説明

摩擦ダンパー

【課題】摩擦ダンパーのコストダウン及びコンパクト化を図る。
【解決手段】所定方向に相対移動する一対の部材51,52の間に配置されて、相対移動に伴って摺動する圧接板同士の摩擦力により、相対移動を抑制する摩擦ダンパー10aである。第1貫通孔13によって第1圧接板11,11aに対する第2圧接板21の所定方向の摺動が許容されるとともに、摺動に連動して第3圧接板31,31aが第1圧接板11,11aに対して所定方向に摺動する場合に、当該摺動させるための力が、ボルト部材41bの第2貫通孔23及び第3貫通孔33との係合を介して第2圧接板21から第3圧接板31,31aへと伝達される。ボルト部材41bと第2貫通孔23との間には、所定方向に関して隙間S23が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物架構の振動を抑制する摩擦ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
建物架構の振動を減衰する摩擦ダンパーが知られている。この摩擦ダンパーは、建物架構において所定方向に互いに相対移動する一対の鉄骨部材の間に配置され、前記相対移動に伴って摺動する圧接板同士の摩擦力により、前記相対移動を抑制するものである。
【0003】
図1はこの摩擦ダンパー10dの説明図であり、図2は、図1中のII−II断面図である。この例では、摩擦ダンパー10dは、柱梁架構1のブレース5を構成するH形鋼のウエブに設けられている。すなわち、図2に示すように、摩擦ダンパー10dは、前記ブレース5を2つに分断してなる一方のブレース分断片51のウエブ51Wにボルト固定される第1圧接板11と、他方のブレース分断片52のウエブ52Wがそのまま流用される第2圧接板21と、この第2圧接板21とによって前記第1圧接板11を両面から所定の圧接力で挟み込む第3圧接板31と、を有している。そして、前記圧接力は、第1圧接板11の第1貫通孔13、第2圧接板21の第2貫通孔23、及び第3圧接板31の第3貫通孔33を挿通して設けられたボルト41bにナット41nを螺合させて締結することで付与されるようになっており、また、圧接力の安定化を図るべく、ボルト41bの頭部と第2圧接板21との間、及びナット41nと第3圧接板31との間にはそれぞれ皿ばね43が介装されている。また、第1貫通孔13は、前記所定方向に長い長孔に形成されており、これにより、前記一方のブレース分断片51と他方のブレース分断片52との相対移動に応じて第2圧接板21及び第3圧接板31が第1圧接板11に対して前記所定方向に摺動可能に構成され、その結果、当該摺動時の摩擦力Ffにより前記相対移動を抑制して柱梁架構1の振動を減衰するようにしている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−352113号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来は、他方のブレース分断片52に設けられる第2圧接板21と第3圧接板31とは、図2に示すように、上記のボルト41b・ナット41n以外に別途締結部55が設けられ、この締結部55によって互いに相対移動不能に一体に連結固定されていた。そして、これにより、前記他方のブレース分断片52(第2圧接板21)からの外力Pを、当該締結部55を介して第3圧接板31に作用させて、第3圧接板31を第2圧接板21と連動させて第1圧接板11に対して摺動させるようにしていた。
【0006】
しかしながら、このような締結部55を設けると摩擦ダンパー10dの部品数が多くなるだけでなく、第3圧接板31に対して前記締結部55配置用の領域を確保しなければならず、第3圧接板31のサイズダウンも阻まれる。そして、その結果として、摩擦ダンパー10dのコストダウン及びコンパクト化が阻まれてしまう。
【0007】
また、建物の高層化などに伴い風荷重作用下における居住性が重要視される昨今、一般に地震とは外力レベルの異なる当該風荷重に対しても適切な振動減衰効果を発揮したい場合には、地震時の大きな外力Pに対応させて大きな摩擦力を発生可能にするだけでなく、風荷重等の小さな外力Pにも対応させて小さな摩擦力も発生できるようにする必要がある。しかしながら、そうするには、地震用及び風荷重用のそれぞれに対して個別に摩擦ダンパーを配置しなければならず、結果、上述のコストダウン及びコンパクト化を更に阻んでしまうことになる。
【0008】
本発明は、かかる従来の課題に鑑みて成されたもので、コストダウン及びコンパクト化を図れる摩擦ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために請求項1に示す摩擦ダンパーは、
建物架構において所定方向に相対移動する一対の部材の間に配置されて、前記相対移動に伴って摺動する圧接板同士の摩擦力により、前記相対移動を抑制する摩擦ダンパーにおいて、
前記一対の部材のうちの一方の部材に設けられる第1圧接板と、
前記一対の部材のうちの他方の部材に設けられる第2圧接板と、
前記第2圧接板とによって前記第1圧接板を両面から所定の圧接力で挟み込む第3圧接板と、
前記圧接力を付与すべく、前記第1圧接板の前記所定方向に長い第1貫通孔、前記第2圧接板の第2貫通孔、及び前記第3圧接板の第3貫通孔を挿通して設けられるボルト部材と、を有し、
前記第1貫通孔によって前記第1圧接板に対する前記第2圧接板の前記所定方向の摺動が許容されるとともに、前記摺動に連動して前記第3圧接板が前記第1圧接板に対して前記所定方向に摺動する場合に、当該摺動させるための力が、前記ボルト部材の前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔との係合を介して前記第2圧接板から前記第3圧接板へと伝達される前記摩擦ダンパーであって、
前記ボルト部材と前記第2貫通孔との間には、前記所定方向に関して隙間が形成されており、
前記所定方向に関する前記ボルト部材との間の隙間の大きさは、前記第1貫通孔よりも前記第2貫通孔の方が小さいとともに、前記第2貫通孔よりも前記第3貫通孔の方が小さいことを特徴とする。
【0010】
上記請求項1に示す発明によれば、前記第3圧接板を第2圧接板に連動させて摺動させるための力は、前記ボルト部材の前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔との係合を介して前記第2圧接板から前記第3圧接板へと伝達される。よって、前記第3圧接板を第2圧接板に締結固定するための締結部を省略できるとともに、当該省略に伴って第3圧接板のサイズダウンも可能となり、その結果として、摩擦ダンパーのコストダウン及びコンパクト化を図ることができる。
【0011】
また、前記ボルト部材と前記第2貫通孔との間には、前記所定方向に関して隙間が形成されている。よって、前記一対の部材の相対移動量が前記隙間よりも小さい場合には、前記ボルト部材は前記第2貫通孔と係合せず、これにより、第3圧接板を摺動させるための力は、第2圧接板から第3圧接板へは伝達されない。その結果、第2圧接板のみが第1圧接板に対して摺動するのみで第3圧接板は摺動しない状態が作り出され、もって、当該相対移動量の小さい振動、つまり小さな外力による振動に対しては、摩擦ダンパーは小さな摩擦力を発生することになり、これにより摩擦ダンパーは、小さい外力による振動を、小さな摩擦力によって効果的に減衰可能となる。
【0012】
他方、前記隙間の大きさよりも前記相対移動量が大きい場合には、前記ボルト部材は前記第2貫通孔と係合することになる。よって、当該ボルト部材の前記第2貫通孔及び第3貫通孔との係合を介して、第2圧接板から第3圧接板へと、第3圧接板を摺動させるための力は伝達され、これにより、第2圧接板と連動して第3圧接板も第1圧接板に対して摺動する。その結果、相対移動量の大きい振動、すなわち大きな外力の振動に対しては、摩擦ダンパーは大きな摩擦力を発生することになり、これにより摩擦ダンパーは、大きな外力による振動を、大きな摩擦力によって効果的に減衰可能となる。
【0013】
以上をまとめると、この摩擦ダンパーによれば、大きな外力及び小さな外力のどちらに対しても、その大小に応じた適切な大きさの摩擦力を発生して振動を減衰することができるので、外力の大小に対応させて個別に摩擦ダンパーを設けずに済み、その結果、摩擦ダンパーのコストダウン及びコンパクト化を図ることができる。
【0014】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の摩擦ダンパーであって、
前記第1圧接板に対する摺動時の摩擦係数が、前記第2圧接板と前記第3圧接板とで互いに異なっていることを特徴とする。
上記請求項2に示す発明によれば、大きな外力の作用時に発生させるべき摩擦力の大きさと、小さな外力の作用時に発生させるべき摩擦力の大きさとを、前記第2圧接板の摩擦係数及び前記第3圧接板の摩擦係数の調整によってほぼ独立に設定可能となり、摩擦力の大きさの設定自由度に優れたものとなる。
【0015】
請求項3に示す発明は、請求項1又は2に記載の摩擦ダンパーであって、
前記第1圧接板の前記両面には滑動板又は摩擦板が固着され、
前記第2圧接板及び前記第3圧接板において、前記第1圧接板の滑動板と対向する面には摩擦板が固着される一方、前記第1圧接板の摩擦板と対向する面には滑動板が固着され、
前記滑動板と前記摩擦板との摺動によって前記摩擦力が発生することを特徴とする。
上記請求項3に示す発明によれば、前記第1圧接板と、前記第2圧接板及び前記第3圧接板との摺動によって確実に摩擦力を発生させることができる。
【0016】
請求項4に示す発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の摩擦ダンパーであって、
前記ボルト部材の先端部に螺着されて、前記ボルト部材の頭部とによって、前記第1圧接板、前記第2圧接板、前記第3圧接板に前記圧接力を付与するナットを有し、
前記頭部と該頭部に隣接する圧接板との間、及び前記ナットと該ナットに隣接する圧接板との間の少なくとも一方には、皿ばねが介挿されており、
前記皿ばねの弾発力が前記圧接力として前記第1圧接板、前記第2圧接板、前記第3圧接板に付与されることを特徴とする。
上記請求項4に示す発明によれば、前記圧接力は、皿ばねの非線形領域の特性による一定の弾発力により付与されるので、圧接力設定時の誤差や前記圧接板の摩耗による影響を小さくできるなど、前記圧接力の大きさの安定化を図れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る摩擦ダンパーによれば、摩擦ダンパーのコストダウン及びコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】柱梁架構1のブレース5に組み込まれた摩擦ダンパー10dの説明図である。
【図2】図1中のII−II断面図である。
【図3A】第1実施形態の摩擦ダンパー10の説明図である。
【図3B】同摩擦ダンパー10の拡大図である。
【図3C】同摩擦ダンパー10の拡大図である。
【図4】図4A、図4B、図4C、図4Dは、それぞれに、図3A中のA−A矢視図、B−B矢視図、C−C矢視図、D−D矢視図である。
【図5】この摩擦ダンパー10の振動エネルギー吸収履歴特性である。
【図6】第2実施形態の摩擦ダンパー10aの説明図である。
【図7】他の実施形態として6面摩擦に構成した摩擦ダンパー10bの説明図である。
【図8】他の実施形態として8面摩擦に構成した摩擦ダンパー10cの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
===第1実施形態の摩擦ダンパー10===
図3Aは、建物の柱梁架構1のブレース5に適用された第1実施形態の摩擦ダンパー10の説明図であり、図1中のII−II矢視に相当する断面図である。また、図3B及び図3Cは、それぞれ図3Aの拡大図である。更に、図4A、図4B、図4C、図4Dは、それぞれに、図3A中のA−A矢視図、B−B矢視図、C−C矢視図、D−D矢視図である。
【0020】
前述した図1の例と同様に、第1実施形態の摩擦ダンパー10も、柱梁架構1のブレース5に組み込まれている。すなわち、この摩擦ダンパー10が組み込まれるブレース5も、適宜位置で互いに間隔S1を隔てるように分断されて、図3Aに示すように一対のブレース分断片51,52(一対の部材に相当)が形成されており、もって、これらブレース分断片51,52同士は、前記間隔S1によってブレース5の架け渡し方向(所定方向に相当し、以下では、ブレース架け渡し方向とも言う)に相対移動可能になっている。そして、摩擦ダンパー10は、一方のブレース分断片51のウエブ51Wにフィラープレート53を介してボルト止めされる第1圧接板11と、他方のブレース分断片52のウエブ52Wがそのまま流用される第2圧接板21と、この第2圧接板21とによって前記第1圧接板11を表裏両面から所定の圧接力で板厚方向に挟み込む第3圧接板31と、を有している。
【0021】
ここで、第1圧接板11の表裏両面には、それぞれ、滑動板15の一例としてのステンレス板が移動不能に固着されている一方、これら滑動板15,15と対向する第2圧接板21及び第3圧接板31の各面には、それぞれ摩擦板25,35が移動不能に固着されている。この固着方法としては、例えば、(1)接着による方法、(2)固着面を構成する各々の表面について表面粗さの増大化処理(第1圧接板11、第2圧接板21、第3圧接板31、滑動板15及び摩擦板25,35表面の目荒らし、ショットブラスト等)を施して、固着面で相対的な滑りが生じないようにする方法、(3)嵌合による方法等が挙げられる。
【0022】
一方、第1圧接板11、第2圧接板21、第3圧接板31には、それぞれ、第1貫通孔13、第2貫通孔23、第3貫通孔33が板厚方向に貫通形成されているとともに、これらの貫通孔13,23,33には串刺し状に高力ボルト41b(ボルト部材に相当)が通されている。そして、この高力ボルト41bの先端部にはナット41nが螺着されており、これら高力ボルト41b及びナット41nによって、第1圧接板11は、第2圧接板21と第3圧接板31とに挟まれた状態で締結され、これにより、挟み込みのための前記圧接力が板厚方向に付与されている。
【0023】
よって、この圧接力により、第1圧接板11の滑動板15に対して第2圧接板21の摩擦板25及び第3圧接板31の摩擦板35は当接され、摺動時には前記圧接力に応じた摩擦力(=2×Ff又は=1×Ff)を生じる(図3C又は図3Bを参照)。そして、この摩擦力が柱梁架構1の振動の減衰力となる。なお、高力ボルト41bの頭部と第2圧接板21との間、及びナット41nと第3圧接板31との間にはそれぞれワッシャー45付き皿ばね43が介装されており、これら皿ばね43の弾発力が付与されることにより圧接力の大きさの安定化が図られている。
【0024】
ところで、上記の摺動を前記ブレース架け渡し方向について許容すべく、第1圧接板11の前記第1貫通孔13は、前記ブレース架け渡し方向に沿って長い長孔に形成されている(図3B及び図4Cを参照)。すなわち、この長孔13によって、柱梁架構1のブレース分断片51,52同士のブレース架け渡し方向の相対移動に伴い、第1圧接板11に対して第2圧接板21及び第3圧接板31が、前記ブレース架け渡し方向に摺動可能になっている。なお、この長孔13のブレース架け渡し方向の長さLは、地震時に想定されるブレース分断片51,52同士の相対移動量を考慮して決定される。
【0025】
これに対して、第2圧接板21の第2貫通孔23及び第3圧接板31の第3貫通孔33の方は、高力ボルト41bとの間のブレース架け渡し方向の隙間S23,S33が、前記第1貫通孔13の隙間S13よりも小さくなるような孔径の正円に形成されている(図3B、図4B乃至図4Dを参照)。
【0026】
詳しくは、図3Bに示すように、第3貫通孔33の孔径は、高力ボルト41bとの間のブレース架け渡し方向の隙間S33がほぼ零になるように設定されており、また、第2貫通孔23の孔径は、高力ボルト41bとの間にブレース架け渡し方向に関して大きさeの隙間S23が形成されるように設定されている。なお、この隙間S23の大きさeは、柱梁架構1に風荷重が作用した際に想定されるブレース分断片51,52同士の間の相対移動量を考慮して決定され、例えば当該相対移動量の想定値と同値又はこれよりもやや大きめの値に設定される。
【0027】
そして、このようになっていれば、地震時のような大きな外力Pに対してのみならず、風荷重のような小さな外力Pに対しても、適切な大ききの摩擦力を発生して振動を減衰できるので、少なくとも当該摩擦ダンパー10を一つ備えていれば、地震時及び風荷重の作用下のどちらに対しても有効に柱梁架構1の振動を減衰可能となる。
【0028】
詳しくは、次の通りである。先ず、図3Bに示す風荷重の作用下においては、その外力Pも小さいので、ブレース分断片51,52同士の相対移動量も小さくなる。また、上述したように、高力ボルト41bと第2貫通孔23との間の隙間S23の大きさeは、風荷重の作用下にて想定されるブレース架け渡し方向の相対移動量よりも大きく設定されている。よって、柱梁架構1が振動しても、高力ボルト41bは前記隙間S23内を相対移動するのみであって第2貫通孔23の内周面と当接係合することは無く、もって、第2圧接板21から高力ボルト41bへとブレース架け渡し方向の力が作用することも無く、必然、当該力が、第3圧接板31を摺動させるための支圧力Fpとして、第2圧接板21から第3圧接板31へ伝達されることもない。その結果、第2圧接板21のみが第1圧接板11に対して摺動するのみで第3圧接板31は摺動しない状態が作り出され、もって、当該相対移動量の小さい振動、つまり小さな外力Pによる振動に対しては、摩擦ダンパー10は、図3Bに示すように小さな摩擦力(=1×Ff)を発生することになり、これにより、摩擦ダンパー10は、風荷重による小さな外力Pによる振動を、それに対応する大きさの小さな摩擦力(=1×Ff)によって効果的に減衰することができる。
【0029】
他方、地震時においては、その外力Pも大きいので、ブレース分断片51,52同士の相対移動量は、高力ボルト41bと第2貫通孔23との間の隙間S23の大きさeよりも大きくなり、もって、当該相対移動に伴い、図3Cに示すように高力ボルト41bは第2貫通孔23の内周面と当接係合することになる。すると、この当接係合による支圧力Fpは高力ボルト41b内において剪断力Fsの形態を経た後に、高力ボルト41bの第3貫通孔33の内周面との当接係合を通じて第2圧接板21から第3圧接板31へと伝達され、当該伝達された支圧力Fpは第3圧接板31を摺動させるべく作用して、これにより、第2圧接板21と連動して第3圧接板31も第1圧接板11に対して摺動する。その結果、相対移動量の大きい振動、すなわち大きな外力Pの振動に対しては、摩擦ダンパー10は図3Cに示すように大きな摩擦力(=2×Ff)を発生することになり、これにより、摩擦ダンパー10は、地震時の大きな外力Pによる振動を、それに対応する大きさの大きな摩擦力(=2×Ff)によって効果的に減衰することができる。ちなみに、図3C中における剪断力Fs、支圧力Fp、摩擦力Ff、及び外力Pは、次のような釣り合い関係にある。
Fs=Fp=Ff
P=2×Ff
【0030】
図5は、この摩擦ダンパー10の振動エネルギー吸収履歴特性を示すグラフである。このグラフは、ブレース架け渡し方向に所定の振幅δ1又は振幅δ2で強制加振して得られるグラフであり、横軸には、ブレース架け渡し方向の相対変位δを示し、縦軸には、摩擦ダンパー10が発生する摩擦力の総和ΣFfを示している。なお、振幅δ1は地震時の想定振幅量であり、振幅δ2は風荷重作用下の想定振幅量である。
【0031】
図5中、四角形ABCDで示す風荷重の作用下においては、上述したように摩擦ダンパー10の第2圧接板21のみが摺動して第3圧接板31は摺動しないので、摺動面は1面となる。よって、滑動板15と摩擦板25との摩擦係数をμ0とし、圧接力をNとすると、この時に摩擦ダンパー10が発生する摩擦力の総和ΣFfは下式aで表される。
ΣFf=1×Ff
=1×μ0×N ……式a
【0032】
他方、地震時には、第2圧接板21だけでなく第3圧接板31も摺動するので、摺動面は2面となる。よって、その場合に摩擦ダンパー10が発生する摩擦力の総和ΣFfは、図5中の多角形EFGHIJKLにおいて線分HI及び線分LEで示すように、風荷重作用下の場合の2倍の大きさになり、つまり下式bのように表される。
ΣFf=2×Ff
=2×μ0×N ……式b
【0033】
なお、図5に示すように、多角形EFGHIJKLにおける相対移動方向の折り返し位置F又はJを起点としてそこから大きさeの範囲FG,JKにおいては、発生する摩擦力の総和ΣFfが、上式bではなくて上式aで与えられる大きさに小さくなっているが、この理由は、当該範囲FG,JKでは、前記隙間S23の作用に基づき第1圧接板11に対して第3圧接板31が摺動しない状態となるからである。
【0034】
ところで、上述では、第2圧接板21の摩擦板25と第3圧接板31の摩擦板35とは互いに同素材の前提、つまり第1圧接板11の滑動板15との間の摩擦係数は互いに同じμ0である前提で説明したが、その場合には、上述のように風荷重作用下の摩擦力の総和ΣFf(=1×Ff)は、地震時の摩擦力の総和ΣFf(=2×Ff)の二分の1の大きさになるという制約条件が生じてしまい、摩擦ダンパー10を設計し難くなる。
【0035】
この点につき、これら摩擦板25及び摩擦板35の素材を互いに異ならせれば、第1圧接板11に対する第2圧接板21の摺動時の摩擦係数と、第3圧接板31の摺動時の摩擦係数とを互いに異ならせることができて、その結果、上記の制約条件の解消を図れ、摩擦ダンパー10を設計し易くなる。
【0036】
===第2実施形態の摩擦ダンパー10a===
上述の第1実施形態では、図3Aに示すように、第1圧接板11の表裏両面を第2圧接板21及び第3圧接板31で挟み込むことにより、摩擦力が生じる摺動面を2面形成した2面摩擦の摩擦ダンパー10を例示したが、図6に示す第2実施形態の摩擦ダンパー10aは、摺動面を4面形成した4面摩擦の摩擦ダンパーである点で相違する。すなわち、第1圧接板11aが1枚追加されて2枚となり、これに伴い、第3圧接板31aも1枚追加されて2枚になっている。なお、ここでは、説明の都合上、追設された第1圧接板には符号11aを、また、追設された第3圧接板には符号31aを付して示しているが、それぞれに、第1実施形態の第1圧接板11及び第3圧接板31と全く同仕様の部材である。
【0037】
図6を参照して詳細に説明すると、先ず、この第2実施形態の摩擦ダンパー10aにあっては、第1実施形態において第1圧接板11がボルト止めされたブレース分断片51のウエブ51Wの片面だけでなく、その反対側の面にもフィラープレート53を介して別途第1圧接板11aがボルト止めされており、また、この追設された第1圧接板11aを前記第1実施形態の第2圧接板21とで挟み込むべく新たに第3圧接板31aが追設されている。そして、これら追設された第1圧接板11aにも第1貫通孔13が同仕様の長孔に形成される一方、追設された第3圧接板31aにも第3貫通孔33が同仕様の正円に形成されており、更に、これら第1及び第3貫通孔13,33には、前記第1実施形態の第1乃至第3貫通孔13,23,33に通された高力ボルト41bが挿通されてその先端部のナット41nにより締結されている。
【0038】
よって、第2圧接板21と、追設された第1圧接板11aとの間に新たに摺動面が形成され、更に、追設された第1圧接板11aと、追設された第3圧接板31aとの間にも新たに摺動面が形成され、これにより、第1実施形態の2面摩擦の摩擦ダンパー10よりも2面だけ摺動面が増えた4面摩擦の摩擦ダンパー10aが達成されている。
【0039】
なお、この追設された第3圧接板31aも、第1圧接板11aに対して摺動するための力を、高力ボルト41bと第3貫通孔33及び第2貫通孔23との当接係合を介して第2圧接板21から付与されるのは言うまでもない。また、第2貫通孔23における高力ボルト41bとの隙間S23によって、当該摩擦ダンパー10aが2つの大きさの摩擦力を発生可能になっている点も、第1実施形態と同様である。
【0040】
また、この第2実施形態の摩擦ダンパー10aは4面摩擦であることから、上述の2面摩擦の第1実施形態と同値の圧接力の作用下においても、第1実施形態の2倍の大きさの摩擦力ΣFfを発生させ得るので、コンパクトな割には大きな摩擦力ΣFfを出力可能となる。
【0041】
更には、この第2実施形態の摩擦ダンパー10aでは、第2圧接板21に関して線対称に第1圧接板11と第1圧接板11aとが配置されているとともに、第3圧接板31及び第3圧接板31aも第2圧接板21に関して線対称に配置されている。よって、第2圧接板21から第3圧接板31,31aへと前記支圧力Fpを偏り無くほぼ均等に割り振って作用させることができて、その結果、振動の減衰作用の安定化を図れる。
【0042】
図7及び図8には、6面摩擦及び8面摩擦に構成した摩擦ダンパー10b,10cをそれぞれ例示している。但し、これらの摩擦ダンパー10b,10cの構成は、上述と同様の方法により、つまり、更に第1圧接板11aと第3圧接板31aを追設することにより得られるのは明らかであるので、その詳細な説明は省略する。なお、これら6面摩擦及び8面摩擦の摩擦ダンパー10b,10cにおいても、追設された第3圧接板31aは、第1圧接板11,11aに対して摺動するための支圧力Fpを、高力ボルト41bと第3貫通孔33及び第2貫通孔23との当接係合を介して第2圧接板21から付与されるのは言うまでもない。また、第2貫通孔23における高力ボルト41bとの隙間S23によって、当該摩擦ダンパー10b,10cが2つの大きさの摩擦力を発生可能になっている点も、第1実施形態と同様である。
【0043】
なお、これら図6乃至図8の実施形態の摩擦ダンパー10a,10b,10cは、風加重の作用下における圧接力の安定性の点で、第1実施形態の摩擦ダンパー10よりも優れている。すなわち、図3B及び図3Cに示すように、第1実施形態の摩擦ダンパー10の場合には、皿ばね43に隣接して第2圧接板21が配置されているため、風荷重の作用下においては、第2圧接板21は第1圧接板11に対してのみならず皿ばね43に対してもブレース架け渡し方向に相対移動してしまい、その結果、皿ばね43の圧接力の安定性が損なわれる虞がある。この点につき、図6乃至図8の実施形態にあっては、皿ばね43に隣接しているのは第3圧接板31,31aであるので、第2圧接板21がブレース架け渡し方向に摺動しても、皿ばね43が第3圧接板31,31aに対して相対移動することは概ね無く、これにより、皿ばね43の圧接力の安定化が図られるのである。
【0044】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0045】
上述の実施形態では、第3貫通孔33の孔径は、高力ボルト41bとの間のブレース架け渡し方向の隙間S33がほぼ零になるように設定されていると説明したが、望ましくは、第3貫通孔33の孔径は、施工時に高力ボルト41bを通すのに問題の無い範囲内で極力小さくすると良く、例えば、高力ボルト41bを挿通させた際の高力ボルト41bとの隙間S33が、前記ブレース架け渡し方向について0.1〜3.0mmの範囲にすると良い。そうすれば、施工時のボルト通し作業を容易にしながらも、摺動に必要な支圧力Fpを第3圧接板31へ確実に伝達可能となる。
【0046】
また、図6、図7、図8で例示した4面、6面、及び、8面摩擦の摩擦ダンパー10a,10b,10cでは、その複数の第3圧接板31の何れも高力ボルト41bとの間に巨視的な隙間S33を形成していなかったが、何等これに限るものではなく、前記複数の第3圧接板31の貫通孔33の少なくとも1つに対して前記隙間S23のような巨視的サイズの隙間を形成しても良い。そして、このようにすれば、摩擦ダンパー10が発生する摩擦力の大きさを、相対移動量に応じて更に多段階で変更可能となる。
【0047】
上述の実施形態では、摩擦ダンパー10を柱梁架構1のブレース5のウエブに組み込んでいたが、何等これに限るものではなく、ブレース5のフランジに組み込んでも良く、更には、柱梁架構1のブレース5以外の部位(例えば、間柱、間仕切り壁など)に組み込んでも良い。つまり、建物の柱梁架構1の振動時に、互いに相対移動する一対の部材であれば、それらの間に設置することができる。
【0048】
上述の実施形態では、高力ボルト41bを1本だけ備えた構成を例示したが、何等これに限るものではない。すなわち、前記圧接力を付与するための高力ボルト41bのみを介して、第2圧接板21から第3圧接板31へと第3圧接板31を摺動させるための支圧力Fpが伝達されるのであれば、当該高力ボルト41bの設置本数を複数本にしても良い。その場合の設置例としては、ブレース架け渡し方向に沿って複数本並べることや、ブレース架け渡し方向及び板厚方向の両者と直交する板幅方向に沿って複数本並べること等が挙げられる。
【0049】
上述の実施形態では、摩擦板25,35の素材について詳説していなかったが、ステンレス板等の滑動板15との間で適度な摩擦力を発生するものであれば適用可能である。例えば、滑動板15がステンレス板の場合には、摩擦板25,35は、熱硬化性樹脂を結合材としてアラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、カーボンファイバー等の繊維材料と、カシューダスト、鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリューム等の充填剤とから主に構成される摩擦材料で形成される。なお、摩擦板25,35には、上述の摩擦材料を単独で用いても良いし、摩擦材料に鋼板等を裏打ちして強度を高めたものを用いてもよい。
【0050】
上述の実施形態では、2面、4面、6面、及び8面摩擦の摩擦ダンパー10,10a,10b,10cを例示したが、摺動面数は何等これに限るものではなく、2×n面摩擦(nは5以上の整数)に構成しても良いのは言うまでもない。
【0051】
上述の実施形態では、第1圧接板11に滑動板15の一例としてのステンレス板を設け、第2圧接板21及び第3圧接板31に摩擦板25及び摩擦板35を設けたが、何等これに限るものではなく、この配置関係を逆にしても良い。
【0052】
上述の実施形態では、皿ばね43を、高力ボルト41bの頭部と第2圧接板21との間、及びナット41nと第3圧接板31との間の両方にそれぞれ介挿したが、いずれか一方にのみ設置しても良い。
【0053】
上述の実施形態では、第2圧接板21の第2貫通孔23として正円の貫通孔を例示したが、ブレース架け渡し方向に関して前記隙間S23と同じ大きさeの隙間を形成する貫通孔であれは、これ以外の形状でも良く、例えばブレース架け渡し方向に長い長孔でも構わない。
【符号の説明】
【0054】
1 柱梁架構、5 ブレース、10 摩擦ダンパー、
10a 摩擦ダンパー、10b 摩擦ダンパー、
10c 摩擦ダンパー、10d 摩擦ダンパー、
11 第1圧接板、11a 第1圧接板、13 第1貫通孔、
15 滑動板、21 第2圧接板、23 第2貫通孔、25 摩擦板、
31 第3圧接板、31a 第3圧接板、33 第3貫通孔、
35 摩擦板、41b 高力ボルト(ボルト部材)、41n ナット、
43 皿ばね、45 ワッシャー、
51 一方のブレース分断片、51W ウエブ、
52 他方のブレース分断片、52W ウエブ、
53 フィラープレート、55 締結部、
Ff 摩擦力、Fs 剪断力、P 外力、Fp 支圧力、
S1 間隔、S13 隙間、S23 隙間、S33 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物架構において所定方向に相対移動する一対の部材の間に配置されて、前記相対移動に伴って摺動する圧接板同士の摩擦力により、前記相対移動を抑制する摩擦ダンパーにおいて、
前記一対の部材のうちの一方の部材に設けられる第1圧接板と、
前記一対の部材のうちの他方の部材に設けられる第2圧接板と、
前記第2圧接板とによって前記第1圧接板を両面から所定の圧接力で挟み込む第3圧接板と、
前記圧接力を付与すべく、前記第1圧接板の前記所定方向に長い第1貫通孔、前記第2圧接板の第2貫通孔、及び前記第3圧接板の第3貫通孔を挿通して設けられるボルト部材と、を有し、
前記第1貫通孔によって前記第1圧接板に対する前記第2圧接板の前記所定方向の摺動が許容されるとともに、前記摺動に連動して前記第3圧接板が前記第1圧接板に対して前記所定方向に摺動する場合に、当該摺動させるための力が、前記ボルト部材の前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔との係合を介して前記第2圧接板から前記第3圧接板へと伝達される前記摩擦ダンパーであって、
前記ボルト部材と前記第2貫通孔との間には、前記所定方向に関して隙間が形成されており、
前記所定方向に関する前記ボルト部材との間の隙間の大きさは、前記第1貫通孔よりも前記第2貫通孔の方が小さいとともに、前記第2貫通孔よりも前記第3貫通孔の方が小さいことを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦ダンパーであって、
前記第1圧接板に対する摺動時の摩擦係数が、前記第2圧接板と前記第3圧接板とで互いに異なっていることを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の摩擦ダンパーであって、
前記第1圧接板の前記両面には滑動板又は摩擦板が固着され、
前記第2圧接板及び前記第3圧接板において、前記第1圧接板の滑動板と対向する面には摩擦板が固着される一方、前記第1圧接板の摩擦板と対向する面には滑動板が固着され、
前記滑動板と前記摩擦板との摺動によって前記摩擦力が発生することを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の摩擦ダンパーであって、
前記ボルト部材の先端部に螺着されて、前記ボルト部材の頭部とによって、前記第1圧接板、前記第2圧接板、前記第3圧接板に前記圧接力を付与するナットを有し、
前記頭部と該頭部に隣接する圧接板との間、及び前記ナットと該ナットに隣接する圧接板との間の少なくとも一方には、皿ばねが介挿されており、
前記皿ばねの弾発力が前記圧接力として前記第1圧接板、前記第2圧接板、前記第3圧接板に付与されることを特徴とする摩擦ダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−102880(P2012−102880A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−1004(P2012−1004)
【出願日】平成24年1月6日(2012.1.6)
【分割の表示】特願2007−330576(P2007−330576)の分割
【原出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】