説明

搬送ローラ、及びそれを用いた光学フィルムの製造方法

【課題】例えば、光学フィルムを薄膜化した場合でも、光学フィルムを安定に搬送でき、光学フィルムに皺や擦り傷等の面状欠陥が発生するのを抑制できる。
【解決手段】
帯状フィルムを搬送する搬送ローラ26であって、搬送ローラ26は、中央部60の径よりも両端部62の径の方が大きくなるように形成された段付ローラであるとともに、両端部62のローラ表面は、帯状フィルムを保持するための保持機構を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ローラ、及びそれを用いた光学フィルムの製造方法に係り、特に、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、陰極間表示装置(CRT)等の画像表示装置に用いられる光学フィルムの製造工程において、該光学フィルムの搬送を行う搬送ローラ、及びそれを用いた光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学フィルムの需要が増加しつつある。この光学フィルムとしては、液晶セルに位相差板として使用される光学補償フィルムや、反射防止フィルム、防眩性フィルム等の各種の機能を有するフィルムが代表的である。
【0003】
このような光学フィルムの製造方法の代表的なものとして、帯状フィルムを搬送ローラで連続的に搬送させながら、該帯状フィルムの表面に各種塗布装置を使用して塗布液を塗布し、これを乾燥させ、その後に硬化させて各種組成の塗布膜(機能性膜)を形成する方法が挙げられる。しかしながら、この帯状フィルムを搬送する際に、擦り傷や皺、カール等の面状欠陥が生じることが多く、得られたフィルムの面質を損なうことが問題であった。
【0004】
この対策としては、例えば、特許文献1には、長尺基材を走行させながら薄膜を連続形成する際に、長尺基材を送るロールとして、逆クラウンロールや段付きロールを用いることにより、長尺基材にかかる余分なテンションを幅方向の端部側に分散させ、長尺基材に皺が生じるのを抑制する方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、光学用途として用いるポリマーフィルムを溶液製膜方法により製造する際、中央部よりも径が大きく形成された段付きローラを使用することにより、流延膜の幅方向に皺やカールが生じるのを抑制する方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献3では、液晶表示部材に使用される光学フィルムを薄膜化する際に、光学フィルムの膜厚及び膜厚変動を所定範囲内とすることにより、皺の発生を抑制し、歩留まりを向上させることが提案されている。
【特許文献1】特開平11−310652号公報
【特許文献2】特開2005−111969号公報
【特許文献3】特開2000−212298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、液晶表示装置に用いられる各種光学フィルム(光学補償フィルム等)は薄膜化が進んでおり、上記特許文献1〜3を適用しても、帯状フィルムの搬送時に生じる擦り傷や皺、カール等の面状欠陥を抑制するのは一層困難となっている。
【0008】
また、従来のように、帯状フィルムを安定に搬送するため、平滑ロール全面に保持力を付与させるべく凹凸面を形成すると、帯状フィルム全面に擦り傷が付き易いという問題もあった。このような皺や擦り傷等の面状欠陥は、特に薄膜化された光学フィルムでは、表示品位を著しく低下させる要因となり、好ましくない。なお、これらの面状欠陥は、光学フィルムに限らず、擦り傷、皺、カール等がフィルムの品質上問題となるフィルム製品についても同様である。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、薄膜化したフィルムの場合でも安定に搬送でき、フィルムに擦り傷や皺、カール等の面状欠陥が発生するのを抑制できるので、特に光学フィルムの搬送に好適な搬送ローラ、及びそれを用いた光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、帯状フィルムを搬送する搬送ローラであって、前記搬送ローラは、中央部の径よりも両端部の径の方が大きくなるように形成された段付ローラであるとともに、前記両端部のローラ表面は、前記帯状フィルムを保持するための保持機構を備えたことを特徴とする搬送ローラを提供する。
【0011】
請求項1によれば、中央部の径よりも両端部の径の方が大きくなるように形成された段付ローラにおいて、両端部に帯状フィルムの保持機構を備えるようにしたので、帯状フィルムを両端部のみで安定にグリップすることができる。また、搬送ローラの全面に保持機構(凹凸面等)を備える必要がないので、帯状フィルム全面にわたって皺や擦り傷等が形成されるのを抑制できる。したがって、例えば、光学フィルムを薄膜化した場合でも、皺や擦り傷等の欠陥のない良好な面質の光学フィルムを得ることができる。
【0012】
なお、請求項1において、保持機構としては、帯状フィルムに対する摩擦係数が高く、充分なグリップ力のある高摩擦部であり、例えば、粘着性部材、弾性部材、凸凹部材等で構成される場合を含む。
【0013】
請求項2は請求項1において、前記搬送ローラの両端部の径は、前記中央部の径よりも0.01〜5mm大きいことを特徴とする。
【0014】
請求項2によれば、光学フィルムが幅方向中央部に縮まろうとするのを抑制し、かつ径差部で斜め皺が発生するのを抑制できる。なお、搬送ローラの両端部の径は、中央部の径よりも0.01〜2mm大きいことがより好ましい。
【0015】
請求項3は請求項1又は2において、前記保持機構は、前記両端部のローラ表面に粘着力を発生させる機構であることを特徴とする。
【0016】
請求項3によれば、保持機構は粘着力を有するので、帯状フィルムを損傷させることなく、安定にグリップできる。
【0017】
請求項4は請求項3において、前記粘着力は、10〜150hPaであることを特徴とする。
【0018】
これにより、搬送ローラの保持機構は、適切な粘着性と剥離性とを兼ね備えるので、帯状フィルムを安定に搬送できる。なお、粘着力は、50〜100hPaであることがより好ましい。
【0019】
請求項5は請求項3又は4において、前記搬送ローラの回転方向において、前記粘着力の誤差が20%以下であることを特徴とする。
【0020】
搬送ローラの回転方向で粘着力の誤差が大きいと、帯状フィルムのグリップ力が回転に伴い変化するため、帯状フィルムの搬送が不安定になり易く好ましくない。請求項5の上記範囲とすることにより、このような不具合をなくすことができる。
【0021】
請求項6は請求項1〜5の何れか1項において、前記両端部の少なくともローラ表面は、ゴム部材により構成されるとともに、該ゴム部材のゴム硬度が5〜50度であることを特徴とする。
【0022】
請求項6によれば、ゴム部材は、適切な粘着性と剥離性とを兼ね備えているので好ましい。
【0023】
請求項7は請求項6において、前記搬送ローラの回転方向において、前記ゴム硬度の誤差が20%以下であることを特徴とする。
【0024】
搬送ローラの回転方向でゴム硬度の誤差が大きいと、帯状フィルムを搬送ローラに巻き掛けた際に、段付ローラの中央部と両端部との径差が変化したり、グリップ力が回転に伴い変化したりし、帯状フィルムの搬送が不安定になり易く好ましくない。請求項7の上記範囲とすることにより、このような不具合をなくすことができる。
【0025】
請求項8は請求項1〜7の何れか1項において、前記両端部のローラ表面は導電性を有するとともに、前記帯状フィルムと接触した後の前記両端部のローラ表面における帯電量が絶対値で2.0kV以下であることを特徴とする。
【0026】
これにより、搬送時に帯状フィルムと搬送ローラとが接触することで、静電気や摩擦によりゴミや塵が搬送ローラに付着するのを抑制できる。なお、上記の帯電量は、帯状フィルムを速度20〜60m/分で搬送させ、静電気電圧計(シシド静電気製;STATIRON−DZ3)を帯状フィルムに近接させて測定した値である。
【0027】
請求項9は請求項1〜8の何れか1項において、前記保持機構は、前記両端部のローラ表面に非平滑面を付与する機構であることを特徴とする。
【0028】
請求項9において、非平滑面には、粗面(マットタイプ)、溝、ディンプルタイプの面を含む。
【0029】
請求項10は請求項9において、前記非平滑面は、複数の溝を備えていると共に、前記溝ピッチが0.1〜10mmであることを特徴とする。
【0030】
これにより、帯状フィルムの両端を安定に保持できるだけでなく、特に、帯状フィルムを高速で搬送する際に生じ易い空気の巻き込みを防止し、搬送ローラの接触面上で帯状フィルムが滑ることにより、擦り傷が発生することを抑制できる。なお、請求項10において、溝ピッチが0.5〜5mmであることがより好ましい。
【0031】
請求項11は請求項9又は10において、前記非平滑面は、平滑面に凹部が形成されてなり、該凹部比率が20〜80%であることを特徴とする。
【0032】
このように、搬送ローラの両端部の表面に複数の凹部を形成することで、帯状フィルムを面で保持でき、かつ高摩擦力により安定にグリップできる。したがって、帯状フィルムを損傷することなく安定に搬送できる。
【0033】
請求項12は請求項1〜11の何れか1項において、前記帯状フィルムは、光学フィルムであることを特徴とする。
【0034】
このような光学フィルムとしては、例えば、液晶表示板用の光学補償フィルム、反射防止フィルム、防眩性フィルム等の各種機能を有するフィルムを含むものである。
【0035】
請求項13は請求項12において、前記光学フィルムは、光学補償フィルムであることを特徴とする。
【0036】
このように、傷が付き易く、皺になり易い薄膜化した光学補償フィルムを製造する際に、本発明が特に有効である。なお、光学補償フィルムの膜厚は、20〜110μmである。
【0037】
本発明の請求項14は前記目的を達成するために、連続走行する帯状フィルム上に光学機能層を塗布する工程と、該塗布した光学機能層を乾燥する工程と、前記光学機能層を硬化させる工程と、を少なくとも含む光学フィルムの製造工程において、前記帯状フィルムの搬送に請求項1〜13の何れか1項に記載の搬送ローラを用いることを特徴とする光学フィルムの製造方法を提供する。
【0038】
ここで、光学機能層を硬化させる工程には、光重合や熱重合を行う工程等を含むものとする。
【0039】
請求項15は請求項14において、前記両端部における前記帯状フィルムの保持幅が、前記帯状フィルムの全幅に対して0.1〜10%であることを特徴とする。
【0040】
これにより、帯状フィルムの中央部に皺や擦り傷等を生じさせることなく、帯状フィルムの両端部で安定にグリップし、搬送できる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、例えば、光学フィルムを薄膜化した場合でも、光学フィルムを安定に搬送でき、光学フィルムに皺や擦り傷等の面状欠陥が発生するのを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下添付図面に従って、本発明に係る搬送ローラ、及びそれを用いた光学フィルムの製造方法の好ましい実施の形態について説明する。
【0043】
まず、本発明における光学フィルムの製造方法について説明する。
【0044】
図1は、本発明の搬送ローラを組み込んだ光学補償フィルム(光学フィルム)の製造工程10の概略図である。なお、光学補償フィルムの製造工程10における搬送ローラの配置形態は、図1の態様に限定されないものとする。
【0045】
図1に示すように、光学補償フィルムの製造工程10は、主に、配向膜形成工程12と、該配向膜上にラビング処理を施すラビング処理工程14と、該ラビング処理後に液晶層形成工程16と、を備えている。
【0046】
フィルムの長尺ロール(フィルムロール)20から送出機22により送り出された長尺状の透明フィルム24aは、搬送ローラ26により搬送され、表面除塵機28により除塵された後、配向膜形成工程12に送られる。
【0047】
配向膜形成工程12では、塗布機30により配向膜形成用樹脂を含む塗布液が塗布され、乾燥ゾーン32で乾燥され、樹脂層が透明フィルム24a表面上に形成される。そして、該透明フィルム24aは、更にラビング処理工程14へ送られる。なお、ここで得られたフィルムは一旦巻き取ってもよい。
【0048】
ラビング処理工程14では、ラビングローラ34、スプリングでローラステージに固定されたガイドローラ36及びラビングローラに備え付けられた除塵機37よりなるラビング装置により、配向膜形成用樹脂層を有する透明フィルム24bにラビング処理が施される。これにより、形成された配向膜の表面は、ラビング装置に隣接して設けられた表面除塵機38により除塵される。ラビング装置は、上記以外の公知の装置を使用してもよい。除塵された後、配向膜が形成された透明フィルム24cは、搬送ローラ40により搬送され、更に液晶層形成工程16へ送られる。
【0049】
液晶層形成工程16では、透明フィルム24cの配向膜上に、液晶性ディスコティック化合物を含む塗布液が塗布機42により塗布され、次いで、溶剤を蒸発させた後、加熱ゾーン44において、塗布層をディスコティックネマティック相形成温度に加熱される(ここで塗布層の残留溶剤も蒸発する)。これにより、ディスコティックネマティック相の液晶層が形成される。
【0050】
上記液晶層は、次いで、紫外線(UV)ランプ46により紫外線が照射され、液晶層は架橋する。液晶層を架橋させるためには、液晶性ディスコティック化合物として架橋性官能基を有する液晶性ディスコティック化合物を使用する必要がある。架橋性官能基を有しない液晶性ディスコティック化合物を用いた場合、この紫外線照射工程は省略され、直ちに冷却される。この場合、ディスコティックネマティック相が冷却中に破壊されないように、冷却は急速に行なう必要がある。
【0051】
配向膜及び液晶層が形成された透明フィルムは、検査装置48により透明フィルム表面の光学特性が測定され、異状がないかどうか検査が行なわれる。次いで、液晶層表面に保護フィルム50がラミネート機52によりラミネートされ、巻き取り装置54に巻き取られる。
【0052】
このような光学補償フィルムの製造工程10において、透明フィルム24a〜24cを搬送ローラ26、40等で搬送する際、透明フィルム24a〜24cが薄膜化すると、皺が生じたり、擦り傷が形成されたりするなど、不具合を生じ易い。
【0053】
このため、本発明では、搬送ローラ26、40を、両端部の径が中央部よりも大きく形成されている段付ローラとし、更に、両端部に透明フィルム24a〜24cを保持する保持機構を備える構成とした。
【0054】
以下、本発明に係る搬送ローラについて説明する。なお、搬送ローラ26、40はともに同様の構成であるため、搬送ローラ40の説明は省略する。
【0055】
図2は、本実施形態の搬送ローラ26を説明する概略図である。図2に示すように、本実施形態の搬送ローラ26は、中央部60よりも両端部62の径が大きく形成された段付ローラであり、両端部62のローラ表面には、透明フィルム24a〜24cを保持する保持機構としての粘着性部材64が備えられている。
【0056】
中央部60の径Z1と両端部62の径Z2との差(以下、「径差」という)は、0.01〜5mmに形成されることが好ましく、0.01〜2mmに形成されることがより好ましい。すなわち、径差が0.01mmよりも小さすぎると、搬送ローラ26の両端部62における透明フィルム24a〜24bの保持力が小さくなるだけでなく、透明フィルム24a〜24cとの隙間がほとんどなくなるため、同伴エアを排除できなくなる。このため、搬送ローラ26が空回りし、透明フィルム24a〜24cに傷を付ける虞があり、好ましくない。また、径差が5mmを越えると、径差部分で透明フィルム24a〜24cにツレ状の斜め皺又は切れ目が発生し、透明フィルム24a〜24cを損傷したり、搬送を不安定にしたりし易く、好ましくない。
【0057】
中央部60の幅W1は、透明フィルム24a〜24cの幅Wfに対して、20mm以上100mm以下の範囲で短く形成されていることが好ましい。
【0058】
搬送ローラ26の中央部60の径Z1は、φ70≦Z1≦φ110の範囲とするのが好ましい。
【0059】
搬送ローラ26の両端部62表面は、例えば、シート状の粘着性部材が貼り付けられたり、粘着性材料が塗布されたりすることにより粘着層が形成されている。
【0060】
粘着性部材64としては、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、キシレン樹脂、アルキルフェノール樹脂、クマロンインデン樹脂等の粘着付与剤、ゴム系、アクリル系、シリコーン系樹脂等の粘着性材料等が使用でき、特に粘着性ゴム系樹脂が好ましい。
【0061】
粘着性部材64の粘着力は、10〜150hPaであることが好ましく、50〜100hPaであることがより好ましい。粘着力は、例えば、所定サイズのステンレス端子を搬送ローラ26の粘着性部材表面に一定時間、一定圧力で押し付けた後、一定速度で引き上げたときの剥離時の最大荷重により測定できる(詳しくは実施例B参照)。また、透明フィルムの保持力を均一かつ安定に維持する観点から、粘着力の(搬送ローラ26の)回転方向の誤差は20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0062】
また、粘着性部材として粘着性ゴム系樹脂を用いた場合、JIS−A硬度によるゴム硬度は5〜50度であることが好ましく、20〜40度であることがより好ましい。JIS−A硬度とは、Shore社製ジュロメーターAにより測定される値であり、JIS−K−6253記載の加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法により得られる値である。
【0063】
ゴム硬度の(搬送ローラ26の)回転方向での誤差は、20%以下であることが好ましい。これは、粘着性ゴム系樹脂の(搬送ローラ26の)回転方向におけるゴム硬度の誤差が20%を超えると、透明フィルムを巻き掛けて搬送ローラ26を回転させたときに、径差の変動に伴って保持力も変動し、搬送が不安定になり易いためである。
【0064】
また、粘着性ゴム系樹脂と透明フィルムが接触すると静電気が起こり易く、これにより、透明フィルムに塵やゴミ等の異物が付着し易くなり、透明フィルムを損傷させたり、搬送を不安定にしたりする原因となる。
【0065】
このため、粘着性部材64に導電性を付与し、帯電を防止することが好ましい。具体的には、透明フィルムと一定時間接触した後の粘着性部材の帯電量が絶対値で2.0kV以下であることが好ましい。粘着性部材の帯電量は、静電気電圧計等で測定できる。
【0066】
導電性を付与する方法として、粘着性ゴム系樹脂中に導電性材料、例えば、導電性カーボンファイバーや導電性カーボンブラックを含有させることが好ましい。また、粘着性部材の導電性を均一かつ効率よく向上させるために、上記導電性カーボンブラック、導電性カーボンファイバーを併用することがより好ましい。すなわち、ゴム系樹脂中では、導電性カーボンブラックの粒子は個々に分離独立して絶縁された状態で分散しているため、それらの粒子間が接近する程度に多量配合しなければ導電パスが充分に形成できない一方、多量配合しすぎると粘着性が低下する。このため、導電性カーボンファイバーを配合することにより、分散している導電性カーボンブラックを電気的に連結することができる。
【0067】
導電性カーボンブラックとしては、平均粒径が20〜50μmのアセチレンブラック又はケッチェンブラックを好ましく使用でき、導電性カーボンファイバーとしては、繊維長が10mm以下、好ましくは2〜6mmのものを使用できる。
【0068】
ゴム系樹脂に配合される上記導電性材料の量は、ゴム系樹脂の粘着性、及び導電性を両立する範囲にすることが好ましく、5〜40質量%であることが好ましい。なお、導電性材料は、上記導電性カーボンに限定されない。
【0069】
搬送ローラ26の中央部60の表面は、透明フィルム24aと接触しても該透明フィルム24aを損傷させない平滑面となっている。搬送ローラ26の中央部60の材質は、特に限定されないが、透明フィルム24aの品質に悪影響を与えず、かつ摩擦力が小さいものが好ましい。
【0070】
次に、本発明に係る搬送ローラ26の作用について図3を用いて説明する。図3は、図1の搬送ローラ26により透明フィルム24aが搬送されている様子を示す模式図である。
【0071】
図4に示すように、透明フィルム24aは、その両端部が搬送ローラ26の両端部62、62表面に形成された粘着性部材64、64により、高摩擦力で保持されながら搬送される。このとき、透明フィルム24aと両端部62表面に形成された粘着性部材64との保持幅Xは、透明フィルム24aの全幅Wfに対して0.1〜10%となるように設定される。
【0072】
これにより、透明フィルム24aの両端部を粘着性部材64、64による高摩擦力で保持することができ、安定に搬送することができる。また、透明フィルム24aと搬送ローラ26との間に空隙61が形成されるので、同伴エアを除去でき、搬送ローラ26が空回りして透明フィルム24aを損傷するのを抑制できる。なお、透明フィルム24aの中央付近は、搬送ローラ26の中央部60の摩擦力の小さい平滑面と接触するので、透明フィルム24aが損傷することもない。
【0073】
以上のように、透明フィルム24aの表面に擦り傷や皺を生じさせることなく、両端部のみで透明フィルム24aを安定に保持して搬送することができる。したがって、皺や擦り傷のない面質の良好な光学フィルムを得ることができる。
【0074】
図4は、搬送ローラの他の実施形態を説明する概略図である。このうち、図4(A)は、搬送ローラ26’を説明する概略図であり、図4(B)は、図4(A)の両端部62の表面部分を示す拡大模式図である。
【0075】
図4の搬送ローラ26’は、その両端部62に、粘着性部材64の代わりに複数の平行な溝68(非平滑面)を備えたこと以外は図2とほぼ同様に形成されている。なお、図5において、前述した実施形態と同様の機能を有する部材には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0076】
搬送ローラ26’の両端部62表面には、SGR構造状(螺旋状)に複数の溝68が形成される。この溝深さdは、0.01〜2.0mmの範囲であるのが好ましく、溝ピッチpは、0.5〜5mmであるのが好ましく、溝幅bは、0.1〜2mmであるのが好ましい。なお、溝の形状は、図5の態様に限定されない。
【0077】
搬送ローラ26’の両端部62の材質は、特に限定されないが、搬送ローラ26’の中央部60と同じ材質や、粘着性部材等を好ましく使用できる。
【0078】
このように構成することにより、搬送ローラ26’の両端部62、62の高い摩擦力により、透明フィルム24aを安定に把持しながら搬送することができる。さらに、透明フィルム24aの搬送により生じる同伴エアを、上記溝の凹部と透明フィルム24aとの間に形成される隙間から除去することができるので、透明フィルム24aが搬送ローラ26’から浮上し、空回りするのを抑制できる。
【0079】
以上、本発明に係る搬送ローラ、及びそれを用いた光学フィルムの製造方法の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
【0080】
たとえば、上記図4の実施形態では、非平滑面として、複数の平行な溝を形成するだけでなく、両端部62の表面に微細な凸凹(マット、粗面ともいう)を付与してもよい。凸凹面は、ガラスビーズ、サンドブラスト処理等により形成できる。また、両端部62の表面に凹部を形成した後、表面を研磨して面接触させるディンプルタイプとしてもよい。この場合、凹部比率は20〜80%にすることが好ましい。これにより、搬送ローラの両端部において、透明フィルム24aを損傷させることなく、安定に保持できる。また、上記各実施形態を、任意に組み合わせることもできる。
【0081】
また、上記実施形態では、光学補償フィルムの製造工程10に、本発明に係る搬送ローラを組み込んだ例について説明したが、これに限定されず、その他の薄膜状フィルム、例えば、光学補償フィルム用の基材フィルム、反射防止フィルム、各種画像表示装置に使用される光学用途の薄膜状フィルムの製造、搬送工程にも適用できる。
【実施例】
【0082】
本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
本実施例では、透明フィルム24aとして、厚さ80μm、幅1470mmのトリアセチルセルロースフイルム(フジタック、富士フイルム(株)製)の透明フィルムを使用した。また、搬送ローラ26としては、中央部60の径Z1が90mmであり、材質がアルミのものを使用した。
【0084】
[実施例A]
(実施例1)
まず、搬送ローラ26の中央部60と両端部62との径差と、透明フィルム24aの保持力との関係について以下のように調べた。
【0085】
径差が0.12mmであり、両端部62の粘着力が80hPaである粘着性部材を備えた搬送ローラ26を使用した。この搬送ローラ26を、光学フィルムの製造ライン10に配置し、透明フィルム24aを180°で抱かせて搬送を開始させた。このとき、搬送ローラ26を、静止状態から2段階の加速レート(0.083、0.167m/秒)で始動させて、透明フィルム24aに皺や擦り傷等を生じさせずに安定に搬送できるテンション及びラップ角度を測定した。なお、透明フィルム24aの搬送速度は、150m/分とした。
【0086】
この結果を図5(A)、図5(B)に示す。また、図5(B)において、テンションが最も低い場合(70N)の各搬送ローラのラップ角度θ(99°、57°、32°及び14°)を図6に示す。
【0087】
(実施例2)
搬送ローラ26の径差を0.2mmに設定した以外は実施例1と同様とした。
【0088】
(実施例3)
表面が平滑なフラットローラの両端部に、厚さ80μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)テープを巻き付けた搬送ローラ(径差80μm)を使用したこと以外は、実施例1と同様とした。
【0089】
(比較例1)
表面が平滑で、径差のないフラットローラを使用したこと以外は、実施例1と同様とした。
【0090】
図5(A)に示すように、加速レートが0.083m/秒のときは、比較例1よりも低テンション、低ラップ角度の領域においても、実施例1〜3の搬送ローラは、いずれもスリップや皺は生じなかった。しかし、搬送ローラの径差によるテンション、ラップ角度の違いは不明確であった。
【0091】
次に、加速レートを0.167m/秒にすると、図5(B)に示すように、径差が0.1〜5mmの範囲を満たす実施例1、2の搬送ローラ26は、低ラップ角度でも透明フィルム24aのテンションを高く維持でき、安定に搬送できることがわかった。また、径差が小さい実施例3では、透明フィルム24aの保持力が小さく、実施例1、2よりもラップ角度は高かった。
【0092】
一方、従来の平滑ロールを用いた比較例1では、図5(B)に示すラップ角度、及びテンションの領域では、いずれも透明フィルム24aに皺が発生したり、擦り傷等が発生したりし、安定に搬送できなかった。
【0093】
図6に示すように、低ラップ角度で保持できる方が搬送ローラ26と透明フィルム24aとの接触領域が小さく、擦り傷や皺、カール等の面状欠陥の発生を確実に抑制できることがわかる。
【0094】
以上から、径差が0.1〜5mmの段付ローラで、かつ両端部に粘着性を付与した本発明の搬送ローラを適用することで、低ラップ角度、低テンション領域でも、皺が発生したり、擦り傷等が発生したりすることなく、安定に透明フィルム24aを搬送できることがわかった。また、低ラップ角度、低テンションなので、搬送ローラにより透明フィルム24aに皺や傷が付きにくいことがわかった。
【0095】
[実施例B]
次に、図2の搬送ローラ26の両端部62に粘着力の異なる粘着層を形成した搬送ローラ26を作製した。この粘着層の組成は、ウレタン系、ポリオレフィン系素材に、静電気中和繊維や界面活性剤を配合したものである。
【0096】
図2の搬送ローラ26の両端部62、62の表面に粘着層を形成し、図1の光学補償フィルムの製造工程10に配置した。そして、搬送速度150m/分で搬送させた後の透明フィルム24aの面質を目視で観察し、皺や擦り傷等の発生の有無を調べた。なお、粘着力は、後述する図8の方法で、搬送ローラ26の両端部62表面の粘着層の粘着力を測定した。また、フィルム面質の評価方法は、目視により皺や擦り傷等の有無を観察することにより行った。この結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1に示すように、粘着力を付与した実施例1〜9では、透明フィルム24aを安定に保持しながら搬送でき、目立った皺や擦り傷はみられなかった。その一方、粘着力を付与しなかった比較例1では、安定に透明フィルム24aを保持できず、皺や擦り傷がみられた。
【0099】
また、粘着力が10〜150hPaの範囲であれば、透明フィルム24aの両端部で安定に保持しながら搬送でき、透明フィルム24aに皺や擦り傷等はほとんどみられなかった。
【0100】
一方、粘着力が10hPa未満であると、やや透明フィルム24aの保持力が低下して搬送が不安定となり、150hPaを超えると、粘着力が高すぎて剥離性が悪く、搬送が不安定となった(実施例8、9)。
【0101】
また、粘着力の誤差、又はゴム硬度の誤差がそれぞれ20%を超える実施例5、7では、搬送安定性がやや低下し、製品として許容される範囲ではあるものの透明フィルム24aの面質も低下した。
【0102】
次に、粘着力が80hPaのときの、粘着力の回転方向、幅方向の誤差を測定した。なお、粘着力の測定方法は、以下のように行った。
【0103】
図7に示すように、平滑ローラの全面に粘着層を形成した測定用粘着ローラ70を用意した。そして、粘着力は、測定用粘着ローラ70の幅方向にA、B、C、D、E、Fの6点(図7(a)参照)、及び回転方向の1、2、3、4の4点(図7(b)参照)について測定し、それらの平均値とした。
【0104】
測定方法としては、図8に示す装置72において、先端面積が10mm×10mmのステンレス端子74を測定用粘着ローラ70に3kgfの圧力で10秒間押し付けた後、200m/分の速度でステンレス端子74を引き上げていき、剥離したときの最大荷重を測定した。この結果を表2に示す。
【0105】
【表2】

【0106】
粘着力は、幅方向の誤差、回転方向の誤差ともに12%以下と極めて小さく、両端部62でグリップすることで、安定して搬送することができた。
【0107】
[実施例C]
次に、粘着性ゴム系樹脂に導電性材料を配合して形成した導電性粘着ローラ(クリーンダッシュE、テクノロール製)を用意した。
【0108】
そして、上記導電性粘着ローラのニップ圧と透明フィルム24aの搬送速度を変えたときの、導電性粘着ローラにおける帯電量を測定した。
【0109】
帯電量は、図1において、透明フィルム24aを速度20〜60m/分で搬送し、導電性粘着ローラにおける帯電量の絶対値を、静電気電圧計により測定した。この結果を表3に示す。
【0110】
【表3】

【0111】
表3に示すように、いずれも接触後の導電性粘着ローラの帯電量は、最大でも−0.03kVしか帯電せず、絶対値で2.0kV以下(目標範囲)を満たすことがわかった。これにより、搬送ローラの表面を除電するための除電器を新たに設置しなくても、透明フィルム24aに静電気が発生するのを抑制できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明が適用される光学補償フィルムの製造工程を示す概略図である。
【図2】本発明に係る実施形態における搬送ローラを示す概略図である。
【図3】図2の作用を説明する図である。
【図4】本発明のその他の実施形態における搬送ローラを示す概略図である。
【図5】本実施例の結果を示すグラフ図である。
【図6】本実施例における粘着性ローラのラップ角度を示す図である。
【図7】本実施例における粘着性ローラを説明する説明図である。
【図8】本実施例における粘着性ローラの測定装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0113】
10…光学補償フィルムの製造工程、24a、24b、24c…透明フィルム(光学フィルム)、26、26’、40…搬送ローラ、60…中央部、62…両端部、64…粘着性部材(保持機構)、68…溝(保持機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状フィルムを搬送する搬送ローラであって、
前記搬送ローラは、中央部の径よりも両端部の径の方が大きくなるように形成された段付ローラであるとともに、前記両端部のローラ表面は、前記帯状フィルムを保持するための保持機構を備えたことを特徴とする搬送ローラ。
【請求項2】
前記搬送ローラの両端部の径は、前記中央部の径よりも0.01〜5mm大きいことを特徴とする請求項1に記載の搬送ローラ。
【請求項3】
前記保持機構は、前記両端部のローラ表面に粘着力を発生させる機構であることを特徴とする請求項1又は2に記載の搬送ローラ。
【請求項4】
前記粘着力は、10〜150hPaであることを特徴とする請求項3に記載の搬送ローラ。
【請求項5】
前記搬送ローラの回転方向において、前記粘着力の誤差が20%以下であることを特徴とする請求項3又は4に記載の搬送ローラ。
【請求項6】
前記両端部の少なくともローラ表面は、ゴム部材により構成されるとともに、該ゴム部材のゴム硬度が5〜50度であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の搬送ローラ。
【請求項7】
前記搬送ローラの回転方向において、前記ゴム硬度の誤差が20%以下であることを特徴とする請求項6に記載の搬送ローラ。
【請求項8】
前記両端部のローラ表面は導電性を有するとともに、前記帯状フィルムと接触した後の前記両端部のローラ表面における帯電量が絶対値で2.0kV以下であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の搬送ローラ。
【請求項9】
前記保持機構は、前記両端部のローラ表面に非平滑面を付与する機構であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の搬送ローラ。
【請求項10】
前記非平滑面は、複数の溝を備えていると共に、前記溝ピッチが0.1〜10mmであることを特徴とする請求項9に記載の搬送ローラ。
【請求項11】
前記非平滑面は、平滑面に凹部が形成されてなり、該凹部比率が20〜80%であることを特徴とする請求項9又は10に記載の搬送ローラ。
【請求項12】
前記帯状フィルムは、光学フィルムであることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の搬送ローラ。
【請求項13】
前記光学フィルムは、光学補償フィルムであることを特徴とする請求項12に記載の搬送ローラ。
【請求項14】
連続走行する帯状フィルム上に光学機能層を塗布する工程と、該塗布した光学機能層を乾燥する工程と、前記光学機能層を硬化させる工程と、を少なくとも含む光学フィルムの製造工程において、
前記帯状フィルムの搬送に請求項1〜13の何れか1項に記載の搬送ローラを用いることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記両端部における前記帯状フィルムの保持幅が、前記帯状フィルムの全幅に対して0.1〜10%であることを特徴とする請求項14に記載の光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−174378(P2008−174378A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11630(P2007−11630)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】