説明

揺動型遊星歯車装置

【課題】使用用途に応じて装置の中心部に配管や配線等の配置スペースを容易に確保することができると共に、動力伝達の更なる円滑化を図ることができる揺動型遊星歯車装置を得る。
【解決手段】複数の偏心体軸114A〜114Cの各々に配置された偏心体140A、140Bを介して揺動歯車である内歯揺動体116A、116Bを揺動回転させる揺動型遊星歯車装置100において、複数の偏心体軸114A〜114Cそれぞれに設けられた偏心体軸歯車112と、該複数の偏心体軸歯車112が噛合する伝動外歯歯車110と、該伝動外歯歯車110の回転中心軸と異なる位置に平行に配置されると共に、駆動源側のピニオンたる中間ピニオン130が設けられた中間軸108と、を備え、駆動源側のピニオン130を回転させることにより、偏心体軸歯車112及び伝動外歯歯車110が駆動され、且つ伝動外歯歯車110を、1つの軸受132により支持された単一の歯車で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揺動型遊星歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遊星歯車装置は、大トルクの伝達が可能であり且つ大減速比が得られるという利点があるので、種々の減速機分野で数多く使用されている。
【0003】
例えば、外歯歯車の周りで該外歯歯車と僅少の歯数差を有する揺動歯車である内歯揺動体(以下、内歯歯車とも称する)を揺動回転させることにより、入力軸の回転を減速して出力部材から取り出す揺動型の遊星歯車装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図4、図5を用いて同歯車装置の一例を説明する。
【0005】
図において、1はケーシングであり、互いにボルトやピン等の締結部材(図示略)を締結孔2に挿入することにより結合される第1支持ブロック1Aと第2支持ブロック1Bとを有する。5は入力軸で、入力軸5の端部にはピニオン6が設けられ、ピニオン6は、入力軸5の周りに等角度に配設された複数の偏心体軸歯車(偏心体軸駆動用の歯車)7と噛合している。
【0006】
ケーシング1には、3本の偏心体軸10が、円周方向に等角度間隔(120度間隔)で設けられている。この偏心体軸10は、軸方向両端を軸受8、9によって回転自在に支持され且つ軸方向中間部に偏心体10A、10Bを有する。前記偏心体軸歯車7は各偏心体軸10の端部に結合されており、入力軸5の回転を受けて該偏心体軸歯車7が回転することにより、各偏心体軸10が回転するようになっている。
【0007】
各偏心体軸10は、ケーシング1内に収容された2枚の内歯揺動体12A、12Bの偏心体孔11A、11Bをそれぞれ貫通しており、各偏心体軸10の軸方向に隣接した2段の偏心体10A、10Bの外周と、内歯揺動体12A、12Bの貫通孔の内周との間にはころ14A、14Bが設けられている。
【0008】
一方、ケーシング1内の中心部には、出力軸20の端部に一体化された外歯歯車21が配されており、外歯歯車21の外歯23に、内歯揺動体12A、12Bのピンからなる内歯13が噛合している。外歯歯車21の外歯23と内歯揺動体12A、12Bの内歯13の歯数差は僅少(例えば1〜4程度)に設定されている。
【0009】
この歯車装置は次のように動作する。
【0010】
入力軸5の回転は、ピニオン6を介して偏心体軸歯車7に与えられ、偏心体軸歯車7によって偏心体軸10が回転させられる。偏心体軸10の回転により偏心体10A、10Bが回転すると、該偏心体10A、10Bの回転によって内歯揺動体12A、12Bが揺動回転する。内歯揺動体12A、12Bはその自転が拘束されているため、該内歯揺動体12A、12Bの1回の揺動回転によって、該内歯揺動体12A、12Bと噛合する外歯歯車21はその歯数差だけ位相がずれ、その位相差に相当する自転成分が外歯歯車21の(減速)回転となり、出力軸20から減速出力が取り出される。
【0011】
その他、揺動型の遊星歯車装置としては、例えば、特許文献2の図10〜13等において、非駆動の偏心体軸を含む構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第2607937号公報
【特許文献2】特開2000−65158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献1に開示された歯車装置では、円周方向に等間隔で配置した3つの偏心体軸歯車7を1つの入力軸5(のピニオン6)で回転させる関係上、入力軸が出力軸と同軸に配置されていることから、歯車装置全体を貫通するホローシャフトを有するように設計するのが困難であるという問題があった。例えば産業用ロボットの関節駆動用の歯車装置や、精密機械の駆動用の歯車装置として用いる場合には、歯車装置を介して相手機械(被駆動機械)側にワイヤハーネスや冷却水用のパイプを通したいというような要求がしばしば生じることがある。このような場合に、入力軸を貫通孔とするには、該入力軸に接続されるモータ等の駆動源をも貫通孔とする必要があることを意味し、事実上大きなホローシャフトを形成するのは不可能に近かった。
【0014】
この点に関しては、特許文献2に記載したような構成を採用すると、必ずしも入力軸を出力軸と同軸に配置しなくてもよくなるため、より大きな径のホローシャフトを形成することができるようになる。しかしながら、非駆動の偏心体軸を含む構造では円滑な動力伝達が難しいという問題があった。
【0015】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、使用用途に応じて装置の中心部に配管や配線等の配置スペースを容易に確保することができると共に、動力伝達の更なる円滑化を図ることができる揺動型遊星歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、複数の偏心体軸の各々に配置された偏心体を介して揺動歯車を揺動回転させる揺動型遊星歯車装置において、前記複数の偏心体軸それぞれに設けられた偏心体軸歯車と、該複数の偏心体軸歯車が噛合する伝動外歯歯車と、該伝動外歯歯車の回転中心軸と異なる位置に平行に配置されると共に、駆動源側のピニオンが設けられた軸と、を備え、前記駆動源側のピニオンを回転させることにより、前記偏心体軸歯車及び伝動外歯歯車が駆動され、且つ前記伝動外歯歯車を、1つの軸受により支持された単一の歯車で構成したことにより、上記課題を解決したものである。
【0017】
本発明によれば、駆動源側のピニオンが設けられた軸を、伝動外歯歯車の半径方向外側位置にずらすことができることから、大径のホロー構造を容易に形成することができる。
【0018】
また、複数の偏心体軸歯車全てが伝動外歯歯車と噛合うため、動力伝達の更なる円滑化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、使用用途に応じて装置の中心部に配管や配線等の配置スペースを容易に確保することができると共に、動力伝達の更なる円滑化を図ることができる揺動型遊星歯車装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態の例に係る揺動型遊星歯車装置の側断面図
【図2】図1におけるII−II線に沿う断面図
【図3】本発明の他の実施形態の例を示す、図2相当の断面図
【図4】従来の揺動型遊星歯車装置の側断面図
【図5】図4におけるV−V線に沿う断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態の例を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1、図2は、本発明の実施形態の例に係る揺動型遊星歯車装置(以下、単に歯車装置と称す。)100を示した図であり、図1は歯車装置100の側断面図、図2は図1におけるII−II線に沿う断面図である。
【0023】
この歯車装置100は、本体ケーシング102、入力軸104、平行軸歯車セット106、中間軸108、伝動外歯歯車110、偏心体軸駆動用の歯車(偏心体軸歯車)112、該偏心体軸駆動用の歯車112によって駆動される三本の偏心体軸114(114A〜114C)、揺動歯車である2つの内歯揺動体(内歯歯車)116A、116B、及び出力軸としての機能を兼用する外歯歯車(揺動歯車と噛合する歯車)118によって主に構成されている。
【0024】
即ち、この歯車装置100は、内歯揺動体116A、116Bを揺動回転させるための複数の偏心体軸114を内歯揺動体116A、116Bを貫通して3本備え、入力軸104の回転を該複数の偏心体軸114A〜114Cに振り分けて伝達することにより全偏心体軸114A〜114Cを同位相で回転させるものである。
【0025】
既に説明した従来例と大きく異なるのは入力軸104から偏心体軸114A〜114Cまでの動力伝達構造及び歯車装置全体のケーシング構造である。そのため、以下この点について詳細に説明する。
【0026】
前記本体ケーシング102は、図1において左右に配置された、2つの第1、第2ケーシング102A、102Bによって構成されている。この第1、第2ケーシング102A、102Bには、図2に示されるように、これらを貫通するように複数のボルト孔102A1がそれぞれ形成されている。該第1、第2ケーシング102A、102Bは、互いにボルト(図示略)によって結合可能な構造となっている。
【0027】
この本体ケーシング102には、前記入力軸104が図1において横向き、即ち外歯歯車(出力軸)118と平行に配置され、軸受120、122により回転自在に支持されている。入力軸104の一端側(図の左側)には、ピニオン104Aが形成されており、他端にはモータM(具体的な図示は省略)の出力軸が挿入される挿入口104Bが形成されている。
【0028】
本体ケーシング102には、入力軸104のほかに、内歯揺動体116A、116Bよりも半径方向外側位置に、外歯歯車(出力軸)118と平行に前記中間軸108が配置され、テーパーローラベアリング124、124によって回転自在に支持されている。中間軸108にはピニオン104Aと噛合して平行軸歯車セット106を構成するギヤ128が組み込まれており、さらに、中間ピニオン(本実施形態での駆動源側ピニオン)130が組み込まれている。
【0029】
一方、外歯歯車(出力軸)118の外周には、軸受132を介してリング状の伝動外歯歯車110が該外歯歯車118と同軸に配置されている。この伝動外歯歯車110には、前記中間ピニオン130及び、3本の偏心体軸114A〜114Cにそれぞれ組み込まれた偏心体軸駆動用の歯車112が同時に噛合している。即ち、伝動外歯歯車110は、前記中間ピニオン130を介して中間軸108と連結されると共に、偏心体軸駆動用の歯車112を介して全偏心体軸114A〜114Cのそれぞれとも連結されていることになる。
【0030】
偏心体軸114A〜114Cは、同一の円周上で等間隔に配置され(図2参照)、それぞれテーパーローラベアリング136、136によって両持ち支持されている。各偏心体軸114A〜114Cとも内歯揺動体116A、116Bの偏心体孔116A1、116B1を軸方向に貫通している。各偏心体軸114A〜114Cには偏心体140A、140Bが一体に組み込まれており、3本の偏心体軸114が同位相で同時に同方向に回転できるように各偏心体軸114A〜114Cの偏心体140A、140Bの位相が揃えられている。又、2枚の内歯揺動体116A、116Bはこの偏心体140A、140Bとの摺動により、それぞれ互いに180°の位相差を保ちながら揺動回転可能である。なお、図の符号119は、当該2枚の内歯揺動体116A、116Bの軸方向の移動規制を行うための差し輪である。
【0031】
内歯揺動体116A、116Bには、ホローシャフトタイプの出力軸兼用の外歯歯車118が内接している。外歯歯車118は配管や配線等を貫通可能な貫通孔118Dを有する略円筒形状の部材からなり、テーパーローラベアリング142、142を介してケーシング本体102に回転自在に支持されている。
【0032】
外歯歯車118の外歯は外ピン118Pが溝118Hに回転自在に組み込まれた構造になっている。外ピン118Pの数(外歯の歯数)は90で、内歯揺動体116A、116Bの内歯の歯数92より2だけ小さい(僅少の歯数差)。この外歯歯車118は、本体118A、端部部材118B、118Cの3つの部材からなる。これは、端部部材118B、118Cの段部118B1、118C1によって前記テーパーローラベアリング142、142の組込み及びその軸方向の位置決めを可能とするためである。
【0033】
次にこの歯車装置100の作用を説明する。
【0034】
モータMの図示せぬモータ軸の回転によって入力軸104が回転すると、この回転は、ピニオン104A及びギヤ128を介してその初段の減速が行われ、中間軸108に伝達される。中間軸108が回転すると、該中間軸108に組み込まれた中間ピニオン130が回転し、更にこれと噛合している伝動外歯歯車110が回転する。
【0035】
伝動外歯歯車110には同時に偏心体軸駆動用の歯車112が噛合しているため、該伝動外歯歯車110の回転によりこれらの歯車112が回転する。その結果、3本の偏心体軸114A〜114Cが同位相で回転し、これにより2つの内歯揺動体116A、116Bがそれぞれの位相を180°に保った状態で外歯歯車118の周りを揺動回転する。内歯揺動体116A、116Bは、その自転が拘束されているため、該内歯揺動体116A、116Bの1回の揺動回転によって、該内歯揺動体116A、116Bと噛合する外歯歯車118はその歯数差だけ位相がずれ、その位相差に相当する自転成分が外歯歯車118の回転となり、出力が外部へ取り出される。偏心体軸114が円周方向等間隔に配置されており、しかも全ての偏心体軸114が駆動されるため、内歯揺動体116A、116Bを極めて円滑に揺動させることができる。
【0036】
ここで、本発明の実施形態の例に係る歯車装置100によれば、内歯揺動体116A、116Bよりも半径方向外側位置に、外歯歯車(出力軸)118と平行に前記中間軸108を配置し、入力軸104の回転を、一度中間軸108で受けた後に揺動体側に入力するようにしている。そのため、入力軸104を、従来のように歯車装置100の軸心(伝動外歯歯車110の回転中心軸)L1上にではなく、半径方向外側に移動した位置に配置することができるようになる。この結果、装置全体の軸方向長さを短縮できる。
【0037】
更に、歯車装置100の軸方向サイドに入力軸も駆動源も存在しないことから、外歯歯車118を、歯車装置100を貫通する大径のホローシャフトとすることができている。外歯歯車118は出力軸を兼ねるものであり、その回転は極めて低速であるため、該外歯歯車118の内側に別体の防護パイプ等を付設することなく、ワイヤハーネスや冷却水パイプ等をそのまま配置することができる。
【0038】
なお、上記実施形態においては、入力軸104として、モータ軸の挿入口104Bを有する構造のものが使用されているが、モータのモータ軸の先端に直接ピニオンを形成し、これを入力軸として兼用する構造であってもよい。
【0039】
また、ピニオン104A及びギヤ128の平行軸歯車セット106を省略し、入力軸104のピニオン104Aを直接中間ピニオン130と噛合させても良い。
【0040】
また上記実施形態においては、伝動外歯歯車110を専用の軸受132を介して外歯歯車118によって支持するようにしていたが、このような構造に代え、例えば、図3に示されるように、2枚の内歯揺動体216A、216Bの間に伝動外歯歯車210が配置されるようにすると、該伝動外歯歯車210に当該2枚の内歯揺動体216A、216Bの軸方向の移動規制を行うための、前記差し輪119(図1参照)の機能を兼用させることができる。また、この場合は、外歯歯車218の外ピン218Pを伝動外歯歯車210を支持するためのころとして機能させることができるため、該伝動外歯歯車210を外歯歯車218の外周に支持するための専用の軸受132(図1参照)も不要とできる。尤も、この構成を採用しない場合には、例えば、内歯揺動体の内歯を円弧歯形、外歯歯車の外歯をトロコイド歯形としてもよく、又、それぞれをインボリュート歯形等としてもよい。
【0041】
なお、この実施形態におけるその他の構成は先の実施形態とほぼ同様なので、図中で同様な部分に下2桁が同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0042】
なお、上記実施形態の例においては、前記入力軸104、204を外歯歯車(出力軸)118、218の軸心(伝動外歯歯車110の回転中心軸)L1に対して平行に配置したが、本発明はこれに限定されず、入力軸を偏心体歯車の軸心に対して直角に配置し、直交軸歯車機構を付設する構成としてもよい。この場合、歯車装置を駆動するモータ等の駆動装置をも歯車装置の径方向に配置することができ、特に軸方向において一層の省スペース化を図ることが可能となる。
【符号の説明】
【0043】
100…揺動型遊星歯車装置
102、202…本体ケーシング
102A、102B、202A、202B…第1、第2ケーシング
104、204…入力軸
104A、204A…ピニオン
106、206…平行軸歯車セット
108、208…中間軸
110、210…伝動外歯歯車
112、212…偏心体軸歯車
116A、116B…内歯揺動体(内歯歯車)
118、218…外歯歯車(出力軸)
119…差し輪
128、228…ギヤ
130、230…中間ピニオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の偏心体軸の各々に配置された偏心体を介して揺動歯車を揺動回転させる揺動型遊星歯車装置において、
前記複数の偏心体軸それぞれに設けられた偏心体軸歯車と、
該複数の偏心体軸歯車が噛合する伝動外歯歯車と、
該伝動外歯歯車の回転中心軸と異なる位置に平行に配置されると共に、駆動源側のピニオンが設けられた軸と、を備え、
前記駆動源側のピニオンを回転させることにより、前記偏心体軸歯車及び伝動外歯歯車が駆動され、且つ
前記伝動外歯歯車を、1つの軸受により支持された単一の歯車で構成した
ことを特徴とする揺動型遊星歯車装置。
【請求項2】
請求項1に記載の揺動型遊星歯車装置において、
前記偏心体軸を回転自在に支持する支持体を有し、
前記伝動外歯歯車は、前記支持体の軸方向幅内に設置される
ことを特徴とする揺動型遊星歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−177481(P2012−177481A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−128458(P2012−128458)
【出願日】平成24年6月5日(2012.6.5)
【分割の表示】特願2011−130707(P2011−130707)の分割
【原出願日】平成15年3月28日(2003.3.28)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】