説明

携帯電話機及び受話音声調整方法

【課題】ユーザが単に受話音量を設定するだけで、自動的に音声信号の周波数特性を調整することができる携帯電話機及び受話音声調整方法を得ることを目的とする。
【解決手段】受話音量の設定値毎に音声信号の周波数別の信号レベルを記憶しているメモリ8から、操作部9により設定が受け付けられた受話音量に対応する音声信号の周波数別の信号レベルを読み出し、その周波数別の信号レベルと一致するようにDSP3により抽出された音声信号の信号レベルを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音声信号の信号レベルを調整する機能を有する携帯電話機及び受話音声調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機を使用するユーザが高齢者である程、高い周波数の音が聴こえ難くなる傾向がある。
そこで、従来の携帯電話機は、使用に際して事前にユーザの年齢の入力を促し、その年齢に応じて受話音声の周波数特性を調整するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−209698号公報(段落番号[0010]、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の携帯電話機は以上のように構成されているので、ユーザが事前に年齢を入力することができれば、聴力レベルが低下して、高い周波数の音が聴き取り難くなっている高齢者でも、容易に受話音声を聴き取ることができるようになる。しかし、高齢者に対する複雑な設定操作の要求は一般的に困難であるため、ユーザが事前に年齢を入力することができるとは限らず、多くの場合、受話音声の最適化を図ることができないなどの課題があった。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、ユーザが単に受話音量を設定するだけで、自動的に音声信号の周波数特性を調整することができる携帯電話機及び受話音声調整方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る携帯電話機は、受話音量の設定値毎に音声信号の周波数別の信号レベルを記憶している周波数特性記憶手段から、音量設定手段により設定が受け付けられた受話音量に対応する音声信号の周波数別の信号レベルを読み出し、その周波数別の信号レベルと一致するように音声信号抽出手段により抽出された音声信号の信号レベルを調整するようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、受話音量の設定値毎に音声信号の周波数別の信号レベルを記憶している周波数特性記憶手段から、音量設定手段により設定が受け付けられた受話音量に対応する音声信号の周波数別の信号レベルを読み出し、その周波数別の信号レベルと一致するように音声信号抽出手段により抽出された音声信号の信号レベルを調整するように構成したので、ユーザが単に受話音量を設定するだけで、自動的に音声信号の周波数特性を調整して、受話音声の最適化を図ることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による携帯電話機を示す構成図であり、図において、アンテナ1は無線信号を空中に放射する一方、空中から到来してくる無線信号を受信する。
無線部2はアンテナ1により受信された無線信号を復調するとともに、復調後の無線信号を復号化して、その復号データをDSP3に出力する一方、そのDSP3から出力された送信データを符号化するとともに、その符号化データを変調して、その変調信号を無線信号としてアンテナ1に出力する。
信号処理部であるDSP(Digital Signal Processor)3は無線部2から出力された復号データからデジタル音声信号を抽出し、CPU10の指示の下、そのデジタル音声信号の周波数特性(周波数別の信号レベル)を調整する音量・音質調整処理などを実施する。
また、DSP3はDA/ADコンバータ4から出力されたデジタル音声信号に対する音量・音質調整処理を実施して、調整後のデジタル音声信号を含む送信データを無線部2に出力する。
なお、無線部2及びDSP3から音声信号抽出手段が構成されている。
【0009】
DA/ADコンバータ4はDSP3による調整後のデジタル音声信号をアナログ音声信号に変換して、そのアナログ音声信号を音声制御部5に出力する一方、音声制御部5から出力されたアナログ音声信号をデジタル音声信号に変換して、そのデジタル音声信号をDSP3に出力する。
音声制御部5はCPU10の指示の下、DA/ADコンバータ4から出力されたアナログ音声信号を再生して、受話音声をレシーバ7に出力する一方、マイク6により取り込まれた送話音声をアナログ音声信号に変換して、そのアナログ音声信号をDA/ADコンバータ4に出力する。
なお、DA/ADコンバータ4、音声制御部5及びレシーバ7から音声信号再生手段が構成されている。
【0010】
メモリ8は予め受話音量の設定値毎に、音声信号の所定の周波数特性(周波数別の信号レベル)を実現する音量・音質調整処理のパラメータ値を記憶している。メモリ8は周波数特性記憶手段を構成している。
ここで、図6は各受話音量の設定値に適するデジタル音声信号の周波数特性を示す説明図であり、図6の例では、受話音量の設定値がN+2以上のとき、受話音量の設定値がN+1以下のときと比べて、約600Hz以上の高い周波数の信号が強調されている周波数特性が示されている。
操作部9は例えば携帯電話機のメニューキーやテンキーなどの操作ボタンであり、ユーザが操作部9を操作して、受話音量の設定値を入力する。操作部9は音量設定手段を構成している。
CPU10はDSP3及び音声制御部5の処理内容を制御する制御部であり、例えば、CPU10はメモリ8から操作部9により設定が受け付けられた受話音量に対応する音声信号の所定の周波数特性を実現する音量・音質調整処理のパラメータ値を読み出し、そのパラメータ値をDSP3に出力することにより、抽出されたデジタル音声信号の周波数特性の調整をDSP3に指示する。
表示部11は操作部9により設定が受け付けられた受話音量などを表示する。
なお、DSP3及びCPU10から音声信号調整手段が構成されている。
【0011】
図2はこの発明の実施の形態1による携帯電話機のDSPの内部を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
DSP3は音量・音質調整処理を実施する構成部としてパラメータ反映部31と音声調整部32を実装している。
パラメータ反映部31はCPU10の指示の下、メモリ8から操作部9により設定が受け付けられた受話音量に対応する周波数特性を実現する音量・音質調整処理のパラメータ値を読み出し、そのパラメータ値を音声調整部32に出力する。
音声調整部32はパラメータ反映部31から出力されたパラメータ値を音量・音質調整処理に適応して、デジタル音声信号の周波数特性が、操作部9により設定が受け付けられた受話音量に対応する周波数特性と一致するような調整を実現する。
図3及び図4はこの発明の実施の形態1による受話音声調整方法を示すフローチャートである。
【0012】
次に動作について説明する。
図5は年代別の聴力レベルの一般的な傾向を示す説明図である。
一般的に聴力レベルは、加齢に伴って全周波数において低下することが知られており、周波数が高い程、その低下量が大きくなっている。
即ち、携帯電話機を使用するユーザが高齢者である程、高い周波数の音が聴こえ難くなる傾向がある。
この実施の形態1では、ユーザが単に受話音量を設定するだけで、自動的に音声信号の周波数特性を調整することができるようにしている。
具体的には、以下の通りである。
【0013】
携帯電話機が待受け状態にあるとき着信を受けると(ステップST1)、または、ユーザが操作部9を操作して発信を行うと(ステップST1)、CPU10が携帯電話機の状態を待受け状態から通話状態に移行させる(ステップST2)。
この際、CPU10は、操作部9を用いて設定されている受話音量の設定値の読み出しを行う(ステップST3)。
【0014】
CPU10は、受話音量の設定値を読み出すと、その受話音量の設定値に対応する周波数特性と一致するように、デジタル音声信号の周波数特性を調整する指示をDSP3に与える(ステップST4)。
即ち、CPU10は、受話音量の設定値毎に、音声信号の所定の周波数特性を実現する音量・音質調整処理のパラメータ値がメモリ8に記憶されているので、メモリ8から受話音量の設定値に対応するパラメータ値を読み出す指示をDSP3のパラメータ反映部31に出力する。
【0015】
これにより、DSP3のパラメータ反映部31は、メモリ8から受話音量の設定値に対応するパラメータ値を読み出し(図4のステップST21)、そのパラメータ値をDSP3の音声調整部32に出力する。
DSP3の音声調整部32は、パラメータ反映部31から受話音量の設定値に対応するパラメータ値を受けると、そのパラメータ値を音量・音質調整処理に適応する(ステップST22)。
【0016】
ここで、70代の聴力レベルを有するユーザは、60代以下の聴力レベルを有するユーザと比べて、聴力レベルの全体が低下しているため、受話音量の設定を大きくすると考えられる。
このため、70代の聴力レベルを有するユーザがN+2以上の大きな受話音量を設定すると、図6に示すように、約600Hz以上の高域の信号レベルが強調される周波数特性を実現するパラメータ値が音量・音質調整処理に適応されることになる。
一方、高域を強調する必要がない60代以下の聴力レベルを有するユーザがN+1以下の小さな受話音量を設定すると、図6に示すように、約600Hz以上の高域の信号レベルが強調されていない周波数特性を実現するパラメータ値が音量・音質調整処理に適応されることになる。
【0017】
CPU10は、DSP3の音声調整部32がパラメータ値を音量・音質調整処理に適応する処理を実施すると、通話の開始指令をDSP3及び音声制御部5に出力する(ステップST5)。
DSP3は、CPU10から通話の開始指令を受けたのち、無線部2から復号データを受けると(無線部2は、アンテナ1により受信された無線信号を復調し、復調後の無線信号を復号化して、その復号データをDSP3に出力する)、その復号データからデジタル音声信号を抽出する。デジタル音声信号の抽出処理は、公知の技術であるため、ここでは説明を省略する
DSP3の音声調整部32は、デジタル音声信号の抽出が完了すると、CPU10の指示の下、パラメータ反映部31から出力されたパラメータ値を適応している音量・音質調整処理を実施することにより、そのデジタル音声信号の周波数特性が、操作部9により設定が受け付けられた受話音量に対応する周波数特性と一致するような調整を実現する。
【0018】
DA/ADコンバータ4は、DSP3がデジタル音声信号の信号レベルを調整すると、調整後のデジタル音声信号をアナログ音声信号に変換するD/A変換処理を実施し、そのアナログ音声信号を音声制御部5に出力する。
音声制御部5は、DA/ADコンバータ4からアナログ音声信号を受けると、CPU10の指示の下、そのアナログ音声信号を再生して、受話音声をレシーバ7に出力する。
【0019】
ユーザは、上記のようにして、通話が開始された後においても、操作部9を操作することにより、受話音量の設定値を変更することができる。
CPU10は、受話音量の設定値が変更されたことを検知すると(ステップST6)、変更後の受話音量の設定値を読み出し(ステップST7)、変更後の受話音量の設定値に対応する周波数特性と一致するように、デジタル音声信号の周波数特性を調整する指示をDSP3に与える(ステップST8)。
即ち、CPU10は、受話音量の設定値毎に、音声信号の所定の周波数特性を実現する音量・音質調整処理のパラメータ値がメモリ8に記憶されているので、メモリ8から変更後の受話音量の設定値に対応するパラメータ値を読み出す指示をDSP3のパラメータ反映部31に出力する。
【0020】
これにより、DSP3のパラメータ反映部31は、メモリ8から変更後の受話音量の設定値に対応するパラメータ値を読み出し(図4のステップST21)、そのパラメータ値をDSP3の音声調整部32に出力する。
例えば、受話音量の設定値をN+1からN+2に変更された場合、約400Hz〜500Hzの低域の周波数領域では、信号レベルが約4dB増加し、約1000Hz〜2000Hzの高域の周波数領域では、信号レベルが約7dB増加する周波数特性を実現する音量・音質調整処理のパラメータ値が読み出されて、そのパラメータ値がDSP3の音声調整部32に出力される。
DSP3の音声調整部32は、パラメータ反映部31から変更後の受話音量の設定値に対応するパラメータ値を受けると、そのパラメータ値を音量・音質調整処理に適応して(ステップST22)、その音量・音質調整処理を実施することにより、デジタル音声信号の周波数特性が、操作部9により設定が受け付けられた変更後の受話音量の設定値に対応する周波数特性と一致するような調整を実現する。
【0021】
以後、通話が継続する限り、ユーザが受話音量の設定値を変更する度に、ステップST6〜ST8の処理を繰り返し実施する(ステップST9,ST10)。
【0022】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、受話音量の設定値毎に音声信号の周波数別の信号レベルを記憶しているメモリ8から、操作部9により設定が受け付けられた受話音量に対応する音声信号の周波数別の信号レベルを読み出し、その周波数別の信号レベルと一致するようにDSP3により抽出された音声信号の信号レベルを調整するように構成したので、ユーザが単に受話音量を設定するだけで、自動的に音声信号の周波数特性を調整して、受話音声の最適化を図ることができる効果を奏する。
即ち、高域強調を必要としない60代以下の聴力レベルを有する健聴者には、音声信号の周波数特性を平坦化して、違和感がない受話音声を再生することができる一方、高域強調を必要とする70代の聴力レベルを有する難聴者には、音声信号の周波数特性を高域強調して、高い周波数の音の聴き取りを容易にすることができる効果を奏する。
【0023】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、DSP3がCPU10の指示の下、デジタル音声信号の周波数特性(周波数別の信号レベル)を調整するものについて示したが、図7に示すように、音声制御部5に実装されている音声調整部51がCPU10の指示の下、アナログ音声信号の周波数特性を調整するようにしてもよく、上記実施の形態1と同様の効果を奏することができる。
【0024】
ここで、図8は携帯電話機の音声制御部5に実装されている音声調整部51の内部を示す構成図であり、音声調整部51はN個のスイッチ51a−1〜51a−Nとフィルタ51b−1〜51b−Nから構成されている。
また、図9は音声調整部51を構成しているフィルタ51b−1〜51b−Nの出力特性を示す説明図である。
【0025】
図9の例では、アナログ音声信号の周波数が約400Hz〜600Hzの低域の領域では、どのフィルタ51b−1〜51b−Nも同様の信号通過特性を有しているが、アナログ音声信号の周波数が約600Hz以上の高域の領域では、フィルタ51b−Nが最も高い信号通過特性を有し、フィルタ51b−1が最も低い信号通過特性を有している。なお、フィルタ51b−Nの信号通過特性は、周波数の全域にわたって平坦であり、健聴者用のフィルタである。
したがって、CPU10は、操作部9により設定が受け付けられた受話音量の設定値に応じて音声調整部51のスイッチ51a−1〜51a−Nをオンオフ制御することにより、受話音量の設定値に対応するフィルタを選択し、アナログ音声信号が当該フィルタを通過するように設定する。
【0026】
例えば、70代の聴力レベルを有するユーザがN+2以上の大きな受話音量を設定すると、CPU10が、例えば音声調整部51のスイッチ51a−Nをオンにして、その他のスイッチ51a−1〜51a−3をオフに制御することにより、アナログ音声信号がフィルタ51b−Nを通過するように設定する(スイッチ51a−2又51a−3のみをオンにして、アナログ音声信号がフィルタ51b−2又は51b−3を通過するように設定してもよい)。
一方、60代以下の聴力レベルを有するユーザがN+1以下の小さな受話音量を設定すると、CPU10が音声調整部51のスイッチ51a−1をオンにして、その他のスイッチ51a−2〜51a−Nをオフに制御することにより、アナログ音声信号がフィルタ51b−1を通過するように設定する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の実施の形態1による携帯電話機を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による携帯電話機のDSPの内部を示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1による受話音声調整方法を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1による受話音声調整方法を示すフローチャートである。
【図5】年代別の聴力レベルの一般的な傾向を示す説明図である。
【図6】各受話音量の設定値に適するデジタル音声信号の周波数特性を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態2による携帯電話機の音声制御部の内部を示す構成図である。
【図8】携帯電話機の音声制御部に実装されている音声調整部の内部を示す構成図である。
【図9】音声調整部を構成している各フィルタの出力特性を示す説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 アンテナ、2 無線部(音声信号抽出手段)、3 DSP(音声信号抽出手段、音声信号調整手段)、4 DA/ADコンバータ(音声信号再生手段)、5 音声制御部(音声信号再生手段、音声信号調整手段)、6 マイク、7 レシーバ(音声信号再生手段)、8 メモリ(周波数特性記憶手段)、9 操作部(音量設定手段)、10 CPU(音声信号調整手段)、11 表示部、31 パラメータ反映部、32 音声調整部、51 音声調整部、51a−1〜51a−N スイッチ、51b−1〜51b−N フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受話音量の設定値毎に音声信号の周波数別の信号レベルを記憶している周波数特性記憶手段と、受話音量の設定を受け付ける音量設定手段と、アンテナにより受信された無線信号から音声信号を抽出する音声信号抽出手段と、上記周波数特性記憶手段から上記音量設定手段により設定が受け付けられた受話音量に対応する音声信号の周波数別の信号レベルを読み出し、その周波数別の信号レベルと一致するように上記音声信号抽出手段により抽出された音声信号の信号レベルを調整する音声信号調整手段と、上記音声信号調整手段により信号レベルが調整された音声信号を再生する音声信号再生手段とを備えた携帯電話機。
【請求項2】
予め受話音量の設定値毎に音声信号の周波数別の信号レベルを記憶しておき、受話音量の設定の受付処理を実施する一方、アンテナが無線信号を受信すると、その無線信号から音声信号を抽出する信号抽出処理を実施し、予め記憶している複数の音声信号の周波数別の信号レベルの中から設定を受け付けた受話音量に対応する音声信号の周波数別の信号レベルを特定して、その周波数別の信号レベルと一致するように抽出した音声信号の信号レベルを調整する受話音声調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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