摺動部材、その製造方法、及び摺動方法
【課題】窒化炭素被膜の初期摩擦係数の低減を含む初期馴染み性を向上させることができる摺動部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基材Wの表面に、窒化炭素被膜CNを成膜する工程と、前記窒化炭素被膜CNの表面に紫外線を照射する工程と、を含み、紫外線を照射することにより、表面層は、紫外線照射を行っていない窒化炭素のその他部分に比べて、グラファイト構造をより多く含んでいるので、摺動部材の初期馴染み性を向上させることができる。また、表面層のみをグラファイト化するので、窒化炭素被膜CNそのものの強度は確保される。
【解決手段】基材Wの表面に、窒化炭素被膜CNを成膜する工程と、前記窒化炭素被膜CNの表面に紫外線を照射する工程と、を含み、紫外線を照射することにより、表面層は、紫外線照射を行っていない窒化炭素のその他部分に比べて、グラファイト構造をより多く含んでいるので、摺動部材の初期馴染み性を向上させることができる。また、表面層のみをグラファイト化するので、窒化炭素被膜CNそのものの強度は確保される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動面に硬質炭素被膜が形成された摺動部材、その製造方法、及び摺動方法に係り、特に、特に、初期馴染み性に優れた摺動部材、その製造方法、及び摺動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車産業などの我が国の基幹産業において、トライボロジーは重要な役割を担っている。例えば、自動車産業においては、現在、地球環境保全のため、自動車からの排出される二酸化炭素の削減を目指してさまざまな取り組みが行われており、その一例としてハイブリットシステムなどのエネルギー効率の良い動力源の開発が良く知られている。しかし更なる低燃費を目指すためには、動力源の開発だけでなくエンジン内部および駆動系における摩擦によるエネルギーの伝達ロスの低減が重要な課題となる。
【0003】
このような課題を鑑みて、動力系機器における摺動部材の摩擦係数の低減化、耐摩耗性の向上を図るべく、構造用鋼あるいは高合金鋼からなる摺動部材の摺動面に被覆する新たなトライボロジー材料としての非晶質炭素材料(DLC)や、窒化炭素被膜(CNx)が注目されている。
【0004】
例えば、摺動面に窒化炭素被膜(CNx)を形成した第一の摺動部材と、第一の摺動部材の表面に、非晶質炭素被膜を形成した第二の摺動部材と、を備えた組合せ摺動部材(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−100179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の摺動部材を用いた場合であっても、大気中及び潤滑油中において、これらの摺動部材の初期馴染み性が必ずしも良いものとは言えなかった。すなわち、これらの摺動部材を相手材と摺動させた場合には、摺動させる初期の段階において、表面のうねりや摺動面の粗さの影響により、摩擦係数が高くなる傾向にあった。この結果として、摺動部材の摺動面(窒化炭素被膜の表面)の損傷も大きくなるため、さらなる摩擦係数の上昇、これに伴う摩耗量の増加が懸念される場合がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、窒化炭素被膜が形成された摺動部材において、該窒化炭素被膜の初期馴染み性を向上させることができる摺動部材、その製造方法、及び摺動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を鑑み、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、窒化炭素被膜の表面のグラファイト構造を増やすことにより、初期馴染み性が向上すると考え、この考えに基づいて、窒化炭素材料に紫外線を照射することにより、この材料のグラファイト化が発現するとの新たな知見を得た。
【0009】
より詳細には、水素元素を含む窒化炭素被膜を構成する窒化炭素材料は、一般的に、sp3結合に対応するダイヤモンド構造、sp2結合に対応するグラファイト構造、及びこれらの結合及びアモルファス構造からなるが、発明者らの実験によれば、窒化炭素被膜に水素元素を含む場合には、特に、紫外線の照射エネルギーにより、窒素と炭素の結合が分断され、窒化炭素被膜の表面層がグラファイト構造に変質し易いとの新たな知見を得た。
【0010】
本発明は、発明者らの前記新たな知見に基づくものであり、本発明に係る摺動部材の製造方法は、基材の表面に、窒化炭素被膜を成膜する工程と、前記窒化炭素被膜の表面に紫外線を照射する工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、基材の表面に形成(成膜)された窒化炭素被膜の表面に、紫外線を照射することにより、その窒化炭素被膜の表面層がグラファイト化する。これにより、この表面層は、紫外線照射を行っていない窒化炭素のその他部分に比べて、グラファイト構造をより多く含んでいるので、摺動部材の初期馴染み性を向上させることができる。また、表面層のみをグラファイト化するので、窒化炭素被膜そのものの強度は確保される。
【0012】
このような窒化炭素被膜が形成された摺動部材の、窒化炭素被膜のうち紫外線の照射された表面層が、この紫外線によりグラファイト化した層となる。ここでいう「グラファイト化」とは、窒化炭素材料のアモルファス構造等の少なくとも一部が、グラファイト構造に変化する現象をいう。また、「紫外線によりグラファイト化した層」とは、窒化炭素被膜に紫外線を照射して、グラファイトに一部が変質した層である。
【0013】
なお、紫外線を照射することにより、紫外線のエネルギーにより窒化炭素材料がグラファイト化することができるのであれば、その紫外線の波長、強度、照射時間等は特に限定されるものでないが、発明者らの実験によれば、照射される紫外線の強度、照射時間等により、照射される紫外線の照射エネルギーが高いほど、窒化炭素被膜に含有するグラファイトが増加することがわかっており、これらの条件を適宜選定することにより、摺動特性、被膜の厚さ、被膜の密着性等を変化させることができる。
【0014】
本発明に係る摺動部材の製造方法において、前記照射する紫外線の波長を365nm以下の波長とした紫外線を照射することがより好ましい。
【0015】
本発明に係る摺動部材の製造方法において、窒化炭素被膜の表面に照射する紫外線の波長は365nm以下の波長の紫外線を窒化炭素被膜の表面に照射することにより、グラファイト化をより好適に発現することができ、照射された紫外線の波長が365nm以下で成膜された被膜により、好適に摺動部材の初期摩擦係数を低下させ、これにより初期摩耗を低減することができる。すなわち、365nmを超えた場合には、可視光に近づくので、窒化炭素被膜のグラファイト化し難くなる。また、より好ましくは、紫外線の波長は、254nm以上であり、これよりも短い場合には、CN結合だけでなく、CC結合も切れてしまい、窒化炭素被膜の強度が低下することになる。
【0016】
また、発明者らの後述する実験によれば、窒化炭素材料の窒素を含むことで、窒化炭素被膜がグラファイト化することがわかっており、本発明に係る摺動部材の製造方法において、前記窒化炭素被膜に含有する窒素含有量が、9原子%(at%)以上19原子%未満となるように、前記窒化炭素被膜を成膜することがより好ましい。
【0017】
本発明によれば、このような範囲の水素含有量を含む窒化炭素被膜を基材表面に成膜することにより、被膜強度を確保すると共に、窒化炭素被膜のグラファイト化をより好適に発現することができる。
【0018】
また、本発明に係る摺動方法は、基材の摺動面に、窒化炭素被膜が形成された摺動部材の摺動方法であって、前記窒化炭素被膜の表面に紫外線を照射しながら、前記摺動部材を摺動させることを特徴とする。本発明によれば、このような摺動方法を行うことにより、摺動時に、窒化炭素被膜の表面層のグラファイト化を随時発現させることができる。また、より好ましくは、前記照射された紫外線の波長は、365nm以下の波長であり、前記窒化炭素被膜に含有される窒素含有量が、9原子%以上19原子%未満である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基材表面に形成された窒化炭素被膜の初期馴染み性を含む摺動特性を、容易に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の摺動部材を製造(被膜を成膜)するための模式的な装置構成図であり、(a)は、成膜工程を説明するための図であり、(b)は、紫外線照射工程を説明するための図。
【図2】ボールオンディスク摩擦試験機を説明するための図。
【図3】実施例1〜3、比較例1の窒素ガス中の摩擦試験における平均摩擦係数を示した図。
【図4】実施例1〜3、比較例1の窒素ガス中の紫外線照射時間と摺動サイクル数(摩擦繰り返し数)との関係を示した図。
【図5】実施例4〜6、比較例2の窒素ガス中の摩擦試験における平均摩擦係数を示した図。
【図6】実施例7〜9、比較例3の窒素ガス中の摩擦試験における平均摩擦係数を示した図。
【図7】実施例10〜12、比較例6のPAO油中の摩擦試験における平均摩擦係数を示した図。
【図8】実施例13〜15、比較例7のPAO油中の摩擦試験における平均摩擦係数を示した図。
【図9】比較例8−1〜8−4のPAO油中の摩擦試験における平均摩擦係数を示した図。
【図10】比較例9−1〜9−4のPAO油中の摩擦試験における平均摩擦係数を示した図。
【図11】確認試験における、窒素含有量と摩擦係数の平均値からの時間経過後の摩擦係数減少率の結果を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の本発明の摺動部材、その製造方法、及び摺動方法を実施形態について説明する。図1は、本実施形態の摺動部材を製造(基材に被膜を成膜)するための模式的な装置構成図であり、(a)は、成膜工程を説明するための図であり、(b)は、紫外線照射工程を説明するための図である。
【0022】
本実施形態に係る摺動部材の製造方法は、基材の表面に窒化炭素被膜を成膜する工程と、この成膜された窒化炭素被膜の表面に、紫外線を照射する工程の2つの工程を少なくとも含むものである。
【0023】
まず、摺動部材の基材Wを準備する。この基材Wの材質としては、摺動時において窒化炭素被膜との密着性を確保することができるような材質および表面硬さを有する材料であれば、特に限定されるものではなく、例えば、鋼、鋳鉄、アルミニウム、高分子樹脂等の基材などを挙げることができる。
【0024】
そして、基材Wを、成膜装置(イオンビームミキシング装置)100内に配置する。図1に示すような成膜装置100を用いて、イオンビームミキシング法により、カーボンにイオンビーム蒸着、あるいは電子ビーム蒸着と、アシスト窒素イオンを同時に照射することにより、基材Wの表面に窒化炭素被膜を成膜する(成膜工程)。具体的には、図1(a)に示すように、真空チャンバ50内の圧力を減圧とし、その後窒素ガスを導入する。そして、アルゴンイオン源51からアルゴンイオンgaをカーボンターゲットTに照射し、カーボンターゲットTをカーボンスパッター粒子Cにすると同時に、窒素イオン源52から所定の加速エネルギーで窒素イオンgnを基材Wに向けて照射して、成膜を行う。尚、この成膜時には、基材Wを回転させ、成膜時間を所定の時間設定し、非晶質の窒化炭素被膜(CNx被膜)CNを成膜する。
【0025】
ここで、窒化炭素被膜を摺動部材の基材表面に成膜するにあたっては、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどを利用した物理気相成長法(PVD)により成膜してもよく、プラズマ処理などを利用した化学気相成長法(CVD)により成膜してもよく、これらの方法を組み合わせた方法により成膜してもよく、窒化炭素被膜に、窒素原子を含むことができるものであれば、特に成膜方法は限定されるものではない。
【0026】
また、このような成膜時において窒化炭素被膜中に、Si、Ti、Cr、Fe、Mo、W、Bなどの添加元素を含有させてもよく、このような元素を添加することにより、被膜の表面硬さを調整してもよい。
【0027】
また、成膜時に、前記窒化炭素被膜に含有される窒素含有量が、9原子%以上19原子%未満となるように、前記窒化炭素被膜を成膜することがより好ましい。窒素含有量は、チャンバに導入する窒素ガスの量や、窒素イオン源の加速エネルギーを変更することにより調整することができる。
【0028】
次に、図1(b)に示すように、成膜された窒化炭素被膜CNの表面に、紫外線照射装置60からの紫外線UVを照射することにより、窒化炭素被膜CNの表面層をグラファイト化する。これにより、摺動部材の摺動面となる窒化炭素被膜の表面の初期馴染み性を向上させることができる。すなわち、摺動部材の初期摩擦係数を低くすることができ、これにより初期摩耗も低減することができる。また、表面層のみをグラファイト化するので、窒化炭素被膜そのものの強度は確保される。
【0029】
ここで、紫外線照射装置60は、一般的に紫外線の波長は、10〜400nmの範囲にあり、このような波長の紫外線は、低圧水銀ランプ(波長:185,254nm)、高圧水銀ランプ(波長:302,365,436,546,577nm)、あるいは、エキシマレーザー(波長ArF:193nm,KrF:249nm,XeCl:308nm)などにより発生させることができる。本実施形態では、この範囲の波長のうち、365nm以下の波長の紫外線を照射することがより好ましい。また、波長の紫外線を発生させることができるのであれば、紫外線発生装置は、特に限定されるものではない。
【0030】
このような波長の紫外線を窒化炭素被膜の表面に照射することにより、その被膜の表面層のグラファイト化をより好適に発現することができ、摺動部材の初期摩擦係数の低減を図ることができる。特に、前述した範囲の水素含有量の窒化炭素被膜を基材の表面に形成することにより、被膜強度を確保すると共に、窒化炭素被膜の表面層のグラファイト化をより好適に発現することができる。
【0031】
このようにして得られた摺動部材は、基材の表面に、窒化炭素被膜が形成された摺動部材であって、この窒化炭素被膜は、紫外線の照射によりグラファイト化した表面層を含むことになる。
【0032】
なお、この基材Wの表面には、窒化炭素被膜Wを成膜前に、基材と窒化炭素被膜との密着力を高めるために、ケイ素(Si)からなる中間層を設けてもよく、さらにケイ素の代わりに、クロム(Cr)、チタン(Ti)またはタングステン(W)を用いてもよい。
【0033】
また、摺動時においては、基材の摺動面に、窒化炭素被膜が形成された摺動部材の摺動方法であって、窒化炭素被膜の表面に紫外線を照射しながら、この摺動部材を摺動させてもよい。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明を実施例により説明する。
(実施例1)
<ディスク試験片(摺動部材)の製作>
本発明に係る摺動部材として、以下に示すディスク試験片を製作した。具体的には、窒化炭素被膜を成膜する基材として、直径50mm、厚み0.3mm、円部表面(摺動面)が鏡面状態(100面方位)となる、ディスク形状のシリコンウェハを準備した。そして、イオンビームミキシング法により、この基材の表面に窒素含有量が9原子%の0.1μmの窒化炭素被膜(CNx被膜)を成膜した。
【0035】
成膜にあたっては、シリコンウェハの円部表面が支持台上に配置された純度99.9999%のカーボンターゲットと対向するように、真空チャンバ内のホルダにシリコンウェハを取り付けた。その後、真空チャンバ内の圧力を、ポンプで、2.0×10−4Pa以下に減圧調整し、窒素イオンを5分間シリコンウェハに向けて照射して、スパッタクリーニングした。その後、チャンバ内の圧力を、1.4×10−2Paに調整し、アルゴンイオン源(1kV,100mA)から4.0SCCM(Standard Cubic Centimeter per Minute)の流量でアルゴンイオンをターゲットに照射して、カーボンターゲットをカーボンスパッター粒子にすると同時に、窒素イオン源から加速電圧0.5KV、電流密度30μA/cm2、2.0SCCMの流量で窒素イオンをシリコンウェハに向けて照射して、シリコンウェハを4rpmに回転させ、シリコンウェハの円部表面に厚さ0.1μmの非晶質の窒化炭素被膜(CNx被膜)を成膜した。なお、本実施例及び以下の例では、窒素含有量を、XPS(X線電子分光分析装置)で測定し、確認をしている。
【0036】
次に、紫外線発生用光源として、バイリンク(コスモ・バイオ社製、BLX−312)を用いて、紫外線の波長254nmにスペクトルのピークを持つ放電管(CST−8C)を使用して、基材の表面に成膜された窒化炭素被膜に波長254nmの紫外線を30,60,120分間照射し、ディスク試験片を製作した。なお、最大UV照射エネルギーは0〜99.99ジュールであり、照射範囲は260mm×300mmである。また、ランプハウス内の雰囲気は大気で、ランプから被膜表面までの距離は160mmである。
【0037】
<摩擦試験>
以下の手順で摩擦試験を行った。まず、直径8mm、以下の表1に示す窒化珪素球を準備した。
【0038】
【表1】
【0039】
図2に示すボールオンディスク摩擦試験機を用いた。摩耗試験を行う事前準備として、ボール試験片Bをアセトンとエタノールで各10分間超音波洗浄した。その後、ボール試験片Bを試験機の本体から取り外したボールホルダー35に固定し、光学顕微鏡(図示せず)を用いてこの表面に傷が無いことを確認後、これらをデシケータ(図示せず)内に投入し、ボール試験片Bを乾燥させた。一方、ディスク試験片Dの表面に形成した窒化炭素被膜の表面(摺動面)の埃などの異物をハンドブロー(図示せず)で取り除いた。
【0040】
次に、ディスク試験片Dをディスクホルダー44に保持させると共に、ボール試験片Bが固定されたボールホルダー35をステージ31と一体となるように試験機の本体に取り付けた。平行板ばね32に接着したひずみゲージ33(協和電業製,KF−1−120−C1−16)を用いて、ボール試験片Bがディスク試験片Dの窒化炭素被膜の表面に対して付加される荷重の値が0.1Nの荷重が付加されるようにステージ31を調整して、これらを当接させた。なお、ボール試験片Bとディスク試験片Dの接触位置は、この3軸ステージ31によって決定され、垂直荷重は、z軸を上下させることにより調整した。
【0041】
そして、乾式下(乾燥摩擦条件下)で窒素ガス中(図に示す条件)において、モータ41を駆動してプーリ42を回転させ、ベルト43を介してディスクホルダー44のディスク試験片Dを、ボール試験片Bに対して相対速度(摺動速度)が8.4×10−2m/s(回転数400rpm)となる定速回転条件で、回転させた。
【0042】
このときの摩擦力を、ひずみゲージ34で測定し、センサインターフェイス(協和電業製,PCD−300A)を介して、コンピュータ内にデータを取り込み、記録した。そして、平均摩擦係数μを換算した。この結果を図3に示す。
【0043】
また、紫外線照射時間毎に、摩擦試験を行い、摩擦係数が0.01以下の条件が発現する摺動回数(1回転を1サイクルとしたサイクル数)を測定した。この結果を図4に示す。
【0044】
(実施例2及び3)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、実施例2が、波長321nmにスペクトルピークを持つ放電管(CST−8B)を用いて、波長321nmの紫外線を、窒化炭素被膜に照射した点であり、実施例3が、波長365nmにスペクトルピークを持つ放電管(CST−8A)を用いて、波長365nmの紫外線を、窒化炭素被膜に照射した点である。そして、これらに対して、実施例1と同様に一連の評価試験を行った。この結果を、図3及び4に示す。
【0045】
(比較例1)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線を窒化炭素被膜に照射していない点である。そして、実施例1と同様に一連の評価試験を行った。この結果を、図3及び4に示す。
【0046】
[結果1]
図1に示すように、実施例1の254nm、実施例2の312nm、及び実施例3の365nmの波長の紫外線を120分照射したものは、比較例1の照射していないものに比べて、平均摩擦係数が低かった。なお、実施例1〜3は、いずれの照射時間であっても、初期の摩擦係数は0.023程度であったが、サイクル数(摩擦繰返し数)とともに、摩擦係数が0.001以下となった。
【0047】
このような結果となったのは、実施例1、2及び3の窒化炭素被膜は、紫外線の照射により表面層に、軟質な低せん断層が形成され、この軟質な低せん断層は、比較例1よりもグラファイト構造を多く含む層である考えられる。このことから、実施例1〜3は、紫外線の照射により、窒化炭素被膜の表面層が、グラファイト構造をより多く含む層に変質した(グラファイト化した)と考えられる。
【0048】
さらに、実施例1〜3は、図2に示すように、比較例1に比べて、0.001まで摩擦係数が低下するサイクル数が少なく、紫外線の照射時間とともにサイクル数が少なくなる傾向にあった。
【0049】
このことから、実施例1〜3は、窒化炭素被膜の表面層が、紫外線照射エネルギーの付与の増加に伴い、グラファイト構造をより多く含む層に変質した(グラファイト化した)ことにより、比較例1に比べて、初期馴染み性が向上したと考えられる。このように、初期馴染み性を向上させ、低摩擦係数を得るための紫外線の波長は、紫外線照射エネルギーを鑑みると365nm以下が好ましく、254〜365nmの範囲にあることがより好ましいと考えられる。
【0050】
(実施例4〜6)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に窒化炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、成膜時に紫外線を照射せず、実施例4は、紫外線の波長254nm、実施例5は、紫外線の波長312nm、実施例6は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を照射しながら摩擦試験を行った点である。この摩擦試験における平均摩擦係数を図5及び表2に示す。なお、摩擦試験時の紫外線は、摺動中の窒化炭素被膜の表面に向って、上方に紫外線照射装置を配置し照射した。
【0051】
(比較例2)
実施例4と同じように摩擦試験を行った。実施例4と相違する点は、紫外線を照射せずに摩擦試験を行った点である。この摩擦試験の平均摩擦係数を図5及び表2に示す。
【0052】
(実施例7〜9)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に窒化炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、窒素イオン源から加速電圧、電流密度、窒素イオンの流量を変化させて、窒素含有量を12原子%となるように窒化炭素被膜を成膜した点、及び、成膜時に紫外線を照射せず、実施例7は、紫外線の波長254nm、実施例8は、紫外線の波長312nm、実施例9は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を照射しながら摩擦試験を行った点である。この摩擦試験における平均摩擦係数の結果を図6及び表2に示す。
【0053】
(比較例3)
実施例7と同じように摩擦試験を行った。実施例7と相違する点は、紫外線を照射せずに摩擦試験を行った点である。この摩擦試験の平均摩擦係数を図6及び表2に示す。
【0054】
(比較例4−1〜4−4)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、窒素含有量を0原子%となるように炭素被膜を成膜した点、及び、成膜時に紫外線を照射せず、比較例4−1は、紫外線を照射せずに摩擦試験を行った点であり、比較例4−2は、紫外線の波長254nm、比較例4−3は、紫外線の波長312nm、比較例4−4は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を照射しながら摩擦試験を行った点である。この摩擦試験における平均摩擦係数の結果を表2に示す。
【0055】
(比較例5−1〜5−4)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、窒素含有量を0原子%として炭素被膜を成膜した点、及び、成膜時に紫外線を照射せず、比較例5−4は、紫外線を照射せずに摩擦試験を行った点であり、比較例5−2は、紫外線の波長254nm、比較例5−3は、紫外線の波長312nm、比較例5−4は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を照射しながら摩擦試験を行ったである。この摩擦試験における平均摩擦係数を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
[結果2]
実施例4〜6は、図5及び表2に示すように、比較例2に比べて、平均摩擦係数が低くかった。また、実施例7〜9は、図6及び表2に示すように、比較例3に比べて、平均摩擦係数が低くかった。さらに、表2に示すように、比較例4−1〜4−4は、紫外線の照射の有無、及び紫外線の照射の波長にかかわらず、平均摩擦係数は、同程度であった。また、表2に示すように、比較例5−1〜5−4も、比較例4−1〜4−4と同様に、紫外線の照射の有無、及び紫外線の照射の波長にかかわらず、摩擦係数は、同程度であった。このように、実施例4〜9の平均摩擦係数は、0.07〜0.19の範囲であり、比較例2,3,4−1〜4−4,5−1〜5−4の平均摩擦係数は、0.10〜0.49の範囲にあった。
【0058】
このことから、窒素を含有することで、紫外線を照射したときに、C−Nの結合が分断され、より好ましくは、紫外線の波長が、少なくとも、254〜365nm(365nm以下)の範囲にあれば、窒化炭素被膜の表面のグラファイト化が発現され、低摩擦係数を得ることができると考えられる。また、より好ましい窒素の含有量は、9原子%以上、19原子%未満であると考えられる。
【0059】
(実施例10〜12)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に窒化炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、窒素イオン源から加速電圧、電流密度、窒素イオンの流量を変化させて、窒素含有量を9原子%となるように窒化炭素被膜を成膜した点、及び、実施例10は、紫外線の波長254nm、実施例11は、紫外線の波長312nm、実施例12は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を、成膜後の窒化炭素被膜に240分間照射した点と、摩擦試験をポリアルファオレフィン(PAO)油中で行った点である。この摩擦試験における平均摩擦係数を図7に示す。
【0060】
(比較例6)
実施例10と同じようにして、シリコンウェハの表面に窒化炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、紫外線を窒化炭素被膜に照射していない点である。そして、実施例10と同様に摩擦試験を行った。この摩擦試験における平均摩擦係数の結果を、図7に示す。
【0061】
(実施例13〜15)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に窒化炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、窒素イオン源から加速電圧、電流密度、窒素イオンの流量を変化させて、窒素含有量を12原子%となるように窒化炭素被膜を成膜した点、及び、実施例13は、紫外線の波長254nm、実施例14は、紫外線の波長312nm、実施例15は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を、成膜後の窒化炭素被膜に240分間照射した点と、摩擦試験をポリアルファオレフィン(PAO)油中で行った点である。この摩擦試験における平均摩擦係数の結果を、を図8に示す。
【0062】
(比較例7)
実施例13と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例13と相違する点は、紫外線を窒化炭素被膜に照射していない点である。そして、実施例13と同様に摩擦試験を行った。この摩擦試験における平均摩擦係数の結果を、図8に示す。
【0063】
(比較例8−1〜8−4)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、窒素含有量を0原子%となるように炭素被膜を成膜した点、及び、比較例8−1は、紫外線を照射せずに摩擦試験を行った点、実施例8−2は、紫外線の波長254nm、実施例8−3は、紫外線の波長312nm、実施例8−4は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を、成膜後の窒化炭素被膜に240分間照射した点、摩擦試験をポリアルファオレフィン(PAO)油中で行った点である。この摩擦試験における平均摩擦係数を図9に示す。
【0064】
(比較例9−1〜9−4)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に窒化炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、窒素イオン源から加速電圧、電流密度、窒素イオンの流量を変化させて、窒素含有量を19原子%となるように窒化炭素被膜を成膜した点、及び、比較例8−1は、紫外線を照射せずに摩擦試験を行った点、比較例8−2は、紫外線の波長254nm、比較例8−3は、紫外線の波長312nm、比較例8−4は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を、成膜後の窒化炭素被膜に240分間照射した点と、摩擦試験をポリアルファオレフィン(PAO)油中で行った点である。この摩擦試験における平均摩擦係数を図10に示す。
【0065】
[結果3]
実施例10〜12は、図7に示すように、比較例6に比べて、平均摩擦係数が低くかった。また、実施例13〜15は、図8に示すように、比較例7に比べて、平均摩擦係数が低くかった。さらに、比較例8−1〜8−4は、紫外線の照射の有無、及び紫外線の照射の波長にかかわらず、平均摩擦係数は、同程度であった。比較例9−1〜9−4も、比較例8−1〜8−4と同様に、紫外線の照射の有無、及び紫外線の照射の波長にかかわらず、摩擦係数は、同程度であった。また、実施例10〜15のいずれも、初期の摩擦係数が0.03程度であったが、その後、最終的には、0.017程度になり、摩擦係数が約1/2に減少した。
【0066】
このことから、窒素を含有することで、紫外線を照射したときに、窒化炭素被膜の表面のグラファイト化が発現されるので、油浴中であっても、低摩擦係数を得ることができると考えられる。また、より好ましい窒素の含有量は、9原子%以上、19原子%未満であると考えられる。
【0067】
(確認試験)
実施例1と同じように、窒素イオン源から加速電圧、電流密度、窒素イオンの流量を変化させて、シリコンウェハの表面に、窒素含有量が、0原子%、9原子%、12原子%、及び19原子%の炭素被膜を形成した。次に、紫外線の波長を254〜312nm範囲で選定した紫外線を、照射時間を120〜240分の範囲で選定した時間で照射して、ディスク試験片を作製した。これらのものに対して、摩擦試験をポリアルファオレフィン(PAO)油中で行い、窒素含有量毎における最小となる摩擦係数と、窒素含有量毎の摩擦係数の平均値とを、摩擦係数の平均値からの摩擦係数減少率を測定した。この結果を図11に示す。
【0068】
[結果4]
窒素含有量が0原子%の場合は、紫外線波長254nm、照射時間120分で、最小摩擦係数0.024となり、窒素含有量が9原子%の場合は、紫外線波長312nm、照射時間120分で、最小摩擦係数0.026となり、窒素含有量が12原子%の場合は、紫外線波長254nm、照射時間240分で、最小摩擦係数0.016となり、窒素含有量が19原子%の場合は、紫外線波長312nm、照射時間240分で、最小摩擦係数0.034となった。
【0069】
そして、図11からも明らかなように、窒素の含有量は、9原子%以上、19原子%未満の範囲では、大気中であっても、油浴中であっても、摩擦係数の低減をすることができる。
【0070】
以上、本発明の実施の形態を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
31…ステージ,32…平行板ばね,33…ひずみゲージ,35…ボールホルダー,41…モータ,42…プーリ,43…ベルト,44…ディスクホルダー,CN:窒化炭素被膜、B…ボール試験片,D…ディスク試験片、W:基材
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動面に硬質炭素被膜が形成された摺動部材、その製造方法、及び摺動方法に係り、特に、特に、初期馴染み性に優れた摺動部材、その製造方法、及び摺動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車産業などの我が国の基幹産業において、トライボロジーは重要な役割を担っている。例えば、自動車産業においては、現在、地球環境保全のため、自動車からの排出される二酸化炭素の削減を目指してさまざまな取り組みが行われており、その一例としてハイブリットシステムなどのエネルギー効率の良い動力源の開発が良く知られている。しかし更なる低燃費を目指すためには、動力源の開発だけでなくエンジン内部および駆動系における摩擦によるエネルギーの伝達ロスの低減が重要な課題となる。
【0003】
このような課題を鑑みて、動力系機器における摺動部材の摩擦係数の低減化、耐摩耗性の向上を図るべく、構造用鋼あるいは高合金鋼からなる摺動部材の摺動面に被覆する新たなトライボロジー材料としての非晶質炭素材料(DLC)や、窒化炭素被膜(CNx)が注目されている。
【0004】
例えば、摺動面に窒化炭素被膜(CNx)を形成した第一の摺動部材と、第一の摺動部材の表面に、非晶質炭素被膜を形成した第二の摺動部材と、を備えた組合せ摺動部材(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−100179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の摺動部材を用いた場合であっても、大気中及び潤滑油中において、これらの摺動部材の初期馴染み性が必ずしも良いものとは言えなかった。すなわち、これらの摺動部材を相手材と摺動させた場合には、摺動させる初期の段階において、表面のうねりや摺動面の粗さの影響により、摩擦係数が高くなる傾向にあった。この結果として、摺動部材の摺動面(窒化炭素被膜の表面)の損傷も大きくなるため、さらなる摩擦係数の上昇、これに伴う摩耗量の増加が懸念される場合がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、窒化炭素被膜が形成された摺動部材において、該窒化炭素被膜の初期馴染み性を向上させることができる摺動部材、その製造方法、及び摺動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を鑑み、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、窒化炭素被膜の表面のグラファイト構造を増やすことにより、初期馴染み性が向上すると考え、この考えに基づいて、窒化炭素材料に紫外線を照射することにより、この材料のグラファイト化が発現するとの新たな知見を得た。
【0009】
より詳細には、水素元素を含む窒化炭素被膜を構成する窒化炭素材料は、一般的に、sp3結合に対応するダイヤモンド構造、sp2結合に対応するグラファイト構造、及びこれらの結合及びアモルファス構造からなるが、発明者らの実験によれば、窒化炭素被膜に水素元素を含む場合には、特に、紫外線の照射エネルギーにより、窒素と炭素の結合が分断され、窒化炭素被膜の表面層がグラファイト構造に変質し易いとの新たな知見を得た。
【0010】
本発明は、発明者らの前記新たな知見に基づくものであり、本発明に係る摺動部材の製造方法は、基材の表面に、窒化炭素被膜を成膜する工程と、前記窒化炭素被膜の表面に紫外線を照射する工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、基材の表面に形成(成膜)された窒化炭素被膜の表面に、紫外線を照射することにより、その窒化炭素被膜の表面層がグラファイト化する。これにより、この表面層は、紫外線照射を行っていない窒化炭素のその他部分に比べて、グラファイト構造をより多く含んでいるので、摺動部材の初期馴染み性を向上させることができる。また、表面層のみをグラファイト化するので、窒化炭素被膜そのものの強度は確保される。
【0012】
このような窒化炭素被膜が形成された摺動部材の、窒化炭素被膜のうち紫外線の照射された表面層が、この紫外線によりグラファイト化した層となる。ここでいう「グラファイト化」とは、窒化炭素材料のアモルファス構造等の少なくとも一部が、グラファイト構造に変化する現象をいう。また、「紫外線によりグラファイト化した層」とは、窒化炭素被膜に紫外線を照射して、グラファイトに一部が変質した層である。
【0013】
なお、紫外線を照射することにより、紫外線のエネルギーにより窒化炭素材料がグラファイト化することができるのであれば、その紫外線の波長、強度、照射時間等は特に限定されるものでないが、発明者らの実験によれば、照射される紫外線の強度、照射時間等により、照射される紫外線の照射エネルギーが高いほど、窒化炭素被膜に含有するグラファイトが増加することがわかっており、これらの条件を適宜選定することにより、摺動特性、被膜の厚さ、被膜の密着性等を変化させることができる。
【0014】
本発明に係る摺動部材の製造方法において、前記照射する紫外線の波長を365nm以下の波長とした紫外線を照射することがより好ましい。
【0015】
本発明に係る摺動部材の製造方法において、窒化炭素被膜の表面に照射する紫外線の波長は365nm以下の波長の紫外線を窒化炭素被膜の表面に照射することにより、グラファイト化をより好適に発現することができ、照射された紫外線の波長が365nm以下で成膜された被膜により、好適に摺動部材の初期摩擦係数を低下させ、これにより初期摩耗を低減することができる。すなわち、365nmを超えた場合には、可視光に近づくので、窒化炭素被膜のグラファイト化し難くなる。また、より好ましくは、紫外線の波長は、254nm以上であり、これよりも短い場合には、CN結合だけでなく、CC結合も切れてしまい、窒化炭素被膜の強度が低下することになる。
【0016】
また、発明者らの後述する実験によれば、窒化炭素材料の窒素を含むことで、窒化炭素被膜がグラファイト化することがわかっており、本発明に係る摺動部材の製造方法において、前記窒化炭素被膜に含有する窒素含有量が、9原子%(at%)以上19原子%未満となるように、前記窒化炭素被膜を成膜することがより好ましい。
【0017】
本発明によれば、このような範囲の水素含有量を含む窒化炭素被膜を基材表面に成膜することにより、被膜強度を確保すると共に、窒化炭素被膜のグラファイト化をより好適に発現することができる。
【0018】
また、本発明に係る摺動方法は、基材の摺動面に、窒化炭素被膜が形成された摺動部材の摺動方法であって、前記窒化炭素被膜の表面に紫外線を照射しながら、前記摺動部材を摺動させることを特徴とする。本発明によれば、このような摺動方法を行うことにより、摺動時に、窒化炭素被膜の表面層のグラファイト化を随時発現させることができる。また、より好ましくは、前記照射された紫外線の波長は、365nm以下の波長であり、前記窒化炭素被膜に含有される窒素含有量が、9原子%以上19原子%未満である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基材表面に形成された窒化炭素被膜の初期馴染み性を含む摺動特性を、容易に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の摺動部材を製造(被膜を成膜)するための模式的な装置構成図であり、(a)は、成膜工程を説明するための図であり、(b)は、紫外線照射工程を説明するための図。
【図2】ボールオンディスク摩擦試験機を説明するための図。
【図3】実施例1〜3、比較例1の窒素ガス中の摩擦試験における平均摩擦係数を示した図。
【図4】実施例1〜3、比較例1の窒素ガス中の紫外線照射時間と摺動サイクル数(摩擦繰り返し数)との関係を示した図。
【図5】実施例4〜6、比較例2の窒素ガス中の摩擦試験における平均摩擦係数を示した図。
【図6】実施例7〜9、比較例3の窒素ガス中の摩擦試験における平均摩擦係数を示した図。
【図7】実施例10〜12、比較例6のPAO油中の摩擦試験における平均摩擦係数を示した図。
【図8】実施例13〜15、比較例7のPAO油中の摩擦試験における平均摩擦係数を示した図。
【図9】比較例8−1〜8−4のPAO油中の摩擦試験における平均摩擦係数を示した図。
【図10】比較例9−1〜9−4のPAO油中の摩擦試験における平均摩擦係数を示した図。
【図11】確認試験における、窒素含有量と摩擦係数の平均値からの時間経過後の摩擦係数減少率の結果を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の本発明の摺動部材、その製造方法、及び摺動方法を実施形態について説明する。図1は、本実施形態の摺動部材を製造(基材に被膜を成膜)するための模式的な装置構成図であり、(a)は、成膜工程を説明するための図であり、(b)は、紫外線照射工程を説明するための図である。
【0022】
本実施形態に係る摺動部材の製造方法は、基材の表面に窒化炭素被膜を成膜する工程と、この成膜された窒化炭素被膜の表面に、紫外線を照射する工程の2つの工程を少なくとも含むものである。
【0023】
まず、摺動部材の基材Wを準備する。この基材Wの材質としては、摺動時において窒化炭素被膜との密着性を確保することができるような材質および表面硬さを有する材料であれば、特に限定されるものではなく、例えば、鋼、鋳鉄、アルミニウム、高分子樹脂等の基材などを挙げることができる。
【0024】
そして、基材Wを、成膜装置(イオンビームミキシング装置)100内に配置する。図1に示すような成膜装置100を用いて、イオンビームミキシング法により、カーボンにイオンビーム蒸着、あるいは電子ビーム蒸着と、アシスト窒素イオンを同時に照射することにより、基材Wの表面に窒化炭素被膜を成膜する(成膜工程)。具体的には、図1(a)に示すように、真空チャンバ50内の圧力を減圧とし、その後窒素ガスを導入する。そして、アルゴンイオン源51からアルゴンイオンgaをカーボンターゲットTに照射し、カーボンターゲットTをカーボンスパッター粒子Cにすると同時に、窒素イオン源52から所定の加速エネルギーで窒素イオンgnを基材Wに向けて照射して、成膜を行う。尚、この成膜時には、基材Wを回転させ、成膜時間を所定の時間設定し、非晶質の窒化炭素被膜(CNx被膜)CNを成膜する。
【0025】
ここで、窒化炭素被膜を摺動部材の基材表面に成膜するにあたっては、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどを利用した物理気相成長法(PVD)により成膜してもよく、プラズマ処理などを利用した化学気相成長法(CVD)により成膜してもよく、これらの方法を組み合わせた方法により成膜してもよく、窒化炭素被膜に、窒素原子を含むことができるものであれば、特に成膜方法は限定されるものではない。
【0026】
また、このような成膜時において窒化炭素被膜中に、Si、Ti、Cr、Fe、Mo、W、Bなどの添加元素を含有させてもよく、このような元素を添加することにより、被膜の表面硬さを調整してもよい。
【0027】
また、成膜時に、前記窒化炭素被膜に含有される窒素含有量が、9原子%以上19原子%未満となるように、前記窒化炭素被膜を成膜することがより好ましい。窒素含有量は、チャンバに導入する窒素ガスの量や、窒素イオン源の加速エネルギーを変更することにより調整することができる。
【0028】
次に、図1(b)に示すように、成膜された窒化炭素被膜CNの表面に、紫外線照射装置60からの紫外線UVを照射することにより、窒化炭素被膜CNの表面層をグラファイト化する。これにより、摺動部材の摺動面となる窒化炭素被膜の表面の初期馴染み性を向上させることができる。すなわち、摺動部材の初期摩擦係数を低くすることができ、これにより初期摩耗も低減することができる。また、表面層のみをグラファイト化するので、窒化炭素被膜そのものの強度は確保される。
【0029】
ここで、紫外線照射装置60は、一般的に紫外線の波長は、10〜400nmの範囲にあり、このような波長の紫外線は、低圧水銀ランプ(波長:185,254nm)、高圧水銀ランプ(波長:302,365,436,546,577nm)、あるいは、エキシマレーザー(波長ArF:193nm,KrF:249nm,XeCl:308nm)などにより発生させることができる。本実施形態では、この範囲の波長のうち、365nm以下の波長の紫外線を照射することがより好ましい。また、波長の紫外線を発生させることができるのであれば、紫外線発生装置は、特に限定されるものではない。
【0030】
このような波長の紫外線を窒化炭素被膜の表面に照射することにより、その被膜の表面層のグラファイト化をより好適に発現することができ、摺動部材の初期摩擦係数の低減を図ることができる。特に、前述した範囲の水素含有量の窒化炭素被膜を基材の表面に形成することにより、被膜強度を確保すると共に、窒化炭素被膜の表面層のグラファイト化をより好適に発現することができる。
【0031】
このようにして得られた摺動部材は、基材の表面に、窒化炭素被膜が形成された摺動部材であって、この窒化炭素被膜は、紫外線の照射によりグラファイト化した表面層を含むことになる。
【0032】
なお、この基材Wの表面には、窒化炭素被膜Wを成膜前に、基材と窒化炭素被膜との密着力を高めるために、ケイ素(Si)からなる中間層を設けてもよく、さらにケイ素の代わりに、クロム(Cr)、チタン(Ti)またはタングステン(W)を用いてもよい。
【0033】
また、摺動時においては、基材の摺動面に、窒化炭素被膜が形成された摺動部材の摺動方法であって、窒化炭素被膜の表面に紫外線を照射しながら、この摺動部材を摺動させてもよい。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明を実施例により説明する。
(実施例1)
<ディスク試験片(摺動部材)の製作>
本発明に係る摺動部材として、以下に示すディスク試験片を製作した。具体的には、窒化炭素被膜を成膜する基材として、直径50mm、厚み0.3mm、円部表面(摺動面)が鏡面状態(100面方位)となる、ディスク形状のシリコンウェハを準備した。そして、イオンビームミキシング法により、この基材の表面に窒素含有量が9原子%の0.1μmの窒化炭素被膜(CNx被膜)を成膜した。
【0035】
成膜にあたっては、シリコンウェハの円部表面が支持台上に配置された純度99.9999%のカーボンターゲットと対向するように、真空チャンバ内のホルダにシリコンウェハを取り付けた。その後、真空チャンバ内の圧力を、ポンプで、2.0×10−4Pa以下に減圧調整し、窒素イオンを5分間シリコンウェハに向けて照射して、スパッタクリーニングした。その後、チャンバ内の圧力を、1.4×10−2Paに調整し、アルゴンイオン源(1kV,100mA)から4.0SCCM(Standard Cubic Centimeter per Minute)の流量でアルゴンイオンをターゲットに照射して、カーボンターゲットをカーボンスパッター粒子にすると同時に、窒素イオン源から加速電圧0.5KV、電流密度30μA/cm2、2.0SCCMの流量で窒素イオンをシリコンウェハに向けて照射して、シリコンウェハを4rpmに回転させ、シリコンウェハの円部表面に厚さ0.1μmの非晶質の窒化炭素被膜(CNx被膜)を成膜した。なお、本実施例及び以下の例では、窒素含有量を、XPS(X線電子分光分析装置)で測定し、確認をしている。
【0036】
次に、紫外線発生用光源として、バイリンク(コスモ・バイオ社製、BLX−312)を用いて、紫外線の波長254nmにスペクトルのピークを持つ放電管(CST−8C)を使用して、基材の表面に成膜された窒化炭素被膜に波長254nmの紫外線を30,60,120分間照射し、ディスク試験片を製作した。なお、最大UV照射エネルギーは0〜99.99ジュールであり、照射範囲は260mm×300mmである。また、ランプハウス内の雰囲気は大気で、ランプから被膜表面までの距離は160mmである。
【0037】
<摩擦試験>
以下の手順で摩擦試験を行った。まず、直径8mm、以下の表1に示す窒化珪素球を準備した。
【0038】
【表1】
【0039】
図2に示すボールオンディスク摩擦試験機を用いた。摩耗試験を行う事前準備として、ボール試験片Bをアセトンとエタノールで各10分間超音波洗浄した。その後、ボール試験片Bを試験機の本体から取り外したボールホルダー35に固定し、光学顕微鏡(図示せず)を用いてこの表面に傷が無いことを確認後、これらをデシケータ(図示せず)内に投入し、ボール試験片Bを乾燥させた。一方、ディスク試験片Dの表面に形成した窒化炭素被膜の表面(摺動面)の埃などの異物をハンドブロー(図示せず)で取り除いた。
【0040】
次に、ディスク試験片Dをディスクホルダー44に保持させると共に、ボール試験片Bが固定されたボールホルダー35をステージ31と一体となるように試験機の本体に取り付けた。平行板ばね32に接着したひずみゲージ33(協和電業製,KF−1−120−C1−16)を用いて、ボール試験片Bがディスク試験片Dの窒化炭素被膜の表面に対して付加される荷重の値が0.1Nの荷重が付加されるようにステージ31を調整して、これらを当接させた。なお、ボール試験片Bとディスク試験片Dの接触位置は、この3軸ステージ31によって決定され、垂直荷重は、z軸を上下させることにより調整した。
【0041】
そして、乾式下(乾燥摩擦条件下)で窒素ガス中(図に示す条件)において、モータ41を駆動してプーリ42を回転させ、ベルト43を介してディスクホルダー44のディスク試験片Dを、ボール試験片Bに対して相対速度(摺動速度)が8.4×10−2m/s(回転数400rpm)となる定速回転条件で、回転させた。
【0042】
このときの摩擦力を、ひずみゲージ34で測定し、センサインターフェイス(協和電業製,PCD−300A)を介して、コンピュータ内にデータを取り込み、記録した。そして、平均摩擦係数μを換算した。この結果を図3に示す。
【0043】
また、紫外線照射時間毎に、摩擦試験を行い、摩擦係数が0.01以下の条件が発現する摺動回数(1回転を1サイクルとしたサイクル数)を測定した。この結果を図4に示す。
【0044】
(実施例2及び3)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、実施例2が、波長321nmにスペクトルピークを持つ放電管(CST−8B)を用いて、波長321nmの紫外線を、窒化炭素被膜に照射した点であり、実施例3が、波長365nmにスペクトルピークを持つ放電管(CST−8A)を用いて、波長365nmの紫外線を、窒化炭素被膜に照射した点である。そして、これらに対して、実施例1と同様に一連の評価試験を行った。この結果を、図3及び4に示す。
【0045】
(比較例1)
実施例1と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例1と相違する点は、紫外線を窒化炭素被膜に照射していない点である。そして、実施例1と同様に一連の評価試験を行った。この結果を、図3及び4に示す。
【0046】
[結果1]
図1に示すように、実施例1の254nm、実施例2の312nm、及び実施例3の365nmの波長の紫外線を120分照射したものは、比較例1の照射していないものに比べて、平均摩擦係数が低かった。なお、実施例1〜3は、いずれの照射時間であっても、初期の摩擦係数は0.023程度であったが、サイクル数(摩擦繰返し数)とともに、摩擦係数が0.001以下となった。
【0047】
このような結果となったのは、実施例1、2及び3の窒化炭素被膜は、紫外線の照射により表面層に、軟質な低せん断層が形成され、この軟質な低せん断層は、比較例1よりもグラファイト構造を多く含む層である考えられる。このことから、実施例1〜3は、紫外線の照射により、窒化炭素被膜の表面層が、グラファイト構造をより多く含む層に変質した(グラファイト化した)と考えられる。
【0048】
さらに、実施例1〜3は、図2に示すように、比較例1に比べて、0.001まで摩擦係数が低下するサイクル数が少なく、紫外線の照射時間とともにサイクル数が少なくなる傾向にあった。
【0049】
このことから、実施例1〜3は、窒化炭素被膜の表面層が、紫外線照射エネルギーの付与の増加に伴い、グラファイト構造をより多く含む層に変質した(グラファイト化した)ことにより、比較例1に比べて、初期馴染み性が向上したと考えられる。このように、初期馴染み性を向上させ、低摩擦係数を得るための紫外線の波長は、紫外線照射エネルギーを鑑みると365nm以下が好ましく、254〜365nmの範囲にあることがより好ましいと考えられる。
【0050】
(実施例4〜6)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に窒化炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、成膜時に紫外線を照射せず、実施例4は、紫外線の波長254nm、実施例5は、紫外線の波長312nm、実施例6は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を照射しながら摩擦試験を行った点である。この摩擦試験における平均摩擦係数を図5及び表2に示す。なお、摩擦試験時の紫外線は、摺動中の窒化炭素被膜の表面に向って、上方に紫外線照射装置を配置し照射した。
【0051】
(比較例2)
実施例4と同じように摩擦試験を行った。実施例4と相違する点は、紫外線を照射せずに摩擦試験を行った点である。この摩擦試験の平均摩擦係数を図5及び表2に示す。
【0052】
(実施例7〜9)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に窒化炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、窒素イオン源から加速電圧、電流密度、窒素イオンの流量を変化させて、窒素含有量を12原子%となるように窒化炭素被膜を成膜した点、及び、成膜時に紫外線を照射せず、実施例7は、紫外線の波長254nm、実施例8は、紫外線の波長312nm、実施例9は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を照射しながら摩擦試験を行った点である。この摩擦試験における平均摩擦係数の結果を図6及び表2に示す。
【0053】
(比較例3)
実施例7と同じように摩擦試験を行った。実施例7と相違する点は、紫外線を照射せずに摩擦試験を行った点である。この摩擦試験の平均摩擦係数を図6及び表2に示す。
【0054】
(比較例4−1〜4−4)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、窒素含有量を0原子%となるように炭素被膜を成膜した点、及び、成膜時に紫外線を照射せず、比較例4−1は、紫外線を照射せずに摩擦試験を行った点であり、比較例4−2は、紫外線の波長254nm、比較例4−3は、紫外線の波長312nm、比較例4−4は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を照射しながら摩擦試験を行った点である。この摩擦試験における平均摩擦係数の結果を表2に示す。
【0055】
(比較例5−1〜5−4)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、窒素含有量を0原子%として炭素被膜を成膜した点、及び、成膜時に紫外線を照射せず、比較例5−4は、紫外線を照射せずに摩擦試験を行った点であり、比較例5−2は、紫外線の波長254nm、比較例5−3は、紫外線の波長312nm、比較例5−4は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を照射しながら摩擦試験を行ったである。この摩擦試験における平均摩擦係数を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
[結果2]
実施例4〜6は、図5及び表2に示すように、比較例2に比べて、平均摩擦係数が低くかった。また、実施例7〜9は、図6及び表2に示すように、比較例3に比べて、平均摩擦係数が低くかった。さらに、表2に示すように、比較例4−1〜4−4は、紫外線の照射の有無、及び紫外線の照射の波長にかかわらず、平均摩擦係数は、同程度であった。また、表2に示すように、比較例5−1〜5−4も、比較例4−1〜4−4と同様に、紫外線の照射の有無、及び紫外線の照射の波長にかかわらず、摩擦係数は、同程度であった。このように、実施例4〜9の平均摩擦係数は、0.07〜0.19の範囲であり、比較例2,3,4−1〜4−4,5−1〜5−4の平均摩擦係数は、0.10〜0.49の範囲にあった。
【0058】
このことから、窒素を含有することで、紫外線を照射したときに、C−Nの結合が分断され、より好ましくは、紫外線の波長が、少なくとも、254〜365nm(365nm以下)の範囲にあれば、窒化炭素被膜の表面のグラファイト化が発現され、低摩擦係数を得ることができると考えられる。また、より好ましい窒素の含有量は、9原子%以上、19原子%未満であると考えられる。
【0059】
(実施例10〜12)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に窒化炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、窒素イオン源から加速電圧、電流密度、窒素イオンの流量を変化させて、窒素含有量を9原子%となるように窒化炭素被膜を成膜した点、及び、実施例10は、紫外線の波長254nm、実施例11は、紫外線の波長312nm、実施例12は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を、成膜後の窒化炭素被膜に240分間照射した点と、摩擦試験をポリアルファオレフィン(PAO)油中で行った点である。この摩擦試験における平均摩擦係数を図7に示す。
【0060】
(比較例6)
実施例10と同じようにして、シリコンウェハの表面に窒化炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、紫外線を窒化炭素被膜に照射していない点である。そして、実施例10と同様に摩擦試験を行った。この摩擦試験における平均摩擦係数の結果を、図7に示す。
【0061】
(実施例13〜15)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に窒化炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、窒素イオン源から加速電圧、電流密度、窒素イオンの流量を変化させて、窒素含有量を12原子%となるように窒化炭素被膜を成膜した点、及び、実施例13は、紫外線の波長254nm、実施例14は、紫外線の波長312nm、実施例15は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を、成膜後の窒化炭素被膜に240分間照射した点と、摩擦試験をポリアルファオレフィン(PAO)油中で行った点である。この摩擦試験における平均摩擦係数の結果を、を図8に示す。
【0062】
(比較例7)
実施例13と同じようにして、ディスク試験片を製作した。実施例13と相違する点は、紫外線を窒化炭素被膜に照射していない点である。そして、実施例13と同様に摩擦試験を行った。この摩擦試験における平均摩擦係数の結果を、図8に示す。
【0063】
(比較例8−1〜8−4)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、窒素含有量を0原子%となるように炭素被膜を成膜した点、及び、比較例8−1は、紫外線を照射せずに摩擦試験を行った点、実施例8−2は、紫外線の波長254nm、実施例8−3は、紫外線の波長312nm、実施例8−4は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を、成膜後の窒化炭素被膜に240分間照射した点、摩擦試験をポリアルファオレフィン(PAO)油中で行った点である。この摩擦試験における平均摩擦係数を図9に示す。
【0064】
(比較例9−1〜9−4)
実施例1と同じように、シリコンウェハの表面に窒化炭素被膜を形成した。実施例1と相違する点は、窒素イオン源から加速電圧、電流密度、窒素イオンの流量を変化させて、窒素含有量を19原子%となるように窒化炭素被膜を成膜した点、及び、比較例8−1は、紫外線を照射せずに摩擦試験を行った点、比較例8−2は、紫外線の波長254nm、比較例8−3は、紫外線の波長312nm、比較例8−4は、紫外線の波長365nmの波長の紫外線を、成膜後の窒化炭素被膜に240分間照射した点と、摩擦試験をポリアルファオレフィン(PAO)油中で行った点である。この摩擦試験における平均摩擦係数を図10に示す。
【0065】
[結果3]
実施例10〜12は、図7に示すように、比較例6に比べて、平均摩擦係数が低くかった。また、実施例13〜15は、図8に示すように、比較例7に比べて、平均摩擦係数が低くかった。さらに、比較例8−1〜8−4は、紫外線の照射の有無、及び紫外線の照射の波長にかかわらず、平均摩擦係数は、同程度であった。比較例9−1〜9−4も、比較例8−1〜8−4と同様に、紫外線の照射の有無、及び紫外線の照射の波長にかかわらず、摩擦係数は、同程度であった。また、実施例10〜15のいずれも、初期の摩擦係数が0.03程度であったが、その後、最終的には、0.017程度になり、摩擦係数が約1/2に減少した。
【0066】
このことから、窒素を含有することで、紫外線を照射したときに、窒化炭素被膜の表面のグラファイト化が発現されるので、油浴中であっても、低摩擦係数を得ることができると考えられる。また、より好ましい窒素の含有量は、9原子%以上、19原子%未満であると考えられる。
【0067】
(確認試験)
実施例1と同じように、窒素イオン源から加速電圧、電流密度、窒素イオンの流量を変化させて、シリコンウェハの表面に、窒素含有量が、0原子%、9原子%、12原子%、及び19原子%の炭素被膜を形成した。次に、紫外線の波長を254〜312nm範囲で選定した紫外線を、照射時間を120〜240分の範囲で選定した時間で照射して、ディスク試験片を作製した。これらのものに対して、摩擦試験をポリアルファオレフィン(PAO)油中で行い、窒素含有量毎における最小となる摩擦係数と、窒素含有量毎の摩擦係数の平均値とを、摩擦係数の平均値からの摩擦係数減少率を測定した。この結果を図11に示す。
【0068】
[結果4]
窒素含有量が0原子%の場合は、紫外線波長254nm、照射時間120分で、最小摩擦係数0.024となり、窒素含有量が9原子%の場合は、紫外線波長312nm、照射時間120分で、最小摩擦係数0.026となり、窒素含有量が12原子%の場合は、紫外線波長254nm、照射時間240分で、最小摩擦係数0.016となり、窒素含有量が19原子%の場合は、紫外線波長312nm、照射時間240分で、最小摩擦係数0.034となった。
【0069】
そして、図11からも明らかなように、窒素の含有量は、9原子%以上、19原子%未満の範囲では、大気中であっても、油浴中であっても、摩擦係数の低減をすることができる。
【0070】
以上、本発明の実施の形態を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
31…ステージ,32…平行板ばね,33…ひずみゲージ,35…ボールホルダー,41…モータ,42…プーリ,43…ベルト,44…ディスクホルダー,CN:窒化炭素被膜、B…ボール試験片,D…ディスク試験片、W:基材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、窒化炭素被膜を成膜する工程と、
前記窒化炭素被膜の表面に紫外線を照射する工程と、を含むことを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項2】
前記照射する紫外線の波長は、365nm以下の波長であることを特徴とする請求項1に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項3】
前記窒化炭素被膜に含有する窒素含有量が、9原子%以上19原子%未満となるように、前記窒化炭素被膜を成膜することを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項4】
基材の表面に、窒化炭素被膜が形成された摺動部材であって、
前記窒化炭素被膜は、少なくとも表面層に紫外線の照射された層を含むことを特徴とする摺動部材。
【請求項5】
前記照射された紫外線の波長は、365nm以下の波長であることを特徴とする請求項4に記載の摺動部材。
【請求項6】
前記窒化炭素被膜に含有される窒素含有量が、9原子%以上19原子%未満であることを特徴とする請求項4又は5に記載の摺動部材。
【請求項7】
基材の摺動面に、窒化炭素被膜が形成された摺動部材の摺動方法であって、
前記窒化炭素被膜の表面に紫外線を照射しながら、前記摺動部材を摺動させることを特徴とする摺動部材の摺動方法。
【請求項1】
基材の表面に、窒化炭素被膜を成膜する工程と、
前記窒化炭素被膜の表面に紫外線を照射する工程と、を含むことを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項2】
前記照射する紫外線の波長は、365nm以下の波長であることを特徴とする請求項1に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項3】
前記窒化炭素被膜に含有する窒素含有量が、9原子%以上19原子%未満となるように、前記窒化炭素被膜を成膜することを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項4】
基材の表面に、窒化炭素被膜が形成された摺動部材であって、
前記窒化炭素被膜は、少なくとも表面層に紫外線の照射された層を含むことを特徴とする摺動部材。
【請求項5】
前記照射された紫外線の波長は、365nm以下の波長であることを特徴とする請求項4に記載の摺動部材。
【請求項6】
前記窒化炭素被膜に含有される窒素含有量が、9原子%以上19原子%未満であることを特徴とする請求項4又は5に記載の摺動部材。
【請求項7】
基材の摺動面に、窒化炭素被膜が形成された摺動部材の摺動方法であって、
前記窒化炭素被膜の表面に紫外線を照射しながら、前記摺動部材を摺動させることを特徴とする摺動部材の摺動方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−215952(P2010−215952A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62601(P2009−62601)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】
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