説明

撮像装置

【課題】画像処理がなくてもコントラストの高い適切な画質を達成し、また、画像処理を加えた場合でもノイズの影響が小さい復元画像を得ることが可能で、かつ、画面全域に渡って、深度の深い、適切な画質を得ることを可能とする撮像装置を提供する。
【解決手段】1次画像FIMを形成する光学系110および撮像素子120と、1次画像FIMを高精細な2次画像SIMに形成する画像処理装置140とを含み、光学系110は、収差を発生させて光学的伝達関数(OTF)を変調させる収差制御機能を有する収差制御部113aと、収差制御光学系において前記収差制御部を通過する光束を制限する絞り114と、収差制御光学系および絞りを通過した被写体像を撮像する撮像素子120と、を有し、収差制御部と絞りの間で、主光線が、光軸に集光する光線のうち絞りに接する光線を表すFno光線と交わらない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像素子を用い、光学系を備えたデジタルスチルカメラや携帯電話搭載カメラ、携帯情報端末搭載カメラ、画像検査装置、自動制御用産業カメラ等の撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年急峻に発展を遂げている情報のデジタル化に相俟って映像分野においてもその対応が著しい。
特に、デジタルカメラに象徴されるように撮像面は従来のフィルムに代わって固体撮像素子であるCCD(Charge Coupled Device),CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサが使用されているのが大半である。
【0003】
このように、撮像素子にCCDやCMOSセンサを使った撮像レンズ装置は、被写体の映像を光学系により取り込んで、撮像素子により電気信号として抽出するものであり、デジタルスチルカメラの他、ビデオカメラ、デジタルビデオユニット、パーソナルコンピュータ、携帯電話機、携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistant)、画像検査装置、自動制御用産業カメラ等に用いられている。
【0004】
図12は、一般的な撮像レンズ装置の構成を説明するための図である。
この撮像レンズ装置1は、光学系2とCCDやCMOSセンサ等の撮像素子3とを有する。
光学系は、物体側レンズ21,22、絞り23、および結像レンズ24を物体側(OBJS)から撮像素子3側に向かって順に配置されている。
【0005】
撮像レンズ装置1においては、図12に示すように、ベストフォーカス面を撮像素子面上に合致させている。
図13(A)〜(C)は、撮像レンズ装置1の撮像素子3の受光面でのスポット像を示している。
【0006】
また、幅広い物体距離に対してOTFをほぼ一定となることを特徴とする位相板の効果により、点像(PSF:Point−Spread−Function)を回転非対称な形状とし、画像処理により復元させ被写界深度の深い画像撮影を可能にする等の撮像装置が提案されている(たとえば非特許文献1,2、特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】USP6,021,005
【特許文献2】USP6,642,504
【特許文献3】USP6,525,302
【特許文献4】USP6,069,738
【特許文献5】特開2003−235794号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“Wavefront Coding;jointly optimized optical and digital imaging systems”,Edward R.Dowski,Jr.,Robert H.Cormack,Scott D.Sarama.
【非特許文献2】“Wavefront Coding;A modern method of achieving high performance and/or low cost imaging systems”,Edward R.Dowski,Jr.,Gregory E.Johnson.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した各文献にて提案された撮像装置において、通常光学系に上述の位相板を挿入した場合のOTFが物体距離に対してほぼ一定になっていることが前提であり、コントラストが通常の光学系よりも劣化する。
たとえば、コードリーダのようなセンシングカメラの用途において、このようなコントラストの劣化は、読取り率の劣化等を引き起こす。
また、コントラストが必要なカメラ、たとえば、デジタルカメラや携帯端末用カメラにおいては、劣化したコントラストを向上させるためにコンボリューション等の画像処理を加えることにより、ノイズを増大させてしまう。
しかしながら、位相板を用いた光学設計ではこのコントラストの劣化を抑えることは困難である。
【0010】
また、上記技術では、絞りを位相板から離した場合に、画面中心と周辺での位相が変化してしまうことにより、画面周辺の画像が良好な画質にならない。
特に、画像処理を加えた場合、復元画像に影響を与えてしまうという大きな問題を抱えている。さらに撮像素子への光線入射角度をコントロールしなければ画面中心と周辺のPSFが変化してしまうことにより、復元を困難にする。
【0011】
本発明の目的は、画像処理がなくてもコントラストの高い適切な画質を達成し、また、画像処理を加えた場合でもノイズの影響が小さい復元画像を得ることが可能で、かつ、画面全域にわたって、深度の深い、適切な画質を得ることを可能とする撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の観点の撮像装置は、収差を発生させて光学的伝達関数(OTF)を変調させる収差制御機能を有する収差制御部を含む収差制御光学系と、前記収差制御光学系において前記収差制御部を通過する光束を制限する絞りと、前記収差制御光学系および絞りを通過した被写体像を撮像する撮像素子と、を有し、前記収差制御部と前記絞りの間で、主光線が、光軸に集光する光線のうち絞りに接する光線を表すFno光線と交わらない。
【0013】
好適には、絞り近傍における主光線と光軸が略平行とみなせる。
【0014】
好適には、以下の条件式(1)、(2)を満足する。
φ/D<1 ・・・(1)
α<45° ・・・(2)
φ:絞り径
D:絞りと収差制御部のなす間隔
α:像高最周辺に結像する主光線の、絞り位置における、光軸に対する入射角度
【0015】
好適には、前記収差制御部は、通常光学系のレンズ面に形成する収差制御面によって形成、もしくは通常光学系のレンズとは別の光学系である収差制御素子によって形成される。
【0016】
好適には、前記撮像素子からの画像信号より収差(ボケ)のない画像信号を生成する変換手段を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、画像処理がなくてもコントラストの高い適切な画質を達成し、また、画像処理を加えた場合でもノイズの影響が小さい復元画像を得ることができる利点がある。さらに、画面全域に渡って、深度の深い、適切な画質を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る撮像装置の一実施形態を示すブロック構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る収差制御光学系を形成するレンズユニットの構成を示す図である。
【図3】ディフォーカスMTFを示す図であって、(A)は通常光学系のディフォーカスMTFを示す図であり、(B)はDEOSのディフォーカスMTFを示す図であり、(C)は物体距離に対してOTFが一定となる光学系のディフォーカスMTFを示す図である。
【図4】高周波のOTF変動を抑えたDEOSにおける任意の周波数でディフォーカスに対するMTFのピークを2分できることを示す図であって、(A)が球面収差カーブを示し、(B)が低周波での主像面シフト領域エリアMSARのMTFのピークの状態を示し、(C)が高周波での主像面シフト領域エリアMSARのMTFのピークの状態を示している。
【図5】低周波のOTF変動を抑えたDEOSにおける任意の周波数でディフォーカスに対するMTFのピークを2分できることを示す図であって、(A)が球面収差カーブを示し、(B)が低周波での主像面シフト領域エリアMSARのMTFのピークの状態を示し、(C)が高周波での主像面シフト領域エリアMSARのMTFのピークの状態を示している。
【図6】被写体のスペクトル分布F(s, t)から被写体像のスペクトル分布G(s, t)への光学伝達関数H(s, t)を介した伝達を表した図である。
【図7】本実施形態に係る画像処理装置におけるMTF補正処理を説明するための図である。
【図8】本実施形態に係る画像処理装置におけるMTF補正処理を具体的に説明するための図である。
【図9】DEOSのブロック図である。
【図10】絞り位置の異なるDEOSの収差制御部の光線図であって、(A)は絞りが収差制御面に近い場合の光線図を示し、(B)は絞りが収差制御面に遠い場合の光線図を示している。
【図11】絞り部近傍における主光線の光軸に対する角度による違いを示した図である。
【図12】一般的な撮像レンズ装置の構成および光束状態を模式的に示す図である。
【図13】図12の撮像レンズ装置の撮像素子の受光面でのスポット像を示す図であって、(A)は焦点が0.2mmずれた場合(Defocus=0.2mm)、(B)が合焦点の場合(Best focus)、(C)が焦点が−0.2mmずれた場合(Defocus=−0.2mm)の各スポット像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を添付図面に関連付けて説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る撮像装置の一実施形態を示すブロック構成図である。
【0021】
本実施形態に係る撮像装置100は、光学系110、撮像素子120、アナログフロントエンド部(AFE)130、画像処理装置140、カメラ信号処理部150、画像表示メモリ160、画像モニタリング装置170、操作部180、および制御装置190を有している。
【0022】
光学系110は、被写体物体OBJを撮影した像を撮像素子120に供給する。また、光学系110は、絞り114が配置されている。
光学系110は、図2に示すようなレンズユニットを有する。
【0023】
図2は、本実施形態に係る収差制御光学系を形成する撮像レンズユニットの基本構成を示す図である。
収差制御光学系110Aは、物体側から順に、第1レンズ111、第2レンズ112、第3レンズ113、絞り114、第4レンズ115、第5レンズ116が配置されている。
本実施形態の収差制御光学系110Aは、第4レンズ115と第5レンズ116が接続されている。すなわち、本実施形態の収差制御光学系110Aのレンズユニットは、接合レンズを含んで構成されている。
【0024】
そして、本実施形態の収差制御光学系110Aは、収差を意図的に発生させる収差制御機能を有する収差制御面を適用した光学系として構成されている。
本実施形態においては、球面収差のみを発生させるために、収差制御面を挿入する必要がある。なお、収差制御効果は別素子の収差制御素子を挿入しても良い。
その例を示すと図2のようになり、通常の光学系に収差制御面(第3レンズR2面)を含んだ形となっている。
ここでいう収差制御面とは、収差制御素子の持つ収差制御効果をレンズ面に内包したものをいう。好適には収差制御面113aは絞り114に隣接していることが好ましい。
本実施形態においては、後で詳述するように、収差制御部と絞りの間で、主光線が、光軸に集光する光線のうち絞りに接する光線を表すFno光線と交わらない。
そして、収差制御光学系110Aにおいては、絞り近傍における主光線と光軸が略平行とみなせる。
【0025】
撮像素子120は、アナログフロントエンド部130を介して、光学系110で取り込んだ像AIMを1次画像信号FIMとして画像処理装置140に出力する。
一般的に、撮像素子120としてはCCDやCMOSセンサを使用する。図1においては、一例として、撮像素子120をCCDとして記載している。
【0026】
アナログフロントエンド部130は、タイミングジェネレータ131、およびアナログ/デジタル(A/D)コンバータ132を有する。
タイミングジェネレータ131では、撮像素子120のCCDの駆動タイミングを生成しており、A/Dコンバータ132は、CCDから入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換し、画像処理装置140に出力する。
【0027】
信号処理部の一部を構成する画像処理装置(二次元コンボリューション手段)140は、前段のアナログフロントエンド部130から出力された1次画像信号FIMに対して、二次元のコンボリューション処理を施し2次画像信号SIMを生成し、後段のカメラ信号処理部(DSP)150に渡す。
画像処理装置140は、1次画像信号FIMに対してボケのない2次画像信号SIMとする機能を有する。画像処理装置140の処理については後述のDEOSの基本原理にて詳細を説明する。
【0028】
カメラ信号処理部(DSP)150は、カラー補間、ホワイトバランス、YCbCr変換処理、圧縮、ファイリング等の処理を行い、画像表示メモリ160への格納や画像モニタリング装置170への画像表示等を行う。
【0029】
制御装置190は、露出制御を行うとともに、操作部180などの操作入力を持ち、それらの入力に応じて、システム全体の動作を決定し、AFE130、画像処理装置140、DSP150等を制御し、システム全体の調停制御を司るものである。
【0030】
本実施形態においては、深度拡張光学系システム(DEOS:Depth Expantion Optical system)を採用することにより、画像処理がなくてもコントラストの高い適切な画質を達成し、また、画像処理を加えた場合でもノイズの影響が小さい復元画像を得ることができ、高精細な画質を得ることが可能となっている。
【0031】
ここで、DEOSの基本原理について説明する。
光学系において、収差制御素子を用いて、被写体距離による解像力とコントラストの変化をコントロールし、深度を拡張する。
被写体距離による解像力とコントラストの変化とは、要求される物体距離における被写体の分解能の変化のことを言う。
たとえば、被写体の大きさが一定の場合、近距離では、被写体像は画面に対して相対的に大きく、必要な分解能は相対的に荒くなる。一方、遠距離では、被写体像は画面に対して相対的に小さく、必要な分解能は相対的に細かくなる。
そこで、収差制御素子により、近距離では、低周波のOTFを高くし、遠距離では、高周波のOTFを高くするように光学伝達関数(OTF:Optical Transfer Function)をコントロールする。
【0032】
以上のように、収差制御素子は、要求される物体距離におけるOTFをコントロールする作用を有する。また、深度を拡張するとともにさらにコントラストを向上する作用を有する。
【0033】
以下に、収差制御素子についてさらに具体的に説明する。
本実施形態の収差制御素子は、必要とされる物体距離におけるOTFをコントロールし、かつ、コントラストを向上する作用を持たせるために、ディフォーカスのMTF(OTFの絶対値)のピークを2つ以上有することを特徴とする。
【0034】
図3(A)〜(C)は、ディフォーカスMTFを示す図である。
【0035】
図3(A)は、通常の光学系のディフォーカスMTFを示している。
通常光学系では焦点位置であるディフォーカスMTFのピークが一つである。
ピークから外れた位置にある両サイドの山は一度MTFの値がゼロとなっており、偽解像となる。そのため、解像するディフォーカス範囲は網掛け部分となる。
【0036】
図3(B)は、DEOSのディフォーカスMTFを示している。
DEOSではピークが2つになっている。
ピーク位置では、通常の光学系よりもMTFが低いが、ディフォーカスMTFのピークを2分することにより、ディフォーカス範囲が広くなっていることが分かる。
つまり、深度を拡張していることが分かる。また、通常の光学系よりもMTFが低くなるが、ピークを持たせることによりコントラストが向上していることが分かる。
【0037】
図3(C)は、物体距離に対してほぼ一定のMTFとした場合のディフォーカスMTFを示している。
物体距離に対してほぼ一定のOTFとするため、ディフォーカスMTFにピークを複数持たせることができず、DEOSよりも、特に、焦点から外れた位置でのコントラストが低くなる。
また、上述したように、遠距離で高周波のOTFを高くすることや、近距離で低周波のOTFを高くするようなコントロールができない。
【0038】
次に、OTFをコントロールし、ディフォーカスMTFのピークを分割する方法について説明する。
この作用を持たせる方法の一つとして、球面収差の変曲点と振幅をコントロールすることが挙げられる。
球面収差に変曲点を最低一つ以上持たせることにより、ディフォーカスMTFのピークを分割することができる。また、振幅を大きくすることによりディフォーカス範囲を広げることができる。
【0039】
図4(A)〜(C)は、高周波のOTF変動を抑えたDEOSにおける任意の周波数でディフォーカスに対するMTFのピークを2分できることを示す図である。
図5(A)〜(C)は、低周波のOTF変動を抑えたDEOSにおける任意の周波数でディフォーカスに対するMTFのピークを2分できることを示す図である。
図において、MSARは主像面シフト領域を示し、PK11,PK12はMTFのピークを示す。
【0040】
図4(A)が球面収差カーブを示し、図4(B)が低周波での主像面シフト領域エリアMSARのMTFのピークの状態を示し、図4(C)が高周波での主像面シフト領域エリアMSARのMTFのピークの状態を示している。
図5(A)が球面収差カーブを示し、図5(B)が低周波での主像面シフト領域エリアMSARのMTFのピークの状態を示し、図5(C)が高周波での主像面シフト領域エリアMSARのMTFのピークの状態を示している。
【0041】
図5(A)〜(C)からわかるように、低周波の深度を伸ばすためには、球面収差の振幅を大きくすれば良い。
振幅の大きさをコントロールすることによって任意の周波数のディフォーカスMTFを2分割することができる。つまり任意の周波数の深度を拡張することができる。
【0042】
なお、本実施形態において、ディフォーカスに対する低周波および高周波とは次のように定義する。
使用する固体撮像素子(撮像素子120)の画素ピッチから決まるナイキスト周波数の半分以上の周波数を高周波、半分より低い周波数を低周波とする。
ただし、ナイキスト周波数は下記の通りに定義する。
ナイキスト周波数=1/(固体撮像素子の画素ピッチ×2)
【0043】
なお、本実施形態においては、収差制御素子を、中心と周辺で厚みが異なる光学素子(たとえば非球面レンズ)の形態で説明したが、本発明の収差制御素子の形態としては、収差を発生、制御させるものであればどのような形態でも構わない。
たとえば、屈折率が変化する光学素子(たとえば屈折率分布型レンズ)、レンズ表面へのコーティング等により厚み、屈折率が異なる光学素子(たとえば、ハイブリッドレンズ)、球面収差を制御可能な光学素子(たとえば、液晶レンズや液体レンズ)等の形態が挙げられる。
【0044】
さらにコントラストが必要な場合は、画像処理を施す。
以下に、光学系を介して伝達した被写体像の強度分布から被写体の強度分布を求めるための画像処理について概略を説明する。
【0045】
被写体のスペクトル分布F(s, t)から被写体像のスペクトル分布G(s, t)への光学伝達関数H(s, t)を介した伝達は図6に示す通りである。
これは、次のような式で表される。
【0046】
[数1]
G(s, t)=H(s, t)・F(s, t)
【0047】
ただし、強度分布からスペクトル分布への変換は以下に示す2次元フーリエ逆変換で表され、xに関する空間周波数sと、yに関する空間周波数tについてのスペクトルを得ることができる。
また、光学伝達関数は、点像の強度分布PSF(Point−Spread−Function)を2次元フーリエ逆変換した関数である。
したがって、被写体像のスペクトル分布G(s, t)から被写体のスペクトル分布F(s, t)を求めるためには、次の処理を行えばよい。
【0048】
[数2]
F(s, t)=G(s, t)/H(s, t)
【0049】
これを被写体像の強度分布g(x, y)から被写体の強度分布f(x, y)と光学系h(x, y)の関係で表すと次の式で表される。
【0050】
[数3]
f=h−1*g
ただし、h−1は逆関数を表す。
【0051】
以上より、収差制御素子のPSF分布が既知であるため、被写体像の強度分布g(x, y)から被写体の強度分布f(x, y)を求めることができることが分かる。
上記画像処理は、スペクトル空間上の観点では、OTFを補正することである。簡易的に図示するため、以下では、OTFの絶対値であるMTFで述べることとする。
【0052】
図7に示すように、光学的に得られる空間周波数に対するMTF特性曲線Aに対して、最終的に必要とされるMTF曲線Bを達成するためには、それぞれの空間周波数に対し、図8に示すように、MTF特性曲線Aに対して、エッジ強調度(MTF曲線Bに対するMTF曲線Aの比)をかけて補正を行う。
【0053】
図9は、DEOSの基本構成を示すブロック図である。図9に示す例は画像処理がある場合である。
光学系110Aはレンズと収差制御素子から構成される。
OTFをコントロールする作用をもつ収差制御素子を備えた光学系を通過した光が撮像素子に結像し、撮像素子から出力された出力信号に対して画像処理部でコントラストを向上し、画像復元を行う。
さらに、本実施形態においては、絞りと収差制御素子を適切に配置させることにより、画面全域に渡って深度の深い、適切な画質を得ることが可能となっている。
【0054】
図10(A),(B)は、絞り位置の異なるDEOSの絞りに入射する光線図で、それぞれ、図10(A)は絞りが収差制御面に近い場合の光線図を示し、図10(B)は絞りが収差制御面に遠い場合の光線図を示している。
以下では、収差制御面を符号1130で示す。
【0055】
図10(A),(B)に示すように、絞り位置によって収差制御面の異なる位置を光線が通過する。
絞りのアパーチャー径を一定とした場合、絞りが近い場合に比べて、絞りが遠くなると対角像高の主光線と軸上の主光線が収差制御面の異なった場所を通過している。
図10を例にとると、絞りを遠くした場合最周辺の主光線が、光軸に集光する光線のうち絞りに接する光線を表すFno光線とほぼ等しい位置を通過していることが分かる。
逆に絞り114と収差制御面1130の距離を一定とした場合、アパーチャー径φに依存して収差制御面1130を通過する主光線位置が異なる。
その場合、スポット形状が乱れ、画像復元を行うことが困難になる。
【0056】
また、本実施形態の光学系は、絞り114と収差制御素子1130が隣接して、絞り部近傍における主光線と光軸が略平行となるようにし、収差制御面1130と絞り114の間で最周辺の主光線がFno光線と交わらないように構成されている。
この構成については、絞りに対して、さらに主光線角度がほぼ0度となることにより、収差制御面1130を通過する位置のバラツキを更に抑えることができることを示している。この場合、絞り114と収差制御面1130の距離が離れても問題がなくなる。
すなわち、本実施形態においては、絞り近傍における主光線と光軸が略平行とみなせる。
【0057】
図11(A),(B)は、絞り部近傍における主光線の光軸に対する角度による違いを示した図である。
図10を参照すると上光線、下光線がばらつけばそれに追従してスポット像も乱れが生じてくる。
そのため、絞り部近傍において主光線と光軸が略平行となるようにすることで収差制御素子の影響を抑えることができる。
また、φ/D=1、α=45°が図10(B)に記載された最周辺の主光線がFno光線と交わっている状態となる条件である。そのため、後述する条件式(1)と条件式(2)を満足することが望ましい。
【0058】
また、本実施形態の光学は、絞りと収差制御素子が隣接して、絞り部近傍において主光線と光軸が略平行となるようにし、絞りに入射する最周辺主光線入射角度をαとすると、以下の条件式(1)と条件式(2)を満足するように構成される。
【0059】
[数4]
φ/D<1 ・・・(条件式1)
α<45° ・・・(条件式2)
【0060】
なお、本実施形態において、光学系の収差制御素子を絞りより物体側に配置した例を示したが、絞りと同一あるいは絞りより像側に配置しても前記と同様の作用効果を得ることができる。
また、図2の光学系は一例であり、本発明は図2の光学系に対して用いられるものとは限らない。
【符号の説明】
【0061】
100・・・撮像装置、110・・・光学系、110A・・・収差制御光学系、111・・・第1レンズ、112・・・第2レンズ、113・・・第3レンズ、113a・・・収差制御面、114・・・絞り、115・・・第4レンズ、120・・・撮像素子、130・・・アナログフロントエンド部(AFE)、140・・・画像処理装置、150・・・カメラ信号処理部、180・・・操作部、190・・・制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収差を発生させて光学的伝達関数(OTF)を変調させる収差制御機能を有する収差制御部を含む収差制御光学系と、
前記収差制御光学系において前記収差制御部を通過する光束を制限する絞りと、
前記収差制御光学系および絞りを通過した被写体像を撮像する撮像素子と、を有し、
前記収差制御部と前記絞りの間で、主光線が、光軸に集光する光線のうち絞りに接する光線を表すFno光線と交わらない
撮像装置。
【請求項2】
絞り近傍における主光線と光軸が略平行とみなせる
請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】
以下の条件式(1)、(2)を満足する
請求項1または2記載の撮像装置。
φ/D<1 ・・・(1)
α<45° ・・・(2)
φ:絞り径
D:絞りと収差制御部のなす間隔
α:像高最周辺に結像する主光線の、絞り位置における、光軸に対する入射角度
【請求項4】
前記収差制御部は、
通常光学系のレンズ面に形成する収差制御面によって形成、もしくは通常光学系のレンズとは別の光学系である収差制御素子によって形成される
請求項1から3のいずれか一に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記撮像素子からの画像信号より収差(ボケ)のない画像信号を生成する画像処理部を有する
請求項1から4のいずれか一に記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−112968(P2011−112968A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270794(P2009−270794)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】