摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法
【課題】回転ツールの破損の誤検出を防止することができる摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法を提供する。
【解決手段】摩擦攪拌接合システム1では、回転ツール3に接するようにツールホルダ4内に配置された加速度検出センサ201によって、回転ツールの加速度を検出する。このような加速度検出センサ201の配置により、加速度検出センサ201から出力される出力信号からモータの制御信号の電気ノイズを排除することができる。そして、この摩擦攪拌接合では、加速度検出センサ201から出力された測定用の出力信号の波形パターンMと標本線H1,H2とが交差した場合に、回転ツール3に破損が生じたことを判断している。したがって、回転ツール3の破損時に生じる加速度検出センサ201からの瞬間的な出力信号を確実に捉えることが可能となり、回転ツール3の破損の誤検出を防止することができる。
【解決手段】摩擦攪拌接合システム1では、回転ツール3に接するようにツールホルダ4内に配置された加速度検出センサ201によって、回転ツールの加速度を検出する。このような加速度検出センサ201の配置により、加速度検出センサ201から出力される出力信号からモータの制御信号の電気ノイズを排除することができる。そして、この摩擦攪拌接合では、加速度検出センサ201から出力された測定用の出力信号の波形パターンMと標本線H1,H2とが交差した場合に、回転ツール3に破損が生じたことを判断している。したがって、回転ツール3の破損時に生じる加速度検出センサ201からの瞬間的な出力信号を確実に捉えることが可能となり、回転ツール3の破損の誤検出を防止することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材の接合方法として、摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合では、接合しようとする金属材を接合部において対向させる。そして、回転ツールの先端に設けられたプローブを接合部に押し込んで高速回転させることによって生じる摩擦熱を利用し、塑性流動によって2つの金属を接合する。
【0003】
このような摩擦攪拌接合において、接合中の回転ツールには、相当の荷重が加えられる。そのため、送り速度などの条件が不整合であった場合や、接合を繰り返し行った場合などに、回転ツールが破損してしまうことが生じ得る。このような工具の破損を検出する技術として、例えば特許文献1に記載の工具破損検出方法では、モータの負荷信号の検出値と、予め設定された設定値とを比較することにより、工具の破損を検出している。また、特許文献2では、モータの制御信号等に基づいてモータに働く外乱トルクを推定し、この外乱トルクを基準トルクと比較することによって工具の異常を検出している。
【特許文献1】特開平10−6185号公報
【特許文献2】特開平7−51991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回転ツールの材料には、例えばセラミックスのような脆性材料が用いられることがある。脆性材料からなる回転ツールが破損する場合、延性材料を用いる場合のように回転ツールの形が徐々に変形するのではなく、瞬間的に砕けるという特徴がある。したがって、脆性材料からなる回転ツールの破損の有無の監視に上述した従来の方法を適用すると、モータの制御信号に含まれる電気ノイズと、回転ツールの破損時の信号との区別が困難となり、回転ツールの破損の誤検出が生じるおそれがあった。このような誤検出が生じると、摩擦攪拌接合が不必要に中断されることになり、作業効率を低下させる一因となり得る。
【0005】
本発明は、上記課題解決のためになされたものであり、脆性材料からなる回転ツールの破損の誤検出を防止することができる摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明に係る摩擦攪拌接合システムは、脆性材料からなる回転ツールを金属材の端面同士の突き合せ部分に押し込み、回転ツールを回転させることにより金属材同士を接合する摩擦攪拌接合システムであって、回転ツールを把持するツールホルダと、回転ツールに接するようにツールホルダ内に配置され、回転ツールの破損状態に関する物理量の変化を検出する物理量検出手段と、回転ツールの破損が見られない場合に物理量測定手段から出力される基準用の出力信号の波形パターンの標準偏差に基づいて標本線を算出する標本線算出手段と、物理量測定手段から出力される測定用の出力信号の波形パターンと標本線とが交差した場合に、回転ツールに破損が生じたことを判断する破損判断手段と、破損判断手段によって回転ツールに破損が生じたと判断された場合に、回転ツールの回転を停止させ、その後に回転ツールを金属材から離間させる回転ツール制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
また、摩擦攪拌接合方法は、脆性材料からなる回転ツールを金属材の端面同士の突き合せ部分に押し込み、回転ツールを回転させることにより金属材同士を接合する摩擦攪拌接合方法であって、回転ツールに接するように回転ツールを把持するツールホルダ内に配置された物理量検出手段が、回転ツールの破損状態に関する物理量の変化を検出するステップと、標本線算出手段が、回転ツールの破損が見られない場合に物理量測定手段から出力される基準用の出力信号の波形パターンの標準偏差に基づいて標本線を算出するステップと、破損判断手段が、物理量測定手段から出力される測定用の出力信号の波形パターンと標本線とが交差した場合に、回転ツールに破損が生じたことを判断するステップと、回転ツール制御手段が、破損判断手段によって回転ツールに破損が生じたと判断された場合に、回転ツールの回転を停止させ、その後に回転ツールを金属材から離間させるステップとを備えたことを特徴とする。
【0008】
この摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法では、回転ツールに接するようにツールホルダ内に配置された物理量検出手段によって、回転ツールの破損状態に関する物理量の変化を検出する。このような物理量検出手段の配置により、物理量検出手段から出力される出力信号からモータの制御信号の電気ノイズを排除することができる。そして、この摩擦攪拌接合では、上述のようにモータの制御信号の電気ノイズを排除した上で、物理量検出手段から出力された測定用の出力信号の波形パターンと、基準用の出力信号の波形パターンの標準偏差に基づいて算出された標本線とが交差した場合に、回転ツールに破損が生じたことを判断している。したがって、回転ツールの破損時に生じる物理量検出手段からの瞬間的な出力信号を確実に捉えることが可能となり、回転ツールの破損の誤検出を防止することができる。また、この摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法では、回転ツールに破損が生じたと判断された場合に、回転ツールの回転を直ちに停止させ、その後に金属材から離間させる。このような処理により、破損した回転ツールの散乱を極力抑えられる。
【0009】
また、回転ツール制御手段によって回転ツールが金属材から離間した後、回転ツールの回転停止位置において、金属材に切削ツールを貫通させる切削ツール制御手段を更に備えたことが好ましい。接合中に回転ツールに破損が生じた場合、回転ツールの破片は回転停止位置において、金属材の内部に残留すると考えられる。そこで、回転ツール制御手段によって回転ツールが金属材から離間した後、回転停止位置に切削ツールを貫通させることで、回転ツールの破片を除去することができる。これにより、接合中に回転ツールが破損した場合であっても、回転停止位置における接合部の接合状態を良好に保つことが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法によれば、脆性材料からなる回転ツールの破損の誤検出を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る摩擦攪拌接合システムの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合システム1を用いた摩擦攪拌接合を説明する斜視図である。図1に示す例では、例えば鉄道車両の外板10a,10b同士を接合する。外板10a,10bは、例えばステンレス鋼によって形成された厚さ数mm程度の平板材である。
【0013】
摩擦攪拌接合システム1は、外板10a,10bを接合するための構成要素として、図1に示すように、載置部2と、回転ツール3と、ツールホルダ4とを有している。回転ツール3は、例えばセラミックスといった脆性材料から形成され、略円柱状をなしている。回転ツール3の先端には、回転ツール3の直径よりも小径の略円柱状のプローブ5が同軸に設けられている。ツールホルダ4は、金属といった延性材料から形成され、略円柱形をなしている。ツールホルダ4の内部には、回転ツール3の直径とほぼ同等の略円柱形の内部空間Sが長軸方向に沿って形成されている(図3参照)。内部空間Sの下端部には、回転ツール3の上部が差し込まれており、これにより、回転ツール3は、ツールホルダ4の下端部4aに把持されている。
【0014】
摩擦攪拌接合システム1を用いた摩擦攪拌接合では、載置部2に載置した外板10a,10bの端面同士を突き合わせ、回転ツール3を例えば600rpmの回転速度で回転させながら、外板10a,10bの突き合わせ部分Lの一端に押し込む。そして、回転ツール3を、例えば600mm/minの移動速度で突き合わせ部分Lに沿って移動させる。このとき、回転する回転ツール3と外板10a,10bとの間で発生する摩擦熱よる塑性流動によって接合部Wが形成され、突き合わせ部分Lに沿って外板10a,10bの端面同士が接合される。回転ツール3が、外板10a,10bの突き合わせ部分Lの他端まで到達すると、回転ツール3を外板10a,10bから引き上げ、回転ツール3を外板10a,10bから離間させて、処理が終了する。
【0015】
このような摩擦攪拌接合では、接合する外板10a,10bの厚さに対して、回転ツール3の移動速度の条件が不整合であった場合や、接合を繰り返し行った場合などに、回転ツール3に過剰な負荷が蓄積してしまい、脆性材料からなる回転ツール3に破損が生じることがある。脆性材料からなる回転ツールが破損する場合、延性材料を用いる場合のように回転ツールの形が徐々に変形するのではなく、瞬間的に砕けるという特徴がある。したがって、脆性材料からなる回転ツールの破損の有無の監視にモータの制御信号のモニタリングによる方法を適用すると、モータの制御信号に含まれる電気ノイズと、回転ツールの破損時の信号との区別が困難となり、回転ツールの破損の誤検出が生じるおそれがあった。
【0016】
そこで、摩擦攪拌接合システム1では、回転ツール3の破損の誤検出を防止するための機能的な構成要素として、図2に示すように、加速度検出センサ(物理量検出手段)201と、出力信号取得部202と、標本線算出部(標本線算出手段)203と、標本線格納部204と、破損判断部(破損判断手段)205と、回転ツール制御部(回転ツール制御手段)206と、移送部207と、切削ツール制御部(切削ツール制御手段)208とを有している。
【0017】
加速度検出センサ201は、回転ツール3の加速度を検出するセンサである。図3は、加速度検出センサ201の配置構成の一例を示す図である。同図に示すように、加速度検出センサ201は、ツールホルダ4の内部空間S内に配置され、ツールホルダ4の下端部4aに把持された回転ツール3の上端面3aに接する位置で、ツールホルダ4の内壁に接着固定されている。
【0018】
加速度検出センサ201のケーブル8は、ツールホルダ4の内部空間Sの上方に延び、ケーブル8の先端9は、内部空間Sの上端部においてツールホルダ4の内壁に固定されている。ケーブル8の先端9とツールホルダ4の内壁との固定には、例えば圧着端子が用いられる。このような構成により、加速度検出センサ201は、回転ツール3に加わる上下方向の加速度を検出し、検出した加速度に応じた測定用の出力信号をスリップリング6の電極7a,7bを介して出力信号取得部202に出力する。
【0019】
出力信号取得部202は、加速度検出センサ201で検出された加速度に応じた測定用の出力信号を取得する部分である。出力信号取得部202は、取得した測定用の出力信号を波形パターン化し、破損判断部204に出力する。
【0020】
標本線算出部203は、回転ツール3に破損が生じたか否かを判断する際に閾値として用いる標本線を算出する部分である。標本線は、接合中において回転ツール3に破損が生じなかった場合に加速度検出センサ201から出力された基準用の出力信号を用いて予め算出される。図4は、基準用の出力信号の波形パターンの一例を示す図である。図4に示す例では、基準用の出力信号の波形パターンRは、回転ツール3の回転周期と対応する周期で、摩擦攪拌接合の開始から終了に至るまで一様な振幅となっている。標本線算出部203は、基準用の出力信号の波形パターンRを標準偏差σに基づいて正規化し、図5に示すように、標準偏差σの例えば3倍(±3σ)を標本線H1,H2として算出している。
【0021】
標本線格納部204は、標本線算出部203によって算出された標本線H1,H2を格納する部分である。標本線格納部204は、破損判断部205(後述)が回転ツール3に破損が生じたかを判断する際に、格納している標本線H1,H2を出力する。
【0022】
破損判断部205は、回転ツール3に破損が生じたことを判断する部分である。ここで、図6は、接合中に回転ツール3に破損が生じた場合の測定用の出力信号の波形パターンを示す図である。図6に示す例では、測定用の出力信号の波形パターンMに、回転ツール3に破損が生じる前の正常部分M1と、回転ツール3の破損を示す破損部分M2とが現れている。正常部分M1では、基準用の波形パターンRと同様に回転ツール3の回転周期と対応する周期で、一様な振幅となっている。破損部分M2では、瞬間的に、振幅が正常部分M1に比べて急激に増加する挙動を示している。
【0023】
破損判断部205は、波形パターンMと標本線H1,H2とが交差した場合に、回転ツール3に破損が生じたと判断する。例えば、破損判断部205は、図7に示すように、波形パターンMの破損部分M2が現れ、波形パターンMと標本線H1,H2とが交差した場合に、回転ツール3に破損が生じたと判断する。一方、破損判断部205は、波形パターンMの破損部分M2が現れず、波形パターンMと標本線H1,H2とが交差しないうちは、回転ツール3に破損が生じたと判断しない。破損判断部205は、破損が生じたと判断するまでは特段の処理をせず、回転ツール3に破損が生じたと判断した場合に、その旨を示す判断結果情報を回転ツール制御部206に出力する。
【0024】
回転ツール制御部206は、破損判断部205から受け取った判断結果情報に基づいて、回転ツール3を制御する部分である。回転ツール制御部206は、判断結果情報を受け取ると、最初に回転ツール3の回転を直ちに停止させる(以下、この停止位置を「回転停止位置Wa」と称する)。回転ツール制御部206は、回転ツール3を停止させた後に、回転ツール3を外板10a,10bの上方に離間させると、動作指示情報を移送部207に出力する。
【0025】
移送部207は、ツールホルダ4をツールステーション30に移送する部分である。ツールステーション30には、例えば切削ツール16と、先端にプローブ15を備えた未使用の複数の回転ツール12とがセットされている(図10参照)。切削ツール16は、ツールホルダ4に把持されるドリル把持部17と、ドリル把持部17に把持されるドリル18とが同軸に設けられている。ドリル把持部17は、回転ツール3と同径であり、ドリル18は、プローブ5よりもわずかに大径である。回転ツール12は、図3に示した回転ツール3と同形状であり、未使用のものである。移送部207は、回転ツール制御部206から動作指示情報を受け取ると、ツールホルダ4を接合中の外板10a,10bからツールステーション30に移送する。また、移送部207は、回転停止位置Waを記憶し、ツールステーション30から回転停止位置Waへのツールホルダ4の移送も行う。
【0026】
切削ツール制御部208は、切削ツール16の動作を制御すると共に、ツールホルダ4に把持されるツールの交換を行う部分である。切削ツール制御部208は、移送部207によるツールステーション30への移送が行われると、破損が認められた回転ツール3をツールホルダ4から取り外し、切削ツール16をツールホルダ4に装着させる。切削ツール制御部208は、回転ツール3を切削ツール16に交換した後に、切削ツール16を回転させながら回転停止位置Waに押し込むことによって、回転停止位置Waを貫通させる。切削ツール制御部208は、回転停止位置Waの貫通後、移送部207によるツールステーション30への移送が行われると、ツールホルダ4から切削ツール16を取り外し、回転ツール12をツールホルダ4に装着させる。
【0027】
続いて、上述した構成を有する摩擦攪拌接合システム1の動作について、図8を参照しながら説明する。図8は、摩擦攪拌接合システム1の動作を示すフローチャートである。
【0028】
まず、回転ツール3を回転させながら外板10a,10bの一端に押し込み、摩擦攪拌接合が開始される(ステップS01)。接合を行っている間、加速度検出センサ201による回転ツール3の加速度の検出が行われる(ステップS02)。出力信号取得部202は、加速度検出センサ201から出力される測定用の出力信号を取得し、この出力信号を時間軸に対して波形パターン化する(ステップS03)。
【0029】
次に、破損判断部205は、出力信号取得部202から受け取った測定用の波形パターンMと、標本線格納部204に格納されている標本線H1,H2とを比較し、回転ツール3に破損が生じたか否かを判断する(ステップS04)。破損判断部205は、波形パターンMの破損部分M2が現れ、波形パターンMと標本線H1,H2とが交差した場合に、回転ツール3に破損が生じたと判断する。一方、破損判断部205は、波形パターンMの破損部分M2が現れず、波形パターンMと標本線H1,H2とが交差しないうちは、回転ツール3に破損が生じたと判断しない。
【0030】
ステップS04において、回転ツール3に破損が生じたと判断されると、回転ツール制御部206は、回転ツール3の回転を直ちに停止させ、その後に回転ツール3を接合中の外板10a,10bから離間させる(ステップS05)。
【0031】
回転ツール3を外板10a,10bから離間させた後、移送部207によるツールステーション30への移送が行われる(ステップS06)。ツールステーション30では、切削ツール制御部208によってツール破棄部20(図11参照)に回転ツール3が破棄されると、ツールステーション30が時計回りに回転し、図9(a)に示すように、切削ツール16がツールホルダ4の真下に配置される。ツールホルダ4が下降し、切削ツール16がツールホルダ4に装着されると、ツールホルダ4は、移送部207によって外板10a,10bの上方に移送され、図9(b)に示すように、切削ツール16が回転停止位置Waに配置される。そして、図10(a)に示すように、切削ツール16のドリル18が回転しながら回転停止位置Waに回転させながら押し込しこまれ、図10(b)に示すように、回転停止位置Waに貫通部Pが形成される。これにより、外板10a,10bの内部に残留した回転ツール3の破片Fが、回転停止位置Waから除去される(ステップS07)。この後、再び移送部207によるツールステーション30への移送が行われる。
【0032】
ツールステーション30において、切削ツール制御部208によって切削ツール収納部22に切削ツール16が取り外されると、ツールステーション30が時計回りに回転し、新しい回転ツール12がツールホルダ4の真下に配置される。ツールホルダ4が下降し、新しい回転ツール12がツールホルダ4に装着されると(ステップS08)、図11(a)に示すように、移送部207によって外板10a,10bの上方に回転ツール12が移送され、回転ツール12が貫通部Pに復帰する。この後、図11(b)に示すように、回転ツール12を回転させながら、外板10a,10bにおける貫通部Pに押し込み、摩擦攪拌接合が再開される(ステップS09)。なお、貫通部Pは、再開した摩擦攪拌接合により塞がれ、回転停止位置Waに対する接合状態への影響は殆どない。
【0033】
一方、ステップS04において、回転ツール3に破損があると判断されなかった場合、及びステップS09において、接合が再開された場合には、摩擦攪拌接合が継続され、摩擦攪拌接合が終了したか否かが判断される(ステップS10)。摩擦攪拌接合の継続中は、上述したステップS02〜ステップS10の一連の処理が繰り返される。回転ツール3が外板10a,10bの他端に到達し、摩擦攪拌接合が終了すると、摩擦攪拌接合システム1は、回転ツール3を外板10a,10bから離間させ、回転ツール3の回転を停止させた後、処理を終了する。
【0034】
以上説明したように、摩擦攪拌接合システム1では、回転ツール3に接するようにツールホルダ4内に配置された加速度検出センサ201によって、回転ツールの加速度を検出する。このような加速度検出センサ201の配置により、加速度検出センサ201から出力される出力信号からモータの制御信号の電気ノイズを排除することができる。そして、この摩擦攪拌接合システム1では、上述のようにモータの制御信号の電気ノイズを排除した上で、加速度検出センサ201から出力された測定用の出力信号の波形パターンMと標本線H1,H2とが交差した場合に、回転ツール3に破損が生じたことを判断している。したがって、回転ツール3の破損時に生じる加速度検出センサ201からの瞬間的な出力信号の波形パターンMの破損部分M2を確実に捉えることが可能となり、回転ツール3の破損の誤検出を防止することができる。また、この摩擦攪拌接合システム1では、回転ツール3に破損が生じたと判断された場合に、回転ツール3の回転を直ちに停止させ、その後に外板10a,10bから離間させる。このような処理により、破損した回転ツール3の散乱を極力抑えられる。
【0035】
また、摩擦攪拌接合システム1では、回転ツール3が外板10a,10bから離間した後、回転停止位置Waにおいて、外板10a,10bをドリル18によって貫通させる。接合中に回転ツール3に破損が生じた場合、回転ツール3の破片は回転停止位置Waにおいて、外板10a,10bの内部に残留すると考えられる。そこで、回転ツール制御部206によって回転ツール3が外板10a,10bから離間した後、回転ツール3の回転停止位置Waにドリル18を貫通させることで、回転ツール3の破片Fを除去することができる。これにより、接合中に回転ツール3が破損した場合であっても、回転停止位置Waの接合状態を良好に保つことが可能となる。
【0036】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば、上述した実施形態では、加速度検出センサ201による回転ツール3の加速度を検出し、その出力信号の波形パターンを解析しているが、加速度検出センサ201に加えて、荷重検出センサを配置し、その出力信号の波形パターンを解析してもよい。また、ドリル18の直径はプローブ5よりわずかに大径のものを選定しているが、適宜選定されるものであってよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合システムを用いた摩擦攪拌接合を説明する斜視図である。
【図2】摩擦攪拌接合システムの構成を示す図である。
【図3】加速度検出センサの配置構成の一例を示す図である。
【図4】基準用の出力信号の波形パターンを示す図である。
【図5】図4に示した波形パターンから算出した標本線を示す図である。
【図6】回転ツールに破損が生じた場合の測定用の出力信号の波形パターンを示す図である。
【図7】回転ツールの破損の判断を示す図である。
【図8】摩擦攪拌接合システムの動作を示すフローチャートである。
【図9】ツールステーションでのツールの交換手順を示す図である。
【図10】破損した回転ツールの除去方法を説明する図である。
【図11】図9の後続の動作を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1…摩擦攪拌接合システム、3…回転ツール、4…ツールホルダ、10a,10b…外板(金属材)、16…切削ツール、201…加速度検出センサ(物理量検出手段)、203…標本線算出部(標本線算出手段)、205…破損判断部(破損判断手段)、206…回転ツール制御部(回転ツール手段)、208…切削ツール制御部(切削ツール制御手段)、L…突き合わせ部分、Wa…回転停止位置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材の接合方法として、摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合では、接合しようとする金属材を接合部において対向させる。そして、回転ツールの先端に設けられたプローブを接合部に押し込んで高速回転させることによって生じる摩擦熱を利用し、塑性流動によって2つの金属を接合する。
【0003】
このような摩擦攪拌接合において、接合中の回転ツールには、相当の荷重が加えられる。そのため、送り速度などの条件が不整合であった場合や、接合を繰り返し行った場合などに、回転ツールが破損してしまうことが生じ得る。このような工具の破損を検出する技術として、例えば特許文献1に記載の工具破損検出方法では、モータの負荷信号の検出値と、予め設定された設定値とを比較することにより、工具の破損を検出している。また、特許文献2では、モータの制御信号等に基づいてモータに働く外乱トルクを推定し、この外乱トルクを基準トルクと比較することによって工具の異常を検出している。
【特許文献1】特開平10−6185号公報
【特許文献2】特開平7−51991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回転ツールの材料には、例えばセラミックスのような脆性材料が用いられることがある。脆性材料からなる回転ツールが破損する場合、延性材料を用いる場合のように回転ツールの形が徐々に変形するのではなく、瞬間的に砕けるという特徴がある。したがって、脆性材料からなる回転ツールの破損の有無の監視に上述した従来の方法を適用すると、モータの制御信号に含まれる電気ノイズと、回転ツールの破損時の信号との区別が困難となり、回転ツールの破損の誤検出が生じるおそれがあった。このような誤検出が生じると、摩擦攪拌接合が不必要に中断されることになり、作業効率を低下させる一因となり得る。
【0005】
本発明は、上記課題解決のためになされたものであり、脆性材料からなる回転ツールの破損の誤検出を防止することができる摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明に係る摩擦攪拌接合システムは、脆性材料からなる回転ツールを金属材の端面同士の突き合せ部分に押し込み、回転ツールを回転させることにより金属材同士を接合する摩擦攪拌接合システムであって、回転ツールを把持するツールホルダと、回転ツールに接するようにツールホルダ内に配置され、回転ツールの破損状態に関する物理量の変化を検出する物理量検出手段と、回転ツールの破損が見られない場合に物理量測定手段から出力される基準用の出力信号の波形パターンの標準偏差に基づいて標本線を算出する標本線算出手段と、物理量測定手段から出力される測定用の出力信号の波形パターンと標本線とが交差した場合に、回転ツールに破損が生じたことを判断する破損判断手段と、破損判断手段によって回転ツールに破損が生じたと判断された場合に、回転ツールの回転を停止させ、その後に回転ツールを金属材から離間させる回転ツール制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
また、摩擦攪拌接合方法は、脆性材料からなる回転ツールを金属材の端面同士の突き合せ部分に押し込み、回転ツールを回転させることにより金属材同士を接合する摩擦攪拌接合方法であって、回転ツールに接するように回転ツールを把持するツールホルダ内に配置された物理量検出手段が、回転ツールの破損状態に関する物理量の変化を検出するステップと、標本線算出手段が、回転ツールの破損が見られない場合に物理量測定手段から出力される基準用の出力信号の波形パターンの標準偏差に基づいて標本線を算出するステップと、破損判断手段が、物理量測定手段から出力される測定用の出力信号の波形パターンと標本線とが交差した場合に、回転ツールに破損が生じたことを判断するステップと、回転ツール制御手段が、破損判断手段によって回転ツールに破損が生じたと判断された場合に、回転ツールの回転を停止させ、その後に回転ツールを金属材から離間させるステップとを備えたことを特徴とする。
【0008】
この摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法では、回転ツールに接するようにツールホルダ内に配置された物理量検出手段によって、回転ツールの破損状態に関する物理量の変化を検出する。このような物理量検出手段の配置により、物理量検出手段から出力される出力信号からモータの制御信号の電気ノイズを排除することができる。そして、この摩擦攪拌接合では、上述のようにモータの制御信号の電気ノイズを排除した上で、物理量検出手段から出力された測定用の出力信号の波形パターンと、基準用の出力信号の波形パターンの標準偏差に基づいて算出された標本線とが交差した場合に、回転ツールに破損が生じたことを判断している。したがって、回転ツールの破損時に生じる物理量検出手段からの瞬間的な出力信号を確実に捉えることが可能となり、回転ツールの破損の誤検出を防止することができる。また、この摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法では、回転ツールに破損が生じたと判断された場合に、回転ツールの回転を直ちに停止させ、その後に金属材から離間させる。このような処理により、破損した回転ツールの散乱を極力抑えられる。
【0009】
また、回転ツール制御手段によって回転ツールが金属材から離間した後、回転ツールの回転停止位置において、金属材に切削ツールを貫通させる切削ツール制御手段を更に備えたことが好ましい。接合中に回転ツールに破損が生じた場合、回転ツールの破片は回転停止位置において、金属材の内部に残留すると考えられる。そこで、回転ツール制御手段によって回転ツールが金属材から離間した後、回転停止位置に切削ツールを貫通させることで、回転ツールの破片を除去することができる。これにより、接合中に回転ツールが破損した場合であっても、回転停止位置における接合部の接合状態を良好に保つことが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法によれば、脆性材料からなる回転ツールの破損の誤検出を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る摩擦攪拌接合システムの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る摩擦攪拌接合システム1を用いた摩擦攪拌接合を説明する斜視図である。図1に示す例では、例えば鉄道車両の外板10a,10b同士を接合する。外板10a,10bは、例えばステンレス鋼によって形成された厚さ数mm程度の平板材である。
【0013】
摩擦攪拌接合システム1は、外板10a,10bを接合するための構成要素として、図1に示すように、載置部2と、回転ツール3と、ツールホルダ4とを有している。回転ツール3は、例えばセラミックスといった脆性材料から形成され、略円柱状をなしている。回転ツール3の先端には、回転ツール3の直径よりも小径の略円柱状のプローブ5が同軸に設けられている。ツールホルダ4は、金属といった延性材料から形成され、略円柱形をなしている。ツールホルダ4の内部には、回転ツール3の直径とほぼ同等の略円柱形の内部空間Sが長軸方向に沿って形成されている(図3参照)。内部空間Sの下端部には、回転ツール3の上部が差し込まれており、これにより、回転ツール3は、ツールホルダ4の下端部4aに把持されている。
【0014】
摩擦攪拌接合システム1を用いた摩擦攪拌接合では、載置部2に載置した外板10a,10bの端面同士を突き合わせ、回転ツール3を例えば600rpmの回転速度で回転させながら、外板10a,10bの突き合わせ部分Lの一端に押し込む。そして、回転ツール3を、例えば600mm/minの移動速度で突き合わせ部分Lに沿って移動させる。このとき、回転する回転ツール3と外板10a,10bとの間で発生する摩擦熱よる塑性流動によって接合部Wが形成され、突き合わせ部分Lに沿って外板10a,10bの端面同士が接合される。回転ツール3が、外板10a,10bの突き合わせ部分Lの他端まで到達すると、回転ツール3を外板10a,10bから引き上げ、回転ツール3を外板10a,10bから離間させて、処理が終了する。
【0015】
このような摩擦攪拌接合では、接合する外板10a,10bの厚さに対して、回転ツール3の移動速度の条件が不整合であった場合や、接合を繰り返し行った場合などに、回転ツール3に過剰な負荷が蓄積してしまい、脆性材料からなる回転ツール3に破損が生じることがある。脆性材料からなる回転ツールが破損する場合、延性材料を用いる場合のように回転ツールの形が徐々に変形するのではなく、瞬間的に砕けるという特徴がある。したがって、脆性材料からなる回転ツールの破損の有無の監視にモータの制御信号のモニタリングによる方法を適用すると、モータの制御信号に含まれる電気ノイズと、回転ツールの破損時の信号との区別が困難となり、回転ツールの破損の誤検出が生じるおそれがあった。
【0016】
そこで、摩擦攪拌接合システム1では、回転ツール3の破損の誤検出を防止するための機能的な構成要素として、図2に示すように、加速度検出センサ(物理量検出手段)201と、出力信号取得部202と、標本線算出部(標本線算出手段)203と、標本線格納部204と、破損判断部(破損判断手段)205と、回転ツール制御部(回転ツール制御手段)206と、移送部207と、切削ツール制御部(切削ツール制御手段)208とを有している。
【0017】
加速度検出センサ201は、回転ツール3の加速度を検出するセンサである。図3は、加速度検出センサ201の配置構成の一例を示す図である。同図に示すように、加速度検出センサ201は、ツールホルダ4の内部空間S内に配置され、ツールホルダ4の下端部4aに把持された回転ツール3の上端面3aに接する位置で、ツールホルダ4の内壁に接着固定されている。
【0018】
加速度検出センサ201のケーブル8は、ツールホルダ4の内部空間Sの上方に延び、ケーブル8の先端9は、内部空間Sの上端部においてツールホルダ4の内壁に固定されている。ケーブル8の先端9とツールホルダ4の内壁との固定には、例えば圧着端子が用いられる。このような構成により、加速度検出センサ201は、回転ツール3に加わる上下方向の加速度を検出し、検出した加速度に応じた測定用の出力信号をスリップリング6の電極7a,7bを介して出力信号取得部202に出力する。
【0019】
出力信号取得部202は、加速度検出センサ201で検出された加速度に応じた測定用の出力信号を取得する部分である。出力信号取得部202は、取得した測定用の出力信号を波形パターン化し、破損判断部204に出力する。
【0020】
標本線算出部203は、回転ツール3に破損が生じたか否かを判断する際に閾値として用いる標本線を算出する部分である。標本線は、接合中において回転ツール3に破損が生じなかった場合に加速度検出センサ201から出力された基準用の出力信号を用いて予め算出される。図4は、基準用の出力信号の波形パターンの一例を示す図である。図4に示す例では、基準用の出力信号の波形パターンRは、回転ツール3の回転周期と対応する周期で、摩擦攪拌接合の開始から終了に至るまで一様な振幅となっている。標本線算出部203は、基準用の出力信号の波形パターンRを標準偏差σに基づいて正規化し、図5に示すように、標準偏差σの例えば3倍(±3σ)を標本線H1,H2として算出している。
【0021】
標本線格納部204は、標本線算出部203によって算出された標本線H1,H2を格納する部分である。標本線格納部204は、破損判断部205(後述)が回転ツール3に破損が生じたかを判断する際に、格納している標本線H1,H2を出力する。
【0022】
破損判断部205は、回転ツール3に破損が生じたことを判断する部分である。ここで、図6は、接合中に回転ツール3に破損が生じた場合の測定用の出力信号の波形パターンを示す図である。図6に示す例では、測定用の出力信号の波形パターンMに、回転ツール3に破損が生じる前の正常部分M1と、回転ツール3の破損を示す破損部分M2とが現れている。正常部分M1では、基準用の波形パターンRと同様に回転ツール3の回転周期と対応する周期で、一様な振幅となっている。破損部分M2では、瞬間的に、振幅が正常部分M1に比べて急激に増加する挙動を示している。
【0023】
破損判断部205は、波形パターンMと標本線H1,H2とが交差した場合に、回転ツール3に破損が生じたと判断する。例えば、破損判断部205は、図7に示すように、波形パターンMの破損部分M2が現れ、波形パターンMと標本線H1,H2とが交差した場合に、回転ツール3に破損が生じたと判断する。一方、破損判断部205は、波形パターンMの破損部分M2が現れず、波形パターンMと標本線H1,H2とが交差しないうちは、回転ツール3に破損が生じたと判断しない。破損判断部205は、破損が生じたと判断するまでは特段の処理をせず、回転ツール3に破損が生じたと判断した場合に、その旨を示す判断結果情報を回転ツール制御部206に出力する。
【0024】
回転ツール制御部206は、破損判断部205から受け取った判断結果情報に基づいて、回転ツール3を制御する部分である。回転ツール制御部206は、判断結果情報を受け取ると、最初に回転ツール3の回転を直ちに停止させる(以下、この停止位置を「回転停止位置Wa」と称する)。回転ツール制御部206は、回転ツール3を停止させた後に、回転ツール3を外板10a,10bの上方に離間させると、動作指示情報を移送部207に出力する。
【0025】
移送部207は、ツールホルダ4をツールステーション30に移送する部分である。ツールステーション30には、例えば切削ツール16と、先端にプローブ15を備えた未使用の複数の回転ツール12とがセットされている(図10参照)。切削ツール16は、ツールホルダ4に把持されるドリル把持部17と、ドリル把持部17に把持されるドリル18とが同軸に設けられている。ドリル把持部17は、回転ツール3と同径であり、ドリル18は、プローブ5よりもわずかに大径である。回転ツール12は、図3に示した回転ツール3と同形状であり、未使用のものである。移送部207は、回転ツール制御部206から動作指示情報を受け取ると、ツールホルダ4を接合中の外板10a,10bからツールステーション30に移送する。また、移送部207は、回転停止位置Waを記憶し、ツールステーション30から回転停止位置Waへのツールホルダ4の移送も行う。
【0026】
切削ツール制御部208は、切削ツール16の動作を制御すると共に、ツールホルダ4に把持されるツールの交換を行う部分である。切削ツール制御部208は、移送部207によるツールステーション30への移送が行われると、破損が認められた回転ツール3をツールホルダ4から取り外し、切削ツール16をツールホルダ4に装着させる。切削ツール制御部208は、回転ツール3を切削ツール16に交換した後に、切削ツール16を回転させながら回転停止位置Waに押し込むことによって、回転停止位置Waを貫通させる。切削ツール制御部208は、回転停止位置Waの貫通後、移送部207によるツールステーション30への移送が行われると、ツールホルダ4から切削ツール16を取り外し、回転ツール12をツールホルダ4に装着させる。
【0027】
続いて、上述した構成を有する摩擦攪拌接合システム1の動作について、図8を参照しながら説明する。図8は、摩擦攪拌接合システム1の動作を示すフローチャートである。
【0028】
まず、回転ツール3を回転させながら外板10a,10bの一端に押し込み、摩擦攪拌接合が開始される(ステップS01)。接合を行っている間、加速度検出センサ201による回転ツール3の加速度の検出が行われる(ステップS02)。出力信号取得部202は、加速度検出センサ201から出力される測定用の出力信号を取得し、この出力信号を時間軸に対して波形パターン化する(ステップS03)。
【0029】
次に、破損判断部205は、出力信号取得部202から受け取った測定用の波形パターンMと、標本線格納部204に格納されている標本線H1,H2とを比較し、回転ツール3に破損が生じたか否かを判断する(ステップS04)。破損判断部205は、波形パターンMの破損部分M2が現れ、波形パターンMと標本線H1,H2とが交差した場合に、回転ツール3に破損が生じたと判断する。一方、破損判断部205は、波形パターンMの破損部分M2が現れず、波形パターンMと標本線H1,H2とが交差しないうちは、回転ツール3に破損が生じたと判断しない。
【0030】
ステップS04において、回転ツール3に破損が生じたと判断されると、回転ツール制御部206は、回転ツール3の回転を直ちに停止させ、その後に回転ツール3を接合中の外板10a,10bから離間させる(ステップS05)。
【0031】
回転ツール3を外板10a,10bから離間させた後、移送部207によるツールステーション30への移送が行われる(ステップS06)。ツールステーション30では、切削ツール制御部208によってツール破棄部20(図11参照)に回転ツール3が破棄されると、ツールステーション30が時計回りに回転し、図9(a)に示すように、切削ツール16がツールホルダ4の真下に配置される。ツールホルダ4が下降し、切削ツール16がツールホルダ4に装着されると、ツールホルダ4は、移送部207によって外板10a,10bの上方に移送され、図9(b)に示すように、切削ツール16が回転停止位置Waに配置される。そして、図10(a)に示すように、切削ツール16のドリル18が回転しながら回転停止位置Waに回転させながら押し込しこまれ、図10(b)に示すように、回転停止位置Waに貫通部Pが形成される。これにより、外板10a,10bの内部に残留した回転ツール3の破片Fが、回転停止位置Waから除去される(ステップS07)。この後、再び移送部207によるツールステーション30への移送が行われる。
【0032】
ツールステーション30において、切削ツール制御部208によって切削ツール収納部22に切削ツール16が取り外されると、ツールステーション30が時計回りに回転し、新しい回転ツール12がツールホルダ4の真下に配置される。ツールホルダ4が下降し、新しい回転ツール12がツールホルダ4に装着されると(ステップS08)、図11(a)に示すように、移送部207によって外板10a,10bの上方に回転ツール12が移送され、回転ツール12が貫通部Pに復帰する。この後、図11(b)に示すように、回転ツール12を回転させながら、外板10a,10bにおける貫通部Pに押し込み、摩擦攪拌接合が再開される(ステップS09)。なお、貫通部Pは、再開した摩擦攪拌接合により塞がれ、回転停止位置Waに対する接合状態への影響は殆どない。
【0033】
一方、ステップS04において、回転ツール3に破損があると判断されなかった場合、及びステップS09において、接合が再開された場合には、摩擦攪拌接合が継続され、摩擦攪拌接合が終了したか否かが判断される(ステップS10)。摩擦攪拌接合の継続中は、上述したステップS02〜ステップS10の一連の処理が繰り返される。回転ツール3が外板10a,10bの他端に到達し、摩擦攪拌接合が終了すると、摩擦攪拌接合システム1は、回転ツール3を外板10a,10bから離間させ、回転ツール3の回転を停止させた後、処理を終了する。
【0034】
以上説明したように、摩擦攪拌接合システム1では、回転ツール3に接するようにツールホルダ4内に配置された加速度検出センサ201によって、回転ツールの加速度を検出する。このような加速度検出センサ201の配置により、加速度検出センサ201から出力される出力信号からモータの制御信号の電気ノイズを排除することができる。そして、この摩擦攪拌接合システム1では、上述のようにモータの制御信号の電気ノイズを排除した上で、加速度検出センサ201から出力された測定用の出力信号の波形パターンMと標本線H1,H2とが交差した場合に、回転ツール3に破損が生じたことを判断している。したがって、回転ツール3の破損時に生じる加速度検出センサ201からの瞬間的な出力信号の波形パターンMの破損部分M2を確実に捉えることが可能となり、回転ツール3の破損の誤検出を防止することができる。また、この摩擦攪拌接合システム1では、回転ツール3に破損が生じたと判断された場合に、回転ツール3の回転を直ちに停止させ、その後に外板10a,10bから離間させる。このような処理により、破損した回転ツール3の散乱を極力抑えられる。
【0035】
また、摩擦攪拌接合システム1では、回転ツール3が外板10a,10bから離間した後、回転停止位置Waにおいて、外板10a,10bをドリル18によって貫通させる。接合中に回転ツール3に破損が生じた場合、回転ツール3の破片は回転停止位置Waにおいて、外板10a,10bの内部に残留すると考えられる。そこで、回転ツール制御部206によって回転ツール3が外板10a,10bから離間した後、回転ツール3の回転停止位置Waにドリル18を貫通させることで、回転ツール3の破片Fを除去することができる。これにより、接合中に回転ツール3が破損した場合であっても、回転停止位置Waの接合状態を良好に保つことが可能となる。
【0036】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば、上述した実施形態では、加速度検出センサ201による回転ツール3の加速度を検出し、その出力信号の波形パターンを解析しているが、加速度検出センサ201に加えて、荷重検出センサを配置し、その出力信号の波形パターンを解析してもよい。また、ドリル18の直径はプローブ5よりわずかに大径のものを選定しているが、適宜選定されるものであってよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る摩擦攪拌接合システムを用いた摩擦攪拌接合を説明する斜視図である。
【図2】摩擦攪拌接合システムの構成を示す図である。
【図3】加速度検出センサの配置構成の一例を示す図である。
【図4】基準用の出力信号の波形パターンを示す図である。
【図5】図4に示した波形パターンから算出した標本線を示す図である。
【図6】回転ツールに破損が生じた場合の測定用の出力信号の波形パターンを示す図である。
【図7】回転ツールの破損の判断を示す図である。
【図8】摩擦攪拌接合システムの動作を示すフローチャートである。
【図9】ツールステーションでのツールの交換手順を示す図である。
【図10】破損した回転ツールの除去方法を説明する図である。
【図11】図9の後続の動作を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1…摩擦攪拌接合システム、3…回転ツール、4…ツールホルダ、10a,10b…外板(金属材)、16…切削ツール、201…加速度検出センサ(物理量検出手段)、203…標本線算出部(標本線算出手段)、205…破損判断部(破損判断手段)、206…回転ツール制御部(回転ツール手段)、208…切削ツール制御部(切削ツール制御手段)、L…突き合わせ部分、Wa…回転停止位置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料からなる回転ツールを金属材の端面同士の突き合せ部分に押し込み、前記回転ツールを回転させることにより前記金属材同士を接合する摩擦攪拌接合システムであって、
前記回転ツールを把持するツールホルダと、
前記回転ツールに接するように前記ツールホルダ内に配置され、前記回
転ツールの破損状態に関する物理量の変化を検出する物理量検出手段と、
前記回転ツールの破損が見られない場合に前記物理量測定手段から出力される基準用の出力信号の波形パターンの標準偏差に基づいて標本線を算出する標本線算出手段と、
前記物理量測定手段から出力される測定用の出力信号の波形パターンと前記標本線とが交差した場合に、前記回転ツールに破損が生じたことを判断する破損判断手段と、
前記破損判断手段によって前記回転ツールに破損が生じたと判断された場合に、前記回転ツールの回転を停止させ、その後に前記回転ツールを前記金属材から離間させる回転ツール制御手段とを備えたことを特徴とする摩擦攪拌接合システム。
【請求項2】
前記回転ツール制御手段によって前記回転ツールが前記金属材から離間した後、前記回転ツールの回転停止位置において、前記金属材に切削ツールを貫通させる切削ツール制御手段を更に備えたことを特徴とする請求項1記載の摩擦攪拌接合システム。
【請求項3】
脆性材料からなる回転ツールを金属材の端面同士の突き合せ部分に押し込み、前記回転ツールを回転させることにより前記金属材同士を接合する摩擦攪拌接合方法であって、
前記回転ツールに接するように前記回転ツールを把持するツールホルダ内に配置された物理量検出手段が、前記回転ツールの破損状態に関する物理量の変化を検出するステップと、
標本線算出手段が、前記回転ツールの破損が見られない場合に前記物理量測定手段から出力される基準用の出力信号の波形パターンの標準偏差に基づいて標本線を算出するステップと、
破損判断手段が、前記物理量測定手段から出力される測定用の出力信号の波形パターンと前記標本線とが交差した場合に、前記回転ツールに破損が生じたことを判断するステップと、
回転ツール制御手段が、前記破損判断手段によって前記回転ツールに破損が生じたと判断された場合に、前記回転ツールの回転を停止させ、その後に前記回転ツールを前記金属材から離間させるステップとを備えたことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項4】
切削ツール制御手段が、前記回転ツール制御手段によって前記回転ツールが前記金属材から離間した後、前記回転ツールの回転停止位置において、前記金属材に切削ツールを貫通させるステップを更に備えたことを特徴とする請求項3記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項1】
脆性材料からなる回転ツールを金属材の端面同士の突き合せ部分に押し込み、前記回転ツールを回転させることにより前記金属材同士を接合する摩擦攪拌接合システムであって、
前記回転ツールを把持するツールホルダと、
前記回転ツールに接するように前記ツールホルダ内に配置され、前記回
転ツールの破損状態に関する物理量の変化を検出する物理量検出手段と、
前記回転ツールの破損が見られない場合に前記物理量測定手段から出力される基準用の出力信号の波形パターンの標準偏差に基づいて標本線を算出する標本線算出手段と、
前記物理量測定手段から出力される測定用の出力信号の波形パターンと前記標本線とが交差した場合に、前記回転ツールに破損が生じたことを判断する破損判断手段と、
前記破損判断手段によって前記回転ツールに破損が生じたと判断された場合に、前記回転ツールの回転を停止させ、その後に前記回転ツールを前記金属材から離間させる回転ツール制御手段とを備えたことを特徴とする摩擦攪拌接合システム。
【請求項2】
前記回転ツール制御手段によって前記回転ツールが前記金属材から離間した後、前記回転ツールの回転停止位置において、前記金属材に切削ツールを貫通させる切削ツール制御手段を更に備えたことを特徴とする請求項1記載の摩擦攪拌接合システム。
【請求項3】
脆性材料からなる回転ツールを金属材の端面同士の突き合せ部分に押し込み、前記回転ツールを回転させることにより前記金属材同士を接合する摩擦攪拌接合方法であって、
前記回転ツールに接するように前記回転ツールを把持するツールホルダ内に配置された物理量検出手段が、前記回転ツールの破損状態に関する物理量の変化を検出するステップと、
標本線算出手段が、前記回転ツールの破損が見られない場合に前記物理量測定手段から出力される基準用の出力信号の波形パターンの標準偏差に基づいて標本線を算出するステップと、
破損判断手段が、前記物理量測定手段から出力される測定用の出力信号の波形パターンと前記標本線とが交差した場合に、前記回転ツールに破損が生じたことを判断するステップと、
回転ツール制御手段が、前記破損判断手段によって前記回転ツールに破損が生じたと判断された場合に、前記回転ツールの回転を停止させ、その後に前記回転ツールを前記金属材から離間させるステップとを備えたことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項4】
切削ツール制御手段が、前記回転ツール制御手段によって前記回転ツールが前記金属材から離間した後、前記回転ツールの回転停止位置において、前記金属材に切削ツールを貫通させるステップを更に備えたことを特徴とする請求項3記載の摩擦攪拌接合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−82950(P2009−82950A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254883(P2007−254883)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]