説明

摺動用シール材

【課題】摺動用シール材の摺動面側当接部が摩耗損傷することがなく、低摩擦で、シール性に優れ、耐久性に優れた摺動用シール材を提供する。
【解決手段】摺動面に形成されるシール溝に装着される環状の摺動用シール材であって、摺動用シール材は、その断面形状が、シール溝の摺動面側開口部に配置され、摺動面側開口部に沿って、摺動用シール材の厚さ方向に延びる摺動面側当接部と、シール溝の底部に配置され、シール溝の底部に沿って、摺動用シール材の厚さ方向に延びる底部側当接部と、摺動面側当接部の厚さ方向一端部から、底部側当接部の厚さ方向の他端部まで斜めに延設した傾斜屈曲弾性部と有する。また、極小さい作動距離では、摺動用シール材が摺動することなく傾斜屈曲弾性部の変形で吸収できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ピストンとシリンダーの間などの摺動する部材間をシールするために使用される摺動用シール材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、ピストンとシリンダーの間など、摺動する部材間をシールする摺動用のシール材として、図19に示したような、断面形状がいわゆるS字形状の摺動用シール材100が知られている。
【0003】
この摺動用シール材100Aは、図19に示したように、ピストンシリンダー機構101のピストン102の外周面に形成した矩形状のシール溝104内に装着され、ピストン102とシリンダー106との間をシールする目的で使用される。
【0004】
そして、摺動用シール材100Aは、図19に示したように、シール溝104の底面108に当接する内周側当接部110と、シリンダー106の内壁114に当接する外周側当接部116とを備えている。また、これらの内周側当接部110と外周側当接部116との間に、屈曲弾性部118が形成されている。
【0005】
これらの内周側当接部110と、外周側当接部116と、屈曲弾性部118とによって、図19に示したように、全体的に断面形状がいわゆるS字形状の摺動用シール材100Aを構成している。
【0006】
この摺動用シール材100Aでは、この屈曲弾性部118が圧縮され、その弾性復元力によって、摺動用シール材100Aの内周側当接部110が、シール溝104の底面108に押し付けられるとともに、外周側当接部116が、シリンダー106の内壁114に押し付けられる。
【0007】
これにより、その反発力(弾性復元力)により、高いシール性を確保することができるようになっている。
【0008】
また、摺動する部材間をシールする摺動用のシール材として、図20に示したような、断面形状がいわゆるW字形状の摺動用シール材100Bが知られている。
【0009】
この摺動用シール材100Bでは、内周側当接部110と外周側当接部116との間に、厚さ方向に膨出する膨出弾性部120が形成されている。
【0010】
これらの内周側当接部110と、外周側当接部116と、膨出弾性部120とによって、図20に示したように、全体的に断面形状がいわゆるW字形状の摺動用シール材100Bを構成している。
【0011】
この摺動用シール材100Bでも、この膨出弾性部120が圧縮され、その弾性復元力によって、摺動用シール材100Aの内周側当接部110が、シール溝104の底面108に押し付けられるとともに、外周側当接部116が、シリンダー106の内壁114に押し付けられる。
【0012】
これにより、その反発力(弾性復元力)により、高いシール性を確保することができるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、このような従来の断面形状がいわゆるS字形状の摺動用シール材100Aでは、例えば、図21に示したように、高圧側からの圧力が摺動用シール材100Aにかかった場合には、図21の矢印で示したように力がかかり、摺動用シール材100Aの内周側当接部110が、シール溝104の底面108に強く押し付けられるとともに、外周側当接部116が、シリンダー106の内壁114に強く押し付けられることになる。
【0014】
その結果、摺動用シール材100Aの外周側当接部116と、シリンダー106の内壁114との間の摩擦抵抗、すなわち、摺動抵抗が大きくなる。その結果、ピストンシリンダー機構自体に影響を及ぼすおそれがあるとともに、摺動用シール材100Aの外周側当接部116が摩耗損傷して、シール性が低下するおそれがある。
【0015】
このことは、図22の矢印に示したように、断面形状がいわゆるW字形状の摺動用シール材100Bでも同様である。
【0016】
本発明は、このような現状に鑑み、高圧側からの圧力が摺動用シール材にかかった場合にも、摺動面側当接部が、摺動部分の相手部材のシール面である、例えば、シリンダーの内壁に強く押し付けられることがなく、摩擦抵抗、すなわち、摺動抵抗が小さく、その結果、各種の機構の機構自体に影響を及ぼすおそれがなく、しかも、摺動用シール材の摺動面側当接部が摩耗損傷することがなく、低摩擦で、シール性に優れ、耐久性に優れた摺動用シール材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、前述したような従来技術における課題及び目的を達成するために発明されたものであって、本発明の摺動用シール材は、
摺動面に形成されるシール溝に装着される環状の摺動用シール材であって、
前記摺動用シール材は、その断面形状が、
前記シール溝の摺動面側開口部に配置され、摺動面側開口部に沿って、摺動用シール材の厚さ方向に延びる摺動面側当接部と、
前記シール溝の底部に配置され、シール溝の底部に沿って、摺動用シール材の厚さ方向に延びる底部側当接部と、
前記摺動面側当接部の厚さ方向一端部から、底部側当接部の厚さ方向の他端部まで斜めに延設した傾斜屈曲弾性部と、
を有するように形成されていることを特徴とする。
【0018】
このように構成することによって、例えば、圧力差のある2つの空間の間をシールする際に、高圧側から高圧の流体が、摺動面側当接部の厚さ方向一端部側から、傾斜屈曲弾性部と底部側当接部によって囲まれた空間内に侵入する。
【0019】
これにより、傾斜屈曲弾性部が低圧側に押圧されて、傾斜屈曲弾性部の底部側当接部の厚さ方向の他端部側の近傍が低圧側に撓み、これにともない、摺動面側当接部側が、シール溝の底部側に僅かに引っ張られることになる。
【0020】
その結果、摺動面側当接部が、摺動部分の相手部材のシール面である、例えば、シリンダーの内壁に強く押し付けられることがなくなり、摩擦抵抗、すなわち、摺動抵抗が小さくなる。
【0021】
従って、各種の機構の機構自体に影響を及ぼすおそれがなく、しかも、摺動用シール材
の摺動面側当接部が摩耗損傷することがなく、低摩擦で、シール性に優れ、耐久性に優れた摺動用シール材を提供することができる。
【0022】
また、極小さい作動距離では、摺動用シール材が摺動することなく傾斜屈曲弾性部の変形で吸収できる。
【0023】
また、本発明の摺動用シール材は、前記摺動面側当接部の厚さ方向一端部側が、高圧側に位置するようにシール溝内に装着されることを特徴とする。
【0024】
このように摺動面側当接部の厚さ方向一端部側が、高圧側に位置することによって、高圧側から高圧の流体が、摺動面側当接部の厚さ方向一端部側から、傾斜屈曲弾性部と底部側当接部によって囲まれた空間内に侵入する。
【0025】
これにより、傾斜屈曲弾性部が低圧側に押圧されて、傾斜屈曲弾性部の底部側当接部の厚さ方向の他端部側の近傍が低圧側に撓み、これにともない、摺動面側当接部側が、シール溝の底部側に僅かに引っ張られることになる。
【0026】
その結果、摺動面側当接部が、摺動部分の相手部材のシール面である、例えば、シリンダーの内壁に強く押し付けられることがなくなり、摩擦抵抗、すなわち、摺動抵抗が小さくなる。
【0027】
従って、各種の機構の機構自体に影響を及ぼすおそれがなく、しかも、摺動用シール材の摺動面側当接部が摩耗損傷することがなく、低摩擦で、シール性に優れ、耐久性に優れた摺動用シール材を提供することができる。
【0028】
また、本発明の摺動用シール材は、前記摺動面側当接部の表面に、環状の摺動用リング部が形成されていることを特徴とする。
【0029】
このように、摺動面側当接部の表面に、環状の摺動用リング部が形成されていれば、従来の摺動用シールと比べて、摺動部分の相手部材のシール面である、例えば、シリンダーの内壁と摺動面側当接部との間の摺動抵抗を極めて低減することができる。
【0030】
また、本発明の摺動用シール材は、前記摺動用リング部が、フッ素樹脂、高機能樹脂、または、フッ素ゴムにより形成されていることを特徴とする。
【0031】
このように、摺動用リング部が、摩擦抵抗の小さい、フッ素樹脂、高機能樹脂、または、フッ素ゴムにより形成されていれば、従来の摺動用シールと比べて、摺動部分の相手部材のシール面である、例えば、シリンダーの内壁と摺動面側当接部との間の摺動抵抗を極めて低減することができる。
【0032】
また、本発明の摺動用シール材は、前記摺動面側当接部側の表面に、環状の突設押圧部が形成されていることを特徴とする。
【0033】
このように摺動面側当接部側の表面に、環状の突設押圧部が形成されていれば、前述したように、摺動面側当接部側が、シール溝の底部側に僅かに引っ張られても、この環状の突設押圧部が押圧された状態のままであり、シール性が低下するおそれがない。
【0034】
また、本発明の摺動用シール材は、前記突設押圧部が、所定間隔離間して複数条形成されていることを特徴とする。
【0035】
このように突設押圧部が、所定間隔離間して複数条形成されていれば、前述したように、摺動面側当接部側が、シール溝の底部側に僅かに引っ張られても、この環状の複数条の突設押圧部が押圧された状態のままであり、シール性が低下するおそれがない。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、例えば、圧力差のある2つの空間の間をシールする際に、高圧側から高圧の流体が、摺動面側当接部の厚さ方向一端部側から、傾斜屈曲弾性部と底部側当接部によって囲まれた空間内に侵入する。
【0037】
これにより、傾斜屈曲弾性部が低圧側に押圧されて、傾斜屈曲弾性部の底部側当接部の厚さ方向の他端部側の近傍が低圧側に撓み、これにともない、摺動面側当接部側が、シール溝の底部側に僅かに引っ張られることになる。
【0038】
その結果、摺動面側当接部が、摺動部分の相手部材のシール面である、例えば、シリンダーの内壁に強く押し付けられることがなくなり、摩擦抵抗、すなわち、摺動抵抗が小さくなる。
【0039】
従って、各種の機構の機構自体に影響を及ぼすおそれがなく、しかも、摺動用シール材の摺動面側当接部が摩耗損傷することがなく、低摩擦で、シール性に優れ、耐久性に優れた摺動用シール材を提供することができる。
【0040】
また、極小さい作動距離では、摺動用シール材が摺動することなく傾斜屈曲弾性部の変形で吸収できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、本発明の摺動用シール材の平面図である。
【図2】図2は、図1のA−A線の断面図である。
【図3】図3は、本発明の摺動用シール材をピストンシリンダー機構のピストン側のシール溝に装着した状態を示す概略断面図である。
【図4】図4は、図3の部分拡大断面図である。
【図5】図5は、本発明の摺動用シール材の使用状態を説明する部分拡大断面図である。
【図6】図6は、本発明の摺動用シール材の別の実施例の断面図である。
【図7】図7は、本発明の摺動用シール材の別の実施例の使用状態を説明する断面図である。
【図8】図8は、本発明の摺動用シール材の別の実施例の使用状態を説明する断面図である。
【図9】図9は、本発明の摺動用シール材の別の実施例の使用状態を説明する断面図である。
【図10】図10は、本発明の別の実施例の摺動用シール材の図2と同様な断面図である。
【図11】図11は、本発明の摺動用シール材の平面図である。
【図12】図12は、図11のA−A線の断面図である。
【図13】図13は、本発明の別の実施例の摺動用シール材をピストンシリンダー機構のシリンダー側のシール溝に装着した状態を示す概略断面図である。
【図14】図14は、図13の部分拡大断面図である。
【図15】図15は、本発明の摺動用シール材の使用状態を説明する部分拡大断面である。
【図16】図16は、本発明の摺動用シール材の別の実施例の使用状態を説明する断面図である。
【図17】図17は、本発明の摺動用シール材の別の実施例の使用状態を説明する断面図である。
【図18】図18は、本発明の摺動用シール材の別の実施例の使用状態を説明する断面図である。
【図19】図19は、従来の摺動用シール材を示す概略断面図である。
【図20】図20は、従来の摺動用シール材を示す概略断面図である。
【図21】図21は、図19の摺動用シール材の使用状態を説明する部分拡大断面である。
【図22】図22は、図20の摺動用シール材の使用状態を説明する部分拡大断面である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいてより詳細に説明する。
【0043】
図1は、本発明の摺動用シール材の平面図、図2は、図1のA−A線の断面図、図3は、本発明の摺動用シール材をピストンシリンダー機構のピストン側のシール溝に装着した状態を示す概略断面図、図4は、図3の部分拡大断面図、図5は、本発明の摺動用シール材の使用状態を説明する部分拡大断面図である。
【0044】
図1〜図4において、符号10は、全体で本発明の摺動用シール材を示している。
【0045】
図1に示したように、摺動用シール材10は、環状のシール材であり、その断面形状が、図2に示したように、摺動用シール材10の外周側に位置し、摺動用シール材10の厚さ方向に延びる摺動面側当接部12と、摺動用シール材10の内周側に位置し、摺動用シール材10の厚さ方向に延びる底部側当接部14と、摺動面側当接部12の厚さ方向一端部12aから、底部側当接部14の厚さ方向の他端部14aまで斜めに延設した傾斜屈曲弾性部16とを有している。
【0046】
また、図2、図4に示したように、摺動面側当接部12の表面に、環状の突設押圧部18が形成されている。なお、この実施例の場合には、所定間隔離間して複数条(3条)の突設押圧部18が形成されている。
【0047】
なお、この実施例の摺動用シール材10の場合には、図3、図4に示したように、摺動面側当接部12は、ピストンシリンダー機構11のピストン20の外周面に形成されたシール溝22の摺動面側開口部24に配置され、摺動面側開口部24に沿って、摺動用シール材10の厚さ方向に延びている。
【0048】
また、底部側当接部14は、ピストン20のシール溝22の底部26に配置され、シール溝22の底部26沿って、摺動用シール材10の厚さ方向に延びている。
【0049】
そして、図4に示したように、傾斜屈曲弾性部16は、摺動面側当接部12の厚さ方向一端部12aから、底部側当接部14の厚さ方向の他端部14aまで斜めに延設されており、これにより、摺動用シール材10全体が、略N字形状となっている。
【0050】
そして、この実施例の摺動用シール材10の場合には、図3、図4において上方側、すなわち、摺動面側当接部12の厚さ方向一端部12aの側が、高圧側に位置するようにシール溝22内に装着される。
【0051】
この場合、摺動用シール材10をピストン20のシール溝22に装着した際に、底部側当接部14が、シール溝22の底部26に押し付けられるとともに、摺動面側当接部12
が、シリンダー28の内壁30に押し付けられて、圧縮状態で介装されるように、その径方向の長さL1、すなわち、摺動面側当接部12の外面から底部側当接部14の外面(突設押圧部18)までの距離L1が、シール溝22の底部26から、摺動面側開口部24までの距離L2よりも僅かに大きく設定されている。
【0052】
このように構成される本発明の摺動用シール材10は、図5に示したように機能することになる。
【0053】
すなわち、図5において、実線の状態は、本発明の摺動用シール材10に、圧力がかかっていない状態を示している。
【0054】
この状態から、高圧側からの圧力が摺動用シール材10にかかった場合には、図5の矢印で示したように、高圧の流体が、摺動面側当接部12の厚さ方向一端部12aの側から、傾斜屈曲弾性部16と底部側当接部14によって囲まれた空間S1内に侵入する。
【0055】
これにより、図5の矢印Aで示したように、傾斜屈曲弾性部16が低圧側に押圧されて、傾斜屈曲弾性部16の底部側当接部14の厚さ方向の他端部14a側の近傍16aが、図5の点線で示したように、低圧側に撓むことになる。
【0056】
これにともない、図5の矢印Bで示したように、摺動面側当接部12の側が、シール溝22の底部26の側に僅かに引っ張られることになる。また、図5の矢印Cで示したように、底部側当接部14が、シール溝22の摺動面側開口部24側にも、僅かに引っ張られることになる。
【0057】
その結果、摺動面側当接部12が、摺動部分の相手部材のシール面である、シリンダー28の内壁30に強く押し付けられることがなくなり、摩擦抵抗、すなわち、摺動抵抗が小さくなる。
【0058】
従って、ピストンシリンダー機構自体に影響を及ぼすおそれがなく、しかも、摺動用シール材10の摺動面側当接部12が摩耗損傷することがなく、低摩擦で、シール性に優れ、耐久性に優れた摺動用シール材10を提供することができる。
【0059】
また、極小さい作動距離では、摺動用シール材10が摺動することなく傾斜屈曲弾性部16の変形で吸収できる。
【0060】
なお、この場合、摺動面側当接部12の側の表面に、環状の突設押圧部18が複数条形成されているのが望ましく、前述したように、摺動面側当接部12の側が、シール溝22の底部26の側に僅かに引っ張られても、図5に示したように、この環状の突設押圧部18が、摺動部分の相手部材のシール面である、シリンダー28の内壁30に押圧された状態のままであり、シール性が低下するおそれがないように構成されている。
【0061】
なお、図示しないが、径方向の長さL1、すなわち、摺動面側当接部12の外面から底部側当接部14の外面までの距離L1を設定することによって、突設押圧部18を設けないようにすることももちろん可能である。
【0062】
この場合、突設押圧部18の数、突設距離、離間距離などは、シールすべき機構の部分、シールすべき環境、圧力などによって適宜選択すれば良く、特に限定されるものではない。
【0063】
また、図2の実施例では、摺動面側当接部12の幅T1と、底部側当接部14の幅T2
は、略同じ幅としている。
【0064】
しかしながら、例えば、図6に示したように、摺動面側当接部12の幅T1よりも、底部側当接部14の幅T2を小さくすることによって、傾斜屈曲弾性部16の底部側当接部14の厚さ方向の他端部14a側の近傍16aが、図5の点線で示したように、低圧側により撓むようにすれば、摺動面側当接部12の側が、シール溝22の底部26の側により引っ張られ、摺動抵抗が小さくなる。
【0065】
従って、このような作用効果を考慮すれば、摺動面側当接部12の幅T1(突設押圧部18を含めた幅)と、底部側当接部14の幅T2の比T1:T2を、1:1〜1:1.5とするのが望ましい。
【0066】
また、傾斜屈曲弾性部16の幅T3は、シールすべき機構の部分、シールすべき環境、圧力、前述した低圧側への撓み効果などによって適宜選択すれば良く、特に限定されるものではないが、前述した低圧側への撓み効果を考慮すれば、傾斜屈曲弾性部16の幅T3を、摺動面側当接部12の幅T1との比T1:T3を、1:0.3〜1:1とするのが望ましい。
【0067】
また、このような摺動用シール材10の材質は、シールすべき機構の部分、シールすべき環境、圧力などにより、適宜設定すれば良く、特に限定されるものではなく、弾力性に富んだゴム材料などによって形成することができ、例えば、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、布入りゴムなどの合成ゴム材料により形成することができる。
【0068】
なお、この実施例では、説明の便宜上、図3、図4において上方側を高圧側となるように、ピストンシリンダー機構11、摺動用シール材10を配置したが、図7に示したように、下方側を高圧側となるように、ピストンシリンダー機構11、摺動用シール材10を配置することも、図8、図9に示したように、いわゆる横置き型のピストンシリンダー機構に摺動用シール材10を配置することも可能である。
【0069】
図10は、本発明の別の実施例の摺動用シール材の図2と同様な断面図である。
【0070】
この実施例の摺動用シール材10は、図1〜図5に示した実施例の摺動用シール材10と基本的には同様な構成であり、同一の構成部材には、同一の参照番号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0071】
この実施例の摺動用シール材10では、摺動面側当接部12の表面に、環状の摺動用リング部32が形成されている。
【0072】
このように、摺動面側当接部12の表面に、環状の摺動用リング部32が形成されていれば、従来の摺動用シールと比べて、摺動部分の相手部材のシール面である、シリンダー28の内壁30と摺動面側当接部12との間の摺動抵抗を極めて低減することができる。
【0073】
この場合、摺動用リング部32が、フッ素樹脂、高機能樹脂、または、フッ素ゴムにより形成されているのが望ましい。
【0074】
すなわち、摺動用リング部32は、摺動性に富んだフッ素樹脂材料や、高機能樹脂と呼ばれる樹脂材料によって形成することができ、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCT
FE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(クロロトリフルオエチレン)などの各種フッ素樹脂や、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレン、布入りフェノールなどの高機能樹脂により形成することができる。
【0075】
このように、摺動用リング部32が、摩擦抵抗の小さい、フッ素樹脂、高機能樹脂、または、フッ素ゴムにより形成されていれば、従来の摺動用シールと比べて、摺動部分の相手部材のシール面である、シリンダー28の内壁30と摺動面側当接部12との間の摺動抵抗を極めて低減することができる。
【0076】
この場合、摺動面側当接部12の表面に、環状の摺動用リング部32を形成する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、同時成型、接着剤、融着、嵌合による係合などを用いることができる。
【0077】
なお、この場合にも、摺動面側当接部12の側の表面に、すなわち、摺動用リング部32の表面に、環状の突設押圧部18’が複数条形成されているのが望ましい。
【0078】
図11は、本発明の摺動用シール材の平面図、図12は、図11のA−A線の断面図、図13は、本発明の別の実施例の摺動用シール材をピストンシリンダー機構のシリンダー側のシール溝に装着した状態を示す概略断面図、図14は、図13の部分拡大断面図、図15は、本発明の摺動用シール材の使用状態を説明する部分拡大断面図である。
【0079】
この実施例の摺動用シール材10は、図1〜図5に示した実施例の摺動用シール材10と基本的には同様な構成であり、同一の構成部材には、同一の参照番号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0080】
この実施例の摺動用シール材10では、図11に示したように、その断面形状が、図12に示したように、摺動用シール材10の内周側に位置し、摺動用シール材10の厚さ方向に延びる摺動面側当接部12と、摺動用シール材10の外周側に位置し、摺動用シール材10の厚さ方向に延びる底部側当接部14と、摺動面側当接部12の厚さ方向一端部12aから、底部側当接部14の厚さ方向の他端部14aまで斜めに延設した傾斜屈曲弾性部16とを有している。
【0081】
また、図1〜図5に示した実施例の摺動用シール材10では、図3、図4に示したように、摺動面側当接部12が、ピストンシリンダー機構11のピストン20の外周面に形成されたシール溝22の摺動面側開口部24に配置されているとともに、底部側当接部14が、ピストン20のシール溝22の底部26に配置されている。
【0082】
これに対して、この実施例の摺動用シール材10では、図13、図14に示したように、摺動面側当接部12が、ピストンシリンダー機構11のシリンダー28の内壁30に形成されたシール溝22’の摺動面側開口部24’に配置されているとともに、底部側当接部14が、シリンダー28のシール溝22’の底部26’に配置されている。
【0083】
なお、この実施例でも、図1〜図5に示した実施例の摺動用シール材10と基本的には、同じ作用効果を奏するものであるので、図13にその詳細を図示して、説明は省略する。
【0084】
なお、この実施例では、説明の便宜上、図12、図13において上方側を高圧側となるように、ピストンシリンダー機構11、摺動用シール材10を配置したが、図16に示したように、下方側を高圧側となるように、ピストンシリンダー機構11、摺動用シール材10を配置することも、図17、図18に示したように、いわゆる横置き型のピストンシ
リンダー機構に摺動用シール材10を配置することも可能である。
【0085】
また、この実施例の摺動用シール材10においても、図示しないが、図10に示した実施例の摺動用シール材10と同様に、摺動面側当接部12の表面に、環状の摺動用リング部32を形成することも可能である。
【0086】
以上、本発明の好ましい実施の態様を説明してきたが、本発明はこれに限定されることはなく、例えば、上記実施例では、本発明の摺動用シール材10を、ピストンシリンダー機構のシール部分に用いたが、例えば、回転軸シール用のパッキンやロッドシール用のパッキンにも適用可能である。
【0087】
また、上記実施例では、圧力差のある2つの空間の間をシールする際に、すなわち、摺動面側当接部12の厚さ方向一端部12aの側が、高圧側に位置するようにシール溝22内に装着して用いたが、圧力差のない二つの流体をシールする場合にも用いることも可能であるなど本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、例えば、ピストンとシリンダーの間、転軸シール用のパッキンやロッドシール用のパッキンなどの摺動する部材間をシールするために使用される摺動用シール材として用いることができる。
【符号の説明】
【0089】
10 摺動用シール材
11 ピストンシリンダー機構
12 摺動面側当接部
12a 方向一端部
14 底部側当接部
14a 他端部
16 傾斜屈曲弾性部
16a 近傍
18 突設押圧部
20 ピストン
22 シール溝
24 摺動面側開口部
26 底部
28 シリンダー
30 内壁
32 摺動用リング部
100A 摺動用シール材
100B 摺動用シール材
101 ピストンシリンダー機構
102 ピストン
104 シール溝
106 シリンダー
108 底面
110 内周側当接部
114 内壁
116 外周側当接部
118 屈曲弾性部
120 膨出弾性部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動面に形成されるシール溝に装着される環状の摺動用シール材であって、
前記摺動用シール材は、その断面形状が、
前記シール溝の摺動面側開口部に配置され、摺動面側開口部に沿って、摺動用シール材の厚さ方向に延びる摺動面側当接部と、
前記シール溝の底部に配置され、シール溝の底部に沿って、摺動用シール材の厚さ方向に延びる底部側当接部と、
前記摺動面側当接部の厚さ方向一端部から、底部側当接部の厚さ方向の他端部まで斜めに延設した傾斜屈曲弾性部と、
を有するように形成されていることを特徴とする摺動用シール材。
【請求項2】
前記摺動面側当接部の厚さ方向一端部側が、高圧側に位置するようにシール溝内に装着されることを特徴とする請求項1に記載の摺動用シール材。
【請求項3】
前記摺動面側当接部の表面に、環状の摺動用リング部が形成されていることを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載の摺動用シール材。
【請求項4】
前記摺動用リング部が、フッ素樹脂、高機能樹脂、または、フッ素ゴムにより形成されていることを特徴とする請求項3に記載の摺動用シール材。
【請求項5】
前記摺動面側当接部側の表面に、環状の突設押圧部が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の摺動用シール材。
【請求項6】
前記突設押圧部が、所定間隔離間して複数条形成されていることを特徴とする請求項5に記載の摺動用シール材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−231781(P2011−231781A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99607(P2010−99607)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】