説明

携帯端末、車載装置、及び車両接近報知システム

【課題】異種局間で同一のチャンネルを利用しつつ相手局の種類(例:車載装置と携帯端末など)を簡単に識別することができる通信方式を実現すること。
【解決手段】携帯端末100の送信処理部120には、発信するon信号が周波数変調されるon・off変調処理手段が備えられている。車載装置500の周波数弁別器513は、携帯端末100の送信処理部120から送出されるキャリヤの周波数変調を復調する手段として備えられたものであり、判定部514は、その周波数変動の変動幅Δfが所定の閾値以上の値を示した場合には信号解析部531に受信信号rを出力し、この周波数変動の変動幅Δfが所定の閾値未満の値を示した場合には、受信信号rを無視する。その後段の信号解析部531は、入力された受信信号rを携帯端末100から送られてきた正規の信号として解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯端末と車載装置とを用いて、歩行者の接近を車載装置に知らせ、車両の接近を携帯端末に知らせる車両接近報知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
歩行者に端末を携帯させることにより、電波を使ってその歩行者の安全を図ろうとする従来技術としては、下記の特許文献1〜3に開示されているものがあるが、例えばこれらの通信システムにおいて、車両(車載装置)と歩行者(携帯端末)との間で相互に通信を行おうとする場合には、不特定多数の相手局が当該通信環境内に存在することが想定され得るため、少なくとも相手局が車両であるのか歩行者であるのかを簡単に識別することができる通信方式を確立しておくことが望ましい。
【0003】
この様な異種局(例:車両と歩行者)の識別を簡単に行う通信方式としては、例えば、送出する電波のチャンネル(周波数帯域)をそれらの異種局間で分別するなどの方式が従来より一般的である。また、相互に同じチャンネルを使用する場合であっても、所定の通信プロトコルに基づいた時分割処理などを巧く用いることによって、目的外の他の信号を受けない様にする方法も考えられる。
【0004】
なお、充放電回路を利用して間欠的に高周波を発振する発振装置としては、例えば、下記の特許文献4に記載されている間欠発振器などが知られている。
【特許文献1】特開2003−173499
【特許文献2】特開2005−202693
【特許文献3】特開2001−299563
【特許文献4】特公昭62−10054
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来の異種局識別方式を採用する場合、上記の様な時分割処理などの複雑な情報処理を行わなければならなくなる。即ち、それらの従来の異種局識別方式は、高度で高性能ではあるが、装置構成が大掛りとなり易いため、消費電力や携帯性、或いは装置の開発・製造コストなどの点で必ずしも有利であるとは言えない。また、異種局間でチャンネルを分離することは、チャンネルの使用効率の点でも不利である。
また、特に、特許文献1〜3に開示されている様な車両と歩行者との間における通信などでは、その通信内容は、極めて単純または簡易定形のものであることが多く、かつ、歩行者が使用する端末には高い携帯性が要求されるため、これらの通信システムにおいては、装置構成をより簡単なものにしたいと言うニーズが強い。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、異種局間で同一のチャンネルを利用しつつ相手局の種類(例:車載装置と携帯端末など)を簡単に識別することができる通信方式を実現することである。
また、本発明の更なる目的は、交通安全を図る車両接近報知システムに用いる携帯端末の小形化、軽量化、及び低消費電力化である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
即ち、本発明の第1の手段は、携帯端末と車載装置とを用いて歩行者の接近を車載装置に知らせ車両の接近を携帯端末に知らせる車両接近報知システムで用いられる携帯端末において、発信するon信号が周波数変調されるon・off変調処理手段を備え、この携帯端末から発信されるon信号のパルス幅を車載装置から発信されるon信号のパルス幅よりも明らかに短くすることである。
【0008】
また、本発明の第2の手段は、上記の第1の手段において、上記のon・off変調処理手段に、微小電流から得られる電荷を蓄積するコンデンサーと、コンデンサーに蓄積された電荷を間欠的に放電する波形整形回路と、この波形整形回路を給電源として間欠的に高周波を発振する発振器とを備えることである。
【0009】
また、本発明の第3の手段は、上記の第1または第2の手段の携帯端末において、時定数の長い包絡線検波処理を実行する復調器を備えることである。
ただし、この時定数は例えば数百マイクロ秒程度かまたはそれ以上の長さであることがより望ましい。
【0010】
また、本発明の第4の手段は、携帯端末と車載装置とを用いて歩行者の接近を車載装置に知らせ車両の接近を携帯端末に知らせる車両接近報知システムで用いられる車載装置において、受信されたon信号における周波数変調の有無を判定するFM判定手段を設け、この車載装置から発信されるon信号のパルス幅を携帯端末から発信されるon信号のパルス幅よりも明らかに長くすることである。
【0011】
ただし、上記の様なFM判定手段は、例えば周波数弁別器などを用いて構成することが可能である。また、周波数弁別器を用いる代わりに、ミキシングによってビート信号を出力するヘテロダイン検波手段を用いても、上記の様なFM判定手段を構成することができる。
【0012】
また、本発明の第5の手段は、携帯端末と車載装置とを用いて、歩行者の接近を車載装置に知らせ、車両の接近を携帯端末に知らせる車両接近報知システムにおいて、発信するon信号が周波数変調されるon・off変調処理手段を携帯端末に設け、携帯端末から発信されるon信号のパルス幅を車載装置から発信されるon信号のパルス幅よりも明らかに短くし、受信されたon信号における周波数変調の有無を判定するFM判定手段か、または、受信されたon信号のパルス幅の長短を判定するパルス幅判定手段の少なくとも何れか一方を車載装置に備えることである。
【0013】
また、本発明の第6の手段は、上記の第5の手段において、上記の携帯端末に、受信されたon信号のパルス幅の長短を判定するパルス幅判定手段を備えることである。
以上の本発明の手段により、前記の課題を合理的に解決することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上の本発明の手段によって得られる作用・効果は以下の通りである。
即ち、本発明の第1の手段によれば、車載装置側では、受信されたon信号のパルス幅か、またはそのon信号における周波数変調の有無によって、そのon信号の発信元が、車両に搭載された車載装置であるのか、それとも歩行者が携帯する携帯端末であるのかを判別することが可能となる。また、携帯端末の側では、受信されたon信号のパルス幅によって、そのon信号の発信元が、車両に搭載された車載装置であるのか、それとも歩行者が携帯する携帯端末であるのかを判別することが可能となる。
【0015】
したがって、本発明の第1の手段によれば、この様な異種局(車載装置と携帯端末)間で同一のチャンネルを利用しつつ、相手局の種類を簡単に識別することができる車両接近報知システムを実現することができる。
また、携帯端末から発信されるon信号のパルス幅を車載装置から発信されるon信号のパルス幅よりも明らかに短くすれば、携帯端末における消費電力を効果的に抑制することができるため、携帯端末の小形化のためにも、また、システム運用上も非常に都合がよい。
【0016】
以下、上記の本発明の第2の手段の作用・効果について説明する。図11の回路は、上記の発振器を構成するトランジスタの一般的な等価回路である。ここで、記号B/Gは、そのトランジスタがバイポーラ型の時はベース(B)を意味し、そのトランジスタがMOSFETの場合にはゲート(G)を意味している。また、記号E/Sは、そのトランジスタがバイポーラ型の時はエミッタ(E)を意味し、そのトランジスタがMOSFETの場合にはソース(S)を意味している。また、記号C/Dは、そのトランジスタがバイポーラ型の時はコレクタ(C)を意味し、そのトランジスタがMOSFETの場合にはドレイン(D)を意味している。
【0017】
そして、この等価回路における各コンデンサの容量は、発振器の給電源の給電電圧Vccに依存する。このため、MOSFETまたはバイポーラ型のトランジスタを用いて構成される発振器の発振周波数fは、その給電電圧Vccの変動に応じて変化する。ただし、この給電電圧Vccに対する上記の容量の依存形態は、その発振器の回路構成によって大きく異なる。
【0018】
また、上記の波形整形回路から出力される電力はそのコンデンサの放電に伴うものであるから、その給電電圧Vccの波形は山形となり、その立ち下がり部においては漸近的に0vに達する減衰部分が形成される。また、特に波形整形回路の出力部分にローパスフィルタを設ける場合などには、給電電圧Vccの山形波形の立ち上がりの部分にも低電圧部分が形成される。
このため、上記の送信装置が有する上記の発振器の発信周波数fは、波形整形回路から出力されるそれらの給電電圧Vccの山形波形の変化に伴って変化する。
【0019】
したがって、本発明の第2の手段によれば、その様な周波数変調を有するon信号を容易に上記のon・off変調処理手段から送出することができる。また、この様なon・off変調処理手段は、上記の波形整形回路を給電手段としているため、小形化したり低消費電力化したりすることが容易となり、特に携帯端末を構成する上で有利である。
【0020】
また、車載装置から発信されるon信号のパルス幅は、携帯端末から発信される前記on信号のパルス幅よりも明らかに長いので、本発明の第3の手段によれば、携帯端末側の上記の包絡線検波処理によって、車載装置から発信されるon信号の方をより確実に復調することができ、これによって、携帯端末における他の携帯端末からの受信回数または受信確率を確実に低減させることができる。
【0021】
また、本発明の第4または第5の手段によれば、車載装置側においてはそのFM判定手段により、受信されたon信号における周波数変調の有無に基づいて、そのon信号が上記のon・off変調処理手段から出力されたon信号であるか否かを判定することができる。このため、その車載装置側では、相手局が携帯端末であるのか否かを上記のFM判定手段を用いて容易に判定することができる。
【0022】
また、本発明の第6の手段によれば、携帯端末においても、受信したon信号のパルス幅の長短に基づいて、相手局が携帯端末であるのか車載装置であるのかを判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
また、例えば携帯端末が有する受信回路の後段に、所定の幅よりもパルス幅が短いon信号を無視する様な制御回路を設けておくことができる。そして、この場合には、携帯端末から別の携帯端末に対して送出されたon信号は、その受信側では無視されるため、各携帯端末においては、車載装置から送出された信号だけを選択的に受信することができる。勿論、上記の制御回路では、所定の幅よりも短いパルス幅を有するon信号を無視する代わりに、そのon信号の発信周期によって、当該信号を他の信号と区別する様にしても良い。
【0024】
なお、受信したon信号のパルス幅の長短を判定する代わりに、例えばon信号の発信周期の長さに基づいて、発信元が車載装置であるのか携帯端末であるのかを判別する様にしても良い。
【0025】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
ただし、本発明の実施形態は、以下に示す個々の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
図1に、本実施例1の車両接近報知システムのシステム構成図を示す。この車両接近報知システムは、不特定多数の車両にそれぞれ搭載された車載装置500と、不特定多数の歩行者がそれぞれ携帯する携帯端末100から構成される。携帯端末100には、受信アンテナ101と送信アンテナ102が具備されており、受信アンテナ101は受信処理部110に接続されており、送信アンテナ102は送信処理部120に接続されている。
【0027】
一方、車載装置500は、受信処理部510と送信処理部520とデジタルデータ処理部530とから構成されており、受信アンテナ501は受信処理部510に、送信アンテナ502は送信処理部520にそれぞれ接続されている。受信処理部510は、周波数弁別器513や判定部514などを有しており、その判定の結果、受信されたon信号が周波数変調を有してた場合にのみ、それらの受信信号rがデジタルデータ処理部530の信号解析部531に入力される。
デジタルデータ処理部530は、CPLDなどによって構成されており、その信号解析部531は、受信信号rを用いて所定の情報処理を実行し、その解析結果に基づいて信号生成部532は送信信号Tを生成する。また、送信処理部520は、送信信号Tをon・off変調するon・off変調部522と、その変調後の信号を送出するためのアンテナ502などから構成されている。
【0028】
以下、この車両接近報知システムの各部の詳しい構造や動作について説明する。
まず、携帯端末100の装置構成を図2に示す。携帯端末100の受信処理部110は、受信アンテナ101の後に、伝送路に対して直列に接続されたコンデンサをその後部に有する整合回路MCと包絡線検出回路111と増幅回路112と二値化回路113の各制御ブロックをこの順に伝送路に対して直列に接続することにより構成されている。
この様な受信処理部110は、例えば、特開2004−194301や、特開2005−184175などに開示されている周知の起動信号出力回路などを適当に応用することによって構成することができる。
【0029】
また、携帯端末100の送信回路120(図3)は、発振器121と波形整形回路122の各制御ブロックの直列接続により構成されている。発振器121に用いる発振器は、発振周波数が給電電圧(VCC)に依存するものが適している。これは、車載装置500の周波数弁別器513によって復調されるべき周波数変調を出力信号(on信号)に対して故意に積極的に与えるためであって、従来はこの逆に、発振周波数が給電電圧(VCC)に依存し難い特性の発振器が専ら選択的に用いられてきた。
【0030】
上記の受信処理部110と送信回路120の各回路には、コイン電池から成る直流電源Eからそれぞれ給電される。受信処理部110の側には常時10μA程度の給電が必要であるが、送信回路120の側には、送信処理実行時にのみ、その送信期間の平均値で約300μA〜400μA程度の給電をすれば十分である。
ただし、上記の直流電源E(小電流電源)には、自然エネルギーを利用した発電機(例:腕時計用発電機など)と二次電池(例:コンデンサーなど)とを組み合せて構成した電源などを用いても良い。
【0031】
図3に上記の携帯端末100の波形整形回路122の回路図を示す。この波形整形回路122は、パルス電源やDC−DCコンバーターなどに昨今利用されているものであるが、従来はこれらの波形整形回路は給電を安定させる目的で専ら用いられており、波形整形に基づく一時的な電流増大作用を利用して発振器などの負荷を間欠的に動作させる応用例は今のところ報告されていない。
【0032】
この波形整形回路122には、コンデンサーC1,C2が設けられており、2つの各スイッチSWbをそれぞれ開き(offし)、2つの各スイッチSWaをそれぞれ閉じる(onする)と、上記のコンデンサーC1,C2は互いに並列に接続され、かつ、これらのコンデンサーC1,C2は何れも直流電源Eによって抵抗Rを介して充電される様に接続される。この時の直流電源Eから波形整形回路122に流れ込む充電電流Iaを図4−Aに例示する。ここに例示するグラフは、約0.1ミリ秒間の瞬時の放電と、約6ミリ秒間の充電とを交互に繰り返し行った時のものである。この時の直流電源Eから波形整形回路122に流れ込む電流の平均値は約400μA程度になっており、最大値では700μA程度になっている。
【0033】
また、2つの各スイッチSWaをそれぞれ開き(offし)、2つの各スイッチSWbをそれぞれ閉じる(onする)と、コンデンサーC1,C2は互いに直列に接続されるので、その時には元の並列接続時に各コンデンサーC1,C2の端子間に個々に生成されていた電位の2倍の電位をコンデンサーC3の両端子間に生成することができる。この波形整形回路122の出力部にはインダクタLとキャパシタC3から成るローパスフィルタLPF1が設けられているので、この放電時には、キャパシタC1,C2に蓄電された電荷は、このローパスフィルタLPF1を介して発振器121に給電される。この時の給電電流Ib(即ち、波形整形回路122からの放電出力電流)を図4−B,−Cに図示する。この時の負荷(発振器121)に対する給電時間は、約0.1ミリ秒オーダーと短いが、発振器121を間欠的に動作させるためには十分な長さである。また、この時の給電電流Ibは最大で38mAにも達しており、この電流値も発振器121を動作させるためには十分と言える。
【0034】
図5に、上記の送信処理部120からのRF出力に係わる実験結果を例示する。ただし、この実験は、以下で説明する図6の回路を用いて行ったものであり、その実施結果(RF出力)については、ミキサを用いてダウンコンバージョンした後の状態の波形を撮影して本グラフ(図5)に示している。また、この時のローカル周波数は5.8526GHzとした。
【0035】
この実験に用いた実験システムの回路図を図6に示す。測定したのは、波形整形回路がない状態(定常状態)での発振周波数が5.841GHzとなるSAW発振器121″の発振出力信号である。また、この時の計測器には、上記のローカル周波数を有するヘテロダイン検波回路が入力段に接続されたオシロスコープを用いた。
【0036】
この波形整形回路122″は、抵抗ρ(1kΩ)を介して直流電源E(5v)から容量γ(0.4μF)に一旦蓄積されたエネルギーを、on制御(スイッチσを閉じること)によってSAW発振器121″に供給するものであり、Λはローパスフィルタである。このスイッチσはFETからなり、端子aから入力されるクロック信号を増幅する増幅回路Aからの出力信号によってon/off制御される。なお、このクロック信号は、周波数が100Hz、デューティ比が50%の矩形波とした。
【0037】
この時、直流電源Eからは波形整形回路122″に対して、平均400μAの電流iが断続的に供給された。図5のグラフは、毎秒100回、スイッチσが開状態から閉状態に遷移した直後に得られるものであり、この時の図5のon信号のパルス幅は、約150マイクロ秒であった。このパルス幅は、図4−Cの山形波形のパルス幅に対応している。
【0038】
図5のグラフに例示したon信号は、上記の通りダウンコンバージョンして記録されたものであるが、このon信号において実際には、SAW発振器121″から発振される高周波信号の周波数が、SAW発振器121″への給電電圧Vccが低い時に高くなっている。即ち、図5のグラフに例示したon信号の左右の裾部では、その中央部(包絡線の腹部)よりも遥かに高く、かつ上記のローカル周波数に近い周波数が観測される。これは、先に図11を用いて説明した様に、SAW発振器を構成するトランジスタが有する容量が、そのSAW発振器に対する給電電圧に依存するためである。
以下、これらの依存形態について具体的に例示する。
【0039】
図7に、上記の実験システムに用いたSAW発振器121″の回路図を示す。このSAW発振器121″のトランジスタTr1,Tr2にはそれぞれエミッタ抵抗R1,R2が接続されているため、各トランジスタには自己バイアスが大きく掛かる。この時、給電電圧Vccを上昇させると、各トランジスタに流れるエミッタ電流は制限されるので、各トランジスタのベース・エミッタ間電圧は、SAW発振器121″への給電電圧Vccの増大に伴って減少する。
【0040】
したがって、この時、トランジスタTr1のベース容量は、給電電圧Vccの増大に伴って減少する。また、このトランジスタTr1のベース容量は、本図7のSAW共振子に対して並列に接続されている。したがって、上記の通り本SAW発振器121″の共振周波数は、給電電圧Vccが高い時に低くなっている。なお、図中のダブラーは、その前段で生成した基本波の周波数を2倍に増大させるためのものである。
【0041】
また、本グラフを包む上側の包絡線の増減変動は、発振器121に給電される電源電圧VCCの増減変動に概ね対応しており、よって、図1の送信処理部120が備える図2、図3の発振器121においても、図7と略同様の回路構成にしたがえば、出力される高周波の周波数を、電源電圧VCCが低い部分で相対的に高くすることができる。携帯端末100の送信処理部120より送出される高周波に対して、周波数変調を付与できるのは、これらの作用のためである。ただし、発振器の具体的な回路構成によっては、発振される高周波の周波数fを、電源電圧VCCが低い時程低くすることもできる。即ち、電源電圧VCCに対する発振周波数fの依存形態は、その発振器の回路構成によって任意に設定することができる。
【0042】
また、本願発明のFM判定手段は、上記の様なビート信号を生成するヘテロダイン検波手段によって構成しても良い。この場合にも、そのビート信号の波形特性などを利用すれば、受信したon信号における周波数変調の有無を判定することができる。
また、車載装置から発信するon信号のパルス幅と、携帯端末から発信するon信号のパルス幅とが明らかに異なれば、それらの差異に基づいて、発信元の種類(携帯端末か車載装置か)を判別することができる。また、車載装置から発信するon信号の発信周期と、携帯端末から発信するon信号の発信周期についても、それらの長さを異なる値に設定することにより同様の効果を得ることができる。
【0043】
以下、図1の車載装置500の詳細な動作について具体的に説明する。
この車載装置500の周波数弁別器513は、上記の様なon信号が有する周波数変調を復調する手段として備えられたものであり、判定部514は、その周波数変動の変動幅Δfが所定の閾値以上の値を示した場合には信号解析部531に対して、受信信号rを出力し、この周波数変動の変動幅Δfが所定の閾値未満の値を示した場合には、その受信信号rを他の局から送られてきた不測の信号として無視する。
その後段の信号解析部531は、入力される上記の受信信号rを携帯端末100から送られてきた正規の信号として解析する。
【0044】
一方、送信処理部520が有するon・off変調部522は、定常的かつ安定的に生成されている一定周波数の高周波に対する送出動作をスイッチング操作でon/off制御することによって、所望のon・off変調処理を実現するものであるので送信アンテナ502からは一定の周波数を有する高周波だけが送出され、よってそのキャリヤは周波数変調されていない。
【0045】
したがって、信号解析部531においては、例えば、自身以外の他の車載装置500から送出されたon・off変調波を受信することは、上記の周波数弁別器513と判定部514の作用に基づいて自動的に防止される。このため、信号解析部531は、専ら携帯端末100から送信された信号だけを処理することができる。即ち、車載装置500と携帯端末100との間において同一のチャンネルを使用していても、各車載装置500は、他の車載装置500からのキャリヤと携帯端末100からのキャリヤとを容易に区別することができ、携帯端末100からのキャリヤ(受信信号r)だけを選択的に解析処理することができる。
【0046】
また、上記の送信局の種類(携帯端末と車載装置)の判別は、各送信局が出力するon/off信号におけるon信号のパルス幅の違いや、on信号の発信周期の違いに基づいて行う様にしても良い。
【0047】
以下、図8−A,−B、図9−A,−B、及び図10−A,−Bを用いて、前述の図2の受信処理部110の検波動作について詳しく説明する。
図8−Aのグラフは、受信処理部110の接続点P1における検波信号を例示したものである。ただし、このグラフは、シミュレータを用いて接続点P1における検波信号を検証した際の検証結果を示したものである。また、図8−Bは、その時の、図2の受信処理部110の接続点P2におけるon・off復調信号のシミュレーション結果を示している。
なお、これらのシミュレーション結果(図8−A,−B)は、車載装置500から携帯端末100に対してon・off変調された高周波信号を送った時のものであり、この時の受信アンテナ101において受信されたon・off変調波のon信号のパルス幅は781マイクロ秒と仮定し、その電力は−60dBmと仮定した。
この信号の接続点P2における出力電位Vout (図8−B)は、約0.7ミリ秒のパルス幅を示している。
【0048】
図9−A,−Bは、携帯端末100から他の携帯端末100に対して高周波が伝送されてしまった時の、受信側の携帯端末100の受信アンテナ101でのon・off変調波のピーク値の電力を−60dBmとし、更にそのパルス幅を70マイクロ秒と仮定した場合における、上記と同様のシミュレーションの結果を示しており、図9−Aには点P1における電位が、図9−Bには点P2における電位がそれぞれ例示されている。
この場合、受信されたon・off変調波のon信号のパルス幅が非常に狭いため、受信側の携帯端末100においてon・off復調処理を実行する受信処理部110は、その受信信号を無視してその復調結果である電位Vout を出力している。この作用は、受信処理部110におけるノイズ除去作用として理解することができる。
【0049】
一方、図10−A,−Bは、受信側の携帯端末100の受信アンテナ101でのon・off変調波のピーク値の電力を−50dBmとする点以外は、上記の図9−A,−Bの場合と同じ条件にして上記と同様のシミュレーションを行った結果を示している。即ち、この場合は、上記の2台の携帯端末100が互いに近距離に位置していた場合に相当している。そして、この様な場合には、入力レベルが高いために、上記のノイズ除去作用は得られず、各on・off復調波のピーク値はそれぞれ0.5vを超過している。
しかしながら、それらのパルス幅は、何れも500マイクロ秒以下であるため、それらは車載装置500からの到来波とは、明確に区別することができる。
【0050】
また、図2の出力端子P2の位置に、所定の幅よりもパルス幅が短い受信信号については当該信号を無視する様な回路を設けることができ、この様な回路構成を採用する場合には、携帯端末100から別の携帯端末100に対して送出された信号は、その受信側では無視されるため、各携帯端末100においては、車載装置500から送出された信号だけを選択的に受信することができる。
具体的にはこの様な回路は、例えば、RCローパスフィルタなどで簡単に構成することができる。
【0051】
また、受信されたon信号の到来周期を判別する様な、特別な判別回路を図2の出力端子P2の位置に設ける様にしても良い。この場合には、携帯端末100と車載装置500との間で、送出するon・off変調波のon信号の送出周期を互いに異ならせることによって、同様の選択的な受信を実現することが可能となる。
【0052】
〔その他の変形例〕
本発明の実施形態は、上記の形態に限定されるものではなく、その他にも以下に例示される様な変形を行っても良い。この様な変形や応用によっても、本発明の作用に基づいて本発明の効果を得ることができる。
【0053】
(変形例1)
例えば、二値化回路113と波形整形回路122との間には、スイッチを設けたりシフトレジスタを設けたりしても良い。携帯端末からの返信応答の要否を判定する通信制御回路などを受信処理部110に備え、それを用いてその様なスイッチを開閉制御すれば、これにより車載装置に対する不要な返信応答処理を抑止することができる。また、その様なシフトレジスタは、受信データの一時的な記憶や遅延操作などを実現したい場合などに有効となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、例えば携帯端末などの簡易な送信装置を用いて、限られたチャンネルを分離せずに有効に利用しようとする通信システムに有用であり、その送信装置の小形化や低消費電力化などに特に有利である。したがって、本発明は、例えば、無線応答する携帯端末を有する端末携帯者の接近を車載装置によって検知してその接近を運転者に報知する車両接近報知システムなどに応用することができるが、その適用範囲はこれに限定されるものではなく、本発明は、簡易な移動体通信などを中心とする任意の通信システムに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1の車両接近報知システムのシステム構成図
【図2】携帯端末100の装置構成を示すブロック図
【図3】携帯端末100の波形整形回路122の回路図
【図4−A】電池Eから波形整形回路122に供給される電流Iaのグラフ
【図4−B】波形整形回路122から発振器121に供給される電流Ibのグラフ
【図4−C】波形整形回路122から発振器121に供給される電流Ibのグラフ
【図5】発振器121からのRF出力のシミュレーション結果を例示するグラフ
【図6】図5のシミュレーションに用いた実験システムの回路図
【図7】図6の実験システムに用いたSAW発振器121″の回路図
【図8−A】受信処理部110の受信状態を例示するグラフ(段間点P1)
【図8−B】受信処理部110の受信状態を例示するグラフ(出力点P2)
【図9−A】受信処理部110の受信状態を例示するグラフ(段間点P1)
【図9−B】受信処理部110の受信状態を例示するグラフ(出力点P2)
【図10−A】受信処理部110の受信状態を例示するグラフ(段間点P1)
【図10−B】受信処理部110の受信状態を例示するグラフ(出力点P2)
【図11】トランジスタの一般的な等価回路を示す回路図
【符号の説明】
【0056】
100 : 携帯端末
110 : 受信処理部
120 : 送信処理部
121 : 発振器
122 : 波形整形回路
500 : 車載装置
513 : 周波数弁別器
520 : 送信処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯端末と車載装置とを用いて、歩行者の接近を前記車載装置に知らせ、車両の接近を前記携帯端末に知らせる車両接近報知システムにおいて用いられる携帯端末であって、
発信するon信号が周波数変調されるon・off変調処理手段を有し、
当該携帯端末から発信される前記on信号のパルス幅は、
前記車載装置から発信されるon信号のパルス幅よりも明らかに短い
ことを特徴とする携帯端末。
【請求項2】
前記on・off変調処理手段は、
微小電流から得られる電荷を蓄積するコンデンサーと、
前記コンデンサーに蓄積された電荷を間欠的に放電する波形整形回路と、
前記波形整形回路を給電源として間欠的に高周波を発振する発振器と
を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の携帯端末。
【請求項3】
時定数の長い包絡線検波処理を実行する復調器を有する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の携帯端末。
【請求項4】
携帯端末と車載装置とを用いて、歩行者の接近を前記車載装置に知らせ、車両の接近を前記携帯端末に知らせる車両接近報知システムにおいて用いられる車載装置であって、
受信されたon信号における周波数変調の有無を判定するFM判定手段を有し、
当該車載装置から発信される前記on信号のパルス幅は、
前記携帯端末から発信されるon信号のパルス幅よりも明らかに長い
ことを特徴とする車載装置。
【請求項5】
携帯端末と車載装置とを用いて、歩行者の接近を前記車載装置に知らせ、車両の接近を前記携帯端末に知らせる車両接近報知システムにおいて、
前記携帯端末は、
発信するon信号が周波数変調されるon・off変調処理手段を有し、
前記携帯端末から発信される前記on信号のパルス幅は、
前記車載装置から発信されるon信号のパルス幅よりも明らかに短く、
前記車載装置は、
受信されたon信号における周波数変調の有無を判定するFM判定手段か、または、
受信されたon信号のパルス幅の長短を判定するパルス幅判定手段
の少なくとも何れか一方を有する
ことを特徴とする車両接近報知システム。
【請求項6】
前記携帯端末は、
受信されたon信号のパルス幅の長短を判定するパルス幅判定手段
を有する
ことを特徴とする請求項5に記載の車両接近報知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−A】
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【図4−B】
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【図4−C】
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【図6】
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【図7】
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【図8−A】
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【図8−B】
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【図9−A】
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【図9−B】
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【図10−A】
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【図10−B】
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【図11】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−226313(P2007−226313A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43829(P2006−43829)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】