摩擦特性測定装置およびそれに向けられるタイヤ
【課題】 ゴムなどの粘弾性体の実使用状態で摩擦特性の変化を推定・測定できる装置を提供する。
【解決手段】 摩擦特性測定装置100は、センサ部2から測定対象に振動を生じさせる音波を入射音波として放射し、センサ部2で音波が測定対象により反射されて生じる反射音波を受信する。そして、演算処理部1は、センサ部2で受信される反射音波に基づいて、測定対象の粘弾性特性のおける損失正接を導出する。さらに、演算処理部1は、導出した損失正接から所定の換算定数により摩擦特性を算出する。また、演算処理部1は、予め測定対象が存在しない状態において、入射音波を放射し、その反射音波を基準値として格納する。
【解決手段】 摩擦特性測定装置100は、センサ部2から測定対象に振動を生じさせる音波を入射音波として放射し、センサ部2で音波が測定対象により反射されて生じる反射音波を受信する。そして、演算処理部1は、センサ部2で受信される反射音波に基づいて、測定対象の粘弾性特性のおける損失正接を導出する。さらに、演算処理部1は、導出した損失正接から所定の換算定数により摩擦特性を算出する。また、演算処理部1は、予め測定対象が存在しない状態において、入射音波を放射し、その反射音波を基準値として格納する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は対象物の摩擦特性を測定する摩擦特性測定装置に関し、特に実使用状態における粘弾性体の摩擦特性の変化を推定測定できる摩擦特性測定装置およびそれに向けられるタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤやローラなどに使用されるゴム製品は、その摩擦特性により性能が決定される。たとえば、タイヤにおいては、タイヤと路面との間に生じる摩擦力により、いわゆるグリップ特性が得られる。そのため、製品の出荷前試験や使用に伴う製品の劣化試験などにおいて、ゴム製品などの特性を評価するためには、摩擦特性を測定することで重要である。
【0003】
従来から、摩擦特性を測定する方法として、測定対象を所定の荷重で圧接した状態で機械的な変位を与えた場合に生じる摩擦力を測定し、その荷重および測定された摩擦力から、摩擦係数を算出する方法が知られている。
【0004】
たとえば、特許3215579号公報(特許文献1)には、複写機、電子写真装置などの紙送りローラにおいて、搬送しようとする紙との間の摩擦係数を測定する紙送りローラの摩擦特性測定装置が開示されている。
【特許文献1】特許3215579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、摩擦特性の測定するために、測定装置に装着できるような試験片を用意する必要があった。
【0006】
そのため、測定対象から試験片を切取る必要があり、測定対象の摩擦特性を非破壊で測定することができなかった。また、従来の測定装置では、測定対象を破壊してしまうため使用中の製品の劣化試験を行なうことはできなかった。さらに、従来の測定装置では、出荷前試験において、全数調査を行なうことができず、抜き取り調査とならざるを得なかった。
【0007】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、非破壊で測定対象の摩擦特性を測定できる摩擦特性測定装置およびそれに向けられるタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によれば、測定対象と密着して配置され、測定対象の粘弾性特性に応じた変化量を生じるセンサ部と、センサ部の変化量に基づいて、測定対象における粘弾性特性のうち損失正接を取得し、取得した損失正接から測定対象の摩擦特性を算出する演算処理部とを備える摩擦特性測定装置である。
【0009】
好ましくは、センサ部は、測定対象へ入射音波を放射する放射手段と、放射手段において放射される入射音波が測定対象により反射されて生じる反射音波を受信する受信手段と、入射音波および反射音波を伝搬させることで、放射手段において入射音波が放射された後、受信手段において反射音波が受信されるまでに遅延時間を生じさせる遅延部材とを含み、演算処理部は、センサ部の受信手段において受信される反射音波に基づいて、測定対象の損失正接を算出する。
【0010】
好ましくは、センサ部は、測定対象へ入射音波を放射する放射手段と、放射手段において放射される入射音波が測定対象により反射されて生じる反射音波を受信する受信手段と、入射音波および反射音波を伝搬させることで、放射手段において入射音波が放射された後、受信手段において反射音波が受信されるまでに遅延時間を生じさせる遅延部材とを含み、演算処理部は、遅延部材と測定対象との境界面において生じる第1の反射音波と、測定対象における第1の反射音波が生じる境界面と対向する面において生じる第2の反射音波とに基づいて、測定対象の損失正接を算出する。
【0011】
好ましくは、センサ部は、測定対象における第1の反射音波が生じる境界面と対向する面において、測定対象と密着して配置される反射部材をさらに含む。
【0012】
好ましくは、演算処理部は、反射音波を予め取得される基準値と比較することで、測定対象の損失正接を算出する。
【0013】
好ましくは、センサ部は、電気信号を受けて入射音波を生成し、かつ、反射音波を受けて電気信号を生成するトランスデューサをさらに含み、トランスデューサは、放射手段および受信手段を実現する。
【0014】
好ましくは、センサ部は、測定対象へ入射音波を放射する放射手段と、放射手段において放射される入射音波が測定対象を透過して生じる透過音波を受信する受信手段とを含み、演算処理部は、センサ部の放射手段において放射される入射音波と、受信手段において受信される透過音波とに基づいて、測定対象の損失正接を算出する。
【0015】
好ましくは、センサ部は、無線信号を介して、受信手段において受信される音波および/または放射手段において放射される音波の波形データを演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、演算処理部は、センサ部から送信される波形データを受信する第2の伝送部をさらに含む。
【0016】
好ましくは、センサ部は、測定対象と密着するように配置され、印加される電圧により生じる内部電界に応じて、測定対象との境界面の面内方向に伸縮を生じる歪み部材を含み、演算処理部は、歪み部材を含む閉回路を流れる電流から導出されるインピーダンスに基づいて、測定対象の損失正接を算出する。
【0017】
好ましくは、センサ部は、無線信号を介して、インピーダンスを演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、演算処理部は、センサ部から送信されるインピーダンスを受信する第2の伝送部をさらに含む。
【0018】
好ましくは、センサ部は、測定対象と一体化して運動するように配置される。
好ましくは、測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、センサ部は、無線信号を介して、受信手段において受信される音波および/または放射手段において放射される音波の波形データを演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、放射手段は、入射音波を測定対象の接触面へ照射し、受信手段は、測定対象における接触面により反射されて生じる反射音波を受信し、演算処理部は、センサ部から送信される波形データを受信する第2の伝送部をさらに含む。
【0019】
好ましくは、測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、センサ部は、無線信号を介して、受信手段において受信される音波および/または放射手段において放射される音波の波形データを演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、放射手段は、測定対象の接触面に沿う入射音波を照射し、受信手段は、測定対象の接触面の近傍を透過して受信される透過音波を受信し、演算処理部は、センサ部から送信される波形データを受信する第2の伝送部をさらに含む。
【0020】
好ましくは、測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、センサ部は、無線信号を介して、インピーダンスを演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、測定対象における接触面に対して境界面が沿うようにして測定対象に密着して配置され、演算処理部は、センサ部から送信されるインピーダンスを受信する第2の伝送部をさらに含む。
【0021】
好ましくは、測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、センサ部は、測定対象と一体化して運動するように配置され、受信手段は、さらに、測定対象と他の部材との擦れにより生じる滑り音波を受信し、演算処理部は、センサ部において受信される滑り音波に基づいて、測定対象の滑り状態を検出する。
【0022】
好ましくは、センサ部は、測定対象の運動により生じる運動エネルギーから電力を生じる発電部と、発電部から供給される電力を蓄える蓄電部とをさらに含む。
【0023】
好ましくは、センサ部は、測定対象と第1および第2の面において密着するように配置され、かつ、第1および第2の面において表面弾性波を伝搬させる基板部と、基板部に配置され、外部からの入射電波を受けて表面弾性波を生じる第1の電極と、基板部上において、第1の面を介して第1の電極と対向するように配置され、かつ、第1の電極から第1の面で密着される測定対象を透過して到達する第1の表面弾性波から第1の反射電波を生じる第2の電極と、基板部上において、第2の面を介して第1の電極と対向するように配置され、かつ、第1の電極から第2の面で密着される測定対象を透過して到達する第2の表面弾性波から第2の反射電波を生じる第2の電極とを含み、演算処理部は、センサ部へ入射電波を放射する送信回路と、センサ部から第1および第2の反射電波を受信する受信回路と、入射電波と第1および第2の反射電波とに基づいて、測定対象の損失正接を算出する演算部とを含む。
【0024】
好ましくは、測定対象は、タイヤであり、センサ部は、タイヤの内部に配置される。
好ましくは、演算処理部は、同一の測定対象における摩擦特性の変化に基づいて、当該測定対象の劣化状態を判断する劣化状態判断手段をさらに含む。
【0025】
好ましくは、劣化状態判断手段は、摩擦特性のピーク周波数または/およびピーク値の変化に基づいて当該測定対象の劣化状態を判断する。
【0026】
好ましくは、演算処理部は、測定対象の摩擦特性を予め定められた所定の摩擦特性と比較することで、当該測定対象の良否を判断する良否判断手段をさらに含む。
【0027】
好ましくは、劣化状態判断手段は、摩擦特性のピーク周波数または/およびピーク値を予め定められた所定のピーク周波数または/およびピーク値と比較することで、当該測定対象の良否を判断する。
【0028】
好ましくは、演算処理部は、劣化状態判断手段または/および良否判断手段における判断結果を表示または/および外部へ出力する表示出力部をさらに含む。
【0029】
好ましくは、演算処理部は、摩擦特性が既知である校正基準に対して取得された損失正接を受け、その取得した損失正接から算出される摩擦特性が校正基準の摩擦特性と略一致するように、損失正接を摩擦係数に変換するための換算定数を決定する校正手段をさらに含む。
【0030】
また、この発明によれば上述の摩擦特性測定装置におけるセンサ部を含む、摩擦特性測定装置に向けられるタイヤである。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、センサ部を測定対象に密着して、測定対象の粘弾性特性を測定し、その粘弾性特性に基づいて摩擦特性を算出できる。そのため、従来のように、試験片を作成する必要がない。よって、非破壊かつ高速に測定対象の摩擦特性を測定できる摩擦特性測定装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0033】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100の概略構成図である。
【0034】
図1を参照して、摩擦特性測定装置100は、演算処理部1と、センサ部2とからなる。そして、摩擦特性測定装置100は、センサ部2から測定対象に振動を生じさせる音波を入射音波として放射し、センサ部2で音波が測定対象により反射されて生じる反射音波を受信する。さらに、摩擦特性測定装置100は、センサ部2で受信される反射音波に基づいて、演算処理部1で測定対象の摩擦特性を算出する。なお、センサ部2が放射する入射音波は、超音波が好ましい。
【0035】
演算処理部1は、入力部18と、時間データメモリ部12と、記憶部14と、演算部10と、表示出力部16とからなる。
【0036】
入力部18は、ユーザなどの外部からの指令を受け、その指令を演算部10へ出力する。一例として、入力部18は、操作ボタン、キーボード、マウス、タッチパネルなどからなる。
【0037】
時間データメモリ部12は、センサ部2で受信される音波の時間波形を所定の周期で格納する。なお、時間データメモリ部12は、演算部10からの要求に応じて、時間波形を格納する周期を変更する。
【0038】
記憶部14は、演算部10を介して取得された基準値を格納し、演算部10からの要求に応じて、その格納する基準値を読出す。また、記憶部14は、後述する劣化判断機能および良否判断機能に用いるデータを格納する。
【0039】
演算部10は、入力部18を介して、外部から測定指令を受けると、センサ部2へ放射指令を与え、測定対象へ入射音波を放射させる。そして、演算部10は、時間データメモリ部12に格納される反射音波の時間波形データを読出し、一例として、フーリエ処理(FFT処理:Fast Fourier Transform;以下、FFT処理と称す)のような周波数解析処理を行ない、各周波数における振幅値および位相を取得する。続いて、演算部10は、記憶部14に格納されている基準値を読出し、その基準値と取得した反射音波の各周波数における振幅値および位相とを比較することで、測定対象の摩擦特性を算出する。さらに、演算部10は、その算出した測定対象の摩擦特性を表示出力部16へ出力する。
【0040】
また、演算部10は、入力部18を介して、外部から基準値取得指令を受けると、センサ部2へ放射指令を与え、測定対象へ入射音波を放射させる。そして、演算部10は、時間データメモリ部12に格納される反射音波の時間波形データを読出し、FFT処理を行ない、各周波数における振幅値および位相を取得する。続いて、演算部10は、取得した各周波数における振幅値および位相を基準値として記憶部14に格納する。
【0041】
また、演算部10は、算出された測定対象の摩擦特性を記憶部14に格納される所定の摩擦特性と比較することで、測定対象の摩擦特性の良否を判断し、その判断結果を表示出力部16へ出力する。さらに、演算部10は、同一の測定対象に対する摩擦特性の変化に基づいて、当該測定対象の摩擦特性の劣化状態を判断し、その判断結果を表示出力部16へ出力する。
【0042】
表示出力部16は、演算部10から算出される測定対象の摩擦特性や摩擦特性に基づく判断結果を表示または/およびそのデータを外部へ出力する。表示出力部16が表示を行なう場合には、一例として、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどの表示装置からなる。また、表示出力部16がデータを外部へ出力を行なう場合には、一例として、USB(Universal Serial Bus)、RS−232C(Recommended Standard 232 version C)、IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)1394、SCSI(Small Computer System Interface)、イーサネット(登録商標)、IEEE1284(パラレルポート)などの規格に対応するインターフェイスなどからなる。
【0043】
一方、センサ部2は、送信制御回路22と、送信回路24と、方向整合器25と、トランスデューサ20と、受信回路26と、信号処理回路28と、遅延部材3とからなる。
【0044】
送信制御回路22は、演算処理部1からの放射指令を受けると、放射する入射音波を生成するための生成信号を送信回路24へ出力する。たとえば、送信制御回路22は、パルス状の入射音波を生成するためのパルス信号や、所定の周波数成分を含むよう入射音波を生成する周期信号などを出力する。また、送信制御回路22は、生成信号の出力タイミングを通知するトリガ信号を受信回路26へ出力する。
【0045】
送信回路24は、送信制御回路22から受ける生成信号に応じた電気信号を方向整合器25へ出力する。
【0046】
方向整合器25は、送信回路24、トランスデューサ20および受信回路26とそれぞれ接続され、送信回路24から出力された電気信号をトランスデューサ20へ伝送し、かつ、トランスデューサ20から受けた電気信号を受信回路26へ出力する。すなわち、方向整合器25は、送信回路24から出力された電気信号が受信回路26へ出力されないように信号の伝送方向を制限する。
【0047】
トランスデューサ20は、方向整合器25を介して送信回路24および受信回路26と接続され、方向整合器25を介して送信回路24から受けた電気信号を音波に変換して測定対象へ放射し、かつ、測定対象から受けた音波を電気信号に変換して方向整合器25を介して受信回路26へ出力する。一例として、トランスデューサ20は、チタン酸ジルコン酸鉛などの圧電素子などからなる。
【0048】
受信回路26は、方向整合器25から受ける電気信号を受け、所定の増幅をした後に信号処理回路28へ出力する。また、受信回路26は、送信制御回路22からトリガ信号を受信すると、トランスデューサ20から出力される電気信号を受信を開始する。
【0049】
信号処理回路28は、受信回路26から電気信号を受け、アナログ・デジタル処理などを行ない、トランスデューサ20で受信される音波の瞬間的な振幅値を順次出力する。
【0050】
遅延部材3は、トランスデューサ20と密着するように配置され、トランスデューサ20から生じる入射音波および測定対象で生じる反射音波を伝搬させる。そのため、トランスデューサ20が入射音波を放射する時間タイミングに対して、測定対象で反射された反射音波がトランスデューサ20へ入射する時間タイミングが遅延する。したがって、送信回路24が入射音波を生成する期間、すなわち、受信回路26が受信を中断する期間と、受信回路26が反射音波の電気信号を受信する期間との重複による測定誤差を回避できる。
【0051】
図2は、摩擦特性測定装置100による測定の一例を示す図である。
図2を参照して、一例として、タイヤが測定対象9である場合について説明する。まず、ユーザは、摩擦特性測定装置100のセンサ部2を測定対象9の表面に密着するように配置する。そして、摩擦特性測定装置100は、ユーザからの測定指令を受けると、センサ部2から入射音波を放射し、測定対象9で生じる反射音波をセンサ部2で受信する。さらに、摩擦特性測定装置100は、受信した反射音波に応じて、測定対象9の摩擦特性を算出し、ユーザへ表示する。
【0052】
(損失正接と摩擦特性)
物質の摩擦特性は、物質の粘弾性特性を示す貯蔵弾性率および損失弾性率から導出される損失正接と強い相関関係にあることが分かってきた。
【0053】
物質の粘弾性特性とは、与える応力に比例してひずみを生じる弾性、および与える応力を受けて粘性流動を生じる粘性を併せ持つ特性である。このような粘弾性特性は、弾性要素であるばねと、粘性要素であるダッシュポットとを並列に接続したマックスウェルモデル、または、直列に接続したフォークトモデルで説明される。そして、上述した貯蔵弾性率は物質の弾性を表す値であり、損失弾性率は粘性を表す値である。
【0054】
一般的に、物質に周期的な応力を与えた場合において、その応力と同位相の成分が弾性貯蔵率に相当し、その応力と90°の位相差を有する成分が損失貯蔵率に相当する。すなわち、弾性貯蔵率および損失貯蔵率は、それぞれ互いに独立の関係をもつので、ガウス平面上に表すことができる。そして、貯蔵弾性率L’を実数成分とし、損失弾性率L”を虚数成分とすると、損失弾性率は、ガウス平面上における貯蔵弾性率L’と損失弾性率L”とのなす偏角δを用いて、損失正接tanδ=L”/L’と表される。
【0055】
そして、物質の摩擦係数は、粘弾性特性を示す損失正接tanδを用いて、摩擦係数μ(f)=Atanδ(f)+Bと表される。但し、A(>0)およびBは、物質に依存する換算定数である。なお、摩擦係数は、周波数に依存するため、損失正接も各周波数に対して規定される。一方、換算定数AおよびBは、周波数に依存しない物質に固有の一定値となる。また、摩擦係数μ(f)を求める前記式は、経験的に得られる、tanδを用いた多項式や高次式であってもよい。
【0056】
図3は、損失正接から算出される摩擦係数を従来の摩擦特性測定装置により測定される摩擦係数と比較した図である。なお、従来の摩擦特性測定装置とは、特許3215579号公報(特許文献1)に開示される摩擦特性測定装置と同様の装置である。
【0057】
図3(a)は、スチレンブタジエンラバー(SBR)の場合である。
図3(b)は、ブタジエンラバー(BR)の場合である。
【0058】
図3(c)は、ポリノルバーネンラバー(PNR)の場合である。
図3(a)を参照して、スチレンブダジエンラバーの場合には、摩擦試験機により、周波数が107Hz付近においてピークを有するような摩擦特性が得られる。一方、損失正接から算出される摩擦特性においても、ほぼ同様の特性を有することがわかる。
【0059】
図3(b)を参照して、ブタジエンラバーの場合には、摩擦試験機により、周波数の増加に伴い摩擦係数が上昇する摩擦特性が得られる。一方、損失正接から算出される摩擦特性においても、ほぼ同様の特性を有することがわかる。
【0060】
図3(c)を参照して、ポリノルバーネンラバーの場合には、摩擦試験機により、周波数の増加に伴い摩擦係数が減少する摩擦特性が得られる。一方、損失正接から算出される摩擦特性においても、ほぼ同様の特性を有することがわかる。
【0061】
上述のように、それぞれの物質が有するいずれの摩擦特性に対しても、損失正接から算出される摩擦特性は、高い再現性をもつことがわかる。すなわち、損失正接に基づいて、物質の摩擦特性を高精度で算出できることを意味する。
【0062】
(損失正接の算出)
実施の形態1においては、音波を測定対象へ放射し、その音波が測定対象の表面で反射されて生じる反射音波に基づいて損失正接を測定する、表面反射法を用いる。
【0063】
図4は、表面反射法による損失正接を導出する方法を説明するための図である。
図4(a)は、基準値を取得する場合である。
【0064】
図4(b)は、測定対象9の損失正接を導出する場合である。
まず、センサ部2のトランスデューサ20から放射される入射音波が遅延部材3や測定対象9における伝搬特性を表すため音響インピーダンスを導入する。
【0065】
図4(a)を参照して、基準値を取得する場合には、摩擦特性測定装置100は、測定対象9が存在しない状態において、トランスデューサ20から入射音波を放射する。
【0066】
ここで、入射音波および反射音波の周波数をfとすると、周波数fに依存する遅延部材3の音響インピーダンスはZ1(f)と表すことができる。また、空気中の音響インピーダンスはZ0(f)と表すことができる。なお、音響インピーダンスZ0(f)およびZ1(f)は、複素数である。さらに、遅延部材3と空気中との境界面における入射音波の反射率R01(f)は、式(1)で表すことができる。
【0067】
反射率R01(f)=(Z0(f)−Z1(f))/(Z0(f)+Z1(f))・・・(1)
そして、空気中の音響インピーダンスZ0(f)は、遅延部材3および測定対象9に比較して十分小さいため、周波数fに関わらずZ0(f)≪Z1(f)とみなすことができるため、反射率R01(f)=−1となる。すなわち、遅延部材3と空気中との境界面において、入射音波は全反射する。
【0068】
ここで、トランスデューサ20に入射する反射音波をA0(f)exp(iθ0(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A0(f)は各周波数における振幅値(実数値)であり、θ0(f)は各周波数における位相(0≦θ0(f)<∞)である。すると、遅延部材3と空気中との境界面において入射音波は全反射するので、センサ部2から遅延部材3を介して測定対象9へ放射される入射音波は、式(2)で表される。
【0069】
A0(f)exp(iθ0(f))×R01(f)=−A0(f)exp(iθ0(f))・・・(2)
すなわち、摩擦特性測定装置100は、式(2)で表される入射音波が測定対象へ照射されるとみなし、式(2)を構成するA0(f)およびθ0(f)を基準値として格納する。
【0070】
一方、図4(b)を参照して、測定対象9の損失正接を導出する場合には、測定対象9を遅延部材3と密着させて、トランスデューサ20から図4(a)の場合と同一の入射音波を放射する。そして、遅延部材3と測定対象9との境界面において反射される反射音波を格納する前記の基準値と比較することで、測定対象9の損失正接、すなわち摩擦特性を算出する。
【0071】
測定対象9の音響インピーダンスをZ2(f)とすると、遅延部材3と測定対象9との境界面における入射音波の反射率R12(f)は、式(3)で表すことができる。
【0072】
反射率R12(f)=(Z2(f)−Z1(f))/(Z2(f)+Z1(f))・・・(3)
さらに、式(3)を変形すると、式(4)が導出される。
【0073】
Z2(f)=Z1(f)×(1+R12(f))/(1−R12(f))・・・(4)
ここで、トランスデューサ20に入射する反射音波をA(f)exp(iθ(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A(f)は各周波数における振幅値(実数値)であり、θは各周波数における位相(0≦θ0<∞)である。すると、式(2)で示される基準値を用いて、式(5)が成立する。
【0074】
A(f)exp(iθ(f))=−A0(f)exp(iθ0(f))×R12(f)・・・(5)
さらに、式(5)を変形して、式(6)が導出される。
【0075】
R12(f)=−A(f)/A0(f)×exp(i(θ(f)−θ0(f))・・・(6)
式(6)を式(4)に代入すると、式(7)が導出される。
【0076】
Z2(f)=Z1(f)×(1−A(f)/A0(f)×exp(i(θ(f)−θ0(f)))/(1+A(f)/A0(f)×exp(i(θ(f)−θ0(f)))・・・(7)
ここで、測定対象の貯蔵弾性率L’(f)および損失弾性率L”(f)は、測定対象の音響インピーダンスZ2(f)および密度ρ2との間に式(8)で示す関係が成立する。
【0077】
L’+iL”(f)=Z2(f)2/ρ2・・・(8)
(7)式を(8)式に代入し、実数成分と虚数成分とを分離することにより、損失正接tanδ(f)は、(9)式のようになる。
【0078】
tanδ(f)=L”/L’={4×(A(f)/A0(f))×(1−(A(f)/A0(f))2)×sin(θ(f)−θ0(f))}/{(1−(A(f)/A0(f))2)2−4×(A(f)/A0(f))2×sin2(θ(f)−θ0(f))}・・・(9)
(9)式に示されるように、損失正接tanδ(f)は、A0(f),θ0(f)を基準値とする{A(f)/A0(f)},{θ(f)−θ0(f)}から構成される。すなわち、測定対象の反射音波を予め取得した基準値と比較することで、測定対象の損失正接を導出できる。また、上述したように、測定対象の損失正接は、周波数に依存するので、摩擦特性測定装置100は、周波数成分毎に損失正接を導出する。
【0079】
なお、高い周波数における損失正接が必要となる場合には、トランスデューサ20から放射される音波は、超音波となる。
【0080】
(摩擦特性の測定フロー)
図5は、摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
【0081】
図1および図5を参照して、演算部10は、入力部18を介して基準取得指令を受けたか否かを判断する(ステップS100)。基準取得指令を受けていない場合(ステップS100においてNOの場合)には、演算部10は、基準取得指令を受けるまで待つ(ステップS100)。
【0082】
基準取得指令を受けた場合(ステップS100においてYESの場合)には、演算部10は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS102)。
【0083】
続いて、演算部10は、時間データメモリ部12からトランスデューサ20が受信する反射音波の時間波形データを読出す(ステップS104)。そして、演算部10は、読出した反射音波の時間波形データに対してFFT処理を行ない、反射音波の各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS106)。さらに、演算部10は、取得した反射音波の各周波数における振幅値および位相を基準値として記憶部14へ格納する(ステップS108)。
【0084】
次に、演算部10は、入力部18を介して測定指令を受けたか否かを判断する(ステップS110)。一方、ユーザは、センサ部2を測定対象と密着するように配置し、または、測定対象をセンサ部2と密着するように配置した後、測定指令を与える。
【0085】
測定指令を受けていない場合(ステップS110においてNOの場合)には、演算部10は、測定指令を受けるまで待つ(ステップS110)。
【0086】
測定指令を受けた場合(ステップS110においてYESの場合)には、演算部10は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS112)。
【0087】
続いて、演算部10は、時間データメモリ部12からトランスデューサ20が受信する反射音波の時間波形データを読出す(ステップS114)。そして、演算部10は、読出した反射音波の時間波形データに対してFFT処理を行ない、反射音波の各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS116)。さらに、演算部10は、記憶部14から基準値の振幅値および位相を読出し、取得した振幅値および位相と比較を用いて、各周波数における損失正接を導出する(ステップS118)。
【0088】
そして、演算部10は、導出した各周波数における損失正接から摩擦特性を算出し、表示出力部16へ与える(ステップS120)。ユーザは、表示出力部16を介して算出された摩擦特性を知ることができる。
【0089】
なお、上述の処理において、測定毎に基準値を取得する構成に代えて、複数の基準値を予め記憶部14へ格納しておき、測定を行なう時点において、ユーザが、いずれの基準値を採用するかを設定する構成としてもよい。
【0090】
(劣化状態判断)
ゴム製品などは、温度や紫外線などの影響を受けて経年劣化を生じ、その摩擦特性も劣化する。そのため、たとえば、タイヤなどにおいては、その摩擦特性の劣化に伴い路面に対する摩擦力が低下するため、車両の走行性能を低下させ、搭乗している人命に危害を与えるおそれもある。
【0091】
そこで、摩擦特性測定装置100は、測定対象の経年による摩擦特性の変化を算出し、基準となる摩擦特性と比較することで、当該測定対象の劣化状態を判断する。
【0092】
図6は、測定対象の摩擦特性の劣化モードを説明するための図である。
図6(a)は、摩擦特性のピーク周波数がシフトするモードである。
【0093】
図6(b)は、摩擦特性のピーク値がシフトするモードである。
図6(c)は、ピークを検出できない摩擦特性全体が変化するモードである。
【0094】
図6(a)を参照して、製造直後の測定対象の摩擦特性は、そのピーク周波数がf1であるのに対して、経年劣化した測定対象の摩擦特性は、そのピーク周波数がf2(f2<f1)へシフトする。したがって、摩擦特性のピーク周波数がしきい値の周波数を超過するか否かに基づいて、測定対象の劣化状態を判断することができる。
【0095】
一方、製品の材質に応じて、摩擦特性のピーク値がシフトする場合も生じる。
図6(b)を参照して、製造直後の測定対象の摩擦特性は、そのピーク値がμ1であるのに対して、経年劣化した測定対象の摩擦特性は、そのピーク値がμ2(μ2<μ1)へシフトする。したがって、摩擦特性のピーク値がしきい値の摩擦係数を超過するか否かに基づいて、劣化状態を判断することができる。
【0096】
また、測定対象の摩擦特性がピーク周波数およびピーク値を検出できない場合も存在する。このような場合においては、摩擦特性の全体形状から劣化状態を判断することもできる。
【0097】
図6(c)を参照して、ピーク周波数およびピーク値を検出できない場合においては、判断の基準となる規定の周波数範囲を設定し、その周波数範囲内における摩擦特性の全体形状の変化に基づいて、摩擦特性の劣化状態を判断する。すなわち、劣化に伴い、摩擦特性が規定の周波数範囲内の上限しきい値または下限しきい値と交差するようになる。そのため、摩擦特性が規定の周波数範囲において、その上限しきい値を超過するか否か、または、その下限しきい値を超過するか否かに基づいて、測定対象の良否を判断することもできる。
【0098】
そこで、摩擦特性測定装置100は、一例として、算出する摩擦特性のピーク周波数およびピーク値のいずれについても、しきい値と比較することで劣化状態を判断する。
【0099】
図7は、測定対象の劣化状態を判断するためのフローチャートである。
図1および図7を参照して、演算部10は、入力部18を介してしきい値取得指令を受けたか否かを判断する(ステップS200)。
【0100】
ここで、ユーザは、製造直後または所定の性能を有する測定対象をセンサ部2と密着するように配置した後、しきい値取得指令を与える。
【0101】
しきい値取得指令を受けた場合(ステップS200においてYESの場合)には、演算部10は、図5に示すステップS100〜ステップS120と同様の処理を実行し、測定対象の摩擦特性を算出する(ステップS202)。そして、演算部10は、算出した測定対象の摩擦特性から、摩擦係数が最大値となる周波数を検索し、そのピーク周波数およびピーク値を取得する(ステップS204)。さらに、演算部10は、取得したピーク周波数およびピーク値をそれぞれしきい値の周波数および摩擦係数として記憶部14へ格納する(ステップS206)。そして、演算部10は、処理を終了する。
【0102】
一方、しきい値取得指令を受けていない場合(ステップS200においてNOの場合)には、演算部10は、劣化状態判断指令を受けたか否かを判断する(ステップS208)。
【0103】
ここで、ユーザは、劣化状態を判断したい測定対象をセンサ部2と密着するように配置した後、劣化状態判断指令を与える。
【0104】
劣化状態判断指令を受けた場合(ステップS208においてYESの場合)には、演算部10は、図5に示すステップS100〜ステップS120と同様の処理を実行し、測定対象の摩擦特性を算出する(ステップS210)。そして、演算部10は、算出した測定対象の摩擦特性から、摩擦係数が最大値となる周波数を検索し、そのピーク周波数およびピーク値を取得する(ステップS212)。また、演算部10は、記憶部14からしきい値の周波数および摩擦係数を読出す(ステップS214)。
【0105】
続いて、演算部10は、取得したピーク周波数がしきい値の周波数を超過しているか否かを判断する(ステップS216)。
【0106】
取得したピーク周波数がしきい値の周波数を超過している場合(ステップS216においてYESの場合)には、演算部10は、取得したピーク値がしきい値の摩擦係数を超過しているか否かを判断する(ステップS218)。
【0107】
取得したピーク値がしきい値の摩擦係数を超過している場合(ステップS218においてYESの場合)には、演算部10は、測定対象が未だ劣化状態に至っていないと判断し、その判断結果を表示出力部16へ与える(ステップS220)。そして、演算部10は、処理を終了する。
【0108】
また、取得したピーク周波数がしきい値の周波数を超過していない場合(ステップS216においてNOの場合)または、取得したピーク値がしきい値の摩擦係数を超過していない場合(ステップS218においてNOの場合)には、演算部10は、測定対象が劣化状態にあると判断し、その判断結果を表示出力部16へ与える(ステップS222)。そして、演算部10は、処理を終了する。
【0109】
ユーザは、表示出力部16を介して劣化状態の判断結果を知ることができる。
なお、しきい値の周波数および摩擦係数を記憶部14に格納する構成に代えて、測定対象自体がしきい値を有する構成とすることもできる。
【0110】
(変形例)
図8は、実施の形態1の変形例を示す図である。
【0111】
図8(a)は、実施の形態1の変形例1である。
図8(b)は、実施の形態1の変形例2である。
【0112】
図8(a)を参照して、実施の形態1の変形例1に従う摩擦特性測定装置102は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100にバーコードリーダ40を加えたものである。
【0113】
また、測定対象9の一例であるタイヤの側面には、しきい値を格納するバーコード42が付されている。そして、タイヤの製造者などは、予め算出した摩擦特性に基づいて、しきい値の周波数および摩擦係数を格納するバーコード42を製造時にその表面に付しておく。
【0114】
摩擦特性測定装置102は、バーコードリーダ40を介して、測定対象9に付されているバーコード42を読取り、そのバーコード42に格納されるしきい値の周波数および摩擦係数を取得する。そして、摩擦特性測定装置102は、算出する摩擦特性をバーコード42から取得したしきい値の周波数および摩擦係数と比較することで、測定対象9の劣化状態を判断する。
【0115】
図8(b)を参照して、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置104は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100に質問器44を加えたものである。
【0116】
また、測定対象9の一例であるタイヤの側面または内部には、しきい値などを格納する無線タグ(RFID)56が付されている。そして、タイヤの製造者などは、予め算出した摩擦特性に基づいて、しきい値の周波数および摩擦係数を格納する無線タグ48を製造時にその表面または内部に付しておく。
【0117】
摩擦特性測定装置104は、質問器44を介して、測定対象9に付されている無線タグ48へ問合せ信号を送出し、その応答信号から格納されるしきい値の周波数および摩擦係数を取得する。そして、摩擦特性測定装置104は、算出する摩擦特性を無線タグ48から取得したしきい値の周波数および摩擦係数と比較することで、測定対象9の劣化状態を判断する。
【0118】
なお、上述の説明においては、摩擦特性におけるピーク周波数のシフトおよびピーク値のシフトのいずれについても判断する構成について説明したが、この構成に限られることはない。すなわち、摩擦特性におけるピーク周波数のシフトまたはピーク値のシフトのいずれか一方についてのみ判断する構成としてもよい。
【0119】
(良否判断)
同種類の製品が連続的に生産される生産ラインにおいて、その摩擦特性を算出することで、プロセス途中の半製品や出荷前の製品についての良否を判断することができる。
【0120】
上述した劣化状態の判断と同様に、演算部10は、予め定められた摩擦特性と、それぞれの製品の算出された摩擦特性とを比較することで良否判断を行なう。すなわち、演算部10は、上述と同様の手順で、測定対象の摩擦特性を算出して、そのピーク周波数およびピーク摩擦係数を取得する。そして、演算部10は、取得したピーク周波数およびピーク摩擦係数が所定の範囲内であるか否かを判断する。演算部10は、その判断結果に基づいて、ピーク周波数およびピーク摩擦係数のいずれもが所定の範囲内であれば、当該測定対象は良品であると判断し、一方、ピーク周波数またはピーク摩擦係数のいずれかが所定の範囲外であれば、当該測定対象は不良品であると判断する。
【0121】
(換算定数の校正)
上述のように、劣化状態判断または良否判断を行なう場合において、測定対象の摩擦特性の変化に基づいてその判断が行なわれるので、損失正接tanδが精度よく測定できればよく、摩擦係数μを算出するための換算定数AおよびBは、あまり重要ではない。一方、測定対象の摩擦特性の絶対値を取得する場合には、損失正接tanδに加えて、換算定数AおよびBが重要となる。
【0122】
そこで、摩擦特性測定装置100は、摩擦係数が既知の校正基準の損失正接tanδを算出することで、換算定数AおよびBを校正する。すなわち、演算処理部1は、ユーザからの校正基準取得指令に応じて、予め摩擦係数が既知の校正基準の損失正接を導出し、その導出した損失正接から算出される摩擦係数が既知の摩擦係数に対して、最も相関が高くなるように換算定数AおよびBを決定する。
【0123】
なお、摩擦係数は、周波数に依存するため、換算定数AおよびBの精度を高めるためには、校正基準についてより広い周波数領域における摩擦係数が既知であることが望ましいが、少なくとも、2つの周波数に対する摩擦係数が既知であれば、換算定数AおよびBを校正することができる。
【0124】
図9は、換算定数を校正するためのフローチャートである。
図1および図9を参照して、演算部10は、入力部18を介して、周波数f1〜fnにおける校正基準の摩擦係数μref(fk)を受付ける(ステップS300)。ここで、ユーザは、所定の周波数における校正基準の摩擦係数を与える。
【0125】
次に、演算部10は、入力部18を介して、校正開始指令を受けたか否かを判断する(ステップS302)。
【0126】
校正開始指令を受けていない場合(ステップS302においてNOの場合)には、演算部10は、校正開始指令を受けるまで待つ(ステップS302)。
【0127】
校正開始指令を受けた場合(ステップS302においてYESの場合)には、演算部10は、図5に示すステップS100〜ステップS118と同様の処理を実行し、測定対象の各周波数における損失正接を導出する(ステップS304)。なお、ユーザは、図5に示すステップS110において、校正基準をセンサ部2と密着するように配置した後、測定指令を与える。
【0128】
そして、演算部10は、導出した測定対象の損失正接から、入力部18を介して受付けた周波数f1〜fnのそれぞれにおける損失正接tanδ(fk)を抽出する(ステップS306)。さらに、演算部10は、入力部18を介して受付けた校正基準の摩擦係数μref(fn)と損失正接から算出される摩擦係数μ(fk)=Atanδ(fk)+Bとの相関係数が最大となるように、換算定数AおよびBを決定する(ステップS308)。
【0129】
最終的に、演算部10は、決定した換算定数AおよびBを記憶部14へ格納する(ステップS310)。そして、演算部10は、処理を終了する。
【0130】
上述の処理において、演算部10は、相関係数が最大となる換算定数AおよびBを決定するため、たとえば最小二乗法などを用いる。
【0131】
この発明の実施の形態1によれば、センサ部から測定対象へ入射音波を放射し、測定対象で反射されて生じる反射音波に基づいて、測定対象の粘弾性特性における損失正接を取得する。そして、取得された損失正接から測定対象の摩擦特性を算出する。そのため、測定対象の表面にセンサ部を密着するだけで摩擦特性を算出できるので、試験片などを作成して摩擦特性を測定する場合に比較して、容易に摩擦特性を算出できる。よって、非破壊で摩擦特性を算出する摩擦特性測定装置を実現できる。
【0132】
また、この発明の実施の形態1によれば、損失正接から導出される摩擦特性のピーク周波数またはピーク値の変化に基づいて、測定対象の劣化状態の判断または品質の良否を判断できる。よって、測定対象の製品などに対して、より高いレベルでその劣化状態または品質を管理することができる。
【0133】
また、この発明の実施の形態1によれば、摩擦係数が既知の構成基準における損失正接を測定し、その測定結果から算出される摩擦係数が既知の値をより高い精度で再現するように、損失正接から摩擦係数へ換算するための換算係数を校正することができる。よって、絶対的な摩擦特性を高精度に測定できるので、相対的に摩擦特性を評価するだけでなく絶対的な摩擦特性の評価を実現できる。
【0134】
[実施の形態2]
上述の実施の形態1においては、センサ部と演算処理部とがケーブルを介して接続される構成について説明した。一方、実施の形態2においては、センサ部と演算処理部とが無線信号を介して接続される構成について説明する。
【0135】
図10は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200の概略構成図である。
図10を参照して、摩擦特性測定装置200は、演算処理部4とセンサ部5とからなる。
【0136】
演算処理部4は、伝送部32と、演算部30と、表示出力部16と、記憶部14と、入力部18とからなる。
【0137】
演算部30は、入力部18を介して測定指令を受けると、伝送部32へ放射指令を与え、かつ、伝送部32を介して反射音波の時間波形データを受ける。その他については、実施の形態1における演算部10と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0138】
伝送部32は、演算部10から放射指令を受けると、その放射指令を無線信号に変調し、センサ部5へ送信する。また、伝送部32は、センサ部5から受けた無線信号を反射音波の時間波形データへ復調し、演算部30へ出力する。
【0139】
演算部30は、入力部18を介して、外部から測定指令を受けると、伝送部32を介して、センサ部2へ放射指令を与える。そして、演算部10は、伝送部32を介して、反射音波の時間波形データを読出す。その他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0140】
表示出力部16と、記憶部14と、入力部18とについては、実施の形態1と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0141】
一方、センサ部5は、伝送部34と、蓄電部38と、発電部36と、時間データメモリ部12と、送信制御回路22と、送信回路24と、方向整合器25と、トランスデューサ20と、受信回路26と信号処理回路28とからなる。
【0142】
伝送部34は、演算処理部4から送信される無線信号を復調し、放射指令を送信制御回路22へ出力する。また、伝送部34は、時間データメモリ部12から出力される反射音波の時間波形データを無線信号に変調し、演算処理部4へ送信する。
【0143】
蓄電部38は、発電部36から供給される電力を蓄積し、センサ部5の各ブロックへ電力を供給する。一例として、蓄電部38は、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池、電気二重層コンデンサ(スーパーキャパシタ)などの蓄電素子からなる。
【0144】
発電部36は、外部電源の供給が困難な測定対象や測定位置にセンサ部5が配置される場合において、センサ部5の電力を供給する。一例として、発電部36は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池、自身の回転エネルギーを電気エネルギーに変換するダイナモ、外部から供給されるマイクロ波などの電磁波エネルギーを電気エネルギーに変換する整流素子などからなる。
【0145】
時間データメモリ部12と、送信制御回路22と、送信回路24と、方向整合器25と、トランスデューサ20と、受信回路26と信号処理回路28とについては、実施の形態1と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0146】
なお、センサ部5へ外部電源を供給できる場合においては、発電部36および蓄電部38は、必ずしも必要ではない。
【0147】
上述のように、摩擦特性測定装置200は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100に比較して、センサ部5を配置する場所に制約が少ない。たとえば、測定対象にセンサ部5を組込むことで、測定対象の摩擦特性の常時測定が可能となる。そのため、測定対象の劣化状態判断を連続的に行なうことができる。
【0148】
さらに、摩擦特性測定装置200は、1つの演算処理部4に対して、1つのセンサ部5から構成される場合に加えて、1つの演算処理部4に対して、複数のセンサ部5から構成してもよい。
【0149】
図11は、センサ部5の配置例を示す図である。
図11(a)は、測定対象9の側面図である。
【0150】
図11(b)は、図11(a)のXb−Xb断面図である。
図11(a)および図11(b)を参照して、タイヤを測定対象9とした場合において、センサ部5をその内部(空気充填部)に組込むことで、測定対象9の摩擦特性を常時測定することができる。そして、たとえば、センサ部5を構成するトランスデューサ20および遅延部材3は、タイヤの裏面またはタイヤ本体に配置され、トランスデューサ20および遅延部材3以外のセンサ部5は、リム(ホイール)に配置される。
【0151】
図12は、トランスデューサ20を配置するタイヤの断面図である。
図12を参照して、一体化したトランスデューサ20および遅延部材3は、タイヤの外表面を構成するトレッド部62とトレッド部62と密着されるカーカス60との間に介挿される。そして、トランスデューサ20は、タイヤの外径方向に向けて入射音波を放射する。
【0152】
また、トランスデューサ20は、導電線を介して方向整合器25と接続される。
図13は、摩擦特性測定装置200を備えた車両を示す図である。なお、図13においては、1つの演算処理部4と複数のセンサ部5で構成される摩擦特性測定装置200について示す。
【0153】
図13を参照して、センサ部5は、それぞれ、図11と同様にタイヤの内部に配置され、演算処理部4からの放射指令に応じて、入射音波を放射し、その反射音波の時間波形データを演算処理部4へ送信する。
【0154】
そして、演算処理部4の演算部30(図示しない)は、ユーザからの劣化状態判断の開始指令を受けると、または、車両のエンジンの始動を検出すると、放射指令をセンサ部5のそれぞれへ送信する。そして、演算部30は、センサ部5のそれぞれから受信する反射音波の時間波形データに基づいて、図7に示す摩擦特性の劣化状態判断の処理を実行し、各タイヤの劣化状態を判断する。さらに、演算部30は、表示出力部16を介して、各タイヤの劣化状態の判断結果を運転者へ知らせる。
【0155】
なお、タイヤの劣化の時定数は、比較的長いと考えられるので、頻繁にセンサ部5から入射音波を放射する必要はなく、たとえば、エンジンの始動時およびエンジン作動中の所定の周期毎(たとえば、1時間周期)に各タイヤの摩擦特性を算出する。
【0156】
ところで、図5に示すように、測定対象であるタイヤの摩擦特性を算出するためには、基準値となる各周波数における振幅値および位相が必要となる。しかしながら、図12に示すようにタイヤの内部に配置した場合には、その基準値を取得することが難しい。
【0157】
そこで、図8(b)に示すように、無線タグを測定対象9であるタイヤに付し、その無線タグにしきい値の周波数および摩擦係数とともに、基準値となる各周波数における振幅値および位相を格納するようにすることができる。
【0158】
(滑り状態の検出)
上述したように、測定対象9であるタイヤの内部にセンサ部5を配置し、摩擦特性の劣化状態を判断する場合において、頻繁に摩擦特性を算出する必要はない。そこで、摩擦特性の算出を休止している時間において、取得される反射音波以外の音波に基づいて、測定対象9の滑り状態を検出することができる。
【0159】
再度、図13を参照して、車両に装着されるタイヤは、車両の加減速および舵角などに応じて生じる反力や遠心力などに抗する摩擦力を生じるが、タイヤの摩擦特性および路面状態などにより、必要な摩擦力を生じることができなくなると、滑り(スリップ)を生じる。滑りを生じる際、タイヤと路面との間の擦れにより、滑り音波(可聴音および超音波)が生じる。
【0160】
図14は、滑り状態の検出を説明するための図である。
図14を参照して、センサ部5は、タイヤの内部に配置され、さらに、センサ部5の一部であるトランスデューサ20および遅延部材3がタイヤのトレッド部に配置されるので、タイヤと路面との間の擦れにより生じる滑り音波を容易に受信することができる。
【0161】
再度、図10を参照して、センサ部5において、トランスデューサ20は、タイヤと路面との間の擦れにより生じる滑り音波を受信する。そして、時間データメモリ部12は、方向整合器25、受信回路26および信号処理回路28を介して、トランスデューサ20で受信された滑り音波の時間波形を受け、所定の周期で格納する。さらに、伝送部34は、時間データメモリ部12に格納された滑り音波の時間波形データを演算処理部4へ送信する。
【0162】
演算処理部4において、伝送部32は、センサ部5から送信された滑り音波の時間波形データを演算部30へ出力する。そして、演算部30は、伝送部32から受けた滑り音波の時間波形データをFFT処理し、その周波数成分に基づいて滑り状態を検出する。
【0163】
タイヤと路面との間の擦れにより生じる滑り音波は、その滑り状態に応じてその振幅値および周波数特性が変化する。たとえば、滑りの発生量に応じて、その振幅値は増大し、タイヤの回転数に応じて、その周波数は変化する。そこで、演算部30は、滑り音波をFFT処理し、その振幅値および周波数特性に基づいて、滑り状態(滑り量や滑りモード)を検出する。また、記憶部14は、滑り状態を検出するための参照データを格納し、演算部30は、記憶部14から読出した参照データと、FFT処理した滑り音波とを比較する。
【0164】
図15は、滑り状態を検出するフローチャートである。
図10および図15を参照して、演算部30は、測定対象の摩擦特性を算出中であるか否かを判断する(ステップS400)。測定対象の摩擦特性を算出中である場合(ステップS400においてYESの場合)には、演算部30は、摩擦特性の算出が終了するまで待つ(ステップS400)。
【0165】
測定対象の摩擦特性を算出中でない場合(ステップS400においてNOの場合)には、演算部30は、センサ部5から有意な時間波形データを取得したか否かを判断する(ステップS402)。
【0166】
センサ部5から有意な時間波形データを取得した場合(ステップS402においてYESの場合)には、演算部30は、取得した時間波形データをFFT処理し、各周波数における振幅値を導出する(ステップS404)。そして、演算部30は、記憶部14から参照データを取得する(ステップS406)。
【0167】
続いて、演算部30は、導出した各周波数における振幅値を取得した参照データと比較する(ステップS408)。そして、演算部30は、その比較結果に基づいて、滑り状態を検出し、その検出結果を表示出力部16へ与える(ステップS410)。そして、演算部30は、処理を終了する。
【0168】
センサ部5から有意な振幅値データを取得していない場合(ステップS402においてNOの場合)には、演算部30は、処理を終了する。
【0169】
上述の処理フローに従い、演算部30は、滑り状態を検出する。
なお、上述の実施の形態2においては、タイヤを測定対象とした場合について説明したが、タイヤ以外の測定対象にも同様に適用できることは言うまでもない。
【0170】
また、上述の実施の形態2においては、測定対象と一体化して測定する構成について説明したが、実施の形態1と同様に、センサ部を測定対象の外表面に配置し、摩擦特性を算出することもできる。
【0171】
この発明の実施の形態2によれば、センサ部は、演算処理部と無線信号を介して反射音波の時間波形データを送信する。そのため、センサ部は、測定対象と一体化するように配置され、演算処理部は、センサ部から送信される反射音波の時間波形データに基づいて、測定対象の損失正接を連続的に算出することができる。よって、タイヤなどの回転運動している測定対象の摩擦特性を容易に算出することができる。
【0172】
また、この発明の実施の形態2によれば、センサ部は、入射音波が測定対象により反射されて生じる反射音波に加えて、タイヤなどの測定対象が路面などと擦れて生じる滑り音波を受信する。そして、演算処理部は、その滑り音波に基づいて、測定対象の滑り状態を検出することができる。よって、同一の構成により、測定対象の摩擦特性を取得しつつ、測定対象の滑り状態の検出を実現できる。
【0173】
[実施の形態3]
上述の実施の形態1および2においては、測定対象の表面で反射されて生じる反射音波に基づいて損失正接を測定する構成(表面反射法)について説明した。一方、実施の形態3においては、測定対象の平面および底面で反射されて生じる2つの反射音波に基づいて損失正接を測定する構成(底面反射法)について説明する。
【0174】
図16は、実施の形態3に従う摩擦特性測定装置300の概略構成図である。
図16を参照して、摩擦特性測定装置300は、演算処理部71と、センサ部72とからなる。
【0175】
演算処理部71は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100の演算処理部1において、演算部10を演算部70に代えたものである。
【0176】
演算部70は、入力部18を介して、外部から測定指令を受けると、測定対象の厚さおよび密度を受付けた後、センサ部72へ放射指令を与え、測定対象へ入射音波を放射させる。そして、演算部70は、時間データメモリ部12に格納される2つの反射音波の時間波形データを読出してその遅延時間を計測する。また、演算部70は、それぞれの時間波形をFFT処理して、各周波数における振幅値および位相を取得する。そして、演算部70は、受付けた値、記憶部14に格納されている値、ならびに取得した遅延時間および各周波数における振幅値および位相から、測定対象の摩擦特性を算出する。さらに、演算部70は、その算出した測定対象の摩擦特性を表示出力部16へ出力する。
【0177】
また、演算部70は、入力部18を介して、外部から基準値取得指令を受けると、センサ部2へ放射指令を与え、測定対象へ入射音波を放射させる。そして、演算部70は、時間データメモリ部12に格納される反射音波の時間波形データを読出し、FFT処理を行ない、各周波数における振幅値を取得し、基準値として記憶部14に格納する。
【0178】
さらに、演算部70は、入力部18を介して、外部から反射部材参照指令を受けると反射部材8の厚さおよび密度を受付けた後、センサ部72へ放射指令を与え、反射部材へ入射音波を放射させる。そして、演算部70は、時間データメモリ部12に格納される2つの反射音波の時間波形データを読出してその遅延時間を計測し、反射部材8の音響インピーダンスを導出する。さらに、演算部70は、導出した反射部材8の音響インピーダンスを記憶部14に格納する。
【0179】
演算部70のその他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100の演算部10と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0180】
一方、センサ部72は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100のセンサ部2において、反射部材8を追加したものである。
【0181】
反射部材8は、その面が遅延部材3の面と平行となるような形状であり、ユーザまたは他の移動手段により遅延部材3との距離を変化させる。そして、反射部材8は、遅延部材3や測定対象に比較して、その音響インピーダンス差が大きくなるような材質が選定される。そのため、遅延部材3または測定対象と密着された場合において、トランスデューサ20から照射された入射音波が、その境界面において効率よく反射される。
【0182】
センサ部72のその他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100のセンサ部2と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0183】
図17は、底面反射法による損失正接を導出する方法を説明するための図である。
図17(a)は、基準値を取得する場合である。
【0184】
図17(b)は、反射部材8の群速度を取得する場合である。
図17(c)は、測定対象9の損失正接を導出する場合である。
【0185】
また、図18は、図17のそれぞれの場合における時間波形である。
図18(a)は、図17(a)における時間波形である。
【0186】
図18(b)は、図17(b)における時間波形である。
図18(c)は、図17(c)における時間波形である。
【0187】
図17(a)を参照して、演算処理部71は、まず、遅延部材3の初期誤差を取除くため、トランスデューサ20から遅延部材3を介して放射される入射音波を基準値として取得する。遅延部材3が反射部材8および測定対象9のいずれとも密着していない状態において、トランスデューサ20は、入射音波を照射する。すると、図18(a)を参照して、トランスデューサ20は、遅延部材3と空気中との境界面において生じる反射音波(A0波)を受信する。
【0188】
図4(a)と同様に、空気中の音響インピーダンスは、遅延部材3および測定対象9に比較して十分小さいため、トランスデューサ20から放射された入射音波は、遅延部材3と空気中との境界面において全反射する。
【0189】
ここで、トランスデューサ20で受信されるA0波をA0(f)exp(iθ0(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A0(f)は各周波数における振幅値(実数値)であり、θ0(f)は各周波数における位相(0≦θ0(f)<∞)である。そして、演算部70は、トランスデューサ20で受信された反射音波の時間波形をFFT処理して、各周波数における振幅値A0(f)および位相θ0(f)を取得する。
【0190】
図17(b)を参照して、次に、遅延部材3と反射部材8とを密着した状態において、トランスデューサ20が入射音波を放射すると、遅延部材3と反射部材8との境界面において反射されて生じる反射音波(A1波)、および反射部材8と空気中との境界面において反射されて生じる反射音波(B1波)が生じる。そこで、演算部70は、A1波とB1波との時間遅延を検出する。すなわち、図18(b)を参照して、トランスデューサ20は、遅延時間ΔTrの遅延時間をあけて、A1波およびA2波を受信する。そして、演算部70は、トランスデューサ20からの時間波形に基づいて、A1波とA2波との遅延時間ΔTrを測定する。
【0191】
ここで、反射部材8の厚さhrおよび反射部材8の密度ρrが既知であるとすると、反射部材8の音響インピーダンスZrは、反射部材8における群速度をVgrとして、Zr=ρr×Vgrと表される。さらに、群速度Vgrは、Vgr=2hr/ΔTrであるので、結局、反射部材8の音響インピーダンスZrは、Zr=2hrρr/ΔTrとなる。
【0192】
よって、演算部70は、予め反射部材8の厚さhrおよび反射部材8の密度ρrを受付け、その受付けた値および測定した遅延時間ΔTrから反射部材8の音響インピーダンスZrを取得する。
【0193】
上述の過程により、演算部70は、損失正接を導出するための基準値を取得する。
図17(c)を参照して、測定対象9の損失正接を導出する場合には、遅延部材3と反射部材8との間に密着されるように測定対象9を配置する。そして、トランスデューサ20が入射音波を放射すると、遅延部材3と測定対象9との境界面において反射されて生じる反射音波(A波)、および測定対象9と反射部材8との境界面において反射されて生じる反射音波(B波)が生じる。そこで、演算部70は、A波とB波との時間遅延を検出し、かつ、A波およびB波の各周波数における振幅値および位相を取得する。
【0194】
すなわち、図18(c)を参照して、トランスデューサ20は、遅延時間ΔTの遅延時間をあけて、A波およびB波を受信する。そして、演算部70は、トランスデューサ20からの時間波形に基づいて、A波とB波との遅延時間ΔTを測定する。
【0195】
ここで、測定対象9の厚さhおよび測定対象9の密度ρが既知であるとすると、測定対象9の音響インピーダンスZは、測定対象9における群速度をVgとして、Z=ρ×Vgと表される。さらに、群速度Vgは、Vg=2h/ΔTであるので、結局、測定対象9の音響インピーダンスZは、Z=2hρ/ΔTとなる。
【0196】
すると、測定対象9と反射部材8との境界面における入射音波の反射率Rは、R=(Z−Zr)/(Z+Zr)=(2hρ/ΔT−Zr)/(2hρ/ΔT+Zr)となる。
【0197】
したがって、演算部70は、予め測定対象9の厚さhおよび測定対象9の密度ρを受付け、その受付けた値、測定した遅延時間ΔTおよび予め取得する反射部材8の音響インピーダンスZrから、測定対象9と反射部材8との境界面における入射音波の反射率Rを導出する。
【0198】
また、トランスデューサ20で受信されるA波をA(f)exp(iθA(f))と表し、B波をB(f)exp(iθB(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A(f),B(f)はそれぞれA波およびB波の各周波数における振幅値(実数値)であり、θA(f),θB(f)はそれぞれA波およびB波の各周波数における位相(0≦θA(f)<∞,0≦θB(f)<∞)である。
【0199】
そして、演算部70は、トランスデューサ20で受信されたA波の時間波形をFFT処理して、A波の各周波数における振幅値A(f)および位相θA(f)を取得し、B波の時間波形をFFT処理して、B波の各周波数における振幅値B(f)および位相θB(f)を取得する。
【0200】
さらに、A0波、A波およびB波の各周波数における振幅値ならびに導出される反射率Rを用いて、入射音波の減衰係数α(f)は、(10)式となる。
【0201】
α(f)=(1/2h)ln(R(A0(f)2−A(f)2)/A0(f)B(f)))・・・(10)
また、A波およびB波の各周波数における振幅値および位相を用いて、入射音波の位相速度Vp(f)は、(11)式となる。
【0202】
Vp(f)=2h×2πf/(θB−θA+2πfΔT+2Nπ)・・・(11)
但し、Nは任意の正数である。
【0203】
そして、(10)式および(11)式によって導出される減衰係数α(f)および位相速度Vp(f)を用いて、損失正接tanδ(f)は、(12)式となる。
【0204】
tanδ(f)=α(f)×Vp(f)/πf・・・(12)
したがって、演算部70は、(10)式〜(12)式の演算を実行し、損失正接tanδ(f)を導出する。さらに、演算部70は、換算定数AおよびBを用いて、導出した損失正接tanδ(f)から摩擦係数を算出する。
【0205】
図19は、底面反射法により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
図16および図19を参照して、演算部70は、入力部18を介して基準取得指令を受けたか否かを判断する(ステップS500)。基準取得指令を受けていない場合(ステップS500においてNOの場合)には、演算部70は、基準取得指令を受けるまで待つ(ステップS500)。
【0206】
一方、ユーザは、遅延部材3が測定対象9および反射部材8のいずれとも密着しないように配置した後、基準取得指令を与える。
【0207】
基準取得指令を受けた場合(ステップS500においてYESの場合)には、演算部70は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS502)。
【0208】
続いて、演算部70は、時間データメモリ部12からトランスデューサ20が受信する反射音波(A0波)の時間波形データを読出す(ステップS504)。そして、演算部70は、読出した反射音波(A0波)の時間波形データに対してFFT処理を行ない、反射音波(A0波)の各周波数における振幅値を取得する(ステップS506)。さらに、演算部70は、取得した反射音波(A0波)の各周波数における振幅値を基準値として記憶部14へ格納する(ステップS508)。
【0209】
次に、演算部70は、入力部18を介して反射部材参照指令を受けたか否かを判断する(ステップS510)。反射部材参照指令を受けていない場合(ステップS510においてNOの場合)には、演算部70は、基準取得指令を受けるまで待つ(ステップS510)。反射部材参照指令を受けた場合(ステップS510においてYESの場合)には、演算部70は、入力部18を介して反射部材8の厚さおよび密度を受付ける(ステップS512)。
【0210】
一方、ユーザは、遅延部材3が反射部材8と密着するように配置した後、反射部材参照指令を与え、続いて、反射部材8の厚さおよび密度を与える。
【0211】
そして、演算部70は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS514)。続いて、演算部70は、時間データメモリ部12からトランスデューサ20が受信する反射音波(A1波およびB1波)の時間波形データを読出す(ステップS516)。そして、演算部70は、読出した反射音波(A1波およびB1波)の時間波形データに基づいて、遅延時間を計測する(ステップS518)。さらに、演算部70は、受付けた反射部材8の厚さおよび密度ならびに測定した遅延時間から反射部材8の音響インピーダンスを取得する(ステップS520)。さらに、演算部70は、取得した音響インピーダンスを記憶部14へ格納する(ステップS522)。
【0212】
さらに、演算部70は、測定指令を受けたか否かを判断する(ステップS524)。測定指令を受けていない場合(ステップS524においてNOの場合)には、演算部70は、測定指令を受けるまで待つ(ステップS524)。測定指令を受けた場合(ステップS524においてYESの場合)には、演算部70は、入力部18を介して測定対象9の厚さおよび密度を受付ける(ステップS526)。
【0213】
一方、ユーザは、測定対象9が遅延部材3および反射部材8との間に密着するように配置した後、測定指令を与え、続いて、測定対象9の厚さおよび密度を与える。
【0214】
そして、演算部70は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS528)。続いて、演算部70は、時間データメモリ部12からトランスデューサ20が受信する反射音波(A波およびB波)の時間波形データを読出す(ステップS530)。そして、演算部70は、読出した反射音波(A波およびB波)の時間波形データに基づいて、遅延時間を計測する(ステップS532)。さらに、演算部70は、受付けた測定対象9の厚さおよび密度、記憶部14から読出した反射部材8の音響インピーダンス、ならびに計測した遅延時間から、測定対象9と反射部材8との境界面における入射音波の反射率を導出する(ステップS534)。
【0215】
また、演算部70は、それぞれの反射音波(A波およびB波)の時間波形データに対してFFT処理を行ない、それぞれの反射音波(A波およびB波)の各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS536)。そして、演算部70は、記憶部14から読出した基準値の各周波数における振幅値、導出した測定対象9と反射部材8との境界面における入射音波の反射率、およびそれぞれの反射音波(A波およびB波)の各周波数における振幅値から、入射音波の減衰係数を導出する(ステップS538)。また、演算部70は、それぞれの反射音波(A波およびB波)の各周波数における振幅値および位相から、位相速度を導出する(ステップS540)。
【0216】
演算部70は、導出した減衰係数および移動速度から、各周波数における損失正接を導出する(ステップS542)。そして、演算部70は、導出した各周波数における損失正接から摩擦特性を算出し、表示出力部16へ与える(ステップS544)。すると、ユーザは、表示出力部16を介して算出された摩擦特性を知ることができる。
【0217】
そして、演算部70は、処理を終了する。
また、実施の形態3に従う摩擦特性測定装置300は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100と同様に、劣化状態判断、良否判断および換算定数の校正を行なうことができる。それぞれの機能については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0218】
(変形例)
上述の底面反射法は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200に対しても適用することができる。
【0219】
図20は、実施の形態3の変形例に従う摩擦特性測定装置302の概略構成図である。
図20を参照して、実施の形態3の変形例に従う摩擦特性測定装置302は、演算処理部74と、センサ部75とからなる。
【0220】
演算処理部74は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200の演算処理部4において、演算部30を演算部73に代えたものである。
【0221】
演算部73は、測定指令、基準値取得指令または反射部材参照指令を受けると、伝送部32へ放射指令を与え、かつ、伝送部32を介して反射音波の時間波形データを受ける。演算部73のその他については、実施の形態3における演算部70と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0222】
センサ部75は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200のセンサ部5において、反射部材8を加えたものである。
【0223】
反射部材8については、上述したものと同様であるので詳細な説明は繰返さない。
上述のように、演算処理部とセンサ部とが無線信号を介して接続する構成に対しても、底面反射法を同様に適用することができる。
【0224】
また、実施の形態3の変形例に従う摩擦特性測定装置302は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200と同様に、タイヤなどの測定対象に組込むことができ、滑り状態の検出もできる。それぞれの機能については、実施の形態2と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0225】
この発明の実施の形態3によれば、実施の形態1および2における効果に加えて、センサ部は、入射音波が測定対象の媒質全体を往復して生じる反射音波を受信する。そのため、演算処理部は、測定対象の媒質全体に対する摩擦特性を算出することができるため、測定対象の表面における摩擦特性だけではなく、測定対象全体の摩擦特性を算出できる。
【0226】
[実施の形態4]
上述の実施の形態1〜3においては、1つのトランスデューサを用いて、入射音波を照射し、かつ測定対象からの反射音波を受信する構成(表面反射法、底面反射法)について説明した。一方、実施の形態4においては、それぞれ入射音波の照射および透過音波の受信を行なう2つのトランスデューサにより構成(透過法)について説明する。
【0227】
図21は、実施の形態4に従う摩擦特性測定装置400の概略構成図である。
図21を参照して、摩擦特性測定装置400は、演算処理部46と、センサ部77とからなる。
【0228】
演算処理部46は、時間データメモリ部12.1,12.2と、演算部80と、記憶部14と、表示出力部16と、入力部18とからなる。
【0229】
時間データメモリ部12.1は、センサ部77から放射される入射音波の時間波形を所定の周期で格納する。
【0230】
時間データメモリ部12.2は、センサ部77で受信される透過音波の時間波形を所定の周期で格納する。
【0231】
時間データメモリ部12.1,12.2のその他については、時間データメモリ部12と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0232】
演算部80は、入力部18を介して、外部から測定指令を受けると、センサ部77へ放射指令を与え、測定対象へ入射音波を放射させる。そして、演算部80は、時間データメモリ部12.1に格納される入射音波の時間波形データを読出し、かつ、時間データメモリ部12.2に格納される透過音波の時間波形データを読出す。さらに、演算部80は、それぞれ読出した時間波形データのFFT処理を行ない、各周波数における振幅値および位相を取得する。続いて、演算部80は、入射音波と透過音波との各周波数における振幅値および位相を比較し、測定対象の摩擦特性を算出する。さらに、演算部10は、その算出した測定対象の摩擦特性を表示出力部16へ出力する。
【0233】
演算部80のその他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100の演算部10と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0234】
記憶部14と、表示出力部16と、入力部18とについては、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0235】
一方、センサ部77は、トランスデューサ20.1,20.2と、信号処理回路28.1,28.2と、送信制御回路22と、送信回路24と、受信回路26とからなる。
【0236】
トランスデューサ20.1は、送信回路24と接続され、送信回路24から受けた電気信号を音波に変換して測定対象へ放射する。
【0237】
トランスデューサ20.2は、受信回路26と接続され、測定対象を伝搬した後の音波を電気信号に変換して受信回路26へ出力する。
【0238】
トランスデューサ20.1,20.2のその他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100のトランスデューサ20と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0239】
信号処理回路28.1は、送信回路24と接続され、送信回路24からトランスデューサ20.1へ与えられる電気信号を受け、トランスデューサ20.1から放射される音波の瞬間的な振幅値を順次出力する。
【0240】
信号処理回路28.2は、受信回路26から電気信号を受け、トランスデューサ20.2で受信される音波の瞬間的な振幅値を順次出力する。
【0241】
信号処理回路28.1,28.2のその他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100の信号処理回路28と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0242】
送信制御回路22と、送信回路24と、受信回路26とについては、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0243】
図22は、透過法による損失正接を導出する方法を説明するための図である。
図22を参照して、トランスデューサ20.1から放射される入射音波(Ai波)は、測定対象9を伝搬して、その透過音波(At波)がトランスデューサ20.2へ入射する。ここで、透過音波は、測定対象9の特性に応じて、その振幅値および位相が変化する。そこで、演算部80は、入射音波および透過音波の時間波形をFFT処理し、各周波数における振幅値および位相を比較して、その損失正接を導出する。
【0244】
図23は、透過法により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
図21および図23を参照して、演算部80は、測定指令を受けたか否かを判断する(ステップS600)。測定指令を受けていない場合(ステップS600においてNOの場合)には、演算部80は、測定指令を受けるまで待つ(ステップS600)。測定指令を受けた場合(ステップS600においてYESの場合)には、演算部80は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20.1から入射音波を放射する(ステップS602)。
【0245】
演算部80は、記憶部14から予め測定したトランスデューサ20.1が送信する放射音波(Ai波)の時間波形データを読出す(ステップS604)。同時に、演算部80は、時間データメモリ部12.2からトランスデューサ20.2が受信する透過音波(At波)の時間波形データを読出す(ステップS606)。
【0246】
そして、演算部80は、読出した入射音波(Ai波)および透過音波(At波)の時間波形に対してFFT処理を行ない、入射音波および透過音波それぞれの各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS608)。そして、演算部80は、取得した入射音波の振幅値および位相と、透過音波の振幅値および位相を比較し、各周波数における損失正接を導出する(ステップS610)。そして、演算部80は、導出した各周波数における損失正接から摩擦特性を算出し、表示出力部16へ与える(ステップS612)。すると、ユーザは、表示出力部16を介して算出された摩擦特性を知ることができる。そして、演算部80は、処理を終了する。
【0247】
また、実施の形態4に従う摩擦特性測定装置400は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100と同様に、劣化状態判断、良否判断および換算定数の校正を行なうことができる。それぞれの機能については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0248】
(変形例)
上述の透過法は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200に対しても適用することができる。
【0249】
図24は、実施の形態4の変形例に従う摩擦特性測定装置402の概略構成図である。
図24を参照して、実施の形態4の変形例に従う摩擦特性測定装置402は、演算処理部78と、センサ部79とからなる。
【0250】
演算処理部78は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200の演算処理部4において、演算部30を演算部82に代えたものである。
【0251】
演算部82は、測定指令を受けると、伝送部32へ放射指令を与え、かつ、伝送部32を介して入射音波および透過音波の時間波形データを受ける。演算部82のその他については、実施の形態4における演算部80と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0252】
一方、センサ部79は、伝送部34と、トランスデューサ20.1,20.2と、時間データメモリ部12.1,12.2と、信号処理回路28.1,28.2と、蓄電部38と、発電部36と、送信制御回路22と、送信回路24と、受信回路26とからなる。
【0253】
伝送部34は、時間データメモリ部12.1,12.2に格納されるそれぞれの時間データを読出し、演算処理部78へ送信する。
【0254】
トランスデューサ20.1,20.2と、時間データメモリ部12.1,12.2と、信号処理回路20.1,20.2については、上述したものと同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0255】
蓄電部38と、発電部36と、送信制御回路22と、送信回路24と、受信回路26とについては、実施の形態2と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0256】
上述のように、演算処理部とセンサ部とが無線信号を介して接続する構成に対しても、透過法を同様に適用することができる。
【0257】
また、実施の形態4の変形例に従う摩擦特性測定装置402は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200と同様に、タイヤなどの測定対象に組込むことができ、滑り状態の検出もできる。
【0258】
図25は、センサ部79の配置例を示す図である。
図25を参照して、摩擦特性測定装置402のセンサ部79は、2つのトランスデューサ20.1および20.2を有する。そのため、図11と同様に、タイヤを測定対象とする場合において、トランスデューサ20.1および20.2は、測定対象を介して所定の間隔だけ離れて対向するように配置される。
【0259】
その他については、実施の形態2と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
この発明の実施の形態4によれば、実施の形態1および2における効果に加えて、センサ部は、入射音波を放射するトランスデューサおよび透過音波を受信するトランスデューサを含むので、同一のトランスデューサで放射および受信を行なう場合に比較して、分離するための構成を省略化できる。さらに、入射音波に対する透過音波の変化を算出するだけでよいので、演算処理を簡素化できる。
【0260】
[実施の形態5]
上述の実施の形態1〜4においては、音波を用いて測定対象の損失正接を導出する構成について説明した。一方、実施の形態5においては、測定対象に直接振動を与えて損失正接を導出する構成(インピーダンス法)について説明する。
【0261】
図26は、実施の形態5に従う摩擦特性測定装置500の概略構成図である。
図26を参照して、摩擦特性測定装置500は、演算処理部86と、センサ部88とからなる。
【0262】
演算処理部86は、演算部84と、記憶部14と、表示出力部16と、入力部18とからなる。
【0263】
演算部84は、入力部18を介して、外部から測定指令を受けると、センサ部88へ印加周波数指令を与え、測定対象9へ振動を与える。そして、演算部84は、センサ部88から測定インピーダンスを受け、その位相から損失正接を導出する。演算部84のその他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100の演算部10と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0264】
また、記憶部14と、表示出力部16と、入力部18とについては、実施の形態1と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0265】
一方、センサ部88は、歪み部材56と、電圧発生器50と、インピーダンス測定器52と、電流検出器54とからなる。
【0266】
歪み部材56は、測定対象9と密着するように配置され、電圧発生器50から印加される電圧および交流周波数に応じて、その境界面内において伸縮歪みを生じる。一例として、歪み部材56は、チタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などからなる。
【0267】
電圧発生器50は、演算処理部86からの印加周波数指令に応じて、所定の周波数をもつ交流電圧を発生し、歪み部材56へ与える。
【0268】
電流検出器54は、電圧発生器50と歪み部材56とを接続する導線上に配置され、電圧発生器50から歪み部材56へ与えられる電流を検出し、インピーダンス測定器52へ出力する。
【0269】
インピーダンス測定器52は、電極58.1および電極58.2と接続され、その発生電圧を検出するとともに、電流検出器54から出力される電流検出値を受け、歪み部材56に生じるインピーダンスを測定する。そして、インピーダンス測定器52は、その測定インピーダンスを演算処理部86へ出力する。
【0270】
図27は、歪み部材56の詳細図である。
図27を参照して、歪み部材56の両面側に電極部58.1および58.2が密着されており、電圧発生器50(図示しない)から印加される電圧に応じて、電極部58.1と電極部58.2との間に電界が生じる。歪み部材56は、その内部に電界が生じるため、歪みを生じる。
【0271】
再度、図26を参照して、歪み部材56は、電圧発生器50により印加される電圧に比例するように歪みを生じるが、測定対象9と密着するように配置されており、その駆動抵抗は測定対象9の粘弾性特性に応じて決まる。すなわち、歪み部材56は、電圧発生器50により印加される電圧に応じて応力を発生し、その応力に応じた歪みを生じるが、歪み部材56が測定対象9と密着されているため、測定対象9における粘弾性特性の影響が大きく、周期的な応力に対して発生する歪みに位相遅れが生じる。さらに、この駆動抵抗は、歪み部材56を含む閉回路のインピーダンス変化の主要因となるので、インピーダンス測定することで測定対象9の粘弾性を検出できる。
【0272】
したがって、歪み部材56に印加される電圧は、歪み部材56に生じる応力に相当し、歪み部材56を含む閉回路のインピーダンスは、歪み部材56が測定対象9の粘弾性に相当する。
【0273】
そこで、演算部84は、必要とする損失正接の周波数の範囲内において、印加周波数指令を変化させ、各周波数における測定インピーダンスを取得する。そして、演算部84は、各周波数における力率角から測定対象9の損失正接を導出し、さらに測定対象9の摩擦特性を算出する。
【0274】
図28は、インピーダンス法により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
図26および図28を参照して、演算部84は、測定指令を受けたか否かを判断する(ステップS700)。測定指令を受けていない場合(ステップS700においてNOの場合)には、演算部84は、測定指令を受けるまで待つ(ステップS700)。
【0275】
測定指令を受けた場合(ステップS700においてYESの場合)には、演算部84は、印加周波数fを初期周波数fminに設定する(ステップS702)。そして、演算部84は、印加周波数指令を電圧発生器50へ与える(ステップS704)。
【0276】
続いて、演算部84は、インピーダンス測定器52から受ける測定インピーダンスから、印加周波数fにおける損失正接を導出する(ステップS706)。そして、演算部84は、導出した印加周波数fにおける損失正接から摩擦係数を算出し、記憶部14へ格納する(ステップS708)。
【0277】
演算部84は、印加周波数fに増分周波数Δfを加算する(ステップS710)。そして、演算部84は、加算後の印加周波数fが最大周波数fmaxを超過しているか否かを判断する(ステップS712)。
【0278】
最大周波数fmaxを超過していない場合(ステップS712においてNOの場合)において、演算部84は、再度、印加周波数指令を電圧発生器50へ与える(ステップS704)。以下、演算部84は、ステップS706,S708,S710,S712をステップS712においてYESとなるまで繰返す。
【0279】
最大周波数fmaxを超過している場合(ステップS712においてYESの場合)において、演算部84は、記憶部14から各周波数における摩擦係数を読出し、摩擦特性を表示出力部16へ与える(ステップS714)。そして、演算部84は、処理を終了する。
【0280】
また、実施の形態5に従う摩擦特性測定装置500は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100と同様に、劣化状態判断、良否判断および換算定数の校正を行なうことができる。それぞれの機能については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0281】
(変形例)
上述したように、歪み部材56は、内部に生じる電界に応じて応力を生じるので、歪み部材56に電界を与えるように構成すれば、歪み部材56の表面に電極を密着する必要ない。
【0282】
図29は、実施の形態5の変形例に従うセンサ部90の概略構成図である。
図29を参照して、センサ部90は、図26に示すセンサ部88において、歪み部材56が測定対象に埋設され、電極部58.1および58.2により、測定対象9および歪み部材56に対して内部電界を生じるように構成される。
【0283】
歪み部材56におけるインピーダンスの挙動は、図26に示すセンサ部88と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0284】
センサ部90においては、歪み部材56の両面が測定対象9と密着されるため、図26に示すセンサ部88に比較して、その密着度もより大きくなる。したがって、センサ部90は、より高精度に測定対象9の損失正接を算出することができる。また、測定対象9となりうる製品に予め歪み部材56を埋設しておくことにより、事後的に測定対象9の摩擦特性を算出することもできる。
【0285】
この発明の実施の形態5によれば、実施の形態1および2における効果に加えて、測定対象の粘弾性特性に応じた電歪素子の変位に伴うインピーダンスの変化に基づいて損失正接を導出できる。そのため、音波などを使用する場合に比較して、構成を簡素化できる。
【0286】
[実施の形態6]
上述の実施の形態2においては、センサ部が測定した時間波形データを無線信号で伝送するアクティブな構成について説明した。一方、実施の形態6においては、センサ部が外部から無線信号を受け、その無線信号に測定対象に応じた情報を含ませた後、無線信号として送り戻すパッシブな構成について説明する。
【0287】
図30は、実施の形態6に従う摩擦特性測定装置600の概略構成図である。
図30を参照して、摩擦特性測定装置600は、演算処理部91と、センサ部92とからなる。
【0288】
演算処理部91は、演算部93と、送信回路94と、受信回路95と、時間データメモリ部96と、記憶部14と、表示出力部16と、入力部18とからなる。
【0289】
演算部93は、入力部18を介して、外部から測定指令を受けると、測定対象の長さを受付けた後、送信回路94へ放射指令を与えてセンサ部92へ入射電波を放射させる。そして、演算部93は、時間データメモリ部96に格納される反射電波の時間波形データを読出し、その伝搬時間を計測するとともに、読出した時間波形をFFT処理して、各周波数における振幅値および位相を取得する。そして、演算部93は、受付けた値、記憶部14に格納されている基準値、計測した伝搬時間、ならびに取得した振幅値および位相から測定対象の摩擦特性を算出する。さらに、演算部93は、その算出した測定対象の摩擦特性を表示出力部16へ出力する。
【0290】
また、演算部93は、入力部18を介して、外部から基準値取得指令を受けると、送信回路94へ放射指令を与えてセンサ部92へ入射電波を放射させる。そして、演算部93は、時間データメモリ部96に格納される反射電波の時間波形データを読出し、その伝搬時間を計測するとともに、読出した時間波形をFFT処理して、各周波数における振幅値および位相を取得する。そして、演算部93は、計測した伝搬時間ならびに取得した各周波数における振幅値および位相を基準値として記憶部14に格納する。
【0291】
演算部93のその他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100の演算部10と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0292】
送信回路94は、演算部93から放射指令を受けると、センサ部92を駆動するための入射電波を放射する。また、送信回路94は、入射電波を放射したタイミングを通知するためのトリガ信号を時間データメモリ部96へ与える。
【0293】
受信回路95は、センサ部92が入射電波を受けて生じる反射電波を受信し、所定の周波数成分だけを抽出し、その瞬間的な振幅値を時間データメモリ部96へ順次出力する。
【0294】
時間データメモリ部96は、送信回路94からトリガ信号を受けると、受信回路95から出力されるデータの格納を開始する。
【0295】
記憶部14と、表示出力部16と、入力部18とは、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0296】
一方、センサ部92は、演算処理部91からの入射電波を受け、その表面を伝搬する表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave;以下、SAW波と称す)を発生する。そして、センサ部92は、その表面を伝搬したSAW波から反射電波を生じ、演算処理部91へ放射する。また、センサ部92は、くし型電極(IDT:Inter Digital transducer;以下、IDTと称す)97.1,97.2,97.3と、アンテナ98.1,98.2,98.3と、基板部99とからなる。
【0297】
IDT97.1は、その一方の電極がアンテナ98.1と接続され、他方の電極が接地電位と接続され、アンテナ98.1に誘起される電圧に応じて、そのくし型の形状を構成する電極面が振動し、SAW波を生成する。
【0298】
IDT97.2は、その一方の電極がアンテナ98.2と接続され、他方の電極が基準電位と接続され、IDT97.1から受けるSAW波に応じて、そのくし型の形状を構成する電極面が振動し電圧を誘起する。そして、IDT97.2は、誘起した電圧でアンテナ98.2を励起する。同様に、IDT97.3は、その一方の電極がアンテナ98.3と接続され、他方の電極が基準電位と接続され、IDT97.1から受けるSAW波に応じて、そのくし型の形状を構成する電極面が振動し電圧を誘起する。そして、IDT97.3は、誘起した電圧でアンテナ98.3を励起する。
【0299】
基板部99は、その表面にIDT97.1,97.2,97.3が形成され、IDT97.1で発生するSAW波が伝搬する経路となる。また、基板部99は、そのSAW波が伝搬する経路上において、測定対象が密着するように配置される。
【0300】
アンテナ98.1は、IDT97.1と接続され、演算処理部91から入射電波を受け、誘起する電圧をIDT97.1へ与える。
【0301】
アンテナ98.2は、IDT97.2と接続され、IDT97.2において誘起される電圧を受け、反射電波を演算処理部91へ放射する。同様に、アンテナ98.3は、IDT97.3と接続され、IDT97.3において誘起される電圧を受け、反射電波を演算処理部91へ放射する。
【0302】
上述のように、センサ部92は、基板部99の表面に測定対象を密着するように配置されるため、基板部99を伝搬するSAW波は、測定対象の情報を含む。さらに、IDT97.2およびアンテナ98.2は、その測定対象の情報を含む反射電波を生成するので、演算処理部91は、測定対象の摩擦特性を算出することができる。
【0303】
図31は、SAW波により損失正接を導出する方法を説明するための図である。
図31(a)は、基準値を取得する場合である。
【0304】
図31(b)は、測定対象9の損失正接を導出する場合である。
図31(a)を参照して、
図32は、図31のそれぞれの場合における時間波形である。
【0305】
図32(a)は、図31(a)における時間波形である。
図32(b)は、図31(b)における時間波形である。
【0306】
図30および図31(a)を参照して、演算部93は、センサ部92の基準値として、測定対象9が存在しない場合における反射電波を基準値として取得する。センサ部92に測定対象が密着していない状態において、送信回路94が入射電波を放射すると、IDT97.1で生成されたSAW波(A0波)が基板部99の表面を伝搬して、IDT97.2へ到達する。同時に、IDT97.1で生成されたSAW波(B0波)が基板部99の表面を伝搬して、IDT97.3へ到達する。さらに、IDT97.2へ到達したSAW波は、アンテナ98.2を介して反射電波として放射され、IDT97.3へ到達したSAW波は、アンテナ98.3を介して反射電波として放射される。
【0307】
図32(a)を参照して、時間データメモリ部96は、送信回路94からのトリガ信号を受けて、データの格納を開始するので、演算部93は、送信回路94から入射電波が放射されてから、受信回路95が反射電波(A0波またはB0波)を受信するまでの伝搬時間を計測する。なお、実施の形態6では、演算部93は、受信回路95が反射電波(A0波)を受信するまでの伝搬時間T0を計測する場合について例示するが、A0波またはB0波のいずれか一方の伝搬時間を計測すればよい。
【0308】
ここで、A0波をA0(f)exp(iθ0(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A0(f)は各周波数における振幅値(実数値)であり、θ0(f)は各周波数における位相(0≦θ0(f)<∞)である。そして、演算部93は、時間データメモリ部96に格納される時間波形をFFT処理して、各周波数における振幅値A0(f)および位相θ0(f)を取得する。このようにして、演算部93は、基準値を取得する。
【0309】
図31(b)を参照して、次に、測定対象9の損失正接を導出する場合には、センサ部92と密着されるように、同一の材質でかつ長さが互いに異なる測定対象9.1および9.2を配置する。そして、送信回路94が入射電波を放射すると、IDT97.1で生成されたSAW波(A波)が基板部99の表面を伝搬して、測定対象9.1を通過した後、IDT97.2へ到達する。同時に、IDT97.1で生成されたSAW波(B波)が基板部99の表面を伝搬して、測定対象9.2を通過した後、IDT97.3へ到達する。さらに、IDT97.2,97.3へ到達したSAW波(A波,B波)は、アンテナ98.2,98.3を介して反射電波として放射される。
【0310】
図32(b)を参照して、センサ部92において、A波の伝搬速度は、測定対象9.1の音響インピーダンスに応じて変化(低下)するため、受信回路95で受信される反射電波は、測定対象9.1が存在しない場合に比較して、遅延時間ΔTだけ遅れる。
【0311】
時間データメモリ部96は、送信回路94からのトリガ信号を受けて、データの格納を開始するので、演算部93は、送信回路94から入射電波が放射されてから、受信回路95が反射電波(A波)を受信するまでの伝搬時間Tを計測し、その計測した伝搬時間Tと基準値のT0とを比較して、遅延時間ΔTを導出する。
【0312】
また、受信回路95で受信されるA波をA(f)exp(iθA(f))と表し、B波をB(f)exp(iθB(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A(f),B(f)はそれぞれA波およびB波の各周波数における振幅値(実数値)であり、θA(f),θB(f)はそれぞれA波およびB波の各周波数における位相(0≦θA(f)<∞,0≦θB(f)<∞)である。そして、演算部93は、時間データメモリ部96に格納される時間波形をFFT処理して、各周波数における振幅値A(f)および位相θ(f)を取得する。
【0313】
すると、測定対象9.1,9.2の長さL1,L2、ならびにA波およびB波の各周波数における振幅値を用いて、SAW波の減衰係数α(f)は、(13)式となる。
【0314】
α(f)={1/(L2−L1)}ln(A(f)/B(f))・・・(13)
また、遅延時間ΔT、SAW波の伝搬速度VA、ならびにA波およびB波の各周波数における振幅値および位相を用いて、SAW波の位相速度Vp(f)は、(14)式となる。
【0315】
Vp(f)=2πfL1/(tanθ0−tanθA+2πfL1/VA+2πfΔT)・・・(14)
そして、(13)式および(14)式によって導出される減衰係数α(f)および位相速度Vp(f)を用いて、損失正接tanδ(f)は、(15)式となる。
【0316】
tanδ(f)=α(f)×Vp(f)/πf・・・(15)
したがって、演算部93は、(13)式〜(15)式の演算を実行し、損失正接tanδ(f)を導出する。さらに、演算部93は、換算定数AおよびBを用いて、導出した損失正接tanδ(f)から摩擦係数を算出する。
【0317】
図33は、SAW波により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
図30および図33を参照して、演算部93は、入力部18を介して基準取得指令を受けたか否かを判断する(ステップS800)。基準取得指令を受けていない場合(ステップS800においてNOの場合)には、演算部93は、基準取得指令を受けるまで待つ(ステップS800)。
【0318】
一方、ユーザは、測定対象9がセンサ部92と密着しないように配置した後、基準取得指令を与える。
【0319】
基準取得指令を受けた場合(ステップS800においてYESの場合)には、演算部93は、放射指令を送信回路94へ与え、入射電波を放射する(ステップS802)。
【0320】
続いて、演算部93は、時間データメモリ部96から受信回路95が受信する反射電波(A0波)の時間波形データを読出す(ステップS804)。そして、演算部93は、読出した時間波形データに基づいて、送信回路94から入射電波が放射されてから、受信回路95が反射電波(A0波)を受信するまでの伝搬時間T0を計測する(ステップS806)。また、演算部93は、読出した反射電波(A0波)の時間波形データに対して、FFT処理を行ない、反射電波(A0波)の各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS808)。さらに、演算部93は、計測した伝搬時間T0ならびに取得した反射電波の各周波数における振幅値および位相を基準値として記憶部14へ格納する(ステップS810)。
【0321】
次に、演算部93は、測定指令を受けたか否かを判断する(ステップS812)。測定指令を受けていない場合(ステップS812においてNOの場合)には、演算部93は、測定指令を受けるまで待つ(ステップS812)。測定指令を受けた場合(ステップS812においてYESの場合)には、演算部93は、入力部18を介して、測定対象9.1,9.2の長さおよびSAW波の伝搬速度を受付ける(ステップS814)。
【0322】
一方、ユーザは、測定対象9.1および9.2がセンサ部92と密着するように配置した後、測定指令を与え、続いて、SAW波の伝搬速度を与える。
【0323】
すると、演算部93は、放射指令を送信回路94へ与え、入射電波を放射する(ステップS816)。
【0324】
続いて、演算部93は、時間データメモリ部96からから受信回路95が受信する反射電波(A波およびB波)の時間波形データを読出す(ステップS818)。そして、読出した時間波形データに基づいて、送信回路94から入射電波が放射されてから、受信回路95が反射電波(A波)を受信するまでの伝搬時間Tを計測する(ステップS820)。さらに、演算部93は、記憶部14からA0波における基準値の伝搬時間T0を読出し、伝搬時間Tから伝搬時間T0を減算して遅延時間ΔTを導出する(ステップS822)。
【0325】
また、演算部93は、読出した反射電波(A波およびB波)の時間波形データに対して、それぞれFFT処理を行ない、反射電波(A波およびB波)のそれぞれの各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS824)。
【0326】
そして、演算部93は、受付けた測定対象9.1,9.2の長さL1,L2、反射電波(A波およびB波)の各周波数における振幅値から、入射電波の減衰係数を導出する(ステップS826)。また、演算部93は、受付けたSAW波の伝搬速度VA、導出した遅延時間ΔT、反射電波(A0波およびA波)の各周波数における振幅値および位相から、位相速度を導出する(ステップS828)。
【0327】
演算部93は、導出した減衰係数および移動速度から、各周波数における損失正接を導出する(ステップS830)。そして、演算部93は、導出した各周波数における損失正接から摩擦特性を算出し、表示出力部16へ与える(ステップS832)。すると、ユーザは、表示出力部16を介して算出された摩擦特性を知ることができる。そして、演算部93は、処理を終了する。
【0328】
上述のように、実施の形態6に従う摩擦特性測定装置600は、測定対象の摩擦特性を算出する。
【0329】
なお、センサ部92は、その表面を伝搬するSAW波の周波数をIDT97.1とIDT97.2および97.3との共振周波数に限定するように構成できる。すなわち、送信回路94から放射される入射電波に複数の周波数成分が含まれていた場合であっても、センサ部92が放射する反射電波の周波数成分を共振周波数だけにフィルタすることもできる。このようなセンサ部92を採用すると、演算部93は、FFT処理を行なう必要がない。そのため、より高速に摩擦特性を算出することができる。
【0330】
また、実施の形態6の変形例に従う摩擦特性測定装置600は、共振周波数が互いに異なる複数のセンサ部92を配置することによって、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200と同様に、タイヤなどの測定対象に組込むことができ、滑り状態の検出もできる。それぞれの機能については、実施の形態2と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0331】
なお、上述の実施の形態6においては、入射電波を受信するためのアンテナと、反射電波を放射するためのアンテナとをそれぞれ有するセンサ部について説明したが、この構成に限られることはなく、受信および放射を共通のアンテナを備える構成とすることもできる。
【0332】
この発明の実施の形態6によれば、センサ部は、演算処理部から送信される放射電波を受けて表面弾性波を生じ、さらに、測定対象の粘弾性特性に応じた反射電波を放射する。そのため、センサ部は、演算処理部から受けた入射電波で駆動するので、外部から電力を供給する必要がない。よって、センサ部の配置場所には制約がなく、運動を行なっている測定対象に対して、容易に摩擦特性を算出することができる。
【0333】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0334】
【図1】この発明の実施の形態1に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図2】摩擦特性測定装置による測定の一例を示す図である。
【図3】損失正接から算出される摩擦係数を従来の摩擦特性測定装置により測定される摩擦係数と比較した図である。
【図4】表面反射法による損失正接を導出する方法を説明するための図である。
【図5】摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
【図6】測定対象の摩擦特性の劣化モードを説明するための図である。
【図7】測定対象の劣化状態を判断するためのフローチャートである。
【図8】実施の形態1の変形例を示す図である。
【図9】換算定数を校正するためのフローチャートである。
【図10】実施の形態2に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図11】センサ部の配置例を示す図である。
【図12】トランスデューサを配置するタイヤの断面図である。
【図13】摩擦特性測定装置を備えた車両を示す図である。
【図14】滑り状態の検出を説明するための図である。
【図15】滑り状態を検出するフローチャートである。
【図16】実施の形態3に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図17】底面反射法による損失正接を導出する方法を説明するための図である。
【図18】図17のそれぞれの場合における時間波形である。
【図19】底面反射法により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
【図20】実施の形態3の変形例に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図21】実施の形態4に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図22】透過法による損失正接を導出する方法を説明するための図である。
【図23】透過法により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
【図24】実施の形態4の変形例に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図25】センサ部の配置例を示す図である。
【図26】実施の形態5に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図27】歪み部材の詳細図である。
【図28】インピーダンス法により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
【図29】実施の形態5の変形例に従うセンサ部の概略構成図である。
【図30】実施の形態6に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図31】SAW波により損失正接を導出する方法を説明するための図である。
【図32】図31のそれぞれの場合における時間波形である。
【図33】SAW波により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0335】
1 演算処理部、2,5,72,75,77,79,88,90,92 センサ部、3 遅延部材、4,71,74,78,86,91 演算処理部、8 反射部材、9 測定対象、10,30,70,73,80,82,84,93 演算部、12,12.1,12.2,96 時間データメモリ部、14 記憶部、16 表示出力部、18 入力部、20 トランスデューサ、20 信号処理回路、22 送信制御回路、24,94 送信回路、25 方向整合器、26,95 受信回路、28,28.1,28.2 信号処理回路、32,34 伝送部、36 発電部、38 蓄電部、40 バーコードリーダ、42 バーコード、44 質問器、46 演算処理部、48 無線タグ、50 電圧発生器、52 インピーダンス測定器、54 電流検出器、56 歪み部材、58.1,58.2 電極部、60 カーカス、62 トレッド部、97.1,97.2,97.3 くし型電極(IDT)、98.1,98.2,98.3 アンテナ、99 基板部、100,102,104,200,300,302,400,402,500,600 摩擦特性測定装置、L’ 貯蔵弾性率、L” 損失弾性率、fmax 最大周波数、fmin 初期周波数、R 反射率、T0,T 伝搬時間、tanδ 損失正接、VA 伝搬速度、Vg,Vgr 群速度、Vp 位相速度、Z,Z0,Z2,Zr 音響インピーダンス、α 減衰係数、δ 偏角、ΔT,ΔTr 遅延時間、θ,θ0,θA,θB 位相、μ,μref 摩擦係数、ρ,ρ2,ρr 密度。
【技術分野】
【0001】
この発明は対象物の摩擦特性を測定する摩擦特性測定装置に関し、特に実使用状態における粘弾性体の摩擦特性の変化を推定測定できる摩擦特性測定装置およびそれに向けられるタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤやローラなどに使用されるゴム製品は、その摩擦特性により性能が決定される。たとえば、タイヤにおいては、タイヤと路面との間に生じる摩擦力により、いわゆるグリップ特性が得られる。そのため、製品の出荷前試験や使用に伴う製品の劣化試験などにおいて、ゴム製品などの特性を評価するためには、摩擦特性を測定することで重要である。
【0003】
従来から、摩擦特性を測定する方法として、測定対象を所定の荷重で圧接した状態で機械的な変位を与えた場合に生じる摩擦力を測定し、その荷重および測定された摩擦力から、摩擦係数を算出する方法が知られている。
【0004】
たとえば、特許3215579号公報(特許文献1)には、複写機、電子写真装置などの紙送りローラにおいて、搬送しようとする紙との間の摩擦係数を測定する紙送りローラの摩擦特性測定装置が開示されている。
【特許文献1】特許3215579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、摩擦特性の測定するために、測定装置に装着できるような試験片を用意する必要があった。
【0006】
そのため、測定対象から試験片を切取る必要があり、測定対象の摩擦特性を非破壊で測定することができなかった。また、従来の測定装置では、測定対象を破壊してしまうため使用中の製品の劣化試験を行なうことはできなかった。さらに、従来の測定装置では、出荷前試験において、全数調査を行なうことができず、抜き取り調査とならざるを得なかった。
【0007】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、非破壊で測定対象の摩擦特性を測定できる摩擦特性測定装置およびそれに向けられるタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によれば、測定対象と密着して配置され、測定対象の粘弾性特性に応じた変化量を生じるセンサ部と、センサ部の変化量に基づいて、測定対象における粘弾性特性のうち損失正接を取得し、取得した損失正接から測定対象の摩擦特性を算出する演算処理部とを備える摩擦特性測定装置である。
【0009】
好ましくは、センサ部は、測定対象へ入射音波を放射する放射手段と、放射手段において放射される入射音波が測定対象により反射されて生じる反射音波を受信する受信手段と、入射音波および反射音波を伝搬させることで、放射手段において入射音波が放射された後、受信手段において反射音波が受信されるまでに遅延時間を生じさせる遅延部材とを含み、演算処理部は、センサ部の受信手段において受信される反射音波に基づいて、測定対象の損失正接を算出する。
【0010】
好ましくは、センサ部は、測定対象へ入射音波を放射する放射手段と、放射手段において放射される入射音波が測定対象により反射されて生じる反射音波を受信する受信手段と、入射音波および反射音波を伝搬させることで、放射手段において入射音波が放射された後、受信手段において反射音波が受信されるまでに遅延時間を生じさせる遅延部材とを含み、演算処理部は、遅延部材と測定対象との境界面において生じる第1の反射音波と、測定対象における第1の反射音波が生じる境界面と対向する面において生じる第2の反射音波とに基づいて、測定対象の損失正接を算出する。
【0011】
好ましくは、センサ部は、測定対象における第1の反射音波が生じる境界面と対向する面において、測定対象と密着して配置される反射部材をさらに含む。
【0012】
好ましくは、演算処理部は、反射音波を予め取得される基準値と比較することで、測定対象の損失正接を算出する。
【0013】
好ましくは、センサ部は、電気信号を受けて入射音波を生成し、かつ、反射音波を受けて電気信号を生成するトランスデューサをさらに含み、トランスデューサは、放射手段および受信手段を実現する。
【0014】
好ましくは、センサ部は、測定対象へ入射音波を放射する放射手段と、放射手段において放射される入射音波が測定対象を透過して生じる透過音波を受信する受信手段とを含み、演算処理部は、センサ部の放射手段において放射される入射音波と、受信手段において受信される透過音波とに基づいて、測定対象の損失正接を算出する。
【0015】
好ましくは、センサ部は、無線信号を介して、受信手段において受信される音波および/または放射手段において放射される音波の波形データを演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、演算処理部は、センサ部から送信される波形データを受信する第2の伝送部をさらに含む。
【0016】
好ましくは、センサ部は、測定対象と密着するように配置され、印加される電圧により生じる内部電界に応じて、測定対象との境界面の面内方向に伸縮を生じる歪み部材を含み、演算処理部は、歪み部材を含む閉回路を流れる電流から導出されるインピーダンスに基づいて、測定対象の損失正接を算出する。
【0017】
好ましくは、センサ部は、無線信号を介して、インピーダンスを演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、演算処理部は、センサ部から送信されるインピーダンスを受信する第2の伝送部をさらに含む。
【0018】
好ましくは、センサ部は、測定対象と一体化して運動するように配置される。
好ましくは、測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、センサ部は、無線信号を介して、受信手段において受信される音波および/または放射手段において放射される音波の波形データを演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、放射手段は、入射音波を測定対象の接触面へ照射し、受信手段は、測定対象における接触面により反射されて生じる反射音波を受信し、演算処理部は、センサ部から送信される波形データを受信する第2の伝送部をさらに含む。
【0019】
好ましくは、測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、センサ部は、無線信号を介して、受信手段において受信される音波および/または放射手段において放射される音波の波形データを演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、放射手段は、測定対象の接触面に沿う入射音波を照射し、受信手段は、測定対象の接触面の近傍を透過して受信される透過音波を受信し、演算処理部は、センサ部から送信される波形データを受信する第2の伝送部をさらに含む。
【0020】
好ましくは、測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、センサ部は、無線信号を介して、インピーダンスを演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、測定対象における接触面に対して境界面が沿うようにして測定対象に密着して配置され、演算処理部は、センサ部から送信されるインピーダンスを受信する第2の伝送部をさらに含む。
【0021】
好ましくは、測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、センサ部は、測定対象と一体化して運動するように配置され、受信手段は、さらに、測定対象と他の部材との擦れにより生じる滑り音波を受信し、演算処理部は、センサ部において受信される滑り音波に基づいて、測定対象の滑り状態を検出する。
【0022】
好ましくは、センサ部は、測定対象の運動により生じる運動エネルギーから電力を生じる発電部と、発電部から供給される電力を蓄える蓄電部とをさらに含む。
【0023】
好ましくは、センサ部は、測定対象と第1および第2の面において密着するように配置され、かつ、第1および第2の面において表面弾性波を伝搬させる基板部と、基板部に配置され、外部からの入射電波を受けて表面弾性波を生じる第1の電極と、基板部上において、第1の面を介して第1の電極と対向するように配置され、かつ、第1の電極から第1の面で密着される測定対象を透過して到達する第1の表面弾性波から第1の反射電波を生じる第2の電極と、基板部上において、第2の面を介して第1の電極と対向するように配置され、かつ、第1の電極から第2の面で密着される測定対象を透過して到達する第2の表面弾性波から第2の反射電波を生じる第2の電極とを含み、演算処理部は、センサ部へ入射電波を放射する送信回路と、センサ部から第1および第2の反射電波を受信する受信回路と、入射電波と第1および第2の反射電波とに基づいて、測定対象の損失正接を算出する演算部とを含む。
【0024】
好ましくは、測定対象は、タイヤであり、センサ部は、タイヤの内部に配置される。
好ましくは、演算処理部は、同一の測定対象における摩擦特性の変化に基づいて、当該測定対象の劣化状態を判断する劣化状態判断手段をさらに含む。
【0025】
好ましくは、劣化状態判断手段は、摩擦特性のピーク周波数または/およびピーク値の変化に基づいて当該測定対象の劣化状態を判断する。
【0026】
好ましくは、演算処理部は、測定対象の摩擦特性を予め定められた所定の摩擦特性と比較することで、当該測定対象の良否を判断する良否判断手段をさらに含む。
【0027】
好ましくは、劣化状態判断手段は、摩擦特性のピーク周波数または/およびピーク値を予め定められた所定のピーク周波数または/およびピーク値と比較することで、当該測定対象の良否を判断する。
【0028】
好ましくは、演算処理部は、劣化状態判断手段または/および良否判断手段における判断結果を表示または/および外部へ出力する表示出力部をさらに含む。
【0029】
好ましくは、演算処理部は、摩擦特性が既知である校正基準に対して取得された損失正接を受け、その取得した損失正接から算出される摩擦特性が校正基準の摩擦特性と略一致するように、損失正接を摩擦係数に変換するための換算定数を決定する校正手段をさらに含む。
【0030】
また、この発明によれば上述の摩擦特性測定装置におけるセンサ部を含む、摩擦特性測定装置に向けられるタイヤである。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、センサ部を測定対象に密着して、測定対象の粘弾性特性を測定し、その粘弾性特性に基づいて摩擦特性を算出できる。そのため、従来のように、試験片を作成する必要がない。よって、非破壊かつ高速に測定対象の摩擦特性を測定できる摩擦特性測定装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0033】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100の概略構成図である。
【0034】
図1を参照して、摩擦特性測定装置100は、演算処理部1と、センサ部2とからなる。そして、摩擦特性測定装置100は、センサ部2から測定対象に振動を生じさせる音波を入射音波として放射し、センサ部2で音波が測定対象により反射されて生じる反射音波を受信する。さらに、摩擦特性測定装置100は、センサ部2で受信される反射音波に基づいて、演算処理部1で測定対象の摩擦特性を算出する。なお、センサ部2が放射する入射音波は、超音波が好ましい。
【0035】
演算処理部1は、入力部18と、時間データメモリ部12と、記憶部14と、演算部10と、表示出力部16とからなる。
【0036】
入力部18は、ユーザなどの外部からの指令を受け、その指令を演算部10へ出力する。一例として、入力部18は、操作ボタン、キーボード、マウス、タッチパネルなどからなる。
【0037】
時間データメモリ部12は、センサ部2で受信される音波の時間波形を所定の周期で格納する。なお、時間データメモリ部12は、演算部10からの要求に応じて、時間波形を格納する周期を変更する。
【0038】
記憶部14は、演算部10を介して取得された基準値を格納し、演算部10からの要求に応じて、その格納する基準値を読出す。また、記憶部14は、後述する劣化判断機能および良否判断機能に用いるデータを格納する。
【0039】
演算部10は、入力部18を介して、外部から測定指令を受けると、センサ部2へ放射指令を与え、測定対象へ入射音波を放射させる。そして、演算部10は、時間データメモリ部12に格納される反射音波の時間波形データを読出し、一例として、フーリエ処理(FFT処理:Fast Fourier Transform;以下、FFT処理と称す)のような周波数解析処理を行ない、各周波数における振幅値および位相を取得する。続いて、演算部10は、記憶部14に格納されている基準値を読出し、その基準値と取得した反射音波の各周波数における振幅値および位相とを比較することで、測定対象の摩擦特性を算出する。さらに、演算部10は、その算出した測定対象の摩擦特性を表示出力部16へ出力する。
【0040】
また、演算部10は、入力部18を介して、外部から基準値取得指令を受けると、センサ部2へ放射指令を与え、測定対象へ入射音波を放射させる。そして、演算部10は、時間データメモリ部12に格納される反射音波の時間波形データを読出し、FFT処理を行ない、各周波数における振幅値および位相を取得する。続いて、演算部10は、取得した各周波数における振幅値および位相を基準値として記憶部14に格納する。
【0041】
また、演算部10は、算出された測定対象の摩擦特性を記憶部14に格納される所定の摩擦特性と比較することで、測定対象の摩擦特性の良否を判断し、その判断結果を表示出力部16へ出力する。さらに、演算部10は、同一の測定対象に対する摩擦特性の変化に基づいて、当該測定対象の摩擦特性の劣化状態を判断し、その判断結果を表示出力部16へ出力する。
【0042】
表示出力部16は、演算部10から算出される測定対象の摩擦特性や摩擦特性に基づく判断結果を表示または/およびそのデータを外部へ出力する。表示出力部16が表示を行なう場合には、一例として、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどの表示装置からなる。また、表示出力部16がデータを外部へ出力を行なう場合には、一例として、USB(Universal Serial Bus)、RS−232C(Recommended Standard 232 version C)、IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)1394、SCSI(Small Computer System Interface)、イーサネット(登録商標)、IEEE1284(パラレルポート)などの規格に対応するインターフェイスなどからなる。
【0043】
一方、センサ部2は、送信制御回路22と、送信回路24と、方向整合器25と、トランスデューサ20と、受信回路26と、信号処理回路28と、遅延部材3とからなる。
【0044】
送信制御回路22は、演算処理部1からの放射指令を受けると、放射する入射音波を生成するための生成信号を送信回路24へ出力する。たとえば、送信制御回路22は、パルス状の入射音波を生成するためのパルス信号や、所定の周波数成分を含むよう入射音波を生成する周期信号などを出力する。また、送信制御回路22は、生成信号の出力タイミングを通知するトリガ信号を受信回路26へ出力する。
【0045】
送信回路24は、送信制御回路22から受ける生成信号に応じた電気信号を方向整合器25へ出力する。
【0046】
方向整合器25は、送信回路24、トランスデューサ20および受信回路26とそれぞれ接続され、送信回路24から出力された電気信号をトランスデューサ20へ伝送し、かつ、トランスデューサ20から受けた電気信号を受信回路26へ出力する。すなわち、方向整合器25は、送信回路24から出力された電気信号が受信回路26へ出力されないように信号の伝送方向を制限する。
【0047】
トランスデューサ20は、方向整合器25を介して送信回路24および受信回路26と接続され、方向整合器25を介して送信回路24から受けた電気信号を音波に変換して測定対象へ放射し、かつ、測定対象から受けた音波を電気信号に変換して方向整合器25を介して受信回路26へ出力する。一例として、トランスデューサ20は、チタン酸ジルコン酸鉛などの圧電素子などからなる。
【0048】
受信回路26は、方向整合器25から受ける電気信号を受け、所定の増幅をした後に信号処理回路28へ出力する。また、受信回路26は、送信制御回路22からトリガ信号を受信すると、トランスデューサ20から出力される電気信号を受信を開始する。
【0049】
信号処理回路28は、受信回路26から電気信号を受け、アナログ・デジタル処理などを行ない、トランスデューサ20で受信される音波の瞬間的な振幅値を順次出力する。
【0050】
遅延部材3は、トランスデューサ20と密着するように配置され、トランスデューサ20から生じる入射音波および測定対象で生じる反射音波を伝搬させる。そのため、トランスデューサ20が入射音波を放射する時間タイミングに対して、測定対象で反射された反射音波がトランスデューサ20へ入射する時間タイミングが遅延する。したがって、送信回路24が入射音波を生成する期間、すなわち、受信回路26が受信を中断する期間と、受信回路26が反射音波の電気信号を受信する期間との重複による測定誤差を回避できる。
【0051】
図2は、摩擦特性測定装置100による測定の一例を示す図である。
図2を参照して、一例として、タイヤが測定対象9である場合について説明する。まず、ユーザは、摩擦特性測定装置100のセンサ部2を測定対象9の表面に密着するように配置する。そして、摩擦特性測定装置100は、ユーザからの測定指令を受けると、センサ部2から入射音波を放射し、測定対象9で生じる反射音波をセンサ部2で受信する。さらに、摩擦特性測定装置100は、受信した反射音波に応じて、測定対象9の摩擦特性を算出し、ユーザへ表示する。
【0052】
(損失正接と摩擦特性)
物質の摩擦特性は、物質の粘弾性特性を示す貯蔵弾性率および損失弾性率から導出される損失正接と強い相関関係にあることが分かってきた。
【0053】
物質の粘弾性特性とは、与える応力に比例してひずみを生じる弾性、および与える応力を受けて粘性流動を生じる粘性を併せ持つ特性である。このような粘弾性特性は、弾性要素であるばねと、粘性要素であるダッシュポットとを並列に接続したマックスウェルモデル、または、直列に接続したフォークトモデルで説明される。そして、上述した貯蔵弾性率は物質の弾性を表す値であり、損失弾性率は粘性を表す値である。
【0054】
一般的に、物質に周期的な応力を与えた場合において、その応力と同位相の成分が弾性貯蔵率に相当し、その応力と90°の位相差を有する成分が損失貯蔵率に相当する。すなわち、弾性貯蔵率および損失貯蔵率は、それぞれ互いに独立の関係をもつので、ガウス平面上に表すことができる。そして、貯蔵弾性率L’を実数成分とし、損失弾性率L”を虚数成分とすると、損失弾性率は、ガウス平面上における貯蔵弾性率L’と損失弾性率L”とのなす偏角δを用いて、損失正接tanδ=L”/L’と表される。
【0055】
そして、物質の摩擦係数は、粘弾性特性を示す損失正接tanδを用いて、摩擦係数μ(f)=Atanδ(f)+Bと表される。但し、A(>0)およびBは、物質に依存する換算定数である。なお、摩擦係数は、周波数に依存するため、損失正接も各周波数に対して規定される。一方、換算定数AおよびBは、周波数に依存しない物質に固有の一定値となる。また、摩擦係数μ(f)を求める前記式は、経験的に得られる、tanδを用いた多項式や高次式であってもよい。
【0056】
図3は、損失正接から算出される摩擦係数を従来の摩擦特性測定装置により測定される摩擦係数と比較した図である。なお、従来の摩擦特性測定装置とは、特許3215579号公報(特許文献1)に開示される摩擦特性測定装置と同様の装置である。
【0057】
図3(a)は、スチレンブタジエンラバー(SBR)の場合である。
図3(b)は、ブタジエンラバー(BR)の場合である。
【0058】
図3(c)は、ポリノルバーネンラバー(PNR)の場合である。
図3(a)を参照して、スチレンブダジエンラバーの場合には、摩擦試験機により、周波数が107Hz付近においてピークを有するような摩擦特性が得られる。一方、損失正接から算出される摩擦特性においても、ほぼ同様の特性を有することがわかる。
【0059】
図3(b)を参照して、ブタジエンラバーの場合には、摩擦試験機により、周波数の増加に伴い摩擦係数が上昇する摩擦特性が得られる。一方、損失正接から算出される摩擦特性においても、ほぼ同様の特性を有することがわかる。
【0060】
図3(c)を参照して、ポリノルバーネンラバーの場合には、摩擦試験機により、周波数の増加に伴い摩擦係数が減少する摩擦特性が得られる。一方、損失正接から算出される摩擦特性においても、ほぼ同様の特性を有することがわかる。
【0061】
上述のように、それぞれの物質が有するいずれの摩擦特性に対しても、損失正接から算出される摩擦特性は、高い再現性をもつことがわかる。すなわち、損失正接に基づいて、物質の摩擦特性を高精度で算出できることを意味する。
【0062】
(損失正接の算出)
実施の形態1においては、音波を測定対象へ放射し、その音波が測定対象の表面で反射されて生じる反射音波に基づいて損失正接を測定する、表面反射法を用いる。
【0063】
図4は、表面反射法による損失正接を導出する方法を説明するための図である。
図4(a)は、基準値を取得する場合である。
【0064】
図4(b)は、測定対象9の損失正接を導出する場合である。
まず、センサ部2のトランスデューサ20から放射される入射音波が遅延部材3や測定対象9における伝搬特性を表すため音響インピーダンスを導入する。
【0065】
図4(a)を参照して、基準値を取得する場合には、摩擦特性測定装置100は、測定対象9が存在しない状態において、トランスデューサ20から入射音波を放射する。
【0066】
ここで、入射音波および反射音波の周波数をfとすると、周波数fに依存する遅延部材3の音響インピーダンスはZ1(f)と表すことができる。また、空気中の音響インピーダンスはZ0(f)と表すことができる。なお、音響インピーダンスZ0(f)およびZ1(f)は、複素数である。さらに、遅延部材3と空気中との境界面における入射音波の反射率R01(f)は、式(1)で表すことができる。
【0067】
反射率R01(f)=(Z0(f)−Z1(f))/(Z0(f)+Z1(f))・・・(1)
そして、空気中の音響インピーダンスZ0(f)は、遅延部材3および測定対象9に比較して十分小さいため、周波数fに関わらずZ0(f)≪Z1(f)とみなすことができるため、反射率R01(f)=−1となる。すなわち、遅延部材3と空気中との境界面において、入射音波は全反射する。
【0068】
ここで、トランスデューサ20に入射する反射音波をA0(f)exp(iθ0(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A0(f)は各周波数における振幅値(実数値)であり、θ0(f)は各周波数における位相(0≦θ0(f)<∞)である。すると、遅延部材3と空気中との境界面において入射音波は全反射するので、センサ部2から遅延部材3を介して測定対象9へ放射される入射音波は、式(2)で表される。
【0069】
A0(f)exp(iθ0(f))×R01(f)=−A0(f)exp(iθ0(f))・・・(2)
すなわち、摩擦特性測定装置100は、式(2)で表される入射音波が測定対象へ照射されるとみなし、式(2)を構成するA0(f)およびθ0(f)を基準値として格納する。
【0070】
一方、図4(b)を参照して、測定対象9の損失正接を導出する場合には、測定対象9を遅延部材3と密着させて、トランスデューサ20から図4(a)の場合と同一の入射音波を放射する。そして、遅延部材3と測定対象9との境界面において反射される反射音波を格納する前記の基準値と比較することで、測定対象9の損失正接、すなわち摩擦特性を算出する。
【0071】
測定対象9の音響インピーダンスをZ2(f)とすると、遅延部材3と測定対象9との境界面における入射音波の反射率R12(f)は、式(3)で表すことができる。
【0072】
反射率R12(f)=(Z2(f)−Z1(f))/(Z2(f)+Z1(f))・・・(3)
さらに、式(3)を変形すると、式(4)が導出される。
【0073】
Z2(f)=Z1(f)×(1+R12(f))/(1−R12(f))・・・(4)
ここで、トランスデューサ20に入射する反射音波をA(f)exp(iθ(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A(f)は各周波数における振幅値(実数値)であり、θは各周波数における位相(0≦θ0<∞)である。すると、式(2)で示される基準値を用いて、式(5)が成立する。
【0074】
A(f)exp(iθ(f))=−A0(f)exp(iθ0(f))×R12(f)・・・(5)
さらに、式(5)を変形して、式(6)が導出される。
【0075】
R12(f)=−A(f)/A0(f)×exp(i(θ(f)−θ0(f))・・・(6)
式(6)を式(4)に代入すると、式(7)が導出される。
【0076】
Z2(f)=Z1(f)×(1−A(f)/A0(f)×exp(i(θ(f)−θ0(f)))/(1+A(f)/A0(f)×exp(i(θ(f)−θ0(f)))・・・(7)
ここで、測定対象の貯蔵弾性率L’(f)および損失弾性率L”(f)は、測定対象の音響インピーダンスZ2(f)および密度ρ2との間に式(8)で示す関係が成立する。
【0077】
L’+iL”(f)=Z2(f)2/ρ2・・・(8)
(7)式を(8)式に代入し、実数成分と虚数成分とを分離することにより、損失正接tanδ(f)は、(9)式のようになる。
【0078】
tanδ(f)=L”/L’={4×(A(f)/A0(f))×(1−(A(f)/A0(f))2)×sin(θ(f)−θ0(f))}/{(1−(A(f)/A0(f))2)2−4×(A(f)/A0(f))2×sin2(θ(f)−θ0(f))}・・・(9)
(9)式に示されるように、損失正接tanδ(f)は、A0(f),θ0(f)を基準値とする{A(f)/A0(f)},{θ(f)−θ0(f)}から構成される。すなわち、測定対象の反射音波を予め取得した基準値と比較することで、測定対象の損失正接を導出できる。また、上述したように、測定対象の損失正接は、周波数に依存するので、摩擦特性測定装置100は、周波数成分毎に損失正接を導出する。
【0079】
なお、高い周波数における損失正接が必要となる場合には、トランスデューサ20から放射される音波は、超音波となる。
【0080】
(摩擦特性の測定フロー)
図5は、摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
【0081】
図1および図5を参照して、演算部10は、入力部18を介して基準取得指令を受けたか否かを判断する(ステップS100)。基準取得指令を受けていない場合(ステップS100においてNOの場合)には、演算部10は、基準取得指令を受けるまで待つ(ステップS100)。
【0082】
基準取得指令を受けた場合(ステップS100においてYESの場合)には、演算部10は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS102)。
【0083】
続いて、演算部10は、時間データメモリ部12からトランスデューサ20が受信する反射音波の時間波形データを読出す(ステップS104)。そして、演算部10は、読出した反射音波の時間波形データに対してFFT処理を行ない、反射音波の各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS106)。さらに、演算部10は、取得した反射音波の各周波数における振幅値および位相を基準値として記憶部14へ格納する(ステップS108)。
【0084】
次に、演算部10は、入力部18を介して測定指令を受けたか否かを判断する(ステップS110)。一方、ユーザは、センサ部2を測定対象と密着するように配置し、または、測定対象をセンサ部2と密着するように配置した後、測定指令を与える。
【0085】
測定指令を受けていない場合(ステップS110においてNOの場合)には、演算部10は、測定指令を受けるまで待つ(ステップS110)。
【0086】
測定指令を受けた場合(ステップS110においてYESの場合)には、演算部10は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS112)。
【0087】
続いて、演算部10は、時間データメモリ部12からトランスデューサ20が受信する反射音波の時間波形データを読出す(ステップS114)。そして、演算部10は、読出した反射音波の時間波形データに対してFFT処理を行ない、反射音波の各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS116)。さらに、演算部10は、記憶部14から基準値の振幅値および位相を読出し、取得した振幅値および位相と比較を用いて、各周波数における損失正接を導出する(ステップS118)。
【0088】
そして、演算部10は、導出した各周波数における損失正接から摩擦特性を算出し、表示出力部16へ与える(ステップS120)。ユーザは、表示出力部16を介して算出された摩擦特性を知ることができる。
【0089】
なお、上述の処理において、測定毎に基準値を取得する構成に代えて、複数の基準値を予め記憶部14へ格納しておき、測定を行なう時点において、ユーザが、いずれの基準値を採用するかを設定する構成としてもよい。
【0090】
(劣化状態判断)
ゴム製品などは、温度や紫外線などの影響を受けて経年劣化を生じ、その摩擦特性も劣化する。そのため、たとえば、タイヤなどにおいては、その摩擦特性の劣化に伴い路面に対する摩擦力が低下するため、車両の走行性能を低下させ、搭乗している人命に危害を与えるおそれもある。
【0091】
そこで、摩擦特性測定装置100は、測定対象の経年による摩擦特性の変化を算出し、基準となる摩擦特性と比較することで、当該測定対象の劣化状態を判断する。
【0092】
図6は、測定対象の摩擦特性の劣化モードを説明するための図である。
図6(a)は、摩擦特性のピーク周波数がシフトするモードである。
【0093】
図6(b)は、摩擦特性のピーク値がシフトするモードである。
図6(c)は、ピークを検出できない摩擦特性全体が変化するモードである。
【0094】
図6(a)を参照して、製造直後の測定対象の摩擦特性は、そのピーク周波数がf1であるのに対して、経年劣化した測定対象の摩擦特性は、そのピーク周波数がf2(f2<f1)へシフトする。したがって、摩擦特性のピーク周波数がしきい値の周波数を超過するか否かに基づいて、測定対象の劣化状態を判断することができる。
【0095】
一方、製品の材質に応じて、摩擦特性のピーク値がシフトする場合も生じる。
図6(b)を参照して、製造直後の測定対象の摩擦特性は、そのピーク値がμ1であるのに対して、経年劣化した測定対象の摩擦特性は、そのピーク値がμ2(μ2<μ1)へシフトする。したがって、摩擦特性のピーク値がしきい値の摩擦係数を超過するか否かに基づいて、劣化状態を判断することができる。
【0096】
また、測定対象の摩擦特性がピーク周波数およびピーク値を検出できない場合も存在する。このような場合においては、摩擦特性の全体形状から劣化状態を判断することもできる。
【0097】
図6(c)を参照して、ピーク周波数およびピーク値を検出できない場合においては、判断の基準となる規定の周波数範囲を設定し、その周波数範囲内における摩擦特性の全体形状の変化に基づいて、摩擦特性の劣化状態を判断する。すなわち、劣化に伴い、摩擦特性が規定の周波数範囲内の上限しきい値または下限しきい値と交差するようになる。そのため、摩擦特性が規定の周波数範囲において、その上限しきい値を超過するか否か、または、その下限しきい値を超過するか否かに基づいて、測定対象の良否を判断することもできる。
【0098】
そこで、摩擦特性測定装置100は、一例として、算出する摩擦特性のピーク周波数およびピーク値のいずれについても、しきい値と比較することで劣化状態を判断する。
【0099】
図7は、測定対象の劣化状態を判断するためのフローチャートである。
図1および図7を参照して、演算部10は、入力部18を介してしきい値取得指令を受けたか否かを判断する(ステップS200)。
【0100】
ここで、ユーザは、製造直後または所定の性能を有する測定対象をセンサ部2と密着するように配置した後、しきい値取得指令を与える。
【0101】
しきい値取得指令を受けた場合(ステップS200においてYESの場合)には、演算部10は、図5に示すステップS100〜ステップS120と同様の処理を実行し、測定対象の摩擦特性を算出する(ステップS202)。そして、演算部10は、算出した測定対象の摩擦特性から、摩擦係数が最大値となる周波数を検索し、そのピーク周波数およびピーク値を取得する(ステップS204)。さらに、演算部10は、取得したピーク周波数およびピーク値をそれぞれしきい値の周波数および摩擦係数として記憶部14へ格納する(ステップS206)。そして、演算部10は、処理を終了する。
【0102】
一方、しきい値取得指令を受けていない場合(ステップS200においてNOの場合)には、演算部10は、劣化状態判断指令を受けたか否かを判断する(ステップS208)。
【0103】
ここで、ユーザは、劣化状態を判断したい測定対象をセンサ部2と密着するように配置した後、劣化状態判断指令を与える。
【0104】
劣化状態判断指令を受けた場合(ステップS208においてYESの場合)には、演算部10は、図5に示すステップS100〜ステップS120と同様の処理を実行し、測定対象の摩擦特性を算出する(ステップS210)。そして、演算部10は、算出した測定対象の摩擦特性から、摩擦係数が最大値となる周波数を検索し、そのピーク周波数およびピーク値を取得する(ステップS212)。また、演算部10は、記憶部14からしきい値の周波数および摩擦係数を読出す(ステップS214)。
【0105】
続いて、演算部10は、取得したピーク周波数がしきい値の周波数を超過しているか否かを判断する(ステップS216)。
【0106】
取得したピーク周波数がしきい値の周波数を超過している場合(ステップS216においてYESの場合)には、演算部10は、取得したピーク値がしきい値の摩擦係数を超過しているか否かを判断する(ステップS218)。
【0107】
取得したピーク値がしきい値の摩擦係数を超過している場合(ステップS218においてYESの場合)には、演算部10は、測定対象が未だ劣化状態に至っていないと判断し、その判断結果を表示出力部16へ与える(ステップS220)。そして、演算部10は、処理を終了する。
【0108】
また、取得したピーク周波数がしきい値の周波数を超過していない場合(ステップS216においてNOの場合)または、取得したピーク値がしきい値の摩擦係数を超過していない場合(ステップS218においてNOの場合)には、演算部10は、測定対象が劣化状態にあると判断し、その判断結果を表示出力部16へ与える(ステップS222)。そして、演算部10は、処理を終了する。
【0109】
ユーザは、表示出力部16を介して劣化状態の判断結果を知ることができる。
なお、しきい値の周波数および摩擦係数を記憶部14に格納する構成に代えて、測定対象自体がしきい値を有する構成とすることもできる。
【0110】
(変形例)
図8は、実施の形態1の変形例を示す図である。
【0111】
図8(a)は、実施の形態1の変形例1である。
図8(b)は、実施の形態1の変形例2である。
【0112】
図8(a)を参照して、実施の形態1の変形例1に従う摩擦特性測定装置102は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100にバーコードリーダ40を加えたものである。
【0113】
また、測定対象9の一例であるタイヤの側面には、しきい値を格納するバーコード42が付されている。そして、タイヤの製造者などは、予め算出した摩擦特性に基づいて、しきい値の周波数および摩擦係数を格納するバーコード42を製造時にその表面に付しておく。
【0114】
摩擦特性測定装置102は、バーコードリーダ40を介して、測定対象9に付されているバーコード42を読取り、そのバーコード42に格納されるしきい値の周波数および摩擦係数を取得する。そして、摩擦特性測定装置102は、算出する摩擦特性をバーコード42から取得したしきい値の周波数および摩擦係数と比較することで、測定対象9の劣化状態を判断する。
【0115】
図8(b)を参照して、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置104は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100に質問器44を加えたものである。
【0116】
また、測定対象9の一例であるタイヤの側面または内部には、しきい値などを格納する無線タグ(RFID)56が付されている。そして、タイヤの製造者などは、予め算出した摩擦特性に基づいて、しきい値の周波数および摩擦係数を格納する無線タグ48を製造時にその表面または内部に付しておく。
【0117】
摩擦特性測定装置104は、質問器44を介して、測定対象9に付されている無線タグ48へ問合せ信号を送出し、その応答信号から格納されるしきい値の周波数および摩擦係数を取得する。そして、摩擦特性測定装置104は、算出する摩擦特性を無線タグ48から取得したしきい値の周波数および摩擦係数と比較することで、測定対象9の劣化状態を判断する。
【0118】
なお、上述の説明においては、摩擦特性におけるピーク周波数のシフトおよびピーク値のシフトのいずれについても判断する構成について説明したが、この構成に限られることはない。すなわち、摩擦特性におけるピーク周波数のシフトまたはピーク値のシフトのいずれか一方についてのみ判断する構成としてもよい。
【0119】
(良否判断)
同種類の製品が連続的に生産される生産ラインにおいて、その摩擦特性を算出することで、プロセス途中の半製品や出荷前の製品についての良否を判断することができる。
【0120】
上述した劣化状態の判断と同様に、演算部10は、予め定められた摩擦特性と、それぞれの製品の算出された摩擦特性とを比較することで良否判断を行なう。すなわち、演算部10は、上述と同様の手順で、測定対象の摩擦特性を算出して、そのピーク周波数およびピーク摩擦係数を取得する。そして、演算部10は、取得したピーク周波数およびピーク摩擦係数が所定の範囲内であるか否かを判断する。演算部10は、その判断結果に基づいて、ピーク周波数およびピーク摩擦係数のいずれもが所定の範囲内であれば、当該測定対象は良品であると判断し、一方、ピーク周波数またはピーク摩擦係数のいずれかが所定の範囲外であれば、当該測定対象は不良品であると判断する。
【0121】
(換算定数の校正)
上述のように、劣化状態判断または良否判断を行なう場合において、測定対象の摩擦特性の変化に基づいてその判断が行なわれるので、損失正接tanδが精度よく測定できればよく、摩擦係数μを算出するための換算定数AおよびBは、あまり重要ではない。一方、測定対象の摩擦特性の絶対値を取得する場合には、損失正接tanδに加えて、換算定数AおよびBが重要となる。
【0122】
そこで、摩擦特性測定装置100は、摩擦係数が既知の校正基準の損失正接tanδを算出することで、換算定数AおよびBを校正する。すなわち、演算処理部1は、ユーザからの校正基準取得指令に応じて、予め摩擦係数が既知の校正基準の損失正接を導出し、その導出した損失正接から算出される摩擦係数が既知の摩擦係数に対して、最も相関が高くなるように換算定数AおよびBを決定する。
【0123】
なお、摩擦係数は、周波数に依存するため、換算定数AおよびBの精度を高めるためには、校正基準についてより広い周波数領域における摩擦係数が既知であることが望ましいが、少なくとも、2つの周波数に対する摩擦係数が既知であれば、換算定数AおよびBを校正することができる。
【0124】
図9は、換算定数を校正するためのフローチャートである。
図1および図9を参照して、演算部10は、入力部18を介して、周波数f1〜fnにおける校正基準の摩擦係数μref(fk)を受付ける(ステップS300)。ここで、ユーザは、所定の周波数における校正基準の摩擦係数を与える。
【0125】
次に、演算部10は、入力部18を介して、校正開始指令を受けたか否かを判断する(ステップS302)。
【0126】
校正開始指令を受けていない場合(ステップS302においてNOの場合)には、演算部10は、校正開始指令を受けるまで待つ(ステップS302)。
【0127】
校正開始指令を受けた場合(ステップS302においてYESの場合)には、演算部10は、図5に示すステップS100〜ステップS118と同様の処理を実行し、測定対象の各周波数における損失正接を導出する(ステップS304)。なお、ユーザは、図5に示すステップS110において、校正基準をセンサ部2と密着するように配置した後、測定指令を与える。
【0128】
そして、演算部10は、導出した測定対象の損失正接から、入力部18を介して受付けた周波数f1〜fnのそれぞれにおける損失正接tanδ(fk)を抽出する(ステップS306)。さらに、演算部10は、入力部18を介して受付けた校正基準の摩擦係数μref(fn)と損失正接から算出される摩擦係数μ(fk)=Atanδ(fk)+Bとの相関係数が最大となるように、換算定数AおよびBを決定する(ステップS308)。
【0129】
最終的に、演算部10は、決定した換算定数AおよびBを記憶部14へ格納する(ステップS310)。そして、演算部10は、処理を終了する。
【0130】
上述の処理において、演算部10は、相関係数が最大となる換算定数AおよびBを決定するため、たとえば最小二乗法などを用いる。
【0131】
この発明の実施の形態1によれば、センサ部から測定対象へ入射音波を放射し、測定対象で反射されて生じる反射音波に基づいて、測定対象の粘弾性特性における損失正接を取得する。そして、取得された損失正接から測定対象の摩擦特性を算出する。そのため、測定対象の表面にセンサ部を密着するだけで摩擦特性を算出できるので、試験片などを作成して摩擦特性を測定する場合に比較して、容易に摩擦特性を算出できる。よって、非破壊で摩擦特性を算出する摩擦特性測定装置を実現できる。
【0132】
また、この発明の実施の形態1によれば、損失正接から導出される摩擦特性のピーク周波数またはピーク値の変化に基づいて、測定対象の劣化状態の判断または品質の良否を判断できる。よって、測定対象の製品などに対して、より高いレベルでその劣化状態または品質を管理することができる。
【0133】
また、この発明の実施の形態1によれば、摩擦係数が既知の構成基準における損失正接を測定し、その測定結果から算出される摩擦係数が既知の値をより高い精度で再現するように、損失正接から摩擦係数へ換算するための換算係数を校正することができる。よって、絶対的な摩擦特性を高精度に測定できるので、相対的に摩擦特性を評価するだけでなく絶対的な摩擦特性の評価を実現できる。
【0134】
[実施の形態2]
上述の実施の形態1においては、センサ部と演算処理部とがケーブルを介して接続される構成について説明した。一方、実施の形態2においては、センサ部と演算処理部とが無線信号を介して接続される構成について説明する。
【0135】
図10は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200の概略構成図である。
図10を参照して、摩擦特性測定装置200は、演算処理部4とセンサ部5とからなる。
【0136】
演算処理部4は、伝送部32と、演算部30と、表示出力部16と、記憶部14と、入力部18とからなる。
【0137】
演算部30は、入力部18を介して測定指令を受けると、伝送部32へ放射指令を与え、かつ、伝送部32を介して反射音波の時間波形データを受ける。その他については、実施の形態1における演算部10と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0138】
伝送部32は、演算部10から放射指令を受けると、その放射指令を無線信号に変調し、センサ部5へ送信する。また、伝送部32は、センサ部5から受けた無線信号を反射音波の時間波形データへ復調し、演算部30へ出力する。
【0139】
演算部30は、入力部18を介して、外部から測定指令を受けると、伝送部32を介して、センサ部2へ放射指令を与える。そして、演算部10は、伝送部32を介して、反射音波の時間波形データを読出す。その他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0140】
表示出力部16と、記憶部14と、入力部18とについては、実施の形態1と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0141】
一方、センサ部5は、伝送部34と、蓄電部38と、発電部36と、時間データメモリ部12と、送信制御回路22と、送信回路24と、方向整合器25と、トランスデューサ20と、受信回路26と信号処理回路28とからなる。
【0142】
伝送部34は、演算処理部4から送信される無線信号を復調し、放射指令を送信制御回路22へ出力する。また、伝送部34は、時間データメモリ部12から出力される反射音波の時間波形データを無線信号に変調し、演算処理部4へ送信する。
【0143】
蓄電部38は、発電部36から供給される電力を蓄積し、センサ部5の各ブロックへ電力を供給する。一例として、蓄電部38は、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池、電気二重層コンデンサ(スーパーキャパシタ)などの蓄電素子からなる。
【0144】
発電部36は、外部電源の供給が困難な測定対象や測定位置にセンサ部5が配置される場合において、センサ部5の電力を供給する。一例として、発電部36は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池、自身の回転エネルギーを電気エネルギーに変換するダイナモ、外部から供給されるマイクロ波などの電磁波エネルギーを電気エネルギーに変換する整流素子などからなる。
【0145】
時間データメモリ部12と、送信制御回路22と、送信回路24と、方向整合器25と、トランスデューサ20と、受信回路26と信号処理回路28とについては、実施の形態1と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0146】
なお、センサ部5へ外部電源を供給できる場合においては、発電部36および蓄電部38は、必ずしも必要ではない。
【0147】
上述のように、摩擦特性測定装置200は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100に比較して、センサ部5を配置する場所に制約が少ない。たとえば、測定対象にセンサ部5を組込むことで、測定対象の摩擦特性の常時測定が可能となる。そのため、測定対象の劣化状態判断を連続的に行なうことができる。
【0148】
さらに、摩擦特性測定装置200は、1つの演算処理部4に対して、1つのセンサ部5から構成される場合に加えて、1つの演算処理部4に対して、複数のセンサ部5から構成してもよい。
【0149】
図11は、センサ部5の配置例を示す図である。
図11(a)は、測定対象9の側面図である。
【0150】
図11(b)は、図11(a)のXb−Xb断面図である。
図11(a)および図11(b)を参照して、タイヤを測定対象9とした場合において、センサ部5をその内部(空気充填部)に組込むことで、測定対象9の摩擦特性を常時測定することができる。そして、たとえば、センサ部5を構成するトランスデューサ20および遅延部材3は、タイヤの裏面またはタイヤ本体に配置され、トランスデューサ20および遅延部材3以外のセンサ部5は、リム(ホイール)に配置される。
【0151】
図12は、トランスデューサ20を配置するタイヤの断面図である。
図12を参照して、一体化したトランスデューサ20および遅延部材3は、タイヤの外表面を構成するトレッド部62とトレッド部62と密着されるカーカス60との間に介挿される。そして、トランスデューサ20は、タイヤの外径方向に向けて入射音波を放射する。
【0152】
また、トランスデューサ20は、導電線を介して方向整合器25と接続される。
図13は、摩擦特性測定装置200を備えた車両を示す図である。なお、図13においては、1つの演算処理部4と複数のセンサ部5で構成される摩擦特性測定装置200について示す。
【0153】
図13を参照して、センサ部5は、それぞれ、図11と同様にタイヤの内部に配置され、演算処理部4からの放射指令に応じて、入射音波を放射し、その反射音波の時間波形データを演算処理部4へ送信する。
【0154】
そして、演算処理部4の演算部30(図示しない)は、ユーザからの劣化状態判断の開始指令を受けると、または、車両のエンジンの始動を検出すると、放射指令をセンサ部5のそれぞれへ送信する。そして、演算部30は、センサ部5のそれぞれから受信する反射音波の時間波形データに基づいて、図7に示す摩擦特性の劣化状態判断の処理を実行し、各タイヤの劣化状態を判断する。さらに、演算部30は、表示出力部16を介して、各タイヤの劣化状態の判断結果を運転者へ知らせる。
【0155】
なお、タイヤの劣化の時定数は、比較的長いと考えられるので、頻繁にセンサ部5から入射音波を放射する必要はなく、たとえば、エンジンの始動時およびエンジン作動中の所定の周期毎(たとえば、1時間周期)に各タイヤの摩擦特性を算出する。
【0156】
ところで、図5に示すように、測定対象であるタイヤの摩擦特性を算出するためには、基準値となる各周波数における振幅値および位相が必要となる。しかしながら、図12に示すようにタイヤの内部に配置した場合には、その基準値を取得することが難しい。
【0157】
そこで、図8(b)に示すように、無線タグを測定対象9であるタイヤに付し、その無線タグにしきい値の周波数および摩擦係数とともに、基準値となる各周波数における振幅値および位相を格納するようにすることができる。
【0158】
(滑り状態の検出)
上述したように、測定対象9であるタイヤの内部にセンサ部5を配置し、摩擦特性の劣化状態を判断する場合において、頻繁に摩擦特性を算出する必要はない。そこで、摩擦特性の算出を休止している時間において、取得される反射音波以外の音波に基づいて、測定対象9の滑り状態を検出することができる。
【0159】
再度、図13を参照して、車両に装着されるタイヤは、車両の加減速および舵角などに応じて生じる反力や遠心力などに抗する摩擦力を生じるが、タイヤの摩擦特性および路面状態などにより、必要な摩擦力を生じることができなくなると、滑り(スリップ)を生じる。滑りを生じる際、タイヤと路面との間の擦れにより、滑り音波(可聴音および超音波)が生じる。
【0160】
図14は、滑り状態の検出を説明するための図である。
図14を参照して、センサ部5は、タイヤの内部に配置され、さらに、センサ部5の一部であるトランスデューサ20および遅延部材3がタイヤのトレッド部に配置されるので、タイヤと路面との間の擦れにより生じる滑り音波を容易に受信することができる。
【0161】
再度、図10を参照して、センサ部5において、トランスデューサ20は、タイヤと路面との間の擦れにより生じる滑り音波を受信する。そして、時間データメモリ部12は、方向整合器25、受信回路26および信号処理回路28を介して、トランスデューサ20で受信された滑り音波の時間波形を受け、所定の周期で格納する。さらに、伝送部34は、時間データメモリ部12に格納された滑り音波の時間波形データを演算処理部4へ送信する。
【0162】
演算処理部4において、伝送部32は、センサ部5から送信された滑り音波の時間波形データを演算部30へ出力する。そして、演算部30は、伝送部32から受けた滑り音波の時間波形データをFFT処理し、その周波数成分に基づいて滑り状態を検出する。
【0163】
タイヤと路面との間の擦れにより生じる滑り音波は、その滑り状態に応じてその振幅値および周波数特性が変化する。たとえば、滑りの発生量に応じて、その振幅値は増大し、タイヤの回転数に応じて、その周波数は変化する。そこで、演算部30は、滑り音波をFFT処理し、その振幅値および周波数特性に基づいて、滑り状態(滑り量や滑りモード)を検出する。また、記憶部14は、滑り状態を検出するための参照データを格納し、演算部30は、記憶部14から読出した参照データと、FFT処理した滑り音波とを比較する。
【0164】
図15は、滑り状態を検出するフローチャートである。
図10および図15を参照して、演算部30は、測定対象の摩擦特性を算出中であるか否かを判断する(ステップS400)。測定対象の摩擦特性を算出中である場合(ステップS400においてYESの場合)には、演算部30は、摩擦特性の算出が終了するまで待つ(ステップS400)。
【0165】
測定対象の摩擦特性を算出中でない場合(ステップS400においてNOの場合)には、演算部30は、センサ部5から有意な時間波形データを取得したか否かを判断する(ステップS402)。
【0166】
センサ部5から有意な時間波形データを取得した場合(ステップS402においてYESの場合)には、演算部30は、取得した時間波形データをFFT処理し、各周波数における振幅値を導出する(ステップS404)。そして、演算部30は、記憶部14から参照データを取得する(ステップS406)。
【0167】
続いて、演算部30は、導出した各周波数における振幅値を取得した参照データと比較する(ステップS408)。そして、演算部30は、その比較結果に基づいて、滑り状態を検出し、その検出結果を表示出力部16へ与える(ステップS410)。そして、演算部30は、処理を終了する。
【0168】
センサ部5から有意な振幅値データを取得していない場合(ステップS402においてNOの場合)には、演算部30は、処理を終了する。
【0169】
上述の処理フローに従い、演算部30は、滑り状態を検出する。
なお、上述の実施の形態2においては、タイヤを測定対象とした場合について説明したが、タイヤ以外の測定対象にも同様に適用できることは言うまでもない。
【0170】
また、上述の実施の形態2においては、測定対象と一体化して測定する構成について説明したが、実施の形態1と同様に、センサ部を測定対象の外表面に配置し、摩擦特性を算出することもできる。
【0171】
この発明の実施の形態2によれば、センサ部は、演算処理部と無線信号を介して反射音波の時間波形データを送信する。そのため、センサ部は、測定対象と一体化するように配置され、演算処理部は、センサ部から送信される反射音波の時間波形データに基づいて、測定対象の損失正接を連続的に算出することができる。よって、タイヤなどの回転運動している測定対象の摩擦特性を容易に算出することができる。
【0172】
また、この発明の実施の形態2によれば、センサ部は、入射音波が測定対象により反射されて生じる反射音波に加えて、タイヤなどの測定対象が路面などと擦れて生じる滑り音波を受信する。そして、演算処理部は、その滑り音波に基づいて、測定対象の滑り状態を検出することができる。よって、同一の構成により、測定対象の摩擦特性を取得しつつ、測定対象の滑り状態の検出を実現できる。
【0173】
[実施の形態3]
上述の実施の形態1および2においては、測定対象の表面で反射されて生じる反射音波に基づいて損失正接を測定する構成(表面反射法)について説明した。一方、実施の形態3においては、測定対象の平面および底面で反射されて生じる2つの反射音波に基づいて損失正接を測定する構成(底面反射法)について説明する。
【0174】
図16は、実施の形態3に従う摩擦特性測定装置300の概略構成図である。
図16を参照して、摩擦特性測定装置300は、演算処理部71と、センサ部72とからなる。
【0175】
演算処理部71は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100の演算処理部1において、演算部10を演算部70に代えたものである。
【0176】
演算部70は、入力部18を介して、外部から測定指令を受けると、測定対象の厚さおよび密度を受付けた後、センサ部72へ放射指令を与え、測定対象へ入射音波を放射させる。そして、演算部70は、時間データメモリ部12に格納される2つの反射音波の時間波形データを読出してその遅延時間を計測する。また、演算部70は、それぞれの時間波形をFFT処理して、各周波数における振幅値および位相を取得する。そして、演算部70は、受付けた値、記憶部14に格納されている値、ならびに取得した遅延時間および各周波数における振幅値および位相から、測定対象の摩擦特性を算出する。さらに、演算部70は、その算出した測定対象の摩擦特性を表示出力部16へ出力する。
【0177】
また、演算部70は、入力部18を介して、外部から基準値取得指令を受けると、センサ部2へ放射指令を与え、測定対象へ入射音波を放射させる。そして、演算部70は、時間データメモリ部12に格納される反射音波の時間波形データを読出し、FFT処理を行ない、各周波数における振幅値を取得し、基準値として記憶部14に格納する。
【0178】
さらに、演算部70は、入力部18を介して、外部から反射部材参照指令を受けると反射部材8の厚さおよび密度を受付けた後、センサ部72へ放射指令を与え、反射部材へ入射音波を放射させる。そして、演算部70は、時間データメモリ部12に格納される2つの反射音波の時間波形データを読出してその遅延時間を計測し、反射部材8の音響インピーダンスを導出する。さらに、演算部70は、導出した反射部材8の音響インピーダンスを記憶部14に格納する。
【0179】
演算部70のその他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100の演算部10と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0180】
一方、センサ部72は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100のセンサ部2において、反射部材8を追加したものである。
【0181】
反射部材8は、その面が遅延部材3の面と平行となるような形状であり、ユーザまたは他の移動手段により遅延部材3との距離を変化させる。そして、反射部材8は、遅延部材3や測定対象に比較して、その音響インピーダンス差が大きくなるような材質が選定される。そのため、遅延部材3または測定対象と密着された場合において、トランスデューサ20から照射された入射音波が、その境界面において効率よく反射される。
【0182】
センサ部72のその他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100のセンサ部2と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0183】
図17は、底面反射法による損失正接を導出する方法を説明するための図である。
図17(a)は、基準値を取得する場合である。
【0184】
図17(b)は、反射部材8の群速度を取得する場合である。
図17(c)は、測定対象9の損失正接を導出する場合である。
【0185】
また、図18は、図17のそれぞれの場合における時間波形である。
図18(a)は、図17(a)における時間波形である。
【0186】
図18(b)は、図17(b)における時間波形である。
図18(c)は、図17(c)における時間波形である。
【0187】
図17(a)を参照して、演算処理部71は、まず、遅延部材3の初期誤差を取除くため、トランスデューサ20から遅延部材3を介して放射される入射音波を基準値として取得する。遅延部材3が反射部材8および測定対象9のいずれとも密着していない状態において、トランスデューサ20は、入射音波を照射する。すると、図18(a)を参照して、トランスデューサ20は、遅延部材3と空気中との境界面において生じる反射音波(A0波)を受信する。
【0188】
図4(a)と同様に、空気中の音響インピーダンスは、遅延部材3および測定対象9に比較して十分小さいため、トランスデューサ20から放射された入射音波は、遅延部材3と空気中との境界面において全反射する。
【0189】
ここで、トランスデューサ20で受信されるA0波をA0(f)exp(iθ0(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A0(f)は各周波数における振幅値(実数値)であり、θ0(f)は各周波数における位相(0≦θ0(f)<∞)である。そして、演算部70は、トランスデューサ20で受信された反射音波の時間波形をFFT処理して、各周波数における振幅値A0(f)および位相θ0(f)を取得する。
【0190】
図17(b)を参照して、次に、遅延部材3と反射部材8とを密着した状態において、トランスデューサ20が入射音波を放射すると、遅延部材3と反射部材8との境界面において反射されて生じる反射音波(A1波)、および反射部材8と空気中との境界面において反射されて生じる反射音波(B1波)が生じる。そこで、演算部70は、A1波とB1波との時間遅延を検出する。すなわち、図18(b)を参照して、トランスデューサ20は、遅延時間ΔTrの遅延時間をあけて、A1波およびA2波を受信する。そして、演算部70は、トランスデューサ20からの時間波形に基づいて、A1波とA2波との遅延時間ΔTrを測定する。
【0191】
ここで、反射部材8の厚さhrおよび反射部材8の密度ρrが既知であるとすると、反射部材8の音響インピーダンスZrは、反射部材8における群速度をVgrとして、Zr=ρr×Vgrと表される。さらに、群速度Vgrは、Vgr=2hr/ΔTrであるので、結局、反射部材8の音響インピーダンスZrは、Zr=2hrρr/ΔTrとなる。
【0192】
よって、演算部70は、予め反射部材8の厚さhrおよび反射部材8の密度ρrを受付け、その受付けた値および測定した遅延時間ΔTrから反射部材8の音響インピーダンスZrを取得する。
【0193】
上述の過程により、演算部70は、損失正接を導出するための基準値を取得する。
図17(c)を参照して、測定対象9の損失正接を導出する場合には、遅延部材3と反射部材8との間に密着されるように測定対象9を配置する。そして、トランスデューサ20が入射音波を放射すると、遅延部材3と測定対象9との境界面において反射されて生じる反射音波(A波)、および測定対象9と反射部材8との境界面において反射されて生じる反射音波(B波)が生じる。そこで、演算部70は、A波とB波との時間遅延を検出し、かつ、A波およびB波の各周波数における振幅値および位相を取得する。
【0194】
すなわち、図18(c)を参照して、トランスデューサ20は、遅延時間ΔTの遅延時間をあけて、A波およびB波を受信する。そして、演算部70は、トランスデューサ20からの時間波形に基づいて、A波とB波との遅延時間ΔTを測定する。
【0195】
ここで、測定対象9の厚さhおよび測定対象9の密度ρが既知であるとすると、測定対象9の音響インピーダンスZは、測定対象9における群速度をVgとして、Z=ρ×Vgと表される。さらに、群速度Vgは、Vg=2h/ΔTであるので、結局、測定対象9の音響インピーダンスZは、Z=2hρ/ΔTとなる。
【0196】
すると、測定対象9と反射部材8との境界面における入射音波の反射率Rは、R=(Z−Zr)/(Z+Zr)=(2hρ/ΔT−Zr)/(2hρ/ΔT+Zr)となる。
【0197】
したがって、演算部70は、予め測定対象9の厚さhおよび測定対象9の密度ρを受付け、その受付けた値、測定した遅延時間ΔTおよび予め取得する反射部材8の音響インピーダンスZrから、測定対象9と反射部材8との境界面における入射音波の反射率Rを導出する。
【0198】
また、トランスデューサ20で受信されるA波をA(f)exp(iθA(f))と表し、B波をB(f)exp(iθB(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A(f),B(f)はそれぞれA波およびB波の各周波数における振幅値(実数値)であり、θA(f),θB(f)はそれぞれA波およびB波の各周波数における位相(0≦θA(f)<∞,0≦θB(f)<∞)である。
【0199】
そして、演算部70は、トランスデューサ20で受信されたA波の時間波形をFFT処理して、A波の各周波数における振幅値A(f)および位相θA(f)を取得し、B波の時間波形をFFT処理して、B波の各周波数における振幅値B(f)および位相θB(f)を取得する。
【0200】
さらに、A0波、A波およびB波の各周波数における振幅値ならびに導出される反射率Rを用いて、入射音波の減衰係数α(f)は、(10)式となる。
【0201】
α(f)=(1/2h)ln(R(A0(f)2−A(f)2)/A0(f)B(f)))・・・(10)
また、A波およびB波の各周波数における振幅値および位相を用いて、入射音波の位相速度Vp(f)は、(11)式となる。
【0202】
Vp(f)=2h×2πf/(θB−θA+2πfΔT+2Nπ)・・・(11)
但し、Nは任意の正数である。
【0203】
そして、(10)式および(11)式によって導出される減衰係数α(f)および位相速度Vp(f)を用いて、損失正接tanδ(f)は、(12)式となる。
【0204】
tanδ(f)=α(f)×Vp(f)/πf・・・(12)
したがって、演算部70は、(10)式〜(12)式の演算を実行し、損失正接tanδ(f)を導出する。さらに、演算部70は、換算定数AおよびBを用いて、導出した損失正接tanδ(f)から摩擦係数を算出する。
【0205】
図19は、底面反射法により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
図16および図19を参照して、演算部70は、入力部18を介して基準取得指令を受けたか否かを判断する(ステップS500)。基準取得指令を受けていない場合(ステップS500においてNOの場合)には、演算部70は、基準取得指令を受けるまで待つ(ステップS500)。
【0206】
一方、ユーザは、遅延部材3が測定対象9および反射部材8のいずれとも密着しないように配置した後、基準取得指令を与える。
【0207】
基準取得指令を受けた場合(ステップS500においてYESの場合)には、演算部70は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS502)。
【0208】
続いて、演算部70は、時間データメモリ部12からトランスデューサ20が受信する反射音波(A0波)の時間波形データを読出す(ステップS504)。そして、演算部70は、読出した反射音波(A0波)の時間波形データに対してFFT処理を行ない、反射音波(A0波)の各周波数における振幅値を取得する(ステップS506)。さらに、演算部70は、取得した反射音波(A0波)の各周波数における振幅値を基準値として記憶部14へ格納する(ステップS508)。
【0209】
次に、演算部70は、入力部18を介して反射部材参照指令を受けたか否かを判断する(ステップS510)。反射部材参照指令を受けていない場合(ステップS510においてNOの場合)には、演算部70は、基準取得指令を受けるまで待つ(ステップS510)。反射部材参照指令を受けた場合(ステップS510においてYESの場合)には、演算部70は、入力部18を介して反射部材8の厚さおよび密度を受付ける(ステップS512)。
【0210】
一方、ユーザは、遅延部材3が反射部材8と密着するように配置した後、反射部材参照指令を与え、続いて、反射部材8の厚さおよび密度を与える。
【0211】
そして、演算部70は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS514)。続いて、演算部70は、時間データメモリ部12からトランスデューサ20が受信する反射音波(A1波およびB1波)の時間波形データを読出す(ステップS516)。そして、演算部70は、読出した反射音波(A1波およびB1波)の時間波形データに基づいて、遅延時間を計測する(ステップS518)。さらに、演算部70は、受付けた反射部材8の厚さおよび密度ならびに測定した遅延時間から反射部材8の音響インピーダンスを取得する(ステップS520)。さらに、演算部70は、取得した音響インピーダンスを記憶部14へ格納する(ステップS522)。
【0212】
さらに、演算部70は、測定指令を受けたか否かを判断する(ステップS524)。測定指令を受けていない場合(ステップS524においてNOの場合)には、演算部70は、測定指令を受けるまで待つ(ステップS524)。測定指令を受けた場合(ステップS524においてYESの場合)には、演算部70は、入力部18を介して測定対象9の厚さおよび密度を受付ける(ステップS526)。
【0213】
一方、ユーザは、測定対象9が遅延部材3および反射部材8との間に密着するように配置した後、測定指令を与え、続いて、測定対象9の厚さおよび密度を与える。
【0214】
そして、演算部70は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20から入射音波を放射する(ステップS528)。続いて、演算部70は、時間データメモリ部12からトランスデューサ20が受信する反射音波(A波およびB波)の時間波形データを読出す(ステップS530)。そして、演算部70は、読出した反射音波(A波およびB波)の時間波形データに基づいて、遅延時間を計測する(ステップS532)。さらに、演算部70は、受付けた測定対象9の厚さおよび密度、記憶部14から読出した反射部材8の音響インピーダンス、ならびに計測した遅延時間から、測定対象9と反射部材8との境界面における入射音波の反射率を導出する(ステップS534)。
【0215】
また、演算部70は、それぞれの反射音波(A波およびB波)の時間波形データに対してFFT処理を行ない、それぞれの反射音波(A波およびB波)の各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS536)。そして、演算部70は、記憶部14から読出した基準値の各周波数における振幅値、導出した測定対象9と反射部材8との境界面における入射音波の反射率、およびそれぞれの反射音波(A波およびB波)の各周波数における振幅値から、入射音波の減衰係数を導出する(ステップS538)。また、演算部70は、それぞれの反射音波(A波およびB波)の各周波数における振幅値および位相から、位相速度を導出する(ステップS540)。
【0216】
演算部70は、導出した減衰係数および移動速度から、各周波数における損失正接を導出する(ステップS542)。そして、演算部70は、導出した各周波数における損失正接から摩擦特性を算出し、表示出力部16へ与える(ステップS544)。すると、ユーザは、表示出力部16を介して算出された摩擦特性を知ることができる。
【0217】
そして、演算部70は、処理を終了する。
また、実施の形態3に従う摩擦特性測定装置300は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100と同様に、劣化状態判断、良否判断および換算定数の校正を行なうことができる。それぞれの機能については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0218】
(変形例)
上述の底面反射法は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200に対しても適用することができる。
【0219】
図20は、実施の形態3の変形例に従う摩擦特性測定装置302の概略構成図である。
図20を参照して、実施の形態3の変形例に従う摩擦特性測定装置302は、演算処理部74と、センサ部75とからなる。
【0220】
演算処理部74は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200の演算処理部4において、演算部30を演算部73に代えたものである。
【0221】
演算部73は、測定指令、基準値取得指令または反射部材参照指令を受けると、伝送部32へ放射指令を与え、かつ、伝送部32を介して反射音波の時間波形データを受ける。演算部73のその他については、実施の形態3における演算部70と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0222】
センサ部75は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200のセンサ部5において、反射部材8を加えたものである。
【0223】
反射部材8については、上述したものと同様であるので詳細な説明は繰返さない。
上述のように、演算処理部とセンサ部とが無線信号を介して接続する構成に対しても、底面反射法を同様に適用することができる。
【0224】
また、実施の形態3の変形例に従う摩擦特性測定装置302は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200と同様に、タイヤなどの測定対象に組込むことができ、滑り状態の検出もできる。それぞれの機能については、実施の形態2と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0225】
この発明の実施の形態3によれば、実施の形態1および2における効果に加えて、センサ部は、入射音波が測定対象の媒質全体を往復して生じる反射音波を受信する。そのため、演算処理部は、測定対象の媒質全体に対する摩擦特性を算出することができるため、測定対象の表面における摩擦特性だけではなく、測定対象全体の摩擦特性を算出できる。
【0226】
[実施の形態4]
上述の実施の形態1〜3においては、1つのトランスデューサを用いて、入射音波を照射し、かつ測定対象からの反射音波を受信する構成(表面反射法、底面反射法)について説明した。一方、実施の形態4においては、それぞれ入射音波の照射および透過音波の受信を行なう2つのトランスデューサにより構成(透過法)について説明する。
【0227】
図21は、実施の形態4に従う摩擦特性測定装置400の概略構成図である。
図21を参照して、摩擦特性測定装置400は、演算処理部46と、センサ部77とからなる。
【0228】
演算処理部46は、時間データメモリ部12.1,12.2と、演算部80と、記憶部14と、表示出力部16と、入力部18とからなる。
【0229】
時間データメモリ部12.1は、センサ部77から放射される入射音波の時間波形を所定の周期で格納する。
【0230】
時間データメモリ部12.2は、センサ部77で受信される透過音波の時間波形を所定の周期で格納する。
【0231】
時間データメモリ部12.1,12.2のその他については、時間データメモリ部12と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0232】
演算部80は、入力部18を介して、外部から測定指令を受けると、センサ部77へ放射指令を与え、測定対象へ入射音波を放射させる。そして、演算部80は、時間データメモリ部12.1に格納される入射音波の時間波形データを読出し、かつ、時間データメモリ部12.2に格納される透過音波の時間波形データを読出す。さらに、演算部80は、それぞれ読出した時間波形データのFFT処理を行ない、各周波数における振幅値および位相を取得する。続いて、演算部80は、入射音波と透過音波との各周波数における振幅値および位相を比較し、測定対象の摩擦特性を算出する。さらに、演算部10は、その算出した測定対象の摩擦特性を表示出力部16へ出力する。
【0233】
演算部80のその他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100の演算部10と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0234】
記憶部14と、表示出力部16と、入力部18とについては、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0235】
一方、センサ部77は、トランスデューサ20.1,20.2と、信号処理回路28.1,28.2と、送信制御回路22と、送信回路24と、受信回路26とからなる。
【0236】
トランスデューサ20.1は、送信回路24と接続され、送信回路24から受けた電気信号を音波に変換して測定対象へ放射する。
【0237】
トランスデューサ20.2は、受信回路26と接続され、測定対象を伝搬した後の音波を電気信号に変換して受信回路26へ出力する。
【0238】
トランスデューサ20.1,20.2のその他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100のトランスデューサ20と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0239】
信号処理回路28.1は、送信回路24と接続され、送信回路24からトランスデューサ20.1へ与えられる電気信号を受け、トランスデューサ20.1から放射される音波の瞬間的な振幅値を順次出力する。
【0240】
信号処理回路28.2は、受信回路26から電気信号を受け、トランスデューサ20.2で受信される音波の瞬間的な振幅値を順次出力する。
【0241】
信号処理回路28.1,28.2のその他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100の信号処理回路28と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0242】
送信制御回路22と、送信回路24と、受信回路26とについては、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0243】
図22は、透過法による損失正接を導出する方法を説明するための図である。
図22を参照して、トランスデューサ20.1から放射される入射音波(Ai波)は、測定対象9を伝搬して、その透過音波(At波)がトランスデューサ20.2へ入射する。ここで、透過音波は、測定対象9の特性に応じて、その振幅値および位相が変化する。そこで、演算部80は、入射音波および透過音波の時間波形をFFT処理し、各周波数における振幅値および位相を比較して、その損失正接を導出する。
【0244】
図23は、透過法により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
図21および図23を参照して、演算部80は、測定指令を受けたか否かを判断する(ステップS600)。測定指令を受けていない場合(ステップS600においてNOの場合)には、演算部80は、測定指令を受けるまで待つ(ステップS600)。測定指令を受けた場合(ステップS600においてYESの場合)には、演算部80は、放射指令を送信制御回路22へ与え、トランスデューサ20.1から入射音波を放射する(ステップS602)。
【0245】
演算部80は、記憶部14から予め測定したトランスデューサ20.1が送信する放射音波(Ai波)の時間波形データを読出す(ステップS604)。同時に、演算部80は、時間データメモリ部12.2からトランスデューサ20.2が受信する透過音波(At波)の時間波形データを読出す(ステップS606)。
【0246】
そして、演算部80は、読出した入射音波(Ai波)および透過音波(At波)の時間波形に対してFFT処理を行ない、入射音波および透過音波それぞれの各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS608)。そして、演算部80は、取得した入射音波の振幅値および位相と、透過音波の振幅値および位相を比較し、各周波数における損失正接を導出する(ステップS610)。そして、演算部80は、導出した各周波数における損失正接から摩擦特性を算出し、表示出力部16へ与える(ステップS612)。すると、ユーザは、表示出力部16を介して算出された摩擦特性を知ることができる。そして、演算部80は、処理を終了する。
【0247】
また、実施の形態4に従う摩擦特性測定装置400は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100と同様に、劣化状態判断、良否判断および換算定数の校正を行なうことができる。それぞれの機能については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0248】
(変形例)
上述の透過法は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200に対しても適用することができる。
【0249】
図24は、実施の形態4の変形例に従う摩擦特性測定装置402の概略構成図である。
図24を参照して、実施の形態4の変形例に従う摩擦特性測定装置402は、演算処理部78と、センサ部79とからなる。
【0250】
演算処理部78は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200の演算処理部4において、演算部30を演算部82に代えたものである。
【0251】
演算部82は、測定指令を受けると、伝送部32へ放射指令を与え、かつ、伝送部32を介して入射音波および透過音波の時間波形データを受ける。演算部82のその他については、実施の形態4における演算部80と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0252】
一方、センサ部79は、伝送部34と、トランスデューサ20.1,20.2と、時間データメモリ部12.1,12.2と、信号処理回路28.1,28.2と、蓄電部38と、発電部36と、送信制御回路22と、送信回路24と、受信回路26とからなる。
【0253】
伝送部34は、時間データメモリ部12.1,12.2に格納されるそれぞれの時間データを読出し、演算処理部78へ送信する。
【0254】
トランスデューサ20.1,20.2と、時間データメモリ部12.1,12.2と、信号処理回路20.1,20.2については、上述したものと同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0255】
蓄電部38と、発電部36と、送信制御回路22と、送信回路24と、受信回路26とについては、実施の形態2と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0256】
上述のように、演算処理部とセンサ部とが無線信号を介して接続する構成に対しても、透過法を同様に適用することができる。
【0257】
また、実施の形態4の変形例に従う摩擦特性測定装置402は、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200と同様に、タイヤなどの測定対象に組込むことができ、滑り状態の検出もできる。
【0258】
図25は、センサ部79の配置例を示す図である。
図25を参照して、摩擦特性測定装置402のセンサ部79は、2つのトランスデューサ20.1および20.2を有する。そのため、図11と同様に、タイヤを測定対象とする場合において、トランスデューサ20.1および20.2は、測定対象を介して所定の間隔だけ離れて対向するように配置される。
【0259】
その他については、実施の形態2と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
この発明の実施の形態4によれば、実施の形態1および2における効果に加えて、センサ部は、入射音波を放射するトランスデューサおよび透過音波を受信するトランスデューサを含むので、同一のトランスデューサで放射および受信を行なう場合に比較して、分離するための構成を省略化できる。さらに、入射音波に対する透過音波の変化を算出するだけでよいので、演算処理を簡素化できる。
【0260】
[実施の形態5]
上述の実施の形態1〜4においては、音波を用いて測定対象の損失正接を導出する構成について説明した。一方、実施の形態5においては、測定対象に直接振動を与えて損失正接を導出する構成(インピーダンス法)について説明する。
【0261】
図26は、実施の形態5に従う摩擦特性測定装置500の概略構成図である。
図26を参照して、摩擦特性測定装置500は、演算処理部86と、センサ部88とからなる。
【0262】
演算処理部86は、演算部84と、記憶部14と、表示出力部16と、入力部18とからなる。
【0263】
演算部84は、入力部18を介して、外部から測定指令を受けると、センサ部88へ印加周波数指令を与え、測定対象9へ振動を与える。そして、演算部84は、センサ部88から測定インピーダンスを受け、その位相から損失正接を導出する。演算部84のその他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100の演算部10と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0264】
また、記憶部14と、表示出力部16と、入力部18とについては、実施の形態1と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0265】
一方、センサ部88は、歪み部材56と、電圧発生器50と、インピーダンス測定器52と、電流検出器54とからなる。
【0266】
歪み部材56は、測定対象9と密着するように配置され、電圧発生器50から印加される電圧および交流周波数に応じて、その境界面内において伸縮歪みを生じる。一例として、歪み部材56は、チタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などからなる。
【0267】
電圧発生器50は、演算処理部86からの印加周波数指令に応じて、所定の周波数をもつ交流電圧を発生し、歪み部材56へ与える。
【0268】
電流検出器54は、電圧発生器50と歪み部材56とを接続する導線上に配置され、電圧発生器50から歪み部材56へ与えられる電流を検出し、インピーダンス測定器52へ出力する。
【0269】
インピーダンス測定器52は、電極58.1および電極58.2と接続され、その発生電圧を検出するとともに、電流検出器54から出力される電流検出値を受け、歪み部材56に生じるインピーダンスを測定する。そして、インピーダンス測定器52は、その測定インピーダンスを演算処理部86へ出力する。
【0270】
図27は、歪み部材56の詳細図である。
図27を参照して、歪み部材56の両面側に電極部58.1および58.2が密着されており、電圧発生器50(図示しない)から印加される電圧に応じて、電極部58.1と電極部58.2との間に電界が生じる。歪み部材56は、その内部に電界が生じるため、歪みを生じる。
【0271】
再度、図26を参照して、歪み部材56は、電圧発生器50により印加される電圧に比例するように歪みを生じるが、測定対象9と密着するように配置されており、その駆動抵抗は測定対象9の粘弾性特性に応じて決まる。すなわち、歪み部材56は、電圧発生器50により印加される電圧に応じて応力を発生し、その応力に応じた歪みを生じるが、歪み部材56が測定対象9と密着されているため、測定対象9における粘弾性特性の影響が大きく、周期的な応力に対して発生する歪みに位相遅れが生じる。さらに、この駆動抵抗は、歪み部材56を含む閉回路のインピーダンス変化の主要因となるので、インピーダンス測定することで測定対象9の粘弾性を検出できる。
【0272】
したがって、歪み部材56に印加される電圧は、歪み部材56に生じる応力に相当し、歪み部材56を含む閉回路のインピーダンスは、歪み部材56が測定対象9の粘弾性に相当する。
【0273】
そこで、演算部84は、必要とする損失正接の周波数の範囲内において、印加周波数指令を変化させ、各周波数における測定インピーダンスを取得する。そして、演算部84は、各周波数における力率角から測定対象9の損失正接を導出し、さらに測定対象9の摩擦特性を算出する。
【0274】
図28は、インピーダンス法により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
図26および図28を参照して、演算部84は、測定指令を受けたか否かを判断する(ステップS700)。測定指令を受けていない場合(ステップS700においてNOの場合)には、演算部84は、測定指令を受けるまで待つ(ステップS700)。
【0275】
測定指令を受けた場合(ステップS700においてYESの場合)には、演算部84は、印加周波数fを初期周波数fminに設定する(ステップS702)。そして、演算部84は、印加周波数指令を電圧発生器50へ与える(ステップS704)。
【0276】
続いて、演算部84は、インピーダンス測定器52から受ける測定インピーダンスから、印加周波数fにおける損失正接を導出する(ステップS706)。そして、演算部84は、導出した印加周波数fにおける損失正接から摩擦係数を算出し、記憶部14へ格納する(ステップS708)。
【0277】
演算部84は、印加周波数fに増分周波数Δfを加算する(ステップS710)。そして、演算部84は、加算後の印加周波数fが最大周波数fmaxを超過しているか否かを判断する(ステップS712)。
【0278】
最大周波数fmaxを超過していない場合(ステップS712においてNOの場合)において、演算部84は、再度、印加周波数指令を電圧発生器50へ与える(ステップS704)。以下、演算部84は、ステップS706,S708,S710,S712をステップS712においてYESとなるまで繰返す。
【0279】
最大周波数fmaxを超過している場合(ステップS712においてYESの場合)において、演算部84は、記憶部14から各周波数における摩擦係数を読出し、摩擦特性を表示出力部16へ与える(ステップS714)。そして、演算部84は、処理を終了する。
【0280】
また、実施の形態5に従う摩擦特性測定装置500は、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100と同様に、劣化状態判断、良否判断および換算定数の校正を行なうことができる。それぞれの機能については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0281】
(変形例)
上述したように、歪み部材56は、内部に生じる電界に応じて応力を生じるので、歪み部材56に電界を与えるように構成すれば、歪み部材56の表面に電極を密着する必要ない。
【0282】
図29は、実施の形態5の変形例に従うセンサ部90の概略構成図である。
図29を参照して、センサ部90は、図26に示すセンサ部88において、歪み部材56が測定対象に埋設され、電極部58.1および58.2により、測定対象9および歪み部材56に対して内部電界を生じるように構成される。
【0283】
歪み部材56におけるインピーダンスの挙動は、図26に示すセンサ部88と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0284】
センサ部90においては、歪み部材56の両面が測定対象9と密着されるため、図26に示すセンサ部88に比較して、その密着度もより大きくなる。したがって、センサ部90は、より高精度に測定対象9の損失正接を算出することができる。また、測定対象9となりうる製品に予め歪み部材56を埋設しておくことにより、事後的に測定対象9の摩擦特性を算出することもできる。
【0285】
この発明の実施の形態5によれば、実施の形態1および2における効果に加えて、測定対象の粘弾性特性に応じた電歪素子の変位に伴うインピーダンスの変化に基づいて損失正接を導出できる。そのため、音波などを使用する場合に比較して、構成を簡素化できる。
【0286】
[実施の形態6]
上述の実施の形態2においては、センサ部が測定した時間波形データを無線信号で伝送するアクティブな構成について説明した。一方、実施の形態6においては、センサ部が外部から無線信号を受け、その無線信号に測定対象に応じた情報を含ませた後、無線信号として送り戻すパッシブな構成について説明する。
【0287】
図30は、実施の形態6に従う摩擦特性測定装置600の概略構成図である。
図30を参照して、摩擦特性測定装置600は、演算処理部91と、センサ部92とからなる。
【0288】
演算処理部91は、演算部93と、送信回路94と、受信回路95と、時間データメモリ部96と、記憶部14と、表示出力部16と、入力部18とからなる。
【0289】
演算部93は、入力部18を介して、外部から測定指令を受けると、測定対象の長さを受付けた後、送信回路94へ放射指令を与えてセンサ部92へ入射電波を放射させる。そして、演算部93は、時間データメモリ部96に格納される反射電波の時間波形データを読出し、その伝搬時間を計測するとともに、読出した時間波形をFFT処理して、各周波数における振幅値および位相を取得する。そして、演算部93は、受付けた値、記憶部14に格納されている基準値、計測した伝搬時間、ならびに取得した振幅値および位相から測定対象の摩擦特性を算出する。さらに、演算部93は、その算出した測定対象の摩擦特性を表示出力部16へ出力する。
【0290】
また、演算部93は、入力部18を介して、外部から基準値取得指令を受けると、送信回路94へ放射指令を与えてセンサ部92へ入射電波を放射させる。そして、演算部93は、時間データメモリ部96に格納される反射電波の時間波形データを読出し、その伝搬時間を計測するとともに、読出した時間波形をFFT処理して、各周波数における振幅値および位相を取得する。そして、演算部93は、計測した伝搬時間ならびに取得した各周波数における振幅値および位相を基準値として記憶部14に格納する。
【0291】
演算部93のその他については、実施の形態1に従う摩擦特性測定装置100の演算部10と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0292】
送信回路94は、演算部93から放射指令を受けると、センサ部92を駆動するための入射電波を放射する。また、送信回路94は、入射電波を放射したタイミングを通知するためのトリガ信号を時間データメモリ部96へ与える。
【0293】
受信回路95は、センサ部92が入射電波を受けて生じる反射電波を受信し、所定の周波数成分だけを抽出し、その瞬間的な振幅値を時間データメモリ部96へ順次出力する。
【0294】
時間データメモリ部96は、送信回路94からトリガ信号を受けると、受信回路95から出力されるデータの格納を開始する。
【0295】
記憶部14と、表示出力部16と、入力部18とは、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0296】
一方、センサ部92は、演算処理部91からの入射電波を受け、その表面を伝搬する表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave;以下、SAW波と称す)を発生する。そして、センサ部92は、その表面を伝搬したSAW波から反射電波を生じ、演算処理部91へ放射する。また、センサ部92は、くし型電極(IDT:Inter Digital transducer;以下、IDTと称す)97.1,97.2,97.3と、アンテナ98.1,98.2,98.3と、基板部99とからなる。
【0297】
IDT97.1は、その一方の電極がアンテナ98.1と接続され、他方の電極が接地電位と接続され、アンテナ98.1に誘起される電圧に応じて、そのくし型の形状を構成する電極面が振動し、SAW波を生成する。
【0298】
IDT97.2は、その一方の電極がアンテナ98.2と接続され、他方の電極が基準電位と接続され、IDT97.1から受けるSAW波に応じて、そのくし型の形状を構成する電極面が振動し電圧を誘起する。そして、IDT97.2は、誘起した電圧でアンテナ98.2を励起する。同様に、IDT97.3は、その一方の電極がアンテナ98.3と接続され、他方の電極が基準電位と接続され、IDT97.1から受けるSAW波に応じて、そのくし型の形状を構成する電極面が振動し電圧を誘起する。そして、IDT97.3は、誘起した電圧でアンテナ98.3を励起する。
【0299】
基板部99は、その表面にIDT97.1,97.2,97.3が形成され、IDT97.1で発生するSAW波が伝搬する経路となる。また、基板部99は、そのSAW波が伝搬する経路上において、測定対象が密着するように配置される。
【0300】
アンテナ98.1は、IDT97.1と接続され、演算処理部91から入射電波を受け、誘起する電圧をIDT97.1へ与える。
【0301】
アンテナ98.2は、IDT97.2と接続され、IDT97.2において誘起される電圧を受け、反射電波を演算処理部91へ放射する。同様に、アンテナ98.3は、IDT97.3と接続され、IDT97.3において誘起される電圧を受け、反射電波を演算処理部91へ放射する。
【0302】
上述のように、センサ部92は、基板部99の表面に測定対象を密着するように配置されるため、基板部99を伝搬するSAW波は、測定対象の情報を含む。さらに、IDT97.2およびアンテナ98.2は、その測定対象の情報を含む反射電波を生成するので、演算処理部91は、測定対象の摩擦特性を算出することができる。
【0303】
図31は、SAW波により損失正接を導出する方法を説明するための図である。
図31(a)は、基準値を取得する場合である。
【0304】
図31(b)は、測定対象9の損失正接を導出する場合である。
図31(a)を参照して、
図32は、図31のそれぞれの場合における時間波形である。
【0305】
図32(a)は、図31(a)における時間波形である。
図32(b)は、図31(b)における時間波形である。
【0306】
図30および図31(a)を参照して、演算部93は、センサ部92の基準値として、測定対象9が存在しない場合における反射電波を基準値として取得する。センサ部92に測定対象が密着していない状態において、送信回路94が入射電波を放射すると、IDT97.1で生成されたSAW波(A0波)が基板部99の表面を伝搬して、IDT97.2へ到達する。同時に、IDT97.1で生成されたSAW波(B0波)が基板部99の表面を伝搬して、IDT97.3へ到達する。さらに、IDT97.2へ到達したSAW波は、アンテナ98.2を介して反射電波として放射され、IDT97.3へ到達したSAW波は、アンテナ98.3を介して反射電波として放射される。
【0307】
図32(a)を参照して、時間データメモリ部96は、送信回路94からのトリガ信号を受けて、データの格納を開始するので、演算部93は、送信回路94から入射電波が放射されてから、受信回路95が反射電波(A0波またはB0波)を受信するまでの伝搬時間を計測する。なお、実施の形態6では、演算部93は、受信回路95が反射電波(A0波)を受信するまでの伝搬時間T0を計測する場合について例示するが、A0波またはB0波のいずれか一方の伝搬時間を計測すればよい。
【0308】
ここで、A0波をA0(f)exp(iθ0(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A0(f)は各周波数における振幅値(実数値)であり、θ0(f)は各周波数における位相(0≦θ0(f)<∞)である。そして、演算部93は、時間データメモリ部96に格納される時間波形をFFT処理して、各周波数における振幅値A0(f)および位相θ0(f)を取得する。このようにして、演算部93は、基準値を取得する。
【0309】
図31(b)を参照して、次に、測定対象9の損失正接を導出する場合には、センサ部92と密着されるように、同一の材質でかつ長さが互いに異なる測定対象9.1および9.2を配置する。そして、送信回路94が入射電波を放射すると、IDT97.1で生成されたSAW波(A波)が基板部99の表面を伝搬して、測定対象9.1を通過した後、IDT97.2へ到達する。同時に、IDT97.1で生成されたSAW波(B波)が基板部99の表面を伝搬して、測定対象9.2を通過した後、IDT97.3へ到達する。さらに、IDT97.2,97.3へ到達したSAW波(A波,B波)は、アンテナ98.2,98.3を介して反射電波として放射される。
【0310】
図32(b)を参照して、センサ部92において、A波の伝搬速度は、測定対象9.1の音響インピーダンスに応じて変化(低下)するため、受信回路95で受信される反射電波は、測定対象9.1が存在しない場合に比較して、遅延時間ΔTだけ遅れる。
【0311】
時間データメモリ部96は、送信回路94からのトリガ信号を受けて、データの格納を開始するので、演算部93は、送信回路94から入射電波が放射されてから、受信回路95が反射電波(A波)を受信するまでの伝搬時間Tを計測し、その計測した伝搬時間Tと基準値のT0とを比較して、遅延時間ΔTを導出する。
【0312】
また、受信回路95で受信されるA波をA(f)exp(iθA(f))と表し、B波をB(f)exp(iθB(f))と表す。但し、iは虚数単位であり、A(f),B(f)はそれぞれA波およびB波の各周波数における振幅値(実数値)であり、θA(f),θB(f)はそれぞれA波およびB波の各周波数における位相(0≦θA(f)<∞,0≦θB(f)<∞)である。そして、演算部93は、時間データメモリ部96に格納される時間波形をFFT処理して、各周波数における振幅値A(f)および位相θ(f)を取得する。
【0313】
すると、測定対象9.1,9.2の長さL1,L2、ならびにA波およびB波の各周波数における振幅値を用いて、SAW波の減衰係数α(f)は、(13)式となる。
【0314】
α(f)={1/(L2−L1)}ln(A(f)/B(f))・・・(13)
また、遅延時間ΔT、SAW波の伝搬速度VA、ならびにA波およびB波の各周波数における振幅値および位相を用いて、SAW波の位相速度Vp(f)は、(14)式となる。
【0315】
Vp(f)=2πfL1/(tanθ0−tanθA+2πfL1/VA+2πfΔT)・・・(14)
そして、(13)式および(14)式によって導出される減衰係数α(f)および位相速度Vp(f)を用いて、損失正接tanδ(f)は、(15)式となる。
【0316】
tanδ(f)=α(f)×Vp(f)/πf・・・(15)
したがって、演算部93は、(13)式〜(15)式の演算を実行し、損失正接tanδ(f)を導出する。さらに、演算部93は、換算定数AおよびBを用いて、導出した損失正接tanδ(f)から摩擦係数を算出する。
【0317】
図33は、SAW波により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
図30および図33を参照して、演算部93は、入力部18を介して基準取得指令を受けたか否かを判断する(ステップS800)。基準取得指令を受けていない場合(ステップS800においてNOの場合)には、演算部93は、基準取得指令を受けるまで待つ(ステップS800)。
【0318】
一方、ユーザは、測定対象9がセンサ部92と密着しないように配置した後、基準取得指令を与える。
【0319】
基準取得指令を受けた場合(ステップS800においてYESの場合)には、演算部93は、放射指令を送信回路94へ与え、入射電波を放射する(ステップS802)。
【0320】
続いて、演算部93は、時間データメモリ部96から受信回路95が受信する反射電波(A0波)の時間波形データを読出す(ステップS804)。そして、演算部93は、読出した時間波形データに基づいて、送信回路94から入射電波が放射されてから、受信回路95が反射電波(A0波)を受信するまでの伝搬時間T0を計測する(ステップS806)。また、演算部93は、読出した反射電波(A0波)の時間波形データに対して、FFT処理を行ない、反射電波(A0波)の各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS808)。さらに、演算部93は、計測した伝搬時間T0ならびに取得した反射電波の各周波数における振幅値および位相を基準値として記憶部14へ格納する(ステップS810)。
【0321】
次に、演算部93は、測定指令を受けたか否かを判断する(ステップS812)。測定指令を受けていない場合(ステップS812においてNOの場合)には、演算部93は、測定指令を受けるまで待つ(ステップS812)。測定指令を受けた場合(ステップS812においてYESの場合)には、演算部93は、入力部18を介して、測定対象9.1,9.2の長さおよびSAW波の伝搬速度を受付ける(ステップS814)。
【0322】
一方、ユーザは、測定対象9.1および9.2がセンサ部92と密着するように配置した後、測定指令を与え、続いて、SAW波の伝搬速度を与える。
【0323】
すると、演算部93は、放射指令を送信回路94へ与え、入射電波を放射する(ステップS816)。
【0324】
続いて、演算部93は、時間データメモリ部96からから受信回路95が受信する反射電波(A波およびB波)の時間波形データを読出す(ステップS818)。そして、読出した時間波形データに基づいて、送信回路94から入射電波が放射されてから、受信回路95が反射電波(A波)を受信するまでの伝搬時間Tを計測する(ステップS820)。さらに、演算部93は、記憶部14からA0波における基準値の伝搬時間T0を読出し、伝搬時間Tから伝搬時間T0を減算して遅延時間ΔTを導出する(ステップS822)。
【0325】
また、演算部93は、読出した反射電波(A波およびB波)の時間波形データに対して、それぞれFFT処理を行ない、反射電波(A波およびB波)のそれぞれの各周波数における振幅値および位相を取得する(ステップS824)。
【0326】
そして、演算部93は、受付けた測定対象9.1,9.2の長さL1,L2、反射電波(A波およびB波)の各周波数における振幅値から、入射電波の減衰係数を導出する(ステップS826)。また、演算部93は、受付けたSAW波の伝搬速度VA、導出した遅延時間ΔT、反射電波(A0波およびA波)の各周波数における振幅値および位相から、位相速度を導出する(ステップS828)。
【0327】
演算部93は、導出した減衰係数および移動速度から、各周波数における損失正接を導出する(ステップS830)。そして、演算部93は、導出した各周波数における損失正接から摩擦特性を算出し、表示出力部16へ与える(ステップS832)。すると、ユーザは、表示出力部16を介して算出された摩擦特性を知ることができる。そして、演算部93は、処理を終了する。
【0328】
上述のように、実施の形態6に従う摩擦特性測定装置600は、測定対象の摩擦特性を算出する。
【0329】
なお、センサ部92は、その表面を伝搬するSAW波の周波数をIDT97.1とIDT97.2および97.3との共振周波数に限定するように構成できる。すなわち、送信回路94から放射される入射電波に複数の周波数成分が含まれていた場合であっても、センサ部92が放射する反射電波の周波数成分を共振周波数だけにフィルタすることもできる。このようなセンサ部92を採用すると、演算部93は、FFT処理を行なう必要がない。そのため、より高速に摩擦特性を算出することができる。
【0330】
また、実施の形態6の変形例に従う摩擦特性測定装置600は、共振周波数が互いに異なる複数のセンサ部92を配置することによって、実施の形態2に従う摩擦特性測定装置200と同様に、タイヤなどの測定対象に組込むことができ、滑り状態の検出もできる。それぞれの機能については、実施の形態2と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0331】
なお、上述の実施の形態6においては、入射電波を受信するためのアンテナと、反射電波を放射するためのアンテナとをそれぞれ有するセンサ部について説明したが、この構成に限られることはなく、受信および放射を共通のアンテナを備える構成とすることもできる。
【0332】
この発明の実施の形態6によれば、センサ部は、演算処理部から送信される放射電波を受けて表面弾性波を生じ、さらに、測定対象の粘弾性特性に応じた反射電波を放射する。そのため、センサ部は、演算処理部から受けた入射電波で駆動するので、外部から電力を供給する必要がない。よって、センサ部の配置場所には制約がなく、運動を行なっている測定対象に対して、容易に摩擦特性を算出することができる。
【0333】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0334】
【図1】この発明の実施の形態1に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図2】摩擦特性測定装置による測定の一例を示す図である。
【図3】損失正接から算出される摩擦係数を従来の摩擦特性測定装置により測定される摩擦係数と比較した図である。
【図4】表面反射法による損失正接を導出する方法を説明するための図である。
【図5】摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
【図6】測定対象の摩擦特性の劣化モードを説明するための図である。
【図7】測定対象の劣化状態を判断するためのフローチャートである。
【図8】実施の形態1の変形例を示す図である。
【図9】換算定数を校正するためのフローチャートである。
【図10】実施の形態2に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図11】センサ部の配置例を示す図である。
【図12】トランスデューサを配置するタイヤの断面図である。
【図13】摩擦特性測定装置を備えた車両を示す図である。
【図14】滑り状態の検出を説明するための図である。
【図15】滑り状態を検出するフローチャートである。
【図16】実施の形態3に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図17】底面反射法による損失正接を導出する方法を説明するための図である。
【図18】図17のそれぞれの場合における時間波形である。
【図19】底面反射法により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
【図20】実施の形態3の変形例に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図21】実施の形態4に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図22】透過法による損失正接を導出する方法を説明するための図である。
【図23】透過法により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
【図24】実施の形態4の変形例に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図25】センサ部の配置例を示す図である。
【図26】実施の形態5に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図27】歪み部材の詳細図である。
【図28】インピーダンス法により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
【図29】実施の形態5の変形例に従うセンサ部の概略構成図である。
【図30】実施の形態6に従う摩擦特性測定装置の概略構成図である。
【図31】SAW波により損失正接を導出する方法を説明するための図である。
【図32】図31のそれぞれの場合における時間波形である。
【図33】SAW波により摩擦特性を測定するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0335】
1 演算処理部、2,5,72,75,77,79,88,90,92 センサ部、3 遅延部材、4,71,74,78,86,91 演算処理部、8 反射部材、9 測定対象、10,30,70,73,80,82,84,93 演算部、12,12.1,12.2,96 時間データメモリ部、14 記憶部、16 表示出力部、18 入力部、20 トランスデューサ、20 信号処理回路、22 送信制御回路、24,94 送信回路、25 方向整合器、26,95 受信回路、28,28.1,28.2 信号処理回路、32,34 伝送部、36 発電部、38 蓄電部、40 バーコードリーダ、42 バーコード、44 質問器、46 演算処理部、48 無線タグ、50 電圧発生器、52 インピーダンス測定器、54 電流検出器、56 歪み部材、58.1,58.2 電極部、60 カーカス、62 トレッド部、97.1,97.2,97.3 くし型電極(IDT)、98.1,98.2,98.3 アンテナ、99 基板部、100,102,104,200,300,302,400,402,500,600 摩擦特性測定装置、L’ 貯蔵弾性率、L” 損失弾性率、fmax 最大周波数、fmin 初期周波数、R 反射率、T0,T 伝搬時間、tanδ 損失正接、VA 伝搬速度、Vg,Vgr 群速度、Vp 位相速度、Z,Z0,Z2,Zr 音響インピーダンス、α 減衰係数、δ 偏角、ΔT,ΔTr 遅延時間、θ,θ0,θA,θB 位相、μ,μref 摩擦係数、ρ,ρ2,ρr 密度。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象と密着して配置され、前記測定対象の粘弾性特性に応じた変化量を生じるセンサ部と、
前記センサ部の変化量に基づいて、前記測定対象における粘弾性特性のうち損失正接を取得し、取得した損失正接から前記測定対象の摩擦特性を算出する演算処理部とを備える、摩擦特性測定装置。
【請求項2】
前記センサ部は、
前記測定対象へ入射音波を放射する放射手段と、
前記放射手段において放射される前記入射音波が前記測定対象により反射されて生じる反射音波を受信する受信手段と、
前記入射音波および前記反射音波を伝搬させることで、前記放射手段において前記入射音波が放射された後、前記受信手段において前記反射音波が受信されるまでに遅延時間を生じさせる遅延部材とを含み、
前記演算処理部は、前記センサ部の前記受信手段において受信される前記反射音波に基づいて、前記測定対象の損失正接を算出する、請求項1に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項3】
前記センサ部は、
前記測定対象へ入射音波を放射する放射手段と、
前記放射手段において放射される前記入射音波が前記測定対象により反射されて生じる反射音波を受信する受信手段と、
前記入射音波および前記反射音波を伝搬させることで、前記放射手段において前記入射音波が放射された後、前記受信手段において前記反射音波が受信されるまでに遅延時間を生じさせる遅延部材とを含み、
前記演算処理部は、前記遅延部材と前記測定対象との境界面において生じる第1の反射音波と、前記測定対象における前記第1の反射音波が生じる境界面と対向する面において生じる第2の反射音波とに基づいて、前記測定対象の損失正接を算出する、請求項1に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項4】
前記センサ部は、前記測定対象における前記第1の反射音波が生じる境界面と対向する面において、前記測定対象と密着して配置される反射部材をさらに含む、請求項3に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項5】
前記演算処理部は、前記反射音波を予め取得される基準値と比較することで、前記測定対象の損失正接を算出する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項6】
前記センサ部は、電気信号を受けて前記入射音波を生成し、かつ、前記反射音波を受けて電気信号を生成するトランスデューサをさらに含み、
前記トランスデューサは、前記放射手段および前記受信手段を実現する、請求項2〜5のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項7】
前記センサ部は、
前記測定対象へ入射音波を放射する放射手段と、
前記放射手段において放射される前記入射音波が前記測定対象を透過して生じる透過音波を受信する受信手段とを含み、
前記演算処理部は、前記センサ部の前記放射手段において放射される前記入射音波と、前記受信手段において受信される前記透過音波とに基づいて、前記測定対象の損失正接を算出する、請求項1に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項8】
前記センサ部は、無線信号を介して、前記受信手段において受信される音波および/または前記放射手段において放射される音波の波形データを前記演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、
前記演算処理部は、前記センサ部から送信される前記波形データを受信する第2の伝送部をさらに含む、請求項2〜7のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項9】
前記センサ部は、前記測定対象と密着するように配置され、印加される電圧により生じる内部電界に応じて、前記測定対象との境界面の面内方向に伸縮を生じる歪み部材を含み、
前記演算処理部は、前記歪み部材を含む閉回路を流れる電流から導出されるインピーダンスに基づいて、前記測定対象の損失正接を算出する、請求項1に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項10】
前記センサ部は、無線信号を介して、前記インピーダンスを前記演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、
前記演算処理部は、前記センサ部から送信される前記インピーダンスを受信する第2の伝送部をさらに含む、請求項9に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項11】
前記センサ部は、前記測定対象と一体化して運動するように配置される、請求項8または10に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項12】
前記測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、
前記センサ部は、無線信号を介して、前記受信手段において受信される音波および/または前記放射手段において放射される音波の波形データを前記演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、
前記放射手段は、前記入射音波を前記測定対象の前記接触面へ照射し、
前記受信手段は、前記測定対象における前記接触面により反射されて生じる前記反射音波を受信し、
前記演算処理部は、前記センサ部から送信される前記波形データを受信する第2の伝送部をさらに含む、請求項2〜6のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項13】
前記測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、
前記センサ部は、無線信号を介して、前記受信手段において受信される音波および/または前記放射手段において放射される音波の波形データを前記演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、
前記放射手段は、前記測定対象の前記接触面に沿う入射音波を照射し、
前記受信手段は、前記測定対象の前記接触面の近傍を透過して受信される透過音波を受信し、
前記演算処理部は、前記センサ部から送信される前記波形データを受信する第2の伝送部をさらに含む、請求項7に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項14】
前記測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、
前記センサ部は、無線信号を介して、前記インピーダンスを前記演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、
前記測定対象における前記接触面に対して前記境界面が沿うようにして測定対象に密着して配置され、
前記演算処理部は、前記センサ部から送信される前記インピーダンスを受信する第2の伝送部をさらに含む、請求項9に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項15】
前記測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、
前記センサ部は、前記測定対象と一体化して運動するように配置され、
前記受信手段は、さらに、前記測定対象と前記他の部材との擦れにより生じる滑り音波を受信し、
前記演算処理部は、前記センサ部において受信される前記滑り音波に基づいて、前記測定対象の滑り状態を検出する、請求項8に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項16】
前記センサ部は、
前記測定対象の運動により生じる運動エネルギーから電力を生じる発電部と、
前記発電部から供給される電力を蓄える蓄電部とをさらに含む、請求項8、10、11および12のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項17】
前記センサ部は、
前記測定対象と第1および第2の面において密着するように配置され、かつ、前記第1および第2の面において表面弾性波を伝搬させる基板部と、
前記基板部に配置され、外部からの入射電波を受けて前記表面弾性波を生じる第1の電極と、
前記基板部上において、前記第1の面を介して前記第1の電極と対向するように配置され、かつ、前記第1の電極から前記第1の面で密着される前記測定対象を透過して到達する第1の表面弾性波から第1の反射電波を生じる第2の電極と、
前記基板部上において、前記第2の面を介して前記第1の電極と対向するように配置され、かつ、前記第1の電極から前記第2の面で密着される前記測定対象を透過して到達する第2の表面弾性波から第2の反射電波を生じる第2の電極とを含み、
前記演算処理部は、
前記センサ部へ前記入射電波を放射する送信回路と、
前記センサ部から前記第1および第2の反射電波を受信する受信回路と、
前記入射電波と前記第1および第2の反射電波とに基づいて、前記測定対象の損失正接を算出する演算部とを含む、請求項1に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項18】
前記測定対象は、タイヤであり、
前記センサ部は、前記タイヤの内部に配置される、請求項8、10、11〜17のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項19】
前記演算処理部は、同一の前記測定対象における前記摩擦特性の変化に基づいて、当該測定対象の劣化状態を判断する劣化状態判断手段をさらに含む、請求項1〜18のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項20】
前記劣化状態判断手段は、前記摩擦特性のピーク周波数または/およびピーク値の変化に基づいて当該測定対象の劣化状態を判断する、請求項19に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項21】
前記演算処理部は、前記測定対象の前記摩擦特性を予め定められた所定の摩擦特性と比較することで、当該測定対象の良否を判断する良否判断手段をさらに含む、請求項1〜20のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項22】
前記劣化状態判断手段は、前記摩擦特性のピーク周波数または/およびピーク値を予め定められた所定のピーク周波数または/およびピーク値と比較することで、当該測定対象の良否を判断する、請求項20に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項23】
前記演算処理部は、前記劣化状態判断手段または/および前記良否判断手段における判断結果を表示または/および外部へ出力する表示出力部をさらに含む、請求項1〜22のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項24】
前記演算処理部は、摩擦特性が既知である校正基準に対して取得された損失正接を受け、その取得した損失正接から算出される摩擦特性が前記校正基準の摩擦特性と略一致するように、損失正接を摩擦係数に変換するための換算定数を決定する校正手段をさらに含む、請求項1〜23のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項25】
請求項8、10、11〜17のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置における前記センサ部を含む、摩擦特性測定装置に向けられるタイヤ。
【請求項1】
測定対象と密着して配置され、前記測定対象の粘弾性特性に応じた変化量を生じるセンサ部と、
前記センサ部の変化量に基づいて、前記測定対象における粘弾性特性のうち損失正接を取得し、取得した損失正接から前記測定対象の摩擦特性を算出する演算処理部とを備える、摩擦特性測定装置。
【請求項2】
前記センサ部は、
前記測定対象へ入射音波を放射する放射手段と、
前記放射手段において放射される前記入射音波が前記測定対象により反射されて生じる反射音波を受信する受信手段と、
前記入射音波および前記反射音波を伝搬させることで、前記放射手段において前記入射音波が放射された後、前記受信手段において前記反射音波が受信されるまでに遅延時間を生じさせる遅延部材とを含み、
前記演算処理部は、前記センサ部の前記受信手段において受信される前記反射音波に基づいて、前記測定対象の損失正接を算出する、請求項1に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項3】
前記センサ部は、
前記測定対象へ入射音波を放射する放射手段と、
前記放射手段において放射される前記入射音波が前記測定対象により反射されて生じる反射音波を受信する受信手段と、
前記入射音波および前記反射音波を伝搬させることで、前記放射手段において前記入射音波が放射された後、前記受信手段において前記反射音波が受信されるまでに遅延時間を生じさせる遅延部材とを含み、
前記演算処理部は、前記遅延部材と前記測定対象との境界面において生じる第1の反射音波と、前記測定対象における前記第1の反射音波が生じる境界面と対向する面において生じる第2の反射音波とに基づいて、前記測定対象の損失正接を算出する、請求項1に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項4】
前記センサ部は、前記測定対象における前記第1の反射音波が生じる境界面と対向する面において、前記測定対象と密着して配置される反射部材をさらに含む、請求項3に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項5】
前記演算処理部は、前記反射音波を予め取得される基準値と比較することで、前記測定対象の損失正接を算出する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項6】
前記センサ部は、電気信号を受けて前記入射音波を生成し、かつ、前記反射音波を受けて電気信号を生成するトランスデューサをさらに含み、
前記トランスデューサは、前記放射手段および前記受信手段を実現する、請求項2〜5のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項7】
前記センサ部は、
前記測定対象へ入射音波を放射する放射手段と、
前記放射手段において放射される前記入射音波が前記測定対象を透過して生じる透過音波を受信する受信手段とを含み、
前記演算処理部は、前記センサ部の前記放射手段において放射される前記入射音波と、前記受信手段において受信される前記透過音波とに基づいて、前記測定対象の損失正接を算出する、請求項1に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項8】
前記センサ部は、無線信号を介して、前記受信手段において受信される音波および/または前記放射手段において放射される音波の波形データを前記演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、
前記演算処理部は、前記センサ部から送信される前記波形データを受信する第2の伝送部をさらに含む、請求項2〜7のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項9】
前記センサ部は、前記測定対象と密着するように配置され、印加される電圧により生じる内部電界に応じて、前記測定対象との境界面の面内方向に伸縮を生じる歪み部材を含み、
前記演算処理部は、前記歪み部材を含む閉回路を流れる電流から導出されるインピーダンスに基づいて、前記測定対象の損失正接を算出する、請求項1に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項10】
前記センサ部は、無線信号を介して、前記インピーダンスを前記演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、
前記演算処理部は、前記センサ部から送信される前記インピーダンスを受信する第2の伝送部をさらに含む、請求項9に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項11】
前記センサ部は、前記測定対象と一体化して運動するように配置される、請求項8または10に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項12】
前記測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、
前記センサ部は、無線信号を介して、前記受信手段において受信される音波および/または前記放射手段において放射される音波の波形データを前記演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、
前記放射手段は、前記入射音波を前記測定対象の前記接触面へ照射し、
前記受信手段は、前記測定対象における前記接触面により反射されて生じる前記反射音波を受信し、
前記演算処理部は、前記センサ部から送信される前記波形データを受信する第2の伝送部をさらに含む、請求項2〜6のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項13】
前記測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、
前記センサ部は、無線信号を介して、前記受信手段において受信される音波および/または前記放射手段において放射される音波の波形データを前記演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、
前記放射手段は、前記測定対象の前記接触面に沿う入射音波を照射し、
前記受信手段は、前記測定対象の前記接触面の近傍を透過して受信される透過音波を受信し、
前記演算処理部は、前記センサ部から送信される前記波形データを受信する第2の伝送部をさらに含む、請求項7に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項14】
前記測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、
前記センサ部は、無線信号を介して、前記インピーダンスを前記演算処理部へ送信する第1の伝送部をさらに含み、
前記測定対象における前記接触面に対して前記境界面が沿うようにして測定対象に密着して配置され、
前記演算処理部は、前記センサ部から送信される前記インピーダンスを受信する第2の伝送部をさらに含む、請求項9に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項15】
前記測定対象は、他の部材との接触面において摩擦力を生じるような運動を行ない、
前記センサ部は、前記測定対象と一体化して運動するように配置され、
前記受信手段は、さらに、前記測定対象と前記他の部材との擦れにより生じる滑り音波を受信し、
前記演算処理部は、前記センサ部において受信される前記滑り音波に基づいて、前記測定対象の滑り状態を検出する、請求項8に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項16】
前記センサ部は、
前記測定対象の運動により生じる運動エネルギーから電力を生じる発電部と、
前記発電部から供給される電力を蓄える蓄電部とをさらに含む、請求項8、10、11および12のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項17】
前記センサ部は、
前記測定対象と第1および第2の面において密着するように配置され、かつ、前記第1および第2の面において表面弾性波を伝搬させる基板部と、
前記基板部に配置され、外部からの入射電波を受けて前記表面弾性波を生じる第1の電極と、
前記基板部上において、前記第1の面を介して前記第1の電極と対向するように配置され、かつ、前記第1の電極から前記第1の面で密着される前記測定対象を透過して到達する第1の表面弾性波から第1の反射電波を生じる第2の電極と、
前記基板部上において、前記第2の面を介して前記第1の電極と対向するように配置され、かつ、前記第1の電極から前記第2の面で密着される前記測定対象を透過して到達する第2の表面弾性波から第2の反射電波を生じる第2の電極とを含み、
前記演算処理部は、
前記センサ部へ前記入射電波を放射する送信回路と、
前記センサ部から前記第1および第2の反射電波を受信する受信回路と、
前記入射電波と前記第1および第2の反射電波とに基づいて、前記測定対象の損失正接を算出する演算部とを含む、請求項1に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項18】
前記測定対象は、タイヤであり、
前記センサ部は、前記タイヤの内部に配置される、請求項8、10、11〜17のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項19】
前記演算処理部は、同一の前記測定対象における前記摩擦特性の変化に基づいて、当該測定対象の劣化状態を判断する劣化状態判断手段をさらに含む、請求項1〜18のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項20】
前記劣化状態判断手段は、前記摩擦特性のピーク周波数または/およびピーク値の変化に基づいて当該測定対象の劣化状態を判断する、請求項19に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項21】
前記演算処理部は、前記測定対象の前記摩擦特性を予め定められた所定の摩擦特性と比較することで、当該測定対象の良否を判断する良否判断手段をさらに含む、請求項1〜20のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項22】
前記劣化状態判断手段は、前記摩擦特性のピーク周波数または/およびピーク値を予め定められた所定のピーク周波数または/およびピーク値と比較することで、当該測定対象の良否を判断する、請求項20に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項23】
前記演算処理部は、前記劣化状態判断手段または/および前記良否判断手段における判断結果を表示または/および外部へ出力する表示出力部をさらに含む、請求項1〜22のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項24】
前記演算処理部は、摩擦特性が既知である校正基準に対して取得された損失正接を受け、その取得した損失正接から算出される摩擦特性が前記校正基準の摩擦特性と略一致するように、損失正接を摩擦係数に変換するための換算定数を決定する校正手段をさらに含む、請求項1〜23のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置。
【請求項25】
請求項8、10、11〜17のいずれか1項に記載の摩擦特性測定装置における前記センサ部を含む、摩擦特性測定装置に向けられるタイヤ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【公開番号】特開2007−47130(P2007−47130A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234770(P2005−234770)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本トライボロジー学会、トライボロジスト 第50巻 第2号、平成17年2月15日発行 社団法人 日本トライボロジー学会、トライボロジスト 第50巻 第3号、平成17年3月15日発行
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本トライボロジー学会、トライボロジスト 第50巻 第2号、平成17年2月15日発行 社団法人 日本トライボロジー学会、トライボロジスト 第50巻 第3号、平成17年3月15日発行
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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