説明

摺動試験装置および摺動試験方法

【課題】 摺動試験を効率良く行うことができる騒動試験装置および摺動試験方法を提供する。
【解決手段】 すべり軸受3の一側の両端部の温度を測定する熱電対118A,118Cを備えている。熱電対118A,118Cによって、すべり軸受3の一側の両端部の内周面における温度上昇を検出することができ、これにより片当りの発生を検出することができる。また、コンロッド17を傾動させることによりコンロッド17の傾きを調整する傾き調整ねじ141を備えている。熱電対118A,118Cで測定されたすべり軸受3の両端部の温度差が小さくなるように、傾き調整ねじ141によってコンロッド17をシャフト2の軸線方向に傾動させると、すべり軸受3を取り出すことなくすべり軸受3の片当りを解消することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線回りに回転するシャフトとそれを支持する軸受との摺動性能を試験する摺動試験装置および摺動試験方法に係り、特に摺動試験中における軸受の片当りの発生を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸線回りに回転するシャフトとそれを支持する軸受との摺動性能を調べるための摺動試験に関する提案がなされている。たとえば、特許文献1には、性能評価を正確に行うための摺動試験装置が提案され、特許文献2〜4には、試験中に発生する軸受異常の発生を検出するための軸受異常監視装置が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−283904号公報
【特許文献2】特開昭56−74682号公報
【特許文献3】特開昭58−113624号公報
【特許文献4】特開昭63−184214号公報
【特許文献5】特開平2−155893号公報
【0004】
たとえば、自動車に用いられるシャフトと、シャフトを支持するすべり軸受との摺動試験では、図6に示すように、すべり軸受3が保持されるコンロッド17に段階的に荷重が大きくなるステップ荷重を印加するようにした摺動試験装置1が使用されている。
【0005】
摺動試験装置1は、基台としての台座11を備え、台座11の上面には、台座12,13がこの順で積み上げられている。台座13は、下記シャフト固定台座ボルト31により台座12に取り付けられている。台座13には、シャフト2が水平方向に貫通して設けられる貫通孔13Aが形成され、貫通孔13Aには、シャフト2を回転自在に支持する複数の平軸受14が固定されている。符号15は、シャフト2を把持するチャックである。チャック15に、シャフト2を軸線回りに回転駆動するためのモータの減速機(それぞれ図示略)が接続されている。
【0006】
台座12,13には、垂直方向に延びるスリット16が設けられ、スリット16には、すべり軸受3を保持するためのコンロッド17が配置されている。コンロッド17の略中間部には、すべり軸受3が内周面に取り付けられる貫通孔17Aが水平方向に形成されている。コンロッド17の下端部には、下記加振機20の加振シャフト22が貫通して設けられる貫通孔17Bが水平方向に形成されている。コンロッド17には、すべり軸受3の外周面における上側中央部の温度を測定するための熱電対18が設けられている。
【0007】
台座11,12には、スリット16に連通する中空部19が形成され、中空部19には、コンロッド17を垂直方向に振動させるための加振機20が設けられている。加振機20は、本体21に設けられ垂直方向に振動する加振シャフト22を備え、加振シャフト22はコンロッド17の貫通孔17Bに貫通している。台座13の上面には、シャフト2の位置を手動で調整するためのシャフト固定台座ボルト31が設けられている。台座13の下部には、コンロッド17の位置を手動で調整するためのコンロッド位置決めボルト32が設けられている。
【0008】
上記摺動装置1を用いた摺動試験では、すべり軸受3に形成された潤滑油供給孔からすべり軸受3の摺動面に潤滑油を供給しながら、モータによってシャフト2を軸線回りに回転させる。シャフト2の回転時に、加振機20によって所定の時間間隔で段階的に振幅を大きくさせながら垂直方向にコンロッド17を振動させることにより、コンロッド17に保持されたすべり軸受3の摺動面にステップ荷重を印加する。この場合、熱電対18によって、すべり軸受3の外周面における中央部の温度を所定の時間間隔で測定すると、図8に示すような測温データが得られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、摺動試験装置1では、試験中の加振機20による振動等に起因してコンロッド17に傾きが発生することによって、図7に示すように試験中にすべり軸受3の軸線方向両端部に片当りが発生することがある。
【0010】
しかしながら、上記のような摺動試験装置1では、すべり軸受3の軸線方向に片当りが生じていたかどうかは、試験後にすべり軸受3の状態を確認したときに初めてわかる。そして、そのような状況で得られた摺動試験結果は信頼性がないから、片当りが生じない状態にして摺動試験をやり直す必要がある。上記の摺動試験装置で片当りを解消するには、シャフト固定台座ボルト31を緩め、台座12,13間に薄板を挟むなどしてコンロッド17の傾きに合わせてシャフト2の傾きを調整したり、台座13と平軸受14の間に薄板を挟むことによりシャフト2の傾きを調整したり、コンロッド位置決めボルト32を用いてコンロッド17の傾きを調整する。しかしながら、このような傾き調整を行っても、すべり軸受3に片当りが発生するか否かは、再試験後にすべり軸受3の状態を確認したときに初めてわかる。このように、上記摺動試験装置では、すべり軸受3の片当りが解消できたことを確認するまで、摺動試験とシャフトやコンロッドの傾き調整とを繰り返し行わなければならないから、摺動試験に多大な労力を必要としている。
【0011】
したがって、本発明は、摺動試験中にすべり軸受の片当りの発生を検出することができるとともに、試験を中断してすべり軸受を取り出すことなく片当りを解消することができ、これにより摺動試験を効率良く行うことができる摺動試験装置および摺動試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の摺動試験装置は、軸線回りに回転する柱状部材と、軸受保持部材により保持され柱状部材を回転自在に支持する軸受との摺動性能を試験する摺動試験装置であって、軸受の一側の両端部の温度を測定する第1温度検出手段と、軸受保持部材を前記軸線方向に傾動させることにより、軸受保持部材の軸線方向に対する傾きを調整する傾き調整手段とを備えたことを特徴としている。
【0013】
本発明の摺動試験装置では、軸受保持部材が柱状部材に対して傾斜すると、軸受の両端部の内周面のうち傾斜方向を向く面が柱状部材に対して強く押圧される。これが片当りであり、この場合、強く押圧された部分の温度が上昇する。本発明の摺動試験装置では、軸受の一側の両端部の温度を測定する第1温度検出手段を備えているから、軸受の両端部の内周面における被押圧部分の温度上昇を検出することができ、これにより片当りの発生を検出することができる。また、この場合、第1温度検出手段で測定された軸受の両端部の温度差が小さくなるように、傾き調整手段によって軸受保持部材を軸線方向に傾動させると、軸受を取り出すことなく軸受の片当りを解消することができるので、摺動試験を効率良く行うことができる。
【0014】
ここで、摺動試験装置の性能を向上させるために種々の構成を用いることができる。たとえば、軸受保持部材を軸線方向とは垂直な方向に振動させる加振手段を備えることができる。この場合、加振手段によって、柱状部材の軸線方向と垂直な方向に軸受保持部材を振動させることによって、軸受保持部材に保持された軸受の摺動面に荷重を印加する荷重印加試験を行うことができるが、その場合には上記のような軸受の片当りが発生しやすくなる。
【0015】
そこで、摺動試験装置は、軸受の片当りを自動で解消するための構成を備えるのが好適である。たとえば、摺動試験装置は、第1温度検出手段により測定された軸受の両端部の温度に基づいて、その温度差が小さくなるような軸受保持部材の傾き調整方向および傾き調整量を演算する演算手段と、演算手段により演算された軸受保持部材の傾き調整方向および傾き調整量に基づき、柱状部材に対して傾き調整手段と反対側に設けられた部材を支点として軸受保持部材を傾動させるように傾き調整手段を駆動する第1駆動手段とを備えることができる。
【0016】
上記態様では、第1温度検出手段により測定された軸受の両端部の温度差が小さくなるように演算手段により演算された軸受保持部材の傾き調整方向および傾き調整量に基いて、傾き調整手段が第1駆動手段によって駆動されるので、試験中に軸受の片当りを自動で解消することができる。したがって、荷重印加試験を行う場合でも、摺動試験を効率良く行うことができる。
【0017】
また、第1温度検出手段により検出された温度上昇が片当りではなく、たとえば軸受の両端部の内周面における傷など異常状態に起因することがあり、この場合、傾き調整によって軸受の両端部の温度差が大きくなる。そこで、摺動試験装置は、軸受の両端部の片当り以外の異常状態を検出するための構成を用いることが好適である。たとえば、摺動試験装置は、温度検出手段によって検出された傾き調整手段による軸受保持部材の傾き調整前後の温度を比較し、傾き調整によって軸受の両端部の温度差が大きくなった場合に信号を発する異常警告手段を備えることができる。
【0018】
ところで、上記のように加振手段により柱状部材の軸線方向と垂直な方向に軸受保持部材を振動させることによって、上記のような軸受保持部材の傾きだけでなく、軸受保持部材の回転ねじれが発生することがある。この場合、軸受の両端部の内周面のうち上記回転ねじれ方向を向く面が柱状部材に対して強く押圧されて片当りが発生し、強く押圧された部分の温度が上昇する。そこで、摺動試験装置は、軸受保持部材の回転ねじれによる軸受の片当りを解消するための構成を備えることが好適である。たとえば、摺動試験装置は、軸受の摺動面において第1温度検出手段と円周方向に略90度離れて位置する一側の両端部の温度を測定する第2温度検出手段と、軸受保持部材の軸受に対する位相を調整する位相調整手段とを備えることができる。
【0019】
上記態様では、軸受の摺動面において第1温度検出手段と円周方向に略90度離れて位置する一側の両端部の温度を測定する第2温度検出手段を備えているから、軸受の両端部の内周面における軸受保持部材の回転ねじれによる被押圧部分の温度上昇を検出することができ、これにより片当りの発生を検出することができる。また、この場合、第2温度検出手段で測定された軸受の両端部の温度差が小さくなるように、位相調整手段によって軸受保持部材の軸受に対する位相を調整すると、すべり軸受を取り出すことなく軸受の片当りを解消することができるので、摺動試験をより効率良く行うことができる。
【0020】
また、摺動試験装置は、軸受保持部材の回転ねじれによる軸受の片当りを自動で解消するための構成を備えることが好適である。たとえば摺動試験装置は、位相調整手段を駆動する第2駆動手段を備えることができる。この場合、演算手段は、第2温度検出手段により測定された軸受の両端部の温度に基づいて、その温度差が小さくなるような軸受保持部材の位相調整方向および位相調整量を演算し、第2駆動手段は、演算手段により演算された軸受保持部材の位相調整方向および位相調整量に基づき、柱状部材に対して位相調整手段と反対側に設けられた部材を支点として位相調整手段を駆動することができる。
【0021】
上記態様では、第2温度検出手段により測定された軸受の両端部の温度差が小さくなるように演算手段により演算された軸受保持部材の位相調整方向および位相調整量に基いて、位相調整手段が第2駆動手段によって駆動されるので、試験中に軸受の片当りを自動で解消することができる。その結果、摺動試験をより効率良く行うことができる。
【0022】
また、第2温度検出手段により検出された温度上昇が片当りではなく、たとえば軸受の両端部の内周面における傷などに起因することがあり、この場合、位相調整によって軸受の両端部の温度差が大きくなる。そこで、摺動試験装置は、軸受の両端部の片当り以外の異常状態を検出するための構成を備えることが好適である。たとえば、上記異常警告手段は、第2温度検出手段によって検出された位相調整手段による軸受保持部材の位相調整前後の温度を比較し、位相調整によって軸受の両端部の温度差が大きくなった場合に信号を発することができる。
【0023】
本発明の摺動試験方法は、軸線回りに回転する柱状部材と、軸受保持部材により保持され柱状部材を回転自在に支持する軸受との摺動性能を試験する摺動試験方法であって、軸受の一側の両端部の温度を測定し、測定された両端部に温度差があるとき、その温度差が小さくなるように軸受保持部材を軸線方向に傾動させることにより、軸受保持部材の軸線方向に対する傾きを調整することを特徴としている。
【0024】
本発明の摺動試験方法では、本発明の摺動試験装置と同様な作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の摺動試験装置または摺動試験方法によれば、軸受の一側の両端部の温度を測定する第1温度検出手段を備えているから、軸受の両端部の内周面における被押圧部分の温度上昇を検出することができ、これにより片当りの発生を検出することができる。また、この場合、第1温度検出手段で測定された軸受の両端部の温度差が小さくなるように、傾き調整手段によって軸受保持部材を軸線方向に傾動させると、軸受を取り出すことなく軸受の片当りを解消することができるので、摺動試験を効率良く行うことができる等の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(1)実施形態の構成
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る摺動試験装置100の概略構成を表す側断面図である。図2は、図1の摺動試験装置1の傾き調整機構140の制御ブロック図である。なお、本実施形態では、図6と同様な構成要素には同符号を付し、その説明は省略している。
【0027】
貫通孔13Aには、シャフト2(柱状部材)を回転自在に支持するボールベアリング114が固定されている。ボールベアリング114によって、装置自体のフリクションを低減することができる。台座13の上端部には、下記傾き調整機構140の傾き調整ねじ141が水平方向に貫通して設けられる貫通孔113Bが形成されている。コンロッド17(軸受保持部材)は、幅広な剛体コンロッドである。貫通孔17Aの軸線方向両端部には、下記傾き調整機構140によってコンロッド17の傾きを調整したときに、そこでシャフト2と片当りが生じないように傾き調整逃げ溝117Cが形成されている。
【0028】
コンロッド17の左端部、中央部、および右端部には、コンロッド17の上面からすべり軸受3まで垂直方向に延びる熱電対取付孔が形成され、熱電対取付孔には、すべり軸受3の外周面における上側左端部、上側中央部、および上側右端部に測温線が接続された熱電対118A〜118C(第1温度測定手段)が設けられている。熱電対118A〜118Cは、すべり軸受3(軸受)の外周の上側の母線に沿って設けられ、すべり軸受3外周面の上側左端部、上側中央部、上側右端部の温度を測定する。コンロッド17の右上端部には、下記傾き調整機構140の傾き調整ねじ141(傾き調整手段)と螺合する雌ネジ孔117Dが水平方向に形成されている。
【0029】
台座11には、コンロッド17の軸線に対する傾きを調整するための傾き調整機構140が設けられている。傾き調整機構140は、先端部に上記雌ネジ孔117Dに螺合する雄ネジ141Aが形成された傾き調整ねじ141(傾き調整手段)と、傾き調整ねじ141を回転駆動するモータ142(第1駆動手段)とを備えている。台座11の下部には、シャフト2とすべり軸受3の摺動面に潤滑油を供給するためのオイル供給路150が設けられている。オイル供給路150から供給された潤滑油は、すべり軸受3に形成された潤滑油供給孔を通じて上記摺動面に供給され、そこに潤滑油の油膜が形成される。
【0030】
また、装置1は、図2に示すように、演算部160および異常警告部170を備えている。演算部160は、熱電対118A,118Cによって検出された温度に基づいて、すべり軸受3の外周面における上側左端部と上側右端部との温度差がなくなるように、コンロッド17の傾き調整方向および傾き調整量を演算する。傾き調整機構140のモータ142は、演算部160によって演算された傾き調整方向および傾き調整量に従って、傾き調整ねじ141を回転駆動させて水平方向に移動させる。異常警告部170は、傾き調整機構140による傾き調整前後において熱電対118A,118Cによって検出された温度を比較し、傾き調整前後において温度差が増大した場合に信号を発する。
【0031】
(2)実施形態の動作
次に、上記摺動試験装置100を用いて、シャフト2とすべり軸受3との摺動試験を行う場合について、主に図3〜図5を参照して説明する。図3は、摺動試験装置100のコンロッド17が傾きが生じている状態を表す部分図、図4は、傾き調整機構140を用いて、図3で表される摺動試験装置100のコンロッド17の傾きを調整した状態を表す部分図、図5は、摺動試験において、熱電対118A〜118Cにより得られた測温データの一例である。なお、図5において、データA〜Cは、熱電対118A〜118Cにより得られた測温データを示している。
【0032】
シャフト2とすべり軸受3との摺動試験では、図1に示すように摺動試験装置100にシャフト2、すべり軸受3、およびコンロッド17をセットした後、オイル供給口150からすべり軸受3の潤滑油供給孔を通じてすべり軸受3の摺動面に潤滑油を供給しながら、モータ15によって軸線回りにシャフト2を回転させる。シャフト2の回転時に、加振機120を用いて、加振シャフト122によって所定の時間間隔で段階的に振幅を大きくさせつつ垂直方向にコンロッド17を振動させることにより、コンロッド17に保持されたすべり軸受3の摺動面にステップ荷重を印加する。
【0033】
上記摺動試験において、熱電対118A〜118Cによって温度を測定すると、図5に示すように、ステップ荷重の段階的な増加に合わせて、すべり軸受3の外周面の上側左端部、上側中央部、および上側左端部の温度が段階的に上昇していく。ここで、摺動試験では、コンロッド17を垂直方向に振動させているため、たとえば図3に示すようにコンロッド17の上部がシャフト2の振動面内で右側に傾くことがある。この場合、コンロッド17に保持されたすべり軸受3の上側右端部が下方に傾き、すべり軸受3の摺動面の上側右端部がシャフト2から強く押圧され、片当りが生じるため、そこで発熱が生じる。これにより、図5に示すように、すべり軸受3の外周面における上側右端部の温度が、すべり軸受3の外周面における上側左端部の温度に比べて大きく上昇していく。
【0034】
上記のようにすべり軸受3の外周面における上側左端部と上側右端部に温度差が生じると、熱電対118A,118Cによって検出された温度に基づいて、演算部160は、すべり軸受3の摺動面における上側左端部と上側右端部の温度差が小さくなるようなコンロッド17の上部の傾き調整方向および傾き調整量を演算する。本実施形態では、すべり軸受3の外周面における上側右端部の温度がすべり軸受3の外周面における上側左端部の温度に比べて大きいので、コンロッド17の上部の傾き調整方向は左方向である。そして、傾き調整機構140では、演算部160によって演算されたコンロッド17の傾き調整方向および傾き調整量に従って、モータ142によって傾き調整ねじ141が左側に移動するようにそれを回転させることにより、図4に示すように、コンロッド17の上部を左側に押すと、コンロッド17の上部は、左側のコンロッド位置決めボルト32を支点として左側に傾く。
【0035】
上記のようなコンロッド17の傾き調整は、図5に示すようにすべり軸受3の外周面の上側左端部および上側右端部の温度差がなくなるまで行われ、これによりすべり軸受3の摺動面の上側右端部の片当りが解消される。コンロッド17の傾き調整後、すべり軸受3の外周面における上側右端部の温度は、段階的なステップ荷重の増加に合わせて、すべり軸受3の外周面における上側左端部の温度と同等に上昇していく。
【0036】
一方、上記のようにすべり軸受3の外周面における上側左端部と上側右端部の温度差が、すべり軸受3の摺動面の軸線方向上側右端部の片当りでなく、たとえばすべり軸受3の内周面に生じた傷等の異常状態に起因するものであった場合、上記のようなコンロッド17の傾き調整を行うと、すべり軸受3の外周面の上側左端部と上側右端部の温度差が増大することがある。この場合、異常警告部170は信号を発するので、荷重摺動試験を中断する。
【0037】
本実施形態の摺動試験装置100では、すべり軸受3の一側の両端部の温度を測定する熱電対118A,118Cを備えているから、すべり軸受3の両端部の内周面における被押圧部分の温度上昇を検出することができ、これにより片当りの発生を検出することができる。また、この場合、熱電対118A,118Cで測定されたすべり軸受3の両端部の温度差が小さくなるように、傾き調整ねじ141によってコンロッド17を軸線方向に傾動させると、すべり軸受3を取り出すことなくすべり軸受3の片当りを解消することができるので、摺動試験を効率良く行うことができる。
【0038】
特に、熱電対118A,118Cにより測定されたすべり軸受3の両端部の温度差が小さくなるように演算部160により演算されたコンロッド17の傾き調整方向および傾き調整量に基いて、傾き調整ねじ141がモータ142によって駆動されるので、試験中にすべり軸受3の片当りを自動で解消することができる。その結果、荷重印加試験を行う場合でも、摺動試験を効率良く行うことができる。
【0039】
また、傾き調整後、すべり軸受3の外周面の上側左端部と上側右端部の温度差が増大した場合、異常警告部170は信号を発するので、すべり軸受3の片当り以外の異常状態を検知することができる。
【0040】
(3)変形例
上記実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。たとえば、すべり軸受3の外周面においてシャフト2の円周方向に熱電対118A〜118Cと90度離れて位置する手前側左端部(あるいは奥側左端部)、手前側中央部(あるいは奥側中央部)、手前側右端部(あるいは奥側右端部)の温度を測定するための熱電対118A〜118Cと同様な手前側の熱電対(第2温度検出手段)を備えることができる。この場合、シャフト2の円周方向に傾き調整ねじ141と90度離れて手前側(あるいは奥側)に位置する傾き調整ねじ141と同様な位相調整ねじ(位相調整手段)と、モータ142と同様な位相調整用モータ(第2駆動手段)とを有する位相調整機構を備えることができる。位相調整ねじは、すべり軸受3に対するコンロッド17の位相を調整するためのねじである。位相調整ねじ用のモータは、シャフト2に対して位相調整ねじと反対側に設けられたコンロッド位置決めボルト32と同様なコンロッド位置決めボルトを支点として位相調整ねじを回転駆動する。また、位相調整を行った後、すべり軸受3の外周面の手前側左端部と手前側右端部の温度差が増大した場合、異常警告部170は信号を発することができる。
【0041】
上記態様では、コンロッド17の右回りの回転ねじれが発生した場合、すべり軸受3の摺動面における手前側右端部がシャフト2から強く押圧され、片当りが生じるため、そこで発熱が生じる。これにより、すべり軸受3の外周面における手前側右端部の温度が、すべり軸受3の外周面における手前側左端部の温度に比べて大きく上昇していく。このようにすべり軸受3の外周面における手前側左端部と手前側右端部に温度差が生じると、手前側熱電対によって検出された温度に基づいて、演算部160は、すべり軸受3の摺動面における手前側左端部と手前側右端部の温度差が小さくなるようなコンロッド17のすべり軸受3に対する位相調整方向および位相調整量を演算する。本実施形態では、すべり軸受3の外周面における手前側右端部の温度がすべり軸受3の外周面における手前側左端部の温度に比べて大きいので、コンロッド17のすべり軸受3に対する位相調整方向は左回りである。
【0042】
そして、位相調整機構では、演算部160によって演算されたコンロッド17のすべり軸受3に対する位相調整方向および位相調整量に従って、位相調整用モータによって位相調整ねじが左側に移動するようにそれを回転させることにより、コンロッド17を左側に押すと、コンロッド17は、シャフト2に対して位相調整ねじと反対側に設けられたコンロッド位置決めボルトを支点として左回りに移動する。このようなコンロッド17の位相調整は、すべり軸受3の外周面の手前側左端部および手前側右端部の温度差がなくなるまで行われ、これによりすべり軸受3の摺動面の手前側右端部の片当りが解消される。
【0043】
上記態様では、すべり軸受3の摺動面において熱電対118A,118Cと円周方向に略90度離れて位置する手前側の両端部の温度を測定する手前側熱電対を備えているから、すべり軸受3の両端部の内周面におけるコンロッド17の回転ねじれによる被押圧部分の温度上昇を検出することができ、これにより片当りの発生を検出することができる。また、この場合、手前側熱電対で測定されたすべり軸受3の両端部の温度差が小さくなるように、位相調整ねじによってコンロッド17のすべり軸受3に対する位相を調整すると、すべり軸受3を取り出すことなくすべり軸受3の片当りを解消することができるので、摺動試験をより効率良く行うことができる。
【0044】
特に、手前側熱電対により測定されたすべり軸受3の両端部の温度差が小さくなるように演算部160により演算されたコンロッド17の位相調整方向および位相調整量に基いて、位相調整ねじが位相調整用モータによって駆動されるので、試験中にすべり軸受3の片当りを自動で解消することができる。その結果、摺動試験をより効率良く行うことができる。また、位相調整後、すべり軸受3の外周面の手前側左端部と手前側右端部の温度差が増大した場合、異常警告部170は信号を発するので、すべり軸受3の片当り以外の異常状態を検知することができる。
【0045】
さらに、上記実施形態では、熱電対118A〜118Cによって、すべり軸受3の外周面における上側左端部、上側中央部、および上側右端部の温度を測定するようにしたが、熱電対118A〜118Cによって、すべり軸受3の外周面における下側左端部、下側中央部、および下側右端部の温度を測定してもよい。さらに上記実施形態では、本発明を、荷重印加試験を行うために加振機20を有する摺動試験装置100に適用したが、これに限定されるものではなく、加振機20を有しない摺動試験装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係る摺動試験装置の概略構成を表す側断面図である。
【図2】図1の摺動試験装置の傾き調整機構の制御ブロック図である。
【図3】図1の摺動試験装置のコンロッドが傾いている状態を表す部分図である。
【図4】図3で表される摺動試験装置のコンロッドの傾きを調整した状態を表す部分図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る摺動試験装置を用いて行った摺動試験においてコンロッドの傾き調整前後に熱電対により得られた測温データの一例である。
【図6】従来の摺動試験装置の概略構成を表す側断面図である。
【図7】図6の摺動試験装置のコンロッドが傾いている状態を表す部分図である。
【図8】従来の摺動試験装置を用いて行った摺動試験において熱電対により得られた測温データの一例である。
【符号の説明】
【0047】
2…シャフト(柱状部材)、3…軸受(すべり軸受)、17…コンロッド(軸受保持部材)、20…加振機(加振手段)、100…摺動試験装置、118A〜118C…熱電対(第1温度検出手段)、141…傾き調整ねじ(傾き調整手段)、142…モータ(第1駆動手段)、160…演算部(演算手段)、170…異常警告部(異常警告手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転する柱状部材と、軸受保持部材により保持され前記柱状部材を回転自在に支持する軸受との摺動性能を試験する摺動試験装置において、
前記軸受の一側の両端部の温度を測定する第1温度検出手段と、
前記軸受保持部材を前記軸線方向に傾動させることにより、前記軸受保持部材の軸線方向に対する傾きを調整する傾き調整手段とを備えたことを特徴とする摺動試験装置。
【請求項2】
前記第1温度検出手段は、前記軸受の外周の1つの母線に沿って設けられていることを特徴とする請求項1に記載の摺動試験装置。
【請求項3】
前記軸受保持部材を前記軸線方向と垂直な方向に振動させる加振手段と、
前記第1温度検出手段により測定された前記軸受の両端部の温度に基づいて、その温度差が小さくなるような前記軸受保持部材の傾き調整方向および傾き調整量を演算する演算手段と、
前記演算手段により演算された前記軸受保持部材の傾き調整方向および傾き調整量に基づき、前記柱状部材に対して前記傾き調整手段と反対側に設けられた部材を支点として前記軸受保持部材を傾動させるように前記傾き調整手段を駆動する第1駆動手段とを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の摺動試験装置。
【請求項4】
前記第1温度検出手段によって検出された前記傾き調整手段による前記軸受保持部材の傾き調整前後の温度を比較し、前記傾き調整によって前記軸受の両端部の温度差が大きくなった場合に信号を発する異常警告手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の摺動試験装置。
【請求項5】
前記軸受の摺動面において前記第1温度検出手段と円周方向に略90度離れて位置する一側の両端部の温度を測定する第2温度検出手段と、
前記軸受保持部材の前記軸受に対する位相を調整する位相調整手段とを備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の摺動試験装置。
【請求項6】
前記位相調整手段を駆動する第2駆動手段を備え、
前記演算手段は、前記第2温度検出手段により測定された前記軸受の両端部の温度に基づいて、その温度差が小さくなるような前記軸受保持部材の位相調整方向および位相調整量を演算し、
前記第2駆動手段は、前記演算手段により演算された前記軸受保持部材の位相調整方向および位相調整量に基づき、前記柱状部材に対して前記位相調整手段と反対側に設けられた部材を支点として前記位相調整手段を駆動することを特徴とする請求項5に記載の摺動試験装置。
【請求項7】
前記異常警告手段は、前記第2温度検出手段によって検出された前記位相調整手段による前記軸受保持部材の位相調整前後の温度を比較し、前記位相調整によって前記軸受の両端部の温度差が大きくなった場合に信号を発することを特徴とする請求項5または6に記載の摺動試験装置。
【請求項8】
軸線回りに回転する柱状部材と、軸受保持部材により保持され前記柱状部材を回転自在に支持する軸受との摺動性能を試験する摺動試験方法において、
前記軸受の一側の両端部の温度を測定し、測定された両端部に温度差があるとき、その温度差が小さくなるように前記軸受保持部材を前記軸線方向に傾動させることにより、前記軸受保持部材の前記軸線方向に対する傾きを調整することを特徴とする摺動試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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