説明

撮像装置、生体高分子分析チップ、遺伝子の発現解析方法、及び抗原の検出方法

【課題】より感度の良好な撮像装置、生体高分子分析チップ、遺伝子の発現解析方法、及び抗原の検出方法を提供する。
【解決手段】光電変換素子20と、光電変換素子20の受光面側に設けられた電極33と、電極33に対して光電変換素子20と反対側に設けられ、内部に溶液が注入されるウェル52と、を備える撮像装置である。ウェル52内の電荷を帯びた化学発光基質81を電極33により引き寄せることで、光電変換素子20の受光面の近傍における化学発光基質81の濃度を高めることができ、反応速度を高めて励起状態の蛍光体82をより多く生成させ、励起状態の蛍光体82から放出される光を光電変換素子20により効率よく捉えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置、生体高分子分析チップ、遺伝子の発現解析方法、及び抗原の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な生物種の遺伝子の発現解析を行うためにDNAチップや抗体チップ等の生体高分子分析チップやその読取装置が開発されている。生体高分子分析チップは、プローブとなる既知の塩基配列のcDNAや抗体をスライドガラス等の固体担体上にマトリックス状に整列固定させたものである(例えば特許文献1参照)。例えば、DNAチップ及びその読取装置を用いた遺伝子の発現解析は次のようにして行う。
【0003】
まず、既知の塩基配列を有した複数種類のcDNA(以下、プローブDNAという)をスライドガラス等の固体担体に整列固定させたDNAチップを準備する。次に、検体からmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、標識物質で標識したものを用意する(以下、標識DNAという)。ここで、標識物質には蛍光物質や化学発光基質、あるいは化学発光基質を発光させる酵素等を用いることができる。
次に、標識DNAをDNAチップ上に添加すると、標識DNAが相補的なプローブDNAとハイブリダイズすることによりDNAチップ上に固定される。
【0004】
次いで、DNAチップを読取装置にセッティングし、読取装置にて分析する。読取装置は、DNAチップに対して二次元的に移動する集光レンズ及びフォトマルチプライヤーによってDNAチップを走査する標識物質により発した光を集光レンズで集光させ、光強度をフォトマルチプライヤーで計測することで、DNAチップの面内の光強度分布を計測し、これにより、DNAチップ上の光強度分布が二次元の画像として出力される。出力された画像内で光強度が大きい部分には、プローブDNAの塩基配列と相補的な塩基配列を有した標識DNAが含まれていることを表している。従って、二次元画像中のどの部分の蛍光強度が大きいかによって検体で発現しているmRNAを同定することができる。
【特許文献1】特開2000−131237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数の光電変換素子を二次元アレイ状に配列してなる固体撮像デバイスの受光面にDNAや抗体等のプローブ分子をスポットした生体高分子分析チップが開発されている。このような生体高分子分析チップでは、スポットに付着した標識DNA等の生体高分子を標識する標識物質により発生する光を各光電変換素子により計測する。固体撮像デバイスの受光面にスポットが点在しており、受光面に付着された生体高分子と光電変換素子との間の距離が近いために標識物質から発した光の減衰を抑えることができるために、僅かな光量でも計測が可能であるという利点がある。
【0006】
上記のような生体高分子分析チップにおいて、標識物質として化学発光基質を発光させるための酵素を用いた場合には、化学発光基質を含む溶液をスポットに滴下し、酵素による化学反応に基づいて励起された化学発光基質が基底状態に戻るときに発する光を計測する。しかし、標識物質の励起された化学発光基質が基底状態に戻るまでの時間に化学発光基質が溶液中に拡散すると、光電変換素子による信号量が減り、S/N比が低下する。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決し、より感度の良好な撮像装置、生体高分子分析チップ、遺伝子の発現解析方法、及び抗原の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、光電変換素子と、酵素に基づく化学反応によって生じる蛍光物質、または当該蛍光体を生成する化学発光基質を電気的に引き寄せるため、前記光電変換素子の受光面側に設けられた電極と、前記電極に対して前記光電変換素子と反対側に設けられ、内部に溶液が注入されるウェルと、を備えることを特徴とする撮像装置である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、二次元アレイ状に配列された複数の光電変換素子と、酵素に基づく化学反応によって生じる蛍光物質、または当該蛍光体を生成する化学発光基質を電気的に引き寄せるため、前記各光電変換素子の受光面側にそれぞれ設けられた電極と、前記各電極に対して前記光電変換素子と反対側にそれぞれ設けられ、内部に溶液が注入されるウェルと、を備えることを特徴とする撮像装置である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の撮像装置の前記電極の近傍に、前記ウェルに注入される溶液内の特定の生体高分子と結合するプローブを設けたことを特徴とする生体高分子分析チップである。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の生体高分子分析チップであって、前記プローブは既知の塩基配列を有する一本鎖DNAであることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の生体高分子分析チップであって、前記プローブは特定の抗原と結合する抗体であることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の生体高分子分析チップを用いた遺伝子の発現解析方法であって、
任意の細胞内から抽出されたRNAを鋳型として作成された酵素標識DNAを含む溶液を前記ウェル内に注入し、
次に、前記プローブに溶液内の酵素標識DNAの一部をハイブリダイズさせ、
その後、溶液中で電荷を帯びかつ酵素標識DNAを標識する酵素が触媒として機能する化学反応により励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質を含む溶液を前記ウェル内に注入し、
電極に電圧を印加して電極側に前記蛍光物質または前記化学発光基質を引き寄せ、
生成した励起状態の蛍光物質より放出される光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の生体高分子分析チップを用いた抗原の検出方法であって、
任意の抗原を含む溶液を前記ウェル内に注入し、
次に、前記プローブに溶液内の特定の抗原とを結合させ、
次いで、酵素により標識されかつ前記プローブと同一の抗原の異なる抗原決定基と結合する第二の抗体を含む溶液を前記ウェル内に注入し、前記プローブに結合した特定の抗原に第二の抗体を結合させるとともに、前記特定の抗原に結合しなかった第二の抗体を除去し、
その後、溶液中で電荷を帯びかつ第二の抗体を標識する酵素が触媒として機能する化学反応により励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質を含む溶液を前記ウェル内に注入し、
電極に電圧を印加して電極側に前記蛍光物質または前記化学発光基質を引き寄せ、
生成した励起状態の蛍光物質より放出される光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ウェル内の酵素に基づく化学反応によって生じる蛍光物質または化学発光基質を電気的に引き寄せることで、光電変換素子の受光面の近傍における蛍光物質または化学発光基質の濃度を高めることができ、反応速度を高めて励起状態の蛍光体をより多く生成させたり、或いは蛍光体を局在化させて蛍光を集光することができ、励起状態の蛍光体から放出される光を光電変換素子により効率よく捉えることができる。したがって、使用する化学発光基質の全体量を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0017】
<第1実施の形態>
〔1〕生体高分子分析チップの全体構成
図1は、本発明を適用した第1の実施形態における生体高分子分析チップ1の概略平面図であり、図2は、図1の切断面IIに沿った矢視断面図である。
【0018】
この生体高分子分析チップ1は、固体撮像デバイス10及び固体撮像デバイス10上に固体撮像デバイス10を囲むように設けられた格子枠状の隔壁50を備えた撮像装置と、隔壁50及び固体撮像デバイス10によりマトリクス状に形成された各ウェル52内に点在した複数のスポット60,60,…と、を具備する。なお、図1では2行×2列のマトリクスを示すが、本発明はさらに多くの行及び列からなるマトリクスを有していてもよい。
【0019】
〔2〕固体撮像デバイス
ここで、図1、図2を用いて固体撮像デバイス10について説明する。
透明基板17は、後述する蛍光体が発する光を透過する性質(以下、光透過性という。)を有するとともに絶縁性を有し、石英ガラス等といったガラス基板又はポリカーボネート、PMMA等といったプラスチック基板である。
【0020】
この固体撮像デバイス10においては、光電変換素子としてダブルゲート型電界効果トランジスタ(以下、ダブルゲートトランジスタという。)20が利用され、複数のダブルゲートトランジスタ20,20,…が透明基板17上において二次元アレイ状に特にマトリクス状に配列され、これらダブルゲートトランジスタ20,20,…が窒化シリコン(SiN)等の保護絶縁膜32によってまとめて被覆されている。
【0021】
図3はダブルゲートトランジスタ20を示す平面図である。図3に示すように、ダブルゲートトランジスタ20,20,…は何れも、受光部である半導体膜23と、ボトムゲート絶縁膜22を挟んで半導体膜23の下に形成されたボトムゲート電極21と、トップゲート絶縁膜29を挟んで半導体膜23の上に形成されたトップゲート電極31と、半導体膜23の一部に重なるよう形成された不純物半導体膜25と、半導体膜23の別の部分に重なるよう形成された不純物半導体膜26と、不純物半導体膜25に重なったソース電極27と、不純物半導体膜25に重なったドレイン電極28と、を備え、半導体膜23において受光した光量に従ったレベルの電気信号に変換するものである。
【0022】
ボトムゲート電極21は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに透明基板17上に形成されている。また、透明基板17上には横方向に延在する複数本のボトムゲートライン41,41,…が形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれのボトムゲート電極21が共通のボトムゲートライン41と一体となって形成されている。ボトムゲート電極21及びボトムゲートライン41は、導電性及び遮光性を有し、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0023】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のボトムゲート電極21及びボトムゲートライン41,41,…はボトムゲート絶縁膜22によってまとめて被覆されている。すなわち、ボトムゲート絶縁膜22は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。ボトムゲート絶縁膜22は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン(SiN)又は酸化シリコン(SiO2)からなる。
【0024】
ボトムゲート絶縁膜22上には、複数の半導体膜23がマトリクス状に配列するよう形成されている。半導体膜23は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立して形成されており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20においてボトムゲート電極21に対して対向配置され、ボトムゲート電極21との間にボトムゲート絶縁膜22を挟んでいる。半導体膜23は、平面視して略矩形状を呈しており、受光した蛍光の光量に応じた量の電子−正孔対を生成するアモルファスシリコン又はポリシリコンで形成された層である。
【0025】
半導体膜23上には、チャネル保護膜24が形成されている。チャネル保護膜24は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜23の中央部上に形成されている。チャネル保護膜24は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。チャネル保護膜24は、パターニングに用いられるエッチャントから半導体膜23の界面を保護するものである。半導体膜23に光が入射すると、入射した光量に従った量の電子−正孔対がチャネル保護膜24と半導体膜23との界面付近を中心に発生するようになっている。この場合、半導体膜23側にはキャリアとして正孔が発生し、チャネル保護膜24側には電子が発生する。
【0026】
半導体膜23の一端部上には、不純物半導体膜25が一部、チャネル保護膜24に重なるようにして形成されており、半導体膜23の他端部上には、不純物半導体膜26が一部、チャネル保護膜24に重なるようにして形成されている。不純物半導体膜25,26は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされている。不純物半導体膜25,26は、n型の不純物イオンを含むアモルファスシリコン(n+シリコン)からなる。
【0027】
不純物半導体膜25上には、ソース電極27が形成され、不純物半導体膜26上には、ドレイン電極28が形成されている。ソース電極27及びドレイン電極28はダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。縦方向に延在する複数本のソースライン42,42,…及びドレインライン43,43,…がボトムゲート絶縁膜22上に形成されている。縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,…のソース電極27は共通のソースライン42と一体に形成されており、縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,…のドレイン電極28は共通のドレインライン43と一体に形成されている。ソース電極27、ドレイン電極28、ソースライン42及びドレインライン43は、導電性及び遮光性を有しており、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0028】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のソース電極27及びドレイン電極28並びにソースライン42,42,…及びドレインライン43,43,…は、トップゲート絶縁膜29によってまとめて被覆されている。トップゲート絶縁膜29は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。トップゲート絶縁膜29は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0029】
トップゲート絶縁膜29上には、複数のトップゲート電極31がダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。トップゲート電極31は、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜23に対して対向配置され、半導体膜23との間にトップゲート絶縁膜29及びチャネル保護膜24を挟んでいる。また、トップゲート絶縁膜29上には横方向に延在する複数本のトップゲートライン44,44,…が形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20,…のトップゲート電極31が共通のトップゲートライン44と一体に形成されている。トップゲート電極31及びトップゲートライン44は、導電性及び光透過性を有し、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛若しくは酸化スズ又はこれらのうちの少なくとも一つを含む混合物(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム)で形成されている。
【0030】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のトップゲート電極31及びトップゲートライン44,44,…は保護絶縁膜32によってまとめて被覆され、保護絶縁膜32は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。保護絶縁膜32は、絶縁性及び光透過性を有し、窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0031】
保護絶縁膜32の上面には、ダブルゲートトランジスタ20,20,…の半導体膜23の上方に電極33が設けられている。また、保護絶縁膜32の上面には、ダブルゲートトランジスタ20,20,…の側方に、縦方向に延在する複数本の電極ライン34,34,…が形成されており、縦方向に配列された同一の列の電極33,33が共通の電極ライン34と一体となって形成されている。電極33及び電極ライン34は導電性を有し、さらに、後述する蛍光体82の蛍光に対して高い透過性を示す透明電極が好ましく、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛若しくは酸化スズ又はこれらのうちの少なくとも一つを含む混合物(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム)で形成されている。
【0032】
電極33及び電極ライン34は保護絶縁膜35によってまとめて被覆される。保護絶縁膜35は、絶縁性及び光透過性を有し、窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0033】
以上のように構成された固体撮像デバイス10は、保護絶縁膜35の表面を受光面としており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20の半導体膜23において受光した光量を電気信号に変換するように設けられている。
【0034】
〔3〕隔壁
隔壁50は保護絶縁膜35上に密着され、各ダブルゲートトランジスタ20,20,…の上部にウェル52を形成する。なお、1つのウェル52に二つ以上のダブルゲートトランジスタ20が配置されるようにしてもよい。隔壁50は不透明であり、ダブルゲートトランジスタ20に隣接するウェル52から光が入ることを防いでいる。
【0035】
〔4〕スポット
次に、スポット60について説明する。図1に示すように、各ウェル52には、固体撮像デバイス10の上面にスポットが形成されている。各スポット60は、図2に示すように、プローブとなる既知の塩基配列のcDNA(プローブDNA61)や抗体等の溶液を滴下し、乾燥して形成される。以下ではプローブとして既知の塩基配列のcDNAを用いた場合について説明する。
【0036】
1つのスポット60では同じ塩基配列の一本鎖のプローブDNA61が多数集まった群集が固体撮像デバイス10の上面に固定化され、、スポット60ごとにプローブDNA61は異なる塩基配列となっている。プローブDNA61としては、既知のmRNAの塩基配列、またはその一部と同一の、あるいは相補的な塩基配列のDNAが用いられる。具体的には、例えば、後述する酵素標識DNAで用いるのと同じ細胞検体から作成したcDNAライブラリを用いることができる。
【0037】
1つのスポット60は各ウェル52内のダブルゲートトランジスタ20上に重なるように形成されている。なお、1つのスポット60に重なったダブルゲートトランジスタ20の数は異なっていてもよい。
【0038】
〔5〕分析装置
生体高分子分析チップ1を分析装置70にセッティングして生体高分子分析チップ1を用いるので、まず分析装置70について図4を用いて説明する。図4は分析装置70の構成を示したブロック図である。
【0039】
分析装置70は、生体高分子分析チップ1に接続され、固体撮像デバイス10を駆動する電極ドライバ73、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75、ドレインドライバ76と、これらを制御するコンピュータ71と、コンピュータ71から出力された信号により出力(表示又はプリント)を行う出力装置77と、を備える。出力装置77はプロッタ、プリンタ又はディスプレイである。
【0040】
生体高分子分析チップ1が分析装置70にセッティングされた場合には、固体撮像デバイス10の電極ライン34が電極ドライバ73の端子に接続されるようになっている。同様に、トップゲートライン44,44,…がトップゲートドライバ74の端子に、ボトムゲートライン41,41,…がボトムゲートドライバ75の端子に、ドレインライン43,43,…がドレインドライバ76の端子に、それぞれ接続されるようになっている。また、生体高分子分析チップ1が分析装置70にセッティングされた場合、固体撮像デバイス10のソースライン42,42,…が一定電圧源に接続され、この例ではソースライン42,42,…が接地されるようになっている。
【0041】
電極ドライバ73、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76は、協同して固体撮像デバイス10を駆動するものである。
【0042】
コンピュータ71は、図示しないCPU、RAM、ROM等を備え、電極ドライバ73、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に制御信号を出力することによって、電極ドライバ73、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に固体撮像デバイス10の駆動動作を行わせる機能を有する。また、コンピュータ71は入力した二次元の画像データ画像データに従った画像を出力装置77に出力させる機能を有する。
【0043】
また、コンピュータ71はドレインドライバ76から入力した電気信号をA/D変換することで、固体撮像デバイス10の受光面に沿った光強度分布を二次元の画像データとして取得する機能を有する。
【0044】
さらに、分析装置70は、コンピュータ71により制御される注入装置79を備える。コンピュータ71は注入装置79を駆動し、分析装置70にセットされた生体高分子分析チップ1の各ウェル52に、後述する化学発光基質を含む溶液を滴下する。
【0045】
〔6〕酵素標識DNA
上記生体高分子分析チップ1で分析する試料としては、DNAを用いることができる。試料となるDNAとしては、任意の細胞検体内で発現しているmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いて得られたcDNAを用いることができる。cDNAは例えばアルカリホスファターゼやペルオキシダーゼ等、後述する化学発光基質の反応の触媒として機能する酵素で標識する。
【0046】
cDNAを酵素で標識するには、例えば、酵素で標識されたオリゴdTプライマや、標識されたdNTPミックスを用いてRT−PCR反応を実施すればよい。以下では、この標識されたcDNAを酵素標識DNAという。
【0047】
〔7〕化学発光基質
酵素標識DNAを検出するのに用いる化学発光基質について説明する。化学発光基質としては、酵素標識DNAの標識に用いられた酵素を触媒として利用した化学反応により励起状態の蛍光物質を生成するものを用いることができる。
具体的には、例えばアルカリホスファターゼの基質となるジオキセタン系の誘導体や、ペルオキシダーゼの基質となるルミノール系の化合物を用いることができる。
【0048】
ジオキセタン系の誘導体として、化学式1に示すアダマンチルジオキセタン塩素化誘導体(C18H19Cl2O7PNa2)を例に挙げて説明する。アダマンチルジオキセタン塩素化誘導体はリン酸基を有し、アルカリホスファターゼの基質となる。
【化1】

【0049】
アルカリホスファターゼはアダマンチルジオキセタン塩素化誘導体のリン酸基を加水分解し、化学式2に示す不安定な中間体を形成する。
【化2】

【0050】
中間体は自然開裂し、化学式3に示すアダマンタノンと蛍光体とに分解される。この蛍光体は励起状態であり、蛍光体が基底状態に遷移するときのエネルギーが光として放出される。
【化3】

【0051】
なお、アルカリホスファターゼの基質となる化学発光基質はリン酸基を有しており、水溶液中で負に帯電している。また、化学発光基質の加水分解により生成する蛍光体も、水溶液中で負に帯電している。このため、化学発光基質及び蛍光体は、水溶液中で正電荷側へ移動する。
【0052】
〔8〕サンプルの処理
酵素標識DNAの処理方法について説明する。まず、作業者が、酵素標識DNAを含有した溶液(以下、酵素標識DNA溶液という)を各ウェル52内に注入する。酵素標識DNA溶液を注入する前に各ウェル52内に酵素標識DNAが泳動するためのバッファー溶液が入れられていてもよく、酵素標識DNA溶液自体が泳動用のバッファー溶液を兼ねていてもよい。なお、酵素標識DNA溶液を各ウェル52内のスポット60,60,…に順次又は同時に滴下してもよい。このとき、酵素標識DNAが一本鎖となるように酵素標識DNA溶液は加熱されている。
【0053】
次いで、プローブDNA61と酵素標識DNAとがハイブリダイゼーションを引き起こすように、生体高分子分析チップ1の各ウェル52を所定の温度に冷却する。すると、各ウェル52内に注入された酵素標識DNA溶液内の酵素標識DNAのうち、当該ウェル内のスポット60のプローブDNA61と相補的なものは、プローブDNA61とハイブリダイズする。一方、プローブDNA61と相補的ではない酵素標識DNAは、そのスポット60には結合しない。
その後、ウェル52内の酵素標識DNA溶液を洗浄用バッファー溶液で洗い流し、酵素標識DNAのうちプローブDNA61とハイブリダイズしなかったものをウェル52内から除去する。
【0054】
〔9〕サンプルの検出
酵素標識DNAの検出方法について図5〜図7を用いて説明する。
上記処理を行った固体撮像デバイス10を分析装置70にセッティングし、電極ドライバ73、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76をコンピュータ71に接続し、コンピュータ71を起動する。
【0055】
次に、コンピュータ71により注入装置79を制御し、各ウェル52に化学発光基質81を含む溶液を注入する(図5)。化学発光基質81を含む溶液を注入する前に各ウェル52内に化学発光基質81が泳動するためのバッファー溶液が入れられていてもよく、化学発光基質81を含む溶液自体が泳動用のバッファー溶液を兼ねていてもよい。
次に、コンピュータ71は電極ドライバ73を駆動し、電極33を正電荷に帯電させる。すると、ウェル52内の化学発光基質81は、水溶液中で正に帯電した電極33に向かって下降する(図6)。このため、電極33の上のスポット60の近傍では、化学発光基質81の濃度が高くなり、反応速度を高めることができ、より多くの蛍光体82を生成させることができる。したがって、使用する化学発光基質81の全体量を抑えることができる。
【0056】
スポット60のプローブDNA61に酵素標識DNAがハイブリダイズしたウェル52では、酵素標識DNA62を標識する酵素63により化学発光基質が加水分解され、不安定な中間体を経て励起状態の蛍光体が生成される。励起状態の蛍光体が基底状態に遷移するときに蛍光(主に可視光波長域)が放出され、蛍光を発するスポット60に対応するダブルゲートトランジスタ20に蛍光が入射して電子−正孔対が発生する。
【0057】
なお、蛍光体も電気的に負に帯電しているため、生成した蛍光体は正電圧が印加された電極33側、つまり固体撮像デバイス10側に移動し、ウェル52全体に拡散することがない(図7)。このため、より多くの蛍光がダブルゲートトランジスタ20に入射し、より多くの電子−正孔対が発生する。したがって、シグナルがバックグラウンドノイズと比較して大きくなり、SN比を向上させることができる。
その後、各ダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれの光量データを取得し、RAMに記憶する。
【0058】
作業者は、RAMに記憶された各ダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれの光量データを出力装置77により出力することで得られた画像データより、各スポット60,60,…におけるハイブリダイゼーションの有無を確認することができる。ハイブリダイゼーションが起きていれば、そのスポット60のプローブDNA61と相補的な塩基配列のmRNAが細胞検体内で発現していることがわかる。
【0059】
<第2実施形態>
第1の実施形態では、生体高分子分析チップ1で分析する試料として、検体内で発現しているmRNAから逆転写酵素により合成されたDNAを用いたが、検体内で発現しているタンパク質や糖鎖等の抗原を試料としてもよい。この場合、既知のタンパク質や糖鎖等の抗原と結合する抗体(以下、プローブ抗体という)をプローブとして用いる。
【0060】
具体的には、生体高分子分析チップ1の各ウェル52にプローブ抗体を含む溶液を滴下し、乾燥してスポット60を形成する。なお、各ウェル52に滴下されるプローブ抗体はそれぞれ異なるタンパク質を抗原とし、同じスポット60を形成する抗体は同一の抗原決定基を認識する。このようなプローブ抗体として、モノクローナル抗体を用いることができる。
【0061】
次に、サンプルとなる抗原を含む溶液(以下、サンプル溶液という)を各ウェル52内に注入する。
プローブ抗体にサンプル溶液中の抗原が結合するのに充分な時間が経過した後、ウェル52内のサンプル溶液をバッファー溶液で洗い流し、サンプル溶液のうちプローブ抗体と結合しなかったものをウェル52内から除去する。
【0062】
次に、各ウェル52に、プローブ抗体が認識するのと同じ抗原の異なる抗原決定基を認識する抗体を酵素で標識したもの(以下、酵素標識抗体という)の溶液(以下、酵素標識抗体溶液という)を注入する。
プローブ抗体に結合した抗原と酵素標識抗体とが結合するのに充分な時間が経過した後、ウェル52内の酵素標識抗体溶液をバッファー溶液で洗い流し、酵素標識抗体溶液のうち抗原と結合しなかったものをウェル52内から除去する。
以後、第1実施形態の〔9〕サンプルの検出と同様にして、各ウェル52に化学発光基質を含む溶液を注入し、分析装置70による光量データの計測動作を行う。
【0063】
図8に示すように、プローブ抗体64に抗原65が結合し、抗原65に酵素標識抗体66が結合したウェル52では、酵素標識抗体66の酵素67により化学発光基質81が加水分解され、中間体を経て励起状態の蛍光体82が生成される。蛍光体82から放出される蛍光は、ダブルゲートトランジスタ20により検出される。
【0064】
作業者は、RAMに記憶された各ダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれの光量データを出力装置77により出力することで得られた画像データより、各スポット60,60,…における抗原65の有無を確認することができる。このため、ウェル52内の抗体の種類により、検体内でどのような抗原が発現しているかを直接確認することができる。
【0065】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0066】
例えば、上記実施の形態では、プローブとして既知の塩基配列の一本鎖DNAや抗体を用いたが、その他の既知の生体高分子や低分子等を用いてもよい。例えば、抗原となるペプチドやタンパク、糖鎖、低分子リガンド、既知の細胞等を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明を適用した第1の実施形態における生体高分子分析チップ1の概略平面図である。
【図2】図1の切断面IIに沿った矢視断面図である。
【図3】固体撮像デバイス10の画素である光電変換素子の電極構造を示した平面図である。
【図4】分析装置70の構成を示したブロック図である。
【図5】酵素標識DNAの検出方法についての説明図である。
【図6】酵素標識DNAの検出方法についての説明図である。
【図7】酵素標識DNAの検出方法についての説明図である。
【図8】抗原の検出方法についての説明図である。
【符号の説明】
【0068】
1 生体高分子分析チップ
10 固体撮像デバイス
20 ダブルゲートトランジスタ(光電変換素子)
33 電極
52 ウェル
60 スポット
61 プローブDNA
62 酵素標識DNA
63,67 酵素
64 プローブ抗体
65 抗原
66 酵素標識抗体
81 化学発光基質
82 蛍光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換素子と、
酵素に基づく化学反応によって生じる蛍光物質、または当該蛍光体を生成する化学発光基質を電気的に引き寄せるため、前記光電変換素子の受光面側に設けられた電極と、
前記電極に対して前記光電変換素子と反対側に設けられ、内部に溶液が注入されるウェルと、を備えることを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
二次元アレイ状に配列された複数の光電変換素子と、
酵素に基づく化学反応によって生じる蛍光物質、または当該蛍光体を生成する化学発光基質を電気的に引き寄せるため、前記各光電変換素子の受光面側にそれぞれ設けられた電極と、
前記各電極に対して前記光電変換素子と反対側にそれぞれ設けられ、内部に溶液が注入されるウェルと、を備えることを特徴とする撮像装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の撮像装置の前記電極の近傍に、前記ウェルに注入される溶液内の特定の生体高分子と結合するプローブを設けたことを特徴とする生体高分子分析チップ。
【請求項4】
前記プローブは既知の塩基配列を有する一本鎖DNAであることを特徴とする請求項3に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項5】
前記プローブは特定の抗原と結合する抗体であることを特徴とする請求項3に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項6】
請求項4に記載の生体高分子分析チップを用いた遺伝子の発現解析方法であって、
任意の細胞内から抽出されたRNAを鋳型として作成された酵素標識DNAを
含む溶液を前記ウェル内に注入し、
次に、前記プローブに溶液内の酵素標識DNAの一部をハイブリダイズさせ、
その後、溶液中で電荷を帯びかつ酵素標識DNAを標識する酵素が触媒として機能する化学反応により励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質を含む溶液を前記ウェル内に注入し、
電極に電圧を印加して前記電極側に前記蛍光物質または前記化学発光基質を引き寄せ、
生成した励起状態の蛍光物質より放出される光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする遺伝子の発現解析方法。
【請求項7】
請求項5に記載の生体高分子分析チップを用いた抗原の検出方法であって、
任意の抗原を含む溶液を前記ウェル内に注入し、
次に、前記プローブに溶液内の特定の抗原とを結合させ、
次いで、酵素により標識されかつ前記プローブと同一の抗原の異なる抗原決定基と結合する第二の抗体を含む溶液を前記ウェル内に注入し、前記プローブに結合した特定の抗原に第二の抗体を結合させるとともに、前記特定の抗原に結合しなかった第二の抗体を除去し、
その後、溶液中で電荷を帯びかつ第二の抗体を標識する酵素が触媒として機能する化学反応により励起状態の蛍光物質を生成する化学発光基質を含む溶液を前記ウェル内に注入し、
電極に電圧を印加して前記電極側に前記蛍光物質または前記化学発光基質を引き寄せ、
生成した励起状態の蛍光物質より放出される光を前記光電変換素子により検出することを特徴とする抗原の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−263701(P2007−263701A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−88253(P2006−88253)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】