説明

揚げ菓子の製造方法

【課題】油ちょう時に、生地が破裂することがなく、且つ、生地が沈んで変形することがない、棒状または管状の揚げ菓子の製造方法を提供すること。
【解決手段】棒状または管状の揚げ菓子の製造方法において、小麦粉および/または澱粉を主成分とする揚げ菓子生地を、断面積が130mm2以上で且つ断面外周長(mm)/断面積(mm2)が0.5〜0.75となるように成形した後、油ちょうする。上記揚げ菓子生地の成形は、吐出口面積が130mm2以上で且つ吐出口外周長(mm)/吐出口面積(mm2)が0.5〜0.75であるノズルを用いて連続的に押出すことにより行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ菓子の製造方法に関し、詳しくは、油ちょう時に、生地が破裂することがなく、且つ、生地が沈んで変形することがないため、外観の良好な棒状または管状の揚げ菓子を得ることができる揚げ菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膨張剤等で膨張させたパン生地類をフライ油で揚げたパン類は、一般的にドーナツと呼ばれている。従来の製法で作られたドーナツは、オーブン等で焼成するパン類、菓子類、スナック類に比べて外観の改良が難しく、また、パン生地自体の風味の特徴付けが難しく、風味も単調なものとなっている。その理由は、オーブン等で焼成した通常のパン類、菓子類、スナック類は、天板に乗せたり型に入れたりしてから発酵させて、オーブン等で動かない状態で焼成されるのに比べて、ドーナツは高温で液状となったフライ油の中で生地を泳がせながら加熱するという独特な加熱方法でつくられるからで、この加熱時の状態の違いがパンの外観や風味の改良性の差を広げているのである。
【0003】
そこで、フライしたパン類の外観や風味を改良するために、例えば、「生地に、(1)異なる生地を重ね合わせること、(2)シート状食品を重ね合わせること、(3)ペースト状食品を塗布すること、のいずれか一つ以上の工程を経た後にフライすることを特徴とするフライしたパン類の製造方法」が提案されている(特許文献1参照)。該製造方法においては、フライする前に成形作業が行われるが、実際には、生地のフライ時に形状が変形してしまうという問題がある。
【0004】
一方で、フレンチクルーラー等のように粘り気の強い生地を用いた揚げ菓子も広く知られている。粘り気の強い生地を用いることにより、特徴ある食感を持つ揚げ菓子を得ることができる。また、例えば、特定の生地配合によって、独特の内相を有すると共に、容積が大きく且つ軽い食感を有する揚げ菓子を得ることも提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、これらの揚げ菓子では、生地の水分が多いため、場合によっては油ちょう時に生地が破裂し、良好な外観の揚げ菓子が得られないという問題があった。
【0005】
また、粘り気の強い生地を用いて揚げ菓子を製造する場合、一般的には、油ちょうする前の生地の成形作業が困難であり、生地を絞り袋から揚げ油に直接絞り出すことによって揚げ菓子が製造されている。例えば、棒状のチュロスの場合、生地を星形状の口金を備えた絞り袋から連続的に揚げ油に直接絞り出して揚げ、一旦長い棒状のチュロスを得た後、それを適宜切断して商品とされている。しかしながら、連続的に揚げ油に直接絞り出されたチュロス生地は、場合によっては油中に沈んで曲がって変形し、外観が良好でないために、商品価値が低下してしまうという問題があった。
【0006】
特許文献3には、成形作業の困難な粘り気の強い生地を用いる場合でも、揚げ菓子の形状を自在に変更することができる揚げ菓子の製造方法が提案されている。この製造方法は、第1成形工程と第2成形工程の2つの成形工程を含んでおり、また、最終的には結んだり曲げたりされた変化に富んだ形状の揚げ菓子を得ることを主たる目的としたものである。チュロスのような棒状または管状の揚げ菓子についても、外観の良好な形状の整ったものを簡便に得られれば、工業的に有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−250432号公報
【特許文献2】特開昭63−173539号公報
【特許文献3】特開2007−075040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の如き従来の問題と実状に鑑みて成されたものであり、油ちょう時に、生地が破裂することがなく、且つ、生地が沈んで変形することがないため、外観の良好な棒状または管状の揚げ菓子を得ることができる揚げ菓子の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、棒状または管状の揚げ菓子の製造方法において、小麦粉および/または澱粉を主成分とする揚げ菓子生地を、断面積が130mm2以上で且つ断面外周長(mm)/断面積(mm2)が0.5〜0.75となるように成形した後、油ちょうすることを特徴とする揚げ菓子の製造方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の揚げ菓子の製造方法によれば、油ちょう時に、生地が破裂することがなく、且つ、生地が沈んで変形することがないため、外観の良好な棒状または管状の揚げ菓子を得ることができる。しかも、本発明の揚げ菓子の製造方法によれば、断面形状に特徴のある揚げ菓子を得ることができる。また、本発明の揚げ菓子の製造方法により得られた揚げ菓子は、食した際の良好なボリューム感が維持されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の揚げ菓子の製造方法において用いることができる揚げ菓子生地の押出成形用ノズルの吐出口の形状の一例を示す図である。
【図2】本発明の揚げ菓子の製造方法において用いることができる揚げ菓子生地の押出成形用ノズルの吐出口の形状の別の一例を示す図である。
【図3】本発明の揚げ菓子の製造方法において用いることができる揚げ菓子生地の押出成形用ノズルの吐出口の形状のさらに別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の揚げ菓子の製造方法において用いる揚げ菓子生地としては、小麦粉および/または澱粉を主成分とする従来の揚げ菓子生地を用いることができ、揚げ菓子の種類に応じて選択される。
本発明の揚げ菓子の製造方法によれば、水分が多い揚げ菓子生地を用いる場合に生じやすい油ちょう時の生地の破裂を防止することができるので、本発明において用いる揚げ菓子生地としては、フレンチクルーラー生地のような水分の多い揚げ菓子生地、特に小麦粉および/または澱粉100質量部に対し水分100〜250質量部を含有してなる揚げ菓子生地を用いるのが、本発明の効果を最大限に発揮させる上で好ましい。尚、ここでいう水分には、水だけでなく、後述する牛乳等の副原料が含有する水分も含めるものとする(以下同様)。
【0013】
揚げ菓子生地に使用する小麦粉としては、強力小麦粉、中力小麦粉、薄力小麦粉、熱処理小麦粉等、任意の種類の小麦粉が挙げられるが、薄力小麦粉、熱処理小麦粉等のグルテンの質の弱い小麦粉が好ましい。ここで、熱処理小麦粉とは、強力系、準強力系、中力系、薄力系の小麦粉を、例えば、80〜140℃で、40〜60分間処理し、グルテンを変性させたものをいう。
【0014】
揚げ菓子生地に使用する澱粉としては、例えば、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、タピオカ澱粉、サツマイモ澱粉、米澱粉等の任意の種類の澱粉が挙げられる。これらの澱粉は、α化処理、アセチル化処理、リン酸架橋処理等の化学処理が施されていてもよい。
上記小麦粉および澱粉は、いずれか一方の単独使用であっても、あるいは両方の併用であってもよい。
【0015】
小麦粉、澱粉、水の他には、揚げ菓子生地を製造する際の生地の副原料として、油脂(例えばバター)、食塩、全卵、牛乳、膨張剤等を使用することができる。揚げ菓子生地中において、小麦粉および澱粉以外の副原料(但し、水分を除く)の含有量は、小麦粉および/または澱粉100質量部に対して30〜200質量部であることが好ましい。
【0016】
本発明の揚げ菓子の製造方法においては、上記揚げ菓子生地を、断面積が130mm2以上、好ましくは130〜175mm2で、且つ断面外周長(mm)/断面積(mm2)が0.5〜0.75、好ましくは0.5〜0.6の棒状または管状となるように成形することが重要である。このようにすれば、油ちょう時に、生地が破裂することがなく、且つ、生地が沈んで変形することがないため、外観の良好な揚げ菓子を得ることができる。また、断面積が130mm2未満である場合、棒状の揚げ菓子としてボリューム感にかける場合がある。断面外周長/断面積が0.5未満の場合、油ちょう時に生地が破裂しやすい。断面外周長/断面積が0.75を超える場合、後述するように断面形状を、例えば、各種動植物型、星型、キャラクター型等にしようとした際に、得られた揚げ菓子の断面形状が、イメージした形状と認識することが難しい場合がある。
【0017】
棒状または管状に成形された揚げ菓子生地は、その断面が上記断面積および上記断面外周長/断面積を満たせば、断面の形状に特に制限はない。しかしながら、揚げ菓子生地を、断面が略真円状になるように成形した場合には、上記断面積と上記断面外周長/断面積の両方を満たすことはできない。例えば、上記断面積範囲を満たす半径を有する略真円では、上記断面外周長/断面積範囲を満たすことができない。上記断面積と上記断面外周長/断面積とを両立させるためには、例えば、クマ型(図1参照)や星型(図3参照)のように、外周に凹凸部を有する断面形状となるように、揚げ菓子生地を成形すればよい。また、図1に示されるクマ型の断面外周を、ギザギザ形状に成形すること(図2参照)も可能である。上記断面積および上記断面外周長/断面積を満たす限り、成形された揚げ菓子生地の断面形状は、図1〜3に示される押出成形用ノズルの吐出口の形状に限定されるものではない。
【0018】
棒状または管状の揚げ菓子生地を成形するにあたり、外周に凹凸部を有する断面形状となるように成形することにより、成形された揚げ菓子生地は、その長手方向に沿って凹凸が設けられたものとなる。このような形状に成形することによって、油ちょう時の生地の破裂をより確実に防止することができる。
【0019】
また、揚げ菓子生地の成形時に、上記凹凸部の形状、大きさ、数等を適宜選択することにより、各種動植物型、星型、キャラクター型等の様々なモチーフ型の断面形状を有する揚げ菓子を得ることができる。
【0020】
揚げ菓子生地を、上記断面積および上記断面外周長/断面積を満たすように成形するには、例えば、揚げ菓子生地の成形を、吐出口面積130mm2以上で且つ吐出口外周長(mm)/吐出口面積(mm2)0.5〜0.75であるノズルを用いて揚げ菓子生地を連続的に押出すことにより行えばよい。図1〜3にノズルの具体例を示す。図中、1はノズル、2は吐出口外周、3は凹凸部、4は吐出口である。
【0021】
図1〜3は、ノズルの吐出口の形状を示す図である。図1は、揚げ菓子生地を、クマ型の断面形状に成形するノズルの吐出口の形状の一例を示す図である。図2は、揚げ菓子生地を、クマ型の断面形状に成形するノズルの別の一例であり、図3は、揚げ菓子生地を、星型の断面形状に成形するノズルの一例である。これらのノズルは、ノズル先端部に端面を有しており、該端面をそれぞれクマ型または星型に打ち抜くことによって吐出口が設けられている(即ち、図1〜3には、ノズル先端部の端面が現れている)。該吐出口は、吐出口面積130mm2以上で且つ吐出口外周長(mm)/吐出口面積(mm2)0.5〜0.75となるように設けられている。ノズルの吐出口の形状は、上記吐出口面積および上記吐出口外周長/吐出口面積を満たせば、図1〜3に示した形状に限定されるものではない。
【0022】
揚げ菓子生地の連続的な押出成形は、上記ノズルを用いる点以外は、従来の揚げ菓子の製造における生地の押出成形と同様にして行えばよい。一回の連続押出操作により押出成形される棒状または管状の揚げ菓子生地の長さについては、2〜70cmとすることが好ましい。
【0023】
次に、成形された上記揚げ菓子生地を油ちょうして揚げ菓子を得る。油ちょうは、従来の揚げ菓子生地の製造においてと同様にして行えばよい。例えばチュロスの場合は、上記ノズルを用い、生地を連続的に揚げ油に直接押出して揚げればよい。
【0024】
油ちょうする際に使用する油としては、一般に使われている食品をフライすることのできる油であれば、油の種類や成分等特に限定されるものではなく、例えば、あまに油、桐油、サフラワー油、かや油、胡桃油、芥子油、向日葵油、綿実油、菜種油、大豆油、辛子油、カポック油、米糠油、胡麻油、玉蜀黍油、落花生油、オリーブ油、椿油、茶油、ひまし油、椰子油、パーム油、パーム核油、カカオ脂、シア脂、ボルネオ脂等の植物油脂や、魚油、鯨油、牛脂、豚脂、乳脂、羊脂等の動物油脂から選ばれる1種又は2種以上を使用可能であり、これらの油脂を原料にエステル交換したものや、硬化油、分別油、混合油を用いることも可能である。
【0025】
これら油脂の中でも、菜種油、サフラワー油、綿実油等の液体油やパーム油、魚油、それらの硬化油、分別油が好ましい。
【0026】
油ちょうする際の油の温度及び時間としては、揚げ菓子生地の配合又は大きさ、油の種類等により適宜選択することができるが、生地の中心部まで加熱が行われる条件で行うことが好ましい。油の温度は、例えば、100〜200℃であり、130〜190℃が好ましい。また、油ちょうの時間は、例えば、30秒〜30分であり、1分〜20分が好ましい。
【0027】
油の温度が100℃よりも低い或いは油ちょうの時間が30秒よりも短いと、生地への加熱が不十分となるので中心部が生焼けになる可能性が高くなる。また、油の温度が200℃よりも高い或いは油ちょうの時間が30分よりも長いと、油の発煙、発火につながる危険が高くなり、更には、製品の表面が焦げ付いてしまう場合がある。これらの結果、商品価値の低下、生産能率の低下等の問題が起こりうる。
【0028】
油ちょうして得られた揚げ菓子は、必要に応じて、冷凍保存したり、切断して長さ調整をすることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0030】
〔実施例1および比較例1〕
常法に従ってチュロス生地を調製した。このチュロス生地は、小麦粉35質量部、澱粉35質量部に対し、副原料である油脂15質量部、卵10質量部および膨張剤5質量部、ならびに水150質量部を混合してなるものであった。上記チュロス生地を、図2に示す形状に準じたクマ型の吐出口を有するクマ型ノズルを用いて連続的に揚げ油に直接押出し、油ちょうしてチュロスを得た。得られたチュロスは、クマ型の断面形状を有していた。尚、一回の連続押出操作により押出成形されたチュロス生地の長さは40cmであった。油ちょうは、菜種油を用い、180℃にて3分の条件で行った。
使用したクマ型ノズルの詳細を表1に示す。表1に記載の顔寸法(円形部直径d1、凸部の斜辺a1、底辺b1、高さh1)および耳寸法(円形部直径d2、凸部の斜辺a2、底辺b2、高さh2)は、図2における各符号を付した部分の寸法である。
【0031】
得られたチュロスについて、外観、ボリューム感、視認性を以下の評価基準に従って評価した。評価結果を表1に示す。これらの評価はパネラー10名により行い、平均点を評価結果とした。
【0032】
<評価基準>
(1)外観
5:チュロスの側面の形状の外観が極めて良好であった。
4:チュロスの側面の形状の外観が良好であった。
3:チュロスの側面の形状の外観がふつうであった。
2:チュロスの側面の形状の外観があまり良くなかった。
1:チュロスの側面の形状の外観が良くなかった。
【0033】
(2)ボリューム感
5:チュロスのボリューム感が極めて良好であった。
4:チュロスのボリューム感が良好であった。
3:チュロスのボリューム感がふつうであった。
2:チュロスのボリューム感があまり良くなかった。
1:チュロスのボリューム感が良くなかった。
【0034】
(3)視認性
5:チュロスの断面形状が、極めて明確に認識できた。
4:チュロスの断面形状が、明確に認識できた。
3:チュロスの断面形状が、認識できた。
2:チュロスの断面形状が、あまり明確に認識できなかった。
1:チュロスの断面形状が、明確に認識できなかった。
【0035】
【表1】

【符号の説明】
【0036】
1 ノズル
2 吐出口外周
3 凹凸部
4 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状または管状の揚げ菓子の製造方法において、
小麦粉および/または澱粉を主成分とする揚げ菓子生地を、断面積が130mm2以上で且つ断面外周長(mm)/断面積(mm2)が0.5〜0.75となるように成形した後、油ちょうすることを特徴とする揚げ菓子の製造方法。
【請求項2】
上記揚げ菓子生地の成形を、吐出口面積が130mm2以上で且つ吐出口外周長(mm)/吐出口面積(mm2)が0.5〜0.75であるノズルを用いて上記揚げ菓子生地を連続的に押出すことにより行う請求項1記載の揚げ菓子の製造方法。
【請求項3】
上記揚げ菓子生地が、上記小麦粉および/または澱粉100質量部に対し水分100〜250質量部を含有してなる請求項1または2記載の揚げ菓子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−90562(P2012−90562A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240424(P2010−240424)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(398012306)日清フーズ株式会社 (139)
【Fターム(参考)】