説明

搬送台車

【課題】搬送台車における従来のスライドドアの駆動機構を踏襲しつつ、比較的簡単な構造の改変だけでキャビンの密閉性や遮音性を有効に高めた搬送台車を提供する。
【解決手段】キャビンの開口部の近傍に、スライドドア3の前方を支持する前レール51,61及び後方を支持する後レール52,62を上下に対をなして設け、これらの前レール51,61及び後レール52、62に、スライドドア3を前後方向に誘導する第1領域51a、61a、52a、62aおよび当該スライドドア3を前後方向に対して角度のある方向に誘導する第2領域51b、61b、52b、62bを設けて、エアシリンダの駆動力により、開放位置にあるスライドドア3を閉止位置に引き込んで開口部の縁部に密着させ、その状態を維持するとともに、閉止位置にあるスライドドア3を開放位置にまで移動させ、その状態を維持するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビンの密閉性や遮音性を、スライドドアの開閉動作を利用して有効に高め得るようにした搬送台車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の搬送台車として、車輪に支持された車体フレームと、この車体フレームの端部に配置されて運転席等が内装されたキャビン(運転室)とを備えてなる大型の搬送台車が知られている。
【0003】
このものは、倉庫や坑道、港湾といったさまざまな場所で、鉄鋼、建材、大形コンテナなどの超重量搬送物の搬送を行うものである。このような大型の搬送台車は一般的な自動車や特殊車両とは異なり、前進、後進を頻繁に繰り返すため、キャビンは走行方向の両端部に設けられ、作業員は進行方向に応じて前端側となるキャビンに乗り込んで搬送台車を運転する。搬送台車の往来頻度は一般的な自動車の比ではないため、作業員のスムーズな乗り降りを担保することが不可欠であり、荷役の妨げになってはならないことも考慮して、キャビンの開口部にエアシリンダで駆動されて前方に引出せるスライドドアが取り付けられているものがある。特許文献1は、車両の種類は異なるものの、このようなスライドドアを備えた特殊車両が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−85224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このようなスライドドアは通常、エアシリンダを駆動源とし、直線レールに沿ってキャビンの開口部を閉止する位置と開放する位置との間でスライド動作を行うように構成される。すなわち、閉止時には、閉止側の側縁がキャビンの開口部を塞ぐ位置までスライドし、開口部周辺の一部に突き当たって停止するだけであり、ドアの周囲の至るところに隙間が存在する。このため、閉止時におけるスライドドアの密閉性が低く、キャビン内が大きな騒音に晒されて、作業環境が劣悪になっているという問題がある。
【0006】
スライドドアを厚み方向に引き寄せて、ロック爪を厚み方向に係合させるようにしたドアロック機構を採用することも考えられるが、このように構成する場合、ロック爪のほか、ロック爪を作動させるための機構が必要になり、構造が複雑で部品点数も増え、故障時の対応が大変になるほか、スライドドアの開閉スピードを低下させる要因ともなる。
【0007】
自動車の一部には、電動によって乗り降りの開口部を開閉するスライドドアを採用し、更に閉止位置でスライドドアを開口部の縁部に引き込んでロックする機構を備えたものがあるが、更に構造が複雑化する上に電動駆動のために開閉スピードも著しく低下し、更に高頻度の開閉動作に対する耐久性が考慮されていないため、この種の搬送台車への適用の可能性を考慮する余地はない。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、この種の搬送台車における従来のスライドドアの駆動機構を踏襲しつつ、比較的簡単な構造の改変だけでキャビンの密閉性や遮音性を有効に高め、これによりキャビン内の作業環境を有効に向上させた搬送台車を新たに提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0010】
すなわち、本発明の搬送台車は、路上を走行可能な台車本体と、この台車本体の走行方向両端部に配置されて側方に乗り降りのための開口部を有するキャビンと、このキャビンの開口部に対して閉止位置と開放位置との間でスライド可能なスライドドアと、前記キャビンの一部と前記スライドドアの一部とを接続して当該スライドドアを開閉駆動するエア駆動式のアクチュエータとを具備してなるものにおいて、前記キャビンの開口部の近傍に、スライドドアの前方を支持する前レール及び後方を支持する後レールを上下に対をなして設け、これらの前レール及び後レールに、スライドドアを前後方向に誘導する第1領域および当該スライドドアを前後方向に対して角度のある方向に誘導する第2領域を設けて、前記アクチュエータの駆動力により、開放位置にあるスライドドアを第1領域に沿って移動させた後に第2領域に沿って閉止位置に引き込んで開口部の縁部に密着させ、その状態を維持するとともに、閉止位置にあるスライドドアを第2領域に沿って引出した後に第1領域に沿って開放位置にまで移動させ、その状態を維持するように構成したことを特徴とする。
【0011】
ここに言う「前」、「後」は、キャビンを基準にして前進方向を「前」、その逆を「後」とする。したがって、台車本体の一端部に位置するキャビンと他端部に位置するキャビンとでは前後が逆になる。前レール及び後レールは機能的なものであって、構造的に分離している必要はない。
【0012】
以上のように構成すると、開閉駆動力を利用してスライドドアと開口部の縁部との密着度が高められるので、簡易な構造であってもキャビン内の密閉性、遮音性を有効に向上させることができる。しかも、従来のエア駆動式のアクチュエータをそのまま利用し、従来の構成に対してレールの形状を若干改変すれば閉止位置への誘導とその位置でスライドドアを開放不能とするドアロック機構の役割を果たすことができるため、大幅な設計変更を要さずしてキャビンの密閉性、遮音性を有効に向上させることができ、エア駆動による高速性や耐久性も有効に担保することができる。また、いたずらに構造を複雑化することがないため、堅牢であり、破損してもドアロック機構等を有しないため部品交換を容易に行うことができる。
【0013】
アクチュエータに、直線状に出力端を進退させるエアシリンダを採用するためには、スライドドアが厚み方向に変位することを考慮して、このエアシリンダの駆動力を、当該エアシリンダの進退方向に対するスライドドアのスライド方向の角度変化を吸収する変位吸収部を介して当該スライドドアに伝達するように構成することが有効である。
【0014】
前レールのキャビンからの突出量を有効に抑えつつ、スライドドアにより開口部を十分に開放すべく開放位置でスライドドアがキャビンから前方に持ち出されるようにするためには、スライドドアの前端部よりも後方よりに前ガイドローラを設け、開放位置でスライドドアの前端部が前レールよりも前方に突出した状態となるようにしていることが望ましい。
【0015】
前ガイドローラを極力後方に位置づけるに伴い、適正なガイド幅を確保するためには、スライドドアの後端側における少なくとも上下何れかの部位より後方に向けて後ガイドローラを持ち出し、この後ガイドローラを後レールに係合させていることが好ましい。
【0016】
後ガイドローラをブラケットを介して持ち出す際に、ブラケットとキャビンの開口部近傍の壁部との干渉を回避しつつ、ブラケットが露出して見栄えを損なうことを防止するためには、キャビンの開口部近傍の壁部に、後ガイドローラを持ち出すためのブラケットを格納する格納部を設け、閉止位置でこの格納部を目隠しする遮蔽板をスライドドア側に設けておくことが望ましい。
【0017】
乗り降りの邪魔にならずに、閉止時における密閉性及び遮音性をより有効に高めるためには、キャビンの開口部の上縁部及び左右の側縁部に第1の弾性密閉部材を設けるとともに、スライドドアの内面側における下縁部に第2の弾性密閉部材を設け、スライドドアの閉止位置において第1の弾性密閉部材と第2の弾性密閉部材とを周回状に連続させ且つこれを圧潰した状態で、スライドドアを開口部の縁部に密着させるように構成していることが効果的である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以上説明した構成であるから、従来のエア駆動式のアクチュエータをそのまま利用し、また従来のレールの形状を若干改変すれば、スライドドアの閉止位置への誘導とその位置でスライドドアを開放不能とするドアロックの機能を実現することができる。このため、大幅な設計変更や構造の複雑化を要さずしてキャビンの密閉性、遮音性を有効に向上させることができ、エア駆動による高速性や耐久性も有効に担保して、作業環境を簡単、適切に向上させた搬送台車としての利用価値を有することになる。また、ドアロック機構等を備えないため、修理等も簡単に行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る搬送台車を示す模式図。
【図2】同実施形態の搬送台車を構成するキャビン周辺の拡大斜視図。
【図3】スライドドアの閉止状態における図2に対応した斜視図。
【図4】同実施形態におけるガイドローラとレールの関係を示す分解斜視図。
【図5】同実施形態におけるエアシリンダとスライドドアとの接続部分を示す部分斜視図。
【図6】同実施形態における下部ガイドローラと下部レールとの関係を示す図。
【図7】同実施形態における上部ガイドローラと上部レールとの関係を示す図。
【図8】同実施形態におけるスライドドアと開口部との閉止構造を示す模式的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
この実施形態の搬送台車は、図1及び図2に示すように、路上を走行可能な台車本体1と、この台車本体1を運転するための運転席を内装したキャビン2と、このキャビン2の開口部21に対して閉止位置と開放位置との間でスライド可能なスライドドア3と、前記キャビン2の一部と前記スライドドア3の一部とを接続して当該スライドドア3を開閉駆動するエア駆動式のアクチュエータであるエアシリンダ4とを具備する。
【0022】
台車本体1は、倉庫や坑道、港湾などにおいて鉄鋼、建材、大形コンテナなどの超重量の搬送物の搬送を行うべく、高強度のフレーム11をタイヤ部12に昇降可能に支持させて構成される。すなわち、この搬送台車1は、搬送物を積載したパレットと称される図示しない門型の搬送用荷台の下に潜り込んでフレーム11によりこれを持ち上げ、その状態を保って移動するものである。台車本体1には、長大な車両が無理なく曲がれるようにステアリング機能が備わる。台車本体1のフレーム11は、一対の垂下壁部11a、11aの間を接続する位置に存する主水平フレーム部11bを主な積荷領域とし、走行機能を司るタイヤ部12のほか、車軸サスペンションばね11cや図示しない昇降機構などが、一対の垂下壁部11a、11aと主水平フレーム部11bとで部分的に囲まれる台車下空間に組み込まれている。主水平フレーム部11bの一部は垂下壁部11aよりも外方に延長フレーム部11dとして延出させてあり、この延長フレーム部11dと前記主水平フレーム部11bとにわたって積荷を積載することも可能とされている。
【0023】
このような搬送台車は頻繁な往来を繰り返すため、前記キャビン2は走行方向の両端部に設けられ、作業員が適時、進行方向の前端側に位置するキャビン2に乗り込むことで、前進・後進を区別なく行うことができる。
【0024】
キャビン2は、台車本体1の延長フレーム部11dにサスペンションばね21を介して懸吊支持させたもので、作業員が運転するためのシートやオペレーションに必要な機器類からなる運転席20が内装されている。すなわち、キャビン2は、台車本体1の垂下壁部11aの前方において延長フレーム11dにオーバーハング状態で吊り下げられて台車本体1とは独立している。
【0025】
キャビン2は、図2に示すように、後壁部22、側壁部23、底壁部24、頂壁部25及び前壁部26によって形成されるもので、走行方向に向かって左右に位置する側壁部23の一方に作業員が乗り降りする開口部21をほぼ矩形状に設けている。そして、キャビン2は上記のように台車本体1から独立しており、スライドドア3に対する開閉機構はこのキャビン2において完結しなければならず、また、荷役の妨げにならないためにスライドドア3は前方へ開放動作させなければならない。このことを踏まえて、この開口部21の近傍に、図2及び図4に示すように、上下に対をなして前レール51,61及び後レール52,62を設けている。ここに言う「前」、「後」は、作業員がキャビン2に乗り込んで前進する方向を基準としているもので、台車本体1の一端部に位置するキャビン2と他端部に位置するキャビン2とでは前後関係が逆になる。
【0026】
この実施形態の前レール51,61及び後レール52,62は、下向きチャネル状のもので、前後方向に直線状に延びる第1領域51a、61a、52a、62aと、この第1領域51a、61a、52a、62aの後部に連続する位置にあって後方に向かいキャビン2側に湾曲しながら次第に角度を変えて延びる第2領域51b、61b、52b、62bとを有している。下部前レール51及び下部後レール52は、図2に示すようにカバー5aによって上方から視認されないように目隠しされており、これらのレール51,52の近傍には後述する車輪71b、72bを転動させるための転動面5bが形成されている。キャビン2は自動車の室内と同様、フロントガラスを含む前壁部26が傾斜していて、頂壁部25よりも底壁部24の方が前後方向に広い構造をなしている。これに伴い、底壁部24の下部前レール51から下部後レール52までのレール全長はキャビン2の底壁部24の前後寸法に略対応しているのに対して、頂壁部25の上部前レール61から上部後レール62までのレール全長はキャビン2の頂壁部25における前後寸法内に収まらない。このため、上部前レール61は、図2に示すように台車本体1の延長フレーム11dよりも突出しない範囲でキャビン2から突出させて当該延長フレーム11dの下方に位置づけてある。上部レール61,62にも前記カバー5aに準じたカバー5cが設けられている。
【0027】
スライドドア3は、前記開口部21を閉止するに足る幅寸法及び高さ寸法のもので、図2、図4、図6等に示すように、下端側の後端部にブラケット72を介して下部後ガイドローラ72a及び後車輪72bが後方に持ち出してあり(図6(a)におけるd1:下部後ガイドローラ72aの持ち出し量、d2:後車輪72bの持ち出し量)、上端側の後端部にはブラケット82を介して上部後ガイドローラ82aが後方に持ち出してある(図7(a)におけるd3:部後ガイドローラ82aの持ち出し量)。また、スライドドア3の下端側の前端部の後方よりにはブラケット71を介して下部前ガイドローラ71a及び前車輪71bが当該スライドドア3の直下に配置してあり(図6(a)におけるd4:下部前ガイドローラ71aの後方への変位量、d5:前車輪71bの後方への変位量)、上端側の前端部の後方よりにはブラケット81を介して上部前ガイドローラ81aが配置してある(図7(a)におけるd6:上部前ガイドローラ81aの後方への変位量)。下部後ガイドローラ72aは下部後レール52に、上部後ガイドローラ82aは上部後レール62に、下部前ガイドローラ71aは下部前レール51に、上部前ガイドローラ81aは上部前レール61に、それぞれ鉛直軸回りに転動可能に係合する関係にある。車輪71b、72bは下レール51,52の近傍の転動面5bに水平軸回りに転動可能に接地する。
【0028】
すなわち、開口部21に対して図2、図6(a)、図7(a)に示す開放位置から、各ガイドローラ71a、72a、81a、82aを各々対応するレール51,52,61,62の第1領域51a,52a,61a,62aにガイドさせながらスライドドア3を後方に移動させて第2領域51b,52b,61b,62bに導き、更にスライドドア3を斜め方向に平行移動させることにより厚み方向に引き込んで、図3、図6(b)、図7(b)に示す閉止位置において開口部21を閉止する位置に移動させるようにしている。このスライドドア3の閉止位置において、キャビン2の筐体内は閉じられた状態となる。この間、車輪71b、72bは転動面5b上を転動してスライドドア3の荷重を支持し、第2領域51b、61b、52b、62bにおいては車輪71b、72bは転動面5bとの間の滑りによってスライドドア3のスライド方向の角度変化を許容する。なお、第2領域51b、61b、52b、62bの湾曲部よりも閉止側の終端部にはストレート部51x、61x、52x、62xが設けてあり、スライドドア3の閉止時に幅方向のガタを低減する役割を果たす。開放時には上記と逆の動作が行われる。
【0029】
本実施形態では、後部下ガイドローラ72aや後車輪72bを持ち出すためのブラケット72がスライドドア3から後方に突出するため、図2に示すようにキャビン2の開口部21に隣接する後方の側壁部23にブラケット72を格納するための格納部23aを設け、図3に示すスライドドア3の閉止位置でこの格納部23aの少なくとも一部を塞ぐ位置に立面を形成する遮蔽板72cを前記ブラケット72に一体化してスライドドア3側に取り付けている。後部上ガイドローラ82aも同様、これを持ち出すためのブラケット82がスライドドア3から後方に突出するため、キャビン2の開口部21に隣接する後方の側壁23にブラケット82を格納するための格納部23bを設け、閉止位置でこの格納部23aの少なくとも一部を塞ぐ位置に立面を形成する遮蔽板82cを前記ブラケット82に一体化してスライドドア3側に取り付けている。遮蔽板72c、82cはフルオープンの状態で開口部21を極力侵さない形状とされる。勿論、遮蔽板72c、82cはブラケット72,82とは別体に設けてもよい。
【0030】
また、キャビン2は前後寸法が限られており、スライドドア3が開口部21から退避して開口部21をフルオープンする図2に示す開放位置で、スライドドア3の前端部は前レール51,61から前方に迫り出した状態となる(図2におけるL:迫り出し量)。このために、図6(a)及び図7(a)に基づいて説明したように下部前ガイドローラ71a及び上部前ガイドローラ81aはスライドドア3の前端部よりも後方に設けてあり、開放位置でそれぞれ下部前レール51及び上部前レール61に係合した状態を維持するようにしている。
【0031】
エアシリンダ4は、台車本体1に備わる図示しない荷役駆動用のエアポンプ(例えば、荷役動作時のブレーキ用のエアポンプ)からエアの供給を受けるように構成されたもので、図2及び図5に示すように、長手方向をキャビン2の前後方向に合致するように配置されて、基端をキャビン2の一部に固定され、第1領域51a、52a、61a、62aの延長方向に沿って直線状に進退動作するその出力端41を動力伝達部8aを介してスライドドア3の前端側の上部に接続している。その際、図7(a)、(b)等に示すように、スライドドア3が開放位置にあるときと閉止位置にあるときでは、スライドドア3は厚み方向に変位する。これに対して、エアシリンダ4の軸線nの位置は一定であるから、スライドドア3が引き込まれる際の厚み方向の変位を動力伝達部8aにおいて吸収する必要がある。
【0032】
そこで前記動力伝達部8aを、図5に示すように、スライドドア3の前端側の上部に鉛直軸m1回りに回動可能に取り付けた前記第1可動ブラケット80と、この第1可動ブラケット80の回動端に鉛直軸m2回りに回動可能に取り付けた第2可動ブラケット83と、この第2可動ブラケット83の一部に設けられてエアシリンダ4の出力端41を貫通保持する接続部84とにより構成し、スライドドア3がキャビン2側へ変位するに伴い第1可動ブラケット80が図7(a)の状態から図7(b)の状態に回動して第2可動ブラケット83をスライドドア3から厚み方向に持ち出して、接続部84の位置及び姿勢がエアシリンダ4の軸線nに対して適切に維持されるようにしている。また、第2可動ブラケット83にはスライドドア3の開放位置で上部前レール61から離脱する位置に補助ガイドローラ83aが設けてある。この補助ガイドローラ83aは、スライドドア3が図7(a)に示す開放位置から同図(b)に示す閉止位置に向かう途中で上部前レール61に係合して、第2可動ブラケット83に設けた接続部84の姿勢をエアシリンダ4との関係で適切に維持する役割を果たす。このため、エアシリンダ4からの駆動力は効率よくスライドドア3に伝達される。動力伝達部8aは、本発明の変位吸収部を構成している。
【0033】
このエアシリンダ4を駆動するにあたり、図2等に示すキャビン2の側壁部23における開口部21の近傍には、その外面側と内面側に、ドア開放状態とドア閉止状態を切り替えるための図示しないスイッチが設けてあり、作業員がドア開放を指示することにより前記エアシリンダ4に圧空を供給して出力端41を突出させ、突出方向の動作端に保持するとともに、ドア閉止を指示することにより前記エアシリンダ4内のエアを吸い出して出力端41を没入させ、没入方向の動作端に保持するようにしている。保持力は、エアシリンダ4を作動し続けてもよいが、当該エアシリンダ4内へのエアの給排路をバルブで遮断してエアシリンダ4内を密閉状態にすること等によって容易に実現することができる。
【0034】
さらに、前記キャビン2の開口部21には、図8(a)に示すように、その上縁部21a及び左右の側縁部21bに第1の弾性密閉部材91a、91bを設けるとともに、スライドドア3の内面側における下縁部3に第2の弾性密閉部材91cを設けており、図8(a)→(b)に示すようにスライドドア3を閉止位置に移動させる際に第1の弾性密閉部材91a、91bと第2の弾性密閉部材91cとを周回状に連続させ且つこれを圧潰した状態でスライドドア3を開口部21の縁部に密着させるようにしている。したがって、スライドドア3は閉止位置で開口部21に食い込むように密着した状態が得られる。開口部21の一方の側縁部21b(図8における紙面手前側の側縁部21b)には、スライドドア3が閉止動作を行う際に当該スライドドア3との間で異物を挟み込んだことを検知して当該スライドドア3を非常開放するための図示しないセンサが設けられている。
【0035】
以上において、ブラケット71,72,81,82、80やレール51,52,61,62等は、万一の破損・変形時においても修理を容易に行えるようにボルト取り付け構造としている。また、キャビン2の内側には、5mm厚程度のスポンジに20mm厚程度の吸音材が内張りしてあり、キャビン2内の運転席フロアマットには、遮音性の高い防音パッドつきフロアマットが採用してある。
【0036】
このように構成される搬送台車は、キャビン2の側方空間が狭い場合であってもスライドドア3をフルオープンにして乗り降りを簡易に行うことができ、エアシリンダ4を採用していることで高い駆動力を得てスライドドア3の迅速な開閉動作を得ることができる。
【0037】
そして、前記キャビン2の開口部21の近傍に、スライドドア3の前方を支持する前レール51,61及び後方を支持する後レール52,62を上下に対をなして設け、これらの前レール51,61及び後レール52、62に、スライドドア3を前後方向に誘導する第1領域51a、61a、52a、62aおよび当該スライドドア3を前後方向に対して角度のある方向に誘導する第2領域51b、61b、52b、62bを設けて、前記エアシリンダ4の駆動力により、開放位置にあるスライドドア3を第1領域51a、61a、52a、62aに沿って移動させた後に第2領域51b、61b、52b、62bに沿って閉止位置に引き込んで開口部21の縁部に密着させ、その状態を維持するとともに、閉止位置にあるスライドドア3を第2領域51b、61b、52b、62bに沿って引出した後に第1領域51a、61a、52a、62aに沿って開放位置にまで移動させ、その状態を維持するようにしている。
【0038】
このように、エアシリンダ4の開閉駆動力を利用してスライドドア3と開口部21の縁部との密着度が高められるので、キャビン2内の密閉性、遮音性を有効に向上させることができる。しかも、従来のエアシリンダ4をそのまま利用し、従来の構成に対してレール51,52,61,62の形状等を変更する程度の若干の改良を施せば閉止位置への誘導とその位置でスライドドア3を開放不能とするロック機構の役割を果たすことができるため、密閉性、遮音性を有効に向上させる上で大幅な設計変更を行う必要がなく、エアシリンダ4による高速駆動性も有効に担保することができる。また、いたずらに構造を複雑化することがないため、堅牢であり、万一破損しても、ドアロック機構を設けない簡素な構造であって各種ブラケット等も着脱式としていることなどから、部品交換等の修理を容易に行うことができる。
【0039】
スライドドア3の動作も、キャビン2に対して斜め方向から平行移動を行うため、当該スライドドア3を開口部21の縁部に均等に圧接することができ、バランスの良いシール状態を得ることができる。
【0040】
特に、スライドドア3を駆動するアクチュエータに、直線状に出力端41を進退させるエアシリンダ4を採用するにあたり、このエアシリンダ4の駆動力を、当該エアシリンダ4の進退方向に対するスライドドア3のスライド方向の角度変化を吸収する変位吸収部8aを介して当該スライドドア3に伝達するようにしているので、エアシリンダ4の軸線nに対してスライドドア3が第1領域51a、61a、52a、62aにおいて厚み方向に変位しても、変位吸収部84を介してエアシリンダ4の動力をスライドドア3に確実に伝達することができ、従来のエアシリンダ4をそのまま利用する構成を実質的に可能ならしめるものである。
【0041】
また、本実施形態の搬送台車は、キャビン2の前後寸法が小さいために開放位置でスライドドア3がキャビン2から前方に持ち出されるように構成されるものであるが、スライドドア3の前端部よりも後方よりに前ガイドローラ71a、81aを設け、スライドドア3を、開口部21をフルオープンする開放位置に移動させてもガイドローラ71a、81aを極力後方に位置づけるようにしているので、前レール51,61のキャビン2からの突出量を有効に抑えてレール51,62が邪魔にならない状態を有効に担保することができる。
【0042】
さらに、スライドドア3の後端側から後方に向けて後ガイドローラ72a、82aを持ち出し、この後ガイドローラ72a、82aを後レール52,62に係合させるようにしており、前ガイドローラ71a、81aを極力後方に位置づけるに伴い、後ガイドローラ72a、82aも極力後方に位置づけることで、適正なガイド幅を確保してスライド動作の安定化を図ることができる。車輪71b、72bを極力後方に位置づけることで最大接地幅を実現していることも同趣旨である。
【0043】
また、キャビン2の開口部21近傍の側壁部23に、後ガイドローラ72a、82aや後車輪72bを持ち出すためのブラケット72、82を格納する格納部23a、23bを設け、閉止位置でこの格納部23a、23bを目隠しする遮蔽板72c、82cをスライドドア3側に設けているので、ガイドローラ72a、71aによるガイド幅ガイドローラ82a、81aによるガイド幅、車輪71b、72bによる接地幅を最大限近くにまで確保しても、キャビン2の外観を有効に整え、また機構部品を極力外部に晒さないようにして信頼性を高めることができる。
【0044】
さらにまた、キャビン2の開口部21の上縁部21a及び左右の側縁部21bに第1の弾性密閉部材91a、91bを設けるとともに、スライドドア3の内面側における下縁部3aに第2の弾性密閉部材91cを設け、スライドドア3の閉止位置において第1の弾性密閉部材91a、91bと第2の弾性密閉部材91cとを周回状に連続させ且つこれを圧潰した状態で、スライドドア3を開口部21の縁部に密着させるようにしているので、作業員の乗り降りの邪魔になる位置に弾性密閉部材が存しないようにしつつ、閉止時におけるキャビン2の密閉性及び遮音性をより有効に高めることができる。
【0045】
加えて、本実施形態では、台車本体1の端部に位置する垂下壁部11aから延長フレーム部11dが延出しており、この延長フレーム部11dにキャビン2が支持されていることに鑑みて、上部前レール61を、延長フレーム11dよりも迫り出さない範囲でこれに沿ってキャビン2から突出して当該延長フレーム11dの下方に位置づけているので、上部前レール61を邪魔にならない状態で設けることを実効あらしめることができる。
【0046】
また、この実施形態では、台車本体1が荷役駆動の一部を担うエアポンプを有し、このエアポンプのエアを前記エアシリンダ4に供給するようにしているので、別途に動力源を持ち込むことが不要であり、従来の搬送台車の構造を極力活用する趣旨により有効に適合するものとなり得る。
【0047】
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0048】
例えば、下部前レールと下部後レール、上部前レールと上部後レールは一連一体に繋がった状態で構成されていても構わない。
【0049】
また、変位吸収部の他の構成として、エアシリンダの基端をキャビンの一部に回動可能に取り付ける態様も採用することが可能である。
【0050】
その他、エア駆動式のアクチュエータにシリンダ構造以外のものを採用するなど、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…台車本体
21…開口部
2…キャビン
3…スライドドア
3a…下縁部
4…アクチュエータ(エアシリンダ)
21a…上縁部
21b…側縁部
23…壁部(側壁部)
23a、23b…格納部
41…出力端
51…前レール(下部前レール)
51a…第1領域
51b…第2領域
52…後レール(下部後レール)
52a…第1領域
52b…第2領域
61…前レール(上部前レール)
61a…第1領域
61b…第2領域
62…後レール(上部後レール)
62a…第1領域
62b…第2領域
8a…変位吸収部(動力伝達部)
71a…前ガイドローラ(下部前ガイドローラ)
72a…後ガイドローラ(下部後ガイドローラ)
72c…遮蔽板
81a…前ガイドローラ(上部前ガイドローラ)
82a…後ガイドローラ(上部後ガイドローラ)
82c…遮蔽板
91a、91b…第1の弾性密閉部材
91c…第2の弾性密閉部材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
路上を走行可能な台車本体と、この台車本体の走行方向両端部に配置されて側方に乗り降りのための開口部を有するキャビンと、このキャビンの開口部に対して閉止位置と開放位置との間でスライド可能なスライドドアと、前記キャビンの一部と前記スライドドアの一部とを接続して当該スライドドアを開閉駆動するエア駆動式のアクチュエータとを具備してなるものにおいて、
前記キャビンの開口部の近傍に、スライドドアの前方を支持する前レール及び後方を支持する後レールを上下に対をなして設け、これらの前レール及び後レールに、スライドドアを前後方向に誘導する第1領域および当該スライドドアを前後方向に対して角度のある方向に誘導する第2領域を設けて、前記アクチュエータの駆動力により、開放位置にあるスライドドアを第1領域に沿って移動させた後に第2領域に沿って閉止位置に引き込んで開口部の縁部に密着させ、その状態を維持するとともに、閉止位置にあるスライドドアを第2領域に沿って引出した後に第1領域に沿って開放位置にまで移動させ、その状態を維持するように構成したことを特徴とする搬送台車。
【請求項2】
アクチュエータが直線状に出力端を進退させるエアシリンダであり、このエアシリンダの駆動力を、当該エアシリンダの進退方向に対するスライドドアのスライド方向の角度変化を吸収する変位吸収部を介して当該スライドドアに伝達するようにしている請求項1記載の搬送台車。
【請求項3】
開放位置でスライドドアがキャビンから前方に持ち出されるように構成されるものにおいて、スライドドアの前端部よりも後方よりに前ガイドローラを設け、開放位置でスライドドアの前端部が前レールよりも前方に突出した状態となるようにしている請求項1又は2何れかに記載の搬送台車。
【請求項4】
スライドドアの後端側における少なくとも上下何れかの部位より後方に向けて後ガイドローラを持ち出し、この後ガイドローラを後レールに係合させている請求項3記載の搬送台車。
【請求項5】
キャビンの開口部近傍の壁部に、後ガイドローラを持ち出すためのブラケットを格納する格納部を設け、閉止位置でこの格納部を目隠しする遮蔽板をスライドドア側に設けている請求項4記載の搬送台車。
【請求項6】
キャビンの開口部の上縁部及び左右の側縁部に第1の弾性密閉部材を設けるとともに、スライドドアの内面側における下縁部に第2の弾性密閉部材を設け、スライドドアの閉止位置において第1の弾性密閉部材と第2の弾性密閉部材とを周回状に連続させ且つこれを圧潰した状態で、スライドドアを開口部の縁部に密着させるように構成している請求項1〜5何れかに記載の搬送台車。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−214975(P2010−214975A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60322(P2009−60322)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【出願人】(593005644)JFE物流株式会社 (11)
【Fターム(参考)】