説明

操業シミュレータ

【課題】製鋼プロセスと圧延プロセスにおける操業形態の変更または操業制約の緩和等による製造能率の改善の効果を算出することができる操業シミュレータを提供する。
【解決手段】製鋼プロセス1と圧延プロセス2との同期操業に関する入力データおよびマスタデータを記憶する記憶部15と、入力データから立案された操業スケジュールが圧延プロセス2の制約条件を充足するか否かをマスタデータを参照して判定する制約条件判定部161と、制約条件を充足する操業スケジュールについて圧延プロセスの圧延能率を計算する能率計算部162と、圧延プロセスの制約条件についてのマスタデータを変更する制約条件変更部163とを備え、制約条件変更部163がマスタデータを変更した後に、制約条件判定部161が操業スケジュールの再判定をし、能率計算部162が操業スケジュールの圧延能率の再計算をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼プロセスと圧延プロセスとの最適な同期操業条件を探索する操業シミュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鋼プロセスで鋳造されたスラブを圧延プロセスへ装入する順序および時間を決定するためには、スラブの鋼種、幅、厚み、および温度等の多くの属性についての制約条件を充足する操業スケジュールを立案する必要がある。一方、制約条件を充足しながらも、製鋼プロセスおよび圧延プロセスの製造能率を向上させることが要求される。例えば、製鋼プロセスで鋳造されたスラブがスラブヤードで待機する時間が増加すると、そのスラブを加熱炉で再加熱するためのエネルギーが余計に必要になる。すなわち、製造能率を向上させることは、製造能力の向上という観点だけではなく、省エネルギーという観点からも重要である。
【0003】
従来、このような観点から、製造工程を計算機上で仮想的に表現して製鋼プロセスと圧延プロセスとの同期操業をシミュレーションすることにより、最適な操業スケジュールを検討することが行われている(特許文献1乃至3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−318228号公報
【特許文献2】特開平11−264026号公報
【特許文献3】特開平11−179502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の操業シミュレーションでは、操業スケジュールを最適化するのみであり、操業形態の変更または操業制約の緩和等による製造能率の改善の効果を算出することができなかった。このため、製鋼プロセスと圧延プロセスとにおける改善ポイントおよび設備投資すべき項目を明確にすることができないという問題を抱えていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は製鋼プロセスと圧延プロセスにおける操業形態の変更または操業制約の緩和等による製造能率の改善の効果を算出することができる操業シミュレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる操業シミュレータは、製鋼プロセスと圧延プロセスとの同期操業に関する入力データおよびマスタデータを記憶する記憶部と、前記入力データから立案された操業スケジュールが前記圧延プロセスの制約条件を充足するか否かを前記マスタデータを参照して判定する制約条件判定部と、前記制約条件を充足する操業スケジュールについて前記圧延プロセスの圧延能率を計算する能率計算部と、前記圧延プロセスの制約条件についてのマスタデータを変更する制約条件変更部とを備え、前記制約条件変更部がマスタデータを変更した後に、前記制約条件判定部が操業スケジュールの再判定をし、前記能率計算部が前記操業スケジュールの圧延能率の再計算をすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る操業シミュレータによれば、製鋼プロセスと圧延プロセスにおける操業形態の変更または操業制約の緩和等による製造能率の改善の効果を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である操業シミュレータの対象となる製鋼プロセスと圧延プロセスとの同期操業の製造ラインを示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態である操業シミュレータの構成を示す概略図である。
【図3】図3は、鋳造予定データのデータ構成例を示す図である。
【図4】図4は、圧延予定データのデータ構成例を示す図である。
【図5】図5は、手入れ予定データのデータ構成例を示す図である。
【図6】図6は、ヤード現況データのデータ構成例を示す図である。
【図7】図7は、本発明の一実施形態にかかる製鋼プロセスと圧延プロセスとの同期操業のシミュレーションのフローチャートである。
【図8】図8は、構文木の例を示す図である。
【図9】図9は、立案された操業スケジュールの表示例を表す図である。
【図10】図10は、本発明の一実施形態にかかる操業シミュレーションによる操業スケジュールの制約条件の緩和による効果を示すグラフである。
【図11】図11は、連続する2つの圧延材の仕上げ厚の関係に関する制約条件を例示するグラフである。
【図12】図12は、DHCR材落ちが発生した後の再スケジューリングを説明するための図である。
【図13】図13は、DHCR材落ちが発生した後の再スケジューリングを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である操業シミュレータについて説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態にかかる操業シミュレータの対象となる製鋼プロセスと圧延プロセスとの同期操業の製造ラインを示す概略図である。
【0012】
図1に示すように、本発明の一実施形態にかかる操業シミュレータの対象となる製造ラインは、大きく分けて製鋼プロセス1と圧延プロセス2とに分離される。製鋼プロセス1は、連続鋳造機3を中心にして構成され、溶鋼4を連続鋳造機3の鋳型5により連続的に徐冷して、スラブと呼ばれる半製品を製造するプロセスである。圧延プロセス2は、このスラブを加熱炉6により加熱し、粗圧延機7および仕上げ圧延機8により数ミリの厚さまで圧延するプロセスである。なお、典型的な圧延プロセス2は、さらに冷却機9および巻取り機10を備え、冷却機9が圧延された鋼板を冷却し、巻取り機10が鋼鈑をコイルに巻き取ることができる。さらに、製鋼プロセス1と圧延プロセス2との間には、スラブを一時退避させておくスラブヤード11が設けられている。
【0013】
なお、図1では、紙面の都合上、連続鋳造機3および加熱炉6を直列に構成した製造ラインを図示したが、典型的な製造ラインは連続鋳造機3を複数台備える構成が多く、加熱炉6も並列的に複数台備え、製品の条件によって最適な加熱炉6に装入することができる構成を取る。すなわち、複数の連続鋳造機3および加熱炉6の間を介するスラブヤード11は、単にスラブを一時退避させる目的だけではなく、多種のスラブを同一製造ラインで処理するための装入順序を制御する役割を担う。
【0014】
以下、上記製造ラインの例に基づいて、本発明の一実施形態にかかる操業シミュレータを説明する。
【0015】
図2は、本発明の一実施形態である操業シミュレータの構成を示す概略図である。図2に示すように、本発明の一実施形態である操業シミュレータ12は、例えばワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータを用いて実現され、入力部13と、表示部14と、記憶部15と、各処理を実行する処理部16とを備える。
【0016】
入力部13は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の各種入力装置によって実現されるものであり、操作入力に応じた入力信号を処理部16に出力する。表示部14は、LCDやELディスプレイ、CRTディスプレイ等の表示装置によって実現されるものであり、処理部16から入力される表示信号をもとに各種画面を表示する。
【0017】
記憶部15は、更新記憶可能なフラッシュメモリ等のROMやRAMといった各種ICメモリ、内蔵あるいはデータ通信端子で接続されたハードディスク、CD−ROM等の情報記憶媒体およびその読取装置等によって実現されるものである。この記憶部15には、操業シミュレータ12を動作させるためのプログラムや、このプログラムの実行中に使用されるデータ等が予め保存され、あるいは処理の都度一時的に保存される。例えば、記憶部15には、圧延制約マスタ151および能率マスタ152などのマスタデータと、鋳造予定データ153、圧延予定データ154、手入れ予定データ155、およびヤード現況156などの入力データとが格納される。
【0018】
処理部16は、マイクロプロセッサ等の演算装置で実現され、入力部13から入力される入力信号、記憶部15に保存されるプログラムやデータ等をもとに、操業シミュレータ12の動作を制御する。また処理部16は、制約条件判定部161と能率計算部162と制約条件変更部163とを含み、操業シミュレーションの各手順を実行する。
【0019】
制約条件判定部161は、鋳造予定データ153、圧延予定データ154、手入れ予定データ155、ヤード現況156から立案される操業スケジュールが制約条件を満たしているか否かを判定する。能率計算部162は、制約条件を満たす操業スケジュールについて能率マスタ152を用いて能率計算を行う。制約条件変更部163は、圧延制約マスタ151の制約条件を変更する。
【0020】
圧延制約マスタ151は、熱間圧延プロセスにおける圧延材の処理に関する制約条件を記憶するデータである。例えば、圧延ロールの表面状態は漸次劣化するため、要求される品質が高いものは圧延ロールが新しいうちに処理する必要がある。また、圧延ロールは、処理した圧延材の幅(仕上げ幅)に応じて段差状に磨耗する。この圧延ロールの変形が品質に影響しないようにするため、仕上げ幅の広い圧延材の後に仕上げ幅の狭い圧延材を処理する必要がある。その他にも、連続した処理を許容する圧延材の種類(材種)、厚さ、幅(スラブ幅)、仕上げ幅、および、仕上げ厚、あるいは連続した処理を許容しない圧延材の種類(材種)、厚さ、幅(スラブ幅)、仕上げ幅、および、仕上げ厚が規定されている。さらに、連続した処理を許容する(又は許容しない)特殊作業の種類といった圧延材の属性等の様々な制約条件が存在する。圧延制約マスタ151は、これらの制約条件を記憶するマスタデータである。制約条件判定部161は、圧延制約マスタ151を参照して操業スケジュールが制約条件を満たしているか否かの判定を実行する。
【0021】
能率マスタ152は、連続鋳造機3、加熱炉6、粗圧延機7、および、仕上げ圧延機8等の処理能力を記憶するデータである。例えば、母体となる鋼材に他の鋼材を差し合わせる操業(これを差し合い操業という)の場合、母体に対して差し合い量が多すぎると、能率の低下を引き起こす。また、加熱炉6の内部で後のスラブが先のスラブを追い越すことはできないので、加熱に要する時間に応じて加熱炉6に装入する順序に制約が課せられ、加熱炉6への装入順序を守るためにスラブがスラブヤード11に待機する時間が増加すると、さらに加熱時間が増加して能率が低下する。能率計算部162は、これらの能率に関する情報を能率マスタ152から参照して、操業スケジュールの能率を計算する。
【0022】
制約条件変更部163は、圧延制約マスタ151の制約条件を変更し、能率計算部162による能率計算の結果の変化を調べるための手段である。圧延制約マスタ151は、後に詳述するように構文木のデータ構造を有することが好ましく、制約条件変更部163は、圧延制約マスタ151を構文解析を行うよう構成することが好ましい。すなわち、制約条件変更部163は、いわゆる構文解析器(parser)として構成する。
【0023】
以下、図3から図6を参照して、上述の鋳造予定データ153、圧延予定データ154、手入れ予定データ155、および、ヤード現況データ156のデータ構成例について説明する。
【0024】
図3は、記憶部15に記憶される鋳造予定データ153のデータ構成例を示す図である。図3に示すように、本発明の一実施形態にかかる操業シミュレーションに用いる鋳造予定データ153は、例えば、転炉の処理単位ID(図中CHNo)、鋼種、スラブID、スラブ厚、スラブ幅、スラブ長、重量、熱冷片区分、および、鋳造終了時刻などを記録するデータ構造とする。ここで熱冷片区分とは、スラブを加熱炉6で再加熱せずに直接圧延するHDR(Hot Direct Rolling)、スラブをスラブヤード11に降ろすことなく直接加熱炉6に装入するDHCR(Direct Hot Charged Rolling)、スラブヤード11へいったん降ろすものの熱片のまま加熱炉6へ装入するHCR(Hot Charged Rolling)、および、いったん冷ましてから手入れ後に加熱炉6へ装入するCCR(Cold Charged Rolling)などがある。
【0025】
図4は、記憶部15に記憶される圧延予定データ154のデータ構成例を示す図である。図4に示すように、本発明の一実施形態にかかる操業シミュレーションに用いる圧延予定データ154は、例えば、スラブID、鋼種、仕上げ厚、仕上げ幅、引っ張り強度、リードタイム、圧延終了時刻などを記録するデータ構造とする。
【0026】
図5は、記憶部15に記憶される手入れ予定データ155のデータ構成例を示す図である。図5に示すように、本発明の一実施形態にかかるシミュレーションに用いる手入れ予定データ155は、例えば、鋼種、スラブID、スラブ厚、スラブ幅、スラブ長、重量、熱冷片区分、および、手入れ作業終了時刻などを記録するデータ構造とする。
【0027】
図6は、記憶部15に記憶されるヤード現況データ156のデータ構成例を示す図である。図6に示すように、本発明の一実施形態にかかる操業シミュレーションに用いるヤード現況データ156は、例えば、鋼種、スラブID、スラブ厚、スラブ幅、スラブ長、重量、および、熱冷片区分などを記録するデータ構造とする。
【0028】
以下、上記構成による本発明の一実施形態である操業シミュレータ12による、製鋼プロセス1と圧延プロセス2との同期操業のシミュレーションの実施にかかる処理を説明する。ここで説明する処理は、プログラムを操業シミュレータ12の記憶部15に保存しておき、処理部16がこのプログラムを読み出して実行することで実現できる。
【0029】
図7は、本発明の一実施形態にかかる製鋼プロセス1と圧延プロセス2との同期操業のシミュレーションのフローチャートである。図7に示すように、本発明の一実施形態にかかる操業シミュレーションの実施にかかる処理は、はじめに、処理部16が記憶部15に格納される入力データ(鋳造予定データ153、圧延予定データ154、手入れ予定データ155、ヤード現況156)を読み出し、この入力データが許容する仮の操業スケジュールを立案する(ステップS1)。
【0030】
次に、制約条件判定部161が、仮の操業スケジュールのうち制約条件を満たすもののみを抽出する(ステップS2)。このとき、制約条件判定部161は、記憶部15に記憶される圧延制約マスタ151を参照して、制約条件の判定を行う。そして、能率計算部162が、制約条件を満たす仮の操業スケジュールについて能率マスタ152を参照して能率計算を行う(ステップS3)。その後、制約条件変更部163が、記憶部15に格納されている圧延制約マスタ151の制約条件を変更し、能率計算部162による能率計算の結果の変化を調べる(ステップS4)。さらに、必要に応じてステップS2からステップS4の処理を繰り返すことにより、最適な制約条件を探索することができる。
【0031】
以下、上述の処理についてより詳細に説明する。
【0032】
上記ステップS1における、入力データ(鋳造予定データ153、圧延予定データ154、手入れ予定データ155、ヤード現況156)から仮の操業スケジュールを立案する処理において、製造ロット単位のグループにして属性別に色分けし、表示部14が必要情報を可視化表示することが好ましい。例えばDHCRの属性の圧延材を母体とする差し合い操業のスケジューリングをする場合、鋳造された製造ロットの中からDHCRの製造ロットを抽出して仮サイクルとして登録し、鋳造能率と圧延能率の能率差の分だけ、差し合い圧延材を差し込むようにスケジューリングを行う。そこで、例えば熱冷片区分の属性別に色分けして表示すれば、後段において制約条件を変更して再スケジューリングする対象を全体のスケジュールの中から容易に見つけ出すことが可能となる。さらに、対話型スケジューラ等を活用して半自動的スケジューリングを行うことにより、スケジューリングの処理がより容易になる。
【0033】
上記ステップS2における、仮の操業スケジュールが制約条件を満たしているか否かを判定する処理は、上記ステップS1のスケジューリングと並行処理を行うことが好ましい。スケジューリングと並行処理を行うことによって、制約条件を充足した操業スケジュールを立案することが可能になり、スケジューリング作業または再スケジューリング作業が容易となる。
【0034】
上記ステップS4における制約条件を変更する処理は、圧延制約マスタ151に構文解析を使用した構成を採用することにより、制約条件の変更を容易にすることが可能である。
【0035】
構文解析では、例えば制約条件が1つの単位演算式で構成されている場合、単位演算式を構成する関係演算子を親ノードとし、この親ノードとした関係演算子によって関係が示される制約条件項目とその値とをそれぞれ子ノードとして、子ノードのそれぞれを親ノードと連結することで単位演算式を表す構造木を作成する。制約条件が論理演算子を含み、複数の単位演算式で構成されている場合には、先ず、論理演算子の前後で規制内容を分解することで単位演算式を抽出し、抽出した単位演算式を表す部分木をそれぞれ作成する。その後、作成した各部分木の上層に論理演算子のノードをさらに追加し、構文木を作成する。図8は、「“仕上げ厚”≧4.0mm AND “仕上げ幅”≦1200mm」の構文木T1を示す図である。この構文木T1の作成手順を簡単に説明すると、先ず、論理演算子「AND」の前後で規制内容を分解する。次いで、前側の単位式「“仕上げ厚”≧4.0mm」をもとに、等号付き不等号「≧」を親ノードN12とし、規制内容項目である「仕上げ厚」とその値である「4.0」とを子ノードN111,N112として部分木T11を作成する。同様に、「AND」の後ろ側の単位式「“仕上げ幅”≦1200mm」をもとに、等号付き不等号「≦」を親ノードN14とし、規制内容項目である「仕上げ幅」とその値である「1200mm」とを子ノードN131,N132として部分木T12を作成する。そして、論理演算子「AND」のノードN15を部分木T11,T12の上層に追加し、各部分木T11,T12の親ノードN12,N14との間をそれぞれ連結して構文木T1を得る。
【0036】
上述のような処理により立案された操業スケジュールは、仮想的に製造ラインを可視化して表示部14に表示される。図9は、立案された操業スケジュールの表示例を表す図である。図9に示す仮想的製造ラインにおいて、各スラブが通過するルートは、いわば道路のように配置されており、分岐・合流部分、信号機による制御で物流を表現している。各スラブが移動する速度によって、生産能率を表現することができる。
【0037】
次に、本発明の一実施形態にかかる操業シミュレーションにより、製鋼プロセス1と圧延プロセス2との同期操業のスケジュールの制約条件の緩和例について説明する。
【0038】
図10は、本発明の一実施形態にかかる操業シミュレーション12による操業スケジュールの制約条件の緩和による効果を示すグラフである。図10は、本発明の実施結果の例として、現状の操業スケジュールと緩和後の操業スケジュールとの総圧延量(図中左軸)および圧延能率(図中右軸)を示している。ここで、総圧延量とは、母体となる鋼材の圧延量と差し合い材の圧延量との総和である。図10のグラフ中では、それぞれ省略して母体量および差し合い量として記載している。また、圧延能率とは、圧延プロセス2が単位時間(h)当たりに処理する圧延量(ton)である。
【0039】
図10に示す例における数値データは以下のとおりである。
現状 緩和後
母体量: 1708 1708
差し合い量: 306 487
総量: 2014 2195
圧延能率: 671.3 731.7
また、上記例における制約条件の緩和は以下のものである。
1)1サイクルの総圧延量に関する制約条件を1.5倍に緩和する。
2)圧延順序に関する制約条件(板厚範囲の制約)を緩和する。
【0040】
なお、1サイクルとは、圧延ロールを交換することなく圧延プロセスを継続できる操業スケジュールの単位であり、板厚範囲の制約とは、連続する2つの圧延材の仕上げ厚の関係に関する制約条件である。図11は、連続する2つの圧延材の仕上げ厚の関係に関する制約条件(許容範囲)を例示するグラフである。
【0041】
図11に示すように、連続する2つの圧延材の仕上げ厚の関係には制約条件として許容範囲が設定されている。図11に示す例では、現状の制約条件(図11中の2本の点線L1,L2ではさまれた領域)によれば、先行する圧延材の仕上げ厚(前圧延材厚)がYである場合に、後続する圧延材の仕上げ厚(後圧延材厚)はX1からX2の範囲に制限される。一方、緩和後の制約条件(図11中の2本の実線L1’,L2’ではさまれた領域)によれば、前圧延材厚Yに対して後圧延材厚はX1’からX2’の範囲に緩和される。例えば、先行する圧延材の仕上げ厚が4.0mmである場合、後続する圧延材の仕上げ厚は、約2.7mmから約7.5mmの範囲に制限されるが、緩和後の制約条件によれば、後続する圧延材の仕上げ厚の制約条件は約1.8mm以上の範囲に緩和される。
【0042】
上述の操業シミュレーション例のように、1サイクルの総圧延量に関する制約条件の緩和および圧延順序に関する制約条件(板厚範囲の制約)の緩和が圧延能率の改善に寄与する場合、例えば圧延ロールの耐久性能の改良、または、圧延ロールの調整方法の改良などを行うことで圧延能率を向上できる。すなわち、本発明の一実施形態にかかる操業シミュレーションによれば、製造ラインの改善ポイントまたは投資すべき項目を明確化することができることが上述の操業シミュレーション例により示された。
【0043】
なお、連続鋳造機におけるモールド内の湯面レベル変動やスラブの幅・長さの異常などにより、DHCR材がHCR/CCR材に変更される場合がある。その場合には、当初の操業スケジュールから当該DHCR材の生産計画が抜ける、いわゆるDHCR材落ちが発生する。その場合に、処理部16は、制約条件の充足を判定し、必要ならばスケジュールを変更する。例えば、前述した図11の例のように連続する2つの圧延材の仕上げ厚の関係に許容範囲が設定されている場合に、抜けるDHCR材の生産計画の前後の圧延材について、その順では制約条件を充足しなくなる場合がある。例えば、先行する圧延材の仕上げ厚がYである場合、後続する圧延材の仕上げ厚は、現状の制約条件では約X1からX2の範囲(緩和された制約条件ではX1’からX2’)であれば、制約条件を充足するが、後続する圧延材の仕上げ厚がこの範囲を逸脱している場合には、制約条件を充足しなくなるため、圧延順序を変更する。
【0044】
図12および図13は、DHCR材落ちが発生した後の再スケジューリングを説明するための図である。両図中、鋼種AはDHCR材を示し、鋼種BはHCR/CCR材を示す。図12は、対象のDHCR材(スラブID=2)の生産計画が抜ける以外に圧延順序を変更する必要がない場合を示している。すなわち、対象のDHCR材(スラブID=2)の生産計画が抜けた後の前後のHCR/CCR材(スラブID=6,7)の仕上げ厚は、先行する圧延材(スラブID=6)の仕上げ厚は3.5mmであり、後続する圧延材(スラブID=7)の仕上げ厚は5.4mmであることから、図11に例示する制約条件を充足するため、DHCR材の生産計画が抜けた後の圧延順序は、HCR/CCR材(スラブID=6)、HCR/CCR材(スラブID=7)の順のままとする。
【0045】
一方、図13は、対象のDHCR材(スラブID=2)の生産計画が抜けてその前後のスラブ(スラブID=6,7)が連続すると板厚範囲の制約を充足しなくなる場合に、スラブID=7,3の圧延順序を入れ替える操業スケジュールの変更を行なう場合を示している。すなわち、対象のDHCR材(スラブID=2)の生産計画が抜けた後の前後のHCR/CCR材(スラブID=6,7)の仕上げ厚は、先行する圧延材(スラブID=6)の仕上げ厚は3.5mmであり、後続する圧延材(スラブID=7)の仕上げ厚は2.3mmであることから、図11に例示する制約条件を充足しない。スラブID=7の圧延材とスラブID=3の圧延材との圧延順序を変更すると、連続するスラブID=6の圧延材とスラブID=3の圧延材、スラブID=3の圧延材とスラブID=7の圧延材について、それぞれが図11に例示する制約条件を充足する。そこで、DHCR材の生産計画が抜けた後の圧延順序は、HCR/CCR材(スラブID=6)、DHCR材(スラブID=3)、HCR/CCR材(スラブID=7)の順に変更する。
【0046】
なお、図13のようにDHCR材の生産計画が抜けた後の圧延順序を変更する場合に、HCR材/CCR材の相対的な順序(製造順序)は変更しない。これは、通常、DHCR材落ちが発生した際にHCR材/CCR材は既に加熱炉6に装入されているため、製造順序は変更できないためである。
【0047】
本発明の一実施形態にかかる操業シミュレータ12は、適当な乱数を発生させてDHCR材落ちが発生するという確率的な変動を操業スケジュールに対して入力し、再スケジューリングされた制約条件を充足する操業スケジュールについて、圧延能率を算出することができる。これにより、DHCR材落ちなどの操業上の確率的変動を加味して、能率低下率を指標として変動に対する操業スケジュールのロバスト性を評価することができる。
【0048】
図10に例示したシミュレーションに対し、DHCR材落ちの確率的変動を与えた結果は、以下のとおりであった。
現状(変動入力前/変動入力後) 緩和後(変動入力前/変動入力後)
圧延能率: 671.3/643.2 731.7/720.5
能率低下率: 4.2% 1.6%
【0049】
上記のとおり、制約条件を緩和したことにより、DHCR材落ちを考慮した場合に能率低下率が低下した。これにより、制約条件の緩和により操業スケジュールのロバスト性が向上したと評価することができる。
【0050】
以上より、本発明の実施形態にかかる操業シミュレータは、製鋼プロセス1と圧延プロセス2との同期操業に関する入力データとマスタデータとを記憶する記憶部15と、入力データから立案された操業スケジュールが圧延プロセス2の制約条件を充足するか否かをマスタデータを参照して判定する制約条件判定部161と、制約条件を充足する操業スケジュールについて圧延プロセス2の圧延能率を計算する能率計算部162と、圧延プロセス2の制約条件についてのマスタデータを変更する制約条件変更部163とを備え、制約条件変更部163がマスタデータを変更した後に、制約条件判定部161が操業スケジュールの再度の判定をし、能率計算部162が操業スケジュールの圧延能率の再度の計算をするので、製鋼プロセス1と圧延プロセス2における操業形態の変更または操業制約の緩和等による製造能率の改善の効果を算出することができる。
【0051】
さらに、本発明の実施形態にかかる操業シミュレータは、制約条件変更部163がマスタデータを変更する前の操業スケジュールの圧延能率と、制約条件変更部163がマスタデータを変更した後の操業スケジュールの圧延能率とを比較する比較手段を備えるので、製鋼プロセス1と圧延プロセス2における操業形態の変更または操業制約の緩和の前後における製造能率の比較をすることができる。
【0052】
また、本発明の実施形態にかかる操業シミュレータにおける入力データは、鋳造プロセス1におけるスラブの鋳造予定を示す鋳造予定データ153と、圧延プロセス2における圧延材の圧延予定を示す圧延予定データ154と、鋳造されたスラブの手入れ作業の予定を示す手入れ予定データ155と、鋳造プロセス1と圧延プロセス2の間を介するスラブヤード11の現況を示すヤード現況データ156とを含むので、製鋼プロセス1と圧延プロセス2との同期操業を計算機上で仮想的に表現してシミュレーションすることができる。
【0053】
また、本発明の実施形態にかかる操業シミュレータにおける入力データは、マスタデータは、圧延プロセス2の圧延能率を示す能率マスタ152と、圧延プロセス2の制約条件を示す圧延制約マスタ151とを含み、制約マスタは構文木のデータ構造を有するので、制約条件の変更を容易にすることが可能である。したがって、様々な制約条件でのシミュレーションを行なうことが可能なだけでなく、各シミュレーションについて、DHCR材落ちなどの操業上の確率的変動を加味して、変動に対する操業スケジュールのロバスト性を評価することができる。
【0054】
以上、本発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば、上述の操業シミュレーションの例では、1サイクルの総圧延量に関する制限の緩和および圧延順序(板厚範囲の制約)の緩和が圧延能率の改善の例を取り上げたが、本発明の実施はこの例に限定されず、本発明を適用する製鋼プロセス1および圧延プロセス2の状況によって様々に変更されうる事項である。
【符号の説明】
【0055】
1 製鋼プロセス
2 圧延プロセス
3 連続鋳造機
4 溶鋼
5 鋳型
6 加熱炉
7 粗圧延機
8 仕上げ圧延機
9 冷却機
10 巻取り機
11 スラブヤード
12 操業シミュレータ
13 入力部
14 表示部
15 記憶部
16 処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼プロセスと圧延プロセスとの同期操業に関する入力データおよびマスタデータを記憶する記憶部と、
前記入力データから立案された操業スケジュールが前記圧延プロセスの制約条件を充足するか否かを前記マスタデータを参照して判定する制約条件判定部と、
前記制約条件を充足する操業スケジュールについて前記圧延プロセスの圧延能率を計算する能率計算部と、
前記圧延プロセスの制約条件についてのマスタデータを変更する制約条件変更部と、
を備え、
前記制約条件変更部がマスタデータを変更した後に、前記制約条件判定部が操業スケジュールの再判定をし、前記能率計算部が前記操業スケジュールの圧延能率の再計算をする、ことを特徴とする操業シミュレータ。
【請求項2】
前記制約条件変更部が前記マスタデータを変更する前の操業スケジュールの圧延能率と前記制約条件変更部が前記マスタデータを変更した後の操業スケジュールの圧延能率とを比較する比較手段を、さらに備えることを特徴とする請求項1に記載の操業シミュレータ。
【請求項3】
前記入力データは、鋳造プロセスにおけるスラブの鋳造予定を示す鋳造予定データと、圧延プロセスにおける圧延材の圧延予定を示す圧延予定データと、鋳造されたスラブの手入れ作業の予定を示す手入れ予定データと、前記鋳造プロセスと前記圧延プロセスの間を介するスラブヤードの現況を示すヤード現況データとを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の操業シミュレータ。
【請求項4】
前記マスタデータは、前記圧延プロセスの圧延能率を示す能率マスタと、前記圧延プロセスの制約条件を示す制約マスタとを含み、前記制約マスタは構文木のデータ構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の操業シミュレータ。
【請求項5】
前記操業スケジュールに確率的な変動を与え、操業スケジュールの変動に応じて前記制約条件を充足する操業スケジュールを再作成する再作成手段を備え、
前記能率計算部が再作成された操業スケジュールの圧延能率を再計算することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の操業シミュレータ。
【請求項6】
前記再作成手段は、前記操業スケジュールを再作成する際、HCR材またはCCR材の相対的な製造順序は変更しないことを特徴とする請求項5に記載の操業シミュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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