説明

摺接部材

【課題】所望の湾曲した形状に容易に加工することが可能な摺接部材を提供する。
【解決手段】シール材30は、現像ローラに摺接する摺接層31と、弾性を有する弾性層33と、所望の形状に湾曲させた状態でその形状を保つことが可能な形状記憶層32とを備えた積層体によって構成される。そして、シール材30は、湾曲された状態で、現像ローラに摺接層31が摺接するように、現像ローラを収容するハウジングの曲面状の内周面に取着される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接触部に対して摺接しながら相対移動する状態で使用される摺接部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子写真複写機やファクシミリ等の電子写真方式の画像形成装置内には現像装置が備えられている。現像装置はハウジングに覆われた状態で帯電された現像ローラを備えており、該現像ローラに帯電付着したトナーが感光ドラムに付与されることで、該感光ドラムの周面にトナーの像が形成される。そして、ハウジング内における現像ローラの両端部と対応する部位には、該現像ローラに帯電付着したトナーがハウジング外へ漏出しないようにするためのシール材が該現像ローラの周面に摺接するように取着されている。そして、こうしたトナー漏れを防止するシール材としては、従来、特許文献1に示されたものが知られている。
【0003】
この特許文献1の粉末シール片(摺接部材)は、テフロン(R)フェルトシート(摺接層)と発泡プラスチックシート(弾性層)とを接着フィルムの加熱溶融によって一体的に接着してなる平板状のシートを加熱しながら成形用型によってU形に湾曲した形状となるように成形することで製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−59575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の粉末シール片は、発泡プラスチックシートに、例えば、塑性変形し難い軟質のウレタン発泡材(トナーをシールするための用途に広く用いられている発泡材)を用いた場合、加熱しながら成形用型によってU形に湾曲した形状となるように成形しても、成形用型から取り出すと元の形状に戻ってしまう。したがって、所望の湾曲した形状に加工することが困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたものである。その目的とするところは、所望の湾曲した形状に容易に加工することが可能な摺接部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、摺接部材に係る請求項1に記載の発明は、曲面状の被取着部に取着されて被接触部に対して摺接しながら相対移動する状態で使用される摺接部材であって、前記被接触部に摺接する摺接層と、弾性を有する弾性層と、所望の形状に湾曲させた状態でその形状を保つことが可能な形状記憶層とを備えた積層体によって構成されたことを要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、積層体を被取着部と対応する形状に合わせて湾曲させた状態でその湾曲させた形状を形状記憶層に記憶させることで、該積層体がその湾曲させた形状に保たれる。したがって、所望の湾曲した形状に容易に加工することが可能となる。なお、「摺接」とは、摺接層が被接触部に接触した状態で被接触部に沿って相対移動することだけを意味するのではなく、例えば、摺接部材が回転しながら摺接層が被接触部と接触する状態も含む。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記積層体において、前記形状記憶層は前記摺接層と前記弾性層との間に配置されていることを要旨とする。
上記構成によれば、積層体を湾曲させた際に、形状記憶層により摺接層及び弾性層を湾曲させた状態で効果的に保つことが可能となる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記形状記憶層は、熱可塑性の不織布シートによって構成されていることを要旨とする。
上記構成によれば、従来よりも低い温度で形状記憶層に形状を記憶させることができるので、所望の湾曲した形状に一層容易に加工することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、所望の湾曲した形状に容易に加工することが可能な摺接部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態の画像形成装置を示す概略構成図。
【図2】同画像形成装置の現像装置の要部拡大断面図。
【図3】実施形態において、現像ローラから感光ドラムにトナーが付与されるときの状態を示す断面簡略図。
【図4】実施形態のシール材の側面図。
【図5】同シール材を金型にセットしたときの状態を示す断面簡略図。
【図6】同シール材を金型で型締めして曲げ加工するときの状態を示す断面簡略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の摺接部材を画像形成装置内に取着されてトナー漏れを防ぐためのシール材に具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。
まず、画像形成装置の構成について説明する。
【0014】
図1に示すように、画像形成装置11内には感光ドラム12が支持軸12aによって回転可能に支持されており、該感光ドラム12の周面(表面)は帯電可能になっている。感光ドラム12の真上の位置には、帯電器13が配置されている。帯電器13は、支持軸12aを中心に図1において時計方向に回転する感光ドラム12の周面を一様に帯電させる。感光ドラム12の回転方向における帯電器13よりも進行側の位置には、露光装置14が配置されている。露光装置14は、感光ドラム12の周面にレーザ光による光像を照射して静電潜像を形成する。
【0015】
感光ドラム12の回転方向における露光装置14よりも進行側の位置には、現像装置15が配置されている。現像装置15は、露光装置14によって感光ドラム12の周面に形成された静電潜像にトナー16を供給することで、該静電潜像の現像を行う。感光ドラム12の回転方向における現像装置15よりも進行側であって感光ドラム12の真下の位置には、転写器17が配置されている。転写器17は、感光ドラム12の周面に形成されたトナー16による可視像を、該感光ドラム12と該転写器17との間に供給される記録用紙18に転写する。
【0016】
感光ドラム12の回転方向における転写器17よりも進行側の位置には、クリーニング装置19が配置されている。クリーニング装置19は、ケース19aと該ケース19a内に配置されたクリーニングブレード19bとを備えている。クリーニングブレード19bは、感光ドラム12の周面に摺接しており、転写後の感光ドラム12の周面に残留しているトナー16を掻き取って除去する。クリーニングブレード19bによって感光ドラム12の周面から掻き取られたトナー16はケース19a内に集められる。感光ドラム12の回転方向におけるクリーニング装置19と帯電器13との間の位置には、イレーサ20が配置されている。イレーサ20は、感光ドラム12の周面に残留する電荷を消去する。
【0017】
次に、現像装置15の構成について詳述する。
図1〜図3に示すように、現像装置15は、内部にトナー16が収容されたハウジング21と、該ハウジング21内に支持軸12aと平行に延びる支軸22により回転可能に支持された被接触部としての現像ローラ23とを備えている。現像ローラ23は、その周面(表面)が帯電可能になっているとともに、ハウジング21内において下面側がトナー16に晒されている。また、ハウジング21内における現像ローラ23を挟んで感光ドラム12と対向する位置であって現像ローラ23の斜め上側の位置には、トナー規制ブレード24が配置されている。
【0018】
そして、現像ローラ23が図1における反時計方向に回転することで、現像ローラ23の周面にトナー16が帯電付着するとともに、該帯電付着したトナー16がトナー規制ブレード24によって薄層に形成される。この薄層に形成されたトナー16は、現像ローラ23の回転によって感光ドラム12の周面に付与される。
【0019】
また、図2に示すように、現像ローラ23の両端部は、該現像ローラ23における他の部分よりも径が若干小さく設定された小径部23aとされている。現像ローラ23の小径部23aとハウジング21の円弧面状(曲面状)をなす被取着部としての内周面21aとの間には所定幅の隙間が形成されている。そして、この隙間を塞ぐように、内周面21aには、該隙間からのハウジング21外へのトナー16の漏れを抑制するための摺接部材を構成する積層体としてのシール材30が取着されている。この場合、シール材30は、ハウジング21の円弧面状の内周面21aに合わせて湾曲されている。
【0020】
次に、シール材30の構成について詳述する。
図4に示すように、シール材30は、現像ローラ23の小径部23aに摺接する摺接層31と、所望の形状に湾曲させた状態でその形状を保つことが可能な形状記憶層32と、弾性を有する弾性層33と、離型紙34とを順次両面粘着テープ35によって層状に一体に貼り合わせたものである。
【0021】
摺接層31は、基布31a上に複数のパイル糸31bが立設されたパイル織物によって構成されている。また、形状記憶層32は、熱可塑性の不織布シートによって構成されている。この不織布シートは、比較的低い温度(例えば60℃〜90℃)を与えながら所望の形状に湾曲させた後に常温(例えば0℃〜40℃)に冷却すると、その湾曲させた形状を記憶して保つことができるものである。
【0022】
弾性層33は、軟質のウレタン発泡材によって構成されている。ウレタン発泡材は、弾力性に富み、耐オゾン性にも優れていることから本用途に適している。また、両面粘着テープ35には、基材を持たず粘着材のみで形成された、いわゆる基材レスタイプのものが使われている。
【0023】
次に、シール材30の製造方法について説明する。
図4に示すように、シール材30を製造する場合には、まず、摺接層31となるパイル織物を形成し、該パイル織物の基布31aにおけるパイル糸31bが立設された面とは反対側の面に両面粘着テープ35を介して形状記憶層32となる熱可塑性の不織布シートを貼着する。続いて、不織布シートにおける摺接層31側とは反対側の面に両面粘着テープ35を介して弾性層33となる軟質のウレタン発泡材を貼着する。続いて、ウレタン発泡材における形状記憶層32側とは反対側の面に両面粘着テープ35を介して離型紙34を貼着する。これにより、摺接層31、形状記憶層32、弾性層33、及び離型紙34が順次両面粘着テープ35によって層状に一体に貼り合わせられた矩形板状のシール材30が形成される。
【0024】
こうして形成されたシール材30は、該シール材30が取着されるハウジング21の円弧面状の内周面21aに合わせて湾曲させる加工が行われる。すなわち、図5に示すように、断面視円弧状をなすキャビテイを形成可能な可動型40と固定型41とを有する金型42内にシール材30をセットするとともに、金型42を図示しない加熱手段によって80℃程度に加熱する。続いて、図6に示すように、金型42の型締めを行うと、シール材30は金型42によって80℃程度の熱が付与されながらハウジング21の円弧面状の内周面21aに合わせた湾曲形状で加圧保持される。これにより、形状記憶層32にこのときの湾曲形状が記憶される。
【0025】
そして、金型42を図示しない冷却手段によって30℃程度に冷却した後、金型42の型開きをしてシール材30を取り出す。このとき、形状記憶層32は湾曲形状で固定されているため、シール材30の湾曲形状は全体的に維持される。こうして湾曲形状に曲げ加工されたシール材30は、離型紙34を剥がしてハウジング21の円弧面状の内周面21aに貼着されて使用される。
【0026】
このように、シール材30は不織布シートで構成された形状記憶層32を有しているため、従来よりも低い温度(両面粘着テープ35が劣化しない温度)で曲げ加工を容易に行うことができるので、従来のように型内で2つのシートを組み合わせる必要がない。因みに、シール材30の曲げ加工時に従来のような高い温度を付与すると熱によって両面粘着テープ35が劣化するおそれがある。
【0027】
以上詳述した実施形態によれば次のような効果が発揮される。
(1)シール材30は、形状記憶層32を有しているため、ハウジング21の円弧面状の内周面21aと対応する形状に合わせて湾曲させた状態でその湾曲させた形状を形状記憶層32に記憶させることで、その湾曲させた形状に容易に曲げ加工することができる。すなわち、シール材30は、所望の湾曲した形状に容易に曲げ加工することができる。
【0028】
(2)シール材30において、形状記憶層32は摺接層31と弾性層33との間に配置されているため、シール材30を曲げ加工した際に、形状記憶層32により摺接層31及び弾性層33を湾曲させた状態で効果的に保つことができる。
【0029】
(3)シール材30において、形状記憶層32は、熱可塑性の不織布シートによって構成されているため、従来よりも低い温度で形状記憶層32に湾曲形状を記憶させることができるので、シール材30を所望の湾曲した形状に容易に曲げ加工することができる。また、不織布シートは、伸縮性に富んでいるため、シール材30を曲げ加工する際に、好適に追従する。したがって、シール材30を曲げ加工した際に、皺が発生することを抑制することができる。
【0030】
(4)シール材30に用いる両面粘着テープ35は、全て基材を有さないタイプ(基材レスタイプ)のものである。このため、両面粘着テープ35は、基材を有するタイプのものに比べて伸縮性に富むため、曲げに対する追従性に優れている。したがって、シール材30を曲げ加工したときに皺が発生することを抑制することができる。
【0031】
(変更例)
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・シール材30において、形状記憶層32は弾性層33と離型紙34との間に配置してもよい。
【0032】
・形状記憶層32は、温度を与えなくても自由に湾曲させることができるとともに、湾曲させた状態で形状を固定できる形状記憶シートによって構成してもよい。
・シール材30において、離型紙34の代わりに、伸縮性を有する合成樹脂フィルム(例えば、ポリプロピレン製のフィルム)を用いてもよい。このようにすれば、シール材30を曲げ加工したときに、合成樹脂フィルムが追従して伸びるため、より一層皺が発生し難くなる。
【0033】
・シール材30は、離型紙34以外のものを貼り合わせて曲げ加工した後に、両面粘着テープ35により離型紙34を貼り合わせてもよい。
・摺接層31を構成するパイル織物の基布31aを構成するタテ糸及びヨコ糸を可及的に細くしてもよい。このようにすれば、摺接層31を薄くすることができるので、シール材30を曲げ加工したときに皺が発生することを抑制することができる。
【0034】
・摺接層31は、基材に多数の毛羽を静電植毛したもので構成してもよい。
・シール材30は、画像形成装置11内において感光ドラム12の周面からトナー16を掻き取るクリーニングブレード19bの端部に設けられた支持体(図示略)に貼着して、支持体と感光ドラム12との隙間を介して外部に漏出しようとするトナー16を捕集及びブロックしてトナー16の漏れを防ぐようにしてもよい。
【0035】
・積層体を丸棒状の軸部材(図示略)の曲面状の表面(被取着部)に巻き付けて貼着してなるロールブラシを摺接部材とし、該摺接部材の用途を変更してもよい。このように構成されたロールブラシは、例えば、フィルタ用清掃装置(図示略)に装備されるフィルタ用清掃ブラシとして用いることができる。そして、このロールブラシは、例えば、被接触部としての空気調和機(図示略)や換気扇(図示略)のフィルタの表面に摺接層31を摺接させた状態で、駆動手段(図示略)によって回転駆動させることで、該フィルタの表面に付着した塵埃などを掻き取って除去する。
【0036】
・摺接部材は、電気掃除機用のヘッドにおいて被清掃面(被接触部)に摺接する曲面状の摺接面(被取着部)に貼着されるパッドとして用いてもよい。
さらに、上記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0037】
(イ)前記摺接層は、パイル織物によって構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の摺接部材。
この構成によれば、被接触部に対する摺接層の摺動抵抗を抑えることができる。
【0038】
(ロ)画像形成装置内において、回転可能に支持された感光ドラムの表面にトナーを付与するとともにハウジングに覆われた現像ローラの端部に摺接するように前記ハウジングの内面に取り付けられ、前記現像ローラの端部と前記ハウジングの内面との間から前記ハウジング外へトナーが漏れることを抑制するシール材に用いられることを特徴とする請求項1〜請求項3及び上記(イ)のうちいずれか一項に記載の摺接部材。
【0039】
この構成によれば、ハウジングからのトナーの漏れを好適に抑制することができる。
【符号の説明】
【0040】
11…画像形成装置、12…感光ドラム、21…ハウジング、21a…被取着部としての内周面、23…被接触部としての現像ローラ、30…摺接部材を構成する積層体としてのシール材、31…摺接層、32…形状記憶層、33…弾性層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面状の被取着部に取着されて被接触部に対して摺接しながら相対移動する状態で使用される摺接部材であって、
前記被接触部に摺接する摺接層と、
弾性を有する弾性層と、
所望の形状に湾曲させた状態でその形状を保つことが可能な形状記憶層と
を備えた積層体によって構成されたことを特徴とする摺接部材。
【請求項2】
前記積層体において、前記形状記憶層は前記摺接層と前記弾性層との間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の摺接部材。
【請求項3】
前記形状記憶層は、熱可塑性の不織布シートによって構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の摺接部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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