説明

摩擦伝動ベルト及びその製造方法

【課題】 乾燥走行時、湿潤走行時ともに動力伝動性及び静音性に優れると共に、長期に渡ってその効果を持続可能な摩擦伝動ベルト、および摩擦伝動ベルトの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ベルト長手方向に沿って心線2を埋設したゴム層を含む弾性体層からなるVリブドベルト1において、摩擦伝動面となるリブ部6が、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、融点又は軟化点が80°C以下の水溶性高分子を5〜50質量部含有するゴム組成物で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は駆動装置等に用いられる摩擦伝動ベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動装置に用いられる摩擦伝動ベルトに要求される特性として、動力を高伝達することに加え、使用中に異音が発生しないこと、並びに耐久性、特に耐摩耗性に優れることが挙げられる。これらの特性を満たすため、摩擦伝動部をポリアミド、メタ系アラミドまたはパラ系アラミドなどの短繊維を配合したゴム組成物で構成し、それらで摩擦伝動面を覆うことで耐発音性、耐摩耗性及び耐粘着摩耗性の向上を図ることが一般的になされている。
【0003】
尚、自動車の使用環境を考えると、伝動ベルトは乾燥状態のみで使用されるわけではなく、湿潤状態で使用されることも多い。例えば、エンジンルーム内に雨水、泥水が浸入した湿潤状態で走行することがあるが、この際、ベルト表面、プーリ表面に水膜が発生し、ベルトがスリップして発音したり、伝達性が低下したりするなどの不具合が問題視されている。即ち、近年では、乾燥状態のみならず湿潤状態においても、静音性、動力伝達性に優れることが要求されている。
【0004】
一方で、近年、省エネルギー化及びコンパクト化の社会的要請を背景に、自動車のエンジンルーム内の部品が密集して配置される傾向があり、それに起因してエンジンルーム内の雰囲気温度は従来に比べて上昇してきている。このような高温雰囲気下において、伝動ベルトを構成するゴムが硬化し、早期にクラックが生じるという問題が指摘されていた。また省エネルギー化に伴ってエンジンの回転変動が大きくなり、その影響を受けて伝動ベルトの張力変動が増大し、早期摩耗や発音などの問題が発生している。更に、クロロプレンなどのハロゲンを含んだゴムはダイオキシンの発生につながることから、環境負荷物質であるハロゲンを含有しないゴムで製造されたベルトが近年求められている。
【0005】
この要求に対して、エチレン・プロピレン共重合体ゴム(EPM)あるいはエチレン・プロピレン・ジエン共重合体ゴム(EPDM)等のエチレン・α−オレフィンゴムが、優れた耐熱性を有しているとともに比較的に安価なポリマーであり、脱ハロゲンという要求を満たしていることからも有望視されている。しかしながら、エチレン・α−オレフィンエラストマーは、クロロプレンゴムなどに比べて水との濡れ性が悪く水をはじきやすいため、被水時の伝達性、静音性の低下が著しくなり、乾燥状態の性能と湿潤状態の性能との差が大きいという問題があった。
【0006】
これらの諸問題に対処するため、摩擦伝動部をポリアミド、メタ系アラミドまたはパラ系アラミドなどの短繊維に加えて、親水性に優れた有機短繊維、具体的には綿短繊維を併用したゴム組成物で構成する試みがなされている。例えば、Vリブドベルトのリブ部に、綿短繊維と、リブ部を構成する主体ゴムの弾性率及び上記綿短繊維の弾性率の中間の弾性率を有する中間短繊維とを含有させることで、回転変動や負荷の大きいエンジンの補機駆動系等に装着した場合であっても、その注水時の異音を小さくすることが可能なVリブドベルトが知られている。(例えば特許文献1参照)
【0007】
また注水時の発音対策として、心線のベルト底面側に圧縮ゴム層が配設された伝動ベルトにおいて、上記圧縮ゴム層に、RFL処理したゲル化可能なポリビニルアルコール繊維からなる短繊維が圧縮ゴム層表面に露出するように配設されていることを特徴とした伝動ベルトであって、注水時のスリップによるベルトの伝動能力の低下と異音の発生とを抑制した伝動ベルトも知られている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−202055号公報
【特許文献2】特開2006−118661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のように綿短繊維を配合することによって対処した場合、綿短繊維はゴムへの分散が悪く、加工性に悪影響があることが問題となっていた。具体的には、ゴムシートの圧延工程において、シート表面にササクレ立ちが生じて平滑なゴムシートが得られなかったり、ゴムシートの積層において、シート間の接着性に乏しく予備成形不良となったりする不具合があった。また特許文献2のように、ポリビニルアルコール短繊維を配合した場合、湿潤走行時には効果が見られるものの、乾燥走行時での摺動性の向上は少なく、結果、発音抑制効果が高い伝動ベルトとは言えなかった。更に、特許文献1,2の伝動ベルトは、特定の短繊維の存在により諸効果を奏しているが、この短繊維が走行によって脱落、摩滅し、効果が経時的に持続しないという問題があった。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、乾燥走行時、湿潤走行時ともに動力伝動性及び静音性に優れると共に、長期に渡ってその効果を持続可能な伝動ベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は摩擦伝動ベルトであって、少なくとも摩擦伝動面の一部が、ゴム100質量部に対して、融点又は軟化点が80°C以下の水溶性高分子を5〜50質量部含有するゴム組成物で構成されることを特徴とする摩擦伝動ベルトである。
【0011】
本発明はまた前記摩擦伝動ベルトにおいて、前記ゴムが、エチレン・α−オレフィンエラストマーを主成分とする;水溶性高分子の融点又は軟化点が50〜80°Cである;水溶性高分子がポリエチレンオキサイドである;摩擦伝動ベルトがVリブドベルトであることを特徴とした発明である。
【0012】
また本発明は摩擦伝動ベルトの製造方法であって、少なくとも摩擦伝動面の一部を、ゴム100質量部に対して、融点又は軟化点が80°C以下の水溶性高分子を5〜50質量部配合したゴム組成物を加硫成形することにより形成することを特徴とする摩擦伝動ベルトの製造方法である。
【0013】
本発明は更に前記摩擦伝動ベルトにおいて、前記ゴム組成物は、ゴムと水溶性高分子を前記融点又は軟化点以上で混練してなる;前記ゴムが、エチレン・α−オレフィンエラストマーを主成分とする;水溶性高分子の融点又は軟化点が50〜80°Cである;水溶性高分子がポリエチレンオキサイドである;摩擦伝動ベルトがVリブドベルトである摩擦伝動ベルトの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本願請求項1記載の摩擦伝動ベルトは、乾燥状態での走行では、溶融/軟化した水溶性高分子が潤滑剤として作用することで適切な摩擦係数を確保できるとともに、走行時の耐発音性、耐熱耐久性を向上させることができる。一方、湿潤状態での走行においては、摩擦伝動面の水溶性高分子が吸水/溶解することにより、摩擦伝動面の水濡れ性が向上するため、被水時においてもベルトのプーリへの密着性を高めて、静音性及び伝達性の向上を図ることができる。またこれにより、乾燥状態と湿潤状態との伝達性能の差が小さくなるといった効果がある。更にこれらの効果は、長期間に渡って持続させることができる。
【0015】
本願請求項2記載の摩擦伝動ベルトは、エチレン・α−オレフィンエラストマーと水溶性高分子の極性の違いを利用して、水溶性高分子を摩擦伝動面へブリードさせる効果を高めることができる。
【0016】
本願請求項3記載の摩擦伝動ベルトは、室温下での水溶性高分子がブリードしないため、保管時、静置時などにおける水溶性高分子の散逸を抑制できるといった効果がある。
【0017】
本願請求項4記載の摩擦伝動ベルトは、特定の水溶性高分子(ポリエチレンオキサイド)を選択することで、静置時のブリードを抑制しつつ、走行時のブリードを適切なものとすることができる。
【0018】
本願請求項5記載の摩擦伝動ベルトは、乾燥状態と湿潤状態との伝達性能、耐発音性能の差が少なく、被水時におけるスティックスリップなどによる発音を長期間に渡り低減できると共に、リブのクラックを抑制してベルトを長寿命化することができる。
【0019】
そして、請求項6記載の摩擦伝動ベルトの製造方法は、少なくとも摩擦伝動面の一部が、ゴム100質量部に対して、融点又は軟化点が80°C以下の水溶性高分子を5〜50質量部含有するゴム組成物で構成した摩擦伝動ベルトを製造することが可能である。この摩擦伝動ベルトは、乾燥状態での走行では、溶融/軟化した水溶性高分子が潤滑剤として作用することで適切な摩擦係数を確保できるとともに、走行時の耐発音性、耐熱耐久性を向上させることができる。一方、湿潤状態での走行においては、摩擦伝動面の水溶性高分子が吸水/溶解することにより、摩擦伝動面の水濡れ性が向上するため、被水時においてもベルトのプーリへの密着性を高めて、静音性及び伝達性の向上を図ることができる。またこれにより、乾燥状態と湿潤状態との伝達性能の差が小さくなるといった効果がある。またこれらの効果は、長期間に渡って持続させることができる。
【0020】
本願請求項7記載の摩擦伝動ベルトの製造方法は、加硫成形前にゴムと水溶性高分子を融点又は軟化点以上で混練することにより、水溶性高分子を溶融又は軟化させてゴムに練り込むことができ、ポリマーアロイにより水溶性高分子を良分散させたゴム組成物を形成することができる。これにより、均一な表面状態を確保することができ、安定した諸効果を奏することができる。尚、このようにして得られたゴム組成物は、ゴムが連続層、水溶性高分子が分散層の海島構造をとることができる。
【0021】
本願請求項8記載の摩擦伝動ベルトの製造方法は、エチレン・α−オレフィンエラストマーと水溶性高分子の極性の違いを利用して、水溶性高分子を摩擦伝動面へブリードさせる効果を高めた摩擦伝動ベルトを製造することができる。
【0022】
本願請求項9記載の摩擦伝動ベルトの製造方法は、室温下では水溶性高分子がブリードしないため、保管時、静置時などにおける水溶性高分子の散逸を抑制させた摩擦伝動ベルトを製造することができるといった効果がある。
【0023】
本願請求項10記載の摩擦伝動ベルトは、特定の水溶性高分子(ポリエチレンオキサイド)を選択することで、静置時のブリードを抑制しつつ、走行時のブリードを適切なものとした摩擦伝動ベルトを製造することができる。
【0024】
本願請求項11記載の摩擦伝動ベルトは、乾燥状態と湿潤状態との伝達性能、耐発音性能の差が少なく、被水時におけるスティックスリップなどによる発音を長期間に渡り低減できると共に、リブのクラックを抑制して長寿命化した摩擦伝動ベルトを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、摩擦伝動ベルトとして、ベルトの長手方向に延びる複数のリブ部を有するVリブドベルトに本発明を適用したものである。
【0026】
図1に示すようにVリブドベルト1は、心線2をベルト長手方向に沿って埋設した接着層3と、この接着層3の一方の面に設けられた圧縮層4と、接着層3の他方の面を被覆するカバー帆布からなる伸張層5とを有する。そして圧縮層4には、ベルト長手方向に延びる断面略三角形状の複数のリブ部6が設けられている。ここで摩擦伝動面は圧縮層6の表層をいう。
【0027】
本発明で使用する心線2は、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリアミド繊維、ガラス繊維、またはアラミド繊維などから構成される撚糸コードが使用できる。
【0028】
前記心線は接着処理を施されることが望ましく、例えば(1)未処理コードをエポキシ化合物やイソシアネート化合物から選ばれた処理液を入れたタンクに含浸してプレディップした後、(2)160〜200°Cに温度設定した乾燥炉に30〜600秒間通して乾燥し、(3)続いてレゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス溶液(RFL溶液)からなる接着液を入れたタンクに浸漬し、(4)210〜260°Cに温度設定した延伸熱固定処理器に30〜600秒間通し−1〜3%延伸して延伸処理コードとする、ことができる。
【0029】
この前処理液で使用するイソシアネート化合物としては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン2,4−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリアリールポリイソシアネート(例えば商品名としてPAPIがある)等がある。このイソシアネート化合物はトルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に混合して使用される。
【0030】
また、上記イソシアネート化合物にフェノール類、第3級アルコール類、第2級アルコール類等のブロック化剤を反応させてポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック化したブロック化ポリイソシアネートも使用可能である。
【0031】
エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールや、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコールとエピクロルヒドリンのようなハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物や、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類やハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物などである。上記エポキシ化合物はトルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に混合して使用される。
【0032】
RFL処理液はレゾルシンとホルムアルデヒドの初期縮合物をゴムラテックスと混合したものであり、この場合レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比は1:2〜2:1にすることが接着力を高める上で好適である。モル比が1/2未満では、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂の三次元化反応が進み過ぎてゲル化し、一方2/1を超えると、逆にレゾルシンとホルムアルデヒドの反応があまり進まないため、接着力が低下する。
【0033】
ゴムラテックスとしては、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴムなどがあげられる。
【0034】
また、レゾルシン・ホルムアルデヒドの初期縮合物と上記ゴムラテックスの固形分質量比は1:2〜1:8が好ましく、この範囲を維持すれば接着力を高める上で好適である。上記の比が1/2未満の場合には、レゾルシン−ホルムアルデヒドの樹脂分が多くなり、RFL皮膜が固くなり動的な接着が悪くなり、他方1/8を超えると、レゾルシン・ホルムアルデヒドの樹脂分が少なくなるため、RFL皮膜が柔らかくなり、接着力が低下する。
【0035】
更に、上記RFL液には加硫促進剤や加硫剤を添加してもよく、添加する加硫促進剤は、含硫黄加硫促進剤であり、具体的には2−メルカプトベンゾチアゾール(M)やその塩類(例えば、亜鉛塩、ナトリウム塩、シクロヘキシルアミン塩等)ジベンゾチアジルジスルフィド(DM)等のチアゾール類、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CZ)等のスルフェンアミド類、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TS)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TT)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(TRA)等のチウラム類、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(TP)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(PZ)ジエチルジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(EZ)等のジチオカルバミン酸塩類等がある。
【0036】
また、加硫剤としては、硫黄、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛)、有機過酸化物等があり、上記加硫促進剤と併用する。
【0037】
伸張層5を構成する帆布は、織物、編物、不織布などから選択される繊維基材である。構成する繊維素材としては、公知公用のものが使用できるが、例えば綿、麻、竹等の天然繊維や、金属繊維、ガラス繊維等の無機繊維、そしてポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリフロルエチレン、ポリアクリル、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリエステル、アラミド等の有機繊維が挙げられる。織物の場合は、これらの糸を平織、綾織、朱子織等することにより製織される。
【0038】
上記帆布は、公知技術に従ってRFL液に浸漬することが好ましい。またRFL液に浸漬後、未加硫ゴムを帆布に擦り込むフリクションを行ったり、ゴムを溶剤に溶かしたソーキング液に浸漬処理することができる。尚、RFL液には適宜カーボンブラック液を混合して処理反を黒染めしたり、公知の界面活性剤を0.1〜5.0質量%加えてもよい。
【0039】
ここで圧縮層4は、ゴム100重量部に対して、融点又は軟化点が80°C以下の水溶性高分子を5〜50重量部含有するゴム組成物で構成される。
【0040】
ゴムとしては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン・α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレン、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、水素化ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマー等を単独、またはこれらの混合物が使用される。なかでも、エチレン・α−オレフィンエラストマーが優れた耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有しているとともに比較的安価なポリマーであり、脱ハロゲンという要求を満たしていることから、これを主成分とすることが好ましい。即ち、ゴム成分としては、エチレン・α−オレフィンエラストマー単独またはその他の種類のゴムからなるゴムとエチレン・α−オレフィンエラストマーを混ぜ合わせたブレンドゴムが望ましい。更に、ブレンドする場合は、エチレン・α−オレフィンエラストマーを主成分(ゴムの組成において最も多く含有されている成分のゴムのことを指し、例えば、50重量%以上含有されているものであれば主成分となる)とすることが望ましい。尚、ゴエチレン・α−オレフィンエラストマーを主成分とした場合、エチレン・α−オレフィンエラストマーと水溶性高分子の極性の違いを利用して、水溶性ポリマーを摩擦伝動面にブリードさせやすくすることができる。
【0041】
エチレン・α−オレフィンエラストマーとしては、エチレンとα−オレフィン(プロピレン、ブテン、ヘキセン、あるいはオクテン)の共重合体、あるいは、エチレンと上記α−オレフィンと非共役ジエンの共重合体などであり、具体的にはEPMやEPDMなどのゴムをいう。上記ジエン成分としては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネンなどの炭素原子数5〜15の非共役ジエンが挙げられる。
【0042】
融点又は軟化点が80°C以下の水溶性高分子としては、具体的にはポリエチレンオキサイドなどを挙げることができる。尚、融点又は軟化点が80°Cを超える水溶性高分子を含有させた場合、走行時における発熱においても、前記水溶性高分子が溶融/軟化せず、摩擦伝動面に充分にブリードしない恐れがあり、乾燥状態、湿潤状態の耐発音性能が不十分となる。しかし、本発明のように融点又は軟化点は80°C以下の水溶性高分子を含有させた場合、乾燥状態での走行では、溶融/軟化した水溶性高分子がブリードして潤滑剤として作用する。一方、湿潤状態での走行においては、摩擦伝動面の水溶性高分子が吸水/溶解することにより、摩擦伝動面の水濡れ性が向上する。これにより、伝動ベルトの耐熱耐久性が向上し、また乾燥状態、湿潤状態の耐発音性能に優れると共に、その差が小さくなるといった効果がある。より好ましくは、融点又は軟化点は50〜80°Cであり、この範囲であると、室温下での保管時、静置時などでは水溶性高分子がブリードせず、水溶性高分子が散逸することを抑制できると共に、表面がベトベトしないため取扱い性も良好であるといった利点がある。具体的には、ポリエチレンオキサイドが好ましく用いられる。
【0043】
融点又は軟化点が80°C以下の水溶性高分子の含有量は、ゴム100質量部に対して、5〜50質量部である。5質量部未満では含有による効果が殆どなく、一方で50質量部を超えると、ゴム物性が著しく低下するといった不具合がある。
【0044】
前記水溶性高分子の配合時の形状は、粒体状、繊維状など限定されるものではなく、加硫成形後のベルト成形体における水溶性高分子の形状も限定されるものではない。尚、加工性を考慮した場合、配合時は粒体状であることが望ましい。またベルト成形体においては、水溶性高分子は配合時の形状を保持している必要はなく、混練や加硫成形において形状が変化していてもよい。例えば、加硫成形前に、ゴムと水溶性高分子を融点又は軟化点以上で混練する工程を設けることにより、水溶性高分子をポリマーアロイ化して良分散させることができ、具体的には、ゴムが連続層、水溶性高分子が分散層の海島構造を有するゴム組成物で摩擦伝動面を構成することができる。
【0045】
また前記ゴム組成物には、溶解度指数(Solibility Parameter:SP値)が8.3〜10.7(cal/cm31/2の可塑剤を配合してもよい。即ち、溶解度指数が、エチレン・α−オレフィンエラストマーの溶解度指数(8.0(cal/cm31/2程度)よりも大きい、即ち8.3〜10.7(cal/cm31/2の範囲内のものを配合することで、ゴム表面にブリードが生じ、乾燥状態では摩擦係数を低下せしめ、また湿潤状態においては均一な水濡れ性を確保して摩擦係数を安定することができ、潤滑剤として作用することでスティックスリップ現象を抑制することが可能となる。尚、SP値は、SP=dΣG/M(d:密度、G:分子引力定数、M:分子量)により求められる。
【0046】
この溶解度指数が8.3〜10.7(cal/cm31/2の範囲内の可塑剤としては、例えばエーテル系、エステル系、エーテルエステル系、フタル酸誘導体系、アジピン酸誘導体系、セバシン酸誘導体系、トリメリット酸誘導体系、リン酸誘導体系の可塑剤を使用することができる。なかでも、エーテルエステル系の可塑剤が適度なブリード効果を奏し、水との濡れ性が良いことから好ましく用いられる。
【0047】
また、前記可塑剤の配合量は、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対し、10〜25質量部とすることが好ましい。即ち、配合量が10質量部未満では、可塑剤がベルト表面を覆う量として十分ではなく、均一な水濡れ性を確保することが困難であり、また潤滑剤としての効果に乏しい。一方、配合量が25質量部を超えると逆に表面摩擦係数の著しい低下が見られると共に、耐摩耗性が極端に低下するといった不具合が生じる恐れがある。尚、高温環境下での揮発防止を考慮すると、可塑剤の平均分子量は300以上であることが好ましい。
【0048】
そして、ゴム組成物には短繊維を含有させることができる。例えば、ポリアミド、ポリエステル、綿、アラミド、PBOなどから所望に応じて選択した短繊維を混入し、圧縮層4の耐側圧性を向上させるとともに、プーリと接する面になる圧縮層4の表面に該短繊維を突出させ、圧縮部の摩擦係数を低下させて、ベルト走行時の騒音を軽減させることができる。なかでも、アラミド短繊維とポリアミド短繊維の少なくとも一方を含めた場合には、低摩擦係数を長期に維持する効果が得られる。アラミド繊維は分子構造中に芳香環をもつ、例えば商品名コーネックス、ノーメックス、ケブラー、テクノーラ、トワロン等が例示できる。尚、綿短繊維は分散性に乏しいことから、多量に配合することは好ましくない。
【0049】
前記短繊維は、繊維長さは1〜20mmで、その添加量はゴム100質量部に対して5〜50質量部であることが望ましい。尚、短繊維の添加量が1質量部未満の場合には、圧縮層4のゴムが粘着しやすくなって摩耗する欠点があり、また一方40質量部を越えると、短繊維がゴム中に均一に分散し難い。前記短繊維は圧縮層4のゴムとの接着を向上させるためにも、該短繊維をエポキシ化合物やイソシアネート化合物などを含有する処理液やRFL処理液などによって接着処理されることが好ましい。
【0050】
また当該ゴム組成物には架橋剤として有機過酸化物を配合することができる。有機過酸化物としては、例えばジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−モノ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等を挙げることができる。この有機過酸化物は、単独もしくは混合物として、ゴム100質量部に対して0.5〜8質量部の範囲で好ましく使用される。勿論、有機化酸化物以外の架橋剤を用いることも可能である。
【0051】
また前記ゴム組成物は、ゴム100質量部に対して、N,N’−m−フェニレンジマレイミド及び/又はキノンジオキシム類を好ましくは0.5〜13質量部配合することができる。N,N’−m−フェニレンジマレイミド及び/又はキノンジオキシム類は共架橋剤として作用し、0.5質量部未満では添加による効果が顕著でなく、13質量部を超えると引裂き力並びに接着力が急激に低下する。このとき、共架橋剤としてN,N’−m−フェニレンジマレイミドを選択した場合、架橋密度が高くなり、耐摩耗性が高く、また注水時と乾燥時の伝達性能の差が少ないといった特徴がある。またキノンジオキシム類を選択した場合は、繊維基材との接着性に優れるといった特徴がある。
【0052】
キノンジオキシム類としては、p−ベンゾキノンジオキシム、p,p’−ジベンゾキノンジオキシム、テトラクロロベンゾキノンポリ(P−ジニトロベンゾキノン)等が挙げられる。接着性や架橋密度を考慮すると、p−ベンゾキノンジオキシムやp,p’−ジベンゾキノンジオキシムなどのベンゾキノンジオキシム類が好ましい。
【0053】
また前記ゴム組成物には、カーボンブラック、金属炭酸塩、金属珪酸塩などの無機充填剤を配合することができる。補強性を考慮すると、少なくともカーボンブラックが含有されることが望ましい。
【0054】
カーボンブラックは限定されるものではないが、窒素吸着比表面積20〜150cm/g,DBP吸油量が50〜160cm/100gの特性を有するものを使用することが好ましい。ここで、窒素吸着比表面積(NSA)は、カーボンブラックの比表面積であって、JIS K 6217―2に従い測定される。またDBP吸油量(ジブチルフタレート吸油量)は、ストラクチャーの指標であって、JIS K 6217―4に従い測定される。
【0055】
金属炭酸塩としては、炭酸カルシウムを挙げることができ、金属珪酸塩としては、珪酸カルシウム、珪酸カリウムアルミニウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウムなどが挙げられる。更に具体的には、珪酸アルミニウムとしてはクレイ、珪酸マグネシウムとしてはタルク、珪酸カリウムアルミニウムとしてはマイカなどを挙げることができる。これらは単独又は併用することができる。なかでも炭酸カルシウムは、ゴムとの相溶性が良く、強度等の機械物性に悪影響を及ぼさないことから望ましい。
【0056】
上記無機充填剤の平均一次粒径は、0.01〜3.00μmのものが好ましい。3.00μmを超えるとベルトの耐久性に悪影響があるといった不具合があり、0.01μm未満のものは分散性が悪くゴム物性が不均一になる恐れがある。
【0057】
そして、それ以外に必要に応じて、グラファイト、二硫化モリブデン、超高分子量ポリエチレンなどの摺動剤、老化防止剤、可軟化剤、安定剤、加工助剤、着色剤のような通常のゴム配合物に使用されるものを配合することができる。
【0058】
接着層3は、ゴム成分としてエチレン・α−オレフィンゴム単独またはその他の種類ゴムからなる相手ゴムを混ぜ合わせたブレンドゴムを用いることが望ましい。エチレン・α−オレフィンゴムにブレンドする相手ゴムとしては、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)の少なくとも一種のゴムを挙げることができる。勿論、上記と同様のゴム組成物を用いることが可能である。
【0059】
尚、Vリブドベルトは、図1のような構成に限定されず、例えば接着層を配置しないVリブドベルトや、背面に帆布を貼着せずゴムを露出させたVリブドベルトなども本発明の技術範囲に属する。以下、これらの実施形態を図面をもとに説明する。
【0060】
図2に示すVリブドベルト21は、背面28が植毛層24を設けたゴム組成物で形成された伸張層25と、該伸張層25の下層に接着層22が配設され、更にその下層に圧縮層26を配置した構成を有する。心線23は、ベルト長手方向に沿って本体内に埋設されてなり、その一部が伸張層25に接し、残部が接着層22に接した状態となっている。そして前記圧縮層26はベルト長手方向に伸びる断面略三角形の複数のリブ27が設けられている。ここで、圧縮層26に含有される短繊維はリブ形状に沿った流動状態を呈し、表面近傍の短繊維はリブ形状に沿って配向している。
【0061】
図3に示すVリブドベルト31は、背面38が短繊維34を含有するゴム組成物で形成された伸張層35と、該伸張層35の下層に圧縮層36を配置した構成を有する。心線33は、ベルト長手方向に沿って本体内に埋設されてなり、その一部が伸張層35に接し、残部が圧縮層36に接した状態となっている。そして、前記圧縮層36にはベルト長手方向に伸びる断面略三角形の複数のリブ37が設けられており、該リブ表面には植毛層39が設けられている。ここで、伸張層35に含有される短繊維はランダム方向に配向している。
【0062】
ここで、伸張層、圧縮層及び接着層を構成するゴム組成物、心線などは上述と同様のものが使用できる。
【0063】
図3では、伸張層35を帆布で構成せず、短繊維を含有するゴム組成物で形成した構成を示したが、この際、背面駆動時の異音を抑制すべく、背表面に凹凸パターンを設けることができる。凹凸パターンとしては、編布パターン、織布パターン、スダレ織布パターンなどを挙げることができるが、最も好ましくは織物パターンである。また短繊維としては、ポリエステル、アラミド、ナイロン、綿などを所望に応じて配合することができる。
【0064】
そして図3では伸張層35に含有される短繊維はランダム方向に配向しているが、ベルト幅方向に配向させるなど一方向に配向していてもかまわない。尚、ランダム方向に配向させた場合、多方向からの裂きや亀裂の発生を抑制できるといった特徴があるが、このとき短繊維として屈曲部を有する短繊維(例えばミルドファイバー)を選択すると、より多方向から作用する力に対して耐性ができるといった特徴がある。
【0065】
また図3のように接着層を配置しない構成の場合、心線33は伸張層35と圧縮層36の境界領域でベルト本体に埋設されることになる。この時、心線33とベルト本体との接着性を考慮すると、伸張層35及び圧縮層36のどちらか一方のゴム層は、短繊維を含有しないゴム組成物で構成することが望ましい。
【0066】
また図2では、伸張層25を、短繊維を含有しないゴム組成物表面に植毛層24を設けた構成としているが、短繊維を含有するゴム組成物表面に植毛層を設けた構成とすることも可能である。
【0067】
また図2では圧縮層26に含有される短繊維はリブ形状に沿った流動状態を呈しているが、短繊維が幅方向に配向した構成としてもかまわない。
【0068】
圧縮層は、複数層のゴム層から構成されていてもよい。圧縮層全体の物性のバランスを考慮すると、圧縮層全体を水溶性高分子を含有するゴム組成物で構成するのではなく、圧縮層の表層のみ当該ゴム組成物で構成し、内層は水溶性高分子を含有しないゴム組成物で構成することが望ましい。この場合、表層の厚みとしては、ベルトが寿命となる程度まで走行させた場合に磨耗によって損なわれると想定される厚み以上であることが望ましい。
【0069】
尚、Vリブドベルトが背面伝動を行う場合は、伸張層の表面も摩擦伝動面となりうる。よって、伸張層を本発明のゴム組成物で構成してもかまわない。即ち、背面伝動を行うVリブドベルトに本発明を適用する場合、少なくとも圧縮層の表層及び/又は伸張層の表層の一部が、特定のゴム組成物で構成されていればよい。
【0070】
次に、これらVリブドベルトの製造方法を説明する。製造方法としては限定されるものではないが例えば以下のような方法がある。
【0071】
第1の方法としては、まず、円筒状の成形ドラムの周面に伸張層を構成する部材と接着層を構成する接着ゴムシートとを巻き付けた後、この上にコードからなる心線を螺旋状にスピニングし、更に圧縮層を構成する圧縮ゴムシートを順次巻き付けて未加硫スリーブを形成した後、加硫して加硫スリーブを得る。次に、加硫スリーブを駆動ロールと従動ロールに掛架され所定の張力下で走行させ、更に回転させた研削ホイールを走行中の該加硫スリーブに当接するように移動してスリーブの圧縮層表面に3〜100個の複数の溝状部を一度に研磨して摩擦伝動面を形成する。このようにして得られたスリーブを駆動ロールと従動ロールから取り外し、該スリーブを他の駆動ロールと従動ロールに掛架して走行させ、カッターによって所定に幅に切断して個々のVリブドベルトに仕上げる。
【0072】
第2の方法としては、周面にリブ刻印を設けた円筒状の成形ドラムに、圧縮層を構成する圧縮ゴムシート、接着層を構成する接着ゴムシートを巻き付けた後、心線をスピニングし、伸張層を構成する部材を巻き付けて未加硫スリーブを配置する。その後、該未加硫スリーブを成形ドラムに押圧しながら加硫することで、圧縮層にリブを型付けする。得られた加硫スリーブにはリブが形成されてなるが、必要に応じてリブ表面を研磨し、所定幅に切断して個々のVリブドベルトとする。
【0073】
第3の方法としては、円筒状の成形ドラムに装着された可撓性ジャケットの上に伸張層を構成する部材、接着層を構成する接着ゴムシートを巻き、その上に心線をスピニングした後、さらに圧縮層を構成する圧縮ゴムシートを順次無端状に捲き付けて未加硫スリーブを形成する。そして、可撓性ジャケットを膨張させて、未加硫スリーブをリブ部に対応した刻印を有する外型に押圧して加硫成形する。得られた加硫スリーブにはリブが形成されてなるが、必要に応じてリブ表面を研磨し、所定幅に切断して個々のVリブドベルトとする。
【0074】
第4の方法としては、円筒状の成形ドラムに装着された可撓性ジャケットの上に圧縮層を構成する圧縮ゴムシートを配置した第1未加硫スリーブを形成した後、可撓性ジャケットを膨張させて、該第1未加硫スリーブをリブ部に対応した刻印を有する外型に押圧して、リブ部を有する予備成型体を作製する。そして、前記予備成型体を密着させた外型から、内型を離間させ、次いで、内型に伸張層を構成する部材、接着層を構成する接着ゴムシートを配置し、心線をスピニングして第2未加硫スリーブを形成する。そして、可撓性ジャケットを膨張させて、前記予備成型体を密着させた外型に、該第2未加硫スリーブを内周側から押圧して予備成型体と一体的に加硫する。得られた加硫ベルトスリーブにはリブが形成されてなるが、必要に応じてリブ表面を研磨し、所定幅に切断して個々のVリブドベルトとする。
【0075】
尚、Vリブドベルトの圧縮層を表層と内層の2層からなる構成とする場合、表層と内層の2層構成を有する圧縮ゴムシートを巻き付ける、もしくは表層用圧縮ゴムシートと内層用圧縮ゴムシートを順次巻き付けるなどにより、表層と内層の2層構成を有する圧縮層を配置した未加硫スリーブを形成する必要がある。このとき、第1の方法では研磨によりリブを形成するため、得られたVリブドベルトのリブ山には表層が存在するがリブ側面やリブ底には内層が露出することが考えられる。そのため、表層と内層の2層からなるVリブドベルトは、第2の方法、第3の方法、もしくは第4の方法で製造することが望ましい。
【0076】
また図3のような接着層を配置しないVリブドベルトは、上記方法において接着ゴムシートを配置せずに製造することで得ることができる。更に図2のように圧縮層26に含有される短繊維はリブ形状に沿った流動状態を呈しているVリブドベルトは、例えば第2の方法、第3の方法、もしくは第4の方法で製造することで得られる。そして、圧縮層に含有される短繊維が幅方向に配向したVリブドベルトは、例えば第1の方法で製造することで得られる。
【0077】
ここで、圧縮ゴムシートを構成するゴム組成物(摩擦伝動面を構成するゴム組成物)を以下のようにして調製することができる。具体的には、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機を用いて、各配合剤とゴムをブレンドして混練を行う。このときの混練温度は、水溶性高分子の融点または軟化点以上の温度で実施することが好ましい。これにより、水溶性高分子が溶融/軟化し、ゴムとポリマーアロイ化して良分散させることができる。尚、本混練を複数回に分けて実施することも可能である。そして、このようにして調製されたゴム組成物を圧延することにより圧縮ゴムシートを作製することができる。
【0078】
尚、本実施形態は、Vリブドベルトに本発明を適用した一例であるが、Vリブドベルトに限らず、他の種類の摩擦伝動ベルトにも本発明を適用することは可能である。
【実施例】
【0079】
以下、具体的な実施例を伴って説明する。
【0080】
実施例1〜3、比較例1〜4
表1の配合に従いゴム組成物を調製した。バンバリーミキサーを用いて、EPDMに各配合剤を混合して120°Cの温度で混練を行なった。得られたゴム組成物をカレンダーロールにて圧延して圧縮ゴムシートとした。ここで加工性の評価として、圧延後のゴムシートを目視で観察し、シーティング状態を確認した。○がゴムシートに裂けや穴あきなどの不具合が発生しない状態であり、△はゴムシートに裂けや穴あきが見られた状態であり、×はシーティングが不可能な状態をいう。これらの結果を表1に併記する。また伸張ゴムシートも圧縮ゴムシートと同様の方法にて作成した。
【0081】
【表1】

【0082】
次にこれらゴムシートを用いてVリブドベルトを作製した。Vリブドベルトは、ベルト本体にポリエステル繊維のロープからなる心線を埋設し、背面(伸張層)をゴム層で形成し、他方の面側に設けられた圧縮層に3個のリブ部をベルトの長手方向に配したものである。前記圧縮層、伸張層には短繊維が含有されてなり、該短繊維はベルト幅方向に配向している。
【0083】
ベルトの製造方法としては、以下のような公知の方法を用いた。まず、円筒状の成形ドラムに装着された可撓性ジャケットの上に伸張ゴムシートを巻きつけ、ポリエステル繊維コードをスピニングし、さらに、圧縮ゴムシート巻きつけて未加硫ベルトスリーブを形成する。そして、可撓性ジャケットを膨張させて、未加硫スリーブをリブ部に対応した刻印を有する外型に押圧して加硫成形し、得られた加硫ベルトスリーブをカッターにより個々のベルトに切断して、Vリブドベルトを得た。これら各Vリブドベルトを用いて、耐発音性、耐熱耐久性の評価を行った。尚、実施例1〜3及び比較例1,2のVリブドベルトの圧縮層表面、伸張層表面を確認したところ、水溶性高分子がポリマーアロイ化により良分散したゴム組成物で構成されていることが確認できた。
【0084】
耐熱耐久性評価(耐熱耐久走行試験)
耐熱耐久試験の評価に用いた走行試験機は、駆動プーリ(直径120mm)、従動プーリ(直径120mm)、アイドラープーリ(直径85mm)、テンションプーリ(直径45mm)を順に配置して構成したものである。そして、試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、アイドラープーリへの巻き付け角度を90°にして、雰囲気温度120°C、駆動プーリの回転数4900rpm、ベルト張力559N/3リブの試験条件で、駆動プーリに荷重を付与してVリブドベルトを500時間走行させ、圧縮層に発生したクラック数を調べた。
【0085】
耐発音性評価(発音限界張力試験)
発音限界張力試験では、得られたVリブドベルトを直径135mmの駆動プーリ、直径112mmの第1従動プーリ、クラッチ機構を有する直径60mmする第2従動プーリの間に所定のベルト張力で懸架して、室温で駆動プーリを5,000rpmで回転させながら60cc/minで注水し、第2従動プーリを回転始動させた時に発生した鳴き音と、この時のベルトの最低張力である発音限界張力を測定した。尚、本試験は、耐熱耐久試験前のベルト(新品)と前記耐熱耐久試験後のベルト(ならし走行品)について実施した。結果を表1に併記する。
【0086】
結果、実施例では新品、ならし走行品共に注水時の発音限界張力が低く、また新品とならし走行品の発音限界張力の差が小さいことから、長期に渡って発音抑制効果を奏することが知見できた。更に、高い耐熱耐久性を有することも確認できた。一方、比較例1は水溶性高分子の配合による効果が見られず、比較例2では注水時の耐発音性には効果あるものの、耐熱耐久性、加工性の低下が見られた。また比較例3では耐熱性、加工性が極端に低下しており、実使用上問題があることが確認された。更に、比較例4では、新品とならし走行品共に注水時の発音限界張力が高く、且つ、その差が大きいことから、耐発音性は充分ではなく、しかもその効果の持続性に乏しいことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明にかかる摩擦伝動ベルトは自動車用あるいは一般産業用の駆動装置などに装着できる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係る摩擦伝動ベルトであるVリブドベルトの断面斜視図である。
【図2】本発明に係る摩擦伝動ベルトである別のVリブドベルトの断面図である。
【図3】本発明に係る摩擦伝動ベルトである更に別のVリブドベルトの断面図である。
【符号の説明】
【0089】
1 Vリブドベルト
2 心線
3 接着層
4 圧縮層
5 伸張層
6 リブ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも摩擦伝動面の一部が、ゴム100質量部に対して、融点又は軟化点が80°C以下の水溶性高分子を5〜50質量部含有するゴム組成物で構成されることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項2】
前記ゴムが、エチレン・α−オレフィンエラストマーを主成分とする請求項1記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項3】
水溶性高分子の融点又は軟化点が、50〜80°Cである請求項1又は2記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項4】
水溶性高分子が、ポリエチレンオキサイドである請求項3記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項5】
摩擦伝動ベルトが、Vリブドベルトである請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項6】
少なくとも摩擦伝動面の一部を、ゴム100質量部に対して、融点又は軟化点が80°C以下の水溶性高分子を5〜50質量部配合したゴム組成物を加硫成形することにより形成することを特徴とする摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項7】
加硫成形の前に、ゴムと水溶性高分子を前記融点又は軟化点以上で混練する工程を有する請求項6記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項8】
前記ゴムが、エチレン・α−オレフィンエラストマーを主成分とする請求項6又は7記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項9】
水溶性高分子の融点又は軟化点が50〜80°Cである請求項6〜8記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項10】
水溶性高分子がポリエチレンオキサイドである請求項9記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項11】
摩擦伝動ベルトがVリブドベルトである請求項6〜10のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−157445(P2008−157445A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300942(P2007−300942)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】