説明

摩擦撹拌点接合装置及び摩擦撹拌点接合装置用クランプ機構

【課題】バリの問題や押圧クランプへのメタルの凝着に起因する問題を生ぜしめることなく、外観と品質に優れた接合製品を得ることが出来る摩擦撹拌点接合技術を提供する。
【解決手段】摩擦撹拌点接合が行われているときに、先端面が、被接合金属部材の板状部の重合せ部における一方の側の面に非回転下で押圧せしめられ得るように構成された筒状の押圧クランプ22を、プローブ12に外挿されたショルダ部材14に対して、更に同軸的に外挿配置せしめると共に、ショルダ部材14のショルダ面16と押圧クランプ22の先端面33のうちの少なくとも何れか一方が、重合せ部の一方の側の面に当接乃至は押圧せしめられた状態下で、押圧クランプ22と重合せ部との間に形成される固着部を分断する固着部分断手段を設けて、構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦撹拌点接合装置と摩擦撹拌点接合装置用クランプ機構と摩擦撹拌点接合方法とに係り、特に、複数の被接合金属部材の各板状部を重合せた重合せ部において、それら複数の被接合金属部材の板状部同士を摩擦撹拌点接合する装置の改良された構造と、そのような摩擦撹拌点接合時におけるバリの発生を防止するために摩擦撹拌点接合装置に設けられるクランプ機構の新規な構造と、摩擦撹拌点接合を有利に実施する方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の製造工程においては、そのボデー部材や各種部品が、複数の金属板部材を重合せて、それらをリベットや抵抗スポット溶接の如き点接合にて連結して、一体化することにより、製造されている。このような点接合による金属板材の連結形式は、鉄道車両を始めとする各種車両や、航空機等の輸送機分野において、また、家電製品、建材等の構造物等の分野においても、広く採用されてきている。
【0003】
一方、近年、接合時の入熱が少なく、軟化や歪みの程度が少ない接合手法として、摩擦熱を利用して金属部材を接合せしめるようにした摩擦撹拌接合法が、特許文献1等において提案されている。また、そのような摩擦撹拌接合手法を採用して、複数の金属板部材の重合せ部位を点接合せしめる技術が検討され、それに基づいて、従来の抵抗スポット溶接やリベットによる接合よりも、継手品質がよく、良好な接合状態が安定して得られるとして、各種の摩擦撹拌点接合(Friction Stir Spot Welding)装置も、提案されている(特許文献2〜4等参照)。
【0004】
それら提案された各種の摩擦撹拌点接合装置は、何れも、基本的には、ロッド形状を呈し、先端面がショルダ面とされたショルダ部材と、このショルダ部材のショルダ面に同軸的に突出せしめられたピン形状の硬質プローブとを含んでなる構造の回転工具を有して構成されている。そして、この回転工具のショルダ部材を高速回転させながら、所定の金属板部材の重合せ部における一方の側の面に対して、ショルダ面を当接させると共に、プローブを差し込むことにより、それらショルダ面やプローブと重合せ部との間に摩擦熱を発生させて、材料を塑性流動せしめ、かかるプローブの周りに撹拌領域を形成することによって、そのようなプローブの差し込み部位において、金属板部材の重合せ部の点接合を行なわしめるようになっている。
【0005】
しかしながら、このような従来装置を用いた摩擦撹拌点接合では、撹拌領域が、接合されるべき金属板部材の重合せ部におけるショルダ面との当接部位の略全体に形成されるようになるため、かかる撹拌領域において塑性流動化されたメタル(材料)の一部が、ショルダ部材の高速回転に伴ってショルダ面の外側に押し出され、それによって、重合せ部のショルダ面との当接部位の周囲に、バリが生ずることがあった。
【0006】
そこで、特許文献5等には、筒状の押圧クランプ(特許文献5では流動抑制部材と称される)が、ショルダ部材(特許文献5では回転子と称される)に外挿された状態で、何等回転しない摩擦撹拌点接合装置本体に対して、軸方向に付勢力を発揮する付勢部材を介して固定されてなる摩擦撹拌点接合装置が、提案されている。
【0007】
このような構造を有する摩擦撹拌点接合装置にあっては、ショルダ部材を高速回転させつつ、ショルダ面を、接合されるべき金属板部材の重合せ部の一方の側の面に当接させると共に、かかるショルダ部材に外挿された押圧クランプを、重合せ部の一方の側の面におけるショルダ面との当接部位の周辺部分に対して、非回転下で、付勢部材の付勢力によって押圧せしめた状態で、ショルダ部材と共に高速回転せしめられるプローブを、重合せ部の一方の側の面に差し込むことによって、摩擦撹拌点接合が行われるようになっている。この装置によれば、ショルダ面やプローブと重合せ部との間に生ずる摩擦熱により塑性流動化したメタルが重合せ部のショルダ面との当接部位からショルダ面の外側に流出することが、かかる当接部位の周辺部分に押圧接触せしめられた押圧クランプによって有利に阻止され、以て、重合せ部のショルダ面との当接部位の周囲でのバリの発生が、効果的に防止され得るようになるのである。
【0008】
ところが、そのような押圧クランプを備えた従来の摩擦撹拌点接合装置の構造について、本発明者等が種々検討を加えたところ、この装置には、以下の如き問題が内在していることが、明らかとなった。
【0009】
すなわち、かかる従来の摩擦撹拌点接合装置では、押圧クランプの内周面とショルダ部材の外周面との間に、ショルダ部材のみを高速回転せしめるためのクリアランスが、不可避的に設けられている。そのため、接合操作の最中に、塑性流動化されたメタルの一部が、押圧クランプとショルダ部材との間のクリアランスに入り込んで、回転しない押圧クランプの先端面や先端側の内周面部分等の先端部に凝着し、重合せ部と押圧クランプの先端部との間に固着部が形成され、それによって、押圧クランプと接合されるべき金属板部材とが強固に固着してしまうことがあった。そして、そうなった場合には、接合操作の終了後において、接合された重合せ部(接合部位)からショルダ部材と押圧クランプとを軸方向に離隔させる際に、重合せ部と押圧クランプの先端部との間に形成された固着部が分断されるまで、接合された重合せ部やその周辺部分が、押圧クランプと共に持ち上げられ、それによって、接合製品が、接合部位やその周辺部分で変形してしまう恐れがあったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2712838号公報
【特許文献2】特開2001−321967号公報
【特許文献3】特開2001−314983号公報
【特許文献4】特開2002−120077号公報
【特許文献5】特開2005−305486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、複数の被接合金属部材の各板状部を重合せた重合せ部において、それら板状部同士を摩擦撹拌点接合するに際して、バリの発生を有利に防止し得ると共に、接合部位やその周囲の部位の変形を惹起させることなく、重合せ部と押圧クランプの先端部との間に形成される固着部を確実に分離することが出来、以て、外観と品質に優れた接合製品を得ることが出来る摩擦撹拌点接合装置を提供することにある。また、他の課題とするところは、そのような摩擦撹拌点接合をより有利に実現し得る摩擦撹拌点接合装置用クランプ機構と、かかる摩擦撹拌点接合を有利に実施する摩擦撹拌点接合方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、本発明にあっては、上記した摩擦撹拌点接合装置に係る課題の解決のために、複数の被接合金属部材の各板状部を重合せた重合せ部において、それら複数の被接合金属部材の板状部同士を摩擦撹拌点接合する装置において、(a)前記重合せ部の一方の側の面に対して回転状態下で当接せしめられるショルダ面を有するロッド状のショルダ部材と、該ショルダ部材のショルダ面から同軸的に突出して、該重合せ部に対して、該一方の側の面から回転状態下で差し込まれるプローブとを備え、該重合せ部における該プローブの差し込まれた部位において、前記板状部同士の摩擦撹拌点接合操作を行う回転工具と、(b)前記ショルダ部材に対して同軸的に外挿された筒部材からなり、前記回転工具による前記板状部同士の摩擦撹拌点接合操作が行われているときに、先端面が、該重合せ部の一方の側の面に非回転下で当接して、該一方の面を押圧し得るように構成された押圧クランプと、(c)前記ショルダ部材のショルダ面と前記押圧クランプの先端面のうちの少なくとも何れか一方が、前記重合せ部の一方の側の面に当接せしめられた状態下で、前記回転工具による前記板状部同士の摩擦撹拌点接合によって該押圧クランプの先端部と該重合せ部の一方の側の面との間に形成される固着部を分断する固着部分断手段とを含んで構成したことを特徴とする摩擦撹拌点接合装置を、その要旨とするものである。
【0013】
かくの如き本発明に従う摩擦撹拌点接合装置にあっては、回転状態とされたショルダ部材のショルダ面と、非回転状態の押圧クランプの先端面とを、接合されるべき金属板部材の重合せ部の一方の側の面に当接乃至は押圧せしめた状態で、かかる重合せ部に対する摩擦撹拌点接合を行うことが出来る。それ故、重合せ部のショルダ面との当接部位からショルダ面の外側への塑性流動化したメタルの流出を、押圧クランプにて阻止することが出来、以て、重合せ部のショルダ面との当接部位の周囲でのバリの発生を、効果的に防止することが可能となる。
【0014】
そして、かかる本発明装置では、特に、摩擦撹拌点接合の終了後に、接合された重合せ部の一方の側の面に対して、ショルダ部材のショルダ面と押圧クランプの先端面のうちの少なくとも何れか一方を当接させたままで、固着部分断手段によって、重合せ部と押圧クランプの先端部との間に形成された固着部が分断され、それによって、それら重合せ部と押圧クランプとの強固な固着状態が解消される。それ故、接合操作終了後において、押圧クランプが、接合された重合せ部から離隔移動せしめられる際に、接合された重合せ部やその周辺部分が、押圧クランプと共に持ち上げられ、そのため、それらの接合部位やその周辺部分が変形してしまうようなことが、効果的に防止され得る。
【0015】
なお、本発明に従う摩擦撹拌点接合装置の好ましい態様の一つによれば、前記押圧クランプの先端面が、軸方向に作用せしめられる付勢力によって、前記重合せ部の一方の側の面に非回転下で当接して、該一方の側の面を押圧し得るようになっていると共に、前記ショルダ部材のショルダ面と該押圧クランプの先端面とが該重合せ部の一方の側の面に当接乃至は押圧せしめられた状態から、該押圧クランプだけを前記付勢力に抗して該重合せ部の一方の側の面から軸方向に離隔させることにより、該押圧クランプの先端部と該重合せ部の一方の側の面との間に形成される前記固着部を引きちぎるようにして分断する離隔手段が設けられて、前記固着部分断手段が、該離隔手段を含んで構成される。
【0016】
本態様によれば、例えば、コイルばね等の一般的で且つ安価な付勢手段を用いて、押圧クランプの先端面を、重合せ部の一方の側の面に押圧させることが出来る。しかも、そのような付勢手段の付勢力に抗して、押圧クランプを重合せ部の一方の側の面から離隔させるだけで、固着部を分断することが可能となっている。それ故、バリの発生を防止するための構造や固着部を分断するための構造が、比較的に簡略で且つ安価な構造において有利に実現され得る。
【0017】
また、本発明に従う摩擦撹拌点接合装置の望ましい態様の一つによれば、前記押圧クランプを、前記ショルダ部材とは別個に、前記重合せの一方の側の面に対して、軸方向において接近又は離隔移動させる移動手段が設けられて、該押圧クランプが、該移動手段にて該重合せ部の一方の側の面に接近移動せしめられることにより、該押圧クランプの前記先端面が、該重合せ部の一方の側の面に非回転下で当接して、該一方の側の面を押圧し得るようになっていると共に、前記固着部分断手段が、該移動手段を含んで構成されて、前記ショルダ部材の前記ショルダ面と前記押圧クランプの先端面とが、前記重合せ部の一方の側の面に対して当接乃至は押圧せしめられた状態から、該押圧クランプだけが、該移動手段にて、該重合せ部の一方の側の面から離隔移動せしめられることにより、該押圧クランプの先端部と該重合せ部の一方の側の面との間に形成される前記固着部が、引きちぎられるようにして分断されるようになっている。
【0018】
本態様によれば、例えば、重合せ部の厚さに応じて、重合せ部の一方の側の面への押圧クランプの接近移動量を変化させることが出来、それによって、重合せ部の厚さに拘わらず、重合せ部の一方の側の面に対する押圧クランプの先端面の押圧力を一定に為すことが可能となる。そして、その結果、押圧力不足が生ずることが有利に解消され得て、重合せ部の一方の側の面に対する押圧クランプの先端面の押圧によるバリ発生の防止効果が、極めて安定的に且つより十分に発揮され得る。
【0019】
さらに、本発明に従う摩擦撹拌点接合装置の有利な態様の一つによれば、前記押圧クランプを、その中心軸回りに回転させる回転手段が設けられて、前記固着部分断手段が、該回転手段を含んで構成され、該押圧クランプの前記先端面が前記重合せ部の一方の側の面に当接せしめられた状態において、該押圧クランプが、該回転手段にて中心軸回りに回転せしめられることにより、該押圧クランプの先端部と該重合せ部の一方の側の面との間に形成される前記固着部が、ねじ切られるようにして分断されるようになっている。
【0020】
本態様によれば、押圧クランプの先端面が、重合せ部の一方の側の面に当接せしめられた状態で、固着部が分断されるようになっているところから、押圧クランプが、接合された重合せ部から離隔移動せしめられる際に、接合された重合せ部やその周辺部分が、押圧クランプと共に持ち上げられて、変形してしまうようなことが、更に一層確実に防止され得る。
【0021】
更にまた、本発明に従う摩擦撹拌点接合装置の別の好適な態様の一つによれば、前記ショルダ部材と前記プローブとが別体に構成されて、別個に軸方向に移動可能とされた複動式構造を有して、前記回転工具が構成される。
【0022】
本態様によれば、例えば、摩擦撹拌点接合操作の終了後に、プローブを撹拌領域から引き抜きつつ、ショルダ部材を前進させて、撹拌領域の表面を押圧することで、プローブの差し込み部分に対応した形状をもって撹拌領域に形成されるプローブ穴内に、その周囲の撹拌領域のメタルを流れ込ませて、かかるプローブ穴を埋めることが出来る。そして、それによって、かかるプローブ穴に起因して生ずる問題、例えば、塗装時における液溜まりの問題や、接合された重合せ部(接合部位)における接合強度(継手強度)不足の問題等を、有利に解消することが出来る。
【0023】
そして、本発明にあっては、前記せる摩擦撹拌点接合装置用クランプ機構に係る課題の解決のために、複数の被接合金属部材の各板状部を重合せた重合せ部の一方の側の面に対して、回転せしめられるショルダ部材のショルダ面を当接せしめる一方、該ショルダ面から突出するプローブを差し込んで、該重合せ部における該プローブの差し込まれた部位において、該複数の被接合金属部材の板状部同士を摩擦撹拌点接合する装置に設けられ、該重合せ部の一方の側の面に対する該ショルダ面の当接状態下で、該一方の側の面における該ショルダ面の当接部位の周辺部を押圧するクランプ機構において、(a)前記ショルダ部材に対して同軸的に外挿された筒部材からなり、前記回転工具による前記板状部同士の摩擦撹拌点接合操作が行われているときに、先端面が、該重合せ部の一方の側の面に非回転下で当接して、該一方の面を押圧し得るように構成された押圧クランプと、(b)前記ショルダ部材のショルダ面と前記押圧クランプの先端面のうちの少なくとも何れか一方が前記重合せ部の一方の側の面に当接せしめられた状態下で、前記回転工具による前記板状部同士の摩擦撹拌点接合によって該押圧クランプの先端部と該重合せ部の一方の側の面との間に形成される固着部を分断する固着部分断手段とを含んで構成したことを特徴とする摩擦撹拌点接合装置用クランプ機構をも、その要旨とするものである。
【0024】
本発明に従う摩擦撹拌点接合装置用クランプ機構を用いれば、重合せ部のショルダ面との当接部位からショルダ面の外側への塑性流動化したメタルの流出を、押圧クランプにて阻止することが出来、以て、重合せ部のショルダ面との当接部位の周囲でのバリの発生を、効果的に防止することが可能となる。また、ショルダ部材のショルダ面と押圧クランプの先端面のうちの少なくとも何れか一方を重合せ部に当接させたままで、固着部分断手段によって、重合せ部と押圧クランプとの強固な固着状態を解消することが出来、それによって、接合された重合せ部からの押圧クランプの離隔移動時に、接合された重合せ部やその周辺部分が、押圧クランプと共に持ち上げられ、そのために変形してしまうようなことが、効果的に防止され得る。
【0025】
なお、本発明に従う摩擦撹拌点接合装置用クランプ機構の好適な態様の一つによれば、前記押圧クランプの先端面が、軸方向に作用せしめられる付勢力によって、前記重合せ部の一方の側の面に非回転下で当接して、該一方の側の面を押圧し得るようになっていると共に、前記ショルダ部材のショルダ面と該押圧クランプの先端面とが該重合せ部の一方の側の面に当接乃至は押圧せしめられた状態から、該押圧クランプだけを前記付勢力に抗して該重合せ部の一方の側の面から軸方向に離隔させることにより、該押圧クランプの先端部と該重合せ部の一方の側の面との間に形成される前記固着部を引きちぎるようにして分断する離隔手段が設けられて、前記固着部分断手段が、該離隔手段を含んで構成される。
【0026】
また、本発明に従う摩擦撹拌点接合装置用クランプ機構の望ましい態様の一つによれば、前記押圧クランプを、前記ショルダ部材とは別個に、前記重合せの一方の側の面に対して、軸方向において接近又は離隔移動させる移動手段が設けられて、該押圧クランプが、該移動手段にて該重合せ部の一方の側の面に接近移動せしめられることにより、該押圧クランプの前記先端面が、該重合せ部の一方の側の面に非回転下で当接して、該一方の側の面を押圧し得るようになっていると共に、前記固着部分断手段が、該移動手段を含んで構成されて、前記ショルダ部材の前記ショルダ面と前記押圧クランプの先端面とが、前記重合せ部の一方の側の面に対して当接乃至は押圧せしめられた状態から、該押圧クランプだけが、該移動手段にて、該重合せ部の一方の側の面から離隔移動せしめられることにより、該押圧クランプの先端部と該重合せ部の一方の側の面との間に形成される前記固着部が、引きちぎられるようにして分断されるようになっている。
【0027】
さらに、本発明に従う摩擦撹拌点接合装置用クランプ機構の有利な態様の一つによれば、前記押圧クランプを、その中心軸回りに回転させる回転手段が設けられて、前記固着部分断手段が、該回転手段を含んで構成され、該押圧クランプの前記先端面が前記重合せ部の一方の側の面に当接せしめられた状態において、該押圧クランプが、該回転手段にて中心軸回りに回転せしめられることにより、該押圧クランプの先端部と該重合せ部の一方の側の面との間に形成される前記固着部が、ねじ切られるようにして分断されるようになっている。
【0028】
そして、本発明にあっては、前記せる摩擦撹拌点接合方法に係る課題の解決のために、複数の被接合金属部材の各板状部を重合せた重合せ部において、それら複数の被接合金属部材の板状部同士を摩擦撹拌点接合するに際して、ロッド状のショルダ部材と該ショルダ部材のショルダ面から同軸的に突出するプローブとを備えた回転工具と、該ショルダ部材に対して同軸的に外挿された筒部材からなる押圧クランプとを用いて、該押圧クランプの先端面を、非回転下で、前記重合せ部の一方の側の面に押し付けた状態において、該回転工具の該ショルダ部材のショルダ面を、回転状態下で、該重合せ部の一方の側の面に当接させつつ、該プローブを、回転状態下で、該重合せ部に対して、該一方の側の面から差し込んで、前記板状部同士の摩擦撹拌点接合操作を行った後、該摩擦撹拌点接合操作の実施によって前記押圧クランプの先端部と前記重合せ部の一方の側の面との間に形成される固着部を分断する操作を、前記ショルダ部材のショルダ面を該重合せ部の一方の側の面に当接させた状態下で、該押圧クランプの先端面を該重合せ部の一方の側の面から離隔させることにより実施することを特徴とする摩擦撹拌点接合方法をも、その要旨とするものである。
【0029】
本発明に従う摩擦撹拌点接合方法によれば、重合せ部のショルダ面との当接部位からショルダ面の外側への塑性流動化したメタルの流出を、押圧クランプにて阻止することが出来、以て、重合せ部のショルダ面との当接部位の周囲でのバリの発生を、効果的に防止することが可能となる。また、ショルダ部材のショルダ面を重合せ部に当接させたままで、重合せ部と押圧クランプとの強固な固着状態を解消することが出来、それによって、接合された重合せ部からの押圧クランプの離隔移動時に、接合された重合せ部やその周辺部分が、押圧クランプと共に持ち上げられ、そのために変形してしまうようなことが、効果的に防止され得る。
【0030】
本発明にあっては、前記せる摩擦撹拌点接合方法に係る課題の解決のために、複数の被接合金属部材の各板状部を重合せた重合せ部において、それら複数の被接合金属部材の板状部同士を摩擦撹拌点接合するに際して、ロッド状のショルダ部材と該ショルダ部材のショルダ面から同軸的に突出するプローブとを備えた回転工具と、該ショルダ部材に対して同軸的に外挿された筒部材からなる押圧クランプとを用いて、該押圧クランプの先端面を、非回転下で、前記重合せ部の一方の側の面に押し付けた状態において、該回転工具の該ショルダ部材のショルダ面を、回転状態下で、該重合せ部の一方の側の面に当接させつつ、該プローブを、回転状態下で、該重合せ部に対して、該一方の側の面から差し込んで、前記板状部同士の摩擦撹拌点接合操作を行った後、該摩擦撹拌点接合操作の実施によって前記押圧クランプの先端部と前記重合せ部の一方の側の面との間に形成される固着部を分断する操作を、該押圧クランプの先端面を該重合せ部の一方の側の面に当接させた状態下で、該押圧クランプを前記ショルダ部材の中心軸回りに回転させることにより実施することを特徴とする摩擦撹拌点接合方法をも、また、その要旨とするものである。
【0031】
本発明に従う摩擦撹拌点接合方法によっても、重合せ部のショルダ面との当接部位からショルダ面の外側への塑性流動化したメタルの流出を、押圧クランプにて阻止することが出来、以て、重合せ部のショルダ面との当接部位の周囲でのバリの発生を、効果的に防止することが可能となる。また、押圧クランプの先端面を重合せ部に当接させたままで、重合せ部と押圧クランプとの強固な固着状態を解消することが出来、それによって、接合された重合せ部からの押圧クランプの離隔移動時に、接合された重合せ部やその周辺部分が、押圧クランプと共に持ち上げられ、そのために変形してしまうようなことが、効果的に防止され得る。
【発明の効果】
【0032】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う摩擦撹拌点接合装置によれば、バリの発生を確実に防止しつつ、複数の被接合金属部材の板状部同士を摩擦撹拌点接合することが出来、しかも、そのような接合操作の終了後に、接合部位やその周囲の部位の変形を惹起させることなく、重合せ部と押圧クランプとの間に形成される固着部を確実に分離することが出来る。そして、それらの結果として、外観と品質に優れた接合製品を、極めて有利に且つ安定的に得ることが出来る。
【0033】
また、本発明に従う摩擦撹拌点接合装置用クランプ機構と本発明に従う摩擦撹拌点接合装方法の何れにおいても、本発明に従う摩擦撹拌点接合装置において奏され得る優れた作用・効果と実質的に同一の作用・効果が、極めて有効に享受され得る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に従う構造を有する摩擦撹拌点接合装置の一実施形態の要部を示す縦断面説明図である。
【図2】図1に示された摩擦撹拌点接合装置を用いて実施される摩擦撹拌点接合において、接合開始から摩擦撹拌部が形成されるまでの工程を示す工程説明図であって、(a)、(b)及び(c)は、それぞれ各工程における一形態を示す説明図である。
【図3】図2に示される工程に続いて行われる、摩擦撹拌部に形成されるプローブ穴を消滅させて、接合部を形成するまでの工程を示す説明図であって、(a)及び(b)は、それぞれ、その工程の一形態を示す説明図である。
【図4】図3に示される工程に続いて行われる、押圧クランプとプローブとショルダ部材とを重合せ部から離隔させる工程を示す説明図であって、(a)及び(b)は、それぞれ、その工程の一形態を示す説明図である。
【図5】本発明に従う摩擦撹拌点接合装置の別の実施形態を示す、図1に対応する縦断面説明図である。
【図6】本発明に従う摩擦撹拌点接合装置の更に別の実施形態を示す、図1に対応する縦断面説明図である。
【図7】図6に示された摩擦撹拌点接合装置を用いて実施される摩擦撹拌点接合において、かかる摩擦撹拌点接合操作の終了後に、押圧クランプとプローブとショルダ部材とを重合せ部から離隔させる工程を示す説明図であって、(a)及び(b)は、それぞれ、その工程の一形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0036】
先ず、図1には、本発明に従う構造を有する摩擦撹拌点接合装置の一実施形態の要部が、概略的に示されている。かかる図1から明らかなように、本実施形態の摩擦撹拌点接合装置は、接合されるべき複数の金属板材を重合せた重合せ部を摩擦撹拌点接合するための回転工具10を有して、構成されている。
【0037】
より具体的には、回転工具10は、細長い丸棒状のプローブ12と、厚肉円筒状の長尺な中空ロッド形態を呈するショルダ部材14とを更に有している。そして、ショルダ部材14が、プローブ12に対して、同軸的に外挿されており、また、そのような外挿下で、それらショルダ部材14とプローブ12とが、図1において上下方向となる軸方向において、互いに別個に移動可能に配置されている。なお、以下からは、便宜上、ショルダ部材14とプローブ12の軸方向たる図1の上方及び下方を、それぞれ、単に、上方及び下方と言うこととする。
【0038】
この回転工具10のショルダ部材14においては、下部側の先端面が、平坦な円環面からなるショルダ面16とされている。そして、このショルダ部材14のショルダ面16を含む、少なくとも被接合金属板材に接する部分が、プローブ12の、少なくとも被接合金属板材に接する部分と共に、被接合金属板材(重合せ部)の材質よりも硬い材質の材料にて形成されている。なお、この硬質材料としては、例えば、被接合金属板材がアルミ材の場合、鋼材が採用されることとなる。
【0039】
かかる回転工具10にあっては、図1に明示されてはいないものの、従来と同様に、プローブ12とショルダ部材14とが、それぞれの上端部において、摩擦撹拌点接合装置本体に固定された回転駆動装置(共に図示せず)に連結されており、それによって、それらプローブ12とショルダ部材14とが、プローブ12の軸心回りに高速で一体回転せしめられ得るようになっている。
【0040】
また、プローブ12の上端部とショルダ部材14の上端部は、それぞれ、摩擦撹拌点接合装置本体に固定されたプローブ往復動装置とショルダ部材往復動装置(何れも図示せず)とに対して、それぞれ、別個に連結されている。これによって、プローブ12とショルダ部材14とが、プローブ往復動装置とショルダ部材往復動装置の作動に基づいて、軸方向(上下方向)において、別個に或いは一体的に往復移動(突出し作動及び引込み作動)せしめられ得るようになっている。つまり、本実施形態においては、プローブ12とショルダ部材14とが、それぞれ別体に構成されて、別個に軸方向に移動可能とされた複動式構造をもって、回転工具10が、構成されているのである。
【0041】
かくして、ショルダ部材往復動装置の停止状態下で、プローブ往復動装置の引込み作動が行われることにより、プローブ12が、ショルダ部材14の内孔内に引き込まれて、プローブ12の先端面とショルダ部材14のショルダ面16とが面一となる引込位置に位置せしめられるようになっており[図1及び図2の(a)参照]、また、そのような状態から、ショルダ部材往復動装置の引込み作動やプローブ往復動装置の突出し作動が行われると、プローブ12が、その先端部を、ショルダ部材14のショルダ面16から突出せしめる突出位置に位置せしめられるようになっている[図2の(c)参照]。そして、プローブ往復動装置とショルダ部材往復動装置との同期した突出し作動及び引込み作動が行われることで、プローブ12とショルダ部材14とが、軸方向において、一体的に移動するように構成されている。なお、後述する複数の被接合金属板材の重合せ部に対する摩擦撹拌点接合の実施に際しては、これらプローブ往復動装置及びショルダ部材往復動装置が、回転駆動装置と同時に作動せしめられることで、上記の如きプローブ12とショルダ部材14の軸方向への往復移動が、高速回転下で行われるようになる。
【0042】
そして、本実施形態の摩擦撹拌点接合装置にあっては、かくの如き構造を有する回転工具10に加えて、バリ押え機能を有するクランプ機構18が、特別な構造をもって設けられている。
【0043】
すなわち、図1から明らかなように、クランプ機構18は、保持部材20と押圧クランプ22とを有している。このクランプ機構18の保持部材20は、ショルダ部材14の外径よりも十分に大きな内径を有する厚肉の円筒体からなっている。そして、プローブ12に外挿されたショルダ部材14の上側部分に対して、更に同軸的に外挿配置されている。換言すれば、保持部材20の内孔内に、プローブ12とそれに外挿されたショルダ部材14とが同軸的に挿入されていると共に、それらプローブ12とショルダ部材14のそれぞれの下側部分が、保持部材20の内孔から下方に向かって突出位置せしめられているのである。
【0044】
また、かかる保持部材20の下端部の外周面には、厚肉円環板状の外フランジ部24が一体形成されている。そして、この外フランジ部24の上面には、その周方向に等間隔を隔てた4個所に、圧縮空気により引込み作動せしめられる、空気圧式の単動シリンダ26が、それぞれ、1個ずつ固定されている(図1には、2個のみを示す)。また、これら4個の単動シリンダ26は、それぞれ、図示しない圧縮空気流路を介して、コンプレッサ(図示せず)に接続されていると共に、下方に向かって突出位置せしめられたピストンロッド28を有している。
【0045】
さらに、保持部材20の外フランジ部24における単動シリンダ26の固定部位には、かかる部位を上下方向に貫通する挿通孔29が、それぞれ設けられている。また、そのような挿通孔29には、各固定部位に固定された単動シリンダ26のピストンロッド28が、それぞれ挿通されており、それによって、それら各ピストンロッド28が、外フランジ部24の下面から下方に向かって、所定長さだけ延出せしめられている。そして、このような4個の単動シリンダ26の各ピストンロッド28が、図示しないコンプレッサの作動に基づいて、互いに同期して、引込み作動せしめられて、上方に向かって移動するようになっている。
【0046】
また、かかる保持部材20にあっては、図1に明示されてはいないものの、摩擦撹拌点接合装置本体に固定された、前記せるプローブ往復動装置やショルダ部材往復動装置とは更に別のクランプ往復動装置(何れも図示せず)に対して、上端部において連結されている。これによって、保持部材20が、クランプ往復動装置の作動に基づいて、軸方向(上下方向)において、プローブ12やショルダ部材14とは別個に或いは一体的に往復移動(突出し作動及び引込み作動)され得るようになっている。なお、この保持部材20は、それらプローブ12やショルダ部材14とは異なり、後述する摩擦撹拌点接合操作中において、回転することなく、静止状態が保持されるようになっている。
【0047】
一方、押圧クランプ22は、全体として、段付の円筒状部材からなり、下側部分が、小径で薄肉のクランプ先端部30とされている一方、上側部分が、大径で厚肉のクランプ基部32とされている。なお、クランプ先端部30は、保持部材20の内孔内から突出位置するプローブ12とショルダ部材14のそれぞれの下側部分の長さの略半分程度の長さと、ショルダ部材14の外径よりも極僅かに大きな内径とを有している。クランプ基部32は、保持部材20の内孔内から突出位置するプローブ12とショルダ部材14のそれぞれの下側部分の長さの1/4に満たない程度の長さと、ショルダ部材14の外径よりも十分に大きな外径とを有している。
【0048】
また、かかる押圧クランプ22においては、クランプ先端部30の先端面(下端面)が、ショルダ面16よりも大径の平坦な円環面からなる押圧面33とされている。更に、クランプ基部32の上端部外周面には、保持部材20の外フランジ部24よりも一周りだけ小さな厚肉円環板形状を呈するフランジ状支持部34が、一体形成されている。また、このフランジ状支持部34における周方向に等間隔を隔てた4個所には、保持部材20の外フランジ部24に設けられた4個の挿通孔29と同一径の貫通孔36が、それぞれ、1個ずつ設けられている。
【0049】
そして、このような押圧クランプ22が、保持部材20の下側において、フランジ状支持部34を、保持部材20の外フランジ部24に対して、所定距離を隔てて対向させ、且つ4個の貫通孔36を、保持部材20の外フランジ部24における4個の挿通孔29に対して、それぞれ同軸的に位置させるようにして、配置されている。また、そのような配置状態下で、保持部材20の内孔内から、プローブ12に外挿された状態でプローブ12と共に突出位置するショルダ部材14の下端部に対して、極僅かなクリアランスをもって、更に同軸的に外挿されて、軸方向に別個に移動せしめられ得るようになっている。
【0050】
そしてまた、そのような状態において、保持部材20の外フランジ部24に固定された4個の単動シリンダ26の各ピストンロッド28が、先端部において、押圧クランプ22におけるフランジ状支持部34の各貫通孔36に挿通されている。更に、それら各ピストンロッド28の先端部のうち、各貫通孔36から下方に突出する部分には、各貫通孔36の径より大なる外径を有する厚肉円板状の支持板38が取り付けられており、以て、押圧クランプ22が、4個のピストンロッド28とそれらの先端部にそれぞれ取り付けられた4個の支持板38とにて、4点で支持された状態で、保持部材20に保持されている。そして、それによって、押圧クランプ22が、保持部材20と同様に、後述する摩擦撹拌点接合操作中において、回転することなく、静止状態が保持されるようになっている。
【0051】
また、そのような押圧クランプ22のフランジ支持部34と保持部材20の外フランジ部24との間には、4個の圧縮コイルばね40(図1には、2個のみを示す)が、各ピストンロッド28に外挿された状態で、それぞれ配置されている。更に、それら各圧縮コイルばね40は、予備圧縮せしめられた状態で、上端部と下端部とにおいて、外フランジ部24の下面とフランジ状支持部34の上面とに対して、それぞれ係合している。
【0052】
かくして、かくの如き構造を有するクランプ機構18にあっては、押圧クランプ22が、後述する被接合金属板材の重合せ部から軸方向に離隔位置した状態で、クランプ往復動装置の突出し作動が行われることにより、保持部材20と押圧クランプ22とが、被接合金属板材の重合せ部に対して、軸方向において、一体的に接近移動して、押圧クランプ22の押圧面33が、被接合金属板材の重合せ部に当接させられるようになっている。また、かかる状態から、クランプ往復動装置が更に突出し作動せしめられると、4個の圧縮コイルばね40が圧縮変形しつつ、保持部材20のみが被接合金属板材の重合せ部に接近移動し、それにより、各圧縮コイルばね40から押圧クランプ22(フランジ状支持部34)に対して、被接合金属板材の重合せ部に向かって、軸方向に付勢力が作用せしめられるようになる。そうして、かかる付勢力に基づいて、押圧クランプ22の押圧面33が、複数の被接合金属板材の重合せ部に対して、非回転下で押圧せしめられ得るようになっている。
【0053】
そしてまた、そのような複数の被接合金属板材の重合せ部に対する押圧クランプ22の押圧面33の押圧状態下で、4個の単動シリンダ26が、互いに同期して、引込み作動せしめられることにより、押圧クランプ22だけが、各圧縮コイルばね40の付勢力に抗して、被接合金属板材の重合せ部から離隔移動するように構成されている。このことから明らかなように、本実施形態では、4個の単動シリンダ26と、それら各単動シリンダ26から突出するピストンロッド28とにて、固着部分断手段としての離隔手段が構成されている。
【0054】
なお、ここでは、各単動シリンダ26の引込み作動状態下で、クランプ往復動装置の引込み作動が行われて、保持部材20と押圧クランプ22とが、被接合金属板材の重合せ部から離隔移動せしめられた後、各単動シリンダ26の引込み作動が解除されることにより、各ピストンロッド28と押圧クランプとが、各圧縮コイルばね40の付勢力に基づいて、各単動シリンダ26の引込み作動前の位置に復帰するようになっている。また、上記せる如きクランプ往復動装置の突出し乃至引込み作動は、後述する被接合金属板材の重合せ部に対する摩擦撹拌点接合の最中において、前記プローブ往復動装置やショルダ部材往復動装置の突出し乃至引込み作動と同期して、或いは別個に行われることとなる。
【0055】
ところで、このような本実施形態の摩擦撹拌点接合装置を用いて、2枚の金属板材の重合せ部に対する摩擦撹拌点接合操作を実施するには、例えば、図2乃至図4に示される如き工程に従って、接合操作が進められることとなる。
【0056】
すなわち、先ず、図2に示されるように、裏当て治具42の上に、摩擦撹拌点接合されれるべき2枚の金属板材44,46が、上下方向に重合せた状態で載置され、従来と同様にして、位置固定にクランプされる。なお、それら2枚の金属板材44,46は、何れも、摩擦撹拌接合が可能な金属材料、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金、銅、銅合金、鉄若しくはその合金等からなるものである。また、それら金属板材44,46には、同材質のものや、互いに異なる材質のものが適宜に選択されることとなる。
【0057】
そして、図2(a)に示される如く、摩擦撹拌点接合操作のスタート時点において、回転工具10のプローブ12とショルダ部材14の各先端部が、金属板材44,46の重合せ部47の上方に離隔位置した状態において、それらプローブ12とショルダ部材14とが共に高速回転せしめられる。なお、このときプローブ12は、ショルダ部材14の内孔内に引き込まれて、先端面をショルダ面16と面一とした引込位置とされる。
【0058】
次に、図2(b)に示されるように、回転工具10の先端部(プローブ12とショルダ部材14の各先端部)が、金属板材44,46の重合せ部47に向かって下降(接近)して、プローブ12の先端面とショルダ部材14のショルダ面16とが、重合せ部47の上側に位置する金属板44の上面に当接される。また、かかる回転工具10の接近移動と同時に或いはその後に、押圧クランプ22も、クランプ機構18により、重合せ部47に向かって下降(接近)して、押圧面33において、金属板材44の上面に当接される。そして、その状態から、更に、クランプ機構18による重合せ部47への押圧クランプ22の下降操作が更に続けられると、クランプ機構18における前記4個の圧縮コイルばね40が圧縮変形せしめられる。
【0059】
これによって、各圧縮コイルばね40から押圧クランプ22に対して、重合せ部47側に向かって軸方向に付勢力が作用して、押圧クランプ22の押圧面33が、金属板材44の上面に押圧される。またその一方で、金属板材44,46の重合せ部が、高速回転せしめられるプローブ12の先端面とショルダ部材14のショルダ面16と当接する金属板材44の側より摩擦発熱せしめられる。
【0060】
そして、そのような摩擦発熱により、金属板材44が軟化せしめられた状態において、図2(c)に示される如く、プローブ12とショルダ部材14とが高速で一体回転しつつ、プローブ12の先端部が、ショルダ部材14から突出して、金属板材44の上面から重合せ部に差し込まれる。そして、このプローブ12による摩擦発熱作用が加わって、2枚の金属板材44,46に跨る摩擦撹拌部48が形成される一方、ショルダ部材14が、重合せ部47から離隔するように上昇せしめられる。
【0061】
このとき、ショルダ部材14の外側に配された、非回転状態の押圧クランプ22にて、摩擦撹拌部48の周辺部(外周部)となる金属板材44の表面が、各圧縮コイルばね40の付勢力に基づいて押圧されつつ、プローブ12の差し込み(突出)により余剰となった摩擦撹拌部48の塑性流動化されたメタルが、かかるショルダ部材14の後退によって形成される空間にて吸収されるようになる。これによって、摩擦撹拌部48の周辺部でのバリの発生が、効果的に防止され得る。
【0062】
次いで、図3(a)に示されるように、プローブ12の先端部が、前記引込位置にまで、ショルダ部材14の内孔内に引き込まれるように、上昇せしめられる。このとき、摩擦撹拌部48に、プローブ12の抜けた穴、所謂プローブ穴49が形成されるようになる。
【0063】
引き続き、図3(b)に示される如く、プローブ12の上昇と同時に、或いは上昇の後に、ショルダ部材14が下降して、摩擦撹拌部48の上面が、ショルダ部材14のショルダ面16にて押圧される。これにより、プローブ穴49内に、その周囲の摩擦撹拌部48の材料が流れ込んで、プローブ穴49が埋められて、消滅せしめられ、以て、金属板材44,46の重合せ部47に、プローブ穴49の存在しない摩擦撹拌部48にて与えられる接合部50が、形成される。そして、その結果、プローブ穴49の存在による接合強度不足の発生が未然に防止され得るだけでなく、例えば、接合操作の後に実施される塗装操作に際して、プローブ穴49に液溜まりが生ずる等といった問題も、有利に解消され得るようになる。
【0064】
なお、このような金属板材44,46の重合せ部47に対する回転工具10による摩擦撹拌点接合操作は、重合せ部47に、摩擦撹拌部48にて接合部50が形成されるまで、押圧クランプ22が、重合せ部47における摩擦撹拌部48の周辺部分に対して、非回転下で押圧接触させられた中で行われる。それ故、かかる摩擦撹拌点接合操作の最中に、摩擦撹拌部48の塑性流動化されたメタルの一部が、押圧クランプ22とショルダ部材14との間の極僅かなクリアランスに入り込んで、回転しない押圧クランプ22の押圧面33や先端側の内周面部分等の先端部位に凝着し、それによって、かかる凝着したメタルの一部からなる固着部(図示せず)が、重合せ部47と押圧クランプ22の先端部位との間に形成されて、押圧クランプ22が、重合せ部47に対して強固に固着してしまうことがある。
【0065】
そこで、ここでは、重合せ部47に接合部50が形成された後、図4(a)に示されるように、プローブ12の先端面とショルダ部材14のショルダ面16とが、接合部50の上面に対して押圧接触したままの状態で、クランプ機構18に設けられた4個の単動シリンダ26の引込み作動が行われることで、押圧クランプ22だけが、各圧縮コイルばね40の付勢力に抗して、上昇せしめられて、重合せ部47から離隔移動せしめられる。
【0066】
このとき、押圧クランプ22の押圧面33や先端側の内周面に対して、塑性流動化されたメタルの一部が凝着して、押圧クランプ22の先端部位と重合せ部47との間に固着部が形成されていても、接合部50が、プローブ12の先端面やショルダ部材14のショルダ面16にて押さえ付けられているため、重合せ部47からの押圧クランプ22の離隔移動によって、固着部が引きちぎられるようにして分断(分離乃至は切断)せしめられ、以て、重合せ部47の接合部50やその周辺部分が、押圧クランプ22と共に持ち上げられることなく、押圧クランプ22に凝着したメタルが容易に且つ確実に分断され得る。これにより、押圧クランプ22の重合せ部47への固着状態下において、重合せ部47の接合部50やその周辺部分が、押圧クランプ22と共に持ち上げられることで、それら接合部50やその周辺部分が変形してしまうようなことが、効果的に防止され得るようになる。
【0067】
そして、その後、図4(b)に示される如く、プローブ12とショルダ部材14とが、一体で上昇して、重合せ部47から離隔移動せしめられることにより、重ね合わされた2枚の金属板材44,46が、重合せ部47に形成された接合部50により、有効な継手強度をもって、強固に接合されたものとなるのである。
【0068】
従って、かくの如き本実施形態によれば、重ね合わされた金属板材44,46の重合せ部47が、接合操作中における接合部50の周辺部分でのバリの発生や、接合操作終了後の押圧クランプ22の重合せ部47からの離隔移動に伴う接合部50やその周辺部分での変形の問題を何等生ぜしめることなく、確実に摩擦撹拌点接合され得る。そして、その結果として、良好な外観と優れた接合品質とを有する接合製品を極めて有利に且つ安定的に得ることが出来るのである。
【0069】
次に、図5には、前記第一の実施形態とはクランプ機構の構造が異なる別の実施形態が示されている。なお、この図5及び後述する図6、図7に示された実施形態に関しては、図1乃至図4に示された前記第一の実施形態と同様な構造とされた部材及び部位について、図1乃至図4と同一の符号を付すことにより、その詳細な説明は省略した。
【0070】
すなわち、図5から明らかなように、本実施形態の摩擦撹拌点接合装置においては、回転工具10が、前記第一の実施形態と同様に、細長いプローブ12と、このプローブ12に対して別個に軸方向移動可能に外挿されたショルダ部材14とを有して構成されている一方、クランプ機構52が、押圧クランプ22と昇降装置54とを備えた、前記第一の実施形態とは異なる構造を有している。
【0071】
より詳細には、クランプ機構52の押圧クランプ22は、全体として、段付の円筒状部材からなり、下側部分が、小径で薄肉のクランプ先端部30とされている一方、上側部分が、大径で厚肉のクランプ基部32とされている。そして、この押圧クランプ22においては、前記第一の実施形態と同様に、プローブ12に外挿されたショルダ部材14の下端部に対して、更に同軸的に外挿され、極僅かなクリアランスをもって、ショルダ部材14やプローブ12とは軸方向に別個に移動せしめられ得るようになっている。
【0072】
一方、昇降装置54は、上面が水平方向に広がる平坦面とされた、厚肉平板状のベース板56を有している。そして、かかるベース板56の上面の外周部には、段付円筒状の押圧クランプ22よりも十分に高い高さを備えた矩形の角筒体からなる支柱58が、一体的に立設されている。また、この支柱58は、一つの側面において、押圧クランプ22の外周面と所定距離を隔てて対向する状態で、押圧クランプ22やそれに内挿されたショルダ部材14及びプローブ12と平行して、上下方向に延びるように位置せしめられている。
【0073】
さらに、かかる支柱58の内部には、上下方向に延びるねじ軸60が、回転可能で且つ移動不能な状態で、同軸的に配置されている。また、ねじ軸60には、ナット部材62が螺合されている。このナット部材62は、支柱58の内部に位置して、ねじ軸60に螺合する螺合部64と、支柱58の外部に突出位置した取付部66とを、一体的に有している。なお、取付部66は、押圧クランプ22の外周面と対向する支柱58の一つの側面に、押圧クランプ22と平行して上下方向に延びるように形成されたスリット67を通じて、支柱58における押圧クランプ22との対向面から、押圧クランプ22側に突出位置せしめられている。
【0074】
そして、このようなナット部材62にあっては、取付部66において、押圧クランプ22におけるクランプ基部32の外周面に対して一体的に取り付けられている。また、かかる取付部66と螺合部64との境界部分が、スリット67の内面に摺動可能に接触していることで、ナット部材62とそれが取り付けられる押圧クランプ22とが、共に回転不能とされている。
【0075】
また、支柱58が立設されたベース56の外周部には、制御手段としてのコントローラ68が、支柱58と隣り合って位置するように固設されている。そして、このコントローラ68は、支柱58の上端部に、ねじ軸60を回転駆動させ得る状態で取り付けられた昇降用ステッピングモータ70に対して電気的に接続されていると共に、プローブ12とショルダ部材14とを軸方向に別個に往復動させるプローブ往復動装置とショルダ部材往復動装置や、それらを高速で回転させる回転駆動装置(何れも図示せず)に対しても電気的に接続されて、昇降用ステッピングモータ70の回転駆動とプローブ12及びショルダ部材14の往復動及び回転駆動を制御し得るようになっている。
【0076】
すなわち、ここでは、コントローラ68によるプローブ往復動装置とショルダ部材往復動装置の駆動制御の下で、プローブ12が、ショルダ部材14の内孔から突出する突出位置と、かかる内孔内に引き込まれる引込位置との間において、ショルダ部材14とは別個に軸方向に移動(往復動)せしめられ得るようになっていると共に、そのようなプローブ12の突出乃至は引込位置において、プローブ12とショルダ部材14とが、一体で、軸方向に移動(往復動)可能とされている。そして、コントローラ68による回転駆動装置の駆動制御の下で、プローブ12とショルダ部材14の高速回転も、それらの軸方向への移動と共に、或いは別個に行われ得るようになっている。
【0077】
また、昇降用ステッピングモータ70の回転がコントローラ68にて制御されることで、昇降用ステッピングモータ70が、所定の回転角度で正逆両方向に回転して、ねじ軸60が、昇降用ステッピングモータ70の回転角度に応じた量だけ、正逆両方向に回転せしめられ、更に、そのようなねじ軸60の回転によるねじ送り作用により、ナット部材62とそれに取り付けられる押圧クランプ22とが、ねじ軸60の回転量に応じた量だけ、軸方向(上下方向)に移動(上昇及び下降)され得るようになっている。そして、このような押圧クランプ22の軸方向への移動が、プローブ12とショルダ部材14の軸方向への移動とは別個に、或いは一体で行われ得るようになっているのである。これらのことから明らかなように、ここでは、昇降装置54(特に、ねじ軸60とナット部材62と昇降用ステッピングモータ70)にて、固着部分断手段としての移動手段が構成されている。
【0078】
而して、かくの如き構造とされた本実施形態の摩擦撹拌点接合装置を用いて、2枚の金属板材の重合せ部を摩擦撹拌点接合する際には、前記第一の実施形態と同様に、例えば、図2乃至図4に示される如き工程に従って、接合操作が進められることとなるが、そのような接合操作中におけるプローブ12とショルダ部材14の高速回転及び軸方向への移動と、押圧クランプ22の軸方向への移動は、全て、コントローラ68による制御の下での回転駆動装置とプローブ及びショルダ部材往復動装置と昇降用ステッピングモータ70の作動によって行われる。
【0079】
すなわち、ここでは、コントローラ68による制御の下で、回転駆動装置とプローブ及びショルダ部材往復動装置と昇降用ステッピングモータ70とが同時に作動せしめられて、プローブ12とショルダ部材14と押圧クランプ22とが、一体で下降することにより、図2(a)及び(b)に示されるように、プローブ12の先端面とショルダ部材14のショルダ面16とが、高速回転下で、また押圧クランプ22の押圧面33が、非回転下で、2枚の金属板材44,46の重合せ部47に対して、それぞれ当接される。次いで、コントローラ68により、昇降用ステッピングモータ70のみが所定量だけ更に回転せしめられることで、押圧クランプ22の押圧面33が、重合せ部47の上側に位置する金属板44の上面に対して押圧されるようになる。
【0080】
その後、図2(c)及び図3に示される如く、プローブ12とショルダ部材14とが、別個に或いは一体で軸方向に移動せしめられることにより、重合せ部47に対する摩擦撹拌点接合が実施されて、プローブ穴49のない接合部50が形成される。
【0081】
次いで、コントローラ68によって、プローブ往復動装置とショルダ部材往復動装置とが停止状態とされたままで、昇降用ステッピングモータ70の逆回転により、ナット部材62が上昇することで、図4(a)に示されるように、プローブ12の先端面とショルダ部材14のショルダ面16とが接合部50の上面に押圧接触せしめられたままの状態で、押圧クランプ22だけが上昇させられて、重合せ部47から離隔される。
【0082】
このとき、押圧クランプ22の先端部位と重合せ部47との間に固着部(図示せず)が形成されていても、接合部50が、プローブ12の先端面やショルダ部材14のショルダ面16にて押さえ付けられているため、重合せ部47からの押圧クランプ22の離隔移動によって、固着部が引きちぎられるようにして分断せしめられ、以て、重合せ部47の接合部50やその周辺部分が、押圧クランプ22と共に持ち上げられることなく、押圧クランプ22に凝着したメタルが容易に且つ確実に分断され得る。これにより、押圧クランプ22の重合せ部47への固着状態下において、重合せ部47の接合部50やその周辺部分が、押圧クランプ22と共に持ち上げられることで、それら接合部50やその周辺部分が変形してしまうようなことが、効果的に防止され得るようになる。
【0083】
その後、図4(b)に示されるように、プローブ12とショルダ部材14とが、一体で上昇させられることにより、接合操作が終了せしめられて、重ね合わされた2枚の金属板材44,46が、強固に接合されたものとなるのである。
【0084】
このように、本実施形態にあっても、前記第一の実施形態と同様に、接合操作の開始から終了まで、押圧クランプ22の押圧面33が、重合せ部47に形成される摩擦撹拌部48(接合部50)の周辺部分に押圧され、また、接合操作の終了後に、プローブ12の先端面とショルダ部材14のショルダ面16とが、接合部50の上面に押圧接触したままで、押圧クランプ22だけが接合部50の周辺部分から離隔される。それ故、バリの発生や、接合操作終了後の押圧クランプ22の重合せ部47からの離隔移動に伴う接合部50やその周辺部分での変形の問題を何等生ぜしめることなく、2枚の金属板材44,46を、確実に摩擦撹拌点接合することが出来るのである。
【0085】
また、本実施形態においては、プローブ12の先端面とショルダ部材14のショルダ面16と押圧クランプ22の押圧面33とが、2枚の金属板材44,46の重合せ部47にそれぞれ当接された状態から、コントローラ68による制御の下で、昇降用ステッピングモータ70が回転せしめられることにより、押圧クランプ22の押圧面33が、重合せ部47の上面部分に対して押圧されるようになっている。そのため、接合されるべき重合せ部47の厚さが変化しても、押圧クランプ22の押圧面33が重合せ部47に当接してからの昇降用ステッピングモータ70の回転量を一定にすることで、重合せ部47に対する押圧面33の押圧力を一定と為すことが出来、それによって、押圧力不足の発生が未然に防止され得る。そして、その結果として、重合せ部47に対する押圧面33の押圧によるバリ発生の防止効果が、極めて安定的に且つより十分に発揮され得ることとなる。
【0086】
次に、図6には、前記第一及び第二の実施形態とはクランプ機構の構造が更に異なる別の実施形態が示されている。即ち、図6に示された本実施形態の摩擦撹拌点接合装置においては、回転工具10が、前記第一の実施形態と同様に、細長いプローブ12と、このプローブ12に対して別個に軸方向移動可能に外挿されたショルダ部材14とを有して構成されている一方、クランプ機構72が、押圧クランプ22と昇降装置54に加えて、回転機構74を備えた、前記第一及び第二の実施形態とは異なる構造を有している。
【0087】
より詳細には、クランプ機構72の押圧クランプ22は、全体として、段付の円筒状部材からなり、下側部分が、小径で薄肉のクランプ先端部30とされている一方、上側部分が、大径で厚肉のクランプ基部32とされている。そして、かかるクランプ基部32の上端部に、径方向外方に所定高さで突出し且つ周方向に連続して延びる外フランジ部76が、一体形成されている。また、この押圧クランプ22においては、前記第一及び第二の実施形態と同様に、プローブ12に外挿されたショルダ部材14の下端部に対して、更に同軸的に外挿され、極僅かなクリアランスをもって、ショルダ部材14やプローブ12とは軸方向に別個に移動せしめられ得るようになっている。
【0088】
昇降装置54は、前記第二の実施形態の摩擦撹拌点接合装置に設けられるものと略同様な構造を有している。即ち、昇降装置54は、ベース板56に立設された支柱58内部のねじ軸60と、それに螺合されるナット部材62と、コントローラ68による駆動制御の下でねじ軸60を回転駆動させる昇降用ステッピングモータ70とを含み、それらナット部材62とねじ軸60と昇降用ステッピングモータ70とによるねじ送り作用によって、ナット部材62が、ねじ軸60の回転方向と回転量とに応じた移動方向と移動量とにおいて上下動せしめられるようになっている。
【0089】
また、ここでは、ナット部材62の取付部66の上端側部位に、クランプ保持体78が設けられている。このクランプ保持体78は、大径の挿通孔80を有している。そして、かかる挿通孔80内に、ショルダ部材14やプローブ12に外挿された押圧クランプ22のクランプ基部32が、外フランジ部76をクランプ保持体78の上面に係合させた状態で、中心軸回りに回転可能に挿通されている。
【0090】
また、挿通孔80内に挿通された押圧クランプ22のクランプ基部32の下端側部位には、取付リング82が、固定されている。この取付リング82は、リング部材が径方向に二分割された二つの半割部材からなり、それら二つの半割部材が、それぞれの内周部位を、押圧クランプ22のクランプ基部32の下端側部位に設けられた凹溝84内に入り込ませた状態で、互いにねじ止めされている。これにより、取付リング82が、その外周部位を、クランプ保持体78の挿通孔80内に挿通された押圧クランプ22のクランプ基部32の下端側部位の外周面から径方向外方に突出させた状態で、クランプ基部32の下端側部位に固定されている。そして、かかる取付リング82の外周部位が、クランプ保持体78の下面に接触して、係合せしめられている。以て、押圧クランプ22のクランプ保持体78の挿通孔80への挿通状態下で、押圧クランプ22の外フランジ部76と取付リング82の外周部位とが、クランプ保持体78の挿通孔80の周辺部分を間に挟んで、上下方向に対向位置せしめられている。
【0091】
かくして、本実施形態では、押圧クランプ22が、昇降装置54のナット部材62の上端側部位に設けられたクランプ保持体78に、回転可能に且つ上下動不能に保持されている。それによって、押圧クランプ22が、その中心軸回りに回転可能とされた状態で、ナット部材62の上下動に伴って、軸方向に上下動せしめられるようになっている。なお、この押圧クランプ22の上下動は、それに内挿されるプローブ12やショルダ部材14の図示しないプローブ往復動装置やショルダ部材往復動装置による上下動(軸方向への往復移動)とは別個に或いは一体で行われるようになっている。
【0092】
一方、回転機構74は、昇降装置54に設けられる昇降用ステッピングモータ70とは別個の回転用ステッピングモータ86を有している。この回転用ステッピングモータ86は、昇降装置54のナット部材62の取付部66の下端側部位に設けられたモータ保持体88に対して、駆動軸90を上下方向に延出させた状態で固定されており、それによって、ナット部材62や押圧クランプ22と一体で上下動可能とされている。なお、かかる回転用ステッピングモータ86も、昇降用ステッピングモータ70と同様に、回転駆動が、コントローラ68にて制御されるようになっている。
【0093】
また、そのような回転用ステッピングモータ86の駆動軸90には、水平に配された駆動ギヤ92が取り付けられている。更に、この駆動ギヤ92は、上下方向に延びる押圧クランプ22のクランプ先端部30の上部側部位に外挿、固定された従動ギヤ94に噛合せしめられている。
【0094】
これによって、押圧クランプ22が、昇降装置54によって上下動された如何なる位置においても、回転用ステッピングモータ86の回転駆動により、回転用ステッピングモータ86の予め設定された回転方向と回転量に応じた回転方向と回転量とにおいて、中心軸回りに自動的に回転せしめられるようになっている。つまり、ここでは、回転機構74が、回転駆動力を発揮する回転用ステッピングモータ86とその回転駆動力を押圧クランプ22に伝達する、駆動ギヤ92と従動ギヤ94とからなるギヤ機構とにて構成されている。このことから明らかなように、本実施形態では、回転機構74にて、固着部分断手段としての回転手段が構成されている。
【0095】
而して、かくの如き構造とされた本実施形態の摩擦撹拌点接合装置を用いて、2枚の金属板材の重合せ部を摩擦撹拌点接合する際には、前記第一及び第二の実施形態と同様に、例えば、図2乃至図4に示される如き工程に従って、接合操作が進められることとなるが、そのような接合操作中におけるプローブ12とショルダ部材14の高速回転及び軸方向への移動と、押圧クランプ22の軸方向への移動及び中心軸回りの回転は、全て、コントローラ68による制御の下での回転駆動装置とプローブ及びショルダ部材往復動装置と二つの昇降用ステッピングモータ70,86の作動に基づいて行われる。
【0096】
すなわち、先ず、図2(a)及び(b)に示されるように、コントローラ68による制御の下で、回転駆動装置とプローブ及びショルダ部材往復動装置と昇降用ステッピングモータ70とが同時に作動せしめられて、プローブ12とショルダ部材14と押圧クランプ22とが、一体で下降せしめられる。このとき、回転用ステッピングモータ86は、コントローラ68にて回転停止状態が維持される。これにより、プローブ12の先端面とショルダ部材14のショルダ面16とが、高速回転下で、また押圧クランプ22の押圧面33が、非回転下で、2枚の金属板材44,46の重合せ部47に対して、それぞれ当接せしめられる。
【0097】
次いで、コントローラ68により、昇降用ステッピングモータ70のみが所定量だけ更に回転せしめられた後、その回転が停止されることで、押圧クランプ22の押圧面33が、重合せ部47の上側に位置する金属板44の上面に対して押圧される。
【0098】
その後、図2(c)及び図3に示される如く、プローブ12とショルダ部材14とが、高速回転下で、別個に或いは一体で下方に移動せしめられることにより、重合せ部47に対する摩擦撹拌点接合が実施されて、プローブ穴49のない接合部50が形成される。
【0099】
次に、図7(a)に示されるように、コントローラ68の制御により、プローブ往復動装置とショルダ部材往復動装置とにて、プローブ12とショルダ部材14とが、高速回転せしめられたままで、別個に或いは一体で上方に移動せしめられて、プローブ12の先端面とショルダ部材14のショルダ面16とが、重合せ部47に形成された接合部50から離隔せしめられる。また、それと同時に、或いはその前後において、昇降用ステッピングモータ70が、所定量だけ逆回転せしめられた後、その回転が停止せしめられることにより、金属板44の上面に対する押圧クランプ22の押圧面33の当接が維持された状態で、押圧クランプ22の押圧面33による金属板44の上面への押圧力が解除される。
【0100】
引き続き、そのような金属板44の上面(重合せ部47)に対する押圧クランプ22の押圧面33の当接状態下で、コントローラ68の制御により、回転用ステッピングモータ86が、予め設定された回転方向に、所定の回転角度(回転量)だけ回転せしめられる。
【0101】
このとき、押圧クランプ22の先端部位と重合せ部47との間に固着部(図示せず)が形成されていても、押圧クランプ22の回転によって、固着部がねじ切られるようにして分断せしめられる。また、かかる固着部の分断操作は、押圧クランプ22の押圧面33が重合せ部47に当接せしめられた状態で実施されるため、固着部の分断時に、重合せ部47の接合部50やその周辺部分が、押圧クランプ22と共に持ち上げられることがなく、従って、そのような持ち上げにより変形するようなことも皆無ならしめられ得る。
【0102】
なお、このような押圧クランプ22の回転による固着部の分断操作を行うに際して、回転用ステッピングモータ86の回転駆動により回転せしめられる押圧クランプ22の回転角度は、特に限定されるものではないが、一般には、15°〜30°程度とされる。何故なら、この押圧クランプ22の回転角度が15°を下回る場合には、押圧クランプ22の回転角度が小さ過ぎるために、固着部がねじ切られない場合があるからであり、また、押圧クランプ22の回転角度が30°が上回る場合には、固着部をねじ切るために、押圧クランプ22が必要以上に大きな角度で回転せしめられることとなって、固着部の分断操作が非効率なものとなるからである。また、かかる押圧クランプ22の回転時にも、プローブ12とショルダ部材14は、通常、高速回転せしめられたままとされる。
【0103】
その後、図7(b)に示されるように、昇降装置54の昇降用ステッピングモータ70が逆回転せしめられることにより、押圧クランプ22が上昇せしめられて、押圧面33が重合せ部47から離隔せしめられる。このときにあっても、固着部が既に分断されているため、重合せ部47の接合部50やその周辺部分が、押圧クランプ22と共に持ち上げられて、変形するようなことがない。そうして、接合操作が終了せしめられて、重ね合わされた2枚の金属板材44,46が、強固に接合されたものとなるのである。
【0104】
このように、本実施形態にあっては、接合操作の開始から終了まで、押圧クランプ22の押圧面33が、重合せ部47に形成される摩擦撹拌部48(接合部50)の周辺部分に押圧され、また、接合操作の終了後に、押圧クランプ22が、重合せ部47の上面に接触したままで、回転せしめられて、固着部が分断されてから、重合せ部47から離隔せしめられる。それ故、バリの発生や、接合操作終了後の押圧クランプ22の重合せ部47からの離隔移動に伴う接合部50やその周辺部分での変形の問題を何等生ぜしめることなく、2枚の金属板材44,46を、確実に摩擦撹拌点接合することが出来るのである。
【0105】
また、本実施形態においては、特に、重合せ部47に固着された押圧クランプ22を、重合せ部47に当接させたままで、固着部の分断操作が行われるようになっているところから、例えば、重合せ部47に固着された押圧クランプ22を、重合せ部47から無理矢理引き剥がすように離隔させることで、固着部の分断操作を行う構造のものに比して、より小さな力で、固着部の分断を行うことが出来る。更に、固着部が分断された後に、押圧クランプ22が重合せ部47から離隔せしめられるため、押圧クランプ22に固着した重合せ部47(接合部50やその周辺部分)の変形が、より確実に防止され得る。
【0106】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものでないことが、理解されるべきである。
【0107】
例えば、前記第一の実施形態では、圧縮コイルばね40の付勢力に基づいて、押圧クランプ22の押圧面33が、重合せ部47に対して押圧されるようになっていたが、圧縮コイルばね40に代えて、引張コイルばねやコイルばね以外のばね部材、ゴム弾性体等の公知の付勢手段を用い、この付勢手段の付勢力に基づいて、押圧クランプ22の押圧面33を、重合せ部47に対して押圧せしめ得るように構成することも出来る。
【0108】
また、それら圧縮コイルばね40やそれ以外の付勢手段の配設個数や配設位置、更には配設構造は、適宜に変更され得ることは、勿論である。
【0109】
さらに、前記第二の実施形態では、移動手段が、ねじ軸60とナット部材62とによるねじ送り作用によって押圧クランプ22を軸方向に移動(上下動)させる昇降装置54にて、構成されていたが、この移動手段の構造は、何等これに限定されるものではない。例えば、モータの回転駆動機構と押圧クランプ22との間に歯車機構やリンク機構を介在させて、移動手段を構成し、モータの駆動に基づいて、押圧クランプ22を軸方向に移動可能と為すようにしたり、或いは、空気圧式や油圧式のシリンダを用いて移動手段を構成し、かかるシリンダの突出/引込作動に基づいて、押圧クランプ22を軸方向に移動可能と為すことも出来る。なお、これら押圧クランプ22の軸方向への移動を可能と為す構造を、前記第三の実施形態に採用される昇降装置54に代えて採用することも出来る。
【0110】
また、前記第一の実施形態では、離隔手段が、空気圧式の単動シリンダ26にて構成されていたが、この離隔手段も、油圧式の単動シリンダの他、モータ等の回転駆動機構と送りねじ機構や歯車機構、リンク機構等を組み合わせてなる構造において構成することも出来る。
【0111】
さらに、押圧クランプ22も、回転工具10のショルダ部材14に対して、軸方向に移動可能な状態で同軸的に外挿された筒部材からなるものであれば、その全体形状等が、特に限定されるものではない。
【0112】
更にまた、前記第三の実施形態では、回転手段が、回転用ステッピングモータ86と、駆動ギヤ92と従動ギヤ94とからなるギヤ機構とにて、構成されていたが、その他の公知の回転機構を利用した構造のものが、回転手段として、適宜に採用され得る。
【0113】
また、前記第三の実施形態では、プローブ12とショルダ部材14とを重合せ部47(接合部50)から離隔させて、押圧クランプ22のみが重合せ部47に当接せしめられた状態で、押圧クランプ22が回転させられて、固着部が分断されるようになっていたが、例えば、プローブ12とショルダ部材14と押圧クランプ22の全部を重合せ部47に当接させた状態で、押圧クランプ22の回転操作を行っても、何等差し支えない。
【0114】
また、前記三つの実施形態では、プローブ12とショルダ部材14とを重合せ部47(接合部50)に当接させた状態で、押圧クランプ22を重合せ部47から離隔させることにより、それら押圧クランプ22の先端部位と重合せ部47との間に形成される固着部を引きちぎるようにして分断させるか、又は押圧クランプ22を、重合せ部47に当接させた状態で、回転させることにより、固着部をねじ切るようにして分断させるようになっていたが、例えば、プローブ12とショルダ部材14とを重合せ部47(接合部50)に当接させた状態で、押圧クランプ22を、回転させつつ、重合せ部47から離隔せしめることにより、固着部のねじ切りと引きちぎりを同時に行って、固着部を分断させるようにしても良い。このような操作は、例えば、第三の実施形態において、昇降装置54の昇降用ステッピングモータ70を逆回転させると同時に、回転機構74の回転用ステッピングモータ86を回転させることによって、容易に実施され得る。これによって、固着部が、より確実に分断され得る。
【0115】
要するに、固着部分断手段は、離隔手段と移動手段のうちの少なくとも何れか一方と、押圧クランプを単に回転させる機構とを組み合わせて構成することも出来るのである。そのような固着部分断手段は、前記第三の実施形態に示される如き昇降装置54と回転機構74とを組み合わせた構造の他、例えば、移動手段や離隔手段と、それらによる押圧クランプの重合せ部からの離隔移動に伴って押圧クランプを回転させるようにしたカム機構等とを組み合わせた構造等も、採用することが出来る。
【0116】
加えて、前記三つの実施形態では、何れも、摩擦撹拌点接合されるべき被接合金属部材として、全体が板状を呈する2枚の金属板材44,46を用いた例において、本発明の説明が為されているが、そのような被接合金属部材の形状としては、全体が板状であるものに何等限定されるものではなく、摩擦撹拌点接合操作が施される重合せ部が、それぞれ、板状乃至は面板状である限りにおいて、何れの部材も、採用可能であり、また、その枚数も、特に限定されるものではない。
【0117】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において、実施され得るものであり、また、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0118】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、また、言うまでもないところである。
【0119】
<実施例1>
先ず、被接合金属部材として、厚さ:1mmの6000系アルミニウム板材(6016−T4)の2枚を準備する一方、図1に示される如き本発明に従う構造を有する摩擦撹拌点接合装置を準備した。
【0120】
次いで、それらアルミニウム板材の2枚を重合せ、その下板側に裏当て治具を当接せしめた状態において、図2乃至図4に示される如くして、摩擦撹拌点接合を行なった。具体的には、先ず、押圧クランプ22を上板側から当接させた後、プローブ12とショルダ部材14とを、それぞれ1500rpmの速度で回転せしめつつ、それらが面一となるように、当接させた。次いで、プローブ12を重合せ部47に徐々に深く差し込んで、重合せ部47に摩擦撹拌部48を形成し、そして、プローブ12の先端が、下板に0.2mmだけ入り込んだら、即座に、プローブ12を元の位置にまで引き込むと共に、ショルダ部材14を上板(摩擦撹拌部48)に0.1mmだけ押し込むことにより、プローブ穴49のない接合部50を形成した。その後、プローブ12の先端面とショルダ部材14のショルダ面16とを接合部50の上面に接触せしめたままで、押圧クランプ22だけを、重合せ部47から0.5mmだけ離隔させた後、プローブ12をショルダ部材14とを離隔させて、2枚のアルミニウム板材の接合操作を終了した。
【0121】
その結果、2枚のアルミニウム板材の接合部50やその周辺部分が押圧クランプ22にて持ち上げられて、それら接合部50やその周辺部分が変形するようなことなく、しかもバリの発生もない、健全な接合部50と良好な外観を有する接合製品が得られた。
【0122】
<実施例2>
先ず、被接合金属部材として、厚さ:1mmの6000系アルミニウム板材(6016−T4)の2枚を準備する一方、図6に示される如き本発明に従う構造を有する摩擦撹拌点接合装置を準備した。
【0123】
次いで、それらアルミニウム板材の2枚を重合せ、その下板側に裏当て治具を当接せしめた状態において、実施例1と同様に、図2及び図3に示される如くして、摩擦撹拌点接合を行なって、重合せ部47に接合部50を形成した。その後、図7に示されるように、プローブ12の先端面とショルダ部材14のショルダ面16とを、重合せ部47から0.5mmだけ離隔させた後、押圧クランプ22の押圧面33だけを接合部50の上面に接触させたままで、押圧クランプ22を、その中心軸回りに30°回転させた。そして、その後、押圧クランプ22を重合せ部47から0.5mmだけ離隔させて、2枚のアルミニウム板材の接合操作を終了した。
【0124】
その結果、2枚のアルミニウム板材の接合部50やその周辺部分が押圧クランプ22にて持ち上げられて、それら接合部50やその周辺部分が変形するようなことなく、しかもバリの発生もない、健全な接合部50と良好な外観を有する接合製品が得られた。
【0125】
<比較例1>
先ず、被接合金属部材として、前記実施例1で用いられたものと同じアルミニウム板材の2枚を準備する一方、図1に示される如き摩擦撹拌点接合装置とは、単動シリンダ26を有しない点で異なる構造とされた従来の摩擦撹拌点接合装置を準備した。
【0126】
そして、この準備された摩擦撹拌点接合装置にて、2枚のアルミニウム板材の重合せ部47に対して、実施例1及び2と同様に、図2及び図3に示される如き工程により、摩擦撹拌点接合を行って、かかる重合せ部47に接合部50を形成した。その後、プローブ12とショルダ部材14と押圧クランプ22とを、重合せ部47から同時に離隔させて、2枚のアルミニウム板材の接合操作を終了した。
【0127】
その結果、2枚のアルミニウム板材の重合せ部47が、押圧クランプ22と共に、一旦持ち上げられてから、押圧クランプ22から引き剥がされ、それによって、接合製品が、重合せ部47における接合部50とその周辺部分において盛り上がるように変形してしまった。
【符号の説明】
【0128】
10 回転工具 12 プローブ
14 ショルダ部材 16 ショルダ面
18,52,72 クランプ機構 22 押圧クランプ
26 単動シリンダ 33 押圧面
40 圧縮コイルばね 44,46 金属板材
47 重合せ部 48 摩擦撹拌部
50 接合部 54 昇降装置
68 コントローラ 70 昇降用ステッピングモータ
74 回転機構 86 回転用ステッピングモータ
92 駆動ギヤ 94 従動ギヤ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被接合金属部材の各板状部を重合せた重合せ部において、それら複数の被接合金属部材の板状部同士を摩擦撹拌点接合する装置にして、
前記重合せ部の一方の側の面に対して回転状態下で当接せしめられるショルダ面を有するロッド状のショルダ部材と、該ショルダ部材のショルダ面から同軸的に突出して、該重合せ部に対して、該一方の側の面から回転状態下で差し込まれるプローブとを備え、該重合せ部における該プローブの差し込まれた部位において、前記板状部同士の摩擦撹拌点接合操作を行う回転工具と、
前記ショルダ部材に対して同軸的に外挿された筒部材からなり、前記回転工具による前記板状部同士の摩擦撹拌点接合操作が行われているときに、先端面が、該重合せ部の一方の側の面に非回転下で当接して、該一方の面を押圧し得るように構成された押圧クランプと、
前記ショルダ部材のショルダ面と前記押圧クランプの先端面のうちの少なくとも何れか一方が、前記重合せ部の一方の側の面に当接せしめられた状態下で、前記回転工具による前記板状部同士の摩擦撹拌点接合によって該押圧クランプの先端部と該重合せ部の一方の側の面との間に形成される固着部を分断する固着部分断手段と、
を含んで構成したことを特徴とする摩擦撹拌点接合装置。
【請求項2】
前記押圧クランプの先端面が、軸方向に作用せしめられる付勢力によって、前記重合せ部の一方の側の面に非回転下で当接して、該一方の側の面を押圧し得るようになっていると共に、前記ショルダ部材のショルダ面と該押圧クランプの先端面とが該重合せ部の一方の側の面に当接乃至は押圧せしめられた状態から、該押圧クランプだけを前記付勢力に抗して該重合せ部の一方の側の面から軸方向に離隔させることにより、該押圧クランプの先端部と該重合せ部の一方の側の面との間に形成される前記固着部を引きちぎるようにして分断する離隔手段が設けられて、前記固着部分断手段が、該離隔手段を含んで構成されている請求項1に記載の摩擦撹拌点接合装置。
【請求項3】
前記押圧クランプを、前記ショルダ部材とは別個に、前記重合せの一方の側の面に対して、軸方向において接近又は離隔移動させる移動手段が設けられて、該押圧クランプが、該移動手段にて該重合せ部の一方の側の面に接近移動せしめられることにより、該押圧クランプの前記先端面が、該重合せ部の一方の側の面に非回転下で当接して、該一方の側の面を押圧し得るようになっていると共に、前記固着部分断手段が、該移動手段を含んで構成されて、前記ショルダ部材の前記ショルダ面と前記押圧クランプの先端面とが、前記重合せ部の一方の側の面に対して当接乃至は押圧せしめられた状態から、該押圧クランプだけが、該移動手段にて、該重合せ部の一方の側の面から離隔移動せしめられることにより、該押圧クランプの先端部と該重合せ部の一方の側の面との間に形成される前記固着部が、引きちぎられるようにして分断されるようになっている請求項1に記載の摩擦撹拌点接合装置。
【請求項4】
前記押圧クランプを、その中心軸回りに回転させる回転手段が設けられて、前記固着部分断手段が、該回転手段を含んで構成され、該押圧クランプの前記先端面が前記重合せ部の一方の側の面に当接せしめられた状態において、該押圧クランプが、該回転手段にて中心軸回りに回転せしめられることにより、該押圧クランプの先端部と該重合せ部の一方の側の面との間に形成される前記固着部が、ねじ切られるようにして分断されるようになっている請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の摩擦撹拌点接合装置。
【請求項5】
前記ショルダ部材と前記プローブとが別体に構成されて、別個に軸方向に移動可能とされた複動式構造を有して、前記回転工具が構成されている請求項1乃至請求項4のうちの何れか1項に記載の摩擦撹拌点接合装置。
【請求項6】
複数の被接合金属部材の各板状部を重合せた重合せ部の一方の側の面に対して、回転せしめられるショルダ部材のショルダ面を当接せしめる一方、該ショルダ面から突出するプローブを差し込んで、該重合せ部における該プローブの差し込まれた部位において、該複数の被接合金属部材の板状部同士を摩擦撹拌点接合する装置に設けられ、該重合せ部の一方の側の面に対する該ショルダ面の当接状態下で、該一方の側の面における該ショルダ面の当接部位の周辺部を押圧するクランプ機構にして、
前記ショルダ部材に対して同軸的に外挿された筒部材からなり、前記回転工具による前記板状部同士の摩擦撹拌点接合操作が行われているときに、先端面が、該重合せ部の一方の側の面に非回転下で当接して、該一方の面を押圧し得るように構成された押圧クランプと、
前記ショルダ部材のショルダ面と前記押圧クランプの先端面のうちの少なくとも何れか一方が前記重合せ部の一方の側の面に当接せしめられた状態下で、前記回転工具による前記板状部同士の摩擦撹拌点接合によって該押圧クランプの先端部と該重合せ部の一方の側の面との間に形成される固着部を分断する固着部分断手段と、
を含んで構成したことを特徴とする摩擦撹拌点接合装置用クランプ機構。
【請求項7】
複数の被接合金属部材の各板状部を重合せた重合せ部において、それら複数の被接合金属部材の板状部同士を摩擦撹拌点接合するに際して、
ロッド状のショルダ部材と該ショルダ部材のショルダ面から同軸的に突出するプローブとを備えた回転工具と、該ショルダ部材に対して同軸的に外挿された筒部材からなる押圧クランプとを用いて、該押圧クランプの先端面を、非回転下で、前記重合せ部の一方の側の面に押し付けた状態において、該回転工具の該ショルダ部材のショルダ面を、回転状態下で、該重合せ部の一方の側の面に当接させつつ、該プローブを、回転状態下で、該重合せ部に対して、該一方の側の面から差し込んで、前記板状部同士の摩擦撹拌点接合操作を行った後、
該摩擦撹拌点接合操作の実施によって前記押圧クランプの先端部と前記重合せ部の一方の側の面との間に形成される固着部を分断する操作を、前記ショルダ部材のショルダ面を該重合せ部の一方の側の面に当接させた状態下で、該押圧クランプの先端面を該重合せ部の一方の側の面から離隔させることにより実施することを特徴とする摩擦撹拌点接合方法。
【請求項8】
複数の被接合金属部材の各板状部を重合せた重合せ部において、それら複数の被接合金属部材の板状部同士を摩擦撹拌点接合するに際して、
ロッド状のショルダ部材と該ショルダ部材のショルダ面から同軸的に突出するプローブとを備えた回転工具と、該ショルダ部材に対して同軸的に外挿された筒部材からなる押圧クランプとを用いて、該押圧クランプの先端面を、非回転下で、前記重合せ部の一方の側の面に押し付けた状態において、該回転工具の該ショルダ部材のショルダ面を、回転状態下で、該重合せ部の一方の側の面に当接させつつ、該プローブを、回転状態下で、該重合せ部に対して、該一方の側の面から差し込んで、前記板状部同士の摩擦撹拌点接合操作を行った後、
該摩擦撹拌点接合操作の実施によって前記押圧クランプの先端部と前記重合せ部の一方の側の面との間に形成される固着部を分断する操作を、該押圧クランプの先端面を該重合せ部の一方の側の面に当接させた状態下で、該押圧クランプを前記ショルダ部材の中心軸回りに回転させることにより実施することを特徴とする摩擦撹拌点接合方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−269367(P2010−269367A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125699(P2009−125699)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【出願人】(000184366)OBARA株式会社 (72)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】