説明

操作された抗体−ストレスタンパク質融合体

提供されるものは、高い親和度をもって抗原に結合し、高い免疫原性を有し、MHCクラスIプライミングを示し、かつ、大腸菌などの、非哺乳類細胞において生産することが可能な、操作された抗体およびストレスタンパク質を含む融合ポリペプチドである。この融合ポリペプチドをコードする単離された核酸、その核酸を含む発現ベクター、この発現ベクターを含む細胞、この融合ポリペプチドおよび製薬学的に受容可能な担体を含む医薬組成物、この融合ポリペプチドを含む免疫原性組成物またはワクチン、この組成物を含むキットなどもまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援
本発明は、米国バイオ産業省主導支援の下、以前のソ連邦研究施設による薬剤およびワクチンの加速開発によって獲得された、米国国務省研究助成S−LMAQM−04−GR−164の下、一部、政府支援の下に行われた。したがって、米国政府は、本発明においてある種の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
現在、古典的モノクロナール抗体は哺乳類細胞において生産されている。この生産法の欠点は、適切なクローンの生産および選別の困難、および、哺乳類細胞の培養に要する出費を含む。「次世代」モノクロナール抗体が、現在大腸菌において操作されている。近年、ポリペプチドリンカーによって連結されるVおよびVドメインの細菌発現は、操作された(engineered)「ミニ抗体」生成能力を創出した。これらのミニボディーは、ほぼ組み換え手法によって大腸菌において生成することが可能である。これらの人工的に創出されたFabまたは単鎖Fv(scFv)は、互いに連結されてマルチマー、例えば、ダイアボディ、トリアボディ、およびテトラボディを形成することが可能である。これらは、抗原に対し、ほとんど抗体同様の効率をもって結合することが可能であるが、これらの、操作された、Fc欠損ミニ抗体は、抗原提示細胞と相互作用を持つ能力を欠き、免疫原性が劣る。
【0003】
操作された抗体の免疫原性の欠如に対する既存の解決法は、抗原結合部位の一つを、免疫細胞に直接結合するように指向させることである。この方法は、操作された抗体を、MHCクラスIに接近はさせるが、モノクロナール抗体で観察されるものと同じMHCクラスIプライミングをもたらさない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の概要
一局面において、提供されるものは、FabまたはscFvなどの操作された抗体と、HSP70などのストレスタンパク質との融合である。ストレスタンパク質は、抗原提示細胞に抗原を提示し、T細胞反応を喚起する点においてきわめて効率的である。ストレスタンパク質は、この経路を通じて細胞介在性免疫反応および体液性免疫反応を誘発する点において特に効果的である。
【0005】
したがって、この融合分子は、高い親和度をもって抗原に結合し、免疫原性が高く、MHCクラスIプライミングを示し、T細胞反応を喚起し、大腸菌などの非哺乳類細胞において生産することが可能である。したがって、この融合分子は、感染性、炎症性、自己免疫性、または悪性疾患の予防または治療のための、高免疫原性ワクチンとして使用するのに好適である。
【0006】
したがって、提供されるものは、少なくとも一つの操作された抗体、および少なくとも一つのストレスタンパク質を含む融合ポリペプチドである。融合ポリペプチドを含むこれらの操作された抗体は、多価性であってもよい、すなわち、それらは、2価、3価、4価、5価性などであってもよい。さらに、それらは、単一特異性であっても、多重特異性であってもよい。
【0007】
さらに提供されるものは、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドをコードする核酸およびベクター、該核酸およびベクターを含む宿主細胞、および、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドを生産するための方法である。抗原結合部位または操作された抗体断片は、簡単に、かつ、高い親和度を持つように創製することが可能であり、安価にストレスタンパク質に融合される可能性がある。
【0008】
さらに提供されるものは、主題の操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドを含む製薬およびワクチン組成物である。この組成物はさらに、アジュバントまたは他の補助剤を含んでもよい。さらに提供されるものは、患者において感染性、炎症性、自己免疫性、または悪性疾患を予防または治療する方法であって、該予防または治療を必要とする患者に対し、前述の組成物の内のいずれか一つの有効量を投与することを含む方法である。
【0009】
本法を実施するためのキットも本明細書に記載される。
【0010】
他の特性および利点は、下記の詳細な説明および特許請求の範囲から明白であろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
詳細な説明
都合のため、本発明の詳細な説明の前に、本明細書、実施例、および付属の特許請求項において使用されるいくつかの用語をここで定義する。
【0012】
単数形「ある」および「該」は、文脈から明瞭に別様に指示されない限り、複数の参照を含む。
【0013】
「投与する」という用語は、本発明の化合物を送達する任意の方法、例えば、ただしこれらに限定されないが、被検体の身体の中、または、被検体の中、または上にある特定の領域への、医薬組成物または治療剤の送達を含む。本明細書で用いる「全身投与」、「全身的に投与される」、「抹消投与」、および「末梢的に投与される」という語句は、化合物、薬剤、またはその他の物質を、直接中枢神経系内に入れることを除き、投与し、投与が、該化合物、薬剤、またはその他の物質が、患者の身体に入り、したがって、代謝、および他の同様のプロセスの影響に曝されるように行われること、例えば、皮下投与を意味する。「非経口投与」および「非経口的に投与される」とは、経腸および局所投与以外の、通常、注入による投与方式を意味し、例えば、ただし限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、硬膜下腔内、関節包内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、関節包下、くも膜下、脊髄内、および胸骨内注入および輸液が挙げられる。
【0014】
「アミノ酸」という用語は、天然であると合成であるとを問わず、アミノ官能基および酸官能基の両方を含み、天然アミノ酸のポリマーの中に含めることが可能な、全ての分子を包含することが意図される。例示のアミノ酸としては、天然アミノ酸;その類縁体、誘導体、および同類;変異側鎖を有するアミノ酸類縁体;および、前記の内のいずれかの全ての立体異性体が挙げられる。天然アミノ酸の名称は、本明細書ではIUPAC−IUBの推薦にしたがって短縮される。
【0015】
「抗体」という用語は、免疫グロブリン、特異的結合能を維持する、その誘導体、および、免疫グロブリン結合ドメインに対し相同であるか、またはほとんど相同な結合ドメインを有するタンパク質を指す。これらのタンパク質は、天然の供給源から得られてもよいし、あるいは、部分的にまたは全体的に合成によって生産されてもよい。抗体はモノクロナールでも、ポリクロナールであってもよい。抗体は、ヒトのクラス:IgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEの内の任意のものを含め、任意の動物種由来の任意の免疫グロブリンクラスの一員であってもよい。例示の実施形態では、本明細書に記載される方法および組成物において使用される抗体は、IgGクラスの誘導体である。
【0016】
「抗体断片」という用語は、抗体の、完全長未満の任意の誘導体を指す。例示の実施形態では、抗体断片は、完全長抗体の特異的結合能の少なくとも重要部分を保持する。抗体断片の例として、ただしこれらに限定されないが、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、Fv、dsFvダイアボディ、およびFd断片が挙げられる。抗体断片は、任意の手段によって生産されてよい。例えば、抗体断片は、未操作された抗体を、酵素的または化学的に断片化することによって生産されてもよいし、部分的抗体配列をコードする遺伝子から組み換え的に生産されてもよいし、あるいは、全体的、または部分的に合成によって生産されてもよい。抗体断片は、任意に、単鎖抗体断片であってもよい。それとは別に、断片は、例えば、ジスルフィド結合によって連結される、複数鎖を含んでもよい。断片はさらに、任意に複数分子の複合体であってもよい。機能的抗体断片は、典型的には、少なくとも約50個のアミノ酸を含み、より典型的には、少なくとも約200個のアミノ酸を含む。
【0017】
「抗原結合部位」という用語は、抗原上のエピトープに特異的に結合する抗体の領域を指す。
【0018】
「含む」および「含んでいる」という用語は、付加的要素が含まれてもよいとする、包含的、開放的な意味で使用される。
【0019】
「有効量」という用語は、所望の結果をもたらすのに十分な、化合物、物質、または組成物の量を指す。化合物の有効量は、1回または複数回の投与において投与される。
【0020】
「操作された抗体」という用語は、抗体の重鎖および/または軽鎖の可変ドメイン由来の抗原結合部位を含む、少なくとも抗体断片を含む組み換え分子を指し、Igクラス(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、IgM、およびIgY)の内のいずれか由来の抗体の可変および/または定常ドメインの全部または一部を任意に含んでよい。
【0021】
「エピトープ」という用語は、抗体が、優先的に、特異的に結合する、抗原の領域を指す。モノクロナール抗体は、分子的に定義することが可能な、分子の単一の特異的エピトープに優先的に結合する。本発明においては、複数特異的抗体は複数エピトープを認識することが可能である。
【0022】
「融合タンパク質」または「融合ポリペプチド」とは、少なくとも二つの異なるポリペプチド由来のポリペプチド部分を含む、ハイブリッドポリペプチドを指す。これらの部分は、同じ有機体のタンパク質由来であってもよく、その場合は、融合タンパク質は、「同種内」、「同遺伝子内」などと呼ばれる。各種実施形態において、融合ポリペプチドは、第1ポリペプチドに連結される、一つ以上のアミノ酸配列を含んでもよい。一つを超えるアミノ酸配列が、第1ポリペプチドに融合される場合、融合配列は、同じ配列を複数コピーであってもよいし、あるいはそれとは別に、異なるアミノ酸配列であってもよい。第1ポリペプチドは、第2ポリペプチドのN−末端、C−末端、またはN−およびC−末端に融合されてもよい。さらに、第1ポリペプチドは、第2ポリペプチドの配列の中に挿入されてもよい。
【0023】
「Fab断片」という用語は、酵素パパインによって抗体を切断することによって生成される、抗原結合部位を含む抗体断片を指す。該酵素は、H鎖間ジスルフィド結合に対しN−末端側においてヒンジ領域を切断し、一つの抗体分子から二つのFab断片を生成する。
【0024】
「F(ab’)2断片」という用語は、酵素ペプシンによって抗体を切断することによって生成される、二つの抗原結合部位を含む抗体断片を指す。該酵素は、H鎖間ジスルフィド結合に対しC−末端側においてヒンジ領域を切断する。
【0025】
「Fc断片」という用語は、重鎖の定常ドメインを含む抗体断片を指す。
【0026】
「Fv断片」という用語は、重鎖および軽鎖の可変ドメインを含む抗体断片を指す。
【0027】
「遺伝子構築体」とは、ベクター、プラスミド、ウィルスゲノムなどの核酸であって、ポリペプチドの「コード配列」を含むか、または、別のやり方で生物学的に活性なRNA(例えば、アンチセンス、デコイ、リボザイムなど)に転写が可能であり、細胞に、例えば、ある実施形態では、哺乳類細胞にトランスフェクトさせ、該構築体によってトランスフェクトされた細胞において該コード配列の発現を誘発してもよい核酸を指す。この遺伝子構築体は、コード配列に対し動作可能的に連結される、一つ以上の調節要素の外、イントロン配列、ポリアデニル化部位、複製起点、マーカー遺伝子などを含んでもよい。
【0028】
「宿主細胞」とは、指定の転送ベクターによって形質転換されてもよい細胞を指す。細胞は、細胞培養体由来のものなどインビトロ細胞、有機体由来のものなどインビボ細胞、および有機体中のものなどのインビボ細胞から任意に選ばれる。この用語は、特定の被検体細胞ばかりでなく、その細胞の子孫、または可能的子孫も指すことを理解しなければならない。ある種の修飾が、突然変異または環境の影響のいずれかによって、後続世代に起こる可能性があるために、その子孫は、実際には、親細胞とは同一ではない可能性があるが、それらも、依然として、本明細書で使用される用語の範囲内に含められる。
【0029】
「含む」という用語は、本明細書では、「を含むが、それらに限定されない」を意味するように使用される。「含む」および「を含むが、それらに限定されない」は、相互交換的に使用される。
【0030】
「免疫原性」という用語は、ある物質の、免疫反応を惹起する能力を指す。「免疫原性組成物」または「免疫原性物質」とは、免疫反応を惹起する組成物または物質である。免疫反応とは、抗原の存在に対する被検体の反応を指し、下記:抗体の作製、免疫の養成、抗原に対する過敏症の養成、および耐性の養成の内の少なくとも一つを含んでもよい。
【0031】
「単離されたポリペプチド」という用語は、組み換えDNAまたはRNAから調製されてもよいポリペプチド、または、合成起源のもの、それらの何らかの組み合わせによるもの、または、天然ポリペプチドであってもよいもので、(1)通常、天然では関連づけられるタンパク質と関連を持たないもの、(2)通常、存在する細胞から単離されるもの、(3)同じ細胞起源の他のタンパク質を事実上含まないもの、(4)異なる生物種由来の細胞によって発現されるもの、または、(5)天然には存在しないものを指す。
【0032】
「単離された核酸」という用語は、ゲノム、cDNA、合成または天然起源の、またはそれらの何らかの組み合わせによるポリヌクレオチドであって、(1)該「単離された核酸」が天然で見られる細胞とは関連しないもの、または(2)天然では連結しないポリヌクレオチドと動作可能的に連結されるものを指す。
【0033】
「リンカー」という用語は、従来技術で認知済みであり、二つの化合物、例えば、二つのポリペプチドを接続する分子、または分子群を指す。リンカーは、単一の連結分子から構成されてもよいし、あるいは、連結分子と、化合物を指定の距離だけ引き離すことが意図される、スペーサ分子とを含んでもよい。
【0034】
「多価抗体」という用語は、一つを超える抗原認識部位を含む抗体または操作された抗体を指す。例えば、「二価」抗体は、二つの抗原認識部位を有し、一方、「四価」抗体は、四つの抗原認識部位を有する。「単一特異的」、「二重特異的」、「三重特異的」、「四重特異的」などの用語は、多価抗体中に存在する、異なる抗原認識部位の特異性の数(抗原認識部位の数ではなく)を指す。例えば、「単一特異的」抗体の、複数の抗原認識部位は、全て、同じエピトープに結合する。「二重特異的抗体」は、第1エピトープに結合する、少なくとも一つの抗原認識部位、および、第1エピトープと異なる第2エピトープに結合する、少なくとも一つの抗原認識部位を有する。「多価単一特異的」抗体は、全て同じエピトープに結合する、複数の抗原認識部位を有する。「多価二重特異的」抗体は、複数の抗原認識部位を有し、その内のある数は、第1エピトープに結合し、その内のある数は、第1エピトープとは異なる第2エピトープに結合する。
【0035】
「核酸」という用語は、ヌクレオチドであって、リボヌクレオチド、またはデオキシヌクレオチド、またはそのいずれかのヌクレオチドタイプの修飾形の、ポリマー形を指す。この用語はさらに、等価物として、ヌクレオチド類縁体から製造されるRNAまたはDNA類縁体、および、後述の実施形態に適用されるように、1本鎖(センスまたはアンチセンス鎖など)、および2本鎖ポリヌクレオチドを含むと理解すべきである。
【0036】
「タンパク質」(単鎖であれば)、「ポリペプチド」、および「ペプチド」は、例えば、コード配列によってコードされる遺伝子産物を参照する場合には、本明細書では相互交換的に使用される。本明細書において「ポリペプチド」を参照する場合、当業者であれば、文脈が明らかに別様に指示しない限り、代わりにタンパク質を使用することも可能であることを認めるであろう。「タンパク質」はさらに、一つ以上のポリペプチドの会合を指してもよい。「遺伝子産物」は、遺伝子の転写の結果生産される分子を意味する。遺伝子産物は、遺伝子から転写されるRNA分子の外、その転写物から翻訳されるタンパク質も含む。
【0037】
「ポリペプチド断片」または「断片」という用語は、ある特定のポリペプチドを参照して使用される場合、参照ポリペプチド自身と比べ、アミノ酸残基が欠如するが、残余のアミノ酸配列は、通常、参照ポリペプチドのものと同じであるポリペプチドを指す。このような欠損は、参照ポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に起こってもよいし、あるいはそれとは別にその両方に起こってもよい。断片は、通常、5、6、8、または10アミノ酸長であり、少なくとも約14アミノ酸長、少なくとも約20、30、40、または50アミノ酸長、少なくとも約75アミノ酸長、または少なくとも約100、150、200、300、500以上のアミノ酸長である。断片は、参照ポリペプチドの、複数の生物活性の内の一つ以上を保持することが可能である。各種実施形態において、断片は、参照ポリペプチドの酵素活性および/または相互作用部位を含んでもよい。別の実施形態では、断片は、免疫原性を有していてもよい。
【0038】
「患者」または「被検体」または「宿主」とは、ヒトまたは非ヒト動物を指す。
【0039】
「製薬学的に受容可能な」という語句は、本明細書では、健全な医学的判断の範囲内で、正当な利益/リスク比に一致して、過度の毒性、刺激性、アレルギー反応、またはその他の問題または合併症を伴うことなく、人間および動物の組織に接触させて使用するのに好適な、化合物、物質、組成物、および/または剤形を指すために用いられる。
【0040】
本明細書で用いる「製薬学的に受容可能な担体」とは、生体の一器官または一部から、生体の別の器官または部分へと運搬または輸送するのに関わる、製薬学的受容可能な物質、組成物、またはベヒクル、例えば、液体または固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、または溶媒封入物質を意味する。各担体は、処方の他の成分と適合し、かつ、患者に対して無害であるという意味で「受容可能」でなければならない。製薬学的に受容可能な担体として使用が可能な物質のいくつかの例として、(1)糖類、例えば、ラクトース、グルコース、およびスクロース;(2)でん粉類、例えば、コーンスターチおよびじゃがいもスターチ;(3)セルロースおよびその誘導体、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、および酢酸セルロース;(4)粉末状トラガカント;(5)モルツ;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)賦形剤、例えば、ココアバターおよび座剤ワックス、(9)油状物、例えば、ピーナツ油、綿実油、紅花油、ごま油、オリーブ油、コーン油、および大豆油;(10)グリコール類、例えば、プロピレングリコール;(11)ポリオール類、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール;(12)エステル類、例えば、オレイン酸エチル、およびラウリン酸エチル;(13)寒天;(14)バッファー剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;(15)アルギン酸;(16)発熱原物質非含有水;(17)等張生理的食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝液;(21)ポリエステル、ポリカーボネートおよび/またはポリ無水物;(22)製薬処方に使用される、他の、非毒性、適合物質が挙げられる。
【0041】
「製薬学的に受容可能な塩」とは、化合物の、比較的非毒性の、無機酸および有機酸添加塩を指す。
【0042】
「単鎖可変断片またはscFv」とは、重鎖ドメインおよび軽鎖ドメインが連結される、Fv断片を指す。1本以上のscFv断片を、他の抗体断片(例えば、重鎖または軽鎖の定常ドメイン)に連結し、一つ以上の抗原認識部位を有する構築体を形成してもよい。
【0043】
本明細書で用いる「ストレスタンパク質」は、別に「熱ショックタンパク質」または“Hsp”とも呼ばれるが、ストレス遺伝子によってコードされるタンパク質であり、したがって、通常、ストレス因子の有機体に対する接触または暴露の際に著明に大量に生産される。本明細書で用いる「ストレスタンパク質」という用語は、ストレスタンパク質のそのような部分およびペプチドを含むことが意図される。「ストレス遺伝子」は、別に「熱ショック遺伝子」とも呼ばれるが、本明細書で用いる場合、有機体(該遺伝子を含む)の、ストレス因子、例えば、熱ショック、低酸素、グルコース欠乏、重金属塩、エネルギー代謝および電子輸送阻害剤、およびタンパク質変性因子に対する、またはある種のベンゾキノンアンサマイシンに対する接触または暴露によって活性化、または他のやり方で検出可能に上方調整される遺伝子を指す。Nover,L.,Heat Shock Response,CRC Press,Inc.,Broca Raton,FL(1991).「ストレス遺伝子」はさらに、既知の遺伝子ファミリー内の相同遺伝子、例えば、Hsp70およびHsp90ストレス遺伝子ファミリー内のある種の遺伝子を含む。ただし、それらの相同遺伝子自体はストレス因子によって誘発されない。本明細書で用いられるストレス遺伝子およびストレスタンパク質という用語は、文脈が別様に指示しない限り、一方が他方を含んでもよい。
【0044】
被検体の病気を「治療する」、または病気を持つ被検体を「治療する」とは、被検体に、製薬学的治療、例えば、薬剤の投与を、該病気の程度が軽減される、または予防されるように施すことを指す。治療は(ただし、それらに限定されない)医薬組成物などの組成物の投与を含むが、予防的に実行してもよいし、あるいは、病理学的事象の発生後に実行してもよい。
【0045】
「ワクチン」という用語は、免疫反応を惹起し、さらに被検体に保護的免疫を付与する物質を指す。
【0046】
「ベクター」とは、それが連結される別の核酸を輸送することが可能な核酸分子を指す。好ましいベクターの一タイプは、エピソーム、すなわち、染色体外複製が可能な核酸である。好ましいベクターは、それらが連結される核酸の自動的複製および/または発現の可能なものである。それらが動作可能的に連結される遺伝子の発現を指令することが可能なベクターは、本明細書では「発現ベクター」と呼ばれる。一般に、組み換えDNA技術において有用な発現ベクターは、多く「プラスミド」の形を取る。プラスミドは、一般に、ベクター形において、染色体に結合されない、環状の、2本鎖DNAループを指す。本明細書では、「プラスミド」および「ベクター」は、相互交換的に使用される。なぜなら、プラスミドは、ベクターの、もっとも一般的に使用される形だからである。しかしながら、当業者には了解されるように、本発明は、等価的機能を果たし、その後従来技術に知られるようになった、他の形の発現ベクターも含むことが意図される。
【0047】
1. 操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチド
提供されるのは、操作された抗体およびストレスタンパク質を含む融合ポリペプチドである。操作された抗体は、例えば、少なくとも一つのscFv、少なくとも一つのFab断片、少なくとも一つのFv断片などを含んでもよい。それは、一価であってもよいし、あるいは多価であってもよい。操作された抗体が多価である実施形態では、抗体は二価、三価、四価などであってもよい。多価抗体は、単一特異性、または多重特異性、例えば、二重特異性、三重特異性、四重特異性などであってもよい。多価抗体は、任意の形、例えば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディなどであってもよい。ある実施形態では、操作された抗体は、Tandab(タンデムダイアボディ)である。ストレスタンパク質は、任意のストレスタンパク質を含んでよい。ある実施形態では、ストレスタンパク質は、HSP70、例えば、Mycobacterium tuberculosis HSP70、またはMycobacterium bovus HSP70を含む。Mycobacterium tuberculosis HSP70、およびMycobacterium bovus HSP70の完全長ポリペプチド配列が、図2に、それぞれ配列番号1および2として示される。
【0048】
主題の融合ポリペプチドに組み込まれてもよい、操作された抗体およびストレスタンパク質に関するさらに詳細が下記に記述される。
【0049】
A. 操作された抗体
天然抗体自体はダイマーであり、したがって2価を持つ。もしも異なる抗体を生産する二つのハイブリドーマ細胞を人工的に融合すると、このハイブリッドハイブリドーマによって生産される抗体のあるものは、異なる特異性を有する二つのモノマーから構成されることになる。このような二重特異性抗体はまた、二つの抗体を化学的に接合することによって生産することも可能である。天然抗体、およびその二重特異性誘導体は、比較的大きく、生産が高価である。さらにマウス抗体の定常ドメインは、ヒトの、抗マウス抗体(HAMA)反応の主要原因となり、このため、治療剤としてのマウス抗体の広い使用が妨げられる。マウス抗体はさらに、Fc受容体に対する結合のために有害な作用を生ずる可能性がある。これらの理由のために、分子免疫学者らは、このところずっと、それよりもはるかに小さいFab−およびFv−断片の微生物における生産に集中している。これらのより小さな断片は、生産がはるかに簡単であるばかりでなく、免疫原性がより小さく、エフェクター機能を持たず、比較的小型であるために、組織および腫瘍に対しより十分な浸透が可能である。Fab断片の場合、可変ドメインに近接する定常ドメインが、重鎖および軽鎖ダイマーの安定に主要な役割を果たす。したがって、完全長か、または、ほぼ完全長の操作された抗体が、主題の融合ポリペプチドを含んでもよいが、融合ポリペプチドに使用するには、より小さい、単一ドメインの操作された抗体(多価および多重特異性であってもよい)の方が好ましい。
【0050】
Fv断片は、はるかに安定性が劣り、そのため、安定性を増すために、重鎖および軽鎖可変ドメインの間にペプチドリンカーが挿入されてもよい。この構築体は、単鎖Fv(scFv)断片と呼ばれる。さらに安定性を増すために、時に、この二つのドメインの間にジスルフィド結合が導入される。これまで、4価のscFv系抗体が、テトラマーを形成するストレプトアビジンなどの余分な重合性ドメイン、および両親媒性アルファヘリックスに融合されることによって生産されている。しかし、これらの余分なドメインは、この4価の分子の免疫原性を増す可能性がある。
【0051】
抗体の可変ドメインだけを用いて、2価、二重特異性抗体を構築することが可能である。かなり効率的で、比較的単純な方法は、VおよびVドメインの間のリンカー配列を、それらのドメインが折り重なって、お互い同士結合し合うことができなくなるほど短くすることである。このリンカー長を3−12残基に短縮することによって、scFv分子のモノマー的形態が阻止され、V−V分子間ペア形成が選択され、60kDaの、非共有的scFvダイマー「ダイアボディ」が形成される(Holliger et al.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90,6444−6448)。このダイアボディ形式は、組み換えの二重特異性抗体の生成にも使用することが可能である。すなわち、そのような抗体は、一抗体からのVドメインが、他抗体からのVドメインに短いリンカーによって接続される、二つの単鎖融合産物の非共有的会合によって得られる。リンカー長をさらに3残基未満に短縮することによって、トリマー(「トリアボディ」、約90kDa)、またはテトラマー(「テトラボディ」、約120kDa)の形成を実現することが可能である(Le Gall et al.,1999,FEBS Letters 453,164−168)。操作された抗体、特に単一ドメイン断片に関する総覧については、Holliger and Hudson,2005,Nature Biotechnology,23:1126−1136を参照されたい。このような操作された抗体は全て、本明細書に記載される融合ポリペプチドに使用してよい。
【0052】
本主題の融合ポリペプチドを含んでもよい、他の多価の操作された抗体が、Lu et al.,2003,J.Immunol.Meth.279:219−232(ダイ−ダイアボディ、または4価二重特異性抗体);米国特許出願公開第20050079170(マルチマーFv分子、または「フレキシボディ」)、および国際公開第99/57150およびKipriyanov,et al.,1999,J.Mol.Biol.293:41−56(タンデムダイアボディ、または「タンダブ」)に記載されている。
【0053】
前述の多価の操作された抗体の任意のものは、当業者であれば、通例の組み換えDNA技術、例えば、国際出願PCT/US86/02269;欧州特許出願公開第184,187号;欧州特許出願公開第171,496号;欧州特許出願公開第173,494号;国際公開第86/01533号;米国特許第4,816,567号;欧州特許出願公開第125,023号;Better et al.(1988)Science 240:1041−1043;Liu et al.(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:3439−3443;Liu et al.(1987)J.Immunol.139:3521−3526;Sum et al.(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:214−218;Nishimura et al.(1987)Cancer Res.47:999−1005;Wood et al.(1985)Nature 314:446−449;Shaw et al.(1988)J.Natl.Cancer Inst.80:1553−1559);Morrison(1985)Science 229:1202−1207;Oi et al.(1986)Bio Techniques 4:214;米国特許第5,225,539号;Jones et al.(1986)Nature 321:552−525;Verhoeyan et al.(1988)Science 239:1534;Beidler et al.(1988)J.Immunol.141:4053−4060;および Winter and Milstein,Nature,349,pp.293−99(1991))に記載される技術を用いて開発することが可能である。非ヒト抗体は、この非ヒト抗原結合ドメインを、ヒトの定常ドメインと連結することによって「ヒト化される」ことが好ましい(例えば、Cabilly et al.,米国特許第4,816,567号;Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,81,pp.6851−55(1984))。
【0054】
操作された抗体の、抗原認識部位または可変域全体は、任意の対象抗原を指向する、一つ以上の親抗体から得られてもよい。親抗体は、天然抗体、抗体断片、天然抗体から抽出した抗体または抗体断片、対象抗原に対して特異的であることが知られる抗体または抗体断片の配列を用いて新規に構築された抗体を含むことが可能である。親抗体から得られてもよい配列としては、重鎖および/または軽鎖可変域、および/またはCDR、枠組み構造領域、またはその、他の部分が挙げられる。
【0055】
多価、多重特異性抗体は、二つ以上の可変域を含む重鎖、および/または、一つ以上の可変域を含む軽鎖を含み、これらの可変域の内の少なくとも二つが、同じ抗原上の異なるエピトープを認識するようになっていてもよい。
【0056】
融合ポリペプチドに含めてもよい候補の操作された抗体、または、融合ポリペプチド自身を、各種既知のアッセイを用いて活性についてスクリーニングしてよい。例えば、結合特異性を決めるスクリーニングアッセイは周知であり、従来技術において通例的に実施されている。このようなアッセイに関する総括的議論については、Harlow et al.(Eds.)ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL;Cold Spring Harbor Laboratory;Cold Spring Harbor,N.Y.,1988,Chapter 6を参照されたい。
【0057】
さらに提供されるものは、候補の操作された抗体の選別法である。例えば、候補は、ヒトのscFvおよびその他の抗体ライブラリーから得てもよい。したがって、提供されるものは、抗体の細菌ディスプレイライブラリーである。ライブラリーは、細菌ディスプレイが、平均して、scFv、またはVまたはVの少なくとも一コピーを有する、複数の細菌を含むことが好ましく;ライブラリーは、複数種類のscFvまたはVまたはVを含む。好ましい実施形態では、細菌ディスプレイは、平均して、細菌当たり、scFvまたはVまたはVの、少なくとも3、少なくとも4、または少なくとも5コピーを含む。特に好ましいライブラリーは、平均して、少なくとも約10、好ましくは少なくとも約10、より好ましくは少なくとも約10通りの異なる種類のscFvまたはVまたはVを含む。もっとも好ましい実施形態では、抗体は、プラスミドまたはファージミドベクターの一部である核酸によってコードされる。さらに別の実施形態では、本発明は、細菌ディスプレイ抗体ライブラリーとして、コードする核酸ライブラリーを提供する。この核酸ライブラリーは、少なくとも約10、より好ましくは少なくとも約10、もっとも好ましくは少なくとも約10通りの異なるプラスミドまたはファージミドベクターを含む。
【0058】
エンドサイトーシス経過細菌は、異なる二つの方法で選別することが可能である。一つの方法は、これらの哺乳類細胞を分解して、適切な抗生物質マーカーを含む細菌培地に撒くことであるが、この方法は、>10変異種から成る大型ライブラリーをスクリーニングしなければならない場合、大掛かりで面倒である。もう一つの方法は、大腸菌において、GFPなどの蛍光タンパク質を発現することであり、この蛍光タンパク質が一旦細胞内に取り込まれると、哺乳類細胞は蛍光を帯びるので、FACSによって単離することが可能となる。GFPは、下記の特性に基づいて、エンドサイトーシスを経過した細菌を選別するための新規蛍光マーカーである。その特性とは:a)GFPは、毒性の低い細胞原形質タンパク質である(Chalfie et al.,Science 263:802,1994);したがって、GFPの存在は、細菌細胞表面の動態に対しごく僅かな影響しか及ぼす筈がない;b)GFPは連続的に合成されるので、細菌複製時の蛍光信号希釈の作用を最小に抑える;および、c)GFPは簡単に画像化され、定量される(Wang and Hazelrigg,Nature 369:400,1994)。さらに、単一哺乳類細胞の蛍光強度は、それに関連する細菌の数に直接比例する(Valdivia et al.,Gene 173:47,1996)。したがって、宿主細胞に関連する、GFP−生産細菌のフローサイトメトリー分析によって、細菌の接着および侵入に関する高速で、簡便な測定が実現される。従来から、a)遺伝子gfpは、多様な細菌システム、例えば、E.coli、Yersinia pseudotuberculosis、Salmonella typhimurium、およびMycobacterium marinumにおいて発現され、生産されること、b)GFPの生産は、三つの病原体と、それぞれの宿主細胞との相互作用を変えないこと、c)GFPを生産する、細胞内細菌性病原体は、生細胞および組織との関連において画像化することが可能であること、および、d)GFP生産は、フローサイトメトリーによって検出することが可能であり、哺乳類細胞と細菌の関連の程度を測定するために使用することが可能であること(Valdivia et al.上記)が示されている。
【0059】
受容体介在エンドサイトーシス後、哺乳類細胞内から、内部に取り込まれた細菌を回収することによって、大規模な、非免疫性または免疫性細菌ディスプレイライブラリーから、内部取り込み抗体候補を直接選別することが可能である。したがって、一実施形態では、本発明は、指定の標的細胞の内部に取り込まれたポリペプチドまたは抗体ドメインを選別する方法を提供する。この方法は:a)一つ以上の標的細胞を、細菌ディスプレイライブラリーの一つ以上のメンバーと接触させること;b)標的細胞を、ディスプレイライブラリーのメンバーの内部取り込みが可能とされる条件下で培養すること;および、c)細菌ディスプレイライブラリーのメンバーが、一つ以上の標的細胞の内部に取り込まれた場合、細菌ディスプレイライブラリーの内部取り込みメンバーを特定すること、を含む。好ましくは、この方法はさらに、細菌ディスプレイライブラリーのメンバーをサブトラクション細胞系統の細胞に接触させること;および、次に標的細胞を洗浄してサブトラクション細胞系統の細胞を除去すること;および、標的細胞に非特異的に、または低度に結合する、細菌ディスプレイライブラリーのメンバーを除去すること、を含む。好ましい実施形態では、細菌ディスプレイライブラリーは、抗体細菌ディスプレイライブラリーであり、より好ましくは、単鎖抗体(scFv)、あるいは、軽鎖(V)または重鎖(V)どちらかの可変ドメインを提示する抗体細菌ディスプレイライブラリーである。
【0060】
好ましい実施形態では、前記特定工程は、内部取り込み細菌を回収し、このプロセス工程を再び繰り返して、さらに内部侵入結合性成分を選別することを含む。一実施形態では、前記回収工程は、標的細胞を分解して、内部に取り込まれた細菌を放出すること、および、この細菌をサブ培養して、続く選別ラウンドのための細菌を生産することを含む。この回収工程は、感染細菌を回収すること、および/または、細菌提示抗体をコードする核酸を回収すること、および/または、選択マーカーを発現する細菌を選別することを含むことが可能である。特定工程は、リポーター遺伝子の発現を検出すること、特定の核酸の存在または量を検出すること、または、選択マーカーによる細菌の選別を含むことが可能である。特定工程はさらに、細菌を内部に取り込んだ哺乳類細胞をFACSによって選別することを含むことが可能である。好ましい方法では、サブトラクション細胞系統の細胞は、標的細胞に対し少なくとも2倍過剰に存在する。好ましい方法では、標的細胞系統は、組織培養プレートに接着して育成され、単一培養フラスコにおいて縣濁状態のサブトラクション細胞系統と共同インキュベートされる。特に好ましい方法では、サブトラクション細胞系統との接触は、内部取り込み培養条件(例えば、37℃)よりも低い温度(例えば、4℃)で実行される。特に好ましい実施形態では、細菌は、選択マーカーおよび/またはリポーター遺伝子を発現する。好ましい選択マーカーとしては、例えば、ただしこれらに限定されないが、蛍光タンパク質(例えば、GFP)をコードする遺伝子(またはcDNA)、発色性遺伝子またはcDNA(例えば、ベータラクタマーゼ、ルシフェラーゼ、およびベータガラクトシダーゼ)が挙げられる。ある実施形態では、標的細胞は、ある特定の受容体を過剰発現する細胞、cDNA発現ライブラリーのメンバー、ケモカイン受容体を過剰発現する細胞、形質転換細胞系統の細胞、特定の表面標的受容体をコードする遺伝子またはcDNAによって形質転換される細胞を含むことが可能である。好適なサブトラクション細胞系統としては、例えば、ただしこれらに限定されないが、ヒト線維芽細胞、正常のヒト乳腺細胞、すい臓細胞、および心筋細胞が挙げられる。
【0061】
受容体介在エンドサイトーシスに関与する細胞表面受容体は、新たに特定することが可能である(Gao et al.,J.Immunol.Meth.274:185,2003)。第1工程において、サブトラクション法による、腫瘍特異的内部取り込みscFvの単離は、scFvライブラリーを各種ヒト細胞に順次暴露し、最後に所望の細胞タイプに暴露することによって実現される。次の工程において、この選別されたscFvは、その後の、免疫沈降、質量分析、およびデータベース検索によるその認識受容体の特定のためのプローブとして使用される。この手順に基づいて、前立腺腫瘍細胞のトランスフェリン受容体、およびすい臓の腺癌細胞に存在するαβインテグリンに対して特異的なscFvが選別された(Gao et al.,上記)。このサブトラクション法は、ヒトの乳癌およびすい臓癌細胞系統(Fransson et al.,Cancer Lett.208:235,2004)ばかりでなく、前立腺癌細胞(Liu et al.,Cancer Res.64:704,2004)においても、内部取り込み受容体を選別するのに使用され成功を収めている。
【0062】
したがって、本発明の方法はさらに、内部取り込み受容体を特定するために使用してもよい。肝細胞(肝臓細胞)にのみ存在し、他のいずれの細胞タイプにも存在しない内部取り込み受容体の特定は、その一例である。この方法は、一般に、内部取り込み抗体またはポリペプチドを特定する方法の内の任意のものを含み、特定された抗体またはポリペプチドは、元の標的細胞、または異なる細胞を探査するために使用される。内部取り込み抗体またはペプチドはこのように結合するので、内部取り込み受容体を担う細胞の単離、および、受容体および/または受容体エピトープそのものの単離を可能とする。したがって、一実施形態では、本法は、a)一つ以上の標的細胞を、細菌ディスプレイライブラリーの一つ以上のメンバーと接触させること、b)任意に、しかし好ましくは、細菌ディスプレイライブラリーのメンバーを、サブトラクション細胞系統の細胞と接触させること、c)任意に、しかし好ましくは、標的細胞を洗浄し、サブトラクション細胞系統の前記細胞を除去し、かつ、前記標的細胞に対し非特異的に結合するか、または低度に結合する、細菌ディスプレイライブラリーのメンバーを除去すること、d)前記細菌ディスプレイライブラリーのメンバーが、内部取り込みマーカーに結合している場合、内部への取り込みが可能となる条件下で細胞を培養すること、e)細菌ディスプレイライブラリーのメンバーが、一つ以上の前記標的細胞の内部に取り込まれた場合、細菌ディスプレイライブラリーの内部取り込みメンバーを特定すること、f)同じ、または異なる標的細胞を、工程(e)で特定された内部取り込みメンバー、またはそれから継代されたメンバーと接触させ、該メンバーを、前記標的細胞の表面に結合させること、を含む。この方法はさらに、前記メンバーが結合するものと、同じまたは異なる標的細胞の成分を単離することを含む。ある方法では、「特定」工程は、内部取り込み細菌を回収すること、工程(a−e)を繰り返して、内部取り込み受容体をさらに選別することを含む。この接触、洗浄、培養、および特定工程は、本明細書に記載されるように実行することが好ましく、サブトラクション細胞系統としては、心筋細胞、正常および癌様乳腺細胞が挙げられる。
【0063】
前述の方法には、他のタンパク質ディスプレイ法を使用してもよい。他のディスプレイ技術を取り込むために行われる本方法の修飾は、当業者には周知である。本法において使用してもよい、例示のタンパク質ディスプレイ技術に関する総覧が下記に示される。
【0064】
タンパク質ディスプレイ技術:
優れた薬理動態および薬力学特性を有する抗体治療剤の開発に当たって抗体の操作は決定的役割を演ずる(Burks et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:412,1997;米国特許第6,180,341号)。指向的進化は、先ず、分子生物学技術による、ランダム化配列を有するタンパク質発現クローンの組み換えライブラリーの生成、第二に、もっとも高まった活性を示すタンパク質変異種を単離するためのスクリーニング技術の使用を含む。大型ライブラリーのスクリーニングは、遺伝子、該遺伝子のコードするタンパク質、および所望の機能の間を結ぶ物理的リンクを必要とする。このようなリンクは、ごく貴重であることが判明している、各種インビボディスプレイ技術を用いることによって確立することが可能である(Wittrup,Nature Biotechnol.18:1039,2000;Hayhurst and Georgiou,Curr.Opin.Chem.Biol.5:683,2001)。
【0065】
これらのタンパク質ディスプレイ技術は全体として、タンパク質工学におけるもっとも強力なツールの一つを代表する(Olsen et al.,Curr.Opin.Biotechnol.11:331,2000)。ディスプレイのために、タンパク質は、ポリペプチド配列のCまたはN末端に融合され、これによって、得られたキメラは、ウィルス、細菌、および酵母などの生物学的粒子の表面を標的とするようになる。ライブラリーは、通常、パンニングと呼ばれるプロセスによる、一連の吸着−解離サイクルによってリガンド結合に関してスクリーニングされる。パンニングは従来、哺乳類の抗体レパートリーをクローンし、該抗体レパートリーをファージの上に提示することによって(最大1011クローン)作製されるきわめて複雑なライブラリーのスクリーニングにおいて好成績を収めてきた。それよりもやや多様性の低いライブラリー(最大10クローン)では、フローサイトメトリーと結合させた細菌または酵母上での提示が、例外的に高いリガンド結合親和性を有するタンパク質発見のための有力なツールとなる(Chen et al.,Nature Biotechnol.19:537,2001)。タンパク質操作におけるディスプレイ技術の重要性は疑問の余地がないが、標的ポリペプチドを、生物学的粒子の表面に固定しなければならないことは、細胞内部で可溶形として生産されるタンパク質全体と比べた場合の、ライブラリーの密度を著明に下げる可能性のある、いくつかの制限を課す。先ず、タンパク質ディスプレイは、対象タンパク質が、C−またはN−末端融合体として発現されることを要求する。これは、タンパク質の機能および/または安定性に相当の悪影響を及ぼす可能性がある。第二に、タンパク質提示は、ウィルスまたは細胞の生存性を脅かす、タンパク質輸送および提示に関連する生物学的制限の影響を受ける。第三に、ディスプレイは、ファージにおけるアビディテイー作用などのスクリーニングアーティファクトを導入する可能性がある(O‘Connell et al.,J.Mol.Biol.321:49,2002)。
【0066】
候補の操作された抗体は、タンパク質ディスプレイ技術、特に細菌ディスプレイ技術−細菌細胞膜周辺腔における固定細胞膜周辺腔発現(APEx)ライブラリー、および細菌細胞原形質で発現されるライブラリーの構築を含む技術の併用によって選別されてもよい。これによって、候補の操作された抗体は、サイトゾルの生理的還元環境においても、適正にフォールド形成し、機能的活性を持つようになる。
【0067】
従来から行われていた一つの方法は、ファージディスプレイライブラリーからscFvを単離し、次いで、大腸菌において発現、または哺乳類細胞において機能について多数のクローンをスクリーニングすることである(Lecerf et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:4764,2001;Gennari et al.,J.Mol.Biol.335:193,2004;Emadi et al.,Biochemistry 43:2871,2004)。他の方法は、操作された抗体を単離するのに2−ハイブリッドシステムを用いているが(Tes et al.,J.Mol.Biol.317:85,2002;Tanaka et al.,EMBO J.22:1025,2003)、この方法では、親和度および発現などの抗体の生物物理学的特性を微調整することができない。
【0068】
A:ファージディスプレイライブラリー
M13バクテリオファージにおける提示は、もっとも古く、もっとも広く用いられるタンパク質ライブラリースクリーニング法である(Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581,1991;Marks et al.,J.Biol.Chem.267:16007,1992;Rodi and Makowski,Curr.Opin.Biotechnol.10:87,1999)。ファージ抗体ライブラリーは、治療的抗体の開発のための重要な供給源となっている(Bradbury and Marks,J.Immunol.Meth.290:29,2004)。大型の非免疫ライブラリーは、腫瘍増殖因子受容体を含む、広範な自己および非自己抗原の、単一供給源として役立つ(Li et al.,Cancer Gene Ther.8:555,2001;Liu et al.,Cancer Res. 64:704,2004)。ファージにおいて発現される、コンビナトリアルライブラリーから単離されたMAbの多くは、人工的表面に固定された精製抗原またはペプチドを用いて選択される。この方法は、生理的背景における天然のタンパク質、特に、大分子量の細胞表面受容体を認識するMAbを選別しない可能性がある。これまで、天然の立体配座を持つ抗原を選別するためにいくつかの試みがなされており、細胞分解物(Parren et al.,J.Virol.70:9046,1996;Sanna et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:6439,1995;Sawyer et al.,J.Immunol.Meth.204:193,1997)、または生細胞(Andersen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:1820,1996;Osburn et al.,Immunotechnol.3:293,1998)のいずれかが用いられている。開始材料の不均一のために、このような方法は、無関係の抗体の選択を回避するためのサブトラクション工程を含む精緻なプロトコールを必要とする。不均一材料に対して実行された、少数ではあるが成功を収めた選別は、一般に、免疫化供給源から得られた小型ライブラリーを用いて行われた。免疫化ライブラリーの使用は、同じライブラリーから獲得が潜在的に可能な抗原特異性のスペクトラムを制限し、かつ、通常、マウス抗体を生成する。大型の非免疫ライブラリーを用いて、細胞を選別して成功を収めたのは僅かに三つしか報告されていない(de Kruif et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:3938,1995;Marks et al.,Biotechnology 11:1145,1993;Vaughan et al.,Nature Biotechnol.14:309,1996)。
【0069】
細胞パンニングによる、大型の天然ライブラリーおける結合体の選別を制限する工程は、非特異的ファージの、比較的高いバックグラウンド結合、および、特異的ファージの、比較的低い結合のようである(Becerril et al.,Biochem.Biophys.Res.Comm.255:386,1999;Pereira et al.,J.Immunol.Meth.203:11,1997;Watters et al.,Immunotechnol.3:21,1997)。特異的ファージの低い結合は、一部は、ポリクロナール標本における、任意の結合ファージの低濃度に関連する(ml当たり1×1013粒子のファージ標本の10ライブラリーにおいて、単一メンバーの約1.6×10−17M)。この低濃度は、共通結合体のサブトラクションおよび特異的結合体の濃縮の両方の効率を同時に制限する。この制限を克服するため、正常細胞表面受容体の生物学に助けを求めた。多くの受容体は、リガンド結合によってエンドサイトーシスを受ける。特異的結合体の濃縮比は、細胞表面から非特異的ファージを厳密に除去した後、細胞質ゾルから、細胞内に取り込まれたファージ抗体を回収することによって著明に増大させることが可能であると仮定された(Poul et al.,J.Mol.Biol.301:1149,2000)。
【0070】
B:酵母表面ディスプレイライブラリー
酵母表面ディスプレイ(YSD;Boder and Wittrup,Nature Biotechnol.15:553,1997)は、タンパク質工学のための、もう一つの有効性が証明されたツールである。YSDでは、対象タンパク質は、酵母細胞壁において標的とされる、酵母の交尾タンパク質Aga2pとの融合体として発現される。一旦酵母表面で発現されたならば、安定性および親和性などのタンパク質の特性は、蛍光標識試薬およびフローサイトメトリーによって定量的に測定することが可能である。さらに、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を用いて、所望の特性について、突然変異ライブラリーを選別することが可能である。YSDは、抗体工学のいくつかの局面に適用され成功を収めてきた:非免疫HuMAbライブラリーにおける特異的抗原に対する新規Abの単離(Feldhaus et al.,Nature Biotechnol.21:163,2003);これまで報告されたものの内でもっとも高いアフィニティーを有する抗体をもたらした親和性プライミング(Boder et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:10701,2000);および安定性および細胞外発現の最適化(Shusta et al.,Nature Biotechnol.18:754,2000)である。さらに、YSDは、抗体結合部位(パラトープ)のドメインレベルの分析、および機能的抗体の操作のための有用なツールである。優れた発現性と細胞内機能を持つ最小抗体を特定する試みにおいて、細胞内で非機能的なscFvを、親和性プライミングおよび結合部位分析によって操作して、機能的単一ドメインV抗体に転換するためにYSDが使用された。
【0071】
このようにいろいろの利点があるにも拘わらず、抗体操作に応用されるYSDプラットフォームの可能な欠点は、細胞原形質に比べた場合の、細胞表面の酸化還元環境の差から生ずるものと考えられる。細胞原形質では、ジスルフィド結合が安定に形成されない。MAbは、VおよびVの両ドメインに、βシートを形成する枠組み構造残基を堅固な立体配座に保持する、高度に保存されるドメイン内ジスルフィド結合を含む。これらのジスルフィド結合の破壊は、ドメイン構造を乱し、タンパク質の安定性を下げる(Ramm et al.,J.Mol.Biol.290:535,1999)。このことが恐らく、scFvの細胞表面発現と、細胞原形質レベルとの間の不一致の原因であろう。さらに、融合タンパク質(例えば、scFv)の発現は、一般に、cis−優勢である;すなわち、融合タンパク質の発現は、僅かに最低の安定度を有するメンバーの発現と同程度であるにすぎず、したがって、Vが除去されたときに観察される発現の改善に関する、さらに別の説明は、還元条件下では、2.4.3のVドメインは、Vよりも有意に安定性が低いということである(Colby et al.上記)。
【0072】
ライブラリースクリーニング技術に関して重要な問題は(ファージおよび酵母ディスプレイ技術のいずれにおいても)、単離クローンを高レベルで発現する能力である。既存のディスプレイ方式は、大型の固定配列に対する融合を含むが、これは、提示されるタンパク質の発現特徴に影響を及ぼす可能性がある。このため、ファージ、酵母、または細菌においてよく提示されるscFv(特に、外膜において発現されるタンパク質ライブラリー)が、可溶形では、非融合タンパク質ほど必ずしも高発現を示さない場合がある(Hayhurst et al.,J.Immunol.Meth.276:185,2003)。一方、APExディスプレイにおいて原形質膜に対するタンパク質のN−末端の繋留に要求される短い配列(6−aa)は、融合の発現特徴に影響を及ぼすことはないと考えられる。この仮定に一致して、APExによって単離された、炭疽菌PA毒素に対して親和性強化された三クローン全てが、多くのアミノ酸置換を有するにも拘わらず優れた可溶性発現特徴を示した。これは、細菌において可溶形で大規模に簡単に生産することが可能クローンの単離は、APEx選別の内在的特性であることを示唆する(Harvey et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:9193,2004)。
【0073】
C:APEx細菌ディスプレイライブラリー
コンビナトリアルライブラリーから、高アフィニティーリガンド結合タンパク質、特にscFvを効率的に選択するために、細菌発現を使用するフローサイトメトリー法が開発された。APExは、内膜の周辺腔側にタンパク質を固定し、次いで、外膜を破壊し、蛍光標識した抗原とインキュベートし、FC選別することに基づく(Harvey et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:9193,2004)。APExでは、タンパク質は、大腸菌の内膜に繋留されて膜周辺腔において発現される。細菌の外膜を化学的/酵素的に浸透可能とした後、固定scFv抗体を発現する大腸菌細胞を、サイズが最大少なくとも240kDaの範囲を持つ蛍光剤で特異的に標識し、FCによって分析することが可能である。もう一つの利点は、GFPと抗原の間の融合を内因的に発現させ、膜周辺腔に固定されるscFvによって捕捉するが可能であることである。したがって、洗浄工程後、蛍光抗原と、APEx固定scFvの両方を発現する細胞は高度の蛍光を発するので、scFvのみ、またはGFP−抗原融合体単独を発現するだけの細胞から、簡単に選別することが可能である。
【0074】
時間当たり>4億細胞の選別率であれば、微生物の形質転換効率の制限内で使用可能なサイズのライブラリーをスクリーニングするのに、市販のFC機を使用することが可能である。さらに、複数パラメータFCは、各ライブラリークローン毎の機能に関する貴重な情報をリアルタイムで提供することが可能なので、ライブラリー構築プロセスの誘導および選別条件の最適化を助ける(Daugherty,P.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:2029,2000)。特に、大腸菌は、組み換えタンパク質の容易な発現および高いDNA形質転換効率を実現するので、効率的な大型ライブラリーの構築およびタンパク質ライブラリーの配列スペース範囲の増大が可能となる。
【0075】
APExは、PECSと呼ばれる、以前に開発された細胞膜周辺腔発現(Chen et al.,Nature Biotechnol.19:537,2001)に対しても、ファージおよび酵母ディスプレイ技術などの表面ディスプレイ技術に対してはもちろん、優れるいくつかの利点を提供する:(i)APEXは、大腸菌利用システムであり、したがって、形質転換、および単離された抗体の準備的タンパク質発現による大型ライブラリー創製への簡便な道を提供する;(ii)タンパク質を内膜に保持するために脂肪酸アシル化アンカーを用いることによって、ディスプレイに必要なものは、僅かに6アミノ酸という短い融合体だけとなる。この短い融合体が、単離されたタンパク質のアフィニティーまたは発現特徴に影響を及ぼすことはまず考えられない;(iii)内膜は、大型抗原の、提示されたポリペプチドに対する結合に立体的に干渉する可能性のある、LPS、または他の複雑な炭水化物などの分子を持たない;(iv)融合体が提示される前に横切らなければならない膜は、1枚だけである、したがって、ある種の配列の、酵母または細菌表面への輸出を制限する可能性のある生合成限定は回避される;(v)ディスプレイは、N−またはC−末端融合のいずれを用いても実現される;(vi)APExは、広く使用されるファージディスプレイベクターによって発現されるタンパク質に対し直接使用することが可能である。最後に、(vii)APExは、同じ細胞内における、蛍光抗原と抗体の同時発現のための手段を提供する。これは、ペプチド抗原にとって特に重要であり、蛍光抗原をライブラリーとインキュベートする場合に必要とされる、合成、精製、および準備量のプローブ接合のための手間隙のかかるプロセスが回避される。APExは、小型の分子(<1kDa)からフィコエリトリン接合体(240kDa)までの範囲の抗原、およびそれよりもはるかに大きい抗原の検出のために使用することが可能である。
【0076】
APExディスプレイ法は、scFvの結合エネルギーが、二つのドメインの一方から優先的に与えられる場合、該scFvから、単一ドメイン抗体(DAb)を誘導するために使用することが可能である。
【0077】
B. HSP70ドメイン
本発明の融合ポリペプチドには、適切なものであれば、いずれのストレスタンパク質(熱ショックタンパク質(Hsp))も使用が可能である。例えば、Hsp60および/またはHsp70は使用が可能である。ストレスタンパク質全体に目を向けると、細胞は、ストレス因子(典型的には、熱ショック処置)に対し、一般にストレス、または熱ショック遺伝子と呼ばれる一群の遺伝子の発現を増すことによって反応する。熱ショック処置は、細胞が適応する温度よりも数摂氏度高い温度に、細胞または有機体を暴露させることを含む。これらの遺伝子の誘発と呼応して、ストレス被爆細胞では対応するストレスタンパク質のレベルが増す。
【0078】
細菌では、主なストレスタンパク質は、一般にHsp70およびHsp60と呼ばれる、それぞれ、約70および60kDaの分子サイズを持つタンパク質である。これらの、および他の特異的ストレスタンパク質、および、それらをコードする遺伝子は、下記にさらに詳細に論じられる。細菌では、Hsp70およびHsp60は、通常、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動、および染料クマシーブルーによる染色パターンに基づくと、細胞の約1−3%を代表するが、高ストレス条件下では25%の高レベルにまで蓄積する。ストレスタンパク質は、重要な細胞プロセス、例えば、タンパク質合成、細胞内輸送、およびタンパク質複合体の集合および分解に参加するようである。ストレス時合成されるストレスタンパク質量の増加は、主に、誘発されるタンパク質のフォールド解除の結果を最小化するのに役立つ。実際、細胞をあらかじめ、ストレスタンパク質の合成を誘発する、軽度のストレス条件に暴露すると、その後のより厳しいストレスの有害作用に対し細胞の保護が得られる。
【0079】
主要なストレスタンパク質は、これまで調べた全ての有機体および組織タイプに発現されるようである。さらに、ストレスタンパク質は、これまでに特定されたタンパク質の中でもっとも高度に保存されるタンパク質群を代表するようである。例えば、多様な有機体におけるストレスタンパク質を互いに比較すると、Hsp90およびHsp70は、アミノ酸レベルで50%以上の同一性を示し、非同一部位においても多くの類似点を共有する。生物種の中の、ある特定のストレスタンパク質ファミリーの異なるメンバーの間に、近似の、または比較的高レベルの相同性が存在することは注意すべきである。
【0080】
ストレスタンパク質、特に、Hsp70、Hsp60、Hsp20−30、およびHsp10は、Mycobacterium tuberculosisおよびMycobacterium lepraeによる感染に対する免疫反応において、宿主免疫システムによって認識される主要な決定基に属する。Young,R.A.and Elliott,T.J.,Stress Proteins,Infection,And Immune Surveillance,Cell 50:5−8(1989)。さらに、あるラットの関節炎起源T細胞は、Hsp60エピトープを認識する。Van Eden,W.et al.,Nature 331:171−173(1988)。しかしながら、健康な個体を含む、個体で、mycobateria感染または自己免疫疾患の既往歴を持たないものであっても、細菌およびヒトのHsp60エピトープを認識するT細胞を担持する;健康な個体における、ガンマ−デルタT細胞受容体の発現によって特徴づけられる、T細胞の相当部分が、自己および外来のストレスタンパク質の両方を認識する。O‘Brien,R.et al.,Cell 57:664−674(1989)。したがって、個体は、仮令健康なものであっても、外来および自己両方のストレスタンパク質エピトープを認識するT細胞集団を所有する。
【0081】
ストレスタンパク質エピトープを認識するこのシステムが恐らく、侵入微生物に対する「早期防衛システム」を構成するのであろう。Murray,P.J.and Young,R.A.,J.Bacteriol 174:4193−6(1992)。このシステムは、細菌およびウィルスによる頻繁な刺激によって維持されると考えられる。前述したように、健康な個体も、自己のストレスタンパク質を認識するT細胞集団を有する。したがって、自己反応性T細胞の存在は、正常な健康に適合し、自己免疫疾患を誘発しない;これは、個体の体内におけるストレスタンパク質の安全性を示す。ストレスタンパク質の安全性はさらに、BCG(カルメットゲラン桿菌、Mycobaterium bovis株)ワクチン接種の成功と、比較的高い安全性によっても示される。BCGは、ストレスタンパク質に対する免疫反応を誘発するが、これは、Mycobaterium tuberculosisに対しても防衛的である。
【0082】
融合ポリペプチドに使用されるストレス遺伝子およびタンパク質のファミリーは、従来技術で周知なもので、例えば、Hsp100−200、Hsp100、Hsp90、Lon、Hsp70、Hsp60、TF55、Hsp40、FKBP、シクロフィリン、Hsp20−30、ClpP、GrpE、Hsp10、ユビキチン、カルネキシン、およびタンパク質ジスルフィドイソメラーゼが挙げられる。Macario,A.J.L.,Cold Spring Harbor Laboratory Res.25:59−70,1995;Parsell,D.A.& Lindquist,S.Ann.Rev.Genet.27:437−496(1993);米国特許第5,232,833号(Sanders et al.)。ストレスタンパク質の特定群としては、Hsp90、Hsp70、Hsp60、Hsp20−30が挙げられ、さらに好ましくはHsp70およびHsp60が挙げられる。
【0083】
Hsp100−200の例は、Grp170(グルコース調整タンパク質用)を含む。Grp170は、ERの腔、プレゴルジ区画の中に滞在し、免疫グロブリンのフォールド形成および集合において役割を果たすようである。
【0084】
Hsp100の例は、哺乳類Hsp110、酵母Hsp104、ClpA、ClpB、ClpC、ClpX、およびClpYを含む。酵母Hsp104および大腸菌ClpAは、ヘキサマーを形成し、大腸菌ClpBはテトラマー粒子で、その集合はアデニンヌクレオチドの結合を要求するようである。Clpプロテアーゼは、ClpP(タンパク質分解サブユニット)、およびClpAから構成される750kDaヘテロオリゴマーを提供する。ClpB−Yは、ClpAと構造的に関連するが、ただしClpAと違って、ClpPと複合体を形成しないようである。
【0085】
Hsp90の例は、大腸菌のHtpG、酵母のHsp83およびHsc83、および、ヒトのHsp90アルファ、Hsp90ベータ、およびGrp94を含む。Hsp90は、いくつかのタンパク質群に結合するが、そのタンパク質は、通常、細胞の調整分子、例えば、ステロイドホルモン受容体(例えば、グルココルチコイド、エストロゲン、プロゲステロン、およびテストステロン受容体)、転写因子、および、シグナル伝達機構に関与するタンパク質キナーゼである。Hsp90タンパク質はまた、他のストレスタンパク質を含む、大型で、豊富なタンパク質複合体の形成にも与る。
【0086】
Lonは、大腸菌における非生得タンパク質を分解する、ATP依存性プロテアーゼとして機能するテトラマータンパク質である。
【0087】
Hsp70の例は、哺乳類細胞由来のHsp72およびHsc73、細菌、特にマイコバクテリウム属、例えば、Mycobacterium leprae、Mycobacterium tuberculosis、およびMycobacterium bovis(例えば、カルメットゲラン桿菌;本明細書ではHsp71と呼ぶ)由来のDnaK、Escherichia coli、酵母、および他の前核細胞由来のDnaK、およびBipおよびGrp78を含む。Hsp70は、ATPの外、フォールドが解けたポリペプチドおよびペプチドに特異的に結合することが可能であり、したがって、タンパク質のフォールド形成および解除の外、タンパク質複合体の集合および分散にも関与することが可能である。
【0088】
Hsp60の例は、マイコバクテリウム属由来のHsp65を含む。細菌のHsp60は、大腸菌由来のGroELなど、一般に、GroELという名前でも知られる。Hsp60は、大型のホモオリゴマーを形成し、タンパク質のフォールド形成に決定的に重要な役割を果たすようである。Hsp60相同体は、真核細胞ミトコンドリアおよびクロプラスト中に存在する。
【0089】
TF55の例は、Tcp1、TRiC、およびテルモソームを含む。このタンパク質は、通常、真核細胞およびある種の古細菌の細胞原形質中に見られ、複数メンバーの環を形成し、タンパク質のフォールド形成を促進する。これらも、Hsp60に対し低度の相同性を有する。
【0090】
Hsp40の例は、前核細胞、例えば、大腸菌およびマイコバクテリウム属由来のDnaJ、およびHSJ1、HDJ1、およびHsp40を含む。Hsp40は、細胞活動の中でも特に、タンパク質のフォールド形成、熱耐性、およびDNA複製における分子シャペロンとして関与する。
【0091】
FKBPの例は、FKBP12、FKBP13、FKBP25、およびFKBP59、FprlおよびNeplを含む。このタンパク質は通常、ペプチジル−プロピルイソメラーゼ活性を有し、FK506およびラパマイシンなどの免疫抑制剤と相互作用を持つ。このタンパク質は、通常、細胞原形質および小胞体中に見出される。
【0092】
シクロフィリンの例は、シクロフィリンA、B、およびCを含む。このタンパク質は、ペプチジル−プロピルイソメラーゼ活性を有し、免疫抑制剤シクロスポリンAと相互作用を持つ。タンパク質シクロスポリンAは、カルシニューリン(タンパク質フォスファターゼ)に結合する。
【0093】
Hsp20−30はまた、小型Hspとも呼ばれる。Hsp20−30は、通常、大型のホモオリゴマー複合体、または、恐らく、ヘテロオリゴマー複合体にも認められる。これらの複合体において、有機体または細胞型は、いくつかの異なるタイプの小型Hspを発現する。Hsp20−30は、細胞骨格構造と相互作用を持ち、アクチンの重合/脱重合に調整的役割を演じているようである。Hsp20−30は、ストレスに対し、または安静細胞が増殖因子に暴露されると、急速にリン酸化される。Hsp20−30相同体としては、アルファ−クリスタリンが挙げられる。
【0094】
ClpPは、異常タンパク質の分解に関与する大腸菌プロテアーゼである。ClpPの相同体が、クロロプラストに認められる。ClpPは、ClpAとヘテロオリゴマー複合体を形成する。
【0095】
GrpEは、ストレスで損傷したタンパク質の外、傷害タンパク質の分解の救済にも与る、約20kDaの大腸菌タンパク質である。GrpEは、大腸菌におけるストレス遺伝子発現の調整に与る。
【0096】
Hsp10の例は、GroESおよびCpn10を含む。Hsp10は、通常、大腸菌、および、真核細胞のミトコンドリアおよびクロロプラストに見出される。Hsp10は、Hsp60オリゴマーと連結する、7員環を形成する。Hsp10はまた、タンパク質のフォールド形成にも与る。
【0097】
ユビキチンは、ATP依存性細胞ゾルプロテアーゼによる、タンパク質の分解除去と呼応してタンパク質に結合することが判明している。
【0098】
特定の実施形態では、本発明のストレスタンパク質は、腸内細菌、マイコバクテリウム属(特に、M leprae、M.tuberculosis、M.vaccae、M.smegmatis、およびM.bovis)、大腸菌、酵母、ショウジョウバエ、脊椎動物、鳥類、ニワトリ、哺乳類、ラット、マウス、霊長類、またはヒトから得られる。
【0099】
特定の実施形態、例えば、ストレスタンパク質および操作された抗体の間の化学的接合体を含む場合では、使用されるストレスタンパク質は、単離されたストレスタンパク質である。このことは、該ストレスタンパク質は、それが生産される宿主細胞から選別され、分離されることを意味する。このような単離は、本明細書に記載されるやり方で、かつ、従来技術で周知のタンパク質単離法を用いて実行することが可能である。
【0100】
ストレスタンパク質は、酸性または塩基性塩の形を取ってもよいし、または中性形を取ってもよい。さらに、個々のアミノ酸残基を、酸化または還元によって修飾してもよい。さらに、アミノ酸または核酸配列に対し様々の置換、欠失、または付加を行い、それらを足し引きした最終結果が、該ストレスタンパク質の生物学的活性を保持するか、またはさらに強化する修飾を実施してもよい。例えば、コード縮重のために、同じアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列には相当の変動があってもよい。ストレスタンパク質の一部、または、ストレスタンパク質から得られるペプチドを、それらの部分またはペプチドが免疫反応の強化に与るエピトープを含む限り、融合ポリペプチドの中に使用してもよい。ストレスタンパク質の部分は、プロテイナーゼによる断片化、または、組み換え法、例えば、ストレスタンパク質をコードするヌクレオチド配列(単独で、または、別のタンパク質のコード核酸配列と融合されたもの)の一部の発現によって得られてもよい。ペプチドはさらに、上記の方法、または化学的合成によって生産されてもよい。ストレスタンパク質は、既知の各種技術によって特定座位に導入される突然変異を含んでもよい。例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual.2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989);Drinkwater and Klinedinst Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:3402−3406(1986);Liao and Wise, Gene 88:107−111(1990);Horwitz et al.,Genome 3:112−117(1989)を参照されたい。
【0101】
2. 操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドの作製法
さらに提供されるものは、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドを作製するための組成物および方法である。操作された抗体およびストレスタンパク質を含む融合タンパク質は、組み換え手段によって生産することが可能である。例えば、ストレスタンパク質をコードする核酸を、操作された抗体をコードする核酸配列のいずれかの末端に、この二つのタンパク質コード配列が、共通の翻訳リーディングフレームを共有し、操作された抗体とストレスタンパク質を含む融合タンパク質として発現されるようにつなぎ合わせることが可能である。この組み合わされた配列は、所望の発現特性と、宿主細胞の性質に基づいて選ばれる適切なベクターに挿入される。後述の実施例では、核酸配列は、細菌E.coliにおけるタンパク質発現に好適なベクターにおいて集合される。選ばれた宿主細胞における発現後、融合タンパク質は、通例の生化学的分離技術、または、融合タンパク質の一方部分または他方部分に対する抗体を用いる免疫アフィニティー法によって精製することが可能である。それとは別に、選択ベクターは、この融合タンパク質配列にタグを、例えば、後述の実施例に記載されるようなオリゴヒスチジンタグを付加することが可能である。これにより、標識付き融合タンパク質の発現が可能とされ、このタンパク質は、タグに対して適度の親和性を持つ抗体、またはその他の物質を用いるアフィニティー法によって精製することが可能である。Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Deutscher,M.,Guide to Protein Purification Methods Enzymology,vol.182.Academic Press,Inc.,San Diego,CA (1990)。哺乳類細胞における発現に好適なベクター、例えば、後述のベクターの内の一つを使用するのであれば、融合タンパク質は、哺乳類細胞において発現、精製することが可能である。それとは別に、哺乳類発現ベクター(融合タンパク質−コード配列を含む)を、被検体に、該被検体の細胞において操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドの直接的発現のために投与することも可能である。操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドはまた、化学的に生産し、次いで、融合タンパク質の生産、および精製、または被検体への投与のために好適なベクターに挿入することが可能である。
【0102】
融合遺伝子を作製するための技術は従来技術で周知である。事実上、異なるポリペプチド配列をコードする各種DNA断片の接合は、従来技術にしたがって、連結のために平滑末端または付着末端を、適切な末端を実現するために制限酵素消化を、適宜に粘着末端の充填を、不要の接合を避けるためにアルカリフォスファターゼ処理を、かつ、酵素による連結を用いて実行される。別の実施形態では、融合遺伝子は、自動化DNAシンセサイザーを含む従来技術によって合成される。それとは別に、遺伝子断片のPCR増幅を、アンカープライマーを用いて実行してもよい。アンカープライマーは、二つの連続遺伝子断片の間に相補的オーバーハングを生じ、次にこれらがアニールされて、キメラ遺伝子配列を生成する(例えば、Current Protocols in Molecular Biology,eds.Ausubel et al.,John Wiley & Sons:1992を参照されたい)。したがって、提供されるものは、少なくとも一つの操作された抗体をコードする遺伝子、および、少なくとも一つのストレスタンパク質をコードする遺伝子から成る融合遺伝子を含む単離された核酸である。
【0103】
この核酸は、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドをコードし、少なくとも一つの調節配列に連結されるヌクレオチド配列を含むベクターとして提供されてもよい。発現ベクターの設計は、形質転換される宿主細胞の選択、および/または、発現が望まれるタンパク質のタイプなどの要因に依存してもよいことを理解しなければならない。ベクターのコピー数、そのコピー数を調節する能力、および、ベクターによってコードされる他の任意のタンパク質、例えば、抗生物質マーカーの発現も考慮しなければならない。そのようなベクターは、任意の生物学的に有効な担体、例えば、キメラポリペプチドをコードする遺伝物質を担って、体外で、またはインビボで、細胞を効果的にトランスフェクトすることが可能な任意の処方または組成物として投与してよい。方法は、ウィルスベクター、例えば、組み換えレトロウィルス、アデノウィルス、アデノ関連ウィルス、ヒト免疫不全ウィルス、およびヘルペス単純ウィルス−1、または組み換え細菌または真核細胞プラスミドを含むベクターに該核酸を挿入することを含む。ウィルスベクターは、直接細胞をトランスフェクトするのに使用してもよいし、プラスミドDNAは、単独で、例えば、陽イオン性リポソーム(リポフェクチン)の支援の下に、または誘導体形成して(例えば、抗体接合して)、ポリリシン接合体、グラミシジンS、人工ウィルスエンベロープ、または、その他の同様の細胞内担体の支援の下に輸送してもよい。核酸はさらに直接注入してもよい。それとは別に、核酸の細胞への進入を促進するために、リン酸カルシウム沈殿を実行してもよい。
【0104】
継代培養される細胞において、例えば、融合タンパク質またはペプチドを生産するために、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドの発現および過剰発現を誘発するために、この主題の核酸を用いてもよい。
【0105】
さらに提供されるものは、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドを発現するために、組み換え遺伝子によってトランスフェクトされる宿主細胞である。宿主細胞は、任意の前核細胞または真核細胞であってもよい。
例えば、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドは、大腸菌などの細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウィルス)、酵母、昆虫、植物、または哺乳類細胞において発現されてもよい。宿主細胞がヒトのものである場合、それは、生きている被検体の中にあってもよいし、そうでなくともよい。他の好適な宿主細胞も、当業者には既知である。さらに、宿主細胞には、該ポリペプチドの発現を最適化するために、該宿主に通常見られないtRNA分子を補充してもよい。該融合ポリペプチドの発現を最大にするために好適な他の方法も、当業者には既知である。
【0106】
細胞培養は、宿主細胞、媒体、および他の副産物を含む。細胞培養に好適な媒体は従来技術で周知である。融合ポリペプチドは分泌され、細胞と、ポリペプチドを含む媒体との混合物から単離されてもよい。それとは別に、融合タンパク質は、細胞原形質に保持されており、細胞を収集し、分解し、該タンパク質を単離してもよい。融合ポリペプチドは、タンパク質を生成するための、従来技術で既知の技術、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、限外ろ過、電気泳動、および、融合体の特定エピトープに対して特異的な抗体による免疫アフィニティー精製を含む技術によって、細胞培養媒体、宿主細胞、またはその両者から単離してもよい。
【0107】
したがって、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドの全てまたはいびつをコードするヌクレオチド配列を用い、微生物または真核細胞の細胞プロセスを介してタンパク質の組み換え体を生産してもよい。この配列を、発現ベクターなどのポリヌクレオチド構築体に連結し、真核細胞(酵母、鳥、昆虫、または哺乳類)、または前核細胞(細菌細胞)のいずれかを形質転換またはトランスフェクトすることは、標準的手順である。同様の手順、またはその改訂版を用いて、本発明による微生物手段または組織培養技術によって組み換え融合ポリペプチドを調製してもよい。
【0108】
組み換えタンパク質生産のための発現ベヒクルとしては、プラスミドおよびその他のベクターが挙げられる。例えば、融合ポリペプチドの発現のために好適なベクターとしては、大腸菌などの前核細胞における発現用として、下記のタイプのプラスミド:pBR322由来プラスミド、pEMBL−由来プラスミド、pEX−由来プラスミド、pBTac−由来プラスミド、およびpUC−由来プラスミドが挙げられる。
【0109】
別の実施形態では、核酸は、細菌プロモーター、例えば、嫌気性大腸菌NirBプロモーター、または、例えば、Inouye et al.(1985)Nucl.Acids Res.13:3101;Salmonella pagC promoter(Miller et al.上記),Shigella ent promoter(Schmitt and Payne,J.Bacteriol.173:816(1991))に記載される、大腸菌脂質タンパク質llpプロモーター、Tn10におけるtetプロモーター(Miller et al.上記)、または、Vibrio choleraのctxプロモーターに、動作可能的に連結される、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドである。他の任意のプロモーターの使用が可能である。細菌プロモーターは、構成的プロモーターであっても、誘発性プロモーターであってもよい。例示の誘発性プロモーターは、鉄、または鉄制限環境によって誘発可能なプロモーターである。事実、ある種の細菌、例えば、細胞内微生物は、宿主の細胞原形質において鉄制限条件に遭遇すると考えられている。FepAおよびTonBから成る鉄調整プロモーターのの例は、例えば、下記の参考文献に記載される:Headley,V.et al.(1997)Infection & Immunity 65:818;Ochsner,U.A.et al.(1995)Journal of Bacteriology 177:7194;Hunt,M.D.et al.(1994)Journal of Bacteriology 176:3944;Svinarich,D.M.and S.Palchaudhuri.(1992)Journal of Diarrhoeal Diseases Research 10:139;Prince,R.W.et al.(1991)Molecular Microbiology 5:2823;Goldberg,M.B.et al.(1990)Journal of Bacteriology 172:6863;de Lorenzo,V.et al.(1987)Journal of Bacteriology 169:2624;および Hantke,K.(1981)Molecular & General Genetics 182:288。
【0110】
プラスミドは、細菌における核酸の適切な転写に必要な配列、例えば、転写終止シグナルを含むことが好ましい。ベクターはさらに、対象核酸、例えば、抗生物質に対する耐性、核酸増幅に必要な配列、例えば、細菌の複製起点を含む細菌の選別を可能とする因子をコードする配列を含むことが可能である。
【0111】
別の実施形態では、融合ポリペプチドが細胞から分泌されるように、シグナルペプチド配列が構築体に付加される。このようなシグナルペプチドは従来技術において周知である。
【0112】
一実施形態では、大腸菌における組み換えタンパク質の、緊密に調節された、高レベル発現を実現するために、大腸菌のRNAポリメラーゼによって認識される、強力なファージT5プロモーターが、lacオペレーター抑制モジュールと共に使用される。このシステムでは、タンパク質発現は、高レベルのlacリプレッサーの存在下に阻止される。
【0113】
一実施形態では、DNAは、動作可能的に第1プロモーターに連結され、細菌はさらに、第1プロモーターからの転写の仲介を可能とする第1ポリメラーゼをコードする第2DNAを含み、その際、第1ポリメラーゼをコードするDNAは、動作可能的に第2プロモーターに連結される。ある好ましい実施形態では、第2プロモーターは、上に表示したものと同様の細菌プロモーターである。さらに好ましい実施形態では、ポリメラーゼは、バクテリオファージポリメラーゼ、例えば、SP6、T3、またはT7ポリメラーゼであり、第1プロモーターは、それぞれ、バクテリオファージプロモーター、例えば、SP6、T3、またはT7プロモーターである。バクテリオファージプロモーターを含むプラスミド、およびバクテリオファージポリメラーゼをコードするプラスミドは、市場において、例えば、Promega Corp.(Madison,Wis.)およびInVitrogen(San Diego,Calif.)から入手することが可能であり、あるいは、標準的組み換えDNA技術を用いて直接バクテリオファージから入手することが可能である(J.Sambrook,E.Fritsch,T.Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Laboratory Press,1989)。バクテリオファージポリメラーゼおよびプロモーターは、さらに、例えば、下記の参考文献に記載される:Sagawa,H.et al.(1996)Gene 168:37;Cheng,X.et al.(1994)PNAS USA 91:4034;Dudendorff,J.W.Studier(1991)Journal of Molecular Biology 219:45;Bujarski,J.J.and P.Kaesberg(1987)Nucleic Acids Research 15:1337;および Studier,F.W.et al.(1990)Methods in Enzymology 185:60)。このプラスミドは、発現される、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドの特異的実施形態にしたがってさらに修飾することが可能である。
【0114】
別の実施形態では、細菌はさらに、第2プロモーターから転写を仲介することが可能な第2ポリメラーゼをコードするDNAを含む。その際、第2ポリメラーゼをコードするDNAは、第3プロモーターに動作可能的に連結される。この第3プロモーターは細菌のプロモーターであってもよい。しかしながら、高レベルの転写を獲得するために、細菌の中に、二つを超える異なるポリメラーゼおよびプロモーターを導入することも可能である。細菌における転写を仲介するために一つ以上のポリメラーゼを使用することは、DNAが直接細菌プロモーターの調節下にある細菌に比べて、細菌中のポリペプチド量の著明な増加をもたらすことが可能である。採用すべきシステムの選択は、特異的使用、例えば、生産したいと思うタンパク質の量に応じて変動する。
【0115】
一般に、融合ポリペプチドをコードする核酸は、トランスフェクションなどによって宿主細胞中に導入され、宿主細胞は、該融合タンパク質の発現を可能とする条件下で培養される。前核細胞および真核細胞中に核酸を導入する方法は、従来技術において周知である。哺乳類の、および前核性の宿主細胞培養に好適な媒体は、従来技術において周知である。一般に、主題の融合ポリペプチドをコードする核酸は、誘発可能なプロモーターの調節下にあり、該核酸を含む宿主細胞が、ある一定数分裂すると誘発される。例えば、核酸が、ベータ−ガラクトースオペレーターおよびリプレッサーの調節下にある場合、細菌宿主細胞が、約0.45−0.60のOD600密度に達したとき、イソプロピルベータ−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養体に加える。さらにもうしばらくこの培養体を育成し、宿主細胞に、該ポリペプチドを合成する時間を与える。次に、通常、培養体を凍結し、ポリペプチドの単離・精製前に、しばらく凍結保存してもよい。
【0116】
前核宿主細胞を使用する場合、宿主細胞は、例えば、プラスミドpLysSLから発現される内部的T7リゾチームを発現するプラスミドを含んでもよい。このような宿主細胞の分解は、リゾチームを放出し、これが次に細菌の膜を分解する。
【0117】
細菌または他の前核細胞における発現用ベクターに含めてもよい、その他の配列としては、合成リボソーム結合部位;転写読み過ごしを阻止し、発現ポリペプチドの安定性を確保するために、強力な転写ターミネーター、例えば、ファージラムダ由来のt、および、大腸菌のrrnBオペロン由来のt;複製起点、例えば、ColE1;および、アンピシリン耐性を付与するベータ−ラクタマーゼ遺伝子、が挙げられる。
【0118】
他の宿主細胞としては、前核宿主細胞が挙げられる。さらに好ましい宿主細胞は、細菌、例えば、大腸菌である。使用が可能な他の細菌としては、Shigella spp.,Salmonella spp.,Listeria spp.,Rickettsia spp.,Yersinia spp.,Escherichia spp.,Klebsiella spp.,Bordetella spp.,Neisseria spp.,Aeromonas spp.,Franciesella spp.,Corynebacterium spp.,Citrobacter spp.,Chlamydia spp.,Hemophilus spp.,Brucella spp.,Mycobacterium spp.,Legionella spp.,Rhodococcus spp.,Pseudomonas spp.,Helicobacter spp.,Vibrio spp.,Bacillus spp.,およびErysipelothrix spp.が挙げられる。これらの細菌の多くは、米国基準菌株保存機関(ATCC;10801 University Blvd.,Manassas,VA20110−2209)から入手することが可能である。
【0119】
酵母における組み換えタンパク質の発現のために多くのベクターが存在する。例えば、YEP24、YIP5、YEP51、YEP52、pYES2、およびYRP17は、S.cerevisiaeに遺伝的構築体を導入するのに有用なクローニングおよび発現ベクターである(例えば、Broach et al.,(1983)in Experimental Manipulation of Gene Expression,ed.M.Inouye Academic Press,p.83を参照)。これらのベクターは、pBR322 oriが存在するために大腸菌において、かつ、酵母2ミクロンプラスミドの複製決定基のためにS.cerevisiaeにおいて複製させてもよい。さらに、アンピシリンなどの薬剤耐性マーカーを使用してもよい。
【0120】
ある実施形態では、哺乳類発現ベクターは、細菌におけるベクターの継代を促進するために前核配列、および、真核細胞において発現される、一つ以上の真核細胞転写ユニットの両方を含む。pcDNAI/amp、pcDNAI/neo、pRc/CMV、pSV2gpt、pSV2neo、pSV2−dhfr、pTk2、pRSVneo、pMSG、pSVT7、pko−neo、およびpHyg由来ベクターは、真核細胞の転写に好適な、哺乳類発現ベクターの例である。これらのベクターのあるものは、前核細胞および真核細胞両細胞における複製および薬剤耐性選別を促進するために、細菌プラスミド由来の配列、例えば、pBR322によって修飾される。それとは別に、ウィルス誘導体、例えば、ウシパピローマウィルス(BPV−1)、またはエプスタインバーウィルス(pHEBo、pREP−由来、およびp205)も、真核細胞におけるタンパク質の一過性発現のために使用することが可能である。プラスミドの調製および宿主有機体の形質転換に使用される、様々の方法が従来技術で周知される。前核細胞および真核細胞ばかりでなく、一般的組み換え法にも好適な、他の発現システムについては、Molecular Cloning A Laboratory Manual,2nd Ed.,ed.by Sambrook,Fritsch and Maniatis (Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)16および17章を参照されたい。ある場合には、バキュロウィルス発現システムを用いて組み換えタンパク質を発現することが好ましいことがある。そのようなバキュロウィルス発現システムの例としては、pVL−由来ベクター(例えば、pVL1392、pVL1393、およびpVL941)、pAcUW−由来ベクター(例えば、pAcUW1)、およびpBlueBac−由来ベクター(例えば、β−gal含有pBlueBac III)が挙げられる。
【0121】
別の変種では、タンパク質生産は、インビトロ翻訳システムを用いて実現されてもよい。インビトロ翻訳システムは、一般に、RNA分子をタンパク質に翻訳するのに必要な、少なくとも最小要素を含む、細胞無添加抽出物である、翻訳システムである。インビトロ翻訳システムは、通常、少なくとも、リボソーム、tRNA、イニシエーターメチオニル−tRNAMet、翻訳に与るタンパク質または複合体、例えば、eIF2、eIF3、キャップ結合(CB)複合体であって、キャップ結合タンパク質(CBP)および真核細胞開始因子4F(eIF4F)を含む複合体を含む。様々のインビトロ翻訳システムが、従来技術において周知であり、市販のキットも含んでいる。インビトロ翻訳システムの例として、真核細胞分解物、例えば、ウサギ網状赤血球分解物、ウサギ卵細胞分解物、ヒト細胞分解物、昆虫細胞分解物、および麦芽抽出物が挙げられる。分解物は、メーカー、例えば、Promega Corp.,Madison,Wis.;Stratagen,La Jolla,Calif.;Amersham,Arlington Heights,Ill.;および GIBCO/BRL,Grand Island,N.Y.から市販されている。インビトロ翻訳システムは、通常、高分子、例えば、酵素、翻訳、開始および伸長因子、化学的試薬、およびリボソームを含む。さらに、インビトロ転写システムを使用してもよい。このようなシステムは、通常、少なくとも、RNAポリメラーゼホロ酵素、リボヌクレオチド、および任意の、必要な、転写開始、伸長および終止因子を含む。インビトロ翻訳のためのRNAヌクレオチドは、従来技術で既知の方法を用いて生産してよい。インビトロ転写および翻訳は、一つ以上の単離されたDNAから複数のタンパク質を生産するために一体反応として結合されてもよい。
【0122】
ポリペプチドのカルボキシ末端断片、すなわち、短縮型突然変異の発現が望ましい場合、発現されるべき所望配列を含むオリゴヌクレオチド断片に対し開始コドン(ATG)を付加することが必要となる場合がある。N−末端位置のメチオニンを、酵素メチオニンアミノペプチダーゼ(MAP)を用いて酵素的に切断が可能であることは従来技術において周知である。MAPは、大腸菌(Ben−Bassat et al.,(1987)J.Bacteriol.169:751−757)、およびSalmonella typhimuriumからクローンされており、そのインビトロ活性は、組み換えタンパク質において実証されている(Miller et al.,(1987)PNAS USA 84:2718−1722)。したがって、望むなら、N−末端メチオニンの除去は、その組み換えポリペプチドを、MAPを生産する宿主において(例えば、E.coli、またはCM89、またはS.cerevisiae)発現するか、または、インビトロで精製MAP(例えば、Miller et al.の処理手順)を用いて実行してもよい。
【0123】
植物発現ベクターを用いる場合には、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドの発現は、いくつかのプロモーターの内の任意のものを使って駆動してよい。例えば、ウィルスプロモーター、例えば、CaMVの35S RNAおよび19S RNAプロモーター(Brisson et al.,1984,Nature,310:511−514)、またはTMVのコートタンパク質プロモーター(Takamatsu et al.,1987,EMBO J.,6:307−311)を使用してよい。それとは別に、植物プロモーター、例えば、RUBISCOの小ユニット(Coruzzi et al.,1994,EMBO J.,3:1671−1680;Broglie et al.,1984,Science,224:838−843);または、熱ショックプロモーター、例えば、大豆Hsp17.5−EまたはHsp17.3−B(Gurley et al.,1986,Mol.Cell.Biol.,6:559−565)を使用してもよい。これらの構築体は、Tiプラスミド、Riプラスミド、植物ウィルスベクター;直接的DNA形質転換;マイクロインジェクション;電気穿孔などを用いて植物細胞の中に導入することが可能である。このような技術の総覧については、例えば、Weissbach & Weissbach,1988,Methods for Plant Molecular Biology,Academic Press,New York,Section VIII,pp.421−463;およびGrierson & Corey,1988,Plant Molecular Biology,2d Ed.,Blackie,London,Ch.7−9を参照されたい。
【0124】
ポリペプチドタグ、またはポリペプチドタグを含む融合タンパク質を発現するために使用が可能な、別の発現システムは、昆虫システムである。そのような一システムでは、Autographa california 核多角形ウィルス(AcNPV)が、外来遺伝子を発現するためのベクターとして用いられる。このウィルスは、Spodoptera frugiperda細胞において増殖する。PGHS−2配列を、ウィルスの非必須領域(例えば、ポリヘドリン遺伝子)にクローンし、AcNPVプロモーター(例えば、ポリヘドリンプロモーター)の調節下に置いてもよい。コード配列の挿入が成功すると、ポリヘドリン遺伝子の不活性化、および非被覆組み換えウィルス(すなわち、ポリヘドリン遺伝子によってコードされるタンパク質様コートを欠くウィルス)の生産がもたらされる。次に、これらの組み換えウィルスを用いて、Spodoptera frugiperda細胞を感染し、その中で挿入遺伝子を発現させる(例えば、Smith et al.,1983,J.Virol.,46:584,Smith,米国特許第4,215,051号を参照されたい)。
【0125】
昆虫システムのある特定実施形態では、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドをコードするDNAは、ポリヘドロンプロモーターの下流においてpBlueBacIII組み換え転送ベクター(Invitrogen,San Diego,Calif.)にクローンされ、Sf9昆虫細胞(Spodoptera frugiperda卵巣細胞由来のもの、Invitrogen,San Diego,Calif.から市販されている)にトランスフェクトされ、組み換えウィルスを生成する。該組み換えウィルスのプラーク精製後、高力価ウィルス保存体を調製し、次に、これを用いて、Sf9、またはHigh Five(登録商標)(Trichoplusia ni卵細胞ホモジェネート由来BTI−TN−5B1−4細胞;Invitrogen,San Diego,Calif.から市販)細胞を感染して、適切に翻訳後修飾された主題のポリペプチドを大量に生産することが可能である。
【0126】
別の実施形態では、操作された抗体およびストレスタンパク質は、別々に生産され、次に互いに連結、例えば、共有結合される。例えば、操作された抗体およびストレスタンパク質は、インビトロで別々に生産され、精製され、タグが対象ポリペプチドに連結可能となる条件下で混ぜ合わされる。例えば、ストレスタンパク質および/または操作された抗体は、それが出現することが知られる供給源から(単離された状態で)獲得すること、細胞培養体において生産し、収集すること、所望のストレスタンパク質または操作された抗体をコードする遺伝子をクローンし発現することによって生産すること、または化学的に合成すること、が可能である。さらに、所望のストレスタンパク質または操作された抗体をコードする核酸配列は化学的に合成することが可能である。接合タンパク質のこのような混合物は、単一融合タンパク質とは異なる特性を持ってもよい。
【0127】
操作された抗体とストレスタンパク質を接合するために、リンカー(「リンカー分子」または「交差リンカー」とも呼ばれる)を使用してもよい。リンカーは、いくつかの、通常は二つの分子の、定められた化学基と反応し、それらの分子を接合することが可能な薬品を含む。既知の交差リンカーの大多数は、アミン、カルボキシル、およびスルフヒドリル基と反応する。標的化学基の選択は、該化学基が、接合されるポリペプチドの生物学的活性に与る可能性がある場合、成否を決める重要性を持つ。例えば、スルフヒドリル基と反応するマレイミドは、Cys含有ペプチド、または、該Cysが標的に結合することを要求するタンパク質を不活性化する可能性がある。リンカーは、ホモ官能性(同じタイプの反応基を含む)、ヘテロ官能性(異なる反応基を含む)、または、光反応性(照明されると反応性を帯びる基を含む)であってもよい。
【0128】
リンカー分子は、接合組成物の様々な特性に関与してもよい。リンカーの長さは、接合工程時の分子の屈曲性、および、接合分子の、その標的(細胞表面分子など)に対する接近性の観点から考慮しなければならない。したがって、比較的長いリンカーは、本発明の組成物の生物学的活性の外、その調製し易さを向上させる可能性がある。リンカーの形状を、標的と最適反応するように分子を方向づけるために使用してもよい。屈曲性形状を持つリンカーは、架橋ポリペプチドが他のポリペプチドに結合する際、該架橋ポリペプチドを立体配座的に適応させることを可能とすることが考えられる。リンカーの性質は、他の、様々な目的のために変えられてよい。例えば、MBuSのアリール構造は、MBSの芳香族スペーサよりも免疫原性の低いことが見出されている。さらに、リンカー分子の疎水性および官能性も、成分分子の物理的特性によって調節してよい。例えば、ポリマーリンカーの疎水性は、ポリマー、例えば、疎水性モノマーブロックの間に親水性モノマーブロックが散在するブロックポリマーにそって配置されるモノマー単位の桁によって調節してもよい。
【0129】
多様な分子リンカーを調製し、利用する化学は、従来技術において周知であり、分子同士を接合するために多くの出来合いのリンカーが、販売業者、例えば、Pierce Chemical Co.,Roche Molecular Biochemicals,United States Biologicalなどによって市販されている。
【0130】
3. 操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドの使用法、およびそのために好適な組成物
本明細書に記載される操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドは、該融合ポリペプチドの操作された抗体ドメインの指向する抗原を発現する細胞に対する、被検体の免疫反応、特に、細胞介在性細胞分解性反応を強化するために、該被検体に投与することが可能である。この融合ポリペプチドは、単純に免疫反応を強化してもよいし(したがって、免疫原性組成物の役割を果たす)、あるいは、保護的免疫を付与してもよい(したがって、ワクチンの役割を果たす)。
【0131】
したがって、前述のように調製される、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドは、医薬組成物として使用されるために適切な純度にまで精製されてもよい。一般に、精製組成物は、組成物の中に存在する全ての分子の約85パーセントを超える、存在する全分子の約85%、90%、95%を超える、99%以上を含む一分子を有する。対象分子は、事実上均一となるまで(汚染分子は、通例の検出法によっては組成物の中に検出することができない)、組成物が事実上単一分子から成る状態まで、精製してもよい。熟練した当業者であれば、本明細書の教示に照らして、タンパク質精製用標準技術、例えば、免疫アフィニティクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなどを用いて、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドを精製することは可能と考えられる。ポリペプチドの純度は、当業者に既知のいくつかの方法、例えば、アミノ末端アミノ酸配列分析、ゲル電気泳動、および質量分析を含む方法を用いて定量してもよい。
【0132】
したがって、提供されるものは、前述の操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドを含む医薬組成物である。一局面では、提供されるものは、一つ以上の製薬学的に受容可能な担体(添加剤)および/または希釈剤と共に処方される、治療有効量の、一つ以上の前述の化合物を含む、製薬学的に受容可能な組成物である。別局面で、ある実施形態では、組成物は、そのまま、または、製薬学的に受容可能な担体と混合されて投与されてもよく、さらに、他の薬剤と連合的に投与されてもよい。したがって、連合(併用)治療は、最初に投与されたものの治療効果が、次の投与のときにまだ完全には消失していないようなやり方で行われる、活性化合物の、順次、同時、および分離、または共同投与を含む。
【0133】
本明細書に記載される、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドは、種々のやり方で被検体に投与することが可能である。投与ルートとしては、皮内、経皮(例えば、徐放性ポリマー)、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、経口、硬膜外、および鼻腔内ルートが挙げられる。外にも、任意の通例の投与ルート、例えば、輸液またはボーラス注入、または上皮または粘膜皮膚経由による吸収を使用することが可能である。さらに、本明細書に記載される組成物は、他の製薬学的に受容可能な成分、例えば、生物学的活性剤(例えば、ミョウバンなどのアジュバント)、界面活性剤(例えば、グリセリド)、賦形剤(例えば、ラクトース)、担体、希釈剤、およびベヒクルを含み、共に投与されることも可能である。さらに、組成物は、体外で、被検体から得られた白血球を刺激する手段として、インビトロで抗原特異的免疫細胞を惹起し、拡大し、継代して、その後、被検体に再度導入させるための手段として使用することが可能である。
【0134】
さらに、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドは、このようなタンパク質配列をコードする核酸をヒトの被検体においてインビボ発現させることによって投与することが可能である。このような核酸の発現はさらに、体外で、被検体から得られた白血球を刺激し、インビトロで抗原特異的免疫細胞を惹起し、拡大し、継代して、その後、被検体に再度導入させるための手段によって実現することが可能である。操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドの発現を指令するために好適な発現ベクターは、現在当分野で使用される多数の、様々なベクターの中から選択することが可能である。好ましいのは、高レベル発現をもたらすことが可能であるばかりでなく、対象遺伝子の変換に効果的なベクターである。例えば、組み換えアデノウィルスベクターpJM17(All et al.,Gene Therapy 1:367−84(1994);Berkner K.L.,Biotechniques 6:616−24 1988)、第2世代アデノウィルスベクターDE1/DE4(Wang and Finer,Nature Medicine 2:714−6(1996))、またはアデノ関連ウィルスベクターAAV/Neo(Muro−Cacho et al.,J.Immunotherapy 11:231−7(1992))を使用することが可能である。さらに、組み換えレトロウィルスベクターMFG(Jaffee et al.,Cancer Res.53:2221−6(1993))、またはLN、LNSX、LNCX、LXSN(Miller and Rosman,Biotechniques 7:980−9(1989))も使用することが可能である。Herpes simplexウィルス系ベクター、例えば、pHSV1(Geller et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.87:8950−4(1990)、またはワクシニアウィルスベクター、例えば、MVA(Sutter and Moss,Proc.Nat’l Acad.Sci.89:10847−51(1992))も、別ベクターとして使用が可能である。
【0135】
プロモーターおよび3’配列を含む、よく用いられる特異的発現ユニットは、プラスミドCDNA3(Invitrogen)、プラスミドAH5、pRC/CMV(Invitrogen)、pCMU II(Paabo et al.,EMBO J.5:1921−1927(1986))、pZip−Neo SV(Cepko et al.,Cell 37:1053−1062(1984))、およびpSRa(DNAX、Palo Alto,Ca)に見られるものである。発現ユニットおよび/またはベクターへの遺伝子の導入は、例えば、Molecular Cloning and Current Protocols in Molecular Biology(Sambrook,J.,et al.,Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Press(1989);Ausubel,F.M.et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates and Wiley−Interscience (1989))のようなマニュアルに記載される遺伝子工学技術を用いて実現することが可能である。得られた発現可能な核酸は、該核酸を発現可能な形で細胞の中に設置することが可能な方法、例えば、前述のようにウィルスベクターの一部として、裸のプラスミドまたは他のDNAとして、標的とされるリポソーム内に封入して、または、ゴースト赤血球の中に設置することが可能な任意の方法によって、ヒトの被検体の細胞の中に導入することが可能である(Friedman,T.,Science,244:1275−1281(1989);Rabinovich,N.R.et al.,Science.265:1401−1404(1994))。形質導入法としては、組織および腫瘍への直接注入、リポソームトランスフェクション(Fraley et al.,Nature 370:111−117(1980))、受容体介在エンドサイトーシス(Zatloukal et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.660:136−153(1992))および、粒子発射介在性遺伝子転送(Eisenbraum et al.,DNA & Cell.Biol.12:791−797(1993))が挙げられる。
【0136】
本発明の組成物における、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチド(前述のように、融合、接合、または非共有的連合)の量は、被検体において有効な免疫刺激反応をもたらす量である。有効量とは、投与されると、免疫反応を誘発するほどの量である。さらに、被検体に投与される操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドの量は、各種因子、例えば、用いられる操作された抗体およびストレスタンパク質、被検体のサイズ、年齢、体重、一般的健康状態、性別、および食餌の外、その全体的免疫学的反応性を含む因子に依存して変動する。確立された用量範囲の調整および操作は、十分当業者の能力の範囲内にある。例えば、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドの量は、約1マイクログラムから約1グラム、好ましくは約100マイクログラムから約1グラム、約1ミリグラムから約1グラムであってもよい。発現ベクターを含む組成物の有効量は、投与された場合、該操作された抗体の指向する抗原に対し免疫反応を誘発するほどの量である。さらに、被検体に投与される発現ベクターの量は、各種因子、例えば、発現される操作された抗体およびストレスタンパク質、被検体のサイズ、年齢、体重、一般的健康状態、性別、および食餌の外、その全体的免疫学的反応性を含む因子に依存して変動する。考慮する必要のあるさらに別の因子として、投与ルート、および使用ベクターのタイプがある。例えば、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドをコードする核酸を含むウィルスベクターを用いて予防的または治療的処置を実行する場合、有効量は、体重kg当たり10から1012の範囲の、ヘルパー無添加、複製欠損ウィルスであり、好ましくは体重kg当たり10から1011の範囲のウィルス、もっとも好ましくは体重kg当たり10から1010の範囲ウィルスである。
【0137】
被検体において免疫反応を誘発するための融合ポリペプチドの有効量の決定は、特に本明細書に提供される詳細な開示に照らせば、十分当業者の能力の範囲内にある。
【0138】
有効用量は、先ず、インビトロアッセイから推定することが可能である。従来技術で周知の技術を用いて、例えば、動物モデルにおいて免疫反応の誘発を実現するための用量を処方することが可能である。当業者であれば、動物のデータに基づいて、ヒトへの投与を簡単に最適化することが可能であろう。投与量および間隔は、個別に調整してもよい。例えば、ワクチンとして使用する場合、本発明のポリペプチドおよび/またはろ過物は、1−36週間、約1から3回投薬として投与してよい。好ましくは、3回の投薬を、約3−4ヶ月の間隔で投与し、その後定期的にブースターワクチン接種を投与してもよい。それとは別のプロトコールが、個々の患者には適切な場合がある。適切な用量とは、前述のように患者に投与された場合、その免疫化された患者を、病態または感染から少なくとも1−2年間保護するのに十分な免疫反応を、該患者において惹起することが可能な、ポリペプチドまたはろ過物の量である。
【0139】
組成物はさらに、免疫反応を強化するアジュバントを含んでもよい。さらに、このタンパク質は、インビボで注入された場合該タンパク質のより遅い放出を誘発するように、油状乳液に縣濁させてもよい。処方における各成分の最適比は、従来技術で周知の技術によって決定されてもよい。
【0140】
各種アジュバントの内の任意のものを、免疫反応を強化するために本発明のワクチンの中に用いてもよい。大抵のアジュバントは、急速な代謝から抗原を保護するように設計された物質、例えば、水酸化アルミニウム、または鉱油、および、免疫反応の特異的または非特異的刺激因子、例えば、脂質A、またはBortadella pertussisを含む。好適なアジュバントは市販されており、例えば、フロインドの不完全アジュバントおよびフロインドの完全アジュバント(Difco Laboratories)、およびMerckアジュバント65(Merck and Company,Inc.,Rahway,N.J.)を含む。その他の好適なアジュバントとしては、ミョウバン、生物分解性微小球、モノフォスフォリル脂質A、クウィルA、SBASIc、SBAS2(Ling et al.,1997,Vaccine 15:1562−1567)、SBAS7、Al(OH)、およびCpGオリゴヌクレオチド(国際公開第96/02555号)が挙げられる。
【0141】
本発明のワクチンでは、アジュバントは、Th1型免疫反応を誘発してもよい。好適なアジュバントシステムとしては、例えば、モノフォスフォリル脂質A、好ましくは3−de−O−アシル化モノフォスフォリル脂質A(3D−MPL)と、アルミニウム塩との組み合わせが挙げられる。強化システムとしては、モノフォスフォリル脂質Aおよびサポニン誘導体の組み合わせ、特に、国際公開第94/00153号に開示される、3D−MLPとサポニンQS21の組み合わせ、または、国際公開第96/33739号に開示される、QS21がコレステローによって反応停止される、より反応性の低い組成物が挙げられる。以前の実験から、体液型およびTh1型細胞性免疫反応の誘発における、3D−MLPおよびQS21の併用の、明瞭な協調作用が証明された。水中油型乳液においてQS21、3D−MLP、およびトコフェロールを含む、特に強力なアジュバント構成が、国際公開第95/17210号に記載されており、処方を含む可能性がある。
【0142】
4. キット
本発明は、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドを発現するためのキットを提供する。このようなキットは、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドをコードする核酸から構成されていてもよい。核酸は、プラスミドまたはベクター、例えば、細菌プラスミドまたはウィルスベクターの中に含められてもよい。他のキットは、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドを含む。さらに、本発明は、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドを生産および/または精製するためのキットを提供する。
【0143】
本発明は、患者における感染性、炎症性、自己免疫、または悪性疾患を予防または治療するためのキットを提供する。例えば、キットは、前述の、一つ以上の医薬組成物、および、任意に、それらの使用のための案内を含んでもよい。さらに別の実施形態では、本発明は、一つ以上の医薬組成物、およびそのような組成物を実現するための一つ以上のデバイスを含むキットを提供する。
【0144】
キットの構成要素は、前述の方法の、手動による実施、または、部分的または全体的自動化実施のために包装されてもよい。キットを含む別の実施形態では、その使用説明書が提供されてもよい。
【実施例】
【0145】
(例示)
ここに本発明は全体的に説明されたのであるから、下記の実施例を参照することによって本発明はさらに容易に理解されるであろう。なお、これらの実施例は、単に本発明のある局面および態様の例示のためにのみ含められるものであって、いかなるやり方でも本発明を限定することを意図するものではない。
【0146】
本発明の実施は、別様に指示しない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組み換えDNA、および免疫学における、当業者の能力の範囲内の通例技術を用いる。このような技術は文献に記載される。例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual,2nd Ed.,ed.by Sambrook,Fritsch and Maniatis(Cold Spring Harbor Laboratory Press:1989);DNA Cloning,Volumes I and II(D.N.Glover ed.,1985);Oligonucleotide Synthesis (M.J.Gait ed.,1984);Mullis et al.米国特許第4,683,195号;Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames & S.J.Higgins eds.1984);Transcription And Translation(B.D.Hames & S.J.Higgins eds.1984);Culture Of Animal Cells(R.I.Freshney,Alan R.Liss,Inc.,1987);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,1986);B.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);the treatise,Methods In Enzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.Miller and M.P.Calos eds.,1987,Cold Spring Harbor Laboratory);Methods In Enzymology,Vols.154 and 155(Wu et al.eds.),Immunochemical Methods In Cell and Molecular Biology(Mayer and Walker,eds.,Academic Press,London,1987);Handbook Of Experimental Immunology,Volumes I−IV(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.,1986);Manipulating the Mouse Embryo,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1986)を参照されたい。
【0147】
実施例1:Mab−HSP70接合体の構築、および該接合体による免疫化
14アミノ酸長のMISR2ペプチド(配列番号3:NANYSHLPPSGNRG)を、その安定性、疎水性、およびマウスMISR2に対する近似性に基づいて選んだ。このペプチドを、25%グルタールアルデヒドを用いてHSP70に接合した。Balb/cマウスを、足パッドに、MISRペプチド−HSP70接合体100μgを2週間間隔で2回注入して免疫化した。免疫リンパ節細胞を、sp2/0骨髄細胞と融合した。上清を、MISRペプチド、またはMISR−HSP70融合タンパク質、または純粋HSP70使用の間接的ELISAによってスクリーニングした。陽性細胞を2−4回クローンし、マウスで継代し腹水を採取した。
【0148】
硫酸アンモニウム使用二重塩沈降法によって腹水から抗体を精製した。抗体を、変性条件下、PAAG電気泳動で試験した(図3)。抗体は、間接的ELISAにおいて、MISR−HSP70接合体、MISRペプチド、またはHSP70との結合について試験した。結果を図4に示す。
【0149】
予測的実施例1:scFvおよびHSP70を含むTandab
図1は、4価のTandab(操作された抗体)およびHSP70(ストレスタンパク質)を含む、例示の、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドを示す。4価のTandabは、ほぼ、国際公開第99/57150号、US20050089519、およびKipriyanov,et al.,1999,J.Mol.Biol.293:41−56に記載される通りに調製されてよい。なお、これらの参照文献を全て引用により本明細書に含める。簡単に言うと、四つの抗体可変ドメインを含む単鎖分子をコードする構築体は、さらに、ストレスタンパク質遺伝子、例えば、HSP70を取り込んでもよい。それとは別に、四つの抗体可変ドメインを含む単鎖分子は、別々に生産し、次に、ストレスタンパク質、例えば、HSP70に対し、例えば、共有的に連結させてもよい。
【0150】
予測的実施例2:大腸菌におけるscFvの生産
大腸菌株GX6712(F galk2 rspL cI857)およびプラスミドpGX8773は、Genexcorp(Gaithersburg,MD)から入手してもよい。発現ベクターpGX8773は、単鎖抗体構築体を問題なくコードし、OmpAシグナル配列に融合され、かつ、ドメイン間リンカーを含む。このリンカーは、Trichoderma reesiの屈曲性リンカーペプチドである。発現ベクターpLY3は、OmpAシグナル配列に融合されたscFV VHおよびVL遺伝子、VHおよびVLドメインは該リンカーによって連結される、をコードする。発現ベクターは、ハイブリッドOL/PRラムダプロモーターを利用し、タンパク質発現は、大腸菌GX6712における30℃から42℃への温度シフトによって起動される(Mallender & Voss,J.Biol.Chem(1994)269:199−206)。
【0151】
scFvは、HSP70とは別々に発現され、HSP70に連結されてもよいし、あるいは、scFvは、本明細書を通じて、かつ下記の実施例3に記載されるように、融合ポリペプチドの中に組み込まれてもよい。
【0152】
予測的実施例3:大腸菌におけるMycobacterium tuberculosis HSP70−scFv融合の生産
Mycobacterium tuberculosis HSP70のscFvとの融合は、下記のように大腸菌において生産してよい。
【0153】
I.タンパク質scFvおよびDnaK(HSP70)M.tuberculosisを生産する大腸菌株の特徴
大腸菌株DLT1270は、D1形質導入によって、遺伝子lac1を染色体の中に組み込むことによってDH10Aから生成した。DH10Aの遺伝型は下記の通りであった:DH 10B(ara D139Δ(ara,leu)7697Δ(lac)X74 galU galK rpsL deoR φ80lacZ DM15 endA1 nupG recA1 mcrA Δ(mrr hsdRMS mcrAN))。DH 10Bについては、Grant,S.,G.,et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1990)87:4645−4649を参照されたい。
【0154】
II.プラスミドの特徴
ベクターとして、プラスミド“QIAGEN”pQE−30(“QIAGEN”製品ガイド、www.qiagen.com)を使用してもよい。
【0155】
III.組み換えベクターdnaKにおける対象scFv遺伝子配列のクローニング
クローニングには、以前に得られたpQE30−dnaK−Yを使用してもよい。組み換えプラスミドpQE30−E711−dnaKは、N末端において配列6HISに融合されるタンパク質dnaKの発現を可能にすることによって、ハイブリッドタンパク質6HIS−E7(タイプ11)を生産する。制限分析によって適正な方向性を持つ組み換え産物が特定された。対象scFv遺伝子(例えば、前述のベクターpGX8773由来のもの、および/または、PCRによって増幅されたもの)を、供給源から制限消化によって切り出し、BamHI部位においてpQE30−dnaK−Yプラスミドによってクローンしてもよい。
【0156】
IV.タンパク質scFvおよびDnaK(HSP70)M.tuberculosisの培養プロトコール
培養のために、栄養媒体Luria−Bertani(LB)は、蒸留水で調製し、そのpHは、NaOHまたはクエン酸で7.5に調整してもよい。この媒体は、オートクレーブにて1気圧で40分滅菌しなければならない。媒体が40℃に冷却された時点で、アンピシリンが、最終濃度が50μg/mLとなるように無菌的に添加されてもよい。寒天を含む媒体は、無菌的にペトリ皿に移されてもよい。
【0157】
次に、生産株を、この、調製されたばかりの、寒天含有媒体LBに加えてもよい。ペトリ皿は、恒温槽に入れ、培養体を増殖させるために37℃で一晩インキュベートしてもよい。夜間培養の準備のために、所望量のLB培地を、円錐フラスコの中に調製してもよい。媒体を、この耐熱性円錐フラスコに、その量が、フラスコの容量の1/4を超えないように移す。大腸菌の孤立コロニーを、ペトリ皿から移し、円錐フラスコに撒いてもよい。フラスコは、温度調節振とう器に設置し、50回転/分において37℃で一晩インキュベートする。
【0158】
V.DLT1270−pQE30−scFv−dnaKの発酵
ハイブリッドペプチドscFv−DnaKの合成は、培養体にIPTGを加えることによって誘発してもよい。LB−媒体で育成した、一晩培養体DLT1270/pQE30−scFv−DnaKは、LB−媒体において1:100に希釈して、OD600=0.5となるまで培養してもよい。0.1mM IPTGを加え、培養を3時間続ける。培養体の密度を、分光光度計を用いて測定してもよい。発酵の終了後、3000×G、4℃で15分の遠心によってバイオマスを収集してもよい。タンパク質生成の後、ポリアクリルアミドゲルにおいて電気泳動を行ってもよい。
【0159】
等価物
本発明は、何よりも先ず、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドを提供する。本発明の特定実施形態がこれまで論じられたわけであるが、上記明細は、例示的であって、制限的ではない。本明細書を閲読することによって、当業者には、本発明の多くの変異種が明らかになろう。付属の特許請求項は、このような実施形態および変異種の全てを請求することを意図するものではなく、本発明の完全範囲は、請求項を等価物の完全範囲と共に、明細書をその変異種と共に参照することによって定められるべきものである。
【0160】
参考文献
参照によってその全体が組み込まれるものは、ワールドワイドウェブのncbi.nlm.nih.govにおけるNational Center for Biotechnology Information(NCBI)の公共データベースへの進入に関わるアクセス番号が参照される、全てのポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列である。参照文献、公刊特許、本出願を通じて引用された、公刊または非公刊の特許出願を含む、全ての引用参考資料の内容が、参照により本明細書に組み込まれることをここに明言する。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】図1は、4価のTandab(タンデムダイアボディ)(操作された抗体)およびHSP70(ストレスタンパク質)を含む、例示の、操作された抗体−ストレスタンパク質融合ポリペプチドを示す。
【図2】図2は、それぞれ、Mycobacterium tuberculosis HSP70およびMycobacterium bovus HSP70の完全長ポリペプチド配列を示す。
【図3】図3は、実施例1に記載されるように、12%PAAGの結果を示す。タンパク質は全て、変性(DTT)条件下にトラック当たり4μgで負荷した。
【図4】図4、OD450nm。コーティング用抗原は、PBSに溶解した1μg/ml濃度で適用した。一次抗体は、0.2%BSAおよび0.05%Tween20を含むPBSの連続希釈液においてインキュベートした。HRPと接合した、二次抗マウス抗体を用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作された抗体およびストレスタンパク質を含む融合ポリペプチド。
【請求項2】
前記操作された抗体が少なくとも一つのscFvを含む、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項3】
前記操作された抗体が少なくとも一つのFab断片を含む、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項4】
前記ストレスタンパク質がHSP70である、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項5】
前記ストレスタンパク質が、Mycobacterium tuberculosis HSP70である、請求項4に記載の融合ポリペプチド。
【請求項6】
前記ストレスタンパク質が、Mycobacterium bovus HSP70である、請求項4に記載の融合ポリペプチド。
【請求項7】
前記操作された抗体が多価である、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項8】
前記多価の操作された抗体が多重特異性である、請求項7に記載の融合ポリペプチド。
【請求項9】
前記操作された抗体が4価である、請求項7に記載の融合ポリペプチド。
【請求項10】
前記操作された抗体がTandabである、請求項9に記載の融合ポリペプチド。
【請求項11】
前記ストレスタンパク質がHSP70である、請求項9に記載の融合ポリペプチド。
【請求項12】
前記ストレスタンパク質が、Mycobacterium tuberculosis HSP70である、請求項11に記載の融合ポリペプチド。
【請求項13】
前記ストレスタンパク質が、Mycobacterium bovus HSP70である、請求項11に記載の融合ポリペプチド。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の融合ポリペプチドをコードする、単離された核酸。
【請求項15】
請求項14に記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項16】
請求項15に記載の発現ベクターを含む、細胞。
【請求項17】
有効量の請求項1〜13のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド、および製薬学的に受容可能な担体を含む、医薬組成物。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の融合ポリペプチドを含む、免疫原性組成物またはワクチン。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の組成物を含む、キット。
【請求項20】
前記組成物の使用説明書をさらに含む、請求項19に記載のキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2009−525727(P2009−525727A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553529(P2008−553529)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/061554
【国際公開番号】WO2007/136892
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】