説明

揚げ衣組成物

【課題】衣の付きが均一で、冷凍した揚げ物を電子レンジや自然解凍などの手段で解凍しても、衣のサクサク感が損なわれず、かつ解凍後も衣のふんわり感を維持できる揚げ衣組成物を提供することである。
【解決手段】結晶セルロースを50質量%を超え、99質量%以下、アルギン酸プロピレングリコールエステルを1質量%以上50質量%未満含有する結晶セルロース複合化物と、衣材を含むことを特徴とする揚げ衣組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物及びその冷凍食品に用いられる揚げ衣組成物に関する発明である。特に、衣の付きが均一であり、冷凍した揚げ物を解凍した後も、衣のサクサク感が損なわれず、かつ衣のふんわり感を維持できる揚げ衣組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
から揚げ、天ぷら、フライ等の揚げ物食品は、通常、野菜、魚介、肉等の具材の周囲に、小麦粉等の穀粉や澱粉を主原料とする衣材料をそのまま付着させるか、又は衣材料に水を加えて得られるスラリー状のバッター液を具材に付着させた後、これを高温に熱した油で揚げる(油ちょうする)ことにより調理される。
この揚げ物食品の食感は、揚げたてのときには良好であるが、油ちょう後、時間が経過するに伴って、具材の水分が衣に移行するなどの理由から、サクサク感がなくなる傾向がある。特に、油ちょう済みの揚げ物を冷蔵又は冷凍保存した後、電子レンジ等で再加熱して食する場合には、上記食感の劣化が顕著に起こる。このような揚げ物の問題点を改善するために、衣材の改良に関する各種の提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、熱硬化性タンパク質と水と食用油脂とからなるバッター液等を使用した電子レンジ調理用揚げ物食品が開示されている。また、該バッター液にセルロースを配合したノンフライ揚げ物食品も開示されている。
特許文献2には、特定の食用油脂、大豆蛋白質、有機酸モノグリセリド及び/又はショ糖脂肪酸エステル、穀粉及び/又は澱粉を含むミックス粉に水を加えてバッター液を調整し、このバッター液を具材に付着させ、次いで水不溶性多糖類として結晶セルロースと、水溶性多糖類としてアルギン酸プロピレングリコールエステルを含むブレダー用ミックス粉を付着させた後、油ちょうし、冷凍する冷凍揚げ物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−102402号公報
【特許文献2】特開2003−135014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の食品は、電子レンジ等を用いて一度だけの加熱により食することを目的として、短時間で均一に加熱調理することができる食品の発明である。しかし、油ちょうした後、一旦冷凍すると食感を損なうという問題があった。
特許文献2の方法を用いると、冷凍した揚げ物を電子レンジや自然解凍などの手段で解凍しても、衣のサクサク感が損なわれない冷凍揚げ物が得られる。しかし、この方法では、タンパク質と澱粉質が冷凍揚げ物の必須成分であるため、油ちょうの際に、着色しやすく、焦げやすいという問題があった。また、衣の組成によっては、衣付きの均一性と、油ちょう後のふんわり感が充分ではなかった。
本発明の課題は、衣の付きが均一で、冷凍した揚げ物を電子レンジや自然解凍などの手段で解凍しても、衣のサクサク感が損なわれず、かつ解凍後も衣のふんわり感を維持できる揚げ衣組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を重ねた結果、結晶セルロース複合化物を含んだ揚げ衣組成物を用いることで、衣の付きが均一で、冷凍した揚げ物を電子レンジや自然解凍などの手段で解凍しても、衣のサクサク感が損なわれず、かつ解凍後も衣のふんわり感を維持できることを見出して本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、以下のものである。
(1)結晶セルロースを50質量%を超え、99質量%以下、アルギン酸プロピレングリコールエステルを1質量%以上50質量%未満含有する結晶セルロース複合化物と、衣材を含むことを特徴とする揚げ衣組成物。
(2)結晶セルロース複合化物が、さらにカルボキシメチルセルロース・ナトリウムを含むことを特徴とする上記(1)に記載の揚げ衣組成物。
(3)結晶セルロース複合化物が、さらに乳化剤を含むことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の揚げ衣組成物。
(4)衣材が、米粉を1質量%以上50質量%以下含有する澱粉を含むことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の揚げ衣組成物。
(5)糖アルコールを1質量%以上50質量%以下含むことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の揚げ衣組成物。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の揚げ衣組成物を使用した揚げ物。
【発明の効果】
【0007】
結晶セルロース複合化物を揚げ衣組成物に配合することで、油ちょう後に冷凍した揚げ物を電子レンジや自然解凍などの手段で解凍しても、衣のサクサク感が損なわれず、さらに衣の付きが均一で、かつ解凍後も衣のふんわり感を維持できる揚げ衣組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明は、結晶セルロース複合化物と衣材を含む揚げ衣組成物に関する発明である。
本発明において、結晶セルロース複合化物とは、少なくとも結晶セルロースとアルギン酸プロピレングリコールエステルが、一定の割合で化学結合をして複合化しているものである。
本発明において、「結晶セルロース」とは、木材パルプ、精製リンター、再生セルロース、穀物又は果実由来の食物繊維、バクテリアセルロース等のセルロース系素材を、酸加水分解、アルカリ酸化分解、酵素分解、スチームエクスプロージョン分解、亜臨界水又は超臨界水による加水分解等により、或いはそれらの組み合わせにより、解重合処理して平均重合度30〜375としたものを洗浄、濾過して得られたセルロースのことである。
【0009】
本発明において、「アルギン酸プロピレングリコールエステル」とは、アルギン酸中のカルボキシル基にプロピレンオキシドがエステル化されたものである。そのエステル化度、粘度には特に制限はないが、エステル化度は50%以上、粘度(固形分1%の水溶液として)は300mPa・s以下であることが好ましい。より好ましくは、エステル化度は70%以上、粘度は100mPa・s以下であり、さらに好ましくは、エステル化度は75%以上、粘度は70mPa・s以下である。
【0010】
本発明において、結晶セルロース複合化物は、50質量%を超え、99質量%以下の結晶セルロースを含み、1質量%以上50質量%未満のアルギン酸プロピレングリコールエステルを含む。結晶セルロースの質量比が50質量%を超えていれば、複合化物中の結晶セルロース粒子が十分となり、油ちょう後の揚げ衣の硬度が向上し、サクサク感が向上する。より好ましい範囲としては60質量%以上であり、さらに好ましい範囲としては70質量%以上であり、特に好ましい範囲としては75質量%以上である。上限は、特に制限されるものではないが、現実的には99質量%以下である。アルギン酸プロピレングリコールエステルは、1質量%以上を配合することが好ましく、より好ましくは5質量%以上であり、特に好ましくは10質量%以上である。上限は、結晶セルロースとの兼ね合いで決まるので、50質量%未満である。
【0011】
結晶セルロースとアルギン酸プロピレングリコールエステルの複合化物を用いることで、油ちょう後の揚げ衣の硬さが向上し、ふんわり感で表される衣のかるい食感が得られ、さらに解凍後のサクサク感も維持できる。加えて、具材への衣付きの均一性が向上する。ここで、衣付きの均一性とは、衣が具材へ均一に付くこと、及びそれを油ちょうしても衣が具材に均一に付いていることである。例えば、バッター液として用いた場合、バッター液が具材に均一に付くこと、及びバッター液の具材への密着性が高く、油ちょうしても衣が剥離せずに具材に均一に付いていることなどを表している。粉体として用いた場合も同様である。
【0012】
本発明において、結晶セルロース複合化物は、さらにカルボキシメチルセルロース・ナトリウムを含むことが好ましい。本発明において、「カルボキシメチルセルロース・ナトリウム」とは、セルロースの水酸基がモノクロロ酢酸で一部置換されたものである。そのエーテル化度、粘度には特に制限はないが、具材への衣付着の均一性の点から、カルボキシメチルの置換度(エーテル化度)が0.50〜1.50であることが好ましい。より好ましくは0.50〜1.00である。さらに好ましくは0.70〜0.90である。粘度(固形分2%の水溶液として)としては、300mPa・s以下が好ましく、より好ましくは100mPa・s以下であり、さらに好ましくは50mPa・s以下であり、特に好ましくは10mPa・s以下である。
アルギン酸プロピレングリコールエステルとカルボキシメチルセルロース・ナトリウムの総量に占めるカルボキシメチルセルロース・ナトリウムは、5質量%以上95質量%以下であることが好ましい。この質量比とすることにより、前記の食感と衣付着の均一性が向上する。さらに好ましくは20質量%以上80質量%以下、特に好ましくは30質量%以上70質量%以下である。
【0013】
本発明において、結晶セルロース複合化物は、さらに乳化剤を含むことが好ましい。本発明において、「乳化剤」とは、親水基と疎水基を併せ持つ両親媒性化合物のことである。その化学構造は特に制限されるものではない。
乳化剤の具体例としては、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖イソ酪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル類、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン酢酸エステル等のグリセリン脂肪酸エステル類、ステアロイル乳酸カルシウム、オキシエチレン高級脂肪族アルコール、オレイン酸ナトリウム、モルホリン脂肪酸塩、ポリオキシエチレン高級脂肪族アルコール等を用いることができる。これらは、単独で使用しても、二種以上を併用することも可能である。
【0014】
特に、上述の乳化剤の中でも、ショ糖脂肪酸エステルを用いることが好ましい。本発明において、「ショ糖脂肪酸エステル」とは、ショ糖の水酸基と脂肪酸が脱水縮合しエステル化した化合物のことである。親水性と疎水性のバランスを示すHLB(Hydrophile−Lipophile Balance)が10以下のショ糖脂肪酸エステルを用いると、結晶セルロースと乳化剤が複合化しやすく、本発明の効果が高くなるため好ましい。より好ましくはHLBが5以下であり、さらに好ましくは4以下であり、特に好ましくは3以下である。
加えて、結晶セルロース複合化物が上述の乳化剤を含むことで、油ちょう時に気泡サイズが均一になり、揚げ上がりのサクサク感がさらに向上する。結晶セルロース複合化物中に乳化剤を0.1質量%以上配合することが好ましい。より好ましくは1質量%以上であり、さらに好ましくは2質量%以上であり、特に好ましくは3質量%以上である。乳化剤の添加量が多すぎると、衣の味が損なわれるため、上限は10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下である。
【0015】
また、結晶セルロース複合化物は、発明の効果を失わない程度に親水性物質を加えてよい。親水性物質とは、冷水への溶解性が高く、粘性を殆どもたらさず、常温で固体の物質である。具体的には、デキストリン類、水溶性糖類(ブドウ糖、果糖、蔗糖、乳糖、異性化糖、キシロース、トレハロース、カップリングシュガー、パラチノース、ソルボース、還元澱粉糖化飴、マルトース、ラクツロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等)、糖アルコール類(キシリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール等)等が挙げられる。親水性物質としては、これらより選ばれる1種又は2種以上の物質を用いてもよい。最も好ましい親水性物質はデキストリンである。
さらに、結晶セルロース複合化物は、本発明の目的を損なわない範囲で、各種目的に応じて任意の添加剤を含むことができる。添加剤の具体例としては、甘味剤、単糖類、多糖類、オリゴ糖類、糖アルコール類、デンプン類、可溶性デンプン、デンプン加水分解物、油脂類、蛋白質類、食塩、各種リン酸塩類等の塩類、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、酸味料、保存料、殺菌料、参加防止剤、防かび剤、日持ち向上剤、香料、色素等を挙げることができる。
【0016】
結晶セルロース複合化物は、固形分1.0質量%の水分散スラリーにおける貯蔵弾性率が0.05Pa以上であることが好ましい。この貯蔵弾性率が高いほど、揚げ衣組成物の具材への定着性が向上するため好ましい。より好ましくは0.1Pa以上であり、さらに好ましくは0.5Pa以上であり、特に好ましくは1.0Pa以上である。貯蔵弾性率が高い程、結晶セルロースとアルギン酸プロピレングリコールエステルの複合化が進んでいるため、本発明の効果が大きくなる。そのため、貯蔵弾性率の上限は特に限定されないが、現実的な範囲としては5.0Pa以下である。
【0017】
上述の貯蔵弾性率は、以下の方法で測定されるものである。
<貯蔵弾性率の測定方法>
(1)固形分1.0質量%の水分散液となるように結晶セルロース複合化物と純水を量り取り、エースホモジナイザー((株)日本精機製作所、ED−7型)にて、15000rpmで5分間分散する。
(2)25℃の雰囲気中に3日間静置する。
(3)動的粘弾性測定装置に、サンプル液を入れてから5分間静置後、下記の条件で測定し、貯蔵弾性率(G’)を求める。
装置:ARES(100FRTN1型)
(Rheometric Scientific,Inc.製)
ジオメトリー:Double Wall Couette
温度:25℃
歪み:5%(固定)周波数:0.1→100rad/s
貯蔵弾性率は、上記の方法において、周波数0.1→100rad/sで掃引された周波数−貯蔵弾性率の曲線において、周波数20rad/sにおいて示される値のことである。
【0018】
結晶セルロース複合化物の水分散時における結晶セルロース複合化物の平均粒径の範囲は1〜20μmが好ましい。より好ましくは3〜15μmであり、さらに好ましくは3〜10μmである。平均粒径を1μm以下にすることは実用的に困難であり、また平均粒径が20μm以下であれば衣の食感としてざらつきが少ない。ここでいう平均粒径とは、結晶セルロース複合化物を、1重量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製 商品名 エクセルオートホモジナイザーED−7処理条件 回転数15,000rpm 5分間)で分散させ、レーザー回折法(堀場製作所(株)製、商品名 LA−910、超音波処理1分、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%の粒径のことである。
【0019】
次に、結晶セルロース複合化物の製造方法を説明する。
結晶セルロース複合化物の製造方法としては、例えば結晶セルロースとアルギン酸プロピレングリコールエステルからなる混合物を混練機等を用いて混練する方法等が挙げられる。この際に、必要に応じてカルボキシメチルセルロース・ナトリウム、乳化剤、親水性物質、添加剤を添加しておくことも可能である。また、親水性物質と添加剤の添加に関しては、混練前に予め親水性物質と添加剤を混ぜ合わせてから添加してもよいし、添加剤を添加して混練後、親水性物質をさらに加えて混ぜ合わせてもよい。
【0020】
混練機は、ニーダー、エクストルーダー、プラネタリーミキサー、ライカイ機等を用いることができ、連続式でもバッチ式でもよく、二種以上を組み合わせてもよい。混練時の温度は成り行きでもよいが、混練の際の摩擦等により発熱する場合には、除熱しながら混練してもよい。
混練工程において加水する機会としては、混練工程の前に必要量を加水してもよいし、混練工程の途中で加水してもよいし、両方実施しても良い。ただし、混練物の粘性が高い半固形状態で混練することが好ましく、混練時の固形分は10質量%以上とすることが好ましい。この範囲で混練を制御することで、混練物がシャバシャバな状態にならず、下記に述べる混練エネルギーが混練物に伝わりやすくなり、複合化が促進されるため好ましい。混練時の固形分は、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上であり、特に好ましくは40質量%以上である。上限は特に限定されないが、混練物が水分量の少ないパサパサな状態にならず、充分な混練効果と均一な混練状態が得られることを考慮して、現実的範囲は90質量%以下が好ましい。より好ましくは60質量%以下であり、さらに好ましくは55質量%以下である。
【0021】
ここで、上記した混練エネルギーについて説明する。混練エネルギーとは混練物の単位質量当たりの電力量(Wh/kg)で定義するものである。混練エネルギーは、50Wh/kg以上とすることが好ましい。より好ましくは80Wh/kg以上であり、さらに好ましくは100Wh/kg以上である。混練エネルギーが50Wh/kg以上であれば、混練物に与える磨砕性が高く、結晶セルロースとアルギン酸プロピレングリコールエステルの複合化が進み、本発明の効果が発揮されるため好ましい。
複合化の程度は、結晶セルロースとその他の成分の水素結合の割合と考えられる。複合化が進むと、水素結合の割合が高くなり本発明の効果が向上する。混練エネルギーが高い程、磨砕性が高まると考えられるが、混練エネルギーをあまり高くすると工業的に過大な設備になるのでコストの点から好ましくない。この観点から、混練エネルギーの上限は500Wh/kgである。
【0022】
結晶セルロース複合化物を得るにあたって、前述の混練工程より得られた混練物を乾燥する場合は、棚段式乾燥、噴霧乾燥、ベルト乾燥、流動床乾燥、凍結乾燥、マイクロウェーブ乾燥等の公知の乾燥方法を用いることができる。混練物を乾燥工程に供する場合には、混練物に水を添加せず、混練工程の固形分濃度を維持して、乾燥工程に供することが好ましい。乾燥後の結晶セルロース複合化物の含水率は1〜20質量%が好ましい。
結晶セルロース複合化物を市場に流通させる場合は、粉体の方が取り扱いやすいので、乾燥により得られた結晶セルロース複合化物を粉砕処理して粉体状にすることが好ましい。乾燥した結晶セルロース複合化物を粉砕する場合、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等の公知の方法を用いることができる。粉砕する程度は、粉砕処理したものが目開き1mmの篩いを全通する程度に粉砕する。より好ましくは、目開き425μmの篩いを全通し、かつ、平均粒度としては10〜250μmとなるように粉砕する。
【0023】
次に、衣材について説明する。
衣材としては、例えば小麦粉、米粉、蕎麦粉、大麦粉、ライ麦粉、コーンフラワー、コーングリッツ、粟の粉、パン粉又は澱粉等が挙げられ、これら衣材は単独で又は混合して用いることができる。また、衣材は市販のから揚げ粉や天ぷら粉などの組成物であってもよい。
小麦粉は強力粉、準強力粉、中力粉又は薄力粉等を用いることができるが、グルテン含量の低い薄力粉が好適である。また、小麦粉を適時焙焼したものであってもよい。
【0024】
澱粉としては、特に限定されないが、例えばコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉又はサゴヤシ澱粉等が挙げられ、これらの澱粉は単独で又は混合して用いることができる。またこれらを原料とする焙焼デキストリン、高度分岐環状デキストリン、酵素変性澱粉、酸分解澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、架橋澱粉、アルファー化澱粉又は湿熱処理澱粉等の加工澱粉等も用いることができる。
衣材として澱粉を含む場合は、澱粉中に米粉を含有することが好ましい。澱粉を含む衣材の場合、米粉を含有することで、油ちょう後の衣中の油分が少なくなるため、食感が軽くなり、サクサク感が増す。ここでいう米粉とは、もち米および/またはうるち米を原料とし、石臼杵つき、ロール製粉方法、気流式粉砕製法(ジェットミル)、水びき、高速粉砕機(ピンミル)等で粉末化されたものである。米粉の配合量としては、澱粉の総量に対して1質量%以上含有することが好ましい。より好ましくは2質量%以上であり、さらに好ましくは3質量%以上である。米粉が多いほど、上述の効果が大きくなるため、上限は特に設定されるものではないが、衣材の具材への結着性、衣のまとまりを勘案すると、澱粉の総量に対して50質量%以下が好ましい。
【0025】
衣材には、所望により調味料や増粘剤、乳化剤又は油脂等の食品添加物を配合することが出来る。以下で食品添加物の具体例を挙げる。
調味料としては、食塩、塩化カリウム、リン酸三カリウム等の無機塩、L−アスパラギン酸ナトリウム、DL−アラニン、グルタミン酸ソーダ、5’−イノシン酸二ナトリウム、5’−ウリジル酸二ナトリウム等の旨み調味料、クエン酸カルシウム、クエン酸三ナトリウム等の有機酸、五香粉、八角、茴香、陳皮、山椒、胡椒、唐辛子、ガーリック、生姜、タマネギ、ネギ等の各種スパイス等、醤油、魚醤、酢、ソース等が挙げられる。
増粘剤としては、ゼラチン、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グルコマンナン、寒天、グアーガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、タマリンドシードガム、タラガム、アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、プルラン、カルボキシメチルセルロース、微小繊維状セルロース又はファーセレラン等が挙げられる。
【0026】
乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリド、有機酸 モノグリ、ポリグリセリド)、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレン グリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン(大豆 レシチン、卵黄レシチン)、ステアロイル乳酸カルシウム、植物性 ステロール等が挙げられる。上述の中でも、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチンを用いると、揚げ上がりの食感(サクサク感)が優れるため、好ましい。
油脂としては、食用に適するものであれば特に制限はなく、米糠油、米胚芽油、パーム油、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、ひまわり油、ヤシ油又はシソ油等の植物性油脂、牛脂、豚脂、魚油又は乳脂等の動物性油脂等が列挙できる。また、上記油脂単独、又は混合油脂、あるいはそれらの部分水素添加、水添分別、分別、エステル交換等の加工を施した油脂等も利用することができるし、これらを粉末化した油脂であっても構わない。油脂は衣材全体の約1〜25重量%、好ましくは約2〜20重量%が適当である。油脂を添加することで、衣の食感が軽くなりクリスピーになる効果があるが、添加量が多いと衣が油っぽくなり好ましくない。
【0027】
次に揚げ衣組成物について説明する。
揚げ衣組成物に配合させる結晶セルロース複合化物の配合量としては、水分を含まない揚げ衣組成物の乾燥重量に対して、0.01質量%以上含むことが好ましい。より好ましくは0.05質量%以上であり、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、特に好ましくは0.5質量%以上であり、最も好ましくは1.0質量%以上である。結晶セルロース複合化物の配合量は多いほど、本発明の効果が向上するため、上限は特に設定されるものではないが、99.9質量%以下である。
【0028】
揚げ衣組成物は糖アルコールを含有することが好ましい。糖アルコールを添加することで、油ちょう後の衣中の油分が少なくなり、揚げ衣の全体の硬さはそのままで、表面硬さが向上する効果がある。その効果により、サクサクした食感が向上する。ここでいう糖アルコールとは、糖類の化学構造中のカルボニル基を還元して得られる鎖状多価アルコールのことである。具体的には、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、還元パラチノース、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、還元水あめ等を用いることができるが、添加量当たりの効果が高いソルビトールが好ましい。糖アルコールの配合量としては、揚げ衣組成物に対して1質量%以上が好ましく、より好ましくは2質量%以上であり、さらに好ましくは3質量%以上である。糖アルコールが多いほど、上述の効果が大きくなるため、上限は特に設定されるものではないが、衣材の具材への結着性、衣のまとまりを勘案すると、50質量%以下が好ましい。
【0029】
また、揚げ衣組成物は、所望により、調味料、甘味料、増粘剤、膨脹剤、乳化剤、肉質改良剤、膨脹剤、酵素、香料又はビタミン類等から選ばれる1種以上の成分を含有することができる。これらの成分の添加量は、本発明の効果を阻害しない程度が好ましく、当業者によって適宜決定され得る。調味料や増粘剤、乳化剤等は、衣材に配合できる成分において記載したものと同様のものが挙げられる。その他について以下で具体例を挙げる。
甘味料としては、デキストリン、オリゴ糖、砂糖、キシロース、グルコース、糖アルコール、還元水あめ、サッカリンナトリウム、キシリトール、アスパルテーム、スクラロース、ソルビトール又はステビア等の甘味料等が挙げられる。
膨脹剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、DL−酒石酸水素カリウム、L−酒石酸水素カリウム、アジピン酸、L−アスコルビン酸、塩化アンモニウム又はベーキングパウダー等が挙げられる。
肉質改良剤としては、タンパク質同化ホルモン等が挙げられる。
酵素としては、アガラーゼ、アクチニジン又はアクロモペプチダーゼ等が挙げられる。香料としては、アセト酢酸エチル、アセトフェノン又は天然香料等が挙げられる。
ビタミン類としては、L−アスコルビン酸、ビタミンE又はβ−カロテン(β−カロチン又はカロチノイド色素)等が挙げられる。
【0030】
揚げ衣組成物の状態は、粉体状であっても、バッター液状であってもよい。つまり、揚げ衣組成物は粉体のまま用いることも出来るが、水を加えてスラリー状のバッター液として利用することも出来る。揚げ衣組成物をバッター液として利用する場合、適当な粘度になるように加水して調整する。バッター液の粘度は具材の種類や、具材に付着させたいバッター液量等によって適宜調整することが出来る。例えば、天ぷらに用いる場合は、100〜10000mPa・sの範囲が好ましく、から揚げに用いる場合、5000〜100000mPa・sの範囲が好ましい。
具材は、肉類、魚介類、野菜又はそれらを含む加工食品から選択される。肉類には、鶏肉、豚肉、牛肉又は羊肉等が挙げられる。魚介類には、カレイ、キス、イワシ、マグロ、アジ、タイ、エビ、イカ又はタコ等が挙げられる。野菜は、揚げ物用具材として用いられるものであれば何でもよく、カボチャ、サツマイモ、ジャガイモ、タマネギ、ナス、シイタケ、マツタケ、エノキタケ、ピーマン、ネギ、ニンジン又はゴボウ等が挙げられる。加工食品は、ハム、ソーセージ、チーズ、ちくわ、コンニャク又は豆腐が挙げられる。具材としては、これらに限定されない。
【0031】
次に、揚げ物の製造方法を説明する。
揚げ物は、具材に揚げ衣組成物を付する工程、それを油ちょうする工程を経て出来上がる。
揚げ衣組成物を具材に付する工程は特に限定されないが、揚げ衣組成物をそのまま具材全体にまぶしても良く、また揚げ衣組成物で調製したバッター液に具材を浸漬しても良い。また、添加剤の配合は、具材全体に添加剤をまぶした後、揚げ衣組成物を付しても良く、液状の添加剤に具材を浸漬した後、揚げ衣組成物を付しても良い。なお、揚げ物をフライとする時には、揚げ衣組成物を液状としたバッター液に浸漬した後にパン粉をまぶすか、揚げ衣組成物を具材にまぶして、バッター液又は卵液に具材を浸漬した後にパン粉をまぶすか等によって、調理される。
【0032】
油ちょうの工程は、食品製造の分野において通常使用され得る方法が用いられる。油ちょうに使用される油は特に限定されず、通常揚げ物に使用される油であればよい。油ちょうは、165〜185℃の油中に、2〜8分浸漬して行うことが好ましい。
こうして得られた揚げ物は、常温放置のまま長時間経過しないうちに、好ましくは−25℃以下の急速冷凍機にて冷凍し、好ましくは−15〜−25℃で冷凍保存する。
この揚げ物の冷凍食品は、食べる前に再油ちょうしたり、電子レンジやオーブンで加熱解凍したり、あるいは自然解凍して食べることができる。
【実施例】
【0033】
<衣の硬さの測定条件>
揚げ衣の揚げた直後と解凍後の硬さは下記の条件で測定した。
装置:レオメーター(不動工業(株):NRM−2002J型)
アダプター:針(3φ)、円錐(応力緩和測定用)
メインスイッチ:A
メーター感度切替スイッチ:2k
試料台速度:2cm/min
【0034】
<衣の評価基準>
サクサク感の指標として、衣の表面の硬さを測定した。衣の表面の硬さは、アダプターに針を用いて測定を行う。また、衣全体の硬さは、アダプターに円錐を用いて測定を行う。それぞれ硬さの実測値から、下記の判定基準とした。
また、アダプターに円錐を用いた衣全体の硬さの測定において、解凍前後における硬さの低下率も下記の式より算出した。
(1)アダプターに針を用いた衣の表面の硬さの判定基準
◎ (優):>150gf
○ (良):100〜150gf
×(不可):<100gf
(2)アダプターに円錐を用いた衣全体の硬さの判定基準
◎ (優):>1000gf
○ (良):500〜1000gf
×(不可):<500gf
(3)解凍前後における硬さの低下率
(揚げ直後の硬さ−解凍後の硬さ)/揚げ直後の硬さ×100(%)
【0035】
<油分の測定方法>
1)揚げ衣を、約20g(揚げ衣の仕込み重量とする)を測り取る。
2)通気オーブン中105℃で、1時間乾燥させ、水分を取り除く。
再度、揚げ衣の重量を測定し、減量分を水分とした。
3)乾燥後の揚げ衣を、デシケータ(乾燥剤としてシリカゲルを共存)中で室温まで降温した。
4)乾燥後降温された揚げ衣を500mLガラス製ビーカーに入れ、ジエチルエーテル(和光純薬製 試薬特級)を200mL加え、乳棒ですりつぶしながら、油分を抽出した。
5)抽出された油分を含む上澄みを、PTFE製フィルター(目開き0.46μm)でろ過し、ろ液を得る。
6)ろ液をガラス製ナス型フラスコに導入し、エバポレーター(100torr、60℃)を用いて、ジエチルエーテルを約1時間減圧留去した。
7)残液の重量を測定し、以下の式から、油分(重量%)を算出した。
油分(重量%)=残液の重量(g)/揚げ衣の仕込み重量(g)x100
【0036】
[実施例1]
市販DPパルプを裁断後、2.5mol/L塩酸中で105℃、15分間加水分解した後、水洗・濾過を行い固形分が50質量%のウェットケーキ状の結晶セルロースを作製した。
プラネタリーミキサー((株)品川工業所製、5DM−03−R、撹拌羽根はフック型)にウェットケーキ状の結晶セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル((株)大阪アルギン、NLS−K)を、結晶セルロース/アルギン酸プロピレングリコールエステルとの質量比が70/30となるように投入し、固形分45質量%となるように加水した。その後、126rpmで混練し結晶セルロース複合化物Aを得た。混練エネルギーは95Wh/kgであり、混練後の混練物の温度を熱電対で計測したら48℃であった。結晶セルロース複合化物AのG’(貯蔵弾性率)は0.09Paであった。
【0037】
これを用いて表1の実施例1の組成で各成分を秤量し、粉混合した。その後、水道水(10℃)150gを加えた後、ホイッパーにて70回/30秒の速度で撹拌し、そのまま室温で10分間静置しバッター液を作製した。約170℃に調整したサラダ油中に2mlポリスポイトでバッター液を吸引し、60滴/30秒のスピードで滴下した。滴下後、30秒間揚げた後、穴あきお玉ですくい上げ、揚げ衣を作製した。これを天ぷら敷紙上に10分間放置した後、レオメーターで揚げ直後の硬さを測定した。また、揚げ玉をフリーザーバッグ(旭化成ケミカルズ製 ジップロック)に入れて冷凍庫(−20℃)に4日間冷凍保存した後、室温に取り出し30分間静置した後、レオメーターで解凍後の硬さを測定した。結果を表3に示す。表中の値(衣の硬さ)は、10回測定した値の平均値である。
【0038】
[実施例2]
プラネタリーミキサーに実施例1のウェットケーキ状結晶セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムを、結晶セルロース/アルギン酸プロピレングリコールエステル/カルボキシメチルセルロース・ナトリウムの質量比が90/10/10となるように投入し、固形分50質量%となるように加水した。126rpmで混練し結晶セルロース複合化物Bを得た。混練エネルギーは100Wh/kgであり、混練後の温度は52℃であった。結晶セルロース複合化物BのG’は0.80Paであった。
これを用いて表1の実施例2の組成で各成分を秤量し、実施例1と同様の方法で、揚げ衣を作製し、硬さを測定した。結果を表3に示す。
【0039】
[実施例3]
プラネタリーミキサーに実施例1のウェットケーキ状結晶セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ(株)、S−370)を、結晶セルロース/アルギン酸プロピレングリコールエステル/カルボキシメチルセルロース・ナトリウム/乳化剤の質量比が70/13/13/4となるように投入し、固形分40質量%となるように加水した。126rpmで混練し結晶セルロース複合化物Cを得た。混練エネルギーは、500Wh/kgであり、混練後の温度は47℃であった。結晶セルロース複合化物CのG’は1.80Paであった。これを用いて表1の実施例3の組成で各成分を秤量し、実施例1と同様の方法で、揚げ衣を作製した、硬さを測定した。結果を表3に示す。
【0040】
[実施例4]
実施例2で作製した結晶セルロース複合化物Bを0.97質量%、ショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ(株)、S−370)を0.03質量%用意し、粉混合し、結晶セルロース複合化物Bと乳化剤の粉混合物Dを得た。これを用いて表1の実施例4の組成で各成分を秤量し、実施例1と同様の方法で、揚げ衣を作製した、硬さを測定した。結果を表3に示す。
【0041】
[比較例1〜3]
揚げ衣の原料を、それぞれ表2の比較例1〜3の如く秤量し、実施例1と同様の方法で、揚げ衣を作製し、硬さを測定した。結果を表3に示す。
比較例2のセオラスFD−301(商品名_旭化成ケミカルズ株製)は、結晶セルロース単独の化学組成を有するものであり、比較例2は結晶セルロースとアルギン酸プロピレングリコールエステルの混合物を用いた例である。
比較例3のセオラスRC−591(商品名_旭化成ケミカルズ株製)は、結晶セルロースとカルボキシメチルセルロース・ナトリウムが、89/11(質量比)で複合化したものである。
いずれも、結晶セルロースとアルギン酸プロピレングリコールエステルとの複合化物ではないが、貯蔵弾性率を実施例と同様に測定すると、セオラスFD−301とアルギン酸プロピレングリコールエステルの混合物のG‘は0.01Pa未満であった。セオラスRC−591のG’は0.2Paであった。
【0042】
[比較例4]
表2の比較例4の如くセオラスRC−591を0.97質量%、アルギン酸プロピレングリコールエステルを0.03質量%秤量し、粉混合した。これは、結晶セルロースとアルギン酸プロピレングリコールエステルの複合化物ではなく、混合物である。そして、実施例1と同様の方法で、揚げ衣を作製し、硬さを測定した。結果を表3に示す。
ここで、セオラスRC−591とアルギン酸プロピレングリコールエステルの混合物について、実施例と同様に貯蔵弾性率を測定した結果、0.2Paであった。この値は、比較例3に示すセオラスRC−591単独と同じ値であるため、通常の粉混合操作では、結晶セルロースとアルギン酸プロピレングリコールエステルの複合化は進んでいないことがわかる。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
[実施例5]
実施例1の揚げ衣の組成において、薄力粉87.9質量%の内、1.5質量%を米粉(イオン(株)製、上新粉)に置き換えて、実施例1と同様の操作で揚げ衣を作製し、実施例1と同様に評価した。その結果、揚げ直後の表面硬さ(針硬度)が実施例1に比べて120%向上し、全体硬さ(円錐硬度)も130%向上した。揚げ衣中の油分を測定した結果、実施例5は実施例1に対し、20%低下し、食感も軽かった。また、解凍前後の硬度の低下率は5%未満であり、食感は解凍前後でほとんど変わらなかった。
【0047】
[実施例6]
実施例1の揚げ衣の組成において、薄力粉87.9質量%の内、1.5質量%を糖アルコール(和光純薬製 ソルビトール特級)に置き換えて、実施例1と同様の操作で、揚げ衣を作製し、実施例1と同様に評価した。その結果、揚げ直後の表面硬さ(針硬度)が135gfで維持されたまま、全体硬さ(円錐硬度)が680gfまで低下した。表面硬さを維持したまま、全体硬さが低下したことにより、サクサク感が増し、食感が軽くなった。また、衣中の油分は、実施例1に対し、20%低下していた。また、解凍前後の硬度の低下率は5%未満であり、食感は解凍前後でほとんど変わらなかった。
【0048】
[実施例7]
市販の冷凍ゆでエビを具材として、実施例3の揚げ衣組成物を用いてバッター液を調整し、そこに3分間具材を浸漬した。その後、引き上げて1分放置し、余分なバッター液を落とし、実施例1同様の操作で、エビ天ぷらを調製した。
【0049】
[比較例5]
比較例1の揚げ衣組成物を用いること以外は、実施例7と同様の操作で、エビ天ぷらを調製した。
【0050】
[実施例8]
実施例1の揚げ衣組成物を用いること以外は、実施例7と同様の操作で、エビ天ぷらを調製した。
実施例7と、比較例5により得られた揚げ直後のエビ天ぷらの外観を比較した。結晶セルロース複合化物を用いた天ぷら(実施例7)は、結晶セルロース複合化物を添加していない天ぷら(比較例5)に比べて、衣つきが均一であった。
また、実施例7と実施例8の外観を比較すると、結晶セルロース複合化物の貯蔵弾性率が高い実施例7のほうが、衣の均一性により優れていた。
さらに、上記で得られたエビ天ぷらを、3本を1セットとし、フリーザーバッグに密封し、家庭用の冷凍冷蔵庫で、−20℃において4日間冷凍保存した。その後、冷凍庫からフリーザーバッグを取り出し、密封のまま10分間室温で放置した後、家庭用電子レンジを用いて300W、50秒間で解凍した。エビ天ぷらをフリーザーバッグから取り出し、下記の方法で官能評価を行った。
【0051】
<エビ天ぷらの官能試験>
試作されたエビ天ぷら(解凍後)は、以下の官能試験により評価した。
年齢24〜55歳の健常者(男6名、女6名)が、エビ天ぷらを食し、以下の評価基準で評価した。
<衣のサクサク感>
1点:サクサク感が劣る
2点:ややサクサク感が劣る
3点:どちらともいえない
4点:ややサクサク感が優れる
5点:サクサク感が優れる
※比較例5を基準(3点)として実施例を判断した。
※アンケートの結果、評価平均が4.0以上をA、3.5以上をB、3.5未満をCとした。
【0052】
<衣のべたつき感>
×:べたつきが多い
△:どちらともいえない
○:べたつきが少ない
※比較例5を基準(△)として実施例を判断した。
その結果、実施例7は衣のサクサク感がA(平均4.6)であり、実施例8はサクサク感がA(平均4.1)であり、共に解凍後も良好な食感を示した。また、いずれの実施例もべたつきが○(少なく)であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、衣付きの均一性が高く、冷凍食品の解凍前後で、衣のサクサク感及び衣のふんわり感が損なわれない揚げ衣組成物に関する発明であり、揚げ物及びその冷凍食品に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶セルロースを50質量%を超え、99質量%以下、アルギン酸プロピレングリコールエステルを1質量%以上50質量%未満含有する結晶セルロース複合化物と、衣材を含むことを特徴とする揚げ衣組成物。
【請求項2】
結晶セルロース複合化物が、さらにカルボキシメチルセルロース・ナトリウムを含むことを特徴とする請求項1に記載の揚げ衣組成物。
【請求項3】
結晶セルロース複合化物が、さらに乳化剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の揚げ衣組成物。
【請求項4】
衣材が、米粉を1質量%以上50質量%以下含有する澱粉を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の揚げ衣組成物。
【請求項5】
糖アルコールを1質量%以上50質量%以下含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の揚げ衣組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の揚げ衣組成物を使用した揚げ物。

【公開番号】特開2011−152087(P2011−152087A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16125(P2010−16125)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】