説明

損傷耐性の化学強化された保護カバーガラス

本発明は、高強度の、化学強化された保護ガラス物品に関し、このガラス物品は、ビッカースインデンターを使用して荷重をかける際に放射状の亀裂の開始がないことにより測定される少なくとも2000gの損傷耐性限界を有する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、本出願と同一の発明者らの名前で2008年2月8日に出願された、「損傷耐性の化学強化された保護カバーガラス」の名称の米国仮出願第61/065,167号に優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、保護ガラスカバーに関し、特に、電子装置での使用に適した、化学強化された損傷耐性ガラスカバーに関する。
【背景技術】
【0003】
携帯電話、手持ち式ゲーム、MP3プレーヤー、腕時計、ラップトップコンピュータ、モバイルGPSおよび車の中の他のディスプレイスクリーン、タッチパネルスクリーン、および制限のない他の電子装置のような装置において、より大きいディスプレイを有するモバイル機器が広く存在するようになっている。カバープレートの少なくとも一部は、ユーザがディスプレイを見ることができるように透明である。ある用途について、カバープレートはユーザのタッチに対して敏感である。そのような装置の使用が増加すると、偶発事故、洗浄時の不注意な使用および通常使用によってカバーガラスが破損または損傷を受ける可能性も増加する。現在入手できるカバーガラスは、高レベルの悪用や別の物体との激しい接触または衝突のような起こり得る通常の偶発事故に耐えるように設計または選択されていない。頻繁な接触のために、そのようなカバープレートは高い強度を有し引っかき耐性でなければならない。
【0004】
必ずしも必要条件とは限らないが、既存のガラスについての「選択基準」は通常、以下に制限される:
1.規定の様式で支持されるガラス上に135gのボールを落とす場合にガラスが耐えなければならない最小高さ;
2.4点曲げ試験により測定される最小強度;および
3.硬さ(だが測定されることは通常は必要条件ではない)。
【0005】
ディスプレイ装置で使用される既存の保護ガラスについてのこれらの「基準」は、よく理解されていない。さらに、カバーガラスを使用に適するものとして許容するための主なテスト方法はボール落下テストであり、これは、既存の表面欠陥に敏感であり新しい欠陥の導入には敏感でないため、ガラスの損傷耐性を正確に評価することができない点で発明者らに知られるテストである。例えばイオン交換直後の強度テストも、カバーガラスの保護能力を予測するものとして使用されてきた。これらのテストは、深いイオン交換層について高い表面圧縮応力を評価することに自然とつながるであろう。本発明者らは、これが誤っており、反対のことが実際には正しいということを発見した。したがって、これらの装置における現在の薄いカバーガラスは、これらの装置におけるガラス、並びに摩耗耐性および外観に直接関係するイオン交換特性について最適化されていない。例えば、モバイル機器において使用される現在のSLSガラスは、そのイオン交換能力における固有の限界により機械的に妨害を受ける。
【0006】
アルミノケイ酸塩または改質アルミノケイ酸塩と称される、アルミナ含有量が増加された種類を含む、ソーダ石灰ケイ酸塩ファミリーにおいて主要なガラスを選択するために、上記の基準が適用されてきた。特許文献1は、従来技術のカバーガラス形成に対する改良であるいくつかのガラス組成を開示する。我々は、これらの基準が、これらの装置の分野において観察される実際の失敗した態様を記載していないことを発見した。従来技術により定められる必要条件は、小さい石のようなとがった物体の上にモバイル機器を落とした際にガラスがどの程度の荷重に耐えられるかを予測するものではない。それはまた、モバイル機器が実地使用を受けた後に表面に累積した損傷にどの程度耐えるかを予測するものでもない。従来技術の必要条件は、許容できない劣悪な強度および引っかき傷を有するパーツを生じることに成り得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願第11/888213号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電子装置において保護カバーおよび/またはタッチスクリーンとして現在使用されるガラスに存在する問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、高強度の、化学強化された保護用および/または双方向性の(例えばタッチスクリーン)ガラス物品に関し、このガラス物品は、ビッカースインデンター(Vickers indenter)を使用してガラスに荷重をかける際に放射状の亀裂の開始がないことにより測定される少なくとも2000gの高損傷耐性限界を有する。ある実施の形態において、少なくとも4000gの高損傷耐性限界である。別の実施の形態において、少なくとも6000gの高損傷耐性限界である。
【0010】
さらなる実施の形態において、高強度の、化学強化された保護ガラス物品は、透明である。
【0011】
さらなる実施の形態において、高強度の、化学強化された保護ガラス物品は、不透明および/または非透明である。
【0012】
ある実施の形態において、本発明は、ソーダ石灰ガラス、アルカリ含有アルミノケイ酸ガラス、アルカリ含有アルミノホウケイ酸ガラス、アルカリ含有ホウケイ酸ガラスまたはアルカリ含有ガラスセラミックスから作製される保護ガラスに関し、これはイオン交換されて、ビッカースインデンターを使用してガラスに荷重をかける際に放射状の亀裂の開始がないことにより測定される少なくとも2000gの高損傷耐性限界を有する。ある実施の形態において、少なくとも4000gの高損傷耐性限界である。別の実施の形態において、少なくとも6000gの高損傷耐性限界である。
【0013】
本発明はまた、保護カバーシートとして使用するための薄いガラス物品においてイオン交換パラメータを設定する方法に関し、この方法は、以下の工程を有する:
ビッカースインデンターテストおよび/またはヌープダイアモンドインデンター(Knoop diamond indenter)を使用する引っかき耐性テストにより測定される損傷耐性の所望のレベルを達成するために必要な圧縮層の深さを選択する工程;
設定された最大引張応力をガラス物品の中心で発生させるように圧縮応力を選択する工程;および
所望の圧縮応力を達成するために、ナトリウムイオンよりも大きい直径を有するアルカリ金属イオンを含有するナトリウムイオンとのイオン交換槽を希釈する工程。
【0014】
本発明はまた、保護カバーガラスとして使用するのに適切な化学強化されたガラス物品を作製する方法に関し、この方法は、
アルカリ含有アルミノケイ酸ガラス、アルカリ含有アルミノホウケイ酸ガラス、アルカリ含有ホウケイ酸ガラスおよびアルカリ含有ガラスセラミックスからなる群より選択されるガラスから作製されるガラスシートを提供し;
シートの表面から少なくとも40μmの深さで、ガラスの表面中のNaおよび/またはLiイオンをより大きいアルカリイオン(または他のより大きい交換イオン)にイオン交換することによりガラスシートを化学強化し;および
ガラス物品を作製するために必要に応じて切断および研磨する(縁切り、研削および研磨を含む)ことによりシートを仕上げる;
各工程を含み、
仕上げられたガラス物品は、ビッカースインデンターを使用してガラスに荷重をかける際に放射状の亀裂の開始がないことにより測定される少なくとも2000gの損傷耐性限界を有することを特徴とする方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、市販で使用されるガラス材料および使用によりガラス上に存在する引っかき傷を示す。
【図2】図2は、市販で使用されるガラス材料および物体との激しい接触または衝突によりガラスに生じ得た損傷を示す。
【図3】図3は、深さDOLのイオン交換された層、表面圧縮応力Cおよび中心張力Cを有するガラスを示す説明図である。
【図4】図4は、選択されたガラス材料のイオン交換の前後の強度を示すグラフである。
【図5】図5は、ビッカース圧痕法により測定される放射状の亀裂を制限する強度の始まりを示すグラフである。
【図6】図6は、SiC粒子を使用する噴射による磨耗後の選択されたイオン交換されたガラスの強度を示すグラフである。
【図7】図7は、ビッカースインデンターを使用して測定される側方亀裂開始限界(眼に見える異常)を示すグラフである。
【図8】図8は、市販のカバーガラスの表面に亘ってヌープダイアモンドインデンターをスライドさせることにより生じる引っかき損傷を示す。
【図9】図9は、本発明により化学強化されたカバーガラスの表面に亘ってヌープダイアモンドインデンターをスライドさせることにより生じる引っかき損傷を示す。
【図10】図10は、矢印60Aにより示される領域の拡大であり、市販のガラスに生じる欠けを示す。
【図11】図11は、矢印50Aにより示される領域の拡大であり、市販のガラスに生じる側方の亀裂を示す。
【図12】図12は、厚さの変化するガラスについて(一般)および本発明のガラスについての、DOLとCSとの間の関係を示すグラフである。
【図13】図13は、保護ガラスとして今回使用される化学強化されたソーダ石灰ガラスおよび本発明のガラスについての、限界荷重対層の深さ(DOL)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ここで用いたように、「化学的に補強する」、「化学強化する」および「イオン交換する」なる用語および同様の用語は、ガラス組成中のアルカリイオンをより大きい直径のアルカリイオンと交換することを意味する。ここで与えられる全てのガラス組成は、任意のイオン交換前のガラスについてである。またここで特許請求されるガラス物品は、例えばタッチスクリーンのように、保護用および/または双方向性でもよい。図8−11で使用されるように、矢印200は引っかき傷の方向を示す。ガラス組成に関してここで多くが使用されるように、「から実質的に成る」なる用語は、組成が列挙される材料および料を含有し、ガラス中に存在し得る汚染物質を除外することを意味する。
【0017】
概して、ここに開示されるのは、ビッカースインデンターによりガラスに荷重がかけられる際に放射状の亀裂の開始がないことにより測定される少なくとも2000gの高損傷限界を有するように化学強化された薄い保護カバーガラスである。本発明は、任意の厚さ(例えば30mm)のカバーガラスの作製に使用できるが、電子装置、および特に手持ち式の装置において使用するためのカバーガラスは、重量の理由で薄くなければならず、通常は5.0mm以下;好ましくは2.0mm以下;ある実施の形態においては1.7mm未満;およびさらなる実施の形態においては1.2mm未満の厚さを有する。薄いカバーガラスについての問題は、薄いカバーガラスは、薄い一方で、ガラスは実地環境の磨耗に抵抗できなければならず、また、亀裂、剥離および他の種類の損傷に耐性でなければならない。モバイルディスプレイ製造業者は、既存のおよび将来の製品をプラスチックディスプレイカバーからガラスカバーに移行し、ガラスは絶えず増大するレベルの悪用にさらされるであろう。現在市販の携帯電話で使用される市販のイオン交換されたガラスにおける引っかき傷および衝撃の損傷の例が、図1および2に示される。図1は、通常の使用を通して生じ得る保護ガラスカバー上の引っかき傷を示す。図2は、物体との激しい接触または衝突により同じガラス上に生じ得る損傷を示す。他の電子装置において同じ種類のガラスが使用される。
【0018】
本発明は、ある態様において、モバイル(または非モバイル)表示装置で使用される際に損傷および故障に耐性となるように最適化された、薄い、イオン交換された(化学強化された)カバーガラスに関する。このガラスの性能は、損傷耐性および故障耐性を定量化するように特に設計されたテスト(既存のまたは開発した)の点から記載される。本発明のガラスの圧縮層は、少なくとも40μmの深さに最適化され、これはこれらの装置で使用される他のイオン交換されたカバーガラスよりも深く、また少なくとも700MPaの圧縮応力を有する。亀裂開始および故障に対して優れた耐性を提供するのは、層の深さ(DOL)および圧縮応力(CS)のこの組合せである。
【0019】
最大引張り強度の制限を薄いガラス物品に課す場合、CSおよびDOLは制限されなければならないであろう。この制限は、圧縮層の深さを制御しながら最大CSを達成することにより達することができる、または最大CSを制限しながら所望のDOLを達成することにより制御できる。時間を制御することによりDOLを制限することができるのに対し、イオン交換槽におけるナトリウムイオンの濃度を制御することによりCSを制限できる。様々の厚さ(500から1000μm)のガラス物品について最大引張応力の制限が図12に示され、各厚さについて引かれる線は、CT(中心における張力)が54MPaの場合についてである。図12において「+」データ点は、本発明により化学強化されたガラス(図12のマーキングで「C」)についてDOL/CS関係を示す。+データ点の左側のCS/DOL数値は、イオン交換槽の希釈により達成できる。
【0020】
60μmのDOLが所望の場合、ガラス物品の表面で発生し得る最大圧縮応力は、0.5、0.7および0.9mm物品についてそれぞれ330、520および700MPaである。特定の衝突耐性が必要な場合、表面圧縮応力を制限する一方で層の深さを対象とすることが通常は好ましい。図13に示されるように、衝突の荷重は、層の深さに関係する。図13において、▲90は現在市販で使用される化学強化されたソーダ石灰ガラスで得られる結果を示し、記号■Cは本発明による化学強化を使用して得られた結果を示す。最終結果は、薄いガラスについての化学強化パラメータを制御して、所望のレベルの損傷耐性を達成できるというものである。
【0021】
脆弱性の観点から、約1mm厚さのガラスの中心における引張応力のレベルは、FSM−6000表面強度メータによるCSおよびDOLの測定から計算して約54MPaより低いことが所望であることが発見された。このMPa値は、ガラスの厚さと共に変化し、MPa値はガラスが薄くなると増加しガラスが厚くなると降下するであろう。
【0022】
ここに示されるデータにより示されるように、本発明の化学強化された(補強された)ガラスは、多くの改良されたおよび極めて所望の特性を有する。これらは、以下を含む:
1.これらの装置において現在使用される他のガラスよりも大きい、ガラス表面にぶつかる尖った物体からの表面欠けに対する耐性;
2.カバーガラスを有する既存の装置において存在することが判明した傷を制限する開始強度に対するより大きい耐性;
3.イオン交換前に機械加工および処理により生じた傷が、イオン交換された層により包まれ圧縮下に配置される。これにより、最終ガラス製品が仕上げ工程に対してより耐性となる;
4.フュージョン工程を使用するガラス作製中にガラス表面が直接形成できることによる、仕上げ工程の費用の減少。
【0023】
本発明は、化学強化できるガラス組成により実施できる(すなわち、ガラス中にイオン交換可能な成分を含有する)。本発明に特に適切なガラスは、アルカリ含有アルミノケイ酸ガラス、アルカリ含有ホウケイ酸ガラス、アルカリ含有アルミノケイ酸ガラスおよびアルカリ含有ガラスセラミックスである。好ましい実施の形態において、ガラスおよびガラスセラミックスは透明である。ガラスはイオン交換により化学強化されてもよく、組成物はシートにダウンドローされてもよい。本発明のガラスは、約1650℃未満の溶融温度および少なくとも130kpoise(13kPa・s)、ある実施の形態において250kpoise(25kPa・s)より大きい液相粘度を有する。本発明のガラスは、相対的に低い温度で少なくとも30μmの深さにイオン交換されてもよい。
【0024】
ある例示的なガラスは、イオン交換の前に、以下の組成を有する:64モル%≦SiO≦68モル%;12モル%≦NaO≦16モル%;8モル%≦Al≦12モル%;0モル%≦B≦3モル%;2モル%≦KO≦5モル%;4モル%≦MgO≦6モル%;および0モル%≦CaO≦5モル%;ここで、66モル%≦SiO+B+CaO≦69モル%;NaO+KO+B+MgO+CaO+SrO>10モル%;5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%;(NaO+B)−Al≦2モル%;2モル%≦NaO−Al≦6モル%;および4モル%≦(NaO+KO)−Al≦10モル%。
【0025】
他の例示的なガラスは、イオン交換前の重量パーセントで、以下の組成を有する:64−68%SiO;10−12%Al;0−2%B;12−15%NaO;2−4%KO;5−7%MgO;>0−1%CaO;0−0.5%(As、SnO);0−1%(Sb、SnO);および>0−1%TiO。ガラス中の気体混入の排除を助ける清澄剤として、ガラス組成にしばしばヒ素およびアンチモンが加えられる。しかしながら、ヒ素およびアンチモンは通常、有毒性物質とみなされる。したがって、ある実施の形態において、ガラスはアンチモンおよびヒ素を実質的に含まず、これらの成分の酸化物をそれぞれ約0.05wt%未満含む。清澄剤が必要な用途において、清澄効果を生じるために、スズ、ハロゲン化物、または硫酸塩のような非毒性成分を使用することが都合が良い。酸化スズ(IV)(SnO)および酸化スズ(IV)とハロゲン化物との混合物は、清澄剤として特に有用であり、上記の組成においてヒ素およびアンチモンの代わりに使用してもよい。
【0026】
本発明の化学強化されるガラスを作製するために使用されるガラス組成物は、適切な工程を使用してシートに作製できる;例えば、フュージョンドロー、スロットドロー、ロールドシート、精密圧縮および他の当該技術において知られる方法。好ましい方法は、比較的に汚れのない表面を有するガラスを生じるので、フュージョンドローおよびスロットドローのようなダウンドロー法である。これらのダウンドロー法は、イオン交換可能な板ガラスの大規模製造で使用される。
【0027】
フュージョンドロー工程は、溶融ガラス原材料を受け取るチャネルを有するドロータンクを使用する。チャネルは、チャネルの両側にチャネルの長さに沿って頂部で開いた堰(weir)を有する。チャネルが溶融材料で充填されると、溶融ガラスは堰から溢れる。重力により、溶融ガラスはドロータンクの外表面を流れ落ちる。これらの外表面は、下方および内側に伸長し、ドロータンクの下の先端で連結する。2つの流動ガラス表面はこの先端で連結し、融合して単一の流動シートを形成する。フュージョンドロー法は、チャネルを超えて流れる2つのガラスフィルムが融合するので、生じるガラスシートのいずれの外表面も装置の任意の部分と接触しないという利点を提供する。したがって、表面特性は、そのような接触により影響を受けない。
【0028】
スロットドロー法は、フュージョンドロー法と全く違う。ここでは、溶融した原材料ガラスがドロータンクに提供される。ドロータンクの底は、スロットの長さを伸ばすノズルを備えた開いたスロットを有する。溶融ガラスは、スロット/ノズルを通って流れ、それを通じて連続的なシートとして下方におよびアニーリング領域に引かれる。フュージョンドロー工程と比較して、スロットドロー工程は、フュージョンダウンドロー工程におけるように2つのシートが融合されるのではなく、単一のシートがスロットを通して引かれるので、より薄いシートを提供する。
【0029】
ダウンドロー法に適合するために、ここに記載されるアルカリアルミノケイ酸ガラスは、高い液相粘度を有する。ある実施の形態において、液相粘度は少なくとも130キロポアズ(kpoise)(13kMPa・s)であり、別の実施の形態において、液相粘度は少なくとも250kpoise(23kMPa・s)である。
【0030】
ある実施の形態において、ガラスはイオン交換により強化される。ここで用いたように、「イオン交換された」なる用語は、ガラス製造技術における当業者に知られるイオン交換処理により強化されることを意味する。そのようなイオン交換処理は、加熱されたアルカリアルミノケイ酸ガラス(または他の適切なアルカリ含有ガラス)を、ガラス表面中に存在するイオンよりも大きいイオン半径を有するイオンを含有する加熱溶液で処理し、したがってより小さいイオンをより大きいイオンと交換する工程を含むが、これに限定されない。例えば、ガラス中のナトリウムまたはリチウムイオンをカリウムイオンに交換してもよい。あるいは、カリウムを含むガラス中のより小さいアルカリ金属イオンを、ルビジウム(Rb)またはセシウム(Cs)のようなより大きい原子半径を有する他のアルカリ金属イオンに交換してもよい。同様に、硫酸塩、ハロゲン化物等のような、だがこれに限定されない、他のアルカリ金属塩をイオン交換処理に使用してもよい。通常、イオン交換のための時間および温度は、100%硝酸カリウム槽を使用してここに記載される組成を使用する場合、それぞれ3−16時間および380−460℃である。必要とされる正確な時間および温度は、イオン交換される正確なガラス組成に依存する。ある実施の形態において、ダウンドローされたガラスは、所定の時間KNOを含む溶融塩槽に配置し、イオン交換を達成することにより、化学強化される。ある実施の形態において、溶融塩槽の温度は約430℃であり、所定の時間は約8時間である。別の実施の形態において、イオン交換は、まずKイオンを使用して行い交換の所望の深さを達成し、次にCeまたはRbイオンを使用して行い表面に比較的近いKイオンとの交換により表面をさらに強化する。
【0031】
ダウンドロー法は、比較的汚れのない表面を生じる。ガラス表面の強度は表面欠陥の量およびサイズにより支配されるので、最小の接触を受けた汚れのない表面はより高い初期強度を有する。この高強度ガラスは次に化学強化されると、生じる強度は粗研磨および研磨された表面よりも高くなる。イオン交換による化学強化または焼き戻しはまた、操作による欠陥形成に対するガラスの耐久性を増加する。したがって、ある実施の形態において、ダウンドローされたアルカリアルミノケイ酸ガラスは、300mm×400mmシートについて約0.5mm未満の焼結ひずみを有する。別の実施の形態において、焼結ひずみは約0.3mm未満である。
【0032】
表面圧縮応力とは、より大きいイオン半径を有するアルカリ金属イオンによる、ガラス表面中に含有されるアルカリ金属イオンの化学強化中の置換により生じる応力を称する。ある実施の形態において、ここに記載されるガラスの表面層中で、ナトリウムイオンはカリウムイオンに置換される。ガラスは、少なくとも約200MPaの表面圧縮応力を有する。ある実施の形態において、表面圧縮応力は少なくとも約600MPaである。さらなる実施の形態において、表面圧縮応力は少なくとも700MPaである。アルカリアルミノケイ酸ガラスは、少なくとも40μmの深さを有する圧縮応力層を有する。
【0033】
ガラス網状構造が緩み得る温度よりも低い温度で、より大きいイオンによってより小さいイオンを交換することにより、ガラスの表面に亘ってイオンの分布が生じ、応力特性が生じる。入ってくるイオンの量が多いと、ガラスの表面において圧縮応力(CS)が生じ、ガラスの中心で張力(CT)が生じる。圧縮応力は、以下の関係により中心張力と関係づけられる:
CS=CT×(t−2DOL)/ DOL;
ここで、tはガラスの厚さであり、DOLは交換の深さである。
【0034】
本発明を実施するために、段落[0024]に上記されたガラス組成物をシートにフュージョンドローしてサンプル「C」とし、コーニング社製ではない以下にサンプル「X」、「Y」および「Z」として同定される3つの市販のガラスと共に評価した。4つの全てのサンプルをイオン交換し、NaイオンをKイオンに交換した。全てのガラスサンプルは1mmの厚さであった。全てのガラスサンプルを、イオン交換に最適化した。表1は、4つのサンプルについてイオン交換の深さを示す。
【表1】

【0035】
表1は、ここに記載されるガラスを使用して、40μmより大きい層の深さDOL(NaイオンがKイオンに置換される深さ)および700MPaより大きい表面圧縮応力CSを有する化学強化されたガラスを得ることができることを示す。
【0036】
上記に示されるように、全てのガラスサンプルがイオン交換処理に最適化された。したがって、サンプルは、図4−7に示されるガラス損傷に対する耐性について利用可能な最善のサンプルを示す。通常、仕上げ後の欠陥はイオン交換層内に含まれることがより良く、イオン交換後の強度の増加により証明される。
【0037】
図4−7において、X、Y、ZおよびCのそれぞれのイオン交換されたおよびイオン交換されない両方のサンプルが評価された。イオン交換されないサンプルは、全て50MPa強度レベルに研磨され、その後イオン交換された。図4は、全てのサンプルがイオン交換前に同じ強度を有していたことを示し、サンプルCはイオン交換後にサンプルX、YおよびZよりも約100MPa強かったことを示している。
【0038】
図5は、ビッカース圧痕法により測定される亀裂を制限する強度の開始が、4つのサンプルのそれぞれについて全て同じアプローチを有することを示す。サンプルX、YおよびZは全て、800−1000gの範囲の限界荷重において放射状亀裂の開始を示す。サンプルCは、限界荷重が6000gより大きくなるまで放射状亀裂を示さなかった。サンプルCの限界荷重はしたがって他のサンプルの荷重より少なくとも6倍大きかった。
【0039】
図6は、ASTM法C158による、尖った硬いSiC粒子の噴射後のイオン交換されたサンプルX、Y、ZおよびCの強度を示す。「定荷重係数」または「CFF」と表示されるx軸は、粒サイズと噴射圧力の組合せである。噴射されたSiC粒子は、ガラス表面を研磨する。SiC噴射後のガラスの強度を、ティングオンリング(ting−on ring)法を使用して測定した。図6に示される結果は、サンプルX、YおよびZが全て、450から500の間の初期強度(MPaで)を有するのに対し、サンプルCが約575MPaの初期強度を有することを示す。約10のCFFにおけるSiC噴射の後、サンプルX、YおよびZは全て、80−100MPaの範囲の強度を示すのに対し、サンプルCは約400MPaの平均強度を示した。
【0040】
図7は、欠けの原因である側方亀裂を開始するのに必要な荷重を示す。側方亀裂の限界(眼に見える異常)を、ビッカースインデンターを使用して測定した。[ビッカースインデンターテストのためのASTM法は存在しないが、この方法は以下の論文に記載される:T. Tandon et al., “Stress Effect in Indentation Fracture Sequences,” J. Am. Ceram Soc. 73[9]2619-2627 (1990);R. Tandon et al., “Indentation Behavior of Ion-Exchanges Glasses,” J. Am. Ceram Soc. 73[4]970-077 (1990);およびP.H. Kobrin et al., “The Effects of Thin Compressive Films on Indentation Fracture Toughness Measurements,” J. Mater. Sci. 24[4]1363-1367 (1980)]。棒線の上の番号は、各サンプルのイオン交換された層の深さを示し、表1にも見られる。図7に示される結果は、サンプルX、YおよびZの亀裂を開始するのに必要な限界荷重がおよそ800−1400gの範囲であるのに対し、サンプルCについては側方亀裂、およびしたがって欠け形成が、6000gの荷重で観察されなかったことを示す。この結果は、サンプルCが、側方亀裂に対してサンプルX、YおよびZよりも少なくとも4倍耐久性であることを示す。
【0041】
図8および9は、保護カバーガラスとして使用される市販のガラスに対して、本発明のガラスの耐久性が改良されることを示す。テストは、UMT引っかきテスト法を使用して行われた。UMTは、引っかきテストを含む様々の形式の摩擦学的テストを可能にする市販の機器である(CETR Inc, Cambell, CA)。適切な参考文献は、V. Le Houerou et a., “Surface Damage of Soda-lime-silica Glasses: Indentation Scratch Behavior,” J. Non-Cryst Solids, 316[1]54-63 (2003)である。このテストにおいて、ヌープインデンターを、約100秒間に500グラムの最大荷重に圧痕荷重を絶えず増加させながら表面に亘って引きずる(ガラスとガラスの違いを区別できるように)。
【0042】
図8および9は、絶えず増加する荷重で、ガラスサンプルYおよびCの表面に亘ってヌープダイアモンドインデンターをスライドさせることにより生じる引っかき傷を示す。数表示30および40は、各サンプルについて引っかきテストの開始および終了点を示す。サンプルYおよびCの両方について、予想されたように、インデンター溝からの溝削りおよび剥離があった。しかしながら、サンプルYにおいて、引っかき溝、側方亀裂(数表示50、線AおよびB)および欠け(数表示60、線AおよびB)の3段階の損傷がある。サンプルYの側方亀裂および欠けは、200グラム未満の荷重で生じる。中央に亀裂孔も生じる。引っかき溝のみを示すサンプルCにおいては、側方亀裂または欠けの形跡はない。本発明におけるガラス物品は、このテストにおいて500グラムに至るまで亀裂領域を形成しない。図10は、図8において矢印60Aにより示されるサンプルYの領域の拡大であり、このサンプルについて当該点で生じた欠けを示す。同様の欠けは、サンプルYにおいて、矢印60Bにより示される領域および溝に沿った他の場所で見られる。図11は、図8において矢印50Aにより示されるサンプルYの領域の拡大であり、サンプルYにおいて見られる側方亀裂を示す。同様の側方亀裂は、サンプルYにおいて、溝の線に沿って他の場所で見られる。
【0043】
カバーガラスを作製するために使用されてきたフロートガラスと異なり、フュージョン形成されたおよびスロットドローされたガラスは、仕上げ中に薄くする必要がない。端面が一旦作成されると、ガラスは製品組立て可能な状態である。これにより、特に、大きいガラス表面積を必要とする装置、例えばATMタッチスクリーン、ラップトップコンピュータおよび他の大画面装置について、カバーガラスの作製のコストが低くなる。この効果的な表面積形成はまた、製造工程段階の稼働時間に影響を与え得る。設備投資および処理時間を端面研磨作業にあてることができ、これによって、より厳密な処理制御が可能となり、したがって、しばしば最初に破損する領域である研磨された端部の強度を改良できる。
【0044】
説明のために代表的な実施の形態が示されてきたが、上記の記載は発明の範囲を制限するものとみなされるべきではない。したがって、本発明の原理および範囲から逸脱せずに、様々の変更、適応、および代案が当業者に思い浮かぶであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度の、化学強化された保護ガラス物品であって、該ガラス物品が、ビッカースインデンターを使用してガラスに荷重がかけられる際に放射状の亀裂の開始がないことにより測定される少なくとも2000gの高損傷耐性限界を有し、
前記カバーガラスの前記ガラスが、アルカリ含有アルミノケイ酸ガラス、アルカリ含有アルミノホウケイ酸ガラス、アルカリ含有ホウケイ酸ガラスおよびアルカリ含有ガラスセラミックスからなる群より選択され、
前記物品が、化学強化後に少なくとも250MPaの強度を有する、
ことを特徴とするガラス物品。
【請求項2】
前記カバーガラスが、ビッカースインデンターを使用してガラスに荷重がかけられる際に放射状の亀裂の開始がないことにより測定される少なくとも4000gの高損傷耐性限界を有することを特徴とする請求項1記載のガラス物品。
【請求項3】
前記カバーガラスが、ビッカースインデンターを使用してガラスに荷重がかけられる際に放射状の亀裂の開始がないことにより測定される少なくとも6000gの高損傷耐性限界を有することを特徴とする請求項1記載のガラス物品。
【請求項4】
前記ガラス物品のガラスの組成が、化学強化のための任意のイオン交換の前に、以下を含む:64モル%≦SiO≦68モル%;12モル%≦NaO≦16モル%;8モル%≦Al≦12モル%;0モル%≦B≦3モル%;2モル%≦KO≦5モル%;4モル%≦MgO≦6モル%;および0モル%≦CaO≦5モル%;ここで、66モル%≦SiO+B+CaO≦69モル%;NaO+KO+B+MgO+CaO+SrO>10モル%;5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%;(NaO+B)−Al≦2モル%;2モル%≦NaO−Al≦6モル%;および4モル%≦(NaO+KO)−Al≦10モル%;
ことを特徴とする請求項1記載のガラス物品:
【請求項5】
前記ガラス物品のガラスの組成が、化学強化のための任意のイオン交換の前に、以下を含む:64−68%SiO;10−12%Al;0−2%B;12−15%NaO;2−4%KO;5−7%MgO;>0−1%CaO;0−0.5%(As、SnO);0−1%(Sb、SnO);および>0−1%TiO
ことを特徴とする請求項1記載のガラス物品。
【請求項6】
ASTM法C158に従ってSiC粒を前記物品の表面に噴射した後、前記物品が200MPa以上の強度を有することを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項7】
ASTM法C158に従ってSiC粒を前記物品の表面に噴射した後、前記物品が300MPa以上の強度を有することを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項8】
前記物品の表面が、少なくとも40μmの深さまで化学強化されることを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項9】
前記物品の表面が、700MPaより大きい表面圧縮応力を有することを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項10】
前記物品が、ビッカースダイアモンドインデンターによりかけられる少なくとも2000gの荷重および荷重開放に、側方亀裂することなく耐えられることを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項11】
前記物品が、ビッカースダイアモンドインデンターによりかけられる少なくとも2000gの荷重および荷重開放に、欠けることなく耐えられることを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項12】
前記物品が、2mm未満の厚さを有することを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項13】
前記物品が、ビッカースインデンターを使用してガラスに荷重がかけられる際に放射状の亀裂の開始がないことにより測定される少なくとも2000gの高損傷耐性限界を有するように化学強化された、フュージョンドローされたまたはスロットドローされたガラスから作製されることを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項14】
保護カバーガラスとして使用するための薄いガラス物品においてイオン交換パラメータを設定する方法であって、該方法が、
ビッカースインデンターテストおよび/またはヌープダイアモンドインデンターを使用する引っかき耐性テストにより測定される損傷耐性の所望のレベルを達成するために必要な圧縮層の深さを選択し;
設定された最大引張応力をガラス物品の中心で発生させるように圧縮応力を選択し;および、
所望の圧縮応力を達成させるために、ナトリウムイオンよりも大きい直径を有するアルカリ金属イオンを含有するナトリウムイオンとのイオン交換槽を希釈する、
各工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
保護カバーガラスとしての使用に適切な化学強化されたガラス物品を作製する方法であって、該方法が、
アルカリ含有アルミノケイ酸ガラス、アルカリ含有アルミノホウケイ酸ガラス、アルカリ含有ホウケイ酸ガラスおよびアルカリ含有ガラスセラミックスからなる群より選択されるガラスから作製されるガラスシートを提供し;
シートの表面から少なくとも40μmの深さで、ガラスの表面中のNaおよび/またはLiイオンをより大きいアルカリイオンにイオン交換することによりガラスシートを化学強化し;および
ガラス物品を作製するために必要に応じて切断および研磨することによりシートを仕上げる、
各工程を含み、
仕上げられると、前記ガラス物品は、ビッカースインデンターを使用してガラスに荷重をかける際に放射状の亀裂の開始がないことにより測定される少なくとも2000gの損傷耐性限界を有する、
ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2011−510903(P2011−510903A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545869(P2010−545869)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/000721
【国際公開番号】WO2009/099614
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】