説明

推進工法

【課題】推進管の継ぎ足し時に地盤圧力、地下水圧等によって発生するバッキングを防止するために、バッキング防止装置に設けた押圧盤を推進管列の最後尾のものに押圧して次の推進管を継ぎ足すようにした推進工法において、前記押圧盤による推進管に対する摩擦力を押圧力の増大を伴うことなく増大させることである。
【解決手段】前記推進工法において使用される推進管12として、外周面にエンボス加工20を施した補強鋼板18を設けたものを使用し、望ましくは前記押圧盤17の押圧面にも同様のエンボス加工を施したものを使用するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は推進工法に関し、特に推進管のバッキング防止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
掘進機の後部に接続した推進管列を発進坑に設置された元押しジャッキにより押圧推進させ前記推進管列を地盤中に埋設する工法は、推進工法として従来から知られている。また、その工法の施工途中において、前記推進管列の最後尾の推進管の後端に次の推進管を継ぎ足す場合に、予めバッキング防止装置を駆動させその押圧盤を最後尾の推進管の外周面に押し当て、その推進管を発進坑に対して固定させた後に元押しジャッキを後退させ次に推進管を吊り込むようにしている。
【0003】
前記のバッキング防止装置は、元押しジャッキが後退してその押圧力が既設の推進管列に作用しなくなった際に地盤側の土圧や水圧により既設推進管列が押し戻される現象、いわゆるバッキングを防止するものである。
【0004】
前記のバッキング防止装置は、発進坑の反力受壁と対向して設置されたフレームと、そのフレームを前記反力受壁に連結する支持部材と、推進管の中心方向に向けて進退できるように前記フレームに取り付けられた多数のバッキング防止ジャッキから構成される。バッキング防止ジャッキに取り付けられた押圧盤が最後尾の推進管の外周面に径方向から押圧され、推進管に作用するバッキング圧力を前記押圧盤、フレーム及び支持部材を介して発進坑内の反力受壁によって受けるようにしている(特許文献1)。
【0005】
前記押圧盤の押圧面は多数の凹凸を設けた金属板やセラミックス板により構成され、推進管の外周面に対して大きな摩擦力が得られるように構成されている。
【特許文献1】特許第3773860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来のバッキング防止装置においては、推進管に作用するバッキングの圧力を押圧盤によって滑り無く受けることができるようにするため、押圧盤を強固に推進管に押し当てる必要がある。
【0007】
しかし、そのために推進管外表面に傷が付いたり、推進管を変形させたりする不都合があった。
【0008】
そこで、この発明は、押圧盤に加える押圧力を抑制することにより推進管に傷が付いたり、変形したりする不都合を解消する一方、推進管との間に十分大きな摩擦力が得られるようにして、バッキングを確実に防止できるようにした推進工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、この発明は、図1に示したように、掘進機11の後部に接続した1又は複数の推進管12の列(「推進管列」13と称する。)を発進坑14に設置された元押しジャッキ15により推進させ前記推進管列13を地盤中に埋設する作業中に、前記推進管列13の最後尾の推進管12の後端に次の推進管12を継ぎ足す場合に、予めバッキング防止装置16を駆動させその押圧盤17を前記最後尾の推進管12の外周面に押し当て、該推進管12を発進坑14に対して固定させた後に前記元押しジャッキ15を後退させ、次の推進管12を吊り込むようにした推進工法において、前記推進管12として、コンクリート製の推進管本体45の外表面に補強鋼板18が設けられ、かつ、その補強鋼板18の外表面にエンボス加工20が施された鋼・コンクリート合成推進管を用いるようにしたものである。
【0010】
前記の推進工法は、推進管列13の最後尾に次の推進管12を継ぎ足す場合に、予めバッキング防止装置16を駆動させることにより、元押しジャッキ15を後退させても地盤からのバッキング圧力に耐えることができる。この場合、推進管12のズレ止め、いわゆるジベルの作用は、押圧盤17と補強鋼板18との摩擦によって行われるが、補強鋼板18にはエンボス加工20が施されているので、大きな摩擦力が得られる。
【0011】
このようにして次の推進管12の吊り込みが完了すると、元押しジャッキ15を駆動させて最後尾となる前記の推進管12の後端を押圧させ、その上でバッキング防止装置16の押圧盤17を後退させる。その後元押しジャッキ15を駆動させて次の推進作業を実施する。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明の推進工法においては、推進管12の外周面に設けられた補強鋼板18にエンボス加工20を施したものを用いるものであるから、バッキング防止装置16の押圧盤17の押圧力を抑制しても、十分大きな摩擦力が得られるので、推進管12の補強鋼板18に傷を付けることがなく、また推進管12を変形させることもなく効果的にバッキングを防止ししつつ推進工法を実施することができる。また、押圧盤17の押圧面42に補強鋼板18のエンボス加工20に対する相補的な形状のエンボス加工20’を施したものを用いることにより、前記の摩擦力を一層強大なものとすることができる。
【0013】
さらに、推進管自体は、その補強鋼板18に設けられたエンボス加工20の凹凸が地盤に食い込み、地盤との摩擦力が大きくなるため、推進中に発生する可能性があるローリングを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
実施例1の推進工法は、図1に示したように、従来の場合と同様に、掘進機11の後部に接続した1本の推進管12又は複数本の推進管12の列、即ち推進管列13を発進坑14に設置された複数の元押しジャッキ15により当て板30を介して押圧し、1本の推進管12を単位として順次継ぎ足して推進させる。元押しジャッキ15は発進坑14の内部に設けられた反力受壁21に水平向きに固定される。
【0016】
前記推進管列13を地盤中に埋設する途中において、前記推進管列13の最後尾の推進管12の後端に次の推進管12(図1において一点鎖線で示す。)を継ぎ足す場合に、予めバッキング防止装置16を駆動させ、その押圧盤17を止水枠板55から発進坑14内に突き出した前記最後尾の推進管12の外周面に押し当てる。
【0017】
バッキング防止装置16は、前記の反力受壁21と対向して設置されたフレーム22と、そのフレーム22を反力受壁21に連結する上下各2本の水平方向の支持部材23と、推進管12の中心方向に向けて進退できるように前記フレーム22に取り付けられた多数のバッキング防止用のジャッキ24から構成される。
【0018】
図2に示したように、フレーム22には推進管12が挿通される孔25が設けられ、その孔25の周縁に沿って前記のジャッキ24が放射状に固定され、各ジャッキ24の可動部に設けられた押圧盤17が孔25の内側において径方向に進退自在となるように構成される。ジャッキ24の数は4台から16台程度の範囲で適宜選定される。
【0019】
また、前記支持部材23のうち、下方の2本の支持部材23が発進坑14の底面に設置された基盤26に固定され、フレーム22とジャッキ24の荷重を基盤26によって支持するようになっている。
【0020】
ジャッキ24は、図3から図5に示したように、一端開放の固定ケーシング27と、これに入れ子式に挿入された両端開放の可動ケーシング28を有し、可動ケーシング28の外端面に前記の押圧盤17がボルト29によって固定される。可動ケーシング28の固定ケーシング27に対する摺動を案内するための案内溝31が固定ケーシング27に設けられ、これに嵌合する案内ピン32が可動ケーシング28に設けられる。固定ケーシング27に設けられたブラケット33が前記のフレーム22に固着される。
【0021】
前記固定ケーシング27と可動ケーシング28によって構成されたケーシングの内部に油圧式の単動ジャッキ34がそのピストンロッド35を固定ケーシング27の閉塞端側を向く姿勢で収納され、該閉塞端にボルト36により固定される。また単動ジャッキ34のハウジング37が押圧盤17にボルト38によって固定される。また、前記ハウジング37の内部に接続された油圧ホース39は可動ケーシング28の孔41、固定ケーシング27の案内溝31を通じて外部に引き出される。単動ジャッキ34を固定ケーシング27と可動ケーシング28とからなるケーシングに収納することにより、単動ジャッキ34を泥水等から保護することができる。
【0022】
前記の押圧盤17は、推進管12の外径面に沿った円弧状の鋼板によって形成され、その鋼板の凹曲面が押圧面42となっている。後述のように、推進管12の補強鋼板18には多数の凹部43からなるエンボス加工20(図6参照)が施されるので、押圧面42にはこれと相補的な形状である多数の凸部44からなるエンボス加工20’が施される。
【0023】
この実施例1の推進工法において使用される推進管12は、図6に示したように鉄筋で補強されたコンクリート製の推進管本体45の一端部に差し口46が設けられ、その差し口46の外周面に差し口鋼板47、他端部外周面に受け口鋼板48が設けられる。差し口鋼板47と受け口鋼板48との間の推進管本体45の胴部外周面に、差し口鋼板47と受け口鋼板48に接続された補強鋼板18が一体に設けられる。
【0024】
差し口鋼板47の先端内周面に差し口46の先端面を保護するリング状の差し口端板51が設けられる。また、差し口鋼板47の外周面にシール部材の装着溝52が設けられる。受け口鋼板48の前端部内周面に推進管本体45の後端面を保護するリング状の受け口端板53が設けられる。
【0025】
前記の補強鋼板18には、その全体にわたりエンボス加工20が施される。図示の場合、エンボス加工20は均等かつ分散状に設けられ多数の凹部43からなるものである。その凹部43は補強鋼板18の外周面から内周面に向けて打ち出しによって設けたものであり、図7(a)〜(c)に示したように、推進管12の長さ方向に一定長さA、一定幅B及び一定深さCをもった一の字形のものである。また、前記凹部43の長さ方向の両端部にはテーパA1が形成され、また幅方向の両側面にもテーパ面B1が形成される。
【0026】
前記凹部43は、周方向に一定間隔をおいた推進管12の中心線と平行な線Xを仮想したとき、各X線上において間隔D(<A)をおいて一定ピッチで配置され、隣接した他のX線上の凹部43は半ピッチだけずらせ、全体としていわゆる千鳥状に分散配置される。
【0027】
前記の推進管12は、図8(a)(b)に示したように、推進管本体45のコンクリート部分が補強鋼板18の凹部43の相互間に入るため、凹部43がジベルの作用をなし、推進管本体45と補強鋼板18が一体化される。
【0028】
また、凹部43にトンネル56の地盤が食い込むことにより推進抵抗が多少増大することがあり得るが、推進作業に大きな影響を与える要因になることはない。
【0029】
一般に、推進工法の施工時においては、推進管列13(図1参照)は先頭の掘進機11において発生するトルクの反力を支える作用を行うが、推進管列13と地盤との間の摩擦によるトルク以上に大きいトルクが掘進機11において発生した場合は推進管列13が支えきれず、ローリングする場合がある。この発明の場合は、前記の凹部43に地盤が食い込むことにより(図8(b)参照)回転方向の摩擦抵抗が多少増大し、ローリング防止に寄与する。
【0030】
前述のように押圧盤17の押圧面42(図5参照)には、推進管12の凹部43と相補形状をなす多数の凸部44かならエンボス加工20’が施される。この押圧盤17は、前記推進管12のエンボス加工20の施された補強鋼板18と同一の適宜な大きさに切断することにより形成される。この押圧盤17は、鋼、ゴム、カーボン、ポリマー等によって形成され、用途に応じて使い分けられる。ゴムの場合は、押圧面42を平坦に形成し、これを推進管12に押し付けた際に補強鋼板18のエンボス加工20に従って弾性変形し凹凸嵌合するようにしてもよい。
【0031】
推進管12を継ぎ足す場合、バッキング防止装置のジャッキ24が駆動され、押圧盤17の押圧面42が推進管12の補強鋼板18の外周面に押し当てられたとき、押圧面42のエンボス加工20’による凸部44の総てが補強鋼板18の凹部43に嵌合するとは限らないが、両方の凹凸部43、44は、推進管12に作用するバッキング圧に対し、相互に係合したり、嵌合したりすることによって大きな摩擦力を発生させ、ジベルの作用をなす。
【0032】
このため、ジャッキ24の押圧力を、補強鋼板18を傷付けず、また推進管12を変形させることがない程度に抑制した大きさに設定しても、前記摩擦力によりバッキングを有効に防止することができる。
【実施例2】
【0033】
図9(a)(b)に示した実施例2における推進管12のエンボス加工20は、前記実施例1の場合と逆に、補強鋼板18の外表面にその内周面から外周面に向けて打ち出すことによって多数の凸部43’を形成したものである。凸部43’の大きさ、配列パターンは実施例1の凹部43と同様である。この場合の凸部43’も推進管本体45と補強鋼板18との一体化を図る機能があるとともに、地盤に対する摩擦抵抗を増大させる機能がある。
【実施例3】
【0034】
図10は、実施例3におけるエンボス加工20の凹部43のパターンを示している。この場合の凹部43は、前記実施例1の場合と同様に、外周面から内向きに打ち出して形成されたものである。その配列は、推進管12の進行方向に平行な線Xに対してθ(=45°)の傾きをもって一定ピッチで配列され、隣接する他の線Xにおいては−θの傾きをもち、かつ半ピッチだけずれて交互に配列される。
【0035】
なお、この場合も、凹部43に代えて凸部43’のエンボス加工20を施したものでもよい。
【実施例4】
【0036】
図11は、実施例4におけるエンボス加工20の凹部43のパターンを示している。この場合の凹部43は、一定長さAと、一定幅B及び一定深さCをもち、かつ長さ方向の中間でL形に屈曲され、そのL形屈曲部Dが推進管12の推進方向を向くように線X上に間隔Eをおいて配列され、隣接する線X上の凹部43は半ピッチだけずらせて配列される。凹部43に代えて凸部43’のエンボス加工20を施したものでもよいことは前記各実施例と同様である。
【実施例5】
【0037】
図12に示した実施例5は、前記のバッキング防止装置16のバッキング防止用のジャッキ24として、ターンバックル型のネジ式ジャッキを用いた例を示している。ジャッキ24の操作は手作業となるが、ジャッキ24が数個程度の場合はこのような手作業のジャッキも使用することができ、作業コストの低減に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1の断面図
【図2】図1のA−A線の断面図
【図3】図2のB−B線の断面図
【図4】図3のC−C線の断面図
【図5】実施例1のバッキング防止用ジャッキの分解斜視図
【図6】同上の推進管の断面図
【図7】(a)同上のエンボス加工部の拡大平面図、(b)(a)図のb−b線の断面図、(c)(a)図のc−c線の断面図
【図8】(a)同上のトンネル部分の断面図、(b)(a)図の一部拡大断面図
【図9】(a)実施例2の推進管の一部断面図、(b)(a)図のb−b線の断面図
【図10】実施例3のエンボス加工部の拡大平面図
【図11】(a)実施例4のエンボス加工部の拡大平面図、(b)(a)図のb−b線の断面図
【図12】(a)実施例5の断面図、(b)(a)図の一部拡大断面図
【符号の説明】
【0039】
11 掘進機
12 推進管
13 推進管列
14 発進坑
15 元押しジャッキ
16 バッキング防止装置
17 押圧盤
18 補強鋼板
19、19’ 凹部
20、20’ エンボス加工
21 反力受壁
22 フレーム
23 支持部材
24 ジャッキ
25 孔
26 基盤
27 固定ケーシング
28 可動ケーシング
29 ボルト
30 当て板
31 案内溝
32 案内ピン
33 ブラケット
34 単動ジャッキ
35 ピストンロッド
36 ボルト
37 ハウジング
38 ボルト
39 油圧ホース
41 孔
42 押圧面
43 凹部
43’ 凸部
44 凸部
45 推進管本体
46 差し口
47 差し口鋼板
48 受け口鋼板
51 差し口端板
52 装着溝
53 受け口端板
55 止水枠板
56 トンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘進機(11)の後部に接続した推進管列(13)を発進坑(14)に設置された元押しジャッキ(15)により推進させ前記推進管列(13)を地盤中に埋設する作業中に、該推進管列(13)の最後尾の推進管(12)の後端に次の推進管(12)を継ぎ足す場合、あらかじめバッキング防止装置(16)を駆動させ該装置の押圧盤(17)を前記最後尾の推進管(12)の外周面に押し当て、該推進管(12)を発進坑(14)対して固定させた後に前記元押しジャッキ(15)を後退させ次の推進管(12)を吊り込むようにした推進工法において、前記推進管(12)として、コンクリート製の推進管本体(45)の外表面に補強鋼板(18)が設けられ、かつ、その補強鋼板(18)の外表面にエンボス加工(20)が施された鋼・コンクリート合成推進管を用いることを特徴とする推進工法。
【請求項2】
前記のエンボス加工(20)によって前記補強鋼板(18)の外表面に多数の凹部(43)又は多数の凸部(43’)が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の推進工法。
【請求項3】
前記バッキング防止装置(16)の押圧盤(17)が、前記推進管(12)に対し径方向に進退可能な油圧式又はネジ式のジャッキ(24)により支持されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の推進工法。
【請求項4】
前記押圧盤(17)の押圧面(42)に、前記補強鋼板(18)に施されたエンボス加工(20)による凹部(43)又は凸部(43’)と相補的な形状の凸部(44)又は凹部でなるエンボス加工(20’)が施されたことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の推進工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−111241(P2008−111241A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293724(P2006−293724)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000163419)株式会社きんでん (37)
【出願人】(000158769)機動建設工業株式会社 (41)
【出願人】(390000332)栗本コンクリート工業株式会社 (29)
【出願人】(394002981)株式会社岡本建設用品製作所 (10)
【Fターム(参考)】