説明

摩耗量測定装置

【課題】簡単な構造で水に浸された摩耗する部材の摩耗量を容易に測定できる摩耗量測定装置を提供する。
【解決手段】メカニカルシール8の回転環13または静止環14の摺動部13a,14aに、周方向または軸方向に間隔を置いてRFIDタグが取り付けられ、静止環14の摺動部14aに取り付けられたRFIDタグの近傍にRFIDタグリーダ22A,22Bを配置する。摩耗量測定装置の表示装置25は、RFIDタグリーダ22A,22Bが、静止環14の摺動部14aに取り付けられたRFIDタグとの水中での通信が不能になったときに、静止環14の摺動部14aにおけるそのRFIDタグが取り付けられた部位まで摩耗したと判定する。また、摺動部13a,14aから離脱したRFIDタグは、パージ水排出配管35またはリーク水配管36の経路の途中に設けられたRFIDタグリーダで検出して、その取り付けられた位置まで摩耗が進んだことを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗する部材の摩耗量を判定して表示する摩耗量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、タイヤにRFIDタグを埋め込み、RFIDタグリーダからタイヤに埋め込まれたRFIDタグに問い合わせ通信を行い、RFIDタグから応答が無かった場合、タイヤの摩耗によりそのRFIDタグが破損または落下したとして、RFIDタグリーダに接続したコントローラがタイヤの摩耗の有無や摩耗量を判定し、表示器に表示する技術が開示されている。
【0003】
また、ポンプのメカニカルシールにおいては、メカニカルシールの静止環(固定環とも称する)および回転環の摺動部の摩耗状態を測定するために分解点検する必要があった。
これに対し、特許文献3では、メカニカルシールの静止環に変位計センサを設けて回転環と静止環との間のギャップを計測して、ケーブルにてメカニカルシールの外部に設置してある変位量表示器に表示させる技術が開示されている。
さらに、特許文献4では、ポンプケーシングのメカニカルシール部分に計測孔を設け、回転環の表面に設置した検知マークを外部の計測器で計測孔を通して検知することで、回転環の摺動部(本発明の摩耗する部材に対応)の摩耗状態を測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−151269号公報(図1〜図5参照)
【特許文献2】特開2006−160029号公報(図14参照)
【特許文献3】特開平5−164251号公報(図1、図2参照)
【特許文献4】特開2000−186774号公報(図1、図2参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載の技術は、RFIDタグリーダを気中に配置して、基本的にRFIDタグと気中で通信することを前提としており、ポンプのメカニカルシールのようなRFIDタグもRFIDタグリーダのアンテナも水中に配置し、水という媒質を介して通信するというような適用は考えられていなかった。
また、特許文献3,4に記載の技術では、メカニカルシールの静止環および回転環それぞれの摺動部の軸方向のみならず周方向の偏摩耗を測定しようとすると、変位計センサでは計測が不十分であり、ポンプ軸が回転中に検知マークにより周方向の偏摩耗まで検知することは難しい。
【0006】
本発明は、前記した従来の課題を解決するものであり、簡単な構造で水に浸された摩耗する部材の摩耗量を容易に測定できる摩耗量測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、第1の発明は、タグIDを記憶したRFIDタグと通信して、RFIDタグからタグIDを読み出す第1のRFIDタグリーダと、タグIDと、当該RFIDタグが取り付けられている取付位置との対応関係の情報を記憶した記憶部と、記憶部を参照して第1のRFIDタグリーダが読み出したタグIDに対応する取付位置を取得する位置取得処理部と、取得された取付位置を表示部に表示させる表示処理部と、を備え、第1のRFIDタグリーダは、RFIDタグが取付位置から離脱した後、離脱したそのRFIDタグが移動する経路に配置され、そこにおいて前記離脱したRFIDタグと通信して、タグIDを読み出し、位置取得処理部に出力し、表示処理部は、位置取得処理部において取得された取付位置を表示部に表示させることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、例えば、摩耗する部材にRFIDタグが取り付けられていて、離脱した後にその離脱したRFIDタグと第1のRFIDタグリーダとが通信することによって、摩耗する部材の摩耗量が測定できる。
【0009】
第2の発明は、メカニカルシールの静止環または回転環の前記摩耗する部材に、周方向または軸方向に間隔を置いて前記RFIDタグを取り付け、静止環の摩耗する部材に取り付けられたRFIDタグの近傍に第2のRFIDタグリーダを配置し、位置取得処理部は、該第2のRFIDタグリーダが、静止環の摩耗する部材に取り付けられたRFIDタグとの水中での通信が不能になったときに、静止環の摩耗する部材におけるそのRFIDタグが取り付けられた部位まで摩耗したと判定して表示することを特徴とする。
【0010】
第2の発明によれば、少なくとも静止環の摩耗する部材(摺動部)の摩耗量を水中で、ポンプの運転状態のまま測定することができる。
さらに、静止環の摺動部の周方向に沿っても複数個所に、摩耗の方向に沿ってRFIDタグを複数配置固定し、その上で、静止環の摺動部の周方向の前記複数個所に対応させてRFFIDタグリーダを複数配置固定することにより、静止環の摺動部の偏摩耗を測定することもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡単な構造で水に浸された摩耗する部材の摩耗量を容易に測定できる摩耗量測定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】沸騰水型原子炉の原子炉格納容器内の主要機器配置図である。
【図2】原子炉冷却材再循環ポンプの概略図である。
【図3】原子炉冷却材再循環ポンプのメカニカルシールの模式縦断面図である。
【図4】(a)は、メカニカルシールの摺動部の拡大縦断面図、(b)は、メカニカルシールの摺動部の横平面図である。
【図5】RFIDタグデータベースに含まれるRFIDタグ情報の説明図である。
【図6】パージ水排出配管、またはリーク水配管の途中に設けた捕集装置の模式説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《適用例の原子炉冷却材再循環ポンプの説明》
以下では、本発明の摩耗する部材の例としてポンプのメカニカルシールの回転環と静止環との摺動部を例に説明する。そして、メカニカルシールを使用するポンプの例として、沸騰水型原子炉における炉水を再循環させる原子炉冷却材再循環ポンプを例に説明する。
図1から図5を参照しながら本発明の実施形態に係る摩耗量測定装置を適用した原子炉冷却材再循環ポンプについて詳細に説明する。
【0014】
(原子炉格納容器内の主要機器配置)
まず、沸騰水型原子炉の原子炉格納容器内の主要機器配置について説明する。
図1は沸騰水型原子炉の原子炉格納容器内の主要機器配置図であり、図2は、原子炉冷却材再循環ポンプの概略図である。
【0015】
沸騰水型原子炉では、図1に示すように原子炉圧力容器1、原子炉冷却材再循環ポンプ2、そのモータ3などは、安全のため原子炉格納容器24の中に格納され、図示しない主蒸気管、給水管などが原子炉格納容器24の壁を貫通して原子炉圧力容器1に接続されている。そして、主蒸気管、給水管など原子炉格納容器24の壁を貫通する配管は、基本的に壁の内外に遮断弁を備えており、事故時にその遮断弁を閉じて放射能を原子炉格納容器24内に閉じ込める設計とされている。
【0016】
なお、図示省略してあるが原子炉圧力容器1内部には、燃料集合体が多数林立させて構成された炉心と、炉心上方に設置された気水分離器および蒸気乾燥器が配置されている。そして、炉心で沸騰した蒸気が気水分離器および蒸気乾燥器で分離されて蒸気だけを主蒸気管に流し、分離された飽和水が、原子炉圧力容器1の壁と炉心を囲むシュラウド壁の間の環状空間に落ち、その環状空間に給水が注入されて混合される。前記した原子炉冷却材再循環ポンプ2は、前記環状空間で混合された原子炉水の一部を吸込み、加圧して原子炉圧力容器1の前記環状空間に多数は位置されたジェットポンプの駆動水として戻す。ジェットポンプは、駆動水により周囲の環状空間の原子炉水を吸込んで、炉心下部の下部プレナムに吐出し、原子炉水を強制循環させる。
【0017】
炉心内の燃料集合体間には断面が十字形の制御棒が制御棒駆動機構31により水圧により挿入、引き抜き可能となっており、個々の制御棒駆動機構31には冷却水と制御棒駆動水の供給を行う制御棒駆動水系の主要部分が原子炉格納容器24外部に配置され、そこから個々の制御棒駆動機構31への配管33と、原子炉冷却材再循環ポンプ2へパージ水を供給するパージ水供給配管34が配設されている。また、パージ水排出配管35も配設されている。
【0018】
なお、後記する二段目メカニカルシール12(図3参照)からのリーク水がリーク水配管36を経て、原子炉格納容器24内のサンプ38に集められ、図示しないがサンプ38には水位計と排出系統が設けられ、二段目メカニカルシール12からのリーク水量(リットル/分)の計測結果や、サンプ38の水位の異常警報が原子炉の中央操作室に出力されるようになっている。
【0019】
(原子炉冷却材再循環ポンプ)
図2に示すように原子炉冷却材再循環ポンプ2は、渦巻き型の縦型ポンプであり、主に、インペラ4、それに接続されているポンプ軸5、それらを内包するケーシング6、およびケーシングカバー7で構成されている。
ケーシング6の下側には、原子炉圧力容器1から原子炉水を吸込む吸込み配管23が接続し、ケーシング6の側面には、前記したジェットポンプに駆動水を供給する吐出配管26が接続している。吸込み配管23および吐出配管26には、それぞれ隔離弁9,10が設置されている。
【0020】
ケーシングカバー7には、ポンプ軸5とケーシングカバー7との間の軸封部から原子炉水をポンプ外部に漏らさないためのメカニカルシール8が設けられている。
そして、ケーシングカバー7の外部からは、メカニカルシール8を冷却する目的およびメカニカルシール8から原子炉水が漏れ出すのを阻止するために、パージ水がパージ水供給配管34を介して通常の原子炉圧よりも高い圧力で圧入される。
【0021】
(メカニカルシール)
次に、図3から図4を参照しながら原子炉冷却材再循環ポンプのメカニカルシールの詳細構造について説明する。
図3は、原子炉冷却材再循環ポンプのメカニカルシールの模式縦断面図であり、図4の(a)は、メカニカルシールの摺動部の拡大縦断面図、(b)は、メカニカルシールの摺動部の横平面図である。
図4の(a),(b)において後記する一段目メカニカルシール11と二段目メカニカルシール12を同一図で示すため、( )内に符号が表示されているものは、二段目メカニカルシール12において一段目メカニカルシール11から代わる構成の符号を表示してある。
【0022】
原子炉冷却材再循環ポンプ2のメカニカルシール8は、一般的に実公平7−54697や特開平7−19348に記載されているような形状のものが用いられている。
メカニカルシール8は、原子炉水と同じ使用条件となることから、確実に軸封を行うために、下側から、一段目メカニカルシール11と二段目メカニカルシール12の2段で軸封を行っている。
【0023】
一段目メカニカルシール11および二段目メカニカルシール12は、それぞれポンプ軸5に固定されて回転する回転環13とケーシングカバー7側に固定されて静止している静止環14とから構成されている。
そして、一段目メカニカルシール11の静止環14は、シールフランジ20から下方に延びる管状のシールケース19、シールケース19の下端部に、径方向内方側に取り付けられた静止環リテーナ15Aに保持されるとともに、回転環13側に付勢される。それにより一段目メカニカルシール11の回転環13の摺動部(摩耗する部材)13a(図4参照)と静止環14の摺動部(摩耗する部材)14a(図4参照)とが、シール面11aで押圧し合い、軸封を行っている。
静止環リテーナ15Aとシールケース19の下端部との間には減圧機構17が形成されており、一段目メカニカルシール11、静止環リテーナ15A、減圧機構17、シールケース19とで、圧力境界を形成している。
この圧力境界によりシールケース19の径方向外側の一段目シール室S1と、シールケース19の径方向内側の二段目シール室S2とに区画されている。
【0024】
ケーシングカバー7に設けられたパージ水供給配管34から一段目シール室S1に流入したパージ水は、シール面11aと、減圧機構17を経て、減圧されて二段目シール室S2に流入する。
【0025】
シールフランジ20は、下面側に後記する静止環リテーナ15Bや減圧機構18を格納する凹部20aを有している。二段目メカニカルシール12の静止環14は、シールフランジ20の凹部20aの上面から下方に延びる静止環リテーナ15Bに保持されるとともに、回転環13側に付勢される。それにより二段目メカニカルシール12の回転環13の摺動部13a(図4参照)と静止環14の摺動部14a(図4参照)とが、シール面12aで押圧し合い、軸封を行っている。
静止環リテーナ15Bとシールフランジ20の凹部20aの側壁との間には減圧機構18が形成されており、減圧されたパージ水がパージ水排出管35から外部に排出される。
【0026】
二段目シール室S2から二段目メカニカルシール12のシール面12aを経て、ポンプ軸5の外周面側へリークしたパージ水は、リーク水配管36を経て、サンプ38に排出される。
ちなみに、一段目シール室S1に流入したパージ水の大半は、ケーシングカバー7の軸孔7aからケーシング6内へ圧入される。これにより、ケーシング6内の原子炉水が原子炉冷却材再循環ポンプ2の外へ漏出することが防止されている。
【0027】
《摩耗量測定装置》
次に、図3から図6を参照しながら本発明の摩耗量測定装置の全体構成を説明する。
本実施形態の摩耗量測定装置は、一段目メカニカルシール11および二段目メカニカルシール12を構成している回転環13の摺動部13a並びに静止環14の摺動部14aに取り付け固定されたRFIDタグ21(図4参照)と、摺動部14aの外周側近傍に配置されたRFIDタグリーダ(第2のRFIDタグリーダ)22A,22B(図3、図4参照)と、パージ水排出配管35およびリーク水配管36の途中に配置されたRFIDタグリーダ(第1のRFIDタグリーダ)22Cと、例えば、原子炉中央操作室に配置された表示装置25(図3、図4、図6参照)と、を含んでいる。
【0028】
(表示装置)
表示装置25は、例えば、パーソナルコンピュータで構成されており、CPU(位置取得処理部、表示処理部)25a、記憶装置(記憶部)25b、キーボードなどの入力装置25c、液晶表示装置などの表示部25d、メモリ、入出力インタフェース、DVD駆動装置などのデータ入出力装置などを含んでいる。記憶装置25bには、後記するRFIDタグ情報(取付位置との対応関係の情報)50(図5参照)、および、前記した複数のRFIDタグリーダ22A,22B,22Cと通信してRFIDチップ識別情報50a(図5参照)を受信し、記憶装置25bに予め格納された個々のRFIDタグ21のRFIDタグ情報50と照らし合わせて、回転環13の摺動部13aおよび静止環14の摺動部14aの摩耗量を判定するプログラムを格納している。そして、摩耗量を判定するプログラムを実行して、摩耗量を判定した結果を表示部25dに表示する。
【0029】
(RFIDタグ情報)
図5は、RFIDタグデータベースに含まれるRFIDタグ情報の説明図である。各RFIDタグ21のICチップは、図5に示すRFIDチップ識別情報50aを予め記録されており、それをキーとして表示装置25の記憶装置25bに格納されたRFIDタグ情報50を検索できるようになっている。
【0030】
図5に従って記憶装置25bにRFIDタグデータベースとして格納されている中の1つのRFIDタグ情報50の内容を説明する。RFIDタグ情報50は、少なくともRFIDチップ識別情報(タグID)50a、環識別情報50b、取付位置情報50c、取付年月日情報50dを含んでいる。
【0031】
RFIDチップ識別情報50aとは、RFIDタグ21に含まれるICチップが製造された段階で、それぞれのICチップを識別するための識別情報(タグID)であり、ICチップメーカにおける製造段階で書き込まれる消去不能のデータである。そして、残りの情報のうちの環識別情報50b、取付位置情報50cは、RFIDタグ21を回転環13または静止環14に取り付け作業段階において、その作業現場に設置されているRFIDタグリーダと接続されたパーソナルコンピュータを用いて、RFIDタグ21のRFIDチップ識別情報50aを前記作業現場のRFIDタグリーダを用いて読み取り、RFIDチップ識別情報50aに関係つけて所定の書式に従い、図5に示したRFIDタグ情報50の内、RFIDチップ識別情報50a、環識別情報50b、取付位置情報50cが入力される。その後、取付年月日情報50dが見記録のRFIDタグ情報50は、例えば、DVDなどの記憶媒体に記録収容され、回転環13および静止環14とともにそのDVDを添付して、交換部品として納品される。
そして、そのDVD内の取付年月日情報50dを含まないRFIDタグ情報50は、表示装置25の記憶装置25bに取り込ませて記録される。
【0032】
最後の取付年月日情報50dは、回転環13または静止環14を原子炉冷却材再循環ポンプ2に取り付けられるときに、現場作業用のRFIDタグリーダを用いて読み取られたRFIDチップ識別情報50aに関係つけて、表示装置25とネットワークでつながっている現場のパーソナルコンピュータなどを用いて、表示装置25の記憶装置25bに格納されているRFIDタグデータベース中の該当するRFIDタグ情報50に記録される。
【0033】
環識別情報50bは、そのRFIDタグ21が取り付けられる対象の消耗品である回転環13および静止環14を識別する情報であり、これにより後記するように、回転環13の摺動部13aや静止環14の摺動部14aから摩耗の進展によりRFIDタグ21が離脱し、摺動部13a,14aの間で壊れなかったものは、パージ水排出配管35またはリーク水配管36に流れ込んで、後記する捕集装置(捕集部)37(図6参照)の捕集網37aで捕捉され、捕集装置37の内壁に設けられたRFIDタグリーダ22Cとの気中での通信により、そのRFIDチップ識別情報50aを表示装置25に通信することができる。
【0034】
そして、表示装置25がこの捕集段階でRFIDチップ識別情報50aを取得すると、RFIDタグ識別情報50を検索し、このRFIDチップ識別情報50aに対応する環識別情報50bと取付年月日情報50dとにより、現在の時点で、原子炉冷却材再循環ポンプ2のメカニカルシールとして用いられている回転環13または静止環14のものなのか、既に摩耗して交換済みの回転環13または静止環14のものなのか判別できる。つまり、この環識別情報50bと取付年月日情報50dとによりパージ水排出配管35またはリーク水配管36内壁などに長く付着していて、たまたま今捕集された場合の、誤判定を防止できる。
【0035】
取付位置情報50cは、RFIDタグ21が回転環13の摺動部13aや静止環14の摺動部14aのどの位置に取り付けられたものかを示す位置情報であり、周方向識別位置50cと軸方向識別位置50cとから構成されている。RFIDタグ21取り付け位置の詳細な説明は後記する。
回転環13および静止環14の周方向には基準点が設定され、それが内周面および外周面に表示されており、その基準点を基準に所定の周方向、例えば、取付状態において上面からみて基準点から時計回りの角度と、それが内周面側か外周面側を示す符号とを組み合わせて周方向識別位置50cとしている。
また、軸方向識別位置50cは、回転環13および静止環14が新品の状態時の摩耗量ゼロのときのシール面11aまたは12aに対応する面から軸方向の取付位置を、例えば、mm単位で入力したものである。
【0036】
なお、RFIDタグデータベースとして格納された個々のRFIDタグ情報50に対して、現在原子炉冷却材再循環ポンプ2のメカニカルシール8として取り付けられている回転環13および静止環14に係るRFIDタグ21のRFIDタグ情報50については、現在使用中を示すフラグを付加し、消耗して廃棄されたものについては、使用済を示すフラグを付加するか、RFIDタグデータベースから削除してデータ管理される。
【0037】
(RFIDタグおよびその固定位置)
次に、図4を参照しながらRFIDタグの固定位置について説明する。
ここで用いられるRFIDタグ21は、アンテナ部分も含めて0.2〜0.5mm四方の大きさで、厚さも0.1mm程度の超小型のものであり、通信周波数はGHzオーダ、例えば、2.45GHzのものである。
【0038】
そして、図4の(a)に示すように一段目メカニカルシール11および二段目メカニカルシール12とも、その回転環13の摺動部13aおよび静止環14の摺動部14aの内周面および外周面の両方に、RFIDタグ21を水平状態にして軸方向に多段に所定の間隔を取って配置固定する。このとき、まったく同じ周方向位置において軸方向に多段に所定の間隔で配置するよりも、周方向にずらして配置する方が、通信がしやすくなる。
さらに、図4の(b)に示すように、例えば、周方向に90°の間隔で回転環13の摺動部13aおよび静止環14の摺動部14aの内周面および外周面の両方に、前記したように軸方向に多段にRFIDタグ21を配置固定する。
【0039】
(RFIDタグリーダの設置位置)
次に、図3、図4、図6を参照しながらRFIDタグリーダの設置位置や設置方法について説明する。
図3、図4に示すようにRFIDタグリーダ22A(が、一段目メカニカルシール11のシール面11aの近傍にケーシングカバー7の内壁から延出させて設置される。水中での電波の伝播距離は短いので、RFIDタグリーダ22Aのアンテナと摺動部14aの外周側に取り付けられたRFIDタグ21との距離は、図4の(a)に示すように摺動部14aの径方向外側1〜2mm程度の位置に設定することが望ましい。
同様に、図3、図4に示すようにRFIDタグリーダ22Bが、二段目メカニカルシール12のシール面12aの近傍にシールケース19の内壁から延出させて設置される。水中での電波の伝播距離は短いので、RFIDタグリーダ22Bのアンテナと摺動部14aの外周側に取り付けられたRFIDタグ21との距離は、図4の(a)に示すように摺動部14aの径方向外側1〜2mm程度の位置に設定することが望ましい。
なお、RFIDタグリーダ22A,22Bの本体はケーシングカバー7の外部に配置され、それらのアンテナ部だけが図3に示したRFIDタグリーダ22A,22Bの位置に配置し、その間を水密、絶縁されたアンテナ線で接続する構成でも良い。
【0040】
そして、図4の(b)に示すように、例えば、周方向に90°の間隔で静止環14の摺動部14aに固定されたRFIDタグ21に対応させて、ケーシングカバー7の内壁およびシールケース19の内壁にRFIDタグリーダ22A、22Bを複数配置する。
このように、静止環14の摺動部14aの外周側の近傍にRFIDタグリーダ22A,22Bのアンテナを配置することにより、水中でも静止環14の摺動部14aの外周側に配置固定されたRFIDタグ21と通信することが可能である。
したがって、RFIDタグリーダ22A,22Bと静止環14の摺動部14aの外周に固定されているRFIDタグ21とは、常時、周期的に通信してRFIDタグ21上のICチップに書き込まれたRFIDチップ識別情報50aを読み出して、表示装置25に出力する。表示装置25のCPU25aは、どのRFIDタグ21と通信が可能かを表示装置25の表示部25dに表示させて、静止環14の摺動部14aの外周側の軸方向の摩耗量を運転員に監視させることができる。
【0041】
CPU25aは、表示部25dに、例えば、静止環14の摺動部14aの3次元のスケルトン表示をさせ、摺動部14aの外周に固定されたRFIDタグ21の内、通信可能なRFIDタグ21の位置を、読み出されたRFIDチップ識別情報50aにもとづいてそのRFIDタグ21のRFIDタグ情報50を記憶装置25b内で検索し、取付位置情報50cにもとづいて、例えば、緑色のポイントで表示し、摺動部14aの外周に固定されたRFIDタグ21の内、通信不能なRFIDタグ21の位置を、取付位置情報50cにもとづいて、例えば、赤色のポイントで表示させる。これにより、静止環14の摺動部14aの外周側については、どの位置まで摩耗が進んでいるか、偏磨耗があるか、などを容易に判定したり測定したりすることができる。
なお、静止環14の摺動部14aの外周に固定されたRFIDタグ21の内の通信不能なもののRFIDタグ情報50は、通信可能なRFIDタグ21から得られる環識別情報50bを用いて容易に検索できる。
【0042】
静止環14の摺動部14aの内周側のRFIDタグ21については、電波通信ができないので後記する方法で摩耗量を測定する。
また、回転環13の摺動部13aの内外周に固定されたRFIDタグ21については、ポンプ軸5と一緒に回転しているため、通信時間内にRFIDタグ21タグが移動してしまうので、これもRFIDタグリーダ22A,22Bとは、通信不可能である。
【0043】
(捕集部におけるRFIDタグとの通信)
したがって、静止環14の摺動部14aの内周に固定されたRFIDタグ21や、回転環13の摺動部13aの内外周に固定されたRFIDタグ21については、それが前記したように極めて小型のものであるので、摺動部13a、14aの摩耗が進展して、摺動部13a,14aから離脱したRFIDタグ21が、前記した減圧機構17,18の隘路を経由してパージ水排出配管35やリーク水配管36を経由してパージ水とともに流出することが可能である。
【0044】
(捕集装置による離脱したRFIDの捕集)
図6は、パージ水排出配管、またはリーク水配管の途中に設けた捕集装置の模式説明図である。図6では( )内に表示した符号および仮想線で示したサンプ38などにより、リーク水配管36の途中に設けた捕集装置37を示している。
メカニカルシール8(図4参照)から排出されたパージ水は図6に示すようにパージ水排出配管35の経路の途中に設けられ、大きな流路断面積を有し、そこにおいて自由液面を形成するような捕集装置37を経由するようになっている。
また、メカニカルシール8(図4参照)から漏洩したパージ水は図6に示すようにリーク水配管36の経路の途中に設けられ、大きな流路断面積を有し、そこにおいて自由液面を形成するような捕集装置37を経由した後、サンプ38に排出されるようになっている。
【0045】
前記したように回転環13の摺動部13aおよび静止環14の摺動部14aから摩耗の進展により離脱したRFIDタグ21は、最終的にパージ水排出配管35またはリーク水配管36を流れて、捕集装置37の目の細かいフィルタである捕集網37a上に捕集される。図6に示すように捕集網37aは、捕集装置37の容器内において気中で上から流れてくるパージ水またはリーク水を受けるように設置されている。捕集装置37の容器の捕集網37aより上側の内壁に、RFIDタグリーダ22Cが設置され、捕集網37a上に漉し取られたRFIDタグ21と気中で通信可能になっている。
RFIDタグリーダ22Cは、図6に示すように表示装置25と通信可能に接続されており、捕集されたRFIDタグ21のRFIDチップ識別情報50a(図5参照)が表示装置25に送信される。
【0046】
表示装置25のCPU25aは、(1)まず、受信したRFIDチップ識別情報50aをRFIDタグデータベース内のRFIDタグ情報50から検索し、現在、原子炉冷却材再循環ポンプ2のメカニカルシール8の回転環13、静止環14として用いられているものか否かを、RFIDタグ情報50の中の環識別情報50bと取付年月日情報50dで確認する。CPU25aは、(2)次いで、現在用いられている回転環13、静止環14と確認された場合は、取付位置情報50cにより、どの位置に取り付けらていたものかを判定し、その取付位置を表示部25dに表示させる。
取付位置の表示部25dへの表示のさせ方は、CPU25aが、取付位置情報50cから摺動部14aの内周に固定されていたRFIDタグ21、摺動部13aの内外周に固定されていたRFIDタグ21のいずれかであるかを判定する。そのように判定された場合は、CPU25aは、例えば、3次元のスケルトン表示の摺動部13a,14aの図形の該当する位置に、黄色でポイント表示して、その位置まで摩耗が進んでいることを表示させる。
これにより、回転環13の摺動部13aの内外周側および静止環14の摺動部14aの内周側については、どの位置まで摩耗が進んでいるか、偏磨耗があるか、などを容易に判定したり測定したりすることができる。
【0047】
本実施形態によれば、摩耗する部材、つまり、摺動部13a,14aが水中にあっても、摩耗する部材の摩耗量が測定できる。
そして、本実施形態では、摩耗量測定装置を原子炉冷却材再循環ポンプ2のメカニカルシール8に適用した場合で説明したが、それに限定されるものではなく、他のポンプのメカニカルシールにも適用できる。
また、縦型のキャンドモータのラジアル水中軸受けや、スラスト軸受けなどの水中で静止している軸受けの摩耗量測定などにも適用可能である。
【0048】
なお、本実施形態では、RFIDタグ21は、RFIDチップ識別情報50aのみを記憶格納しているタイプのものとして説明したが、それに限定されるものではない、環識別情報50b、取付位置情報50c、取付年月日情報50dもRFIDタグ21のICチップに記録格納できるタイプのものでもよい。
【0049】
その場合、RFIDタグリーダ22A,22Bから取得したRFIDタグ情報50により、例えば、静止環14の摺動部14aの3次元のスケルトン表示をさせ、摺動部14aの外周に固定されたRFIDタグ21の内、通信可能なRFIDタグ21の位置を、取付位置情報50cにもとづいて、例えば、緑色のポイントで表示し、摺動部14aの外周に固定されたRFIDタグ21の内、通信不能なRFIDタグ21の位置を、記憶装置25bのRFIDタグデータベースのRFIDタグ情報50の取付位置情報50cにもとづいて、例えば、赤色のポイントで表示させる。これにより、静止環14の摺動部14aの外周側については、どの位置まで摩耗が進んでいるか、偏磨耗があるか、などを容易に判定したり測定したりすることができる。
なお、静止環14の摺動部14aの外周に固定されたRFIDタグ21の内の通信不能なもののRFIDタグ情報50は、通信可能なRFIDタグ21から得られる環識別情報50bを用いて容易に検索できる。
【0050】
また、捕集装置37において、RFIDタグリーダ22Cにより、RFIDタグ21から読み出した取付位置情報50cにもとづいて、CPU25aにおいて、摺動部14aの内周に固定されていたRFIDタグ21、摺動部13aの内外周に固定されていたRFIDタグ21のいずれかと判定された場合は、表示部25dに、例えば、前記したように3次元のスケルトン表示の摺動部13a,14aの図形の該当する位置に、黄色でポイント表示させて、その位置まで摩耗が進んでいることを表示する。
【符号の説明】
【0051】
1 原子炉圧力容器
2 原子炉冷却材再循環ポンプ
3 モータ
4 インペラ
5 ポンプ軸
6 ケーシング
7 ケーシングカバー
7a 軸孔
8 メカニカルシール
9、10 隔離弁
11 一段目メカニカルシール
11a,12a シール面
12 二段目メカニカルシール
13 回転環
13a,14a 摺動部(摩耗する部材)
14 静止環
15A,15B 静止環リテーナ
17,18 減圧機構
19 シールケース
20 シールフランジ
20a 凹部
21 RFIDタグ
22A RFIDタグリーダ(第2のRFIDタグリーダ)
22B RFIDタグリーダ(第2のRFIDタグリーダ)
22C RFIDタグリーダ(第1のRFIDタグリーダ)
23 吸込み配管
24 原子炉格納容器
25 表示装置
25a CPU(位置取得処理部、表示処理部)
25b 記憶装置(記憶部)
25c 入力装置
25d 表示部
26 吐出配管
31 制御棒駆動機構
34 パージ水供給配管
35 パージ水排出配管
36 リーク水配管
37 捕集装置(捕集部)
37a 捕集網
38 サンプ
50 RFIDタグ情報
50a RFIDチップ識別情報(タグID)
50b 環識別情報
50c 取付位置情報
50c 周方向識別位置
50c 軸方向識別位置
50d 取付年月日情報
S1 一段目シール室
S2 二段目シール室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タグIDを記憶したRFIDタグと通信して、前記RFIDタグから前記タグIDを読み出す第1のRFIDタグリーダと、
前記タグIDと、当該RFIDタグが取り付けられている取付位置との対応関係の情報を記憶した記憶部と、
前記記憶部を参照して前記第1のRFIDタグリーダが読み出したタグIDに対応する取付位置を取得する位置取得処理部と、
前記取得された取付位置を表示部に表示させる表示処理部と、を備え、
前記第1のRFIDタグリーダは、前記RFIDタグが前記取付位置から離脱した後、離脱したそのRFIDタグが移動する経路に配置され、そこにおいて前記離脱したRFIDタグと通信して、前記タグIDを読み出し、前記位置取得処理部に出力し、
前記表示処理部は、前記位置取得処理部において取得された前記取付位置を前記表示部に表示させることを特徴とする摩耗量測定装置。
【請求項2】
タグIDおよび取付位置を記憶したRFIDタグと通信して、前記RFIDタグから前記タグIDを読み出す第1のRFIDタグリーダと、
前記第1のRFIDタグリーダが読み出した前記取付位置を取得して表示部に表示させる表示処理部と、を備え、
前記第1のRFIDタグリーダは、前記RFIDタグが前記取付位置から離脱した後、離脱したそのRFIDタグが移動する経路に配置され、そこにおいて前記離脱したRFIDタグと通信して、前記取付位置を読み出し、取得された取付位置が前記表示部に表示されることを特徴とする摩耗量測定装置。
【請求項3】
メカニカルシールの静止環または回転環の前記摩耗する部材に、周方向または軸方向に間隔を置いて前記RFIDタグを取り付け、
前記静止環の摩耗する部材に取り付けられた前記RFIDタグの近傍に第2のRFIDタグリーダを配置し、
前記位置取得処理部は、該第2のRFIDタグリーダが、前記静止環の摩耗する部材に取り付けられたRFIDタグとの水中での通信が不能になったときに、前記静止環の摩耗する部材におけるそのRFIDタグが取り付けられた部位まで摩耗したと判定して表示することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の摩耗量測定装置。
【請求項4】
前記メカニカルシールに注入されるパージ水が排水される配管の経路に配置され、前記摩耗する部材から離脱したRFIDタグを漉し取る捕集部を設け、
請求項1または請求項2に記載の前記第1のRFIDタグリーダは、前記摩耗する部材から離脱し前記捕集部に漉し取られたRFIDタグと、気中で通信することを特徴とする請求項3に記載の摩耗量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−190651(P2010−190651A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33982(P2009−33982)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】