説明

撮像装置

【課題】気温の変化に伴う分極が生じにくく、帯電によるゴミの吸着を抑制することができる撮像装置を提供する。
【解決手段】 デジタルスチルカメラ1は、撮影レンズ5と固体撮像素子10との間に光学ローパスフィルタ4を有する。光学ローパスフィルタ4は3枚の複屈折板41,42,43から構成され、そのうちの2枚の複屈折板41,43はランタン(La)、ガリウム(Ga)、酸素(O)を含む結晶である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置に関し、特に光学ローパスフィルタを有したデジタルスチルカメラ等の撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラは撮影光を電気的な信号に変換する固体撮像素子を有し、この固体撮像素子より出力される光電変換信号を画像処理することにより被写体像を再現している。
【0003】
また、上記固体撮像素子の光電変換部を構成する画素は規則的に配列している。従って、撮像面上での被写体像中に、固体撮像素子の画素の配列周期で決まる空間周波数(ナイキスト周波数)より高い空間周波数の画像が含まれていると、再現された被写体像にはモアレや偽色が発生する。
【0004】
そのため、一般的にデジタルスチルカメラには撮影光路中に水晶(SiO)やニオブ酸リチウム(LiNbO)等の複屈折板からなる光学ローパスフィルタを配置する(例えば、特許文献1参照)。これにより、撮影光束を分離して固体撮像素子に導くことができ、モアレや2次元方向の偽色の発生を防止する。
【0005】
図4は、従来の一眼レフタイプのデジタルスチルカメラの光学系の構成を概略的に示すブロック図である。ここで、1点鎖線にて図示するZ軸は後述する撮影レンズ500の光軸である。
【0006】
図4において、デジタルスチルカメラ100は、被写体光を撮像する撮影レンズ500と、撮影レンズ500からの被写体光の露出量を制御するフォーカルプレーンシャッター200と、予定受光面に配される固体撮像素子100とを備える。さらに、デジタルスチルカメラ100は、フォーカルプレーンシャッター200及び固体撮像素子100の間に配される光学ローパスフィルタ400を備える。
【0007】
光学ローパスフィルタ400は、3枚の複屈折板401,402,403を貼り合わせたものから成る。通常、この3枚の複屈折板は水晶で構成されるため、光学ローパスフィルタ400の厚みは約2.4mmとなる。一方、フォーカルプレーンシャッタ200による固体撮像素子100への露出量の精度は、フォーカルプレーンシャッタ200と固体撮像素子100との距離が短い程高くなる。
【0008】
すなわち、通常より高い精度で露出量を制御することが要求される場合、フォーカルプレーンシャッタ200と固体撮像素子100との距離を短くすべく、両者の間に配置される光学ローパスフィルタ400の厚さを薄くする必要がある。
【0009】
従って、かかる要求のあるデジタルスチルカメラに使用される光学ローパスフィルタ400の複屈折板には、複屈折率の大きいニオブ酸リチウム(LiNbO)が用いられており、これにより、光学ローパスフィルタ400の厚さを薄くしている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許2508499号公報
【特許文献2】特開2001−147404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ニオブ酸リチウムは焦電性が高いため、温度が変化すると分極の状態が変化して帯電し、光学ローパスフィルタ400の近傍に浮遊するゴミを吸着してしまうという問題があった。
【0011】
また、ニオブ酸リチウムの複屈折率は約0.085と大きく、一眼レフタイプのデジタルスチルカメラの光学ローパスフィルタ400の複屈折板として用いる場合、複屈折板1枚の厚さが約0.16mmと大変薄くなる。
【0012】
このため、複屈折板の取り扱いが難しくなって製造上の歩留まりが低下しコストがかかるという問題があった。
【0013】
本発明の目的は、気温の変化に伴う分極が生じにくく、帯電によるゴミの吸着を抑制することができる撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、請求項1記載の撮像装置は、撮影レンズと固体撮像素子との間に光学ローパスフィルタを有した撮像装置において、該光学ローパスフィルタは1枚以上の複屈折板から構成され、該複屈折板のうち少なくとも1枚はランタン(La)、ガリウム(Ga)、酸素(O)を含む結晶であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、撮像装置の光学ローパスフィルタは1枚以上の複屈折板から構成され、その複屈折板のうち少なくとも1枚はランタン(La)、ガリウム(Ga)、酸素(O)を含む結晶であるので、気温の変化に伴う分極が生じにくく、帯電によるゴミの吸着を抑制することができる。
【0016】
好ましくは、上記結晶は、ランガナイト(LaGa5.5Nb0.514)又はランガサイト(LaGaSiO14)であることにより、従来高精度な露出制御が要求される撮像装置に用いられていたニオブ酸リチウムで構成される複屈折板が大変薄くその取り扱いが難しかったのに比べ、複屈折板を適度な厚みにでき、取り扱いが容易で製造上の歩留まりを向上させることができ、ひいてはコストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係る撮像装置である一眼レフタイプのデジタルスチルカメラの全体構成を概略的に示す図である。
【0019】
図1において、デジタルスチルカメラ1は、撮影レンズ5を本体に連結するレンズマウント50と、撮影レンズ5の予定結像面に配置されている固体撮像素子10と、固体撮像素子10への露出量を制御するフォーカルプレーンシャッター2とを備える。また、デジタルスチルカメラ1は、フォーカルプレーンシャッター2と固体撮像素子10との間に配置されている光学ローパスフィルタ4と、固体撮像素子10にて撮像された画像を表示する液晶表示素子9とを備える。さらに、デジタルスチルカメラ1は、接眼レンズ3で被写体像のピントがあうようにするピント板7と、撮影レンズからの光をピント板7に反射するハーフミラー6とを備える。
【0020】
また、デジタルスチルカメラ1は、ピント板7で拡散した被写体光を接眼レンズ3に出射するよう光路変換するペンタダハプリズム8と、撮影レンズ5の焦点状態を検出する焦点検出ユニット34とを備える。
【0021】
撮影レンズ5は、便宜上2枚のレンズ5a、5bで図示しているが実際は多数枚のレンズで構成されている。
【0022】
焦点検出ユニット34は、ハーフミラー6を透過した光を受光して、撮影レンズ5の焦点状態を検出する。
【0023】
光学ローパスフィルタ4は、図2に示すように、第1の複屈折板41、第2の複屈折板42、及び第3の複屈折板43の3枚の複屈折板で構成され、これらは互いに貼り合わされている。
【0024】
第1の複屈折板41及び第3の複屈折板43は、ランタン(La)、ガリウム(Ga)、酸素(O)にニオブ(Nb)を含んだ結晶である焦電性の小さいランガナイト(LaGa5.5Nb0.514)で構成されている。
【0025】
第2の複屈折板42は、水晶(SiO)で構成され、第1の複屈折板41と第3の複屈折板43の間に配され、位相補償を行う。
【0026】
また、第1の複屈折板41、第2の複屈折板42、及び第3の複屈折板43は、図2に示すように、それぞれ矢印の方向の光学軸41a,42a,43aを有する。
【0027】
すなわち、第1の複屈折板41の光学軸41aの方向は、Y−Z平面内にあり、Z−X平面に対して45度の角度を有している。同様に、第3の複屈折板43の光学軸43aの方向は、Z−X平面内にあり、X−Y平面に対して45度の角度を有している。また、第2の複屈折板42の光学軸42aの方向は、X−Y平面内にあり、第1の複屈折板41及び第3の複屈折板43の光学軸のX−Y平面への射影に対して45度の傾きを有している。
【0028】
このように、光学ローパスフィルタ4は焦電性の小さい3枚の複屈折板41,42,43で構成されている。これにより、装着されるデジタルスチルカメラ1のまわりの気温の変化に伴う分極が生じにくく、帯電によるゴミの吸着を抑制することができる。
【0029】
図3は、図1における光学ローパスフィルタ4の光線分離を説明するのに用いられる図であって、(a)は、図中Y方向の光線の様子を示し、(b)は、図中X方向の光線の様子を示す。
【0030】
図3(a)において、まず、撮影レンズからの無偏光である被写体光が、ランガナイトで構成された第1の複屈折板41に入射する。
【0031】
この入射した被写体光に含まれる光線のうち、Y方向と直交する偏光面を有した偏光は第1の複屈折板41中を直進し、Y方向と平行の偏光面を有した偏光は第1の複屈折板41中で屈折する。
【0032】
従って、第1の複屈折板41に入射した1本の被写体光は、Y方向に関して光線分離幅dだけ離れた2本の直線偏光に分離され、第1の複屈折板41から出射する。
【0033】
この光線分離幅dは、第1の複屈折板41を構成するランガナイトの屈折率と基板の厚さtに依存する。ランガナイトの複屈折率は水晶の約3倍、ニオブ酸リチウムの約1/3であるため、第1の複屈折板41を取り扱いが容易な適度の厚さとすることができる。
【0034】
具体的には、第1の複屈折板41を構成するランガナイトの屈折率は、異常屈折率neが1.974、常屈折率noが1.950であり、光線分離幅dが6μmであるので、第1の複屈折板41の基板厚さtは0.50mmとなる。
【0035】
次に、第1の複屈折板41から出射した2本の直線偏光は、水晶で構成された第2の複屈折板42の光学軸42aとそれぞれ45度の角度をもって入射する。
【0036】
この入射した2本の直線偏光は、第2の複屈折板42中で円偏光に変換される。
【0037】
このように第2の複屈折板42をいわゆる1/4波長板とするには、第2の複屈折板42を構成する水晶の屈折率に応じて基板の厚さtを所定の厚さとする必要がある。
【0038】
具体的には、第2の複屈折板42を構成する水晶の屈折率は、異常屈折率neを1.553、常屈折率noを1.544であるので、基板の厚さtは0.40mmととなる。
【0039】
さらに、第2の複屈折板42から出射した2本の円偏光は、ランガナイトで構成された第3の複屈折板43に入射する。
【0040】
第3の複屈折板43の光学軸43aに対する上記2本の円偏光のX−Y平面への射影はY方向と直交するため、いずれの円偏光も第3の複屈折板43中をY方向には屈折することなく直進し、第3の複屈折板43を出射する。一方、図3(b)において、ランガナイトで構成された第1の複屈折板41の光学軸のX−Y平面への射影はX方向と直交する。
【0041】
このため、撮影レンズからの無偏光である被写体光は、第1の複屈折板41に入射したとき、X方向には屈折せずに第1の複屈折板41から出射するが、上述のように第1の複屈折板41では2本の直線偏光がY方向に分離して出射する。
【0042】
第1の複屈折板41から出射したこの2本の直線偏光は、第2の複屈折板42に入射し、それぞれ上述のように円偏光となって出射する。さらに、第2の複屈折板42から出射した2本の円偏光は、第3の複屈折板43に入射する。
【0043】
この入射した2本の円偏光のうち、X方向と直交する偏光面を有した偏光は第3の複屈折板43中を直進し、X方向と平行の偏光面を有した偏光は第3の複屈折板43中で屈折する。
【0044】
従って、第3の複屈折板43に入射した2本の円偏光は、X方向に関して光線分離幅dだけ離れた2本の直線偏光に分離され、第3の複屈折板43から出射する。
【0045】
ここで、第1の複屈折板41と同様に、光線分離幅dは、第3の複屈折板43を構成するランガナイトの屈折率と基板の厚さtに依存する。
【0046】
具体的には、第3の複屈折板43を構成するランガナイトの屈折率は、異常屈折率neが1.974、常屈折率noが1.950であり、光線分離幅dが6μmであるので、第3の複屈折板43の基板厚さtは0.50mmとなる。
【0047】
すなわち、第3の複屈折板43をランガナイトで構成することにより、取り扱いが容易な適度の厚さとすることができる。
【0048】
最終的には、光学ローパスフィルタ4に入射した1本の被写体光は4本の直線偏光に分離された後、固体撮像素子10に入射するので、2次元方向の偽色が生じるのを防止できる。
【0049】
以上のように、3枚の複屈折板41,42,43から構成された光学ローパスフィルタ4において、第1の複屈折板41及び第3の複屈折板43をランガナイトで構成することにより、光学ローパスフィルタ4の厚さを約1.40mmに押さえることができる。
【0050】
また、このように、光学ローパスフィルタ4の厚さを薄くすることができるので、不図示のフォーカルプレーンシャッタと固体撮像素子10との間隔を短くすることができ、フォーカルプレーンシャッタによる露出制御の精度を高くすることができる。
【0051】
さらに、従来高精度な露出制御が要求される一眼レフのデジタルスチルカメラに用いられていたニオブ酸リチウム(LiNbO)で構成される複屈折板は1枚当たりの厚さが約0.16mmと大変薄く、その取り扱いが難しかった。これに対して、本発明に係るランガナイトで構成される複屈折板は1枚当たりの厚さが0.5mmと適度な厚みがあるので、その取り扱いが容易で製造上の歩留まりを向上させることができ、ひいてはコストダウンを図ることができる。
【0052】
尚、本実施の形態に係る光学ローパスフィルタ4は、3枚の複屈折板41,42,43のうち2枚がランガナイトで構成されているが、光学ローパスフィルタ4の厚さを更に薄くするために全ての複屈折板をランガナイトで構成してもよい。
【0053】
また、コンパクトデジタルカメラ等の撮像装置では、光学ローパスフィルタを1枚のランガナイトから成る複屈折板で構成してもよい。
【0054】
さらに、本実施の形態では、焦電性の低い複屈折板としてランガナイトを使用した例を示したが、ランガサイト(LaGaSiO14)を使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態に係る撮像装置である一眼レフタイプのデジタルスチルカメラの全体構成を概略的に示す図である。
【図2】図1のデジタルスチルカメラの光学系の構成を概略的に示すブロック図である。
【図3】図1における光学ローパスフィルタの光線分離を説明するのに用いられる図であって、(a)は、図中Y方向の光線の様子を示し、(b)は、図中X方向の光線の様子を示す。
【図4】従来の一眼レフタイプのデジタルスチルカメラの光学系の構成を概略的に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0056】
2 フォーカルプレーンシャッター
5 撮影レンズ
10 固体撮像素子
40 光学ローパスフィルタ
41 第1の複屈折板
42 第2の複屈折板
43 第3の複屈折板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影レンズと固体撮像素子との間に光学ローパスフィルタを有した撮像装置において、該光学ローパスフィルタは1枚以上の複屈折板から構成され、該複屈折板のうち少なくとも1枚はランタン(La)、ガリウム(Ga)、酸素(O)を含む結晶であることを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記結晶は、ランガナイト(LaGa5.5Nb0.514)であることを特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】
前記結晶は、ランガサイト(LaGaSiO14)であることを特徴とする請求項1記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−47712(P2007−47712A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234902(P2005−234902)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】