の2種類を用いて作製し、接着性を評価した結果を、表1に示す。なお、ウレタン系シーリング材は、実際の建築物において、光触媒ガラスのシーリング材として用いて接着性が劣化することが知られている。一方、シリコーン系シーリング材は、上述の劣化を示さないので、実際の建築物においても、使用されているものである。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から明らかなように、ウレタン系シーリング材は、実際の建築物に使用した場合には劣化するにもかかわらず、従来のH型試験体を用いた試験結果では劣化しない、と誤って判断されてしまう。一方、本発明のh型試験体を用いた試験では、劣化した、と正しく判断できる。
【0034】
また、シリコーン系シーリング材は、h型試験体を用いた試験でも劣化が見られず、実際の建築物に使用した場合と一致する。つまり、h型試験体による試験は、条件が過度に厳しいということがない。
【0035】
したがって、h型試験体による試験は、実際の建築物に使用した条件を、適切に再現できる促進試験であると言うことができる。
【0036】
本発明の試験体を用いた試験は、接着剤と被着体との界面のうち、特にエッジ部の光照射による接着性劣化の評価に好適に用いることができる。したがって、試験体の寸法や材質、引張試験の方法は、上述に限定されない。たとえば、ガラス板の代わりに、金属・陶磁器・コンクリート・合成樹脂・紙・布からなる板を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の試験体において、ガラス板の代わりにシートを用いる場合、引張試験の代わりに引き剥がし試験によって、接着性の判断を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の試験体の断面の模式図である
【図2】本発明の試験体の実施例の断面の模式図である
【図3】本発明の比較例の断面の模式図である
【符号の説明】
【0039】
1 被試験シーリング材
2 基板
3 遮光性基板
4 光触媒膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体の被試験シーリング材と、該シーリング材の長手の1側面を覆って被着された基板と、該基板が被着された側面に向かい合う側面を覆って被着された遮光性基板を含む接着性試験用試験体であって、該遮光性基板が直線の辺を1以上含み、該直線の辺のうちの1辺が、該シーリング材の長辺と一致していることを特徴とする接着性試験用試験体。
【請求項2】
上記基板および上記遮光性基板が長方形であって、該基板の長辺および該遮光性基板の長辺の長さが、該シーリング材の長手方向の長さと略一致する請求項1に記載の接着性試験用試験体。
【請求項3】
上記基板が正方形であり、上記遮光性基板が長方形であって、該基板の1辺の長さおよび該遮光性基板の長辺の長さが、該シーリング材の長手方向の長さと略一致する請求項1に記載の接着性試験用試験体。
【請求項4】
上記基板がガラス板であり、上記遮光性基板が金属板である請求項1〜3の何れか1項に記載の接着性試験用試験体。
【請求項5】
上記ガラス板の少なくとも片方の主平面に被膜が被覆されており、該被膜が被着されている面が上記シーリング材と被着されている請求項4に記載の接着性試験用試験体。
【請求項6】
上記被膜が光触媒膜を含む被膜である請求項5に記載の接着性試験用試験体。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の接着性試験用試験体を用い、上記遮光性基板に垂直な方向に、該遮光性基板に向けて光を照射することを特徴とする接着性試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−64575(P2008−64575A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242071(P2006−242071)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年7月31日 社団法人 日本建築学会発行の「2006年度大会(関東)学術講演梗概集 A−1分冊」に発表
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】