摩擦接合用鋼板および摩擦接合構造
摩擦接合用鋼板10の突条部分が鋼板1A,1B表面よりも3倍以上のビッカース硬さを有していることで、突条が鋼板1A,1Bに食い込みやすくなり、このように食い込んだ突条の機械的すべり抵抗による摩擦抵抗が鋼板1A,1B間に作用することから、摩擦接合用鋼板10を介した鋼板1A,1B同士の摩擦係数を格段に大きくすることができる。従って、理論的または実験的に検証しやすく、かつ摩擦係数のばらつきが小さいすべり抵抗機構による摩擦接合構造が構成されるので、設計上用いる摩擦係数を高精度かつ高い値に設定することができ、合理的な設計が実現できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦接合用鋼板および摩擦接合構造に関し、詳しくは、互いに摩擦接合される被接合鋼材間に介挿される摩擦接合用鋼板、この鋼板を用いた摩擦接合構造に関する。
本願は、2006年4月10日に出願された日本国特許出願第2006−107457号、および2007年2月28日に出願された日本国特許出願第2007−49013号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築や土木の分野において、鋼構造物(建物や橋梁等)の骨組みを構成する鋼材同士の接合構造として、高力ボルト等の締付け具で被接合鋼材を締め付け、この締め付けた圧縮力により生ずる摩擦抵抗で被接合鋼材同士を接合する摩擦接合が一般的に利用されている。一般的な摩擦接合では、母材(柱や梁、筋交い等)や接合部材(スプライスプレートやガセットプレート等)などの被接合鋼材の摩擦面に以下のような加工を施して摩擦係数を確保している。すなわち、サンダーやグラインダーなどにより黒皮を除去した後に放置して赤錆を発生させるか、またはショットブラスト加工などにより摩擦面を粗す方法が用いられている。しかし、このような方法によって得られる摩擦面の摩擦係数は、比較的小さい上に安定した摩擦抵抗が確保しにくいため、設計する上で安全側に捉えた低い値を採用せざるを得ず、合理的な設計が実現しにくく、その解決が望まれている。
【0003】
一方、摩擦接合における被接合鋼材同士の摩擦抵抗を増大させる構造として、被接合鋼材の互いに接する一対の接合面において、互いに硬さや粗さが異なるように加工を施したものが知られている(例えば、特開2002−155910号公報を参照)。特許文献1に記載された摩擦接合構造は、一方の接合面に1回のショットブラストを行い、他方の接合面に2回のショットブラストを行うなどの方法により、接合面同士に硬さや粗さを異ならせた摩擦面を形成することで、摩擦面間の摩擦係数を高め、これによりボルト本数やボルト径の低減を図り合理的な設計の実現を目指すものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載された従来の摩擦接合構造では、被接合鋼材の接合面に1回ないしは複数回のショットブラストを行って摩擦面を形成するため、多種多様かつ多数の被接合鋼材ごとに加工を行う必要があり、加工に要する手間および時間が増大して加工コストが嵩んでしまうという問題がある。また、ショットブラストなどの方法によって摩擦面の硬さや粗さを異ならせ、摩擦面の摩擦係数を高めたとしても、それにより得られる摩擦係数は依然としてばらつきが大きく、設計上利用可能な摩擦係数の上限値としてはさほどの向上が見込めず、費用に対する効果が小さくなってしまうという問題もある。
【0005】
本発明の目的は、低コストで多様な摩擦接合部に適用でき、かつ摩擦抵抗を確実に高めて合理的な設計を実現することができる摩擦接合用鋼板および摩擦接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の摩擦接合用鋼板は、締付け具を締め付けた圧縮力により互いに摩擦接合される被接合鋼材間に介挿される摩擦接合用鋼板であって、互いに平行または互いに同心円状に連続形成された複数の突条を両面に有するとともに、前記締付け具を挿通させる少なくとも1つの挿通孔を有して構成され、前記突条部分のビッカース硬さが前記被接合鋼材表面のビッカース硬さよりも硬く設定されている。
この際、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条部分のビッカース硬さが前記被接合鋼材表面のビッカース硬さの3倍以上に設定されていることが好ましい。
ここで、ビッカース硬さとは、日本工業規格(JIS)に則った試験方法(JIS Z 2244)または国際標準化機構(ISO)の規格に則った試験方法(ISO 6507-1)で測定した金属材料の硬さであって、被接合鋼材および摩擦接合用鋼板の各々の表面硬さを意味する。すなわち、摩擦接合用鋼板における突条部分のビッカース硬さをHvhとし、被接合鋼材表面のビッカース硬さをHvmとした場合に、硬さ比rh (=Hvh/Hvm)が以下の式(1)を満足するように、被接合鋼材および摩擦接合用鋼板の各々の表面硬さが設定されていることが好ましい。
rh ≧3 …(1)
【0007】
以上の本発明によれば、摩擦接合用鋼板の突条部分を被接合鋼材表面よりも硬く(好ましくは、3倍以上の硬さに)設定したことで、摩擦接合用鋼板の突条が被接合鋼材に食い込みやすくなり、このように食い込んだ摩擦接合用鋼板の機械的すべり抵抗による摩擦抵抗が被接合鋼材間に作用することから、摩擦接合用鋼板を介した被接合鋼材同士の摩擦係数を格段に大きくすることができる。従って、理論的または実験的に検証しやすく、かつ摩擦係数のばらつきが小さいすべり抵抗機構による摩擦接合構造が構成されるので、設計上用いる摩擦係数を高精度かつ高い値に設定することができ、合理的な設計が実現できる。すなわち、従来と比較して摩擦係数を高い値に設定できることで、ボルト本数を減らしたりボルト径を小さくしたりすることで、母材の断面欠損を最小限に抑えることができるとともに、スプライスプレートやガセットプレートのサイズを小さくすることで、鋼材量を低減することができ、建築物や土木構造物の材料コストや施工コストを低減させることができる。
【0008】
また、被接合鋼材の表面には、従来のようなショットブラスト加工などを施しておく必要がなく、さらには黒皮を除去したり赤錆を発生させたりする必要もなくなるので、被接合鋼材の加工に要する手間や時間が低減でき、製造コストを大幅に削減することができる。さらに、多種多様かつ多数の被接合鋼材の加工が不要になるとともに、これらの被接合鋼材に対して所定サイズや所定形態の摩擦接合用鋼板を用意しておき、この摩擦接合用鋼板を被接合鋼材間に介挿するだけで、前述のように高い摩擦係数が得られるため、摩擦接合用鋼板が大量生産可能になり、その製造コストや施工コストの低減をより一層促進させることができる。
【0009】
この際、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条の先端角度(θ)が50°〜100°の範囲に設定されていることが好ましい。
すなわち、突条の先端角度θが以下の式(2)を満足するように、摩擦接合用鋼板の突条が形成されているものである。
50°≦θ≦100° …(2)
このような構成によれば、突条の先端角度θを50°以上かつ100°以下に設定する、つまり鋭角過ぎずかつ被接合鋼材に食い込みやすい鋭さを有した角度に突条を形成することで、突条部分のせん断強度を確保しつつ機械的すべり抵抗を十分に発揮させることができる。なお、突条の先端角度θとしては、75°以上かつ90°以下に設定(75°≦θ≦90°)されていることがより好ましい。
【0010】
また、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記締付け具の圧縮力によって前記被接合鋼材に作用する圧縮応力度(σ)を当該被接合鋼材の引張強度(σmb)で除した応力度比(σ/σmb)が0.5以下に設定されていることが好ましい。
ここで、被接合鋼材に作用する圧縮応力度(σ)は、高力ボルト等の締付け具からの圧縮力(N)を、摩擦接合用鋼板の突条の総長さ寸法(L)と、突条が被接合鋼材の表面に食い込んだ際に被接合鋼材がくぼんで形成されるくぼみの幅寸法(B)と、で除した応力度であって、つまり、σ=N/(L・B)で表される応力度を意味している。そして、被接合鋼材に作用する圧縮応力度σと引張強度σmbとの比が以下の式(3)を満足するように、被接合鋼材の材種および摩擦接合用鋼板の大きさや突条の形態が設定されているものである。
σ/σmb≦0.5 …(3)
このような構成によれば、被接合鋼材に作用する圧縮応力度σが引張強度σmbの半分以下となるように設定する、つまり被接合鋼材の鋼材種別(引張り強度σmb)や使用するボルトの種別に応じて摩擦接合用鋼板のサイズや突条の数、長さ等を適宜設定することで、被接合鋼材のせん断強度や掘り起こし強度を確保しつつ機械的すべり抵抗を十分に発揮させることができる。
【0011】
以上において、本発明の摩擦接合用鋼板は、前記式(1)、式(2)および式(3)の全てを同時に満足するように構成されていることが望ましいが、前記式(1)〜式(3)のうちの少なくとも2つを満足するように構成されていてもよく、また前記式(1)〜式(3)のうちのいずれか1つのみを満足するように構成されてもよい。
すなわち、前記式(1)の硬さ比rh 、前記式(2)の突条の先端角度θ、および前記式(3)の応力度比σ/σmbの3つの要素(パラメータ)が、摩擦接合用鋼板の摩擦係数を決定する上で大きな影響を有し、これら3つの要素を適宜設定することで大きな摩擦係数(例えば、0.9以上の摩擦係数)が得られることが本件出願人の鋭意研究により解明された。
【0012】
そして、被接合鋼材として、400〜500(N/mm2 )程度の引張強度を有した一般構造用圧延鋼材(JIS G 3101)であるSS400、SS490や、溶接構造用圧延鋼材(JIS G 3106)であるSM400、SM490等の鋼材を用いた場合には、摩擦接合用鋼板としては、450(N/mm2)以上の引張強度を有した機械構造用炭素鋼鋼材(JIS G 4051)であ
るS45C、S48C、S50C、S53C等か、これらと同等のビッカース硬さを有した鋼材から形成されていることが望ましい。
【0013】
また、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条同士の間隔(S)が0.8mm〜2.0mmに設定されていることが好ましい。
さらに、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条の先端部の半径(R1 )が0.1mm以下に設定されていることが好ましい。
そして、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条同士の間の凹部の半径(R2 )が0.4mm以上に設定されていることが好ましい。
このような構成によれば、突条同士の間隔(S)を0.8mm〜2.0mmに設定したことで、所定の大きさの摩擦接合用鋼板の両面に多くの突条を形成することができるとともに、突条の先端部の半径(R1 )を0.1mm以下に設定したことで、被接合鋼材に食い込みやすい突条の鋭利さが確保でき、高い摩擦係数を得ることができる。一方、突条同士の間の凹部の半径(R2 )を0.4mm以上に設定したことで、突条の基端部である凹部の強度を高めて、摩擦抵抗力を発揮する際における突条のせん断破壊が防止でき、安定した摩擦係数を得ることができる。
【0014】
また、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条が前記被接合鋼材表面に食い込んだ部分の幅寸法(B)が当該突条同士の間隔(S)の1/3程度に設定されていることが好ましい。
このような構成によれば、突条が食い込んだ部分の幅寸法(B)を突条同士の間隔(S)の1/3程度になるように、被接合鋼材と摩擦接合用鋼板の強度および硬さを適宜設定することで、突条の食い込み量を確保して摩擦係数を高めつつ、被接合鋼材表面における突条が食い込まない部分の幅寸法を確保して被接合鋼材の変形およびせん断破壊が防止でき、摩擦抵抗を安定して発揮させることができる。
【0015】
また、本発明の摩擦接合用鋼板は、前記締付け具の軸心を中心とし、かつ当該締め付け具の軸径に対して2.5倍の直径の円を抱絡する平面形状を有したことが好ましい。
このような構成によれば、締付け具の軸径に対して2.5倍の直径の円で囲まれた領域
を抱絡する大きさを摩擦接合用鋼板が有していることで、その領域の摩擦接合用鋼板に締付け具の圧縮力を均一に作用させることができ、安定した摩擦係数を得ることができる。
【0016】
さらに、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記両面の突条先端間の距離(H)が1.5〜2.5mmに設定されていることが好ましい。
このような構成によれば、摩擦接合用鋼板の厚さ寸法である突条先端間の距離(H)を1.5〜2.5mmに設定したことで、締付け具の圧縮力によって摩擦接合用鋼板を撓ませて被接合鋼材表面に密着させることができ、摩擦接合用鋼板全体の突条を的確に被接合鋼材に食い込ませて高い摩擦係数を得ることができる。
【0017】
また、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条は、転造、切削、鋳造のいずれかの加工で形成されることが好ましい。
さらに、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条の形成後に焼き入れが施されることが好ましい。
このような構成によれば、転造、切削、鋳造のいずれの加工方法によっても突条を形成することができ、製造する数量や種類数に応じて任意の加工方法が選択できるため、適宜な加工方法を選択して摩擦接合用鋼板を製造することで、その製造コストを低減することができる。また、突条の形成後に焼き入れを施すことで、突条部分の硬さを高めるとともに安定させることができる。
【0018】
また、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記被接合鋼材の一方に仮付けテープまたは防錆塗装によって仮付けされることが好ましい。
さらに、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記仮付けテープは、当該摩擦接合用鋼板を覆って前記一方の被接合鋼材に接着されるアルミテープであって、前記アルミテープで覆われた面を前記他方の被接合鋼材に当接させた状態で当該一方および他方の被接合鋼材を前記締付け具で締め付けた際に、前記他方の被接合鋼材側の突条が前記アルミテープを破って当該他方の被接合鋼材に食い込み、前記一方の被接合鋼材側の突条が当該一方の被接合鋼材に食い込む。
このような構成によれば、予め仮止めテープや防錆塗装の接着力によって当該摩擦接合用鋼板を一方の被接合鋼材に仮止めしておく、つまり建設現場における高所ではなくて工場や地上の仮置きヤード等の管理しやすい場所において摩擦接合用鋼板を仮止めすることで、所定の管理の元で突条の向きや設置位置、個数等が適正な状態で摩擦接合用鋼板を設置することができる。そして、仮止めテープ(例えば、アルミテープ)や防錆塗装で摩擦接合用鋼板を覆って仮止めした場合でも、被接合鋼材同士を締付け具で締め付ければ、仮止めテープ等が摩擦接合用鋼板の突条部分で切れ、突条が突出して被接合鋼材に食い込むことで、前述したような高い摩擦係数を得ることができる。
【0019】
また、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記締付け具の軸を挿通させる挿通孔を複数有して形成され、前記挿通孔同士の中間位置における前記突条同士の間の凹部が他の位置の凹部よりも深く形成されていることが好ましい。
このような構成によれば、挿通孔同士の中間位置における凹部を深くしておくことで、必要に応じてこの凹部位置で当該摩擦接合用鋼板を折って分割することができる。この際、例えば、摩擦接合用鋼板を手で折れる程度に凹部を深く形成しておいてもよく、また適宜な工具で折れる程度の深さに形成しておいてもよい。このように挿通孔同士の中間位置で分割できるようにしておけば、被接合鋼材に形成された締付け具用の孔ピッチ(ボルトピッチ)と、摩擦接合用鋼板の挿通孔のピッチとが合っていなくても、摩擦接合用鋼板を折って分割することで、被接合鋼材の孔ピッチに合わせて設置することができる。なお、被接合鋼材の孔ピッチと摩擦接合用鋼板の挿通孔のピッチとが合っていれば、摩擦接合用鋼板を分割せずに一体のままで設置すればよい。
【0020】
一方、本発明の摩擦接合構造は、前記いずれかの摩擦接合用鋼板を被接合鋼材間に介挿した摩擦接合構造であって、前記被接合鋼材の表面には、黒皮または赤錆が形成されているか、ブラスト処理、サンダー処理または錆止め塗装が施されている。
このような本発明によれば、前述の摩擦接合用鋼板による効果、すなわち設計上用いる摩擦係数を高精度かつ高い値に設定して合理的な設計が実現でき、ボルト本数を減らしたりスプライスプレート等を小さくしたりでき、材料コストや施工コストを低減させることができるという効果を奏することができる。また、被接合鋼材の表面に黒皮や錆止め塗装が施されている場合でも、これらの黒皮や錆止め塗装を貫通して摩擦接合用鋼板の突条を被接合鋼材に食い込ませることができ、被接合鋼材の表面状態に依存せずに摩擦係数を安定して得ることができる。さらに、黒皮や錆止め塗装を除去する必要がないことから、接合後における錆止めのためのタッチアップ塗装を施す必要がなく、この点でも施工手間やコストを低減させることができる。
【0021】
また、本発明の摩擦接合構造では、前記摩擦接合用鋼板が2枚以上重ね合わされて前記被接合鋼材間に介挿されていることが好ましい。
このような構成によれば、被接合鋼材同士の厚さ寸法に差がある場合などにおいて、この差に応じて摩擦接合用鋼板の枚数を適宜調節して被接合鋼材間に介挿することで、多様な被接合鋼材の組み合わせに対応することができ、多種の厚さ寸法を有した摩擦接合用鋼板を用意する必要がなくなり、材料コストや施工コストを低減させることができる。そして、重ね合わせる摩擦接合用鋼板同士は、互いに溶接等で結合しなくても、互いの突条が噛み合うことでせん断方向にずれることがなく、適切に摩擦抵抗力を伝達することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のような本発明の摩擦接合用鋼板および摩擦接合構造によれば、低コストで多様な摩擦接合部に適用でき、かつ摩擦抵抗を確実に高めて合理的な設計を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の摩擦接合構造を示す断面図である。図2(A),(B)は、摩擦接合構造に用いる摩擦接合用鋼板10を示す正面図および断面図である。図3は、摩擦接合構造の要部を拡大して示す断面図である。
図1〜図3において、本発明の摩擦接合構造は、被接合鋼材である一対の鋼板1A,1Bを、締付け具である複数の高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付け、この締め付けた圧縮力により鋼板1A,1Bが摩擦接合されるものであって、鋼板1A,1Bの間には、各々の高力ボルト2Aに対応して摩擦接合用鋼板10が介挿されている。
【0024】
ここで、一対の鋼板1A,1Bとしては、例えば、一方の鋼板1Aが構造物の骨組みを構成する形鋼(H形鋼等)のフランジやウェブであって、他方の鋼板1Bがスプライスプレート(添え板)やガセットプレートであってもよく、また、一方および他方の鋼板1A,1Bがともに形鋼の一部、あるいは鋼板そのものであってもよい。そして、被接合鋼材としては、一般構造用圧延鋼材や溶接構造用圧延鋼材であり、その引張強度が400〜500(N/mm2 )程度のSS400、SS490、SM400、SM490等から形成されたものが用いられている。また、高力ボルト2A、ナット2Bとしては、一対の鋼板1A,1Bが互いに近づく方向に所定の圧縮力(ボルト軸力)Nで締め付け可能なものであって、任意の締め付け形式のものが採用可能である。
【0025】
摩擦接合用鋼板10は、図2に示すように、全体薄板状で互いに平行に連続形成された複数の突条11を両面に有するとともに、高力ボルト2Aを挿通させる1つの挿通孔12を有して形成されている。この摩擦接合用鋼板10は、その引張強度が450(N/mm2)以
上の機械構造用炭素鋼鋼材であるS45C等から形成され、その平面形状は、高力ボルト2Aの軸心(挿通孔12の中心)回りに高力ボルト2Aの軸径(φ)に対して2.5倍の直径の円を抱絡する大きさ、つまり一辺の長さがA(A≧2.5φ)の略正方形とされている。また、摩擦接合用鋼板10の厚さ寸法である両面の突条11先端間の距離(H)は、約2.0mmに設定されるとともに、突条11が鋼板1A,1Bの引張り方向(図1の左右方向)に直交して配置されている。
【0026】
摩擦接合用鋼板10の突条11は、冷間または熱間による転造で形成されるとともに、突条11の形成後に焼き入れ加工が施され、突条11部分におけるビッカース硬さ(Hvh)が鋼板1A,1B表面のビッカース硬さ(Hvm)に対して3倍以上の値に設定されている。すなわち、摩擦接合用鋼板10の突条11部分と鋼板1A,1B表面とのビッカース硬さ比(rh =Hvh/Hvm)がrh ≧3となるように設定されている。このような摩擦接合用鋼板10によれば、高力ボルト2Aの圧縮力(N、図1参照)によって突条11が鋼板1A,1B表面に食い込むことで、鋼板1A,1B間に高い摩擦抵抗が得られるようになっている。なお、突条11は、転造で形成されるものに限らず、切削加工や鋳造によって形成されたものであってもよい。
【0027】
次に、摩擦接合用鋼板10の詳細な構造について図3に基づいて説明する。
摩擦接合用鋼板10の突条11は、隣り合う突条11同士の間隔(S)が1.0mm程度に設定されるとともに、突条11の先端角度(θ)が50°〜100°の範囲に設定されている。さらに、突条11の先端部の半径(R1 )は、0.1mm以下に設定され、突条11同士の間の凹み部分の半径(R2 )が0.4mm以上に設定されている。また、突条11の鋼板1A,1Bに対する食い込み深さは、食い込み部の幅寸法(B)が突条11同士の間隔(S)に対して1/3程度となるように設定されている。
【0028】
また、高力ボルト2Aを締め付けた際に、その圧縮力(N)によって鋼板1A,1Bに作用する圧縮応力度(σ)が鋼板1A,1Bの引張強度(σmb)に対して0.5以下、つまり応力度比σ/σmb≦0.5に設定されている。ここで、鋼板1A,1Bに作用する圧縮応力度(σ)とは、高力ボルト2Aの圧縮力(N)を、摩擦接合用鋼板10の突条11
の総長さ寸法(L=ΣA)と、突条11の食い込み部の幅寸法(B)と、で除した応力度σ=N/(L・B)を意味している。
【0029】
以上の摩擦接合構造では、建設現場において鋼板1A,1Bを高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付ける以前に、鋼板1Aまたは鋼板1Bの所定位置に摩擦接合用鋼板10を、粘着テープや接着材等によって仮止めしておく施工方法が適用可能である。このように摩擦接合用鋼板10を仮止めした場合でも、高力ボルト2Aで鋼板1A,1Bを締め付ければ、摩擦接合用鋼板10の突条11が粘着テープや接着材を貫通して鋼板1A,1B表面に食い込むようにできる。
また、鋼板1A,1Bの表面全体には、黒皮または赤錆が形成されているか、ブラスト処理、サンダー処理または錆止め塗装が施されている。このように鋼板1A,1Bの表面全体、つまり摩擦接合用鋼板10の設置位置にも黒皮が形成されていたり錆止め塗装が施されていたりしても、高力ボルト2Aで鋼板1A,1Bを締め付ければ、摩擦接合用鋼板10の突条11が黒皮や錆止め塗装を貫通して鋼板1A,1B表面に食い込むようにできる。
【0030】
なお、摩擦接合用鋼板としては、全体略正方形に形成された摩擦接合用鋼板10に限らず、以下の図4〜図6に示すような各種形態のものが適用可能である。
図4(A),(B)、図5(A),(B)は、それぞれ本実施形態の変形例に係る摩擦接合用鋼板10A,10Bを示す正面図および断面図であり、図6は、本実施形態の変形例に係る摩擦接合用鋼板10Cを示す正面図である。
図4に示す摩擦接合用鋼板10Aは、前記摩擦接合用鋼板10と同様に、全体薄板状で互いに平行に連続形成された複数の突条11を両面に有するものであって、その平面形状が高力ボルト2Aの軸心(挿通孔12の中心)回りに高力ボルト2Aの軸径(φ)に対して略2.5倍の直径を有した円形とされた点が摩擦接合用鋼板10と相違している。その他の摩擦接合用鋼板10Aにおける詳細な構造は、摩擦接合用鋼板10と略同様である。
【0031】
図5に示す摩擦接合用鋼板10Bは、前記摩擦接合用鋼板10Aと同様に、全体薄板状に形成されるとともに、平面形状が高力ボルト2Aの軸心(挿通孔12の中心)回りに高力ボルト2Aの軸径(φ)に対して略2.5倍の直径を有した円形とされており、互いに同心円状に連続形成された複数の突条11を両面に有する点が摩擦接合用鋼板10,10Aと相違している。その他の摩擦接合用鋼板10Bにおける詳細な構造は、摩擦接合用鋼板10,10Aと略同様である。このような摩擦接合用鋼板10Bによれば、突条11が同心円状に形成されていることから、任意の径方向に摩擦抵抗を発揮させることができ、鋼板1A,1Bに作用する引張り力が2方向以上である場合などに好適である。さらに、摩擦接合用鋼板10Bが多少回転してしまっても得られる摩擦抵抗は同一であることから、高力ボルト2Aを締め付ける際に摩擦接合用鋼板10Bを仮止めしておく必要がなくなり、施工性の向上が見込める。
【0032】
図6に示す摩擦接合用鋼板10Cは、前記摩擦接合用鋼板10と同様に、全体薄板状で互いに平行に連続形成された複数の突条11を両面に有するものであって、2つの挿通孔12を有して全体長方形に形成された点が摩擦接合用鋼板10と相違している。そして、摩擦接合用鋼板10Cは、各挿通孔12の側方に高力ボルト2Aの軸心(挿通孔12の中心)回りに高力ボルト2Aの軸径(φ)に対して略2.5倍の直径を抱絡する大きさのはしあき部分およびへりあき部分を有して形成されている。その他の摩擦接合用鋼板10Cにおける詳細な構造は、摩擦接合用鋼板10と略同様である。このような摩擦接合用鋼板10Cによれば、挿通孔12が複数形成されていることから、高力ボルト2Aを締め付ける際に摩擦接合用鋼板10Cが回転してしまう共回りが防止でき、摩擦接合用鋼板10Cを仮止めしておく必要がなくなり、施工性の向上が見込める。
また、摩擦接合用鋼板10Cにおいて、2つの挿通孔12同士の中間位置における突条11間の凹部が他の位置の凹部よりも深く形成されていることが好ましい。このようにしておけば、必要に応じて深く形成た凹部位置で摩擦接合用鋼板10Cを折って2つに分割することができ、鋼板1A,1Bのボルト孔のピッチと摩擦接合用鋼板10Cの挿通孔12のピッチとが合っていなくても、分割した摩擦接合用鋼板10Cをボルト孔に合わせて設置することができる。
【0033】
さらに、本実施形態の摩擦接合構造としては、図1に示したように鋼板1A,1B間に1枚ずつの摩擦接合用鋼板10を介挿したものに限らず、以下の図7に示すように、複数枚の摩擦接合用鋼板10を重ねて介挿した構造が適用可能である。
図7は、本実施形態の変形例に係る摩擦接合構造を示す断面図である。
図7に示す摩擦接合構造は、被接合鋼材である左右一対の鋼板1A,1Cを摩擦接合用鋼板10を介して被接合鋼材である上下一対の鋼板1Bで挟み込み、これら上下一対の鋼板1Bを高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付けて接合するものである。そして、鋼板1Aと鋼板1Cとは、互いに厚さ寸法が相違し、鋼板1Aが鋼板1Cよりも薄くなっており、鋼板1Aと上側の鋼板1Bとの間には、2枚の摩擦接合用鋼板10が重ねて介挿されている。これら2枚の摩擦接合用鋼板10は、互いの突条11同士を噛み合わせた状態で重ねられており、摩擦接合用鋼板10同士がずれないようになっている。
【0034】
なお、図7に示したような複数枚の摩擦接合用鋼板10を重ねて介挿する摩擦接合構造としては、鋼板1A,1Cの厚さ寸法が異なるものに限らず、左右一対の形鋼(例えば、H形鋼)の高さ寸法が異なる場合、例えば一方の形鋼がロールH材で他方がビルトH材の場合などに適用可能である。すなわち、高さ寸法の小さい形鋼におけるフランジである鋼板1Aの外側とスプライスプレートである鋼板1Bとの間、および高さ寸法の大きい形鋼におけるフランジである鋼板1Cの内側とスプライスプレートである鋼板1Bとの間に、それぞれ高さ寸法の差に応じた枚数の摩擦接合用鋼板10を重ねて介挿すればよい。
【0035】
このような本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)すなわち、摩擦接合用鋼板10の突条11部分が鋼板1A,1B表面よりも3倍以上のビッカース硬さを有していることで、突条11が鋼板1A,1Bに食い込みやすくなり、このように食い込んだ突条11の機械的すべり抵抗による摩擦抵抗が鋼板1A,1B間に作用することから、摩擦接合用鋼板10を介した鋼板1A,1B同士の摩擦係数を格段に大きくすることができる。従って、理論的または実験的に検証しやすく、かつ摩擦係数のばらつきが小さいすべり抵抗機構による摩擦接合構造が構成されるので、設計上用いる摩擦係数を高精度かつ高い値、例えば、0.9以上(望ましくは、1.0以上)の摩擦係数に設定することができ、合理的な設計が実現できる。
【0036】
(2)そして、摩擦係数を高い値に設定できることで、高力ボルト2Aおよびナット2Bの本数を減らしたりボルト径を小さくしたりすることができ、鋼板1A,1Bの断面欠損を最小限に抑えることができるとともに、スプライスプレート等として用いる鋼板1A(または鋼板1B)のサイズを小さくすることで、鋼材量を低減することができ、建築物や土木構造物の材料コストや施工コストを低減させることができる。
【0037】
(3)また、鋼板1A,1Bの表面に、従来のようなショットブラストやサンダー処理などを施しておく必要がなく、さらには黒皮を除去したり赤錆を発生させたりする必要もなくなるので、鋼板1A,1Bの加工に要する手間や時間が低減でき、製造コストを大幅に削減することができる。さらに、多種多様かつ多数の鋼板1A,1Bの加工が不要になるとともに、これらの鋼板1A,1Bに対して共通の摩擦接合用鋼板10を用いることができるので、摩擦接合用鋼板10が大量生産可能になり、その製造コストや施工コストの低減をより一層促進させることができる。
【0038】
(4)さらに、摩擦接合用鋼板10の突条11の形態(先端角度θ、突条11同士の間隔S、先端部の半径R1 、凹み部分の半径R2 )が適宜設定されているので、突条11が鋼板1A,1Bの表面に食い込みやすい鋭利さを有し、かつ突条11部分のせん断強度を確保しつつ機械的すべり抵抗を十分に発揮させることができる。また、摩擦接合用鋼板10の厚さ寸法である突条11先端間の距離Hが2.0mm程度に設定されているので、高力ボルト2Aの圧縮力Nによって摩擦接合用鋼板10を撓ませて鋼板1A,1B表面に密着させることができ、摩擦接合用鋼板10全体の突条11を的確に鋼板1A,1Bに食い込ませて高い摩擦係数を得ることができる。
【0039】
(5)また、鋼板1A,1Bの表面における突条11が食い込んだ部分の幅寸法Bが適宜設定されているので、突条11の食い込み量を確保して摩擦係数を高めつつ、鋼板1A,1B表面における突条11が食い込まない部分の幅寸法を確保して鋼板1A,1Bの変形およびせん断破壊が防止でき、摩擦抵抗を安定して発揮させることができる。さらに、鋼板1A,1Bに作用する圧縮応力度σが引張強度σmbの半分以下となるように設定されているので、鋼板1A,1Bのせん断強度や掘り起こし強度を確保しつつ機械的すべり抵抗を十分に発揮させることができる。
【0040】
(6)また、鋼板1A,1Bの表面に黒皮や錆止め塗装が施されている場合でも、これらの黒皮や錆止め塗装を貫通して摩擦接合用鋼板10の突条11を鋼板1A,1Bに食い込ませることができ、鋼板1A,1Bの表面状態に依存せずに摩擦係数を安定して得ることができる。さらに、黒皮や錆止め塗装を除去する必要がないことから、接合後における錆止めのためのタッチアップ塗装を施す必要がなく、この点でも施工手間やコストを低減させることができる。
【0041】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、前記実施形態においては、摩擦接合用鋼板10,10A,10B,10Cとして、複数の突条11が一方方向に平行に連続形成されるか、または同心円状に連続形成されたものを例示したが、摩擦接合用鋼板は、互いに平行な複数の突条を有していればよく、これらの平行な突条の組み合わせを2方向または多方向に関して複数組有して形成されていてもよい。さらに、前記実施形態においては、摩擦接合用鋼板10,10A,10B,10Cとして、挿通孔12が1つまたは2つ形成されたものを例示したが、3つ以上の挿通孔を有して摩擦接合用鋼板が形成されていてもよい。
【0042】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0043】
以下に、前記実施形態で説明した摩擦接合構造の実験的に検証した実施例について説明する。
以下の実施例において、前記摩擦接合用鋼板10および鋼板1A,1Bを用い、図1のように高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付けた状態で引張り試験を実施した。
この際、ビッカース硬さ比(rh )を第1のパラメータとし、突条11の先端角度(θ)を第2のパラメータとし、応力度比(σ/σmb)を第3のパラメータとし、これら3つのパラメータを変動させて引張り試験を実施し、得られる摩擦係数(すべり係数)μF を測定した。
【0044】
[第1パラメータ:ビッカース硬さ比rh ]
ビッカース硬さ比rh とは、摩擦接合用鋼板10の突条11部分におけるビッカース硬
さ(Hvh)と、鋼板1A,1B表面のビッカース硬さ(Hvm)との比(rh =Hvh/Hvm)であって、その値として、約1.7、約1.9、約2.6、約3.2、約4.0、約4.3の6種類を設定した。
【0045】
[第2パラメータ:突条の先端角度θ]
突条11の先端角度θとしては、30°〜120°を設定した。
【0046】
[第3パラメータ:応力度比σ/σmb]
応力度比σ/σmbとは、高力ボルト2Aの圧縮力(N)によって鋼板1A,1Bに作用する圧縮応力度(σ)と、鋼板1A,1Bの引張強度(σmb)との比であって、その値として、約0.2、約0.4、約0.5、約0.6、約0.8、約1.0の6種類を設定した。
ここで、鋼板1A,1Bに作用する圧縮応力度(σ)とは、高力ボルト2Aの圧縮力(N)を、摩擦接合用鋼板10の突条11の総長さ寸法(L=ΣA)と、突条11の食い込み部の幅寸法(B)と、で除した応力度σ=N/(L・B)を意味している。また、以下の測定結果において、プロット記号としては、応力度比σ/σmbごとに、0.2を白抜き三角(△)、0.4を白抜き四角(□)、0.5を白抜き丸(○)、0.6を黒塗り三角(▲)、0.8を黒塗り四角(■)、1.0を黒塗り丸(●)で示すものとする。
【0047】
[測定結果]
先ず、各パラメータの値に応じて3つの破壊モードが確認され、各々の破壊モードによって得られる摩擦係数μF の値に一定の傾向が見られた。確認された3つの破壊モードを図8に示し、破壊モードごとの摩擦係数μF の値の傾向を図9に示す。図9は、横軸(X軸)をビッカース硬さ比rh 、縦軸(Y軸)を摩擦係数μF として、各破壊モード(A〜C)ごとの摩擦係数μF の下限値を近似直線で表したグラフである。
図8(A)は、摩擦接合用鋼板10の突条11が食い込み部分でせん断破壊するタイプの破壊モード(破壊モードA)を示しており、図9に符号Aで示すように、ビッカース硬さ比rh の上昇に伴って得られる摩擦係数μF が上昇する傾向が見られる。この破壊モードAは、ビッカース硬さ比rh が3程度以下で顕著に確認された。
図8(B)は、鋼板1A,1Bが突条11の先端位置でせん断破壊するタイプの破壊モード(破壊モードB)を示しており、図9に符号Bで示すように、ビッカース硬さ比rh に関わらず、得られる摩擦係数μF が一定かつ低い値を示す傾向が見られる。この破壊モードBは、応力度比σ/σmbが0.8程度以上で顕著に確認された。
図8(C)は、鋼板1A,1Bの食い込み部が突条11によって掘り起こされるタイプの破壊モード(破壊モードC)を示しており、図9に符号Cで示すように、ビッカース硬さ比rh に関わらず、得られる摩擦係数μF が一定かつ高い値を示す傾向が見られる。この破壊モードCは、ビッカース硬さ比rh が3程度以上、かつ応力度比σ/σmbが0.5程度以下の場合に顕著に確認された。
【0048】
図10には、ビッカース硬さ比rh および応力度比σ/σmbごとに、突条11の先端角度θが90°の場合の結果が示されている。
図10は、横軸(X軸)をビッカース硬さ比rh 、縦軸(Y軸)を摩擦係数μF として、応力度比σ/σmbごとの測定結果をプロットするとともに、応力度比σ/σmbごとの摩擦係数μF の下限値を近似直線で表したグラフである。
図10において、ビッカース硬さ比rh が3以上で、かつ応力度比σ/σmbが0.5以下であれば、摩擦係数μF は1.0を上回っていることが分かる。また、ビッカース硬さ比rh が2.5以上で、かつ応力度比σ/σmbが0.6以下であれば、摩擦係数μF は概ね0.9を上回っていることが分かる。さらに、ビッカース硬さ比rh が2以上で、かつ応力度比σ/σmbが0.8以下であれば、摩擦係数μF は概ね0.7を上回っていることが分かる。
【0049】
図11には、各パラメータごとに、突条11の先端角度θによって得られる摩擦係数μF の値の下限値が示されている。
図11は、横軸(X軸)を突条11の先端角度θ、縦軸(Y軸)を摩擦係数μF として、摩擦係数μF の下限値を近似直線で表したグラフである。
図11に符号Aで示すように、破壊モードAの場合には、先端角度θが大きくなるに従って得られる摩擦係数μF が大きくなる傾向が見られる。つまり、突条11の先端角度θが大きくなる程、突条11がせん断破壊しにくくなり、摩擦抵抗力が増大することが分かる。
一方、図11に符号Cで示すように、破壊モードCの場合には、先端角度θが大きくなるに従って得られる摩擦係数μF が小さくなる傾向が見られる。つまり、突条11の先端角度θが大きくなって突条11のせん断強度が高くなる程、鋼板1A,1Bの食い込み部が掘り起こされやすくなり、摩擦抵抗力が低下することが分かる。
従って、破壊モードA、Cの両者共に大きな摩擦係数μF (μF ≧1.0 )が得られる先端角度θの範囲としては、50°〜100°であることが分かる。一方、突条11のせん断破壊を防止しつつ、鋼板1A,1Bの強度に準じて摩擦抵抗力を決定する(破壊モードC)場合、つまり設計上、簡便な方法で1.0以上の摩擦係数μF を確保するためには、突条11の先端角度θが75°〜90°の範囲に設定されていることが望ましい。
【0050】
図12は、横軸(X軸)を応力度比σ/σmb、縦軸(Y軸)を摩擦係数μF として、得られた摩擦係数μF の値をプロットするとともに、下限値を近似直線で表したグラフである。図13は、横軸(X軸)を引張り試験時のすべり量、縦軸(Y軸)を摩擦係数μF として、応力度比σ/σmbごとの測定結果を近似曲線で表したグラフである。なお、図12、図13ともに、突条11の先端角度θが90°かつビッカース硬さ比rh が3以上の場合の結果が示され、図13には、ビッカース硬さ比rh が約3.2の場合が示されている。
図12において、応力度比σ/σmbが0.5以下であれば、摩擦係数μF は1.0を上回っていることが分かる。また、応力度比σ/σmbが0.5を超えると、応力度比σ/σmbの増大に伴って摩擦係数μF が低下していることが分かる。すなわち、応力度比σ/σmbが0.5以下の範囲が破壊モードCを示し、応力度比σ/σmbが0.5を超えた範囲が破壊モードBを示していることが分かる。
また、図13に示すように、応力度比σ/σmbが0.5以下であれば、摩擦係数μF が1.0以上の高い値を示し、すべり量も1mm程度以下と小さく抑えられていることが分かる。
【0051】
従って、ビッカース硬さ比rh が3以上で、突条11の先端角度θが50°〜100°(より望ましくは、75°〜90°)の範囲で、さらに応力度比σ/σmbが0.5以下となる(破壊モードC)となるように、鋼板1A,1B(被接合鋼材)表面のビッカース硬さHvmおよび引張強度σmbに応じて、摩擦接合用鋼板10の突条11のビッカース硬さHvhおよび先端角度θを設定することで、1.0以上の摩擦係数μF が得られることが分かった。
【0052】
次に、摩擦接合用鋼板10および鋼板1A,1Bを用い、高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付けた状態で引張り試験を実施した結果を図14〜図21に示す。
ここでは、本発明の第1実施例(図14〜図16)、第2実施例(図17〜図19)と、その比較例(図20、図21)とについて説明する。
なお、各実施例および比較例では、摩擦接合用鋼板10の材質(材料強度やビッカース硬さ)および製造方法、鋼板1A,1Bの材質および表面処理などの条件を合致させ、摩擦接合用鋼板10における突条11の形態のみをパラメータとして引張り試験が実施されている。また、図16、図19および図21に示す試験結果は、高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付けた導入軸力(圧縮力N)を、鋼板1A,1Bを圧縮力Nと直交する方向に引っ張った引張り力で除した値(すべり係数、摩擦係数)と、鋼板1A,1Bを引っ張った方向への摩擦接合用鋼板10位置でのすべり量とをグラフにしたものである。
【0053】
[第1実施例]
図14は、第1実施例の摩擦接合用鋼板を示す写真である。図15は、第1実施例の摩擦接合用鋼板10aを示す断面図である。図16は、第1実施例の摩擦接合用鋼板10aを用いた試験結果を示すグラフである。
第1実施例の摩擦接合用鋼板10aは、図15に示すように、表裏対称に突条11が形成されたものであって、隣り合う突条11同士の間隔(S)が約1.5mmに設定されるとともに、表裏の突条11の先端間の距離(H)が約1.5mmに設定されている。また、摩擦接合用鋼板10aにおいて、突条11の先端角度(θ)は、約90°に設定されるとともに、突条11の先端部の半径(R1 )は、0.1mm以下(約0.1mm)に設定され、突条11同士の間の凹み部分の半径(R2 )が0.4mm以上(約1.0mm)に設定されている。
以上の第1実施例の摩擦接合用鋼板10aによると、図16に荷重−変形曲線aで示すように、0.5mm以下のすべり量において、摩擦係数が1.0を上回るとともに、すべり量が0.5mmを超えて1.0mmに至るまで、摩擦係数が1.0を下回ることなく、良好な力学特性が得られることが分かった。
【0054】
[第2実施例]
図17は、第2実施例の摩擦接合用鋼板を示す写真である。図18は、第2実施例の摩擦接合用鋼板10bを示す断面図である。図19は、第2実施例の摩擦接合用鋼板10bを用いた試験結果を示すグラフである。
第2実施例の摩擦接合用鋼板10bは、図18に示すように、表裏対称に突条11が形成されたものであって、隣り合う突条11同士の間隔(S)が約0.8mmに設定されるとともに、表裏の突条11の先端間の距離(H)が約1.5mmに設定されている。また、摩擦接合用鋼板10bにおいて、突条11の先端角度(θ)は、約75°に設定されるとともに、突条11の先端部の半径(R1 )は、0.1mm以下(約0.1mm)に設定され、突条11同士の間の凹み部分の半径(R2 )が0.4mm以上(約0.4mm)に設定されている。
以上の第2実施例の摩擦接合用鋼板10bによると、図19に荷重−変形曲線bで示すように、0.5mm以下のすべり量において、摩擦係数がほぼ1.0になるとともに、すべり量が0.5mmを超えて1.0mmに至るまで、摩擦係数が1.0から低下することなく、良好な力学特性が得られることが分かった。
【0055】
[比較例]
図20は、比較例の摩擦接合用鋼板を示す写真である。図21は、比較例の摩擦接合用鋼板を用いた試験結果を示すグラフである。
比較例の摩擦接合用鋼板は、前記第1実施例の摩擦接合用鋼板10aと略同様に、隣り合う突条11同士の間隔(S)が約1.5mmに設定されるとともに、表裏の突条11の先端間の距離(H)が約1.5mmに設定されている。一方、比較例の摩擦接合用鋼板では、突条11の先端部の半径(R1 )が約0.2mmに設定されている点が前記第1実施例の摩擦接合用鋼板10aと相違している。
以上の比較例の摩擦接合用鋼板によると、図21に荷重−変形曲線cで示すように、0.5mm以下のすべり量において、摩擦係数がほぼ0.75でピークとなり、すべり量が0.5mmを超えて1.0mmに至るまでに摩擦係数が0.7程度にまで徐々に低下し、前記第1および第2実施例と比較して力学特性が劣ることが分かった。
【0056】
次に、摩擦接合用鋼板10dおよび鋼板1A,1Bを用い、一方の鋼板1Aに摩擦接合用鋼板10dを予めアルミテープTで仮止めしておき、他方の鋼板1Bを摩擦接合用鋼板10dに重ねてから、高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付けた第3実施例について、図22〜図24に基づいて説明する。
[第3実施例]
図22は、第3実施例の摩擦接合用鋼板10dの仮止め状態を示す断面図である。図23は、第3実施例の摩擦接合用鋼板10dの締め付け後の状態を示す断面図である。図24は、第3実施例の摩擦接合用鋼板10dを用いた試験結果を示すグラフである。
第3実施例の摩擦接合用鋼板10dは、前記第1実施例の摩擦接合用鋼板10aと略同様の断面を有して形成されたものである。アルミテープTは、図22に示すように、摩擦接合用鋼板10dを覆って突条11に接着されるとともに、その端部が一方の鋼板1Aに接着されており、これにより摩擦接合用鋼板10dが鋼板1Aに仮止めされるようになっている。そして、摩擦接合用鋼板10dのアルミテープT側に他方の鋼板1Bを重ねてから、高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付けて圧縮力Nを作用させることで、図23に示すように、アルミテープTが切れて突条11が突出し、この突条11が他方の鋼板1Bに食い込むとともに、反対側の突条11が一方の鋼板1Aに食い込むようになっている。
以上の第3実施例の摩擦接合用鋼板10dによると、図24に荷重−変形曲線dで示すように、0.5mm以下のすべり量において、摩擦係数が1.0を上回るとともに、すべり量が0.5mmを超えて1.0mmに至るまで、摩擦係数が1.0を下回ることなく徐々に増加し、良好な力学特性が得られることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態に係る摩擦接合構造を示す断面図である。
【図2】(A),(B)は、前記摩擦接合構造に用いる摩擦接合用鋼板を示す正面図および断面図である。
【図3】前記摩擦接合構造の要部を拡大して示す断面図である。
【図4】(A),(B)は、前記実施形態の変形例に係る摩擦接合用鋼板を示す正面図および断面図である。
【図5】(A),(B)は、前記実施形態の変形例に係る摩擦接合用鋼板を示す正面図および断面図である。
【図6】前記実施形態の変形例に係る摩擦接合用鋼板を示す正面図である。
【図7】前記実施形態の変形例に係る摩擦接合構造を示す断面図である。
【図8】本発明の実施例に係る摩擦接合構造の破壊モードを示す断面図である。
【図9】前記実施例における破壊モードごとの摩擦係数の傾向を示すグラフである。
【図10】前記実施例における応力度比ごとの摩擦係数を示すグラフである。
【図11】前記実施例における突条の先端角度に対する摩擦係数を示すグラフである。
【図12】前記実施例における応力度比に対する摩擦係数を示すグラフである。
【図13】前記実施例における引張り試験時のすべり量に対する摩擦係数を示すグラフである。
【図14】本発明の第1実施例の摩擦接合用鋼板を示す写真である。
【図15】前記第1実施例の摩擦接合用鋼板を示す断面図である。
【図16】前記第1実施例の摩擦接合用鋼板を用いた試験結果を示すグラフである。
【図17】本発明の第2実施例の摩擦接合用鋼板を示す写真である。
【図18】前記第2実施例の摩擦接合用鋼板を示す断面図である。
【図19】前記第2実施例の摩擦接合用鋼板を用いた試験結果を示すグラフである。
【図20】本発明の比較例の摩擦接合用鋼板を示す写真である。
【図21】前記比較例の摩擦接合用鋼板を用いた試験結果を示すグラフである。
【図22】本発明の第3実施例の摩擦接合用鋼板の仮止め状態を示す断面図である。
【図23】前記第3実施例の摩擦接合用鋼板の締め付け後の状態を示す断面図である。
【図24】前記第3実施例の摩擦接合用鋼板を用いた試験結果を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦接合用鋼板および摩擦接合構造に関し、詳しくは、互いに摩擦接合される被接合鋼材間に介挿される摩擦接合用鋼板、この鋼板を用いた摩擦接合構造に関する。
本願は、2006年4月10日に出願された日本国特許出願第2006−107457号、および2007年2月28日に出願された日本国特許出願第2007−49013号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築や土木の分野において、鋼構造物(建物や橋梁等)の骨組みを構成する鋼材同士の接合構造として、高力ボルト等の締付け具で被接合鋼材を締め付け、この締め付けた圧縮力により生ずる摩擦抵抗で被接合鋼材同士を接合する摩擦接合が一般的に利用されている。一般的な摩擦接合では、母材(柱や梁、筋交い等)や接合部材(スプライスプレートやガセットプレート等)などの被接合鋼材の摩擦面に以下のような加工を施して摩擦係数を確保している。すなわち、サンダーやグラインダーなどにより黒皮を除去した後に放置して赤錆を発生させるか、またはショットブラスト加工などにより摩擦面を粗す方法が用いられている。しかし、このような方法によって得られる摩擦面の摩擦係数は、比較的小さい上に安定した摩擦抵抗が確保しにくいため、設計する上で安全側に捉えた低い値を採用せざるを得ず、合理的な設計が実現しにくく、その解決が望まれている。
【0003】
一方、摩擦接合における被接合鋼材同士の摩擦抵抗を増大させる構造として、被接合鋼材の互いに接する一対の接合面において、互いに硬さや粗さが異なるように加工を施したものが知られている(例えば、特開2002−155910号公報を参照)。特許文献1に記載された摩擦接合構造は、一方の接合面に1回のショットブラストを行い、他方の接合面に2回のショットブラストを行うなどの方法により、接合面同士に硬さや粗さを異ならせた摩擦面を形成することで、摩擦面間の摩擦係数を高め、これによりボルト本数やボルト径の低減を図り合理的な設計の実現を目指すものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載された従来の摩擦接合構造では、被接合鋼材の接合面に1回ないしは複数回のショットブラストを行って摩擦面を形成するため、多種多様かつ多数の被接合鋼材ごとに加工を行う必要があり、加工に要する手間および時間が増大して加工コストが嵩んでしまうという問題がある。また、ショットブラストなどの方法によって摩擦面の硬さや粗さを異ならせ、摩擦面の摩擦係数を高めたとしても、それにより得られる摩擦係数は依然としてばらつきが大きく、設計上利用可能な摩擦係数の上限値としてはさほどの向上が見込めず、費用に対する効果が小さくなってしまうという問題もある。
【0005】
本発明の目的は、低コストで多様な摩擦接合部に適用でき、かつ摩擦抵抗を確実に高めて合理的な設計を実現することができる摩擦接合用鋼板および摩擦接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の摩擦接合用鋼板は、締付け具を締め付けた圧縮力により互いに摩擦接合される被接合鋼材間に介挿される摩擦接合用鋼板であって、互いに平行または互いに同心円状に連続形成された複数の突条を両面に有するとともに、前記締付け具を挿通させる少なくとも1つの挿通孔を有して構成され、前記突条部分のビッカース硬さが前記被接合鋼材表面のビッカース硬さよりも硬く設定されている。
この際、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条部分のビッカース硬さが前記被接合鋼材表面のビッカース硬さの3倍以上に設定されていることが好ましい。
ここで、ビッカース硬さとは、日本工業規格(JIS)に則った試験方法(JIS Z 2244)または国際標準化機構(ISO)の規格に則った試験方法(ISO 6507-1)で測定した金属材料の硬さであって、被接合鋼材および摩擦接合用鋼板の各々の表面硬さを意味する。すなわち、摩擦接合用鋼板における突条部分のビッカース硬さをHvhとし、被接合鋼材表面のビッカース硬さをHvmとした場合に、硬さ比rh (=Hvh/Hvm)が以下の式(1)を満足するように、被接合鋼材および摩擦接合用鋼板の各々の表面硬さが設定されていることが好ましい。
rh ≧3 …(1)
【0007】
以上の本発明によれば、摩擦接合用鋼板の突条部分を被接合鋼材表面よりも硬く(好ましくは、3倍以上の硬さに)設定したことで、摩擦接合用鋼板の突条が被接合鋼材に食い込みやすくなり、このように食い込んだ摩擦接合用鋼板の機械的すべり抵抗による摩擦抵抗が被接合鋼材間に作用することから、摩擦接合用鋼板を介した被接合鋼材同士の摩擦係数を格段に大きくすることができる。従って、理論的または実験的に検証しやすく、かつ摩擦係数のばらつきが小さいすべり抵抗機構による摩擦接合構造が構成されるので、設計上用いる摩擦係数を高精度かつ高い値に設定することができ、合理的な設計が実現できる。すなわち、従来と比較して摩擦係数を高い値に設定できることで、ボルト本数を減らしたりボルト径を小さくしたりすることで、母材の断面欠損を最小限に抑えることができるとともに、スプライスプレートやガセットプレートのサイズを小さくすることで、鋼材量を低減することができ、建築物や土木構造物の材料コストや施工コストを低減させることができる。
【0008】
また、被接合鋼材の表面には、従来のようなショットブラスト加工などを施しておく必要がなく、さらには黒皮を除去したり赤錆を発生させたりする必要もなくなるので、被接合鋼材の加工に要する手間や時間が低減でき、製造コストを大幅に削減することができる。さらに、多種多様かつ多数の被接合鋼材の加工が不要になるとともに、これらの被接合鋼材に対して所定サイズや所定形態の摩擦接合用鋼板を用意しておき、この摩擦接合用鋼板を被接合鋼材間に介挿するだけで、前述のように高い摩擦係数が得られるため、摩擦接合用鋼板が大量生産可能になり、その製造コストや施工コストの低減をより一層促進させることができる。
【0009】
この際、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条の先端角度(θ)が50°〜100°の範囲に設定されていることが好ましい。
すなわち、突条の先端角度θが以下の式(2)を満足するように、摩擦接合用鋼板の突条が形成されているものである。
50°≦θ≦100° …(2)
このような構成によれば、突条の先端角度θを50°以上かつ100°以下に設定する、つまり鋭角過ぎずかつ被接合鋼材に食い込みやすい鋭さを有した角度に突条を形成することで、突条部分のせん断強度を確保しつつ機械的すべり抵抗を十分に発揮させることができる。なお、突条の先端角度θとしては、75°以上かつ90°以下に設定(75°≦θ≦90°)されていることがより好ましい。
【0010】
また、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記締付け具の圧縮力によって前記被接合鋼材に作用する圧縮応力度(σ)を当該被接合鋼材の引張強度(σmb)で除した応力度比(σ/σmb)が0.5以下に設定されていることが好ましい。
ここで、被接合鋼材に作用する圧縮応力度(σ)は、高力ボルト等の締付け具からの圧縮力(N)を、摩擦接合用鋼板の突条の総長さ寸法(L)と、突条が被接合鋼材の表面に食い込んだ際に被接合鋼材がくぼんで形成されるくぼみの幅寸法(B)と、で除した応力度であって、つまり、σ=N/(L・B)で表される応力度を意味している。そして、被接合鋼材に作用する圧縮応力度σと引張強度σmbとの比が以下の式(3)を満足するように、被接合鋼材の材種および摩擦接合用鋼板の大きさや突条の形態が設定されているものである。
σ/σmb≦0.5 …(3)
このような構成によれば、被接合鋼材に作用する圧縮応力度σが引張強度σmbの半分以下となるように設定する、つまり被接合鋼材の鋼材種別(引張り強度σmb)や使用するボルトの種別に応じて摩擦接合用鋼板のサイズや突条の数、長さ等を適宜設定することで、被接合鋼材のせん断強度や掘り起こし強度を確保しつつ機械的すべり抵抗を十分に発揮させることができる。
【0011】
以上において、本発明の摩擦接合用鋼板は、前記式(1)、式(2)および式(3)の全てを同時に満足するように構成されていることが望ましいが、前記式(1)〜式(3)のうちの少なくとも2つを満足するように構成されていてもよく、また前記式(1)〜式(3)のうちのいずれか1つのみを満足するように構成されてもよい。
すなわち、前記式(1)の硬さ比rh 、前記式(2)の突条の先端角度θ、および前記式(3)の応力度比σ/σmbの3つの要素(パラメータ)が、摩擦接合用鋼板の摩擦係数を決定する上で大きな影響を有し、これら3つの要素を適宜設定することで大きな摩擦係数(例えば、0.9以上の摩擦係数)が得られることが本件出願人の鋭意研究により解明された。
【0012】
そして、被接合鋼材として、400〜500(N/mm2 )程度の引張強度を有した一般構造用圧延鋼材(JIS G 3101)であるSS400、SS490や、溶接構造用圧延鋼材(JIS G 3106)であるSM400、SM490等の鋼材を用いた場合には、摩擦接合用鋼板としては、450(N/mm2)以上の引張強度を有した機械構造用炭素鋼鋼材(JIS G 4051)であ
るS45C、S48C、S50C、S53C等か、これらと同等のビッカース硬さを有した鋼材から形成されていることが望ましい。
【0013】
また、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条同士の間隔(S)が0.8mm〜2.0mmに設定されていることが好ましい。
さらに、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条の先端部の半径(R1 )が0.1mm以下に設定されていることが好ましい。
そして、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条同士の間の凹部の半径(R2 )が0.4mm以上に設定されていることが好ましい。
このような構成によれば、突条同士の間隔(S)を0.8mm〜2.0mmに設定したことで、所定の大きさの摩擦接合用鋼板の両面に多くの突条を形成することができるとともに、突条の先端部の半径(R1 )を0.1mm以下に設定したことで、被接合鋼材に食い込みやすい突条の鋭利さが確保でき、高い摩擦係数を得ることができる。一方、突条同士の間の凹部の半径(R2 )を0.4mm以上に設定したことで、突条の基端部である凹部の強度を高めて、摩擦抵抗力を発揮する際における突条のせん断破壊が防止でき、安定した摩擦係数を得ることができる。
【0014】
また、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条が前記被接合鋼材表面に食い込んだ部分の幅寸法(B)が当該突条同士の間隔(S)の1/3程度に設定されていることが好ましい。
このような構成によれば、突条が食い込んだ部分の幅寸法(B)を突条同士の間隔(S)の1/3程度になるように、被接合鋼材と摩擦接合用鋼板の強度および硬さを適宜設定することで、突条の食い込み量を確保して摩擦係数を高めつつ、被接合鋼材表面における突条が食い込まない部分の幅寸法を確保して被接合鋼材の変形およびせん断破壊が防止でき、摩擦抵抗を安定して発揮させることができる。
【0015】
また、本発明の摩擦接合用鋼板は、前記締付け具の軸心を中心とし、かつ当該締め付け具の軸径に対して2.5倍の直径の円を抱絡する平面形状を有したことが好ましい。
このような構成によれば、締付け具の軸径に対して2.5倍の直径の円で囲まれた領域
を抱絡する大きさを摩擦接合用鋼板が有していることで、その領域の摩擦接合用鋼板に締付け具の圧縮力を均一に作用させることができ、安定した摩擦係数を得ることができる。
【0016】
さらに、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記両面の突条先端間の距離(H)が1.5〜2.5mmに設定されていることが好ましい。
このような構成によれば、摩擦接合用鋼板の厚さ寸法である突条先端間の距離(H)を1.5〜2.5mmに設定したことで、締付け具の圧縮力によって摩擦接合用鋼板を撓ませて被接合鋼材表面に密着させることができ、摩擦接合用鋼板全体の突条を的確に被接合鋼材に食い込ませて高い摩擦係数を得ることができる。
【0017】
また、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条は、転造、切削、鋳造のいずれかの加工で形成されることが好ましい。
さらに、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記突条の形成後に焼き入れが施されることが好ましい。
このような構成によれば、転造、切削、鋳造のいずれの加工方法によっても突条を形成することができ、製造する数量や種類数に応じて任意の加工方法が選択できるため、適宜な加工方法を選択して摩擦接合用鋼板を製造することで、その製造コストを低減することができる。また、突条の形成後に焼き入れを施すことで、突条部分の硬さを高めるとともに安定させることができる。
【0018】
また、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記被接合鋼材の一方に仮付けテープまたは防錆塗装によって仮付けされることが好ましい。
さらに、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記仮付けテープは、当該摩擦接合用鋼板を覆って前記一方の被接合鋼材に接着されるアルミテープであって、前記アルミテープで覆われた面を前記他方の被接合鋼材に当接させた状態で当該一方および他方の被接合鋼材を前記締付け具で締め付けた際に、前記他方の被接合鋼材側の突条が前記アルミテープを破って当該他方の被接合鋼材に食い込み、前記一方の被接合鋼材側の突条が当該一方の被接合鋼材に食い込む。
このような構成によれば、予め仮止めテープや防錆塗装の接着力によって当該摩擦接合用鋼板を一方の被接合鋼材に仮止めしておく、つまり建設現場における高所ではなくて工場や地上の仮置きヤード等の管理しやすい場所において摩擦接合用鋼板を仮止めすることで、所定の管理の元で突条の向きや設置位置、個数等が適正な状態で摩擦接合用鋼板を設置することができる。そして、仮止めテープ(例えば、アルミテープ)や防錆塗装で摩擦接合用鋼板を覆って仮止めした場合でも、被接合鋼材同士を締付け具で締め付ければ、仮止めテープ等が摩擦接合用鋼板の突条部分で切れ、突条が突出して被接合鋼材に食い込むことで、前述したような高い摩擦係数を得ることができる。
【0019】
また、本発明の摩擦接合用鋼板では、前記締付け具の軸を挿通させる挿通孔を複数有して形成され、前記挿通孔同士の中間位置における前記突条同士の間の凹部が他の位置の凹部よりも深く形成されていることが好ましい。
このような構成によれば、挿通孔同士の中間位置における凹部を深くしておくことで、必要に応じてこの凹部位置で当該摩擦接合用鋼板を折って分割することができる。この際、例えば、摩擦接合用鋼板を手で折れる程度に凹部を深く形成しておいてもよく、また適宜な工具で折れる程度の深さに形成しておいてもよい。このように挿通孔同士の中間位置で分割できるようにしておけば、被接合鋼材に形成された締付け具用の孔ピッチ(ボルトピッチ)と、摩擦接合用鋼板の挿通孔のピッチとが合っていなくても、摩擦接合用鋼板を折って分割することで、被接合鋼材の孔ピッチに合わせて設置することができる。なお、被接合鋼材の孔ピッチと摩擦接合用鋼板の挿通孔のピッチとが合っていれば、摩擦接合用鋼板を分割せずに一体のままで設置すればよい。
【0020】
一方、本発明の摩擦接合構造は、前記いずれかの摩擦接合用鋼板を被接合鋼材間に介挿した摩擦接合構造であって、前記被接合鋼材の表面には、黒皮または赤錆が形成されているか、ブラスト処理、サンダー処理または錆止め塗装が施されている。
このような本発明によれば、前述の摩擦接合用鋼板による効果、すなわち設計上用いる摩擦係数を高精度かつ高い値に設定して合理的な設計が実現でき、ボルト本数を減らしたりスプライスプレート等を小さくしたりでき、材料コストや施工コストを低減させることができるという効果を奏することができる。また、被接合鋼材の表面に黒皮や錆止め塗装が施されている場合でも、これらの黒皮や錆止め塗装を貫通して摩擦接合用鋼板の突条を被接合鋼材に食い込ませることができ、被接合鋼材の表面状態に依存せずに摩擦係数を安定して得ることができる。さらに、黒皮や錆止め塗装を除去する必要がないことから、接合後における錆止めのためのタッチアップ塗装を施す必要がなく、この点でも施工手間やコストを低減させることができる。
【0021】
また、本発明の摩擦接合構造では、前記摩擦接合用鋼板が2枚以上重ね合わされて前記被接合鋼材間に介挿されていることが好ましい。
このような構成によれば、被接合鋼材同士の厚さ寸法に差がある場合などにおいて、この差に応じて摩擦接合用鋼板の枚数を適宜調節して被接合鋼材間に介挿することで、多様な被接合鋼材の組み合わせに対応することができ、多種の厚さ寸法を有した摩擦接合用鋼板を用意する必要がなくなり、材料コストや施工コストを低減させることができる。そして、重ね合わせる摩擦接合用鋼板同士は、互いに溶接等で結合しなくても、互いの突条が噛み合うことでせん断方向にずれることがなく、適切に摩擦抵抗力を伝達することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のような本発明の摩擦接合用鋼板および摩擦接合構造によれば、低コストで多様な摩擦接合部に適用でき、かつ摩擦抵抗を確実に高めて合理的な設計を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の摩擦接合構造を示す断面図である。図2(A),(B)は、摩擦接合構造に用いる摩擦接合用鋼板10を示す正面図および断面図である。図3は、摩擦接合構造の要部を拡大して示す断面図である。
図1〜図3において、本発明の摩擦接合構造は、被接合鋼材である一対の鋼板1A,1Bを、締付け具である複数の高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付け、この締め付けた圧縮力により鋼板1A,1Bが摩擦接合されるものであって、鋼板1A,1Bの間には、各々の高力ボルト2Aに対応して摩擦接合用鋼板10が介挿されている。
【0024】
ここで、一対の鋼板1A,1Bとしては、例えば、一方の鋼板1Aが構造物の骨組みを構成する形鋼(H形鋼等)のフランジやウェブであって、他方の鋼板1Bがスプライスプレート(添え板)やガセットプレートであってもよく、また、一方および他方の鋼板1A,1Bがともに形鋼の一部、あるいは鋼板そのものであってもよい。そして、被接合鋼材としては、一般構造用圧延鋼材や溶接構造用圧延鋼材であり、その引張強度が400〜500(N/mm2 )程度のSS400、SS490、SM400、SM490等から形成されたものが用いられている。また、高力ボルト2A、ナット2Bとしては、一対の鋼板1A,1Bが互いに近づく方向に所定の圧縮力(ボルト軸力)Nで締め付け可能なものであって、任意の締め付け形式のものが採用可能である。
【0025】
摩擦接合用鋼板10は、図2に示すように、全体薄板状で互いに平行に連続形成された複数の突条11を両面に有するとともに、高力ボルト2Aを挿通させる1つの挿通孔12を有して形成されている。この摩擦接合用鋼板10は、その引張強度が450(N/mm2)以
上の機械構造用炭素鋼鋼材であるS45C等から形成され、その平面形状は、高力ボルト2Aの軸心(挿通孔12の中心)回りに高力ボルト2Aの軸径(φ)に対して2.5倍の直径の円を抱絡する大きさ、つまり一辺の長さがA(A≧2.5φ)の略正方形とされている。また、摩擦接合用鋼板10の厚さ寸法である両面の突条11先端間の距離(H)は、約2.0mmに設定されるとともに、突条11が鋼板1A,1Bの引張り方向(図1の左右方向)に直交して配置されている。
【0026】
摩擦接合用鋼板10の突条11は、冷間または熱間による転造で形成されるとともに、突条11の形成後に焼き入れ加工が施され、突条11部分におけるビッカース硬さ(Hvh)が鋼板1A,1B表面のビッカース硬さ(Hvm)に対して3倍以上の値に設定されている。すなわち、摩擦接合用鋼板10の突条11部分と鋼板1A,1B表面とのビッカース硬さ比(rh =Hvh/Hvm)がrh ≧3となるように設定されている。このような摩擦接合用鋼板10によれば、高力ボルト2Aの圧縮力(N、図1参照)によって突条11が鋼板1A,1B表面に食い込むことで、鋼板1A,1B間に高い摩擦抵抗が得られるようになっている。なお、突条11は、転造で形成されるものに限らず、切削加工や鋳造によって形成されたものであってもよい。
【0027】
次に、摩擦接合用鋼板10の詳細な構造について図3に基づいて説明する。
摩擦接合用鋼板10の突条11は、隣り合う突条11同士の間隔(S)が1.0mm程度に設定されるとともに、突条11の先端角度(θ)が50°〜100°の範囲に設定されている。さらに、突条11の先端部の半径(R1 )は、0.1mm以下に設定され、突条11同士の間の凹み部分の半径(R2 )が0.4mm以上に設定されている。また、突条11の鋼板1A,1Bに対する食い込み深さは、食い込み部の幅寸法(B)が突条11同士の間隔(S)に対して1/3程度となるように設定されている。
【0028】
また、高力ボルト2Aを締め付けた際に、その圧縮力(N)によって鋼板1A,1Bに作用する圧縮応力度(σ)が鋼板1A,1Bの引張強度(σmb)に対して0.5以下、つまり応力度比σ/σmb≦0.5に設定されている。ここで、鋼板1A,1Bに作用する圧縮応力度(σ)とは、高力ボルト2Aの圧縮力(N)を、摩擦接合用鋼板10の突条11
の総長さ寸法(L=ΣA)と、突条11の食い込み部の幅寸法(B)と、で除した応力度σ=N/(L・B)を意味している。
【0029】
以上の摩擦接合構造では、建設現場において鋼板1A,1Bを高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付ける以前に、鋼板1Aまたは鋼板1Bの所定位置に摩擦接合用鋼板10を、粘着テープや接着材等によって仮止めしておく施工方法が適用可能である。このように摩擦接合用鋼板10を仮止めした場合でも、高力ボルト2Aで鋼板1A,1Bを締め付ければ、摩擦接合用鋼板10の突条11が粘着テープや接着材を貫通して鋼板1A,1B表面に食い込むようにできる。
また、鋼板1A,1Bの表面全体には、黒皮または赤錆が形成されているか、ブラスト処理、サンダー処理または錆止め塗装が施されている。このように鋼板1A,1Bの表面全体、つまり摩擦接合用鋼板10の設置位置にも黒皮が形成されていたり錆止め塗装が施されていたりしても、高力ボルト2Aで鋼板1A,1Bを締め付ければ、摩擦接合用鋼板10の突条11が黒皮や錆止め塗装を貫通して鋼板1A,1B表面に食い込むようにできる。
【0030】
なお、摩擦接合用鋼板としては、全体略正方形に形成された摩擦接合用鋼板10に限らず、以下の図4〜図6に示すような各種形態のものが適用可能である。
図4(A),(B)、図5(A),(B)は、それぞれ本実施形態の変形例に係る摩擦接合用鋼板10A,10Bを示す正面図および断面図であり、図6は、本実施形態の変形例に係る摩擦接合用鋼板10Cを示す正面図である。
図4に示す摩擦接合用鋼板10Aは、前記摩擦接合用鋼板10と同様に、全体薄板状で互いに平行に連続形成された複数の突条11を両面に有するものであって、その平面形状が高力ボルト2Aの軸心(挿通孔12の中心)回りに高力ボルト2Aの軸径(φ)に対して略2.5倍の直径を有した円形とされた点が摩擦接合用鋼板10と相違している。その他の摩擦接合用鋼板10Aにおける詳細な構造は、摩擦接合用鋼板10と略同様である。
【0031】
図5に示す摩擦接合用鋼板10Bは、前記摩擦接合用鋼板10Aと同様に、全体薄板状に形成されるとともに、平面形状が高力ボルト2Aの軸心(挿通孔12の中心)回りに高力ボルト2Aの軸径(φ)に対して略2.5倍の直径を有した円形とされており、互いに同心円状に連続形成された複数の突条11を両面に有する点が摩擦接合用鋼板10,10Aと相違している。その他の摩擦接合用鋼板10Bにおける詳細な構造は、摩擦接合用鋼板10,10Aと略同様である。このような摩擦接合用鋼板10Bによれば、突条11が同心円状に形成されていることから、任意の径方向に摩擦抵抗を発揮させることができ、鋼板1A,1Bに作用する引張り力が2方向以上である場合などに好適である。さらに、摩擦接合用鋼板10Bが多少回転してしまっても得られる摩擦抵抗は同一であることから、高力ボルト2Aを締め付ける際に摩擦接合用鋼板10Bを仮止めしておく必要がなくなり、施工性の向上が見込める。
【0032】
図6に示す摩擦接合用鋼板10Cは、前記摩擦接合用鋼板10と同様に、全体薄板状で互いに平行に連続形成された複数の突条11を両面に有するものであって、2つの挿通孔12を有して全体長方形に形成された点が摩擦接合用鋼板10と相違している。そして、摩擦接合用鋼板10Cは、各挿通孔12の側方に高力ボルト2Aの軸心(挿通孔12の中心)回りに高力ボルト2Aの軸径(φ)に対して略2.5倍の直径を抱絡する大きさのはしあき部分およびへりあき部分を有して形成されている。その他の摩擦接合用鋼板10Cにおける詳細な構造は、摩擦接合用鋼板10と略同様である。このような摩擦接合用鋼板10Cによれば、挿通孔12が複数形成されていることから、高力ボルト2Aを締め付ける際に摩擦接合用鋼板10Cが回転してしまう共回りが防止でき、摩擦接合用鋼板10Cを仮止めしておく必要がなくなり、施工性の向上が見込める。
また、摩擦接合用鋼板10Cにおいて、2つの挿通孔12同士の中間位置における突条11間の凹部が他の位置の凹部よりも深く形成されていることが好ましい。このようにしておけば、必要に応じて深く形成た凹部位置で摩擦接合用鋼板10Cを折って2つに分割することができ、鋼板1A,1Bのボルト孔のピッチと摩擦接合用鋼板10Cの挿通孔12のピッチとが合っていなくても、分割した摩擦接合用鋼板10Cをボルト孔に合わせて設置することができる。
【0033】
さらに、本実施形態の摩擦接合構造としては、図1に示したように鋼板1A,1B間に1枚ずつの摩擦接合用鋼板10を介挿したものに限らず、以下の図7に示すように、複数枚の摩擦接合用鋼板10を重ねて介挿した構造が適用可能である。
図7は、本実施形態の変形例に係る摩擦接合構造を示す断面図である。
図7に示す摩擦接合構造は、被接合鋼材である左右一対の鋼板1A,1Cを摩擦接合用鋼板10を介して被接合鋼材である上下一対の鋼板1Bで挟み込み、これら上下一対の鋼板1Bを高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付けて接合するものである。そして、鋼板1Aと鋼板1Cとは、互いに厚さ寸法が相違し、鋼板1Aが鋼板1Cよりも薄くなっており、鋼板1Aと上側の鋼板1Bとの間には、2枚の摩擦接合用鋼板10が重ねて介挿されている。これら2枚の摩擦接合用鋼板10は、互いの突条11同士を噛み合わせた状態で重ねられており、摩擦接合用鋼板10同士がずれないようになっている。
【0034】
なお、図7に示したような複数枚の摩擦接合用鋼板10を重ねて介挿する摩擦接合構造としては、鋼板1A,1Cの厚さ寸法が異なるものに限らず、左右一対の形鋼(例えば、H形鋼)の高さ寸法が異なる場合、例えば一方の形鋼がロールH材で他方がビルトH材の場合などに適用可能である。すなわち、高さ寸法の小さい形鋼におけるフランジである鋼板1Aの外側とスプライスプレートである鋼板1Bとの間、および高さ寸法の大きい形鋼におけるフランジである鋼板1Cの内側とスプライスプレートである鋼板1Bとの間に、それぞれ高さ寸法の差に応じた枚数の摩擦接合用鋼板10を重ねて介挿すればよい。
【0035】
このような本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)すなわち、摩擦接合用鋼板10の突条11部分が鋼板1A,1B表面よりも3倍以上のビッカース硬さを有していることで、突条11が鋼板1A,1Bに食い込みやすくなり、このように食い込んだ突条11の機械的すべり抵抗による摩擦抵抗が鋼板1A,1B間に作用することから、摩擦接合用鋼板10を介した鋼板1A,1B同士の摩擦係数を格段に大きくすることができる。従って、理論的または実験的に検証しやすく、かつ摩擦係数のばらつきが小さいすべり抵抗機構による摩擦接合構造が構成されるので、設計上用いる摩擦係数を高精度かつ高い値、例えば、0.9以上(望ましくは、1.0以上)の摩擦係数に設定することができ、合理的な設計が実現できる。
【0036】
(2)そして、摩擦係数を高い値に設定できることで、高力ボルト2Aおよびナット2Bの本数を減らしたりボルト径を小さくしたりすることができ、鋼板1A,1Bの断面欠損を最小限に抑えることができるとともに、スプライスプレート等として用いる鋼板1A(または鋼板1B)のサイズを小さくすることで、鋼材量を低減することができ、建築物や土木構造物の材料コストや施工コストを低減させることができる。
【0037】
(3)また、鋼板1A,1Bの表面に、従来のようなショットブラストやサンダー処理などを施しておく必要がなく、さらには黒皮を除去したり赤錆を発生させたりする必要もなくなるので、鋼板1A,1Bの加工に要する手間や時間が低減でき、製造コストを大幅に削減することができる。さらに、多種多様かつ多数の鋼板1A,1Bの加工が不要になるとともに、これらの鋼板1A,1Bに対して共通の摩擦接合用鋼板10を用いることができるので、摩擦接合用鋼板10が大量生産可能になり、その製造コストや施工コストの低減をより一層促進させることができる。
【0038】
(4)さらに、摩擦接合用鋼板10の突条11の形態(先端角度θ、突条11同士の間隔S、先端部の半径R1 、凹み部分の半径R2 )が適宜設定されているので、突条11が鋼板1A,1Bの表面に食い込みやすい鋭利さを有し、かつ突条11部分のせん断強度を確保しつつ機械的すべり抵抗を十分に発揮させることができる。また、摩擦接合用鋼板10の厚さ寸法である突条11先端間の距離Hが2.0mm程度に設定されているので、高力ボルト2Aの圧縮力Nによって摩擦接合用鋼板10を撓ませて鋼板1A,1B表面に密着させることができ、摩擦接合用鋼板10全体の突条11を的確に鋼板1A,1Bに食い込ませて高い摩擦係数を得ることができる。
【0039】
(5)また、鋼板1A,1Bの表面における突条11が食い込んだ部分の幅寸法Bが適宜設定されているので、突条11の食い込み量を確保して摩擦係数を高めつつ、鋼板1A,1B表面における突条11が食い込まない部分の幅寸法を確保して鋼板1A,1Bの変形およびせん断破壊が防止でき、摩擦抵抗を安定して発揮させることができる。さらに、鋼板1A,1Bに作用する圧縮応力度σが引張強度σmbの半分以下となるように設定されているので、鋼板1A,1Bのせん断強度や掘り起こし強度を確保しつつ機械的すべり抵抗を十分に発揮させることができる。
【0040】
(6)また、鋼板1A,1Bの表面に黒皮や錆止め塗装が施されている場合でも、これらの黒皮や錆止め塗装を貫通して摩擦接合用鋼板10の突条11を鋼板1A,1Bに食い込ませることができ、鋼板1A,1Bの表面状態に依存せずに摩擦係数を安定して得ることができる。さらに、黒皮や錆止め塗装を除去する必要がないことから、接合後における錆止めのためのタッチアップ塗装を施す必要がなく、この点でも施工手間やコストを低減させることができる。
【0041】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、前記実施形態においては、摩擦接合用鋼板10,10A,10B,10Cとして、複数の突条11が一方方向に平行に連続形成されるか、または同心円状に連続形成されたものを例示したが、摩擦接合用鋼板は、互いに平行な複数の突条を有していればよく、これらの平行な突条の組み合わせを2方向または多方向に関して複数組有して形成されていてもよい。さらに、前記実施形態においては、摩擦接合用鋼板10,10A,10B,10Cとして、挿通孔12が1つまたは2つ形成されたものを例示したが、3つ以上の挿通孔を有して摩擦接合用鋼板が形成されていてもよい。
【0042】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0043】
以下に、前記実施形態で説明した摩擦接合構造の実験的に検証した実施例について説明する。
以下の実施例において、前記摩擦接合用鋼板10および鋼板1A,1Bを用い、図1のように高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付けた状態で引張り試験を実施した。
この際、ビッカース硬さ比(rh )を第1のパラメータとし、突条11の先端角度(θ)を第2のパラメータとし、応力度比(σ/σmb)を第3のパラメータとし、これら3つのパラメータを変動させて引張り試験を実施し、得られる摩擦係数(すべり係数)μF を測定した。
【0044】
[第1パラメータ:ビッカース硬さ比rh ]
ビッカース硬さ比rh とは、摩擦接合用鋼板10の突条11部分におけるビッカース硬
さ(Hvh)と、鋼板1A,1B表面のビッカース硬さ(Hvm)との比(rh =Hvh/Hvm)であって、その値として、約1.7、約1.9、約2.6、約3.2、約4.0、約4.3の6種類を設定した。
【0045】
[第2パラメータ:突条の先端角度θ]
突条11の先端角度θとしては、30°〜120°を設定した。
【0046】
[第3パラメータ:応力度比σ/σmb]
応力度比σ/σmbとは、高力ボルト2Aの圧縮力(N)によって鋼板1A,1Bに作用する圧縮応力度(σ)と、鋼板1A,1Bの引張強度(σmb)との比であって、その値として、約0.2、約0.4、約0.5、約0.6、約0.8、約1.0の6種類を設定した。
ここで、鋼板1A,1Bに作用する圧縮応力度(σ)とは、高力ボルト2Aの圧縮力(N)を、摩擦接合用鋼板10の突条11の総長さ寸法(L=ΣA)と、突条11の食い込み部の幅寸法(B)と、で除した応力度σ=N/(L・B)を意味している。また、以下の測定結果において、プロット記号としては、応力度比σ/σmbごとに、0.2を白抜き三角(△)、0.4を白抜き四角(□)、0.5を白抜き丸(○)、0.6を黒塗り三角(▲)、0.8を黒塗り四角(■)、1.0を黒塗り丸(●)で示すものとする。
【0047】
[測定結果]
先ず、各パラメータの値に応じて3つの破壊モードが確認され、各々の破壊モードによって得られる摩擦係数μF の値に一定の傾向が見られた。確認された3つの破壊モードを図8に示し、破壊モードごとの摩擦係数μF の値の傾向を図9に示す。図9は、横軸(X軸)をビッカース硬さ比rh 、縦軸(Y軸)を摩擦係数μF として、各破壊モード(A〜C)ごとの摩擦係数μF の下限値を近似直線で表したグラフである。
図8(A)は、摩擦接合用鋼板10の突条11が食い込み部分でせん断破壊するタイプの破壊モード(破壊モードA)を示しており、図9に符号Aで示すように、ビッカース硬さ比rh の上昇に伴って得られる摩擦係数μF が上昇する傾向が見られる。この破壊モードAは、ビッカース硬さ比rh が3程度以下で顕著に確認された。
図8(B)は、鋼板1A,1Bが突条11の先端位置でせん断破壊するタイプの破壊モード(破壊モードB)を示しており、図9に符号Bで示すように、ビッカース硬さ比rh に関わらず、得られる摩擦係数μF が一定かつ低い値を示す傾向が見られる。この破壊モードBは、応力度比σ/σmbが0.8程度以上で顕著に確認された。
図8(C)は、鋼板1A,1Bの食い込み部が突条11によって掘り起こされるタイプの破壊モード(破壊モードC)を示しており、図9に符号Cで示すように、ビッカース硬さ比rh に関わらず、得られる摩擦係数μF が一定かつ高い値を示す傾向が見られる。この破壊モードCは、ビッカース硬さ比rh が3程度以上、かつ応力度比σ/σmbが0.5程度以下の場合に顕著に確認された。
【0048】
図10には、ビッカース硬さ比rh および応力度比σ/σmbごとに、突条11の先端角度θが90°の場合の結果が示されている。
図10は、横軸(X軸)をビッカース硬さ比rh 、縦軸(Y軸)を摩擦係数μF として、応力度比σ/σmbごとの測定結果をプロットするとともに、応力度比σ/σmbごとの摩擦係数μF の下限値を近似直線で表したグラフである。
図10において、ビッカース硬さ比rh が3以上で、かつ応力度比σ/σmbが0.5以下であれば、摩擦係数μF は1.0を上回っていることが分かる。また、ビッカース硬さ比rh が2.5以上で、かつ応力度比σ/σmbが0.6以下であれば、摩擦係数μF は概ね0.9を上回っていることが分かる。さらに、ビッカース硬さ比rh が2以上で、かつ応力度比σ/σmbが0.8以下であれば、摩擦係数μF は概ね0.7を上回っていることが分かる。
【0049】
図11には、各パラメータごとに、突条11の先端角度θによって得られる摩擦係数μF の値の下限値が示されている。
図11は、横軸(X軸)を突条11の先端角度θ、縦軸(Y軸)を摩擦係数μF として、摩擦係数μF の下限値を近似直線で表したグラフである。
図11に符号Aで示すように、破壊モードAの場合には、先端角度θが大きくなるに従って得られる摩擦係数μF が大きくなる傾向が見られる。つまり、突条11の先端角度θが大きくなる程、突条11がせん断破壊しにくくなり、摩擦抵抗力が増大することが分かる。
一方、図11に符号Cで示すように、破壊モードCの場合には、先端角度θが大きくなるに従って得られる摩擦係数μF が小さくなる傾向が見られる。つまり、突条11の先端角度θが大きくなって突条11のせん断強度が高くなる程、鋼板1A,1Bの食い込み部が掘り起こされやすくなり、摩擦抵抗力が低下することが分かる。
従って、破壊モードA、Cの両者共に大きな摩擦係数μF (μF ≧1.0 )が得られる先端角度θの範囲としては、50°〜100°であることが分かる。一方、突条11のせん断破壊を防止しつつ、鋼板1A,1Bの強度に準じて摩擦抵抗力を決定する(破壊モードC)場合、つまり設計上、簡便な方法で1.0以上の摩擦係数μF を確保するためには、突条11の先端角度θが75°〜90°の範囲に設定されていることが望ましい。
【0050】
図12は、横軸(X軸)を応力度比σ/σmb、縦軸(Y軸)を摩擦係数μF として、得られた摩擦係数μF の値をプロットするとともに、下限値を近似直線で表したグラフである。図13は、横軸(X軸)を引張り試験時のすべり量、縦軸(Y軸)を摩擦係数μF として、応力度比σ/σmbごとの測定結果を近似曲線で表したグラフである。なお、図12、図13ともに、突条11の先端角度θが90°かつビッカース硬さ比rh が3以上の場合の結果が示され、図13には、ビッカース硬さ比rh が約3.2の場合が示されている。
図12において、応力度比σ/σmbが0.5以下であれば、摩擦係数μF は1.0を上回っていることが分かる。また、応力度比σ/σmbが0.5を超えると、応力度比σ/σmbの増大に伴って摩擦係数μF が低下していることが分かる。すなわち、応力度比σ/σmbが0.5以下の範囲が破壊モードCを示し、応力度比σ/σmbが0.5を超えた範囲が破壊モードBを示していることが分かる。
また、図13に示すように、応力度比σ/σmbが0.5以下であれば、摩擦係数μF が1.0以上の高い値を示し、すべり量も1mm程度以下と小さく抑えられていることが分かる。
【0051】
従って、ビッカース硬さ比rh が3以上で、突条11の先端角度θが50°〜100°(より望ましくは、75°〜90°)の範囲で、さらに応力度比σ/σmbが0.5以下となる(破壊モードC)となるように、鋼板1A,1B(被接合鋼材)表面のビッカース硬さHvmおよび引張強度σmbに応じて、摩擦接合用鋼板10の突条11のビッカース硬さHvhおよび先端角度θを設定することで、1.0以上の摩擦係数μF が得られることが分かった。
【0052】
次に、摩擦接合用鋼板10および鋼板1A,1Bを用い、高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付けた状態で引張り試験を実施した結果を図14〜図21に示す。
ここでは、本発明の第1実施例(図14〜図16)、第2実施例(図17〜図19)と、その比較例(図20、図21)とについて説明する。
なお、各実施例および比較例では、摩擦接合用鋼板10の材質(材料強度やビッカース硬さ)および製造方法、鋼板1A,1Bの材質および表面処理などの条件を合致させ、摩擦接合用鋼板10における突条11の形態のみをパラメータとして引張り試験が実施されている。また、図16、図19および図21に示す試験結果は、高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付けた導入軸力(圧縮力N)を、鋼板1A,1Bを圧縮力Nと直交する方向に引っ張った引張り力で除した値(すべり係数、摩擦係数)と、鋼板1A,1Bを引っ張った方向への摩擦接合用鋼板10位置でのすべり量とをグラフにしたものである。
【0053】
[第1実施例]
図14は、第1実施例の摩擦接合用鋼板を示す写真である。図15は、第1実施例の摩擦接合用鋼板10aを示す断面図である。図16は、第1実施例の摩擦接合用鋼板10aを用いた試験結果を示すグラフである。
第1実施例の摩擦接合用鋼板10aは、図15に示すように、表裏対称に突条11が形成されたものであって、隣り合う突条11同士の間隔(S)が約1.5mmに設定されるとともに、表裏の突条11の先端間の距離(H)が約1.5mmに設定されている。また、摩擦接合用鋼板10aにおいて、突条11の先端角度(θ)は、約90°に設定されるとともに、突条11の先端部の半径(R1 )は、0.1mm以下(約0.1mm)に設定され、突条11同士の間の凹み部分の半径(R2 )が0.4mm以上(約1.0mm)に設定されている。
以上の第1実施例の摩擦接合用鋼板10aによると、図16に荷重−変形曲線aで示すように、0.5mm以下のすべり量において、摩擦係数が1.0を上回るとともに、すべり量が0.5mmを超えて1.0mmに至るまで、摩擦係数が1.0を下回ることなく、良好な力学特性が得られることが分かった。
【0054】
[第2実施例]
図17は、第2実施例の摩擦接合用鋼板を示す写真である。図18は、第2実施例の摩擦接合用鋼板10bを示す断面図である。図19は、第2実施例の摩擦接合用鋼板10bを用いた試験結果を示すグラフである。
第2実施例の摩擦接合用鋼板10bは、図18に示すように、表裏対称に突条11が形成されたものであって、隣り合う突条11同士の間隔(S)が約0.8mmに設定されるとともに、表裏の突条11の先端間の距離(H)が約1.5mmに設定されている。また、摩擦接合用鋼板10bにおいて、突条11の先端角度(θ)は、約75°に設定されるとともに、突条11の先端部の半径(R1 )は、0.1mm以下(約0.1mm)に設定され、突条11同士の間の凹み部分の半径(R2 )が0.4mm以上(約0.4mm)に設定されている。
以上の第2実施例の摩擦接合用鋼板10bによると、図19に荷重−変形曲線bで示すように、0.5mm以下のすべり量において、摩擦係数がほぼ1.0になるとともに、すべり量が0.5mmを超えて1.0mmに至るまで、摩擦係数が1.0から低下することなく、良好な力学特性が得られることが分かった。
【0055】
[比較例]
図20は、比較例の摩擦接合用鋼板を示す写真である。図21は、比較例の摩擦接合用鋼板を用いた試験結果を示すグラフである。
比較例の摩擦接合用鋼板は、前記第1実施例の摩擦接合用鋼板10aと略同様に、隣り合う突条11同士の間隔(S)が約1.5mmに設定されるとともに、表裏の突条11の先端間の距離(H)が約1.5mmに設定されている。一方、比較例の摩擦接合用鋼板では、突条11の先端部の半径(R1 )が約0.2mmに設定されている点が前記第1実施例の摩擦接合用鋼板10aと相違している。
以上の比較例の摩擦接合用鋼板によると、図21に荷重−変形曲線cで示すように、0.5mm以下のすべり量において、摩擦係数がほぼ0.75でピークとなり、すべり量が0.5mmを超えて1.0mmに至るまでに摩擦係数が0.7程度にまで徐々に低下し、前記第1および第2実施例と比較して力学特性が劣ることが分かった。
【0056】
次に、摩擦接合用鋼板10dおよび鋼板1A,1Bを用い、一方の鋼板1Aに摩擦接合用鋼板10dを予めアルミテープTで仮止めしておき、他方の鋼板1Bを摩擦接合用鋼板10dに重ねてから、高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付けた第3実施例について、図22〜図24に基づいて説明する。
[第3実施例]
図22は、第3実施例の摩擦接合用鋼板10dの仮止め状態を示す断面図である。図23は、第3実施例の摩擦接合用鋼板10dの締め付け後の状態を示す断面図である。図24は、第3実施例の摩擦接合用鋼板10dを用いた試験結果を示すグラフである。
第3実施例の摩擦接合用鋼板10dは、前記第1実施例の摩擦接合用鋼板10aと略同様の断面を有して形成されたものである。アルミテープTは、図22に示すように、摩擦接合用鋼板10dを覆って突条11に接着されるとともに、その端部が一方の鋼板1Aに接着されており、これにより摩擦接合用鋼板10dが鋼板1Aに仮止めされるようになっている。そして、摩擦接合用鋼板10dのアルミテープT側に他方の鋼板1Bを重ねてから、高力ボルト2Aおよびナット2Bで締め付けて圧縮力Nを作用させることで、図23に示すように、アルミテープTが切れて突条11が突出し、この突条11が他方の鋼板1Bに食い込むとともに、反対側の突条11が一方の鋼板1Aに食い込むようになっている。
以上の第3実施例の摩擦接合用鋼板10dによると、図24に荷重−変形曲線dで示すように、0.5mm以下のすべり量において、摩擦係数が1.0を上回るとともに、すべり量が0.5mmを超えて1.0mmに至るまで、摩擦係数が1.0を下回ることなく徐々に増加し、良好な力学特性が得られることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態に係る摩擦接合構造を示す断面図である。
【図2】(A),(B)は、前記摩擦接合構造に用いる摩擦接合用鋼板を示す正面図および断面図である。
【図3】前記摩擦接合構造の要部を拡大して示す断面図である。
【図4】(A),(B)は、前記実施形態の変形例に係る摩擦接合用鋼板を示す正面図および断面図である。
【図5】(A),(B)は、前記実施形態の変形例に係る摩擦接合用鋼板を示す正面図および断面図である。
【図6】前記実施形態の変形例に係る摩擦接合用鋼板を示す正面図である。
【図7】前記実施形態の変形例に係る摩擦接合構造を示す断面図である。
【図8】本発明の実施例に係る摩擦接合構造の破壊モードを示す断面図である。
【図9】前記実施例における破壊モードごとの摩擦係数の傾向を示すグラフである。
【図10】前記実施例における応力度比ごとの摩擦係数を示すグラフである。
【図11】前記実施例における突条の先端角度に対する摩擦係数を示すグラフである。
【図12】前記実施例における応力度比に対する摩擦係数を示すグラフである。
【図13】前記実施例における引張り試験時のすべり量に対する摩擦係数を示すグラフである。
【図14】本発明の第1実施例の摩擦接合用鋼板を示す写真である。
【図15】前記第1実施例の摩擦接合用鋼板を示す断面図である。
【図16】前記第1実施例の摩擦接合用鋼板を用いた試験結果を示すグラフである。
【図17】本発明の第2実施例の摩擦接合用鋼板を示す写真である。
【図18】前記第2実施例の摩擦接合用鋼板を示す断面図である。
【図19】前記第2実施例の摩擦接合用鋼板を用いた試験結果を示すグラフである。
【図20】本発明の比較例の摩擦接合用鋼板を示す写真である。
【図21】前記比較例の摩擦接合用鋼板を用いた試験結果を示すグラフである。
【図22】本発明の第3実施例の摩擦接合用鋼板の仮止め状態を示す断面図である。
【図23】前記第3実施例の摩擦接合用鋼板の締め付け後の状態を示す断面図である。
【図24】前記第3実施例の摩擦接合用鋼板を用いた試験結果を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
締付け具を締め付けた圧縮力により互いに摩擦接合される被接合鋼材間に介挿される摩擦接合用鋼板であって、
互いに平行または互いに同心円状に連続形成された複数の突条を両面に有するとともに、前記締付け具を挿通させる少なくとも1つの挿通孔を有して構成され、
前記突条部分のビッカース硬さが前記被接合鋼材表面のビッカース硬さよりも硬く設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条部分のビッカース硬さが前記被接合鋼材表面のビッカース硬さの3倍以上に設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条の先端角度(θ)が50°〜100°の範囲に設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記締付け具の圧縮力によって前記被接合鋼材に作用する圧縮応力度(σ)を当該被接合鋼材の引張強度(σmb)で除した応力度比(σ/σmb)が0.5以下に設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条同士の間隔(S)が0.8mm〜2.0mmに設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条の先端部の半径(R1 )が0.1mm以下に設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条同士の間の凹部の半径(R2 )が0.4mm以上に設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条が前記被接合鋼材表面に食い込んだ部分の幅寸法(B)が当該突条同士の間隔(S)の1/3程度に設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記締付け具の軸心を中心とし、かつ当該締め付け具の軸径に対して2.5倍の直径の円を抱絡する平面形状を有したことを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記両面の突条先端間の距離(H)が1.5〜2.5mmに設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条は、転造、切削、鋳造のいずれかの加工で形成されることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条の形成後に焼き入れが施されることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記被接合鋼材の一方に仮付けテープまたは防錆塗装によって仮付けされることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項14】
請求項13に記載の摩擦接合用鋼板において、
前記仮付けテープは、当該摩擦接合用鋼板を覆って前記一方の被接合鋼材に接着されるアルミテープであって、
前記アルミテープで覆われた面を前記他方の被接合鋼材に当接させた状態で当該一方および他方の被接合鋼材を前記締付け具で締め付けた際に、前記他方の被接合鋼材側の突条が前記アルミテープを破って当該他方の被接合鋼材に食い込み、前記一方の被接合鋼材側の突条が当該一方の被接合鋼材に食い込むことを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項15】
請求項1から請求項14のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記締付け具の軸を挿通させる挿通孔を複数有して形成され、
前記挿通孔同士の中間位置における前記突条同士の間の凹部が他の位置の凹部よりも深く形成されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板を被接合鋼材間に介挿した
摩擦接合構造であって、
前記被接合鋼材の表面には、黒皮または赤錆が形成されているか、ブラスト処理、サンダー処理または錆止め塗装が施されていることを特徴とする摩擦接合構造。
【請求項17】
請求項16に記載の摩擦接合構造において、
前記摩擦接合用鋼板が2枚以上重ね合わされて前記被接合鋼材間に介挿されていることを特徴とする摩擦接合構造。
【請求項1】
締付け具を締め付けた圧縮力により互いに摩擦接合される被接合鋼材間に介挿される摩擦接合用鋼板であって、
互いに平行または互いに同心円状に連続形成された複数の突条を両面に有するとともに、前記締付け具を挿通させる少なくとも1つの挿通孔を有して構成され、
前記突条部分のビッカース硬さが前記被接合鋼材表面のビッカース硬さよりも硬く設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条部分のビッカース硬さが前記被接合鋼材表面のビッカース硬さの3倍以上に設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条の先端角度(θ)が50°〜100°の範囲に設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記締付け具の圧縮力によって前記被接合鋼材に作用する圧縮応力度(σ)を当該被接合鋼材の引張強度(σmb)で除した応力度比(σ/σmb)が0.5以下に設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条同士の間隔(S)が0.8mm〜2.0mmに設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条の先端部の半径(R1 )が0.1mm以下に設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条同士の間の凹部の半径(R2 )が0.4mm以上に設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条が前記被接合鋼材表面に食い込んだ部分の幅寸法(B)が当該突条同士の間隔(S)の1/3程度に設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記締付け具の軸心を中心とし、かつ当該締め付け具の軸径に対して2.5倍の直径の円を抱絡する平面形状を有したことを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記両面の突条先端間の距離(H)が1.5〜2.5mmに設定されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条は、転造、切削、鋳造のいずれかの加工で形成されることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記突条の形成後に焼き入れが施されることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記被接合鋼材の一方に仮付けテープまたは防錆塗装によって仮付けされることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項14】
請求項13に記載の摩擦接合用鋼板において、
前記仮付けテープは、当該摩擦接合用鋼板を覆って前記一方の被接合鋼材に接着されるアルミテープであって、
前記アルミテープで覆われた面を前記他方の被接合鋼材に当接させた状態で当該一方および他方の被接合鋼材を前記締付け具で締め付けた際に、前記他方の被接合鋼材側の突条が前記アルミテープを破って当該他方の被接合鋼材に食い込み、前記一方の被接合鋼材側の突条が当該一方の被接合鋼材に食い込むことを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項15】
請求項1から請求項14のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板において、
前記締付け具の軸を挿通させる挿通孔を複数有して形成され、
前記挿通孔同士の中間位置における前記突条同士の間の凹部が他の位置の凹部よりも深く形成されていることを特徴とする摩擦接合用鋼板。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれかに記載の摩擦接合用鋼板を被接合鋼材間に介挿した
摩擦接合構造であって、
前記被接合鋼材の表面には、黒皮または赤錆が形成されているか、ブラスト処理、サンダー処理または錆止め塗装が施されていることを特徴とする摩擦接合構造。
【請求項17】
請求項16に記載の摩擦接合構造において、
前記摩擦接合用鋼板が2枚以上重ね合わされて前記被接合鋼材間に介挿されていることを特徴とする摩擦接合構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公表番号】特表2009−533605(P2009−533605A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548381(P2008−548381)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【国際出願番号】PCT/JP2007/058228
【国際公開番号】WO2007/119841
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【国際出願番号】PCT/JP2007/058228
【国際公開番号】WO2007/119841
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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