説明

摩耗検出装置

【課題】 摩擦圧接部品の摩耗状況をより正確に判定すること
【解決手段】 この摩耗検出装置20によれば、摩擦圧接部品から生じるアコースティックエミッションを検出し、AE信号からAEエネルギを算出し、このAEエネルギを経時的に積算した積算量に基づいて、摩擦圧接部品の摩耗状況が定量的に推定でき、摩擦圧接部品の交換点検時期や、摩擦圧接部品の突発的な異常又はその兆候をより正確に判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦圧接部品の摩耗検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
使用により摩耗劣化する摩擦圧接部品は、適切な時期に交換する必要があるが、摩擦圧接部品の摩耗状況を適切に監視することは難しい。
【0003】
例えば、発電設備などで給排水路に設けられる電動弁駆動装置1では、図1に示すように、弁を開閉させる際、弁に負荷が掛かった状態で弁棒2(ステム)をステムナット3に対して摺動回転させて、弁棒2を動かして弁(図示省略)を開閉操作している。斯かる形態の電動弁駆動装置1の場合、弁棒2とステムナット3は、摩擦による両者の焼き付きを防止するため、異なる材料を用いており、また、摩耗劣化する部品の交換作業をより簡単に行なうため、弁棒2に比べて交換が容易なステムナット3の方を、弁棒2に対して摩耗し易い部品としている。そして、使用により摩耗劣化するステムナット3を適切な時期に交換している。ステムナット3の摩耗状態を厳格に監視するには、定期的に電動弁駆動装置1を分解して、ステムナット3のねじ山等を計測する必要がある。しかし、電動弁駆動装置1の分解を要するため、ステムナット3の摩耗は運転中に監視できないことから、比較的短い期間で定期的に点検や取替などを行なうことにより、保全を行なっているのが実情である。
【0004】
ステムナット3のような摩擦圧接部品の摩耗状態を検出する装置又は方法については、例えば、特開2000−046696に開示されている。
【0005】
特開2000−046696には、摩擦圧接部品の圧接部の品質を検査する方法として、一対の被圧接部品の圧接を開始した直後数秒間の間に発生するAE信号を計測し、AE信号から得た計測パラメータと予め定めた評価基準パラメータとを比較して、摩擦圧接部品の圧接部の品質を検査するものが開示されている。
【特許文献1】特開2000−046696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載されたものは、検出されたAE信号に対して、一定の基準値を設定して、振幅の大きさなどを比較しているが、AE信号の情報をそのまま利用しただけでは、摩耗状況を正確に判断することは難しい。また、検出されたAE信号は、ノイズ成分が含まれるため、これを機械要素の異常として検出してしまう場合があり、これを基に摩耗状況を正確に判断するのは難しい。このように、機械要素の経時的な摩耗状況の変化を監視するには、単に、AE信号のパラメータにしきい値を設けて比較するだけでは不十分である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、実機を模した試験装置において、摩擦圧接部品からアコースティックエミッションを検出したAE信号の情報を種々加工し、摩擦圧接部品の摩耗状況(摩耗量)との相関関係を調べた。
【0008】
試験装置10は、図2に示すように、電動弁ステムナットの摩耗を加速的に模擬したものである。図2中、11は弁棒を模した送りねじ、12はステムナット、13はステムナットに取り付けた駆動ステージ、14は駆動ステージ13を案内するガイドレール、15は実機のステムナット12に斯かる負荷に相当する負荷を駆動ステージ13に付与する負荷シリンダ、16は送りねじ11を回転駆動させるモータである。送りねじ11には、実機の弁棒と同じ材料(SUS403)を用い、ステムナット12にも実機と同じ材料(CAC703)を用いた。両者の材料特性により、ステムナット12側に摩耗が生じるようにした。また、駆動ステージ13にAEセンサ(図示省略)を取り付け、ステムナット12に生じるアコースティックエミッションを検出した。
【0009】
この試験装置10は、実機のステムナットに掛かる荷重を負荷シリンダ15により、駆動ステージ13を介してステムナット12に負荷を与える。そして、モータ16により送りねじ11を回転させることで、ステムナット12を送りねじ11に対して摺動させた。実機ではユニットの起動や停止の度に、電動弁を開閉動作させるため、ステムナット12を繰り返し往復動させた。途中、定期的に装置を止め、ステムナット12のねじ山の減少量を計測し、ステムナット12のねじ山の減少量から摩耗量(摩耗体積)を算出した。また、AE信号の電圧の特性を示すAE信号の特性曲線aを時間積分したものを係る駆動時間におけるAEエネルギとし(図7参照)、AEエネルギを経時的に積算した積算曲線dを求めた(図8参照)。
【0010】
その結果、AEエネルギを経時的に積算した積算曲線dは、ステムナット12(摩擦圧接部品)の経時的な摩耗量の増加傾向と、経時的に略同じ傾向を示すことを見出した。本発明に係る摩耗検出装置は、本発明者らの斯かる知見に基づいたものである。
【0011】
すなわち、本発明に係る摩耗検出装置は、摩擦圧接部品から生じるアコースティックエミッションを検出し、AE信号を出力するAEセンサと、AEセンサのAE信号に基づいてAEエネルギを算出するAEエネルギ算出部と、AEエネルギ算出部で算出したAEエネルギに基づいて、摩擦圧接部品の摩耗状態を判定する摩耗状態判定部とを備えている。
【0012】
AEエネルギ算出部は、例えば、AE信号のうち摩擦圧接部品の摩耗に起因する周波数成分を持つAE信号を抽出する信号抽出部を備えており、信号抽出部で抽出したAE信号に基づいてAEエネルギを算出するようにしてもよい。
【0013】
摩耗状態判定部は、例えば、AEエネルギ算出部で算出したAEエネルギを経時的に積算し、積算したAEエネルギの積算量に基づいて摩耗状態を判定するようにしてもよい。また、摩耗状態判定部は、AEエネルギの積算量の経時的な変化に基づいて摩耗状態を判定するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
この摩耗検出装置によれば、摩擦圧接部品の摩耗量との間に相関関係があるAEエネルギの積算量に基づいて、摩擦圧接部品の摩耗状態を判定する摩耗状態判定部を備えているので、摩擦圧接部品の摩耗状況をより正確に判定することができる。
【0015】
AE信号のうち摩耗に起因する周波数成分を持つAE信号を抽出してAEエネルギを算出したものは、AE信号からノイズを除去できるので、より正確な判定が可能である。また、AEエネルギを経時的に積算し、積算したAEエネルギの積算量に基づいて摩耗状態を判定したものは、摩擦圧接部品の使用による経時的な摩耗劣化の状況を判定することができる。また、AEエネルギを経時的に積算し、積算したAEエネルギの経時的な変化に基づいて摩耗状態を判定したものは、摩擦圧接部品の破損など突発的な異常を判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る摩耗検出装置を図面に基づいて説明する。
【0017】
この摩耗検出装置20は、図3に示すように、AEセンサ21と、AEエネルギ算出部22と、摩耗状態判定部23とを備えている。
【0018】
AEセンサ21は、摩擦圧接部品から生じるアコースティックエミッションを検出し、AE信号を出力するものである。例えば、図4に示すように、被測定体31に取り付けるハウジング32内に、圧電素子33と、錘34を取り付けたものであり、被測定体31に生じた振動などにより、圧電素子33に機械的なひずみが生じ、圧電素子33の出力端子35に電位差が生じるようになっている。
【0019】
この摩耗検出装置20を電動弁駆動装置に配設された弁棒2とステムナット3(摩擦圧接部品,図1参照)に適用する場合は、AEセンサ21は弁棒2とステムナット3の近傍に取り付けるとよく、例えば、図1に示すように、電動弁駆動装置1のハウジングの外周面に対しステムナット3の近傍に位置するように取り付けるとよい。
【0020】
この実施形態では、図3に示すように、AEセンサ21は、プリアンプ41と、バンドパスフィルタ42と、検波回路43を通して、AE信号の特性信号がAEエネルギ算出部22に送られるように構成している。
【0021】
プリアンプ41は、AEセンサ21から出力されるAE信号を増幅するものである。バンドパスフィルタ42は、図5に示すように、プリアンプ41で増幅されたAE信号のうち、摩擦圧接部品の摩耗に起因する周波数成分を弁別するものである。この実施形態では、バンドパスフィルタ42は、金属の摩耗により生じるAE信号の周波数成分が含まれる10kHz〜500kHzの周波数成分を弁別し、抽出している。検波回路43は、図6に示すように、バンドパスフィルタ42で弁別されたAE信号を包絡線検波し、AE信号の特性曲線aを得るものである。
【0022】
AEエネルギ算出部22は、AEセンサ21のAE信号に基づいてAEエネルギを算出するものである。この実施形態では、AEエネルギ算出部22は、摩耗に影響を与える信号を抽出する摩耗信号抽出回路44と、AEエネルギを算出するエネルギ算出回路45とを備えている。
【0023】
摩耗信号抽出回路44は基準値設定回路46と比較回路47で構成している。摩耗信号抽出回路44は、図7に示すように、検波回路43で得られたAE信号の特性曲線aのうち、電圧値が一定以上低いものは、摩擦圧接部品の摩耗に影響を与えない使用状況で発生したAE信号であると考えられるので、基準値設定回路46において電圧値に一定の基準値bを設け、比較回路47において基準値設定回路46で設定した基準値bよりも低い電圧値の信号を除去している。これにより、AE信号のうち摩耗に影響を与える信号を抽出することができる。
【0024】
次に、エネルギ算出回路45においてAEエネルギを算出する。AEエネルギは、AE信号の特性曲線aを時間積分したものである。この実施形態では、エネルギ算出回路45は、図7に示すように、摩耗信号抽出回路44で摩擦圧接部品の摩耗に影響を与える信号として抽出されたAE信号の電圧を時間積分するものであり、AE信号の電圧をA/D変換し、これを積算することにより、図7中のハッチングをした面積cに相当するAEエネルギを算出している。
【0025】
例えば、図1に示す電動弁駆動装置1の場合、摩耗に影響のある動作は弁を昇降させる動作であるから、摩耗信号抽出回路44では、弁の1回の動作におけるAE信号が抽出される。そして、エネルギ算出回路45では、1回の動作におけるAE信号が時間積分されて、AEエネルギが算出される。
【0026】
次に、摩耗状態判定部23は、AEエネルギ算出部22で算出されたAEエネルギの経時的な積算量に基づいて、摩擦圧接部品の摩耗状態を判定するものである。
【0027】
この実施形態では、摩耗状態判定部23は、積算回路48(微分回路)と、基準値設定回路49と、比較回路50とを備えている。
【0028】
積算回路48は、AEエネルギ算出部で算出したAEエネルギを経時的に積算するものであり、この実施形態では、AEエネルギ算出部22で算出されたAEエネルギを摩擦圧接部品の使用時間に応じて積算してAEエネルギの積算量を算出している。積算回路48で算出されるAEエネルギの積算量は、図8に示すように、AEエネルギが経時的に増加する積算曲線dが得られる。なお、図8は電動弁駆動装置1の場合におけるものであり、横軸に弁の開閉駆動の回数を取っている。
【0029】
このように積算回路48では、AEエネルギ算出部22において使用回数毎に算出されるAEエネルギが積算される。このAEエネルギを経時的に積算した積算曲線dは、摩擦圧接部品の経時的な摩耗量の増加傾向と、経時的に略同じ傾向を示す。従って、AEエネルギを経時的に積算した積算曲線dは、摩擦圧接部品の摩耗度合い(摩耗量)を判定する際の有力な情報になる。
【0030】
微分回路は、積算回路48で積算されたAEエネルギの積算量の変化を算出するものであり、この実施形態では、積算回路48で積算されたAEエネルギの積算曲線dを時間微分している。微分回路によれば、AEエネルギの積算量が著しく急激な変化がわかり、斯かるAEエネルギの積算量の急激な変化は、摩擦圧接部品の突発的な異常又はその兆候を示したものである可能性がある。このため、微分回路により、摩擦圧接部品が破損するような状況が生じ得る可能性を判定するのに有力な情報を得ることができる。
【0031】
基準値設定回路49は、積算回路48で得られるAEエネルギの積算量に対し、摩擦圧接部品の摩耗度合いを予測し、適切な交換点検時期の目安となる第1基準値eと、また、基準値設定回路49は、微分回路で得られるAEエネルギの積算量の変化について、摩擦圧接部品の突発的な異常又はその兆候を示す目安となる第2基準値を設定している。
【0032】
比較回路50は、例えば、図9に示すように、基準値設定回路49で設定された第1基準値eに基づいて、摩擦圧接部品の摩耗度合いを予測し、適切な交換点検時期を判定することができる。また、図示は省略するが、微分回路で得られるAEエネルギの積算曲線を時間微分したものについて、基準値設定回路で設定した第2基準値に基づいて摩擦圧接部品の突発的な異常又はその兆候の有無を判定することができる。
【0033】
この実施形態では、摩耗検出装置は表示回路51を備えている。表示回路51は比較回路50で交換点検時期が来たと判定された場合や、摩擦圧接部品の突発的な異常又はその兆候があるとの判定がされた場合に、これを表示するものであり、例えば、ディスプレイに適切な表示を行なったり、警報音を発したりする構成にするとよい。
【0034】
この摩耗検出装置20によれば、摩擦圧接部品から生じるアコースティックエミッションを検出し、AE信号からAEエネルギが算出され、このAEエネルギを経時的に積算した積算量に基づいて、摩擦圧接部品の摩耗状況が定量的に推定でき、摩擦圧接部品の交換点検時期や、摩擦圧接部品の突発的な異常又はその兆候をより正確に判定することができる。
【0035】
以上、本発明の一実施形態に係る摩耗検出装置を説明したが、本発明に係る摩耗検出装置は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0036】
例えば、電動弁の弁棒とステムナットの摩耗状況を例示して説明したが、本発明に係る摩耗検出装置はこれに限定されず、摩擦圧接状態で使用される種々の機械要素の摩耗状況を判定するのに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】電動弁駆動装置に配設された弁棒とステムナットを示す斜視図。
【図2】本発明の一実施形態に係る摩耗検出装置の試験装置を示す図。
【図3】本発明の一実施形態に係る摩耗検出装置のブロック図。
【図4】AEセンサの構成例を示す図。
【図5】AEセンサから得られるAE信号をバンドパスフィルタで弁別した波形を示す図。
【図6】AEセンサから得られるAE信号を検波回路で検波した波形を示す図。
【図7】AEエネルギ算出部での処理を示す図。
【図8】積算回路での積算処理された積算曲線を示す図。
【図9】摩耗状態判定部での処理を示す図。
【符号の説明】
【0038】
1 電動弁駆動装置
2 弁棒
3 ステムナット
10 試験装置
11 送りねじ
12 ステムナット
13 駆動ステージ
14 ガイドレール
15 負荷シリンダ
16 モータ
20 摩耗検出装置
21 AEセンサ
22 AEエネルギ算出部
23 摩耗状態判定部
41 プリアンプ
42 バンドパスフィルタ
43 検波回路
44 摩耗信号抽出回路
45 エネルギ算出回路
46 基準値設定回路
47 比較回路
48 積算回路
49 基準値設定回路
50 比較回路
51 表示回路
a AE信号の特性曲線
b 基準値
c AEエネルギ
d 積算曲線
e 基準値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦圧接部品から生じるアコースティックエミッションを検出し、AE信号を出力するAEセンサと、
前記AEセンサのAE信号に基づいてAEエネルギを算出するAEエネルギ算出部と、
前記AEエネルギ算出部で算出されたAEエネルギの経時的な積算量に基づいて、摩擦圧接部品の摩耗状態を判定する摩耗状態判定部とを備えた摩耗検出装置。
【請求項2】
前記AEエネルギ算出部は、AE信号のうち摩擦圧接部品の摩耗に起因する周波数成分を持つAE信号を抽出する信号抽出部を備えており、信号抽出部で抽出したAE信号に基づいてAEエネルギを算出することを特徴とする請求項1に記載の摩耗検出装置。
【請求項3】
前記摩耗状態判定部は、AEエネルギ算出部で算出したAEエネルギを経時的に積算し、積算したAEエネルギの積算量に基づいて摩耗状態を判定することを特徴とする請求項1に記載の摩耗検出装置。
【請求項4】
前記摩耗状態判定部は、AEエネルギ算出部で算出したAEエネルギを経時的に積算し、AEエネルギの積算量の変化に基づいて摩耗状態を判定することを特徴とする請求項1に記載の摩耗検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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