説明

撥油性が付与された通気フィルタ

【課題】ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)延伸多孔質膜に、通気性を大きく低下させることなく撥油性を付与する。
【解決手段】撥油剤により被覆された表面を有する多孔質膜を備え、撥油剤に含まれる直鎖状フッ素含有炭化水素基が、1)−R1510CH249、または2)−R2613により示され、多孔質膜がPTFE延伸多孔質膜である、撥油性が付与された通気フィルタとする。ここで、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数が1〜12のアルキレン基またはフェニレン基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥油性が付与された通気フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ヘッドランプ、リアランプ、フォグランプ、ターンランプ、モーター、各種圧力センサー、圧力スイッチなどの自動車用電装部品、カメラ、ビデオ、携帯電話などの情報端末、電気剃刀、電動歯ブラシ、および屋外用途のランプなど、各種の機器筐体には通気孔が設けられることが多い。通気孔を設ける主な目的は、機器の内部と外部とを連通させることにより、機器の作動による機器筐体内の温度上昇に伴う内部圧力の過度な上昇を回避することにある。また、バッテリーケースには、電池作動時に発生するガスを排出させることを目的として、通気孔が設けられている。
【0003】
機器筐体に設けた通気孔から水、塵などが侵入することを防止するため、通気孔には通気フィルタが配置されることがある。通気フィルタとしては、ポリオレフィン樹脂またはフッ素樹脂の多孔質膜が用いられることが多い。特に、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という)を延伸して微多孔構造を形成した多孔質膜は、撥水性に優れた通気フィルタとして知られている。しかし、使用環境によっては、通気フィルタには、皮脂、界面活性剤、オイルなども接触する。撥水性に優れたPTFE延伸多孔質膜を通気フィルタとして用いたとしても、表面張力の低い液体の侵入を十分に防ぐことはできない。このため、通気フィルタには、その用途に応じ、フッ素含有重合体を含む処理剤を用いた撥油処理が行われている。
【0004】
炭素数が8以上の直鎖状パーフルオロアルキル基(以下、「直鎖状パーフルオロアルキル基」を「Rf基」と表記することがある)を有するフッ素含有重合体が撥油性の付与に適していることは周知である。炭素数が8以上のRf基の結晶性は、炭素数が少ない(例えば6以下の)Rf基と比較して著しく高く、この結晶性の高さが優れた撥油性の発現に寄与していると考えられている。結晶性の高さに由来して、炭素数が8以上のRf基を有する処理剤からは高い後退接触角(前進接触角とともに動的接触角である)が得られることも知られている。この後退接触角は、結晶性の向上に応じ、炭素数が6から8にかけて急激に増加する。このような事情から、通気フィルタに撥油性を付与するためには、炭素数が8以上のRf基を有するフッ素含有重合体を含む処理剤を使用するのが通例となっている。
【0005】
上記処理剤とともにその他の処理剤を用いて通気フィルタに撥油性を与えることも知られている。例えば、特開平7−126428号公報(特許文献1)には、Rf基を有するフッ素含有重合体とともに、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有するフッ素樹脂を含む処理剤により通気フィルタを処理することが開示されている(請求項1等)。含フッ素脂肪族環構造を有するフッ素樹脂は、造膜性に優れており、例えばパーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)を重合することにより得ることができる(段落0009,0011)。なお、特許文献1には、パーフルオロアルキル基の炭素数は、4〜16、特に6〜12が好ましいと記載されている(段落0023)。しかし、実施例の欄では、上述した通例に従い、炭素数が平均で9のパーフルオロアルキル基を有するフッ素含有重合体が用いられている(段落0049,0050;各実施例)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−126428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来、高い撥油性を付与するためには、炭素数が8以上のRf基の高い結晶性を利用することが必須と考えられてきた。例えば、特許文献1の実施例の欄に示されているように、含フッ素脂肪族環構造を有するフッ素樹脂のみを用いても、通気フィルタに十分な撥油性を与えることはできない(各比較例)。実用上も、特許文献1における撥油試験で用いられているトルエンまたはIPA(イソプロパノール)が接触して「瞬時に濡れる」程度の特性は、撥油性として十分なものとはいえない。通気フィルタに実用上十分な撥油性を付与するためには、炭素数が8以上のRf基が利用されているのが実情である。
【0008】
しかし、炭素数が8以上のRf基を有するフッ素含有重合体を含む処理剤を用いて撥油処理を行うと、通気フィルタの通気性が大きく低下する場合がある。この通気性の低下の程度は、通気フィルタが有する多孔構造に依存する。例えば、ポリオレフィン、ナイロンなどの不織布については、通常、撥油処理による通気性の低下は限られたものとなる。他方、フィブリルおよびノードにより構成された特徴的な微多孔構造を有するPTFE延伸多孔質膜については、上記処理剤による撥油処理に伴う通気性の低下が顕著になる場合がある。
【0009】
以上に鑑みて、本発明の目的は、PTFE延伸多孔質膜に、通気性を大きく低下させることなく撥油性を付与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、撥油剤により被覆された表面を有する多孔質膜を備えた通気フィルタであって、撥油剤に含まれる直鎖状フッ素含有炭化水素基が、
1)−R1510CH249、または2)−R2613
により示され、多孔質膜がPTFE延伸多孔質膜である、撥油性が付与された通気フィルタ、を提供する。ここで、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数が1〜12のアルキレン基またはフェニレン基である。
【発明の効果】
【0011】
直鎖状フッ素含有炭化水素基が上記1)または2)に示したものである撥油剤は、PTFE延伸多孔質膜の通気性を大きく低下させることなく、実用上の要求に応えうる程度の撥油性を付与しうるものである。本発明によれば、PTFE延伸多孔質膜に、通気性を大きく低下させることなく撥油性を付与することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による通気フィルタは、撥油剤により被覆された表面を有するPTEF延伸多孔質膜を備えている。PTFE延伸多孔質膜は、市販品を用いればよいが、以下に製造方法の一例を説明しておく。
【0013】
まず、PTFEファインパウダーに液状潤滑剤を加えたペースト状の混和物を予備成形する。液状潤滑剤は、PTFEファインパウダーの表面を濡らすことができて、抽出や乾燥によって除去できるものであれば特に制限はなく、例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイルなどの炭化水素を使用できる。液状潤滑剤の添加量は、PTFEファインパウダー100重量部に対して5〜50重量部程度が適当である。予備成形は、液状潤滑剤が絞り出されない程度の圧力で行えばよい。
【0014】
次に、予備成形体をペースト押出または圧延によってシート状に成形し、このPTFE成形体を一軸または二軸方向に延伸してPTFE延伸多孔質膜を得る。なお、PTFE成形体の延伸は液状潤滑剤を除去してから行うことが好ましい。
【0015】
本明細書では、慣用に従い、シート状のPTFE成形体を延伸することにより微多孔構造を形成したPTFEの多孔質膜を「PTFE延伸多孔質膜」と呼ぶ。PTFE延伸多孔質膜は、典型的にはフィブリルおよびノードから構成された特徴的な微多孔構造を有しており、それ自体が優れた撥水性を示す。
【0016】
なお、PTFE延伸多孔質膜は、PTFEの融点以上の温度で焼成した焼成品であっても、この焼成を実施しない未焼成品であっても構わない。
【0017】
PTFE延伸多孔質膜の平均孔径は、0.005〜10μmが好ましく、0.01〜5μmがより好ましく、0.1〜3μmが特に好ましい。平均孔径が小さすぎると通気フィルタの通気性が低下することがある。平均孔径が大きすぎると異物のリークが発生する場合がある。また、PTFE延伸多孔質膜の厚さは、5〜5000μmが好ましく、10〜1000μmがより好ましく、10〜500μmが特に好ましい。膜厚が小さすぎると、膜の強度が不足したり、通気筐体の内外の差圧により通気フィルタの変形が過大となったりするおそれがある。膜厚が大きすぎると、通気フィルタの通気性が低下することがある。
【0018】
通気フィルタは、撥油剤により被覆された表面を有するPTEF延伸多孔質膜と、この膜を補強するための通気性支持体との積層体であってもよい。通気性支持体を用いると、差圧による通気フィルタの変形を抑制できる。通気性支持体は、単層であってもよく、2以上の層の積層体であってもよい。ただし、撥油性の発現のために、通気フィルタの少なくとも一方の主面は、撥油剤により被覆されたPTFE延伸多孔質膜の表面により構成するべきである。
【0019】
通気性支持体としては、超高分子量ポリエチレン多孔質膜、不織布、織布、ネット、メッシュ、スポンジ、フォーム、金属多孔質膜、金属メッシュなどを用いることができる。強度、弾性、通気性、作業性および容器への溶着性などの観点から、通気性支持体としては、不織布および超高分子量ポリエチレン多孔質膜が好ましい。
【0020】
PTFE延伸多孔質膜と通気性支持体とは、ただ単に重ね合わせるだけでもよく、接着剤、ホットメルト樹脂などを用いて接着してもよく、加熱溶着、超音波溶着、振動溶着などにより溶着してもよい。
【0021】
本発明では、直鎖状フッ素含有炭化水素基として、
1)−R1510CH249、または
2)−R2613
を有する撥油剤が使用される。ここで、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数が1〜12、好ましくは1〜10のアルキレン基、あるいはフェニレン基である。上記1)または2)で示されるフッ素含有炭化水素基は、R1またはR2がアルキレン基であるときには、直鎖状フルオロアルキル基となる。なお、上記の「直鎖状」とは、フッ素含有炭化水素基の炭素骨格が分岐した2以上の末端を有さないことを明確にする趣旨であって、R1またはR2としてフェニレン基を含むことを除外する意味ではない。
【0022】
直鎖状パーフルオロアルキル基(Rf基)は、低い表面自由エネルギーを発現するCF3基を有し、被覆表面に撥水撥油性を付与する官能基である。上述したとおり、炭素数が8以上のRf基は、結晶性が高いため、優れた撥油性を発現させることが知られている。炭素数が8以上のRf基を有するフッ素含有重合体を含む処理剤は、皮革、紙、樹脂などの基材への撥水撥油性の付与には適している。しかし、この処理剤は、PTFE延伸多孔質膜のような微多孔構造を有する通気フィルタに適用すると、通気性の大幅な低下をもたらすことがある。また、この処理剤により付与される撥水撥油性は、高い動的接触角を要する用途においては特に有用である。しかし、通気フィルタにおいては、一般に、トルエン、デカンなどの炭化水素、およびIPAに代表される低級アルコールが浸透しない程度の撥油性を付与できればよい。直鎖状フッ素含有炭化水素基として上記1)または2)を有する撥油剤は、PTFE延伸多孔質膜の表面を被覆しても、通気度を大きく低下させることなく、実用上十分な撥油性を付与できる。
【0023】
この撥油剤は、好ましくは、直鎖状フッ素含有炭化水素基を側鎖として有するフッ素含有重合体である。このフッ素含有重合体において、直鎖状フッ素含有炭化水素基は、例えば、エステル基、エーテル基などの官能基を介して、あるいは直接、主鎖に結合している。
【0024】
直鎖状フッ素含有炭化水素基として上記1)または2)を有するフッ素含有重合体としては、例えば、
a)CH2=CR3COOR1510CH249、または
b)CH2=CR4COOR2613
により示される化合物を単量体の少なくとも一部とする重合体を挙げることができる。ここで、R1およびR2は上述のとおりである。また、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基である。
【0025】
ただし、高い撥油性が要求される場合には、上記a)により示されるか、あるいは上記b)においてR4がメチル基である化合物を単量体として選択することが好ましい。すなわち、本発明の好ましい実施形態では、
a)CH2=CR3COOR1510CH249、または
b’)CH2=C(CH3)COOR2613
により示される化合物を単量体する重合体が用いられる。ここでも、R1、R2およびR3は上述のとおりである。
【0026】
このフッ素含有重合体は、上記a)および/またはb)により示される化合物のみを単量体として重合させたものであってもよいが、上記化合物とその他の単量体とを共重合させたものであってもよい。共重合させる場合の単量体としては、各種(メタ)アクリル系単量体を挙げることができるが、これに限らず、テトラフルオロエチレンなどエチレン性不飽和結合を有する各種の単量体を用いてもよい。共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。ただし、共重合体とする場合には、撥油性の付与に支障が生じないように、全単量体に占める上記a)またはb)により示される化合物の比率を60モル%以上、特に90モル%以上とすることが好ましい。上記化合物の重合方法は、アクリル系モノマーの重合方法として公知の方法に従えばよく、溶液重合または乳化重合により実施することができる。
【0027】
上記フッ素含有重合体の平均分子量は、特に制限されないが、数平均分子量により表示して、例えば1000〜500000程度である。
【0028】
PTFE延伸多孔質膜の表面を撥油剤により被覆する方法としては、撥油剤を溶剤に溶解した溶液に通気フィルタを浸す方法、上記溶液を通気フィルタに塗布し、または噴霧する方法を挙げることができる。撥油剤による被覆に際しては、PTFE延伸多孔質膜の収縮を防ぐために、枠などを用い、PTFE延伸多孔質膜の端部を固定しておくことが好ましい。上記溶液における撥油剤の適切な濃度は、被覆方法などによって相違するが、溶液に通気フィルタを浸す方法については0.1〜10重量%程度である。
【0029】
撥油処理した後の通気フィルタの通気度が低すぎると、通気筐体の内外の圧力差を迅速に解消することができなくなる。この通気度は、ガーレー数により表示して、35秒/100ml以下が好ましい(ガーレー数が低いほど通気度は高い)。以下の実施例に示すとおり、本発明によれば、ガーレー数が35秒/100ml以下である通気性を有し、実用的な撥油性を有する表面を備えた、通気フィルタを提供できる。この表面は、n−デカンまたはメタノールである有機溶媒の直径5mmの液滴を滴下したときに、滴下後30秒以内に液滴が表面に浸透しない撥油性を具備している。本発明によれば、通気フィルタとして要求される強度を満たすべく、PTFE延伸多孔質膜の厚さが5μm以上、さらには10μm以上、でありながらも、上記程度に低いガーレー数を有し、実用的な撥油性を有する表面を備えた通気フィルタを提供することもできる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0031】
(実施例1)
PTFE延伸多孔質膜として、日東電工株式会社製「TEMISH(登録商標)NTF1131」(大きさ15cm×15cm;厚さ0.1mm;平均孔径1μm)を準備した。また、信越化学社製の撥水撥油剤「X−70−041」を3.0重量%の濃度となるように希釈剤(信越化学社製「FSシンナー」)で希釈して撥油処理液を調製した。上記「X−70−041」は、以下の式(a−1)により示される、直鎖状フルオロアルキル基を有する化合物を単量体として含む重合体を撥油成分とする撥水撥油剤である。
【0032】
CH2=CHCOOCH2CH2510CH249(a−1)
【0033】
膜が収縮しないようにその周囲を20cm角の枠に固定した状態で、上記PTFE延伸多孔質膜を20℃の保持した上記撥油処理液中に約3秒間浸し、引き続き、常温で約1時間放置して乾燥させ、撥油性の通気フィルタを得た。
【0034】
(実施例2)
撥油剤として、以下の式(a−2)により示される、直鎖状フルオロアルキル基を有する化合物を単量体とする重合体を撥油成分とする信越化学社製の撥水撥油剤「X−70−042」を用いた以外は、実施例1と同様にして通気フィルタを得た。
【0035】
CH2=C(CH3)COOCH2CH2510CH249(a−2)
【0036】
(実施例3)
以下の式(b−1)により示される、直鎖状フルオロアルキル基を有する化合物100g、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1g、溶媒(信越化学社製「FSシンナー」)300gを、窒素導入管、温度計、撹拌機を装着したフラスコの中に投入し、窒素ガスを導入して70℃で撹拌しながら16時間付加重合を行い、フッ素含有重合体80gを得た。この重合体の数平均分子量は100000であった。このフッ素含有重合体を濃度が3.0重量%となるように希釈剤(信越化学社製「FSシンナー」)で希釈して撥油処理液を調製した。
【0037】
CH2=CHCOOCH2CH2613(b−1)
【0038】
上記撥油処理液を用いた以外は実施例1と同様にして通気フィルタを得た。
【0039】
(実施例4)
以下の式(b−2)により示される、直鎖状フルオロアルキル基を有する化合物100g、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1g、溶媒(信越化学社製「FSシンナー」)300gを、窒素導入管、温度計、撹拌機を装着したフラスコの中に投入し、窒素ガスを導入して70℃で撹拌しながら16時間付加重合を行い、フッ素含有重合体80gを得た。この重合体の数平均分子量は100000であった。このフッ素含有重合体を濃度が3.0重量%となるように希釈剤(信越化学社製「FSシンナー」)で希釈して撥油処理液を調製した。
【0040】
CH2=C(CH3)COOCH2CH2613(b−2)
【0041】
上記撥油処理液を用いた以外は実施例1と同様にして通気フィルタを得た。
【0042】
(比較例1)
以下の式(c)により示される、直鎖状フルオロアルキル基を有する化合物100g、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1g、溶媒(信越化学社製「FSシンナー」)300gを、窒素導入管、温度計、撹拌機を装着したフラスコの中に投入し、窒素ガスを導入して70℃で撹拌しながら16時間付加重合を行い、フッ素含有重合体80gを得た。この重合体の数平均分子量は100000であった。このフッ素含有重合体を濃度が3.0重量%となるように希釈剤(信越化学社製「FSシンナー」)で希釈して撥油処理液を調製した。
【0043】
CH2=C(CH3)COOCH2CH2817(c)
【0044】
上記撥油処理液を用いた以外は実施例1と同様にして通気フィルタを得た。
【0045】
以上から得た撥油処理済みの通気フィルタおよび未処理の上記PTFE延伸多孔質膜(未処理品)について、通気試験および撥油試験を実施した。通気試験は、JIS P8117に規定されているガーレー試験法により実施した。また、撥油試験は、ISO14419に規定されている「織物−撥油性−炭化水素耐性試験」に準じて実施した。具体的には、通気フィルタの表面に、ピペットを用いて有機溶媒を直径約5mmの液滴として滴下し、滴下後30秒後の液滴の浸透の有無を目視により確認した。有機溶媒としては、n−デカン、メタノールおよびn−ヘキサンを用いた。なお、液滴の浸透は、液滴が多孔質膜に吸収される、あるいは液滴の浸透により多孔質膜の色調が変化した場合に「浸透する」と判定した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
比較例1では、未処理品と比較して、ガーレー数が5倍以上に上昇した。炭素数8以上の直鎖状パーフルオロアルキル基(Rf基)が高い結晶性を有することは、撥油性の発現には有利であるものの、PTFE延伸多孔質膜が有するような微多孔構造の通気性を維持する上では支障となる。これに対し、実施例1〜4では、ガーレー数の上昇の程度は、未処理品と比較して1.6〜2.5倍程度に止まった。実施例1〜4と比較例とを対比すると、ガーレー数には2倍程度以上の相違がある。
【0048】
また、実施例1〜4では、n−デカン(表面張力23.83dyn・cm-1)およびメタノール(同22.45dyn・cm-1)を浸透させない程度に撥油性を有する表面が得られた。これらの有機溶媒を浸透させない程度の表面であれば、通気フィルタとしての用途では実用上の要求特性は満たしている。
【0049】
なお、特許文献1には、炭素数が8以上の直鎖状パーフルオロアルキル基を有しない撥油剤として、含フッ素脂肪族環構造を有するフッ素樹脂を用いてPTFE延伸多孔質膜を処理した例が開示されている(比較例3,4)。特許文献1のこれらの例で処理された表面は、n−デカンよりも表面張力が高いトルエン(同28.52dyn・cm-1)およびメタノールと同程度の表面張力を有するイソプロパノール(IPA;同21.32dyn・cm-1)に対して、「瞬時に濡れる」程度の撥油性に止まっている。これらの例と対比すると、直鎖状フッ素含有炭化水素基として、1)−R1510CH249、または2)−R2613を有する撥油剤が、PTFE延伸多孔質膜の通気性を大きく低下させることなく撥油性を付与する撥油剤として格段に優れていることが理解できる。
【0050】
実施例1,2,4では、表面張力が20dyn・cm-1を下回るn−ヘキサン(表面張力18.40dyn・cm-1)を浸透させないことが確認できた。撥油剤を構成する単量体として、a)CH2=CR3COOR1510CH249、またはb’)CH2=C(CH3)COOR2613が特に優れていることが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥油剤により被覆された表面を有する多孔質膜を備えた通気フィルタであって、
前記撥油剤に含まれる直鎖状フッ素含有炭化水素基が、
−R1510CH249または−R2613により示され、
前記多孔質膜がポリテトラフルオロエチレン延伸多孔質膜である、
撥油性が付与された通気フィルタ。
ここで、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数が1〜12のアルキレン基またはフェニレン基である。
【請求項2】
前記撥油剤が、
CH2=CR3COOR1510CH249、または
CH2=CR4COOR2613
により示される化合物を単量体の少なくとも一部とする重合体である、
請求項1に記載の通気フィルタ。
ここで、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基である。
【請求項3】
ガーレー数が35秒/100ml以下である通気性を有し、
前記表面にn−デカンまたはメタノールである有機溶媒の直径5mmの液滴を滴下したときに滴下後30秒以内に前記液滴が前記表面に浸透しない、
請求項1または2に記載の通気フィルタ。
【請求項4】
前記撥油剤が、
CH2=CR3COOR1510CH249、または
CH2=C(CH3)COOR2613
により示される化合物を単量体とする重合体である、
請求項2または3に記載の通気フィルタ。
【請求項5】
前記表面にn−ヘキサンである有機溶媒の直径5mmの液滴を滴下したときに滴下後30秒以内に前記液滴が前記表面に浸透しない、
請求項4に記載の通気フィルタ。
【請求項6】
前記ポリテトラフルオロエチレン延伸多孔質膜の厚さが5μm以上である、請求項3〜5のいずれか1項に記載の通気フィルタ。


【公開番号】特開2012−236188(P2012−236188A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−38615(P2012−38615)
【出願日】平成24年2月24日(2012.2.24)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】