説明

搬送用ロボットの衝突防止システムおよびその方法

【課題】
自走式搬送用ロボットシステムにおいて、ロボット同士が衝突することが問題であった。
【解決方法】
複数のロボット用経路が合流する合流点付近に本発明のループアンテナを設置し、ロボット検出信号を該伝送路に送信することで自身の存在を他のロボットに報知し、該信号を受信したロボットは一時的に走行を停止して衝突を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自走式ロボットの制御システムに関し、特に衝突防止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産工場では各工程のオートメーション化が進みこれに伴いロボットの導入が行われており、例えば半導体製造工場においてはウエハの搬送には自走式搬送用ロボットが導入されている。またロボット技術の向上に伴いロボットの走行速度が上昇し、ロボットがより複雑な経路を走行するため、例えば複数の経路が合流する合流点付近ではロボット同士が衝突する危険性を有している。このためにロボットの衝突防止システムを導入することが、生産効率の向上などに対して極めて有効である。
【0003】
しかしながら、工場では生産機械やロボットの駆動のために大きな電力を必要とし、そのための送電ケーブルや配電装置およびモータ、電磁バルブ等のアクチュエータの駆動に伴い工場内には極めて大きな電磁ノイズが存在している状況である。従ってロボットの位置検出または制御に無線通信を使用することは一般には行われていない。
【0004】
また、工場内に存在する電磁ノイズの周波数範囲外の周波数を使用することはできるが、高周波数であるため国内の電波法の規制や高い指向性のためにこれらの周波数の電磁波を用いることは容易ではない。従って従来はロボットの衝突防止のためにオペレータがロボットの動作を監視し、衝突回避の操作をするなどの作業が必要であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この場合オペレータは常にシステム全体を監視しなければならないため見落としや操作ミスをする可能性があり、また人件費等によるコスト増を招くこととなる。また、ロボットが衝突した場合、システム全体を停止しなければならず生産効率等が極めて悪化することになる。従ってロボットの位置を検出し衝突防止の制御を容易に行うことは困難な課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題に鑑み本発明は、自走式搬送用ロボットにおける衝突防止システムであって、該システムは、ロボット検出用信号を受信および送信するセンサ部と、該信号を伝達する1つ以上の伝送路を有し、該センサ部は搬送用ロボットに設置され、該伝送路は該ロボットから分離して設置されることを特徴とするシステムを提供する。
【0007】
また前記センサ部は送信用アンテナおよび受信用アンテナから成り、該受信用アンテナは前記ロボットの前部に設置し、該受送信アンテナは該ロボットの後部に位置しており、該送信用および受信用アンテナはダイポール、ループアンテナおよびコイルであるシステムを提供する。
【0008】
また前記1つ以上の伝送路の受信エリアは前記搬送用ロボットの移動可能範囲を覆うことを特徴とし、検出用信号の周波数は長波ないし中波であり、より好ましくは80KHzないし400KHzであることを特徴とするシステムを提供する。
【0009】
さらに前記記載のシステムにおいて、ある1つのロボットの送信用アンテナがある1つの前記伝送路の受信エリア内に位置しロボット検出用信号を送出しているとき、他のロボットの受信アンテナが該受信エリア内に侵入し該ロボット検出用信号を受信すると、該他のロボットは自走を停止することを特徴とする衝突防止方法を提供する。
【0010】
前記記載のシステムにおいて、ある1つのロボットの送信用アンテナがある1つの前記伝送路の受信エリアから離脱したとき、前記他のロボットの受信用アンテナによって該受信エリア内からロボット検出用信号が消失したのを検出して、該他のロボットが該受信エリア内に侵入することを特徴とする方法も提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により産業用ロボットにおいて、搬送用ロボット同士の衝突を防止できる。またオペレータがロボットを監視する負担を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の構成を図を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1に本発明による伝送路1および吊り下げ型ロボットを概略的に示した。図示したように該伝送路1はループ状の導電線からなり、平行四辺形の形状で複数の伝送路が直列に配置されている。このとき各伝送路は互いに独立しており電気的に接続されていない。しかしながら該伝送路1の形状および数はこれに限定されるものではない。また図示したようにロボット2の進行方向に対して前部に受信アンテナ5、後部に送信アンテナ4がセンサ部としてそれぞれ設置されている。またアンテナは所定の周波数で共振する共振周波数を有している。従って抵抗または容量を接続してR−C、L−C共振回路を構成することもできる。
【0014】
図2には図1中のA−A断面のうち伝送路1およびセンサ部を示した。伝送路1はループ状になっているため図では伝送路の上部6と伝送路の下部3が示されており、ロボットの受信アンテナ5が伝送路の上部6に、非接触に接続している。該アンテナ5は伝送路を部分的に囲む形状であり、該アンテナの一部にコイル7を有しコイルアンテナとして機能する。該コイル7はアンプ(図示しない)と接続されており、受信した信号を増幅して所定の回路に伝送する。この構造はロボット後部の送信アンテナについても同様である。当業者には自明であるが送信アンテナに接続するアンプは送信する信号を増幅するものである。
【0015】
図1で明らかなように該伝送路1はループ状に構成されており所定の周波数で共振する。従って送信アンテナは伝送路1の共振周波数に相当する周波数の信号を送信する。また伝送路1は、複数のロボット用経路が合流する合流点付近などに設置される。以上が本発明の構成である。これは本発明の一実施例でありこれに限定されるものではない。
【0016】
次に本発明の伝送路を用いてロボットの衝突防止制御をする方法を説明する。
【0017】
当業者には明白であるが、本発明による伝送路1の受信エリアは、該伝送路1のループの法線方向である。従って送受信のアンテナも該受信エリア内に位置している。図1に示したように送信アンテナ4から伝送路の一端で共振周波数と同じ周波数の電磁波を放射すると、一つの伝送路1に同じ周波数の共振が発生する。このとき当該一つの伝送路1周辺に発生する電磁界が近隣の伝送路1にも到達するため、電磁誘導により近隣の伝送路1も同じ周波数で共振する。従ってある一つの伝送路1に信号を送信すると、他の領域にある受信アンテナ5によって該信号を受信することができる。
【0018】
このとき共振させる電磁波は連続波、間欠波、振幅変調波を用いることができる。また共振回路のQ値を低く設定することで周波数帯域幅内において周波数変調波を用いることができる。
【0019】
以上本発明の伝送路1を説明した。次に該伝送路1を用いたロボットの衝突防止システムを説明する。
【0020】
図3に本発明による伝送路1およびセンサ部を備えた吊り下げ式ロボットの相対的な位置、および衝突防止の制御を段階的に示した。尚、実際は前記記載のように伝送路1がロボットの経路に沿って複数配置される構成であるが、図3では複数の伝送路1が配置された状態をまとめて伝送路1としている。以下に各段階を詳述する。
【0021】
段階(I)は伝送路1の受信エリア内を先行ロボットAが走行しており、後続ロボットBが受信エリア外から近づいていく様子である。このとき先行ロボットAは送信アンテナ5から信号を送出しており、従って前記記載の通り伝送路1から該信号が送出されている。
【0022】
段階(II)は先行ロボットAが受信エリア内を走行している途中で、後続ロボットBが該受信エリア内に侵入したときの様子である。このとき先行ロボットAの送出する信号を伝送路1を経由して後続ロボットBの受信アンテナ4で検出するため、後続ロボットBが走行を停止する。さらに後続ロボットBは受信アンテナ5により伝送路から送出される信号を監視し続ける。
【0023】
段階(III)はさらに先行ロボットAが走行して受信エリアから離脱したとき、後続ロボットBが走行を開始するときの様子である。先行ロボットAの送信アンテナ4が当該伝送路の受信エリアから離脱すると伝送路内の信号が消失する。よって後続ロボットBは該信号が消失したのを検知し走行を開始する。
【0024】
以上がロボット衝突防止の基本的な段階である。
【0025】
次に衝突防止の制御方法の一例を図4を用いてより詳細に示す。同図はロボット用経路のうち幹線9に支線8が合流する様子を示した模式的な図である。また前記伝送路1は図中の太線で示しており、幹線から合流点10を経由して支線へ1本の伝送路として配置されている。また図示したように2つのロボットA、Bはそれぞれ矢印の向きに走行し、各送信用アンテナから信号を常時送信している。
【0026】
以上のような状態の時、最初に幹線を走行しているロボットAが受信エリア内に侵入する。このとき該ロボットAは自身の信号を受信することとなる、次に支線のロボットBが受信エリア内に侵入したとき、該ロボットBも常時信号を送出しているため各ロボットは互いに2つの信号を同時に受信する、いわゆる「信号衝突」が発生する。詳細は後述するが各ロボットが該信号衝突を検知したとき、双方のロボットは一旦走行を停止しまた信号の送信も停止する。次に各ロボットはそれぞれ固有に与えられた時間だけ待機し、再度信号を送信する。ここで該待機時間は例えばロボットの車台番号等を用いてランダムに決定したものであるため待機時間は互いに異なる。従ってどちらか一方が信号送信を停止している間に他方が送信を始めると、前記記載の各段階に従って信号が消失するまで該信号を受信したロボットは待機し続け、信号の消失を検知した後走行を開始する。
【0027】
このようにしてロボットの衝突回避の制御をすることができる。ここで前記記載の信号衝突の検知方法を説明する。図5(a)、(b)、(c)はいずれも横軸は時間軸である。(a)は信号を間欠波とした場合であり、一方のロボットの送信信号14と他方のロボットの送信信号15の送信パターンを異ならせ、このパターンの繰り返しを常時送信する。また受信アンテナにより自身の信号を受信する。このとき信号衝突が起こると自身で送信した信号と異なる信号を受信することになり、従ってこのとき信号衝突と見なすことができる。つまり自身の送信信号と受信した信号を比較することで信号衝突を検知するため、信号の種類は多数考えられる。例えば(b)は信号を振幅変調波とした場合で、これも同様に双方のロボットで送信信号の振幅変調パターンを異ならせている。同様に(c)は周波数変調波である。前記記載の通り本発明の伝送路のQ値を低く設定することにより生じる周波数帯域幅内で周波数変調を用いることができる。つまり信号パターンは各ロボットに固有のパターンであれば良く、従って本実施例に限定されるものではない。また図示しないが連続波を信号として用いる場合、前記周波数帯域幅内で異なる周波数を使用する。
【0028】
ここで、前記記載の信号波は前記伝送路の共振周波数と同じかまたは共振周波数帯域幅内にあればよい。従って使用する周波数に制限はないが、実際に使用する場合、短波以下の波長は指向性が強く、また国内の電波法による制限を受けるため、これらを考慮すると長波から中波が適している。
【0029】
以上、本発明による伝送路1および該伝送路1を用いた移動ロボット制御方法を示した。しかしながら本発明は前記記載の実施例に限定されるものではなく他の変形例もまた本発明の範囲である。
【0030】
次に本発明の他の実施例も説明する。
【0031】
図6は本発明の伝送路の他の実施例である。図6(a)は互いに電気的に接続されていない長方形の閉ループ状の形状である。(b)は階段状の形状を有するループアンテナを並べたものであり(a)と同様に互いに電気的に接続していない。(c)は長円形の閉ループアンテナを互い違いに配置している。また(d)で示したように各伝送路を容量で接続することも可能である。さらに(e)は複数の閉ループ状のアンテナを法線方向に複数個配置したものであり、このことにより効率よく信号を伝送することができる。以上のように本発明の伝送路は閉ループ状であれば良く、従って該伝送路の形状、数、配置および接続の方法はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
また、センサ部は電磁波を送信および受信すればよく、従って八木アンテナ、ループアンテナ、ダイポールアンテナなどの無線通信用アンテナ全てを使用することができる。より好ましくは指向性を有し伝送路の方向に特に高い感度を有するアンテナがよい。
【0033】
一方、ロボットの制御に関する他の実施例は、例えば後続のロボットが先行ロボットの送信信号を受信したとき走行速度を低下させることでロボット同士の衝突を回避することができる。あるいはロボットの優先順位をあらかじめ設定しておき、この優先順位に従ってロボットの走行を制御することもできる。
【0034】
さらに、ロボットの送信信号に例えば現在の自身の走行速度、位置、優先度などの情報を持たせることによって、本発明の伝送路を用いてロボット同士またはロボットと制御装置あるいはロボットとオペレータとの通信を行うことができ、より効果的な制御をすることができる。この場合ロボットと制御装置またはオペレータと通信を行うために、ロボットに搭載されたセンサ部とは別のセンサ部を設けることができる。
【0035】
本発明の伝送路およびセンサ部が指向性を有するために、電磁ノイズ環境下においても無線通信により信号を送受信して、自走式ロボットの衝突を防ぐ制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は本発明の伝送路がロボットシステム内に配置されている図である。
【図2】図2は本発明の伝送路とロボットのセンサ部との相対的な位置をロボットの進行方向から見た図である。
【図3】図3は本発明の伝送路を用いたロボットシステムの衝突回避の各段階を示した図である。
【図4】図4は複数のロボット用経路が合流する地点での制御を示す図である。
【図5】図5は本発明の伝送路を用いて衝突回避の制御を行う時に用いる信号波の実施例を示した図である。
【図6】図6は本発明の伝送路の様々変形例を示した図である。
【符号の説明】
【0037】
1 伝送路
2 ロボット
3 伝送路の下部
4 送信アンテナ
5 受信アンテナ
6 伝送路の上部
7 コイル
8 支線
9 幹線
10 合流点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走式搬送用ロボットにおける衝突防止システムであって、該システムは、ロボット検出用信号を受信および送信するセンサ部と、該信号を伝達する1つ以上の伝送路を有し、該センサ部は搬送用ロボットに設置され、該伝送路は該ロボットから分離して設置されるシステム。
【請求項2】
前記センサ部は送信用アンテナおよび受信用アンテナから成り、該受信用アンテナは前記ロボットの前部に設置し、該受送信アンテナは該ロボットの後部に位置することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記送信用および受信用アンテナはダイポールアンテナ、ループアンテナ、コイルであることを特徴とする請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記1つ以上の伝送路の受信エリアは前記搬送用ロボットの移動可能範囲を覆うことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記ロボット検出用信号の周波数は長波ないし中波であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
前記ロボット検出用信号の周波数は、80KHzないし400KHzであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のシステム。
【請求項7】
前記請求項1に記載のシステムにおいて、ある1つのロボットの送信用アンテナがある1つの前記伝送路の受信エリア内に位置しロボット検出用信号を送出しているとき、他のロボットの受信アンテナが該受信エリア内に侵入し該ロボット検出用信号を受信すると、該他のロボットは自走を停止することを特徴とする衝突防止方法。
【請求項8】
前記請求項1に記載のシステムにおいて、ある1つのロボットの送信用アンテナがある1つの前記伝送路の受信エリアから離脱したとき、前記他のロボットの受信用アンテナによって該受信エリア内からロボット検出用信号が消失したのを検出して、該他のロボットが該受信エリア内に侵入することを特徴とする請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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