撮像装置
【課題】一眼レフカメラの光束分割ミラーを光学薄膜の多層膜の構成とし、その分光特性を工夫してオートフォーカス検知装置に対する入射光量が不足することを防止する。
【解決手段】撮像光学系を透過した光が光束分割ミラーに入射され、透過光がイメージセンサに入射され、反射光がオートフォーカス検知装置に入射される。光束分割ミラーは、8層以上の多層膜であり、最適化によって、分光特性が(400〜650nm)で反射率が25%以上で35%以下となり、700nm付近の反射率が60%以上となされる。
【解決手段】撮像光学系を透過した光が光束分割ミラーに入射され、透過光がイメージセンサに入射され、反射光がオートフォーカス検知装置に入射される。光束分割ミラーは、8層以上の多層膜であり、最適化によって、分光特性が(400〜650nm)で反射率が25%以上で35%以下となり、700nm付近の反射率が60%以上となされる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば一眼レフカメラに対して適用される撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一眼レフカメラは、可動式のミラーが搭載され、撮影の時には、撮影直前にミラーが撮影光路外に待避し、撮影終了後ただちに光路内にミラーが復帰してファインダ光学系に被写体光を導く構造とされている。その結果、撮影中はファインダ像が消失し、撮影の瞬間の被写体を見ることができない。特に、被写体の動きの速いスポーツ、レース、動物写真等においては、連続的に撮影をしながら被写体に追従するような撮影が大変難しく、いわゆる決定的瞬間を見逃すことがあった。
【0003】
これに対し、固定式のミラーによって光束を分割する機能を有する一眼レフカメラ(例えば、下記の特許文献1〜3参照)が提案されている。この種の一眼レフカメラでは、ファインダ系に光束を導くミラーが固定の光束分割ミラー(ペリクルミラーとも呼ばれる)の構成とされる。ミラーによって、撮影光を常にファインダ系とフィルム面方向に分割し、撮影中に常にファインダにて被写体の状態を観察することが可能とされている。
【0004】
特許文献1では、一眼レフカメラ用光束分割ミラーの膜設計が提案されている。特許文献1では、光束分割ミラーを45度に設置した場合の透過光線(イメージセンサへ導かれる光)と反射光線(ファインダ側へ導かれる光)の強度がそれぞれ50%となるように設計されている。この場合には、フィルムに届く光量が減少するので、露光時間が長くなったり、フラッシュの光が届く距離が短くなる問題が生じる。この問題を解決するめたに、フラッシュ撮影時にはこの光束分割ミラーを従来のミラーのように稼動する仕組み(特許文献3参照)を設ける必要が生じる。
【0005】
さらに、特許文献4ではオートフォーカス検知装置をカメラ下面に設置し、光束分割ミラーを透過した光を再度可動式のミラーを用いて下面に配置されたオートフォーカス検知装置へ導く方式が提案されている。この方式は機構が複雑になることから製造コストの上昇や固定ミラーの内側に可動部が存在することからごみの発生などの問題が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−109504号公報
【特許文献2】特開2006−350253号公報
【特許文献3】特開平8−254751号公報
【特許文献4】特許2801217号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の1眼レフデジタルカメラでは本体背面に、LCD(Liquid Crystal Display)パ
ネルなどのディスプレイを設け、撮像素子へ入力された画像をこのディスプレイにより確認することが可能となっている。例えば光学式ファインダを設けずに、背面のディスプレイによる画像を撮影者が確認しながら撮影を行うデジタル一眼レフカメラが提案されている。かかる構成においては、オートフォーカス検知装置をカメラ本体の上部に設置し、光束分割ミラーにより反射された光をこのオートフォーカス検知装置に導くことも可能である。しかしながら、特許文献1乃至4に示される光束分割ミラーを用いた場合、撮影画像の画質を良好とするために、イメージセンサに対する透過光の光量が反射光より多くされ、その結果、オートフォーカス検知装置へ導かれる撮影光の光量が不足するという問題があった。
【0008】
したがって、この発明の目的は、光束分割ミラーにより反射され、オートフォーカス検知装置に導かれる撮影光の光量が不足する問題を解決することができる撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、この発明は、撮影光学系を介して入射された入射光を透過させると共に反射させる光束分割ミラーと、
光束分割ミラーの透過光が入射されるイメージセンサと、
光束分割ミラーの反射光が入射されるオートフォーカス検知部と、
イメージセンサの撮像信号を処理する信号処理部と、
信号処理部によって得られる映像信号によって撮影中の映像を表示するディスプレイ部とを有し、
光束分割ミラーは、高屈折率材料の膜厚をHとし、低屈折率材料の膜厚をLとするときに、プラスチックフィルム上に式(1)(但し、n≧3)で示されるように積層され、
(HL)nHL/2(nは、繰り返し回数を表す整数) 式(1)
最適化によって、(400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下、700nm付近の反射率が60%以上)の分光特性を得るようになされた撮像装置である。
好ましくは、分光特性において、700nm付近の波長より長い波長の領域の反射率が60%以上である。
さらに、オートフォーカス補助光発生部を有し、オートフォーカス補助光発生部が700nm付近の波長のオートフォーカス補助光を発生する。
好ましくは、光束分割ミラーが上方に入射光を反射し、オートフォーカス検知部が筐体内の上部に設けられている。
【発明の効果】
【0010】
この発明では、オートフォーカス補助光を使用する場合、オートフォーカス補助光の戻り光を他の波長に比してより高い反射率で反射してオートフォーカス検知装置に対して導くことができる。この発明では、700nm付近より長波長の領域の反射率を大きくしているので、この領域の波長の光がイメージセンサに対して入射されることを抑えることができ、光束分割ミラーが赤外カットフィルタの機能を持つことできる。したがって、イメージセンサの前面等に別個に赤外カットフィルタを設ける必要がなくなり、撮像装置の低コスト化、軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明を適用できる一眼レフカメラの概略的構成を示す略線図である。
【図2】この発明による光束分割ミラーの実施例1の積層構成を示す略線図である。
【図3】実施例1の基礎設計による各層の膜厚と最適化後の各層の膜厚とを示す略線図である。
【図4】実施例1の分光特性を示す略線図である。
【図5】この発明による光束分割ミラーの実施例2の基礎設計による各層の膜厚と最適化後の各層の膜厚とを示す略線図である。
【図6】実施例2の分光特性を示す略線図である。
【図7】この発明による光束分割ミラーの実施例3の基礎設計による各層の膜厚と最適化後の各層の膜厚とを示す略線図である。
【図8】実施例3の分光特性を示す略線図である。
【図9】この発明の説明の参考とした参考例1の基礎設計による各層の膜厚と最適化後の各層の膜厚とを示す略線図である。
【図10】参考例1の分光特性を示す略線図である。
【図11】この発明の説明の参考とした参考例2の基礎設計による各層の膜厚と最適化後の各層の膜厚とを示す略線図である。
【図12】参考例2の分光特性を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について説明する。なお、説明は、以下の順序で行う。
<1.一眼レフカメラの概略的構成>
<2.光束分割フィルタ>
<3.変形例>
なお、以下に説明する実施の形態は、この発明の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、この発明の範囲は、以下の説明において、特にこの発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施の形態に限定されないものとする。
【0013】
<1.一眼レフカメラの概略的構成>
図1を参照してこの発明による撮像装置の一実施の形態について説明する。一実施の形態は、この発明を一眼レフデジタルカメラに対して適用した例である。カメラ筐体の鏡筒部1に対して、交換可能な撮影レンズ、絞り等を含む撮影光学系2が取り付けられている。撮影光学系2の撮影レンズは、フォーカス駆動系(図示しない)によって駆動され、オートフォーカス動作が可能とされている。
【0014】
撮影光学系2を介された透過光(被写体光)が光束分割ミラー3に入射される。光束分割ミラー3は、撮影光学系2の透過光を反射および透過する。光束分割ミラー3を透過した光がイメージセンサ4に入射される。光束分割ミラー3は、後述するように、分光特性として、(400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下、700nm付近の反射率が60%以上)を持つように設計されている。
【0015】
イメージセンサ4は、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等のセンサであり、イメージセンサ4から取り出された撮像信
号が撮像信号処理回路(図示しない)に対して供給され、撮像信号を圧縮した信号が記録媒体例えばフラッシュメモリに記憶される。さらに、現在撮影中の被写体が背面に設けられたディスプレイ5に表示される。ディスプレイ5は、LCD、有機EL(Electroluminescence:電界発光効果)等のフラットディスプレイである。
【0016】
光束分割ミラー3の反射光は、上方のオートフォーカス検知装置6へ導かれる。オートフォーカス検知装置6は、光束分割ミラー3の反射光を受光するイメージセンサ(エリアセンサ)と、イメージセンサの出力信号を処理する信号処理部と、撮影光学系2のオートフォーカスレンズの位置を制御する駆動部とを有する。信号処理部においては、撮影画像の指定されたエリア、または撮影画像の全体のエリアの撮像信号を使用してオートフォーカス評価値が生成され、オートフォーカス評価値が最大となるように、撮影光学系2のオートフォーカスレンズの位置が制御される。
【0017】
なお、オートフォーカス方式としては、位相差式オートフォーカスおよびコントラスト検出式オートフォーカスの何れか一方の方式、または両方式を併用した方式を使用することができる。さらに、暗い場所や、コントラストの低い被写体でも良好にオートフォーカスを行うために、オートフォーカス補助光を発生し、戻り光からオートフォーカス評価値を形成するようになされている。補助光として例えば波長が700nm付近の赤外光が使用され、カメラの前面に赤外光を発生する赤外光発生用LEDが設けられている。同様のオートフォーカス補助光は、アクセサリーのフラッシュ装置により発生するようにしても良い。オートフォーカス検知装置は、オートフォーカス補助光の波長に対して感度が高いものとされている。
【0018】
上述したディスプレイ5は、電子式ビューファインダとしての機能を有する。すなわち、ディスプレイ5には、イメージセンサ4の撮像信号を信号処理部で処理して得られる映像信号が供給され、現在の被写体像(動画)が表示される。図1に示す構成では、光学式ビューファインダが設けられておらず、光束分割ミラー3によって上方に反射された光をオートフォーカス検知装置6に導いてオートフォーカスを行うようにしている。光学式ビューファインダを省略することによって、焦点板、ペンタプリズム、接眼部等の光学部品を不要とできる。但し、光学系を工夫して光学式ビューファインダおよびオートフォーカス検知装置6の両方を上部に設けることも可能である。
【0019】
<2.光束分割ミラー>
この発明においては、イメージセンサ4に導かれる光の光量を確保しながらオートフォーカス検知装置6に導かれる光の光量が不足することを防止するように、光束分割ミラー3の分光特性(波長選択特性)を設定するものである。特にオートフォーカス用補助光(700nm)に対する反射率を確保することで、補助光を利用する暗視野におけるオートフォーカス動作を安定して行えるように設定されている。
【0020】
一例として、この発明の一実施の形態においては、光束分割ミラー3の分光特性は、可視光領域のうち、400nm〜650nmにおける透過率が65%以上75%であり、オートフォーカス検知装置6のオートフォーカス補助光の波長(700nm付近)の反射率が60%以上とされる。このような分光特性を持つことによって、イメージセンサ4へ導かれる光の量が十分確保され、且つオートフォーカス検知装置6に対するオートフォーカス補助光の光量も十分とできる。この発明により、コンパクトで軽量なデジタルカメラを実現することが可能である。
【0021】
この発明においては、高屈折率を持つ誘電体薄膜(以下、高屈折率層と称する)と、低屈折率を持つ誘電体薄膜(以下、低屈折率層と称する)とを交互に積層した光学多層膜によって、光束分割ミラー3を構成する。高屈折率層を構成する高屈折率材料は、屈折率2以上(例えば2.0〜2.5)の材料である。低屈折率層を構成する低屈折率材料は、屈折率1.6未満の材料である。
【0022】
光学多層膜は、基材としてのプラスチックフィルム上に形成される。プラスチックフィルムは、可視光領域内で透明である。プラスチックフィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、トリアセチルセルロース(TAC)の何れかからなることが好ましい。
【0023】
高屈折率材料は、In2O3、SnO2、ZnO、ITOの何れかまたはこれらの合金、
若しくはZnOにAlまたはGaをドープした透明導電性材料からなることが好ましい。或いは、高屈折率材料は、TiO2、Nb2O5、ZrO2、Ta2O5の何れかからなることが好ましい。低屈折率材料は、MgF2、AlF3、SiO2が好ましい。
【0024】
所望の分光特性を得るために、SWPF(Short Wave Pass Filter)の設計手法を使用することができる。SWPFは、長波長を反射し、短波長を透過させる分光特性を有する誘電体多層膜である。SWPFの基礎設計は、(高屈折率材料の屈折率)×膜厚=λ/4(λ:設計中心波長)となる膜厚をHとし、(低屈折率材料の屈折率)×膜厚=λ/4となる膜厚をLとすると、下記の式で表すことができる。
【0025】
L/2・H・L・・・・L・H・L/2=L/2(HL)nHL/2(・・・の部分は
、繰り返しを表し、nは、繰り返し回数を表す整数である)
【0026】
基材としてプラスチックフィルム例えばPET(屈折率1.65)が使用されるので、上式における最初の層(L/2)は、プラスチックフィルムとみなすことができる。したがって、上式を、下記の式(1)のように簡略化する。
【0027】
(HL)nHL/2(nは、繰り返し回数を表す整数) 式(1)
【0028】
この発明においては、(n≧3)とし、膜厚Hおよび膜厚Lを基礎設計し、さらに、最適化を行うことによって、目標とする分光特性(400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下、700nm付近の反射率が60%以上)を得るようになされる。
【0029】
かかる分光特性を持つ光束分割ミラーを使用することによって下記の効果を得ることができる。
1.オートフォーカス検知装置の感度が高い波長での反射率を25%以上で35%以下とすることで、オートフォーカス検知装置に対して充分な光量の被写体光を導くことができ、オートフォーカス検知にとって光量不足の問題が生じない。
2.暗い場所での撮影、コントラストの低い被写体の撮影のために、オートフォーカス補助光を使用する場合、オートフォーカス補助光の戻り光を他の波長に比してより高い反射率で反射してオートフォーカス検知装置6に対して導くことができる。
3.700nm付近より長波長の光の反射率を大きくしているので、この付近の波長の光がイメージセンサ4に対して入射されることを抑えることができ、光束分割ミラー3が赤外カットフィルタの機能を持つことできる。したがって、イメージセンサ4の前面等に別個に赤外カットフィルタを設ける必要がなくなり、撮像装置の低コスト化、軽量化を図ることができる。
【実施例】
【0030】
次に、この発明による光束分割ミラーの実施例について説明する。
【0031】
図2は、この発明による光束分割ミラーの実施例1の積層構造を示す。基材としてのプラスチックフィルム11の材料は、PETである。PET上にT1〜T8の8層の膜がスパッタリングによって成膜された光学多層膜の構成とされる。例えばカールセル型の基板ホルダを持つ、後酸化方式のスパッタ装置によって成膜がなされる。スパッタリング方式とては、他のスパッタリング方式を使用できる。さらに、蒸着によって成膜を行うようにしても良い。実施例1では、低屈折率材料として、SiO2が使用され、高屈折率材料と
して、Nb2O5が使用される。
【0032】
650nm付近から立ち上がる特性を得るために、設計中心波長λ=800nmが設定され、基礎設計を行うと、図3に示す各層の膜厚が求められる。高屈折率層T8がプラスチックフィルム11上の膜であり、低屈折率層T1が表面の空気に接する層である。
【0033】
実施例1は、n(繰り返し回数)=3の例である。式(1)と対応させると、(T8〜T3)が3回の繰り返しの層であり、T2が「H」と対応する層であり、T1が「L/2」に対応する層であり、層T1の膜厚が他の低屈折率層Lの半分とされている。
【0034】
基礎設計で求められた膜厚を有する光束分割ミラーの分光特性21aを図4中の破線で表す。図4の横軸が波長を示し、縦軸が反射率(%)を示す。透過率は、100%−反射率(%)で求められる。分光特性21aは、波長700nmにおける反射率が60%以上である条件を満たしている。さらに、分光特性21aは、400nm〜650nmの反射率が十分に小さいので、この波長帯域の光をイメージセンサ4に入射させることができる。但し、この帯域における目標とする(反射率が25%以上で35%以下)に対して、反射率が低すぎる。そこで、最適化がなされる。
【0035】
コンピュータを利用した最適化のソフトウェアが使用することができる。一例として、TFCalc(登録商標、Software Spectra Inc.製)を使用して光学薄膜の特性を計算
できる。すなわち、目標の光学特性(400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下、700nmの反射率が60%以上)を設定し、遺伝的アルゴリズムによる最適化処理を行った。
【0036】
最適化の結果、T1〜T8の各層の膜厚が図3に示すように求められ、図4に示すように、分光特性21bが得られる。図4から、400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下であって、700nmの反射率が60%である光学的特性が得られていることが分かる。実施例1のように、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層することによって光の干渉を生じさせ、目標とする分光特性を実現することができる。
【0037】
(実施例2)
実施例2は、基材としてのプラスチックフィルム11(PET)が使用され、実施例1と同様に低屈折率材料として、SiO2が使用され、高屈折率材料として、Nb2O5が使
用される。PET上にT1〜T10の10層の膜が実施例1と同様に成膜された光学多層膜の構成とされる。
【0038】
650nm付近から立ち上がる特性を得るために、設計中心波長λ=800nmとして、基礎設計を行うと、図5に示す各層の膜厚が求められる。高屈折率層T10がプラスチックフィルム11上の膜であり、低屈折率層T1が表面の空気に接する層である。
【0039】
実施例2は、n(繰り返し回数)=4の例である。式(1)と対応させると、(T10〜T3)が4回の繰り返しの層であり、T2が「H」と対応する層であり、T1が「L/2」に対応する層であり、層T1の膜厚が他の低屈折率層Lの半分とされている。
【0040】
基礎設計で求められた膜厚を有する光束分割ミラーの分光特性22aを図6中の破線で表す。図6の横軸が波長を示し、縦軸が反射率(%)を示す。分光特性22aは、波長700nmにおける反射率が60%以上である条件を満たしている。さらに、分光特性22aは、400nm〜650nmの帯域における目標とする(反射率が25%以上で35%以下)に対して、反射率が低すぎるので、最適化がなされる。
【0041】
実施例1と同様に、TFCalc(登録商標、Software Spectra Inc.製)を使用して
最適化処理を行った。最適化の結果、T1〜T10の各層の膜厚が図5に示すように求められ、図6に示すように、分光特性22bが得られる。図6から400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下であって、700nmの反射率が60%以上である光学的特性が得られていることが分かる。
【0042】
(実施例3)
実施例3は、基材としてのプラスチックフィルム11(PET)が使用され、実施例1と同様に低屈折率材料として、SiO2が使用され、高屈折率材料として、Nb2O5が使
用される。PET上にT1〜T12の12層の膜が実施例1と同様に成膜された光学多層膜の構成とされる。
【0043】
650nm付近から立ち上がる特性を得るために、設計中心波長λ=800nmとして、基礎設計を行うと、図7に示す各層の膜厚が求められる。高屈折率層T12がプラスチックフィルム11上の膜であり、低屈折率層T1が表面の空気に接する層である。
【0044】
実施例3は、n(繰り返し回数)=5の例である。式(1)と対応させると、(T12〜T3)が4回の繰り返しの層であり、T2が「H」と対応する層であり、T1が「L/2」に対応する層であり、層T1の膜厚が他の低屈折率層Lの半分とされている。
【0045】
基礎設計で求められた膜厚を有する光束分割ミラーの分光特性23aを図8中の破線で表す。図8の横軸が波長を示し、縦軸が反射率(%)を示す。分光特性23aは、波長700nmにおける反射率が60%以上である条件を満たしている。さらに、分光特性23aは、400nm〜650nmの帯域における目標とする(反射率が25%以上で35%以下)に対して、反射率が低すぎるので、最適化がなされる。
【0046】
実施例1と同様に、TFCalc(登録商標、Software Spectra Inc.製)を使用して
最適化処理を行った。最適化の結果、T1〜T10の各層の膜厚が図7に示すように求められ、図8に示すように、分光特性23bが得られる。図8から400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下であって、700nmの反射率が60%以上である光学的特性が得られていることが分かる。
【0047】
上述したように、n=3(8層構成)、n=4(10層構成)、n=5(12層構成)の光束分割ミラーによって、目標とする分光特性が得られる。これに対して、n=1(4層構成)の参考例1、並びにn=2(6層構成)の参考例2では、目標とする分光特性が得られないことが分かった。
【0048】
(参考例1)
参考例1は、基材としてのプラスチックフィルム(PET)が使用され、実施例1と同様に低屈折率材料として、SiO2が使用され、高屈折率材料として、Nb2O5が使用さ
れる。PET上にT1〜T4の4層の膜が実施例1と同様に成膜された光学多層膜の構成とされる。
【0049】
参考例1は、n=1の例である。設計中心波長λ=800nmとして、基礎設計を行うと、図9に示す各層の膜厚が求められる。高屈折率層T4がプラスチックフィルム上の膜であり、低屈折率層T1が表面の空気に接する層である。基礎設計で求められた膜厚を有する光束分割ミラーの分光特性24aを図10中の破線で表す。図10の横軸が波長を示し、縦軸が反射率(%)を示す。
【0050】
分光特性24aは、波長700nmにおける反射率が40%より小であり、反射率が60%以上である条件を満たしていない。さらに、分光特性24aは、400nm〜650nmの帯域における目標とする(反射率が25%以上で35%以下)に対して、反射率が低すぎるので、最適化がなされる。
【0051】
実施例1と同様に、TFCalc(登録商標、Software Spectra Inc.製)を使用して
最適化処理を行った。最適化の結果、T1〜T4の各層の膜厚が図9に示すように求められ、図10に示すように、分光特性24bが得られる。図10から400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下である光学的特性を実現できず、さらに、700nmの反射率が60%以上である光学的特性が実現できないことが分かる。すなわち、4層構成では、目標とする分光特性を生じさせる解が無い。
【0052】
(参考例2)
参考例2は、基材としてのプラスチックフィルム(PET)が使用され、実施例1と同様に低屈折率材料として、SiO2が使用され、高屈折率材料として、Nb2O5が使用さ
れる。PET上にT1〜T6の6層の膜が実施例1と同様に成膜された光学多層膜の構成とされる。
【0053】
参考例2は、n=2の例である。設計中心波長λ=800nmとして、基礎設計を行うと、図11に示す各層の膜厚が求められる。高屈折率層T6がプラスチックフィルム上の膜であり、低屈折率層T1が表面の空気に接する層である。基礎設計で求められた膜厚を有する光束分割ミラーの分光特性25aを図11中の破線で表す。図11の横軸が波長を示し、縦軸が反射率(%)を示す。
【0054】
分光特性25aは、波長700nmにおける反射率が60%より小であり、反射率が60%以上である条件を満たしていない。さらに、分光特性25aは、400nm〜650nmの帯域における目標とする(反射率が25%以上で35%以下)に対して、反射率が低すぎるので、最適化がなされる。
【0055】
実施例1と同様に、TFCalc(登録商標、Software Spectra Inc.製)を使用して
最適化処理を行った。最適化の結果、T1〜T6の各層の膜厚が図11に示すように求められ、図12に示すように、分光特性25bが得られる。図12から400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下である光学的特性を実現することかできる。しかしながら、700nmの反射率が60%以上である光学的特性が実現できないことが分かる。すなわち、6層構成では、目標とする分光特性を生じさせる解が無い。
【0056】
上述した参考例1および参考例2から、8層以上の光学薄膜を積層した構成の光束分割ミラーによって、目標とする光学特性が得られることが分かる。
【0057】
<3.変形例>
この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば最適化のソフトウェアとして挙げたものは、一例であって、他のソフトウェアを使用することができる。さらに、高屈折率材料、低屈折率材料として実施例に挙げたもの以外を使用することができ、その場合には、膜厚の値が上述した値と異なる他の値となる。
【符号の説明】
【0058】
1・・・鏡筒部
2・・・撮影光学系
3・・・光束分割ミラー
4・・・イメージセンサ
5・・・ディスプレイ
6・・・オートフォーカス検知装置
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば一眼レフカメラに対して適用される撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一眼レフカメラは、可動式のミラーが搭載され、撮影の時には、撮影直前にミラーが撮影光路外に待避し、撮影終了後ただちに光路内にミラーが復帰してファインダ光学系に被写体光を導く構造とされている。その結果、撮影中はファインダ像が消失し、撮影の瞬間の被写体を見ることができない。特に、被写体の動きの速いスポーツ、レース、動物写真等においては、連続的に撮影をしながら被写体に追従するような撮影が大変難しく、いわゆる決定的瞬間を見逃すことがあった。
【0003】
これに対し、固定式のミラーによって光束を分割する機能を有する一眼レフカメラ(例えば、下記の特許文献1〜3参照)が提案されている。この種の一眼レフカメラでは、ファインダ系に光束を導くミラーが固定の光束分割ミラー(ペリクルミラーとも呼ばれる)の構成とされる。ミラーによって、撮影光を常にファインダ系とフィルム面方向に分割し、撮影中に常にファインダにて被写体の状態を観察することが可能とされている。
【0004】
特許文献1では、一眼レフカメラ用光束分割ミラーの膜設計が提案されている。特許文献1では、光束分割ミラーを45度に設置した場合の透過光線(イメージセンサへ導かれる光)と反射光線(ファインダ側へ導かれる光)の強度がそれぞれ50%となるように設計されている。この場合には、フィルムに届く光量が減少するので、露光時間が長くなったり、フラッシュの光が届く距離が短くなる問題が生じる。この問題を解決するめたに、フラッシュ撮影時にはこの光束分割ミラーを従来のミラーのように稼動する仕組み(特許文献3参照)を設ける必要が生じる。
【0005】
さらに、特許文献4ではオートフォーカス検知装置をカメラ下面に設置し、光束分割ミラーを透過した光を再度可動式のミラーを用いて下面に配置されたオートフォーカス検知装置へ導く方式が提案されている。この方式は機構が複雑になることから製造コストの上昇や固定ミラーの内側に可動部が存在することからごみの発生などの問題が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−109504号公報
【特許文献2】特開2006−350253号公報
【特許文献3】特開平8−254751号公報
【特許文献4】特許2801217号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の1眼レフデジタルカメラでは本体背面に、LCD(Liquid Crystal Display)パ
ネルなどのディスプレイを設け、撮像素子へ入力された画像をこのディスプレイにより確認することが可能となっている。例えば光学式ファインダを設けずに、背面のディスプレイによる画像を撮影者が確認しながら撮影を行うデジタル一眼レフカメラが提案されている。かかる構成においては、オートフォーカス検知装置をカメラ本体の上部に設置し、光束分割ミラーにより反射された光をこのオートフォーカス検知装置に導くことも可能である。しかしながら、特許文献1乃至4に示される光束分割ミラーを用いた場合、撮影画像の画質を良好とするために、イメージセンサに対する透過光の光量が反射光より多くされ、その結果、オートフォーカス検知装置へ導かれる撮影光の光量が不足するという問題があった。
【0008】
したがって、この発明の目的は、光束分割ミラーにより反射され、オートフォーカス検知装置に導かれる撮影光の光量が不足する問題を解決することができる撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、この発明は、撮影光学系を介して入射された入射光を透過させると共に反射させる光束分割ミラーと、
光束分割ミラーの透過光が入射されるイメージセンサと、
光束分割ミラーの反射光が入射されるオートフォーカス検知部と、
イメージセンサの撮像信号を処理する信号処理部と、
信号処理部によって得られる映像信号によって撮影中の映像を表示するディスプレイ部とを有し、
光束分割ミラーは、高屈折率材料の膜厚をHとし、低屈折率材料の膜厚をLとするときに、プラスチックフィルム上に式(1)(但し、n≧3)で示されるように積層され、
(HL)nHL/2(nは、繰り返し回数を表す整数) 式(1)
最適化によって、(400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下、700nm付近の反射率が60%以上)の分光特性を得るようになされた撮像装置である。
好ましくは、分光特性において、700nm付近の波長より長い波長の領域の反射率が60%以上である。
さらに、オートフォーカス補助光発生部を有し、オートフォーカス補助光発生部が700nm付近の波長のオートフォーカス補助光を発生する。
好ましくは、光束分割ミラーが上方に入射光を反射し、オートフォーカス検知部が筐体内の上部に設けられている。
【発明の効果】
【0010】
この発明では、オートフォーカス補助光を使用する場合、オートフォーカス補助光の戻り光を他の波長に比してより高い反射率で反射してオートフォーカス検知装置に対して導くことができる。この発明では、700nm付近より長波長の領域の反射率を大きくしているので、この領域の波長の光がイメージセンサに対して入射されることを抑えることができ、光束分割ミラーが赤外カットフィルタの機能を持つことできる。したがって、イメージセンサの前面等に別個に赤外カットフィルタを設ける必要がなくなり、撮像装置の低コスト化、軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明を適用できる一眼レフカメラの概略的構成を示す略線図である。
【図2】この発明による光束分割ミラーの実施例1の積層構成を示す略線図である。
【図3】実施例1の基礎設計による各層の膜厚と最適化後の各層の膜厚とを示す略線図である。
【図4】実施例1の分光特性を示す略線図である。
【図5】この発明による光束分割ミラーの実施例2の基礎設計による各層の膜厚と最適化後の各層の膜厚とを示す略線図である。
【図6】実施例2の分光特性を示す略線図である。
【図7】この発明による光束分割ミラーの実施例3の基礎設計による各層の膜厚と最適化後の各層の膜厚とを示す略線図である。
【図8】実施例3の分光特性を示す略線図である。
【図9】この発明の説明の参考とした参考例1の基礎設計による各層の膜厚と最適化後の各層の膜厚とを示す略線図である。
【図10】参考例1の分光特性を示す略線図である。
【図11】この発明の説明の参考とした参考例2の基礎設計による各層の膜厚と最適化後の各層の膜厚とを示す略線図である。
【図12】参考例2の分光特性を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について説明する。なお、説明は、以下の順序で行う。
<1.一眼レフカメラの概略的構成>
<2.光束分割フィルタ>
<3.変形例>
なお、以下に説明する実施の形態は、この発明の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、この発明の範囲は、以下の説明において、特にこの発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施の形態に限定されないものとする。
【0013】
<1.一眼レフカメラの概略的構成>
図1を参照してこの発明による撮像装置の一実施の形態について説明する。一実施の形態は、この発明を一眼レフデジタルカメラに対して適用した例である。カメラ筐体の鏡筒部1に対して、交換可能な撮影レンズ、絞り等を含む撮影光学系2が取り付けられている。撮影光学系2の撮影レンズは、フォーカス駆動系(図示しない)によって駆動され、オートフォーカス動作が可能とされている。
【0014】
撮影光学系2を介された透過光(被写体光)が光束分割ミラー3に入射される。光束分割ミラー3は、撮影光学系2の透過光を反射および透過する。光束分割ミラー3を透過した光がイメージセンサ4に入射される。光束分割ミラー3は、後述するように、分光特性として、(400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下、700nm付近の反射率が60%以上)を持つように設計されている。
【0015】
イメージセンサ4は、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等のセンサであり、イメージセンサ4から取り出された撮像信
号が撮像信号処理回路(図示しない)に対して供給され、撮像信号を圧縮した信号が記録媒体例えばフラッシュメモリに記憶される。さらに、現在撮影中の被写体が背面に設けられたディスプレイ5に表示される。ディスプレイ5は、LCD、有機EL(Electroluminescence:電界発光効果)等のフラットディスプレイである。
【0016】
光束分割ミラー3の反射光は、上方のオートフォーカス検知装置6へ導かれる。オートフォーカス検知装置6は、光束分割ミラー3の反射光を受光するイメージセンサ(エリアセンサ)と、イメージセンサの出力信号を処理する信号処理部と、撮影光学系2のオートフォーカスレンズの位置を制御する駆動部とを有する。信号処理部においては、撮影画像の指定されたエリア、または撮影画像の全体のエリアの撮像信号を使用してオートフォーカス評価値が生成され、オートフォーカス評価値が最大となるように、撮影光学系2のオートフォーカスレンズの位置が制御される。
【0017】
なお、オートフォーカス方式としては、位相差式オートフォーカスおよびコントラスト検出式オートフォーカスの何れか一方の方式、または両方式を併用した方式を使用することができる。さらに、暗い場所や、コントラストの低い被写体でも良好にオートフォーカスを行うために、オートフォーカス補助光を発生し、戻り光からオートフォーカス評価値を形成するようになされている。補助光として例えば波長が700nm付近の赤外光が使用され、カメラの前面に赤外光を発生する赤外光発生用LEDが設けられている。同様のオートフォーカス補助光は、アクセサリーのフラッシュ装置により発生するようにしても良い。オートフォーカス検知装置は、オートフォーカス補助光の波長に対して感度が高いものとされている。
【0018】
上述したディスプレイ5は、電子式ビューファインダとしての機能を有する。すなわち、ディスプレイ5には、イメージセンサ4の撮像信号を信号処理部で処理して得られる映像信号が供給され、現在の被写体像(動画)が表示される。図1に示す構成では、光学式ビューファインダが設けられておらず、光束分割ミラー3によって上方に反射された光をオートフォーカス検知装置6に導いてオートフォーカスを行うようにしている。光学式ビューファインダを省略することによって、焦点板、ペンタプリズム、接眼部等の光学部品を不要とできる。但し、光学系を工夫して光学式ビューファインダおよびオートフォーカス検知装置6の両方を上部に設けることも可能である。
【0019】
<2.光束分割ミラー>
この発明においては、イメージセンサ4に導かれる光の光量を確保しながらオートフォーカス検知装置6に導かれる光の光量が不足することを防止するように、光束分割ミラー3の分光特性(波長選択特性)を設定するものである。特にオートフォーカス用補助光(700nm)に対する反射率を確保することで、補助光を利用する暗視野におけるオートフォーカス動作を安定して行えるように設定されている。
【0020】
一例として、この発明の一実施の形態においては、光束分割ミラー3の分光特性は、可視光領域のうち、400nm〜650nmにおける透過率が65%以上75%であり、オートフォーカス検知装置6のオートフォーカス補助光の波長(700nm付近)の反射率が60%以上とされる。このような分光特性を持つことによって、イメージセンサ4へ導かれる光の量が十分確保され、且つオートフォーカス検知装置6に対するオートフォーカス補助光の光量も十分とできる。この発明により、コンパクトで軽量なデジタルカメラを実現することが可能である。
【0021】
この発明においては、高屈折率を持つ誘電体薄膜(以下、高屈折率層と称する)と、低屈折率を持つ誘電体薄膜(以下、低屈折率層と称する)とを交互に積層した光学多層膜によって、光束分割ミラー3を構成する。高屈折率層を構成する高屈折率材料は、屈折率2以上(例えば2.0〜2.5)の材料である。低屈折率層を構成する低屈折率材料は、屈折率1.6未満の材料である。
【0022】
光学多層膜は、基材としてのプラスチックフィルム上に形成される。プラスチックフィルムは、可視光領域内で透明である。プラスチックフィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、トリアセチルセルロース(TAC)の何れかからなることが好ましい。
【0023】
高屈折率材料は、In2O3、SnO2、ZnO、ITOの何れかまたはこれらの合金、
若しくはZnOにAlまたはGaをドープした透明導電性材料からなることが好ましい。或いは、高屈折率材料は、TiO2、Nb2O5、ZrO2、Ta2O5の何れかからなることが好ましい。低屈折率材料は、MgF2、AlF3、SiO2が好ましい。
【0024】
所望の分光特性を得るために、SWPF(Short Wave Pass Filter)の設計手法を使用することができる。SWPFは、長波長を反射し、短波長を透過させる分光特性を有する誘電体多層膜である。SWPFの基礎設計は、(高屈折率材料の屈折率)×膜厚=λ/4(λ:設計中心波長)となる膜厚をHとし、(低屈折率材料の屈折率)×膜厚=λ/4となる膜厚をLとすると、下記の式で表すことができる。
【0025】
L/2・H・L・・・・L・H・L/2=L/2(HL)nHL/2(・・・の部分は
、繰り返しを表し、nは、繰り返し回数を表す整数である)
【0026】
基材としてプラスチックフィルム例えばPET(屈折率1.65)が使用されるので、上式における最初の層(L/2)は、プラスチックフィルムとみなすことができる。したがって、上式を、下記の式(1)のように簡略化する。
【0027】
(HL)nHL/2(nは、繰り返し回数を表す整数) 式(1)
【0028】
この発明においては、(n≧3)とし、膜厚Hおよび膜厚Lを基礎設計し、さらに、最適化を行うことによって、目標とする分光特性(400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下、700nm付近の反射率が60%以上)を得るようになされる。
【0029】
かかる分光特性を持つ光束分割ミラーを使用することによって下記の効果を得ることができる。
1.オートフォーカス検知装置の感度が高い波長での反射率を25%以上で35%以下とすることで、オートフォーカス検知装置に対して充分な光量の被写体光を導くことができ、オートフォーカス検知にとって光量不足の問題が生じない。
2.暗い場所での撮影、コントラストの低い被写体の撮影のために、オートフォーカス補助光を使用する場合、オートフォーカス補助光の戻り光を他の波長に比してより高い反射率で反射してオートフォーカス検知装置6に対して導くことができる。
3.700nm付近より長波長の光の反射率を大きくしているので、この付近の波長の光がイメージセンサ4に対して入射されることを抑えることができ、光束分割ミラー3が赤外カットフィルタの機能を持つことできる。したがって、イメージセンサ4の前面等に別個に赤外カットフィルタを設ける必要がなくなり、撮像装置の低コスト化、軽量化を図ることができる。
【実施例】
【0030】
次に、この発明による光束分割ミラーの実施例について説明する。
【0031】
図2は、この発明による光束分割ミラーの実施例1の積層構造を示す。基材としてのプラスチックフィルム11の材料は、PETである。PET上にT1〜T8の8層の膜がスパッタリングによって成膜された光学多層膜の構成とされる。例えばカールセル型の基板ホルダを持つ、後酸化方式のスパッタ装置によって成膜がなされる。スパッタリング方式とては、他のスパッタリング方式を使用できる。さらに、蒸着によって成膜を行うようにしても良い。実施例1では、低屈折率材料として、SiO2が使用され、高屈折率材料と
して、Nb2O5が使用される。
【0032】
650nm付近から立ち上がる特性を得るために、設計中心波長λ=800nmが設定され、基礎設計を行うと、図3に示す各層の膜厚が求められる。高屈折率層T8がプラスチックフィルム11上の膜であり、低屈折率層T1が表面の空気に接する層である。
【0033】
実施例1は、n(繰り返し回数)=3の例である。式(1)と対応させると、(T8〜T3)が3回の繰り返しの層であり、T2が「H」と対応する層であり、T1が「L/2」に対応する層であり、層T1の膜厚が他の低屈折率層Lの半分とされている。
【0034】
基礎設計で求められた膜厚を有する光束分割ミラーの分光特性21aを図4中の破線で表す。図4の横軸が波長を示し、縦軸が反射率(%)を示す。透過率は、100%−反射率(%)で求められる。分光特性21aは、波長700nmにおける反射率が60%以上である条件を満たしている。さらに、分光特性21aは、400nm〜650nmの反射率が十分に小さいので、この波長帯域の光をイメージセンサ4に入射させることができる。但し、この帯域における目標とする(反射率が25%以上で35%以下)に対して、反射率が低すぎる。そこで、最適化がなされる。
【0035】
コンピュータを利用した最適化のソフトウェアが使用することができる。一例として、TFCalc(登録商標、Software Spectra Inc.製)を使用して光学薄膜の特性を計算
できる。すなわち、目標の光学特性(400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下、700nmの反射率が60%以上)を設定し、遺伝的アルゴリズムによる最適化処理を行った。
【0036】
最適化の結果、T1〜T8の各層の膜厚が図3に示すように求められ、図4に示すように、分光特性21bが得られる。図4から、400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下であって、700nmの反射率が60%である光学的特性が得られていることが分かる。実施例1のように、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層することによって光の干渉を生じさせ、目標とする分光特性を実現することができる。
【0037】
(実施例2)
実施例2は、基材としてのプラスチックフィルム11(PET)が使用され、実施例1と同様に低屈折率材料として、SiO2が使用され、高屈折率材料として、Nb2O5が使
用される。PET上にT1〜T10の10層の膜が実施例1と同様に成膜された光学多層膜の構成とされる。
【0038】
650nm付近から立ち上がる特性を得るために、設計中心波長λ=800nmとして、基礎設計を行うと、図5に示す各層の膜厚が求められる。高屈折率層T10がプラスチックフィルム11上の膜であり、低屈折率層T1が表面の空気に接する層である。
【0039】
実施例2は、n(繰り返し回数)=4の例である。式(1)と対応させると、(T10〜T3)が4回の繰り返しの層であり、T2が「H」と対応する層であり、T1が「L/2」に対応する層であり、層T1の膜厚が他の低屈折率層Lの半分とされている。
【0040】
基礎設計で求められた膜厚を有する光束分割ミラーの分光特性22aを図6中の破線で表す。図6の横軸が波長を示し、縦軸が反射率(%)を示す。分光特性22aは、波長700nmにおける反射率が60%以上である条件を満たしている。さらに、分光特性22aは、400nm〜650nmの帯域における目標とする(反射率が25%以上で35%以下)に対して、反射率が低すぎるので、最適化がなされる。
【0041】
実施例1と同様に、TFCalc(登録商標、Software Spectra Inc.製)を使用して
最適化処理を行った。最適化の結果、T1〜T10の各層の膜厚が図5に示すように求められ、図6に示すように、分光特性22bが得られる。図6から400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下であって、700nmの反射率が60%以上である光学的特性が得られていることが分かる。
【0042】
(実施例3)
実施例3は、基材としてのプラスチックフィルム11(PET)が使用され、実施例1と同様に低屈折率材料として、SiO2が使用され、高屈折率材料として、Nb2O5が使
用される。PET上にT1〜T12の12層の膜が実施例1と同様に成膜された光学多層膜の構成とされる。
【0043】
650nm付近から立ち上がる特性を得るために、設計中心波長λ=800nmとして、基礎設計を行うと、図7に示す各層の膜厚が求められる。高屈折率層T12がプラスチックフィルム11上の膜であり、低屈折率層T1が表面の空気に接する層である。
【0044】
実施例3は、n(繰り返し回数)=5の例である。式(1)と対応させると、(T12〜T3)が4回の繰り返しの層であり、T2が「H」と対応する層であり、T1が「L/2」に対応する層であり、層T1の膜厚が他の低屈折率層Lの半分とされている。
【0045】
基礎設計で求められた膜厚を有する光束分割ミラーの分光特性23aを図8中の破線で表す。図8の横軸が波長を示し、縦軸が反射率(%)を示す。分光特性23aは、波長700nmにおける反射率が60%以上である条件を満たしている。さらに、分光特性23aは、400nm〜650nmの帯域における目標とする(反射率が25%以上で35%以下)に対して、反射率が低すぎるので、最適化がなされる。
【0046】
実施例1と同様に、TFCalc(登録商標、Software Spectra Inc.製)を使用して
最適化処理を行った。最適化の結果、T1〜T10の各層の膜厚が図7に示すように求められ、図8に示すように、分光特性23bが得られる。図8から400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下であって、700nmの反射率が60%以上である光学的特性が得られていることが分かる。
【0047】
上述したように、n=3(8層構成)、n=4(10層構成)、n=5(12層構成)の光束分割ミラーによって、目標とする分光特性が得られる。これに対して、n=1(4層構成)の参考例1、並びにn=2(6層構成)の参考例2では、目標とする分光特性が得られないことが分かった。
【0048】
(参考例1)
参考例1は、基材としてのプラスチックフィルム(PET)が使用され、実施例1と同様に低屈折率材料として、SiO2が使用され、高屈折率材料として、Nb2O5が使用さ
れる。PET上にT1〜T4の4層の膜が実施例1と同様に成膜された光学多層膜の構成とされる。
【0049】
参考例1は、n=1の例である。設計中心波長λ=800nmとして、基礎設計を行うと、図9に示す各層の膜厚が求められる。高屈折率層T4がプラスチックフィルム上の膜であり、低屈折率層T1が表面の空気に接する層である。基礎設計で求められた膜厚を有する光束分割ミラーの分光特性24aを図10中の破線で表す。図10の横軸が波長を示し、縦軸が反射率(%)を示す。
【0050】
分光特性24aは、波長700nmにおける反射率が40%より小であり、反射率が60%以上である条件を満たしていない。さらに、分光特性24aは、400nm〜650nmの帯域における目標とする(反射率が25%以上で35%以下)に対して、反射率が低すぎるので、最適化がなされる。
【0051】
実施例1と同様に、TFCalc(登録商標、Software Spectra Inc.製)を使用して
最適化処理を行った。最適化の結果、T1〜T4の各層の膜厚が図9に示すように求められ、図10に示すように、分光特性24bが得られる。図10から400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下である光学的特性を実現できず、さらに、700nmの反射率が60%以上である光学的特性が実現できないことが分かる。すなわち、4層構成では、目標とする分光特性を生じさせる解が無い。
【0052】
(参考例2)
参考例2は、基材としてのプラスチックフィルム(PET)が使用され、実施例1と同様に低屈折率材料として、SiO2が使用され、高屈折率材料として、Nb2O5が使用さ
れる。PET上にT1〜T6の6層の膜が実施例1と同様に成膜された光学多層膜の構成とされる。
【0053】
参考例2は、n=2の例である。設計中心波長λ=800nmとして、基礎設計を行うと、図11に示す各層の膜厚が求められる。高屈折率層T6がプラスチックフィルム上の膜であり、低屈折率層T1が表面の空気に接する層である。基礎設計で求められた膜厚を有する光束分割ミラーの分光特性25aを図11中の破線で表す。図11の横軸が波長を示し、縦軸が反射率(%)を示す。
【0054】
分光特性25aは、波長700nmにおける反射率が60%より小であり、反射率が60%以上である条件を満たしていない。さらに、分光特性25aは、400nm〜650nmの帯域における目標とする(反射率が25%以上で35%以下)に対して、反射率が低すぎるので、最適化がなされる。
【0055】
実施例1と同様に、TFCalc(登録商標、Software Spectra Inc.製)を使用して
最適化処理を行った。最適化の結果、T1〜T6の各層の膜厚が図11に示すように求められ、図12に示すように、分光特性25bが得られる。図12から400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下である光学的特性を実現することかできる。しかしながら、700nmの反射率が60%以上である光学的特性が実現できないことが分かる。すなわち、6層構成では、目標とする分光特性を生じさせる解が無い。
【0056】
上述した参考例1および参考例2から、8層以上の光学薄膜を積層した構成の光束分割ミラーによって、目標とする光学特性が得られることが分かる。
【0057】
<3.変形例>
この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば最適化のソフトウェアとして挙げたものは、一例であって、他のソフトウェアを使用することができる。さらに、高屈折率材料、低屈折率材料として実施例に挙げたもの以外を使用することができ、その場合には、膜厚の値が上述した値と異なる他の値となる。
【符号の説明】
【0058】
1・・・鏡筒部
2・・・撮影光学系
3・・・光束分割ミラー
4・・・イメージセンサ
5・・・ディスプレイ
6・・・オートフォーカス検知装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影光学系を介して入射された入射光を透過させると共に反射させる光束分割ミラーと、
上記光束分割ミラーの透過光が入射されるイメージセンサと、
上記光束分割ミラーの反射光が入射されるオートフォーカス検知部と、
上記イメージセンサの撮像信号を処理する信号処理部と、
上記信号処理部によって得られる映像信号によって撮影中の映像を表示するディスプレイ部とを有し、
上記光束分割ミラーは、高屈折率材料の膜厚をHとし、低屈折率材料の膜厚をLとするときに、プラスチックフィルム上に式(1)(但し、n≧3)で示されるように積層され、
(HL)nHL/2(nは、繰り返し回数を表す整数) 式(1)
最適化によって、(400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下、700nm付近の反射率が60%以上)の分光特性を得るようになされた撮像装置。
【請求項2】
上記分光特性において、上記700nm付近の波長より長い波長の領域の反射率が60%以上である請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】
オートフォーカス補助光発生部を有し、上記オートフォーカス補助光発生部が700nm付近の波長のオートフォーカス補助光を発生する請求項1記載の撮像装置。
【請求項4】
上記光束分割ミラーが上方に入射光を反射し、上記オートフォーカス検知部が筐体内の上部に設けられている請求項1記載の撮像装置。
【請求項5】
上記プラスチックフィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、トリアセチルセルロース(TAC)の何れかからなることを特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項6】
上記高屈折率材料は、In2O3、SnO2、ZnO、ITOの何れかまたはこれらの合
金、若しくはZnOにAlまたはGaをドープした透明導電性材料からなる請求項1記載の撮像装置。
【請求項7】
上記高屈折率材料は、Ta2O5、ZrO2、Nb2O5、TiO2の何れかからなることを特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項8】
上記低屈折率材料は、SiO2、MgF2、AlF3の何れかからなることを特徴とする
請求項1記載の撮像装置。
【請求項1】
撮影光学系を介して入射された入射光を透過させると共に反射させる光束分割ミラーと、
上記光束分割ミラーの透過光が入射されるイメージセンサと、
上記光束分割ミラーの反射光が入射されるオートフォーカス検知部と、
上記イメージセンサの撮像信号を処理する信号処理部と、
上記信号処理部によって得られる映像信号によって撮影中の映像を表示するディスプレイ部とを有し、
上記光束分割ミラーは、高屈折率材料の膜厚をHとし、低屈折率材料の膜厚をLとするときに、プラスチックフィルム上に式(1)(但し、n≧3)で示されるように積層され、
(HL)nHL/2(nは、繰り返し回数を表す整数) 式(1)
最適化によって、(400nm〜650nmの反射率が25%以上で35%以下、700nm付近の反射率が60%以上)の分光特性を得るようになされた撮像装置。
【請求項2】
上記分光特性において、上記700nm付近の波長より長い波長の領域の反射率が60%以上である請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】
オートフォーカス補助光発生部を有し、上記オートフォーカス補助光発生部が700nm付近の波長のオートフォーカス補助光を発生する請求項1記載の撮像装置。
【請求項4】
上記光束分割ミラーが上方に入射光を反射し、上記オートフォーカス検知部が筐体内の上部に設けられている請求項1記載の撮像装置。
【請求項5】
上記プラスチックフィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、トリアセチルセルロース(TAC)の何れかからなることを特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項6】
上記高屈折率材料は、In2O3、SnO2、ZnO、ITOの何れかまたはこれらの合
金、若しくはZnOにAlまたはGaをドープした透明導電性材料からなる請求項1記載の撮像装置。
【請求項7】
上記高屈折率材料は、Ta2O5、ZrO2、Nb2O5、TiO2の何れかからなることを特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項8】
上記低屈折率材料は、SiO2、MgF2、AlF3の何れかからなることを特徴とする
請求項1記載の撮像装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−282133(P2010−282133A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137289(P2009−137289)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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