説明

摩擦攪拌接合用の回転ツール

【課題】融点が互いに異なる金属部材同士の接合強度を向上させることができる摩擦攪拌接合用の回転ツールを提供する。
【解決手段】融点が互いに異なる金属部材A,B同士を接合すべく、金属部材A,Bに摩擦熱を供給する摩擦攪拌接合用の回転ツールXであって、円柱形のツール本体10と、ツール本体10よりも小径かつツール本体10と同軸芯状にツール本体10の一端に突出形成され、ツール本体10と一体回転するプローブ20とを備え、プローブ20の周面に複数の切削刃21を突出形成すると共に、これら複数の切削刃21を、プローブ20における高さの異なる位置に、かつ、プローブ20の周方向に分散配置してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融点が互いに異なる金属部材同士を接合すべく、当該金属部材に摩擦熱を供給する摩擦攪拌接合用の回転ツールに関する。
【背景技術】
【0002】
異なる金属部材同士を接合する際に摩擦熱を利用する方法として摩擦攪拌接合法がある。この方法では、例えばアルミニウム材と異種金属部材とを突き合わせた部位に回転ツールであるプローブを高速回転させた状態で接触させ、その摩擦熱により金属部材を軟化させる。これにより、両金属部材が混合状態で固化した接合部が形成され、両金属部材は接合される。
当該プローブは円筒状の形状の他、例えば特許文献1〜3に記載の形状が知られている。
【0003】
特許文献1には、プローブの外周面に少なくとも1つ以上の三角形または四角形の平面部を有し、当該平面部に略直角の角度を成して連続する小面部を有する摩擦撹拌接合具が記載してある。
特許文献2には、先端面寄りの周面に周方向に沿った凹溝を複数形成したプローブを備えた摩擦撹拌接合具が記載してある。
特許文献3には、螺旋状のネジ溝が形成してあるプローブを備えた摩擦撹拌接合具が記載してある。
【0004】
これら特許文献1〜3に記載の装置では、プローブの周面に当該プローブの周方向に沿って複数の凹凸部が形成してあるため、攪拌性が向上する。
【0005】
【特許文献1】特開2007−175764号公報
【特許文献2】特開2002−79383号公報
【特許文献3】特表2002−514512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、融点が互いに異なる金属部材同士を摩擦撹拌接合により接合するとき、高速回転するプローブは融点の低い金属部材を軟化させつつ当該金属部材の側に溶入し、融点の高い金属部材の側面を切削する。
【0007】
特許文献1〜3に記載の摩擦撹拌接合工具では、プローブの一定の高さ位置のみに沿った凹凸部、或いは、周面に連続した凹凸部が形成してある。そのため、前記金属部材においては、その側面の限られた部位しか切削されないか、或いは、単一の切削溝しか形成されない。このように、金属部材が切削される領域の形状は単純な形状となるため、金属部材同士の接合面の形状は単純なものとなる。
【0008】
また、プローブによって、前記金属部材の側面の限られた部位しか切削されない場合、例えばアルミニウム材等のようにその表面に酸化皮膜を形成する金属部材では、酸化皮膜の下層の金属面を露出させ難い。
【0009】
よって、特許文献1〜3に記載の摩擦撹拌接合工具では、融点が互いに異なる金属部材同士を接合したとき、これら金属部材の接合面での接合が弱くなり、十分な接合強度は得られにくい。
【0010】
従って、本発明の目的は、融点が互いに異なる金属部材同士の接合強度を向上させることができる摩擦攪拌接合用の回転ツールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る摩擦攪拌接合用の回転ツールは、融点が互いに異なる金属部材同士を接合すべく、当該金属部材に摩擦熱を供給する摩擦攪拌接合用の回転ツールであって、その第一特徴構成は、円柱形のツール本体と、当該ツール本体よりも小径かつ前記ツール本体と同軸芯状に前記ツール本体の一端に突出形成され、前記ツール本体と一体回転するプローブと、を備え、前記プローブの周面に複数の切削刃を突出形成すると共に、これら複数の切削刃を、前記プローブにおける高さの異なる位置に、かつ、前記プローブの周方向に分散配置した点にある。
【0012】
融点の異なる金属部材同士を接合する場合、この両部材の当接部分にプローブを当接させて高速回転させると、低融点金属部材はプローブとの接触による摩擦熱で軟化し、当該プローブは低融点金属部材に溶入する。このとき、高融点金属部材は、プローブの回転によってその側面が切削刃により切削される。
【0013】
本構成では、それぞれが連続しない多数の切削刃を、プローブの全面に分散させて備えることができる。このようなプローブを高速回転させて高融点金属部材を切削するとき、低融点金属部材に溶入したプローブは、溶入したプローブの深さに相当する領域に亘って、高融点金属部材の側面に切削領域を形成することができる。切削領域とは、切削刃によって切削される切削部が形成される範囲のことをいう。さらに、高融点金属部材の側面には、プローブの全面に分散し、それぞれが連続しない複数の切削刃によって複数の切削部が形成される。
【0014】
このように本構成の回転ツールでは、切削領域を広く形成することができ、かつ、当該切削領域に複数の切削部を形成できる。従って、金属部材同士の接合部の形状は複雑になり、それぞれの金属部材の接触面積が増大する。
【0015】
そして、高融点金属部材の切削領域に軟化した低融点金属部材が流入し硬化することで、高融点金属部材および低融点金属部材が噛み合うこととなる。
【0016】
このように本構成の回転ツールでは、切削領域を広くかつ複雑に形成することができるので、表面に酸化皮膜を形成する金属部材同士であっても、これら金属部材同士を強固に接合することができる。
【0017】
本発明に係る摩擦攪拌接合用の回転ツールの第二特徴構成は、前記回転ツールを回転させたとき、前記回転ツールの回転軸芯に対する直角な方向視において、前記切削刃により切削されて前記金属部材に形成された切削部が、前記回転軸芯の延出方向に沿って連続するよう前記複数の切削刃を配置した点にある。
【0018】
本構成によれば、切削領域の全体に亘って切削部を形成できるため、金属部材同士の接合部の形状はより複雑なものとなり、それぞれの金属部材の接触面積がさらに増大する。従って、金属部材同士の接合の程度はより強固になる。
【0019】
本発明に係る摩擦攪拌接合用の回転ツールの第三特徴構成は、前記回転ツールの回転軸芯に沿う方向視において、前記切削刃が回転方向に対するすくい面を備えた点にある。
【0020】
すくい面は、切削刃の先端部分に続く部分であり、本構成のすくい面は、回転方向に面しており、かつ、前記先端部分が鋭角となるように構成できる。
そのため、本構成では、切削刃を鋭利な刃とすることができるため、金属部材を確実に切削することができる。
【0021】
本発明に係る摩擦攪拌接合用の回転ツールの第四特徴構成は、前記プローブの同じ高さ位置に複数の切削刃を備えており、これら複数の切削刃における前記すくい面の全てが、前記周方向の同一方向を向くことがないように構成した点にある。
【0022】
本構成のように、当該すくい面の全てが、周方向の同一方向を向くことがないように構成すれば、プローブの回転方向が正逆の何れであったとしても、当該高さ位置における切削部を確実に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
摩擦攪拌接合方法は、金属部材同士を突き合わせた部位に回転ツールであるプローブを高速回転させた状態で接触させて摩擦熱を供給し、その摩擦熱により金属部材を軟化させて接合する。
当該金属部材は同種の金属材であってもよいが、本明細書における摩擦攪拌接合用の回転ツールは、特に、融点が互いに異なる金属部材同士を接合する場合に使用される。当該金属部材としては、例えばエンジンのピストンに使用される部材が例示されるが、これに限られるものではない。
【0024】
図1に示したように、本発明の摩擦攪拌接合用の回転ツールXは、円柱形のツール本体10と、ツール本体10よりも小径かつツール本体10と同軸芯状にツール本体10の一端に突出形成され、ツール本体10と一体回転するプローブ20と、を備え、プローブ20の周面に複数の切削刃21を突出形成すると共に、これら複数の切削刃21を、プローブ20における高さの異なる位置に、かつ、プローブ20の周方向に分散配置してある。
当該回転ツールXは、ツール本体10およびプローブ20を回転させるため、ロータリモータ駆動部(図外)と接続してある。当該ロータリモータ駆動部は、ツール本体10およびプローブ20の回転方向が、正逆の何れの回転も可能となるように構成する。
【0025】
ツール本体10およびプローブ20は、同じ回転軸心Zを有するように構成すれば、別体又は一体の何れであってもよい。
ツール本体10の一端には、プローブ20を設けると共に、当該プローブ20の周囲に肩部11が形成されるように構成してある。本発明の回転ツールXでは、融点が互いに異なる金属部材同士を接合するため、融点の低い金属部材(低融点金属部材)が軟化した場合であっても、融点の高い金属部材(高融点金属部材)が軟化しなければ、当該肩部11が高融点金属部材と当接するため、プローブ20が低融点金属部材に溶入する深さが規定される。
【0026】
プローブ20の周面には、その全面に亘って複数の切削刃21を突出形成してある。これら複数の切削刃21は、プローブ20における高さの異なる位置に、かつ、プローブ20の周方向に分散配置してある。
本構成では、回転ツールXを回転させたとき、回転ツールXの回転軸芯Zに対する直角な方向視において、切削刃21によって形成された切削部31が、回転軸芯Zの延出方向に沿って、間隔を有するように構成してある(図1,2)。
複数の切削刃21の形状・大きさはそれぞれ同一のものを使用する。
【0027】
低融点金属部材Bはプローブ20との接触による摩擦熱で軟化し、プローブ20は低融点金属部材Bに溶入する。このとき、高融点金属部材Aは、プローブ20の回転によってその側面が切削刃21により切削される。
本構成では、それぞれが連続しない多数の切削刃21を、プローブ20の全面に分散してある。このようなプローブ20を高速回転させて高融点金属部材Aを切削するとき、低融点金属部材Bに溶入したプローブ20は、溶入したプローブ20の深さに相当する領域に亘って、高融点金属部材Aの側面に切削領域30を形成することができる。切削領域30とは、切削部31が形成される範囲のことをいう。さらに、高融点金属部材Aの側面には、複数の切削刃21によって複数の切削部31が形成される。
【0028】
このように本発明の回転ツールXでは、切削領域30を広く形成することができ、かつ、当該切削領域30に複数の切削部31を形成できる。従って、金属部材同士の接合部Jの形状は複雑になり、それぞれの金属部材の接触面積が増大する。
【0029】
そして、高融点金属部材Aの切削領域30(切削部31)に軟化した低融点金属部材Bが流入し硬化することで、高融点金属部材Aおよび低融点金属部材Bが噛み合うこととなる。従って、本発明の回転ツールXでは、切削領域30を広くかつ複雑に形成することができるので、表面に酸化皮膜を形成する金属部材同士であっても、これら金属部材同士を強固に接合することができる。
【0030】
接合される対となる金属部材は、高速回転するプローブ20と接触して摩擦熱が発生することで軟化する金属部材と、切削される金属部材との組み合わせであれば使用できる。
融点が互いに異なる金属部材同士の組み合わせとしては、例えば、アルミニウム(又はアルミニウム合金)および鉄鋼(一般鋼・炭素鋼・特殊鋼・合金鋼)、マグネシウム(又はマグネシウム合金)および当該鉄鋼等が挙げられる。これら組み合わせにおいて、前記鉄鋼はチタン合金とすることも可能である。
【実施例】
【0031】
異種金属部材の接合処理前においては、両金属部材の相対高さが異なるように、隣接して配置する(図1〜6)。本実施形態では、何れの態様においても、高融点金属部材Aの高さは低融点金属部材Bの高さより低い場合を例示する。当該相対高さの差は例えば2.0mm程度とする。
例えば図4,5においては、高融点金属部材Aより低融点金属部材Bの方が板厚が厚い場合を例示する。図4は突合せ継ぎ、図5は重ね継ぎの態様を示す(図4の切削領域の形状については後述する)。図6にも重ね継ぎの態様を示すが、この場合、高融点金属部材Aより低融点金属部材Bの方が板厚が薄くなっている。
【0032】
上述したように金属部材同士の相対高さが異なる場合、低融点金属部材Bの上面にプローブ20の下面を当接させた状態、或いは、低融点金属部材Bの側面にプローブ20の側面を当接させた状態でプローブ20を回転させる。このとき、プローブ20と低融点金属部材Bとの摩擦熱により、低融点金属部材Bが軟化してプローブ20が低融点金属部材Bに溶入する(図2(a))。
高融点金属部材Aの側面は、溶入したプローブ20の切削刃21によって切削される(図2(a),(b))。そして、低融点金属部材Bが硬化し、高融点金属部材Aおよび低融点金属部材Bが接合される。
このように本実施例では、溶入したプローブ20の深さに相当する領域に亘って、高融点金属部材Aの側面に、切削領域30を形成することができる。
【0033】
〔別実施の形態1〕
上述した実施形態では、回転ツールXを回転させたとき、回転ツールXの回転軸芯Zに対する直角な方向視において、切削刃21による切削部31が、回転軸芯Zの延出方向に沿って、間隔を有するように構成した場合について説明した。しかし、このような態様に限られない。
回転ツールXを回転させたとき、回転ツールXの回転軸芯Zに対する直角な方向視において、切削刃21により切削されて金属部材に形成された切削部31が、回転軸芯Zの延出方向に沿って連続するよう複数の切削刃21を配置することが可能である(図3,4)。
【0034】
本構成では、切削領域30の全体に亘って切削部31を形成できるため、金属部材同士の接合部Jの形状はより複雑なものとなり、それぞれの金属部材の接触面積がさらに増大する。従って、金属部材同士の接合の程度はより強固になる。
【0035】
〔別実施の形態2〕
回転ツールXの回転軸芯Zに沿う方向視において、切削刃21が回転方向に対するすくい面22を備えている(図7)。
すくい面22は切削刃21の先端部分に続く部分であり、本構成のすくい面21は回転方向に面しており、かつ、前記先端部分が鋭角となるように構成してある。
そのため、本構成では、切削刃21を鋭利な刃とすることができるため、金属部材を確実に切削することができる。
【0036】
また、本構成では、プローブ20の同じ高さ位置に複数の切削刃21を備えており、これら複数の切削刃21におけるすくい面22の全てが、周方向の同一方向を向くことがないように構成することができる。
【0037】
プローブ20は、正逆の何れの方向でも回転可能となるように構成してある。
仮にプローブ20の同じ高さ位置に複数の切削刃21が備えてある場合に、これら複数の切削刃21におけるすくい面22の全てが、周方向の同一方向を向くように構成してあると、プローブ20が特定の方向に回転した場合にのみ切削部31が形成されるため、不都合である。
一方、本構成のように、当該すくい面22の全てが、周方向の同一方向を向くことがないように構成すれば、プローブ20回転方向が正逆の何れであったとしても、当該高さ位置における切削部31を確実に形成することができる。
【0038】
〔別実施の形態3〕
上述した実施形態では、複数の切削刃21の形状・大きさはそれぞれ同一のものを使用した場合について説明した。しかし、このような態様に限らず、複数の切削刃21の形状がそれぞれ異なるように構成してもよい。
例えば、複数の切削刃21の大きさがそれぞれ異なるように構成すれば、形成される切削部31の深さは異なる。そのため、金属部材同士の接合部Jの形状はより複雑になり、それぞれの金属部材の接触面積を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の摩擦攪拌接合用の回転ツールおよび金属部材を示した概略図
【図2】本発明の摩擦攪拌接合用の回転ツールおよび金属部材を示した概略図
【図3】別実施形態の摩擦攪拌接合用の回転ツールおよび金属部材を示した概略図
【図4】別実施形態の摩擦攪拌接合用の回転ツールにより、突合せ継ぎで接合処理した金属部材の断面図
【図5】重ね継ぎで接合処理した金属部材の断面図
【図6】重ね継ぎで接合処理した金属部材の断面図
【図7】回転方向に対するすくい面を形成した切削刃の断面図
【符号の説明】
【0040】
X 回転ツール
A,B 金属部材
Z 回転軸芯
10 ツール本体
20 プローブ
21 切削刃
22 すくい面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が互いに異なる金属部材同士を接合すべく、当該金属部材に摩擦熱を供給する摩擦攪拌接合用の回転ツールであって、
円柱形のツール本体と、
当該ツール本体よりも小径かつ前記ツール本体と同軸芯状に前記ツール本体の一端に突出形成され、前記ツール本体と一体回転するプローブと、を備え、
前記プローブの周面に複数の切削刃を突出形成すると共に、これら複数の切削刃を、前記プローブにおける高さの異なる位置に、かつ、前記プローブの周方向に分散配置してある摩擦攪拌接合用の回転ツール。
【請求項2】
前記回転ツールを回転させたとき、前記回転ツールの回転軸芯に対する直角な方向視において、前記切削刃により切削されて前記金属部材に形成された切削部が、前記回転軸芯の延出方向に沿って連続するよう前記複数の切削刃を配置してある請求項1に記載の摩擦攪拌接合用の回転ツール。
【請求項3】
前記回転ツールの回転軸芯に沿う方向視において、前記切削刃が回転方向に対するすくい面を備えている請求項1又は2に記載の摩擦攪拌接合用の回転ツール。
【請求項4】
前記プローブの同じ高さ位置に複数の切削刃を備えており、これら複数の切削刃における前記すくい面の全てが、前記周方向の同一方向を向くことがないように構成してある請求項3に記載の摩擦攪拌接合用の回転ツール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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