説明

撥水撥油性布帛

【課題】撥水撥油性の耐久性に優れ、かつ、撥水撥油性布帛の製造工程でのPFOAの環境(排水)への放出や撥水撥油性布帛からのPFOAの発生を抑えることのできる、撥水撥油性布帛を提供する。
【解決手段】繊維布帛にパーフルオロオクタン酸非含有フッ素系撥水剤と架橋剤を付与してなり、遊離ホルムアルデヒド量が吸光度の差(A−A)として0.05以下であり、遊離ホルムアルデヒド量が1.6ppm以下であり、窒素酸化物に対する染色堅牢度が4級以上であり、洗濯20回後の撥水度が3級以上であり、撥油性が2級以上であり、湿磨耗後の撥水度が3級以上であることを特徴とする撥水撥油性布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水撥油性布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維布帛の撥水撥油加工方法として、フッ素系撥水剤と架橋剤とを併用して繊維布帛を処理する方法は、従来から広範囲に行われている(特許文献1)。
近年、特に繊維製品の人体への安全性や製造時の環境負荷への対応が注目され、繊維布帛への撥水撥油加工に対しても、上記のような安全性や環境負荷への対応が求められている。
例えば、環境負荷への対応としては、アルキルフェノール誘導体や有機スズ系化合物を含まない薬剤が、薬剤メーカーにより開発され、繊維布帛の撥水撥油加工に用いられている。
【0003】
また、最近では、界面活性剤等に使用されるパーフルオロオクタンスルホン酸:C17SOH(以下、「PFOS」ということもある)の人体への有害性が問題視され、PFOSおよびその関連物質の製造を自主的に廃止するメーカーが多い。
一方、PFOSと類似構造を持つパーフルオロオクタン酸:C15COOH(以下、「PFOA」ということもある)に関しては、その毒性等についての調査、研究が実施されている。
一般に、PFOAは、従来のフッ素系撥水剤の製造過程において、微量の不純物として撥水剤中に混入してくる。そのためPFOAを含有しないフッ素系撥水剤の開発が求められていた。
【0004】
そこで、撥水剤メーカーはPFOAを含有しないフッ素系撥水剤の開発を行ったが、この撥水剤を繊維布帛に付与した場合に、十分な耐久撥水性能を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平4−5786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の如き従来技術の問題点を解消し、撥水撥油性の耐久性に優れ、かつ、撥水撥油性布帛の製造工程でのPFOAの環境(排水)への放出や撥水撥油性布帛からのPFOAの発生を抑えることのできる、撥水撥油性布帛を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、PFOAを含まないフッ素系撥水剤を特定の架橋剤を用いて繊維布帛に付与することにより上記課題を解決することできることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は、下記の構成(1)〜(10)からなる。
(1)繊維布帛にパーフルオロオクタン酸非含有フッ素系撥水剤と架橋剤を付与してなり、
JIS L1041遊離ホルムアルデヒド試験アセチルアセトンA法に準じて測定した遊離ホルムアルデヒド量が、吸光度の差(A−A)として0.05以下であり、
JIS L1041遊離ホルムアルデヒド試験アセチルアセトンA法における布帛重量の10倍の質量の試験布を用い、JIS L1041B法に準じて測定した遊離ホルムアルデヒド量が1.6ppm以下であり、
JIS L0855(強試験)に従う窒素酸化物に対する染色堅牢度が4級以上であり、
JIS L0217 103に従う洗濯20回後のJIS L1092(スプレー試験)による撥水度が3級以上であり、
AATCC Test Method 118−1997による撥油性が2級以上であり、
湿磨耗後のJIS L1092(スプレー試験)による撥水度が3級以上である
ことを特徴とする撥水撥油性布帛。
【0008】
(2)前記繊維布帛が、ポリエステルまたはナイロン繊維を含むものである、上記(1)に記載の撥水撥油性布帛。
(3)JIS L0217 103に従う洗濯20回後のJIS L1092(スプレー試験)による撥水度が4級以上である、上記(1)または(2)に記載の撥水撥油性布帛。
(4)前記架橋剤が、非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤から選ばれる少なくとも1種である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の撥水撥油性布帛。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、撥水撥油性の耐久性に優れ、かつ、撥水撥油性布帛の製造工程でのPFOAの環境(排水)への放出や撥水撥油性布帛からのPFOAの発生を抑えることのできる、撥水撥油性布帛が提供される。
特に、本発明の好ましい態様においては、洗濯を行っても優れた撥水撥油性を維持し、布帛を湿った状態にて磨耗した湿磨耗後も優れた撥水撥油性を維持することができ、また窒素酸化物に対する耐黄変性にも優れ、さらに遊離ホルムアルデヒドの発生を抑えることもできる、撥水撥油性布帛を得ることができる。
なお、本発明の撥水撥油性布帛は、ウインドブレーカー、スキーウエアーなどのスポーツウエアーやフィッシングウエアー、作業服、エプロン、防水シーツ、テーブルクロス、靴、鞄などの用途へ展開することにより、安全で利便性に優れた衣服やシーツ等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の好ましい実施の態様について具体的に説明するが、本発明はこれらの態様のみに限定されるものではなく、その精神および実施の範囲内において多くの変形が可能であることを理解されたい。
本発明に用いられる繊維布帛は、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン等の合成繊維、レーヨン、バンブー繊維、大豆蛋白繊維などの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、綿、麻、絹、毛などの天然繊維などのいずれの繊維からなるものであってもよく、またこれらの繊維の混繊、混紡、交織、交編などの複数の繊維を組み合わせたものであってもよく、特に限定されるものではない。
また、その形態は、織物、編物、不織布等のいかなるものであってもよく、特に限定されるものではない。
【0011】
本発明において、パーフルオロオクタン酸非含有フッ素系撥水剤とは、PFOAや炭素数9以上のパーフルオロノナン酸、パーフルオロデカン酸などのPFOA類縁物質およびそれらの前駆体(分解してPFOAやPFOA類縁物質となりうる物質)を含有しない撥水剤である。
また、PFOA非含有とは、現在の最高精度の分析機器である高速液体クロマトグラフィー質量分析により測定したパーフルオロオクタン酸の濃度が、定性限界値未満であることをいう。現在の定性限界値は、2〜4ppbである。
【0012】
また、パ−フルオロオクタン酸非含有フッ素系撥水剤は、ホルムアルデヒドの発生を抑制する観点からは、N−メチロール基を含有しないモノマーのみから構成された重合体であることが好ましく、より好ましくはN−メチロール基を含有しないモノマーのみから構成されたパーフルオロアルキルアクリレート共重合体である。
このような撥水剤としては、旭硝子(株)のアサヒガードAG−E060、AG−E061が市販されている。
【0013】
また、本発明に用いる架橋剤は、イソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤およびオキサゾリン系架橋剤からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる。
これらの架橋剤を用いることにより、得られる撥水撥油性布帛の、撥水撥油性の洗濯や湿磨耗に対する耐久性を向上させることができる。
特に、耐久性の観点からは、芳香族ブロックイソシアネート系架橋剤が好ましい。
また、窒素酸化物に対する黄変の防止の観点からは、脂肪族ブロックイソシアネート系架橋剤、脂肪族カルボジイミド系架橋剤およびオキサゾリン系架橋剤が好ましい。
耐久性と窒素酸化物に対する黄変の防止の観点からは、非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネ−ト系架橋剤が好ましい。
【0014】
また、本発明において、非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤は脂肪族系イソシアネート化合物からなるのが好ましく、この脂肪族系イソシアネート化合物は親水性成分を含む化合物であるのが好ましい。ここで、非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤に含有される親水性成分は、ポリエーテル系化合物の単位を主として含むのが好ましく、このポリエーテル系化合物の単位はポリエチレングリコール基および/またはポリプロピレングリコール基であるのが好ましい。
非ブロックタイプとは、イソシアネート基をオキシム類、フェノール類、エノール類等の活性水素化合物と反応させて、常温では不活性にしたブロックイソシアネートではないものをいう。すなわち、非ブロックタイプとは、末端のイソシアネート基がブロックされていないタイプのものである。
【0015】
非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートまたはジフェニルメタンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネートを変性してイソシアヌレート体、アダクト体、ビュウレット体等を含むポリイソシアネート体とし、親水性成分を一部反応させた化合物が挙げられる。
本発明に用いる非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤は、窒素酸化物に対する黄変を防止する観点から、脂肪族系化合物であるのが好ましい。
【0016】
前述したように、本発明に用いる非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤は、親水性成分を含有する化合物であるのが好ましい。一般に、撥水加工において親水性成分を含有する化合物を撥水剤と併用することは、撥水性の低下が予想され、特に撥水性能の洗濯耐久性の低下が懸念されるものである。ところが、本発明では、このような当業者の常識に反して、親水性成分を含有する非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤を用いたにもかかわらず、優れた撥水性能だけではなく、撥水性能の優れた洗濯耐久性をも有する撥水撥油性布帛が得られることが見出されたのである。
【0017】
本発明に有用なかかる架橋剤の具体的な商品名としては、タケネートWD720、WD725(武田薬品工業(株)製)、NKアシストIS−80D、IS―100N(日華化学(株)製)、バイヒジュールVPLS2319、VPLS2336(住化バイエルウレタン(株)製)、アクアネート100、200(日本ポリウレタン工業(株)製)などが挙げられる。
【0018】
これらの非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤は、当初、水系ウレタン樹脂等に対する架橋剤として開発されたが、これらを撥水加工に用いることには撥水性能やその耐久性の問題や加工液安定性、ポットライフ等の問題があるため、撥水加工用の架橋剤としては使用されてはいなかった。
しかしながら、本発明においては、非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート架橋剤を撥水加工に用いることにより、撥水撥油性布帛からのホルムアルデヒドの発生を抑え、窒素酸化物による黄変を防止し、洗濯、湿磨耗に対する耐久性に優れた撥水撥油性布帛を得ることが可能になったのである。
【0019】
本発明において、フッ素系撥水剤の繊維布帛への付着量は、繊維布帛の質量に対して0.1〜2.5質量%が好ましく、0.4〜1.5質量%がより好ましい。付着量が0.1%未満では耐久性が得られにくくなることがあり、また2.5%を超えると得られる布帛の風合いが粗硬になることがある。
また、非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤の繊維布帛への付着量は、繊維布帛の質量に対して0.05〜1.0質量%が好ましく、0.10〜0.45質量%が特に好ましい。付着量が0.05%未満では耐久性が得られにくくなることがあり、付着量が1.0%を超えると風合いが粗硬となることがある。
【0020】
また、本発明の撥水撥油性布帛からの遊離ホルムアルデヒド量は、JIS L1041遊離ホルムアルデヒド試験アセチルアセトン法A法に準じて測定した吸光度の差(A−A)として0.05以下であるのがよい。
JIS L1041遊離ホルムアルデヒド試験アセチルアセトン法A法に準じて測定した吸光度の差(A−A)が0.05以下であれば、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」(法律第112号)の生後24ヶ月以下の乳幼児用の繊維製品の規制をクリアすることができる。
【0021】
また、さらに好ましくは、遊離ホルムアルデヒド量が、JIS L1041遊離ホルムアルデヒド試験アセチルアセトン法A法における布帛質量の10倍の質量の試験布を用い、JIS L1041B法に準じて測定して、1.6ppm以下(試験布1g当り)であるのがよい。
この方法は、試験布の量をJIS L1041遊離ホルムアルデヒド試験アセチルアセトン法A法に規定されている質量の10倍の25gの布帛を用い、その以外はB法に準じる方法により遊離ホルムアルデヒド濃度の測定を行うものである。このJIS L1042A法は、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」のなかで、24ヶ月以下の乳幼児以外の肌着等の繊維製品からのホルムアルデヒドの遊離量を測定する際に用いられる方法であり、B法に比べて試験布の質量を2.5倍にして吸光度の差を求めるものがA法であるが、さらに、本発明では、A法の試験布の10倍の質量の布帛を用いて遊離ホルムアルデヒド量の測定を行っている。したがって、この方法により行った試験では、ホルムアルデヒド濃度の検出限界値である吸光度差0.05に対応するホルムアルデヒド濃度は1.6ppm(試験布1g当り)となる。
【0022】
また、本発明の撥水撥油性布帛においては、窒素酸化物による耐黄変性能は、JIS L0855(強試験)に従う窒素酸化物に対する染色堅牢度試験にて評価を行い、染色堅牢度が4級以上であるのがよい。
また、JIS L0217 103法に従う洗濯20回後のJIS L1092(スプレー試験)での撥水度が3級以上であり、かつ、AATCC Test Method 118−1997での撥油性が2級以上であるのがよい。
また、湿磨耗後のJIS L1092(スプレー試験)での撥水度が3級以上であるのがよい。
湿磨耗は、JIS L1076に記載のアピアランス・リテンション形試験機を用い、試料ホルダと支持台に同一の試験片を表面同士が磨耗されるように取り付け、支持台の中央部に水を滴下し、2枚の試料の間に水が介在する状態にて、750gの荷重で350回磨耗する。その後、室温にて乾燥し、JIS L1092(スプレー試験)での撥水試験を行うことにより評価する。
【0023】
次に、本発明の撥水撥油性布帛の好ましい製造方法について説明する。
前述した如き繊維布帛に対して、パーフルオロオクタン酸非含有フッ素系撥水剤と、イソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤およびオキサゾリン系架橋剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋剤を含む処理液を付与した後、好ましくは60〜200℃の温度において、熱処理を行うことにより本発明の撥水撥油性布帛を得ることができる。
ここで、繊維布帛は、精練、染色、捺染等の加工が施されたものであってもよく、また帯電防止加工や柔軟加工、抗菌加工、消臭加工を施したもの、ウレタン樹脂やアクリル樹脂から得られる多孔質膜、無孔質膜やポリテトラフルオロエチレン膜またはそれらを組み合わせた透湿性防水膜を付与した防水加工布帛などであってもよい。
【0024】
また、繊維布帛に、パーフルオロオクタン酸非含有フッ素系撥水剤とイソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤およびオキサゾリン系架橋剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋剤を含む処理液は、水溶液や水分散液などの水系処理液であってもターペンやイソプロピルアルコール、トルエン、メチルエチルケトン、エタノールなどを用いた溶剤系処理液であってもよい。環境面、耐久性、黄変防止等の観点からは、架橋剤として非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤を用いた水系処理液が好ましい。
これらの処理液においては、PFOA非含有フッ素系撥水剤や、上記の架橋剤以外の、PFOAを含まず、ホルムアルデヒドが発生しにくく、窒素酸化物による黄変がしにくい薬剤を任意に併用してもよいことは勿論である。例えば、そのようなフッ素系撥油SR剤を併用することにより、洗濯耐久性のある撥水撥油SR加工が可能である。一般には、フッ素系撥油SR剤は、親水性成分量が多いため、撥水性能をほとんど有さないが、本発明に用いることにより優れた撥水撥油性能を有し、ホルムアルデヒドの発生を抑え、窒素酸化物による黄変を抑えた撥水撥油SR布帛が得られる。
また、制電性を付与するための帯電防止剤、風合い調整のための柔軟剤、紫外線遮蔽加工のための紫外線吸収剤、処理液安定性の向上のための界面活性剤、抗菌性付与のための抗菌剤、架橋用の触媒等の併用も可能である。
【0025】
これらの処理液の付与方法としては、特に限定されるものではなく、パッド・ドライ法、パッド・スチーム法、パッド・ドライ・スチーム法、グラビアコーテイング法、スプレー法などの種々の方法を用いることができる。
また、処理液を付与した後、好ましくは60〜200℃の温度で、熱処理を行うのであるが、熱処理はホットシリンダーを用いるか、またはスチーマー、ノンタッチ型乾燥機、ネットドライヤー、ピンテンターなどの公知の熱処理装置を用いて行うことができる。また、熱処理は複数回行ってもよい。
熱処理温度が60℃より低いと撥水撥油性能が不充分になることがあり、200℃を超えると熱分解により、布帛の黄変が生じることがある。
【0026】
熱処理を行った後、さらに、帯電防止加工や柔軟加工、抗菌加工、消臭加工、ウレタン樹脂やアクリル樹脂から得られる多孔質膜、無孔質膜やポリテトラフルオロエチレン膜またこれらを組み合わせた透湿性防水膜を付与する防水加工などを施してもよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例では、窒素酸化物による黄変を分かりやすくするために、繊維布帛として染色されていない白生地を用いているが、本発明の撥水撥油性布帛には染色された繊維布帛を用いてもよいことはあらためて述べるまでもないことである。
例中の「%」は質量%であり、また例中の撥水性評価方法、撥油性評価方法、洗濯、湿磨耗、遊離ホルムアルデヒド濃度測定方法、窒素酸化物による黄変試験、透湿度測定および耐水度測定は、以下の操作により行った。
(1)撥水性評価方法:JIS L1092(スプレー試験)に準じて行った。
(2)撥油性評価方法:AATCC Test Method 118−1997に準じて行った。
(3)洗濯:JIS L0217 103に準じて行い、乾燥にはつり干しを行い、その後のドライアイロン仕上げは行っていない。
(4)湿磨耗:JIS L1076に記載のアピアランス・リテンション形試験機を用い、試料ホルダ(底面積約13cm)と支持台に同一の試験片を表面同士が磨耗されるように取り付け、支持台の中央部に水を滴下し、2枚の試料の間に水が介在する状態にて、750g荷重で350回磨耗する。その後、室温にて乾燥し、JIS L1092(スプレー試験)での撥水試験を行う。
【0028】
(5)ホルムアルデヒド濃度測定方法1:JIS L1041遊離ホルムアルデヒド試験アセチルアセトン法A法により行った。
(6)ホルムアルデヒド濃度測定方法2:JIS L1041遊離ホルムアルデヒド試験アセチルアセトン法に規定の試験布をA法に規定されている質量の10倍の25gの量で用い、他はB法に準じて、遊離ホルムアルデヒド濃度の測定を行った。
この測定方法において、吸光度差の検出限界は0.05であり、0.05に対応するホルムアルデヒド濃度は1.6ppmとなる。したがって、1.6ppm(試験布1g当り)が検出限界となる。
(7)窒素酸化物による黄変試験:JIS L0855(強試験)に準じて行った。
(8)透湿度測定:JIS L1099(A−1)法に準じて行った。ただし、単位は24時間当りに換算した。
(9)耐水度測定:JIS L1092 静水圧法 A法に準じて行った。
なお、以下の実施例で使用したアサヒガードAG−E061(旭硝子(株)製)は、PFOA非含有フッ素系撥水剤であり、高速液体クロマトグラフィー質量分析にて測定したパーフルオロオクタン酸の濃度が定性限界値未満であった。
【0029】
実施例1
ポリエステルポンジ(タテ密度78本/2.54cm、ヨコ密度72本/2.54cm、目付け104g/m)を精練加工した後の白生地を繊維布帛として用い、繊維布帛を下記処理液に浸漬した後、マングルにて絞り、熱風オーブンにて120℃で熱処理後、さらに170℃で1分間熱処理を行い、撥水撥油性布帛を得た。
処理液
アサヒガードAG−E061 5%
(PFOA非含有フッ素系撥水剤:旭硝子(株)製、固形分20%)
(モノマーとしてN−メチロール基を含有しないモノマーのみから構成)
アクアネート100 0.2%
(日本ポリウレタン工業(株)製、固形分100%)
(非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤、脂肪族系、ポリエチレングリコール基含有)
水 94.8%
得られた撥水撥油性布帛へのPFOA非含有フッ素系撥水剤の付着量は、繊維布帛の質量に対して、0.75%、非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤の付着量は0.15%であった。
得られた撥水撥油性布帛の性能を表1に示す。
【0030】
実施例2(参考例)
処理液として下記を用いた以外は実施例1と同様にして、撥水撥油性布帛を得た。
得られた撥水撥油性布帛の性能を表1に示す。
処理液
アサヒガードAG−E061 5%
ベッカミンM3 0.3%
(メラミン系架橋剤:大日本インキ化学工業(株)製、固形分80%)
キャタリストACX 0.1%
(反応触媒:大日本インキ化学工業(株)製)
水 94.6%
得られた撥水撥油性布帛へのPFOA非含有フッ素系撥水剤の付着量は、繊維布帛の質量に対して、0.75%、メラミン系架橋剤の付着量は0.18%であった。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果から、実施例1の撥水撥油性布帛は、撥水撥油性の洗濯耐久性および耐湿磨耗性能が良好で、遊離ホルムアルデヒドが検出限界以下であり、窒素酸化物に対する耐黄変性も良好である。また、実施例2の撥水撥油性布帛は、窒素酸化物に対する耐黄変性が良好ではあるが、洗濯や湿磨耗に対する撥水撥油性の低下が見られる。
【0033】
実施例3
ナイロンツイル(タテ密度210本/2.54cm、ヨコ密度154本/2.54cm、目付け86g/m)を精練した白生地を繊維布帛として用い、この布帛を下記処理液に浸漬した後、マングルにて絞り、熱風オーブンにて120℃で乾燥後、さらに160℃で1分間熱処理を行い、撥水撥油性布帛を得た。
【0034】
処理液
アサヒガードAG−E061 5%
NKアシストIS80D 0.4%
(大日本インキ化学工業(株)製、固形分80%)
(非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤、脂肪族系、ポリエチレングリコール基含有)
水 94.6%
【0035】
得られた撥水撥油性布帛へのPFOA非含有フッ素系撥水剤の付着量は、繊維布帛質量に対して、0.75%、非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤の付着量は0.24%であった。
上記撥水撥油性布帛の裏面に、下記処方のウレタン樹脂溶液をフローティングナイフ方式により塗布後、水中で凝固させ、脱溶媒を行い、熱風オーブンにて120℃で乾燥後、160℃で1分間熱処理を行って、微多孔質のウレタン樹脂膜を付与し、透湿防水性能を持つ撥水撥油性布帛を得た。
得られた撥水撥油性布帛の性能を表2に示す。
【0036】
ウレタン樹脂溶液
クリスボン8006 100質量部
(ウレタン樹脂:大日本インキ化学工業(株)製)
N,N−ジメチルホルムアミド 40質量部
バーノックBL50 5質量部
(脂肪族ブロックイソシアネート系架橋剤:大日本インキ化学工業(株)製)
【0037】
実施例4(参考例)
処理液として下記を用いた以外は実施例3と同様にして、撥水撥油性布帛を得た。
得られた透湿防水性を持つ撥水撥油性布帛の性能を表2に示す。
処理液
アサヒガードAG−E061 5%
エラストロンBN69 0.6%
(芳香族ブロックイソシアネート系架橋剤:第一工業製薬(株)製、固形分40%)
水 94.4%
得られた撥水撥油性布帛へのPFOA非含有フッ素系撥水剤の付着量は、繊維布帛質量に対して、0.75%、芳香族ブロックイソシアネート系架橋剤の付着量は0.18%であった。
【0038】
【表2】

【0039】
表2の結果から、実施例3の撥水撥油性布帛は、撥水撥油性能の洗濯耐久性、湿磨耗耐久性が良好であり、遊離ホルムアルデヒドが検出限界以下であり、窒素酸化物に対する耐黄変性も良好である。
実施例4の撥水撥油性布帛は、撥水撥油性の洗濯耐久性、湿磨耗耐久性が良好であり、遊離ホルムアルデヒドが検出限界以下である。ただし、窒素酸化物に対する黄変が見られる。
【0040】
実施例5
綿ツイル(タテ密度100本/2.54cm、ヨコ密度94本/2.54cm、目付け160g/m)を精練加工した後の白生地を繊維布帛として用い、繊維布帛を下記処理液に浸漬した後、マングルにて絞り、熱風オーブンにて120℃で乾燥後、さらに170℃で1分間熱処理を行い、撥水撥油性布帛を得た。
【0041】
処理液
アサヒガードAG−E061 8%
バイビジュアルVPLS2319 0.4%
(住化バイエルウレタン(株)製、固形分100%)
(非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤、脂肪族系、ポリエチレングリコール基含有)
得られた撥水撥油性布帛へのPFOA非含有フッ素系撥水剤の付着量は、繊維布帛質量に対して、1.2%、非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤の付着量は0.3%であった。
得られた撥水撥油性布帛の性能を表3に示す。
【0042】
実施例6(参考例)
処理液として下記を用いた以外は実施例1と同様にして、撥水撥油性布帛を得た。
得られた撥水撥油性布帛へのPFOA非含有フッ素系撥水剤の付着量は、繊維布帛質量に対して、1.2%、脂肪族ブロックイソシアネート系架橋剤の付着量は0.15%であった。
【0043】
処理液
アサヒガードAG−E061 8%
エラストロンBN11 0.6%
(脂肪族ブロックイソシアネート系架橋剤:第一工業製薬(株)製、固形分34%)
水 91.4%
【0044】
【表3】

【0045】
表3の結果より、実施例5の撥水撥油性布帛は、撥水撥油性能の洗濯耐久性および耐磨耗性が良好で、遊離ホルムアルデヒドが検出限界以下であり、窒素酸化物に対する耐黄変性も良好である。
実施例6の撥水撥油性布帛は、遊離ホルムアルデヒドが検出限界以下であり、窒素酸化物に対する耐黄変性も良好であるが、洗濯後や湿磨耗後に撥水撥油性の低下が見られる。
【0046】
実施例7(参考例)
処理液として下記を用いた以外は実施例1と同様にして、撥水撥油性布帛を得た。
得られた撥水撥油性布帛へのPFOA非含有フッ素系撥水剤の付着量は、繊維布帛質量に対して、0.75%、カルボジイミド系架橋剤の付着量は0.15%であった。
得られた撥水撥油性布帛の性能を表4に示す。
処理液
アサヒガードAG−E061 5%
カルボジライトV02 0.5%
(カルボジイミド系架橋剤:日清紡績(株)製、固形分40%)
水 94.5%
【0047】
実施例8(参考例)
処理液として下記を用いた以外は実施例1と同様にして、撥水撥油性布帛を得た。
得られた撥水撥油性布帛へのPFOA非含有フッ素系撥水剤の付着量は、繊維布帛質量に対して、0.75%、オキサゾリン系架橋剤の付着量は0.15%であった。
得られた撥水撥油性布帛の性能を表4に示す。
処理液
アサヒガードAG−E061 5%
エポクロスWS500 0.5%
(オキサゾリン系架橋剤:日本触媒化学工業(株)製、固形分40%)
水 94.5%
【0048】
【表4】

【0049】
実施例7の撥水撥油性布帛は、遊離ホルムアルデヒドが検出限界以下であり、窒素酸化物に対する耐黄変性も良好であるが、洗濯後や湿磨耗後に撥水撥油性の低下が見られる。
また、実施例8の撥水撥油性布帛は、遊離ホルムアルデヒドが検出限界以下であり、窒素酸化物に対する耐黄変性も良好であるが、洗濯後や湿磨耗後に撥水撥油性の低下が見られる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の撥水撥油性布帛は、ウインドブレーカー、スキーウエアーなどのスポーツウエアーやフィッシングウエアー、作業服、エプロン、防水シーツ、テーブルクロス、靴、鞄などの用途へ展開することにより、安全で利便性に優れた衣服やシーツ等を提供することができ、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布帛にパーフルオロオクタン酸非含有フッ素系撥水剤と架橋剤を付与してなり、
JIS L1041遊離ホルムアルデヒド試験アセチルアセトンA法に準じて測定した遊離ホルムアルデヒド量が、吸光度の差(A−A)として0.05以下であり、
JIS L1041遊離ホルムアルデヒド試験アセチルアセトンA法における布帛重量の10倍の質量の試験布を用い、JIS L1041B法に準じて測定した遊離ホルムアルデヒド量が1.6ppm以下であり、
JIS L0855(強試験)に従う窒素酸化物に対する染色堅牢度が4級以上であり、
JIS L0217 103に従う洗濯20回後のJIS L1092(スプレー試験)による撥水度が3級以上であり、
AATCC Test Method 118−1997による撥油性が2級以上であり、
湿磨耗後のJIS L1092(スプレー試験)による撥水度が3級以上である
ことを特徴とする撥水撥油性布帛。
【請求項2】
前記繊維布帛が、ポリエステルまたはナイロン繊維を含むものである、請求項1に記載の撥水撥油性布帛。
【請求項3】
JIS L0217 103に従う洗濯20回後のJIS L1092(スプレー試験)による撥水度が4級以上である、請求項1または2に記載の撥水撥油性布帛。
【請求項4】
前記架橋剤が、非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の撥水撥油性布帛。

【公開番号】特開2011−214216(P2011−214216A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161111(P2011−161111)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【分割の表示】特願2006−96610(P2006−96610)の分割
【原出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000184687)小松精練株式会社 (110)
【Fターム(参考)】