摺動部材
【課題】硬質炭素被膜における摩擦係数の低減効果をより高める。
【解決手段】摺動部材は、互いの摺動面で対向する第1部材101および第2部材102と、第1部材101および第2部材102の少なくとも一方の摺動面に形成されて第1部材101と第2部材102との間のすべり摩擦を低下させる硬質炭素被膜103とを少なくとも備える。加えて、硬質炭素被膜103は、シリコン(Si)が添加されている。硬質炭素被膜103にSiが添加されているので、Siが添加されていない場合に比較して、より高い摩擦係数の低減効果が得られるようになる。
【解決手段】摺動部材は、互いの摺動面で対向する第1部材101および第2部材102と、第1部材101および第2部材102の少なくとも一方の摺動面に形成されて第1部材101と第2部材102との間のすべり摩擦を低下させる硬質炭素被膜103とを少なくとも備える。加えて、硬質炭素被膜103は、シリコン(Si)が添加されている。硬質炭素被膜103にSiが添加されているので、Siが添加されていない場合に比較して、より高い摩擦係数の低減効果が得られるようになる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転や往復運動する相手部品に接して荷重を受けて支持する軸受けなどの摺動部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータなどの回転体の軸受けでは、支持対象の軸との間の摺動部(すべり部)の摩擦を低減することが重要となる。摺動部における摩擦は、エネルギーの損失を招き、また、熱を生じさせ、部品の焼き付けを招くことになる。このため、例えば、転がり軸受けやすべり軸受けなどの機構を用いることで、摺動部の摩擦を低減している。
【0003】
転がり軸受けは、よく知られているように、簡便に用いることができ、保守の手間がかからないという特徴がある。しかしながら、転がり軸受けは、耐衝撃,許容回転数,騒音,耐久性,軸の保持剛性などの点で劣る。これに対し、すべり軸受けは、耐衝撃,許容回転数,騒音,耐久性,軸の保持剛性などの点で優れている。また、すべり軸受けは、転動体を必要としないなど、設計の自由度が大きい。
【0004】
すべり軸受けは、上述したような特徴を有しているが、摺動部における摩擦を低減させるために、一般には、潤滑剤が用いられている。しかしながら、潤滑剤は、経時変化を伴い、また、温度によって潤滑効果が異なるため、常に整備保守が必要になる。また、潤滑剤は、減圧排気されている環境では使用し難いなど、使用可能な範囲が限られる。例えば、ビル空調用のバルブには、175℃にもなる高温の流体が流れるため、バルブを駆動するアクチュエータの内部温度も、100℃程度にまで上昇する場合もある。このような高温環境では、バルブやアクチュエータの摺動面における潤滑油の性能が低下する。
【0005】
これに対し、摺動面に、潤滑剤の変わりに、硬質炭素被膜を用いる技術がある。硬質炭素被膜は、ダイアモンドライクカーボン(DLC),非晶質炭素薄膜など呼ばれ、潤滑剤を用いることなく優れた摺動性が得られるため、多くの研究および開発がなされている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−147525号公報
【特許文献2】特開2007−113599号公報
【特許文献3】特開2005−114116号公報
【特許文献4】特開2002−188692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した硬質炭素被膜を用いる技術では、高温環境での摺動時に、所望とする摩擦係数の低減効果が得られていないという問題がある。また、高速に回転する回転軸受けにおける摺動時には、摩擦による発熱があり、上述同様の問題が発生する。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、硬質炭素被膜における摩擦係数の低減効果をより高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る摺動部材は、互いの摺動面で対向する第1部材および第2部材と、第1部材および第2部材の少なくとも一方の摺動面に形成されて第1部材と第2部材との間のすべり摩擦を低下させる硬質炭素被膜とを少なくとも備え、硬質炭素被膜は、シリコンが添加されている。
【0010】
上記摺動部材において、例えば、第1部材および第2部材によりすべり軸受けが構成されている。なお、硬質炭素被膜は、シリコンが0at%より大きく40at%より小さい範囲で添加されていればよい。また、硬質炭素被膜が形成される第1部材および第2部材は、ステンレス鋼,高炭素クロム軸受け鋼,およびアルミナセラミクスより選択された材料より構成されているとよい。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、シリコンが添加されている硬質炭素被膜を用いるようにしたので、硬質炭素被膜における摩擦係数の低減効果をより高めることができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における摺動部材の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、ボールを用いた摩擦摩耗試験の試験方法を説明するための説明図である。
【図3】図3は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったSUSからなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図4】図4は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったSUSからなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図5】図5は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったSUSからなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図6】図6は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったSUSからなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図7】図7は、Siを添加していない硬質炭素被膜に対して行ったSUSからなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図8】図8は、炭素硬質被膜に対するSiの添加量と摩擦特性との関係について示す特性図である。
【図9】図9は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったSUJ2からなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図10】図10は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったSUJ2からなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図11】図11は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったアルミナセラミクスからなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図12】図12は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったアルミナセラミクスからなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図13】図13は、円筒を用いた摩擦摩耗試験の試験方法を説明するための説明図である。
【図14】図14は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行った円筒を用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図15】図15は、Siを添加していない硬質炭素被膜に対して行った円筒を用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図16】図16は、流体制御弁としての回転型弁601の構成を示す構成図である。
【図17】図17は、二方ボール弁701の構成を示す構成図である。
【図18】図18は、バルブ駆動用アクチュエータ801の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における摺動部材の構成を示す断面図である。図1では、摺動部材の一部を示している。この摺動部材は、互いの摺動面で対向する第1部材101および第2部材102と、第1部材101および第2部材102の少なくとも一方の摺動面に形成されて第1部材101と第2部材102との間のすべり摩擦を低下させる硬質炭素被膜103とを備える。加えて、硬質炭素被膜103は、シリコン(Si)が添加されている。
【0014】
上述した本実施の形態によれば、硬質炭素被膜103にSiが添加されているので、Siが添加されていない場合に比較して、より高い摩擦係数の低減効果が得られるようになる。この結果、高温環境での摺動時に、所望とする摩擦係数の低減効果が得られるようになる。また、高速に回転する回転軸受けにおける摺動時に摩擦による発熱が発生しても、上述同様に、所望とする摩擦係数の低減効果が得られるようになる。
【0015】
次に、摩擦摩耗試験の結果について説明する。
【0016】
まず、試験方法について説明する。図2に示すように、SUS304(ステンレス鋼)からなる基板201の上に形成した硬質炭素被膜202の表面に、SUS304からなるボール203を押し付け、所定の半径の円を描くように移動させる。ボール203は、荷重10Nで硬質炭素被膜202の表面に押し付ける。また、移動の速度は、0.3mm/secとする。試験は、大気中で行い、潤滑剤は使用しない。また、基板201を、25℃、40℃、100℃、150℃の条件で加熱し、各加熱条件で上述した摩擦摩耗試験を行う。
【0017】
はじめに、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して上述した摩擦摩耗試験を行うと、図3,図4,図5,図6に示す結果が得られた。図3は、基板温度条件が25℃であり、図4は、基板温度条件が40℃であり、図5は、基板温度条件が100℃であり、図6は、基板温度条件が150℃である。
【0018】
一方、図7は、Siを添加していない炭素硬質被膜に対する上述した摩擦摩耗試験の結果である。図7の(a)は、基板温度条件が25℃であり、図7の(b)は、基板温度条件が100℃である。
【0019】
まず、図7に示す結果および図3〜6に示す結果の比較より明らかなように、Siを添加した炭素硬質被膜は、温度が高い条件ほど、Siを添加していない場合に比較して摩擦耐性が高く、高い摺動性が得られていることがわかる。
【0020】
次に、炭素硬質被膜に対するSiの添加量と、摩擦特性との関係について説明する。上述同様の摩擦摩耗試験を行い、ボールの回転移動を1000回行った後の摩擦係数を比較すると、図8に示すように、Siの添加量が10at%で最も摩擦係数が小さくなる。また、Siの添加量(at%)が0at%より大きく40at%より小さい範囲であれば、Siを添加していない場合の摩擦係数(=0.15;平均値)より小さくなる。
【0021】
次に、ボールの材料を変えて上述同様の摩擦摩耗試験を行った結果について示す。まず、高炭素クロム軸受け鋼(JIS記号:SUJ2)からなるボールを用いて上述した摩擦摩耗試験を行うと、図9および図10に示す結果が得られた。図9は、基板温度条件を25℃とした結果であり、図10は、基板温度条件を100℃とした結果である。この場合においても、温度が高い条件ほど、摩擦耐性が高く、高い摺動性が得られていることがわかる。
【0022】
次に、アルミナセラミクス(アルミナ)からなるボールを用いて上述した摩擦摩耗試験を行うと、図11および図12に示す結果が得られた。図11は、基板温度条件を25℃とした結果であり、図12は、基板温度条件を100℃とした結果である。この場合においても、温度が高い条件ほど、摩擦耐性が高く、高い摺動性が得られていることがわかる。
【0023】
次に、異なる試験方法による摩擦摩耗試験の結果について説明する。試験方法は、図13に示すように、SUS304からなる基板1301の上に形成した硬質炭素被膜1302の表面に、SUS304からなる所定の半径の円筒1303の環状端面を押し付けて回転させる。環状端面の幅は、約2mmである。円筒1303は、荷重50Nで硬質炭素被膜1302の表面に押し付ける。また、線速度0.5m/secで円筒1303を回転させ、全滑り距離は1500mとする。試験は、大気中で行い、潤滑剤は使用しない。なお、本試験では、基板の加熱などは行わない。
【0024】
Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して上述した摩擦摩耗試験を行うと、図14に示す結果が得られた。Siを添加しない硬質炭素被膜に対して上述した摩擦摩耗試験を行うと、図15に示す結果が得られた。この試験においても、Siを添加した炭素硬質被膜は、Siを添加していない場合に比較して摩擦耐性が高く、高い摺動性が得られていることがわかる。
【0025】
次に、本実施の形態における摺動部材の適用例について説明する。本実施の形態における摺動部材は、例えば、流体制御弁(特許文献2参照)の弁軸および軸受け部などに適用可能である。図16は、流体制御弁としての回転型弁601の構成を示す構成図である。
【0026】
回転型弁601は、貫通孔からなる流通路603を有し、配管604の途中に接続された弁本体602と、弁本体602の内部中央に設けられ流通路603を開閉制御する回転自在なバルブプラグ605と、バルブプラグ605を外部から回転操作する弁軸606を備える。
【0027】
弁本体602は、全体形状が逆T字状の管体に形成されており、両側および上方の3方向に開放している。
【0028】
バルブプラグ605は、略半球状で内部がくりぬかれた殻構造体からなる弁体605Aと、弁体605Aの上下面に各々一体に設けられた円筒状の軸受け部605B,605Cとで構成されている。弁体605Aには、開口部607および球面着座部608が形成されている。開口部607は、弁体605Aの内外を連通させる略銀杏の葉のような形状の開口からなり、イコールパーセンテイジ特性を有している。球面着座部608は、弁体605Aの外周面側に弁軸606の回転方向に長く延在する帯状に形成されている。上側の軸受け部605Bは、弁軸606の内端部6Aに嵌合されて溶接等により一体的に接合されている。一方、下側の軸受け部605Cは弁本体602の内底面中央部に設けたガイド609によって回転自在に軸支されている。
【0029】
弁軸606は、バルブプラグ605と共に回転型弁601の駆動系を形成するものであり、上端部が蓋部材611に設けた弁軸用孔612をシート状ガイド、Oリング、グランド部品などのシール部材614を介して回転自在に貫通している。また、蓋部材611の上方に突出する突出端606Bには、図示を省略した電動アクチュエータが連結されている。蓋部材611は、弁本体602の上方に開口する蓋取付孔15にガスケット16を介して嵌合され、ボルト(図示せず)によって固定されている。
【0030】
弁本体602の流通路603内でバルブプラグ605より上流側である流入口側流通路部603Aには、シートリング620と、シートリング620をバルブプラグ605の球面着座部608に押し付けるシートリテーナ621が組み込まれている。
【0031】
シートリング620は、筒状体に形成されて、弁本体602の流入口流通路部603Aに摺動自在に嵌挿され、外周面にはシートスプリング622が装着されている。シートリテーナ621は、同じく円筒体からなり、流入口側流通路部603Aに螺合によって組み込まれている。また、シートリテーナ621は、内端部がシートリング620の外周面に嵌合し、シートスプリング622を押圧することにより、シートリング620をバルブプラグ605の球面着座部608に所定圧をもって圧接している。
【0032】
一方、流通路603の下流側である流出口側開口部603Bには、ディフューザ631が組み込まれている。ディフューザ631は、流通路603内を流れる流体630の流れを減速して流体630の運動エネルギーを圧力に変換し、キャビテーションの発生を抑制する。ディフューザ631は、底部634が開放する中空円錐形に形成され、周面には多数の小孔632が形成され、頂部633が上流側を指向し、底部634が下流側となるように流出口側流通路部603B内に組み込まれている。
【0033】
上述した回転型弁601の、弁軸606の摺動部、ガイド609の摺動部などに、本実施の形態の硬質炭素被膜を適用することで、Siが添加されていない硬質炭素被膜を用いる場合に比較して、より高い摩擦係数の低減効果が得られるようになる。
【0034】
次に、本実施の形態における摺動部材の他の適用例について説明する。本実施の形態における摺動部材は、例えば、二方ボール弁(特許文献3参照)の弁軸および軸受け部などに適用可能である。図17は、二方ボール弁701の構成を示す構成図である。
【0035】
二方ボール弁701は、配管途中に接続される弁本体702と、弁本体702の内部中央に回転自在に組み込まれたボールプラグ703と、ボールプラグ703を略90°の角度範囲内で回動させる回動手段としての弁軸704を備えている。
【0036】
弁本体702は、両端が開放する直管からなり、内部の一端部が一次側流路705Aを形成し、内部の他端部が二次側流路705Bを形成し、内部の中央がボールプラグ703を収納するボールキャビティ706を形成している。また、弁本体702は、雄ねじ711と雌ねじ712との螺合によって一体的に接続され、かつ、接合部がシール部材713によってシールされた上流側弁本体702Aと下流側弁本体702Bの2部材で構成されている。
【0037】
上流側弁本体702Aは、内部が一次側流路705Aとボールキャビティ706を形成し、上面中央に筒部714が上方に向かって一体に突設されている。上流側弁本体702Aの上流側開口部715の内周面には、図示しない上流側配管が接続されるテーパねじ716が形成され、下流側開口部717の内周面には雌ねじ711が形成されている。
【0038】
下流側弁本体702Bは、内部が二次側流路705Bを形成し、上流側開口端部718の外周面には上流側弁本体702Aの雌ねじ711に螺合する雄ねじ712が形成され、下流側開口部719の内周面には、下流側配管(不図示)が接続されるテーパねじ720が形成されている。
【0039】
ボールプラグ703は、略球状で内部に貫通流路723が形成され、弁本体702のボールキャビティ706内に、各々一対からなる一次側シートリング724,二次側シートリング725、および第1Oリング(シール部材)726,第2Oリング(シール部材)727を介して回動可能に組み込まれ、外周面が球面着座部を形成し、シートリング724,725に押し付けられている。
【0040】
貫通流路723は、ボールプラグ703の中心を通り弁軸704の軸線と直交するように形成された貫通孔からなり、流入側開口部723aが所定の流量特性を示す形状、例えば断面形状がボールプラグ703の回転方向(矢印C方向)に,おおむね扇形となる形状で、流出側開口部723bが円形に形成されている。
【0041】
一次側シートリング724および二次側シートリング725は、上流側弁本体702Aと下流側弁本体702Bの内壁に形成した環状のシートリング用溝728,729に各々嵌挿され、下流側弁本体702Bを上流側弁本体702Aに螺合することにより、ボールプラグ703の球面着座部に押し付けられている。ボールキャビティ706とシートリング用溝728,729は、互いに連通している。一次側シートリング724および二次側シートリング725の外周面と、弁本体702の内壁との間には、適宜な隙間が各々設定されている。
【0042】
また、弁本体702の内壁には、第1Oリング726および第2Oリング727を収納する第1環状溝730および第2環状溝731と、これら溝の内周を規制する内周壁732,733が形成されている。第1環状溝730は、シートリング用溝728の上流側に形成され、隙間を介してシートリング用溝728およびボールキャビティ706に連通している。第2環状溝731は、シートリング用溝729の下流側に形成され、隙間を介してシートリング用溝729およびボールキャビティ706に連通している。
【0043】
第1環状溝730の底面730aおよび第2環状溝731の底面731aは、内側から外側に向かって深さが深くなるように傾斜した斜面に形成されており、最内側の深さが第1Oリング726および第2Oリング727の外径より小さく設定され、最外側の深さが第1Oリング726および第2Oリング727の外径より大きく設定されている。第1Oリング726および第2Oリング727は、第1環状溝730および第2環状溝730に自然な状態で嵌着されると、第1環状溝730および第2環状溝730の内周壁732,733付近に位置し、一次側シートリング724および二次側シートリング725によって圧縮され、溝底面730a,731aに押し付けられることにより、第1環状溝730および第2環状溝730をシールする。
【0044】
第1環状溝730の内周を規定する内周壁732は、一次側シートリング724と適宜な隙間を保って対向することにより、一次側流路705Aと第1環状溝730とを連通させている。このため、第1Oリング726には、一次側流体圧が常時加えられている。同じく第2環状溝731の内周を規定する内周壁733は、二次側シートリング725と適宜な隙間を保って対向することにより、二次側流路705Bと第2環状溝731を連通させている。このため、第2Oリング727には二次側流体圧が常時加えられている。
【0045】
また、ボールプラグ703は、上面中央に形成した凹部735を有し、凹部735に弁軸704の下端部704aが回転を防止されて嵌合している。弁軸704は、Oリング736を介して筒部714を回転可能に貫通し、上端がバルブ駆動用アクチュエータ(不図示)などの駆動装置に連結され、略90°の角度範囲内で回動されるように構成されている。
【0046】
上述した二方ボール弁701の、弁軸704の摺動部、ボールプラグ703の例えばシートリングとの摺動部などに、本実施の形態における硬質炭素被膜を適用することで、Siが添加されていない硬質炭素被膜を用いる場合に比較して、より高い摩擦係数の低減効果が得られるようになる。
【0047】
また、本実施の形態における摺動部材は、次に示すようなバルブ駆動用アクチュエータ(特許文献4参照)に適用してもよい。図18は、バルブ駆動用アクチュエータ801の構成を示す構成図である。
【0048】
バルブ駆動用アクチュエータ801は、ハウジング(不図示)内に収容された第1支持プレート811と、第1支持プレート811から一定距離離間して平行に配置された第2支持プレート812と、第1支持プレート811に載置されたモータ813と、両プレートを貫通して回転可能に配置された出力軸814と、両プレート間に配置され、モータ813の回転を出力軸に伝達する高速側歯車ユニットおよび低速側歯車ユニットからなる減速機構820と、高速側歯車ユニットの歯車係合を解除する手動操作部830とを備えている。
【0049】
出力軸814の一端(図中、下端)には、ボールバルブ(不図示)などの回転弁に接続され、他端には弁体を手動操作するための平面取り部814aが形成されている。また、出力軸814には、両支持プレート間において出力軸814の弁体方向への移動を規制する鍔部814b,814cが形成されると共に、出力軸814と一体に回転する第1歯車821がキー815を介して出力軸814に固定されている。
【0050】
第1歯車821には、これと同一ピッチを有し且つ第1歯車821より小径の第2歯車822が係合している。第2歯車822には、一側(第2支持プレート812側)に第2歯車822より大径且つ歯数の多い第3歯車823が同軸且つ一体に形成されている。また、第2歯車822および第3歯車823は、両プレートに固定された固定軸816に回動自在に取り付けられている。加えて、第2歯車822および第3歯車823は、鍔部816aにより軸線方向に移動しないように固定軸816に取り付けられている。尚、第1歯車821〜第3歯車823によって、低速側歯車ユニットを形成している。
【0051】
第3歯車823には、これと同一ピッチを有し且つ第3歯車823より小径の第4歯車824が係合している。第4歯車824には、他側(第1支持プレート811側)に第4歯車824より大径且つ歯数の多い第5歯車825が同軸且つ一体に形成されている。また、第4歯車824および第5歯車825は、両プレートに固定された固定軸817に回動自在且つ軸線方向に移動可能に取り付けられている。
【0052】
固定軸817には、第1プレート811と第5歯車825との間にコイルばね818が介装されている。コイルばね818の付勢力によって、第3歯車823と第4歯車824が通常係合状態を維持するように、第4歯車824および第5歯車825を第2プレート812に押し付けている。第5歯車825には、これと同一ピッチを有し且つ第5歯車825より小径の第6歯車826が係合している。尚、第6歯車826は、第5歯車825が軸線方向に移動しても、これと係合状態を維持する程度の歯幅を有している。
【0053】
第6歯車826には、他方(第1支持プレート811側)に第6歯車826より大径且つ歯数の多い第7歯車827が同軸且つ一体に形成されている。第6歯車826および第7歯車827は、両プレートに固定された固定軸819に回動自在に取り付けられている。加えて、第6歯車826および第7歯車827は、鍔部819aにより軸線方向に移動しないように固定軸819取り付けられている。
【0054】
第7歯車827は、これより歯数の少ない、モータ813の回転軸813aに固定された第8歯車828に常時係合している。尚、第4歯車824〜8歯車828によって高速側歯車ユニットを構成している。高速側歯車ユニットには、第4歯車824から第3歯車823を係合解除するための手動操作部830が備わっている。手動操作部830は、一端が第2支持プレート812の孔812aを貫通して第5歯車825の端面に位置し他端が第2支持プレート812から突出した操作シャフト831、および、操作シャフト831を第2支持プレート812から突出した状態に維持するコイルばね832を備えている。尚、シャフト一側の拡径部831aは、コイルばね832と協働して第2支持プレート812の孔812aと係合し、操作シャフト831を下方に突出状態に保ち、拡径部831aの先端を第5歯車825の下面から離れた状態に保つ役目を果たしている。
【0055】
また、シャフト他側の拡径部は、作業者が係合解除に際して操作するためのノブ831bを形成している。操作シャフト831の長さおよびコイルばね832のばね定数は、操作シャフト831のノブ831bをコイルばね832の付勢力に抗して押し込んだとき、第4歯車824および第5歯車825が、固定軸817に沿って第1支持プレート811側に移動して第4歯車824が第3歯車823から係合解除するように規定されている。
【0056】
上述したバルブ駆動用アクチュエータ801は、モータ813を回転させると、通常のアクチュエータ作動状態では、回転数(回転速度)が高速側歯車ユニットおよび低速側歯車ユニットを介して減少(減速)しながら出力軸814に伝達される。また、出力軸814の回動に応じ、例えば、図示しないボール弁の開閉動作が行われる。
【0057】
上述したバルブ駆動用アクチュエータ801の、出力軸814および各固定軸における摺動面や、各歯車の歯面などに、本実施の形態における硬質炭素被膜を適用することで、Siが添加されていない硬質炭素被膜を用いる場合に比較して、より高い摩擦係数の低減効果が得られるようになる。
【0058】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの組み合わせおよび変形が実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0059】
101…第1部材、102…第2部材、103…硬質炭素被膜。
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転や往復運動する相手部品に接して荷重を受けて支持する軸受けなどの摺動部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータなどの回転体の軸受けでは、支持対象の軸との間の摺動部(すべり部)の摩擦を低減することが重要となる。摺動部における摩擦は、エネルギーの損失を招き、また、熱を生じさせ、部品の焼き付けを招くことになる。このため、例えば、転がり軸受けやすべり軸受けなどの機構を用いることで、摺動部の摩擦を低減している。
【0003】
転がり軸受けは、よく知られているように、簡便に用いることができ、保守の手間がかからないという特徴がある。しかしながら、転がり軸受けは、耐衝撃,許容回転数,騒音,耐久性,軸の保持剛性などの点で劣る。これに対し、すべり軸受けは、耐衝撃,許容回転数,騒音,耐久性,軸の保持剛性などの点で優れている。また、すべり軸受けは、転動体を必要としないなど、設計の自由度が大きい。
【0004】
すべり軸受けは、上述したような特徴を有しているが、摺動部における摩擦を低減させるために、一般には、潤滑剤が用いられている。しかしながら、潤滑剤は、経時変化を伴い、また、温度によって潤滑効果が異なるため、常に整備保守が必要になる。また、潤滑剤は、減圧排気されている環境では使用し難いなど、使用可能な範囲が限られる。例えば、ビル空調用のバルブには、175℃にもなる高温の流体が流れるため、バルブを駆動するアクチュエータの内部温度も、100℃程度にまで上昇する場合もある。このような高温環境では、バルブやアクチュエータの摺動面における潤滑油の性能が低下する。
【0005】
これに対し、摺動面に、潤滑剤の変わりに、硬質炭素被膜を用いる技術がある。硬質炭素被膜は、ダイアモンドライクカーボン(DLC),非晶質炭素薄膜など呼ばれ、潤滑剤を用いることなく優れた摺動性が得られるため、多くの研究および開発がなされている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−147525号公報
【特許文献2】特開2007−113599号公報
【特許文献3】特開2005−114116号公報
【特許文献4】特開2002−188692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した硬質炭素被膜を用いる技術では、高温環境での摺動時に、所望とする摩擦係数の低減効果が得られていないという問題がある。また、高速に回転する回転軸受けにおける摺動時には、摩擦による発熱があり、上述同様の問題が発生する。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、硬質炭素被膜における摩擦係数の低減効果をより高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る摺動部材は、互いの摺動面で対向する第1部材および第2部材と、第1部材および第2部材の少なくとも一方の摺動面に形成されて第1部材と第2部材との間のすべり摩擦を低下させる硬質炭素被膜とを少なくとも備え、硬質炭素被膜は、シリコンが添加されている。
【0010】
上記摺動部材において、例えば、第1部材および第2部材によりすべり軸受けが構成されている。なお、硬質炭素被膜は、シリコンが0at%より大きく40at%より小さい範囲で添加されていればよい。また、硬質炭素被膜が形成される第1部材および第2部材は、ステンレス鋼,高炭素クロム軸受け鋼,およびアルミナセラミクスより選択された材料より構成されているとよい。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、シリコンが添加されている硬質炭素被膜を用いるようにしたので、硬質炭素被膜における摩擦係数の低減効果をより高めることができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における摺動部材の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、ボールを用いた摩擦摩耗試験の試験方法を説明するための説明図である。
【図3】図3は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったSUSからなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図4】図4は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったSUSからなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図5】図5は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったSUSからなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図6】図6は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったSUSからなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図7】図7は、Siを添加していない硬質炭素被膜に対して行ったSUSからなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図8】図8は、炭素硬質被膜に対するSiの添加量と摩擦特性との関係について示す特性図である。
【図9】図9は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったSUJ2からなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図10】図10は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったSUJ2からなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図11】図11は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったアルミナセラミクスからなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図12】図12は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行ったアルミナセラミクスからなるボールを用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図13】図13は、円筒を用いた摩擦摩耗試験の試験方法を説明するための説明図である。
【図14】図14は、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して行った円筒を用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図15】図15は、Siを添加していない硬質炭素被膜に対して行った円筒を用いた摩擦摩耗試験の結果を示す特性図である。
【図16】図16は、流体制御弁としての回転型弁601の構成を示す構成図である。
【図17】図17は、二方ボール弁701の構成を示す構成図である。
【図18】図18は、バルブ駆動用アクチュエータ801の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における摺動部材の構成を示す断面図である。図1では、摺動部材の一部を示している。この摺動部材は、互いの摺動面で対向する第1部材101および第2部材102と、第1部材101および第2部材102の少なくとも一方の摺動面に形成されて第1部材101と第2部材102との間のすべり摩擦を低下させる硬質炭素被膜103とを備える。加えて、硬質炭素被膜103は、シリコン(Si)が添加されている。
【0014】
上述した本実施の形態によれば、硬質炭素被膜103にSiが添加されているので、Siが添加されていない場合に比較して、より高い摩擦係数の低減効果が得られるようになる。この結果、高温環境での摺動時に、所望とする摩擦係数の低減効果が得られるようになる。また、高速に回転する回転軸受けにおける摺動時に摩擦による発熱が発生しても、上述同様に、所望とする摩擦係数の低減効果が得られるようになる。
【0015】
次に、摩擦摩耗試験の結果について説明する。
【0016】
まず、試験方法について説明する。図2に示すように、SUS304(ステンレス鋼)からなる基板201の上に形成した硬質炭素被膜202の表面に、SUS304からなるボール203を押し付け、所定の半径の円を描くように移動させる。ボール203は、荷重10Nで硬質炭素被膜202の表面に押し付ける。また、移動の速度は、0.3mm/secとする。試験は、大気中で行い、潤滑剤は使用しない。また、基板201を、25℃、40℃、100℃、150℃の条件で加熱し、各加熱条件で上述した摩擦摩耗試験を行う。
【0017】
はじめに、Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して上述した摩擦摩耗試験を行うと、図3,図4,図5,図6に示す結果が得られた。図3は、基板温度条件が25℃であり、図4は、基板温度条件が40℃であり、図5は、基板温度条件が100℃であり、図6は、基板温度条件が150℃である。
【0018】
一方、図7は、Siを添加していない炭素硬質被膜に対する上述した摩擦摩耗試験の結果である。図7の(a)は、基板温度条件が25℃であり、図7の(b)は、基板温度条件が100℃である。
【0019】
まず、図7に示す結果および図3〜6に示す結果の比較より明らかなように、Siを添加した炭素硬質被膜は、温度が高い条件ほど、Siを添加していない場合に比較して摩擦耐性が高く、高い摺動性が得られていることがわかる。
【0020】
次に、炭素硬質被膜に対するSiの添加量と、摩擦特性との関係について説明する。上述同様の摩擦摩耗試験を行い、ボールの回転移動を1000回行った後の摩擦係数を比較すると、図8に示すように、Siの添加量が10at%で最も摩擦係数が小さくなる。また、Siの添加量(at%)が0at%より大きく40at%より小さい範囲であれば、Siを添加していない場合の摩擦係数(=0.15;平均値)より小さくなる。
【0021】
次に、ボールの材料を変えて上述同様の摩擦摩耗試験を行った結果について示す。まず、高炭素クロム軸受け鋼(JIS記号:SUJ2)からなるボールを用いて上述した摩擦摩耗試験を行うと、図9および図10に示す結果が得られた。図9は、基板温度条件を25℃とした結果であり、図10は、基板温度条件を100℃とした結果である。この場合においても、温度が高い条件ほど、摩擦耐性が高く、高い摺動性が得られていることがわかる。
【0022】
次に、アルミナセラミクス(アルミナ)からなるボールを用いて上述した摩擦摩耗試験を行うと、図11および図12に示す結果が得られた。図11は、基板温度条件を25℃とした結果であり、図12は、基板温度条件を100℃とした結果である。この場合においても、温度が高い条件ほど、摩擦耐性が高く、高い摺動性が得られていることがわかる。
【0023】
次に、異なる試験方法による摩擦摩耗試験の結果について説明する。試験方法は、図13に示すように、SUS304からなる基板1301の上に形成した硬質炭素被膜1302の表面に、SUS304からなる所定の半径の円筒1303の環状端面を押し付けて回転させる。環状端面の幅は、約2mmである。円筒1303は、荷重50Nで硬質炭素被膜1302の表面に押し付ける。また、線速度0.5m/secで円筒1303を回転させ、全滑り距離は1500mとする。試験は、大気中で行い、潤滑剤は使用しない。なお、本試験では、基板の加熱などは行わない。
【0024】
Siを10at%添加した硬質炭素被膜に対して上述した摩擦摩耗試験を行うと、図14に示す結果が得られた。Siを添加しない硬質炭素被膜に対して上述した摩擦摩耗試験を行うと、図15に示す結果が得られた。この試験においても、Siを添加した炭素硬質被膜は、Siを添加していない場合に比較して摩擦耐性が高く、高い摺動性が得られていることがわかる。
【0025】
次に、本実施の形態における摺動部材の適用例について説明する。本実施の形態における摺動部材は、例えば、流体制御弁(特許文献2参照)の弁軸および軸受け部などに適用可能である。図16は、流体制御弁としての回転型弁601の構成を示す構成図である。
【0026】
回転型弁601は、貫通孔からなる流通路603を有し、配管604の途中に接続された弁本体602と、弁本体602の内部中央に設けられ流通路603を開閉制御する回転自在なバルブプラグ605と、バルブプラグ605を外部から回転操作する弁軸606を備える。
【0027】
弁本体602は、全体形状が逆T字状の管体に形成されており、両側および上方の3方向に開放している。
【0028】
バルブプラグ605は、略半球状で内部がくりぬかれた殻構造体からなる弁体605Aと、弁体605Aの上下面に各々一体に設けられた円筒状の軸受け部605B,605Cとで構成されている。弁体605Aには、開口部607および球面着座部608が形成されている。開口部607は、弁体605Aの内外を連通させる略銀杏の葉のような形状の開口からなり、イコールパーセンテイジ特性を有している。球面着座部608は、弁体605Aの外周面側に弁軸606の回転方向に長く延在する帯状に形成されている。上側の軸受け部605Bは、弁軸606の内端部6Aに嵌合されて溶接等により一体的に接合されている。一方、下側の軸受け部605Cは弁本体602の内底面中央部に設けたガイド609によって回転自在に軸支されている。
【0029】
弁軸606は、バルブプラグ605と共に回転型弁601の駆動系を形成するものであり、上端部が蓋部材611に設けた弁軸用孔612をシート状ガイド、Oリング、グランド部品などのシール部材614を介して回転自在に貫通している。また、蓋部材611の上方に突出する突出端606Bには、図示を省略した電動アクチュエータが連結されている。蓋部材611は、弁本体602の上方に開口する蓋取付孔15にガスケット16を介して嵌合され、ボルト(図示せず)によって固定されている。
【0030】
弁本体602の流通路603内でバルブプラグ605より上流側である流入口側流通路部603Aには、シートリング620と、シートリング620をバルブプラグ605の球面着座部608に押し付けるシートリテーナ621が組み込まれている。
【0031】
シートリング620は、筒状体に形成されて、弁本体602の流入口流通路部603Aに摺動自在に嵌挿され、外周面にはシートスプリング622が装着されている。シートリテーナ621は、同じく円筒体からなり、流入口側流通路部603Aに螺合によって組み込まれている。また、シートリテーナ621は、内端部がシートリング620の外周面に嵌合し、シートスプリング622を押圧することにより、シートリング620をバルブプラグ605の球面着座部608に所定圧をもって圧接している。
【0032】
一方、流通路603の下流側である流出口側開口部603Bには、ディフューザ631が組み込まれている。ディフューザ631は、流通路603内を流れる流体630の流れを減速して流体630の運動エネルギーを圧力に変換し、キャビテーションの発生を抑制する。ディフューザ631は、底部634が開放する中空円錐形に形成され、周面には多数の小孔632が形成され、頂部633が上流側を指向し、底部634が下流側となるように流出口側流通路部603B内に組み込まれている。
【0033】
上述した回転型弁601の、弁軸606の摺動部、ガイド609の摺動部などに、本実施の形態の硬質炭素被膜を適用することで、Siが添加されていない硬質炭素被膜を用いる場合に比較して、より高い摩擦係数の低減効果が得られるようになる。
【0034】
次に、本実施の形態における摺動部材の他の適用例について説明する。本実施の形態における摺動部材は、例えば、二方ボール弁(特許文献3参照)の弁軸および軸受け部などに適用可能である。図17は、二方ボール弁701の構成を示す構成図である。
【0035】
二方ボール弁701は、配管途中に接続される弁本体702と、弁本体702の内部中央に回転自在に組み込まれたボールプラグ703と、ボールプラグ703を略90°の角度範囲内で回動させる回動手段としての弁軸704を備えている。
【0036】
弁本体702は、両端が開放する直管からなり、内部の一端部が一次側流路705Aを形成し、内部の他端部が二次側流路705Bを形成し、内部の中央がボールプラグ703を収納するボールキャビティ706を形成している。また、弁本体702は、雄ねじ711と雌ねじ712との螺合によって一体的に接続され、かつ、接合部がシール部材713によってシールされた上流側弁本体702Aと下流側弁本体702Bの2部材で構成されている。
【0037】
上流側弁本体702Aは、内部が一次側流路705Aとボールキャビティ706を形成し、上面中央に筒部714が上方に向かって一体に突設されている。上流側弁本体702Aの上流側開口部715の内周面には、図示しない上流側配管が接続されるテーパねじ716が形成され、下流側開口部717の内周面には雌ねじ711が形成されている。
【0038】
下流側弁本体702Bは、内部が二次側流路705Bを形成し、上流側開口端部718の外周面には上流側弁本体702Aの雌ねじ711に螺合する雄ねじ712が形成され、下流側開口部719の内周面には、下流側配管(不図示)が接続されるテーパねじ720が形成されている。
【0039】
ボールプラグ703は、略球状で内部に貫通流路723が形成され、弁本体702のボールキャビティ706内に、各々一対からなる一次側シートリング724,二次側シートリング725、および第1Oリング(シール部材)726,第2Oリング(シール部材)727を介して回動可能に組み込まれ、外周面が球面着座部を形成し、シートリング724,725に押し付けられている。
【0040】
貫通流路723は、ボールプラグ703の中心を通り弁軸704の軸線と直交するように形成された貫通孔からなり、流入側開口部723aが所定の流量特性を示す形状、例えば断面形状がボールプラグ703の回転方向(矢印C方向)に,おおむね扇形となる形状で、流出側開口部723bが円形に形成されている。
【0041】
一次側シートリング724および二次側シートリング725は、上流側弁本体702Aと下流側弁本体702Bの内壁に形成した環状のシートリング用溝728,729に各々嵌挿され、下流側弁本体702Bを上流側弁本体702Aに螺合することにより、ボールプラグ703の球面着座部に押し付けられている。ボールキャビティ706とシートリング用溝728,729は、互いに連通している。一次側シートリング724および二次側シートリング725の外周面と、弁本体702の内壁との間には、適宜な隙間が各々設定されている。
【0042】
また、弁本体702の内壁には、第1Oリング726および第2Oリング727を収納する第1環状溝730および第2環状溝731と、これら溝の内周を規制する内周壁732,733が形成されている。第1環状溝730は、シートリング用溝728の上流側に形成され、隙間を介してシートリング用溝728およびボールキャビティ706に連通している。第2環状溝731は、シートリング用溝729の下流側に形成され、隙間を介してシートリング用溝729およびボールキャビティ706に連通している。
【0043】
第1環状溝730の底面730aおよび第2環状溝731の底面731aは、内側から外側に向かって深さが深くなるように傾斜した斜面に形成されており、最内側の深さが第1Oリング726および第2Oリング727の外径より小さく設定され、最外側の深さが第1Oリング726および第2Oリング727の外径より大きく設定されている。第1Oリング726および第2Oリング727は、第1環状溝730および第2環状溝730に自然な状態で嵌着されると、第1環状溝730および第2環状溝730の内周壁732,733付近に位置し、一次側シートリング724および二次側シートリング725によって圧縮され、溝底面730a,731aに押し付けられることにより、第1環状溝730および第2環状溝730をシールする。
【0044】
第1環状溝730の内周を規定する内周壁732は、一次側シートリング724と適宜な隙間を保って対向することにより、一次側流路705Aと第1環状溝730とを連通させている。このため、第1Oリング726には、一次側流体圧が常時加えられている。同じく第2環状溝731の内周を規定する内周壁733は、二次側シートリング725と適宜な隙間を保って対向することにより、二次側流路705Bと第2環状溝731を連通させている。このため、第2Oリング727には二次側流体圧が常時加えられている。
【0045】
また、ボールプラグ703は、上面中央に形成した凹部735を有し、凹部735に弁軸704の下端部704aが回転を防止されて嵌合している。弁軸704は、Oリング736を介して筒部714を回転可能に貫通し、上端がバルブ駆動用アクチュエータ(不図示)などの駆動装置に連結され、略90°の角度範囲内で回動されるように構成されている。
【0046】
上述した二方ボール弁701の、弁軸704の摺動部、ボールプラグ703の例えばシートリングとの摺動部などに、本実施の形態における硬質炭素被膜を適用することで、Siが添加されていない硬質炭素被膜を用いる場合に比較して、より高い摩擦係数の低減効果が得られるようになる。
【0047】
また、本実施の形態における摺動部材は、次に示すようなバルブ駆動用アクチュエータ(特許文献4参照)に適用してもよい。図18は、バルブ駆動用アクチュエータ801の構成を示す構成図である。
【0048】
バルブ駆動用アクチュエータ801は、ハウジング(不図示)内に収容された第1支持プレート811と、第1支持プレート811から一定距離離間して平行に配置された第2支持プレート812と、第1支持プレート811に載置されたモータ813と、両プレートを貫通して回転可能に配置された出力軸814と、両プレート間に配置され、モータ813の回転を出力軸に伝達する高速側歯車ユニットおよび低速側歯車ユニットからなる減速機構820と、高速側歯車ユニットの歯車係合を解除する手動操作部830とを備えている。
【0049】
出力軸814の一端(図中、下端)には、ボールバルブ(不図示)などの回転弁に接続され、他端には弁体を手動操作するための平面取り部814aが形成されている。また、出力軸814には、両支持プレート間において出力軸814の弁体方向への移動を規制する鍔部814b,814cが形成されると共に、出力軸814と一体に回転する第1歯車821がキー815を介して出力軸814に固定されている。
【0050】
第1歯車821には、これと同一ピッチを有し且つ第1歯車821より小径の第2歯車822が係合している。第2歯車822には、一側(第2支持プレート812側)に第2歯車822より大径且つ歯数の多い第3歯車823が同軸且つ一体に形成されている。また、第2歯車822および第3歯車823は、両プレートに固定された固定軸816に回動自在に取り付けられている。加えて、第2歯車822および第3歯車823は、鍔部816aにより軸線方向に移動しないように固定軸816に取り付けられている。尚、第1歯車821〜第3歯車823によって、低速側歯車ユニットを形成している。
【0051】
第3歯車823には、これと同一ピッチを有し且つ第3歯車823より小径の第4歯車824が係合している。第4歯車824には、他側(第1支持プレート811側)に第4歯車824より大径且つ歯数の多い第5歯車825が同軸且つ一体に形成されている。また、第4歯車824および第5歯車825は、両プレートに固定された固定軸817に回動自在且つ軸線方向に移動可能に取り付けられている。
【0052】
固定軸817には、第1プレート811と第5歯車825との間にコイルばね818が介装されている。コイルばね818の付勢力によって、第3歯車823と第4歯車824が通常係合状態を維持するように、第4歯車824および第5歯車825を第2プレート812に押し付けている。第5歯車825には、これと同一ピッチを有し且つ第5歯車825より小径の第6歯車826が係合している。尚、第6歯車826は、第5歯車825が軸線方向に移動しても、これと係合状態を維持する程度の歯幅を有している。
【0053】
第6歯車826には、他方(第1支持プレート811側)に第6歯車826より大径且つ歯数の多い第7歯車827が同軸且つ一体に形成されている。第6歯車826および第7歯車827は、両プレートに固定された固定軸819に回動自在に取り付けられている。加えて、第6歯車826および第7歯車827は、鍔部819aにより軸線方向に移動しないように固定軸819取り付けられている。
【0054】
第7歯車827は、これより歯数の少ない、モータ813の回転軸813aに固定された第8歯車828に常時係合している。尚、第4歯車824〜8歯車828によって高速側歯車ユニットを構成している。高速側歯車ユニットには、第4歯車824から第3歯車823を係合解除するための手動操作部830が備わっている。手動操作部830は、一端が第2支持プレート812の孔812aを貫通して第5歯車825の端面に位置し他端が第2支持プレート812から突出した操作シャフト831、および、操作シャフト831を第2支持プレート812から突出した状態に維持するコイルばね832を備えている。尚、シャフト一側の拡径部831aは、コイルばね832と協働して第2支持プレート812の孔812aと係合し、操作シャフト831を下方に突出状態に保ち、拡径部831aの先端を第5歯車825の下面から離れた状態に保つ役目を果たしている。
【0055】
また、シャフト他側の拡径部は、作業者が係合解除に際して操作するためのノブ831bを形成している。操作シャフト831の長さおよびコイルばね832のばね定数は、操作シャフト831のノブ831bをコイルばね832の付勢力に抗して押し込んだとき、第4歯車824および第5歯車825が、固定軸817に沿って第1支持プレート811側に移動して第4歯車824が第3歯車823から係合解除するように規定されている。
【0056】
上述したバルブ駆動用アクチュエータ801は、モータ813を回転させると、通常のアクチュエータ作動状態では、回転数(回転速度)が高速側歯車ユニットおよび低速側歯車ユニットを介して減少(減速)しながら出力軸814に伝達される。また、出力軸814の回動に応じ、例えば、図示しないボール弁の開閉動作が行われる。
【0057】
上述したバルブ駆動用アクチュエータ801の、出力軸814および各固定軸における摺動面や、各歯車の歯面などに、本実施の形態における硬質炭素被膜を適用することで、Siが添加されていない硬質炭素被膜を用いる場合に比較して、より高い摩擦係数の低減効果が得られるようになる。
【0058】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの組み合わせおよび変形が実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0059】
101…第1部材、102…第2部材、103…硬質炭素被膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの摺動面で対向する第1部材および第2部材と、
前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方の摺動面に形成されて前記第1部材と前記第2部材との間のすべり摩擦を低下させる硬質炭素被膜と
を少なくとも備え、
前記硬質炭素被膜は、シリコンが添加されていることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
請求項1記載の摺動部材において、
前記第1部材および前記第2部材によりすべり軸受が構成されていることを特徴とする摺動部材。
【請求項3】
請求項1または2記載の摺動部材において、
前記硬質炭素被膜は、シリコンが0at%より大きく40at%より小さい範囲で添加されていることを特徴とする摺動部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の摺動部材において、
前記硬質炭素被膜が形成される前記第1部材および前記第2部材は、ステンレス鋼,高炭素クロム軸受鋼,およびアルミナセラミクスより選択された材料より構成されていることを特徴とする摺動部材。
【請求項1】
互いの摺動面で対向する第1部材および第2部材と、
前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方の摺動面に形成されて前記第1部材と前記第2部材との間のすべり摩擦を低下させる硬質炭素被膜と
を少なくとも備え、
前記硬質炭素被膜は、シリコンが添加されていることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
請求項1記載の摺動部材において、
前記第1部材および前記第2部材によりすべり軸受が構成されていることを特徴とする摺動部材。
【請求項3】
請求項1または2記載の摺動部材において、
前記硬質炭素被膜は、シリコンが0at%より大きく40at%より小さい範囲で添加されていることを特徴とする摺動部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の摺動部材において、
前記硬質炭素被膜が形成される前記第1部材および前記第2部材は、ステンレス鋼,高炭素クロム軸受鋼,およびアルミナセラミクスより選択された材料より構成されていることを特徴とする摺動部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
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【図12】
【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−87244(P2012−87244A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236429(P2010−236429)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】
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