説明

搬送装置の振動特性同定装置、搬送装置の振動特性同定方法及びこれらを用いた搬送システム

【課題】振動特性の同定に要する時間の短縮や同定精度の向上を達成させた搬送装置の振動特性同定装置を提供する。
【解決手段】振動特性同定装置2は、搬送装置103の搬送動作によって生じる振動を検出する振動センサ21を有し、振動センサ21により検出された振動に基づいて振動特性の一つである固有周波数に対応する固有角周波数を振動モード毎に特定し、特定した各々の固有周波数に対応する固有角周波数を用いて振動センサ21で検出したされた振動を振動モード毎に分離し、分離した振動と特定した固有周波数に対応する固有角周波数とに基づいて振動特性の一つである減衰係数を振動モード毎に特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置の搬送動作により生ずる振動に基づいて振動特性を同定する装置、同定方法及びこれらを用いた搬送システムに係り、特に、振動特性の同定を適正化した搬送装置の振動特性同定装置、搬送装置の振動特性同定方法及びこれらを用いた搬送システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロボットアームやガントリーローダ等の搬送機構を駆動させて搬送対象物を搬送する搬送装置には、搬送機構の搬送動作に起因して振動が発生する場合がある。この振動は搬送効率を低減する要因となるので、搬送動作により生ずる振動を抑制するための振動抑制制御を行う搬送装置が種々提案されている。
【0003】
この種の搬送装置の一例として特許文献1には、駆動指令の入力により搬送動作を行うガントリーローダ等の搬送機構と、駆動指令を生成し、その駆動指令を搬送機構に入力することにより搬送対象物の搬送を制御する搬送制御手段とを有し、所望の搬送動作を搬送機構に行わせるにあたり、所望の搬送動作により生ずる振動を抑制するための抑制指令を伴った駆動指令を生成し、生成した駆動指令を搬送機構に入力することにより振動抑制を実現する搬送装置が開示されている。この振動抑制制御は、逆位相入力制御(Preshaping制御)と呼ばれる制御であり、振動抑制のための抑制指令を伴った駆動指令を生成するために、予め同定された搬送装置の振動特性の一部である固有周波数および減衰係数を用いる。
【0004】
上記の振動抑制制御に用いる振動特性の一つである減衰係数は、搬送装置の搬送動作により生じた振動を振動センサで検出し、振動センサで検出した実振動と振動モデルにより算出される理論振動とを比較し、両振動がフィッティングするように振動モデルの減衰係数パラメータを算出して同定されるのが通例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−202719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、振動センサで検出される実振動が複数の振動モードを有する場合は、実振動及び理論振動がそれぞれ全ての振動モードの総和となり、同定対象である減衰係数も振動モード毎にあるので、実振動及び理論振動のフィッティングにおいて、ある振動モードの減衰係数の同定に他の振動モードの影響を受け、同定に要する時間が増大することや同定精度を損なうことが考えられる。
【0007】
特に、実振動及び理論振動のフィッティングからシンプレックス法による振動特性同定を行う場合は、実振動及び理論振動の差異の総和が小さくなるように振動モデルに用いる減衰係数パラメータ及びゲインパラメータを繰り返し計算により求めるので、繰り返し計算により同定に要する時間が著しく増大するうえ、理論振動には存在しない実振動のノイズが差異の総和に影響を与えることや、ゲインパラメータ等の他のパラメータによる影響に起因して同定精度を著しく損なう。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、搬送装置の搬送動作により発生する振動が複数の振動モードを有することに起因する影響を低減又は無くして、振動特性の同定に要する時間の短縮や同定精度の向上を達成させた搬送装置の振動特性同定装置、振動特性同定方法を提供し、ひいては振動抑制を高めた搬送装置や搬送システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0010】
すなわち、本発明の搬送装置の振動特性同定装置は、搬送装置の振動特性を同定する装置であって、前記搬送装置の搬送動作によって生じる振動を検出する振動センサと、前記振動センサにより検出された振動に基づいて前記振動特性の一つである固有周波数を振動モード毎に特定する固有周波数特定部と、前記固有周波数特定部により特定された各々の固有周波数を用いて前記振動センサにより検出された振動を前記振動モード毎に分離する振動分離部と、前記振動分離部により分離された振動と前記固有周波数特定部により特定された固有周波数とに基づいて前記振動特性の一つである減衰係数を前記振動モード毎に特定する減衰係数特定部とを具備することを特徴とする。
【0011】
固有周波数を固有角周波数や固有振動数、周期といった形で表してもよい。同様に、減衰係数を減衰定数や減衰力などの他の形で表してもよい。
【0012】
この構成によれば、振動センサで検出した振動に基づいて振動モード毎に固有周波数が特定され、特定された固有周波数を用いて振動センサで検出した振動が振動モード毎に分離され、分離された振動と特定された固有周波数とに基づいて振動モード毎に減衰係数が特定されるので、ある振動モードの減衰係数を特定するにあたり他の振動モードの影響を受けることがなくなり、同定に要する時間の短縮や同定精度の向上を図ることができる。
【0013】
一意に減衰係数を特定して同定に要する時間を著しく短縮するとともに同定精度を格段に向上させるためには、前記減衰係数特定部は、前記振動分離部により分離された振動のうち前記固有周波数に対応する所定周期毎に現れる最大振幅に基づいて前記減衰係数を特定することが好ましい。
【0014】
本発明に係る搬送システムは、上記の振動特性同定装置と、搬送対象物を搬送する搬送装置と、前記同定装置および前記搬送装置に対して前記振動特性の同定に必要な動作を行わせる同定指示手段とを具備してなり、前記搬送装置は、前記振動特性同定装置により同定される前記固有周波数および前記減衰係数を記憶するメモリと、駆動指令の入力により前記搬送対象物を搬送する搬送動作を行う搬送機構と、所望の搬送動作を前記搬送機構に行わせるにあたり、前記所望の搬送動作により生ずる振動を抑制するための抑制指令を伴った駆動指令を、前記メモリに記憶される前記固有周波数および前記減衰係数に基づいて生成し、生成した駆動指令を前記搬送機構へ入力する搬送制御手段とを含んで構成されており、前記同定指示手段は、予め定められた同定用の搬送動作を所定のタイミングで前記搬送装置に行わせ、前記同定用の搬送動作により生ずる振動に基づいて前記固有周波数および前記減衰係数を前記振動特性同定装置に同定させ、同定結果を前記メモリに記憶させることを特徴とする。
【0015】
所定のタイミングは、工場出荷時や予め定められた時間が経過する時などが挙げられる。同定用の搬送動作は、振動を発生する予め定められた搬送動作であり、例えば振動抑制制御を伴わないものが挙げられる。
【0016】
この搬送システムによれば、搬送装置は、メモリに記憶される固有周波数および減衰係数を用いて所望の搬送動作により生ずる振動を抑制するための指令を伴った駆動指令を生成し、生成した駆動指令を搬送機構に入力して、振動抑制を伴った所望の搬送動作を行う。この場合、予め定められた時間が経過する時などの所定のタイミングで搬送装置の搬送機構が同定用の搬送動作を行い、振動特性同定装置が同定用の搬送動作により生ずる振動に基づいて振動特性たる固有周波数および減衰係数を同定し、同定結果がメモリに記憶されるので、搬送制御に用いる振動特性を手動に依らずに同定でき、例えば経年劣化により振動特性が変化した場合にも変化後の振動特性を用いた適切な搬送制御を実現することが可能となる。さらに、搬送システムにおいて電源ON時のイニシャル処理時などの所定のタイミングで振動特性の同定を自動で行うにあたり、同定に要する時間が短いことが特に要求されるものの、従来の同定装置では同定に要する時間が多大であるため自動化が難しいものであった。しかし、本実施形態では、上記同定装置を用いて振動特性の同定に要する時間を著しく短縮しているので、振動特性の同定を自動化に特に好適なものであり、適切な振動特性を用いた搬送制御の実現に資することとなる。
【0017】
本発明に係る搬送装置の振動特性同定方法は、搬送装置の振動特性を同定する方法であって、前記搬送装置に搬送動作を行わせて振動を発生させるステップと、発生した振動を振動センサで検出するステップと、検出した振動に基づいて前記振動特性の一つである固有周波数を振動モード毎に特定するステップと、特定した各々の固有周波数を用いて検出した振動を前記振動モード毎に分離するステップと、分離した振動と特定した固有周波数とに基づいて前記振動特性の一つである減衰係数を前記振動モード毎に特定するステップとを含むことを特徴とする。
【0018】
固有周波数を固有角周波数や固有振動数、周期といった形で表してもよい。同様に、減衰係数を減衰定数や減衰力などの形で表してもよい。
【0019】
この方法によれば、振動センサで検出した振動に基づいて振動モード毎に固有周波数が特定され、特定された固有周波数を用いて振動センサで検出した振動が振動モード毎に分離され、分離された振動と特定された固有周波数とに基づいて振動モード毎に減衰係数が特定されるので、ある振動モードの減衰係数を特定するにあたり他の振動モードの影響を受けることがなくなり、同定に要する時間の短縮や同定精度の向上を図ることができる場合がある。
【0020】
一意に減衰係数を特定して同定に要する時間を著しく短縮するとともに同定精度を格段に向上させるためには、前記減衰係数を特定するステップは、分離した振動のうち特定した固有周波数に対応する所定周期毎に現れる最大振幅に基づいて前記減衰係数を特定するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、以上説明したように、振動センサで検出した振動を振動モード毎に分離したうえで振動モード毎に減衰係数を特定するので、ある振動モードの減衰係数を特定するにあたり他の振動モードの影響を受けることがなくなり、同定に要する時間の短縮や同定精度の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る搬送装置の振動特性を同定する同定装置を模式的に示す構成図。
【図2】検出した振動をFFT解析した際に得られるパワースペクトル図。
【図3】検出した振動を振動モード毎の振動に分離することに関する説明図。
【図4】分離した振動に基づいて減衰係数を特定することに関する説明図。
【図5】分離した振動に基づいて減衰係数を特定することに関する説明図。
【図6】同定装置の解析プロセッサで実行される振動解析処理ルーチンを示すフローチャート。
【図7】本実施形態に係る同定装置および従来の同定装置により同定された振動特性を用いて振動抑制制御を行った結果を示す比較図。
【図8】本発明に係る搬送システムを模式的に示す構成図。
【図9】同搬送システムの動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。まず、本実施形態に係る振動特性同定装置について説明し、その後、この振動特性同定装置を含む搬送システムについて説明する。
【0024】
<搬送装置の振動特性同定装置>
図1に示すようなロボットアーム等の搬送機構131を駆動することによりウエハー等の搬送対象物Wを搬送する搬送装置103において、搬送機構131の搬送動作によって振動が発生する場合がある。本実施形態に係る搬送装置の振動特性同定装置2は、上記搬送動作によって発生する振動に基づいて搬送装置103の振動特性を同定する装置であり、搬送装置103の搬送動作によって生じる振動を検出する振動センサ21と、この振動センサ21で検出された振動に基づいて振動特性を同定する振動解析手段22とを有している。なお、同定された振動特性は、搬送装置103が振動を抑制するために行う振動抑制制御に用いられるパラメータである。
【0025】
振動センサ21は、搬送動作中である搬送機構131の振動や搬送動作完了後に搬送機構131に残留する振動を検出するセンサであり、具体的には、搬送機構131たるロボットアームのうち搬送対象物Wを保持する部位(アーム先端部)又はその近傍に取り付けた加速度センサである。勿論、アームのうち搬送対象物Wを保持する部位(アーム先端部)の近傍にアームと非接触状態でレーザ変位計等の変位検出手段を配置し、この変位検出手段により残留振動を検出するようにしてもよい。振動センサ21を設ける位置は、上記で述べた位置に限定されるものではなく、さらに制振対象となる搬送機構の振動を検出することができれば、上記で述べた加速度センサや変位計に限られるものではない。
【0026】
振動解析手段22は、固有周波数特定部23と、振動分離部24と、減衰係数特定部25とを有している。これら各部23、24、25は、CPU、ROM、各種インターフェイス等を備えたパソコン等の情報処理装置においてCPUが予め記憶されている図6に示す振動解析処理ルーチンを実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現されるものである。
【0027】
図1の固有周波数特定部23は、振動センサ21により検出された振動に基づいて振動特性の一つである固有周波数を振動モード毎に特定する。具体的には、振動センサ21で振動を検出し(図6の処理S1)、検出した振動をFFT解析することによって図2に示すパワースペクトルを求め、このパワースペクトルに基づいて振動モード毎に固有周波数を特定する(図6の処理S2)。固有周波数特定部23は、図2に示す例では、一次振動モードの固有周波数に対応する固有角周波数ω、二次振動モードの固有周波数に対応する固有角周波数ω、三次振動モードの固有周波数に対応する固有角周波数ωと現れ、検出した振動が三つの振動モードを有すると以上の固有角周波数ω1、ω2、ωを通じて特定される。
【0028】
図1の振動分離部24は、図3に示すように、固有周波数特定部23により特定された各々の固有周波数に対応する固有角周波数ω、ω、ωを用いて振動センサ21により検出された振動Viを振動モード毎に分離する。具体的には、振動モード毎に求めた固有周波数に対応する固有角周波数ω、ω、ωを用いて、抽出する振動モード以外の振動モードの振動をノッチフィルタ(例えば

)で除去することにより行う(図6の処理S3)。図3に示す例は、振動センサで検出された振動y(t)から分離した一次振動モードの振動y(t)及び二次振動モードの振動y(t)を示している。各振動は次式で表される。
振動センサで検出された振動Vi:

一次振動モードの振動Vi

二次振動モードの振動Vi

なお、本実施形態ではノッチフィルタを用いているが、これに限定されず、例えばバンドパスフィルタ等の他のフィルタリングを用いて振動モード毎に分離してもよく、さらに他の方法により振動モード毎に分離してもよい。
【0029】
図1の減衰係数特定部25は、図4(a)に示すように、振動分離部24により各々の振動モードに分離した振動Vi(kは振動モードの次数)が半周期毎に最大振幅A、A、…、Aを有することを利用して、これらスカラーである複数の最大振幅A、A、…、Aに基づいて振動特性の一つである減衰係数を振動モード毎に特定するものである。なお、最大振幅は、波形の大きさの絶対値である。
【0030】
具体的には、図1の減衰係数特定部25は、図4(b)に示すように、分離した振動Viに絶対値処理を施して正値のみの振動に変換し(図6の処理S4)、変換した振動波形のうち振動が増加する方向から減少する方向に転じる時点の波形の大きさを最大振幅Aとし、最大振幅Aを半周期毎に求める(図6の処理S5)。そして、これら最大振幅A、A、…、Aが徐々に減衰することに着目して減衰係数を同定する。さらに、最大振幅A、A、…、Aに基づいて減衰係数を特定するにあたり、最大振幅Aがexp(−ζωt)を主体とする関数を描くことを利用して、この式全体を自然対数にすることにより演算量の増大を招く指数関数の演算を回避している。この場合、自然対数とした前記式全体を変形すると、ある直線の傾きa及び固有周波数に対応する固有角周波数ωで構成される次式が導き出される。
減衰係数ζ:

【0031】
図5に示すように、ある直線Liとは、複数の最大振幅A、A、…、Aを自然対数にした各々の値ln(A)、ln(A)、…、ln(A)に最もフィットする直線であり、この直線Liは最小二乗法により算出している(図6の処理S6〜S9)。
【0032】
なお、本実施形態では、分離した振動のうち固有周波数に対応する半周期毎に現れる最大振幅Aを用いているが、固有周波数に対応する周期であれば、半周期に限定されるものではない。例えば、一周期毎や二周期毎であってもよい。
【0033】
従来のシンプレックス法を用いた振動特性同定装置では、減衰係数ζを同定するにあたり例えば10分以上の時間を要していたところ、上記の振動特性同定装置を用いると、従来のシンプレックス法のように繰り返し計算を行わないので減衰係数ζの同定に要する時間が同条件で1秒以内とすることが可能となる。勿論、上記で述べた同定に要する時間は環境により種々変化するので、一例であるが、ある環境では従来に比べて減衰係数ζを算出するため要する時間を数千分の1程度短縮することができた。
【0034】
また、図1に示すような振動抑制制御を行う周知の搬送装置103に、従来の振動特性同定装置及び本実施形態に係る振動特性同定装置2により同定した固有周波数および減衰係数をそれぞれ用いてシミュレーションを行い、振動抑制の効果を検証した。その結果を図7に示す。図7(a)は、従来のシンプレックス法を用いる同定装置により同定した固有周波数および減衰係数を用いてシミュレーションを行った結果であり、図は搬送終了後の振動量を示している。この結果では、搬送動作の完了後のt1秒で目標の制振状態(例えば50μm以下)に到達しているものの、減衰係数の誤差の影響で残留振動がある。
【0035】
一方、図7(b)は、本実施形態に係る同定装置により同定した固有周波数および減衰係数を用いてシミュレーションを行った結果であり、図は搬送終了後の振動量を示している。この結果では、サンプリングタイムの影響と考えられる残留振動は存在するものの、搬送動作の完了後のt2秒(t2<t1)で目標の制振状態(例えば50μm以下)に到達している。また、残留振動を検出したと同時に目標の制振状態であるので、搬送動作の完了と同時に目標の制振状態に到達していると考えられ、同定した減衰係数ζが真値に近く、同定精度が向上していることがわかる。
【0036】
<搬送システム>
次に上記の振動特性同定装置2を備えた搬送システム1について図面を参照して説明する。
【0037】
本実施形態の搬送システム1は、図8に示すように、搬送装置3と、この搬送装置3の振動特性を同定する上記の同定装置2とを有する。
【0038】
搬送装置3は、振動特性の一部である固有周波数および減衰係数を記憶するメモリ33と、駆動指令の入力により搬送対象物を搬送する搬送動作を行うロボットアーム等の搬送機構31と、駆動指令を生成して搬送機構に入力することにより搬送を制御する搬送制御手段32とを有している。本実施形態では、メモリ33が搬送制御手段32に内包されているが、これに限定されるものではない。
【0039】
搬送制御手段32は、所望の搬送動作を搬送機構31に行わせる目標指令gRefを生成する目標指令生成部32aと、目標指令生成部32aで生成した目標指令gRefに抑制指令bRefを追加した駆動指令drRefを、メモリ33に記憶されている固有周波数および減衰係数に基づいて生成する駆動指令生成部32bとを有する。抑制指令bRefは、所望の搬送動作により生ずる振動を抑制するための指令である。このような抑制指令bRefを伴った駆動指令drRefを生成し、生成した駆動指令drRefを用いて搬送機構31の駆動を制御するPreshaping制御は、周知の制御であるため詳細な説明は省略する。
【0040】
同定装置2は、上記に述べたものとほぼ同じ構成であり、搬送装置3の搬送動作により発生する振動を検出して振動特性たる固有周波数および減衰係数を同定する。
【0041】
本実施形態では、上記の構成に加えて、更に下記構成を加えている。
【0042】
すなわち、搬送装置3および同定装置2に対して振動特性の同定に必要な動作を行わせる同定指示手段4を設けている。同定指示手段4は、搬送システム1の電源ON時に行われる初期化処理時などの所定のタイミングで同定用の搬送動作を搬送装置3に行わせるとともに、同定用の搬送動作により生ずる振動に基づいて固有周波数および減衰係数を同定装置2に同定させ、同定結果をメモリ33に記憶させる。具体的には、図8及び図9に示すように、同定指示手段4は、所定のタイミングであるか否かを判定し(図9の処理ST1)、所定のタイミングであるときに搬送装置3に対して同定用搬送動作指示を行うと共に、同定装置2に対して同定開始指示を行う(図9の処理ST2)。同定用搬送動作指示を受けた搬送装置3は、予めメモリ33に記憶されている同定用の搬送動作を搬送機構31に行わせる(図9の処理ST3)。同定開始指示を受けた同定装置2は、図9の処理ST3により行われる同定用の搬送動作によって生じた振動を振動センサ21で検出し(図9の処理ST4)、検出した振動に基づいて固有周波数に対応する固有角周波数および減衰係数を同定し、同定結果を搬送装置に送信する(図9の処理ST5)。同定結果を受けた搬送装置3は、同定結果をメモリ33に記憶する(図9の処理ST6)。
【0043】
同定用の搬送動作は、振動を発生する搬送動作であればよく、例えば、振動特性の一部である固有周波数および減衰係数を用いた振動抑制を伴わないものが挙げられる。所定のタイミングは、電源ON時のイニシャル処理の実行時のほか、工場出荷時や予め定められた時間が経過する時などが挙げられる。
【0044】
以上のように本実施形態に係る搬送装置の振動特性同定装置2は、搬送装置3、103の振動特性を同定する装置であって、搬送装置3、103の搬送動作によって生じる振動Viを検出する振動センサ21と、振動センサ21により検出された振動Viに基づいて振動特性の一つである固有周波数に対応する固有角周波数ω、ω、ωを振動モード毎に特定する固有周波数特定部23と、固有周波数特定部23により特定された各々の固有周波数ω、ω、ωを用いて振動センサ21により検出された振動Viを振動モード毎に分離する振動分離部24と、振動分離部24により分離された振動Vi、Vi、Viと固有周波数特定部23により特定された固有周波数に対応する固有角周波数ω、ω、ωとに基づいて振動特性の一つである減衰係数ζを振動モード毎に特定する減衰係数特定部25とを有している。
【0045】
このように、振動センサ21で検出した振動Viに基づいて振動モード毎に固有周波数に対応する固有角周波数ω、ω、ωが特定され、特定された固有周波数に対応する固有角周波数ω、ω、ωを用いて振動センサ21で検出した振動Viが振動モード毎に分離され、分離された振動Vi、Vi、Viと特定された固有周波数に対応する固有角周波数ω、ω、ωとに基づいて振動モード毎に減衰係数ζが特定されるので、ある振動モードの減衰係数ζを特定するにあたり他の振動モードの影響を受けることがなくなり、同定に要する時間の短縮や同定精度の向上を図ることができる場合がある。
【0046】
従来では、振動特性の一つである減衰係数を特定するにあたりシンプレックス法を用いて、振動センサにより検出される実振動と振動モデルにより算出される理論振動とを比較して両振動の差異が小さくなるように振動モデルに用いる減衰係数パラメータ及びゲインパラメータを繰り返し計算に求めており、繰り返し計算により同定に要する時間が増大してしまうものであったが、本実施形態では、各々の振動モードに分離した振動Vi、Vi、Viが固有周波数に対応する半周期毎(所定周期毎)に最大振幅Aを有することに着目して、これら各々の最大振幅Aに基づいて減衰係数ζを特定するので、半周期毎(所定周期毎)に減衰する最大振幅Aから一意に減衰係数ζを特定でき、従来のシンプレックス法のような繰り返し計算を不要として、同定に要する時間を著しく短縮させることが可能となる。
【0047】
しかも、本実施形態では、従来のシンプレックス法で用いるゲインパラメータのような他のパラメータが同定精度に影響を与えることや、繰り返し計算により誤差が拡大することがなく、同定精度を著しく向上させることが可能となる。
【0048】
さらに、従来のシンプレックス法では、比較対象である実振動と振動モデルにより算出した理論振動とが波形で示され、両振動波形のオフセットや位相を一致させることが難しく、これらの不一致が誤差となって同定に要する時間の増大や同定精度の低減を招く要因となるが、本実施形態では、スカラーである複数の最大振幅Aを用いているので、かかる不具合の発生を防止して同定に要する時間の短縮や同定精度の向上に寄与していると考えられる。
【0049】
本実施形態に係る搬送システム1は、上記の振動特性同定装置2と、搬送対象物Wを搬送する搬送装置3と、同定装置2および搬送装置3に対して振動特性の同定に必要な動作を行わせる同定指示手段4とを具備してなり、搬送装置3は、振動特性同定装置2により同定される固有周波数に対応する固有角周波数ωおよび減衰係数ζを記憶するメモリ33と、駆動指令drRefの入力により搬送対象物Wを搬送する搬送動作を行う搬送機構31と、所望の搬送動作を搬送機構31に行わせるにあたり、所望の搬送動作により生ずる振動を抑制するための抑制指令bRefを伴った駆動指令drRefを、メモリ33に記憶される固有周波数に対応する固有角周波数ωおよび減衰係数ζに基づいて生成し、生成した駆動指令drRefを搬送機構31へ入力する搬送制御手段32とを含んで構成されており、同定指示手段4は、予め定められた同定用の搬送動作を所定のタイミングで搬送装置3に行わせ、同定用の搬送動作により生ずる振動に基づいて固有周波数に対応する固有角周波数ωおよび減衰係数ζを振動特性同定装置2に同定させ、同定結果をメモリ33に記憶させるている。
【0050】
このように、搬送装置3が、メモリ33に記憶される固有周波数に対応する固有角周波数ωおよび減衰係数ζを用いて所望の搬送動作により生ずる振動を抑制するための指令を伴った駆動指令drRefを生成し、生成した駆動指令drRefを搬送機構31に入力して、振動抑制を伴った所望の搬送動作を行う。この場合、予め定められた時間が経過する時などの所定のタイミングで搬送装置3の搬送機構31が同定用の搬送動作を行い、振動特性同定装置2が同定用の搬送動作により生ずる振動に基づいて振動特性たる固有周波数に対応する固有角周波数ωおよび減衰係数ζを同定し、同定結果がメモリ33に記憶されるので、搬送制御に用いる振動特性を手動に依らずに同定でき、例えば経年劣化により振動特性が変化した場合にも変化後の振動特性を用いた適切な搬送制御を実現することが可能となる。
【0051】
さらに、搬送システム1において電源ON時のイニシャル処理時などの所定のタイミングで振動特性の同定を自動で行うにあたり、同定に要する時間が短いことが特に要求されるものの、従来の同定装置では同定に要する時間が多大であるため自動化が難しいものであった。しかし、本実施形態では、上記同定装置2を用いて振動特性の同定に要する時間を著しく短縮しているので、振動特性の同定を自動化に特に好適なものであり、適切な振動特性を用いた搬送制御の実現に資することとなる。
【0052】
本実施形態に係る搬送装置の振動特性同定方法は、搬送装置の振動特性を同定する方法であって、搬送装置3、103に搬送動作を行わせて振動を発生させるステップと、発生した振動を振動センサ21で検出するステップと、検出した振動に基づいて振動特性の一つである固有周波数に対応する固有角周波数ωを振動モード毎に特定するステップと、特定した各々の固有周波数に対応する固有角周波数ωを用いて検出した振動を振動モード毎に分離するステップと、分離した振動Vi、Vi、Viと特定した固有周波数に対応する固有角周波数ω、ω、ωとに基づいて振動特性の一つである減衰係数ζを振動モード毎に特定するステップとを含むことを特徴とする。
【0053】
固有周波数を固有角周波数や固有振動数、周期といった形で表してもよい。同様に、減衰係数を減衰定数や減衰力などの形で表してもよい。
【0054】
この方法によれば、振動センサ21で検出した振動に基づいて振動モード毎に固有周波数に対応する固有角周波数ωが特定され、特定された固有周波数に対応する固有角周波数ωを用いて振動センサ21で検出した振動が振動モード毎に分離され、分離された振動Vi、Vi、Viと特定された固有周波数に対応する固有角周波数ω、ω、ωとに基づいて振動モード毎に減衰係数ζが特定されるので、ある振動モードの減衰係数ζを特定するにあたり他の振動モードの影響を受けることがなくなり、同定に要する時間の短縮や同定精度の向上を図ることができる場合がある。
【0055】
また、本実施形態では、減衰係数ζを特定するステップは、分離した振動のうち特定した固有周波数に対応する所定周期毎に現れる最大振幅に基づいて減衰係数ζを特定するものであるので、上記で述べたように、一意に減衰係数を特定して同定に要する時間を著しく短縮するとともに同定精度を格段に向上させることが可能となる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0057】
例えば、本実施形態では、同定装置2のプロセッサで同定指示プログラムを実行することにより同定指示手段4を実現しているが、同定指示手段4を搬送装置3又はそれ以外のプロセッサ等で実行させて実現するように構成してもよい。また、図1及び図8に示す各機能部は、所定プログラムをプロセッサで実行することにより実現しているが、各機能部を専用回路で構成してもよい。
【0058】
最後に、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1…搬送システム
2…振動特性同定装置
21…振動センサ
23…固有周波数特定部
24…振動分離部
25…減衰係数特定部
3、103…搬送装置
31…搬送機構
32…搬送制御手段
33…メモリ
4…同定指示手段
ζ…減衰係数
ω…固有周波数(固有角周波数)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送装置の振動特性を同定する装置であって、
前記搬送装置の搬送動作によって生じる振動を検出する振動センサと、
前記振動センサにより検出された振動に基づいて前記振動特性の一つである固有周波数を振動モード毎に特定する固有周波数特定部と、
前記固有周波数特定部により特定された各々の固有周波数を用いて前記振動センサにより検出された振動を前記振動モード毎に分離する振動分離部と、
前記振動分離部により分離された振動と前記固有周波数特定部により特定された固有周波数とに基づいて前記振動特性の一つである減衰係数を前記振動モード毎に特定する減衰係数特定部とを具備することを特徴とする搬送装置の振動特性同定装置。
【請求項2】
前記減衰係数特定部は、前記振動分離部により分離された振動のうち前記固有周波数に対応する所定周期毎に現れる最大振幅に基づいて前記減衰係数を特定する請求項1に記載の振動特性同定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の振動特性同定装置と、
搬送対象物を搬送する搬送装置と、
前記同定装置および前記搬送装置に対して前記振動特性の同定に必要な動作を行わせる同定指示手段とを具備してなり、
前記搬送装置は、
前記振動特性同定装置により同定される前記固有周波数および前記減衰係数を記憶するメモリと、
駆動指令の入力により前記搬送対象物を搬送する搬送動作を行う搬送機構と、
所望の搬送動作を前記搬送機構に行わせるにあたり、前記所望の搬送動作により生ずる振動を抑制するための抑制指令を伴った駆動指令を、前記メモリに記憶される前記固有周波数および前記減衰係数に基づいて生成し、生成した駆動指令を前記搬送機構へ入力する搬送制御手段とを含んで構成されており、
前記同定指示手段は、予め定められた同定用の搬送動作を所定のタイミングで前記搬送装置に行わせ、前記同定用の搬送動作により生ずる振動に基づいて前記固有周波数および前記減衰係数を前記振動特性同定装置に同定させ、同定結果を前記メモリに記憶させる搬送システム。
【請求項4】
搬送装置の振動特性を同定する方法であって、
前記搬送装置に搬送動作を行わせて振動を発生させるステップと、
発生した振動を振動センサで検出するステップと、
検出した振動に基づいて前記振動特性の一つである固有周波数を振動モード毎に特定するステップと、
特定した各々の固有周波数を用いて検出した振動を前記振動モード毎に分離するステップと、
分離した振動と特定した固有周波数とに基づいて前記振動特性の一つである減衰係数を前記振動モード毎に特定するステップと
を含むことを特徴とする搬送装置の振動特性同定方法。
【請求項5】
前記減衰係数を特定するステップは、分離した振動のうち特定した固有周波数に対応する所定周期毎に現れる最大振幅に基づいて前記減衰係数を特定するものである請求項4に記載の搬送装置の振動特性同定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−133938(P2011−133938A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290143(P2009−290143)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】