説明

撥水性フィルム

【課題】撥水性フィルムを製造する際に塗工性及び作業環境性が良好になると共に、撥水性及びその耐久性に優れる硬化被膜を形成した撥水性フィルムを提供する。
【解決手段】撥水性フィルムは、透明基材フィルム上に金属アルコキシド、コロイダルシリカ、シラン化合物及び水を含有する硬化性組成物を硬化させて硬化被膜を形成させたものである。そして、シラン化合物は、炭素数1〜5のフルオロアルキル基を有するシラン化合物又は質量平均分子量100〜3000のフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物である。シラン化合物の含有量は金属アルコキシド100モルに対して10〜100モルであることが好ましく、コロイダルシリカの含有量は金属アルコキシド100質量部に対して10〜100質量部であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のフェンダーミラー、窓ガラス、オートバイのフード、建築物の屋根や外壁、信号機、ディスプレー等の表面に適用され、撥水性に加え、その耐久性、防汚性等の機能を良好に発揮することができる撥水性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
撥水性を発現するための撥水処理剤としては、例えば無機又は有機の微粒子、フッ素系シランカップリング剤等のカップリング剤、酸、酢酸ビニル等の樹脂及び溶剤を含有するものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。この撥水処理剤によれば、その塗膜は処理対象物に対して超撥水性を付与することができると共に、十分な透明性を発揮することができる。また、本願出願人は、撥水撥油性被膜として、金属アルコキシド、コロイダルシリカ、フルオロアルキルシラン及び水を含む混合液を基材上に塗布して被膜を形成した後加熱して得られるものを提案した(特許文献2を参照)。
【特許文献1】特許第3773464号公報(第1頁、第2頁及び第7頁)
【特許文献2】特開2005−162795号公報(第2頁及び第9頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されている撥水処理剤では、簡便に超撥水性を発揮することができるが、硬化等の処理が行われていないためにその塗膜は特に耐久性が著しく悪いという欠点があった。従って、そのような撥水処理剤より形成される塗膜は、実際の使用に供したとき要求される基準を満たすことができないものであった。
【0004】
一方、特許文献2に記載の撥水撥油性被膜では耐久性等の性能は優れているものの、フルオロアルキルシランとして具体的にはヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシランが使用され、該フルオロアルキルシランは長鎖フルオロアルキル基を有しているため、相溶性が低く、混合液の粘性も高くなる傾向を示す。従って、透明基材特に透明基材フィルムに塗工する場合の塗工性が悪くなる上に、長鎖フルオロアルキルを有するフルオロアルキルシランは分解物が生成しやすく生体への蓄積性が高いことが懸念されており、よって作業環境性が悪くなり易いという問題点があった。
【0005】
そこで、本発明の目的とするところは、撥水性フィルムを製造する際に塗工性及び作業環境性が良好になると共に、撥水性及びその耐久性に優れる硬化被膜を形成した撥水性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の撥水性フィルムは、透明基材フィルム上に金属アルコキシド、コロイダルシリカ、シラン化合物及び水を含有する硬化性組成物を硬化させて硬化被膜を形成させたものである。そして、前記シラン化合物が炭素数1〜5のフルオロアルキル基を有するシラン化合物又は質量平均分子量100〜3000のフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物であることを特徴とする。
【0007】
第2の発明の撥水性フィルムは、第1の発明において、前記シラン化合物の含有量は、金属アルコキシド100モルに対して10〜100モルであることを特徴とする。
第3の発明の撥水性フィルムは、第1又は第2の発明において、前記コロイダルシリカの含有量は、金属アルコキシド100質量部に対して10〜100質量部であることを特徴とする。
【0008】
第4の発明の撥水性フィルムは、第1から第3のいずれか1項の発明において、前記硬化被膜は、表面にシラン化合物に含まれるフッ素が配向されると共に、表面にコロイダルシリカに基づく凹凸が形成されていることを特徴とする。
【0009】
第5の発明の撥水性フィルムは、第1から第4のいずれか1項の発明において、前記硬化被膜は、硬化性組成物からゾルゲル法により形成されるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明の撥水性フィルムでは、硬化性組成物中のシラン化合物が炭素数1〜5のフルオロアルキル基を有するシラン化合物又は質量平均分子量100〜3000のフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物である。このため、シラン化合物は従来のヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシランのような長鎖フルオロアルキル基ではなく、短鎖フルオロアルキル基である。従って、係るシラン化合物は相溶性が高く、粘性の低いものであると同時に、生体への蓄積性も低いものと考えられ、さらには硬化被膜表面へのフッ素の配向性も高められる。よって、撥水性フィルムを製造する際に塗工性及び作業環境性が良好になると共に、撥水性及びその耐久性に優れる硬化被膜を形成することができる。
【0011】
第2の発明の撥水性フィルムでは、シラン化合物の含有量が金属アルコキシド100モルに対して10〜100モルである。このため、第1の発明の効果に加え、シラン化合物の機能に基づいて特に硬化被膜表面の撥水性及びその耐久性を十分に発揮することができる。
【0012】
第3の発明の撥水性フィルムでは、コロイダルシリカの含有量が金属アルコキシド100質量部に対して10〜100質量部である。従って、第1又は第2の発明の効果に加え、硬化被膜表面の凹凸を十分に形成することができ、硬化被膜表面の撥水性及びその耐久性を向上させることができる。
【0013】
第4の発明の撥水性フィルムでは、硬化被膜は表面にシラン化合物に含まれるフッ素が配向されると共に、表面にコロイダルシリカに基づく凹凸が形成されている。従って、第1から第3のいずれかの発明の効果に加えて、フッ素の性質及び凹凸の作用に基づいて硬化被膜表面の撥水性を向上させることができる。
【0014】
第5の発明の撥水性フィルムでは、硬化被膜は硬化性組成物からゾルゲル法により形成されるものである。このため、第1から第4のいずれかの発明の効果に加えて、硬化被膜を比較的低温で形成することができ、透明基材フィルムの選択の幅を広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
〔撥水性フィルム〕
本実施形態の撥水性フィルムは、透明基材フィルム上に金属アルコキシド、コロイダルシリカ、シラン化合物及び水を含有する硬化性組成物を硬化させて硬化被膜を形成させたものである。この場合、前記シラン化合物は、炭素数1〜5のフルオロアルキル基を有するシラン化合物又は質量平均分子量100〜3000のフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物である。このように、シラン化合物として短鎖フルオロアルキル基又は低分子量のフルオロポリエーテル基を有する化合物を用いるため、塗工性及び作業環境性が改善されると共に、優れた撥水性を発揮することができる。従って、撥水性フィルムを撥水性、撥油性、防汚性などが要求される分野に好適に使用することができる。この撥水性フィルムは、主に対象物に対し貼着して使用される。
〔透明基材フィルム〕
前記透明基材フィルムは特に制限されないが、その材料としては例えば合成樹脂、ガラス、金属、セラミック等が用いられる。なお、ガラス、金属及びセラミックは、極薄く形成することによって透明なフィルムにすることができる。ここでフィルムとは、いわゆるフィルムのみならず、シートをも含む概念である。合成樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリオレフィン(PO)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)等が挙げられる。これらの合成樹脂のうち、好ましくはPET、PC、PMMA又はTACである。
【0016】
透明基材フィルムの厚さは通常10〜5000μm、好ましくは25〜1000μm、さらに好ましくは35〜500μmである。この厚さが10μmより薄い場合には、透明基材フィルムの取扱性が悪くなると共に、その強度も低下する傾向にある。一方、厚さが5000μmより厚い場合には、透明基材フィルムが厚くなり過ぎて、柔軟性に欠け、対象物に対する撥水性フィルムの貼着性が悪くなったりして好ましくない。
〔硬化性組成物〕
次に、前記硬化性組成物について説明する。係る硬化性組成物は、金属アルコキシド、コロイダルシリカ、シラン化合物及び水を含有するものである。
(金属アルコキシド)
金属アルコキシドは、アルコールの水酸基の水素が金属又は半金属と置換されて塩になった化合物(アルコラート)である。金属又は半金属の種類としては、アルミニウム、ケイ素、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、カドミウム、タンタル等のアルコキシドを形成し得る金属又は半金属が挙げられる。この金属アルコキシドは、硬化性組成物のマトリックスとなるものである。
【0017】
また、アルコキシドの種類は特に限定されることなく、例えばメトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、ブトキシド等が挙げられ、さらにはアルコキシ基の一部をβ−ジケトン、β−ケトエステル、アルカノールアミン、アルキルアルカノールアミン等で置換されたアルコキシド誘導体であってもよい。金属アルコキシドとして具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、アルミニウムブトキシド、チタンイソプロポキシド等が好ましく、これらの中でもテトラエトキシシランが常温で液体であり、取扱性がよく、汎用性が高い点から特に好ましい。
(コロイダルシリカ)
続いて、コロイダルシリカは、硬化被膜表面に微細な凹凸を形成させるために用いられるものであり、その平均粒子径は通常1〜150nm、好ましくは5〜50nmである。なお、コロイダルシリカの平均粒子径は、粒子を球形と仮定したとき、BET法により得られる比表面積よって算出される値である。コロイダルシリカは、例えば高分子無機珪酸の超微粒子を水又は有機溶剤中に分散せしめたコロイド溶液として入手でき、代表例として日産化学工業(株)製の「スノーテックス」、触媒化成工業(株)製の「OSCAL」等を挙げることができる。
【0018】
コロイダルシリカの含有量は、上記金属アルコキシド100質量部に対して、好ましくは10〜100質量部、より好ましくは30〜70質量部である。コロイダルシリカの含有量が10質量部未満の場合には硬化被膜の表面に微細な凹凸を形成させるには不十分であり、100質量部より多い場合には硬化被膜の強度が低下する傾向にある。コロイダルシリカはそのまま添加してもよいが、シラン化合物としてのアルキルシランと予め反応させた後に添加する方がその表面にフッ素原子(単にフッ素ともいう)が確実に被覆される傾向にある点から好ましい。このコロイダルシリカの平均粒子径と含有量を調整することにより、得られる硬化被膜表面の粗さを調整することができ、平均粒子径が大きく、含有量が多いほど硬化被膜表面は粗くなる。
(シラン化合物)
前記シラン化合物とは、炭素数1〜5のフルオロアルキル基を有するシラン化合物又は質量平均分子量100〜3000のフルオロポリエーテル基を有するシランで化合物である。該シラン化合物は、その中に含まれるフッ素に基づく撥水性をはじめ、撥油性、防汚性などの特性を発現させるためのものである。シラン化合物としては、これらの化合物の中から、単独又は複数の化合物を組合せて使用することができる。
【0019】
シラン化合物として例えば、下記化学式(1)で示される化合物が好ましい。
Rf−R−Si(X3−P) ・・・(1)
但し、Rfは炭素数1〜5のフルオロアルキル基、好ましくは炭素数1〜4のフルオロアルキル基、より好ましくは炭素数2〜4のフルオロアルキル基であり、それは直鎖構造でも分岐構造でもよい。フルオロアルキル基の具体例としては、以下のものが例示される。
【0020】
直鎖構造であるものとしてCFCFCFCF−、CFCFCF−、CFCF−、CF−、分岐構造であるものとして(CFCF−、(CFC−、(CFCFCFCF−等が挙げられる。
【0021】
前記フルオロアルキル基を有するシラン化合物の中で、例えばRf=CFCFCFCF−、R=エチレン基、p=3、X=メトキシ基であるノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン等が特に好ましい。
【0022】
また、シラン化合物としてパーフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物である場合、溶解性や塗工性の観点から、Rfは質量平均分子量が好ましくは100〜3000、より好ましくは300〜2000の化合物である。その具体例としては、以下のものが例示される。
【0023】
2a+1O(CFCFCFO)(CF
2a+1O〔CFCF(CF)O〕(CF
2a+1O(CFCFCFO)(CFO)(CF
2a+1O〔CFCF(CF)O〕(CFO)(CF
但し、m及びnは好ましくは1〜20、より好ましくは1〜3を表わし、aは1〜20を表わし、lは1又は2を表わす。
【0024】
また、Rは炭素原子数1〜10の2価の有機基(例えば、メチレン基、エチレン基等)又はケイ素原子及び酸素原子であり、Xは水素又は炭素原子数1〜4の1価の炭化水素基(例えば、アルキル基、アリル基等)又はこれらの誘導体から選ばれる置換基であり、pは0、1又は2であり、Yは炭素原子数が1〜4のアルコキシ基である。
【0025】
シラン化合物の含有量は、金属アルコキシド100モルに対して、好ましくは10〜100モル、より好ましくは15〜90モル、特に好ましくは20〜80モルである。シラン化合物の含有量が10モル未満の場合には、硬化被膜の撥水性が十分に発揮されず、また特に合成樹脂製の透明基材フィルム上に塗工する場合に塗工面が均一にならない等の現象が発生する傾向がある。その一方、100モルを超える場合には、硬化被膜が白化したり、硬化被膜の強度が低下する傾向にある。
(水)
水は硬化性組成物における媒体になると共に、金属アルコキシドを加水分解させるためのものであり、その中に硬化反応の触媒である塩酸、アンモニア等を含有させることができる。水の含有量は、硬化性組成物が適切な粘性を示すように常法に従って適宜決定される。
(硬化被膜及びその形成方法)
透明基材フィルム上に形成される硬化被膜の構造は次のような形態であると考えられる。すなわち、金属アルコキシドより形成される金属酸化物をマトリックスとし、そのマトリックス中にコロイダルシリカが分散されている。そして、コロイダルシリカの表面に存在する水酸基がマトリックスと反応することによりコロイダルシリカがマトリックス中に強固に固定される。さらに、コロイダルシリカはシラン化合物とも容易に反応して結合する。
【0026】
また、シラン化合物は短鎖のフルオロアルキル基又は低分子量のフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物であるため、低粘性で塗工性がよく、相溶性や分散性に優れ、フッ素が硬化被膜の表面に配向する。さらに、コロイダルシリカの微粒子により、硬化被膜の表面に微細な凹凸が形成され、特に良好な撥水性が発現される。そのため、硬化被膜は、シラン化合物のフルオロアルキル基又はフルオロポリエーテル基のもつフッ素による撥水性、防汚性等の効果及びコロイダルシリカによる硬化被膜表面の凹凸に基づく撥水性等の効果を発揮することができる。
【0027】
硬化被膜の膜厚は、好ましくは0.5〜10μmである。この膜厚が0.5μm未満の場合には、硬化被膜が薄くなり過ぎて硬化被膜の強度及び耐久性が低下して好ましくない。その一方、10μmを超える場合には、硬化被膜の透明性が低下する傾向を示す。
【0028】
また、硬化被膜表面の凹凸を示す表面粗さは、JIS B 0601に基づく二乗平均粗さ(rms)として好ましくは5〜60nm、より好ましくは10〜30nmである。
二乗平均粗さ(rms)は、下記の数式(1)に基づいて算出される値(平均自乗根)である。
【0029】
【数1】

(式中、f(x)は粗さ曲線を示し、lは基準長さを意味している。)
二乗平均粗さ(rms)が5nm未満の場合、硬化被膜表面の凹凸が小さく、凹部による空気層を十分に形成することができなくなり、硬化被膜表面における撥水性が低下する。一方、60nmを超える場合、硬化被膜表面の凹凸が大きくなり過ぎ、その凸部表面の強度が低下する。
【0030】
さらに、硬化被膜表面上における水に対する接触角は130°以上であることが好ましく、140°以上であることがより好ましい。この接触角は大きいほど撥水性が向上し、上限である180°に近づくことが好ましい。つまり、水滴が硬化被膜表面に対して点接触に近づくようになることが好ましい。
【0031】
このように形成される硬化被膜はその表面に存在する液滴(水滴)との接触面積が小さく、さらに空気層が形成されるために優れた撥水性を発現でき、その凹凸が微小であるために透明で耐久性に優れている。硬化被膜は高い撥水性を示すことができ、さらに透明な硬化被膜が簡単な操作及び比較的低い温度での熱処理によって形成できる。そのため、合成樹脂フィルムを透明基材フィルムとして用いることにより、撥水性フィルムや防汚性フィルムとして使用することができる。
【0032】
次に、硬化被膜の形成方法について説明する。
係る方法は、金属アルコキシド、コロイダルシリカ、シラン化合物及び水を含む硬化性組成物を透明基材フィルム上に塗布後、硬化する方法である。より詳しく説明すると、2段階の製造方法と3段階の製造方法とがある。2段階の製造方法は、(1)金属アルコキシド、コロイダルシリカ、シラン化合物及び水を含む硬化性組成物を透明基材フィルム上に塗布して被膜を形成する被覆工程と、(2)前記被膜を加熱して硬化被膜を形成する硬化被膜形成工程とを経る方法である。3段階の製造方法は、(1−1)コロイダルシリカ、シラン化合物及び水を含む組成物を加水分解及び重縮合させて撥水性のコロイダルシリカを得る前処理工程と、(1−2)金属アルコキシド、撥水性のコロイダルシリカ及び水を含む混合液を基材上に塗布して被膜を形成する被覆工程と、(2)前記被膜を加熱して硬化被膜を形成する硬化被膜形成工程とを経る方法である。
【0033】
これらの工程は、いずれもいわゆるゾルゲル法と称される方法に基づき、マトリックスとなる金属酸化物を形成するものである。ゾルゲル法とは、金属の有機及び無機化合物の溶液から出発し、該化合物の加水分解及び重縮合により溶液を金属酸化物又は水酸化物の微粒子が分散したゾルとし、さらに反応を進行させて硬化(ゲル化)し、得られた金属酸化物よりなる多孔質のゲルを加熱して非晶質体を製造する方法である。さらに、必要により焼成することによってガラス体或は多結晶体を形成する方法である。この方法で形成される硬化被膜の利点としては、実用強度を有する薄膜を低温にて製造でき、コーティング剤として用いるときに透明基材フィルムの制限を実質的に解消できることが挙げられる。透明基材フィルムとして合成樹脂を使用するため、100℃程度までしか昇温することができない場合には乾燥ゲル状態で硬化被膜とすることができる。
【0034】
ゾルゲル法に用いられる好ましい物質としては、(a)金属アルコキシドと、(b)水(加水分解用)と、(c)溶剤(均質溶液調整用)と、(d)酸又はアルカリ(触媒用)と、(e)その他の添加物が挙げられる。(b)水については、金属アルコキシドを加水分解するために必要である。水の添加量としては特に制限されないが、金属アルコキシドに対して2倍モル量以上添加することが好ましい。
【0035】
(c)溶剤は混合液を均質なものにし、加水分解反応を円滑に進行させるためのものであり、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類等の有機溶剤が主に用いられるが、その他に金属アルコキシドを溶解するエチレングリコール、エチレンオキシド、トリエタノールアミン、キシレン等の有機溶剤も使用され、金属アルコキシドを溶解するものであれば制限されない。(d)ゾルゲル反応に使用する触媒は、金属アルコキシドの加水分解反応或いは縮合反応を促進させるものであり、例えば酸としては塩酸、硫酸、硝酸、酢酸或はフッ酸等が挙げられ、アルカリとしては処理後に揮発により除去できるアンモニア等が挙げられる。
【0036】
(e)に示すその他の添加物は、ゾルゲル溶液を安定化させる効果のある物質である。そのようなその他の添加物としては、例えばアセチルアセトン、ジプロバイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン等のβ−ジケトン化合物類;アセト酢酸ベンジル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸−t−ブチル、アセト酢酸イソブチル、アセト酢酸2−メトキシエチル、3−ケト−n−バレリック酸メチル等のβ−ケトエステル化合物類;さらには、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類、乳酸等のα−ヒドロキシカルボン酸などが挙げられる。
【0037】
3段階の製造方法中における撥水性のコロイダルシリカを得る前処理工程では、シラン化合物の加水分解反応とコロイダルシリカ表面の水酸基との重縮合反応が進行する。従って、コロイダルシリカとシラン化合物の配合割合はコロイダルシリカの加水分解反応点に対してシラン化合物が等モル量であることが好ましい。具体的には、溶剤に分散されたコロイダルシリカに対して、シラン化合物を加えて混合し、この混合物に純水を加えて反応を行う。コロイダルシリカの固形分としては反応系中に20〜40質量%であることが好ましい。また、シラン化合物を加える順序は特に制限されない。水の添加量は、シラン化合物に対して3〜5倍量であることが望ましい。また、前処理工程での反応条件としては、常圧下で通常1分〜24時間、好ましくは3〜7時間の反応時間、通常室温以上200℃以下、好ましくは溶剤の還流温度の反応温度で攪拌しながら行う。
【0038】
溶剤として好適な有機溶剤としては、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル等のアルコール類;エチレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、α−ヒドロキシケトン、α−ジケトン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類を挙げることができる。これらの有機溶剤は、単独で又は2種類以上混合して使用することができる。得られた撥水性のコロイダルシリカは、遠心分離等により単離することも可能であるが、そのまま有機溶剤存在下で後の工程に供することもできる。
【0039】
2段階乃至3段階の製造方法において、混合液を透明基材フィルム表面に塗布する際、その塗布(コーティング)方法としては、公知の方法のいずれも採用される。塗布方法として例えば、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、フローコート法等の方法が挙げられる。塗布する膜厚については、透明性と撥水性とを十分に発現することができるという観点から、得られる硬化被膜として通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜10μmである。続いて、硬化被膜の形成工程では、通常添加される金属アルコキシドが加水分解反応及び重縮合反応することにより形成されるゾル化反応と、この反応がさらに進行して硬化(ゲル化)する工程が含まれる。
【0040】
さらに、生成した湿潤ゲルを好ましくは100〜500℃、より好ましくは100〜300℃の温度で乾燥ゲルを生成する工程及びさらに必要により数百度〜1500℃の温度にて焼成してガラス体或はセラミック体を形成す工程がゾルゲル法では含まれる。反応時間は原料組成、硬化被膜の硬さ等に応じて数秒から数十時間の範囲で設定される。硬化被膜の形成においては、透明基材フィルムとして合成樹脂フィルムを使用する場合には乾燥ゲルの状態で製品化することもできるし、耐熱性がある透明基材フィルムにコーティングする場合には焼成を行ってもよい。
【0041】
前記各工程により、各成分が加水分解されて末端に水酸基を有する化合物が形成され、さらにそれらの水酸基含有化合物が重縮合反応を起こしてシロキサン結合を有する重合体が形成される。特に、金属アルコキシドより形成された金属酸化物がマトリックスとなり、コロイダルシリカがそのマトリックス中に分散され、それらに対してアルキルシランが結合される。そのため、硬化被膜は強度のある膜となり、フッ素が表面に配向され、フッ素に基づく撥水性、撥油性、防汚性等の機能が発揮される。また、コロイダルシリカに基づく微細な表面凹凸が硬化被膜表面に形成され、ハスの葉のような撥水性が発現される。加えて、加水分解反応により生成された水酸基は基材に対する水素結合力、分子間力等を発揮し、硬化被膜の良好な密着性を発現することができる。
〔撥水性フィルムの使用形態及び適用される対象物〕
前述のようにして得られた撥水性フィルムは、対象物に対して例えば接着剤又は粘着剤により貼着されて使用される。そして、対象物の表面に撥水性、撥油性、防汚性などの特性が付与される。撥水性フィルムが適用される対象物は、撥水性、撥油性、防汚性などの特性が要求されるものであって、特に制限されない。係る対象物として例えば、自動車の窓ガラス、フェンダーミラー、オートバイのフード、建築物(家屋)の屋根や外壁、信号機、ディスプレー、鋼板等が挙げられる。
〔実施形態の作用、効果のまとめ〕
・ 本実施形態の撥水性フィルムでは、硬化性組成物中のシラン化合物が炭素数1〜5という短鎖のフルオロアルキル基を有するシラン化合物又は質量平均分子量100〜3000という低分子量のフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物である。このため、シラン化合物は従来のヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシランのような長鎖フルオロアルキル基に比べて鎖長の短いフルオロアルキル基である。従って、シラン化合物は相溶性が高く、粘性が低いと同時に、分解物が少なく生体への蓄積性も低いものと考えられ、撥水性フィルムの製造時における硬化性組成物の塗工性及び作業環境性を良好にすることができる。加えて、シラン化合物により硬化被膜表面へのフッ素の配向性を高めることができると共に、コロイダルシリカによる硬化被膜表面の微細な凹凸により、硬化被膜表面の優れた撥水性及びその耐久性の向上を図ることができる。
【0042】
・ 前記シラン化合物の含有量が金属アルコキシド100モルに対して10〜100モルであることにより、シラン化合物の機能に基づいて特に硬化被膜表面の撥水性及びその耐久性を十分に発揮することができる。
【0043】
・ 前記コロイダルシリカの含有量が金属アルコキシド100質量部に対して10〜100質量部であることにより、硬化被膜表面の凹凸を十分に形成することができ、硬化被膜表面の撥水性及びその耐久性を向上させることができる。
【0044】
・ 硬化被膜は表面にシラン化合物に含まれるフッ素が配向されると共に、表面にコロイダルシリカに基づく凹凸が形成されていることから、フッ素の性質及び凹凸の作用に基づいて硬化被膜表面の撥水性を向上させることができる。
【0045】
・ 硬化被膜は硬化性組成物からゾルゲル法により形成されるものであるため、硬化被膜を比較的低温で形成することができ、透明基材フィルムの選択の幅を広げることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はそれら実施例の範囲に限定されるものではない。なお、各種性能試験は以下に記載の方法に基づいて行った。
(1)接触角
撥水性フィルム表面上に滴下した水滴(約4マイクロリットル)の液面の接触角を測定装置〔協和界面科学(株)製、型式:CA−A〕により測定した。
(2)表面粗さ(rms)
硬化被膜の表面における形状像を原子間力顕微鏡(TOPOMETRIX社製、商品名:TMX−2100形、走査プローブ顕微鏡)により測定し、そして前記数式(1)に基づいて算出した二乗平均粗さ(rms)を表面の粗さとした。
(3)耐久性
摩擦試験機〔新東科学(株)製、商品名:トライボギア TYPE14RD〕を使用し、ペーパークロス〔(株)クレシア製、商品名キムワイプS−200〕を固定した治具により、0.98N(100gf)の荷重にて硬化被膜上を10回往復させた後の対水接触角から硬化被膜の耐久性を評価した。
(4)フィルム塗工性
透明基材フィルム上へ硬化性組成物を塗工した場合の外観を、次に示す判断基準に基づいて目視により評価した。
【0047】
○:均一な塗工面である、△:部分的にムラがある、×:全体的にムラがある。
(5)作業環境性(シラン蒸気に対する衛生面)
シラン蒸気の発生する程度により、次の評価基準に基づいて評価した。
【0048】
○:問題なし、△:一部問題あり、×:問題あり。
(実施例1)
テトラエトキシシラン96.1g、コロイダルシリカ〔日産化学(株)製、商品名:スノーテックIPA−ST、30%イソプロパノール溶液、平均粒子径:12nm〕100g、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン102g及び0.1N塩酸水溶液18.5gを攪拌して硬化性組成物を得た。コロイダルシリカはテトラエトキシシラン100質量部に対して31.22質量部、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシランは金属アルコキシド100モルに対して60モル添加した。
【0049】
上記シラン化合物は、下記化学式に示す化合物である。
Rf−R−Si(OCH
このシラン化合物のRf及びRを表1に示した。また、金属アルコキシド100モルに対するシラン化合物の含有量(モル)及び金属アルコキシド100質量部に対するコロイダルシリカの含有量(質量部)を表1に示した。
【0050】
そして、ゾルゲル法に基づき、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に硬化性組成物をロールコーターにより塗工後、80℃で5分間加熱処理を行うことにより硬化被膜を得た。その硬化被膜の膜厚は2μmであり、その透明性は目視による評価で優れていた。得られた硬化被膜について、前記各種試験を行い、それらの結果を表1に示した。
(実施例2)
硬化性組成物の安定性を向上させるために、添加剤としてアセチルアセトンを46.2g添加した以外は実施例1と同様にして得られた硬化性組成物を厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗工し、硬化被膜を得た。得られた硬化被膜について、前記各種試験を行い、それらの結果を表1に示した。
(実施例3)
金属アルコキシドとして、テトラエトキシシランをアルミニウムイソプロポキシド94.3gに変更する以外は実施例1と同様にして得られた硬化性組成物を厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に塗工し、硬化被膜を得た。得られた硬化被膜について、前記各種試験を行い、それらの結果を表1に示した。
(実施例4〜9及び比較例1、2)
シラン化合物の種類及び配合量、コロイダルシリカの配合量を表1に示したように変更する以外は実施例1と同様にして硬化被膜を得た。得られた硬化被膜について前記各種試験を行った。実施例8におけるシラン化合物のフルオロポリエーテル基(Rf)の質量平均分子量は1975であり、実施例9におけるシラン化合物のフルオロポリエーテル基(Rf)の質量平均分子量は315である。
【0051】
ここで、比較例1では硬化性組成物がシラン化合物を含まない場合の例、及び比較例2ではシラン化合物のフルオロアルキル基の炭素数が8である場合の例を示す。
得られた結果を表1に示した。
【0052】
【表1】

表1に示したように、実施例1〜7ではシラン化合物として炭素数2又は4のフルオロアルキル基を有するシラン化合物を用い、実施例8及び9ではシラン化合物として質量平均分子量が1975又は315のパーフルオロポリエーテル基を有するシランを用いた。このため、硬化被膜は初期及び耐久試験後の撥水性に優れると共に、硬化性組成物の塗工性及び作業環境性に優れていた。その一方、硬化性組成物がシラン化合物を含まない比較例1では、硬化被膜表面における水の接触角が小さく、撥水性が不足する結果を招いた。さらに、シラン化合物のフルオロアルキル基の炭素数が8である比較例2では、硬化被膜は撥水性を発現できるが、硬化性組成物の塗工性や作業環境性に欠ける結果を示した。
【0053】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ シラン化合物として、炭素数1〜5のフルオロアルキル基を有するシラン化合物を複数使用したり、質量平均分子量100〜3000のフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物を複数使用したりすることも可能である。
【0054】
・ シラン化合物として、炭素数1〜5のフルオロアルキル基を有するシラン及び質量平均分子量100〜3000のフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物を組合せて使用することも可能である。
【0055】
・ 硬化被膜表面の凹凸の表面粗さとして、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rz)などを使用することもできる。
・ 撥水性フィルムにおける透明基材フィルムの硬化被膜とは反対側の面に粘着剤層を形成しておくこともできる。この場合、撥水性フィルムを対象物に容易に貼着することができる。
【0056】
・ 硬化性組成物に、カルボキシル基、アミノ基等の官能基を有する化合物を配合し、透明基材フィルムに対する密着性を向上させるようにすることもできる。
・ 硬化性組成物に、シランカップリング剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等を配合し、硬化被膜表面の撥水性や防汚性を高めるように構成することも可能である。
【0057】
さらに、前記実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
・ 前記硬化被膜表面の凹凸を示す表面粗さは、JIS B 0601に基づく二乗平均粗さ(rms)として5〜60nmであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の撥水性フィルム。このように構成した場合、請求項4又は請求項5に係る発明の効果に加え、硬化被膜表面における撥水性を十分に発揮することができる。
【0058】
・ 前記硬化被膜表面上における水に対する接触角は、130°以上であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の撥水性フィルム。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加え、硬化被膜表面における撥水性を向上させることができる。
【0059】
・ 前記金属アルコキシドは、テトラエトキシシランであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の撥水性フィルム。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加え、テトラエトキシシランは常温で液体であって、取扱性がよく、汎用性を高めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルム上に金属アルコキシド、コロイダルシリカ、シラン化合物及び水を含有する硬化性組成物を硬化させて硬化被膜を形成させた撥水性フィルムであって、
前記シラン化合物が炭素数1〜5のフルオロアルキル基を有するシラン化合物又は質量平均分子量100〜3000のフルオロポリエーテル基を有するシラン化合物であることを特徴とする撥水性フィルム。
【請求項2】
前記シラン化合物の含有量は、金属アルコキシド100モルに対して10〜100モルであることを特徴とする請求項1に記載の撥水性フィルム。
【請求項3】
前記コロイダルシリカの含有量は、金属アルコキシド100質量部に対して10〜100質量部であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の撥水性フィルム。
【請求項4】
前記硬化被膜は、表面にシラン化合物に含まれるフッ素が配向されると共に、表面にコロイダルシリカに基づく凹凸が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の撥水性フィルム。
【請求項5】
前記硬化被膜は、硬化性組成物からゾルゲル法により形成されるものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の撥水性フィルム。


【公開番号】特開2009−154480(P2009−154480A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337551(P2007−337551)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】