説明

撮像装置、プログラムおよび記憶媒体

【課題】音信号のノイズ低減処理を行う撮像装置、プログラム、記憶媒体を提供する。
【解決手段】推定ノイズ(N)および演算結果を記憶する記憶部(18)と、 音声入力部(21)で検出された音信号(S)と前記推定ノイズ(N)との演算を行う演算部(11)とを含み、前記演算部(11)は、前記推定ノイズ(N)と前記音信号(S)との類似度(Ip)に基づき推定ノイズ範囲を決定するとともに、前記推定ノイズ範囲と前記音信号(S)との関係に基づき前記推定ノイズ(N)を更新する撮影装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置、プログラムおよび記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラ等の撮像装置を利用して動画撮影を行う際に、撮影された動画に対応した音信号に、レンズの機構音などのノイズ音が混入することがあり、高品質な音声情報を取得することができないことが問題になっている。
【0003】
一般的なノイズ除去方法として、音声に重畳した定常的なノイズを低減する手法が提案されている(非特許文献1)。しかしながら、このような方法では、入力された音信号に、ノイズ成分が含まれているか否かを判断しておらず、音声に重畳した定常的なノイズを低減するのみである。したがって、従来の手法では、音声に重畳したノイズ成分が変化する場合には、良好なノイズ低減効果が得られない。
【0004】
また、音声に重畳したノイズ成分が変化する場合において、ノイズを低減する手法も提案されている(非特許文献2)。この方法では、複数のフレームにおいて、音信号の周波数成分毎の最小値を取得し、その最小値をその周波数成分における推定ノイズとし、その推定ノイズ利用してノイズ低減処理を行っている。しかしながら、この手法では、ノイズ音が不定期に発生する場合や、ノイズ音の変化が大きい場合には、ノイズ音が過小に推定されてしまうので、良好なノイズ低減効果が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S.F. Boll, “Suppression of acoustic noise in speech using spectral subtraction” IEEE Trans. Acoust. Speech Signal Process., Vol.ASSP-27, No.2, pp.113-120, April 1979.
【非特許文献2】R. Martin, “Spectral Subtraction Based on Minimum Statistics”EUSIPCO’94, pp.1182-1185, Sept. 1994.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、音信号のノイズ低減処理を高精度に行うことができる撮像装置、プログラム、記憶媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の撮影装置は、
推定ノイズ(N)および演算結果を記憶する記憶部(18)と、
音声入力部(21)で検出された音信号(S)と前記推定ノイズ(N)との演算を行う演算部(11)とを含み、
前記演算部(11)は、前記推定ノイズ(N)と前記音信号(S)との類似度(Ip)に基づき推定ノイズ範囲を決定するとともに、前記推定ノイズ範囲と前記音信号(S)との関係に基づき前記推定ノイズ(N)を更新する。
【0008】
前記演算部(11)が、正規化された前記推定ノイズ(N)と正規化された前記音信号(S)との内積に基づき前記類似度(Ip)を算出してもよい。
【0009】
前記演算部(11)が、前記内積の結果に基づき前記推定ノイズ範囲の上限と下限とを決定してもよい。
【0010】
前記演算部(11)が、前記内積の値が小さいときに前記類似度(Ip)が小さいと判断して、前記上限と前記下限との差を小さくするように前記上限と前記下限とを決定してもよい。
【0011】
前記演算部(11)が、前記内積の値が所定値より小さいときに前記類似度(Ip)が小さいと判断して、前記上限と前記下限との差を0にするように前記上限と前記下限とを決定してもよい。
【0012】
前記推定ノイズ(N)の初期値(N0)が、前記撮影装置がフォーカス調整を行う際の機構音に対応して予め設定されており、
前記演算部(11)が、前記推定ノイズ(N)の前記初期値(N0)と前記音信号(S)との類似度(Ip)に基づき前記推定ノイズ範囲を決定するとともに、前記推定ノイズ(N)の初期値(N0)と前記音信号(S)との関係に基づき前記推定ノイズ(N)を更新してもよい。
【0013】
本発明の撮影装置は、レンズ鏡筒(40)が着脱自在に取り付けられる撮影装置本体(10)を更に有し、
前記推定ノイズ(N)の前記初期値(N0)が、前記レンズ鏡筒(40)に対応して予め設定されてもよい。
【0014】
前記演算部(11)が、前記撮影装置が前記フォーカス調整を行う際に、前記推定ノイズ(N)と前記音信号(S)との類似度(Ip)に基づき前記推定ノイズ範囲を決定するとともに、前記推定ノイズ範囲と前記音信号(S)との関係に基づき前記推定ノイズ(N)を更新してもよい。
【0015】
本発明のコンピュータに実行させるためのプログラムは、
推定ノイズ(N)と音信号(S)との類似度(Ip)に基づき推定ノイズ範囲を決定する工程と、
前記推定ノイズ範囲内にある前記音信号(S)を利用して前記推定ノイズ(N)を更新する工程とを有する。
【0016】
本発明の記憶媒体には、上記のプログラムが記録してある。
【0017】
なお、上述の説明では、本発明をわかりやすく説明するために、実施形態を示す図面の符号に対応付けて説明したが、本発明は、これに限定されるものでない。後述の実施形態の構成を適宜改良してもよく、また、少なくとも一部を他の構成に代替させてもよい。更に、その配置について特に限定のない構成要件は、実施形態で開示した配置に限らず、その機能を達成できる位置に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るカメラの概略図である。
【図2】図2は、図1に示すカメラのノイズ低減処理の一例を示すフローチャートである。
【図3】図3は、図2に示すフローチャートの詳細を示すフローチャートである。
【図4】図4は、図2に示すフローチャートの詳細を示すフローチャートである。
【図5】図5(a)〜図5(d)は、図1に示す撮影装置での音信号のノイズ低減処理の一例を示す。
【図6】図6(a)〜図6(d)は、図1に示す撮影装置での音信号のノイズ低減処理の他の一例を示す。
【図7】図7(a)〜図7(d)は、図1に示す撮影装置での音信号のノイズ低減処理の他の一例を示す。
【図8】図8は、推定ノイズに対する音信号の類似度とノイズ推定係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1実施形態
図1に示す本発明の一実施形態に係るカメラ2は、カメラ本体10と、レンズ鏡筒40とを有する。なお、以下の実施形態では、レンズ鏡筒40がカメラ本体10に着脱自在に取り付けられるレンズ交換式の一眼レフカメラを例に説明するが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、レンズ鏡筒40とカメラ本体10とが一体であるコンパクトカメラやカメラ付きモバイル機器であっても良い。また、ミラー機構を省いたミラーレスタイプのカメラであっても良い。
【0020】
カメラ本体10は、CPU11、AFセンサ12、ミラー13、シャッタ14、撮像素子15、信号処理回路16、レリーズスイッチ17、EEPROM18、記録媒体19、液晶モニタ20、音声録音マイク21を有する。
【0021】
レンズ鏡筒40は、ズームレンズ群L1、フォーカスレンズ群L2、ブレ補正レンズ群L3、加速度センサ41、角速度センサ42、絞り43、ズームレンズ群駆動機構44、フォーカスレンズ群駆動機構45、ブレ補正レンズ群駆動機構46、絞り駆動機構47を有する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態のカメラ2では、光軸Zに沿って、被写体側から順に、ズームレンズ群L1、フォーカスレンズ群L2、絞り43、ブレ補正レンズ群L3、ミラー13、シャッタ14、撮像素子15が配置されている。
【0023】
ズームレンズ群L1は、ズームレンズ群駆動機構44により駆動され、光軸方向に移動可能である。ズームレンズ群駆動機構44は、CPU11からの駆動命令を受けて、ズームレンズ群L1を光軸方向に移動させる。
【0024】
フォーカスレンズ群L2は、フォーカスレンズ群駆動機構45により駆動され、光軸方向に移動可能である。フォーカスレンズ群駆動機構45は、CPU11からの駆動命令を受けて、フォーカスレンズ群L2を光軸方向に移動させる。
【0025】
絞り43は、絞り駆動機構47により駆動され、開閉可能になっている。絞り駆動機構47は、CPU11からの駆動命令を受けて、絞り43を開閉する。
【0026】
ブレ補正レンズ群L3は、ブレ補正レンズ群駆動機構46により駆動され、光軸と垂直な方向に移動可能である。ブレ補正レンズ群駆動機構46は、CPU11からの駆動命令を受けて、ブレ補正レンズ群L3を光軸と垂直な方向に移動させる。
【0027】
ミラー13は、CPU11からの駆動命令を受けて、不図示の駆動機構により駆動され、UP/DOWN動作を行う。ミラー13には、不図示のサブミラーが連結されており、AFセンサ12が被写体距離を検出することが可能になっている。AFセンサ12は、特に限定されないが、例えばCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子である。
【0028】
シャッタ14は、例えばフォーカルプレーンシャッタであり、CPU11からの駆動命令を受けて、不図示の駆動機構により駆動され、開閉動作を行う。
【0029】
CPU11は、レリーズスイッチ17のON信号を取得して、ミラー13のUP動作を行う駆動命令およびシャッタ14の開動作を行う駆動命令を出力する。
【0030】
撮像素子15は、CCDやCMOS等の固体撮像素子などで構成され、レンズ鏡筒40から導かれる被写体からの光を光電変換し、画像信号を信号処理回路16へ出力する。信号処理回路16は、取得した画像信号にA/D変換等を行って、CPU11に出力する。
【0031】
CPU11は、A/D変換後の画像信号を、記録媒体19に記憶させる。記録媒体19は、特に限定されないが、例えばSDカードやコンパクトフラッシュカード等の着脱可能なメモリである。液晶モニタ20は、画像データやスルー画像などを表示する。マイク21は、カメラ2の外部音を検出し、音情報に変換してCPU11へ出力する。マイク21は、ダイナミックマイクやコンデンサマイク等である。
【0032】
EEPROM18(またはその他のメモリ、以下同じ)には、推定ノイズスペクトルN(K=0,1,2,・・・)等の調整値情報が記憶されている。推定ノイズスペクトルNは、ノイズに関する情報であり、周波数成分に対応する振幅を要素とするベクトルである。
【0033】
推定ノイズスペクトルNの初期値N0は、カメラ2に固有のノイズ情報であり、予め設定されてEEPROM18に記憶されている。本実施形態では、推定ノイズスペクトルNの初期値N0は、フォーカスレンズ群駆動機構45がフォーカスレンズ群L2を駆動する際の機構音に対応して設定されている。なお、推定ノイズスペクトルNの初期値N0は、レンズ鏡筒40の種類に対応して変化する値であり、レンズ鏡筒40の種類に対応した値がカメラ本体10のEEPROM18に記憶されている。CPU11は、取り付けられたレンズ鏡筒の種類を検出し、取り付けられたレンズ鏡筒40に対応した推定ノイズスペクトルNの初期値N0を選択する。
【0034】
次に、図2に示すフローチャートを用いて、本実施形態に係るカメラによるノイズ低減処理の一例を説明する。
【0035】
ステップS102にて動画撮影を開始する。図1に示すレリーズスイッチ17からの入力信号を受けたCPU11の駆動命令に基づき、ミラー13がUP状態を保ち、シャッタ14が開状態を保ち、被写体からの光が撮像素子15に導かれるようになり、動画撮影が開始される。動画撮影が開始されると、AFセンサ12が検出した被写体距離に関する情報に基づき、CPU11は、フォーカスレンズ群駆動機構45に駆動命令を出力し、フォーカスレンズ群L2を光軸方向に移動させる。本実施形態のカメラ2は、フォーカスレンズ群L2を移動させる際の機構音に係るノイズを低減する。
【0036】
図2に示すステップS104にて、CPU11は、EEPROM18から図5(a)に示す推定ノイズスペクトルNの初期値N0を読み出す。
【0037】
図2に示すステップS106にて、CPU11は、図1に示すマイク21にて検出したカメラ2の外部音を音情報に変換して取得する。CPU11は、入力された音情報を、入力音スペクトルS(L=1,2,3,・・・)に変換する。たとえば、CPU11は、マイク21からの音情報に、ハニング窓等の窓掛け処理を行い、フーリエ変換等の周波数解析を行って、入力音スペクトルSを生成する。入力音スペクトルSは、音の周波数成分に対応する振幅を要素とするベクトルであり、動画の1フレームに対応した音情報である。以下の説明では、CPU11は、入力音スペクトルSとして、たとえば、図5(b),図6(b)または図7(b)に示す入力音スペクトルS,SまたはSを取得し、ノイズ低減処理を行う。
【0038】
図2に示すステップS108にて、推定ノイズスペクトルNの初期値N0(以下、推定ノイズスペクトルN0)と入力音スペクトルSとの類似度Ipを算出する。具体的には、図3に示すステップS202にて、CPU11が、推定ノイズスペクトルN0の単位ベクトルを算出し、推定ノイズスペクトルN0の正規化を行う。ステップS204にて、CPU11が、入力音スペクトルSの単位ベクトルを算出し、入力音スペクトルSの正規化を行う。ステップS206にて、CPU11が、ステップS202にて正規化された推定ノイズスペクトルと、ステップS204にて正規化された入力音スペクトルとの内積を求めて、類似度Ipを算出する。ここで、推定ノイズスペクトルNと入力音スペクトルSとの類似度が大きいときは類似度Ipの値が大きくなり、推定ノイズスペクトルNと入力音スペクトルSとの類似度が小さいときは類似度Ipの値が小さくなる。なお、類似度Ipは、以下に示す数式1にて算出される。
【0039】
Ip=N・S/||N||・||S|| ・・・数式1
【0040】
図2に示すステップS110にて、ノイズ推定処理を行う。具体的には、図4に示すステップS302にて、CPU11が、ステップS206にて算出した推定ノイズスペクトルN0に対する入力音スペクトルSの類似度Ipの値に基づき、ノイズ推定係数aを決定する。ノイズ推定係数aは、図8に示すように、類似度Ipの値に対応する値である。本実施形態では、図8に示すように、類似度Ipの値が大きくなるとノイズ推定係数aの値が大きくなり、類似度Ipの値が小さくなるとノイズ推定係数aの値が小さくなる。また、本実施形態では、図8に示すように、類似度Ipの値が0.25よりも小さいときは、ノイズ推定係数aは1である。すなわち、推定ノイズスペクトルNと入力音スペクトルSとの類似度が小さく、類似度Ipの値が一定の値よりも小さくなると、ノイズ推定係数aの値が1になる。
【0041】
図4に示すステップS304にて、CPU11が、推定ノイズ範囲を決定する。推定ノイズ範囲は、周波数成分に対応する振幅の大きさの範囲であり、その範囲内にある振幅はノイズ成分として推定される。CPU11は、周波数成分に対応する推定ノイズ範囲の上限および下限を決定する。推定ノイズ範囲は、以下に示す数式2および数式3にて算出される。数式2および数式3から分かるように、推定ノイズ範囲は、推定ノイズスペクトルN0に対する入力音スペクトルSの類似度に関するノイズ推定係数aに基づき算出される範囲である。
【0042】
推定ノイズ範囲の上限 : N・a ・・・数式2
【0043】
推定ノイズ範囲の下限 : N/a ・・・数式3
【0044】
なお、上記の数式2および数式3から分かるように、ノイズ推定係数aの値が1のときは、推定ノイズ範囲の上限と下限との差が0になる。すなわち、正規化された推定ノイズスペクトルNと正規化された入力音スペクトルSとの内積の値が所定値よりも小さく、推定ノイズスペクトルNと入力音スペクトルSと類似度が小さいときには、ノイズ推定係数aの値が1になり、推定ノイズ範囲の上限と下限との差が0になる。
【0045】
図4に示すステップS306にて、CPU11が、各周波数成分f1〜f5の入力音スペクトルSの振幅が、推定ノイズ範囲内にあるか否かを判断し、ステップS308で、CPU11は、推定ノイズ範囲内にある各周波数成分f1〜f5の入力音スペクトルSの振幅をEEPROM18に記憶させる。
【0046】
図2に示すステップS112にて、CPU11が、推定ノイズスペクトルNを更新する。具体的には、上記のステップS308で、CPU11がEEPROM18に記憶させた推定ノイズ範囲内にある各周波数成分f1〜f5の入力音スペクトルSの値を、CPU11が、入力音スペクトルS入力後の推定ノイズスペクトルNとして設定し、EEPROM18に記憶させる。なお、推定ノイズ範囲にない入力音スペクトルSの周波数成分f1〜f5に関しては、推定ノイズスペクトルを更新しない。
【0047】
ステップS114にて、CPU11は、ノイズ低減処理を行う。たとえば、CPU11は、図5(d),図6(d)または図7(d)に示すように、入力音スペクトルSと推定ノイズスペクトルNとを利用して、スペクトルサブトラクション法にてノイズ低減処理を行う。
【0048】
ステップS116にて、CPU11は、ノイズ低減処理後の入力音スペクトルSに逆フーリエ変換等を行い、ノイズが低減された音声信号を生成する。
【0049】
上記の図2に示すステップS110〜S112に記載の処理を、図5(b),図6(b)または図7(b)を用いて以下に説明する。
【0050】
入力音スペクトルSが入力された場合には、図5(b)に示すように、各周波数成分f1〜f5おいて、入力音スペクトルSの振幅が推定ノイズ範囲内にある(図2に示すステップS110(図4に示すステップS302〜S306))。したがって、CPU11は、EEPROM18に、各周波数成分f1〜f5の入力音スペクトルSの値を記憶させる(図2に示すステップS110(図4に示すステップS308))。そして、CPU11は、図5(c)に示すように、上記のステップS308にてEEPROM18に記憶させた推定ノイズ範囲内にある各周波数成分f1〜f5の入力音スペクトルSの値を、入力音スペクトルS入力後の推定ノイズスペクトルN1として設定し、EEPROM18に記憶させる(図2に示すステップS112)。
【0051】
なお、図5(b)に示すように、入力音スペクトルSが入力された場合には、推定ノイズ範囲の上限と下限との差が大きく、入力音を推定ノイズとして検出できる範囲が広い。入力音スペクトルSは、推定ノイズスペクトルN0に類似しており、入力音スペクトルSと推定ノイズスペクトルN0との類似度Ipの値が大きいからである。したがって、推定ノイズスペクトルNに類似する入力音スペクトルSが入力された場合には、CPU11は、取得された音信号においてノイズ成分の変化が大きい場合でも、音信号から推定ノイズを検出して、推定ノイズを更新することができる。つまり、推定ノイズスペクトルNに類似する入力音スペクトルSが入力された場合には、CPU11は、取得された音信号においてノイズの変化が大きい場合でも、推定ノイズをノイズの変化に追従させることができるので、高品質のノイズ低減処理を行うことができる。
【0052】
入力音スペクトルSが入力された場合には、図6(b)に示すように、周波数成分f1の入力音スペクトルS2の振幅のみが推定ノイズ範囲内になく、その他の各周波数成分f2〜f5の入力音スペクトルS2の振幅が推定ノイズ範囲内にある(図2に示すステップS110(図4に示すステップS302〜S306))。したがって、CPU11は、EEPROM18に、各周波数成分f2〜f5の入力音スペクトルS2の値を記憶させる(図2に示すステップS110(図4に示すステップS308))。そして、CPU11は、図6(c)に示すように、上記のステップS308で、EEPROM18に記憶させた推定ノイズ範囲内にある各周波数成分f2〜f5の入力音スペクトルS2の振幅を、入力音スペクトルS2入力後の各周波数成分f2〜f5の推定ノイズスペクトルN2として設定し、EEPROM18に記憶させる(図2に示すステップS112)。なお、上記のように、周波数成分f1の入力音スペクトルS2は推定ノイズ範囲内にないので、周波数成分f1の推定ノイズは更新しない。CPU11は、周波数成分f1の推定ノイズスペクトルN0の値を周波数成分f1の推定ノイズスペクトルN2の値として設定し、EEPROM18に記憶させる(図2に示すステップS112)。
【0053】
なお、図6(b)に示すように、入力音スペクトルSが入力された場合には、推定ノイズ範囲の上限と下限との差が小さい。入力音スペクトルSでは、周波数成分f1において、推定ノイズスペクトルN0との振幅の差が大きく、入力音スペクトルSと推定ノイズスペクトルN0との類似度Ipの値が小さいからである。したがって、推定ノイズスペクトルNに部分的に類似しない入力音スペクトルSが入力された場合には、CPU11は、取得された音信号の中からノイズ成分のみを検出し、そのノイズ成分を推定ノイズとして更新することができるので、推定ノイズをノイズの変化に追従させて、高品質のノイズ低減処理を行うことができる。
【0054】
入力音スペクトルSが入力された場合には、図7(b)に示すように、各周波数成分f1〜f5において、入力音スペクトルSの振幅が推定ノイズ範囲にない(図2に示すステップS110(図4に示すステップS302〜S306))。したがって、CPU11は、EEPROM18に、各周波数成分f1〜f5の入力音スペクトルSを記憶させない(図2に示すステップS110(図4に示すステップS308))。入力音スペクトルSが入力された場合には、CPU11は、推定ノイズスペクトルを更新せず、各周波数成分f1〜f5の推定ノイズスペクトルN0の値を、入力音スペクトルS入力後の推定ノイズスペクトルNの値として設定し、EEPROM18に記憶させる(図2に示すステップS112)。
【0055】
なお、図7(b)に示すように、入力音スペクトルSが入力された場合には、推定ノイズ範囲の上限と下限との差が0である。入力音スペクトルSでは、各周波数成分f2〜f5において振幅が0であり、入力音スペクトルSと推定ノイズスペクトルN0とが類似関係になく、入力音スペクトルSと推定ノイズスペクトルN0との類似度Ipの値が所定値よりも小さいからである。このように、推定ノイズスペクトルNとは大きく異なる入力音スペクトルSが入力された場合には、CPU11は、取得された音信号から推定ノイズを検出せず、推定ノイズを更新しない。したがって、CPU11は、ノイズ成分が含まれないと推定される音情報が入力された場合であっても、推定ノイズをノイズの変化に追従させて、高品質のノイズ低減処理を行うことができる。
【0056】
本実施形態では、上記のように、予め推定した推定ノイズを利用して、マイクから取得した音情報のノイズ低減処理を行うので、良好なノイズ低減処理を行うことができる。さらに、本実施形態では、上記のように、推定ノイズとマイクから取得した音情報とに基づいて推定ノイズを更新するので、撮影環境に合わせて推定ノイズを更新し、高品質のノイズ低減処理を継続して行うことができる。
【0057】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されない。
【0058】
上記の実施形態では、フォーカスレンズを移動させる際の機構音に係るノイズを低減したが、これに限定されない。たとえば、ズームレンズ群,ブレ補正レンズ群,ミラー,シャッタ等の撮影装置が備える他の機構が発生する機構音に関するノイズを低減してもよい。また、ノイズ源としては、撮影装置が備える機構には限定されず、撮影装置以外の外部にある装置等が発生するノイズを低減しても良い。
【0059】
上記のノイズ低減処理は、対象とするノイズ音が発生する際に、限定して行われてもよい。たとえば、撮影装置の処理装置が、レンズ等の機構を制御する際の制御信号に同期させて上記のノイズ低減処理を行っても良い。
【0060】
上記の実施形態では、推定ノイズスペクトルの初期値Nを利用してノイズ低減処理を行ったがこれに限定されず、更新後の推定ノイズスペクトルN(1,2,3,・・・)を利用してノイズ低減処理を行っても良い。
【0061】
上記の実施形態では、1フレーム毎に、推定ノイズスペクトルを更新したが、これに限定されない。たとえば、複数のフレーム(10〜100フレーム)の入力音スペクトルを利用して、推定ノイズスペクトルを更新しても良い。すなわち、複数のフレームの入力音スペクトルを利用して、上記のノイズ低減処理を行っても良い。このとき、複数のフレームの入力音スペクトルのうち、特定のフレームの入力音スペクトルを重視してノイズ低減処理を行っても良い。
【0062】
また、上記の実施形態における図2に示すステップS108〜112の信号処理、ステップS108〜114の信号処理、ステップS104〜112の信号処理、ステップS104〜114の信号処理、あるいはステップS102〜116の信号処理は、コンピュータに実行させるためのプログラムにより実現されても良い。コンピュータに実行させるためのプログラムは、記憶媒体(たとえば、DVDやメモリースティック、ハードディスク等)に記憶され、記憶媒体から直接に実行されても良いし、記憶媒体からパソコンにインストールされて実行されても良い。また、当該プログラムは、電気通信回線を通じて実行されても良いし、電気通信回線を通じてパソコンにインストールされて実行されても良い。
【符号の説明】
【0063】
2・・・カメラ
10・・・カメラ本体
11・・・CPU
18・・・EEPROM
21・・・音声録音マイク
40・・・レンズ鏡筒
L1・・・ズームレンズ群
L2・・・フォーカスレンズ群
L3・・・ブレ補正レンズ群
43・・・絞り
44・・・ズームレンズ群駆動機構
45・・・フォーカスレンズ群駆動機構
46・・・ブレ補正レンズ群駆動機構
47・・・絞り駆動機構
・・・推定ノイズスペクトル
0・・・推定ノイズスペクトルの初期値
・・・入力音スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
推定ノイズおよび演算結果を記憶する記憶部と、
音声入力部で検出された音信号と前記推定ノイズとの演算を行う演算部とを含み、
前記演算部は、前記推定ノイズと前記音信号との類似度に基づき推定ノイズ範囲を決定するとともに、前記推定ノイズ範囲と前記音信号との関係に基づき前記推定ノイズを更新する撮影装置。
【請求項2】
前記演算部が、正規化された前記推定ノイズと正規化された前記音信号との内積に基づき前記類似度を算出する請求項1に記載の撮影装置。
【請求項3】
前記演算部が、前記内積の結果に基づき前記推定ノイズ範囲の上限と下限とを決定する請求項2に記載の撮影装置。
【請求項4】
前記演算部が、前記内積の値が小さいときに前記類似度が小さいと判断して、前記上限と前記下限との差を小さくするように前記上限と前記下限とを決定する請求項3に記載の撮影装置。
【請求項5】
前記演算部が、前記内積の値が所定値より小さいときに前記類似度が小さいと判断して、前記上限と前記下限との差を0にするように前記上限と前記下限とを決定する請求項3または4に記載の撮影装置。
【請求項6】
前記推定ノイズの初期値が、前記撮影装置がフォーカス調整を行う際の機構音に対応して予め設定されており、
前記演算部が、前記推定ノイズの前記初期値と前記音信号との類似度に基づき前記推定ノイズ範囲を決定するとともに、前記推定ノイズ範囲と前記音信号との関係に基づき前記推定ノイズを更新する請求項1〜5の何れかに記載の撮影装置。
【請求項7】
前記撮影装置は、レンズ鏡筒が着脱自在に取り付けられる撮影装置本体を更に有し、
前記推定ノイズの前記初期値が、前記レンズ鏡筒に対応して予め設定されている請求項6に記載の撮影装置。
【請求項8】
前記演算部が、前記撮影装置が前記フォーカス調整を行う際に、前記推定ノイズと前記音信号との類似度に基づき前記推定ノイズ範囲を決定するとともに、前記推定ノイズ範囲と前記音信号との関係に基づき前記推定ノイズを更新する請求項6又は7に記載の撮影装置。
【請求項9】
推定ノイズと音信号との類似度に基づき推定ノイズ範囲を決定する工程と、
前記推定ノイズ範囲内にある前記音信号を利用して前記推定ノイズを更新する工程とをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムが記録してある記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−7852(P2013−7852A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139820(P2011−139820)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.コンパクトフラッシュ
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】